LCMS技術及びその使用
本発明は、改善したLCMS技術、並びに免疫原性病原体関連エピトープの選択的同定及び特徴づけを行うための方法における当該技術の使用、並びにワクチン開発での当該技術の使用に関する。T細胞エピトープに関する知識ギャップを埋める1つの方法は、抽出されたペプチドサンプルをナノスケール質量分析によって、抗原提示細胞の表面のエピトープ提示を直接評価するための新規プラットフォーム技術、「免疫プロテオミクス」を適用することである。これは、病原体由来タンパク質に起因するT細胞エピトープの正確な分子的性状、多様性、存在量、動態、及びPTM等のエピトープの諸特性について偏りのない洞察を提供することができる唯一の方法である。したがって、かかるプラットフォーム技術、及び免疫プロテオミクスは、ワクチン学の本質的部分となるはずである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善したLCMS技術、並びに免疫原性エピトープの選択的同定及び特徴づけを行うための方法における当該技術の使用、並びにワクチン開発での当該技術の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫原性病原体関連エピトープの免疫系T細胞による特異的受容体媒介型認識は、感染症に対する防御免疫の基礎である。十分に刺激性の状況下で初期認識が行われると、その後かかるエピトープは、特異的T細胞のクローン集団の増殖、分化、及び維持を促進する。感染期間中、かかるT細胞集団は病原体を不活性化し、及び排除する。その後、T細胞集団は強い収縮作用を受けるが、特異抗原と再度遭遇した際に迅速なメモリー応答が生じるようにわずかな一部分が維持される。この概念はワクチン開発で採用される。抗感染症ワクチンは、関連する病原体由来エピトープに免疫系を暴露して、防御レベルの特異的メモリーT細胞の生成を誘発する必要がある。
【0003】
病原体関連T細胞エピトープは、病原体によりエンコードされたタンパク質に由来する小タンパク質断片であり、細胞内プロセシング後に主要組織適合遺伝子複合体(以後MHCと呼ぶ)分子のリガンドとして抗原提示細胞(以後APCと呼ぶ)の細胞表面に露出する。MHC分子によるペプチドエピトープの切除、存続、競合、及び最終的な提示に関係するプロセス及び酵素ついては、ほとんど分かっていない。2種類のMHC分子が、2つの機能的分類に属するT細胞に対するエピトープ提示に関わっている。MHCクラスI分子は、CD8+T細胞に対してエピトープを提示し、一方、MHCクラスII分子はCD4+T細胞に対してエピトープをそれぞれ提示する。
【0004】
将来のワクチンを設計するために、本発明者らはT細胞エピトープについて新規概念を必要とする。特に、非常に変化しやすい表面抗原を提示する病原体、又は(新規)新生病原体の防御的Tエピトープ及びその抗原はいまだなおとらえ難い。
【0005】
本出願の発明者らは、現在の技術水準において、病原体関連エピトープの2種類の区別可能な分類、すなわちMHCクラスIリガンドーム及びMHCクラスIIリガンドームに関する知見のギャップが、最新のワクチン学の主要会議においてなおも存在していることに今気付いた。
【0006】
第1に、抗原ゲノム創薬(genome−based antigen discovery)(逆ワクチン学(reverse vaccinology))はワクチン学の扉を開き、病原体プロテオームの全体像を明らかにすることを我々に約束した。免疫インフォーマティクスの恩恵により、防御的抗原候補となり得る表面構造、例えば主要な細菌毒性因子、及びウイルス表面抗原等が、in silicoで予測される。したがって、逆ワクチン学アプローチでは、実験動物による組換え抗原発現技術、及び免疫原性研究が必要となる。確かに、かかるアプローチにより、PorAに基づく髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)の血清学的グループBワクチンに代わる有望なワクチン候補が選択され、成功を収めている(Masignaniら、2002年)。しかし、逆ワクチン学アプローチによってもなお、エピトープに関する知見のギャップは存在する:(i)病原体の内部タンパク質の場合、逆ワクチン学によって免疫優勢T細胞抗原は明らかにされない、及び(ii)動物における免疫原性から、ヒトにおける免疫原性及び免疫優勢性を予測することはできない。
【0007】
第2に、候補タンパク質、アルゴリズム予測エピトープに由来する一連の合成ペプチドの利用に基づく古典的なT細胞エピトープ同定法、又はハイスループットMHC結合アッセイ及びT細胞アッセイにおける、オーバーラッピング合成ペプチドのような全プロテオームさえも、病原体関連エピトープを含む非常に多くのT細胞エピトープについて知識をもたらした。しかし、本発明者らは、本アプローチにも限界があると考えた:かかる従来法は、細胞内自然プロセシングの効果、すなわちエピトープの破壊と、それに対する生き残り、それぞれ選択と競合の効果の他、エピトープの諸特徴、例えば一次配列、多様性、正確な分子長及び長さの多型、存在量、自然変異体等の免疫原性に関する重要性、並びに最終的に感染の進行に伴う、及び異なる細胞型に基づくT細胞エピトープの動態の重要性を無視している。また、T細胞エピトープは、一般的に、in silicoで予測可能な一次遺伝子配列の真の翻訳物とみなされている。しかし、リン酸化、グリコシル化、脱アミド化、メチル化、及びスプライシングを含む複数種類からなる一次タンパク質配列の翻訳後修飾(以後PTMと呼ぶ)、並びにゲノムのフレーム外翻訳は、in silicoプロテオミクスのみに基づき予測される場合よりも一層多様な集合からなる免疫学的に重要なエピトープをもたらし得るという証拠が蓄積している(Temmermanら、2004年、Engelhardら、2006年)。
【0008】
更に、上記「第2」で記載したような、T細胞エピトープを同定する技術は、通常、前回感染から生き延びることにより対象とする病原体に対して免疫を獲得した個人から単離した末梢血単核球(PBMC)のin vitro反応に依存することに本発明者らは気付いた。一般的に、病原体が稀又は新規出現の場合には、かかる個人は非常に稀である。したがって、新規感染症に関連したエピトープの同定は、これまでに感染した個人から得られたPBMCの使用に依存しない新規技術に基づく必要がある。
【0009】
更に、病原体関連MHCクラスI及びMHCクラスIIエピトープリガンド(いわゆるリガンドーム)の同定は技術的に困難な課題であり、最高度の定量的感度及び定性的感度を必要とすることに本特許出願の発明らは気付いた。様々な研究室で先駆的な研究が行われ、液体クロマトグラフィー(LCMS)を併用した質量分析法がとりわけ最も有用な分析ツールであり、かかる種類のリガンドームについて偏りのない洞察をもたらすことを明らかにした(Huntら、1992年)。しかし、現行のアプローチは、病原体由来タンパク質に起源する免疫原性エピトープの正確な配列、多様性、存在量、PTM、及び動態等のエピトープの特徴について、偏りのない洞察を得るための免疫学的及び技術的に十分な感度及び選択性を実現できていない。ワクチン学では、病原体関連エピトープに関する知見のギャップを埋めるための「免疫プロテオミクス」に対するニーズがなおも存在する。これを前提とした場合に限り、真に免疫原性で防御性のエピトープを識別し、及び病原体が特異的に識別されるのを免れる仕組みを理解することができる。しかし、方法論に顕著な改善がなければ、今日までに分かっているエピトープという氷山の一角に潜むものについて理解を得ることはできない。
【0010】
MHCエピトープ分析は極めてチャレンジングである。APC上のMHC分子は、多種多様の異なるペプチドエピトープを幅広い濃度範囲で提示する。システムの感度は、107〜108細胞を含むAPC細胞培養物から得られた抽出物中において、1細胞当たり1コピーが発現される、すなわち完全に回収されたとして、カラム上で10〜100アトモルのペプチド質量に等しい場合であっても、病原体関連エピトープを検出するのに十分である必要がある。システムの選択性は、何百、何千ものその他の無関係のMHCエピトープの中から、かかるエピトープそれぞれを識別するのに十分である必要がある。
【0011】
本特許出願は、感度、総合的なエピトープマイニングにおける対象範囲、及びダイナミックレンジの観点からカラム技術の進歩を開示する。したがって、本発明の目的は、高感度、高選択性、及び簡便な方式で、単一の分析用エピトープサンプル中の防御的T細胞により、MHCクラスI及びIIリガンドとして認識される、免疫原性病原体関連エピトープを同定することができる、新規プラットフォーム技術を提供することにある。
【0012】
かかる目的は下記3つの新知見を組み合わせることにより達成されると本発明者らは気付いた:(i)非常に複雑なペプチド混合物中の痕跡量の未知ペプチド試料を検出し、同定するための改善された高感度で堅牢なプラットフォームLCMS技術、これと併用される(ii)原タンパク質から関連する方式で各クラスの免疫原性病原体関連エピトープを単一溶液内に遊離するための、オーダーメードされたin vitro免疫学的実験デザイン、及び(iii)サンプル中の関連する病原体関連エピトープを迅速且つ確実に認識及び同定するのに役立つように(任意選択的に)適用される、抗原の選択的化学修飾又は物理修飾。
【0013】
液体クロマトグラフィー質量分析(LCMS)デバイスは、米国特許出願公開第2002/146349号により公知であり、これをそのまま、特にデバイス関連の態様に関連して本明細書に参考として援用する。
【0014】
LCMSデバイスの目的
サンプル中の分析対象物(本明細書ではペプチド)のクロマトグラフィー分離は、液体クロマトグラフィー(LC)カラムを用いて行われる。好ましくは、かかるカラムの内径及び長さは下記のように設定される:
(i)可能な限り最高感度が(ii)と組み合わせて得られる
(ii)最高分離効率
【0015】
ナノスケールカラムを装備した改良型LCMSを提供することが本発明の目的である。本出願ではLCMSデバイスの異なるいくつかの態様が改良されている。改良型LCMSプラットフォームが提供される。改良型LCMSプラットフォームでは、先行技術LCMSプラットフォームよりも詳細な分析が可能となり得ることが証明された。
【0016】
総分析時間を有意に延長可能にすることも、本発明の更なる目的でもある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の1つの態様は、液体クロマトグラフィー質量分析(LCMS)デバイスに関する。LCMSデバイスを用いた分析について改良法が提供される。当該デバイスの部品を製造する更に改良された方法も提供される。
【0018】
本発明の別の態様は、クロマトグラフィー法、特に2次元液体クロマトグラフィーに関する。
【0019】
本発明の更なる態様は、塩を含まない2次元高性能ナノスケール液体クロマトグラフィー分離技術に関する。
【0020】
なおも更なる態様によれば、本発明はナノスケール液体クロマトグラフィーカラム、及び液体クロマトグラフィーの用途で、特に液体クロマトグラフィー質量分析で用いられる、かかるカラムの作製に関する。
【0021】
本発明の別の態様は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)エミッター、及び液体クロマトグラフィー用カラムと共に用いる、好ましくは、エレクトロスプレーイオン化質量分析器(LC−ESI/MS)に連結されるエミッターの製造方法に関する。
【0022】
本発明の別の態様は、接続部、及びナノスケールLCカラムを接続する方法に関する。
【0023】
本発明のなおも別の態様は、接続部、及びナノスケール液体クロマトグラフィーカラムにおける(デッドボリュームの無い)接続方法に関する。1つの実施形態では、小内径(キャピラリー)ナノスケール液体クロマトグラフィーカラムが提供される。
【0024】
更なる態様では、本発明は、エピトープの同定法で本発明のLCMSデバイスを使用することに関連する。
【0025】
なおも更なる態様では、本発明はエピトープを同定する方法に関し、同方法は、a)サンプルを調製するステップであって、少なくとも1つのMHCクラスI及びMHCクラスIIエピトープ(リガンドーム)を含み、前記エピトープが抗原提示細胞によりプロセシング及び提示されるステップと、b)a)で得られたサンプルを本発明のLCMSデバイス内で分析するステップとを含む。
【0026】
1つの態様では、本発明は、本発明の方法に基づき同定されたエピトープを含む組成物を製造する方法に関し、当該方法は、当該エピトープを含む分子の化学合成及び組換え発現のうちの少なくとも1つを含む。
【0027】
1つの別の態様では、本発明は、本発明のLCMSデバイス、及び/又は本発明のエピトープ同定法を利用することにより入手可能なエピトープに関する。
【0028】
本発明の別の態様は、本発明に基づき同定されたエピトープの利用、又は前記エピトープを含む組成物の利用に関する。当該エピトープ又は当該エピトープを含む組成物は、かかるエピトープを担持する病原体によって引き起こされる疾患を予防及び/又は治療するための、又は哺乳動物の免疫状態を評価するためのワクチンを製造するために用いられる。
【0029】
本発明の上記全ての態様は以下で議論される。
【0030】
LCMSデバイス
1つの実施形態では、LCMSデバイスは、カラム、好ましくはクロマトグラフィーを実施するためのナノスケールカラムを含む。LCMSデバイスは、毎分ナノリットル(nl/分)の範囲の流速で稼働するように配置、及び構成された液体クロマトグラフィー(LC)カラムを備える。かかるナノスケールカラムは、質量分析(MS)において改善した分析を可能にする高分離効率のクロマトグラフィー用カラムを実現する。
【0031】
質量分析法がペプチドを同定するための強力な技術として登場して以来、質量分析法と組み合わされたナノスケール液体クロマトグラフィーは、低アトモル量で個々のペプチドの配列情報を提供する能力を有する技術であるが故に、今日、MHC提示ペプチドを同定するための第一選択法である。しかし、本発明の実施形態を応用する場合、それはLCMS用途に限られない。
【0032】
一般的に、LCMSデバイスの実施形態は、ポンプ、好ましくは高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)ポンプを有する混合ポンプ構成物を含み、1つの実施形態では、非常に正確な方法で所望の低流速混合溶媒系を生み出すための便利な方式として用いられる、フロー分離デバイス、分析用カラム、及び質量分析器と組み合わされる。
【0033】
LCMSデバイスは、エミッター、コーティング物、及び専用エレクトロスプレーイオン化源を備えるエレクトロスプレーイオン化(ESI)ユニットを更に有する。LCMSデバイスは各キャピラリーチューブを接続するための接続要素を備える。好ましい実施形態について以下に詳細に議論する。
【0034】
液体クロマトグラフィー
物理的には、液体クロマトグラフィー(LC)は、カラム、例えば内部に材料を収納するための空間(空孔)を有する円筒状の構築物内で実施される。当該カラム材料及び使用溶出液は、通常クロマトグラフィーの種類を決定する。空孔内で材料は保持され、これは固定相として定義される。好ましい実施形態では、サンプルは移動相に溶解される。サンプル及び移動相は固定相を通過し、ここでは分析対象物の分離が、その測定前又は分析前に行われる。以降のステップで、更なる単離も可能である。
【0035】
サンプルを分画した後、好ましい実施形態では複数のペプチド、及びLCMSデバイス装置の好ましい実施形態では、個々のペプチドが質量分析器で同定される。質量分析器は、同定され得るペプチドに基づき、質量(Mw)及び構造上の情報(アミノ酸配列)を生成する。
【0036】
LCMS分析
本発明の目的は、タンパク質分解されたタンパク質の多次元LCMS/MS分析により実現可能であり、同分析では、逆相(RP)分離と併用して強カチオン交換体(SCX)による分画化が用いられた。かかる分析技法は、分析の分離効率及びダイナミックレンジを向上させるために併用される。
【0037】
1つの実施形態では、第1次元分離用のアニオン交換粒子及びカチオン交換粒子からなる混合ベッドを用いたオンライン多次元LC法が提供される。
【0038】
トラッピングカラム
1つの実施形態では、LCMSデバイスは、固相抽出(SPE)トラッピングカラム、又は分析カラム若しくは分離カラムの上流にトラッピングカラムを備える。トラッピングカラムでは、強カチオン交換(SCX)樹脂若しくは弱アニオン交換(WAX)樹脂、又はSCX樹脂及びWAX樹脂からなる混合ベッドが利用可能である。これはLCMS/MS分析のうちの1つの次元を構成する。分析カラム下流にC18逆相(RP)クロマトグラフィーにより、第2次元の分析を付加することができる。更に、トラッピングカラムは、比較的大きなサンプルボリュームを、ナノスケールLCカラム内に比較的迅速にロード(移送)することができる。したがって、トラッピングカラムの内径は、分析カラムの内径とバランスが取れている必要がある。
【0039】
1つの実施形態では、ペプチド(少なくとも1つのペプチドを意味する)を含むサンプルが、トラッピングカラム内に導入される。好ましくは、本明細書で後ほど特定されるように、エピトープを含むサンプルが同定される。1つの実施形態では、その後トラッピングカラム内に溶媒が注入され、同溶媒は結合したペプチドをトラッピングカラムから逆相C18分析カラムに移送する。
【0040】
1つの実施形態では、アニオン−カチオン交換体(ACE)固相トラッピングカラムは、強カチオン樹脂及び弱アニオン樹脂の両方からなる混合物を含む。かかる混合ベッドは、Motoyama(Motoyamaら、2007年)より公知であり、当該ベッドでは酢酸アンモニウムが結合ペプチドの回収に用いられる。
【0041】
先行技術の問題点として、結合した分析対象物を回収するために酢酸アンモニウムを含むカチオン性の塩を使用すると、第2次元目のオンライン逆相ナノスケールLCシステム性能に悪影響を及ぼすことが挙げられる。
【0042】
本発明の更なる態様によれば、第1次元目で結合した分析対象物を回収する際に、塩を含まない方法でかかる回収を実現することができる。塩を含まない溶液を使用すると、下流の逆相樹脂の劣化が予防される。
【0043】
