説明

IP3タンパク質結合測定法

結合または連結基を介して2-オキシの位置で検出可能なラベルに接続したIP3の接合体と、IP3受容体の細胞外断片の切断部分を試薬として採用した、試料中のIP3を測定するためのタンパク質結合測定法が提供される。試薬は試料と結合し、検出可能なラベルによってIP3の量を測定する。β-ガラクトシダーゼの酵素ドナー断片または蛍光剤との接合体が特に述べられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はIP3(D−ミオ−イノシトール−1,4,5−三リン酸)の測定に関する。
【背景技術】
【0002】
IP3は、小胞体中のカルシウム貯蔵部から細胞質内へのカルシウム放出を制御することによって、細胞内Ca++を調節するセカンドメッセンジャーとして、重要な役割を果たしている。IP3の受容体は、カルシウム貯蔵部位に存在する、開閉が制御されるカルシウム放出チャネルである。IP3は、種々の役割を演じるリン酸化イノシトール化合物のファミリーの1つである。リン酸エステルのイノシトールファミリーは、その立体化学はもちろん、リン酸の数、リン酸の位置が異なり、その結果、幾何学的異性体と立体化学的異性体の両方を含む。フォスファターゼとキナーゼのファミリーが、種々のイノシトールリン酸間の急速な相互変換を可能にしている。細胞質内のカルシウムレベルの重要性から、IP3はたいへん興味深い検査対象となっている。
【0003】
cAMPまたはIP3のような細胞内セカンドメッセンジャーの測定は、今まで一般には、G-タンパク質共役受容体(GPCR)によって媒介される細胞内信号伝達現象を解読するために、使用されてきた。GPCRは、現在薬剤発見プログラムによって追跡されている全ての分子標的における最大のサブグループ(約45%)である。これらの受容体は、細胞外のリガンドの結合を、グアニンヌクレオチド結合制御タンパク質(G-タンパク質)によって媒介される細胞内の信号伝達現象へと変換する。伝統的に、GPCRを標的とする薬剤発見プログラムは、医薬および自然産物のライブラリ−をスクリーニングするために、自然の供給源から得られる組織標品を使用することに頼ってきた。
【0004】
多数の類似のイノシトールリン酸が存在するために、IP3は分析が難しい標的となっている。さらに、分子が単純なことと抗原性が低いことが、IP3に対して高い親和性を持つ抗体の生成を困難にしている。IP3をどのように修飾しても分子の性質は変化するが、誘導体を用いなければならないどのような競合的な測定法においても修飾することにより、ラベルされた誘導体の親和性が自然に存在するIP3に比べて大きく変化してはならない。これまで大部分のIP3の測定は、ラベルされた化合物が自然に存在するIP3と化学的に同一であるような放射性標識の使用に依存してきた。
【0005】
放射性同位元素測定法は高い感度を持ち、IP3と結合するタンパク質を効率よく奪い合うラベルされた類似体を供給するが、ラベルとして放射性同位元素を使用することには、多くの望ましくない側面が有る。放射能を使用することは危険であり、深刻な廃棄の問題があり、ベルソン(Berson) とヤロー(Yalow) によるラジオイムノアッセイの発見時以来、 診断の分野は放射性ラベルの使用から遠ざかり、蛍光剤、酵素、粒子、酵素断片相補性物質などの他のラベルへと移行している。放射性同位元素の使用を避けて、IP3を検出するために必要な感度と特異性を持ち、他のイノシトールリン酸同族分子の干渉が無い測定法を発展させることに対しては、相当な関心が持たれている。
【0006】
関連文献の記載
IP3の誘導体は、下記の非特許文献1、2、3、および4に記載されている。イノシトールリン酸の分析的分離方法は、特許文献1と非特許文献5に説明されている。放射性タンパク質結合測定法については、非特許文献6、7、および8に記載されている。 IP3に対する抗体と、抗体を調製するために用いられる誘導体については、非特許文献9、 特許文献2、3、および4に記載されている。 IP3に対する抗体以外のIP3結合タンパク質は、特許文献5、特許文献6と非特許文献10に記載されている。特許文献7は、IP3誘導体の調製について記載している。非特許文献11は、IP3のホモジニアス測定法について記載している。測定に蛍光偏光を利用することについては、非特許文献12に記載されている。
【0007】
IP3受容体中のチオール基の存在については、非特許文献13に記載されている。
【0008】
プレクストリン相同(PH)タンパク質を近縁の二リン酸イノシトールとの結合に使用することを記載した文献には、非特許文献14、15、および16が含まれる。発蛍光団でラベルしたプレクストリン相同ドメインを用いたIP3に対する試験管内蛍光バイオセンサについては、非特許文献17 に記載されている。
【特許文献1】米国特許第5,225,349号明細書
【特許文献2】チェン(Chen)とチェン(Chen)ほか, 米国特許第5,393,912号明細書
【特許文献3】米国特許第5,798,447号明細書
【特許文献4】国際公開第95/19373号パンフレット
【特許文献5】米国特許第6,087,483号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第0,992,587号明細書
【特許文献7】米国特許第5,252,707号明細書
【非特許文献1】マレセク(Marecek)ら, Carbohydrate Res., 1992, 234, 65-73
【非特許文献2】グオ(Guo)ら, Bioorg. & Biochem., 1994, 2, 7-13
【非特許文献3】リュー(Liu)とポッター(Potter), J. Org. Chem., 1997, 62, 8335-40
【非特許文献4】チェン(Chen)ら, J. Org. Chem., 1996, 61, 393-7
【非特許文献5】ハマダ(Hamada), J. Chromatog. A, 2002, 944, 241-8
【非特許文献6】アンダーソン(Anderson)ら, J. Chromatog., 1992, 574, 150-5
【非特許文献7】ヒンゴラニ(Hingorani)とアグニュー(Agnew), Anal. Biochem., 1991, 194, 204-13
【非特許文献8】ブレット(Bredt)ら, Biochem. Biophys. Res. Commun., 1989,159, 976- 82
【非特許文献9】シー(Shieh)とチェン(Chen), Biochem. J., 1995, 311, 1009-14
【非特許文献10】ウチヤマ(Uchiyama)ら, J. Biol. Chem., 2002, 277, 8106-113
【非特許文献11】パッカードバイオサイエンス社, アルファスクリーン技術, 適用ノートASC-018 (Packard Bioscience, Alpha Screen Technology, Application Note ASC-018)
【非特許文献12】オウイキ(Owicki), “高速スクリーニングにおける蛍光の偏光と異方性:展望と入門 (Fluorescence Polarization and Anisotropy in High Throughput Screening: Perspectives and Primer)”, Journal of Biomolecular Screening, 2000, 5, 297-306
