説明

LCD廃パネルの液晶回収方法と装置

【課題】廃パネルから液晶を連続的に回収する方法および当該方法に使用する装置を提供する。
【解決手段】(i)LCD廃パネルを砕き、砕いたLCD廃パネルを溶剤に浸漬して、溶剤中にLCD廃パネルの液晶とセル材料とを溶解させて、抽出液を形成する工程と;(ii)前記セル材料の溶解度を低下させるために前記抽出液を冷却し、ろ過及び吸着により、前記抽出液からセル材料を容易に取り除く工程と;(iii)前記抽出液を加熱して溶剤蒸気を形成し、溶剤蒸気を凝縮して回収溶剤を形成する工程と;(iv)砕いたLCD廃パネルを回収溶剤中に浸漬して、抽出液を形成する工程と;(v)砕いたLCD廃パネル中に液晶がなくなるまで、工程(ii)から(iv)を繰り返す工程、および上述の方法を実行する回収装置であり、回収液晶は残留溶剤量及び不純物含有比率が低く、回収率が95%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年8月11日出願の台湾特許出願第097130508号、2009年7月28日出願の台湾特許出願第098125319号、および、2008年12月31日出願の韓国特許出願第10−2008−0137744号の優先権を主張し、これらの全ては参照することにより本明細書に含まれる。
【背景技術】
【0002】
本発明は、LCD廃パネルの液晶回収方法と装置に関するものであって、特に、抽出した液晶の再生利用(recycling extraction)に関する。
【0003】
液晶ディスプレイ(以下、LCDと称することがある)は、薄型、軽量、低消費電力で、放射性がなく、また、半導体プロセスとの互換性等の長所があるので、LCDの使用量、生産量、および、廃棄量は劇的に増加している。液晶廃棄物の長期に渡る悪影響は不明であるが、液晶を備えたLCDパネルの焼却、或いは、埋め立ては、環境を汚染する可能性がある。LCDパネルにおいて液晶が占める割合はわずか0.1質量%〜0.2質量%であるが、この液晶の存在によりLCDガラスパネルの再利用が妨げられている。更に、台湾は、現在、世界でも有数のLCDパネル生産国であり、2003年に欧州連合により制定された廃電気電子機器指令(Waste Electrical and Electronics Equipment Directive、WEEE)では、生産者と売り手は、製造、販売した製品を再利用することが要求されている。将来、LCD廃パネル量は増加することが予測されており、また、LCD廃パネルからの効率的な液晶の回収や、回収した液晶の再利用は、経済的な効果と環境保護を実現する。
【0004】
近年、廃パネルの取り扱いに関する多くの特許が公開されている。特許文献1(特開2001−337305号公報)では、偏光板を手で剥離し、封止剤を切断した後、パネルを粉砕し、その後、パネルの液晶を溶剤洗浄により回収している。この方法は、予め、偏光板および封止剤を除去しておかなければならず複雑であり、さらに、溶剤洗浄には多量の溶剤を消費する。
【0005】
特許文献2(特開2002−166259号公報)では、液晶を熱水に溶解させ、その後、液晶溶解液を室温に冷却することにより、水から液晶を分離している。しかしながら、本発明者らは、多くの液晶が温水に溶解し難いこと、また、当該方法は低収率の液晶を回収するのに、多くの熱を消費することを見出している。
【0006】
特許文献3(特開2002−254059号公報)では、水中で、廃液晶パネルを電気的な分離(electro-separation)により粉砕して、廃パネルの液晶を溶剤で洗浄している。ここでは、超音波処理や攪拌により液晶の溶解が支援され、その後、液晶溶液の溶剤を乾燥させて液晶を回収している。電気的な分離による廃パネルの粉砕の後、廃パネルのセル材料(封止剤、カラーフィルター、スペーサー、ITOフィルム、ブラックマトリクスおよびPIなどを含む)は前記溶剤に溶解させられる。しかしながら、この方法では、溶剤に溶解したセル材料の問題や、液晶の精製法については言及されていない。すなわち、回収された液晶には、多くのセル材料が含まれており、この回収液晶をそのまま再利用することはできない。
【0007】
