説明

L−セリン代謝に関与する蛋白質をコードするコリネ型バクテリアのヌクレオチド配列並びにL−セリンの微生物による産生方法

本発明は、減少された又は排除されたL−セリンデヒドラターゼによってL−セリン代謝に関与するタンパク質をコードするコリネ型バクテリアのヌクレオチド配列並びに微生物及びL−セリンの産生方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減少された又は排除されたL−セリンデヒドラターゼによってL−セリン代謝に関与するタンパク質をコードするコリネ型バクテリアのヌクレオチド配列並びに微生物及びL−セリンの産生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸のL−セリンは、食品工業、飼料工業および医薬品工業並びにヒト用医薬品において使用される。さらに、このL−セリンは、工業的に価値のある他の生成物の合成、例えばインドール及びL−セリンからのL−トリプトファンの合成のための成分として利用される。
【0003】
L−セリンは菌株コリネ型バクテリアの発酵によって製造できることは公知である。例えば、菌株コリネバクテリウム グリシノフィルム(Corynebacterium glycinophilum)はグリシンおよび炭水化物からL−セリンを生成することができる(非特許文献1及び2 )。グリシンからL−セリンへの変換には、この場合に酵素のL−セリン−ヒドロキシメチルトランスフェラーゼが関与する(非特許文献3)。このコリネバクテリウム グリシノフィルム株は、非定方向の突然変異生成(undirected mutagenesis)を生じさせる不完全なデヒドラターゼを有する(非特許文献4)。この酵素活性はピリドオキサル5’-ホスフェートに依存し、分子的に特徴づけられない(非特許文献5)。同様に、微生物のセリンデヒドラターゼが陰性である、グリシンからL−セリンを製造する方法は特許文献1から公知である。
【0004】
さらに、L−セリンはメタノールとグリシンとからメチロトローフ細菌、例えばヒフォミクロビウム(Hyphomicrobium)菌株を用いて発酵産生される(非特許文献6)。両方の場合に、アミノ酸であるグリシンをアミノ酸であるL−セリンの生成用前駆体として使用しなければならない。
【0005】
さらに、他の前駆体を付加的に添加することなく、L−セリンを炭水化物から直接産生することができるコリネ型バクテリアは公知である。これはL−セリンを工業的規模で経済的に産生する場合に有利である。なぜならば前駆体の費用のかかる添加がなく、炭水化物からL−セリンを直接産生することができるからである。コリネバクテリウム グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)属に属するこの菌株は、例えばL−セリン−相同体のセリン−ヒドロキサマートおよびβ−クロロアラニンに対して耐性であり、そして非定方向の突然変異生成によって得られたことを示す。(非特許文献5)。
【0006】
さらに、非定方向の突然変異生成によりL−セリン−分解において欠失を有し、serAをコードする3−ホスホグリセラート−デヒドロゲナーゼの増加された活性を有し、かつ大腸菌(Escherichia coli)から由来する遺伝子serBおよびserCを過剰発現するブレビバクテリウム フラブム(Brevibacterium flavum)菌株は公知である(特許文献2)。
【特許文献1】米国特許第 4,528,273号明細書
【特許文献2】欧州特許第 0931833A2号明細書
【非特許文献1】Kubota K, Kageyama K, Shiro T und Okumura S (1971) Journal of General Applications in Microbiology, 17: 167-168。
【非特許文献2】Kubota K, Kageyama K, Maeyashiki I, Yamada K und Okumura S (1972) Journal of General Applications in Microbiology 18: 365。
【非特許文献3】Kubota K und Yokozeki K (1989) Journal of Fermentation and Bioengeneering, 67(6):387-390。
【非特許文献4】Kubota K (1985) Improved production of L-セリン by mutants of Corynebacterium glycinophylum with less serine dehydratase activity. Agricultural Biological Chemistry, 49:7-12。
【非特許文献5】Kubota K., Yokozeki K, Ozaki H. (1989) Effects of L-セリンe dehydratse activity on L-セリンe production by Corynebacterium glycinophylum and an examination of the properties of the enzyme. Agric. Biol. Chem 49:7-12。
【非特許文献6】Izumi Y, Yoshida T, Miyazaki SS, Mitsunaga T, Ohshiro T, Shiamo M, Miyata A und Tanabe T (1993) Applied Microbiology and Biotechnology, 39: 427-432。
【非特許文献7】Yoshida H und Nakayama K (1974) Nihon-Nogei-Kagaku-kaishi 48: 201-208。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、L-セリン又はこれに由来する代謝産物、たとえばトリプトファンの改良製造方法を導く手段を提供することにある。したがって本発明の課題は、L−セリンの代謝に関与する蛋白質(この蛋白質は野生型生物に由来する蛋白質に比べてL-セリンのピルビン酸(pyruvate)への分解が減少されているか又はこの分解が全くないことを示す)をコードする核酸を提供することにある。これに関連して、本発明の別の課題はL-セリンデヒドラターゼ 、並びに自然に生じるL-セリンデヒドラターゼ又はL-セリンデヒドラターゼを有する微生物に比べて L-セリンの減少された分解を示す微生物を提供することである。更に、本発明の課題は、L-セリン の微生物による改良産生法を提供することである。
【0008】
請求項1の上位概念から出発して、本発明によれば前記課題は、請求項1の特徴となる箇所に記載された構成要件によって解決される。さらに請求項7の上位概念から出発して、前記課題は、請求項7の特徴となる箇所に記載された構成要件によって解決される。また前記課題は請求項8の上位概念から出発して、請求項8の特徴となる箇所に記載された構成要件によって解決される。また前記課題は請求項9の上位概念から出発して、請求項9の特徴となる箇所に記載された構成要件によって解決される。また前記課題は請求項14の上位概念から出発して、請求項14の特徴となる箇所に記載された構成要件によって解決される。また前記課題は請求項20の上位概念から出発して、請求項20の特徴となる箇所に記載された構成要件によって解決される。更に、前記課題は請求項21の上位概念から出発して、請求項21の特徴となる箇所に記載された構成要件によって解決される。
【0009】
本発明による核酸及びポリペプチドを用いたならば、減少されたL-セリン分解を生じさせるか又はもはやこの分解が生じさせないL-セリンデヒドラターゼを産生することが可能である。更に、L-セリンを従来公知の微生物による方法に比べて高い収率で産生することができる微生物及び方法を提供することができる。
【0010】