【非特許文献13】カプラン(Kaplin)ら, 1994, J Biol Chem 269, 28972-78
【非特許文献14】ハマン(Hamman)ら, J. Biomol. Screening, 2002, 7, 45- 55
【非特許文献15】ダウラー(Dowler)ら, Biochem. J., 2000, 351, 19-31
【非特許文献16】レモン(Lemmon)とファーガソン(Ferguson), 2000, Biochem. J., 2000, 350, 1-18
【非特許文献17】モリイ(Morii)ら, J. Am. Chem. Soc., 2002, 124, 1138-9
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
高感度で特異性の高い非放射性タンパク質結合測定法を、2の位置でラベルされたIP3誘導体と切断されたIP3受容体タンパク質とを用いて提供する。ラベルは約10kD以下の小分子である。試料を処理してフォスファターゼとキナーゼを不活性化し、上述の試薬と混合して、結合または未結合のラベルの量を測定する。特に酵素断片相補性と蛍光偏光法とを検出に用いる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明により、IP3に対する非放射性のタンパク質結合測定法が提供される。細胞試料には、自然に存在するIP3の濃度を保持するために、キナーゼとフォスファターゼを不活性化する処理を行う。試料は測定用試料を調製するために、不活性化処理の前または後に、さらに処理または修飾してもよい。処理された試料は、ラベルされたIP3と混合する。そのラベルは、特にエ−テルまたはエステル基を介して、通常はリンカーを介して、2の位置で接続された誘導体である。 ラベルの性質によって分子量の範囲は変化することになる。蛍光ラベルでは、ラベルは通常2 kD以下であり、より一般的には1 kD以下となる。一方酵素ラベルでは、ラベルは約30 kD以下であり、通常は約10 kD以下で、好ましくは約8 kD以下となる。従って、ラベルは通常約0.2 kDから約30 kDまでの分子量の範囲となる。
【0011】
IP3受容体から導かれる高親和性の結合タンパク質を、結合タンパク質として採用する。試料と試薬を混合し、そこでラベルされた誘導体は、結合タンパク質への結合につき、試料中のIP3と競合する。結合したラベルまたは結合しなかったラベルのどちらか、または両方を測定すればよい。特に興味深いのは、ホモジニアスなタンパク質結合測定法であって、これは試料と試薬を混合した後の分離の段階を必要としない。
【0012】
発明を記載する際には、使用する試薬がまず考慮されることになる。ラベルされた誘導体またはIP3類似体では、IP3の2の位置の酸素に結合した水素が、直接または通常はリンカーを介して検出可能なラベルと置換され、この検出可能なラベルは直接または間接的に信号を出すことができ、よって追加の試薬が必要とされることになる。リンカーは、もしあるとすれば、ラベルが結合する官能基と、2の位置のヒドロキシル基と結合する官能基を含んでいる。末端の官能基以外のリンカーにおける残り部分は、以下で連結基と称するが、これは1個の結合である場合もあるが、通常は分子鎖である。この分子鎖は通常、最低2個の原子からなり、IP3の2の位置の酸素に結合した1個の炭素原子を持ち、分子鎖中には約16個以下の原子、通常は約12個以下の原子が存在し(環状基の場合は、最短の連結を数える)、その原子は炭素、窒素、酸素、硫黄、およびリンであり、炭素原子とヘテロ原子は、鎖中に存在しても、鎖中の原子に結合した置換基として存在してもよい。リンカーは通常、水素以外の最低1個の原子であり、水素以外の原子約30個以下で、通常4から25原子の範囲である。大部分においてリンカーは中性か陰イオン性であり、陽イオン性のグループが存在する可能性があるが、通常は用いられない。リンカーに採用される官能基と、付加用官能基については以下に述べる。ラベルに対する付加用官能基は、ラベルの性質に依存して大幅に変化し、合成の容易なこと、測定に干渉しないこと、および誘導体が高い親和性を持つことで、使用される官能基が決まることとなる。
【0013】
ラベルされた誘導体の組成は、純粋な組成でなくてもよく、通常は少なくとも約75%が2の位置の誘導体であり、特別には少なくとも約90%が、より特別には少なくとも99%近く、好ましくは100%が2の位置の誘導体である。陽イオンは、溶液中でイオン化することから、誘導体組成の一部としては考慮しない。大部分において、陽イオンはアンモニウムイオンとアルカリ金属イオンとなる。
【0014】
ラベルされた誘導体は、多くの場合に次の化学式を持つ。
【化1】

【0015】
ここで、
Rは、結合または連結基であって、通常は水素以外の少なくとも約1原子、通常は少なくとも約2原子、より一般的には少なくとも約4原子の連結基であり、この原子は少なくとも1個の炭素原子を含み、鎖中に16個以下の、通常は12個以下の原子が存在し、それは炭素の他に、ヘテロ原子の窒素、リン、酸素、および硫黄を含み、一般に0から6個、より一般的には0から4個、さらに一般的には1から4個のヘテロ原子が存在し、そして連結基はそのようなヘテロ原子を、オキソ、アミノ、オキシ、およびチオを含む鎖上の置換基としても含む場合がある。Rは脂肪族、脂環族、芳香族またはヘテロ環、またはこれらの組合せであり、特に脂肪族で分枝鎖または直鎖であって、飽和しているかまたは不飽和部位が2以下の不飽和のものであって、通常は飽和しているものである。通常は、連結基は中性か負に帯電し、好ましくは中性であり、1から3個の、通常は1から2個のヘテロ基を持つ。連結基は親水性でも疎水性でもよい。
【0016】
Zは、Rに結合している官能基であって、ラベルをRに連結しており、オキシ、アミド、チオ、スクシンイミジル、アミノ、ウレイド、エステル、ホスフォ、チオホスフォ、オキサロなど、またはそれらの組合せであって、一般に総計約1から10個の原子から成り、炭素原子とヘテロ原子を含む。試薬の役割に干渉しなければどのような官能基でも用いることができ、その官能基は合成の便利さ、安定性、および有害な効果がない、という理由で選ばれる。
【0017】
X はラベルであって、表面ラベルまたは不溶性のラベルのような分子量が不定の場合を除いて、一般に約150 Dal から約30 kDであり、またはより大きいものも選べるが、通常は約10 kD以下、好ましくは約6 kD以下である。ラベルは大幅に変えることが出来るので、測定のために所望の感度を持つこと、測定中に他の試薬の干渉を受けないこと、結合タンパク質への誘導体の結合が干渉されないこと、合理的なプロトコルを持っていること、即ち一般的には試料を試薬と混合した後に分離するステップを回避できること、を満たすように選ぶことが出来る。
【0018】
nは、ラベルの性質に依存する1から2の整数であり、蛍光ラベルの場合通常は1であり、酵素ドナー(”ED”)ラベルの場合(以下に記述する)通常1から2である。
【0019】