好ましくは、移動溶媒又は溶出溶媒は塩を含まない溶媒である。好ましくは、ギ酸(メタン酸)が移動溶媒として用いられる。換言すれば、ギ酸が結合したペプチドの溶出に用いられる。文献では、ギ酸の溶出強度はイオン交換樹脂からペプチドを回収するのに低すぎることが知られているが、驚くべきことに、ギ酸が移動溶媒として利用可能であることが実験で明らかとなった。かかる驚くべき効果に対する説明は、結晶構造を有する架橋分子の多かれ少なかれ開放した構造を含む、シリカ粒子上のWAX樹脂の構造に見出すことができるが、ここでは、ギ酸のCOO−基が結合した分析対象物(ペプチド)を貫通し、これと置換することができる。
【0044】
1つの実施形態では、塩酸(HCl)がかかる目的のために用いられたが、但し、これはそれほど好ましくない。
【0045】
LCMSデバイス、又はかかるデバイスの操作方法に関する1つの実施形態では、所定量(例えば、10μl)のギ酸とジメチルスルホキシドとからなる、(濃度が)増強された等モル混合物が、トラッピングカラム経由で添加される。ACEトラッピングカラムから流出したペプチドは、逆相カラムスイッチングシステムのC18逆相トラッピングカラム上で再トラップされる。
【0046】
LC分析カラム
サンプル中の分析対象物(ここではペプチド)をクロマトグラフィー分離する場合、これはLC分析カラムを用いることにより達成される。1つの実施形態では、カラムは少なくとも50cm、好ましくは少なくとも75cm、より好ましくは少なくとも85cm、及びなおもより好ましくは少なくとも90cmの長さを有する。カラムの長さは、LCカラム性能にとって、特にカラムの分離効率の観点から重要なパラメーターである。
【0047】
1つの実施形態では、70μm未満、好ましくは55μm未満の内径を有する、及び1つの実施形態では、5μmのC18粒子が充填された50μm未満の内径を有する、少なくとも75cm、例えば90cmの分析カラムがHLA−A2溶出サンプルの深さ分析で組み込まれた。サンプルは4時間グラジエントで流された。質量分析器は、1サイクル当たり1MS及び3回の連続したCAD MS/MSスキャンを実施するようにプログラムされた。
【0048】
1つの実施形態では、溶融シリカが用いられる。好ましい実施形態では、溶融シリカキャピラリーカラムが用いられる。当該カラムは、液体クロマトグラフィー用の充填物を含む。カラム充填するための好適な方法が提供される。
【0049】
1つの実施形態では、LCMSデバイスはナノスケールカラムを備える。1つの実施形態では、かかるカラムは、外径及び内径を有する溶融シリカ(キャピラリー)チューブを備えることができ、当該内径は、溶融シリカ全体に広がる空孔に関連する。好ましくは、ナノスケールチューブの外径は、150〜1400μmの範囲である。チューブの外径は、好ましくは200〜800μmの範囲内にある。
【0050】
カラムは、75μm未満、好ましくは55μm未満、より好ましくは50μm未満、なおもより好ましくは30μm未満、及びなおも更に好ましくは26μm未満の内径を備える。内径が小さいほどLCMSデバイスの感度及び分離効率が改善する。内部空孔は、好ましくは5〜100μmの範囲内、及びより好ましくは16〜70μmの範囲内、及びなおもより好ましい実施形態では18〜50μmの範囲内の直径を有する。かかるキャピラリーチューブは、5〜50nl/分の範囲内の、及びより好ましくは10〜30nl/分の範囲の流速で用いることができる。
【0051】
LC分析カラムの製造
本発明の1つの態様によれば、内径が最大55μmの内部空孔を有する、少なくとも45、好ましくは少なくとも75cmの長さのカラムを備えるLCカラムを製造し、カラムの一端にフリット(frit)を設け、及びカラム内に適する液体クロマトグラフィー固相材料を充填するための方法が提供されるが、当該液体クロマトグラフィー固相材料は、低粘度溶媒中のスラリーとして提供される。好ましい実施形態では、低粘度溶媒は、20℃で0.32cPの粘度を有するアセトンである。
【0052】
LC分析カラムの充填
本発明の更なる態様によれば、内径が最大55μmの内部空孔を有する、少なくとも45cm、好ましくは少なくとも75cmの長さのカラムを備えるLC分析カラムを製造し、カラムの一端にフリットを設け、及びカラム内に適する液体クロマトグラフィー固相材料を充填するための方法が提供されるが、当該カラムは充填中に振動が加えられ、又は超音波で処理される。1つの実施形態では、カラムは超音波処理される。
【0053】
先行技術で公知の問題は、「長尺」LC分析カラムの充填スピードである。
【0054】
1つの実施形態では、本発明に基づく改良された充填方法は、充填中に好ましくは超音波振動を用いてカラムに振動を加えるステップを含む。
【0055】
1つの実施形態では、超音波振動は充填中に実施される。好ましくは、カラムに進入するスラリーに振動が加えられる。こうすることにより、充填効率が改善し、充填ベッドに空隙/空孔が生ずるのを阻止する。
【0056】
1つのなおも更なる態様によれば、非粘性溶媒、例えばアセトンが、カラム充填法と併用される。好ましい実施形態では、非粘性溶媒はスラリーと併用される。好ましくは、イソプロパノールの少なくとも1/2未満の粘度の溶媒が用いられる。
【0057】
1つの特定の実施形態では、溶融シリカカラムのフリット処理された末端部は超音波バス(例えば、Branson 200)内に配置される。1つの更なる実施形態では、超音波処理は、固相粒子が溶融石英シリカカラム内にフラッシングされた後に限り実施される。
【0058】
1つの実施形態では、スラリーは、1mlのアセトンに懸濁された少なくとも150mgの逆相粒子を含む。充填中にカラムを通過するアセトンの線速度は、イソプロパノールに比較して、驚くべきことに7±1倍に等しい。
【0059】
エレクトロスプレーイオン化(ESI)及びエミッターの製造
1つの実施形態では、LCMSデバイスは、エレクトロスプレー用のチップを有するエレクトロスプレーイオン化質量分析器(LC−ESI/MS)と連結した液体クロマトグラフィーで用いられるエミッターを備える。当該チップは、コーティング物及びエレクトロスプレーイオン化源をやはり備えるエレクトロスプレーイオン化ユニットの部品であり、同チップは、好ましくは分析カラムより引き継いだナノリットル流速でエレクトロスプレーするように構成及び配置される。
【0060】
公知のエミッターの問題として、チップ末端部に特に近接する金層の劣化が挙げられ、かかる劣化は脈動性のスプレーを引き起こし得る。特により長期間LCMS−ESI稼働が可能となるようにエミッターを改良することが本発明の目的である。
【0061】
好ましくは、チップ/エミッターは、1次コーティング物、好ましくは金等の貴金属製の導電性コーティング物を含むのが好ましい。2次コーティング物が保護層として用いられる。1つの実施形態では、2次コーティング物は導電性カーボンベースのコーティング物である。別の実施形態では、シリコンベースのコーティング物が2次コーティング物として用いられる。別の実施形態では、導電性ポリマーコーティング物が用いられる。
【0062】
好ましくは、エミッターはチューブ、好ましくは溶融シリカキャピラリーチューブからなる。1つの実施形態では、エミッターは最大55μm、好ましくは最大30μmの内径を有する。
【0063】
本発明の1つの実施形態では、エミッター形成方法が提供される。当該方法は、チューブを加熱するステップ、及び内径が細くなったチップを形成するように延伸するステップを含む。このように内径を細くすると、LCMS分析の性能が更に高まる。1つの態様によれば、本発明はかかる改良型エミッターの製造方法を提供する。LCMS装置で用いられる改良型チップの製造方法は、当該チップを、特に当該チップ末端部を、導電性カーボンベースコーティング物でコーティングするステップを含む。先細りのチップ末端部近傍のチップ内径は、好ましくは約2〜30μm、より好ましくは3〜10μmの範囲内である。1つの実施形態では、エミッター/チップは、先細りの末端部におけるエミッターの内径が最高10μmとなるように形成される。
【0064】
1つの実施形態では、チューブは両端で引っ張られ、中央部分が加熱される。加熱中、ガラスは中央部付近でより柔軟となり、伸長された状態となり、そして最終的に引きちぎられる。かかる実施形態では、2つの先細りのエミッターが形成される。
【0065】
1つの実施形態では、引き延ばされたチップは金等の貴金属でコーティングされる。その後、当該チップは、内径が細くなった出口が形成されるように、好ましくは先細りした(伸長した/引っ張られた)末端近傍で切断される。
【0066】
1つの実施形態では、エミッターは分析カラムの一端に一体的に形成される。こうすることにより、分析カラム末端部及びエミッターの上流末端部間での接続が省ける。
【0067】
1つの態様によれば、例えば液体クロマトグラフィーカラム、及びサンプルをエレクトロスプレーするための先細りの末端部等からサンプルを受容するための上流末端部を備える、ナノスケールフローのためのエミッターが提供されるが、当該エミッターはエレクトロスプレーイオン化ユニットの部品であり、当該エミッターは溶融シリカから形成され、且つ55μm未満の内径を有し、当該エミッターの上記先細りの末端部には、金からなる導電性1次コーティング物及び2次導電性カーボンベースコーティング物が設けられる。
【0068】
更に、例えば液体クロマトグラフィーカラム、及びサンプルをエレクトロスプレーするための先細りの末端部等からサンプルを受容するための上流末端部を備える、ナノスケールフローのためのエミッターが提供されるが、当該エミッターはエレクトロスプレーイオン化ユニットの部品であり、当該エミッターは溶融シリカから形成され、且つ最大55μmの内径を有し、当該エミッターの上記先細りの末端部には、シリコン合金又は導電性ポリマーを含むコーティング物が設けられる。
【0069】
T−コネクター
ナノスケールLCMSデバイスでは、流路の内径に匹敵するような大きさのデッドボリュームはバンド(ピーク)幅に劇的な効果を及ぼすので、流路中のデッドボリューム、すなわち空隙を無くすことが重要である。拡散によるピークのブロード化は、システムの感度及びダイナミックレンジの両方に有害な影響を及ぼす。
【0070】
1つの実施形態では、LCMSデバイス流路内のデッドボリュームの存在量を、少なくとも顕著に低減する改良型接続要素が提供される。
【0071】
したがって、一般的に固定されるチューブの外径に等しい直径を有する断面を持った内部ボリュームを備える接続要素が提供される。
【0072】
チューブの突合せ接続
本発明の1つの態様は、高圧(>4×104kPa)に耐え得るナノスケールカラムの突合せ接続方法を提供することに関する。
【0073】
本発明の1つの実施形態では、接続されるチューブの末端部は、チューブの長さ方向に対して垂直に「直線切削」が得られるようにダイアモンドカッターを用いて切断される。かかる直線切削は、接続要素内でチューブ末端部の接合を可能にし、上流カラムから下流カラムの入口に流入する際に、少なくとも移動相についてデッドボリュームの存在量を低減する。直線端部を有するチューブの各末端部での接続は、一般的に突合せ接続と呼ばれる。直線切削は、バリやフィンの形成を無くす。
【0074】
チューブの末端は接合状態にあるが、かかる突合せ接続は完全に又は強固に密閉されていないのでリークが生じる可能性がある。漏出容積は、3方向の接続要素からなる本実施形態の接続要素の第3の接続アセンブリに到達可能である。
【0075】
本発明は、具体的な実施形態を用いて記載されるが、本発明が、提示された実施形態に限定されないことは明白であろう。より具体的には、提示された実施形態はLCMS技術の応用形態である。しかし、本発明はLCMSにおける応用形態に限定されない。本発明は具体的な実施形態を用いて説明されるけれども、本発明は本明細書で開示される明示の特徴に限定されず、あらゆる黙示的特徴又は同等の特徴も含む。本出願には具体的な特許請求の範囲が添付されはするものの、本出願の開示は当該特許請求の範囲に限定されるものではなく、全ての黙示及び明示の特徴を含み、並びに後続の分割申請出願はかかる特徴との任意の組合せにおいて関連し得る。
【0076】
本開示に基づく実施形態は併用可能であることは、熟練した読者にとって明白であろう。別途明示しない限り、本明細書に開示された実施形態のいずれも、別に開示された実施形態の特徴(の一部分)と併用可能である。
【0077】
本発明は、後ほど図を参照しながら、より詳細に記載される。
【0078】
出願全体を通じて、用語LCMSは、LCMSプラットフォーム技術、又はLCMS装置と交換可能に用いられる。
【0079】
LCMSデバイスの使用
更なる態様では、エピトープを同定するために、本発明の上記態様で定義したようなデバイスの使用ができるようになる。
【0080】
エピトープが何かは当業者にとって公知である。簡潔には、エピトープはタンパク質の断片、好ましくはペプチドである。通常、エピトープは、MHCクラスIリガンドについて、約8〜10個のアミノ酸からなる長さ、またMHCクラスIIリガンドについて、約11〜34個、好ましくは14〜16個のアミノ酸からなる長さを有するが、但し、他の長さのペプチドも予想され得る。かかるペプチドは、PTMにより更に変化する場合がある(Engelhardら、2004年)。任意のエピトープについて、本発明のLCMSデバイスを用いて同定できる可能性がある。1つの好ましい実施形態では、MHCクラスI T細胞エピトープが同定される。別の好ましい実施形態では、MHCクラスII T細胞エピトープが同定される。当業者は、1つのサンプルを用いて数種類のエピトープが同定可能であることを理解するであろう。1つのサンプルを用いてMHCクラスI及びMHCクラスII T細胞エピトープを同定することも可能である。
【0081】
MHCクラスIエピトープ
第1の好ましい実施形態では、T細胞エピトープはMHCクラスIエピトープである。当業者に公知の、及び「背景技術」ですでに説明したような、MHCクラスIエピトープは、CD8+T細胞を活性化するように、APCによりMHCクラスI分子上に提示されるエピトープである。MHCクラスIエピトープは、好ましくは哺乳動物細胞内に発現するタンパク質に起因又は由来し、好ましくは細胞内感染中のウイルスに由来する。MHCクラスIエピトープは、その他の非自己タンパク質にも由来し、これはMHCクラスI分子に関連してAPC内でプロセシング及び提示される細菌性タンパク質であり得る。好ましくは、かかるタンパク質は、細胞内ライフスタイル、すなわち哺乳動物APC、好ましくはヒトAPCに侵入し得ることを意味するかかるライフスタイルを採用し得る細菌に由来する。MHCクラスIエピトープは、非自己の細菌性又はウイルス性のタンパク質にも由来する場合があり、同タンパク質はAPCにより細胞外環境から取り込まれ、そして交差提示を経由してMHCクラスIプロセシングコンパートメントに到達し得る。また、MHCクラスIエピトープは、宿主タンパク質に由来する場合があり、当該タンパク質の発現は新規誘発性であり、又はAPCの細胞内感染により上方制御されており、したがって感染関連又は病原体関連である。
【0082】
本発明のLCMSデバイスを利用しながら、いくつかの戦略を、MHCクラスIエピトープを同定するために用いることができる。ウイルス性病原体の場合、第1に、MHCクラスIエピトープを同定する必要のある、同定対象ウイルスを選択する必要がある。好ましいウイルスとして、非限定的にあらゆるウイルスが挙げられるが、かかるウイルスは前記哺乳動物で病状又は疾患を誘発することができる。好ましくは、当該哺乳動物はヒトである。MHCクラスIエピトープが同定され得るヒトのウイルスとして以下のものが挙げられる:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)等のレトロウイルス科(Retroviridae);風疹ウイルス(rubellavirus);パラミクソウイルス科(paramyxoviridae)、例えばパラインフルエンザウイルス、麻疹、流行性耳下腺炎、呼吸器合胞体ウイルス、ヒトメタニューモウイルス等;インフルエンザウイルス等のオルトミクソウイルス科(orthomyxoviridae);フラビウイルス科(flaviviridae)、例えば黄熱病ウイルス、デングウイルス、C型肝炎ウイルス(HCV)、日本脳炎ウイルス(JEV)、ダニ媒介脳炎、セントルイス脳炎又はウェストナイルウイルス等;ヘルペスウイルス科(Herpesviridae)、例えば単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、Epstein−Barrウイルス等;ブニヤウイルス科(Bunyaviridae);アレナウイルス科(Arenaviridae);ハンタウイルス等のハンタウイルス科(Hantaviridae);コロナウイルス科(Coronaviridae);ヒトパピローマウイルス等のパポバウイルス科(Papovaviridae);狂犬病ウイルス等のラブドウイルス科(Rhabdoviridae)。ヒトコロナウイルス等のコロナウイルス科(Coronaviridae);アルファウイルス科(Alphaviridae)、アルテリウイルス科(Arteriviridae)、エボラウイルス等のフィロウイルス科(filoviridae)、アレナウイルス科(Arenaviridae)、天然痘ウイルス等のポックスウイルス科(poxviridae)、及びアフリカ豚コレラウイルス。麻疹ウイルス、インフルエンザウイルス、及び呼吸器合胞体ウイルスは、実験パートで実施例として取り上げる。
【0083】
