説明

ICT機器用空調機器およびICT機器用空調システム並びにこれらを限って備えたICT機器室

【課題】空調機器の故障時においてもICT機器室内の温度上昇を抑制し、ICT機器の風量と空調機器の風量とのエアバランスを制御し得るICT機器用空調システムを提供する。
【解決手段】このICT機器用空調システムは、ICT機器室のラック列同士が対向するラック列間に区画されたホットアイル上方に配置される複数の空調機器10と、必要風量管理手段とを備え、各空調機器10は、ホットアイルの上方に対向して設けたファン15と、このファン15によって対向するラック列間から吸気する吸い込み口12と、吸気を冷却して排気するための冷却ユニット14と、ラック列の天井部前方からラック列の前方にコールドアイルを形成するように排気する吹き出し口13とを有し、必要風量管理手段は、温度センサ21,22によって測定した所定位置の複数の温度情報に基づいて、各空調機器10のファン15の風量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信機器や電算機等のICT機器を搭載したラックが整列してラック列をなすICT機器に用いられる、空調機器および空調システム並びにこれらを限って備えたICT機器室に関する。
【背景技術】
【0002】
通信機器や電算機等のICT機器を上下方向に搭載したラックが整列したラック列が収容されるICT機器室の空調を行なうICT機器用空調システムとしては、例えば、従来のデータセンター等のICT機器室で主流なアンビエント空調システムがある。
しかし、この種のアンビエント空調システムは、通常、空調機(CRAC)をICT機器室内の端に設置する。そのため、給気・排気間の距離が遠くなり、搬送動力が大きいものとなる。したがって、運用前に空調機のレイアウトなどの適切な設計計画を実施していない場合には、運用後の空調機のレイアウトを自由に変更できないなどの理由から空調システムの見直しが困難である。
【0003】
そこで、この種のICT機器用空調システムとして、高負荷密度のラック対策として主に使用されるタスク方式や、コールドアイル、ホットアイルの周囲を側壁等で囲いこむキャッピング方式が考えられている。キャッピング方式は、冷却・排気効率を向上させるために主に使用され、ICT機器室内の空間を強制的に間仕切ることで各領域を区画するものである(例えば特許文献1ないし3参照)。タスク方式を導入したICT機器用空調システムによれば、従来のアンビエント空調に比べてICT機器近傍に空調機をレイアウトする空調システムのため搬送動力の低減が可能である。
【0004】
例えば、特許文献1に記載の技術では、対向するラック列間の通路空間上方を天板などで塞ぎ、通路空間部に面した箇所に開口部を設けている。そして、ラック上部に送風機を設けることで、前記開口部から低温の空調空気をラック内に取り入れて電算機等のICT機器からの排熱を処理している。
また、特許文献2に記載の技術では、ラック列の左右方向の端部側にパネルを設けるとともに両ラック列の前縁上部にパーティションを設けて、ICT機器室内にホットゾーンを区画している。そして、このホットゾーン内の天井に排気口を形成するとともに、ラック列の前面から背面に空調空気を通してホットゾーンに導入するとともに排気口から排気し、ホットゾーンの温度が設定温度になるように空調機ファンを制御する。
【0005】
また、特許文献3に記載の技術は、タスク方式の例であって、サーバーラックとは独立して設置できる空調機器が開示されている。この空調機器は、サーバーラックの天井部上方且つ前方に配置される。そして、サーバーラックの天井部後方の下側から吸気する吸い込み口と、吸気を冷却して排気するための冷却ユニットと、サーバーラックの天井部前方から下向きに排気する吹き出し口とを備えている。これにより、この空調機器によれば、サーバーラックの後方から熱風を吸気するとともに、サーバーラックの前方にコールドアイルを形成できる。また、モジュール型の空調機器は空間上部に設置するため、従来のタスク空調機(ラック型空調機など)が占有していたラックスペースを有効活用できる。そのため、ラック設置面積の拡大に繋がる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−133617号公報
【特許文献2】特開2010−72697号公報
【特許文献3】特開2010−61446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、タスク方式やキャッピング方式を採用したICT機器用空調システムにおいて、ICT機器の風量と空調機や空調機器の風量とのエアバランスに対する考慮が不十分であると、図15に示すようなコールドアイル温度とホットアイル温度の混合が生じてしまうという問題がある。
特に、ホットアイルで形成される高温空気を適切に排気できなければ、ICT機器に対して様々な負担を与え、ICT機器や空調機ともに効率を向上させることができない。具体的には、図15(a)に示すように、空調風量の不足によりホットアイルで形勢された高温空気がコールドアイルへ廻り込めば、ICT機器の高温障害による故障の原因につながる。また、図15(b)に示すように、空調風量の過多によるコールドアイルの低温空気がホットアイルへ流入すれば、無駄なエネルギーを消費し、ホットアイルの高温空気を高温な状態で空調機に還り温度として戻すことが不可能になる。
【0008】
つまり、上述した特許文献1および2に記載の技術では、キャッピング方式を採用するものの、キャッピング方式を適用するだけでは、キャッピング内外のエアバランス制御(ICT機器の風量と空調風量の差)が適切に行われることにはならない。そのため、当然ICT機器やキャッピングの隙間から空気の流入・流出が生じるため、上記課題を解決する上で不十分である。また、キャッピング方式を適用した場合、デメリットとして、ラック前面・背面にてメンテナンスを行う際には、キャッピング内外を自由に行き来できる環境である必要があり、簡易ドアなどの工作が別途必要であるという問題もある。
【0009】
特に、特許文献1に記載の技術では、コールドアイルをキャッピングする構成を採用するので、サーバ室内全体はホットアイルになることになる。そのため、空調機の故障時などには室内の温度上昇が早くなってしまうという問題がある。また、特許文献2に記載の技術では、ホットゾーンの温度が設定温度になるように空調機ファンを制御するものの、ラックに搭載されるICT機器は稼働率や仕様が多種多様であるから、ICT機器の風量と空調機の風量とが異なると、設定温度に対するエアバランスが崩れてしまう。そのため、ホットゾーンと空調エリアで空気の流出入が生じるため、キャッピングの効果が不十分になり、また、ICT機器の故障にも繋がるという問題がある。
【0010】
