説明

IgG結合領域が融合したカルシウム結合型発光蛋白質を用いたリン酸化酵素阻害物質のスクリーニング方法

【課題】測定レンジが広く、汎用性の高いリン酸化酵素阻害物質のスクリーニング方法を提供すること
【解決手段】IgGのFc領域に結合できる機能を有するZZドメインと、カルシウム結合型発光蛋白質であるイクオリンとの融合蛋白質を利用することで、測定レンジが広く、汎用性の高いリン酸化酵素阻害物質のスクリーニングを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテインAのIgG結合領域(ZZドメイン)が融合したカルシウム結合型発光蛋白質(以降本発明のホロ蛋白質と略記)を用いたリン酸化酵素阻害物質のスクリーニング方法、及びリン酸化酵素阻害物質のスクリーニングにおいて使用するための本発明のホロ蛋白質に関する。
【背景技術】
【0002】
カルシウム結合型発光蛋白質はカルシウムイオンと特異的に反応し、瞬間発光する蛋白質である。具体的には、イクオリン、オベリン、クライチン、マイトロコミン、ミネオプシン及びベルボイン等が知られている。これらのカルシウム結合型発光蛋白質のカルシウムイオンに対する感受性は非常に高く(10−7〜10−5M カルシウムイオン濃度)、その発光感度もまた、市販の検出装置における検出限界が1ピコグラム以下と非常に高いものである。そのため、カルシウム結合型発光蛋白質は、前述のような特徴を活かし、細胞内カルシウムや血液中の微量カルシウムイオンの検出、定量に用いられている。
【0003】
カルシウム結合型発光蛋白質の代表例は、発光オワンクラゲ(Aequorea aequorea)などから得られるイクオリン(Aequorin)である。イクオリンは、アポ蛋白質であるアポイクオリン(Apoaequorin)と、発光基質に相当するセレンテラジン(Coelenterazine)と、分子状酸素とが複合体を形成した状態で存在している。イクオリン分子にカルシウムイオンが結合すると、青色(極大波長460nm)の光を瞬間発光し、セレンテラジンの酸化物であるセレンテラミド(Coelenteramide)と二酸化炭素を生成する。
【0004】
ヒトをはじめとする生物では、その外的環境の変化により、細胞レベルで様々な応答反応が引き起こされる。これらの応答としては、細胞運動、細胞死、生理活性物質の産生などが挙げられ、場合により、産生された生理活性物質の刺激によって他の細胞がさらなる応答反応を示す。このような応答反応には、タンパク質リン酸化を介した細胞内情報伝達が深く関わっている。遺伝子転写、タンパク質翻訳、分子輸送、タンパク質間相互作用、その他の様々な現象がタンパク質リン酸化を介した情報伝達によって制御されていることは広く知られている。また、ある種のリン酸化酵素が疾患時に活性化されること、及び遺伝子変異等によりリン酸化酵素が制御不能となることが疾患の原因となり得ることも示唆されている(非特許文献1)。
【0005】
このように、蛋白質リン酸化反応は細胞の活動にとって重要な働きを担っている。上記の通り、ある種のリン酸化酵素は疾患に関連する場合もあるため、特定のリン酸化治療薬・予防薬を開発することが可能になる。したがって、そのような阻害物質のスクリーニングを正確、迅速且つ低コストで行う方法が必要とされている。
【0006】
リン酸化酵素阻害物質のスクリーニング方法は、例えば以下の手法が挙げられる。
(1)リン酸化された特定のペプチド又は蛋白質に特異的に結合するが、リン酸化されていない同一のペプチド又は蛋白質には実質的に結合しない抗体(以下、抗リン酸化抗体と略記)を用い、該ペプチド又は蛋白質をリン酸化酵素阻害候補物質と共にリン酸化酵素と作用させた後、抗リン酸化抗体を作用させ、該ペプチド又は蛋白質がどの程度リン酸化されたかを、西洋わさびペルオキシダーゼ標識した二次抗体を用いて発色、定量する手法や、抗リン酸化抗体を用いてウェスタンブロッティングやイムノブロッティングでリン酸化を定性する手法(特許文献1、2、3、4、5)。
(2)該ペプチド又は蛋白質をリン酸化酵素阻害候補物質と共にリン酸化酵素と作用させる際、放射ラベルされたATPをリン酸供与体として用い、放射線量を計数して該ペプチド又は蛋白質のリン酸化を定量する方法(特許文献2、6)。
(3)該ペプチド又は蛋白質のリン酸化酵素によるリン酸化の際、又は後に金属コロイドを混合して、リン酸化の程度を金属コロイドの凝集によって定量する方法等が提案されている(特許文献7)。
【0007】
また、(4)カルシウム結合型発光蛋白質「イクオリン」で標識した抗リン酸化抗体を用いて基質ペプチドのリン酸化を定量する手法(特許文献8)などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4270548号公報
【特許文献2】国際公開第01/011367号
【特許文献3】特開2000−325086号公報
【特許文献4】特表2008−504022号公報
【特許文献5】特開2005−112812号公報
【特許文献6】特表平11−512523号公報
【特許文献7】特開2008−79610号公報
【特許文献8】特開2009−236905号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Kiyoi,H.、外6名、Leukemia.Sep.1998、12(9)、p.1333〜1337
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
(1)の抗リン酸化抗体を用いて発色定性する手法は、どの程度リン酸化されたのかを定量的に把握する点で必ずしも十分ではなかった。また発色により定量する手法は、測定できるレンジ及び検出感度に改善の余地があった。
【0011】
(2)の放射ラベルを使用する手法は、放射性物質を取り扱うため、その取り扱いに細心の注意を払う必要があり、また特別な施設を必要とすることから、汎用性が十分ではなかった。
【0012】
また、(3)の金属コロイドの凝集を利用する手法は、測定できるレンジが狭く、検出感度に改善の余地があった。
【0013】
一方、(4)の方法であれば、測定できるレンジも広く、高い検出感度が得られる有効な手法であるが、抗リン酸化抗体とイクオリンを予め標識する工程が必要である上、標識工程で貴重な抗体をロスする可能性がある。更にある特定の基質ペプチドに対するリン酸化検出だけの使用に限定され、汎用性が十分ではなかった。
【0014】
このような状況において、測定が容易であり、測定レンジが広く、汎用性の高いリン酸化酵素阻害物質のスクリーニング方法の提供が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、リン酸化反応を効果的に検出する手段を開発し、そのような手段を用いたリン酸化酵素阻害物質のスクリーニング方法を完成させた。
【0016】
より詳細には、本発明は、以下の特徴を有する:
[1]リン酸化酵素阻害物質のスクリーニング方法であって、当該方法が阻害候補物質を用いた時の発光強度Xと阻害候補物質を用いない時の発光強度Yとを比較して、発光強度Xが発光強度Yより低い場合に該阻害候補物質が該リン酸化酵素の活性を阻害する物質であることを確認する方法であり、かつ以下の(a)〜(e)のステップ:
(a)阻害候補物質の存在下で、基質である蛋白質又はペプチドのリン酸化が可能な条件において、該基質にリン酸化酵素を作用させるステップ、
(b)抗リン酸化抗体を、ステップ(a)でリン酸化酵素を作用させた基質と接触させるステップ、
(c)免疫グロブリン(以降IgGと略記)のFc領域に結合できる機能を有する領域及びカルシウム結合型発光蛋白質の領域が融合したホロ蛋白質を、ステップ(b)で作用させた抗リン酸化抗体−基質複合体と接触させるステップ、
(d)カルシウムを添加し、IgGのFc領域に結合できる機能を有する領域及びカルシウム結合型発光蛋白質の領域が融合したホロ蛋白質−抗リン酸化抗体−基質複合体から生じる、発光強度Xを検出するステップ、
(e)ステップ(a)において阻害候補物質を用いない以外は、ステップ(a)〜(d)と同様に操作を行い、発光強度Yを検出するステップ、
を含み、ここで該抗リン酸化抗体は、該リン酸化酵素によりリン酸化された基質に特異的に結合可能なものである、上記方法。
[2]前記基質が固体支持体に固相化されている、[1]に記載の方法。
[3]前記IgGのFc領域に結合できる機能を有する領域及びカルシウム結合型発光蛋白質の領域が融合したホロ蛋白質が、以下の(a)〜(d)からなる群から選択される第1の領域及び(e)〜(h)からなる群から選択される第2の領域を含有する融合蛋白質並びにセレンテラジンのペルオキシド又はセレンテラジン誘導体のペルオキシドとを含むホロ蛋白質である、[1]又は[2]に記載の方法。
(1)第1の領域:
(a)配列番号:1のアミノ酸配列からなる領域、
(b)配列番号:1のアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が、欠失、置換、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつIgGのFc領域と結合することができる機能を有する領域、
(c)配列番号:1のアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつIgGのFc領域と結合することができる機能を有する領域、及び
(d)配列番号:2の塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなり、かつIgGのFc領域と結合することができる機能を有する領域。
(2)第2の領域:
(e)配列番号:3のアミノ酸配列からなる領域、
