説明

ITO粉末およびその製造方法、透明導電材用塗料並びに透明導電膜

【課題】簡単な処理方法によって、微細な粒径の粒子に分散化するとともに、低い加熱温度であっても結晶性が良好な透明導電膜を得ることができるITO粉末およびその製造方法を提供する。
【解決手段】粉末を構成する粒子が、立方体または直方体の形状であるITO粉末を調製した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ITO(Sn酸化物を含有する酸化In(Indium−Tin−Oxide))粉末およびその製造方法、当該ITO粉末を含む透明導電材用塗料、並びに当該塗料を用いて製膜される透明導電膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ITOを含む透明導電膜は、可視光に対する高い透光性と、導電性とを示すことから、各種表示デバイスや太陽電池などの透明電極膜として用いられている。この透明導電膜の製膜方法としてはスパッタリング法等の物理蒸着法、ITO粒子の分散液または有機ITO化合物を塗布する塗布法が知られている。
【0003】
一般的には、低電気抵抗性、高可視光透過率、化学的安定性の観点から、ITOターゲットを用いたスパッタリング法等の物理蒸着法によるITO成膜法が広く使用されている。しかしながら、成膜時のスパッタ装置内へのITOの付着ロス、配線形成時のエッチングロス等により、現行のスパッタリング成膜法では用いられるITOターゲットのうち、実際に透明電極として使用される量はわずかである。そして、使用後のITOターゲットの大部分は、リサイクルにより再資源化される。しかし、当該再資源化にはリードタイムが存在するため、実際の問題として、配線として使用されるより多くのIn原料の確保が必要となる。さらに、スパッタリング成膜法では、大型薄型テレビの急速な需要拡大にあわせて、その都度ITOターゲット、真空チャンバー等の大型化に伴う更新を必要とする
【0004】
これに対して、塗布法により得られるITO膜は、スパッタリング法などの物理的方法により成膜されたITO膜に比べて導電性は多少低いものの、真空装置などの高価な装置を用いることなく大面積や複雑形状の製膜が可能であり、成膜コストを低減できる利点がある。さらにこの塗布法の中でも、ITO粒子を塗料化し基板上に直接塗布し大気中にて加熱することで成膜、配線化する技術が注目されつつある。この方法を用いると、In原料の使用効率を高めることが可能であると共に、印刷技術の応用により大面積の電極作成も可能であるため、注目されつつある技術である。
【0005】
一方、微細なITO粉末の製造方法としては、Sn塩を含むIn塩水溶液にNaOH、NHOH、NHHCOなどの塩基性沈殿剤を添加してSn含有水酸化Inを得た後、この水酸化物を乾燥した後に大気中で焼成してITO粉末を製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、Sn含有水酸化In塩を水熱合成処理することによって、微細なITO粉末の製造も試みられている(非特許文献1参照)。さらに、有機溶媒中でSn含有水酸化In塩を加熱処理する方法も提案されている。これは、有機溶媒中で水酸化物を加熱処理することによって、当該ITO粒子を微細化する技術である(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平5−201731号公報
【特許文献2】特開2004−123403号公報
【非特許文献1】J.Am.Ceram.Soc., 88[4]986−988(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、ITO粉末を塗料化し基板上に直接塗布後、大気中での加熱という比較的低温のプロセスで製膜・配線化する技術は、有望な技術である。
ところが、ITO粉末を塗料化するにあたり、当該ITO粉末が非常に微細でかつ高分散であることが求められる。これは当該ITO粒子を含む塗料中に、粗いITO粒子が存在すると、塗布時におけるムラの発生や、インクジェットにおける目詰まりの原因となり好ましくないからである。さらに、当該ITO粉末の分散性が悪く一次粒子が凝集し易い場合も、同様の問題点が起こる。その為、ITO粒子を微細化する技術、および、粒子形状や大きさ均一で、分散性の良いITO粉末が求められている。
【0008】
さらに、上記基板として有機フィルムなどの耐熱温度に制限がある基板を用いる場合も考慮すると、より低温の焼成条件であっても均質な導電膜が形成され、かつ、より低温の加熱条件で結晶性が良く高い導電性を示す膜が形成されることが求められる。