次のステップでは、選択したウイルスから得られたMHCクラスIエピトープを含む混合物が調製され、かかる混合物又はサンプルはLCMSデバイスに提供されるが、同デバイスは、前記MHCクラスIエピトープ同定用として本明細書ですでに特定されている。MHCクラスIエピトープを同定するために、いくつかの戦略が利用可能である。かかる好ましい実施形態(MHCクラスIエピトープ)では、MHCクラスIエピトープを含む混合物は、好ましくは前記エピトープを含む細胞に由来する。したがって、同定対象となるMHCクラスIエピトープがウイルスに起因又は由来する場合には、当業者はまず、哺乳動物細胞を前記ウイルスで感染させて前記混合物を得なければならない。これは、当業者にとって公知の技術を用いて実施可能であり、また麻疹ウイルス、又はインフルエンザウイルスを例とする実験において幅広く記載されている。好ましくは、APCが感染対象として用いられる。APCは細胞系に由来することも、又は哺乳動物、好ましくはヒトから単離することもできる。プロフェッショナルAPCを単離及び同定する方法。使用される好ましいAPCは、実験パートに記載するようにヒトDC、より好ましくはヒト単球由来樹状細胞(MDDC)である。APCは、好ましくは数日間(約4〜6日間)、任意選択により所定の栄養物を補充した、適する培地内で培養される。これに続き、公知の技法によりAPCを選択したウイルスに感染させる。ウイルスの同一性に応じて、どの感染プロトコールに従わなければならないか、当業者にとって公知である。感染後、APCは捕集、洗浄、計測、及び任意選択によりペレット化され、そして更に分析する前に凍結される。対照として、非感染APCを用いることができる。実験デザインに応じて、少なくとも2つの並行培地中でAPCを培養することが可能であるが、そのうちの1つは選択されたウイルスに感染している。並行培地間のその他の唯一の相違として、感染培地は、13C6−L−ロイシン、及び/又は13C5,15N1−L−メチオニン、及び/又は13C5,15N1−L−バリン等の、安定な同位体で標識されたアミノ酸(単数又は複数)が50%、並びにこれらに対応する天然アミノ酸であるL−ロイシン、L−メチオニン、及びL−バリンが50%存在することにより識別されることが挙げられる。その他のアミノ酸、好ましくは実験のHLAバックグラウンドに関連するMHCアンカー残基に相当するアミノ酸も標識用途で選択可能である。1つのMHCクラスIエピトープ組成物を溶出する前に、感染APC及び対照APCの1:1混合物(細胞/細胞)を使用すれば、正常不変の自己エピトープに関する同位体イオンクラスターと比較して、ウイルス感染関連自己エピトープに関する同位体イオンクラスターでは影響が異なるであろう。これにより、その後、ウイルス感染関連MHCクラスIエピトープをより良く同定可能となる。
【0084】
実験デザインに応じて、特定のHLAバックグラウンドから得られるAPCを使用するように選択することもできる。例えば、HLA−A*0201バックグラウンドから得られたAPCを使用する場合、これに関連して特異的に提示されるエピトープが同定されるであろう。また、数種類のバックグラウンドに関連して提示され得るエピトープを同定するために、異なるHLAバックグラウンドから得られたAPCを並行して使用することも選択可能である。APCを1:1混合(細胞/細胞)した後には、当該細胞混合物は、更にエピトープ分析を実施する前に凍結可能である。
【0085】
APCが凍結されている場合には、分析を実施する際にAPCは解凍される。その後、MHCクラスI分子を可溶化するために、公知の技法に基づきAPCは溶解される。好ましい方法は、MHCクラスIIエピトープと題するセクションに記載する方法に類似する。より好ましい方法は、実験パートにも記載されている。溶出組成物内に存在する各エピトープを同定するために、本発明のデバイス内にダウンロードするのに適するMHCクラスIエピトープを含む組成物又はサンプルを調製する場合、かかる調製は、本発明のデバイスにダウンロードされるMHCクラスIIエピトープを含む組成物の調製に類似する。
【0086】
本発明のデバイスに適する組成物をダウンロードするステップ、及びMHCクラスIエピトープが同定されるように得られた結果を分析するステップは、当業者にとって公知の技法に基づき実施され、かかる技法は実施例で説明した。
【0087】
かかるアプローチにより、哺乳動物に感染することが公知の、ある種のウイルスのMHCクラスIエピトープについて、おそらくはその全てが同定可能となる。また、同アプローチは、所定のMHCクラスIエピトープの相対的な量についても洞察をもたらす。また、これは、溶出組成物に含まれる複数の長さ変異体の存在が反映されるエピトープの長さ変化、並びにエピトープの翻訳後修飾(PTM)を含むその他の特徴、又はある種のHLAの状態において提示物上に現れるタンパク質多型又はエピトープ多型の役割についても洞察をもたらす。かかる技法は強力で、機能的ワクチンの開発に必要とされる。選択したウイルスが、既存療法に対して極めて迅速に自己を適応させることが公知のウイルスである場合には、本発明に含まれる好ましい実施形態は、1種類のウイルスの少なくとも2種類の株に由来する共通MHCクラスIエピトープを同定することであるが、好ましくは、かかる好ましい実施形態では、当該ウイルスはインフルエンザウイルスである。
【0088】
MHCクラスIIエピトープ
別のより好ましい実施形態では、T細胞エピトープはMHCクラスIIエピトープである。本発明の好ましい利用形態では、MHCクラスIIエピトープは、APCと共にエピトープ源を含む混合物を抗原パルス実験でインキュベーションし、そしてその後にAPCによりプロセシング及び提示されたエピトープを含むサンプルを本明細書で定義するデバイスに提供した後に同定される。好ましくは、エピトープ源は、エピトープの原タンパク質である。
【0089】
MHCクラスIIエピトープは、当業者が理解する通り、及び「背景技術」ですでに説明したように、APCによりMHCクラスII分子上に提示されてCD4+T細胞を活性化させるエピトープである。本明細書で用いるMHCクラスIIエピトープは、好ましくは非自己タンパク質に起因又は由来する。非自己タンパク質は、好ましくは、本明細書で後ほど特定する病原体から得られたタンパク質であり、同タンパク質は、前記病原体に感染している可能性がある哺乳動物にとって非自己である。本発明のLCMSデバイスを利用しながら、いくつかの戦略が病原体関連MHCクラスIIエピトープを同定するために用いることができる。第1に、MHCクラスIIエピトープを同定する必要のある病原体を選択しなければならない。好ましい病原体として、非限定的にあらゆる哺乳動物の病原体が挙げられ、かかる病原体は、前記哺乳動物において病状又は疾患を誘発することができる。好ましくは、当該哺乳動物はヒトである。MHCクラスIIエピトープが同定され得るヒトの病原体として以下のものが挙げられる:原核細胞又は真核細胞。好ましくは、原核細胞はバクテリアである。好ましいバクテリアとして、例えばヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori)等のヘリコバクター属(Helicobacter)、ナイセリア属(Neisseria)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)等のヘモフィルス属(Haemophilus)、ボルデテラ属(Bordetella)、クラミジア属(Chlamydia)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)等の連鎖球菌(Streptococcus)、コレラ菌(Vibrio cholera)等のビブリオ属(Vibrio)、並びに、例えばサルモネラ属(Salmonella)、赤痢菌(Shigella)、カンピロバクター菌(Campylobacter)、及びエシェリキア属(Escherichia)等を含むグラム陰性腸内病原菌、並びに炭疽病、ハンセン病、結核、ジフテリア、ライム病、梅毒、腸チフス、淋病、及びQ熱を引き起こすバクテリア、が挙げられる。好ましいバクテリアはボルデテラ属又はナイセリア属に属する。より好ましいボルデテラ属として、百日咳菌(Bordetella pertussis)、パラ百日咳菌(Bordetella parapertussis)、又は気管支敗血症菌(Bordetella bronchiseptica)が挙げられる。より好ましいナイセリア属として、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)が挙げられる。病原体は寄生虫、例えばウシ脳性バベシア症原虫(Babesia bovis)、プラスモジウム原虫(Plasmodium)、リーシュマニア種(Leishmania spp)トキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)、及びクルーズ・トリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)等のトリパノソーマ属(Trypanosoma)等の原生動物であってもよい。好ましい真核生物として真菌類が挙げられる。より好ましい真菌類として、酵母菌又は糸状菌が挙げられる。好ましい酵母菌の例は、カンジダ属(Candida)に属する。好ましい真菌類として、アスペルギルス属(Aspergillus)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)等のクリプトコッカス属(Cryptococcus)、及びヒストプラスマ・カプスラーツム(Histoplasma capsulatum)が挙げられる。病原体は、本明細書で後ほど定義するウイルス性病原体でもあり得る。この場合、病原細胞と呼ぶ際には、好ましくはウイルス感染細胞を指す。
【0090】
次のステップでは、選択した病原体に由来する1つ又は複数のMHCクラスIIエピトープ(単数又は複数)の、1つの原タンパク質、又は複数の原タンパク質を含む混合物を調製し、抗原パルス実験においてAPCと共にかかる混合物をインキュベーションし、及びAPCによりプロセシング及び提示された1つのエピトープ、又は複数のエピトープを含むサンプルを、本明細書ですでに特定した前記MHCクラスIIエピトープを同定するためのLCMSデバイスに提供する。1つ又は複数の原タンパク質(単数又は複数)からなる数種類の混合物が、実験の目的、及び/又は選択した病原体について当業者が有する知識に応じて、及び/又は病原体の同一性に応じて利用可能である。
【0091】
好ましい実施形態では、前記混合物は細胞に由来し、又は細胞を含む。より好ましくは、この場合の細胞は病原細胞である。好ましい病原体は本明細書ですでに特定されている。病原細胞に由来する混合物は、好ましくは全細胞調製物に由来する混合物である。前記病原体細胞についてエピトープ(単数又は複数)が全く、又はほとんど判明していない場合には、又は追加のエピトープ(単数又は複数)若しくは未知の病原体タンパク質に由来するエピトープ(単数又は複数)を、前記病原体について同定する必要がある場合には、かかるより好ましい実施形態(全細胞調製物に由来する混合物の使用)は通常魅力的である。病原体に由来するその他の既知又は未知のエピトープに対して優位にプロセシング及び提示されるエピトープとして既知又は未知の病原体関連エピトープを同定する必要がある場合には、かかるより好ましい実施形態はやはり魅力的である。また、哺乳動物のAPC、好ましくはヒトのAPCが、複雑な病原体プロテオーム全体をin vivoで処理及び提示したときに、その結果に類似した全病原体関連MHCクラスIIリガンドームが1つの分析サンプルに含まれる必要がある場合には、かかるより好ましい実施形態は魅力的である。簡潔には、かかる混合物を調製するために、病原細胞は、2つの並行培養物内の適する培地内で、好ましくは静止期まで培養される。2つの並行培養物の唯一の相違点として、一方の培養物は14N(天然窒素同位体)の存在で識別され、また他方は、15N安定同位体の存在で識別されるということが挙げられる。APCを用いた抗原パルス実験で14N−及び15N−標識病原細胞の1:1混合物を使用すると、好ましくは等しいコピー数の軽い(14N)、及び重い(15N)形態のエピトープが生成する。こうすることで、後にLCMSデバイス内で、病原体関連MHCクラスIIエピトープを認識するのを容易にすることができる。病原体に応じて、使用可能な適当な培地、また任意選択的に当該培地に追加の栄養剤を補充する方法について、当業者は理解している。通常、病原細胞はこれが静止期に達したときに、加熱により不活性化される。静止期とは、好ましくは光学濃度測定を用いて細胞のこれ以上の増殖が認められないことを好ましくは意味する。光学濃度は、好ましくは590nmで測定される。その後、適する光学濃度(OD)、好ましくは0.6〜1の間の光学濃度を有する全細胞調製物を得るために、病原細胞はPBS等の生理的バッファー内で濃縮され得る。
【0092】
別の好ましい実施形態では、前記混合物は細胞のタンパク質を含み、又は細胞、好ましくは病原細胞のタンパク質に由来する。病原細胞は、本明細書ですでに定義されている。好ましいタンパク質は、百日咳菌(Bordetella pertussis)に由来するタンパク質であるP.69パータクチンである。病原体に由来するタンパク質が、同定する必要がある、免疫原性の、且つ新規の、進化した、又は支配的なエピトープとしてすでに公知である場合に、この種の混合物が一般的に用いられる。タンパク質は、好ましくは精製された調製物に存在する。精製された調製物は、好ましくは、前記タンパク質を少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、又は少なくとも95%、又は少なくとも98%、又は少なくとも99%(w/w)含む、又はこれから構成される調製物を意味する。タンパク質は、病原体から直接精製可能であり、又はこれをエンコードする遺伝子を、前記タンパク質を発現する別の宿主にクローン化することができる。かかる宿主の好例として、実験パートで記載するように大腸菌(Escherichia coli)(E.coli)が挙げられる。タンパク質の入手方法は、調製物の純度が本明細書に規定する通りである限り本発明の具体的な方法に限定されない。前記タンパク質を入手するために、病原体を前段のように適する条件下で培養する。宿主細胞の場合、誘発剤を添加することにより前記タンパク質の発現を誘発することができる。好ましくは、大腸菌の場合、IPTGが誘発剤として用いられる。前記タンパク質が細胞内で発現する場合には、前記病原体又は宿主細胞は当業者に公知の界面活性剤を用いて培養の最後に溶解される。次いで、前記タンパク質を含む細胞質内細胞抽出物が調製される。次に、前記タンパク質は前記細胞質抽出物から精製される。大腸菌の場合、前記タンパク質は封入体中に存在し得る。封入体中に存在するタンパク質の精製は、当業者にとって公知であり、実施例に記載するように実施可能である。次に、タンパク質調製物は、PBS等の生理的バッファー内で濃縮若しくは稀釈可能であり、又は適する、好ましくは0.3〜2.5mg/mlの間のタンパク質濃度を有するタンパク質調製物を得るために更に精製可能である。
【0093】
別の好ましい実施形態では、混合物は細胞のコンパートメントに由来し、又は細胞、好ましくは病原細胞のコンパートメントを含む。病原細胞は、本明細書ですでに定義されている。好ましいコンパートメントは小胞であり、より好ましくは髄膜炎菌(Neisseiria meningitidis)に由来する外膜小胞(OMV)である。病原体由来の小胞が病原体の免疫原性の本体としてすでに公知で、且つ同定する必要のある新規で、進化した、又は支配的なエピトープである場合には、この種の混合物が一般的に用いられる。細胞のコンパートメントは、好ましくは、前段記載のタンパク質について説明したものと同様の精製されたコンパートメント調製物内に存在する。精製されたコンパートメント調製物は、好ましくは、前記調製物は、かかる調製物内に存在することが公知である1つの代表的なタンパク質について少なくとも5%を含む、又はこれから構成されることを意味する。前記調製物は、好ましくは、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも85%、少なくとも90%、又は少なくとも95%、又は少なくとも98%、又は少なくとも99%(w/w)を含み、又はこれから構成される。髄膜炎菌に由来するOMVに存在する代表的なタンパク質の例として、外膜タンパク質、ポーリンA(PorA)が挙げられる。コンパートメントは、好ましくは病原体から直接的に精製される。コンパートメントの入手方法は、前記コンパートメントを含む調製物の必要純度が満たされる限り、本発明の特定の方法に限定されない。前記コンパートメント調製物を得るために、病原体は上記直前2段に記載するような、適する条件下で培養される。選択したコンパートメントの同一性に基づき、培養病原細胞からこれを単離する方法、及び任意選択によりこれを精製する方法について、当業者は理解している。OMVを含む調製物の好ましい調製方法は実施例に記載されている。次に、当該コンパートメント調製物は、コンパートメントを代表するタンパク質について好適な濃度を有する精製されたコンパートメント調製物が得られるように、PBS等の生理的バッファー中で濃縮又は稀釈可能、又は更に精製可能である。例えば、前記コンパートメントとして、髄膜炎菌に由来するOMVを使用する場合には、当該精製されたコンパートメントは、好ましくは、主要な代表的外膜タンパク質、ポーリンA(PorA)を1.2〜2.4mg/mlの範囲で含む必要がある。
【0094】
MHCクラスIIエピトープ生成源を含むその他の任意の混合物が本発明で利用可能である。好ましくは、かかる生成源はタンパク質生成源である。ウイルス性エピトープの生成源を含む混合物も利用可能である。好ましいウイルスは本明細書で後ほど定義される。ウイルス性エピトープの生成源を含む混合物は、好ましくはウイルス性タンパク質を含む混合物であり、又は同タンパク質に由来し、又はウイルス性タンパク質の生成源、好ましくは複製型ウイルス性生物である。CD4+T細胞を誘発するウイルス関連MHCクラスIIエピトープを同定する必要がある場合には、かかる好ましい実施形態は通常魅力的である。
【0095】
MHCクラスIIエピトープの生成源を含む混合物を調製するのと並行して、選択された病原体の標的となり得ることが公知の哺乳動物由来のAPCを含む調製物も調製される。好ましくは、APCはヒトから得られる。ヒトからAPCを単離する方法は当業者にとって公知である。これは、通常、ヒト全血の勾配遠心分離技術、好ましくは白血球アフェレーシスのバッフィーコート(leukapheresis buffy coat)の勾配遠心分離を利用することにより実施される。APCの同一性は、好ましくは、APCマーカーに特異的な特異抗体を用いるフローサイトメトリーによりチェックされる。使用される好ましいAPCはヒトDC、より好ましくは実験パートに記載するヒト単球由来樹状細胞(MDDC)である。実験デザインに応じて、特定のHLAバックグラウンドに由来するAPCを使用することを選択することができる。例えば、HLA−DR1バックグラウンドに由来するAPCを使用する場合、この条件で特異的に提示されるエピトープを同定することとなる。また、数種類のバックグラウンドに関連して提示され得るエピトープを同定するために、異なる複数のHLAバックグラウンドから得られたAPCを並行して使用することも選択可能である。APCとしてその他の細胞型、好ましくは、Bリンパ球、単球、マクロファージ、及びMDDC以外の樹状細胞の系統等の、免疫系由来のプロフェッショナルAPCを使用することも可能である。また、前記細胞の抗原処理及び提示バックグラウンドに関連して特異的に生成している、又は疾患状態に関連するエピトープ(単数又は複数)を同定するために、その他の哺乳動物細胞型もAPCとして利用可能である。この場合、次にAPCは、好ましくは適する培地内で数日間(約4〜6日間)培養されるが、同培地は栄養剤を補給することができる。培養の最後に、1つのエピトープ又は複数のエピトープ(全細胞、又はタンパク質、又は細胞のコンパートメント)からなる等量の14N−及び15N−源を含む1:1混合物が、APCと共に1〜2日間、適する培地内で培養されるが、同培地は更に補給可能である。補給物はアジュバンドであり得る。好ましいアジュバンドはLPS(リポ多糖類)である。より好ましくは、LPSはウマ流産菌(S.abortis equi)に由来する。これは、いわゆる抗原パルス実験である。インキュベーションの最後に、APCを捕集、洗浄、及び計測する。かかるAPCは、更なるエピトープ分析を実施する前に凍結可能である。
