説明

III族窒化物半導体結晶の製造方法およびIII族窒化物半導体製造装置

【課題】フラックス法による結晶育成終了後の降温時において、低品質の結晶が成長しないIII族窒化物半導体結晶の製造方法、およびIII族窒化物半導体製造装置を提供する。
【解決手段】III族窒化物半導体製造装置は、Siが混合されたNa融液を坩堝11中の混合融液14に供給する融液供給装置17を有している。GaN結晶の育成終了後、融液供給装置17によって混合融液14にSiが混合されたNa融液を供給し、その後に降温する。SiはGaNの結晶成長を阻害する効果があるため、混合融液14にSiが導入された段階でGaN結晶の成長が停止する。したがって、降温中に低品質の結晶が成長することが無くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属を用いたフラックス法によるIII 族窒化物半導体結晶の製造方法、およびIII 族窒化物半導体製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、Naフラックス法によるIII 族窒化物半導体の結晶成長方法が知られている。これは、Na(ナトリウム)とGa(ガリウム)を融解して800℃程度に保ち、数十気圧の圧力下で窒素と反応させて、GaN(窒化ガリウム)を種結晶表面に結晶成長させるものである。
【0003】
また、特許文献1には、Naフラックス法によりIII 族窒化物半導体結晶を成長させる場合に、酸化物や水酸化物が結晶成長を阻害することが示されている。
【特許文献1】特開2008−69028
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のNaフラックス法によるIII 族窒化物半導体結晶の製造方法では、結晶育成を終了して混合融液に成長させた結晶を保持したまま降温すると、適した成長温度よりも低い温度での結晶成長となり、低品質の結晶ができてしまうという問題があった。
【0005】
そこで本発明の目的は、降温時に低品質の結晶が成長しないIII 族窒化物半導体結晶の製造方法、およびIII 族窒化物半導体製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、III 族金属とアルカリ金属とを少なくとも含む混合融液と、少なくとも窒素を含む気体とを反応させてIII 族窒化物半導体を結晶成長させるIII 族窒化物半導体結晶の製造方法において、結晶成長を終了させる際に、結晶成長を阻害する物質を混合融液中に供給し、その後に降温する、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0007】
アルカリ金属は通常Naを用いるが、K(カリウム)を用いることもできる。また、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)などの2族金属や、Li(リチウム)、炭素などを混合させてもよい。また、窒素を含む気体とは、窒素分子や窒素化合物の気体を含む単一または混合気体をいい、希ガス等の不活性ガスを含んでいてもよい。
【0008】
成長を阻害する物質は、たとえば、Si単体やSiを含む化合物、酸素単体や酸化物、水酸化物などの酸素を含む化合物である。
【0009】
また、成長を阻害する物質は、Ga融液、Na融液、GaとNaの混合融液などに混合して供給してもよい。成長を阻害する物質が気体である場合には、窒素などに混合して供給してもよい。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、結晶成長を阻害する物質は、Si単体またはSiを含む化合物、もしくは酸素単体または酸素を含む化合物であることを特徴とするIII 族窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0011】
第3の発明は、第1の発明または第2の発明において、結晶成長を阻害する物質は、III 族金属融液、アルカリ金属融液、またはその双方を含む混合融液に混合して供給する、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体結晶の製造方法である。
【0012】
第4の発明は、III 族金属とアルカリ金属とを少なくとも含む混合融液と、少なくとも窒素を含む気体とを反応させてIII 族窒化物半導体を結晶成長させるIII 族窒化物半導体製造装置において、結晶成長を阻害する物質を供給する供給管を有することを特徴とするIII 族窒化物半導体製造装置である。
【0013】
第5の発明は、第4の発明において、結晶成長を阻害する物質は、Si単体、またはSiを含む化合物であることを特徴とするIII 族窒化物半導体製造装置である。
【0014】