別の利点は従属請求項に記載されている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の対象は、L-セリンデヒドラターゼ(以下SDAと略称する。)をコードするヌクレオチド配列が、一部又は完全に欠失又は突然変異しているか、あるいは自然に生じるヌクレオチド配列に比べて僅かに発現しているか又は全く発現していないことを特徴とする、コリネバクテリウム属の微生物中で複製可能な、場合により組換え型の核酸である。
【0012】
更に、本発明の対象は、sdaA 遺伝子配列が一部又は完全に欠失又は突然変異しているか、あるいは自然に生じるヌクレオチド配列に比べて僅かに発現しているか又は全く発現していない核酸を提供することである。たとえばSEQ ID No 1に従うヌクレオチド配列(そのヌクレオチドは位置506〜918が完全に又は一部欠失しているか又は突然変異している)、あるいはこのヌクレオチド配列の対立遺伝子、 相同体又は誘導体あるいはこれらとハイブリダイズするヌクレオチド配列である核酸が有利であることが分かった。更に、たとえば鉄-硫黄クラスターの生成に必要なシステインを含有する 配列モチーフの欠失又は突然変異が有利であることが分かった(Hofmeister 等, (1994) Iron-sulfur cluster-containing L-serine dehydratase from Peptostreptococcus asaccharolyticus: correlation of the cluster type with enzymatic acticvity. FEBS Letters 351: 416-418)。
【0013】
野生型 L-セリンデヒドラターゼ (sdaA) 遺伝子配列 は一般に知られていて、当業者に周知のデータバンク (NCBI Accession Nr. AP005279) 又は添付したSEQ ID No. 1にしたがう配列プロトコルから得ることができる。
【0014】
L-セリンデヒドラターゼ(sdaA)-遺伝子の完全な欠失を、たとえば 定方向(directed)組換えDNA-法によって達成することができる。これに適する方法は、 Schafer 等によって (Gene (1994) 145: 69-73) 又は Link 等によって (Journal of Bacteriology (1998) 179: 6228-6237) に記載されている。さらに、遺伝子の一部しか欠失させることができないか又は またL-セリンデヒドラターゼ-遺伝子の突然変異されたフラグメントを置き換えることができる。欠失又は置換によってL-セリンデヒドラターゼ-活性の損失又は減少を達成することができる。このような突然変異の例は、欠失がsdaA-遺伝子にあるC. glutamicum 株ATCC13032ΔsdaAである。
【0015】
sdaA-遺伝子の発現を制限するためにか又はより少ない発現を達成させるために、たとえばプロモータ及び構造遺伝子の上流に位置する調節領域を突然変異させることができる。同様な方法で、構造遺伝子のその上流にもたらされた発現調節カセットが作用する。調節可能なプロモータによって醗酵による L-セリン-生成の過程で発現を付加的に減少させることができる。しかしそれと共にたとえば m-RNA の安定性を減少させるので翻訳の調節も可能である。更に、僅かな活性を有する対応する酵素をコードする遺伝子を使用することができる。 あるいは更にL-セリンデヒドラターゼ-遺伝子の減少された発現を培地の組成及び培養条件の変化によって達成することができる。 特にMartin等(Bio/Technology 5, 137-146 (1987)), Guerrero 等 (Gene 138, 35-41 (1994)), Tsuchiya 及び Morinaga (Bio/Technology 6, 428-430 (1988)), Eikmanns 等 (Gene 102, 93-98 (1991)), 欧州特許第EPS 0 472 869号明細書, 米国特許第4,601,893号明細書, Schwarzer 及びPuhler (Bio/Technology 9, 84-87 (1991), Reinscheid 等(Applied and Environmental Microbiology 60, 126-132 (1994)), LaBarre 等 (Journal of Bacteriology 175, 1001-1007 (1993)) 及び国際公開(WO)第 96/15246号明細書を、当業者は参考にすることができる。
【0016】
本発明による核酸はコリネ型バクテリアから、好ましくはコリネバクテリウム属又はブレビバクテリウム属から、特に好ましくはコリネバクテリウムグルタミクムから単離されることによって特徴づけられる。
【0017】
菌株培養で寄託された野生型コリネ型バクテリアはたとえば以下のものである:
コリネバクテリウム アセトアシドフィラム(Corynebacterium acetoacidophilum )ATCC 13870;
コリネバクテリウム アセトグルタミクム(Corynebacterium acetoglutamicum) ATCC 15806;
コリネバクテリウム カルナエ(Corynebacterium callunae) ATCC 15991;
コリネバクテリウム グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)ATCC 13032;
ブレビバクテリウム ジバリカタム(Brevibacterium divaricatum)ATCC 14020;
ブレビバクテリウム ラクトフェルメタム(Brevibacterium lactofermentum)ATCC 13869;
コリネバクテリウム リリウム(Corynebacterium lilium) ATCC 15990;
ブレビバクテリウムフラバム(Brevibacterium flavum) ATCC 14067;
コリネバクテリウム メラセコラ(Corynebacterium melassecola) ATCC 17965;
ブレビバクテリウムサカロリルチクム(Brevibacterium saccharolyticum) ATCC 14066;
ブレビバクテリウムイマリオフィルム(Brevibacterium immariophilum) ATCC 14068;
ブレビバクテリウム ロセウム(Brevibacterium roseum)ATCC 13825;
ブレビバクテリウム チオゲニタリス(Brevibacterium thiogenitalis)ATCC 19240;
ミクロバクテリウムアンモニアフィルム(Microbacterium ammoniaphilum) ATCC 15354。
【0018】
L-セリンの産生に適当な突然変異体又は産生株の例は,アンスロバクター, シュードモナス, ノカルジア, メチロバクテリウム, ハイフォミクロビウム, アルカリゲネス又はクレブシエラの群から選ばれる微生物である。 本発明は前記菌株の記載によって詳細に特徴づけられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
核酸又は核酸フラグメントとは、本発明によればRNA 又は DNAのポリマーを意味し、当該ポリマーは1本鎖- 又は2本鎖であることができ、そして任意の天然の, 化学的に合成された, 改変された又は人工のヌクレオチドを有することができる。DNA-ポリマーなる用語はこの場合ゲノムDNA, cDNA 又はその混合物も含む。
【0020】
対立遺伝子とは本発明によれば機能同等物, すなわち実質上同様に作用するヌクレオチド配列を意味する。機能的の同等の配列は、異なるヌクレオチド配列にも拘わらず、たとえば遺伝暗号の変化の故に、まだ所望の機能を維持するような配列である。したがって機能同等物はここに記載した配列の自然に生じる変種(Variant)並びに合成の、たとえば化学合成によって得られ、そして場合により宿主細菌のコドン要求に適合したヌクレオチド配列を含む。