【0096】
APCが凍結されている場合には、分析を実施する際にAPC細胞は解凍される。その後、MHCクラスII分子を可溶化するために、公知の技法に基づきAPCは溶解される。好ましい溶解バッファーは、実施例で記載するように1%CHAPSを含み、緩衝化され、及びプロテアーゼインヒビターが補給されている。遠心分離後に得られた上清は、その後、1つのエピトープ又は複数のエピトープを含む溶出組成物を得るために、実施例に記載するようにいくつかのCNBr活性化トリスブロック化セファロースカラム上で精製可能である。当該溶出組成物はメンブレンろ過により更に精製可能であり、当該溶出組成物中に存在する各エピトープを同定するために、本発明のデバイスにダウンロードされる適する組成物中又はサンプル中で濃縮及び再構成可能である。
【0097】
本発明のデバイスに、適する組成物又はサンプルをダウンロードし、及び得られた結果を分析してMHCクラスIIエピトープを同定する際には、これは当業者に公知の技法に基づき実施され、同技法については実施例で説明した。
【0098】
かかるアプローチにより、哺乳動物のある種の病原体のMHCクラスIIエピトープについて、おそらくはその全てが同定可能となる。また、同アプローチは、所定のMHCクラスIIエピトープの相対的な量についても洞察をもたらす。また、これは、エピトープのその他の特徴についても洞察をもたらすが、かかる特徴としては、溶出組成物に含まれる複数の長さ変異体の存在が反映されるエピトープの長さの変化、並びにエピトープの翻訳後修飾(PTM)、又はある種のHLAの状況において提示物上に現れるタンパク質多型又はエピトープ多型(髄膜炎菌の領域4に関する実施例で広範囲に示すように)の役割が挙げられる。かかる技法は強力で、機能的ワクチンの開発に必要となる。
【0099】
同定されたエピトープとその使用
更なる別の態様では、本発明は、本明細書に記載する任意の方法を用いて取得可能なエピトープを提供する。好ましいエピトープは、すでに本明細書において特定されている(実験データ中の表1〜8、配列番号1〜153を参照)。実施例で特定される各配列番号は、同定済みのエピトープを表している。カッコ内に特定される各同定済みのエピトープに隣接する残基は、好ましくはエピトープの一部として考慮されない。好ましくは、各配列番号では、本明細書に示すようなあらゆるPTMが考慮されている。
【0100】
麻疹ウイルスに由来する好ましいエピトープは、表1及び表2で特定され、配列番号1〜45からなる群より選択される。より好ましいエピトープは、配列番号7〜45からなる群より選択され、任意選択により、配列番号1〜6のうちの少なくとも1つと組み合わされる。
【0101】
インフルエンザウイルス感染に関連する好ましいエピトープは、表3で特定され、配列番号46〜49、及び配列番号52〜58からなる群より選択される。
【0102】
百日咳菌(B.pertussis)に由来するエピトープは、表4及び表5で特定され、配列番号59〜72からなる群より選択される。
【0103】
髄膜炎菌由来の好ましいエピトープは、表6、表7、及び表8で特定され、配列番号73〜153からなる群より選択される。好ましいエピトープはPorAタンパク質、すなわちポーリンAの血清亜型P1.5−2,10又はポーリンAの血清亜型P1.7−2,4のいずれかに由来する。PorAタンパク質は、8つの領域に再分割可能である(表6を参照):
−領域1はPorAタンパク質、好ましくはポーリンA血清亜型P1.5−2,10又はポーリンA血清亜型P1.7−2,4の最初の20個のアミノ酸に関連する。
−領域2はアミノ酸39〜59に対応、
−領域3はアミノ酸91〜111に対応、
−領域4はアミノ酸131〜168に対応、
−領域5はアミノ酸191〜224に対応、
−領域6はアミノ酸292〜306に対応、
−領域7はアミノ酸318〜349に対応、
−領域8はアミノ酸349〜372に対応する。
【0104】
好ましい実施形態では、1つ又は複数のPorAエピトープは下記のように使用される:任意選択により領域1、及び/又は領域2、及び/又は領域3、及び/又は領域7、及び/又は領域8に含まれるPorAエピトープと組み合わせて、領域4に含まれるPorAエピトープ、及び/又は領域5に含まれるPorAエピトープ、及び/又は領域6に含まれるPorAエピトープ。各領域に含まれる好ましいエピトープは、表6に示されている:
−領域1に含まれる好ましいエピトープは、配列番号73〜76で表され、
−領域2に含まれる好ましいエピトープは、配列番号77〜79で表され、
−領域3に含まれる好ましいエピトープは、配列番号80〜91で表され、
−領域4に含まれる好ましいエピトープは、配列番号92〜95で表され、
−領域5に含まれる好ましいエピトープは、配列番号96〜99で表され、
−領域6に含まれる好ましいエピトープは、配列番号100で表され、
−領域7に含まれる好ましいエピトープは、配列番号101で表され、
−領域8に含まれる好ましいエピトープは、配列番号102〜110で表される。
【0105】
より好ましい実施形態では、PorAエピトープは、任意選択によりその他の同定済みのPorAエピトープの少なくとも1つと併用して、配列番号92〜95からなる群より選択される。
【0106】
表7は、その他(非PorA)のタンパク質から同定された髄膜炎菌由来エピトープを特定し、配列番号111〜134で表される。したがって、好ましい実施形態では、髄膜炎菌由来エピトープは配列番号111〜134からなる群より選択される。
【0107】
より好ましい実施形態では、上記で特定されたPorAエピトープは、表7で特定された別のタンパク質から同定された髄膜炎菌由来エピトープと併用される。最も好ましくは、PorAエピトープは、配列番号111〜134の少なくとも1つと組み合わせて、配列番号92〜95からなる群より選択される。
【0108】
表8は、PorA及び非PorAタンパク質から同定された髄膜炎菌由来エピトープを特定し、配列番号135〜153で表される。したがって、好ましい実施形態では、髄膜炎菌由来エピトープは配列番号135〜153からなる群より選択される。
【0109】
より好ましい実施形態では、上記で特定された髄膜炎菌エピトープは、表8の髄膜炎菌由来エピトープと併用される。最も好ましくは、PorAエピトープは、配列番号135〜153の少なくとも1つと組み合わせて、配列番号92〜95からなる群より選択される。
【0110】
表3、4、及び5に示す各エピトープ、並びに表2、6、7、及び8に示すその他のエピトープの主要部分は新規と考えられ、本発明のLCMSデバイスの独自性を高める。
【0111】
かかるエピトープのいずれも、これが起因又は由来するところの病原体又はウイルスに対するワクチンに組み込まれる候補である。したがって、本発明は、かかるエピトープを担持する病原体により引き起こされる疾患を予防及び/又は治療するためのワクチンの製造に用いられる、本明細書に特定するエピトープを含む組成物にも関する。本発明には、1病原体について本明細書で特定する1、2、3、4、5、6、7、8、9、又はこれ以上のエピトープを含む組成物が含まれると理解される。任意選択により、公知のエピトープは、本明細書で特定するエピトープと併用可能である。
【0112】
本明細書で定義するように、エピトープはある長さを有することにより同定される。前記エピトープを含む組成物は、好ましくはある長さに限定されない。前記組成物は、本明細書で定義する病原体に由来するペプチドを含むことができ、前記ペプチドは、好ましくはPTMを含む天然の処理及び提示を経た同定済みの特徴を有する、同定済みのエピトープを含む。また、組成物は、コア配列として同定済みのエピトープを含むポリペプチドであって、且つin vivo投与後の前記エピトープの提示に有利なアミノ酸配列が隣接したポリペプチドも含み得る。また、組成物は、複数の同定済みのエピトープ、及び隣接配列を含むポリペプチドも含み得る。しかし、かかる組成物によるin vivo送達後のエピトープは、MHCクラスIエピトープについて8〜12個の範囲内のアミノ酸を、又はMHCクラスIIエピトープについては11〜34個の、好ましくは14〜16個の範囲内のアミノ酸が含まれる長さを有するのが好ましい。前記アミノ酸配列は、好ましくは本明細書で定義する病原体により発現されたタンパク質に全体的又は部分的に由来する。したがって、好ましい実施形態では、本明細書で特定するエピトープを含むペプチドは、組成物内でワクチンとして用いられる。MHCクラスIエピトープを含むペプチドは、8〜20個の範囲の、又はそれ以上のアミノ酸からなる長さを有し得る。MHCクラスIIエピトープを含むペプチドは、8〜40個の範囲の、又はそれ以上のアミノ酸からなる長さを有し得る。MHCクラスI又はIIエピトープを含む前記ペプチドは、エピトープ、及び天然の病原体タンパク質に由来する付加的な隣接配列、又は天然の病原体タンパク質に由来しない付加的な隣接配列を含み得る。
【0113】
したがって、ペプチドは、同定済みのペプチドから構成され、同定済みのエピトープを含み、複数の同定済みのエピトープを含み、又は本明細書で特定するエピトープ配列の1つと、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%、若しくは100%の一致性を有するアミノ酸配列を有することができ、また好ましくは、かかるペプチドは、本明細書で特定する病原体に由来する天然のアミノ酸配列ではない。好ましくは、ペプチドは同定済みの配列の1つに対する同ペプチドの一致性によって定義され、また本明細書ですでに特定した長さを有する。同一性は、一致したアミノ酸の数が最も多くなるように両配列を並べた後に、2つの配列間で一致したアミノ酸の数を定義することにより計算される。
【0114】
本明細書で特定したエピトープを含む組成物は下記事項を意味し得ること、すなわちある病原体について1つ又は複数のエピトープが本明細書ですでに特定される場合には、当該病原体の天然タンパク質がワクチンとして用いられるということを意味し得ることも本発明に更に含まれる。これは、好ましくは、病原体の新しい天然タンパク質が、少なくとも1つのエピトープを有するものとして本明細書で特定された場合である。或いは、前記天然タンパク質の一部を利用することもできる。本発明に関連して、「一部」とは、前記成熟タンパク質配列のアミノ酸数の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は100%を意味する。実験データでは(表2、4−8−)、いくつかの病原体固有のタンパク質が同定された。かかる表、又はその一部で特定する各タンパク質は、関連病原体に対するワクチンとして組成物内で利用可能である。
【0115】
本発明で用いられる前記組成物の(ポリ)ペプチドは、容易に合成可能である。別の組成物は、1つ又は複数の同定済みエピトープをその最適な形態で含むポリペプチドに関する遺伝子(DNA)コードを含み得る。当技術分野では、現在、前記(ポリ)ペプチド又は前記DNAを生成する多くの方法が知られている。
【0116】
したがって、本発明は、本明細書ですでに定義した本発明のエピトープを含む組成物に更に関する。前記組成物は好ましくは医薬組成物であり、好ましくはワクチンとして用いられる。ワクチンは、哺乳動物の予防接種(免疫反応を高める)又はワクチン接種で利用可能である。組成物はアジュバンドを更に含み得る。アジュバンドとは、哺乳動物、好ましくはヒトを免疫するようにエピトープと組み合わせて用いたときに免疫系を刺激し、これにより、好ましくはアジュバンドそれ自身に対する特異的な免疫反応を引き起こすことなく、前記エピトープに対する免疫反応を誘発し、強化し、及び促進するあらゆる物質又は化合物を含めるように定義される。好ましいアジュバンドは、同一条件下にあるがアジュバンドが存在しない前記エピトープに対して引き起こされる免疫反応に比較して、対象エピトープに対する免疫反応を少なくとも1.5、2、2.5、5、10、又は20倍増強する。動物又はヒトの群においてアジュバンドにより生み出される対象エピトープに対する免疫反応について、関連する対照群と比較した統計平均増強効果を決定するための試験法を、当技術分野で利用することができる。アジュバンドは、好ましくは少なくとも2つの異なるエピトープに対する免疫反応を強化する能力を有する。本発明のアジュバンドは、通常、哺乳動物にとって外来の化合物であり、これにより哺乳動物にとって内因性の免疫刺激性化合物、例えばインターロイキン、インターフェロン、及びその他のホルモン等を排除する。
【0117】
更に好ましい実施形態では、医薬組成物は、薬学的に許容される担体を更に含む。当該医薬組成物は、薬学的に許容される安定化剤、浸透圧剤、緩衝剤、分散剤等を更に含む。医薬組成物の好ましい形態は、意図する投与様式、及び治療用途に依存する。医薬担体は、活性成分、すなわちエピトープ及び任意選択によりアジュバンドを患者に送達するのに適した、適合性のある、無毒のあらゆる物質であり得る。鼻腔内送達用の薬学的に許容される担体として、水、緩衝化生理食塩水、グリセリン、ポリソルベート20、クレモフォール(cremophor)EL、及び(カプリル/カプリン酸)グリセリルの水性混合物が挙げられ、また中性pH環境を提供するように緩衝化され得る。非経口送達用の薬学的に許容される担体として、滅菌緩衝化された0.9%NaCl又は5%グルコースが挙げられ、任意選択により20%アルブミンが補給される。非経口投与用の調製物は滅菌状態でなければならない。活性成分を投与するための非経口経路は、公知の方法、例えば皮下、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、又は病変内、鼻腔内、皮膚内又は口腔経路による注射又は輸液に基づく。本発明の組成物は、好ましくはボーラス注射により投与される。筋肉内注射用の代表的な医薬組成物は、例えばリン酸緩衝化生理食塩水を1〜10ml、及び本発明のエピトープを1〜100μg、好ましくは15〜45μg含むように調製される。経口投与の場合、活性成分は液状の投薬形態、例えばエリキシル剤、シロップ剤、及び懸濁剤等の状態で投与可能である。経口投与用の液状の投薬形態は、患者許容性を高めるように着色剤及び香味料を含むことができる。非経口、経口、又は鼻腔内投与可能な組成物の調製方法は、当技術分野で周知であり、様々な情報源、例えばRemington’s Pharmaceutical Science(第15版、Mack Publishing、Easton、PA、1980年)等においてより詳細に記載されている(全ての目的のためにこれらをそのまま参考として援用する)。
【0118】
本発明のエピトープのその他の利用
更なる態様では、哺乳動物の免疫状態を評価するために、本発明のエピトープを更に利用できるようにする。かかる態様では、病原体のエピトープを含む混合物は、当業者にとって公知の技術を用いて、前記哺乳動物に由来するAPC又はT細胞と共にin vitroでインキュベーション可能である。哺乳動物の免疫状態を評価するということは、好ましくは、前記哺乳動物がすでに対象病原体に感染しているかどうか、又は投与したワクチンによって、前記哺乳動物が前記病原体に将来的に感染してもなおもこれが保護されるかどうかを評価することを意味する。好ましくは、エピトープは本明細書に記載する任意の方法を用いて取得可能である。好ましいエピトープ、及び好ましい前記エピトープを含む組成物は、本明細書においてすでに定義されている。前記T細胞の活性化、又はAPCと関連したエピトープの処理及び認識が検出された場合、それは前記哺乳動物が前記病原体からなおも保護されていることを示すと考えられる。T細胞の活性化は前記エピトープに対して特異的に関連するが、かかる活性化は増殖アッセイで評価可能、又はかかるT細胞により産生されたサイトカイン又はその他のエフェクター分子の増加により評価可能である。かかるそれぞれの方法は、当業者にとって公知である。前記利用は、in vitro「防御相関(Correlates of Protection(CoP))」とも呼ばれている。
【0119】
本文書で、及びその特許請求の範囲では、動詞「含む」及びその活用形は、当該単語に続く事項が含まれ、但し、特に記載されない事項でも排除されないことを意味する非限定的な意味合いで用いられる。更に、動詞「構成される」は、「から実質的に構成される」と置き換えることが可能で、本明細書で定義する生成物又は組成物は、具体的に特定されたもの以外の追加の成分(単数又は複数)、本発明の固有の特徴を変化させない前記追加の成分(単数又は複数)も含み得ることを意味する。更に、不定冠詞「a」又は「an」で引用する要素は、文脈から明らかに1つしか存在せず、たった1つの要素である必要がない限り、2つ以上の要素が存在する可能性を排除するものではない。したがって、不定冠詞「a」又は「an」は、通常「少なくとも1つの」を意味する。
【0120】
本明細書で引用する全ての特許及び文献資料は、これらをそのまま本明細書により参考として援用する。
【0121】
下記実施例は例示目的に限定して提供され、決して本発明の範囲を限定しようとするものではない。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】第1の実施形態におけるLCMS装置の線図である。
【図2】第2の実施形態におけるLCMS装置内の、エレクトロスプレーするためのエミッター、及び同エミッターがエレクトロスプレーと併用して用いられる分析カラムに取り付けられた状態を示す断面図である。