(f)配列番号:3のアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が、欠失、置換、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつセレンテラジンのペルオキシド又はセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してカルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する領域、
(g)配列番号:3のアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつセレンテラジンのペルオキシド又はセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してカルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する領域、及び
(h)配列番号:4の塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなり、かつセレンテラジンのペルオキシド又はセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してカルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する領域。
[4]前記IgGのFc領域に結合できる機能を有する領域及びカルシウム結合型発光蛋白質の領域が融合したホロ蛋白質が、以下の(a)〜(d)からなる群から選択される第1の領域と(e)〜(h)からなる群から選択される第2の領域を含有する融合蛋白質と、セレンテラジンのペルオキシド又はセレンテラジン誘導体のペルオキシドとを含むホロ蛋白質である、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の方法。
(1)第1の領域:
(a)配列番号:1のアミノ酸配列からなる領域、
(b)配列番号:1のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が、欠失、置換、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつIgGのFc領域と結合することができる機能を有する領域、
(c)配列番号:1のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつIgGのFc領域と結合することができる機能を有する領域、及び
(d)配列番号:2の塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなり、かつIgGのFc領域と結合することができる機能を有する領域。
(2)第2の領域:
(e)配列番号:3のアミノ酸配列からなる領域、
(f)配列番号:3のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が、欠失、置換、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつセレンテラジンのペルオキシド又はセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してカルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する領域、
(g)配列番号:3のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつセレンテラジンのペルオキシド又はセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してカルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する領域、及び
(h)配列番号:4の塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなり、かつセレンテラジンのペルオキシド又はセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してカルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する領域。
[5]前記IgGのFc領域に結合できる機能を有する領域及びカルシウム結合型発光蛋白質の領域が融合したホロ蛋白質が、
(1)配列番号:1で表される第1のアミノ酸配列からなる領域及び、
(2)配列番号:3で表される第2のアミノ酸配列からなる領域
を含有する融合蛋白質並びにセレンテラジンのペルオキシド又はセレンテラジン誘導体のペルオキシドとを含むホロ蛋白質である、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の方法。
[6]前記IgGのFc領域に結合できる機能を有する領域及びカルシウム結合型発光蛋白質の領域が融合したホロ蛋白質が、配列番号:5のアミノ酸配列からなる融合蛋白質と、セレンテラジンのペルオキシド又はセレンテラジン誘導体のペルオキシドとを含むホロ蛋白質である、[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記リン酸化酵素が、MAPK1、MAPK2 、JNK、p38、Akt、Aurora A、Aurora B 、Aurora C、PKA 、MSK1 、PKC ε、CRIK 、NDR1 、DYRK1A 、Rsk2 、PIM1 、PAK1 、IKK α、JIL −1 、VRK1 、Snf1 、PBK /TOPK 、MNK1 、MNK2 、MRCK α、PAK2 、WNK2 、WNK3、AK、CK2、MBPK、cPK、及びcdKである、[1]〜[6]のいずれか1項に記載の方法。
[8]前記抗リン酸化抗体が、リン酸化されたミエリン塩基性蛋白質を認識できるものである、[1]〜[7]のいずれかに記載の方法。
[9]前記基質が、ミエリン塩基性蛋白質である、[1]〜[8]のいずれかに記載の方法。
[10][3]〜[6]のいずれかに記載の融合蛋白質、及び対象となるリン酸化酵素の基質を含む、リン酸化酵素阻害物質のスクリーニングのためのキット。
[11]前記基質がミエリン塩基性蛋白質である、[10]に記載のキット。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、疾患の治療薬・予防薬として応用可能なリン酸化酵素阻害物質をより簡便に見出すことができる。
【0018】
以下に、本発明の実施の形態において実施例を挙げながら具体的かつ詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明のホロ蛋白質(ZZ−イクオリン)を用いて検出したスタウロスポリンによるMAPK1のリン酸化活性阻害を表すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明において、「リン酸化酵素」とは、細胞内で標的蛋白質をリン酸化する活性を有することが知られている蛋白質である。本発明におけるリン酸化酵素は、セリン/スレオニン特異的なものでもよいし、チロシン特異的なものでもよい。具体的なリン酸化酵素としては、MAPK1、MAPK2 、JNK、p38、Akt、Aurora A、Aurora B 、Aurora C、PKA 、MSK1 、PKC、CRIK 、NDR1 、DYRK1A 、Rsk2 、PIM1 、PAK1 、IKK α、JIL −1 、VRK1 、Snf1 、PBK /TOPK 、MNK1 、MNK2 、MRCK α、PAK2 、WNK2 、WNK3、AK、CK2、MBPK、cPK、及びcdKなどが挙げられ、特に好適なリン酸化酵素は、MAPK1、MAPK2、JNK、p38、Akt、MBPK、及びPKC等が挙げられる。
【0021】
本発明の方法で用いるリン酸化酵素は、生物組織から抽出・精製したものでもよいし、大腸菌又は哺乳動物細胞などの宿主細胞により組換え的に発現させた後、適宜精製したものでもよい。
【0022】
本発明において「候補物質」とは、リン酸化酵素を阻害する活性を有することが予想されるいずれかの物質であり、例えば、動物・植物組織の抽出物若しくは微生物培養物等の複数の化合物を含む混合物、又はそれらから単離された標品;天然に生じる分子(例えば、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、蛋白質、核酸、脂質、ステロイド、糖タンパク質、プロテオグリカンなど);天然に生じる物質の合成アナログ又は誘導体(例えば、ペプチドミメティクスなど);天然に生じない分子(例えば、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製した低分子有機化合物);並びにそれらの混合物を挙げることができる。本発明において「リン酸化酵素阻害物質」とは、対象となるリン酸化酵素の活性を阻害することが可能な物質である。
【0023】
本発明の融合蛋白質は、発光基質であるセレンテラジンと接触させることによって、容易に本発明の融合蛋白質とセレンテラジンのペルオキシドを含有するホロ蛋白質を形成することができる。本発明のホロ蛋白質は、セレンテラジンと酸素の存在下において、本発明の融合蛋白質と、セレンテラジンのペルオキシドとが複合体を形成した状態で存在する。前記複合体にカルシウムイオンが結合すると、瞬間的な発光を示す。したがって、本発明の融合蛋白質、本発明のホロ蛋白質などは、カルシウムイオンの検出又は測定に好適に利用することができる。
また、本発明の融合蛋白質は、IgGとの高い結合能力を有している。そして、上述のように、本発明の融合蛋白質と発光基質であるセレンテラジンのペルオキシドとを含むホロ蛋白質は、カルシウムイオンによって発光させることができる。したがって、本発明の融合蛋白質は、IgGの検出に好適に利用することができる。