特許文献4(台湾特許出願公開2004−04884号明細書)では、まず、廃パネルの封止剤を除去し、次いで、液晶を、溶剤に溶解させ、あるいは、ブロー(blowing)または遠心分離機により収集している。その後、真空蒸留により液晶中の不純物を除去し、あるいは、吸着剤により液晶中のイオン成分を除去している。そして、最後に、回収液晶は、原料の液晶組成物に相当する液晶モノマーに加えられている。この方法では、汚染防止のため、予め封止剤を除去しなければならず複雑である。また、精製はクロマトグラフィーにより行われており、液晶モノマーの追加なしで、回収液晶をそのまま再利用することはできない。したがって、この方法は複雑であり、高コストである。
【0008】
特許文献5(特開2006−089605号公報)では、極性溶媒と非極性溶媒との混合溶媒により廃パネルから取り出された液晶を、クロマトグラフィーにより精製している。クロマトグラフィーは、大量の再生利用には不向きであり、また、回収された液晶を再利用するには、液晶モノマーを回収液晶に追加しなければならない。
【0009】
特許文献6(特開2006−184376号公報)では、廃パネルに含まれる液晶と有機物を、真空加熱により気化させており、キャリヤーガス、気化した液晶、および、気化した有機物を、凝縮により分離している。この方法では、廃パネルを直接粉砕しないため、真空加熱により、液晶とセル材料のような他の有機物とが同時に廃パネルから回収される。この方法にも、回収液晶の精製方法については何ら記載されておらず、したがって、回収液晶には、多量のセル材料が含まれており、この回収液晶をそのまま再利用することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−337305号公報
【特許文献2】特開2002−166259号公報
【特許文献3】特開2002−254059号公報
【特許文献4】台湾特許出願公開2004−04884号明細書
【特許文献5】特開2006−089605号公報
【特許文献6】特開2006−184376号公報
【特許文献7】台湾特許第I282359号明細書
【特許文献8】台湾特許I297282号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、上記特許文献に記載の方法には、工程が複雑である、特定の液晶のみ使用可能である、あるいは、液晶の組成比が変化するといった問題点があり、上記開示の方法には、更なる改善の余地があった。したがって、本発明は、廃パネルから液晶を連続的に回収する方法および当該方法に使用する装置を提供する。本発明は、市販されている多くの液晶パネルの処理に適用できる。また、回収された液晶は、不純物含有量が低く、且つ、元の液晶と同様の組成を有する。さらに、特許文献7(台湾特許第I282359号明細書)、特許文献8(台湾特許I297282号明細書)に開示の方法により精製された回収液晶は、いかなる液晶モノマーも追加することなく、そのまま再利用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、(i)LCD廃パネルを砕き、砕いたLCD廃パネルを溶剤に浸漬して、LCD廃パネルの液晶とセル材料とを溶解させて、抽出液を形成する工程;(ii)セル材料の溶解度を低下させるため前記抽出液を冷却し、次いで、前記抽出液をろ過して、吸着する工程;(iii)前記抽出液を加熱して溶剤蒸気を形成し、この溶剤蒸気を凝縮して回収溶剤を形成する工程;(iv)砕いたLCD廃パネルを前記回収溶剤中に浸漬させて、抽出液を形成する工程;および、(v)砕いたLCD廃パネル中に液晶がなくなるまで前記工程(ii)から工程(iv)を繰り返し、抽出液中の溶剤を除去して回収液晶を得る工程を含む、LCD廃パネルの液晶回収方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、LCD廃パネルの液晶回収装置を提供する。当該LCD廃パネルの液晶回収装置は、底面の下側にろ過−吸着装置を有する抽出タンク;前記抽出タンク内、または、ろ過装置とろ過−吸着装置との間に備えられた温度制御装置;収集タンクを加熱するための加熱装置を有する収集タンク;前記抽出タンク上部に備えられ、前記抽出タンクに接続されている第1貯留タンク;前記抽出タンクと前記ろ過−吸着装置の下部に備えられた第2貯留タンク;収集タンクと抽出タンクのそれぞれに接続され、前記収集タンク及び前記抽出タンクの上部に備えられた凝縮装置とを有し、前記抽出タンク、収集タンク、および、第2貯留タンクは、それぞれ、パイプにより3方向バルブに接続されており、且つ、前記ろ過−吸着装置は、抽出タンクと3方向バルブとの間に備えられている。