【図3a】第2の実施形態に基づくチップを作製する方法を概略的に示した図である。
【図3b】第2の実施形態に基づくチップを作製する方法を概略的に示した図である。
【図3c】第2の実施形態に基づくチップを作製する方法を概略的に示した図である。
【図3d】第2の実施形態に基づくチップを作製する方法を概略的に示した図である。
【図4】第3の実施形態に基づく接続要素を示す断面図である。
【図5】分析カラムを充填する方法における1ステップを示す断面図である。
【図6】分析カラムを充填する方法における第2のステップを示す図である。
【図7】第7の実施形態におけるトラッピングカラムを示す概略図である。
【図8】MHCクラスI又はMHCクラスII分子により提示されたT細胞エピトープのアロケーションに関する質量分析認識パターンを表す概略図である。
【図9】複合サンプル分析で用いられるLCMS技術において、いくつかの改良を組み合わせて利用した図である。
【図10】複合サンプル分析で用いられる高品質ナノスケールLC技術の結果を示す図である。
【図11】ヒトMDDCに由来するMHCリガンドームのLCMS分析結果を示す図である。
【図12】ウイルス関連上方制御MHCクラスI自己エピトープについて、安定同位体標識ガイディングLCMS同定法を利用した結果を示す図である。
【図13】複合した病原体の全細胞調製物に由来する病原体由来MHCクラスIIリガンドについて、安定同位体ガイディングLCMS同定法を利用した結果を示す図である。
【図14】単一の組換え技術により発現したタンパク質に由来する病原体由来MHCクラスIIリガンドについて、安定同位体ガイディングLCMS同定法を利用した結果を示す図である。
【図15】細菌性膜調製物に由来する病原体由来MHCクラスIIリガンドについて、安定同位体ガイディングLCMS同定法を利用した結果を示す図である。
【図16】予期しないPTMを伴ったMHCクラスIIエピトープの同定を可能にする安定同位体の利用結果を示す図である。
【図17】ヒトMB71.5T細胞によるP1.5−2,10及びP1.7−2,4「領域4」エピトープの差示的認識を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0123】
図1〜7の詳細説明
図1はLCMS装置1の図を概略的に示している。左手には注入バルブ2が概略的に示されている。バルブ2はポンプ、好ましくは混合ポンプと連結した供給部3と連結可能である。当該バルブは注入ループ5を備えるループ4にも連結される。当該注入バルブは、排出部6及び同7、及び次のバルブ、より具体的には図1の右手に概略的に示すいわゆるディーンズバルブ10と連結した出口8に更に連結可能である。当該バルブは、フローの一部が出口8に分岐して流入可能な構造である。
【0124】
ディーンズバルブ10は、カラムフローを切り替え、分岐させ、及び方向決定して分析カラム11、及び最終的に質量分析器12に導くために用いられる。ディーンズバルブは、単純な6ポート切り替えバルブを用いて遠隔操作で分岐を行う。カラムヘッド圧力は、レストリクター13の寸法により生み出される。ディーンズバルブは、プラグ14、15、及び排出部16、17と更に連結する。
【0125】
1つの実施形態では、LCMSデバイスは、ナノスケールポンプ構成部を備える。ポンプ構成部はポンプを備え、連続的に変化する二成分系溶媒についてnl/分の範囲内の流速を実現することができる。別の実施形態では、従来型の高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)ポンプが用いられる。
【0126】
ポンプ、好ましくはHPLCポンプ又は二元若しくは四元ポンプは下記能力を有する必要がある:
(i)所定のカラム流速、又は正確なグラジエントフロー(少なくとも2種類の溶媒を正確、且つ十分定義された比で混合する)において、リニアグラジエント及び非遅延グラジエントを実現する。
(ii)固相抽出トラップは、(全体的な)分離効率に悪影響を与えてはならない;及び
(iii)ESIインターフェースでのピークのブロード化が生じない、又は最小限に抑えられる必要がある。ポンプのホールドアップ体積(Vm)と比較して低すぎる流速(F)でポンプを稼働すると、非リニアグラジエント及び遅延グラジエントの原因となるおそれがある。
【0127】
1つの実施形態では、ナノスケールLCポンプが、本発明に基づくLCMSデバイスで用いられる。しかし、かかるポンプは高価であり、また非常に低い流速、すなわち30nl/分未満では正確且つ安定なグラジエントを生み出すことができない。
【0128】
1つの実施形態では、ポンプ構成部はポンプ、好ましくはHPLCポンプを備えるが、同ポンプは、混合溶媒系の所望の低流速を非常に正確に生み出す便利な方法として、フロー分岐デバイスと併用される。当該システムは、いわゆる割り込みガスクロマトグラフィーのためにこれまでに開発された遠隔方式切り替え機構に基づき、ディーンズ切り替えと呼ばれる。カラムフローの分岐及び方向決定は、1つの実施形態では、6ポート切り替えバルブ(ディーンズバルブと呼ばれる)を用いて遠隔方式で行われる。所望のカラムヘッド圧力は、トラッピングカラム上流に位置するレストリクターの寸法(長さ、内径)、及びポンプの1次出口流速に起因する。レストリクター及び後続する下流カラムを連結するためにT−コネクターを使用することも可能である。
【0129】
ナノスケールHPLCシステムは、溶媒減圧脱気装置、溶媒混合ポンプ、好ましくは四元混合ポンプ、より好ましくは高圧混合二元ポンプ、少なくとも10μlのサンプルボリュームを注入可能なオートサンプラーを備える。好ましくは全ての接続用チューブは105μm未満、好ましくは55μm、及びより好ましくは30μm未満の内径を有する。チューブは不活性化処理されていない溶融シリカからなる。
【0130】
ディーンズバルブ10のうち、分岐及び方向決定システム部分は、2つの3方コネクター20及び21の中間に位置するトラッピングカラム19である。トラッピングカラムは、最大5μmのサイズを有する粒子を含む固定相ベッドを備え、また前記固定相ベッドの長さは、5mm、好ましくは少なくとも10mm、及びより好ましくは少なくとも20mmであり、内径は約50μmである。
【0131】
1つの実施形態では、LCMSデバイスは、分析カラム11の上流に固相抽出物(SPE)トラッピングカラム、又はトラッピングカラム19を備える。トラッピングカラムは、ディーンズバルブ10と並行して配置可能であり、文献よりベント付きカラム又はV−カラムとしても公知のシステムである(Lickliderら、2002年)。トラッピングカラムは、比較的大きなサンプルボリュームをナノスケールLCカラム内に比較的速くローディング(移送)することができる。トラッピングカラム19の内径は、分析カラム又は分離カラム11の内径と釣り合っている必要がある。
【0132】
内径(ID)の大きなトラッピングカラム19を使用すると、移動相の線速度は最適値の約1mm/秒よりもはるかに落ち込むことから、トラッピングされた化合物が移動するとき、分析カラム11上で比較的ブロードなバンドを引き起こす。トラッピングカラム19内の移動相の線速度は、カラム/トラップID比の二乗に比例する、又は線速度1mm/秒で稼働する50μmIDの分析カラム11と併用した、300μmID、及び100μmIDのトラッピングカラム19の場合、それぞれ0.03及び0.25mm/秒となる。更に、トラッピングカラム19のIDが大きいと、トラッピングカラム19及び接続チューブのボイドボリュームは、溶出プロセスが開始可能となる前にカラムを通過してしまう必要があるので、顕著な遅延の原因となる。
【0133】
1つの実施形態では、分析カラム11は最大3μmのサイズの粒子を含む固定相ベッドを備えることができ、前記固定相ベッドの長さは25cm、好ましくは少なくとも50cm、及びより好ましくは少なくとも95cmであり、また内径は約25μmである。かかるカラムの末端部は、導電性ナノスプレーチップ又はエミッターと突合せ接続しており、その例を図2(約25μmの内径を有し、先細りのチップ末端部近傍の内径が3.5μmまで細くなった溶融シリカチューブを備える)に示すが、ここでは本発明に基づく金−カーボンコーティング物を有する。かかる分析カラム11を備えたLCMS装置は、約30nl/分の流速で稼働することができる。ペプチドサンプルを分析する前に、クロマトグラフィーシステムを確認することが特に推奨される。
【0134】
1つの実施形態ではタンデム型の質量分析器12が用いられる。当該質量分析器は少なくとも10,000FWHMの質量解像度で稼働することができる。質量スペクトルは、スキャン速度が少なくとも0.9秒/スキャンのプロフィール連続モードで取得される必要がある。質量決定精度は百万分の100以上である必要がある。
【0135】
サンプル成分は、分析対象物のいくつかの物理的、化学的、又はその他の固有の特性、例えば分子サイズ、極性、電荷等に基づき分離され得る。いくつかの実施形態では、いくつかの方法(数種類のクロマトグラフィー)が、例えば分子篩クロマトグラフィー、イオン相互作用、又はイオン交換クロマトグラフィー、特異的分子相互作用(例えば、抗体−抗原)等による方法が組み合わされる。また、数種類のかかるクロマトグラフィー法が、サンプルを分画するために利用可能である。
【0136】
第2次元として用いられる逆相クロマトグラフィーと直交関係にあるSCXクロマトグラフィーを第1次元として採用すると、分離効率が顕著に向上する。2−次元LCMS(2D−LC/MS)の最高性能は、オフラインモードで操作する場合に得られるが、それは当該操作は、両分離システムを独立に最適化する際に、最大の自由度をもたらし、また同操作は分離効率に関するあらゆる障害を排除するためである。SCXクロマトグラフィーも、ペプチドサンプル中になおも存在し得る、またペプチドの溶出期間中に妨害する可能性の有るあらゆる残留界面活性剤、又はバッファー成分を除去するのに重要である。かかる化合物はボイドボリュームにおいてSCXカラムから溶出し得るので、したがって一般的にペプチドを含まない最初の分画に現れる。
【0137】
LCカラムの分離効率は、1回の操作で分離可能な成分の数(すなわちピーク容量)で表すことができる。カラム分離効率は、カラム長(L)と段高さ(H)との商である。
【0138】
Van Deemter(Van Deemterら、1956年)によれば、理論的な段高さ(H)は、固定相粒子の粒子サイズ(dp)に比例的に依存する。段数の別のパラメーターは、移動層の流速であり、これは最適な線速度(約1mm/秒)を有する一次関数と双曲線関数との複合関数である。1つの実施形態では、カラムヘッド圧力は、移動相がほぼこの値の線速度を有するように制御される。
【0139】
LCMS装置は当業者にとって公知であり、同者は非常に多くの代替装置も可能であるという事実に精通している。図1に示す装置は、非常に多くの候補装置がある中の1例に過ぎない。
【0140】
図2は、概略的に示すエレクトロスプレーイオン化ユニット500の一部であるエミッター30のチップを表している。点線で示すユニット500は、502を介してエミッター30と接続されている、特にコーティング物と接続されている電流源501を備える。
【0141】
エミッター30は、コネクター32を用いて分析カラム31の末端部に接続されている。コネクター32は概略的にしか表されていない。図2は、カラム31の末端部33に接続されたエミッター30の断面図を表す。特定の実施形態では、エミッター30及びカラム末端部33の間の接続は、突合せ接続である。更なる実施形態では、カラム及びチップの間で好適な突合せ接続を可能にするように、カラム31の遠位末端部33、及びエミッター30の近位末端部34を作製するためにダイアモンドカッターが用いられる。カラム31の外径36は、好ましくは200〜800μmの範囲である。チューブは溶融シリカを含み得る。溶融シリカチューブでは、内部空孔37は、好ましくは約10μm〜約200μm、より好ましくは15μm〜50μmの範囲の内径38を有するように形成される。
【0142】
エミッター30は、カラム末端部33と接続される近位末端部34、及び先細りの形状を有する遠位末端部39を備える。先細りの末端部39は、細くなった外径と細くなった内径の両方を有する。
【0143】
図3a〜3dでは、提示されるエミッター30のチップを作製する方法の例を示す。第1ステップでは、図3aに示すように、溶融シリカチューブ43のコーティング物42が、例えばブタントーチ44を用いて(少なくとも部分的に)除去される。次のステップでは、溶融シリカ43の加熱された末端部46は(図3bに概略的に示す手段により)、45の方向に引っ張られ、エミッター30は前記方向に延長又は伸長される。チューブは互いに圧迫され、内部空孔は細くなり、最終的に閉鎖される。次に、溶融シリカチューブは、その外部表面にコーティング物47が設けられ、電流が流れ、そしてその先細りの末端部46に達するようにして、エレクトロスプレー操作を可能にする。チップの先細り末端部46近傍のチップ内径41は、好ましくは約2〜30μm、より好ましくは3〜10μmの範囲である。内径が小さくなるほど、その後の質量分析感度を更に向上させる。
【0144】
図3cでは、すでに記載したチップ上へのコーティング物の塗布を表している。1つの実施形態では、金等の貴金属を含む第1のコーティング物がチップ46上に塗布される。しかし、金コーティング物はエレクトロスプレー中に劣化し、長期間持続した導電性を提供することができないことが判明している。二者択一的に、又は付加的に、カーボンベースの導電性コーティング物がチップ46上に塗布される。かかるコーティング物は、スプレープロセスによりチップ上に塗布可能である。1つの実施形態では、カーボンはエアゾール沈着法又は蒸着法を用いて沈着される。カーボン粒子はイソプロパノール中で懸濁可能である。
【0145】
本発明に基づく1つの実施形態では、コーティング物を塗布するステップは1回又は1回よりも多く繰返すことができる。1つの実施形態では、複数のコーティング物が互いに重なり合って塗布される。
【0146】
好ましくは、コーティング物を組み合わせたものが、チップをコーティングするために用いられる。1つの実施形態では、金コーティング物が最初に塗布され、その後にカーボンベースの導電性コーティング物が塗布される。更なる実施形態では、金コーティング物が最初に塗布され、次に当該金コーティング物はカーボンベースの導電性コーティング物の層で被覆される。カーボンベースの導電性コーティング物の層は、Leit−C(商標)カーボン粒子50mgをイソプロパノール1mlに懸濁して調製し、そしてこれをエミッター(すなわちチップ上)にスプレーすることにより塗布される。Leit−C−plast(商標)は、高導電性で永久的な可塑性を備えた接着剤で、Electron Microscopy Sciences(EMS)、Hatford、英国より入手可能である。
【0147】
1つの実施形態では、導電性耐酸化性材料が、チップの先細り末端部にある金コーティング物上の更なるコーティング物として用いられる。1つの実施形態では、カーボンベースの導電性コーティング物が用いられる。
【0148】
別の実施形態では、シリコン合金が用いられる。
【0149】
更なる実施形態では、導電性ポリマーが本発明に基づくコーティング物又は追加のコーティング物として用いられる。
【0150】
追加のコーティング物は金コーティング物に接着可能である。追加のコーティング物は保護を提供する。1つの実施形態では、コーティング物はエミッターの先細り末端部にスプレーされる。別の実施形態では、耐酸化性コーティング物が先細りの末端部に塗布される。イソプロパノール等の適する溶媒がスプレーするために用いられる。別の実施形態では、エミッターの先細り末端部にスプレーされるスラリーは、イソプロパノール1ml中に導電性カーボンセメントを30〜70mg、好ましい実施形態では45〜55mg含む。
【0151】
図3dに示す次のステップでは、エミッター30の閉鎖した末端部48は、カッター49、例えばダイアモンドカッターを用いて取り除かれる。切断することにより、内径が細くなった先細りの末端部39を有するエミッター30が得られる。チューブ43を圧迫する効果とチューブ43の自由末端部において引張り力を加える効果が組み合わされて、内径はスムーズに減少する。
【0152】
1つの実施形態では、溶融シリカチューブ用のコネクターが、トラッピングカラム及び/又は分析カラムの各部分を接続するために用いられる。LCMS装置では、3方コネクター、又はT−コネクターが、カラム又はバルブを接続するために用いられる。先行技術では、Upchurch(登録商標)の3方コネクター(当技術分野ではUpchurch Scientific、Oak Harbor、WAより入手可能なスルーホールユニオンとして公知)が用いられる。好ましくは、外径及び内径を有し、内径が空孔を画定する溶融シリカからなるチューブが、かかるコネクターを用いて接続される。好ましい実施形態では、コネクターはスルーホールコネクターである。
【0153】
1つの実施形態では、LCMSデバイスは、内径25μmのナノスケールカラムを備える。ペプチドを用いる応用形態では、かかるペプチドは、一般的に1ナノリットル以下の容積の濃縮したバンドの状態でかかるカラムを通過する。
【0154】
別の実施形態では、ナノスケールチューブ用のコネクターにはデッドボリュームがなく、これは、好ましくは400bar(すなわち4×104kPa)を超える圧力で用いるのに適する。
【0155】
1つの実施形態では、コネクターは改変されたUpchurchスルーホールT−コネクターである。
【0156】
1つの実施形態では、Tコネクターは少なくとも1つの、おそらくは2つのフェルール、好ましくは3つのフェルールを備える。チューブ、及び特にマイクロキャピラリーナノスケールカラムが、当該フェルールの空孔に受容可能である。こうして、接続要素の内部ボリューム内にチューブを嵌め込むことが可能となる。フェルールの空孔は適するサイズである。フェルールの空孔は、一般的にフェルールの空孔に受容されるチューブの外径と等しい又はこれに近い内径を有するスルーキャビティー(through cavity)である。フェルールの空孔は、挿入されたチューブのチューブ外径と摩擦接触する。
【0157】