2の位置のヒドロキシル基に結合する残基は、飽和した炭素原子であるか、またはカルボニル基であってチオカルボニル基を含み、通常はオキソカルボニル基である。ラベルの性質に依存して、1個以上のIP3がラベルに結合されてもよい。
【0020】
測定にいかなる干渉も与えないで、ダイナミックレンジのIP3を検出するために十分敏感な信号を出すラベルであれば、いずれも使用可能である。極めて多種のラベルが使用できる。測定用に使用可能であることが判明しているラベルには、例えばG6PDH、リンゴ酸脱水素酵素、西洋わさびペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼなどのような酵素であるが、これらの酵素は分子量が大きいために好ましくはないとされている;相補性測定用の酵素断片、例えばβ-ガラクトシダ−ゼ、β-ラクタマーゼ、またはリボヌクレアーゼSのようなリボヌクレアーゼなどから得たED;例えば蛍光法、蛍光偏光法、時間分割蛍光法、または蛍光相関分光法によって検出できる発蛍光団;凝集すると色が変わる金コロイド粒子;受容体に結合することによって立体化学的に阻止されないときはアポ酵素と複合体を構成する、FADやヘムのような酵素の補助因子;受容体に結合することによって立体化学的に阻止されないときは、酵素と複合体を形成する、アセチルコリンエステラーゼに対するエトキシメチルホスフォノチオアートおよびDHFRに対するメトトレキセートのような酵素阻害剤;受容体に結合すると電極上で検出できる、フェロセンやRu(II) 錯体のような電気活性ラベル;ラテックス;化学発光ラベルなどが含まれる。このような測定法は、E. F. ウルマン(E. F. Ullman), pp 177-94, 「イムノアッセイハンドブック第2版」(‘The Immunoassay Handbook’ 2nd Ed.), デヴィッド・ワイルド編(David Wild ed), Nature Publishing Group 2001や、多数の出版物、短報、特許、製品説明書にも記載されている。これに加えて、使用できる他の測定法には、質量分析や電気泳動によって検出できる質量標識、水素炎イオン化法によって検出できる金属錯体、例えばPCRのような増幅によって検出できるオリゴヌクレオチドが含まれる。
【0021】
特に興味がもたれるラベルには、β-ガラクトシダーゼやβ-ラクタマーゼから得られる酵素ドナー(ED)断片のような酵素相補性断片、蛍光剤、および化学発光剤が含まれ、特に酵素相補性断片と蛍光剤は興味がもたれる。 (EDは、通常文献中で酵素ドナーと呼ばれ、EA即ち酵素受容体に比べて小さい断片である。) 相補性は、EAをEDでラベルされたリガンドと複合体を形成させるか、または自然にEDとEAの複合体を作って結合させる相補性用の結合試薬を用いて、EDとEAの融合タンパク質を作ることで達成される。特に興味がもたれることは、断片相補性用の酵素ドナーとして、β-ガラクトシダーゼの小さなED断片を採用したものを用いることである(小さなEDはプロラベル(Prolabel)、またはPLとも称される)。酵素ドナーは少なくとも約36個のアミノ酸であって、約95個以下のアミノ酸であり、通常は約75個以下のアミノ酸である。 比較的大きなポリペプチドでも、IP3誘導体の結合タンパク質への結合に影響を与えないことが分かっている。
【0022】
EDについては、EDは連結のための官能基を1個または2個持っていてもよい。特に興味深いことに、EDがチオール基を1個から2個、一般にはシステインとして、EDの末端近くか末端に持っている場合であり、このチオール基は活性化されたオレフィンに付加されて、チオエーテルを形成することも可能である。
【0023】
蛍光測定法もまた特に興味がもたれる。蛍光偏光の式は mP = (F − F / F + F) × 1000 である。興味がもたれる蛍光剤には、フルオレセイン、ローダミン、ウンベリフェロン、スクワレン類、例えば Cy3, Cy5, Cy5.5 等のようなシアニン色素(アマシャム バイオサイエンス(Amersham Biosciences)社 から入手可能)、ボディピー(Bodipy)、アレクサフロール(AlexaFluor)(モレキュラー・プローブ(Molecular Probes)社 から入手可能)、およびアクチニドや Tb, Eu, Er, Sm, Yt などのランタニドの錯体のような、時間分解蛍光剤が含まれる。米国特許6,455,851号参照。幾つかの蛍光検出方法が、結合測定法に使用できる。これらには、結合しているラベルと結合していないラベルとを分離した後に、そのどちらかの蛍光を測定することが含まれる。時間分解蛍光検出法は、弱い信号をバックグラウンドの蛍光と区別しやすくするので、特にここでの適用に有用である。ホモジニアス法には、個々の分子の拡散速度が、結合したラベルと結合していないラベルの画分についての情報を提供する蛍光相関分光法、結合した複合体中の2つの異なる色素が、1つは受容体に他の1つはトレーサーに結合しているとき、この2つの色素間でエネルギーが転移する蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)測定法、および放出される蛍光の偏光変化の測定値が、トレーサーの受容体への結合と関連している蛍光偏光法が含まれる。
【0024】
蛍光偏光測定法は、装置が比較的単純で、ただ1種類の色素しか必要としないため、広範に利用されている。蛍光偏光法に基づく測定の性能を決める主要ファクターは、トレーサーが受容体に結合したときの偏光の変化である。受容体結合親和性と他の活性とに、なるべく変動を生じない色素が好ましい。望ましくは、結合していない色素の偏光度は約0.04偏光度(p)より小さく、約0.03 pより小さいことが好ましいが、0.06 pをもつ色素でも使用できる(mP = 10-3 p)。長波長発光色素は、細胞溶解物のような本来蛍光のある試料のために起こる測定への干渉を最小にする傾向があるため好ましい。時間分解蛍光法で好ましい色素としては、励起状態の寿命が長いもの、特に蛍光を持つランタニドおよびルテニウムと多環炭化水素を組み込んだ色素が含まれる。FRET 測定法に対しては色素の組合せが用いられ、1つの色素は光エネルギーを吸収して転移させるように働き、もう1つの色素は光エネルギーを受け取って放射するように働く。この組合せは比較的短波長の吸収転移源と、一方では比較的長波長で発光することを可能とし、これは散乱光による干渉と、化合物ライブラリーからの候補化合物のような他の干渉を最小にするためである。
【0025】
蛍光偏光法で使用されている特別な蛍光剤には、フルオレセイン, Biochemistry, 33, 10379 (1994), J. Biomol. Screen, 5, 77 (2000), Gene, 259, 123 (2000), Biotechniques, 29, 344 (2000); ボディピ−(Bodipy)単独または例えばテトラメチルローダミンまたはフルオレセインのような他の色素との組合せ, J. Biomol. Screen, 5, 329 (2000), 同誌 7,111 (2002), Anal Biochem 278,206 (2000), 同誌 247,77 (1997), 同誌 243, 1 (1996), Antimicrob. Agents Chemother., 43, 1124 (1999); オレゴングリーン488, Biochemistry, 38, 13138 (1999); および テトラメチルローダミン, Biotechniques, 29, 34 (2000)、がある。
