説明

IP電話装置

【課題】リソースが限られた組込み機器で冗長化を行い、系が切り替わった際に待機系でのソフトウェアの動作停止を防ぎ、安定動作を実現する。
【解決手段】IP電話機能部1a及び共通テーブル1bを含むハードウェア1と、ハードウェア1上で動作し、運用系7及び待機系8のオペレーティングシステム3,5を動作させるハイパーバイザ2と、オペレーティングシステム3上で動作し、IP電話機能部1aを制御して、その際の情報を共通テーブル1bに設定するIP電話機能部4aを含む運用系のアプリケーション4と、オペレーティングシステム5上で動作し、障害検知部2aによりオペレーティングシステム3及びアプリケーション4の動作停止が検知された場合に、共通テーブル1bの情報を基にIP電話機能部1aに対する制御を引き継ぐIP電話機能部6aからなるアプリケーション6とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、NGN網に接続されたユーザ宅内装置であるホームゲートウェイ等のIP電話装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
NGN(Next Generation Network)とは、インターネット接続・映像配信・IP(Internet Protocol)電話機能を光ファイバ等でユーザ宅に提供するサービスである。NGNにて提供されるIP電話機能は、従来メタル回線で提供されていた加入者電話回線を置き換えるものであり、家庭ではIP電話装置の機能を含んだホームゲートウェイで終端されている。このIP電話は、110番や119番に代表される緊急呼への発信にも使用するため、メタル回線と同等の信頼性が必要である。
【0003】
このIP電話の信頼性を保つためには、NGN網の安定運用とホームゲートウェイの安定動作が求められる。ここで、ホームゲートウェイにはIP電話機能の他にホームサーバ等の多くの付加機能がソフトウェアで実装されている。これらの付加機能ソフトウェアの規模は非常に大きく、ホームゲートウェイの動作を停止させるバグが潜在している可能性が高い。そして、バグによりホームゲートウェイの動作が停止した場合、IP電話機能も停止してしまうため、安定してIP電話機能を提供できないという課題がある。
【0004】
そこで、例えば特許文献1では、2個の仮想ハードウェア上に同一ソフトウェアを動作させ、運用系のソフトウェアが停止した場合に待機系のソフトウェアに切り替えることで障害によるソフトウェアの停止を防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−304845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された方式では、ソフトウェアバグが原因で運用系が停止して切り替わった際、待機系で運用系と同じソフトウェアを動作させている。そのため、待機系のソフトウェアでも運用系と同様のバグが発生し、ソフトウェアが動作停止してしまう可能性があるという課題があった。
また、ホームゲートウェイのような組込み機器では使用できるリソースに限りがあり、運用系と同規模のソフトウェアを待機系で起動するとリソースが不足する可能性がある。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、リソースが限られた組込み機器での冗長化を行うとともに、運用系から待機系に切り替わった際に待機系でのソフトウェアの動作停止を防ぎ、安定動作を実現することができるIP電話装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るIP電話装置は、IP電話機能を実現するIP電話機能ハードウェア及び当該IP電話機能ハードウェアに対する制御情報を保持する共通テーブルを含むハードウェアと、ハードウェア上で動作し、運用系及び待機系のオペレーティングシステムを動作させるハイパーバイザと、運用系のオペレーティングシステム上で動作し、IP電話機能ハードウェアを制御して、その際の自身の内部状態及び当該IP電話機能ハードウェアに対する制御情報を共通テーブルに設定するIP電話機能ソフトウェアを含む運用系のアプリケーションと、ハイパーバイザ内に設けられ、運用系のオペレーティングシステム及びアプリケーションの動作停止を検知する検知部と、待機系のオペレーティングシステム上で動作し、検知部により運用系のオペレーティングシステム及びアプリケーションの動作停止が検知された場合に、共通テーブルの情報を基にIP電話機能ハードウェアに対する制御を引き継ぐIP電話機能ソフトウェアからなる待機系のアプリケーションとを備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、上記のように構成したので、リソースが限られた組込み機器での冗長化を行うとともに、運用系から待機系に切り替わった際に待機系でのソフトウェアの動作停止を防ぎ、安定動作を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1に係るIP電話装置の構成を示す図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係るIP電話装置の運用系動作時の制御の流れを示す図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係るIP電話装置の待機系動作時の制御の流れを示す図である。
【図4】この発明の実施の形態2に係るIP電話装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係るIP電話装置の構成を示す図である。
IP電話装置は、図1に示すように、ハードウェア1、ハイパーバイザ2、運用系7のオペレーティングシステム3、運用系7のアプリケーション4、待機系8のオペレーティングシステム5及び待機系8のアプリケーション6から構成されている。
【0012】