コネクターと併用されるフェルールは、チューブの空孔と接続要素の空孔とを一致させるために用いられる。接続要素は、フェルールを固定するための受容用の空孔を備え、当該固定用の空孔とフェルールは共同的に働き、また脱着可能である。接続した状態では、フェルールは、内部空孔が接続要素の内部空孔に適合するようにチューブを配置する。好ましくは、当該接続要素は、2つのフェルール固定用空孔コンビネーションを備える。現在のUpchurch設計では、コネクターの内部ボリュームはデッドボリュームを含む。
【0158】
現在のUpchurch設計では、内部空孔はかなり拡大されている。これは当業者の公知技術とは反対である。
【0159】
図4は、図1に基づく装置1の3方接続要素又は切り替え要素20、21の詳細を示している。当該図の縮尺は一定ではない。より具体的には、ここに示す要素の直径の比は、ここに示す比に限定されない。
【0160】
3方接続要素20は3つのフェルール51〜53を備える。フェルールとは、3方コネクター20の3つの末端部で受容用の空孔と嵌合する本体である。1つの実施形態では、3つのフェルールは異なるサイズを有する。取り付けられるフェルールは、その形状が空孔の形状に本質的に関連するため、当該空孔にセルフアライメントし得る。より具体的には、ここに示す実施形態では、フェルールは、空孔の円錐状の形状に関連して円錐状の形状を有し得る。セルフアライメントすることにより、フェルールの受容用の空孔を接続要素20に関して事前決定された位置に配置できるようにする。
【0161】
フェルール51〜53は空孔を備えることができる。チューブ54〜56の外径、及び当該空孔の内径は、フェルールがいずれのチューブ54〜56をもその空孔内に受容できるように調節されている。
【0162】
フェルール51〜53は、接続した状態で示されており、接続要素20、21の各空孔内に収まっている。キャップ57〜59が設けられるが、当該キャップは、コネクターに当該キャップ57〜59を固定するための固定システム(詳細に示していない)を備え、これによりフェルール51〜53の位置を固定する。1つの実施形態では、固定システムは係止システム、例えばスクリュー状の接続部を備える。固定システムは、接続状態においてフェルール51〜53を固定及びクランプするように構成及び配置されてもよく、その結果チューブ54〜56の外径上にクランプ力がもたらされる。こうしてチューブ54〜56はその各位置で係止される。
【0163】
接続要素20、フェルール51〜53、及びキャップ57〜59は、様々な製造技術を用いて、特に射出成形により製造可能である。
【0164】
チューブ54、56はフェルールに収納された状態にあり、当該フェルールは実質的にアライメントされて接続要素に接続されている。これは、チューブ54、56の内部空孔もやはり実質的にアライメントされていることを意味する。
【0165】
別の実施形態では、接続要素の内部ボリュームは、好ましくはコネクターのT字形本体の内部ボリュームは、チューブを収納するためのフェルールの空孔に一致する。かかる改変された接続要素、好ましくは接続要素の内部本体の一部が掘削により取り除かれたUpchurch要素では、チューブが接続要素の水平方向の2つの各末端部で直線状に配置するのを可能にする接続要素が提供され、当該チューブは、当該接続要素内、すなわちコネクター、好ましくは3方コネクターの内部空孔内で、その末端部を突き合わせた状態で配置可能となる。
【0166】
ここに示す実施形態では、溶融シリカチューブ54、56の末端部60、61は、フェルール51、53が接続状態にあるときに、チューブ54、56は突合せた状態になるのを可能にする直線切削が得られるように、ダイアモンドカッターを用いて切断されている。こうして、接続要素20の本体内にデッドボリュームが生ずるのを防止する。突合せ接続であっても、チューブ54、56内を経由する液体は、突合せ末端部を通って漏出する可能性があり、チューブ55を経由する液の通過を可能にする。
【0167】
別の実施形態では、接続要素はフェルールを接続要素と固定するための固定要素を備える。1つの実施形態では、当該固定デバイスはクランピング手段を備える。1つの実施形態では、フェルールをクランピングすると、その結果フェルール内に収納されているチューブをその位置でクランピングする。当該固定デバイスは、チューブ及びフェルールをその位置で固定するように構成及び配置される。
【0168】
更なる実施形態では、1つのチューブを構成する2つのピースが3方コネクターに接続され、ここでは接続要素の入口側ポート及び出口側ポートが直線状に配置し、そして第3のコネクターはかかる直線に対して垂直に接続されている。当該チューブは突合せ接続位置で配置されるが、但し、第3のコネクターは接続チャンネルを有し、液体クロマトグラフィーで用いられる高圧により、漏出した容積がかかる接続チャンネルに到達可能となるので、かかる突合せ接続は、接続部材の中央部において正確に中心に位置する必要がない。
【0169】
図5及び図6は加圧容器又はボンベ70を表す。ボンベ70はクロマトグラフィー粒子の懸濁物を、好ましくは懸濁したクロマトグラフィー固定相を含むバイアルを収納することができる。
【0170】
1つの実施形態では、チューブは、例えば温度がプログラムされたオーブン内に当該チューブを配置することにより加熱される。好ましくは、プログラムされた温度が用いられる。1つの実施形態では、最初の温度は30℃設定で5分間継続されるが、その後15分間のうちに100℃まで高められ、そしてかかる温度は5時間維持される。次いで、フリット及びチューブは周囲温度まで冷却される。その後、硬化したフリット及び溶融シリカは室温まで冷却される。次に、溶融シリカカッターを用いてセラミックフリットを切り取り、約1〜2mmの長さにする。好ましくは直線切削される。
【0171】
別の実施形態では、カラム充填することによりナノスケールLCカラムが製造され、及び提供される。カラムに充填する方法は、溶融シリカ(FS)チューブ内に粒子保持フリットを作製するステップを含む。当該チューブは所望の長さに切断される。特定の実施形態では、90/10(v/v)の比で、ケイ酸カリウム溶液(本明細書ではKASILとも呼ぶ)とホルムアミドの混合物が提供される。当該混合物は激しく振とうされる。1つの実施形態では、ボルテックス混合が、例えば10秒間用いられる。好ましくは、長さ数cmの当該混合物からなるプラグをチューブ内に吸入させるように、その後速やかに溶融シリカはかかる混合物に短時間(厳密ではなく、例えば1秒間)浸漬される。
【0172】
1つの実施形態では、LC分析カラムを充填するステップは、フリットが設けられた溶融シリカチューブを加圧容器(ボンベ)内に組み込むステップを含む。加圧容器は、所望の粒子からなるスラリーを収納し得る。好ましくは、フェルールがチューブを加圧容器に組み込むために用いられる。好ましくは、本発明の接続部品が、当該チューブを加圧容器に接続するために用いられる。
【0173】
好ましくは、カラム全体を振動させるために振動要素74が用いられる。本発明に基づく方法に関する実施形態では、カラムは、カラムの長さ方向において少なくとも2箇所で振動を受ける。1つの実施形態では、少なくとも2種類の周波数、好ましくは超音波周波数が振動に用いられる。
【0174】
特定の実施形態では、溶融シリカカラムのフリット化された末端部は超音波バス(例えば、Branson 200)中に置かれる。更なる実施形態では、超音波処理は、固相粒子が溶融シリカカラム内に流れ込んだ後に限り実施される。
【0175】
カラムを充填する方法に関する1つの実施形態では、高度に濃縮した(濃厚な)スラリーが用いられる。スラリーの利用は、細く(25μmID)、延長されたカラムに充填するのに最も便利な方法である。
【0176】
1つの実施形態では、スラリーは、アセトン1mlに懸濁した逆相粒子を少なくとも150mg含む。充填時にカラムを通過するアセトンの線速度は、驚くべきことに、イソプロパノールに対して7±1倍に等しい。
【0177】
充填カラムを製造する別の実施形態では、フリット化されたFSチューブは、0.5mmの孔を有するフェルールを経由して加圧容器内の所望の粒子からなるスラリー内に配置(フリットアップ)される。当該フェルールは当該容器に接続される。次に、例えばヘリウムシリンダーに取り付けられた減圧器の二次圧は約50barに調整され、例えばバルブ(例えば、Swagelok SS−41GSX2バルブ)を開くことによりボンベに圧力が加えられる。
【0178】
カラムの準備が整うと、充填物の稠密度が双眼鏡(25×)を用いて目視により検査される。使用する前に、HPLCポンプを用いて250barの圧力で、アセトニトリル/水(85/15、v/v)及び0.1M酢酸によりカラムをフラッシュする。
【0179】
好ましくは、カラムは使用前に試験される。カラムの背圧(bar/cm)をチェックすることができる。カラムのフリット化された末端部にスリーブ(内径0.4mm)を配置する。スリーブ内のメニスカスの変位(mm)を1分間測定する。体積は次式から得られる:
流速(nl/分)=変位(mm)×100(nl/mm)
【0180】
ポンプの圧力を読み取り、カラム全体について標準化された圧力損失(Pb、bar/カラム長、cm)を計算する:
Pb=[時間/体積]×[(ID/50)2×125]×P/L
式中、「時間」は分で表された流量測定時間、「体積」はnlで表された回収体積、「ID」はμmで表されたカラム内径、「P」はbarで表された流量測定中のカラムヘッド圧力、及び「L」はcmで表されたカラム長である。
【0181】
溶融シリカチューブ71が提供され、多孔性のセラミック製フリット72がチューブ71の一方の末端部に形成される。もう一方の末端部は高圧容器70に接続される。高い圧力により、懸濁粒子の一部が空孔内に運ばれる。粒子が空孔内を流れる間、粒子内でボイドボリュームが形成されるのを防止するために、超音波振動要素74を用いてカラム71又は当該カラムの一部を振動させることができる。1つの実施形態では、振動要素74は、カラム内で材料が密集している近傍に配置される。
【0182】
下流で目詰まりが生じた場合には、カラムをスラリーから引き上げ、取り出し(但し、まだ容器の中にある)、そして液をフラッシュして乾燥することができる。次に、FSをスラリー内に戻し、所望のベッド長が得られるまで充填プロセスを再開する。
【0183】
図7は、本発明に基づく実施形態の1つと併用される、2次元液体クロマトグラフィーの応用形態を概略的に示す。第1次元目として、強カチオン交換体(SCX)が、また図解による実施形態ではSCX及び弱アニオン交換(WAX)樹脂からなる混合ベッドが用いられる。アニオン及びカチオン交換粒子からなる混合ベッド、例えばMotoyama(Motoyamaら、2007年)が記載するものが好ましい。第2次元目は、例示のようにC18逆相(RP)クロマトグラフィーであり得る。
【0184】
SCXと逆相クロマトグラフィーとの相性は、特にカチオン性の溶媒、バッファー、又は媒体との併用において乏しい。本発明の実施形態によれば、ギ酸又は塩酸(HCl)等の溶媒81が用いられる。かかる媒体の溶出強度は低いが、特にギ酸は、アニオンカチオン交換(ACE)樹脂に結合した結合ペプチドの回収において高い効率を示す。
【0185】
タンパク質分解されたタンパク質の多次元LCMS/MS分析の1つの実施形態では、SCX分画法が、RP分離法と併用して用いられた。当該分析技術は、分析の分離効率及びダイナミックレンジを向上させるために組み合わされた。1つの実施形態では、第1次元目の分離用としてアニオン交換粒子及びカチオン交換粒子からなる混合ベッドを用いたオンライン多次元LC法が提供される。
【0186】
1つの実施形態では、Motoyama(Motoyamaら、2007年)に基づく混合型イオン交換ベッドが用いられる。
【0187】
LCMSデバイスの1つの実施形態では、サンプルはオンライン方式で分画される。好ましくは、2次元クロマトグラフィーがLCMSデバイス内に構成、配置される。好ましくは、少なくとも1つの分離機構がサンプル成分の疎水特性を利用する。更なる実施形態では、用いられる複数の分離機構のうちの少なくとも1つはSCXであり、これは、好ましくはHLA−DR溶出サンプルの分画に用いられる。
【0188】
1つの実施形態では、直交した分画法が用いられる。1つの好ましい実施形態では、SCX分画法が用いられる。複合された装置では、総分析時間は、一般的に15倍まで容易に増加し得る。SCXの次元は、オンライン方式及びオフライン方式の両方で利用可能である。
【0189】
SCX樹脂は、陰性に強く荷電した基を粒子表面に有する粒子を含み、陽性に荷電した分子との結合を可能にする。SCX樹脂は陽性に荷電したペプチドを保持(維持/結合)する能力を有する。
【0190】
適するカチオン性の塩水溶液の強度を増加させるグラジエント(連続/不連続の)により、樹脂をフラッシングするかかる手段を用いて置換/溶出することにより、通常、結合した分子は遊離/回収される。グラジエントにより、ほんの緩く結合している分子は強く結合している分子よりも速やかに遊離する。こうして、複合サンプルについて所望の分離が実現する。
【0191】
第2次元目は逆相クロマトグラフィーであり得る。1つの実施形態では、第2の分離ステップは、好ましくはC18RPクロマトグラフィーを含む。1つの実施形態では、C18逆相のLCMSデバイスは、混合型のアニオン及びカチオン交換体固相抽出トラッピングカラムを備える。
【0192】
SCX法及びRP分離法間の直交性は、SCXはペプチドを保持するために静電相互作用を利用するという事実に基づく。実際には、SCXでペプチドを分離する際の保持力は、静電相互作用(主)と疎水的相互作用(副)の組合せからなり、後者はスルホニルポリマー骨格の疎水的性質に起因する。かかる「混合モード」特性は、SCXが同一の正味荷電を有する構造的に類似したペプチドを分離できる理由の1つとして認識されている。
【0193】
イオン交換法(IEX)及びRP分離法間の直交性は、静電相互作用及び疎水性に基づく。実際には、IEXでペプチドを分離する際の保持力は、静電相互作用(主)と疎水的相互作用(副)の組合せからなり、後者はシリカ粒子表面性におけるシラノール基との疎水的相互作用に起因する。かかる「混合モード」特性は、IEXが同一の正味荷電を有する構造的に類似したペプチドを分離できる理由の1つとして認識されている。
【0194】
好ましくは、LCMS法は、弱アニオン交換体(Poly WAX LP(商標)、The Nest Group、Inc.45 Valley Road Southborough、MA 01772−1323、本明細書ではWAXとも呼ぶ)を用いて分画するステップを含む。WAX粒子は、好ましい実施形態においては、陽性のカチオン粒子を含む架橋コーティング物の層を含む。より好ましくは、WAX粒子は直鎖状のポリエチレンイミンと架橋したシリカベースの物質を含む。
【0195】
LCMSデバイスは、好ましくは結合ペプチドの回収を可能にする第1次元目としてACE固相抽出カラムを備える。
【0196】
1つの実施形態では、SCXにおけるペプチド溶出は、酢酸アンモニウム等の揮発性の有機塩を用いて実現可能である。酢酸中の酢酸アンモニウムが、ACEカラムからペプチドを分離するのに適する溶媒として提案されてきた。
【0197】
図8は、MHCクラスI又はMHCクラスII分子により提示されたT細胞エピトープのアロケーションに関する質量スペクトル認識パターンの概略図である。
上段:天然アミノ酸残基及び同位体標識アミノ酸残基(感染の際に培地に等モル量存在する)の取込みに起因する質量スペクトル同位体二項分布により、MHCクラスI関連ペプチドを特徴づけている。自己ペプチドの上方制御の程度は、天然エピトープ(m)と1つだけ標識されたエピトープ(m+Δ)のモノアイソトピック質量の強度比に基づき計算可能である。新規に合成されたタンパク質、及び病原体由来タンパク質の場合には、理論的同位体パターンは完全な二項分布を示す。最大2個の標識アミノ酸残基を含むエピトープに関する理論的同位体分布パターンを上段に示す:自己ペプチドのそのままの発現、並びに5倍、20倍、及び100倍上方制御された発現、並びに感染後の新規の上方制御された自己ペプチド又はウイルス性ペプチド。下段:実験法IIに記載するように、病原体由来のMHCクラスII関連ペプチドは、その特徴的な質量スペクトルのダブレットに基づき、明らかに自己ペプチドと区別することができる。
【0198】
図9は、実験法Iに記載する標準LCMS技術(上段)を利用した後、及びプラットフォームLCMS技術(下段)を利用した後に得られた、MV−感染WH細胞に由来する未分画のHLA−A2リガンドームから求めたLCMS基準ピークイオン図を表している。
【0199】
図10は、複合サンプル分析における高品質ナノスケールLC技術の利用を示す。90cm長のC18カラム(50μmID、df=5μm)上でのトリプシン処理ペプチドの分離であり、有機変性アセトニトリルを2%/分(上段)、アセトニトリルを6.7%/時(中段)、及びアセトニトリルを4%/時(下段)と増加させた、かかる範囲の異なるグラジエントプロフィールを用いた。半値幅(FWHM)は3秒から約30秒に増大した。ピーク容量は、急速なグラジエントにおける約300(上段)から、緩やかなグラジエントにおける約900(下段)まで増大した。デューティサイクル(稼働時間の割合(%)として表された溶出ウィンドウ)が増大し、及びMS源中の化合物の存在が拡張されると、量が少ないペプチドにおいても、総合的なデータ依存性−多段階LCMS分析(すなわち、ペプチドマイニング)が可能となる。
【0200】
図11では、ヒトMDDCに由来する複合MHCクラスIIリガンドームを、3μm C18粒子、及び5μm C18粒子がそれぞれ充填された25μmIDカラム(図A、基準ピークイオン図)、及び50μmIDカラム(図B、基準ピークイオン図)上で、等しいグラジエントスロープを用いて分析した。固相パラメーターが、MHCクラスIIリガンドーム分析におけるLCMS性能を決定する。25μmIDカラムでは、LCMS性能が感度及びピーク分解度に関して顕著に向上していることが明白である。図C及び図Dは、それぞれ25μmIDカラム、及び50μmIDカラム上で得られたLC性能の相違を、本サンプル中の2つの同重体ペプチド(すなわち、ペプチド配列は一致しないが、[M+2H]2+=615.4Daに等しい質量を有する)について詳細に示す。
【0201】