また、特許文献3に記載の技術では、開示内容からは制御方法が不明である。そのため、エアバランスを考慮した制御が可能なシステムの実現性そのものに疑問があり、それ故、上記課題を解決する上で、ICT機器の風量と空調風量とのエアバランスに対する問題点を解決しているとは到底いえない。
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、ICT機器室内の温度上昇を可及的に抑制し、ICT機器の風量と空調機器の風量とのエアバランスを制御することができる、ICT機器用空調機器およびICT機器用空調システム並びにこれらを限って備えたICT機器室を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のうち第一の発明は、通信機器や電算機等のICT機器を搭載したラックが整列してラック列をなすICT機器に用いられる空調システムであって、前記ラック列によるホットアイルの上方に配置される空調機器と、該空調機器によって循環させる空調空気を管理する必要風量管理手段と、前記ラック列の前面側および背面側の温度を測定する温度測定手段とを備え、前記必要風量管理手段は、前記温度測定手段によって測定した所定位置の複数の温度情報に基づいて、前記ホットアイルおよびラック列のコールドアイル相互の管理温度差が所定以下となるように、前記空調機器のファンの風量を制御することを特徴とする。
第一の発明に係るICT機器用空調システムによれば、ホットアイル上部に空調機器を設置しており、必要風量管理手段が空調機器の風量制御を行うので、コールドアイル化されたICT機器室周囲の低温空気をICT機器へ循環させることができる。そのため、ICT機器の劣化や不具合が起こりにくい。
【0012】
また、本発明によれば、空調機器は、ICT機器の上部に設置されることから、ICT機器室空間のホットアイル内の上部からの冷却システムを構成することができるので、低温空気は周囲の空気との密度差によって自然落下してICT機器に供給される。さらに、ICT機器の上部に設置される、空調対象領域近傍での空調システムなので、ラックから排出される高温空気を速やかに捕集・処理可能であり、従来の搬送動力に比べて大幅な搬送動力の低減が可能である。
【0013】
ここで、第一の発明に係るICT機器用空調システムにおいて、前記必要風量管理手段は、前記ラックが消費する電力を測定する消費電力測定手段を更に備え、該消費電力測定手段により測定したラック全体の消費電力、および前記温度測定手段により測定した前記ラック列の前面側および背面側の温度に基づいて、前記管理温度差が所定以下となるように、前記空調機器のファンの風量を制御する構成とすることもできる。このような構成であっても、上記同様の作用効果を奏する。
【0014】
また、第一の発明に係るICT機器用空調システムにおいて、前記空調機器をラック列に対応させて複数有し、該複数の空調機器は、前記ラック列によるホットアイルの上方にモジュール型の筐体がそれぞれ配置されており、各空調機器は、前記ホットアイルの上方に対向して前記筐体内に設けられるファンと、該ファンによって前記ホットアイルから吸気するように前記筐体に形成された吸い込み口と、その吸気を冷却するように前記筐体内に設けられてなる冷媒を用いた冷却ユニットと、該冷却ユニットで冷却された空気を前記ラック列の天井部前方からラック列の前方にコールドアイルを形成するように前記筐体に形成された吹き出し口と、前記ファンの風量を制御する制御部とを有することは好ましい。また、前記必要風量管理手段が、前記空調機器のファンの風量を、前記制御部を介して制御することは好ましい。
【0015】
ここで、本明細書において「冷媒」とは、「水」の他に、液体から気体に、あるいは気体から液体に相変化することによって、その容積に応じた大きな潜熱を放出あるいは吸収し、冷却を行なう物質であって、たとえばアンモニア,二酸化硫黄,塩化エチル,塩化メチル,およびフレオン(Freon),ユーコン(Ucon),ゲネトロン(Genetron)などのフッ(弗)化炭素などを指す。
【0016】
また、第一の発明に係るICT機器用空調システムにおいて、前記必要風量管理手段は、前記ラック列によるアイルを単位とし、該単位毎に複数の空調機器のファンの風量を制御することは好ましい。
つまり、第一の発明に係るICT機器用空調システムにおいて、前記空調機器をラック列に対応させて複数有する場合に、各空調機器それぞれにより、ICT機器から排気される高温空気を、ICT機器の近傍で捕集・処理可能な点が個別制御の利点である。
しかし、実際は各ラック2によって負荷が異なるため、必ずしも各空調機器10が高効率で稼動しているとは限らない。そこで、アイル単位で各空調機が高効率運転となるよう風量を制御することで、個別制御時に比べて大幅な省エネ効果を向上させる上で好適である。
【0017】
さらに、上記課題を解決するために、本発明のうち第二の発明は、通信機器や電算機等のICT機器を搭載したラックが整列してラック列をなすICT機器に用いられる空調機器であって、前記ラック列によるホットアイルの上方に配置されるモジュール型の筐体と、前記ホットアイルの上方に対向して前記筐体内に設けられるファンと、該ファンによって前記ホットアイルから吸気するように前記筐体に形成された吸い込み口と、その吸気を冷却するように前記筐体内に設けられてなる冷媒を用いた冷却ユニットと、該冷却ユニットで冷却された空気を前記ラック列の天井部前方からラック列の前方にコールドアイルを形成するように前記筐体に形成された吹き出し口と、前記ファンの風量を制御する制御部と、前記ラック列の前面側および背面側の温度を測定する温度測定手段とを備え、前記制御部は、前記温度測定手段によって測定した所定位置の複数の温度情報に基づいて、前記ホットアイルおよびラック列のコールドアイル相互の管理温度差が所定以下となるように、前記ファンの風量を制御することを特徴とする。
【0018】
このような構成であれば、本発明に係る空調機器が、ラック列によるホットアイルの上方にモジュール型の筐体が配置され、前記ホットアイルの上方に対向して前記筐体内に設けられるファンと、該ファンによって前記ホットアイルから吸気するように前記筐体に形成された吸い込み口と、その吸気を冷却するように前記筐体内に設けられてなる冷媒を用いた冷却ユニットと、該冷却ユニットで冷却された空気を前記ラック列の天井部前方からラック列の前方にコールドアイルを形成するように前記筐体に形成された吹き出し口と、前記ファンの風量を制御する制御部とを備えるモジュール型をなしているので、ラック列に対応させて複数の空調機器を設置することが容易である。
【0019】
そのため、仮にいずれかの空調機器に故障が生じた場合であっても、隣接する他の空調機器によって補完することができる。したがって、いずれかの空調機器の故障時においてもICT機器室内の温度上昇を抑制し、ICT機器の風量と空調機器の風量とのエアバランスを制御する上で好適である。
