説明

ITO膜用のエッチング液組成物、および、それを利用したITO膜のエッチング方法

【課題】ITO透明導電膜に対して優秀なエッチング性能を有し、その組成が安定的であり、エッチング工程時フォトレジストなどの光反応物質に対する侵食を減少させ、残渣または析出物を残さない優秀な特性を有するエッチング液組成物を提供する。
【解決手段】ITO透明導電膜用のエッチング液組成物であって、エッチング液組成物総質量に対して、a)硫酸4〜10質量%、b)硝酸2.5〜6.0質量%、c)エッチング調整剤0.5〜5質量%および組成物総質量を100質量%にする量の水を含むエッチング液組成物を提供する。これにより、TFT−LCDをはじめとする、ITO膜を利用する表示装置などの電子部品製造の生産性を顕著に向上させ、硫酸のような安価でかつ高安定性の成分を活用して工程時間におけるエッチング液の組成変化を抑え、生産コストを低減させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ITO膜用のエッチング液組成物およびそれを利用したITO膜のエッチング方法に関する。より詳細には、本発明は、ITO透明導電膜に対して優秀なエッチング能力を有し、その組成が安定的であり、エッチング工程時にフォトレジストなどの光反応物質に対する侵食を減少させ、残渣または析出物を残さない優秀な特性を有するエッチング液組成物、および、前記エッチング液組成物を利用して酸化インジウム錫(Indium Tin Oxide:ITO)膜をエッチングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子(liquid crystal display device: LCD device)は、高解像度による鮮明な映像を提供し、省エネ化および薄膜化も可能である。そのため、平板ディスプレイ装置の中で最も脚光を浴びている。現在、このような液晶表示素子を駆動する電子回路として代表的なものは、薄膜トランジスタ(TFT)回路であって、典型的な薄膜トランジスタ液晶表示(TFT−LCD)素子は、ディスプレイ画面の画素を形成している。
【0003】
TFT−LCD素子においてスイッチング素子として作用するTFTはマトリックス状に配列したTFT用基板と、その基板と対向するカラーフィルター基板との間に、液晶物質を満たして製造したものである。TFT−LCDの全体の製造工程は、TFT基板の製造工程と、カラーフィルター工程と、セル工程と、モジュール工程とに大別されるが、正確かつ鮮明な映像を表示するに当り、TFT基板およびカラーフィルターの製造工程は非常に重要である。
【0004】
TFT−LCD装置の画素表示電極の製造には、透明な光学的特性を有し、かつ高導電性物質からなる薄膜が必要であるが、現在酸化インジウムを基盤にした酸化インジウム錫(Indium Tin Oxide:ITO)と酸化インジウム亜鉛(Indium Zinc Oxide:IZO)が透明導電膜の材料として用いられている。
【0005】
画素表示電極に所望の電気回路のパターンを形成しようとするならば、回路パターン通り薄膜層を削るエッチング過程が必要である。しかし、金属二重層のエッチングに通用される既存のエッチング液としては酸化物であるITOの強い耐化学性のために、ITOやIZO素材の透明導電膜をエッチングし難かった。具体的には、王水(aqua regia、HCl+CHCOOH+HNO)や塩酸第二鉄(III)の塩酸溶液(FeCl/HCl)、燐酸(HPO)または臭化水素酸(HBr)を利用した透明導電膜ウェットエッチング液が使われてきたが、王水系エッチング液または塩酸第2鉄の塩酸溶液を利用してITO膜をエッチングする場合、安価ではあるが、パターンの側面でさらに速くエッチングされてプロファイルが不良となり、かつ主成分である塩酸や硝酸が揮発しやすいために、経時的にエッチング液組成物の変動が激しくなる。また、燐酸の場合、アルミニウム腐食と高粘性および高価の問題、臭化水素酸の場合、高価と猛毒性とが問題となる。シュウ酸(Oxalic Acid)を利用して非晶質ITOをエッチングしてもよいが、このような場合、ITOパターン周囲に残渣が発生しやすく、かつ低温でシュウ酸の溶解度が低いために、析出物が発生してエッチング装備の故障を発生させる問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ITO透明導電膜に対して優秀なエッチング性能を有し、その組成が安定的であり、エッチング工程時フォトレジストなどの光反応物質に対する侵食を減少させ、残渣または析出物を残さない優秀な特性を有するエッチング液組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために本発明は、エッチング液組成物の総質量に対して、a)硫酸4〜10質量%、b)硝酸2.5〜6.0質量%、c)エッチング調整剤0.5〜5質量%および組成物総質量を100質量%にする量の水を含むエッチング液組成物を提供する。