【0009】
特許文献1や非特許文献1で提案された製造方法では、In塩およびSn塩を含んだ水溶液へNaOH、NHOH、NHHCOなどの塩基性沈殿剤を添加してSn含有水酸化Inを得た後、当該水酸化物を乾燥した後に大気中で焼成してITO粉末を製造している。この方法で得られるITO粉末は、粗粒も多く、均一な粒子を作製することが困難である。
【0010】
また、ITO粉末の分散性を向上させるため、一般的な方法としてビーズミル等を用いた分散工程を設けることも提案されている。しかし、ビーズミル等を用いた分散工程において、微細で分散性のよいITO粉末を得るのは困難である。さらに、ビーズミル等を用いた分散工程は、粉砕時間を必要とするので生産性が低下する上、ビーズ等のメディアからのコンタミにより不純物が混入することで、得られる導電膜の導電性特性が悪化するという問題がある。
【0011】
特許文献2では、Sn含有水酸化Inを有機溶媒に分散させることにより、粒子同士の凝集を低減させた分散液を提案している。しかし、分散に有機溶媒を使用することに起因して、焼成時に当該有機溶媒が残存した場合、成膜された導電膜において十分な導電性特性が得られないことや、有機溶媒の排水処理が必要となりコスト高に繋がる問題がある。
【0012】
本発明は、上述の問題点に鑑み、簡単な処理方法によって、微細な粒径の粒子に分散化するとともに、低い加熱温度であっても結晶性が良好な透明導電膜を得ることができるITO粉末およびその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、当該ITO粉末を含む透明導電材用塗料並びに透明導電膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、Sn含有In塩溶液へ、塩基性沈殿剤を添加し、Sn含有水酸化In沈殿溶液を作製した後、当該水酸化物へ高温を加える加熱工程を施すことによって、当該水酸化物の性状を調整することが出来ることを見出した。そして、当該性状を調整された水酸化物を前駆物質としてITO粉末を製造すると、当該性状調整の効果を引き継いだITO粒子により構成されたITO粉末を得ることが出来た。そして、本発明者らは、当該ITO粉末が上述の目的を達成することが出来るITO粉末であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、上述の課題を解決するための第1の構成は、
粉末を構成する粒子が、立方体または直方体の形状であることを特徴とするITO粉末である。
【0015】
第2の構成は、
前記粉末を構成する粒子のうち、50vol%以上が立方体または直方体の形状であることを特徴とする第1の構成に記載のITO粉末である。
【0016】
第3の構成は、
粉末の平均粒径が、0.05μm以上、5.0μm以下であることを特徴とする第1または第2の構成に記載のITO粉末である。
【0017】
第4の構成は、
In塩溶液へ塩基性沈殿剤を添加して水酸化In沈殿溶液を得る工程と、
当該水酸化In沈殿溶液を50℃以上、110℃以下に加熱して30分間以上保ち、立方体または直方体の水酸化In結晶を生成させる工程と、
当該立方体または直方体の水酸化In結晶へSn塩を添加し、さらに塩基性沈殿剤を添加して水酸化In・水酸化Sn沈殿物を得る工程と
当該水酸化In・水酸化Sn沈殿物を110℃以上、300℃以下にて30分間以上水熱処理して水酸化In・水酸化Snスラリーを得る工程と、
当該水酸化In・水酸化Snスラリーを200℃以上、700℃以下にて10分間以上焼成して焼成物を得る工程と、
当該焼成物を粉砕してITO粉末を得る工程とを、
有することを特徴とする第1から第3の構成のいずれかに記載のITO粉末の製造方法である。
【0018】
第5の構成は、
In塩溶液へ塩基性沈殿剤を添加して水酸化In沈殿溶液を得る工程と、
当該水酸化In沈殿溶液を50℃以上、110℃以下に加熱して30分間以上保ち、立方体または直方体の水酸化In結晶を生成させる工程と、
当該水酸化In結晶を110℃以上、300℃以下にて30分間以上水熱処理して水酸化Inスラリーを得る工程と、
当該水酸化InスラリーへSn塩を添加し、さらに塩基性沈殿剤を添加して水酸化In・水酸化Snスラリーを得る工程と
当該水酸化In・水酸化Snスラリーを200℃以上、700℃以下にて10分間以上焼成して焼成物を得る工程と、
当該焼成物を粉砕してITO粉末を得る工程とを、