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施態様を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明は、次の詳細な説明や、添付図面に合わせて付された参照記号とともに実施例を読むことにより充分に理解される。
【図1】図1は、本発明のLCD廃パネルの液晶の回収工程の実施態様の一つを示すフローチャートである。
【図2】図2は、本発明のLCD廃パネルの液晶の回収装置の一実施態様を示す図である。
【図3】図3は、本発明の実験例1における元の液晶TN−Q1のGCMSスペクトル図である。
【図4】図4は、本発明の実験例1における回収液晶のGCMSスペクトル図である。
【図5】図5は、本発明の実験例1の冷却、ろ過−吸着工程後の回収液晶のGCMSスペクトル図である。
【図6】図6は、本発明の実験例2における回収液晶のGCMSスペクトル図である。
【図7】図7は、本発明の実験例3における元の液晶VA−C1のGCMSスペクトル図である。
【図8】図8は、本発明の実験例3における回収液晶のGCMSスペクトル図である。
【図9】図9は、本発明の実験例4における元の液晶VA−C2のGCMSスペクトル図である。
【図10】図10は、本発明の実験例4における回収液晶のGCMSスペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
下記説明は、本発明を実施するための最良の形態と考えられるものである。当該説明は、本発明の一般的原理の説明を目的とするものであって、本発明を限定するものではない。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲により定められる。
【0017】
図1は、廃LCDパネルから液晶を回収する本発明の方法を示すフローチャートである。まず、抽出液を形成するために、LCD廃パネルを砕き、これを溶剤中に浸漬して、LCD廃パネルの液晶を溶剤に溶解させる。LCD廃パネル源は、工場プロセスや、一定期間用いられた再生製品からのスクラップ製品である。本発明においては、LCD廃パネルは直接砕かれてもよく、或いは、解体して、LCDパネルフレームが除去されたものであってもよい。なお、ここで、封止剤のようなセル材料は、前もって除かれるような場合を除いては、LCDパネルフレームに残存している。砕いた後のLCD廃パネルの大きさとしては、例えば、100cm2未満であるのが好ましい。本発明で用いられる溶剤としては、n−ヘキサン等のC6-10のアルカン類、イソプロパノール等のC3-5のアルコール類、エチルエーテル等のC2-4のエーテル類、アセトン、ブタノンまたはペンタノン等のC3-5のケトン類、或いは、これらの混合溶剤(co-solvents)が挙げられる。注意すべきことは、本発明において、液晶は、洗浄法(フラッシング、flushing)ではなく、浸漬法により溶解させられることである。フラッシング法では、溶剤は、砕いたLCD廃パネル間の隙間に入ってそこに存在する液晶を溶解させることが出来ず、回収効率が減少する。これに対して、浸漬法では、溶剤はLCD廃パネル間の隙間に流入することができる。一実施態様では、浸漬法では、溶剤の表面は、砕かれたLCD廃パネルの頂部よりも高い。浸漬時間は、例えば、10分〜1時間の間である。なお、この工程においては、上記セル材料の一部も溶剤に溶解する。
【0018】
その後、抽出液を冷却して、セル材料の溶解度を低下させて、セル材料を固体として抽出液から析出させる。析出したセル材料と抽出液とを固液分離し、次いで、抽出液中の不純物を除去するため、抽出液をろ過−吸着装置に通過させる。冷却ステップは、例えば、10℃から−60℃の間で行われる。前記ろ過−吸着工程は、自然ろ過(gravity)または、純度が99.99%の窒素、ヘリウム、或いは、アルゴンや、これらの混合物などの不活性ガスを用いた加圧ろ過(pressured)により行うことができる。
【0019】
その後、ろ過、吸着後の抽出液(ろ液)を加熱し、溶剤を蒸発させる。凝縮された蒸気は、再び、砕かれたLCD廃パネルを浸漬して、第二バッチ抽出液を形成するのに用いられる。砕かれたLCD廃パネルを浸漬するための溶剤として再利用するため、第二バッチ抽出液を、冷却してセル材料を析出させ、ろ過、吸着した後、加熱する。上記サイクル(cycle)は、砕かれたLCD廃パネル上に液晶がなくなるまで、例えば2回〜10回、繰り返される。そして最後に、溶剤を気化させるために抽出液を加熱し、溶剤蒸気を凝縮させて回収溶剤を形成し、貯留タンクに貯蔵する。そのため、複雑な精製工程を行わなくても、収集タンクには高純度の回収液晶のみが含まれることになる。