また、このような構成であれば、本発明に係る空調機器が、高顕熱冷却設計のため定常状態ではドレンレスとなる。そのため、ICT機器への漏水のリスクが低減可能である。
【0020】
また、上記課題を解決するために、本発明のうち第三の発明は、通信機器や電算機等のICT機器を搭載したラックが整列したラック列が収容されるICT機器室であって、ICT機器室の空調設備として、上述した本発明に係るICT機器用空調システムを限り、または上述した本発明に係るICT機器用空調機器を限りICT機器室に備えていることを特徴とする。
【0021】
第三の発明に係るICT機器室によれば、ICT機器室の空調設備として、上述した本発明に係るICT機器用空調システムを限り、または上述した本発明に係るICT機器用空調機器を限りICT機器室に備えているので、タスク空調、アンビエント空調のどちらにでも対応可能である。但し、外気処理設備が別途に必要である。そのため、ICT機器室の空調設備コストを低減可能であり、また、低エネルギーに貢献することができる。さらに、本願発明に係る適切な風量制御を行うことで、従来のようなキャッピング方式を採用しなくてもICT機器の高効率な冷却が可能であり、メンテナンス性が向上し、キャッピング方式を採用した場合に必要な消防設備機器等の設置も不要になるという格別顕著な効果を奏する。また、ホットアイルにキャッピング方式を適用するため、ICT機器室全体がコールドアイルとなりICT機器の長寿命化にも繋がる。
【発明の効果】
【0022】
上述のように、本発明により、従来よりさらなる省エネ性の確保(搬送動力の低減、エアバランスの適正化)可能となる。また、ICT機器の冷却効率化の向上可能となる。また、キャッピングなしの構成を実現化(消防設備機器の設置不要、メンテンナス性が向上)できる。さらに、部屋全体がコールドアイルとなるため、ICT機器の長寿命化が可能となる。さらにまた、アンビエント空調・タスク空調のどちらにも使用可能となる。また、空調のための床下(2層式)が不要になるため建築要素でのコストダウンが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るICT機器用空調システムをサーバ室内のラックに設置した例であって、同図では、ラックの側面から見た図を模式的に示している。
【図2】本発明に係るICT機器用空調機器および空調システムの説明図であって、同図(a)は空調機器の斜視図、(b)は空調機器の模式的側面図、(c)は複数の空調機器を連結した状態の斜視図である。
【図3】本発明に係るICT機器用空調機器において、冷媒の流量制御を行なう場合の動作を説明する模式的斜視図であり、本件では、搬送動力の低減による省エネ性とエアバランスの確保を重視し、風量制御方法を記載している。そのため、本件では冷媒制御の具体的な内容については割愛しているが、一例として、冷媒の流量制御を、同図(a)は冷媒流量が多い場合、(b)は少ない場合を示している。
【図4】本発明に係るICT機器用空調システムの制御部の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明に係る空調システムでの必要風量管理処理の第一の例を説明するフローチャートである。
【図6】本発明に係るICT機器用空調システムをサーバ室内のラックに設置した例において、コールドアイル、ホットアイルおよびそのエアバランスを説明する模式図であり、同図(a)はラックの側面から見た図、(b)はその平面図である。
【図7】サーバ室内のエアバランスの理想的状態を説明する模式的斜視図である。
【図8】本発明に係る空調システムでの必要風量管理処理の第二の例を説明するフローチャートである。
【図9】本発明に係るICT機器用空調システムの変形例を説明する図であり、同図(a)はラックの側面から見た図を模式的に示し、(b)はその要部の拡大図である。
【図10】本発明に係る空調システムでの必要風量管理処理の第三の例を説明するフローチャートである。
【図11】本発明に係る空調システムでの必要風量管理処理の第四の例を説明するフローチャートである。
【図12】本発明に係るICT機器用空調機器の変形例(ダンパー付き)においてダンパーが開いた状態を説明する図であり、同図(a)はその正面図、(b)は側面図である。
【図13】図12の変形例(ダンパー付き)においてダンパーが閉じた状態を説明する図であり、同図(a)はその正面図、(b)は側面図である。
【図14】本発明に係る空調システムを構築するラック列の構成の他の例を説明する図であり、同図(a)は隣接するラック列の背面同士が非対面の例である。
【図15】コールドアイル、ホットアイルおよびそのエアバランス(従来の、バランスが崩れている状態)を説明する模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るICT機器用空調システムの一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。
図1は、本発明に係るICT機器用空調システムを備えるICT機器室の例であり、同図では、サーバ室1内のラック2に、本発明に係るICT機器用空調システムを構成する空調機器10を設置した例である。この空調機器10は、各ラック2それぞれに対応して設けられている。ここで、このサーバ室1の空調設備としては、この空調機器10を用いた空調システムを限り備えている例である。なお、この例では、空調機器10が二台(冷却コイル2台、ファン2台の組)によって空調ユニット1台を構成する例である。
【0025】
このサーバ室1には、ラック2が整列したラック列として収容される。各ラック2には、通信機器や電算機等のICT機器3が上下方向に搭載されている。各ラック2の上部は、配線等がレイアウトされる配線領域7になっている。そして、各ラック2の背面6の側であってラック2の上面4よりも上方且つサーバ室1の天井面50よりも下方の空間には、モジュール型の空調機器10が配設されている。なお、同図では不図示であるが、空調機器10は支持用のアングル部材等によって、上記配設位置に固定される。また、本実施形態の例は、空調機器10を二つ連結させて対向配置されたラック2同士の背面6空間に形成されるホットアイル上部に設置される例を示す(後に詳述する)。
【0026】
次に、上記空調機器10について図1、図2および図3を参照しつつ詳しく説明する。
図2に示すように、この空調機器10は、略立方体形状をなす中空箱型の筐体11を有する。この筐体11の下面には、吸い込み口12が開口している。そして、この吸い込み口12に対向する筐体11内には、ファン15が内蔵されている。このファン15は、吸い込み口12から空気を吸い込み、ホットアイルの排気を吸い込み方向Aに移動させ、これにより、ラック2同士の背面6空間に形成されるホットアイルから機器の排気を筐体11内部に導入するようになっている。
