説明

ICインレット内蔵紙および製造方法

【目的】IC実装体内のICモジュールを構成するアンテナの腐食を防止し、長寿命化を図ったICインレット内蔵紙を提供する。
【解決手段】ICチップと、該ICチップに接続されたアンテナとを保持したインレットを紙中に抄きこんだICインレット内蔵紙において、紙中の銅の金属塩化合物を含有し、好ましくは、銅の質量として、10〜1000ppm含有し、該銅の金属塩化合物は、硫酸銅、硝酸銅から選ばれる少なくとも1種であり、特に硫酸銅が好ましい、ICインレット内蔵紙とその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線周波数認識(RFID)システムに用いられる各種データを記録するICチップと、このICチップのデータを送受信するためのアンテナからなる素子を紙層間に抄きこんだICインレット内蔵紙およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、物流、販売などにおける商品管理には、バーコードを利用した商品情報の自動認識管理システムが用いられている。バーコードは、画像(バー)の配列状態を情報化したものであり、専用のバーコードリーダ(読取器)でその情報を読みとることが可能である。そのため、例えば商品情報を記録したバーコードを当該商品に添付して商品管理や物流管理が行われている。ところが、バーコードは大量の情報の記録に制約があることや、一度添付した後の商品情報の更新が不可能であるなどの制約、また、偽造が容易であるという問題がある。そのため、近年、RFID(Radio Frequency Identification:無線周波数認識)と称されるシステムが注目されている。
【0003】
このRFIDシステムでは、半導体(IC)チップと、このICチップに電気的に接続された情報の送受信を行う平面状のアンテナと、コンデンサとをフィルム上に備えたICインレットが用いられている。ICインレットを構成するアンテナを形成する方法としては、ポリエチレンテレフタレートなどの平坦なフィルムや、上質紙やコート紙などの紙類からなる基材の上に、銀や銅などのワイヤーからなるコイルを貼り付ける方法や、銅やアルミニウムなどの金属箔をアンテナ回路用にスティック状あるいはコイル状にエッチングする方法、銅やアルミニウムなどの金属を板状に蒸着する方法、更には銀ペーストなどの導電性インキなどを用いてコイル状やステック状などの印刷を施す方法、などによって作製されたものである。シンプルで低コストであるという、ポリエチレンテレフタレートなどの平坦なフィルム上に導電性銀ペーストをスクリーン印刷しアンテナ回路を形成する方法が開示されており(特許文献1、2参照)、様々の周波数に対応したアンテナが製造されている。さらに、ICチップは、ICチップバンプと前記に示す製法で作成した基材上のアンテナを、導電性粒子を含有したフィルムやペーストを用いて接合する方法、超音波を用いた金バンプ接合または銀バンプ接合あるいは銅バンプで接合する方法、非鉛系はんだ付けなどによってボンディングする方法などにより接合されている。
【0004】
このICインレットは、ICカードまたはICラベルなどに加工後、実用化されている。ICカードは、ICインレットが接着剤により表面基材間に挟まれて接合、一体化された構造のものである。このようなICカードが、例えば社員証として適宜ユーザの携帯に供される。また、ICラベルは、剥離紙上に粘着剤を介して、ICインレットが接続され、このICインレットの上に表面基材が接合された構造のものである。このようなICラベルは、剥離紙が取り除かれて、商品、輸送貨物などに貼り付けられ、商品管理、物流管理などに用いられる。
【0005】
しかし、ICカードやICラベルは基材に接着剤や粘着剤を用いてカードまたは粘着ラベルとして複合化されるが、生産性が低く、多量の接着剤を用いるためコストがかかる問題がある。
また、ICインレットを抄紙工程で紙層間に抄き込む技術も開示されており(特許文献3参照)、ICインレットは紙層に覆われ外観からはどこにあるかわからない上に、抄紙工程のみで所望の構成にできるため、預金通帳、証券用紙、免許証、パスポートなど各種証明書や重要書類用紙など各種の電子情報の書き込みや偽造防止用途などとして多く開示されている。このような重要書類は少なくても10年以上、長期間使用されることから、ICインレットは使用期間または保管期間に亘り、書き込み及び読み取り性能を保持することが必須であり、アンテナなどの腐食でこれらの機能が損なわれるのは重大な問題となる。