【0026】
蛍光偏光測定は長い間、膜リピッドの易動度、ミオシンの再配向、およびタンパク質−タンパク質相互作用のような過程を研究する有用な生物物理学的研究手段であった。ジェイムソン(Jameson)とセイフリード(Seifried), Methods, 1999, 19, 222-33。これまで、臨床診断用に発展し広範囲に用いられてきたイムノアッセイは、生物学的分析への応用の最大のグループを代表している。しかし最近は、偏光光学系を装備したマイクロプレート読取機の出現によって、高い処理能力を持つスクリーニング用の測定方式として、蛍光偏光法を採用する傾向が高まっている。
【0027】
蛍光偏光測定法で用いられるトレーサーには、蛍光色素の結合によって修飾されたペプチド、薬剤、およびサイトカインがある。色素の結合が柔らかいために起こる偏光消光が、偏光を乱し歪ませる。この理由によって、一般に、蛍光団と反応基間に長い脂肪鎖リンカーを持たない反応性色素を用いることが、蛍光偏光法に基づく測定用のトレーサーの調製には好ましい。
【0028】
2の位置のヒドロキシル基の酸素に連結される連結基の代表例としては、プロピルアミドブチル、プロピルアミドフェニル、プロピルオキシプロピル、ブチルウレイドヘキシル、フェニル、ブチルウレイドフェニル、ペンチル、プロピルリン酸ジエステル、ブチリルオキシペンチル、ジブチルリン酸エステル、 N-(N'-エチル-2-プロピルアミド)ブチリルアミド、ヘキシルチオエチル、ヘキシルチオフェニル、メトキシアセチル、ジエチレンオキシ、等が含まれる。
【0029】
特に興味がもたれることは、1, 2,または3型のIP3受容体の細胞外部分を切断して得られる、結合タンパク質に依存した測定法で用いる接合体である。この場合、天然の受容体に比べて、IP3に対する結合が大幅に促進され、通常は少なくとも約200倍の促進が、好ましくは少なくとも約500倍の促進が、そして1000倍またはそれ以上の促進さえ得られる。
【0030】
IP3に対する結合タンパクについては、特に欧州特許出願0,992,587号明細書とウチヤマ(Uchiyama)ら, 2002, 前出、に記載されている。これらの参考文献は、原文をそのままここに記載したかのように、その全体をここに完全に取り入れる。引用した文献に採用されている手順に従ってIP3受容体から誘導される他のIP3結合タンパク質も使用される。 IP3受容体を単離するか、IP3受容体の細胞外部分のみを発現させて、温和な条件でトリプシン処理をするか、または他の比較的非特異的なプロテアーゼを用いることによって、細胞外部分の大きな断片を得ることができる。これらは例えば放射性同位元素またはビオチン(ビオチン模擬体を含む)でラベルされたIP3を用い、クロマトグラフィー、選別、表面に結合したストレプトアビジンなどを使用して単離される。IP3に対する親和性は、従来の測定法によってまたは、本発明に従って測定される。またはこれの代わりに、本発明で採用するラベルされたコアタンパク質を用いて、ラベルされたIP3に対してIP3受容体の切断断片と競合させ、そして切断IP3受容体断片の存在下でコアタンパク質に結合するラベルされたIP3の割合を測定することもできる。さらに、IP3受容体の遺伝子を単離し、遺伝子操作によって親和性が最大となる断片の、最小限数のアミノ酸を決定してもよい。そのようなモノマー配列を同定する方法は、ここに引用した参照文献を含む文献に十分に記載されている。
【0031】
重要なことは、コアタンパク質即ち ”スポンジ”は容易に入手でき、この発明の目的のためには、必要な特性を持ったただ1つのタンパク質しか必要としないことである。コアタンパク質は、マウスの1型IP3受容体(IP3R1)から誘導される。コアタンパク質は、226番から578番までのアミノ酸であるが、自然に存在するN末端およびC末端のアミノ酸を含んでもよく、通常は1,500個以下のアミノ酸、好ましくは750個以下のアミノ酸、より好ましくは600個以下のアミノ酸のタンパク質である。これの延長部分は、自然に存在するアミノ酸でなくてもよいが、全部で1個から500個のアミノ酸、通常は約1個から300個以下のアミノ酸となる。付加されるアミノ酸はいろいろな目的に役立つ。例えばコアタンパク質の精製の助けになったり、コアタンパク質とIP3誘導体の複合体の単離を助けたり、ペプチドラベルの同族タンパク質に対する相補性を立体阻害したり、または表面がプレ−ト、マイクロタイターウエルの壁、粒子などであるときに、表面や他の粒子への付着を立体阻害したりする。
【0032】
ある場合には、結合タンパク質の融合タンパク質を作成する。この場合、融合したポリペプチドは様々な機能を果たす。精製の容易化、緑色蛍光タンパク質(GFP)や同様の変異体を使用したFRET測定で使用する場合の測定条件下での安定性の増加、などである。 一般に融合したポリペプチドは約1 kD以下で、通常は約0.6 kD以下、より一般的には約0.5 kD以下となる。結合タンパク質の融合タンパク質の中では、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)との融合物が使用されている。
【0033】
結合タンパク質またはスポンジは、複数のチオール基、即ち7個のチオール基を持つ。結合タンパク質は、グルタチオン-S-トランスフェラーゼとの融合タンパク質として入手できるが、これは全体として11個のシステインを提供する。ジスルフィド形成を阻害するジチオスレイトール、ビス-イミド メルカプトアセチル、メルカプトエチルアミン、亜硫酸水素塩、β-メルカプトエタノールなどの還元剤を含んでいる場合は、より良好な結果が得られることが分かっている。還元剤の量は一般に約1 〜 100 mMの範囲となる。
【0034】
IP3誘導体は、米国特許第5,252,707号明細書に記載の手順を用いて調製することができる。4,5-二リン酸イノシトールから出発して、例えばベンジルクロライドのようなアラルキルハロゲン化物を用いて、3, 4, 5,および6の位置を選択的に保護し、1および2のヒドロキシル基を保護さずに残す。次に、1の位置のヒドロキシル基をシリル化によって選択的に保護し、その後保護されていない2の位置のヒドロキシル基を用いて、アシル基または例えばハロゲン化物または擬ハロゲン化物のような置換できる官能基を持つ飽和アルキル基へ、求核置換する。その次に1の位置のシリル基を除去してリン酸化し、保護基を除いてIP3の2の位置の誘導体を得る。
【0035】
測定法は、ホモジニアスタンパク質結合測定法でもヘテロジニアスタンパク質結合測定法でもよく、検体であるIP3は、検体に特異的な結合タンパク質に対して、ラベルされたIP3類似体と競合する。ホモジニアス測定法では、タンパク質が類似体へ結合して複合体を形成すると、その結果として、観測する信号の変化が生ずる。ヘテロジニアス測定法では、結合タンパク質と類似体の複合体は表面、ウエルの壁、磁性粒子のような粒子、または他の表面へ分離する。そこで測定用溶液を取り除き、結合した複合体を洗浄して、類似体(もしあれば)を表面から除去できる。次に、表面に存在する類似体を測定できる。特に興味がもたれることとして、酵素断片相補性測定法における酵素ドナー、さらに具体的には、β-ガラクトシダーゼのEDを使用した測定法と、蛍光剤を用いた測定法、とくに蛍光偏光測定法の場合である。