【0008】
また、本発明は、TFT−LCD画素表示電極の製造において、エッチング液組成物の総質量に対して、硫酸4〜10質量%、硝酸2.5〜6.0質量%、エッチング調整剤0.5〜5質量%および組成物総質量を100質量%にする量の水を含むエッチング液組成物を利用してITO膜をエッチングする段階を含むITO膜のエッチング方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のTFT−LCDのITO透明導電膜用のエッチング液組成物は、ITO透明導電膜に対して優秀なエッチング能力を有し、エッチング工程時にフォトレジストのような光反応物質に対する浸食を減少させ、残渣または析出物を残さない優秀な特性を有する。また、本発明のエッチング液組成物は、従来のシュウ酸系エッチング液で表される0℃以下でのシュウ酸結晶化現象もなく、塩酸系のエッチング液で表される下部金属膜質に対する影響もない。したがって、TFT−LCDをはじめとする、ITO膜を利用する表示装置などの電子部品製造工程において生産性を顕著に向上させ、硫酸のような安価でかつ高安定性成分を活用して、工程時間におけるエッチング液の組成変化を抑え、生産コストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の実施形態に係るエッチング液組成物は、エッチング液組成物総質量に対して、a)硫酸4〜10質量%、b)硝酸2.5〜6.0質量%、c)エッチング調整剤0.5〜5質量%および組成物総質量を100質量%にする量の水を含む。
エッチング調整剤とは、エッチング液内で容易に解離される物質であって、電解質効果をさらに極大化させ、フォトレジストと金属膜との間の凝着力を減少させ、非晶質ITOで優秀なエッチング効果を示すように作用する。
【0011】
この際、エッチング調整剤が0.5質量%未満である場合、フォトレジストと金属膜との凝着力を減少させられず、直進度(Linearity)が落ち、一方、5質量%を超える過度なエッチング調整剤の使用時、エッチング液のコストもかさみ、またフォトレジストが損傷される恐れがある。
【0012】
このようなエッチング調整剤としては、カリウム(K)イオンを含有する化合物であって、KNO、CHCOOK、KHSO、KHPO、KSO、KHPOまたはKPOなどを使用し、望ましくは、KNOまたはCHCOOKを使用することができる。
【0013】
硝酸は、インジウム酸化膜に対して優秀なエッチング能力を有し、フォトレジストのような光反応物質に対する浸食を減少させ、残渣が残らないようにする。硝酸が2.5質量%未満含まれている場合、インジウム酸化膜のエッチング速度を低下させ、6質量%を超える場合には、モリブデンおよびアルミニウムのような隣接金属に化学的浸食を発生させる恐れがある。
【0014】
硫酸は、主酸化剤であってITOをエッチングする役割を果たす。このような硫酸は、通常公知の方法によって製造可能であり、特に半導体工程用の純度を有することが望ましい。
【0015】
硫酸が4質量%未満含まれている場合、エッチング速度を低下させ、10質量%を超える場合、フォトレジストおよび/または隣接金属に化学的浸食を発生させる恐れがある。また、本発明の実施形態に係るエッチング液は、水溶液として前記必須成分の質量比の和に対する残部ほど水を必須的に含めて、全体質量比を100%にする。この際、使用する水は、超純水であることが望ましい。
【0016】
以下、実施例を挙げて発明をさらに詳細に説明する。下記実施例の構成は、あくまでも発明の理解を助けるためのものであり、いかなる場合にも、本発明の技術的範囲を実施例で提示した実施態様に限定しようとするものではない。
【実施例】
【0017】
下記表1の組成(質量%)によってエッチング液組成物を製造した。エッチング調整剤としてはKNOを使用した。
【0018】
【表1】

【0019】