【0024】
本発明の融合蛋白質とは、配列番号:1のアミノ酸配列からなる領域及び配列番号:1のアミノ酸配列からなる領域と実質的に同一の活性又は機能を有する領域から選択される第1の領域と、配列番号:3のアミノ酸配列からなる領域及び配列番号:3のアミノ酸配列からなる領域と実質的に同一の活性又は機能を有する領域から選択される第2の領域とを含有する融合蛋白質を意味する。
【0025】
本発明中、配列番号:1のアミノ酸配列からなる領域及び配列番号:1のアミノ酸配列からなる領域と実質的に同一の活性又は機能を有する領域から選択される第1の領域を、「ZZドメイン」と称することがある。配列番号:3のアミノ酸配列からなる領域及び配列番号:3のアミノ酸配列からなる領域と実質的に同一の活性又は機能を有する領域から選択される第2の領域を、「アポイクオリン」又は「アポAQ」と称することがある。
【0026】
本発明の融合蛋白質はさらに翻訳促進のためのアミノ酸配列及び/又は精製のためのアミノ酸配列を含んでいてもよい。翻訳促進のためのアミノ酸配列としては、当技術分野において用いられているアミノ酸配列を使用することができる。翻訳促進のためのアミノ酸配列としては、例えば、TEE配列などが挙げられる。精製のためのアミノ酸配列としては、当技術分野において用いられているアミノ酸配列を使用することができる。精製のためのアミノ酸配列としては、例えば、ヒスチジン残基が4残基以上、好ましくは6残基以上連続したアミノ酸配列を有するヒスチジンタグ配列、グルタチオン S−トランストランスフェラーゼのグルタチオンへの結合ドメインのアミノ酸配列などが挙げられる。
【0027】
本発明の融合蛋白質として、例えば配列番号:5のアミノ酸配列からなる融合蛋白質などが挙げられる。
【0028】
本発明の融合蛋白質の取得方法については特に制限はない。本発明の融合蛋白質としては、化学合成により合成した融合蛋白質でもよいし、遺伝子組換え技術により作製した組換え融合蛋白質であってもよい。本発明の融合蛋白質を化学合成する場合には、例えば、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t-ブチルオキシカルボニル法)等により合成することができる。また、アドバンスドケムテック社製、パーキンエルマー社製、ファルマシア社製、プロテインテクノロジーインストゥルメント社製、シンセセルーベガ社製、パーセプティブ社製、島津製作所社製等のペプチド合成機を利用して化学合成することもできる。本発明の融合蛋白質を遺伝子組換え技術により作製する場合には、通常の遺伝子組換え手法により作製することができる。より具体的には、本発明の融合蛋白質をコードするポリヌクレオチド(例えば、DNA)を適当な発現系に導入することにより、本発明の融合蛋白質を作製することができる。本発明の融合蛋白質をコードするポリヌクレオチド、本発明の融合蛋白質の発現系での発現などについては、後記する。本発明中、本発明の融合蛋白質を、「ZZ−アポイクオリン」と称することもある。
【0029】
本発明の融合蛋白質を、発光基質であるセレンテラジン又はその誘導体(例えば、h-セレンテラジン、e-セレンテラジン、cl-セレンテラジン、ch-セレンテラジン、hcp-セレンテラジンなど)と、酸素存在下に接触させることにより、本発明の融合蛋白質とセレンテラジンのペルオキシド又はセレンテラジン誘導体のペルオキシドとを含むホロ蛋白質を得ることができる。本発明中、「セレンテラジン又はその誘導体」を、単に「セレンテラジン」と称することがある。本発明中、本発明の融合蛋白質と、セレンテラジンのペルオキシド又はセレンテラジン誘導体のペルオキシドとを含むホロ蛋白質を、「本発明のホロ蛋白質」と略記するが、「ZZ−イクオリン」、「ZZ−AQ」、又は「本発明の発光蛋白質」と称することもある。
【0030】
本発明のホロ蛋白質としては、(1)本発明の融合蛋白質とセレンテラジンのペルオキシドとを含むホロ蛋白質、(2)本発明の融合蛋白質とセレンテラジン誘導体のペルオキシドとを含むホロ蛋白質などが挙げられる。本発明の融合蛋白質とセレンテラジン誘導体のペルオキシドとを含むホロ蛋白質としては、例えば、本発明の融合蛋白質とh-セレンテラジンのペルオキシドとを含むホロ蛋白質、本発明の融合蛋白質とe-セレンテラジンのペルオキシドとを含むホロ蛋白質、本発明の融合蛋白質とcl-セレンテラジンのペルオキシドとを含むホロ蛋白質、本発明の融合蛋白質とch-セレンテラジンのペルオキシドとを含むホロ蛋白質、本発明の融合蛋白質とhcp-セレンテラジンのペルオキシドとを含むホロ蛋白質などが挙げられる。本発明のホロ蛋白質は、本発明の融合蛋白質とセレンテラジンとから、公知のカルシウム結合発光蛋白質(例えば、イクオリンなど)と同様にして製造することができる。より具体的には、本発明のホロ蛋白質は、例えば、Biochem. J. 261, 913-920 (1989)などに記載の製造方法に準じる方法によって製造することができる。本発明のホロ蛋白質は、本発明の融合蛋白質と、セレンテラジンのペルオキシドとが複合体(本発明の発光蛋白質)を形成した状態で存在する。前記複合体(本発明の発光蛋白質)にカルシウムイオンが結合すると、瞬間的な発光を示し、セレンテラジンの酸化物であるセレンテラミドと二酸化炭素を生成する。
(第1の領域)
【0031】
第1の領域とは、配列番号:1のアミノ酸配列からなる領域又は配列番号:1のアミノ酸配列からなる領域と実質的に同一の活性又は機能を有する領域を意味する。
配列番号:1のアミノ酸配列からなる領域と実質的に同一の活性又は機能とは、例えば、IgGのFc領域に結合することができる活性又は機能を意味する。IgGのFc領域に結合することができる活性又は機能は、例えば、ウエスタンブロティング法などに従って測定することができる。
【0032】
第1の領域としては、より具体的には、例えば(a)配列番号:1のアミノ酸配列からなる領域;(b)配列番号:1のアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつ配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなる領域と実質的に同質の活性又は機能を有する領域などが挙げられる。
本明細書において、「1〜複数個のアミノ酸が、欠失、置換、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列」における「1〜複数個」の範囲は、例えば、1〜20個、1〜15個、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個(1〜数個)、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、1個である。欠失、置換、挿入、及び/又は付加したアミノ酸の数は、一般的に少ないほど好ましい。上記アミノ酸残基の欠失、置換、挿入、及び付加のうち2種以上が同時に生じてもよい。このような領域は、「モレキュラークローニング第3版」、「カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー」、“Nuc. Acids. Res., 10, 6487 (1982)”、“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, 6409 (1982)”、“Gene, 34, 315 (1985)”、“Nuc. Acids. Res., 13, 4431 (1985)”、又は“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 488 (1985)”等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、取得することができる。
【0033】
また、第1の領域としては、例えば、(c)配列番号:1のアミノ酸配列と約70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、88%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ配列番号:1のアミノ酸配列からなる領域と実質的に同質の活性又は機能を有する領域も挙げられる。さらに、第1の領域としては、より具体的には、例えば、配列番号:1のアミノ酸配列と約70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、88%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつIgGのFc領域と結合することができる活性又は機能を有する領域が挙げられる。上記同一性の数値は、一般的に大きいほど好ましい。なお、アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、BLAST(例えば、Altzshul S. F. et al., J. Mol. Biol. 215, 403 (1990)、など参照)やFASTA(Pearson W. R., Methods in Enzymology 183, 63 (1990)、など参照)等の解析プログラムを用いて決定できる。BLAST又はFASTAを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。
【0034】
さらに、第1の領域には、(d)配列番号:2の塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなり、かつ配列番号:1のアミノ酸配列からなる領域と実質的に同質の活性又は機能を有する領域も含まれる。ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドについては、後記する。