【0036】
測定には、試験管内測定を行うか、細胞の測定を行うことを望むかに依って、使用するために細胞を部分的なコンフルエントにするか、またはコンフルエントに生育させることを望めよう。細胞が増殖したら、使用するためにこれを集める。IP3が関係する活性は非常に多様であるために、様々な細胞を採用できる。細胞は神経、心臓、肝臓、腎臓、白血球、脾臓、皮膚、筋肉、表皮、内皮、網膜、間充織などの細胞でよい。細胞は自然に存在する細胞、例えば一次細胞、細胞株、遺伝的に修飾された細胞でよく、たとえばヒト、マウス、ウサギ、ブタ、などの哺乳動物のような、どのような真核生物から得られる細胞でもよい。
【0037】
測定法の目的によって、細胞は前処理されるか、または直接使用される。例えば、一次細胞では、細胞の状態を評価するためにIP3の含量を測定する検査をすることになる。他の状況では、ある試薬のIP3生成、分解、修飾への影響に関心があるかも知れない。必ずという訳ではないが、通常試薬は、その活性について、つまりIP3のレベルに対する直接の活性について、またはその薬が副作用としてIP3のレベルに影響を与える活性を持つかどうかについてスクリーニングされる薬品であろう。例えば薬剤の存在のような環境変化の効果を測定するときは、細胞は通常少なくとも約5分間、そして6時間以下、適当な栄養培地中で培養する。測定に必要な細胞数は、通常約102から107個の範囲であり、より一般的には約103から105個の範囲となる。測定されるIP3の濃度は、一般に約0.1から10 nMの範囲になる。これは一般に、ほぼ生理的濃度である。
【0038】
細胞は溶解される。細胞中に存在するイノシトールリン酸が修飾されるのを阻止するために、溶解の前に、または溶解に続いて、フォスファターゼまたはキナーゼの活性を阻害する。酵素反応を止めることは様々な方法で達成できる。熱が使用でき、少なくとも60から80℃のパルスを約0.25から120秒間用い、続いて急速に冷却する。あるいはその代わりに、pHを使用することもでき、結合タンパク質とIP3誘導体を加える前か後に、試料に約0.1から0.25%の濃度範囲の強酸を用いる。使うことのできる酸には、過塩素酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸などが含まれる。ラベルの性質によっては、適当な塩基を用いて酸を中和する必要があろう。試料は約pH 6.5から8にするのがよかろう。不活性化の後、砕片や例えばオルガネラのような他の大きな成分は、遠心によって取り除き、上清を単離してもよい。あるいは、試料を吸引してもよい。
【0039】
試料調製は バイオトラック 細胞伝達測定法D-ミオ-イノシトール-1,4,5-三リン酸(IP3) [3H] 測定システム, コ−ド TRK 1000 ( BIOTRAK cellular communication assays, D-myo-Inositol-1,4,5-trisphosphate (IP3) [3H] assay system, code TRK 1000),アマシャム ファルマシア バイオテック社(Amersham Pharmacia Biotech)、に記載されている手順に従って行うことができる。あるいは、米国特許第6,183,974号明細書に記載されている手順に従ってもよい。この文献は、放射性ミオイノシトールを使用する点を除いて、ここで特別に参照して取り入れる。手順は一般に、細胞を105から106の密度でウエルに接種し、2日以上培養し、テスト化合物と測定溶液中で、定められた時間37℃でインキュベートし、吸引して氷冷した5%TCAを加えることによって、細胞の活動を停止させる。次に濃いNaOHとトリス塩基でpHを7.4に合わせる。
【0040】
100μl当たりの試料の量は一般に5から50μlであり、一方他の試薬の濃度はラベルの性質に依存し、個々のラベルに対する手順に従う。
【0041】
β-ガラクトシダーゼのEDを用いた特定のプロトコルの代表例として、IP3類似体が、IP3の2の位置のヒドロキシル基に連結されたβ-ガラクトシダーゼのEDの場合がある。通常、EDは、37個から約90個迄のアミノ酸を持ち、より通常には約60個までのアミノ酸を、好ましくは約56個を超えないアミノ酸を持つことになる。結合タンパク質は、IP3受容体の切断された細胞外部分であって、特にウチヤマ(Uchiyama), 2002, 前出, に記載されている、マウスの1型IP3受容体から得られたコアタンパク質は、200番から610番迄のアミノ酸、特に226番から578番までのアミノ酸を含む。リン酸に関連した酵素を阻害し、例えば遠心で試料を適当に処理した後、5から50μlの量の試料を、5から50μlの量の結合タンパク質と混合して、最終的な測定溶液中の全濃度が0.1 nMから1μMの範囲、より一般的には1から100 nMの範囲となるようにする。次に、混合液を都合よく室温で最低1分間、通常は最低5分、30分間以下インキュベートする。不必要にインキュベート時間を延長しても利点は無い。 最初のインキュベーションの終りに、約5から50μlの類似体をEDと共に加える。EDは、付着用官能基を含んでいる連結基によって、IP3の2の位置のヒドロキシル基に接続されており、その連結基は一般的には4から20個の炭素原子からなる。ここで測定液中の類似体の最終濃度は、通常10 pMから100 nMの範囲で、より一般的には0.1 nMから10 nMの範囲である。混合液は、次に上記の最初のインキュベーションと同じ時間インキュベートする。
【0042】
2度目のインキュベーションののち、5から50μlの量のEAを加え、混合液は少なくとも約5分間、通常少なくとも約10分間で約60分以下、通常は約45分間以下インキュベートする。一般にEAの量は、少なくともEDの濃度と同じであって、通常は過剰に、一般に約10倍過剰以下で、より一般的には5倍過剰以下とする。この時、検出できる信号を与える基質を約5から50μl加える。ここで、この基質は、測定中に代謝回転されるのに十分な過剰量とする。代表的な基質の多くは市販されており、これにはX-gal、CPRG、4-メチルウンベリフェリルβ-ガラクトシド、レゾルフィンβ-ガラクトシド、ガラクトン スタ−(Galacton Star) (トロピックス(Tropix), アプライド バイオシステム社(Applied Biosystems)) のような色素や蛍光剤が含まれる。手順は、他の科学的文献または特許文献に記載されている、他の分析物に通常に用いる手順に従う。代表例として、例えば米国特許第4,708,929号明細書、および第5,120,653号明細書参照。測定液は、例えば1から10分の間の特定の時間に測定する。または速度を測る場合は一定の間隔で測定する。化学発光測定では、信号を0.1秒から1分の間の一定の期間積分する。
【0043】