【0027】
さらに、筐体11の4つの側面のうちの一の面には、吹き出し口13が設けられており、この吹き出し口13には略簀子条の枠が嵌め込まれている。そして、この吹き出し口13が設けられた側の面がラック2の前面5側に向けて固定されるようにレイアウトされる(図1参照)。
そして、筐体11内には、この吹き出し口13が設けられた側の面に向けて冷却ユニット14が斜め(約45°)に配置されている。この冷却ユニット14は、冷媒を用いた冷却システムを採用している。そして、その冷媒配管18は、筐体11の上部に引き出されており、隣接する他の空調機器10の冷媒配管18に接続されるようになっている(同図(c)参照)。これにより、吸い込み口12から吸い込み方向Aに取り込まれた排気は、冷却ユニット14を通過することで熱交換がなされて、冷却された空気が吹き出し口13から吹き出し方向Nに吹き出される。なお、各空調機器10には、稼働状態を確認するための表示装置25が付設されている。
【0028】
各空調機器10は、ユニット自身を制御するための制御部20をそれぞれ内蔵している。この制御部20は、吹き出し口13と冷却ユニット14との間の筐体11内空間の上部に固定されている。そして、この制御部20に、図1に示すように、各ラック2の前面5側および背面6側それぞれに配設された温度センサ21,22からの情報が入力されるようになっている。
【0029】
ここで、図3に斜視図を示すように、隣接する他の空調機器10の冷媒配管18に接続された状態において、冷媒配管18の途中部分には、バルブ24が付設される。そして、ホットアイルの外気を吸い込み方向Aに移動させたときに、各空調機器10の制御部20は、自身の吸い込み口12近傍側の温度センサ22からの情報に基づき、冷媒配管18途中部分のバルブ24を開閉制御して、冷媒流量を調整するようになっている。具体的には、温度センサ22からの情報が所定の温度よりも高温であったときには、同図(a)に示すように、バルブ24を開いて、冷媒流量を増大させる。また、温度センサ22からの情報が所定の温度よりも低温であったときには、同図(b)に示すように、バルブ24を閉じて、冷媒流量を減少させる。
なお、この冷却ユニット14の下部には、図2に示すように、傾斜配置されたドレンパン16が設けられ、ドレンパン16の傾斜の低い側にドレン管17が接続されているが、この冷却ユニット14は、高顕熱冷却設計のため定常状態ではドレンレスとなる。そのため、ICT機器3への漏水のリスクが低減されている。
【0030】
また、この空調機器10を隣接するラック2相互と連結して使用する際には、図2(c)に示すように、連結金具19によって連結して相互の位置が固定できるようになっている。なお、この空調機器10は、対応するラックに併せて種々の寸法とすることができるが、本実施形態の例では、筐体11の大きさが、吹き出し口13が設けられた側の面の幅Wが700mm、各ラック2の前面5側から背面6側に沿った方向となる奥行きDが1200〜1800mm、高さHが500〜1000mmである(同図(a)参照)。
【0031】
ここで、上記制御部20には、集中制御装置40が接続可能であり、この集中制御装置40によってサーバ室1内の複数の空調機器10を集中的に管理できるようになっている。本実施形態の必要風量管理処理の第一の例では、集中制御装置40を接続している例である。また、集中制御装置40を接続しないで、各空調機器10をスタンドアロン(stand-alone)にて稼働させることも可能である(以下、他の例において同様)。
【0032】
次に、この空調機器10の上記制御部20についてより詳しく説明する。
この制御部20は、図4に示すように、所定の制御プログラムに基づいて演算およびシステム全体を制御するCPU39と、所定領域にあらかじめCPU39の制御プログラム等を格納している記憶装置35およびROM36と、この記憶装置35およびROM36等から読み出したデータやCPU39の演算過程で必要な演算結果を格納するためのRAM37と、上記集中制御装置40や、空調機器10の上記冷却ユニット14およびファン15等を含む付帯する装置に対して稼働状態の監視に必要なデータの入出力を媒介するインターフェース30とを備えて構成されており、これらは、データを転送するための信号線であるバス32で相互にかつデータ授受可能に接続されている。そして、CPU39は、上記記憶装置35やROM36の所定領域に格納されている所定のプログラムを起動させ、そのプログラムに従って、本空調システムに係る集中制御装置40とともに、後述する必要風量管理処理を実行するようになっている。なお、集中制御装置40についても、そのハードウエアの基本構成は制御部20と同様であるので、その説明は省略する。
【0033】
集中制御装置40および空調機器10での必要風量管理処理は、サーバ室1全体の風量バランスを保持するために、各ICT機器3の風量に対応した空調機器10の風量制御を行うものである。そして、この必要風量管理処理によって適正な風量制御を行った後に、次いで、各ICT機器3に必要な冷却量を調節するために、上述した図3に示す例に従い、各空調機器10は、自身の冷却ユニット14を個別に制御して自身冷却量を制御する。結果として、サーバ室1全体の風量・冷却量の適正化が図れるものである。
【0034】
以下、必要風量管理処理の第一の例として、サーバ室1のラック2全体の消費電力を管理パラメータとして併用した場合について説明する。
この必要風量管理処理の第一の例は、ラック全体の消費電力が測定可能な場合の風量制御(キャッピング方式なし)の例であって、空調機器10の制御部20が、ラック2全体の消費電力、および、各アイル温度の検出値に基づいて、ラック2(=ICT機器3)の必要風量と空調機器10の風量が同等となるように、不図示のインバータを用いてファン15の回転数を制御するものである。
【0035】
詳しくは、上記集中制御装置40が、ラック2全体の消費電力を計測する消費電力計測手段を構成する。消費電力の計測には、種々の機器を採用可能であるが、本実施形態の例では、不図示のPDUを用いてラック2全体の消費電力を計測する。つまり、PDUは、サーバ室1内ないしその近くに設置される機器であって、各ICT機器3に電源を分配するために、各ICT機器の消費電力をラック2単位で一元管理できる。そこで、集中制御装置40は、このPDUを用いてサーバ室1内のラック2全体の消費電力を計測し、その検出値を用いて下記の制御フローのように適正な空調機器10の風量を算出する必要風量管理処理に基づいて、各空調機器10それぞれにおいて不図示のインバータを用いてファン15の回転数のフィードバック制御を行うものである。なお、本実施形態の例では、空調機器10とこれに対応するラック2との対応関係は、空調機器1台と対面するラック2台で1制御単位としている。