【0020】
次いで、回収液晶をフードに置き、残留溶剤を蒸発させる。一態様では、溶剤は、加熱したり、或いは、高純度の窒素、ヘリウム、アルゴン、または、それらの混合物等の不活性ガスを吹き付けることにより除去される。溶剤の除去には不活性ガスが用いられる。また、溶剤と不活性ガス間における反応は回避されるべきである。冷却工程ではセル材料が析出され、ろ過−吸着工程では不純物が除去されるので、残留溶剤を除去した後の回収液晶は95%以上の回収率と、元の材料と同様の純度を有している。本発明に係る回収液晶と、市販の液晶とは、同様の特性及び組成を有している。回収液晶から金属イオンや水を除去すれば、回収液晶は、いかなる液晶モノマーも追加することなく、そのまま使用することができる。
【0021】
本発明は、図2に示されるLCD廃パネルの液晶を回収するための装置も提供する。本発明の装置は、抽出タンク11、貯留タンク12,14、および、収集タンク13を有している。前記抽出タンク11と収集タンク13はパイプ18Aにより接続されている。ろ過プレート22、バルブ43、および、ろ過−吸着装置15は、前記抽出タンク11の下に連続して備えられている。本発明の装置は、更に、パイプ18Bと18Cにより、収集タンク13と貯留タンク12のそれぞれに接続されている凝縮装置17を有している。例えば、収集タンク13とろ過−吸着装置15との相対的な高さは、収集タンク13と凝縮装置17との間の距離が短くなるように調整することができる(パイプ18Bまでの距離も同様)。パイプ18Bが短い場合、溶剤を気化させるためのエネルギー消費量は少なくなる。収集タンク13が、ろ過−吸着装置15よりも低い位置に備えられている場合、ろ過され、吸着された抽出液を、重力によって、収集タンク13に流入させることができる。一方、収集タンク13が、ろ過−吸着装置よりも高い位置に備えられている場合、抽出液を収集タンク13にくみ上げるために、3方向バルブ29と収集タンク13に接続されたポンプ16を設ける必要がある。
【0022】
溶剤は、補給弁24を通じて貯留タンク12に供給することができる。貯留タンク内の溶剤を、バルブ42を通じて抽出タンク11へと流入させ、そして、粉砕されたパネルの液晶とセル部材とを溶剤に溶解させて、抽出液を形成する。抽出液を冷却し、その後、ろ過プレート22、バルブ43、ろ過−吸着装置15、3方向バルブ29、パイプ18A及びバルブ44を通じて収集タンク13へと流入させる。パイプ18Bを通じて凝縮装置17へと送るために収集タンク13内の溶剤を加熱してもよく、すると、溶剤蒸気は凝縮されて液滴となり、パイプ18Cおよびバルブ41を通じて貯留タンク12に流れ込む。これにより溶媒のサイクルが完結する。貯留タンク12のみならず、最初から、収集タンク13にも補給弁25を介して溶剤を加えておいてもよい。この場合の溶剤サイクルも上記と同様である。本発明の装置は、更に、空気圧装置、および、液晶回収後の溶剤を保存する貯留タンク14を有する。空気圧装置は、抽出液を加圧−ろ過するためのガスシリンダ31、気圧制御器33、および、両者を連接するパイプ32を有している。加圧ろ過中、抽出タンク11の気圧が0psi〜60psi(0〜413.686kPa)となるように、気圧制御器33で制御してもよい。加圧−ろ過工程において、抽出タンク11の圧力を維持する場合には弁41は閉じておかなければならず、加圧−ろ過工程の終了後、弁41を開き、抽出タンク11の圧力を解放する。
【0023】
抽出タンク11は、注入/排出口21を有する。また、抽出タンク11の側壁に、粉砕されたパネルの上部が溶媒に覆われているか否かを観察する覗き窓23が設けられているものも本発明の実施態様の一つである。上記注入/排出口21は、抽出タンク11に砕かれたパネルを注入し/排出するのに用いられ、注入/排出口21では、質量で1kg〜1000kgの出し入れが可能である。
【0024】