さらに感度を上げるためには、EDの周りの体積を大きくするために、結合タンパク質に対する抗体を加えてもよい。抗体は抗血清でもモノクローナルでもよいが、モノクローナルの方が好ましい。抗体を加えるとすれば、結合タンパク質と試料とIP3類似体とをインキュベートした後に加える。 抗体は、一般にコアタンパク質とモル比で少なくとも1対1に、一般には少なくとも2対1とする。ここで、コアタンパク質の複数のエピトープ部位に結合する抗血清を用いてもよいし、または異なる抗体が結合タンパク質上の異なる部位に結合することになる、1以上のモノクローナル抗体を使用してもよい。抗体とのインキュベーション時間は、他のインキュベーション時間の範囲にできる。
【0044】
特別に興味がもたれるもう1つのプロトコルは、ラベルが蛍光剤である蛍光偏光法である。方法論は確立していて、米国特許第6,455,861号、第6,159,750号および第4,952,691号のような、測定装置を含む多くの特許に記載されている。方法を実行する際には、IP3を含むと思われる試料を、結合タンパク質と混合する。類似体と結合タンパク質の濃度、および類似体と結合タンパク質の比率を一定にすることによって、IP3複合体の類似体の複合体に対する比は、試料中のIP3の量に直接比例する。測定混合液を蛍光で、特に蛍光剤の最大吸収波長、またはその近くの蛍光で励起し、蛍光剤から放射される偏光蛍光を測定することによって、試料中のIP3量を測定的に決定することができる。測定は、例えばホウ酸、リン酸、トリスのような、任意の適した緩衝液中で、15から40℃の範囲の温度で、添加とインキュベーションの順序について上述の原理のいずれかを用いて行うことが可能である。
【0045】
指摘した特別の測定法は多くの利点を持っている。これらは、特異性が高く、他のイノシトールリン酸から干渉されず、迅速で、自動化でき、高い感度を持つ。実験の部で示すように、ED測定法は1.0から103 nMのダイナミックレンジを持つ。IP3の濃度が下がると共に感度が増す。
【0046】
利便性のため、試薬はキットで提供され得る。個々のラベルによって、異なる成分が含まれる。各キットは、前に述べたIP3接合体と結合タンパク質を含み、また実行するための指示、具体的には電子的にコード化された、または書かれた指示や、緩衝液その他も含まれることが可能である。酵素断片接合体に対しては、酵素受容体断片とホロ酵素の基質もまた含むことが可能である。さらに、還元剤、便利なことにはチオール、より具体的にはジチオスレイトールのようなポリチオールも含むことが可能である。
【実施例1】
【0047】
A. D-ミオ-イノシトール-2-O-(2-(3-マレイミドプロピオニル)アミノエチル)-1,4,5-三リン酸 (mp-2-O-ae-1,4,5-IP3)の調製
【0048】
D-ミオ-イノシトール-2-O-(2-アミノエチル)-1,4,5-三リン酸 (2-O-ae-1,4,5-IP3)を、公表されている方法に従って調製した。リリー(Riley)とポッター(Potter), Chem. Commun., 2000, 983-984参照。 2-O-ae-1,4,5-IP3 (1 mg)を含むリン酸ナトリウム溶液(100 mM, pH 8.0, 1 ml)に、100μlの乾燥アセトニトリルを加えた。スクシンイミジル-3-マレイミドプロピオン酸(3 mg)を、最小量のアセトニトリル(〜200μl)に溶解した。マレイミド溶液をアミン溶液にゆっくりと加え、反応液をボルテックスにより混合した。混合液を10分間置いた。生成物は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって単離し、FAB質量分析法によって同定した。
【0049】
B. D-ミオ-イノシトール-1- (3- (3- マレイミドプロピオニル)アミノプロピルオキシ)- 4,5-三リン酸のPL47mdiCys接合体 ( PL47m-(mp-1P-ap-1,4,5-IP3)2 ) の調製
【0050】
新しく脱塩したPL47mdiCys(〜0. 5 mg, 93ナノモル)を含むリン酸ナトリウム溶液(100 mM, pH 7.0)に、水に溶かしたmp-2-O-ae-1,4,5-IP3 (0.35 mg, 557ナノモル)を加えた(PL47mdiCysは大腸菌のβ-ガラクトシダーゼの4番から51番までのアミノ酸鎖の両端にシステインが付加されたもの)。混合液は、60分反応させた。生成物は、調成用HPCLで100 mMトリエチルアンモニウム酢酸(pH 7.0)とアセトニトリルの勾配を用いて、精製した。接合体を含む分画は、マルディ・トフ(MALDI-TOF)質量分析法によって同定した。
【化2】

mp-2-O-ae-1,4,5-IP3
C15H25N2O18P3
分子量:614.3
【0051】
2-O- (2-アミノエチル- (6-カルボキシアミドフルオレセイニル))-D-ミオ-イノシトール-1,4,5-三リン酸の調製
【0052】
2-O- (2-アミノエチル)-D-ミオ-イノシトール-1,4,5-三リン酸は、リリー(Riley)とポッター(Potter), Chem. Comm., 983-984, 2000 の方法によって調製する。リン酸ナトリウム溶液(100 mM, pH 8.0, 0.5ml)中の2-O- (2-アミノエチル)-D-ミオ-イノシトール-1,4,5-三リン酸(1 mg)に、100μlの乾燥アセトニトリルを加える。スクシンイミジル-6-カルボキシフルオレセイン(1 mg)を、最小量の乾燥ジメチルホルムアミド(DMF)(〜100μl)に溶解する。フルオレセインの活性化されたエステルの溶液を、ゆっくりとイノシトール溶液に加え、反応溶液をボルテックスにより攪拌する。混合液は、反応を完了させるために60分放置する。生成物はHPLCで単離し、質量分析法で同定する。
【0053】
【化3】

2-O-(2-アミノエチル-(6-カルボキシアミドフルオレセイニル))-D-ミオ-イノシトール-1,4, 5-三リン酸
C29H30NO21P3
分子量: 821.5
【0054】
他の蛍光剤も、実質的に同じ方法で接合体に組込まれた。0.5 mlのHPLC級純水に溶かした 2-O- (2’-アミノエチル)-D-ミオ-イノシトール-1,4,5-三リン酸トリエチルアンモニウム塩(0.5 mg)の溶液に、100μlの乾燥アセトニトリルを加えた。色素(0.5 mgの、アレクサフルオール532 (AlexaFluor 532) およびヘキサクロロフルオレセイン, モレキュラー・プローブ(Molecular Probes)社, ユージン(Eugene), オレゴン州; Cy3B, アマシャムバイオサイエンス(Amersham Biosciences)社, バッキンガムシャー(Buckinghamshire), イギリス)のN-ヒドロキシスクシンイミドエステルを、100μlの乾燥DMFに溶解した。色素溶液を、攪拌しながらIP3溶液に加え、反応を一晩室温で進行させた。生成物は、HPLCの逆相カラム(C18)で、酢酸トリエチルアンモニウム (100 mM, pH 7.0)水/アセトニトリル勾配を用いて精製した。
【実施例2】
【0055】
IP3結合用緩衝液: 緩衝液A: 50 mMトリス、pH8.0、1 mMβ-メルカプトエタノール、1 mM EDTA、+ 1× 完全プロテアーゼ阻害剤カクテル(ロシュ社(Roche)製); IP3較正物質は、10 mMの貯蔵用濃度で緩衝液Aに再懸濁し、更に緩衝液Aで、測定でテストする種々の濃度に希釈する。遺伝子組替えによって発現されたIP3コア結合ドメインタンパク質は、緩衝液Aで希釈する(1 : 150希釈)。
