説明

ICタグ

【課題】比誘電率・誘電正接が小さいと共にその温度依存性が少なく、比重が小さく、寸法精度及び耐熱性に優れ、且つ高温下における熱変形が小さいICタグを提供すること。
【解決手段】荷重撓み温度(HDT)が120℃以上であり、ポリフェニレンエーテル(A)と、(A)成分以外の熱可塑性樹脂(B)からなるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物で構成してなる事を特徴とするICタグ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比誘電率・誘電正接が小さいと共にその温度依存性が少なく、比重が小さく、寸法精度及び耐熱性に優れ、且つ高温下における熱変形が小さい、ポリフェニレンエーテルとそれ以外の熱可塑性樹脂からなるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物で構成されるICタグに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、商品、貯蔵物、荷物などの物品に付与されているタグ情報を自動的に読み取って識別するためのシステムとして、従来より知られているバーコード方式によるものに替え、より大量の情報を扱うことができ、耐環境性に優れ、しかも遠隔読み出しが可能な非接触ICタグによる識別システムの開発が進んでいる。この非接触ICタグによる識別システムは、製品に取り付けられた非接触ICタグとリーダライタの間で、磁気、誘導電磁界或は電磁波等により非接触で交信を行うものである。非接触ICタグによる識別システムの情報伝達方式には電磁結合式、電磁誘導方式、マイクロ波方式、光通信方式等がある。
【0003】
これらの方式の中で、使用する周波数が高い、電磁結合方式及びマイクロ波方式によるものは、リーダライタからの伝送信号のエネルギーをタグの駆動電力として用いることができる。このため、電池を駆動源とする場合に比べ、通信特性の低下や使用限界がなく、小型薄型化が可能であるという利点がある。従って、性能向上及び小型化の観点から、今後ICタグの高周波数化は必要不可欠であると予測されている。
【0004】
従来のICタグとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の基材シートの一方の表面に、回路線からなる電子回路及び該電子回路に接続するICチップが設けられ、該電子回路及びICチップを覆う接着剤層が積層されている構造を有する電子回路付き基材接着シートが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等の2枚の封止用樹脂成形体又はシート(外装材)で挟まれ、加熱圧縮成形されて、電子回路付き基材接着シートが樹脂により封じ込まれているICタグが知られている。(例えば、特許文献1参照)しかしながら、現状のこれらの成形体、シート、及びフィルムでは、それぞれに解決困難な問題点があった。
【0005】
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)は耐熱性が十分でない。そのため、クリーニング、自動車の塗装工程等耐熱性が必要な用途には適さない。例えば、クリーニングにおける洋服の洗濯・熱風乾燥の場合など、シートの熱による寸法変化に伴なう変形、例えばカールや層間の剥がれ等が生じ、外観や機能を損なう場合があった。
【0006】
また、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)の耐熱性の改良材料として、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)が提案・実用化されている。確かに、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)に比べて、耐熱性は改良されている。しかしながら、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)は、ガラス転移温度がそれぞれ120℃、90℃付近にある為、これらの熱可塑性樹脂をガラス転移温度以上の高い温度で使用すると、寸法変化による熱変形、反りの温度依存性が急激に上がるという問題が依然存在しており、更なる改良が待望されている。
【0007】
また、先に述べた問題の他に、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)をガラス転移温度以上の高い温度に使用すると、比誘電率・誘電正接の温度依存性も急激に上がり、それによって比誘電率・正接の上昇に起因する誘電損失が原因となるICタグの通信距離が減衰し、ICタグの性能に悪影響を与えることが考えられる。更に、これらの熱可塑性樹脂組成物は、何れも比重が大きい為、材料のコストが高く、不経済であった。その為、高温下における誘電特性の改良に加え、比重が小さく、安価であるICタグ熱可塑性樹脂組成物が望まれている。