抽出タンク11下に位置するろ過プレート22は、ガラス片の混入を防ぐために使用される。ガラス片および液晶の粗大な不純物は、適切な孔径(例えば、0.2μmから10μm)を有するろ過プレート22によりろ別される。ろ過プレートは、ろ過プレートを固定するため、ろ過メッシュと共に用いてもよい。ろ過メッシュとしては、ステンレス鋼製またはプラスチック製のものが挙げられ、その孔径は0.1mm〜1mmである。ろ過プレートとしては、ポリエチレン(PE)製、ポリプロピレン(PP)製、或いは、ホウケイ酸ガラス製(市販のパイレックス(登録商標))のものが挙げられる。ろ過装置15は、他の不純物を除去するため、単層構造であっても、或いは、複数層構造であってもよい。例えば、複数層構造としては、ろ過メッシュ、ろ過プレート、吸着剤、ろ過膜、ろ過プレート、ろ過メッシュを組み合わせた構造が挙げられる。ろ過プレート及びろ過メッシュの素材としては上述のものが挙げられる。ろ過膜としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製、或いは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のものが挙げられる。両者はいわゆるテフロン(登録商標)と称されるものである。また、孔径は、およそ0.1μm〜0.5μmであるのが好ましい。本発明の一態様では、吸着剤は、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、ケイ酸アルミニウム、或いは、分子篩(モレキュラーシーブ)が挙げられる。上記ろ過材料および吸着剤は、抽出タンク11から収集タンク13に流入する抽出液中の不純物を吸着する。
【0025】
本発明の一態様では、温度制御装置は、抽出液を冷却して、溶解したセル材料を固体として析出させるため、抽出タンク内に備えられる。また、他の態様として、温度制御装置は、ろ過プレート22とろ過−吸着装置15との間に設けてもよく、この場合にも、上述の機能を発揮する。
【0026】
実際には、溶剤を貯留タンク12に投入し、その後、溶剤を抽出タンク11へと流入させ、砕かれたLCD廃パネルを浸漬して抽出液を形成する。この抽出液は、溶剤中に溶解した液晶と、いくらかのセル材料を含んでいる。抽出液は、その後、温度制御装置によって冷却される。上記ガスシリンダ31から、パイプ32を通してろ過用ガスを抽出タンク11に供給して、抽出液を加圧−ろ過する。次いで、圧力を気圧制御器33により制御し、抽出液をろ過プレート22およびろ過−吸着装置15によりろ過して不純物を除去し、パイプ18Aを通じて収集タンク13に流入させる。収集タンク13の加熱装置27により抽出液を加熱して、溶剤を蒸気とし、収集タンク13中に液晶を残留させる。加熱装置27による加熱温度は溶剤の沸点に応じて決定すればよい。溶剤蒸気はパイプ18Bを経て凝縮装置17へと流入させ、ここで液滴に凝縮させる。これらの液滴をパイプ18Cから貯留タンク12に流入させる。抽出タンク11中の全ての抽出液を冷却し、ろ過−吸着し、すべて収集タンク13へと流入させた後、バルブ42を開き、抽出タンク11へと流入させ、砕かれたLCD廃パネルを再浸漬させて、第二バッチ抽出液を形成するための回収溶剤を貯留タンク12内に形成する。冷却工程、加圧−ろ過工程、および、吸着工程の後、第二バッチ抽出液を収集タンク13へと供給し、これを加熱し、凝縮させて、溶剤を回収する。上述の浸漬、冷却、ろ過および吸着、および、溶剤回収のサイクルは、砕かれたLCD廃パネル上に液晶がなくなるまで繰り返される。収集タンク13内の回収された液晶を、排出弁26を介して排出させ、回収する。最後に、抽出タンク11中の溶剤(いかなる液晶も溶解していない)は、ろ過、吸着後、収集タンク13ではなく、貯留タンク14に流入させる。一実施態様では、収集タンク13/貯留タンク14に流入させる抽出液/溶剤は、3方向バルブ29により制御する。
【0027】
パイプ18A、18B、18C、および、32は、PTFE製、ステンレス鋼製、或いは、パイレックス(登録商標)として市販されているガラス製のものが挙げられる。抽出タンク11、収集タンク13、凝縮装置17、貯留タンク12,14、および、ろ過−吸着装置15は独立した構成要素であり、洗浄やメンテナンスのために容易に組み立て、分解できる。
【0028】
上述の本発明の回収方法と装置により回収された液晶は、溶剤と不純物の含有率が極めて低く、回収率は95%以上である。
【0029】
したがって、本発明は、従来技術に比べていくつかの優れた点を有する。第1に、本発明では、封止剤のようなセル材料を前もって除去することなく、廃パネルを、そのまま粉砕する。これによって、回収の複雑さが低減される。第2に、本発明法は、液晶を溶解させるのに洗浄法ではなく浸漬法を利用するため、溶剤の使用量を低減でき、また、液晶の溶解度を向上できる。第3に、本発明では、抽出液を冷却して、抽出液に溶解したセル材料を析出させており、また、固液分離は、回収液晶の精製を単純化できる。そして、最後に、回収液晶は、高い純度を有し、また、市販されている元(original)の液晶と同様の組成比を有する。本発明者らにより開示された方法により単に精製された液晶は、いかなる液晶モノマーも添加することなく、そのまま再利用することができる。