【0056】
較正曲線を生成する測定のステップは、IP3コア結合タンパク質を用いて、384ウエルの白色パッカード(Packard)プレート中で行う。較正曲線を構成する各反応は3重に行う。以下は、測定のステップの順序である。
1.10μlのIP3較正物質を、ウエルにピペットで移す。較正物質は、138μMの高濃度から0.007μM[最終濃度]までを適定する。
2.15μlのIP3結合タンパク質[0.01μg/μlの濃度に希釈してある]をウエルに加え、10分間室温でインキュベートする。
3.10μlの ProLabel-IP3接合体(試薬濃度0.5 nM)をウエルに加え、10分間室温でインキュベートする。
4.10μlの 0.1×EA をウエルに加え、30分間室温でインキュベートする。
5.20μlの化学発光基質(2×試薬濃度)をそれぞれのウエルに加える。プレートは、室温で、読み取りができるようになるまでインキュベートする。基質と15分間インキュベートした後、プレート/試料を読み取る。30分、60分および120分後に、追加の読み取りを行う。試料はパッカード社ルミ-カウント(Packard Lumi-count) を用いて、PMT = 1100、ゲイン =1で読み取る。
【0057】
データの解析:
試料は結合タンパク質試料のバックグラウンド活性について、補正する(即ち、結合タンパク質と緩衝液を、化学発光基質とインキュベーションしたときの相対発光量(RLU)を測定する)。3重の各試料からバックグラウンドを差し引いたのち、繰り返されたデータを平均する。%阻害( “オープン・リーディング”{ProLabel-IP3 + EA + 基質} − “クローズ・リーディング” {ProLabel-IP3 + IP3結合タンパク質 + EA + 基質} を、“オープン・リーディング” で割り、100倍したもの)、および%調節({ テストした較正物質のRLU − 低較正物質のRLU}を、 テストした較正物質のRLUで割り、100倍したもの)を計算し、データはプリズムグラフパッド(Prism Graphpad)に取り入れて、曲線を生成し、結合反応のEC50を決定する。
【0058】
信号対雑音比は、最高較正物質を最低較正物質で割った比によって決める。
【0059】
蛍光偏光測定法に対しては、結合タンパク質(“BP”)緩衝液にDTTを用いる、次のプロトコルを採用した。
【0060】
IP3結合タンパク質(0.5μg/μlまたは7.1μMの濃度を、1:100から 1:400に希釈し、72から18 nM としたもの)を、IP3結合タンパク質希釈緩衝液(BP希釈緩衝液:10 mM HEPES、88 mM NaCl,1 mM KCl、0.1%ウシγ-グロブリン(BGG)、0.02%トイーン20 (TWEEN20)、25 mM DTT、pH 7.4)で1 : 300に希釈する。DTTの1M保存液を調製し、1:40倍希釈して、IP3のBP希釈緩衝液を作成するための基礎BP希釈緩衝液とした。10μlの較正物質または細胞を、96ウェルマイクロタイタープレートのウエルに加え、5μlのリガンド(誘導用試薬)または水と、5μlの0.2規定過塩素酸を加える。上記溶液に、500 mM TABS、pH 9に溶かしたIP3蛍光誘導体10μlを加える。5分間インキュベートしたのち、20μlのBP試薬溶液を加え、プレートを蛍光偏光読取機で読み取る。
【0061】
細胞を用いて測定を行うときは、プロトコルは以下のように修正した。CHO-M1細胞をユーロスクリーン(Euroscreen)(ブラッセル、ベルギー)から得た。細胞はF12培地、10% FBS、1× Glu、500μg/ml G418で成育した。細胞は1ウエル当たり2×105個をプレートした。誘導は、カルバコールまたはアセチルコリン(いずれも最終濃度1 mM)を用いて行った、または濃度滴定を行った。誘導は0.2規定PCAを加える前に、20秒間行った。さらに、ヒスタミン1型受容体またはバソプレシン3型受容体を発現した安定な細胞株についてもテストした。誘導はヒスタミンを(濃度を適定して)用いて行った。細胞数を適定した時に、検出されるIP3の基礎レベルへの細胞数の影響を、テストした。検出されるIP3の基礎レベルは、細胞数と共に増加する。トランスフェクションされた受容体を異なるレベルで発現している3種の異なる細胞株を、IP3の緑色と赤色の両方のトレーサー測定法(緑色トレーサーはフルオレセイン、赤色トレーサーはアレクサ(Alexa)(532 nm)蛍光剤)を用いてテストした。この測定法によって、様々な量のIP3受容体を持つ細胞株中のIP3を、検出できる。
【0062】
図2〜7に示したように、上記のプロトコルを用いて、広いダイナミックレンジに亘って、いろいろな細胞株の様々な誘導条件下で、容易にIP3の量の正確な測定ができる。
【0063】
ここで述べた測定法、特にホモジニアス測定法には、多くの長所がある。それは、実行が簡単で、容易に自動化でき、また現在利用できる機器を用いて結果を読み取ることができる。それは、自動化したときにさえ技術者エラーや他のエラーをもたらしうる、ヘテロジニアス測定法のめんどうな分離の段階と洗浄が不要である。この測定はIP3に対して特異的であり、従って他のイノシトールリン酸から干渉を受けない。IP3の類似体は、結合タンパク質に対してIP3と効果的に競合し、感度も特異性も備えている。
【0064】
この文中に引用された全ての参考文献は、引用によって、あたかもここに完全に記載されたかのように、ここに取込まれる。この文書に関連している重要な部分は、当業者には明らかであろう。この出願とそのような引用文献との不一致は、この出願中に記載された考え方を優先して解決されよう。
【0065】
本発明は、上記実施例を参照して記述されているが、これの修正や変更は本発明の精神と範囲に含まれることが理解されよう。従って、本発明は次の特許請求の範囲によってのみ制限される。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は、IP3濃度を決定するために酵素断片相補性を用いた測定法の、較正曲線である。
【図2】図2は、結合タンパク質緩衝液にジチオスレイトール(DTT)を加えることが、測定の安定性に与える影響を示したグラフである。
【図3a】図3aは、DTT存在下と非存在下のPD10緩衝液中で、IP3結合タンパク質を用いた、蛍光偏光較正曲線である。
【図3b】図3bは、CHO-M1細胞からのリガンド誘導性のIP3産生を、蛍光偏光法によって測定した結果を示す。
【図4】図4は、IP3蛍光偏光測定法に於いて、Cy3B蛍光剤を用いた結果の表とグラフである。
【図5】図5は、IP3蛍光偏光測定法に於いて、ヘキサクロロフルオレセイン蛍光剤を用いた結果の表とグラフである。
【図6】図6は、IP3蛍光偏光測定法に於いて、アレクサ(Alexa)蛍光剤を用いた結果の表である。
【図7】図7は、ATCC CHO-M1細胞株について、蛍光偏光測定を用い、カルバコール誘導を行った結果のグラフである。