【0021】
機能同等物とは、更に所望の機能を示す本来の単離された配列の自然の又は人為的な突然変異も意味する。突然変異は、1種以上のヌクレオチド残基の置換,付加, 欠失, 交換(replacement)又は単離を含む。この場合いわゆるセンス突然変異(sense mutation)も含まれる。これは蛋白質レベル(protein plane)でたとえば保存されたアミノ酸の置換を生じさせることができが、このアミノ酸は蛋白質の活性の根本的変化を生じさせず、したがって機能的に中立である。これは、蛋白質の機能に著しく影響を与えずに蛋白質レベルで蛋白質の N-末端にかかわるヌクレオチド配列の改変を含む。
【0022】
本発明によれば、ヌクレオチド配列の改変によって対応する誘導体を生じるヌクレオチド配列も得られる。 このような改変の目的は、たとえばこれに含まれるコードされた配列の制限又はたとえば別の制限酵素-切断部位の挿入であってもよい。
【0023】
更に、合成DNA-配列が上述のように所望の性質を提供するならば、合成DNA-配列は本発明の対象である。このよう合成DNA-配列は、たとえばコンピュータサポートされたプログラム(分子モデリング)を用いて産生されたタンパク質の逆翻訳によって又はインビトロ選択により突き止めることができる。宿主細菌に対して特異的なコドン利用に従ってポリペプチド配列の逆翻訳により得られた、コードするDNA配列が特に適する。この特異的なコドン利用を、分子遺伝学的方法を熟知する当業者は、形質転換すべき生物の他の既に公知の遺伝子のコンピューター評価によって容易に突き止めることができる。
【0024】
相同配列とは、本発明の場合には、本発明によるヌクレオチド配列に相補的であり及び(又は)本発明によるヌクレオチド配列とハイブリダイズする配列を意味する。ハイブリダイズする配列の概念は、本発明の場合に、自体公知のストリンジェントな条件下で前記のヌクレオチド配列と特異的に相互作用(結合)する、DNAまたはRNAのグループからのほぼ類似のヌクレオチド配列を含む。これには、例えば10〜30、有利に12〜15のヌクレオチドの長さを有する短いヌクレオチド配列も含まれる。これは、本発明の場合に、特にいわゆるプライマーまたはプローブも含む。
【0025】
本発明の場合には、コードする領域(構造遺伝子)に先行する(5′−または上流の)配列領域及び(又は)後続する(3′−または下流の)配列領域も含まれる。特に、ここには調節機能を有する配列領域が含まれる。この配列領域は、転写、RNA安定化またはRNAプロセシング並びに翻訳に影響を及ぼすことができる。調節配列の例は、特にプロモーター、エンハンサー、オペレーター、ターミネーターまたは翻訳増幅因子である。
【0026】
更に、本発明の対象は, 少なくとも1種の前記ヌクレオチド配列並びに該ヌクレオチド配列に機能的に連結された調節配列(これは宿主細胞中でコードされた配列の発現をコントロールする)を含む、遺伝子構築物である。
【0027】
更に、本発明は前記種類のヌクレオチド配列、該ヌクレオチド配列に機能的に連結された調節配列並びに形質転換される宿主細胞の選択のための、宿主細胞中での複製のための又は対応する宿主細胞−ゲノム内への組み込みのための付加的なヌクレオチド配列を含む、ベクターに関する。更に本発明のベクターは、上記種類の遺伝子構築物を含むことができる。
【0028】
ベクターとしては、コリネ型バクテリア中で複製されるようなベクター、例えばpZ1(Menkel E, Thierbach G, Eggeling L, Sahm H., 1989, Appl Environ Microbiol 55(3): 684-688), pEKEx2 (Eikmanns 等, Gene 102: 93-98 (1991), 又はpXMJ19(Jacoby M., Burkovski A (1999) Construction ans application of new Corynebacterium glutamicum vectors. Biotechnol. Technique 13: 437-441)が適している。他のプラスミドベクターも同様に使用することができる。しかしながら、これらの列挙は本発明を制限するものではない。
【0029】
本発明による核酸配列の利用下で、対応するプローブまたはプライマーも合成することができ、かつたとえばPCR技術を用いて他の微生物、有利にコリネ型バクテリアから相同体遺伝子を増幅または単離するために使用される。
【0030】
本発明の対象は、従って、L−セリンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子の同定及び(又は)単離のためのプローブでもあり、その際このプローブは前記された種類の本発明による核酸配列から出発して製造され、かつ検出のための適当な標識を有している。このプローブは、本発明による配列の一部の断片、例えば保存領域からなる断片であることができ、この保存領域は例えば10〜30または有利に12〜15のヌクレオチドの長さを有し、かつストリンジェントな条件下で相同のヌクレオチド配列と特異的にハイブリダイズすることができる。適当な標識は、多数の文献から公知である。このための参考として当業者は、特にたとえばGaitのハンドブック: Oligonukleotide synthesis: a practical approach (IRL Press, Oxford, 英国、1984) 及び Newton 及びGraham: PCR (Spektrum Akademischer Verlag, Heidelberg, Deutschland, 1994) 又はたとえばハンドブック "The DIG System Users Guide for Filter Hybridization" Roche Diagnostics社 (マンハイム、ドイツ) 及び Liebl 等 (International Journal of Systematic Bacteriology (1991) 41: 255-260)を参照されたい。
【0031】
更に、本発明の対象は、野生型L-セリンデヒドラターゼに比べて減少されたL-セリン分解を示し, そして本発明の核酸配列又は前記種類のその変種をコードするL-セリンデヒドラターゼである。同様に、本発明はSEQ ID No 2 によるアミノ酸配列を有するL-セリンデヒドラターゼ, 又はL-セリンデヒドラターゼムテイン(Mutein)を含み、そのアミノ酸は位置135〜274が、たとえばDNA-レベルで定方向の突然変異生成の結果として, 変化しているか又はこのポリペプチド配列又はそのイソ型又はこれらからなる混合物の改変型である。“変化させる”とは、本発明の範囲で位置135 〜274のアミノ酸の完全な又は一部除去又は交換を意味する。
【0032】
イソ型とは、同一又は同等の基質特異性及び作用特異性を有する酵素を意味するが, これらは異なるプライマー構造を有する。
【0033】
改変された形状とは、その変化が配列で、たとえばポリペプチドのN末端又はC−末端で、または保存されたアミノ酸領域に存在するが、酵素の機能が損なわれていない本発明による酵素であることを意味する。この変化をアミノ酸交換の形で自体公知の方法で行うことができる。
本発明によるポリペプチドはコリネ型バクテリアから、好ましくはコリネバクテリウム属又はブレビバクテリウム属から、特に好ましくはコリネバクテリウムグルタミクム又はブレビバクテリウム型から、特に好ましくはコリネバクテリウムグルタミクムに由来するということによって特徴づけられる。菌株培養で寄託された野生型コリネ型バクテリアはたとえば以下のものである:
Corynebacterium acetoacidophilum ATCC 13870;
Corynebacterium acetoglutamicum ATCC 15806;