(第2の領域)
【0035】
第2の領域とは、配列番号:3のアミノ酸配列からなる領域又は配列番号:3のアミノ酸配列からなる領域と実質的に同一の活性又は機能を有する領域を意味する。
配列番号:3のアミノ酸配列からなる領域と実質的に同一の活性又は機能とは、例えば、(i)前記領域がセレンテラジンのペルオキシド又はセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合することができる機能、(ii)前記領域がセレンテラジンのペルオキシド又はセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合して、カルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を意味する。なお、発光の測定は、例えば、Shimomura 0.et al (1988) Biochem. J.251,405-410 及びShimomura 0.et al. Biochem. J. (1989)261, 913-920などに記載の方法によって測定することができる。 具体的には、例えば、酸素存在下、前記領域にセレンテラジン又はセレンテラジン誘導体を結合させ、カルシウム溶液を加えることにより発光反応を開始させることができる。さらに、発光測定装置を用いて発光活性又は発光パターンを測定することができる。発光測定装置としては、市販されている装置、例えば、AB-2200(アトー社製)、Centro LB960(ベルトールド社製)などを使用することができる。
【0036】
第2の領域としては、より具体的には、例えば(e)配列番号:3のアミノ酸配列からなる領域;(f)配列番号:3のアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなる領域と実質的に同質の活性又は機能を有する領域などが挙げられる。ここで、「1〜複数個のアミノ酸が、欠失、置換、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列」における「1〜複数個」の範囲は、例えば、1〜20個、1〜15個、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個(1〜数個)、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、1個である。欠失、置換、挿入、及び/又は付加したアミノ酸の数は、一般的に少ないほど好ましい。
【0037】
また、第2の領域としては、例えば、(g)配列番号:3のアミノ酸配列と約70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、88%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ配列番号:3のアミノ酸配列からなる領域と実質的に同質の活性又は機能を有する領域も挙げられる。さらに、第2の領域としては、より具体的には、例えば、配列番号:3のアミノ酸配列と約70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、88%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ(i)セレンテラジンのペルオキシド又はセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合することができる機能、又は(ii)セレンテラジンのペルオキシド又はセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合して、カルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する領域が挙げられる。上記同一性の数値は、一般的に大きいほど好ましい。
【0038】
さらに、第2の領域には、(h)配列番号:4の塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなり、かつ配列番号:3のアミノ酸配列からなる領域と実質的に同質の活性又は機能を有する領域も含まれる。ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドについては、後記する。
【0039】
ここで、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド(例えば、DNA)」とは、配列番号:2又は4の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド又は配列番号:1又は3のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの全部又は一部をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法又はサザンハイブリダイゼーション法などを用いることにより得られるポリヌクレオチド(例えば、DNA)をいう。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のポリヌクレオチドを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0mol/lのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(Saline-sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mmol/l塩化ナトリウム、15mmol/lクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドをあげることができる。
【0040】
ハイブリダイゼーションは、Sambrook J. et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001)(以下、モレキュラー・クローニング第3版と略す)、Ausbel F. M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley and Sons (1987-1997)、Glover D. M. and Hames B. D., DNA Cloning 1: Core Techniques, A practical Approach, Second Edition, Oxford University Press (1995)等の実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0041】
本明細書でいう「ストリンジェントな条件」は、低ストリンジェントな条件、中ストリンジェントな条件、及び高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。「低ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%(w/v)SDS、50%(v/v)ホルムアミド、32℃の条件である。また、「中ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%(w/v)SDS、50%(v/v)ホルムアミド、42℃の条件である。「高ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5(w/v)%SDS、50%(v/v)ホルムアミド、50℃の条件である。条件を厳しくするほど、二本鎖形成に必要とする相補性が高くなる。具体的には、例えば、これらの条件において、温度を上げるほど高い相同性を有するポリヌクレオチド(例えば、DNA)が効率的に得られることが期待できる。ただし、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度、プローブ濃度、プローブの長さ、イオン強度、時間、塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0042】
なお、ハイブリダイゼーションに市販のキットを用いる場合は、例えばAlkphos Direct Labelling Reagents(アマシャムファルマシア社製)を用いることができる。この場合は、キットに添付のプロトコールにしたがい、標識したプローブとのインキュベーションを一晩行った後、メンブレンを55℃の条件下で0.1% (w/v) SDSを含む1次洗浄バッファーで洗浄後、ハイブリダイズしたDNAを検出することができる。
【0043】
本発明においてカルシウム結合型発光蛋白質を用いる利点としては、カルシウムの添加という簡便な処理により発光が生じること、発光・検出の際に、検体中の分子全体としての発光がカルシウムの結合から短時間に、例えば数秒以内にピークに達することなどが挙げられる。発光は、好適にはカルシウムの結合から1秒以内にピークに達する。カルシウムの結合から短時間で発光がピークに達することは、分子間での発光のタイミングのばらつきが少ないこと、すなわち、ほぼすべての分子が同時に発光することを表す。これにより、検出感度が上昇する。
【0044】
カルシウム結合型発光蛋白質を用いることの他の利点は、(1)検出を発光により行うため、蛍光色素を用いる場合に問題となる検出の際の励起光の漏れがないこと、(2)その発光がカルシウムとの結合に依存するため、アルカリホスファターゼや西洋ワサビペルオキシダーゼを用いる化学発光の場合に問題となるバックグラウンドがないこと、(3)その発光がカルシウムとの結合に依存し、検出の時点でのみ発光させることができるため、検出前の処理中の基質の分解を考慮する必要がないこと、(4)放射性同位体や発癌性色素などの危険物質を用いないことなどである。