【図8】図8は、3種の異なる細胞株について、細胞数を計数し、基底レベルのIP3を測定した棒グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IP3と検出可能なラベルを2−ヒドロキシル基の位置で結合またはリンカーを介して接合した接合体と、無傷なIP3受容体と比べてIP3に対して少なくとも約200倍の親和性を持つIP3受容体の切断された細胞外部分を試薬として採用する、試料中のIP3を測定するためのタンパク質結合測定法であって、
測定溶液中で、前記試料、前記接合体および前記結合タンパク質を混合し、任意のIP3と前記接合体とが前記結合タンパク質に結合するのに十分な時間、前記混合液をインキュベートすること、および
試料中に存在するIP3の尺度として、結合したまたは結合していないラベルを検出すること、
を含む上記のタンパク質結合測定法。
【請求項2】
前記測定法がホモジニアス方式である、請求項1に記載のタンパク質結合測定法。
【請求項3】
前記試料が細胞溶解物であり、該細胞溶解物は、キナ−ゼとフォスファターゼの阻害および前記測定法用の前記試料の調製のために処理されている、請求項1に記載のタンパク質結合測定法。
【請求項4】
前記結合タンパク質が、約600個以下のアミノ酸からなり、少なくともマウスの1型IP3受容体の226番から578番までのアミノ酸を備える、請求項1に記載のタンパク質結合測定法。
【請求項5】
前記ラベルが酵素相補性のための酵素断片である、請求項1に記載のタンパク質結合測定法。
【請求項6】
前記結合タンパク質が、約1.5 kDまでのアミノ酸からなる融合タンパク質である、請求項1に記載のタンパク質結合測定法。
【請求項7】
前記ラベルが蛍光剤である、請求項1に記載のタンパク質結合測定法。
【請求項8】
試薬を加える順序が、(a)前記試料を前記結合タンパク質と混合し、次に(b)前記接合体を加え、(a)と(b)の後でインキュベートする、
という順序である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
IP3とβ-ガラクトシダ−ゼ由来の37個から60個までのアミノ酸からなる酵素ドナーとを2−ヒドロキシル基の位置でリンカーを介して接続した接合体と、無傷なIP3受容体と比べてIP3に対して少なくとも約200倍の親和性を持つIP3受容体の切断された細胞外部分とを試薬として採用し、ホモジニアス方式を用いる、試料中のIP3を測定するためのタンパク質結合測定法であって、
測定溶液中で測定成分を、前記試料、前記結合タンパク質、前記接合体と酵素受容体、の順序で混合し、それぞれを混合した後に、前記測定成分間で複合体が形成されるのに十分な時間インキュベートすること、
前記β-ガラクトシダ−ゼの基質を加えること、および
試料中に存在するIP3の尺度として、前記β-ガラクトシダ−ゼによる前記基質の代謝回転を検出すること、
を含む上記のタンパク質結合測定法。
【請求項10】
IP3と蛍光剤とを2−ヒドロキシル基の位置でリンカーを介して接続した接合体と、無傷なIP3受容体と比べてIP3に対して少なくとも約200倍の親和性を持つIP3受容体の切断された細胞外部分とを試薬として採用し、ホモジニアス方式を用いる、試料中のIP3を測定するためのタンパク質結合測定法であって、
測定溶液中で、測定成分である;前記試料、前記結合タンパク質、および前記接合体、を混合し、前記測定成分間で複合体が形成されるのに十分な時間インキュベートすること、および
試料中に存在するIP3の尺度として、蛍光偏光の変化を検出すること、
を含む上記のタンパク質結合測定法。
【請求項11】
前記リンカーが4から20個の炭素原子からなる脂肪族基である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記蛍光剤が約500 nmより長波長の発光をする、前記請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記蛍光剤が約60 mP以下の偏光度を持つ、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
IP3と検出可能なラベルとを2−ヒドロキシル基の位置で結合またはリンカーを介して接続した接合体と、無傷なIP3受容体と比べてIP3に対して少なくとも約200倍の親和性を持つIP3受容体の切断された細胞外部分を試薬として採用する、試料中のIP3を測定するためのタンパク質結合測定法であって、
測定溶液中で、前記試料、前記接合体、前記結合タンパク質、および化学還元剤を混合し、任意のIP3と前記接合体が前記結合タンパク質に結合するのに十分な時間、前記混合液をインキュベートすること、および
試料中に存在するIP3の尺度として、結合したまたは結合していないラベルを検出すること、
を含む上記のタンパク質結合測定法。
【請求項15】
前記化学還元剤がチオールである、請求項14に記載のタンパク質結合測定法。
【請求項16】
化学式
【化1】

に示した化合物であって、ここで
Rは、飽和した炭素原子またはカルボニル基を介して酸素に化学結合している4から20個の炭素原子からなる中性の連結基であり、
Zは、Xを2の位置の酸素に連結するための官能基であり、
Xは、β-ガラクトシダーゼの27個から60個のアミノ酸からなる酵素ドナー断片であり、そして
nは、1または2である、上記化合物。
【請求項17】
化学式
【化2】

に示した化合物であって、ここで
Rは、飽和した炭素原子を介して酸素に化学結合している2個から20個の炭素原子からなる中性の連結基であり、
Zは、Xを2の位置の酸素に連結するための官能基であり、
Xは、蛍光剤である、上記化合物。
【請求項18】
請求項16に記載の化合物と、前記酵素ドナーに対する酵素受容体と、および無傷なIP3受容体に比べてIP3に対して少なくとも約200倍の親和性を持つIP3受容体の切断された細胞外部分とを備えることを特徴とするキット。
【請求項19】
請求項17に記載の化合物、前記酵素ドナーに対する酵素受容体、および無傷なIP3受容体に比べてIP3に対して少なくとも約200倍の親和性を持つIP3受容体の切断細胞外部分とを備えることを特徴とする、キット。
【請求項20】
IP3の測定を行うためのキットであって、IP3と検出可能なラベルとを2−ヒドロキシル基の位置で結合またはリンカーを介して接続した接合体、無傷なIP3受容体に比べてIP3に対して少なくとも約200倍の親和性を持つIP3受容体の切断された細胞外部分、および前記測定を行うための指示書とを備えることを特徴とする、キット。
【請求項21】
チオール還元剤をさらに備えていることを特徴とする、請求項20に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2006−503582(P2006−503582A)
【公表日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−546937(P2004−546937)
【出願日】平成15年10月20日(2003.10.20)
【国際出願番号】PCT/US2003/033262
【国際公開番号】WO2004/038369
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【出願人】(504058215)ディスカヴァーエックス インコーポレイテッド (8)
【Fターム(参考)】