【0036】
詳しくは、この必要風量管理処理が実行されると、集中制御装置40は、図5に示すように、まず、ステップS1に移行して、ラック2の前面5および背面6の空間温度を、各空調機器10の温度センサ21,22から取得してそれぞれ集計する。そして、管理温度差ΔT(=ラック背面温度−ラック前面温度)を算出する。なお、各温度センサ21,22によるコールドアイル、ホットアイルの空間温度の測定点は、1点もしくは3点で計測する。また、空間温度の測定点が1点の場合は、各アイルの空間上部にて計測(ラック上部)し、3点の場合は、各アイルで計測した3点中の最大値を代表点とする。
【0037】
続くステップS2では、集中制御装置40は、上記PDUを用いてラック2全体の消費電力を集計する。そして、続くステップS3では、この第一の例では、集中制御装置40が、管理温度差ΔT=7℃(以内)となるような仮想空調風量Qiを算出するものとする。仮想空調風量Qiをラック風量と同等にする場合は、空調風量の算出条件として管理温度差ΔT≒10℃(以内)が必要である。そして、集中制御装置40は(例えばWeb、SNMP、Telnetを通じて)、空調機器10の制御を管理するため、例えばアナログ信号、デジタル信号などの信号を集中制御装置40から各空調機器10の制御部20に出力する。
【0038】
続くステップS4では、集中制御装置40からの情報を取得した個々の空調機器10が、仮想空調風量Qiをそれぞれ取得するとともに、各空調機器10は、収集したデータを用いてラック風量Qrを算出し、自身のファン15を個別に制御する。
つまり、ステップS4では、個々の空調機器10が、仮想空調風量Qiとラック風量Qrとの比較判定を行なって、Qi≒Qrの場合には、ステップS5に移行する。ステップS5では、条件を満たす風量とすべく、自身のファン15の回転数を、予め設定されている基準回転数になるように個々の空調機器10が自身のファン15を個別に制御する。
【0039】
また、ステップS4での仮想空調風量Qiとラック風量Qrの判定の結果が、Qi>Qrの場合には、ステップS6に移行する。ここでは、Qi>Qr時の現象:ΔT(現時点)<ΔT(初期)に対応する処理となる。また、このステップS6では、個々の空調機器10が、変更風量Qv1を算出する。ここでは、風量差(Qi−Qr)に感度係数0.5を乗じて、変更風量Qv1(=Qi−{(Qi−Qr)×0.5})を算出する。
【0040】
続くステップS7で、個々の空調機器10において、変更風量Qv1とラック風量Qrとの比較判定をする。つまり、Qv1<(k×Qr)の場合には、ステップS5に移行し、また、Qv1>(k×Qr)の場合には、ステップS8に移行する。このステップS8では、個々の空調機器10が、自身のファン15の回転数を所定だけ下げてステップS6に処理を戻す。
また、上記ステップS4において、個々の空調機器10が、上記ステップS4での仮想空調風量Qiとラック風量Qrとの比較判定を行なった場合に、Qi<Qrのときは、ステップS9に移行する。なお、このときは、Qi>Qr時の現象:ΔT(現時点)>ΔT(初期)となる。
【0041】
ステップS9では、個々の空調機器10が、自身のファン15の能力の判断をする。このとき、「定格能力」>「現状時の能力」であればステップS10に移行して、ファン15の回転数を定格能力の最大値まで上げる。ここで、回転数の最大値としては、補正係数k(具体的には本実施形態では、k=1.2)を乗じて、変更風量Qv1(=1.2×Qr)を算出する。また、「定格能力」≦「現状時の能力」であれば、ステップS11に移行する。ステップS11では、ファン15の能力が不足していることになる。そのため、例えば、本実施形態では不図示であるが、必要に応じて補機を稼動し、これにより個々の空調機器10が風量を個別に補ってステップS1(集中制御装置40)に処理を戻す。
【0042】
次に、この空調システムの作用・効果について説明する。
今、この空調システムをサーバ室1に用いるに際し、ラック列の構成は特に限定されないものの、効果的にシステムを構築する上で好ましい構成として、対面配置型があるため、これを図6に示す。以下、このようにラック列を構成した例を代表例として説明する。なお、上述したように、このサーバ室1の空調設備としては、空調機器10を用いた空調システムを限り備えている。
【0043】
同図に示すように、この例では、サーバ室1内において、二つのラック(「ラック列」ともいう)2を一組とし、各ラック2の背面6の側を対向させ、画成される空間をホットアイルとする。これにより、ラック2の前面5側には、ホットアイルとは相対的に、コールドアイルが形成されることになる。そして、このように配置された二つのラック列2の組に対し、各ラック2の背面6の側であってラック2の上面4よりも上方且つサーバ室1の天井面50よりも下方の空間に、モジュール型の空調機器10を二つ配設している。これが最小の制御単位を構成する。
このように、この空調システムによれば、ホットアイルの上方に配置されるモジュール型の空調機器10を備えているので、空調対象領域近傍での空調システムを構成している。そのため、従来の搬送動力に比べて大幅な搬送動力の低減が可能である。
【0044】
また、この空調システムによれば、モジュール型の空調機器10は、ホットアイルの上方に対向して設けたファン15と、このファン15によって対向するラック列間から吸気する吸い込み口12と、吸気を冷却して排気するための冷却ユニット14と、ラック列の天井部前方からラック列2の前方にコールドアイルを形成するように給気する吹き出し口13とを有するので、ラック上部且つホットアイルの上方にモジュール型の複数の空調機器10を設けることで、吸い込み口12から高温のホットアイルの空気を各空調機器10内に取り入れ、吹き出し口13から冷媒を用いた冷却ユニット14を介してラック列2の天井部前方からラック列2の前方にコールドアイルを形成するように給気することができる。
【0045】
すなわち、この空調システムによれば、ホットアイルの上方に空調機器10を設ける構成を採用するので、サーバ室内全体はコールドアイルになる。そのため、いずれかの空調機器10の故障時などには室内の温度上昇が抑制されるし、また、そもそもモジュール型の複数の空調機器10を用いる構成なので、全ての空調機器10が同時に故障する可能性は皆無に近い。
特に、このサーバ室1の空調設備としては、上記空調機器10を用いた空調システムを限り備えているので、タスク空調、アンビエント空調のどちらにでも対応可能である。そのため、ICT機器室の空調設備コストを低減可能であり、また、低エネルギーに貢献することができる。なお、従来同様に、ICT機器室用の空調機を設備した上で、更に上記空調機器10を用いた空調システムを備える構成としてもよいが、ICT機器室の空調設備コストを低減し、低エネルギーに貢献する上では、本実施形態の構成を採用することが好ましい。