ハードウェア1は、IP電話機能を実現するためのハードウェアであるIP電話機能部(IP電話機能ハードウェア)1aと、IP電話機能部1aに対する制御に必要な情報を保持する共通テーブル1bと、IP電話機能以外のホームサーバ等の付加機能を実現するためのハードウェアである付加機能部1cとから構成されている。
【0013】
ハイパーバイザ2は、ハードウェア1上で動作して、運用系7のオペレーティングシステム3及び待機系8のオペレーティングシステム5の動作を制御するものである。また、ハイパーバイザ2は、IP電話機能を使用中に、運用系7のオペレーティングシステム3及びアプリケーション4の動作が停止していないかを定周期で監視する障害検知部(検知部)2aを有している。
【0014】
オペレーティングシステム3は、ハイパーバイザ2上で動作して、アプリケーション4の動作を制御するものである。
アプリケーション4は、オペレーティングシステム3上で動作するものであり、IP電話機能部1aを制御してIP電話機能を実現するソフトウェアであるIP電話機能部(IP電話機能ソフトウェア)4aと、付加機能部1cを制御して付加機能を実現するソフトウェアである付加機能部4bとから構成されている。なお、IP電話機能部4aは、IP電話機能部1aを制御する際、共通テーブル1bに保持されているIP電話機能部1aに対する制御に必要な情報を参照し、また、自己の内部状態及びIP電話機能部1aに対する制御に必要な新たな情報を共通テーブル1bに設定する。
【0015】
オペレーティングシステム5は、ハイパーバイザ2上で動作して、アプリケーション6の動作を制御するものである。
アプリケーション6は、オペレーティングシステム5上で動作するものであり、障害検知部2aにより運用系7のオペレーティングシステム3及びアプリケーション4の動作停止が検知された場合に、共通テーブル1bの情報を基にIP電話機能部1aに対する制御を引き継いでIP電話機能を実現するソフトウェアであるIP電話機能部(IP電話機能ソフトウェア)6aから構成されている。なお、IP電話機能部6aは、IP電話機能部4aと同等のソフトウェアで構成されている。
【0016】
次に、上記のように構成されたIP電話装置による運用系動作時の制御の流れについて、図2を参照しながら説明を行う。
IP電話装置による運用系動作時の制御では、装置の電源が入れられると、まず、ハイパーバイザ2が起動して、運用系7のオペレーティングシステム3及び待機系8のオペレーティングシステム5を起動させる。
【0017】
次いで、オペレーティングシステム3の起動が完了した後、アプリケーション4を起動させる。同様に、オペレーティングシステム5の起動が完了した後、アプリケーション6を起動させる。
【0018】
次いで、アプリケーション4の起動が完了した後、IP電話機能と付加機能をユーザに提供する。すなわち、アプリケーション4のIP電話機能部4aがハードウェア1のIP電話機能部1aを制御することでIP電話機能をユーザに提供する。この際、IP電話機能部4aは、共通テーブル1bに保持されているIP電話機能部1aの制御に必要な情報を参照し、また、自己の内部状態及びIP電話機能部1aの制御に必要な新たな情報を共通テーブル1bに設定する。また、アプリケーション4の付加機能部4bがハードウェア1の付加機能部1cを制御することで付加機能をユーザに提供する。
なお、アプリケーション6については、起動が完了した状態で待機させておく。
【0019】
一方、ハイパーバイザ2の障害検知部2aは、IP電話機能を使用中に、運用系7のオペレーティングシステム3及びアプリケーション4の動作が停止していないかを定周期で監視している。
【0020】
次に、IP電話機能を使用中にアプリケーション4の付加機能部4bが動作停止した場合でのIP電話装置による待機系動作時の制御の流れについて、図3を参照しながら説明を行う。
付加機能部4bがソフトウェアバグが原因で動作停止した場合、その影響が付加機能部4bだけでなくIP電話機能部4aを含むアプリケーション4全体からオペレーティングシステム3にまで広がり、オペレーティングシステム3及びアプリケーション4の動作が停止する。
【0021】
そして、障害検知部2aは、運用系7のオペレーティングシステム3及びアプリケーション4の動作が停止したことを検知し、アプリケーション6のIP電話機能部6a及びオペレーティングシステム3にその旨を通知する。
【0022】
次いで、障害検知部2aから通知を受けたIP電話機能部6aは、共通テーブル1bからIP電話機能部4aの内部状態及びIP電話機能部1aの制御に必要な情報を読み出して、IP電話機能部4aの動作を引き継いでIP電話機能部1aに対する制御を行う。
【0023】
一方、障害検知部2aから通知を受けたオペレーティングシステム3は再起動を行う。このオペレーティングシステム3の再起動が完了した後、アプリケーション4を起動する。次いで、アプリケーション4の起動が完了した後、その旨をIP電話機能部6aに通知して、IP電話機能部6aからIP電話機能部4aに動作を引き継ぐ。
【0024】
以上のように、この実施の形態1によれば、ハイパーバイザ2を用いて運用系7及び待機系8のオペレーティングシステム3,5を動作させ、待機系8のアプリケーション6にはIP電話機能部6aのみを実装するように構成したので、運用系7の付加機能部4bでのソフトウェアバグによりオペレーティングシステム3及びアプリケーション4の動作が停止した場合でも、待機系8のアプリケーション6に実装されたIP電話機能部6aが動作することでIP電話機能の動作停止を防ぐことができる。また、アプリケーション6には付加機能部を実装していないので、リソースが限られた組込み機器での冗長化を行うことが可能となるとともに、アプリケーション6でソフトウェアバグが発生する可能性が低くなり、運用系7・待機系8のソフトウェアが共に動作停止してダブルフォルトを発生する可能性を下げることができる。そのためIP電話機能の安定運用が可能となる。
【0025】
実施の形態2.