【特許文献1】特開2003−68775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、比誘電率、誘電正接が小さいと共にその温度依存性が少なく、比重が小さく、寸法精度及び耐熱性に優れ、且つ高温下における熱変形が小さいICタグを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため様々な検討を重ねた結果、荷重撓み温度(HDT)が120℃以上である、ポリフェニレンエーテル(A)と、(A)成分以外の熱可塑性樹脂(B)からなるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物で構成されるICタグが、比誘電率・誘電正接が小さいと共にその温度依存性が少なく、比重が小さく、寸法精度及び耐熱性に優れ、且つ高温下における熱変形が小さいことを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.荷重撓み温度(HDT)が120℃以上である、ポリフェニレンエーテル(A)と、(A)成分以外の熱可塑性樹脂(B)からなるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物で構成される事を特徴とするICタグ。
2.(B)成分が、ポリアリーレンサルファイド(PAS)、液晶ポリエステル(LCP)、スチレン系樹脂から選ばれる少なくとも1種以上である事を特徴とする上記1に記載のICタグ。
3.(A)成分20〜95質量部と(B)成分80〜5質量部を含有するポリフェニレンエーテル系樹脂組成物からなる事を特徴とする上記1または2記載のICタグ。
4.ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物が、更にエラストマー(C)を含む事を特徴とする上記1〜3のいずれか1項に記載のICタグ。
【0011】
5.(C)成分が、(A)成分と(B)成分の合計が100質量部に対して、2〜100質量部である事を特徴とする上記4に記載のICタグ。
6.ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物が、更に無機充填剤(D)を含む事を特徴とする上記1〜5のいずれか1項に記載のICタグ。
7.(D)成分の量が、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、1〜100質量部である事を特徴とする上記6に記載のICタグ。
8.(D)成分が、ガラス繊維、ガラスフレーク、マイカ、タルクから選ばれる少なくとも1種以上である事を特徴とする上記6または7記載のICタグ。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、荷重撓み温度(HDT)が120℃以上であり、ポリフェニレンエーテル(A)と、(A)成分以外の熱可塑性樹脂(B)からなるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物で構成されることにより、比誘電率・誘電正接が小さいと共にその温度依存性が少なく、比重が小さく、寸法精度及び耐熱性に優れ、且つ高温下における熱変形が小さいという特徴を有するICタグを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
ICタグで耐熱性が必要な用途において、熱の影響で変形しないことの耐熱性の指標としては、荷重1.82MPaにおけるASTM D−648に準拠した荷重撓み温度が有効である。本発明のICタグに用いるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は耐熱性用途でICタグの熱変形を避ける点から、荷重撓み温度で120℃以上が必要であり、好ましくは140℃以上である。
本発明で用いるポリフェニレンエーテル(A)とは、下記式(1)の構造単位からなる、ホモ重合体及び/または共重合体である。
【0014】
【化1】

【0015】
〔式中、Oは酸素原子、Rは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、第一級もしくは第二級の低級アルキル、フェニル、ハロアルキル、アミノアルキル、炭化水素オキシ、又はハロ炭化水素オキシ(但し、少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子を隔てている)を表わす。〕
【0016】
本発明で用いるポリフェニレンエーテル(A)の具体的な例としては、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)等が挙げられ、さらに2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類との共重合体(例えば、特公昭52−17880号公報に記載されてあるような2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体や2−メチル−6−ブチルフェノールとの共重合体)のごときポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。ポリフェニレンエーテルとして2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体を使用する場合の各単量体ユニットの比率は、ポリフェニレンエーテル全量を100質量部としたときに、約80〜約90質量部の2,6−ジメチルフェノールと、約10〜約20質量部の2,3,6−トリメチルフェノールからなる共重合体が特に好ましい。