有することを特徴とする第1から第3の構成のいずれかに記載のITO粉末の製造方法である。
【0019】
第6の構成は、
第1から第3の構成のいずれかに記載のITO粉末を含むことを特徴とする透明導電材用塗料。
【0020】
第7の構成は、
第6の構成に記載の透明導電材用塗料を用いて成膜されたことを特徴とする透明導電膜である。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るITO粉末は、適宜な溶媒に分散させる際、簡単な処理方法によって、微細な粒径の粒子に分散化することが出来た。さらに当該ITO粉末を含む塗料を、適宜な基板等に塗布し加熱処理を行うことによって、低い加熱温度でも導電性の高い透明導電膜を得ることが出来た。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に係るITO粉末を構成するITO粒子について説明する。
図1は、本発明に係るITO粉末を構成するITO粒子の1例(後述する実施例1)の
TEM像(175,000倍)である。また、図2は、従来の技術に相当するITO粉末を構成するITO粒子の1例(後述する比較例2)のTEM像(175,000倍)である。
両者を比較すると、その形状の差異は明確である。図1に示す本発明に係るITO粒子は、立方体または直方体の形状を有する粒子である。即ち、本発明に係るITO粒子は、単なる板状、多角形状、円盤状といった形状ではなく、各稜がほぼ直角を成した6面体構造を有している。
これに対し、図2に示す従来の技術に係るITO粒子は、各結晶の構造が不定型で且つ凝集している。
【0023】
本発明に係るITO粉末が、適宜な溶媒に分散させる際、簡単な処理方法によって、微細な粒径の粒子に分散化することが出来ることの詳細な理由は不明である。しかし、当該理由として、各粒子が立方体または直方体の形状を有し表面に無秩序な凹凸が無い為、凝集を起こしにくいこと、同じく表面に無秩序な凹凸が無い為、洗浄が容易で粘着性の不純物が残留し難いこと、などが推察される。
この為、本発明に係るITO粉末とは、上述したITO粒子(一次粒子)が数個から数十個程度凝集して0.05μm以上、5.0μm以下の平均粒子径となったものであると考えられる。従って、ITO粉末の平均粒径は、TEM像等で観察されるITO粒子(一次粒子)が凝集した二次粒子の平均粒子径を示している。
【0024】
さらに本発明者らは、図1で説明したITO粉末のXRDスペクトルを測定した。当該XRDスペクトルを図3に示す。図3から明らかなように、In(222)のピークの半値幅が0.5°以下と非常にシャープであり、結晶子径は35nm程度である。これは、TEM像より測定したITO粒子(一次粒子)の平均粒子径とほぼ一致している。この結果からも、本発明に係るITO粒子(一次粒子)が単一の結晶粒子を示しており、優れた結晶性を有していることが裏付けられたと考えられる。
【0025】
この結果、本発明に係るITO粉末を適宜な溶媒に分散させた塗料は、通常の攪拌等の容易な操作で、ITO粒子が非常に微細かつ高分散した。この為、当該塗料を塗布時にムラの発生が無く、塗布方法としてインクジェットを用いた場合も目詰まりが発生しなかった。
【0026】
さらに、好ましいことに、本発明に係るITO粉末を含む塗料を用いて基板上に成膜された透明導電膜は、200℃程度の低温の加熱処理であっても高い導電性を発揮する。これは、基板上に成膜された段階においては、各粒子が立方体または直方体の形状を有しているため、接触面積を稼ぐことが出来る為ではないかと考えられる。
【0027】
ここで本発明者らが、さらに検討を重ねた結果、本発明に係るITO粉末において、当該立方体または直方体の形状を有する粒子が当該ITO粉体の50vol%以上、好ましくは80vol%以上あれば上述の効果が発揮されることを見出した。
【0028】
次に、本発明に係るITO粉末の製造方法について説明する。
まず、In濃度が0.1〜4.0mol/L、好ましくは0.3〜3.0mol/LのIn塩溶液を準備する。
ここで、当該In塩溶液は、In(C、InCl、In(NOおよびIn(SOの群から選ばれる少なくとも1種のIn塩溶液であるのが好ましい。当該群は、InメタルをH、HNO、HCl、HSOなどに溶解することによって得ることができるが、HNOを使用するのが好ましい。
【0029】
当該In塩溶液中のIn濃度は、中和反応前において、0.1〜4.0mol/L、好