図12では、インフルエンザウイルスに感染させ、及び実験法I(アプローチC)に記載する安定同位体標識アミノ酸を利用した後の、ヒトMDDCから単離されたHLA−A2リガンドームについて、LCMS分析を行った。上段は、ほぼ二項分布の同位体パターンが認められる二価の電荷を有する上方制御されたエピトープを示す。3個の標識残基がエピトープに取り込まれている。m/z 573.3Daで得られた本ペプチドのMS/MSスペクトル(下段)は、ペプチド配列がVVSEVDIAKADであることを示す(y−タイプイオンシリーズ、及び正確な質量測定に基づく)。かかる特別な実験は、感染の際に、標識残基としてロイシン(L)、バリン(V)、及びメチオニン(M)を培地内で用いて実施された。本ペプチド中の3個の標識残基は全てバリン(V)であった。本エピトープの上方制御の程度は、m/z 573.306Daにおける天然エピトープのモノアイソトピック質量mと、m/z 576.313Daにおける1個標識されたアイソマーのモノアイソトピック質量[m+3]との質量スペクトル強度比に基づき計算可能である(実験法Iを参照)。かかる特別なエピトープの場合、インフルエンザウイルス感染による上方制御の程度は16倍に等しい。
【0202】
図13では、実験法II(アプローチD)に記載するように、14N−、及び15N−標識百日咳菌(B.pertussis)全細胞調製物でパルシングした後のヒトMDDCから単離されたHLA−DR2リガンドームについて、LCMS分析を行った。上段はESI質量スペクトルを示し、m/z 788.94Da及び797.42Daにおいて二価に荷電した質量スペクトルのダブレットを含む。挿入図は、17個の窒素原子を含む百日咳菌ペプチドの候補を示す解析済みの質量スペクトルを示す。MSスペクトルは、安定同位体アプローチ(本文参照)を用いた細菌由来エピトープのポジティブアロケーションに関する一般基準に従う。下段は、m/z 788.94Daにおける本ペプチドの解析済みMS/MSスペクトルを表し、推定周辺タンパク質(Putative Periplasmic Protein)(受入番号CAE43606)由来のペプチドAAFIALYPNSQLAPTの配列(b−タイプイオンシリーズ)を示している。
【0203】
図14では、実験法II(アプローチE)に記載するように、14N−、及び15N−標識百日咳菌rP.69Prn1でパルシングした後の様々なヒトMDDCの不均質混合物から単離されたHLA−DRリガンドームについて、LCMS分析を行った。上段はESI質量スペクトルを表し、m/z 770.43Da及び780.39Daにおいて二価に荷電した質量スペクトルのダブレットを含む。挿入図は、20個の窒素原子を含むrP.69Prn1由来ペプチドの候補を示す解析済みの質量スペクトルを示す。MSスペクトルは、質量タグ支援アプローチ(本文参照)を用いたrP.69Prn1由来エピトープのポジティブアロケーションに関する一般基準に従う(実験法II)。下段は、m/z 770.43Daにおける本ペプチドの解析済みMS/MSスペクトルを表し、rP.69Prn1由来ペプチドLRDTNVTAVPASGAPAの配列(b−タイプイオンシリーズ)を示している。
【0204】
図15では、実験法II(アプローチF)に記載するように、異なる14N−、及び15N−標識髄膜炎菌(N.meningitidis)OMV調製物でパルシングした後のヒトMDDCから単離されたHLA−DR1/P1.7−2,4、及びHLA−DR2/P1.5−2,10リガンドームについて、LCMS分析を行った。探索アルゴリズムにより、図AのHLA−DR1/P1.7−2,4サンプル、及び図BのHLA−DR2/P1.5−2,10サンプルに関する両リガンドームにおいて、スペクトルのダブレットが検出された。MS配列分析により、P1.7−2,4由来エピトープSPDFSGFSGSVQFVPIQNSK(図B)、及びそのP1.5−2,10類似体SPEFSGFSGSVQFVPAQNSK(図D)が同定された。かかるエピトープの位置3及び位置16の残基は株特異的である。質量タグ支援アプローチを用いたLCMSスペクトルは、細菌由来エピトープに関する一般基準に従う(実験法II)。更に、各エピトープ内に含まれる窒素原子数は、LCMSスペクトルから推定可能である。図Aにおける二価に荷電した質量スペクトルのダブレット間の質量差(Δ=12Da)、及び図Bにおける三価に荷電した質量スペクトルのダブレット間の質量差(Δ=8.0Da)は、各エピトープは24個の窒素原子を含むことを示す。確かに、両同定エピトープは上記データに従う。
【0205】
図16では、実験法II(アプローチF)に記載するように、14N−、及び15N−標識髄膜炎菌P1.7−2,4OMV調製物でパルシングした後のヒトMDDCから単離されたHLA−DR1リガンドームについて、LCMS分析を行った。領域8に相当する一連の長さ変異体の1つとして、髄膜炎菌P1.7−2,4由来エピトープIGNYTQINAASVGL(図A及びC)が同定された。本天然エピトープの存在量が1%のとき、二価に荷電した質量スペクトルのダブレットが検出されたが、これは変則的なP1.7−2,4由来エピトープが、+1Daしか相違しないC末端アミノ酸残基を除き、天然のエピトープと顕著な類似性を示すことを表している。IGNYTQINAASVG−[+114Da](図B及び図D)(変則的なエピトープに含まれる病原体由来窒素原子数は、そのイオン対から推定されるように、天然エピトープの17とは異なり18個であったことに留意されたい)。その結果、非天然エピトープ(D)の完全なy−タイプイオンシリーズは、天然のエピトープ(C)と比較して+1Daだけシフトしているが、一方、b−タイプイオンシリーズは無変化のままである。ダブレットの重イオン及び軽イオンの両方からなるy−タイプ及びb−タイプイオンシリーズは、これら合わせて、かかる非天然エピトープが病原体由来タンパク質のタンパク質スライシング事象の結果、またその後に、同じP1.7−2,4分子の異なる複数の断片が分子内でライゲーションした結果であり、その結果スプライスされたMHCクラスIIリガンドが生じたことを示している。
【0206】
図17は、ヒトMB71.5 T細胞によるP1.5−2,10「領域4」エピトープ、及びP1.7−2,4「領域4」エピトープの差示的認識を示す。A:MB71.5 T細胞。これは、ドナーMB71から得られたPBMCを、組換えP1.5−2,10タンパク質を用いてin vitroで再刺激(2X)した後に生成し、合成ペプチドPDFSGFSGSVQFVPIQNS(S004.29)又はSGSVQFVPIQNSKSAYTP(S004.30)ではなく、PEFSGFSGSVQFVPAQNS(S011−24)、及びSGSVQFVPAQNSKSAYTP(S011−25)でパルシングされた自己PBMC存在下で増殖した。B:MB71.5 T細胞は、「領域4」配列のC−末端部分内のイソロイシン(I)を発現するPorA変異体、すなわちP1.7−2,4、P1.7,16、及びP1.19,15ではなく、アラニン(A)を発現するPorA変異体、すなわち、それぞれP1.5−2,10、P1.5−1,2−2、及びP1.22,14のみを認識する(「結果」の本文を参照)。
【実施例】
【0207】
実験方法I:MHCクラスIリガンドーム
麻疹ウイルス、インフルエンザウイルス、及び呼吸器合胞体ウイルス
Edmonston B株(以後MVと呼ぶ)のプラーク精製麻疹ウイルスを、ベロ細胞(Vero cell)内で増殖させた。インフルエンザウイルス(A/Wisconsin/67/2005株)を、MDCK1細胞内で増殖させた。プラーク精製呼吸器合胞体ウイルス(RSV−A2 no.VR−1302、ATTC)を、hep−2細胞内で増殖させた。
【0208】
ヒトB細胞系WH及びMB02、並びにヒト単球由来樹状細胞
EBVにより形質転換されたB細胞系WHを発現するHLA−A*0201、及びEBVにより形質転換されたB細胞系MB−02を発現するHLA−A*0201、HLA−B*0701を、抗生物質及び5%ウシ胎仔血清(以後FBSと呼ぶ、Harlan、米国)が補給されたRPMI 1640培地内で培養した。
【0209】
ヒト単球由来樹状細胞(以後MDDCと呼ぶ)を、Sallusto(Sallustoら、1994年)が記載する手順に基づき培養した。簡潔には、同意を得た上で、HLA−A*0201、HLA−B*0701ホモ接合型血液ドナーから得た、白血球アフェレーシスのバッフィーコート(buffy coat)のリンホプレップ(lymphoprep)(Axis−shield、ノルウェイ)を用いて、密度遠心分離法により1×109個のPBMCを新たに単離した。PBMCを、抗生物質(GibcoBRL、米国)及び1%FBSが補給されたイスコフ改変ダルベッコ培地(GibcoBRL、米国)を含む150mmの組織培養ディッシュ(Corning Costar、米国)内に5×106個/mlで播種し、5%CO2を含む加湿インキュベータ中に37℃で2時間置いた。非付着性の分画を除去した後、接着細胞を、抗生物質、1%FBS、500U/ml組換えヒトGM−CSF(PeproTech、米国)、及び250U/ml組換えヒトIL−4(Strathman Biotech、ドイツ)を含む培地内で更に6日間培養した。培地及び増殖因子を3日毎に取り替えた。6日目に、MDDCはいつでもウイルス感染できるようになった。ウイルス感染前後に、MDDCの1%量について、MDDCの純度並びに成熟度を確認するためにフローサイトメトリーにより特徴づけを行った(図示せず)。
【0210】
ペプチド合成
SYRO II同時多品種ペプチド合成装置(MultiSyntech GmbH、Witten、ドイツ)を用いて固相FMOCケミストリーにより、合成ペプチド標準品を作製した。合成したペプチドの純度及び同一性を、逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により評価した。
【0211】
実験アプローチA、A’、B、C、及びC’から、ウイルス感染関連MHCクラスIリガンドームを発現するヒト細胞バッチが得られた。アプローチAでは、50%組織培養感染量である107個/mlのMVストックを用いて、抗生物質及び1%FBSを含むRPMI 1640培地内で、0.5の感染多重度(以後、m.o.iとする)で2時間、2×109個のWH細胞からなるB細胞バッチを感染させた。その後、細胞を洗浄し、MV関連MHCクラスIリガンドームが発現可能となるように、40時間放置して増殖させた。2×109個の未処理WH細胞からなる別の細胞バッチを作製し、標準培地内で培養後、対照となるMHCクラスIリガンドームを発現させた。MHCクラスIリガンドームを調製し、個別に分析する前に、両細胞バッチを捕集、洗浄、計測、ペレット化、即時凍結し、そして−70℃で保存した。
【0212】
同様に、アプローチA’では、50%組織培養感染量である108個/mlのインフルエンザウイルスのストックを用いて、抗生物質及び1%FBSを含むRPMI 1640培地内で、5の感染多重度(以後、m.o.iとする)で1時間、3.5×108個のMB−02細胞からなるB細胞バッチを感染させた。その後、細胞を洗浄し、インフルエンザ関連MHCクラスIリガンドームが発現可能となるように、更に9時間放置して増殖させた。MHCクラスIリガンドームを調製、分析する前に、当該細胞バッチを捕集、洗浄、計測、ペレット化、即時凍結し、そして−70℃で保存した。
【0213】
アプローチBでは、50%組織培養感染量である107個/mlのMVを用いて、抗生物質及び1%FBSを含むRPMI−1640培地内で、0.5のm.o.iで2時間、1.5×109個のWH細胞からなるB細胞バッチを感染させた。その後、ウイルス感染関連MHCクラスIリガンドームが発現可能となるように、L−ロイシン及びL−メチオニンを含まないRPMI−1640培地(Invitrogen)であって、5%FBC、並びにL−ロイシン及びL−メチオニンの標準濃度の50%量について、安定同位体標識アミノ酸の13C6−L−ロイシン、及び13C5,15N1−L−メチオニン(それぞれ、それらの標識されていない軽い同位体と比較して6Da増加した質量を有する;Cambridge Isotope Laboratories)、並びに他方の50%量について未標識アミノ酸のL−ロイシン及びL−メチオニン(Sigma−Aldrich)が補給された前記培地内で、かかる細胞を40時間インキュベーションした。かかるアミノ酸はHLA−A2リガンドの主要なアンカー残基である。1.5×109個の未感染WH細胞からなる別のバッチを作製するために、5%FBS及び100%の未標識アミノ酸を含むRPMI−1640培地を用いた。MHCクラスIリガンドームを調製、分析する前に、両細胞バッチを捕集、洗浄、計測し、1:1の細胞比で混合し、次いで1つの単一細胞バッチとしてペレット化し、即時凍結し、そして−70℃で保存した。
【0214】
アプローチCでは、プラーク形成単位である7×107個/mlのインフルエンザウイルスを用いて、2.2×107個のHLA−A*0201ホモ接合型MDDCからなる細胞バッチを、2のm.o.iで4時間感染させた。その後、ウイルス感染関連MHCクラスIリガンドームが発現可能になるように、L−ロイシン、L−メチオニン、及びL−バリンを含まないRPMI−1640培地(Invitrogen)であって、5%FBC、並びにL−ロイシン、L−メチオニン、及びL−バリンの標準濃度の50%量について、安定同位体標識アミノ酸の13C6−L−ロイシン、13C5,15N1−L−メチオニン、及び13C5,15N1−L−バリン(それぞれ、それらの標識されていない軽い同位体と比較して6Da増加した質量を有する;Cambridge Isotope Laboratoriesより)、並びに他方の50%量について未標識アミノ酸のL−ロイシン、L−メチオニン、及びL−バリン(Sigma−Aldrich)が補給された前記培地内で、かかる細胞を40時間インキュベーションした。2.2×107個のHLA−A*0201ホモ接合型MDDCからなる別の細胞バッチを作製し、標準培地内で培養した後、対照となるMHCクラスIリガンドームを発現させた。MHCクラスIリガンドームを調製、分析する前に、両細胞バッチを捕集、洗浄、計測し、1:1の細胞比で混合し、次いで1つの単一細胞バッチとしてペレット化し、即時凍結し、そして−70℃で保存した。
【0215】
同様に、アプローチC’では、プラーク精製した呼吸器合胞体ウイルスを用いて、2.5×107個のHLA−A*0201、HLA−B*0701ホモ接合型MDDCからなる細胞バッチを、5のm.o.iで3時間感染させた。その後、ウイルス感染関連MHCクラスIリガンドームが発現可能となるように、完全なRPMI−1640培地内で、かかる細胞を48時間インキュベーションした。MHCクラスIリガンドームを調製、分析する前に、当該細胞バッチを捕集、洗浄、計測、ペレット化、即時凍結し、そして−70℃で保存した。
【0216】
MHCクラスIリガンドームの単離
実験アプローチA、A’、B、C、又はC’に基づき増殖させた細胞バッチを、MHCクラスI分子を可溶化し、次にウイルス感染関連MHCクラスIリガンドームを単離するために解凍、溶解した。簡潔には、細胞を1%CHAPS(Roche)及びプロテアーゼインヒビターを含むpH8.0のトリス−塩酸バッファー内で溶解した。遠心分離後、上清を、3つのCNBr活性化トリス−ブロック化セファロースカラムに連続して通した:第1の非免疫グロブリン結合(すなわち、プレクリア1)、正常マウス免疫グロブリンとの第2の結合(すなわち、プレクリア2)、及びヒトMHCクラスI分子に特異的な、特異的マウス抗体との第3の結合(すなわち、クリア)。1つの実施例では、HLA−A2分子(クローンBB7.2)と反応するマウス抗体を用い、別の実施例ではHLA−B分子(クローンB1.23.2)と反応するマウス抗体を用いた。クリアカラムに保持されているMHCクラスI分子、及び関連ペプチドを、10%(v/v)酢酸で溶出し、そして10kDa分子量カットオフメンブレンフィルターを通過させた。ろ過物を±10μlまで真空遠心分離法を用いて濃縮し、次いで5%ギ酸、5%ジメチルスルホキシド内で最終容積が100μlとなるように再構成し、そして分析するまで−70℃で保存した。当該ペプチド混合物について、既知量の2種類の合成ペプチド標準品(Angiotensin−III及びOxytocin、Sigma−Aldrich、St Louis、MO、米国)でスパイクして、その後のサンプル処理中に生じたサンプルロスを修正した。
【0217】
標準LCMS技術
ペプチドサンプルを、エレクトロスプレーイオン化質量分析器に連結したナノフロー液体クロマトグラフィー(以後LCMSと呼ぶ)により分析した。±109個のB細胞、又は1〜2×107個のMDDCに相当するペプチドサンプルの一定量を、標準的なナノフローLCカラムスイッチングシステムのC18プレカラムであって、標準的なMicroTeeチューブ要素を介して5μmC18粒子が充填された、内径(以後IDと表す)50μmの20cm長の分析カラムに直列に接続している前記C18プレカラムにロードした。使用した移動相は、流速が125nl/分のアセトニトリルからなるリニアグラジエントであり、100%のA(水+0.1M酢酸)から開始して、55分間でA内のアセトニトリルに限り60%+0.1M酢酸となるまでであった。カラムチップは、金コーティングされ、カラムヘッド圧力は150barであった。質量スペクトルを、「質量電荷比」(以後、m/zで表す)として1秒毎に、300〜1,500Daの範囲で少なくとも10,000全半値幅(以後FWHM)の分解能を有する質量分析器(Q−TOF、Waters Corp.)で記録した(MS分析)。
【0218】
ウイルス感染関連MHCクラスIエピトープ候補のMS配列決定(MS/MS分析)では、ほとんどの場合ペプチドサンプルのその後の一定量を用いたが、MS1分析のサイクルは、事前に選択された質量に関する、又は質量分析器流入時において最も多く存在する質量に関する衝突誘起フラグメンテーションのサイクルにより変更された。MS/MSスペクトルを、スキャン速度が1秒/スキャン、質量範囲が50〜2,000Da、及び質量分解能が5,000FWHMで取得した。最適衝突エネルギーは、エピトープの性質、及び用いた質量分析器に大きく依存したが、本実験では最適化された。MS/MSスペクトルの解釈は、手作業又はソフトウェアツール、例えばMascot(Perkinsら、1999年、www.matrixscience.com、Matrix Science Ltd.、London、英国)、ProteinProspector(www.prospector.ucsf.edu、University of California、San Francisco、CA、米国)、BioWorks(商標)(Thermo Scientific、Waltham、MA、米国)及び/又はProteinLynx(商標)(Waters Corp.、Milford、MA、米国)等を用いて行った。