Corynebacterium callunae ATCC 15991;
Corynebacterium glutamicum ATCC 13032;
Brevibacterium divaricatum ATCC 14020;
Brevibacterium lactofermentum ATCC 13869;
Corynebacterium lilium ATCC 15990;
Brevibacterium flavum ATCC 14067;
Corynebacterium melassecola ATCC 17965;
Brevibacterium saccharolyticum ATCC 14066;
Brevibacterium immariophilum ATCC 14068;
Brevibacterium roseum ATCC 13825;
Brevibacterium thiogenitalis ATCC 19240;
Microbacterium ammoniaphilum ATCC 15354;
L-セリンの産生に適当な突然変異体又は産生株の例は,アンスロバクター, シュードモナス, ノカルジア, メチロバクテリウム, ハイフォミクロビウム, アルカリゲネス又はクレブシエラの群から選ばれる微生物である。 本発明は前記菌株の記載によって詳細に特徴づけられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
更に、本発明はL-セリンデヒドラターゼをコードするヌクレオチド配列を一部又は完全に欠失又は突然変異しているか又は天然に生じるヌクレオチド配列に比べて僅かに発現しているか又は全く発現していないことを特徴とする、遺伝子操作された微生物に関する。
【0035】
また、本発明は、sdaA-遺伝子配列が一部又は完全に欠失又は突然変異しているか、あるいは自然に生じるヌクレオチド配列に比べて僅かに発現しているか又は全く発現していないことを特徴とする、微生物に関する。
【0036】
同様に、本発明は複製可能な形で遺伝子構築物又は前記種類のベクターを含む遺伝子変化された微生物を含む。
【0037】
更に、本発明の対象は、前記ポリペプチドを有する遺伝子変化された微生物である。この微生物は対応する遺伝子変化されていない微生物に比べて僅かしか又は全くL-セリン分解を示さない。
【0038】
本発明の遺伝子変化された微生物は, コリネ型バクテリウム、好ましくはコリネバクテリウム属又はブレビバクテリウム属、特に好ましくはコリネバクテリウム グルタクム又はブレビバクテリウム フラブムの種であることを特徴とする。
【0039】
原則として、遺伝子は自体公知の方法により、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、短い合成ヌクレオチド配列(プライマー)を用いて増幅し、引き続き単離することができる。使用されたプライマーの製造は、一般に、この遺伝子の保存された領域中に生じる相同性に基づき公知の遺伝子配列を用いて及び(又は)調査すべき微生物のDNAのGC含有量を考慮に入れて行われる。
【0040】
コードするヌクレオチド配列を単離するための別の操作は、調査すべき生物のいわゆる欠失−突然変異体の相補性であって、この欠失−突然変異体は調査すべき遺伝子または対応するタンパク質の活性において少なくとも表現型で機能損失を示す。相補性とは、突然変異生成の前に、突然変異体の遺伝子欠失の保存および元の形状の実質的復元を意味し、これは調査すべき微生物からの機能的遺伝子または遺伝子フラグメントの導入により達成される。
【0041】
減少された又は排除された(ausgeschalteten )L-セリンデヒドラターゼを用いる欠失突然変異体又は突然変異体の産生のための典型的な突然変異生成法は、例えばバクテリア細胞の薬品、例えばN−メチル−N−ニトロ−N−ニトロソグアニジンによる処理またはUV照射である。突然変異を引き起こすためのこの種の方法は一般に公知であり、かつ特にMiller (A Short Course in Bacterial Genetics, A Laboratory Manual and Handbook for Escherichia coli and Related Bacteria (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1992)またはハンドブック“Manual of Methods for General Bacteriology”of the American Society for Bacteriology (Washington, D.C., USA, 1981)を参照することができる。
【0042】
更に、本発明は、L-セリンの微生物による産生方法において、L-セリンデヒドラターゼをコードする核酸を微生物中で一部又は全部欠失させるか又は突然変異させるか、あるいは自然に生じる核酸に比べて全く又は僅かにしか発現させず、この遺伝的に改変された微生物をL-セリンの微生物による産生に使用し、そして対応する産生されたL-セリンを培地から単離することを特徴とする、上記方法に関する。
【0043】
本発明により製造された遺伝的に改変された微生物は、連続的または不連続的にバッチ法(回分培養)(set cultivation)でまたはフェドバッチ法(流加法)でまたは反復フェドバッチ法(反復供給法)で、L−セリンの産生のために培養することができる。公知の培養法に関する要約は、Chmielの教本 (Bioprozesstechnik 1. Einfuhrung in die Bioverfahrenstechnik (Gustav Fischer Verlag, Stuttgart, 1991)) 又はStorhasの教本 (Bioreaktoren und periphere Einrichtungen (Vieweg Verlag, Braunschweig/Wiesbaden, 1994))に記載されている。
【0044】
使用すべき培地は、適当な方法でそれぞれの菌株の要求を満たさなければならない。種々の微生物の培地は、ハンドブック“Manual of Methods for General Bacteriology”of the American Society for Bacteriology (Washington D.C., 米国, 1981)に記載されている。炭素源として、糖および炭水化物、例えばグルコース、サッカロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、糖蜜、デンプンおよびセルロース、油および油脂、例えば大豆油、ヒマワリ油、落花生油およびココナッツ油、脂肪酸、例えばパルミチン酸、ステアリン酸およびリノール酸、アルコール、例えばグリセリンおよびエタノールおよび有機酸、例えば酢酸を使用することができる。これらの材料は、単独でまたは混合物として使用することができる。窒素源として、窒素含有の有機化合物、例えばペプトン、酵母抽出液、肉抽出液、麦芽抽出液、コーン泉水(corn spring water)、大豆粉末および尿素または無機化合物例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウムおよび硝酸アンモニウムを使用することができる。これらの窒素源は、単独でまたは混合物として使用することができる。リン源として、リン酸、リン酸水素カリウムまたはリン酸水素二カリウムまたは対応するナトリウム含有塩を使用することができる。この培地は、さらに増殖に不可欠な金属塩、例えば硫酸マグネシウムおよび硫酸鉄を含まなければならない。最終的に必須の増殖材料、例えばアミノ酸およびビタミンを、上記の材料に加えて使用することができる。この培地に、さらに適当な前駆体を添加することもできる。前記した使用物質は、培地に1回のバッチの形で添加することができるかまたは適当な方法で培養の間に添加することができる。この培地のpH制御のために、塩基性化合物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアもしくはアンモニア水または酸性化合物、たとえばリン酸または硫酸が適当な方法で添加される。気泡発生の制御のために、消泡剤、例えば脂肪酸ポリグリコールエステルを使用することができる。プラスミドの安定性を維持するために、この培地に適当な選択的に作用する物質、例えば抗生物質を添加することができる。好気性条件下に維持するために、酸素または酸素含有ガス混合物、例えば空気を培養に導入することができる。培養の温度は通常では約20℃〜45℃、有利に25℃〜40℃である。この培養は、L−セリンの最大値が生じるまで続けられる。この目標は、通常で10時間〜160時間の間に達成される。