ましくは0.3〜3.0mol/Lになるように調整する。これは、In濃度が0.1mol/L以上であれば生産性の観点から好ましいからである。また、In濃度が4.0mol/L以下であれば、水酸化Inの粒子形状および粒度分布が均一となり、後述する加熱処理後の水酸化Inの粒子形状および粒度分布も均一となり、均一な粒径の粒子を作製することが容易になるからである。
【0030】
次に、当該In塩溶液中の液温を、5℃〜95℃、好ましくは20℃〜70℃の範囲に維持する。そして、保温された当該In塩溶液へ、NaOH、KOH、NHOH、NH、NHHCOおよび(NHCOの群から選ばれる少なくとも1種の塩基性沈殿剤を、24時間以内、好ましくは1分間〜120分間の添加時間で添加する。尚、これら沈殿剤の群のうちでも、NaOH、NHOHを使用することが好ましい。当該沈殿剤の添加量は、In塩の0.5〜100当量、好ましくは1.0〜20当量となるまで添加し、水酸化Inの沈殿溶液を作成する。当該塩基性沈殿剤の当量は、投入量が多いほど沈殿時のpH変動が急激に起こり、微細な粒子が生成する。つまり、0.5当量以上であると未沈殿量が少なくなり好ましい。一方、100当量以下であればアルカリ性が過剰にならず沈殿物の洗浄が容易である。
【0031】
さらに、作製された上記水酸化Inの沈殿溶液に対し加熱処理を行う。加熱温度としては50℃以上110℃以下が好ましい。加熱温度が50℃以上であると均質な形状を有する水酸化In粒子を生成することが容易となるからである。加熱温度を110℃以下とすると、粒子の急激な成長が回避され、均質な形状の水酸化In粒子を作製することが出来る。但し、110℃以上の高温で処理を行う場合は、水分の蒸発を抑えるための圧力容器が必要となる。したがって、沈殿溶液の加熱温度は50℃〜100℃、さらに、好ましくは70℃〜100℃である。加熱時間は、長時間なほど結晶粒子の成長が起こるので、加熱温度が低いほど長時間必要である。尤も、所定時間を経過すると粒子成長の変化は少なくなるため、30分間以上100時間未満であればよい。
【0032】
加熱処理後の水酸化Inの沈殿溶液を、遠心分離または濾過等の方法により固液分離を行った後、固形分へ水を加えてスラリー状とする。ここで、さらに水洗を行い、固形分から不要なアルカリ分を除去する。当該水洗に際しては、当該スラリー量と同量以上の水で洗浄することが望ましい。
【0033】
このようにして、立方体形状または直方体形状を有する水酸化Inの粒子を得ることができる。当該粒子は、各稜がほぼ直角を成した6面体構造を有していた。
【0034】
次に、当該水酸化Inを純水に分散させ、Sn添加剤を添加する。Sn添加剤の添加量は、Inに対して5〜20mol%とする。当該Sn添加剤は、Sn(C)、SnCl、Sn(NOおよびSnSOの群から選ばれる少なくとも1種のSn塩溶液であるのが好ましい。
【0035】
さらに、当該Sn添加剤が添加された水酸化In分散液へ、NaOH、KOH、NHOH、NHガス、NHHCOおよび(NHCOの群から選ばれる少なくとも1種の塩基性沈殿剤を添加し、当該溶液のpHを4.0〜6.0とし、水酸化In−水酸化Sn沈殿物(以下、「Sn含有水酸化In」と記載する場合がある。)を含む沈殿溶液を生成させる。尚、当該沈殿剤の群のうち、NaOH、NHOHを使用することが好ましい。沈殿時のpHが6.0以下であればSnの沈殿が起こり、4.0以上であれば水酸化Inの再溶解が回避できるため、沈殿時のpHは4.0〜6.0、好ましくはpH5.0付近とする。
【0036】
尤も、当該Sn添加剤の添加時期は、上述した水酸化Inを生成する沈殿時に同時に行
っても良いし、後述する水熱工程後に行っても良い。ただし、生産性の観点からSn添加剤の添加は、当該加熱後の時点で行うのが、好ましい構成である。
【0037】
次に、当該生成したSn含有水酸化In粒子のさらなる結晶成長と均質化を目的として、得られたSn含有水酸化In沈殿溶液の、水熱処理を行う。水熱処理温度は110℃から300℃、水熱時間は30分間から10時間の範囲が好ましい。水熱処理を温度が110℃以上あれば、長時間の加熱を回避することが出来る。また、300℃以下であれば反応時の圧力が高くなり過ぎないので特殊な装置を必要とせず好ましい。当該水熱処理後に固液分離・水洗を行い、Sn含有水酸化Inスラリーを得る。
【0038】
このようにして得られたスラリー状のSn含有水酸化Inを大気中で60℃〜200℃、好ましくは80℃〜150℃で乾燥する。当該水酸化物の乾燥方法としては大気中の加熱乾燥以外に、冷凍後減圧させながら乾燥させる凍結乾燥でも良い。さらに、乾燥後の当該水酸化物を、大気中において、200℃〜700℃、好ましくは200℃〜500℃で、10分間〜12時間、好ましくは30分間〜6時間焼成する。得られた焼成物を解砕することにより、ITO粉末を得ることができる。