【0006】
表面基材にICインレットを、粘着剤を介して接着したICカードや上質紙、アート紙、コート紙、キャスト塗被紙などの紙類にICインレットを抄きこみにより内蔵した偽造防止用紙においては、特にアルミなどの箔や金属蒸着を使用したアンテナの使用環境および長期使用において、アルミニウムの腐食による、導電性の低下やアンテナの断線により、RFID回路が機能しなくなる問題があり、紙基材中に含有される陰イオン量を制限した技術(特許文献4参照)やアルミニウムの安定領域であるpHを有する中性紙の使用や紙基材の抽出pHを制御する方法(特許文献5参照)がすでに開示されており、アルミニウムアンテナでは効果は認められる。しかし、実験によると、製造工程が簡便でコストの安い銀ペーストの印刷による導電性に優れたアンテナなど、銀を用いたアンテナやICチップとアンテナの接合に銀バンプ使用した内蔵紙においては、これらの公知の技術を用いても、使用時、保存時の期間における温度変化が特に40℃以上の高温環境ではアンテナの腐食が発生し、紙基材がグラム陰性菌の適正発育pHである酸性領域での保管ではさらに腐食が進行する結果が出ている。ICインレット内蔵紙においてICインレットを抄きこむ抄紙工程、保管、輸送の環境条件でアンテナの腐食が発生により、通信不良など問題となる惧れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2006/095611号公報
【特許文献2】特開2008−186353号公報
【特許文献3】特開2004−102353号公報
【特許文献4】特開2003−67713号公報
【特許文献5】特開2003−67712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、ICインレット内蔵紙のICインレットを構成するアンテナ、およびICとの接点の腐食を防止し、長寿命化を図ったICインレット内蔵紙および製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
アンテナ、およびICとの接点の腐食の推定原因としては、以下のことが考えられる。紙に使用されるパルプはクラフト法により製造され、原料パルプ製造過程や抄紙工程において、洗浄後においても不可避的に、硫化水素など還元性硫化物イオン(S2−)などの陰イオンが残留することがある。この原因はパルプ中に硫酸塩還元菌の増殖に伴う還元性硫化物(硫化水素)の生成による。また古紙パルプを使用した場合には前記硫酸塩還元菌類の繁殖が進み、前記クラフト法フレッシュパルプより多く還元性硫化物が存在すると考えられる。このような還元性硫化物の存在がICインレット内蔵紙を抄紙工程時の乾燥工程やその後の使用および硫酸塩還元菌の繁殖に適した保存環境の温湿度変化の過程長期に保存される中で、インレットのアンテナやICとの接着部を腐食するものと考えられる。特に、銀ペーストを使用したアンテナは、薄い層であり僅かに腐食しても導電性が低下する。またアンテナとICの接点に使用される導電性インキの銀は、腐食により電波の授受が阻害され読み取り書き込みの障害となる危険性がある。
【0010】
本発明者らは、上記課題の推定原因から、これら硫化水素を固定化し、ICインレットを紙中に内蔵したICインレット内蔵紙の防錆防止について鋭意検討した結果、銅の金属塩化合物を紙中に含有させることにより、内蔵されるICインレットのアンテナおよび接点の腐食を防止が可能となり、防食性に優れたICインレット内蔵紙およびその製造方法を見出し、以下の発明をするに至った。
【0011】
すなわち本発明は以下の発明を包含する。
(1)ICチップと、該ICチップに接続されたアンテナとを保持したインレットを紙中に抄きこんでおり、紙中に銅の金属塩化合物を含有しているICインレット内蔵紙。
(2)前記銅の金属塩化合物はICインレット内蔵紙の紙中に、銅の質量として10〜1000ppm含有しているICインレット内蔵紙。
(3)2層以上の多層抄きからなり、その少なくとも1層に金属化合物を含有している(1)又は(2)のいずれかに記載のICインレット内蔵紙。