【0045】
L−セリン生成の分析は、Spackman等、(Analytical Chemistry, 30, (1958), 1190)に記載されているようにアニオン交換クロマトグラフィーに引き続くニンヒドリン誘導化により、またはLindroth等、(Analytical Chemistry (1979) 51: 1167-1174)に記載されているように逆相HPLCにより行うことができる。
【0046】
本発明の対象である微生物は、L−セリンを、グルコース、サッカロース、ラクトース、マンノース、フルクトース、マルトース、糖蜜、デンプン、セルロースまたはグリセリンおよびエタノールから製造することができる。既に詳細に記載したこの代表物は、コリネ型バクテリアであることができる。発酵の結果の選択は表1に記載されている。この場合に、本発明により遺伝的に改変された微生物は、対応する形質転換されていない微生物(野生型)又は遺伝子挿入物不含ベクターしか含まない微生物に比べて、著しく改善されたL−セリン−産生を特徴とする。本発明の具体的な実施態様で、C. glutamicum ATCC 13032ΔpanBCΔsdaAが対照菌株に比べて培地中で少なくとも4倍増加したL−セリン蓄積を引き起こすことを示す(表1)。L−セリン生合成経路に有利に作用する他の遺伝子の通常の過剰発現によって、16倍増加したL−セリン−産生を達成することができる。
【0047】
アミノ酸−産生菌株とは、本発明の範囲内で、古典的方法及び(又は)分子生物学的方法により、物質代謝がアミノ酸またはその誘導体の生合成の方向へ増強されて進行するように変化されているコリネバクテリウム グルタミクム菌株または類似の微生物であることを意味する(代謝技術;metabolic engineering)。例えば、このアミノ酸産生菌株の場合に、この代謝経路において決定的なキーポジションまたは決定的に複合して調節するキーポジション(ボトルネック)にある1種以上の遺伝子及び(又は)その対応する酵素は、その調節作用において変更されているかまたは脱調節されている。本発明は、この場合に既に公知の全てのアミノ酸産生菌株、コリネバクテリウム属または類似の生物を有利に含む。さらに、本発明の場合に、当業者に同様の知識で他の微生物、例えば腸内細菌、バチルスまたは酵母−種から通常の方法により製造することができる産生菌株も含まれる。
【0048】
図面は、使用されるプラスミドの例並びに本発明の核酸又は微生物の使用後生じる実験結果を示す。
【0049】
図1: 組み込みプラスミドpK19mobsacB-DeltasdaA。
【0050】
プラスミドの外縁に示されたマークは、それぞれの制限切断部位を示す。 円内に示された位置は下記の遺伝子を示す:
kan カナマイシン耐性
sacB ショ糖
OriT 転移源
SdA’ sdaA 遺伝子の5’-末端
Sda” sdaA 遺伝子の3´-末端
図2: C. グルタミクム 13032ΔpanBC, クローン 1 (□,○) 及びC. グルタミクム13032ΔpanBC, クローン 2 (■,●)と比較されたC. グルタミクム13032ΔpanBCΔsdaA, クローン 1 (濃い黒色の□,○) 及びC. グルタミクム13032ΔpanBCΔsdaA, クローン 2 (濃い黒色の■,●) の増殖割合 (四角符号) 及び L-セリン-分解 (円形符号)。
【0051】
横座標 X は醗酵時間[h]を示す。縦座標Y1 は600 nmでの光学密度 (OD) として測定された微生物の増殖を示す。縦座標Y2 はL-セリン濃度(mM)を示す。
【0052】
図 3: 発現プラスミドpEC-T18mob2-serAfbrCB。
【0053】
プラスミドの外縁に示されたマークはそれぞれの制限切断部位を示す。円内に示された部位は、下記の遺伝子を示す:
SerC ホスホセリン トランスアミナーゼ
SerB ホスホセリン ホスファターゼ
Rep 複製源
Per パーティション細胞分配遺伝子(Partition Zellverteilungsgen)
Tet テトラサイクリン耐性遺伝子
RP4-mob 動員源(Mobilisationsursprung)
OriV DNA複製の源
SerA-fbr 3-ホスホグリセラートデヒドロゲナーゼ
【実施例】
【0054】
1. C. グルタミクムATCC13032 ΔpanBC のsdaA-欠失突然変異体の構築
コリネバクテリウムグルタミクムはヌクレオチド配列(Genbank-Accession-Nummer BAB99038; SEQ-ID-No. 1)を有し、これから 誘導されたポリペプチド-配列は記載された、大腸菌(NCBI-Accession-Nummer P16095)のl-セリンデヒドラターゼに対して40 %同一性を示す。Link 等(Link AJ, Phillips D, Church GM. Methods for generating precise deletions and insertions in the genome of wild-type Escherichia coli: application to open reading frame characterization. J Bacteriol. 1997 Oct;179(20):6228-37) 及びSchafer 等 (Gene 145: 69-73 (1994)) の方法に従う遺伝子に向けられた突然変異生成(gengerichtete Mutagenese)によって、C. グルタミクムのsdaA-遺伝子を欠失させた。更に次のプライマーをコリネバクテリアのsdaA-配列 (NCBI Accession-Nummer AP005279)から誘導した:
sdaA-1: 5’-TCGTGCAACTTCAGACTC-3’
(AP005279 ヌクレオチド73635 - 73653);
sdaA-2: 5‘-CCCATCCACTAAACTTAAACACGTCATAATGAACCCACC-3‘
(ヌクレオチド74121-74139に相補的なAP005279);
sdaA-3: 5‘-TGTTTAAGTTTAGTGGATGGGCCGACTAATGGTGCTGCG-3‘
(ヌクレオチド74553 - 74571に相補的なAP005279);
sdaA-4: 5‘-CGGGAAGCCCAAGGTGGT-3‘
(AP005279 ヌクレオチド 75044 -75062)
プライマー sdaA-1 及びsdaA-2 はそれぞれsdaA-遺伝子の開始及び末端に配置される。プライマー sdaA-2 及びsdaA-3 は、それぞれ相補的リンカー領域 (関連するテキスト参照)を有し,この領域は2段階PCR-処理 (クロスオーバーPCR)においてインビトロでsdaA-遺伝子中の欠失を生じさせることができる。C. グルタミクムの染色体DNAを用いる第一PCR-反応で、それぞれのプライマー組み合わせsdaA-1 とsdaA-2 並びにsdaA-3 とsdaA-4を使用した。このPCR反応を、30サイクルで、200 μMのデオキシヌクレオチドトリホスフェート(dATP, dCTP, dGTP、dTTP)、それぞれ600 nM の対応するオリゴヌクレオチドsdaA-1及びsdaA-4 並びに60 nMのオリゴヌクレオチドsdaA-2 及びsdaA-3, 100 ng のコリネバクテリウムグルタミクム ATCC13032の染色体DNA,10倍の反応緩衝液1/10容量および2,6単位の熱安定なTaq-/Pwo-DNA-ポリメラーゼ混合物(Expand High Fidelity PCR System der Firma Roche Diagnostics, マンハイム, ドイツ)の存在下で、サーモサイクラー(PTC-100, MJ Research, Inc., ウォタータウン, 米国)中で次の条件で実施した:94℃で30秒間、50℃で30秒間および72℃で40秒間。