【0039】
焼成により得られたITO粉末は、立方体形状または直方体形状を有し、各稜がほぼ直角を成した6面体構造を有している。これは、当該ITO粒子が、上述した水酸化In粒子の形状を保持したまま、成長した為であると考えられる。
【0040】
上記で得られたITO粉末の導電性をさらに高める為、還元処理を行うことも好ましい構成である。当該還元処理の条件としては、窒素、水素、アンモニアガスおよび水蒸気のうち少なくとも1種を含む非酸化性雰囲気、好ましくはアンモニアガスと水蒸気とを含む不活性ガス雰囲気において、200℃〜800℃、好ましくは200℃〜500℃、10分間〜12時間、好ましくは30分間〜6時間焼成する。当該焼成後、焼成物を解砕することにより、還元処理されたITO粉末を得ることができる。雰囲気は、還元性ガスを含有するのが、さらに好ましい。当該雰囲気の還元性が強いほうが、当該還元処理されたITO粉末の導電性を上げることが出来好ましい。尚、雰囲気中の窒素を、ヘリウムやアルゴンなどの不活性ガスへ代替してもよい。
【0041】
以上、説明した本発明に係る製造方法により製造されたITO粉末は、平均粒径D50が0.05〜0.7μm、BET比表面積(BET1点法より求めた比表面積)が10〜100m/g、好ましくは50〜100m/gであった。さらに、平均粒径D50(尚、本発明において平均粒径D50とは、所謂、中位径(D50)のことである。)は、ITO試料粉末0.05gを純水20ml中に分散させた分散液を、ベックマン・コールター社製 LS230(レーザー回折散乱法)により測定したD50粒径である。
【0042】
次に、本発明に係るITO粉末を用いた透明導電膜塗料の製造について説明する。
当該本発明に係る透明導電膜塗料は、本発明に係るITO粉末を純水中に分散させることで製造することが出来る。この際、当該透明導電膜塗料におけるITO粉末の濃度は、例えば5wt%とすればよい。
また、本発明に係るITO粉末を分散させる液状媒体としては、上述した純水の他に、アルコール、ケトン、エーテル、エステル、トルエン、シクロヘキサン等の有機溶媒でも良く、さらに界面活性剤またはカップリング剤などの分散剤を併用してもよい。
【0043】
本発明に係る透明導電膜塗料は、セラミック、ガラス等の基板、有機フィルム、等、様々な基板材に塗布可能であった。さらに、当該透明導電膜塗料の塗布時に、ムラの発生は見られなかった。
【0044】
次に、本発明に係る透明導電膜塗料を用いた透明導電膜の成膜方法例について説明する。
例えば、ガラス基板上に成膜する場合は、当該ガラス基板をスピンコーターにより回転させる。そこへ、本発明に係る透明導電膜塗料を滴下してコートする。当該コート後、ガラス基板を取り出し乾燥させた後、再度、スピンコーターにより回転させ、オーバーコート材を滴下する。得られたオーバーコート後のガラス基板を乾燥後、窒素雰囲気で例えば200℃まで昇温させて、例えば1時間保持した後、自然冷却して透明導電膜が形成されたガラス基板を得ることが出来る。得られた透明導電膜が形成されたガラス基板は、加熱温度が200℃程度であるにも拘わらず、良好な導電性を示した。
【実施例】
【0045】
以下、本発明に係るITO粉末およびその製造方法について、実施例を詳細しながら説明する。
【0046】
[実施例1]
硝酸Inに純水を加えてIn濃度が0.5mol/Lになるように硝酸In溶液を調製する。ここで液温が60℃を超えないようにしながら、当該硝酸In溶液20mlへ、塩基性沈殿剤として8.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液20mlを添加して反応させ、水酸化Inの沈殿溶液40mlを得た。
この沈殿溶液を密閉容器に入れ、100℃で12時間加熱した。加熱後の沈殿溶液から遠心分離器を用いて沈殿物を分離採集した。そして採集した沈殿物を水洗した後、再び、当該沈殿物を20mlの純水溶液に分散させた。当該分散液中へ、Inに対してSnの濃度が5at%となるように、0.25mol/Lの塩化Sn溶液2.1mlを加え、さらに水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH5.0になるように調整し、Sn含有水酸化Inを沈殿させた沈殿溶液とした。
【0047】