(4)前記銅の金属塩化合物は、硫酸銅、硝酸銅から選ばれる少なくとも1種である(1)〜(3)のいずれか1項に記載のICインレット内蔵紙。
(5)前記金属化合物が硫酸銅である(3)記載のICインレット内蔵紙。
(6)銅の金属塩化合物を対パルプ固形分当り0.01〜1.0%の範囲で原料スラリーに添加し、紙中に銅の質量として10〜1000ppm含有するようにしたICインレット内蔵紙の製造方法。
(7)前記銅の金属塩化合物が硫酸銅、硝酸銅から選ばれる少なくとも1種である(6)記載のICインレット内蔵紙の製造方法。
(8)前記銅の金属塩化合物が硫酸銅である(7)記載のICインレット内蔵紙の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
ICインレット内蔵紙中に銅の金属塩化合物をパルプスラリーに添加して製造することにより、パルプ中または、内蔵紙中に均一に銅の金属塩化合物が存在し、長期保存しても内蔵紙中の硫化水素などの還元性硫化物イオン(S2−)を有効に固定化が可能となり、銀を含むアンテナおよび、接点の腐食防止ができ、長寿命化が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ICインレット内蔵紙
【発明を実施するための形態】
【0014】
ICインレットを構成するアンテナおよびバンプに使用される銀への腐食に影響がある成分である硫化水素の固定に効果あるものについて検討した結果、金属、中でも銅、亜鉛、鉛から選ばれた金属の金属塩が顕著な効果を示すことを見出した。金属塩化合物としては、水溶液として配合可能な、硫酸塩、硝酸塩が好ましく、硫酸銅、硝酸銅、などの銅化合物およびその水和物、または硫酸亜鉛、塩化亜鉛、などの亜鉛化合物、硝酸鉛、酢酸鉛などの鉛化合物が挙げられるが、中でも銅の金属化合物の効果が著しく、薬品の安定性、作業環境、安全性の面から硫酸銅がもっとも好ましい。特に硫酸銅は食品添加物にも用いられ、安全性に問題が少なく廃棄物として燃焼させても問題が生じない。また、亜鉛化合物、鉛化合物は効果があるものの、排水に混入すると水生生物に影響が出るなど環境負荷が大きく好ましくない。
【0015】
前記銅の金属塩化合物は対ICインレット内蔵紙の、紙の部分において固形分質量当りで10ppm〜1000ppmの範囲になるよう含有する。10ppm未満では硫酸塩還元菌の増殖に伴う硫化水素の発生分が吸収されず、錆の発生を抑えることができないため好ましくない。また、1000ppmを超えても、効果が頭打ちとなり、さらに多く含有する場合には、特に銅化合物が、青色に着色しており内蔵紙の色目が変化してしまい好ましくない。古紙パルプを使用しないフレッシュなパルプのみを使用したICインレット内蔵紙については、10ppm〜300ppm含有することにより十分効果が得られるが、古紙パルプを使用しているICインレット内蔵紙については、50〜1000ppmの範囲で含有することがさらに好ましい。
【0016】
ICインレット内蔵紙はICインレットが紙層内に抄き込まれており、抄き網2層以上の多層抄きが使用される。前記銅の金属化合物は、パルプスラリーに配合させる方法、または抄紙工程では配合せずに、内蔵紙を抄いた後に金属化合物を水溶液などにして塗布又は含浸する方法がある。
しかし、ICインレット内蔵紙の表面から塗布、含浸する方法では、表層近くの金属化合物濃度が高くても、ICアンテナ近傍には少ないか、またはほとんど存在しないため、アンテナの防食性を得るにはかなり多くの量を必要とする。ICインレット内蔵紙の坪量は、抄き込まれるICインレットの厚さ、およびICインレット内蔵紙の用途により決まるが、一般に50〜500g/m程度であり、ICインレットの抄きこみは、一般に多層の層間にて行われるため、ICインレットの接する層用のパルプスラリーへの配合が効率的である。
【0017】
本発明のパルプスラリーに使用のパルプには特に制限は無く、化学パルプ(広葉樹、針葉樹)、機械パルプ、古紙パルプ、非木材パルプ、合成パルプ等各種のパルプが使用可能である。また叩解条件も限定されることはない。各紙層を形成するために用いるパルプは濾水度も同じであっても異なっていてもよい。中でも硫化水素が発生しやすい古紙パルプや代表的化学パルプであるクラフト法パルプでは、副次的に発生する硫化水素、メルカプタンなど硫黄化合物の残留および、洗浄後においても硫酸塩還元菌により還元性硫黄化合物の発生が完全には防げないため本発明の効果が著しい。