第6の発明は、第4の発明または第5の発明において、供給管は、結晶成長を阻害する物質をIII 族金属融液、アルカリ金属融液、またはその双方を含む混合融液に混合して供給する、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体製造装置である。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明のように、結晶の育成を終了して降温をする前に、III 族窒化物半導体の結晶成長を阻害する物質を導入することにより、降温時に低品質の結晶が成長するのを防止することができる。その結果、高品質のIII 族窒化物半導体結晶が得られる。
【0016】
また、第2の発明のように、結晶成長を阻害する物質には、Si単体やSiを含む化合物を用いることができる。
【0017】
また、第3の発明のように、結晶育成を阻害する物質をIII 族金属融液、アルカリ金属融液、またはその双方を含む混合融液に混合すれば、容易に混合融液中に結晶成長を阻害する物質を導入することができる。
【0018】
また、第4〜6の発明のIII 族窒化物半導体製造装置によれば、III 族窒化物半導体の結晶成長を阻害する物質を降温前に供給することができるので、品質のよいIII 族窒化物半導体結晶を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
図1は、III 族窒化物半導体製造装置の構成を示す図である。III 族窒化物半導体製造装置は、反応容器10と、反応容器10内部に配置され、GaとNaとの混合融液14と、種結晶13を保持する坩堝11と、反応容器10を加熱する加熱装置12と、反応容器10内に窒素を供給する供給管16と、坩堝11にSiが混合されたNa融液を供給する融液供給装置17と、反応容器10内部の雰囲気を外部へ排気する排気管19と、により構成されている。
【0021】
反応容器10は、円筒形状のステンレス製で、耐圧・耐熱性を有している。反応容器10の内部には、坩堝11が配置されている。
【0022】
坩堝11は、BN(窒化ホウ素)からなり、反応容器10内部に配置されている。坩堝11内部には、GaとNaとの混合融液14が保持される。
【0023】
種結晶13は、GaN基板でもよいし、サファイアなどの異種基板にMOCVD法などによってGaNを成長させたテンプレート基板であってもよい。また、c面、a面、m面など各種面方位の基板を用いることができる。
【0024】
供給管16には、バルブ16vが設けられていて、このバルブ16vにより窒素の供給量を制御する。また、排気管19には、バルブ19vが設けられていて、反応容器10からの排気量を制御する。
【0025】
融液供給装置17は、供給管18を介して坩堝11に保持された混合融液14中にSiが混合されたNa融液を供給する。Siの混合比は任意の値でよい。供給管18にはバルブ18vが設けられていて、Na融液の供給量を調整する。
【0026】
次に、このIII 族窒化物半導体製造装置を用いたGaN結晶の製造工程について説明する。
【0027】
まず、種結晶13と、所定の量のGa、Naを坩堝11に入れ、坩堝11を反応容器10内に配置し、反応容器10に蓋をして密閉する。これら一連の作業は、アルゴンなどの不活性ガスに満たされたグローブボックス内で行い、GaやNaが酸化しないようにする。
【0028】
次に、供給管16のバルブ16v、排気管19のバルブ19vを開いて反応容器10内に窒素を供給し、バルブ16v、バルブ19vを調整して4.5〜4.7MPaまで加圧する。
【0029】
そして、加熱装置12によって800〜900℃まで昇温させ、この圧力、温度を100時間以上維持する。これにより、種結晶13表面にGaN結晶を成長させる。なお、III 族窒化物半導体製造装置に坩堝を支持して回転させる回転装置を設け、結晶育成中に回転装置により坩堝11を回転させるようにすると望ましい。坩堝11の回転によって混合融液14が攪拌されるため、GaNを均一に結晶成長させることができる。
【0030】
次に、供給管18のバルブ18vを開き、融液供給装置17によって坩堝11中の混合融液14中にSiが混合されたNa融液を供給する。SiはGaNの結晶成長を阻害する効果があるため、Siが混合融液14中に混合された段階でGaN結晶の成長が停止する。Siの量は極微量でよく、混合融液14に対して0.01mol%以上含まれていれば、十分に結晶成長を阻害する効果が得られる。Siの添加範囲は、0.01〜1mol%が望ましい。0.01mol%よりも少ないと、部分的に低品質のGaNが成長するため望ましくなく、1mol%よりも多いと、Siが多量に残るため望ましくない。より望ましいのは、0.1〜0.5mol%の範囲である。
【0031】
次に、加熱装置12による加熱を停止し、温度を常温まで下げる。ここで、Siの導入によりGaN結晶の成長は停止されているため、従来のように降温中に低品質のGaN結晶が成長することはない。