【0017】
これらの中でも特に好ましいポリフェニレンエーテル(A)としては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体、またはこれらの混合物である。
本発明で用いるポリフェニレンエーテル(A)の製造方法は公知の方法で得られるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、米国特許第3306874号明細書、同第3306875号明細書、同第3257357号明細書及び同第3257358号明細書、特開昭50−51197号公報、特公昭52−17880号公報及び同63−152628号公報等に記載された製造方法等が挙げられる。
【0018】
本発明で用いるポリフェニレンエーテル(A)の還元粘度(ηsp/c:0.5g/dl、クロロホルム溶液、30℃測定)は、0.15〜0.70dl/gの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.20〜0.60dl/gの範囲、より好ましくは0.40〜0.55dl/gの範囲である。
本発明においては、2種以上の還元粘度の異なるポリフェニレンエーテルをブレンドしたものであっても構わない。また、本発明で使用できるポリフェニレンエーテルは、全部又は一部が変性されたポリフェニレンエーテルであっても構わない。
【0019】
ここでいう変性されたポリフェニレンエーテルとは、分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合または、三重結合及び少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基、又はグリシジル基を有する、少なくとも1種の変性化合物で変性されたポリフェニレンエーテルを指す。
【0020】
該変性されたポリフェニレンエーテルの製造方法としては、(1)ラジカル開始剤の存在下、非存在下で100℃以上、ポリフェニレンエーテルのガラス転移温度未満の範囲の温度でポリフェニレンエーテルを溶融させることなく変性化合物と反応させる方法、(2)ラジカル開始剤の存在下、非存在下でポリフェニレンエーテルのガラス転移温度以上360℃以下の範囲の温度で変性化合物と溶融混練し反応させる方法、(3)ラジカル開始剤の存在下、非存在下でポリフェニレンエーテルのガラス転移温度未満の温度で、ポリフェニレンエーテルと変性化合物を溶液中で反応させる方法等が挙げられ、これらいずれの方法でも構わないが、(1)及び(2)の方法が好ましい。
【0021】
また、ポリフェニレンエーテルの安定化の為に公知となっている各種安定剤も好適に使用することができる。安定剤の例としては、ヒンダードフェノール系安定剤、リン系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤等の有機安定剤であり、これらの好ましい配合量は、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して5質量部以下である。
更に、ポリフェニレンエーテルに添加することが可能な公知の添加剤等もポリフェニレンエーテル100質量部に対して10質量部以下の量で添加しても構わない。
【0022】
本発明で用いる(A)成分以外の熱可塑性樹脂(B)として使用可能な熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂であれば、特に制限はないが、ポリフェニレンエーテル(A)の流動性・成形加工性を改良することができるものが好ましい。流動性・成形加工性と耐熱性のバランスから、ポリアリーレンサルファイド(PAS)、液晶ポリマー(LCP)、スチレン系樹脂、ポリアミド(PA)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフロフロロエチレン(PTFE)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルスルホン(PES)等が好ましく使用できる。中でもより好ましいのは、ポリアリーレンサルファイド(PAS)、液晶ポリマー(LCP)、スチレン系樹脂、ポリアミド(PA)である。最も好ましく使用できるのは、ポリアリーレンサルファイド(PAS)、液晶ポリマー(LCP)、スチレン系樹脂である。これらの熱可塑性樹脂は2種以上併用してもかまわない。
【0023】