【0055】
72℃での伸長段階は10サイクル後1サイクルあたり約5 秒まで延長された。PCR-反応後、得られるDNA-フラグメント(これらはそれぞれ長さ500 bpを有する)をQIAExII ゲル抽出キット (キアゲン社)を用いて製造者の指示書にしたがって0,8 % アガロースゲルから単離し, そして2つのフラグメントを鋳型として第二PCRに使用した。プライマーとしてプライマー sdaA-1 及びsdaA-4を使用した。この場合反応を35 サイクルで200 μMのデオキシヌクレオチドトリホスフェート, それぞれ600 nMの対応するオリゴヌクレオチド,第一PCRからの、それぞれ20 ngの単離された鋳型DNA, 1/10容量の 10-倍反応緩衝液及び2,6単位のTaq-/Pwo-DNA-ポリメラーゼ混合物の存在下に次の条件下で行った: 94°Cで30秒間, 50°Cで30秒間及び72°Cで80秒間。更に伸長段階を10サイクルの後それぞれ約5秒延長させた。PCR-反応の後、得られる長さ1000 bpのDNA-フラグメント(長さ420 bpの中心欠失(zentralen Deletion)を有する不活性化されたsdaA-遺伝子を含む)を、0,8 %igen アガロースゲルから単離し、ついで平滑末端でSure Clone-Kits (Amersham Pharmacia Biotech)を用いて、C. グルタミクム中でなく大腸菌中でしか複製することができない不活性ベクター pK19mobsacB (Schafer 等 Gene 145: 69-73 (1994)の SmaI-切断部位にクローン化した。得られるプラスミドpK19mobsacB_ΔsdaA (図1)を、制限マッピングによって正確さについて調べた。クローニングを大腸菌株DH5αmcr (Grant 等, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America USA (1990) 87: 4645-4649)中で行った。
【0056】
ついでプラスミドを、C. グルタミクム13032ΔpanBC (Radmacher E, Vaitsikova A, Burger U, Krumbach K, Sahm H, Eggeling L. Linking central metabolism with increased pathway flux: L-valine accumulation by Corynebacterium glutamicum. Appl Environ Microbiol. 2002 68(5):2246-50) 中にエレクトロポレイションによって挿入し、ついでベクターの組み込みを選択させた。この菌株はパントテン酸(Pantothenat)生合成遺伝子panB 及びpanC の欠失の結果としてパントテン酸栄養要求性であり、そしてパントテン酸制限下でピルビン酸の強化された蓄積によって約50 mMのアラニン及び8 mMのバリンを産生する点で優れている。更に、この菌株は約100 μM のL-セリンを生じ、したがってL-セリン産生の構築用出発菌株として適する。不活性ベクターをゲノムに組み込むことによって、C. グルタミクム 13032ΔpanBCのカナマイシン耐性クローンが得られた。ベクターの切断を選択するために、カナマイシン耐性クローンを、15 g/l 寒天, 2% グルコース/ 10% サッカロース)を有するサッカロース含有LB-培地((Sambrook 等, Molecular cloning. A laboratory manual (1989) Cold Spring Harbour Laboratory Press)上で平板培養し、べクターが第二組換えイベント(Jager 等 1992, Journal of Bacteriology 174: 5462-5465)によって再度失われたコロニーが得られた。これらのクローンのうちの2つ(そのヌクレオチドは位置506〜918が欠失したsdaA-遺伝子を有し、以下13032ΔpanBCΔsdaAを クローン 1と、そして13032ΔpanBCΔsdaAをクローン 2と表示する)を次の試験に使用した。
【0057】
2. sdaA-欠失のL-セリン-分解への影響
次に, 欠失sdaA-遺伝子が実際にL-セリン-分解に関与するかどうかを調べる。このために、増殖実験を最小培地(Keilhauer 等, Journal of Bacteriology 175 (1993) 5595-5603)上で、菌株C. グルタミクム 13032ΔpanBCΔsdaAの2つのクローンそれぞれを用いて菌株 C. グルタミクム 13032ΔpanBCと比べて行った。上記培地は さらに2 % グルコース, 1 μM パントテン酸及び100 mM L-セリンを含む。増殖及びL-セリンの消費を追跡した。その結果は図2に表す。
【0058】
図2の結果から、sdaA-遺伝子の欠失がL-セリンの約40 % 減少された分解を生じさせることが分かった。
【0059】
3. sdaA-遺伝子の欠失のL-セリン生成への影響
L-セリン-生成にL-セリンデヒドラターゼ遺伝子の欠失がどうような影響をあたえるか調べるために, 菌株13032ΔpanBCΔsdaA (クローン1, クローン 2) 及び13032ΔpanBC (クローン1, クローン2)をプラスミド
pEC-T18mob2-serAfbrserCserB を用いて形質転換した。プラスミド(図 3) はベクターpEC-T18mob2 (Tauch, A., Kirchner, O., Loffler, B., Gotker, S., Puhler, A. and Kalinowski,J. Efficient Electrotransformation of Corynebacterium diphtheriae with a Mini-Replicon Derived from the Corynebacterium glutamicum Plasmid pGA1. Curr. Microbiol. 45 (5), 362-367 (2002)), コリネバクテリア性遺伝子serAfbr(Peters-Wendisch P, Netzer R, Eggeling L, Sahm H. 3-Phosphoglycerate dehydrogenase from Corynebacterium glutamicum: the C-terminal domain is not essential for activity but is required for inhibition by L-serine. Appl Microbiol Biotechnol. 2002 Dec;60(4):437-41), 並びにserC及びserB (ドイツ特許出願第100 44 831.3号明細書、2000年9月11日)から一緒に生成される。 エレクトロポレーションを行った後、菌株 13032ΔpanBCΔsdaApserAfbrCB 及び13032ΔpanBCpserAfbrCBが得られた。