【0032】
次に、圧力を常圧まで下げた後、反応容器10を開封し、坩堝11を取り出す。そして、坩堝11内に残留した混合融液14を除去して種結晶13に育成されたGaN結晶を取り出す。さらにその後、種結晶13部分をワイヤなどで切断し、研磨等を行うことでGaN基板を得ることができる。
【0033】
以上のように、実施例1のGaN結晶製造方法では、育成終了時にSiを混合融液中に導入し、降温時に低品質の結晶が成長しないようにしているため、高品質のGaN結晶が得られる。
【0034】
なお、実施例ではSiをNa融液に混合して供給しているが、Ga融液に混合して供給するようにしてもよいし、NaとGaの混合融液にSiを混合して供給するようにしてもよい。また、Si単体を混合するのではなく、Siを構成元素とする化合物を混合して供給してもよい。また、シランなどのSiを構成元素とする気体を窒素に混合して供給してもよい。
【0035】
また、実施例ではSiを混合融液中に導入により結晶成長を阻害しているが、Si以外の結晶成長を阻害する物質を導入するようにしてもよい。たとえば、酸化物や水酸化物などの酸素を含む化合物によってGaNの結晶育成を阻害することができる。
【0036】
また、実施例ではGaN結晶の製造方法について説明しているが、本発明はGaNに限るものではなく、AlGaN、InGaN、AlGaInNなど、III 族窒化物半導体結晶の製造方法に適用することができる。
【0037】
また、実施例では、フラックスとしてNaを用いているが、他にもLiやKなどのアルカリ金属や、MgやCaなどのアルカリ土類金属、およびそれらの混合物を用いることができる。また、結晶成長の促進、雑晶発生の抑制などのために炭素などを混合させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によって得られるIII 族窒化物半導体結晶は、半導体素子製造のための成長基板などに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】III 族窒化物半導体製造装置の構成を示した図。
【符号の説明】
【0040】
10:反応容器
11:坩堝
12:加熱装置
13:種結晶
14:混合融液
16、18:供給管
17:融液供給装置
19:排気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III 族金属とアルカリ金属とを少なくとも含む混合融液と、少なくとも窒素を含む気体とを反応させてIII 族窒化物半導体を結晶成長させるIII 族窒化物半導体結晶の製造方法において、
結晶成長を終了させる際に、結晶成長を阻害する物質を前記混合融液中に供給し、その後に降温する、
ことを特徴とするIII 族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項2】
前記結晶成長を阻害する物質は、Si単体またはSiを含む化合物、もしくは酸素単体または酸素を含む化合物であることを特徴とする請求項1に記載のIII 族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項3】
前記結晶成長を阻害する物質は、III 族金属融液、アルカリ金属融液、またはその双方を含む混合融液に混合して供給する、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のIII 族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項4】
III 族金属とアルカリ金属とを少なくとも含む混合融液と、少なくとも窒素を含む気体とを反応させてIII 族窒化物半導体を結晶成長させるIII 族窒化物半導体製造装置において、
結晶成長を阻害する物質を供給する供給管を有することを特徴とするIII 族窒化物半導体製造装置。
【請求項5】
前記結晶成長を阻害する物質は、Si単体、またはSiを含む化合物であることを特徴とする請求項4に記載のIII 族窒化物半導体製造装置。
【請求項6】
前記供給管は、前記結晶成長を阻害する物質をIII 族金属融液、アルカリ金属融液、または前記混合融液に混合して供給する、ことを特徴とする請求項4または請求項5に記載のIII 族窒化物半導体製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−64947(P2010−64947A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235804(P2008−235804)
【出願日】平成20年9月15日(2008.9.15)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】