(A)成分及び(B)成分の配合割合は、(A)成分20〜95質量部が好ましく、より好ましくは30〜90質量部であり、(B)成分5〜80質量部が好ましく、より好ましくは10〜70質量部である。流動性・成形加工性の観点から、(A)成分と(B)成分の合計100質量部において、(B)成分の配合量が5質量部以上が望ましく、高温下における熱変形の観点から、80質量部以下が望ましい。
本発明で(B)成分として使用することができるポリアリーレンサルファイド(PAS)は、下記一般式(2)で示されるアリーレンサルファイドの繰り返し単位を通常50モル%以上、好ましくは70モル%以上、更に好ましくは90モル%以上を含む重合体である。
【0024】
【化2】

【0025】
アリーレン基としては、例えばp−フェニレン基、m−フェニレン基、置換フェニレン基(置換基とは炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基が好ましい。)、p,p′−ジフェニレンスルホン基、p,p′−ビフェニレン基、p,p′−ジフェニレンカルボニル基、ナフチレン基等を挙げることができる。ここでPASは構成単位であるアリーレン基が1種のホモポリマーを用いても良いが、加工性や耐熱性の観点から、2種以上のアリーレン基を有するコポリマーを用いても良い。これらのPASの中でも、p−フェニレンサルファイドの繰り返し単位を主構成要素とするポリフェニレンサルファイド(PPS)が、加工性、耐熱性および寸法安定性に優れ、しかも工業的に入手が容易であることから、特に好ましい。
【0026】
このPASの製造方法は、通常、ハロゲン置換芳香族化合物、例えばp−ジクロルベンゼンを硫黄と炭酸ソーダの存在下で重合させる方法、極性溶媒中で硫化ナトリウムあるいは硫化水素ナトリウムと水酸化ナトリウムまたは硫化水素と水酸化ナトリウムあるいはナトリウムアミノアルカノエートの存在下で重合させる方法、p−クロルチオフェノールの自己縮合等が挙げられるが、中でもN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒やスルホラン等のスルホン系溶媒中で硫化ナトリウムとp−ジクロルベンゼンを反応させる方法が適当である。これらの製造方法は公知の方法であり、例えば、米国特許第2513188号明細書、特公昭44−27671号公報、特公昭45−3368号公報、特公昭52−12240号公報、特開昭61−225217号および米国特許第3274165号明細書、さらに特公昭46−27255号公報、ベルギー特許第29437号明細書、特開平5−222196号公報、等に記載された方法やこれら特許等に例示された先行技術の方法でPASを得ることが出来る。
【0027】
そして本発明では、架橋型(半架橋型も含む)PASとして公知のPASも好適に使用でき、架橋型(半架橋型も含む。)PASは上記したPASを重合して得られるリニア型PASをさらに酸素の存在下でPASの融点以下の温度で加熱処理し酸化架橋を促進してポリマー分子量、粘度を適度に高めたものである。本発明では、架橋型PASおよびリニア型PASを好適に使用でき、架橋型PAS単独使用、リニア型PAS単独使用、架橋型PASとリニア型PASを併用(架橋PAS/リニアPAS=1〜99質量%/99〜1質量%)することができる。
【0028】
更にこれらのPAS(リニアPAS、架橋PAS)は酸変性されたPASでも構わない。ここで酸変性したPASとは、上記PASを酸化合物で変性する事によって得られるものであり、該酸化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸またはその無水物や、飽和型の脂肪族カルボン酸や芳香族置換カルボン酸等も挙げることができる。更に酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、ケイ酸、炭酸等の無機化合物系の酸化合物も該酸化合物として挙げることができる。
【0029】
本発明において、PASの300℃における溶融粘度は、1〜10000ポイズが好ましく、より好ましくは50〜8000ポイズ、特に好ましくは100〜5000ポイズのものが使用できる。本発明において、溶融粘度とは、JISK−7210を参考試験法とし、フローテスター((株)島津製作所製CFT−500型)を用いて、PASを300℃、6分間予熱した後、荷重196N、ダイ長さ(L)/ダイ径(D)=10mm/1mmで測定した値である。
【0030】
本発明で(B)成分として使用することができる液晶ポリエステル(LCP)は、サーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれるポリエステルで、公知のものが使用できる。例えば、p−ヒドロキシ安息香酸およびポリエチレンテレフタレートを主構成単位とするサーモトロピック液晶ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸および2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸を主構成単位とするサーモトロピック液晶ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸および4,4′−ジヒドロキシビフェニルならびにテレフタル酸を主構成単位とするサーモトロピック液晶ポリエステルなどが挙げられ、特に制限はない。本発明で使用される液晶ポリエステルとしては、下記構造単位(イ) および/または(ロ)、並びに必要に応じて下記構造単位(ハ)および/または(ニ)からなるものが好ましい。