L-セリン産生を調べるために、2つの菌株 13032ΔpanBCΔsdaApserAfbrCB 及び13032ΔpanBCpserAfbrCB を複合培地( 2% グルコース及び5 μg/l のテトラサイクリンを有するCgIII) 中で培養し, ついで醗酵培地CGXII (J Bacteriol (1993) 175: 5595-5603) それぞれに前培養物から植菌する。この培地は更に50 μg/lのカナマイシン及び1 μMのパントテン酸を含む。コントロールとして2つの出発菌株 13032ΔpanBC及び13032ΔpanBCΔsdaAを同一方法で培養するが, 培地はテトラサイクリンbを含まない。 それぞれ少なくとも2つの独自の醗酵を行った。30 分間30°Cで 120 Upmで回転振とう機上で培養した後、培地中に蓄積したL-セリンの量を測定した。アミノ酸濃度の測定は高圧液体クロマトグラフィー (J Chromat (1983) 266: 471-482)を用いて行われた。醗酵の結果を表1に示し, そしてこれから、L-セリン-生合成遺伝子serAfbr, serC 及びserB が過剰発現されるかどうかに関係なく、L-セリンデヒドラターゼの排除が培地中でのL-セリン-蓄積の4-倍の増加を生じさせるが分かる。しかし L-セリン-生合成遺伝子 serAfbr, serC 及びserBの過剰発現は、培養上澄み中でのL-セリン-蓄積の16倍の増加を生じさせる。したがって構築された及び記載された欠失突然変異体ΔsdaA の使用がL-セリン生成を決定的に改善するための方法である。
表1: 遺伝子serAfbr, serC 及びserBの発現後、コリネバクテリウムグルタミクム 13032ΔpanBC 及び13032ΔpanBCΔsdaA の培養上澄み中のL-セリンの蓄積
【0060】
【表1】

【0061】
4. L-セリンデヒドラターゼ-活性の測定
L-セリンデヒドラターゼ-活性の測定のために、野生型菌株WT pXMJ19 (Jacoby M., Burkovski A (1999) Construction ans application of new Corynebacterium glutamicum vectors. Biotechnol. Technique 13: 437-441), 過剰発現菌株WT pXMJ19_sdaA 及び欠失菌株ΔsdaApXMJ19をKeilhauer 等, (1993)記載されているようなCgXII-最小培地中で培養した。この培地は30 mg/lの プロトカテキュ酸, 100 mMのグルコース及び100 mMのL-セリンを含む。細胞を1 mM のイソプロピル-ベータ-D-チオガラクトピラノサイドの存在下に培養し、指数的な増殖期で光学密度6-8(スペクトロフォトメータPharmacia Biotech ultrospec 3000で測定)で採取した。ついでこれを10 分間4500 rpm及び4°Cで遠心分離し, 50 mM のN-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N'-2-エタンスルホン酸-緩衝液(pH 8,0) に浮遊させ, ついで新たに遠心分離した。その後、細胞を50 mMのN-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N'-2-エタンスルホン酸-緩衝液(pH 8,0), 1 mMのFeSO4 及び10 mMのジチオスレイトール中に取った。細胞崩壊を超音波処理 (Branson sonifier 250; 負荷サイクル 25%, 出力制御 2,5, 10 分) によって氷上で行った。L-セリンデヒドラターゼ-活性の測定のために、 反応混合物は50 mMのN-2-ヒドロキシエチル-ピペラジン-N'-2-エタンスルホン酸 -緩衝液(pH 8,0), 10 mMのジチオスレイトール及び10-100 μl 粗抽出物を含有する。セリンから生成されたピルビン酸の検出を(Ohmori 等, 1991)に記載されているように行った。反応を50 mMのL-セリンの添加によって開始し、ついで10 分後1,2-ジアミノ-4,5-ジメトキシ-ベンゼン試薬を1:1の比率で添加することによって停止させた。この試薬は、Ohmori 等, 1991に記載されている様に、42,4 mlのH2O, 3,5 mlのβ-メルカプトエタノール及び4,1 ml HCl (37%ig)中に溶解された4 mg の1,2-ジアミノ-4,5-ジメトキシベンゼンからなる。ついでインキュベーションを2時間102°Cの乾燥熱で行った。ピルビン酸から生じる2-ヒドロキシ-6,7-ジメトキシ-3-メチルキノキサリン誘導体の検出及び定量化を 高圧液体クロマトグラフィー(同様にOhmori 等, 1991に記載されているように)を用いて行った。 粗抽出物中の蛋白質測定を、Bradford法(Bradford, 1976) に基づく蛋白質アッセイ (Fa. Bio-Rad)によって行った。 3つの菌株の測定された特異的L-セリンデヒドラターゼ活性を、表2に示す。
【0062】
表2:誘発する条件下で、菌株13032 WT pXMJ19_sdaA (過剰発現), 13032 WT pXMJ19 (ベクター不含野生型) 及び13032 ΔsdaA pXMJ19 (ベクター不含欠失突然変異)中のL-セリンデヒドラターゼ特異活性
【0063】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は組み込みプラスミドpK19mobsacB-DeltasdaAを示す。
【図2】図2はC. グルタミクム13032ΔpanBC, クローン 1 (□,○) 及びC. グルタミクム13032ΔpanBC, クローン 2 (■,●)と比較されたC. グルタミクム13032ΔpanBCΔsdaA, クローン 1 (濃い黒色の□,○) 及びC. グルタミクム13032ΔpanBCΔsdaA, クローン 2 (濃い黒色の■,●) の増殖割合 (四角符号) 及び L-セリン-分解 (円形符号)を示す。
【図3】図3は、発現プラスミドpEC-T18mob2-serAfbrCBを示す。
【配列表】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
L-セリンデヒドラターゼをコードするヌクレオチド配列が、一部又は完全に欠失又は突然変異しているか、あるいは自然に生じるヌクレオチド配列に比べて僅かに発現しているか又は全く発現していないことを特徴とする、コリネバクテリウム属の微生物中で複製可能な、場合により組換え型の核酸。
【請求項2】
sdaA-遺伝子配列が一部又は完全に欠失又は突然変異しているか、あるいは自然に生じるヌクレオチド配列に比べて僅かに発現しているか又は全く発現していない、請求項1記載の核酸。
【請求項3】
SEQ ID No 1に従うヌクレオチド配列(そのヌクレオチドは位置506〜918が完全に又は一部欠失しているか又は突然変異している)、あるいはこのヌクレオチド配列の対立遺伝子、 相同体又は誘導体あるいはこれらとハイブリダイズするヌクレオチド配列である、請求項1又は 2記載の核酸。
【請求項4】
コリネ型バクテリアから単離される、請求項1 〜3のいずれか1つに記載の核酸。
【請求項5】
コリネバクテリウム又はブレビバクテリウムから単離される、請求項1 〜 4のいずれか1つに記載の核酸。
【請求項6】
コリネバクテリウムグルタミクム又はブレビバクテリウムフラバムから単離される、請求項1 〜5のいずれか1つに記載の核酸。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の少なくとも1種のヌクレオチド配列並びに該ヌクレオチド配列に機能的に連結された調節配列を含む、遺伝子構築物。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の少なくとも1種のヌクレオチド配列または請求項7記載の遺伝子構築物並びに、選択のための、宿主細胞中での複製のための又は宿主細胞−ゲノム内への組み込みのための付加的なヌクレオチド配列を含む、ベクター。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の核酸をコードする、減少したL-セリンデヒドラターゼ活性を有するL-セリンデヒドラターゼ。