【実施例】
【0030】
実験例1
ある企業の15インチのLCD廃パネル21片を本実験例で選択した。これらのLCD廃パネルに含まれる液晶は、ねじれネマティック型(TN−Q1と略す)液晶であった。液晶を再生利用するため、LCD廃パネルを砕いた後、図1に示される方法および図2に示される本発明の回収装置により、アセトンで抽出した。なお、実験例1で使用した回収装置には、温度制御装置およびろ過−吸着装置15は備えられていなかった。まず、砕かれたパネル1000mLを容量2000mLの抽出タンク11にセットした。続いて、抽出溶剤として3000mLのアセトンを貯留タンク12に投入し、バルブ42を開いて、抽出タンク11へと溶剤を流入させ、砕かれた廃LCDパネルを30分間浸漬して抽出液を形成した。ろ過プレート22でろ過した後、抽出液を収集タンク13に流入させ、90℃の水浴で加熱し、抽出液中のアセトンを蒸発させた。その後、アセトンの蒸気を凝縮させ、生成した液滴を貯留タンク12に流入させた。抽出タンク11中の抽出液を全て収集タンク13に流入させた後、再び砕かれた廃LCDパネルを浸漬させるため、バルブ42を開いて、貯留タンク12内の回収溶剤を抽出タンク11へと流入させた。上記溶剤の加熱、溶剤の蒸発、溶剤蒸気の凝縮、および、LCD廃パネルの浸漬のサイクルには45分要した。一つの抽出を完了するのに、上記サイクルを3回行った。そして、アセトンを除去した後、回収液晶を得た。理論的な回収液晶の質量は6.3gで、実際の回収液晶の質量は6.6gで、回収率は95%以上であった。図3は、ガスクロマトグラフィー質量分析法(以下、GCMSと称する)による元の液晶のスペクトルを示しており、図4は、回収液晶のGCMSスペクトルを示す図である。表1には、元の液晶の特性を示している。図3と図4の比較から示されるように、冷却、ろ過−吸着工程を行わなかった回収液晶中には、多量の不純物が存在している。回収された液晶をアセトンに溶解させ、これを−20℃に冷却した後、ろ過−吸着装置15により、不純物を除去した。適切な吸着剤には、分子篩と酸化アルミ二ウムとホウケイ酸ガラスが含まれていた。図5に、冷却およびろ過−吸着工程を経た回収液晶のGCMSスペクトルを示し、表1に、冷却およびろ過−吸着工程を経た回収液晶の特性をそれぞれ示す。図3と図5の比較から、冷却およびろ過−吸着処理後には、回収液晶中の不純物が、大幅に低減されていることが分かる。
【0031】
【表1】

【0032】
実験例2
実験例2の回収プロセスは実験例1と同様であるが、実験例1と実験例2の相違点は、アセトンに代えてn−へキサンを抽出溶剤とし、収集タンク13における水浴温度を85℃に下げたことである。さらに、実験例2では、抽出タンク11に温度制御装置を設け、収集タンク13と抽出タンク11との間にろ過−吸着装置15を設けた。実験例2における回収液晶のGCMSスペクトルを図6に示す。図3と図6との比較から分かるように、実験例2の回収液晶は元の液晶と同じ組成を有している。
【0033】
実験例3
ある企業の32インチのLCD廃パネル76片を本実験例で選択した。これらのLCD廃パネルに含まれる液晶は、垂直アラインメント型(VA−C1と略す)液晶であった。図1に示される本発明法および図2に示される本発明の回収装置により、液晶を回収するため、LCD廃パネルを砕き、n−へキサンにより抽出した。まず、砕かれたパネル20Lを容量30Lの抽出タンクにセットした。続いて、抽出溶剤として40Lのn−へキサンを貯留タンクに投入し、これを抽出タンク11に流入させ、砕かれたLCD廃パネルを30分間浸漬し、抽出液を形成した。冷却し、ろ過−吸着した後、抽出液を収集タンク13へと流入させ、90℃の水浴で加熱し、抽出液中のn−へキサンを蒸発させた。その後、n−へキサンの蒸気を凝縮させて液滴とし、この液滴を貯留タンク12に流入させた。抽出タンク11中の抽出液を全て収集タンク13に流入させた後、再び砕かれたLCD廃パネルを浸漬させるため、バルブ42を開いて、貯留タンク12内の回収溶剤を抽出タンク11へと流入させた。上述の溶剤の加熱、溶剤の蒸発、蒸気の凝縮、LCD廃パネルの浸漬、セル材料を析出させるための抽出液の冷却およびろ過−吸着のサイクルには40分を要した。一つの抽出を完了するのに上記サイクルを3回実施した。抽出後、n−へキサンを貯留タンクに保存し、いくらかの溶媒を含む液晶を、収集タンクから排出させた。