【0031】
【化3】

【0032】
【化4】

【0033】
【化5】

【0034】
【化6】

【0035】
ここで、構造単位(イ)、(ロ)はそれぞれ、p−ヒドロキシ安息香酸から生成したポリエステルの構造単位と、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸から生成した構造単位である。構造単位(イ)および(ロ)を使用することで、優れた耐熱性、流動性や剛性などの機械的特性のバランスに優れた本発明の熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。上記構造単位(ハ)、(ニ)中のX は、下記(式3)よりそれぞれ独立に1種あるいは2種以上選択することができる。
【0036】
【化7】

【0037】
構造式(ハ)において好ましいのは、エチレングリコール、ハイドロキノン、4,4′−ジヒドロキシビフェニル、2,6−ジヒドロキシナフタレンおよびビスフェノールAのそれぞれから生成した構造単位であり、さらに好ましいのは、エチレングリコール、4,4 ′−ジヒドロキシビフェニルおよびハイドロキノンのそれぞれから生成した構造単位であり、特に好ましいのは、エチレングリコール、4,4 ′−ジヒドロキシビフェニルのそれぞれから生成した構造単位である。
【0038】
構造式(ニ)において好ましいのは、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6 −ジカルボキシナフタレンのそれぞれから生成した構造単位であり、さらに好ましいのは、テレフタル酸およびイソフタル酸のそれぞれから生成した構造単位である。
【0039】
構造式(ハ)および構造式(ニ)は、それぞれ上記に挙げた構造単位を少なくとも1種あるいは2種以上を併用することができる。具体的には、2種以上併用する場合、構造式(ハ)においては、1)エチレングリコールから生成した構造単位/ハイドロキノンから生成した構造単位、2)エチレングリコールから生成した構造単位/4,4′−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、3)ハイドロキノンから生成した構造単位/4,4′−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、などを挙げることができる。
【0040】
また、構造式(ニ)においては、1)テレフタル酸から生成した構造単位/イソフタル酸から生成した構造単位、2)テレフタル酸から生成した構造単位/2,6−ジカルボキシナフタレンから生成した構造単位、などを挙げることができる。ここでテレフタル酸量は2成分中、好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、特に好ましくは80質量%以上である。テレフタル酸量を2成分中40質量%以上とすることで、比較的に流動性、耐熱性が良好な樹脂組成物となる。液晶ポリエステル成分中の構造単位(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の使用割合は特に限定されない。ただし、構造単位(ハ)と(ニ)は基本的にほぼ等モル量となる。
また、構造単位(ハ)、(ニ)からなる下記構造単位(ホ)を、成分中の構造単位として使用することもできる。
【0041】
【化8】

【0042】
具体的には、1)エチレングリコールとテレフタル酸から生成した構造単位、2)ハイドロキノンとテレフタル酸から生成した構造単位、3)4,4′−ジヒドロキシビフェニルとテレフタル酸から生成した構造単位、4)4,4 ′−ジヒドロキシビフェニルとイソフタル酸から生成した構造単位、5)ビスフェノールA とテレフタル酸から生成した構造単位等を挙げることができる。
【0043】
本発明で用いる液晶ポリエステル成分には、必要に応じて本発明の特徴と効果を損なわない程度の少量の範囲で、他の芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシカルボン酸から生成する構造単位を導入することができる。
【0044】
本発明において(B)成分として使用することができるスチレン系樹脂は、ホモポリスチレン、ゴム変性ポリスチレン(HIPS)、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレン−ゴム質重合体−アクリロニトリル共重合体(ABS樹脂)等が挙げられる。中でも、ホモポリスチレンとゴム変性ポリスチレン(HIPS)がより好ましく使用できる。
【0045】