【0018】
パルプスラリーへ添加する金属塩化合物水溶液の濃度には特に制限は無いが、紙中に10〜1000ppmの範囲で含有するように、対パルプ固形分で0.01〜1.0%の範囲で添加すれば良い。古紙を使用しない場合は0.01〜0.2%が好ましく、古紙を使用する場合は、0.02%〜1.0%が好ましい。
【0019】
本発明のICインレット内蔵紙は2層以上の湿紙間にICインレットを挟んで湿紙を抄き合わせ後乾燥して得ることができる。
抄き網上に形成された第1の湿紙の表面にプラスチック基材などからなるICインレットを設置した後、別の抄き網上に形成された第2の湿紙を抄き合せてなり、ICインレットのプラスチック基材には接着剤を塗布しても良い。紙層A、Bは同一のパルプスラリーであっても異なっていても良い。
【0020】
ICインレット内蔵紙の製造方法には、特に制限はなく、例えば円網抄紙機、長網抄紙機での多層抄き合わせにより抄紙され、金属塩化合物以外に必要に応じ、填料や種々の内添薬品を紙中に添加できる。填料の種類は特には限定されないが、例えば炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン、カオリン、合成シリカなどを使用することができる。また内添薬品としてはロジン系サイズ剤、スチレン・マレイン酸、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸など天然および合成の製紙用の内添サイズ剤、濾水歩留り向上剤、アニオン性ポリアクリルアミド、ポロビニルアルコール、澱粉等の各種紙力増強剤、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン等の耐水化剤、硫酸バンド、消泡剤、染料を使用することができる。
【0021】
また、得られたICインレット内蔵紙に対しサイズプレスを行う場合、使用される薬品の種類は特に限定されるものでなく、例として澱粉、酸化澱粉、カチオン化澱粉、ポリビニルアルコール、CMCなどが公知の薬品が挙げられる。方法も公知のゲートロール、サイズプレス、ビルブレードなどが使用される。
【0022】
さらに平滑化処理のため、更にスーパーカレンダー、マシンカレンダー、ギャップカレンダー等により公知の紙の製造に使用する装置の使用が可能である。平滑化装置によりICが破損することを防ぐため適度な圧力で処理をする必要がある。
【0023】
図1は、本実施形態に関わるICインレットが抄きこまれた用紙の一形態を示す概念図である。(A)は2層の紙層からなる用紙の場合であり、(B)は3層の紙層からなる場合である。中間の紙層はICインレット抄込み部にパルプがない窓部を設け、ICインレット抄きこみによる表面が凸にならないようした場合である。(C)は、さらにICインレットの抄きこみ部の窓を設け、その上部および下部に紙層を複数設け、表層からICインレット部が抄きこまれていることが判別できにくい形にした例である。
紙層に抄きこまれるICインレットを構成するフィルム基材の材質は、特に制限はないが平坦なフィルムが好ましく、例としてポリエチレンテレフタレート、ポリブチルフタレート、ポリエチレンナフタレートなどが使用される。
【0024】
ICインレットのアンテナとしては、導線をコイル状に巻いてICチップと接合した電磁誘導方式や、矩形のアンテナにICチップを接合した電波共振方式のものがあり、いずれも紙中へ内蔵可能であるが、製造法の中ではフィルム上に銀粒子などを含有した導電性インキにより印刷でアンテナパターンを作成し、加熱炉で温度処理し、余分な溶剤を除き樹脂分を硬化させ、導電性の安定したアンテナとする方法は、工程が簡素でコストも安価なものができるため、紙への直接抄きこみには適している。さらにアンテナパターンを作成した後、ICチップとアンテナパターンを、金や銀などのバンプ接合によりICインレットを得ることができる。
【実施例】
【0025】
以下、具体的な実施例を示して本発明の効果を明らかにする。なお、配合、濃度等を示す数値は固形分または有効成分の質量基準の数値である。加工条件、測定条件の詳細は以下の通りである。
【0026】
(ICインレット)