【0045】
本発明において「抗リン酸化抗体」とは、リン酸化された特定のペプチド又は蛋白質に特異的に結合するが、リン酸化されていない同一のペプチド又は蛋白質には実質的に結合しない抗体を意味する。そのような抗体では、標的ポリペプチドやアミノ酸がリン酸化されている場合の結合強度が、リン酸化されていない場合と比較して、例えば10倍以上、50倍以上、100倍以上、1,000倍以上、又は10,000倍以上である。上記結合強度は、一般的に高いほど好ましい。抗リン酸化抗体は、様々な標的に対するものが市販されている。例えば、抗リン酸化CREB(セリン)ウサギ抗体、抗リン酸化Jak2(チロシン)ウサギ抗体、抗リン酸化セリン/スレオニンマウス抗体などが挙げられる。
【0046】
本発明における抗リン酸化抗体は、特に限定されるものではないが、ポリクローナル抗体(例えば、IgG 、IgM 、IgA 、IgD 、又はIgE )、モノクローナル抗体、又は抗体フラグメント(例えば、Fab 、F (ab ’)2 、Fv 、又はscFv )のいずれであってもよい。抗リン酸化抗体は、市販されているものを購入してもよいし、新たに作製してもよい。本発明の融合蛋白質に含まれるIgG結合領域のIgGへの結合能の強さを考慮すると、好ましくは、ヒト由来IgG若しくはIgE、又はマウス、ラット、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、ブタ、イヌ、ハムスター、ロバ、ネコ、若しくはサル由来のIgG等が挙げられ、より好ましくは、ヒト由来IgGとしてのIgG1、IgG2、若しくはIgG4、マウス由来IgGとしてのIgG2a、IgG2b、若しくはIgG3、ラット由来IgGとしてのIgG2c、ウシ由来IgGとしてのIgG2、ヤギ由来IgGとしてのIgG2、ヒツジ由来IgGとしてのIgG2、ウサギ由来IgG、ブタ由来IgG、イヌ由来IgG、ネコ由来IgG、又はサル由来IgG等を用いることができる。各抗体タイプの抗体の作製方法は当業者に公知である。特に、モノクローナル抗体の作製方法は当業者に公知であり、適切な免疫原でのマウスの免疫化、免疫されたマウス由来の脾臓細胞と、同系のマウス骨髄腫細胞とのハイブリドーマの作製、抗体産生ハイブリドーマのクローニング、及びクローニングされたハイブリドーマからの抗体の精製を含む。
【0047】
タンパク質のリン酸化状態を検出する方法としては、放射性同位体である32Pを用いる方法がよく知られているが、放射性同位体を用いる方法を実施するには、特別な施設が必要であり、また試薬を厳重に管理しなければならない。本発明の方法では、抗リン酸化抗体を用いて蛋白質のリン酸化状態を検出することにより、そのような問題を回避することができる。
【0048】
本発明の方法において、「基質蛋白質又はペプチドのリン酸化が可能な条件」とは、対象となるリン酸化酵素による基質蛋白質又はペプチドのリン酸化が可能な条件である。例えば、グリセロリン酸、オルトバナジン酸等のリン酸化アッセイで通常用いられる試薬を含有する緩衝液に、対象となるリン酸化酵素及びATPを添加し、この緩衝液を基質蛋白質又はペプチドに作用させて室温〜37℃でインキュベートする条件が挙げられる。
【0049】
本発明において、基質蛋白質は、天然に存在する蛋白質を抽出、精製して取得してもよいし、遺伝子組換え技術により、該蛋白質の遺伝子が導入された大腸菌などの宿主細胞により発現させた後、適宜精製することによって取得してもよい。
【0050】
本発明における基質蛋白質は、対象となるリン酸化酵素によって、リン酸化されうる蛋白質であれば、特に限定されないが、例えば、不活性化しているRaf1、B-Raf、Mos、TPL2/COT、MEKK、MLK、TAK1、ASK1、MKK1、MKK2、MKK3、MKK4、MMK5、MKK6、MMK7、MAPK、ERK5、JNK、p38等の不活性化リン酸化酵素、Elk-1、Sap−1、MNK1/2、c-Myc、MEF2C、c-Jun、ATF-2、CHOP、MAPKAPK−2/3等の転写因子、ミエリン塩基性蛋白質、ヒストン等の塩基性蛋白質やカゼインやフォスビチン等の酸性蛋白質などが挙げられる。本発明の方法においては、いずれの蛋白質を用いてもよいが、好ましくは、ミエリン塩基性蛋白質、ヒストン、カゼイン、フォスビチン等が用いられる。
【0051】
本発明の方法において、基質ペプチドは適切なペプチド合成機を用いた化学合成により取得してもよいし、大腸菌などの宿主細胞により組換え的に発現させた後に適宜精製することによって取得してもよいし、市販されているペプチドを購入して用いることもできる。基質ペプチドは、対象となるリン酸化酵素によってリン酸化されうるペプチドであれば特に限定されないが、例えば、KRREILSRRPSYR(CREBtide)、LRRASLG(Kemptide)、RRRLSSLRA-NH(PKA/PKC/MAPKAP-K1Substrate)、AALVRQMSVAFFFK(PKCμ Substrate)、RRGRTGRGRRGIFR(PKC Substrate 5)、RFAVRDMRQTVAVGVIKAVDKK(PKCδ Substrate)、ERMRPRKRQGSVRRRV(PKCε Substrate)、KKRFSFKKSFKL(MARCKS protein)、PLSRTLSVAAKK-NH(Glycogen Synthase)、AAKIQASFRGHMARKK(Neurogranin)、QKRPRRKDTP(PKG Substrate1)、RKRSRAE(PKG Substrate2)、RKISASEFDRPLR(BPDEtide)、KKALRRQETVDAL(Autocamtide-2)、KKALHRQETVDAL(Autocamtide-3)、PLARTLSVAGLPGKK(Syntide2)、PLSRTLSVSS-NH(Glycogen Synthase)、MHRQETVDCLK-NH(CaM KinaseII Substrate)、ARKRERTYSFGHHA(AKT Substrate)、GRPRTSSFAEG(Crosstide)、HATPPKKKRK(CDK1 Substrate)、PKTPKKAKKL(CDK5 Substrate)、ADAQHATPPKKKRKVEDPKDF(Protein Kinase p34 Substrate)、KQAEAVTSPR(MAPK Substrate3)、KRELVEPLTPSGEAPNQALLR-NH(EGF Receptor)、GPHRSTPESRAAV(GSK-3β Peptide)、RRKDLHDDEEDEAMSITA(Casein Kinase I Substrate)、RRADDSDDDDD(Casein Kinase II Substarte2)、KVEKIGEGTYGVVYK(Tyrosine Kinase Peptide 1)、ADEYLIPQQ(EGFR Protein Tyrosine Kinase Substrate)、RRLIEDAEYAARG(Tyrosine Kinase Peptide3)、YIYGSFK(p60c-src Substrate)、TRDIYETDYYRK(Insulin Receptor)、RRKASGP(H1-7、PKA Substrate)、EPPLSQEAFADLWKK(DNA-Dependent protein Kinase peptide Substrate)、DDDEESITRR(Casein Kinase I Peptide Substrate)、RRREEETEEE(Casein KinaseII Peptide Substrate)、KRTLRR(PKC Substrate)、GKGRGLSLSRFSWG(MBP Fragment)、QKRPSQRSKYL(MBP Fragment)、KKLRRTLSVA(PRAK Substrate Peptide)、及びARTKQTARKSTGGKAPRKQC(K9C Peptide)などが挙げられる。なお、上記基質ペプチドの例示においては、アミノ酸1文字表記を使用した。
【0052】
本発明の方法により、リン酸化酵素の阻害物質を、迅速かつ簡便にスクリーニングすることが可能になる。特に、本発明の方法は、カルシウム結合型発光蛋白質を用いることにより、カルシウムの添加という簡便な処理により、カルシウムイオンの結合に際して瞬時に発光が起こり、その発光は数秒以内に終了する。このため、短時間にシグナル対ノイズ比(S /N )の高い検出を行うことができるという利点を有する。また、その発光はカルシウムとの結合に依存することから、検出の時点でのみ発光を生じさせることが可能であり、したがって検出前の処理中の基質の分解を考慮する必要がない。そのため、簡便な操作で、短時間で感度のよい検出が可能となるので、リン酸化酵素阻害物質のハイスループットスクリーニングに適している。
【0053】
本発明の方法では、基質蛋白質又はペプチドは好ましくは固体支持体に固相化されている。好ましい固体支持体は、限定するものではないが、プラスチック製の測定用プレートである。
【0054】
本発明の方法では、発光の検出は、使用するカルシウム結合型発光蛋白質の発光波長を検出しうる検出器を用いて行う。カルシウム結合型発光蛋白質の発光波長は当業者には公知であり、例えばイクオリンの場合、470nm 付近である。そのような検出器としては、市販のプレートリーダーが挙げられる。例えば、ベルトールド社のCentro LB960を用いることができる。
【0055】
本発明には、リン酸化酵素阻害物質のスクリーニングにおける使用のための、プロテインAのIgG結合領域(ZZドメイン)が融合したカルシウム結合型発光蛋白質が包含される。
【0056】