ここで当該沈殿溶液が40mlになるように純水を添加し、オートクレーブに設置して250℃で3時間水熱処理を施した。次に、当該水熱処理を施した沈殿溶液から遠心分離器を用いて沈殿物を分離、採集する。当該採集された沈殿物を水洗した後、80℃で空気中乾燥し、ITO粉末の前駆体であるSn含有水酸化Inを得た。得られたSn含有水酸化InのD50は1.99μmであった。
【0048】
得られたSn含有水酸化Inを、空気中250℃で3時間加熱処理を行い、実施例1に係るITO粉末を得た。得られたITO粉末のBET比表面積は73.9m/g、粒度分布測定においてD50は1.28μmであった。さらに粒子の個数統計値を取ったところ、最も個数の多い粒子の粒子径(最頻径)は0.067μmであった。
TEM(透過電子顕微鏡)で形状観察を行ったところ、生成した粒子の90vol%は、平均粒子径33nmの、立方体形状または直方体形状の粒子であった。当該ITO粒子のTEM像(175,000倍)を図1に示す。なお、粒子の平均粒子径は、TEM写真上の粒子の長さが最大となる部分測定し、その測定値を直径(粒径)とした。なお、測定対象とするITO粒子(一次粒子)の数は100個とした。
【0049】
当該ITO粉末のXRDスペクトルを測定した結果を図3に示す。得られた回折パターンは酸化Inの回折パターンと一致しており、立方晶系を有する酸化Inの単一組成であることが判明した。さらに、2θ角で35.0°〜36.5°(CoKα1線源)にピークが現れる(222)回折ピークについて回折ピークの強度Int.(222)と、半価幅Bと、を算出し、シェラーの式Dx=0.9λ/Bcosθ(但し、Dxは結晶子の大きさ、λは測定に用いたX線の波長(CoKα1線源)、Bは回折ピークの半価幅、θは回折ピークのブラッグ角である。)より、実施例1に係る試料の結晶子径を求めたところ、38.5nmであった。
【0050】
[実施例2]
実施例1と同様に、0.5mol/Lの硝酸In溶液20mlに、8.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液20mlを添加して反応させ、水酸化Inの沈殿溶液40mlを得た。
そして、当該沈殿溶液を密閉容器に入れ、100℃で12時間加熱した。
当該加熱後の沈殿溶液から遠心分離器を用いて沈殿物を分離し、当該沈殿物を水洗した後、再び沈殿物を20mlの純水溶液に分散させた。当該分散液中に0.25mol/Lの塩化Sn溶液2.1mlを加え、さらに水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH5.0になるように調整し、Sn含有水酸化Inを沈殿させた。得られた沈殿溶液は、水熱処理を行わずに、遠心分離器を用いて沈殿物を分離した。当該沈殿物を水洗した後、80℃で空気中乾燥した、ITO粉末の前駆体であるSn含有水酸化Inを得た。得られたSn含有水酸化In粉末のD50は3.19μmであった。
【0051】
得られたSn含有水酸化Inを、空気中250℃で3時間加熱処理を行い、実施例2に係るITO粉末を得た。
得られたITO粉末のBET比表面積は88.7m/g、粒度分布測定においてD50は1.37μmで、粒子の個数統計値を取ったところ、最も個数の多い粒子の粒子径(最頻径)は0.067μmであった。さらにTEMで形状観察を行ったところ、実施例1と同様に、生成したITO粒子(一次粒子)の90vol%は、平均粒子径35nmの、立方体形状または直方体形状の粒子であった。さらにXRDスペクトルを測定したところ、酸化Inの単一組成であり、結晶子径は37.6nmであることが判明した。
【0052】
[比較例1]
実施例1と同様の操作を行って、40mlのSn含有水酸化In沈殿溶液を得た。
ここで、当該Sn含有水酸化In沈殿溶液を加熱処理することなく、オートクレーブに設置し、実施例1と同様の水熱処理を施した。得られた沈殿物を遠心分離器で沈殿物を分離・水洗した後、80℃で空気中乾燥し、Sn含有水酸化Inを得た。得られたSn含有水酸化In粉末の粒度分布測定を行ったところ、D50は5.41μmであった。
【0053】
さらに、当該Sn含有水酸化Inを、空気中250℃で3時間加熱処理を行い、比較例1に係るITO粉末を得た。得られたITO粉末のBET比表面積は78.3m/g、粒度分布測定においてD50は6.58μmであった。さらに粒子の個数統計値を取ったところ、最も個数の多い粒子の粒子径(最頻径)は0.910μmであった。また、TEMにて形状観察を行ったところ、生成したITO粒子(一次粒子)の30〜40vol%が、平均粒子径40nmの平板状形状、立方体形状または直方体形状の粒子であった。さらにXRDスペクトルを測定したところ、酸化Inの単一組成であり、結晶子径は37.6nmであることが判明した。