幅4.5mm×長さ70mmのポリエチレンテレフタレートフィルムの上に、周波数2.45GHz帯に対応したIC及び銀ペーストアンテナ(幅1.5mm×長さ54mm)を備えたICインレット(ルネサステクノロジ社製)を入手し、これのインレットを、ICインレット内蔵紙製造時、及び、銀発錆試験に使用した。
【0027】
〈内蔵紙中の金属含有量の測定方法〉
本発明においては、紙に含有した金属イオン量は、ICP発光分光分析装置(リガク(株)製 CIROS120型)により、当該サンプルの液体試料を霧化し、導き出したスペクトルプロファイルから、測定した。
1)前処理(密閉式湿式分解)
まず、内蔵紙サンプルから紙のみの部分(ICインレットを除いた部分)をセラミック製はさみを用い、2〜5mm角の寸法に裁断する。裁断したサンプルから0.2gを採り、密閉式容器に移し、続いて硫酸を2ml、硝酸を5ml添加し、この試料を湿式分解装置(アステック社製、型式:MARS5)にて分解させた。その後、容器内の分解溶液を遠沈管に洗い移し、これを0.45μmのメンブランフィルターでろ過した後、全量を蒸留水で洗いながらフラスコで50mlに定容量とした。
2)高周波誘導プラズマ発光法(ICP)による測定
上記の前処理した試料中の金属濃度を、ICP−OES(リガク製、型式:CIROS−120)を用いて測定した。なお、定量に関しては予め、含有量既知の金属塩標準液を用いて検量線を作成しておき、含有量(ppm)を算出した。また、検出限界は0.01ppmであった。
【0028】
〈銀発錆試験方法〉
(1)インレット内蔵紙から、インレットの部分以外の箇所(紙のみの部分)から所定の大きさ(20mm×250mm)に裁断した紙サンプル(坪量170gm)を8枚準備し、蓋付きガラス製サンプル瓶(500cc)に入れる。
前記、ICインレットのアンテナを各サンプル瓶あたり3ケずつ入れ、蓋を固くしめる。
(2)このサンプル瓶を150℃に昇温した乾燥機に1時間入れておく。
(3)1時間室温で徐冷した瓶からICアンテナを乾いたろ紙の上に出し、速やかにポリ袋に入れ拡大鏡でアンテナの発錆状況を観察する。
【0029】
判定基準
〇:3個いずれも、試験前と比較して変化が無い
△:アンテナ面積比(3個トータル)で5%未満の変色が認められる
×:アンテナ面積比(3個トータル)で5%以上の変色が認められる
【0030】
(実施例1)
[抄紙]
表層・中層・裏層の3層構造の紙を抄紙できる円網抄紙機にて抄紙を行った。抄紙の際には、中層を形成する円網ワイヤー上には予め、ワイヤー上に10mm幅の粘着テープを円網1周分巻きつけておき、この部分にパルプ層が形成されないようにしておいた。
パルプとしては、NBKP20%、LBKP80%の配合で混合叩解を行いカナディアンスタンダードフリーネスで400mlに調整して準備し、これを表層・中層・裏層用の共通パルプとして使用した。各層用に使用する各パルプスラリーに硫酸銅(5水和物)を各々対パルプ固形分で0.15%になるよう添加し、さらに硫酸バンド0.2%と内添紙力増強剤としてポリアクリルアミド(荒川化学製ポリストロン−SH20A)を同0.3%配合した。
上記のパルプスラリーを、各々各層バットに流し、1層目(裏層)の付け量を50g/m、2層目(中層)の付け量を70g/m、3層目(表層)の付け量を50g/mに調整し、トータル170g/mの多層抄紙を抄紙したが、抄紙を続けたまま、2層目が形成された後3層目の原料が2層目の上に形成される直前の部分で、上記ICインレットを手動作にて、2層目で形成された溝の部分(10mm幅の原料が載っていない部分)に貼り付け、3層目を重ねた。このような動作を3回繰り返すことにより、3箇所インレットを抄き込み、ドライヤーにて乾燥後、スプールにて巻き取った後、ICインレットが抄きこまれた箇所(3箇所)が中心となるように25cm×25cmに切り取り、3枚の乾燥坪量170g/mのICインレット内蔵紙を得、これを評価した。
【0031】
(実施例2)
硫酸銅(5水和物)を硝酸銅(3水和物)に変えた以外は、実施例1と同様にしてICインレット内蔵紙を得、これを評価した。
【0032】
(実施例3)
硫酸銅(5水和物)の量を0.01%に変えた以外は、実施例1と同様にしてICインレット内蔵紙を得、これを評価した。
【0033】
(実施例4)
硫酸銅(5水和物)の量を0.03%に変えた以外は、実施例1と同様にしてICインレット内蔵紙を得、これを評価した。
【0034】
(実施例5)