また、本発明には、少なくともIgG結合領域融合カルシウム結合型発光蛋白質、抗リン酸化抗体及び対象となるリン酸化酵素の基質を含む、リン酸化酵素阻害物質のスクリーニングのためのキットが包含される。該キットには、さらに、固定化担体、バッファー、陽性対照試料及び陰性対照試料、本発明のスクリーニング方法を利用した該キットの使用方法を記載した指示書等を含めることができる。
【実施例】
【0057】
以下実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において「%」は、特に断りがない限り「重量%」を意味する。
本発明のホロ蛋白質(ZZ−イクオリン)は、以下に示した実施例1〜3の通り、特願2006−224794に記載の方法に準じて調製した。
【0058】
[実施例1]
本発明の融合蛋白質(ZZ−アポイクオリン)融合遺伝子発現ベクターの構築
大腸菌において組換えZZ−アポイクオリンを発現させるために、ZZ遺伝子及びイクオリン遺伝子を以下に記載する方法に従って調製した。IgG結合ドメインであるZZドメインをコードする ZZ遺伝子はpEZZ18(アマシャムバイオサイエンス社)から、PCR法により調製した。アポイクオリンをコードするイクオリン遺伝子はpAQ440(特開昭61−135586号公報参照)のコーディング領域であるHindIII−EcoRI フラグメントを含むpAM−HEよりPCR法により調製した。発現ベクターとしてpCold II ベクター(タカラバイオ社)を使用した。ZZ−アポイクオリン発現ベクターの構築法は以下の通りである。
【0059】
まず、pAM-HEを鋳型として2種のPCRプライマー:
AQ-EcoRI-Met(5’ CCGGAATTC-ATG-AAA-CTT-ACA-TCA-GAC-TTC-GAC-AAC 3’(配列番号:6);EcoRI制限酵素部位はアンダーライン)及び
AQ−C−SalI(5’ CGCGTCGAC-TTA-GGG-GAC-AGC-TCC-ACC-GTA-GAG-CTT 3’(配列番号:7);SALI制限酵素部位はアンダーライン)を用いて、PCRキット(タカラバイオ社製)にてPCR(サイクル条件25サイクル;1分/94℃、1分/50℃、1分/72℃)を実施して、所望のイクオリン遺伝子領域を増幅した。得られたDNA断片をPCR精製キット(キアゲン社製)で精製した。前記の精製されたDNA断片を常法により制限酵素EcoRI/SalIにて消化した後、pColdIIの制限酵素EcoRI/SalI部位に連結することによって、発現ベクターpCold−AQを構築した。
【0060】
一方、pEZZ18を鋳型として2種のPCRプライマー:
6ZZ−N−NdeI(5’ CCG CAT ATG GCG CAA CAC GAT GAA GCC GTG 3’(配列番号:8);NdeI制限酵素部位はアンダーライン)及び
7ZZ−C−BamHI(5’ GGC GGA TCC CGA GCT CGA ATT TGC GTC TAC 3’(配列番号:9);BamHI制限酵素部位はアンダーライン)を用いて、PCRキット(タカラバイオ社製)にてPCR(サイクル条件25サイクル;1分/94℃、1分/50℃、1分/72℃)を実施して、所望のDNA領域を増幅した。得られたDNA断片をPCR精製キット(キアゲン社製)で精製した。前記の精製されたDNA断片を常法により制限酵素NdeI/BamHIにて消化した後、pCold−AQの制限酵素NdeI/BamHI部位に連結することによって、発現ベクターであるpCold−ZZ−AQを構築した。本発現ベクターは、低温で誘導可能であり、発現したZZ−apoAQは、アミノ末端にヒスチジンダグを有する。
【0061】
[実施例2]
本発明の融合蛋白質(組換えZZ−アポイクオリン)の調製法
組換えZZ−アポイクオリンの調製は、以下に記載するように、組換えZZ−アポイクオリンを大腸菌で発現させた後、発現された該融合蛋白質を抽出し、抽出した組換えZZ−アポイクオリンを各種クロマトグラフ法を用いて精製することによって行った。
なお、精製過程における組換えZZ−アポイクオリンの発光活性の測定は、以下のようにして行った。まず、50mM Tris−HCl (pH7.6)の緩衝液1ml 中で、粗ZZ−アポイクオリン溶液、2−メルカプトエタノール(1μl)、エタノールに溶解した発光基質であるセレンテラジン(1μg/μl)を混合した後、氷上(4℃)で2時間放置することにより発光活性を持つ本発明のホロ蛋白質(ZZ−イクオリン)を調製した。得られたZZ−イクオリン溶液に50mM CaCl 100μlを加えることにより発光反応を開始させ、発光測定装置PSN AB2200(アトー社製)で10秒間発光活性の測定を行った。発光活性(最大値(Imax)など)は、相対発光強度(rlu)で評価した。
【0062】
1) 組換えZZ−アポイクオリンの大腸菌での発現
実施例1で得た発現ベクターpCold-ZZ-AQをポリエチレングリコール法により大腸菌BL21株に導入し、形質転換株を得た。得られた形質転換株を37℃で18時間培養した。培養後、その形質転換株をアンピシリン(100μg/ml)を含有する10mlのLB液体培地(水1リットルあたり、バクトトリプトン10g、イーストエクストラクト5g、塩化ナトリウム5g、pH7.2)に植菌し、さらに37℃で18時間培養を行った。次いで、その培養菌体液を新たなLB液体培地2リットル(400mlx5本)に添加して、37℃で4.5時間培養した。培養後、その培養菌体液を氷水上で冷却して、イソプロピル−β−D(−)−チオガラクトピラノシド(IPTG、和光純薬工業社製)を最終濃度0.1mMになるように培養液に添加し、15℃にて17時間培養を行った。培養菌体を、冷却遠心機により5分間、5,000rpm(6000×g)で集菌した。
【0063】
2) 培養菌体からのZZ−アポイクオリンの抽出
上記1)で集菌した菌体を200 ml(40mlx5本)の50mM Tris−HCl (pH7.6)で懸濁し、氷冷下で超音波破砕処理(ブランソン社製、ソニファイアーモデル250)を各2分間、3回行った。その菌体破砕液を10,000rpm(12,000×g)で20分間遠心分離後、得られた溶解性画分をZZ−アポイクオリン精製の出発材料とした。
【0064】
3) Q−セファロースカラムクロマトグラフ法によるZZ−アポイクオリンの精製
上記2)で得られた溶解性画分(200 ml)を、50mM Tris−HCl (pH7.6)で平衡化したQ−セファロースカラム(アマシャムバイオサイエンス社、カラムサイズ:直径2.5×6cm)に添加して吸着させた後、カラムを250 mlの50mM Tris−HCl (pH7.6)で洗浄した。カラムに吸着した蛋白質を全量100mlで、塩化ナトリウム濃度0〜1.0Mの直線濃度勾配により溶出した。塩化ナトリウム濃度0.45〜0.65Mにて発光活性を有するZZ−アポイクオリンの溶出が確認された(25 ml;ZZ−アポイクオリン活性画分)。
【0065】
4) ニッケルキレートカラムクロマトグラフ法によるZZ−アポイクオリンの精製
Q−セファロースカラムから溶出したZZ−アポイクオリン活性画分を、50mM Tris−HCl (pH7.6)で平衡化したニッケルキレートカラム(アマシャムバイオサイエンス社、カラムサイズ:直径1.5×5cm)に添加してZZ−アポイクオリンを吸着させた。吸着したZZ−アポイクオリンを、全量100mlで、イミダゾール濃度0〜0.3M(和光純薬工業社製)の直線濃度勾配により溶出した。イミダゾール濃度0.06〜0.12Mにて、発光活性を有するZZ−アポイクオリンの溶出が確認された(26 ml;ZZ−アポイクオリン活性画分)。
【0066】
5) IgG−セファロースカラムクロマトグラフ法によるZZ−アポイクオリンの精製
ニッケルキレートカラムから溶出したZZ−アポイクオリン活性画分の一部を、アミコンウルトラ−4 遠心フィルターデバイス(分子量10,000カット;ミリポア社製)を用いて濃縮した。濃縮した溶液4mlを、IgGーセファロース 6FastFlowカラム(アマシャムバイオサイエンス社、カラムサイズ:直径1.5×4cm)に添加して、ZZ−アポイクオリンを吸着させた。吸着したZZ−アポイクオリンを、0.5Mの酢酸アンモニウム(pH3.4)(和光純薬工業社製)にて溶出した。
12%SDS−ポリアクリルアミド電気泳動法により、純度は95%以上であることを確認した。
IgG−セファロースクロマトグラフ法により、純度95%以上で7.8mgの精製した本発明の融合蛋白質(ZZ−アポイクオリン)を得た。
【0067】
[実施例3]
本発明のホロ蛋白質(ZZ−イクオリン)の調製法
本発明の融合蛋白質(ZZ−アポイクオリン)から本発明のホロ蛋白質(ZZ−イクオリン)への変換は、以下の条件で行った。
実施例2で得た精製ZZ−アポイクオリン(1mg)を10mM DTT及び、10mM EDTAを含む50mM Tris−HCl (pH7.6) 5mlに溶解し、エタノールに溶解した1.2倍当量のセレンテラジン 24μgを加え、4℃で一昼夜放置し、ZZ−イクオリンへと変換した。得られたZZ−イクオリンは、アミコンウルトラ−4(分子量10,000カット)で濃縮後、10mM EDTAを含む50mM Tris−HCl (pH7.6) 8ml(2mlで4回)で洗浄し、余剰のセレンテラジンを除いた。活性の回収率95%でZZ−イクオリンを得た。
【0068】
[参考例1]
本発明のホロ蛋白質(ZZ-イクオリン)を検出プローブとした、脱リン酸化ミエリン塩基性タンパク質へのMAPK1活性の評価
【0069】
(1)脱リン酸化ミエリン塩基性タンパク質のプレートへの固相化
脱リン酸化ミエリン塩基性タンパク質(以降DP-MBPと略記、ミリポア社製)を、0.05%アジ化ナトリウム(和光純薬工業製)を含む50 mM 炭酸緩衝液 (pH9.6)(以降、炭酸緩衝液と表記)にて5 μg/mlに調製し、96穴白色マイクロプレート (サーモ社製、 #437796)に100μl/ウェルで分注後、室温(25℃)にて一晩静置して、固相化脱リン酸化ミエリン塩基性タンパク質プレート(以降、DP-MBPプレートと表記)を得た。