そして、残留溶剤を除去して回収液晶を得た。理論的な回収液晶の質量は76gで、実際の回収液晶の質量は74.5gで、回収率は95%以上であった。台湾特許第I282359号明細書および台湾特許第I297282号明細書に記載の方法により、回収液晶を、さらに精製した。表2に、元の液晶、回収液晶及び精製後の回収液晶の特性を示す。図7に、元の液晶のGCMSスペクトルを示し、図8に、回収液晶のGCMSスペクトルを示す。図7と図8の比較から、実験例3で得られた回収液晶と元の液晶とは、同様の組成を有していることがわかる。さらに、LCD廃パネルの回収を670片にまでスケールアップしたところ、理論的な回収液晶の質量は670gで、実際の回収液晶の質量は650gであり、回収率は95%以上であった。なお、スケールアップした回収においては、より長い回収時間を要した。また、回収液晶は、図8と同様のGCMSスペクトルを有していた。従って、本発明の回収方法は、大量回収にも適するものである。
【0034】
さらに、元の液晶と、台湾特許第I282359号明細書および台湾特許第I297282号明細書に開示の方法により精製された回収液晶とを、それぞれ試験用セルに注入し、中心及び端部における信頼性試験、および、電圧保持率(VHR)などの特性を測定した。信頼性評価(RA)は、高温下で長期間行った。表3に示すように、精製された回収液晶及び元の液晶は、試験セル中心及び端部のいずれにおいても、RA試験前後において同程度のVHR値を有していた。これは、本発明の回収方法が大量回収に適するものであることを意味している。
【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
実験例4
ある企業の2種類の32インチのLCD廃パネル60片を本実験例では選択した。これらのLCD廃パネルに含まれる液晶は異なる垂直アラインメント型(VA−C1、および、VA−C2と略す)であった。液晶を再生利用するため、図2に示される本発明の回収装置を用いて、LCD廃パネルを砕いた後、n−へキサンにより抽出した。回収時の条件および溶剤使用量は実験例3と同様であった。理論的な回収液晶の質量は60gで、実際の回収液晶の質量は60gで、回収率は95%以上であった。図10に精製後の回収液晶のGCMSスペクトルを示し、図9には元の液晶(VA−C2)を示す。図7、図9および図10の比較から分かるように、実験例4の回収液晶と元の液晶とは同様の組成を有している。実験例4の高い回収率より、本発明の回収方法は、商業的な廃パネルから液晶を回収するのに適していることが分かる。
【0038】
実験例および好ましい実施態様により本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。むしろ、当業者に自明な種々の変更や同程度の修飾は本発明の範囲に含まれる。従って、本発明の保護範囲は、これらの変更や修飾が全て含まれる最も広義の解釈と一致する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LCD廃パネルの液晶回収方法であって、
(i)LCD廃パネルを砕き、前記砕いたLCD廃パネルを溶剤に浸漬して、前記LCD廃パネルの前記液晶とセル材料とを溶解させて、抽出液を形成する工程;
(ii)前記セル材料の溶解度を低下させるため前記抽出液を冷却し、次いで、抽出液をろ過して、吸着する工程;
(iii)前記抽出液を加熱して溶剤蒸気を形成し、前記溶剤蒸気を凝縮して、回収溶剤を形成する工程;
(iv)前記砕いたLCD廃パネルを前記回収溶剤中に浸漬して、抽出液を形成する工程;および、
(v)前記砕いたLCD廃パネル中に液晶がなくなるまで、前記工程(ii)から工程(iv)を繰り返し、前記抽出液中の溶剤を除去して回収液晶を得る工程、
を含むことを特徴とするLCD廃パネルの液晶回収方法。
【請求項2】
前記LCD廃パネルの粉砕工程は、封止剤又はセル材料の事前の除去を含まない請求項1に記載のLCD廃パネルの液晶回収方法。
【請求項3】
前記溶剤が、C6−10のアルカン類、C3−5のアルコール類、C2−4のエーテル類、C3−5のケトン類、または、これらの組み合わせである請求項1に記載のLCD廃パネルの液晶回収方法。
【請求項4】
前記工程(ii)において、抽出液を冷却してシール部材を析出させる際の温度が10℃〜−60℃である請求項1に記載のLCD廃パネルの液晶回収方法。
【請求項5】
前記工程(v)における工程(ii)から工程(iv)の繰り返し数が2から10である請求項1に記載のLCD廃パネルの液晶回収方法。