パルプとして雑誌古紙脱墨パルプを100%使用し、カナディアンスタンダードフリーネス350mlになるまで叩解した古紙パルプを使用すること以外は実施例1と同様にしてICインレット内蔵紙を得、これを評価した。
【0035】
(実施例6)
硫酸銅(5水和物)を対パルプ0.003%になるように添加した以外は実施例5と同様にしてICインレット内蔵紙を得、これを評価した。
【0036】
(実施例7)
硫酸銅(5水和物)を対パルプ0.03%になるように添加した以外は実施例5と同様にしてICインレット内蔵紙を得、これを評価した。
【0037】
(実施例8)
硫酸銅(5水和物)を対パルプ0.3%になるように添加した以外は実施例5と同様にしてICインレット内蔵紙を得、これを評価した。
【0038】
(実施例9)
硫酸銅(5水和物)を対パルプ0.5%になるように添加した以外は実施例5と同様にしてICインレット内蔵紙を得、これを評価した。
【0039】
(実施例8)
硫酸銅(5水和物)を対パルプ0.8%になるように添加した以外は実施例5と同様にしてICインレット内蔵紙を得、これを評価した。
【0040】
(比較例1)
硫酸銅(5水和物)を無添加とした以外は、実施例1と同様にしてICインレット内蔵紙を得、これを評価した。
【0041】
(比較例2)
硫酸銅(5水和物)を無添加に変えた以外は、実施例5と同様にしてICインレット内蔵紙を得、これを評価した。
【0042】
(比較例3)
硫酸銅(5水和物)を酢酸カルシウム(1水和物)に変えた以外は、実施例1と同様にしてICインレット内蔵紙を得、これを評価した。
【0043】
(比較例3)
硫酸銅(5水和物)を酢酸マグネシウム(4水和物)に変えた以外は、実施例1と同様にしてICインレット内蔵紙を得、これを評価した。
【0044】
(参考例)
硫酸銅(5水和物)の添加量を対絶乾パルプ各1.3%に変えた以外は、実施例1と同様にしてICインレット内蔵紙を得たが、紙が青みを帯びて、外観不良となった。
【0045】
以上の(実施例)および(比較例)によるICインレット内蔵紙を配合組成および金属含有量分析結果、発錆試験結果を表1に示した。
表1から明らかなように、実施例のICインレット内蔵紙は、発錆試験での錆の発生が少なくほぼ良好な外観であるのに比べ、比較例では、アンテナ部に錆が発生した。
【0046】
【表1】

【符号の説明】
【0047】
1:ICインレット
2:表層
2’:裏層
3:窓付き中層
4、4’:中層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICチップと、該ICチップに接続されたアンテナとを保持したICインレットを紙中に抄きこんでおり、紙中に銅の金属塩化合物を含有していることを特徴とするICインレット内蔵紙。
【請求項2】
前記銅の金属塩化合物は、ICインレット内蔵紙の紙中に、銅の質量として、10〜1000ppm含有することを特徴とする請求項1記載のICインレット内蔵紙。
【請求項3】
前記銅の金属塩化合物は、硫酸銅、硝酸銅から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載のIインレットC内蔵紙。
【請求項4】
前記銅化合物が硫酸銅であることを特徴とする請求項3に記載のICインレット内蔵紙
【請求項5】
銅の金属塩化合物を対パルプ固形分当り0.01〜1.0%の範囲で原料スラリーに添加し、紙中に銅の質量として10〜1000ppm含有させることを特徴とするICインレット内蔵紙の製造方法。
【請求項6】
前記銅の金属塩化合物が硫酸銅、硝酸銅から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項5に記載のICインレット内蔵紙の製造方法。
【請求項7】
前記銅の金属塩化合物が硫酸銅であることを特徴とする請求項6記載のICインレット内蔵紙の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−186294(P2010−186294A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29524(P2009−29524)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【出願人】(000191320)王子特殊紙株式会社 (79)
【Fターム(参考)】