【0054】
[比較例2]
実施例1と同様の操作を行って、40mlのSn含有水酸化In沈殿溶液を得た。
ここで、当該Sn含有水酸化In沈殿溶液を、遠心分離器を用いて固液分離して沈殿物を採集した。当該沈殿物を水洗後、さらに0.25mol/L塩化Sn溶液2.1mlを加えpH5.0になるように調整し40mlのSn含有水酸化In沈殿溶液を得た。
得られたSn含有水酸化In沈殿溶液へ、加熱処理もオートクレーブによる水熱処理も施すことなく遠心分離器を用いて、沈殿物を分離採取した。採取した沈殿を水洗した後、80℃で空気中乾燥してSn含有水酸化Inを得た。得られたSn含有水酸化Inの粒度分布測定を行ったところ、D50は1.62μmであった。
【0055】
当該Sn含有水酸化Inを、空気中250℃で3時間加熱処理を行い、比較例2に係る
ITO粉末を得た。得られたITO粉末のBET比表面積は40.8m/g、粒度分布測定においてD50は3.63μmであった。さらに粒子の個数統計値を取ったところ、最も個数の多い粒子の粒子径(最頻径)は0.829μmであった。また、TEMにて形状観察を行ったところ、平均粒子径20nmの丸みをおびたITO粒子(一次粒子)が焼結した凝集体が見られた。さらにXRDスペクトルを測定したところ、ピークが非常にブロードな結果が得られた。当該ITO粒子のTEM像(175,000倍)を図2に示す。
【0056】
(実施例1、2、比較例1、2のまとめ)
実施例1、2および比較例1、2に係るITO粉末について、XRDスペクトルから求めた生成相、(222)回折ピークから求めた強度、結晶子径と、比表面積(BET)、平均粒径(D50)、最頻径についての測定結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1の結果より、加熱処理を施さず、水熱処理のみ行っている比較例1に係るITO粉末は、生成相、結晶子径は、実施例1に係るITO粉末と変わらない。しかし平均粒径(D50)が5倍の値を示しており、個数分布で最も多い粒子径も10倍以上となっている。これは、ITO粒子のサイズは同等だが、粒子同士の焼結や凝集が起きていることを示している。つまり、実施例1に係るITO粉末は、ITO粒子(一次粒子)が数個から数十個程度凝集した粒子からなるのに対し、比較例1に係るITO粉末は、ITO粒子(一次粒子)が数百個程度凝集した粒子からなり、分散性に劣るものであると考えられる。
さらに、加熱処理も水熱処理も施していない比較例2に係るITO粉末は、XRDスペクトルの結果より結晶性の良い酸化In相が生成していないことが判明した。その上、ITO粒子(一次粒子)同士の焼結や凝集が顕著に起きており、分散性に劣るものであると考えられる。
【0059】
[実施例3]
本実施例3においては、実施例1における初期のIn溶液濃度を変化させてITO粉末を調製した例である。
硝酸In溶液の濃度を0.1mol/Lとし、0.1mol/L硝酸In溶液20mlを、8.0mol/L水酸化ナトリウム溶液20mlを反応させ沈殿溶液を得た以外は、実施例1と同様にして、実施例3の試料1に係るITO粉末を調製した。
【0060】
硝酸In溶液の濃度を2.5mol/Lとし、0.5mol/L硝酸In溶液20mlを、8.0mol/L水酸化ナトリウム溶液20mlを反応させ沈殿溶液を得た以外は、実施例1と同様にして、実施例3の試料2に係るITO粉末を調製した。
【0061】
[実施例4]
本実施例4においては、実施例1における出発原料を変化させてITO粉末を調製した
例である。
塩基性沈殿剤を8.0mol/L水酸化ナトリウム溶液から8.0mol/Lアンモニア溶液に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例4の試料1に係るITO粉末を調製した。
【0062】
0.5mol/L硝酸In溶液を0.5mol/L塩化In溶液に変更した以外、実施例1と同様の方法で実施例4の試料2に係るITO粉末を調製した。
【0063】
0.5mol/L硝酸In溶液を0.5mol/L塩化In溶液に、塩基性沈殿剤を8.0mol/L水酸化ナトリウム溶液を8.0mol/Lアンモニア溶液に変更した以外、実施例1と同様の方法で実施例4の試料3に係るITO粉末を調製した。
【0064】
[実施例5]
本実施例5においては、実施例1における熱処理温度を変化させてITO粉末を調製した例である。