【0070】
(2)DP−MBP固相化プレートのブロッキング
(1)で得られたDP-MBPプレートを静置後、コーティング液を除去し、1%牛血清アルブミン(フラクションV、シグマ社製)、2mM EDTA(EDTA・2Na、同仁化学製)、0.05% アジ化ナトリウムを含む150mM 塩化ナトリウム(和光純薬工業製)、20mM Tris-HCl(和光純薬工業製)(以降、TBSと表記)(以降、ポストコーティング液と表記)を200μl/ウェルで分注して4℃にて一晩静置して、ブロッキングされたDP-MBPプレートを得た。
【0071】
(3)リン酸化反応
分裂促進因子活性化蛋白質キナーゼ1(ミリポア社製、以降、MAPK1と表記)を、0.1mM バナジン酸ナトリウム(和光純薬工業製)、0.1%牛血清アルブミン、0.1% 2−メルカプトエタノール(和光純薬工業製)、40mM EDTAを含む50mM Tris−HCl(pH 7.6)(以降、MAPK1希釈緩衝液と表記)で0.6 ng/μlに調製した。
(2)で得られた、ブロッキングされたDP−MBPプレートのポストコーティング液を捨て、340μlの2mM EDTAと0.05% Tween20を含むTBS(以降TBST-Eと表記)にて3回洗浄した後、20μM EGTA、25mM Tris−HCl(pH7.6)(以降反応緩衝液と表記)を10μl、水を15μl、0.6 ng/μlのMAPK1を5μl(3 ng)加え、25 mM 酢酸マグネシウムを含む2.5 mM ATP溶液(以降ATP溶液と表記)を20 μl加え(ATP最終濃度1 mM)、全量50μl/ウェルにて25℃、1時間リン酸化反応を行った。
【0072】
(4)抗体反応
(3)の反応系から反応液を捨て、TBST−Eにてよく洗浄した後、0.4% ブロックエース(DSファーマバイオメディカル製)、5 mM EDTAを含むTBS(以降、抗体希釈緩衝液と表記)で6.6 pmol/mlに調製した抗-リン酸化セリン/スレオニン抗体(ミリポア社製)を100μl/ウェル加え、25℃にて1時間反応させた後、反応液を除去し、TBST-Eにてよく洗浄して、「抗リン酸化抗体−基質複合体」を得た。
【0073】
(5)本発明のホロ蛋白質(ZZ−イクオリン)の反応
実施例3で得られたZZ−イクオリンを抗体希釈緩衝液で0.3 pmol/mlに調製した溶液を、(4)で得られた抗リン酸化抗体−基質複合体に対して、100μl/ウェル加え、25℃にて1時間反応させた後、反応液を除去し、TBST-Eにてよく洗浄して、「IgGのFc領域に結合できる機能を有する領域及びカルシウム結合型発光蛋白質の領域が融合したホロ蛋白質−抗リン酸化抗体−基質複合体」を得た。
【0074】
(6)発光強度の検出
(5)で得られた、IgGのFc領域に結合できる機能を有する領域及びカルシウム結合型発光蛋白質の領域が融合したホロ蛋白質−抗リン酸化抗体−基質複合体に対して、Centro LB960 (ベルトールド社製)にて、50 mM 塩化カルシウムを含む50 mM Tris-HCl (pH7.6)(以降カルシウム溶液と表記)を100 μl/ウェル注入して、発光強度を0.1秒間隔で5秒間測定し、最大発光強度値(Imax) (S値)を算出した。データは4回測定の平均を表す。結果を表1に示す。
【0075】
[参考例2]
参考例1の(3)リン酸化反応においてMAPK1を使用しない以外は参考例1と同様の操作を行い、最大発光強度値(Imax)(N値)を算出した。データは4回測定の平均を表す。結果を表1に示す。
【0076】
【表1】

S値=3ngのMAPK1添加区(参考例1)のImax
N値=MAPK1無添加区(参考例2)のImax
S/N=(3ngのMAPK1添加区のImax)/(MAPK1無添加区のImax)
表1に示された通り、参考例1の方法に基づき、本発明のホロ蛋白質(ZZ-イクオリン)を用いてリン酸化反応を検出できることが確認された。
【0077】
[実施例4]
脱リン酸化ミエリン塩基性タンパク質へのMAPK1活性阻害評価
(1)ステップa:リン酸化反応
参考例1に記載と同様の方法にて、DP−MBPを固相化後、ポストコーティングを施した96穴白色プレートを、TBST-Eにてよく洗浄した後、キナーゼの阻害剤であるスタウロスポリン(カルビオケム社製)を最終濃度が0.3μMになるように、ジメチルスルホキシド(和光純薬工業製)にて希釈系列を作製し、反応緩衝液を10μl、水10μl、スタウロスポリン5μl、MAPK1希釈緩衝液で0.6 ng/μlに調製したMAPK1を5μl加えて攪拌した。最後に25μM ATP溶液を20μl加えて(最終濃度10 μM)攪拌し、全量50μl/ウェルにて25℃、1時間リン酸化反応を行った。
【0078】
(2)ステップb:抗体反応
ステップaの反応系から反応液を捨て、TBST−Eにてよく洗浄した後、抗体希釈緩衝液で6.6 pmol/mlに調製した抗-リン酸化セリン/スレオニン抗体を100μl/ウェル加え、25℃にて1時間反応させた後、反応液を除去し、TBST-Eにてよく洗浄して、抗リン酸化抗体−基質複合体を得た。
【0079】
(3)ステップc:本発明のホロ蛋白質(ZZ−イクオリン)の反応
実施例3で得られたZZ−イクオリンを抗体希釈緩衝液で0.3 pmol/mlに調製した溶液を、ステップbで得られた抗リン酸化抗体−基質複合体に対して、100 μl/ウェル加え、25℃にて1時間反応させた後、反応液を除去し、TBST−Eにてよく洗浄して、IgGのFc領域に結合できる機能を有する領域及びカルシウム結合型発光蛋白質の領域が融合したホロ蛋白質−抗リン酸化抗体−基質複合体、を得た。
【0080】
(4)ステップd:発光強度の検出(発光強度Xの測定)
ステップcで得られた、IgGのFc領域に結合できる機能を有する領域及びカルシウム結合型発光蛋白質の領域が融合したホロ蛋白質−抗リン酸化抗体−基質複合体、に対して、Centro LB960にて、カルシウム溶液を100 μl/ウェル注入して、発光強度を0.1秒間隔で5秒間測定し、最大発光強度値(Imax)(S値)を算出した。
【0081】
結果を表2及び図1に示す。データは3回測定の平均を表す。
【0082】
[実施例5〜7]
実施例4の(1)リン酸化反応においてスタウロスポリン(カルビオケム社製)の最終濃度をそれぞれ1、10、又は100μMに変更した以外は実施例4と同様に操作を行い、最大発光強度値(Imax)(S値)を算出した。結果を表2及び図1に示す。データは3回測定の平均を表す。
【0083】
[参考例3]
実施例4の(1)リン酸化反応においてMAPK1及びスタウロスポリンを添加しない以外は実施例5と同様に操作を行い、最大発光強度値(Imax)(N値)を算出した。結果を表2に示す。データは3回測定の平均を表す。
【0084】
[参考例4]
ステップe:阻害候補物質を用いない例(発光強度Yの測定)
実施例4の(1)リン酸化反応においてスタウロスポリンを添加しない以外は実施例5と同様に操作を行い、最大発光強度値(Imax)(S値)を算出した。結果を表2及び図1に示す。データは3回測定の平均を表す。
【0085】
【表2】

S値=3ngのMAPK1添加区(参考例4、及び実施例4〜7)のImax
N値=MAPK1無添加区(参考例3)のImax
S/N=(3ngのMAPK1添加区のImax)/(MAPK1無添加区のImax)
リン酸化率(%)=MAPK1添加+スタウロスポリン無添加区のImaxを100%とした時の各区のImaxを%で表した値。
【0086】
実施例4〜7に示された通り、本発明のホロ蛋白質(ZZ−イクオリン)を用いて発光強度を検出した場合、スタウロスポリン濃度が上昇するにつれて、Imaxが低下しているのが分かる。
【0087】
以上の結果から、本発明のホロ蛋白質を用いて発光強度を検出した場合、プロテインキナーゼ阻害剤であるスタウロスポリンにおける濃度依存的な発光強度の低下が認められ、MAPK1のリン酸化酵素活性阻害の定量的検出ができることが確認された。すなわちこの系がリン酸化酵素阻害物質スクリーニングとして有用であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、リン酸化酵素の阻害物質の特定を可能にすることにより、リン酸化酵素が関与する疾患の予防薬・治療薬の開発に役立つ。
【配列表フリーテキスト】
【0089】
[配列番号:1]ZZドメインのアミノ酸配列を示す。
[配列番号:2]配列番号:1で表されるアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列を示す。
[配列番号:3]アポイクオリンのアミノ酸配列を示す。
[配列番号:4]配列番号:3で表されるアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列を示す。
[配列番号:5]ZZ−アポイクオリンのアミノ酸配列を示す。
[配列番号:6]実施例1で用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:7]実施例1で用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:8]実施例1で用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:9]実施例1で用いられたプライマーの塩基配列を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸化酵素阻害物質のスクリーニング方法であって、当該方法が阻害候補物質を用いた時の発光強度Xと阻害候補物質を用いない時の発光強度Yとを比較して、発光強度Xが発光強度Yより低い場合に該阻害候補物質が該リン酸化酵素の活性を阻害する物質であることを確認する方法であり、かつ以下の(a)〜(e)のステップ:
(a)阻害候補物質の存在下で、基質である蛋白質又はペプチドのリン酸化が可能な条件において、該基質にリン酸化酵素を作用させるステップ、
(b)抗リン酸化抗体を、ステップ(a)でリン酸化酵素を作用させた基質と接触させるステップ、
(c)免疫グロブリン(以降IgGと略記)のFc領域に結合できる機能を有する領域及びカルシウム結合型発光蛋白質の領域が融合したホロ蛋白質を、ステップ(b)で作用させたリン酸化抗体−基質複合体と接触させるステップ、
(d)カルシウムを添加し、IgGのFc領域に結合できる機能を有する領域及びカルシウム結合型発光蛋白質の領域が融合したホロ蛋白質−抗リン酸化抗体−基質複合体から生じる、発光強度Xを検出するステップ、及び
(e)ステップ(a)において阻害候補物質を用いない以外は、ステップ(a)〜(d)と同様に操作を行い、発光強度Yを検出するステップ、
を含み、ここで該抗リン酸化抗体は、該リン酸化酵素によりリン酸化された基質に特異的に結合可能なものである、上記方法。
【請求項2】
前記基質が固体支持体に固相化されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記IgGのFc領域に結合できる機能を有する領域及びカルシウム結合型発光蛋白質の領域が融合したホロ蛋白質が、以下の(a)〜(d)からなる群から選択される第1の領域及び(e)〜(h)からなる群から選択される第2の領域を含有する融合蛋白質並びにセレンテラジンのペルオキシド又はセレンテラジン誘導体のペルオキシドとを含むホロ蛋白質である、請求項1又は2に記載の方法。
(1)第1の領域:
(a)配列番号:1のアミノ酸配列からなる領域、
(b)配列番号:1のアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が、欠失、置換、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつIgGのFc領域と結合することができる機能を有する領域、
(c)配列番号:1のアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつIgGのFc領域と結合することができる機能を有する領域、及び
(d)配列番号:2の塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなり、かつIgGのFc領域と結合することができる機能を有する領域。
(2)第2の領域:
(e)配列番号:3のアミノ酸配列からなる領域、
(f)配列番号:3のアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が、欠失、置換、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつセレンテラジンのペルオキシド又はセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してカルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する領域、
(g)配列番号:3のアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつセレンテラジンのペルオキシド又はセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してカルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する領域、及び
(h)配列番号:4の塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなり、かつセレンテラジンのペルオキシド又はセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してカルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する領域。
【請求項4】
前記IgGのFc領域に結合できる機能を有する領域及びカルシウム結合型発光蛋白質の領域が融合したホロ蛋白質が、以下の(a)〜(d)からなる群から選択される第1の領域と(e)〜(h)からなる群から選択される第2の領域を含有する融合蛋白質と、セレンテラジンのペルオキシド又はセレンテラジン誘導体のペルオキシドとを含むホロ蛋白質である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
(1)第1の領域:
(a)配列番号:1のアミノ酸配列からなる領域、
(b)配列番号:1のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が、欠失、置換、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつIgGのFc領域と結合することができる機能を有する領域、
(c)配列番号:1のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつIgGのFc領域と結合することができる機能を有する領域、及び
(d)配列番号:2の塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなり、かつIgGのFc領域と結合することができる機能を有する領域。
(2)第2の領域:
(e)配列番号:3のアミノ酸配列からなる領域、
(f)配列番号:3のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が、欠失、置換、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつセレンテラジンのペルオキシド又はセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してカルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する領域、
(g)配列番号:3のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつセレンテラジンのペルオキシド又はセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してカルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する領域、及び
(h)配列番号:4の塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなり、かつセレンテラジンのペルオキシド又はセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してカルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する領域。
【請求項5】
前記IgGのFc領域に結合できる機能を有する領域及びカルシウム結合型発光蛋白質の領域が融合したホロ蛋白質が、
(1)配列番号:1で表される第1のアミノ酸配列からなる領域及び、
(2)配列番号:3で表される第2のアミノ酸配列からなる領域
を含有する融合蛋白質並びにセレンテラジンのペルオキシド又はセレンテラジン誘導体のペルオキシドとを含むホロ蛋白質である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記IgGのFc領域に結合できる機能を有する領域及びカルシウム結合型発光蛋白質の領域が融合したホロ蛋白質が、配列番号:5のアミノ酸配列からなる融合蛋白質と、セレンテラジンのペルオキシド又はセレンテラジン誘導体のペルオキシドとを含むホロ蛋白質である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記リン酸化酵素が、MAPK1、MAPK2 、JNK、p38、Akt、Aurora A、Aurora B 、Aurora C、PKA 、MSK1 、PKC ε、CRIK 、NDR1 、DYRK1A 、Rsk2 、PIM1 、PAK1 、IKK α、JIL −1 、VRK1 、Snf1 、PBK /TOPK 、MNK1 、MNK2 、MRCK α、PAK2 、WNK2 、WNK3、AK、CK2、MBPK、cPK、及びcdKである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記抗リン酸化抗体が、リン酸化されたミエリン塩基性蛋白質を認識できるものである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記基質が、ミエリン塩基性蛋白質である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項3〜6のいずれか1項に記載の融合蛋白質、及び対象となるリン酸化酵素の基質を含む、リン酸化酵素阻害物質のスクリーニングのためのキット。
【請求項11】
前記基質がミエリン塩基性蛋白質である、請求項10に記載のキット。

【図1】
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【公開番号】特開2012−217376(P2012−217376A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85369(P2011−85369)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【Fターム(参考)】