【0046】
そして、このサーバ室1のシステムによれば、サーバ室1空間の上部からの冷却システムなので、低温空気が周囲の空気との密度差によって自然落下してICT機器3に供給される。よって、搬送動力を低減させる上で好適である。また、その冷却ユニット14は、高顕熱冷却設計のため定常状態ではドレンレスとなる。そのため、ICT機器3への漏水のリスクが低減可能である。
【0047】
そして、この空調システムが稼働されると、集中制御装置40が、ラック2全体の消費電力を集計してラック風量Qrを算出し、各空調機器10の制御部20に必要な情報を出力する(ステップS1〜S3)。次いで、最小の制御単位を構成する個々の空調機器10は、ラック風量Qrをそれぞれ算出し、仮想空調風量Qiとラック風量Qrの判定に基づき、自身のファン15の回転数を基準回転数になるように自身ファン15を個別制御する(ステップS4以降の一連の処理)。
【0048】
つまり、この空調システムは、制御部20と集中制御装置40との協働によって実行される必要風量管理処理(必要風量管理手段)が、温度センサ21,22によって測定した所定位置の複数の温度情報に基づいて、ファン15を風量制御する(風量制御手段)して、ラック列の後方のホットアイルからラック列の前方のコールドアイルに空調空気を循環させてファン15を風量制御する(風量制御手段)ので、適正に風量制御を行い、ホットアイルの温度が設定温度になるようにすることができる。そのため、図7に概念図を示すように、コールドアイル化されたサーバ室周囲の低温空気をICT機器へ円滑に循環させることができる。したがって、上述の図15に概念図を示した従来の例に比べて、ICT機器の劣化や不具合が起こりにくい。
【0049】
特に、この空調システムによれば、ICT機器3やラック列の隙間から空気の流入・流出が生じていても、これに拘わらずにエアバランス制御(ICT機器の風量と空調風量の差)を適切に行うことができる。また、上述したように、キャッピング方式を適用した場合には、デメリットとして、ラック前面・背面にてメンテナンスを行うために、キャッピング内外を自由に行き来できる環境である必要があり、簡易ドアなどの工作が必要であるが、この空調システムによれば、そのような構成が不要である。
【0050】
さらに、モジュール型の空調機器10による個別ラック毎の必要風量管理処理なので、各ラックに対応するホットアイルの近傍における温度が設定温度になるように制御する上で好適であり、ラック2に搭載されるICT機器3は稼働率や仕様が多種多様であって、ICT機器3の風量と空調機器10の風量とが異なっていた場合でも、設定温度に対するエアバランスを維持する上で好ましい。
【0051】
以上説明したように、この空調システムによれば、一部の空調機器10の故障時においてもサーバ室1内の温度上昇を抑制し、ICT機器3の風量と空調機器10の風量とのエアバランスを制御することができる。
なお、本発明に係るICT機器用空調機器およびICT機器用空調システムは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、必要風量管理処理の第一の例について説明したが、これに限定されず、ICT機器3の風量と空調機器10の風量とのエアバランスを制御可能な構成であれば、種々の変形が可能である。以下、他の必要風量管理処理の例(第二〜第四の例)について順に説明する。
【0052】
まず、他の必要風量管理処理の例として、ラック全体の消費電力が測定できない場合の風量制御(キャッピング方式なし)であって、空間温度を用いた場合(第二の例)について説明する。
この第二の例では、コールドアイル空間、およびホットアイル空間に温度センサー21,22をそれぞれ設置しており、集中制御装置40によって集中制御しつつ、温度センサー21,22の検出値を用いて各空調機器10において下記の制御フローに基づいて、各空調機器10の適正な風量を算出するためにフィードバック制御を行っている。
【0053】
詳しくは、この必要風量管理処理の第二の例が実行されると、図8に示すように、まず、ステップS21に移行する。ステップS21では、コールドアイル温度Tc、ホットアイル温度Thを集中制御装置40によって集計する。ここで、ΔT(=ラック背面温度−ラック前面温度)、コールドアイル、ホットアイルの空間温度の測定点は、1点もしくは3点で計測する。なお、空間温度の測定点が1点の場合:各アイルの空間上部にて計測(ラック上部)、また、3点の場合:各アイルで計測した3点中の最大値を代表点とする。
【0054】
続くステップS22では、空調風量QMAX(定格)を集中制御装置40によって算出・制御してステップS23に移行する。ステップS23では、集中制御装置40によってコールドアイル温度の判定をする。つまり、Tc<コールドアイル設定温度の場合にはステップS24に移行し、ステップS24では、集中制御装置40によって(設定温度−Tc)の判定をする。
【0055】
ステップS24で、(設定温度−Tc)≧T変数℃の場合には、ステップS25に移行し、ステップS25では、集中制御装置40によって(Th−設定温度)/(Th−Tc)を算出し、続くステップS26では、集中制御装置40によって変更風量Qv1を算出(風量Qiを減ずる)する。ここでは、比率(Th−設定温度)/(Th−Tc)を用いて変更風量Qv1(=Qi×{(Th−設定温度)/(Th−Tc)})を算出する。一方、ステップS24で、(設定温度−Tc)<T変数℃の場合には、ステップS27に移行し、ステップS27では、条件を満たす風量となるように、ファン15の回転数を基準回転数にて制御する。
【0056】
また、ステップS23でのコールドアイル温度の判定において、Tc>≒コールドアイル設定温度の場合には、ステップS28に移行し、ステップS28では、補機を稼動もしくは運用方法の再検証を行なって処理をステップS21に戻す。
必要風量管理処理をこのような構成としても、空調機器10の制御部20が、各アイル温度の検出値に基づいて、ラック2の必要風量と空調機器10の風量が同等になるように、ファン15の回転数を制御可能なので、ICT機器室内の温度上昇を可及的に抑制し、ICT機器の風量と空調機器の風量とのエアバランスを制御することができる。
【0057】
次に、他の必要風量管理処理の例として、キャッピング方式と同等以上の効果を持たせるために、エアバランス(圧力差)検出手段の併用を行なう場合(必要風量管理処理の第三の例)について説明する。
図9に示すように、この第三の例の空調機器10は、エアバランス検出手段29を有する点が上記実施例とは異なっている。
【0058】