本発明で用いるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物においては、相溶化剤を使用しても構わない。本発明で使用することが可能な相溶化剤は、(A)成分と(B)成分の混合物の物理的性質を改良するものであれば特に制限はない。本発明で使用できる相溶化剤とは、(A)成分、(B)成分またはこれら両者と相互作用する多官能性の化合物を指すものである。この相互作用は化学的(たとえばグラフト化)であっても、または物理的(たとえば分散相の表面特性の変化)であってもよい。いずれにしても得られる(A)成分と(B)成分の混合物は改良された相溶性を示す。
【0046】
本発明における相溶化剤の添加量は、(A)成分と(B)成分の相溶性、機械的強度の点から、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対し、0.2質量部以上が好ましく、成形品とした時の剥離の点から10質量部以下が好ましく、より好ましくは、0.5〜5質量部である。
【0047】
本発明において使用することのできる相溶化剤の例としては、例えば、(B)成分がポリアリーレンサルファイドの場合、相溶化剤は、エポキシ樹脂、グリシジル基含化合物、α,β−不飽和カルボン酸の誘導体で変性した水添ブロック共重合体、オキサゾニル基含有化合物等の、ポリアリーレンサルファイドとポリフェニレンエーテルの相溶化剤として公知である物質を使用する事が出来る。スチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、ゴム補強スチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、スチレン−アクリロニトリル−グリシジルメタクリレート共重合体等のグリシジル基含有スチレン系樹脂を用いる事が特に好ましい。
【0048】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物には、更にエラストマー(C)を添加することが好ましい。エラストマー(C)としては、本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性を向上させることができれば、特に制限はない。中でも、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、ブタジエン−イソプレン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、水添スチレン−ブタジエンブロック共重合体、水添スチレン−イソプレンブロック共重合体等のエラストマーが挙げられる。特に耐衝撃性の向上、成形加工性の向上を目的として、水添スチレン−ブタジエンブロック共重合体が最も好適に添加できる。
本発明におけるエラストマー(C)の添加量は、ポリフェニレンエーテル(A)、(A)成分以外の熱可塑性樹脂(B)の合計量を100質量部に対して、2〜100質量部が好ましい。より好ましくは、5〜30質量部である。
【0049】
本発明で用いるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物には、更に無機充填材(D)を添加することが好ましい。無機充填剤(D)は、添加することで樹脂組成物の強度を付与することができれば特に制限はなく、ガラス繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭素繊維、炭化ケイ素、セラミック、窒化ケイ素、マイカ、ネフェリンシナイト、タルク、ウオラストナイト、スラグ繊維、フェライト、ガラスビーズ、ガラスパウダー、ガラスバルーン、石英、石英ガラス、溶融シリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、などの無機化合物があげられる。中でも、成形加工性と寸法精度・安定性の観点から、ガラス繊維、ガラスフレーク、マイカ、タルクがより好ましい。
【0050】
これら無機系の充填剤の形状は限定されるものではなく、繊維状、板状、球状などが任意に選択できるが、シート成形性と寸法精度・安定性の観点から板状、球状がより好ましい。
また、これらの無機系の充填剤は、2種類以上併用することも可能である。更に、必要に応じて、シラン系、チタン系などのカップリング剤で予備処理して使用することができる。
無機充填剤(D)の配合量は、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、2〜100質量部が好ましい。より好ましくは5〜80質量部、さらに好ましくは10〜50質量部である。流動性の観点から100質量部以下の配合が望ましく、機械的強度の向上効果を得る為には2質量部以上の配合が望ましい。
【0051】
本発明で用いるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物では、上記の成分の他に、本発明の特徴および効果を損なわない範囲で必要に応じて他の付加的成分、例えば、酸化防止剤、難燃剤( 有機リン酸エステル系化合物、フォスファゼン系化合物等) 、可塑剤( オイル、低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、難燃助剤、耐候( 光) 性改良剤、ポリオレフィン用造核剤、各種着色剤を添加してもかまわない。