【請求項10】
SEQ ID NO 2に従うアミノ酸配列(そのアミノ酸は位置135 〜 274が変化している)を有するか、又はこのポリペプチド配列の改変型又はそのイソ型を有する、請求項9記載のL-セリンデヒドラターゼ。
【請求項11】
コリネ型バクテリアに由来する、請求項9又は10記載のL-セリンデヒドラターゼ。
【請求項12】
コリネバクテリウム又はブレビバクテリウムに由来する、請求項9
〜11のいずれか1つに記載のL-セリンデヒドラターゼ。
【請求項13】
コリネバクテリウムグルタミクム又はブレビバクテリウムフラバムに由来する、請求項9 〜12のいずれか1つに記載のL-セリンデヒドラターゼ。
【請求項14】
L-セリンデヒドラターゼをコードするヌクレオチド配列が、一部又は完全に欠失しているか又は突然変異している、あるいは自然に生じるヌクレオチド配列に比べて僅かに発現しているか又は全く発現していないことを特徴とする、微生物。
【請求項15】
sdaA-遺伝子が一部又は完全に欠失又は突然変異しているか、あるいは自然に生じるsdaA-遺伝子に比べて僅かに発現しているか又は全く発現していない、請求項14記載の微生物。
【請求項16】
複製可能な形の、請求項1 〜6のいずれか1つに記載の核酸, 請求項7記載の遺伝子構築物, 請求項8記載のベクター又は請求項9 〜13のいずれか1つに記載のポリペプチドを含む、請求項14 又は15記載の微生物。
【請求項17】
コリネ型バクテリアである、請求項14 〜16のいずれか1つに記載の微生物。
【請求項18】
コリバクテリウム属又はブレビバクテリウム属に属する、請求項14 〜17のいずれか1つに記載の微生物。
【請求項19】
コリネバクテリウムグルタミクム又はブレビバクテリウムフラバムに属する、請求項14 〜18のいずれか1つに記載の微生物。
【請求項20】
L−セリンの生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子を同定及び(又は)単離するプローブにおいて、該プローブが請求項1〜6いずれか1つに記載の核酸から出発して製造され、そして検出のために適当な標識を含むことを特徴とする、プローブ。
【請求項21】
微生物によるL−セリンの産生方法において、
a) L-セリンデヒドラターゼをコードする核酸を、微生物中で一部又は全部欠失又は突然変異させるか、あるいは自然に生じる核酸に比べて僅かに発現させるか又は全く発現させず、
b) 工程a)からの、この遺伝的に改変された微生物を、微生物による産生のために使用し、そして
c) 産生されたL−セリンを培地から単離することを特徴とする、
上記L−セリンの産生方法。
【請求項22】
sdaA-遺伝子配列を一部又は完全に欠失又は突然変異させるか、あるいは自然に生じるヌクレオチド配列に比べて僅かに発現させるか又は全く発現させない、請求項21記載の方法。
【請求項23】
SEQ ID No 1に従うヌクレオチドを、位置506〜918で完全に又一部欠失又は突然変異させるか、あるいは自然に生じるヌクレオチド配列に比べて僅かに発現させるか又は全く発現させない、請求項21又は22記載の方法。
【請求項24】
微生物をコリネバクテリウム、ブレビバクテリウム、アンスロバクター, シュードモナス, ノカルジア, メチロバクテリウム, ハイフォミクロビウム, アルカリゲネス又はクレブシエラの群から使用する、請求項21〜 23のいずれか1つに記載の方法。
【請求項25】
請求項1 〜6のいずれか1つに記載の核酸, 請求項7記載の遺伝子構築物又は請求項8記載のベクターを含む、請求項21 〜 24のいずれか1つに記載の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQ ID NO 2に従うアミノ酸配列(そのアミノ酸は位置135 〜 274が変化している)を含むか、又はこのポリペプチド配列の改変型又はそのイソ型を含む、減少されたL-セリンデヒドラターゼ活性を有するL-セリンデヒドラターゼ。
【請求項2】
コリネ型バクテリアに由来する、請求項1記載のL-セリンデヒドラターゼ。
【請求項3】
コリネバクテリウム又はブレビバクテリウムに由来する、請求項1又は2記載のL-セリンデヒドラターゼ。
【請求項4】
コリネバクテリウムグルタミクム又はブレビバクテリウムフラバムに由来する、請求項1 〜3のいずれか1つに記載のL-セリンデヒドラターゼ。
【請求項5】
L-セリンデヒドラターゼをコードするヌクレオチド配列が、一部又は完全に欠失しているか又は突然変異している、あるいは自然に生じるヌクレオチド配列に比べて僅かに発現しているか又は全く発現してなく、そしてsdaA-遺伝子が一部又は完全に欠失又は突然変異しているか、あるいは自然に生じるsdaA-遺伝子に比べて僅かに発現しているか又は全く発現していないことを特徴とする、微生物。
【請求項6】
複製可能な形の、請求項4記載の核酸, 請求項4記載の核酸又は遺伝子構築物を含む遺伝子構築物及び(又は)ベクターあるいは請求項1 〜4のいずれか1つに記載のポリペプチドを含む、請求項5記載の微生物。
【請求項7】
コリネ型バクテリアである、請求項5又は6記載の微生物。
【請求項8】
コリバクテリウム属又はブレビバクテリウム属に属する、請求項5 〜7のいずれか1つに記載の微生物。
【請求項9】
コリネバクテリウムグルタミクム又はブレビバクテリウムフラバムに属する、請求項5 〜8のいずれか1つに記載の微生物。
【請求項10】
微生物によるL−セリンの産生方法において、
a) L-セリンデヒドラターゼをコードする核酸を、微生物中で一部又は全部欠失又は突然変異させるか、あるいは自然に生じる核酸に比べて僅かに発現させるか又は全く発現させず、
b) 工程a)からの、この遺伝的に改変された微生物を、微生物による産生のために使用し、そして
c) 産生されたL−セリンを培地から単離することを特徴とする、
上記L−セリンの産生方法。
【請求項11】
sdaA-遺伝子配列を一部又は完全に欠失又は突然変異させるか、あるいは自然に生じるヌクレオチド配列に比べて僅かに発現させるか又は全く発現させない、請求項10記載の方法。
【請求項12】
SEQ ID No 1に従うヌクレオチドを、位置506〜918で完全に又は一部欠失又は突然変異させるか、あるいは自然に生じるヌクレオチド配列に比べて僅かに発現させるか又は全く発現させない、請求項10又は11記載の方法。
【請求項13】
微生物をコリネバクテリウム、ブレビバクテリウム、アンスロバクター, シュードモナス, ノカルジア, メチロバクテリウム, ハイフォミクロビウム, アルカリゲネス又はクレブシエラの群から使用する、請求項10〜 12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
請求項1 〜6のいずれか1つに記載の核酸, 請求項7記載の遺伝子構築物又は請求項8記載のベクターを含む、請求項10 〜 13のいずれか1つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−519598(P2006−519598A)
【公表日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504233(P2006−504233)
【出願日】平成16年2月12日(2004.2.12)
【国際出願番号】PCT/DE2004/000248
【国際公開番号】WO2004/081166
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【出願人】(390035448)フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (100)
【Fターム(参考)】