加熱工程の温度を70℃に変更した以外、実施例1と同様の方法で実施例5の試料1に係るITO粉末を調製した。
【0065】
加熱工程の温度を50℃に変更した以外、実施例1と同様の方法で実施例5の試料2に係るITO粉末を調製した。
【0066】
(実施例3から5のまとめ)
実施例3から5に係るITO粉末について、XRDスペクトルから求めた生成相、(222)回折ピークから求めた強度、結晶子径と、比表面積(BET)について測定した結果を表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
実施例1、3のデータより、出発原料のIn濃度を高くすることで、より結晶性の良いITO粉体が調製できることが判明した。
また、実施例1、4のデータより、In塩を塩化物に、塩基性塩をアンモニアに変化させても、実施例1と同等の結晶性の良いITO粉末が得られることが判明した。
【0069】
さらに、実施例1、5のデータより、加熱工程の温度が高いほど、調製されたITO粉体の回折ピークの強度が高く、結晶子径も増加しており、生成する粒子の結晶性が増していることが判明した。但し、実施例1と、実施例5に係る試料2とのデータにおける、当該回折ピーク強度の差は小さいことから、当該加熱工程の温度は70℃以上であれば十分
であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施例1に係るITO粉末のTEM像である。
【図2】比較例2に係るITO粉末のTEM像である。
【図3】実施例1に係るITO粉末のXRDスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末を構成する粒子が、立方体または直方体の形状であることを特徴とするITO粉末。
【請求項2】
前記粉末を構成する粒子のうち、50vol%以上が立方体または直方体の形状であることを特徴とする請求項1に記載のITO粉末。
【請求項3】
粉末の平均粒径が、0.05μm以上、5.0μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のITO粉末。
【請求項4】
In塩溶液へ塩基性沈殿剤を添加して水酸化In沈殿溶液を得る工程と、
当該水酸化In沈殿溶液を50℃以上、110℃以下に加熱して30分間以上保ち、立方体または直方体の水酸化In粒子を生成させる工程と、
当該立方体または直方体の水酸化In粒子へSn塩を添加し、さらに塩基性沈殿剤を添加して水酸化In・水酸化Sn沈殿物を得る工程と
当該水酸化In・水酸化Sn沈殿物を110℃以上、300℃以下にて30分間以上水熱処理して水酸化In・水酸化Snスラリーを得る工程と、
当該水酸化In・水酸化Snスラリーを200℃以上、700℃以下にて10分間以上焼成して焼成物を得る工程と、
当該焼成物を粉砕してITO粉末を得る工程とを、
有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のITO粉末の製造方法。
【請求項5】
In塩溶液へ塩基性沈殿剤を添加して水酸化In沈殿溶液を得る工程と、
当該水酸化In沈殿溶液を50℃以上、110℃以下に加熱して30分間以上保ち、立方体または直方体の水酸化In粒子を生成させる工程と、
当該水酸化In粒子を110℃以上、300℃以下にて30分間以上水熱処理して水酸化Inスラリーを得る工程と、
当該水酸化InスラリーへSn塩を添加し、さらに塩基性沈殿剤を添加して水酸化In・水酸化Snスラリーを得る工程と
当該水酸化In・水酸化Snスラリーを200℃以上、700℃以下にて10分間以上焼成して焼成物を得る工程と、
当該焼成物を粉砕してITO粉末を得る工程とを、
有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のITO粉末の製造方法。
【請求項6】
請求項1から3のいずれかに記載のITO粉末を含むことを特徴とする透明導電材用塗料。
【請求項7】
請求項6に記載の透明導電材用塗料を用いて成膜されたことを特徴とする透明導電膜。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−222467(P2008−222467A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60558(P2007−60558)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】