詳しくは、同図に示すように、エアバランス検出手段29は、空調機器10の袖壁として配置され、圧力差によって開閉するパネル26と、このパネル26を回動自在に支持するヒンジ28と、パネル26近傍に付設されてその回動動作を検出するリミットスイッチ(近接スイッチ)27とを有する。パネル26は、ホットアイルとコールドアイルとの境となるように、筐体11の4つの側面のうちの吹き出し口13が設けられた側の面の下部に、吹き出し口13の方向に沿って付設されている。このパネル26は、ホットアイルとコールドアイルとの境を塞ぐように配設されるとともに、上端の部分がヒンジ28によって筐体11の下部に枢支されている。そして、リミットスイッチ29は、この例では、パネル26が垂下した姿勢のときにその先端部に対向する位置に設置されている。そのため、ホットアイルとコールドアイル相互の圧力のバランスが崩れると、圧力の低い側にパネル26が圧力差によって押されることにより、リミットスイッチ29がパネル26の位置情報を検出し、これによってホットアイル内外の圧力差を検出し、これを加味した必要風量管理処理の第三の例が実行されることにより、自身の制御部20で空調機器10内のファン15の回転数の制御を行う。
【0059】
必要風量管理処理の第三の例が実行されると、図10に示すように、まず、ステップS31に移行する。このステップS31では、集中制御装置40においてパネル26の位置を集計し、集中制御装置40は、その信号を各空調機器10に出力する。
続くステップS32では、パネル26の位置情報を取得した各空調機器10の制御部20は、自身に対応するパネル26の開閉位置を判定する。つまり、パネル26の開閉位置が”+”の場合(ホットアイルが加圧状態)には、ステップS33に移行し、ファン15の回転数を一定値ずつ上げ、続くステップS34では、各空調機器10においてパネル26の開閉位置の判定をし、パネル26の開閉位置が未だ”+”の場合(ホットアイルが加圧状態)には、ステップS33に処理を戻す。また、パネル26の開閉位置が”0”付近の場合(エアバランスが崩れていない)にはステップS31に処理を戻す。
【0060】
また、ステップS32でのパネル26の開閉位置の判定において、パネル26の開閉位置が”−”の場合(ホットアイルが負圧状態)には、ステップS35に移行し、ファンの回転数を一定値ずつ下げ、続くステップS36では、各空調機器10においてパネル26の開閉位置の判定をし、パネル26の開閉位置が”−”の場合(ホットアイルが負圧状態)には、処理をステップS35に戻し、開閉位置が”0”付近の場合(エアバランスが崩れていない)には、ステップS31に処理を戻す。
【0061】
また、ステップS32での開閉位置の判定において、開閉位置が”0”付近の場合(エアバランスが崩れていない)には、ステップS37に移行する。ステップS37では、条件を満たす風量となるように各空調機器10の制御部20においてファン15の回転数を所定の回転数に制御する。
必要風量管理処理をこのような構成としても、空調機器10の制御部20が、圧力差によって開閉するパネル26の位置情報に基づいて、キャッピング内外のエアバランス(圧力差)を確認し、ラック2の必要風量と空調機器10の風量が同等となるように、ファンの回転数を制御可能なので、空調機器の故障時においてもICT機器室内の温度上昇を抑制し、ICT機器の風量と空調機器の風量とのエアバランスを制御することができる。
【0062】
次に、必要風量管理処理の第四の例として、アイル単位による空調機器10の統合制御(群制御)について説明する(上記第一〜第三の例は各空調機器10の個別制御)。
この例では、省エネ効果が高くなるように、空調機器10を個別制御から統合制御(群制御)に適宜に変更する。詳しくは、二つのラックの各コールドアイルの両端に上記温度センサ21を計4つ(T1、T2、T3、T4)設置し、下記の制御フローのように空調稼動時の個別制御運転後に、複数の空調機器10を、集中制御装置40によって風量制御するアイル単位での必要風量管理処理である(これを「統合制御(群制御)」とも呼ぶ)。ここで、温度センサ21の設置位置としては、空間上部(ラック上部)が好ましい。温度センサを3点設置する場合には、計測した3点中の最大値を代表値とすることが好ましい。なお、この例においては、ホットアイルの両端では、温度測定を行なわない。
【0063】
集中制御装置40および空調機器10で必要風量管理処理の第四の例が実行されると、図11に示すように、まず、ステップS40に移行する。このステップS40では、上述した他の例で説明した、温度に基づく制御、または温度および消費電力に基づく制御を選択することもできる。ここでは、温度に基づく制御を予め選択していた場合について以下説明する。
温度に基づく制御を選択メニューに従い選択すると、集中制御装置40において、続くステップS41に移行して、各空調機器10(空調ユニット)のファンの回転数(周波数)を集計する。続くステップS42では、現時点での各空調機器10のファンの平均回転数(周波数)を算出する。そして、続くステップS43では、集中制御装置40は、各空調機器10を算出平均回転数で運転する。
【0064】
さらに、ステップS44では、集中制御装置40は、コールドアイルの両端温度T1、T2、T3、T4を集計し、続くステップS45では、コールドアイルの両端温度T1、T2の平均値Tc1を算出するとともに、コールドアイルの両端温度T3、T4の平均値Tc2を算出する。
続くステップS46では、(Tc1orTc2−設定温度)の判定をする。つまり、(Tc1orTc2−設定温度)≦0℃のときにはステップS47に移行し、(Tc1orTc2−設定温度)>0℃のときにはステップS48に移行する。ステップS47では、各空調機器10のファンの回転数(周波数)を一定値ずつ下げて処理をステップS41に戻す。また、ステップS48では、各空調機器10のファンの回転数(周波数)を一定値ずつ上げて処理をステップS41に戻す。
【0065】
必要風量管理処理をこのような構成としても、ICT機器室内の温度上昇を可及的に抑制し、ICT機器の風量と空調機器の風量とのエアバランスを制御することができる。
ここで、上記第一〜第三の例に示した個別制御による共通の作用効果としては、特に、対面するラック2台の必要風量と同等の空調風量を適切に供給でき、ICT機器から排気される高温空気を、ICT機器の近傍で捕集・処理可能な点が個別制御の利点である。
しかし、上記第一〜第三の例に示した個別制御は、「ICT機器風量≒空調風量」として制御しており、実際は各ラック2によって負荷が異なるため、必ずしも各空調機器10が高効率で稼動しているとは限らない。
【0066】
これに対し、この必要風量管理処理の第四の例によれば、アイル単位で必要なICT風量(=各ICT機器風量の合計)を各空調機器10が高効率運転できるよう空調機器10を制御するので、各空調機器10の平準化運転により、個別制御時に比べて省エネ効果が高くなるのである。