本発明で用いるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物において、(A)、(B)、(C)、(D)成分を混練する場合、混練する順番は特に限定はないが、一括して混練することが、プロセスの簡略性や物性向上の観点から望ましい。(D)成分を混練により砕かせたくない場合は、後で添加して混練することもできる。
【0052】
また、本発明で用いるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は種々の方法で製造することができる。例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー等による加熱溶融混練方法が挙げられるが、中でも二軸押出機を用いた溶融混練方法が最も好ましい。この際の溶融混練温度は特に限定されるものではないが、通常150〜350℃の中から任意に選ぶことができる。
【0053】
本発明のICタグは、一般的な射出成形、インジェクションプレス成形、押出成形、又はインフレーション成形等公知の成形方法より得ることができる。これらの中でも、特に射出成形及び押出成形が好ましい。押出成形の中でも、特にシート押出やフィルム押出が好ましく使用できる。また、延伸する場合には、公知の種々の方法が使用できるが、具体例としてはロール群の周速差を利用した縦延伸、テンターオーブンを使用した横延伸などが挙げられる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例、比較例によって、本発明を説明する。
なお、原料は下記の通りである。
(A) ポリフェニレンエーテル
2,6−キシレノールを酸化重合し、還元粘度(0.5g/dl、クロロホルム溶液、30℃測定)のポリフェニレンエーテル[以下単にPPEと略記]を得た。
(B)−1 ポリアリーレンサルファイド
特開平8−253587号公報の実施例1に準じて溶融粘度(フローテスターを用いて、300℃、荷重196N,L/D=10/1で6分間保持した後測定した値。)が500ポイズ、塩化メチレンによる抽出量が0.4質量%、末端−SX基量が26μmol/gのp−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を有するリニアタイプのポリフェニレンスルフィド[以下単にPPSと略記]を得た。
(B)−2 液晶ポリマー
窒素雰囲気下において、p−ヒドロキシ安息香、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、無水酢酸を仕込み、加熱溶融し、重縮合することにより、以下の理論構造式を有する液晶ポリエステル[以下単にLCPと略記]を得た。なお、組成の成分比はモル比を表す。
【0055】
【化9】

【0056】
(B)−3 スチレン系樹脂
ISO R−1133に準拠して、メルト・フローレイトが2.5g/10min(温度200℃、荷重5kgf測定)のハイインパクトポリスチレン(結合ゴム量12%)
[以下単にHIPSと略記]
(C)−1 エラストマー
水添スチレン-ブタジエンブロック共重合体[以下単にSEBSと略記]
(クレイトンG1651:クレイトンポリマーズ(株)製)
【0057】
(D)−1 無機充填剤
タルク(ハイトロンA、竹原化学工業(株)製)[以下単にTalcと略記]
(相溶化剤)−1
スチレン−グリシジルメタクリレート(グリシジル含量5質量%、Mw=11万)
[以下単にSGと略記]
(相溶化剤)−2
ZnO、特級グレード、和光純薬(株)製[以下単にZnOと略記]
(その他)
ポリエチレンテレフタレート樹脂
(NEH2050、ユニチカ(株)製)[以下単にPETと略記]
【0058】
また、物性評価方法及びICタグの模擬成形品の評価方法、評価基準は下記の通りである。
(1)物性評価
1)荷重撓み温度
荷重1.82MPaにおいて、ASTM D−648に準拠して、荷重撓み温度を測定した。
2)比重
ASTM D−792に準拠して、23℃における比重を測定した。
【0059】
(2)ICタグ模擬成形品での評価
80mm×50mm×1mmのICタグ模擬成形品において、成形品の反り、熱変形、誘電特性について評価を実施した。
1)反り:成形品の反りについて、目視評価を実施した。
成形品の反りについての目視判定基準
◎:反りは確認できない
○:若干の反りが確認できる
×:明らかに反りが確認できる
2)熱変形:成形品を80℃に設定されたオーブン中に24時間放置した後の変形について目視評価を実施した。
成形品の熱変形についての目視判定基準
◎:変形は確認できない
○:若干の変形が確認できる
×:明らかに変形が確認できる
3)誘電特性評価