(試験例)
前記製造した実施例および本発明者が想定した比較例1〜3のエッチング液に対して、ITO透明導電膜に対するそのエッチング能力を比較した。エッチング速度の測定結果は、下記表2に現れており、図1ないし4は、それぞれ実施例および本発明者が想定した比較例1〜3のエッチング液を使用してエッチングを終えたITO透明導電膜を電子顕微鏡で観察した写真である。
【0020】
【表2】

【0021】
前記表2および図1によれば、本発明の前記実施例のエッチング液でエッチングされた場合には、エッチング速度が優秀であり、表面が滑らかで、粒状の残渣が残っていない良好な表面が現れる。
【0022】
比較例1のエッチング液を使用した場合、表2および図2によれば、硫酸の含量が本発明の範囲より少ないために、エッチング速度が低下してITOの残渣が残る。
【0023】
比較例2のエッチング液でエッチングした場合には、表2および図3によれば、硝酸の含有量が本発明の範囲より少ないために、エッチング速度が低下してITOの残渣が残る。
【0024】
表2および図4によれば、本発明者が想定した比較例3のエッチング液でエッチングした場合には、エッチング速度の低下はないが、エッチング調整剤の含量が本発明の範囲より少ないために、フォトレジストと金属膜との凝着力によって直進度が落ちてパターン不良が引き起こされる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明のITO膜用のエッチング液組成物およびそれを利用したITO膜のエッチング方法は、液晶表示素子関連の製造技術分野に好適に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明によるエッチング液でウェットエッチングした後、ITO透明導電膜のプロファイルを電子顕微鏡で測定した写真である。
【図2】本発明によるエッチング液の硫酸含有量より少量の硫酸を含むエッチング液でウェットエッチングした後、ITO透明導電膜のプロファイルを電子顕微鏡で測定した写真である。
【図3】本発明によるエッチング液の硝酸含量より少量の硝酸を含むエッチング液でウェットエッチングした後、ITO透明導電膜のプロファイルを電子顕微鏡で測定した写真である。
【図4】本発明によるエッチング液のエッチング調整剤の含量より少量のエッチング調整剤を含むエッチング液でウェットエッチングした後、ITO透明導電膜のプロファイルを電子顕微鏡で測定した写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エッチング液組成物総質量に対して、硫酸4〜10質量%、硝酸2.5〜6.0質量%、エッチング調整剤0.5〜5質量%および組成物総質量が100質量%にする量の水を含むことを特徴とするエッチング液組成物。
【請求項2】
前記エッチング調整剤は、KNO、CHCOOK、KHSO、KHPO、KSO、KHPOまたはKPOであることを特徴とする請求項1に記載のエッチング液組成物。
【請求項3】
前記エッチング調整剤は、KNOまたはCHCOOKであることを特徴とする請求項2に記載のエッチング液組成物。
【請求項4】
TFT−LCD画素表示電極の製造におけるITO膜のエッチング方法であって、
エッチング液組成物総質量に対して、硫酸4〜10質量%、硝酸2.5〜6.0質量%、エッチング調整剤0.5〜5質量%および組成物総質量を100質量%にする量の水を含むエッチング液組成物を利用して酸化インジウム錫膜をエッチングする段階を含むことを特徴とするITO膜のエッチング方法。
【請求項5】
前記エッチング調整剤は、KNO、CHCOOK、KHSO、KHPO、KSO、KHPOまたはKPOであることを特徴とする請求項4に記載のITO膜のエッチング方法。
【請求項6】
前記エッチング調整剤は、KNOまたはCHCOOKであることを特徴とする請求項5に記載のITO膜のエッチング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−177189(P2009−177189A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16868(P2009−16868)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(502081871)ドンジン セミケム カンパニー リミテッド (62)
【Fターム(参考)】