【請求項6】
更に、直接、前記回収液晶をフード内にセットして、回収液晶中の残留溶剤を除去する工程を含む請求項1に記載のLCD廃パネルの液晶回収方法。
【請求項7】
更に、前記フード内で、回収液晶を加熱して残留溶剤の除去を促進する工程を含む請求項6に記載のLCD廃パネルの液晶回収方法。
【請求項8】
更に、前記フード内で、前記回収液晶に不活性ガスを吹きつけて、残留溶剤を除去する工程を含む請求項6に記載のLCD廃パネルの液晶回収方法。
【請求項9】
前記不活性ガスが、高純度(>99.99%)の窒素、ヘリウム、アルゴン、または、それらの混合物である請求項8に記載のLCD廃パネルの液晶回収方法。
【請求項10】
前記工程(ii)の抽出液のろ過が、加圧−ろ過工程である請求項1に記載のLCD廃パネルの液晶回収方法。
【請求項11】
前記回収液晶が、液晶モノマーを追加することなく直接使用できるものである請求項1に記載のLCD廃パネルの液晶回収方法。
【請求項12】
LCD廃パネルの液晶回収装置であって、
底面の下部にろ過−吸着装置を有する抽出タンクと;
前記抽出タンク内、または、ろ過装置と前記ろ過−吸着装置との間に備えられた温度制御装置と;
収集タンクを加熱するための加熱装置を有する収集タンクと;
前記抽出タンク上部に備えられ、当該抽出タンクに接続された第1貯留タンクと;
前記抽出タンクと、前記ろ過−吸着装置との下部に備えられた第2貯留タンクと;
前記収集タンクと前記抽出タンクのそれぞれに接続され、前記収集タンクと前記抽出タンク上部に備えられた凝縮装置と、を有し、
前記抽出タンク、前記収集タンク、および、前記第2貯留タンクは、それぞれパイプにより3方向バルブに接続されており、且つ、
前記ろ過−吸着装置が、前記抽出タンクと前記3方向バルブとの間に備えられていることを特徴とするLCD廃パネルの液晶回収装置。
【請求項13】
前記抽出タンクは、更に、砕いたパネルを前記抽出タンクに注入し/前記抽出タンクから排出する注入/排出口を有し、且つ、前記注入/排出口の注入/排出許容質量が、1kg〜1000kgである請求項12に記載のLCD廃パネルの液晶回収装置。
【請求項14】
前記ろ過−吸着装置が、ろ過プレート、吸着剤、ろ過膜およびろ過メッシュを有するものである請求項12に記載のLCD廃パネルの液晶回収装置。
【請求項15】
前記ろ過プレートの孔径が0.2μm〜10μmであり、且つ、ろ過プレートが、ポリエチレン製、ポリプロピレン製、または、ホウケイ酸ガラス製であり、前記ろ過膜の孔径が0.1μm〜0.5μmであり、且つ、ろ過膜が、ポリフッ化ビニリデン製、又は、ポリテトラフルオロエチレン製である請求項14に記載のLCD廃パネルの液晶回収装置。
【請求項16】
前記吸着剤が、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、ケイ酸アルミニウム、ホウケイ酸ガラスまたは分子篩である請求項14に記載のLCD廃パネルの液晶回収装置。
【請求項17】
前記ろ過メッシュの孔径が0.1mm〜1mmであり、且つ、ろ過メッシュが、ステンレス鋼製またはプラスチック製である請求項14に記載のLCD廃パネルの液晶回収装置。
【請求項18】
更に、前記抽出タンクに接続された空気圧縮装置を有する請求項12に記載のLCD廃パネルの液晶回収装置。
【請求項19】
前記ろ過−吸着装置が、前記収集タンクよりも高い位置に備えられている請求項12に記載のLCD廃パネルの液晶回収装置。
【請求項20】
前記ろ過−吸着装置が、前記収集タンクよりも低い位置に備えられており、さらに、前記収集タンクと3方向バルブのそれぞれに接続されたポンプを有するものである請求項12に記載のLCD廃パネルの液晶回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−89075(P2010−89075A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−186786(P2009−186786)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(390023582)財団法人工業技術研究院 (524)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】195 Chung Hsing Rd.,Sec.4,Chutung,Hsin−Chu,Taiwan R.O.C
【Fターム(参考)】