成形品を用いて、トリプレート線路共振器法により表1に示される条件下において比誘電率、誘電正接を測定した。測定装置は、アジレントテクノロジー社製で、発振器、検波器、位相・振巾解析器、トリプレート線路共振器、及びオーブンからできている。
【0060】
[実施例1〜5及び比較例1〜3]
L/D=48の同方向回転二軸押出機(ZSK25:コペリオン社製,12の温度調節ブロックを有する)を用い、供給口より、各原料を表1記載の割合で混合したものを供給し、溶融混練してペレットを得た。この時のシリンダー温度は、上流側供給口に位置する温度調節ブロック1は水冷とし、温度調節ブロック2〜12は310℃、ダイは320℃に設定した。また、吐出量は12kg/hになるように各フィーダーを調節した。また、スクリュー回転数は300rpmで実施した。
【0061】
得られたペレットをシリンダー温度300℃及び金型温度100℃に設定したEC60EPN射出成形機[東芝機械社製]を用いて、ASTM D648に準拠した試験片厚みが約6.4mmの試験片、及び同様のシリンダー温度、金型温度、成形速度4cm/秒、ゲート径10×1mmのサイドゲートにて、80mm×50mm×1mmのICタグ模擬成形品を成形した。得られたICタグ模擬成形品を用いて、前記の方法に従って反り、熱変形、及び誘電特性の評価を実施した。一方、得られた厚み6.4mmの試験片を用いて、耐熱性及び比重の測定を実施した。それらの結果を表1に示した。
【0062】
低誘電損失特性が要求されるICタグの高周波化は、比誘電率、誘電正接が小さければ小さいほど、誘電損失が小さくなるので好ましい。ICタグとして好ましくは、周波数1GHz、温度23℃、120℃における比誘電率が2〜7、誘電正接が0.008以下であり、より好ましくは、比誘電率が2〜5、誘電正接が0.001〜0.006である。また、ICタグの通信距離を減衰させず、その性能に悪影響を与えない為、比誘電率・誘電正接は、温度依存性が小さいほど好ましい。
実施例1〜5は、比誘電率・誘電正接及びその温度依存性が少なく、比重が小さく、寸法精度及び耐熱性に優れ、且つ高温下における熱変形が小さく、ICタグの性能を満足するものであった。
【0063】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のポリフェニレンエーテルとそれ以外の熱可塑性樹脂からなるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物で構成してなるICタグは、比誘電率・誘電正接が小さいと共にその温度依存性が少なく、比重が小さく、寸法精度及び耐熱性に優れ、且つ高温下における熱変形が小さいという特徴を有するので、ICタグの特性、特に高温用途のICタグの特性に非常に適しており、工業的価値は極めて大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷重撓み温度(HDT)が120℃以上であり、ポリフェニレンエーテル(A)と、(A)成分以外の熱可塑性樹脂(B)からなるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物で構成される事を特徴とするICタグ。
【請求項2】
(B)成分が、ポリアリーレンサルファイド(PAS)、液晶ポリエステル(LCP)、スチレン系樹脂から選ばれる少なくとも1種以上である事を特徴とする請求項1に記載のICタグ。
【請求項3】
(A)成分20〜95質量部と(B)成分80〜5質量部を含有するポリフェニレンエーテル系樹脂組成物からなる事を特徴とする請求項1または2記載のICタグ。
【請求項4】
ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物が、更にエラストマー(C)を含む事を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のICタグ。
【請求項5】
(C)成分が、(A)成分と(B)成分の合計が100質量部に対して、2〜100質量部である事を特徴とする請求項4に記載のICタグ。
【請求項6】
ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物が、更に無機充填剤(D)を含む事を特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のICタグ。
【請求項7】
(D)成分の量が、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、1〜100質量部である事を特徴とする請求項6に記載のICタグ。
【請求項8】
(D)成分が、ガラス繊維、ガラスフレーク、マイカ、タルクから選ばれる少なくとも1種以上である事を特徴とする請求項6または7記載のICタグ。

【公開番号】特開2007−323208(P2007−323208A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−150613(P2006−150613)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】