なお、空調機器10とラック2の対応関係は、空調機器1台と対面するラック2台で1制御単位とし、アイルには片側5台以上、計10台以上のラック2が配置されていれば好適であり、これにより、上記第一〜第三の例は各空調機器10の個別制御に比べて、更なる省エネ化を一層効果的に行なうことができる。
【0067】
また、他の構成部分についても種々変形が可能であり、例えば上記実施形態では、各空調機器10の制御部20は、冷却量を制御するに際し、自身の吸い込み口12近傍側の温度センサ22からの情報に基づき、冷媒配管18途中部分のバルブ24を開閉制御して、冷媒流量を調整する例について説明したが、これに限定されず、種々変形することができる。
【0068】
例えば、図12および図13に示すように、冷却ユニット14の左右と筐体11との間の部分に、各空調機器10の制御部20によって開閉可能なダンパー23をそれぞれ設ける構成としてもよい。このような構成であっても、自身の吸い込み口12近傍側の温度センサ22からの情報に基づき、温度センサ22からの情報が所定の温度よりも高温であったときには、図12に示すように、左右のダンパー23を閉じて、冷却ユニット14を通過する空気量を増大させる。また、温度センサ22からの情報が所定の温度よりも低温であったときには、図13に示すように、左右のダンパー23を開いて、冷却ユニット14を通過する空気量を減少させる。
【0069】
また、上記実施形態では、サーバ室1に、ラック2が背面同士を対向させて整列したラック列として収容される例で説明したが、これに限らず、例えば図14に変形例を示すように、ラック列の配置についても種々の構成とすることができる。つまり、接するラック列の背面同士を非対面の配置としてもよいし、各ラック列を囲繞するチャンバ60を設けた構成としてもよい。なおまた、上述した実施形態や変形例では、冗長化を省力しているため、必要に応じて冗長化設計を行うことができることも勿論である。
【符号の説明】
【0070】
1 サーバ室(ICT機器室)
2 ラック
3 ICT機器
4 上面
5 前面
6 背面
7 配線領域
10 空調機器
11 筐体
12 吸い込み口
13 吹き出し口
14 冷却ユニット
15 ファン
16 ドレンパン
17 ドレン管
18 冷媒配管
19 連結金具
20 制御部(必要風量管理手段)
21 温度センサ(温度測定手段)
22 温度センサ(温度測定手段)
23 ダンパー
24 バルブ
25 表示装置
26 パネル
27 リミットスイッチ
28 ヒンジ
29 圧力バランス検出手段
40 集中制御装置
50 天井面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信機器や電算機等のICT機器を搭載したラックが整列してラック列をなすICT機器に用いられる空調システムであって、
前記ラック列によるホットアイルの上方に配置される空調機器と、該空調機器によって循環させる空調空気を管理する必要風量管理手段と、前記ラック列の前面側および背面側の温度を測定する温度測定手段とを備え、
前記必要風量管理手段は、前記温度測定手段によって測定した所定位置の複数の温度情報に基づいて、前記ホットアイルおよびラック列のコールドアイル相互の管理温度差が所定以下となるように、前記空調機器のファンの風量を制御することを特徴とするICT機器用空調システム。
【請求項2】
前記必要風量管理手段は、前記ラックが消費する電力を測定する消費電力測定手段を更に備え、該消費電力測定手段により測定したラック全体の消費電力、および前記温度測定手段により測定した前記ラック列の前面側および背面側の温度に基づいて、前記管理温度差が所定以下となるように、前記空調機器のファンの風量を制御することを特徴とする請求項1に記載のICT機器用空調システム。
【請求項3】
前記空調機器をラック列に対応させて複数有し、該複数の空調機器は、前記ラック列によるホットアイルの上方にモジュール型の筐体がそれぞれ配置されており、各空調機器は、前記ホットアイルの上方に対向して前記筐体内に設けられるファンと、該ファンによって前記ホットアイルから吸気するように前記筐体に形成された吸い込み口と、その吸気を冷却するように前記筐体内に設けられてなる冷媒を用いた冷却ユニットと、該冷却ユニットで冷却された空気を前記ラック列の天井部前方からラック列の前方にコールドアイルを形成するように前記筐体に形成された吹き出し口と、前記ファンの風量を制御する制御部とを有することを特徴とする請求項1または2に記載のICT機器用空調システム。
【請求項4】
前記必要風量管理手段は、前記空調機器のファンの風量を、前記制御部を介して制御することを特徴とする請求項3に記載のICT機器用空調システム。
【請求項5】
前記必要風量管理手段は、前記ラック列によるアイルを単位とし、該単位毎に複数の空調機器のファンの風量を制御することを特徴とする請求項4に記載のICT機器用空調システム。
【請求項6】
通信機器や電算機等のICT機器を搭載したラックが整列してラック列をなすICT機器に用いられる空調機器であって、
前記ラック列によるホットアイルの上方に配置されるモジュール型の筐体と、前記ホットアイルの上方に対向して前記筐体内に設けられるファンと、該ファンによって前記ホットアイルから吸気するように前記筐体に形成された吸い込み口と、その吸気を冷却するように前記筐体内に設けられてなる冷媒を用いた冷却ユニットと、該冷却ユニットで冷却された空気を前記ラック列の天井部前方からラック列の前方にコールドアイルを形成するように前記筐体に形成された吹き出し口と、前記ファンの風量を制御する制御部と、前記ラック列の前面側および背面側の温度を測定する温度測定手段とを備え、
前記制御部は、前記温度測定手段によって測定した所定位置の複数の温度情報に基づいて、前記ホットアイルおよびラック列のコールドアイル相互の管理温度差が所定以下となるように、前記ファンの風量を制御することを特徴とするICT機器用空調機器。
【請求項7】
通信機器や電算機等のICT機器を搭載したラックが整列したラック列が収容されるICT機器室であって、
ICT機器室の空調設備として、請求項1〜5のいずれか一項に記載のICT機器用空調システムを限り、または請求項6に記載のICT機器用空調機器を限りICT機器室に備えていることを特徴とするICT機器室。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−33105(P2012−33105A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173802(P2010−173802)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000222956)東洋熱工業株式会社 (35)
【Fターム(参考)】