図4はこの発明の実施の形態2に係るIP電話装置の構成を示す図である。図4に示す実施の形態2に係るIP電話装置は、図1に示す実施の形態1に係るIP電話装置に仮想デバイス2bを追加したものである。その他の構成は同様であり、同一の符号を付してその説明を省略する。
仮想デバイス2bは、IP電話機能部1aをハイパーバイザ2内で仮想化したものであり、運用系7のIP電話機能部4a又は待機系8のIP電話機能部6aにより制御されて、IP電話機能部1aを制御する。なお、仮想デバイス2bは、ハードウェア1のIP電話機能部1aに対する細かな制御を受け持つ。
【0026】
次に、上記のように構成されたIP電話装置による運用系動作時の制御の流れについて説明する。
実施の形態1に係るIP電話装置では、運用系動作時に、IP電話機能部4aがIP電話機能部1aを制御していた。それに対して、実施の形態2に係るIP電話装置では、まず、IP電話機能部4aがハイパーバイザ2の仮想デバイス2bを制御する。そして、この仮想デバイス2bがIP電話機能部1aを制御する。この際、仮想デバイス2bが、IP電話機能部1aに対する細かな制御を受け持つことで、IP電話機能部4aでの処理を必要最小限に抑えることができる。
【0027】
次に、IP電話機能を使用中にアプリケーション4の付加機能部4bが動作停止した場合でのIP電話装置による待機系動作時の制御の流れについて説明する。
実施の形態1に係るIP電話装置では、運用系7から待機系8に切り替わった後、IP電話機能部6aがIP電話機能部1aを制御していた。それに対して、実施の形態2に係るIP電話装置では、まず、IP電話機能部6aがハイパーバイザ2の仮想デバイス2bを制御する。そして、この仮想デバイス2bがIP電話機能部1aを制御する。この際、仮想デバイス2bが、IP電話機能部1aに対する細かな制御を受け持つことで、IP電話機能部6aでの処理を必要最小限に抑えることができる。
【0028】
以上のように、この実施の形態2によれば、細かな制御タイミングを要求するハードウェア制御をハイパーバイザ2内の仮想デバイス2bが受け持つように構成したので、実施の形態1における効果に加えて、ハードウェア1の制御タイミングを考慮することなく運用系7と待機系8間の切り替えを行うことができ、IP電話機能部1aを制御するのに必要な情報を共通テーブル1bに格納する必要が無くなる。
【0029】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 ハードウェア、1a IP電話機能部(IP電話機能ハードウェア)、1b 共通テーブル、1c 付加機能部、2 ハイパーバイザ、2a 障害検知部(検知部)、2b 仮想デバイス、3 オペレーティングシステム、4 アプリケーション、4a IP電話機能部(IP電話機能ソフトウェア)、4b 付加機能部、5 オペレーティングシステム、6 アプリケーション、6a IP電話機能部(IP電話機能ソフトウェア)、7 運用系、8 待機系。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IP電話機能を実現するIP電話機能ハードウェア及び当該IP電話機能ハードウェアに対する制御情報を保持する共通テーブルを含むハードウェアと、
前記ハードウェア上で動作し、運用系及び待機系のオペレーティングシステムを動作させるハイパーバイザと、
前記運用系のオペレーティングシステム上で動作し、前記IP電話機能ハードウェアを制御して、その際の自身の内部状態及び当該IP電話機能ハードウェアに対する制御情報を前記共通テーブルに設定するIP電話機能ソフトウェアを含む運用系のアプリケーションと、
前記ハイパーバイザ内に設けられ、前記運用系のオペレーティングシステム及びアプリケーションの動作停止を検知する検知部と、
前記待機系のオペレーティングシステム上で動作し、前記検知部により前記運用系のオペレーティングシステム及びアプリケーションの動作停止が検知された場合に、前記共通テーブルの情報を基に前記IP電話機能ハードウェアに対する制御を引き継ぐIP電話機能ソフトウェアからなる待機系のアプリケーションと
を備えたIP電話装置。
【請求項2】
前記ハイパーバイザ内に設けられ、前記IP電話機能ハードウェアを制御する仮想デバイスを備え、
前記運用系又は待機系のIP電話機能ソフトウェアは、前記IP電話機能ハードウェアの制御に代えて前記仮想デバイスの制御を行う
ことを特徴とする請求項1記載のIP電話装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−252376(P2012−252376A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122205(P2011−122205)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】