【0219】
同定されたエピトープの半定量化では、相対感度係数を計算したが、これは同定されたエピトープの合成類似体の強度−量を、標準ペプチドであるアンジオテンシン−III及びオキシトシンの強度−量平均値で割ることに基づく。かかる係数は、細胞バッチ内に存在する天然エピトープの数を半定量化するために、その後用いられた。
【0220】
MV関連MHCクラスIリガンド候補の同定
アプローチAでは、MVに感染、及び未感染のWHに由来するMHCクラスIリガンドームのMSイオン図を、質量毎に比較した。この手順の常套として、両サンプルに存在する豊富なペプチドイオンを、μLC保持時間内に生じた小さなシフトを評価するために用いた。感染したWH細胞にのみ生じているペプチド質量について配列決定し、半定量化を行った。
【0221】
アプローチB及びCでは、必須の質量スペクトル情報(「質量値」及び「強度値」と定義する)を、MHCクラスIリガンドームより得られたMSスペクトルから抽出し、アルゴリズム探索に用いた。第1に、シミュレートした同位体パターンを、(i)用いた安定同位体標識の種類と数、(ii)かかる安定同位体の天然発生率、(iii)エピトープに組み込まれた標識アミノ酸の推定最大数、(iv)実験デザイン、及び(v)関係するイオンの荷電状態に基づき計算した。個別にシミュレーションされた各同位体パターンを、MSスペクトルの質量軸に沿って数学的に移動した。
【0222】
図8の上段は、アプローチBの方法に記載するように、2種類の安定同位体を使用した後のウイルスに感染した細胞バッチから抽出された、ウイルス性及び自己−MHCクラスIリガンドについてシミュレーションした同位体パターンを表す。例えば、2箇所でメチオニン及び/又はロイシンを発現するウイルス性エピトープは、質量m(50)、m+Δ(100)、及びm+2Δ(50)の相対比によって認めることが可能で、ここでΔは、アプローチBの標識手順及び細胞混合手順に固有の3つの同位体変異体に典型的な単一荷電イオンについて6Daである(図8、上段、右側のパターン)。また、無変化のままの自己エピトープ、又はウイルス感染中に上方制御された自己エピトープは、それぞれが有する同位体パターンにより認識可能である(図8、上段、左側の4つのパターン)。更に、上方制御の程度は、単一標識アイソマー(I[m+Δ])、及び天然エピトープ(Im)のモノアイソトピック質量の強度比に基づき計算可能であり、次式に従う:
【数1】
式中、xはエピトープ中に含まれる標識アミノ酸の最大数を表す。感染に有意に関連して、少なくとも2倍上方制御されていると考えられた。したがって、同位体パターンは、例えばアプローチCでは3種類の標識アミノ酸の利用についてシミュレーションされた。更にLCMS/MS分析を行うために、ウイルス感染関連MHCクラスIリガンド候補として、一致する同位体クラスターを選択した。
【0223】
プラットフォームLCMS技術
ウイルス感染関連MHCクラスIリガンドームの「ペプチドマイニング」では、感度が1桁以上改善したプラットフォームLCMS技術を得るために、例えば、107〜108個の細胞からなるバッチ内で、細胞1個当たり1つのコピーとして存在するMHCクラスIエピトープについて検出が可能となるように、LCMSシステムのいくつかの独立パラメーターを修正した。
【0224】
プラットフォームLCMS技術は、改変されたMicroTeeチューブ要素を介して3μmC18粒子が緊密充填された、25μmIDの≧90cm長の分析カラムに直列に接続している、標準的ナノフローLCカラムスイッチングシステムのC18プレカラムから構成された。使用した移動相は、流速が30nl/分のアセトニトリルからなる緩やかなリニアグラジエントで、240分間においてA(水+0.1M酢酸)内で8%アセトニトリル+0.1M酢酸から開始して、A内でアセトニトリルが28%になるまでであった。カラムチップは、カーボンコーティングされ、カラムヘッド圧力は≧400barであった。質量スペクトルの解釈、これに続くMS/MS分析、及びエピトープの半定量化は、標準的なLCMS技術について記載した通りに実施した。
【0225】
プラットフォームLCMS技術の優位性を、アプローチAに記載するMV感染WH B細胞バッチ、アプローチA’に記載するインフルエンザ感染MB−02細胞B−バッチ、及びアプローチC’(本明細書で後ほど示す)に記載するRSV感染MDDC細胞バッチに由来するペプチドサンプルを用いて分析した。
【0226】
結果I:MHCクラスIリガンドーム
標準LCMS技術では、限られた数のHLA−A2−結合MVエピトープしか同定されない。
MV関連MHCクラスIエピトープを標準的なLCMS技術により同定するために、MHCクラスIリガンドームを記載の通りに、MV感染後のヒトWH細胞から入手した。2つのHLA−A2リガンドームサンプル、すなわちアプローチA(サブトラクティブ分析)に従い得られたもの、及びアプローチB(同位体標識)に従うHLA−A2リガンドームサンプルについて調べた。各アプローチでは、MS/MS配列決定後にMVエピトープとして確認された、3つのウイルス関連MHCクラスIエピトープ候補が検出可能であった(表1)。公表のように、標準的なLCMS技術は、1細胞当たり100,000個を超えるコピー数で発現していることが明らかとなった超優位性の(supradominant)MV−C84〜92エピトープを含む、全部で4つの異なるエピトープの同定を可能にした。
【0227】
比較例:プラットフォームLCMS技術により、10〜15倍多くのMVエピトープが同定される
標準的なLCMS技術は、複合したMHCクラスIリガンドームサンプルの中で、数千もの化学的に類似した自己エピトープの中から1フェムトモル未満の範囲でいくつかの、おそらくは最も豊富なウイルス性エピトープについて同定し及び特徴づけるのに役立ち得るが、かかる最新技術をもってしても、重要なこれに付加する準優位性の(subdominant)ウイルス性エピトープに関する知識のギャップが埋められないままであることは明白であった。
【0228】
発明者らは、本技術のLC部分について綿密な改変を施せば、準優位性のMHCクラスIリガンドについても検出及び特徴づけを可能にするプラットフォームLCMS技術が構築されないものかと考えた。図9は、標準的なLCMS技術(上段)、又は「方法」で記載したいくつかの独立した改変の組合せが含まれるプラットフォームLCMS技術(下段)を用いたときの、1つの単一MV感染関連MHCクラスIサンプル(アプローチAで調製された)の分画に関する代表的なLCMSピーク成績を示す。下段のLCMS実験(プラットフォーム技術)に示すオンラインデータ依存性LCMS/MS配列決定により、31個の異なるエピトープに相当する39個のMV由来HLA−A2リガンドが同定された(表2)。かかる天然に提示されたエピトープのうち、26個のエピトープは新規MVエピトープであり、3個は標準LCMS技術を用いてすでに同定され(表1)、2個は定量化された天然のHLA−A2リガンドとして新規ではあるが、マウス及びヒトMV CD8+T細胞エピトープとして文献に記載されていた(Neumeisterら、1998年、Nananら、1995年)。したがって、少なくとも10倍多くのエピトープが、標準的なLCMS法のプラットフォーム改良により同定された。
【0229】
プラットフォームLCMS技術によるその他のウイルスに由来するMHCクラスIリガンドームのエピトープマイニングに関する更なる実施例
かかる技術の優位性を更に分析するために、プラットLCMS技術を用いて、アプローチA’及びC’に記載するような、その他のウイルス感染細胞バッチから調製したMHCクラスIリガンドームを分析した。標準的なLCMS技術では検出されなかった、6個のウイルス性MHCクラスIエピトープが同定された:4つのエピトープはインフルエンザウイルス感染に関連し、2つのエピトープはRSV感染に関連した(表2)。
【0230】
プラットフォームLCMS技術によるMHCクラスIリガンドームのエピトープマイニングは、LC法のいくつか独立した改善に起因する
当該方法で、単一の改変をいろいろ行ったときのピーク性能及びペプチドマイニングに対する寄与を理解するために、長尺カラムと併用してグラジエントを急勾配にしたときの効果、及びカラムIDと連動させたC18粒子サイズの影響を、個々の裏付け実験で調べた。複合したトリプシンによるタンパク質消化物を利用した図10に示すように、90cm長のカラムと併用して、より緩やかで、延長されたグラジエントスロープを適用すると、クロマトグラムでペプチドのピーク容量が増大し、またピーク幅が拡大する。こうして、化合物がMS源中で広範に存在することが可能となり、存在量が少ないペプチドでも総合的なデータ依存性多段階MS/MS分析(ペプチドマイニング)に役立つ。期待したように、3μmC18粒子が充填された50μmIDカラム(図11、上段)とは異なり、3μmC18粒子が充填されたより小さいID(25μm)のカラムを用いると、4倍高感度のLCMSシステムが得られた。思いもよらず、カラムのIDをより小さくすることにより(図11、下段)、分離効率も改善した。
【0231】
プラットフォームLCMS技術により、MVエピトープの特別な特徴を同定することが可能となる
配列情報及び多様性以外のMHCクラスIリガンドの重要な特徴として、エピトープの長さ変異、存在量、及び考えられるPTMが挙げられる。表2は、MV由来HLA−A2リガンド中に5の異なる長さのペプチドが見出されたことを示す:8マー(n=2)、9マー(n=21)、10マー(n=9)、11マー(n=5)、及び12マー(n=2)。したがって、9マーが最も一般的であり、また半定量データによれば、最も豊富な2つのペプチド種は、それぞれMV由来HLA−A2リガンドームの26%及び18%に相当するが、いずれも9マーであった。KLWESPQEIエピトープは、初期の研究より超優位性のエピトープとして公知であるが(表1)、本分析では十分に示されなかった。これは、かかる特別なエピトープのみを含む少量のHPLC分画が、別の研究目的のためにサンプルから選択的に取り出されたためと考えられた。7つのエピトープから、同一のコアエピトープを共有する2つ又は3つの長さ変異体が同定された(表2)。
【0232】
更に、大構造タンパク質由来のエピトープRAN*VSLEEL、融合糖タンパク質F0前駆体由来のKLMPN*ITLL、及び血球凝集素糖タンパク質由来のLSVDLSpPTV(表2)は、翻訳後修飾エピトープであり、翻訳されたゲノム由来のようなものとして推測されるものではない。
かかる修飾は、ウイルスMHCクラスIエピトープについて文献では報告されていない。
【0233】
ウイルス感染関連の上方制御されたMHCクラスI自己エピトープの同定
図8に示すように、ウイルス特異的エピトープに限らず、新規に誘発された、又は上方制御された自己エピトープも、同位体標識の利用と、MHCクラスI単離及びLCMS技術とを組み合わせれば検出可能である。インフルエンザウイルス感染関連HLA−A2リガンドームは、アプローチCに記載するようにヒトMDDCから単離され、標準LCMS技術が適用された。3つの標識アミノ酸を含む上方制御されたペプチドについてシミュレーションされた同位体パターンに一致する同位体クラスターを調査した。図12は、3つの同位体標識アミノ酸を取り込んだ同位体クラスターの例を示す。当該エピトープは、ヒトインターフェロンに誘導されたGTP−結合タンパク質Mx1(受入番号P20591)に由来するVVSEVDIAKADとして同定された。6個の別の上方制御された自己エピトープが、インフルエンザ感染後に同定された(表3)。その他の自己エピトープが、ウイルス感染後に上方制御された天然提示のMHCクラスIリガンドとして報告されているが、本発明で同定されたエピトープは、新規であり、またインフルエンザウイルス感染に特異的に関連するものと考えられる。
【0234】
実験法II:MHCクラスIIリガンドーム
百日咳菌の増殖及び全細胞調製物の生成
百日咳菌株509を、天然の14N−含有最少Bioexpress細胞増殖培地、又は98%−濃縮15N−安定同位体標識最少Bioexpress細胞増殖培地(Cambridge Isotope Laboratories、米国)、但し、いずれの培地もろ過済みの0.15%乳酸(Fluka、Switzerland)及び18.6mM NaOHを含むが、そのいずれか一方において静止期に至るまで増殖させた。増殖後、14N−、及び15N−標識細菌培養物の両方を、56℃で30分間インキュベーションすることにより加熱不活性化し、及びPBS内で2,000g、20分間遠心分離することにより5回濃縮し、そして1/5容積のPBS内にペレットを回収した。14N−、及び15N−標識全細胞調製物の光学濃度を590nmで測定し、及び抗原提示細胞の抗原パルス用として、かかる調製物の1:1混合物をOD590値に基づき作成した。
【0235】
百日咳菌に由来する組換えP.69パータクチンの調製
百日咳菌P.69パータクチン野生種変異体P.69Prn1(受入番号AJ011091)(Hijnenら、2005年)の細胞外ドメインをエンコードするプラスミドpPRN1を含む、大腸菌株BL21−Codonplus(DE3)−RP(Stratagene、la Jolla、CA)を、天然の14N−標識最少Bioexpress細胞増殖培地、又は98原子%−濃縮15N−標識最少Bioexpress細胞増殖培地(Cambridge Isotope Laboratories、米国)のいずれか一方において、OD590が0.6〜0.8に達するまで、37℃、250rpmで増殖させた。その後、培養物を1mMイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)で誘発し、更に4時間インキュベーションした。誘発済みの14N−及び15N−標識細菌を、5,000g、4℃で10分間遠心分離することにより捕集し、次いでBug Buster試薬(Novagen、Darmstadt、ドイツ)を用いて溶解した。細胞溶解物を、湿細胞ペースト1グラム当たり5,000Uのリゾチーム、及び125Uのベンゾナーゼ ヌクレアーゼで処理した。遠心分離により封入体を収集し、1:10に稀釈したBug Buster試薬で3回洗浄した。精製済みの14N−及び15N−標識封入体を、6M塩酸グアニジン(GuHCl)、10mMベンザミジン、1mM EDTA、100mM NaCl、及び50mMトリス塩酸 pH8.8に溶解した。GuHClを含まない同一バッファー内で50倍に急速に稀釈することにより、14N−及び15N−標識rP.69Prn1タンパク質のリフォールディングを開始した。1mM EDTA、100mM NaCl、及び50mMトリス塩酸 pH8.8に対して4℃で1晩透析して、タンパク質を完全にリフォールディングさせた。次いで、リフォールディングしたタンパク質を、分子量カットオフ値が50kDaの透析膜(Spectrum Laboratories、Rancho Dominguez、CA)を用いて50mMトリス塩酸 pH8.8に対して2回透析した。当該タンパク質を、50kDaのカットオフ値を有するAmicon Ultra−15濃縮器(Millipore、Billerica、MA)で濃縮した。最後に、2μgプロテアーゼインヒビター(Roche、Penzberg、ドイツ)を1mg/mlの濃縮タンパク質に添加した。ヒトMDDCの抗原パルス用に、14N−及び15N−標識rP.69Prn1タンパク質からなる1:1タンパク質/タンパク質混合物を、ビシンコニン酸(以後、BCAと呼ぶ)タンパク質アッセイ法(Pierce Protein Research Products、Rockford、米国)で測定したタンパク質含量に基づき作成した。
【0236】
最少培地内での髄膜炎菌同質遺伝子系統の増殖及びOMVの調製
可変性の主要外膜タンパク質ポーリンA(以後、PorAと呼ぶ)(Peeterら、1996年)の血清亜型P1.5−2,10又はP1.7−2,4をそれぞれ発現する、髄膜炎菌H44/76の2つのクラス3−同質遺伝子系、クラス4−同質遺伝子系を、天然の14N−含有最少Bioexpress細胞増殖培地、又は98%−濃縮15N−標識最少Bioexpress細胞増殖培地(Cambridge Isotope Laboratories、米国)のいずれか一方において静止期に至るまで増殖させた。かかる培養物から得られた、14N−及び15N−標識外膜小胞(以後、OMVと呼ぶ)のバッチを、Claassen(Claassenら、1996年)に基づき調製し、特徴づけを行った。ヒトMDDCの抗原パルス用として、14N−及び15N−標識OMVバッチからなる1:1タンパク質/タンパク質混合物を、BCAタンパク質アッセイ法(Pierce Protein Research Products、Rockford、米国)で測定したタンパク質含量に基づき作成した。
【0237】
最少培地内での病原体由来タンパク質の発現及び標識
全細胞百日咳菌調製物のタンパク質分析用として、14N−及び15N−標識全細胞百日咳菌調製物の少量一定量から膜複合体を調製した。細菌細胞バッチを、7,000g(15分、10℃)で遠心分離し、そしてペレットを10mMトリス塩酸、pH=8.0中に再懸濁した。細胞膜を分離するためにかかる懸濁物を氷上で超音波処理し、6,500g(10分、10℃)で遠心分離し、そして上清を収集した。膜断片を遠心沈殿させ(40,000g、1時間)、そして1%サルコシルを含む10mMトリス塩酸、pH=8.0中に回収した。膜複合体をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(以後、SDS−PAGEと呼ぶ)で泳動し、次いでタンパク質をポリフッ化ビニリデン膜に移した。公知の毒性因子であり、いずれもオランダのオランダワクチン研究所(Netherlands Vaccine Institute)から入手した、線維状赤血球凝集素(1:500、クローン31E5)、P.69パータクチン(1:50、クローンPem4)、百日咳毒素サブユニット1(1:1,000、クローン151C1)、百日咳毒素サブユニット4(1:100、クローン1−227)、及び線毛2(1:1,000、クローン21E7)に対するモノクロナール抗体を用いて、当該膜について精査した(ウェスタンブロッティング法)。次いで、当該膜をアルカリホスファターゼ標識抗マウスIgG(1:5,000;SBA、英国)と共にインキュベーションし、既製のAPコンジュゲート基質キット(Biorad、米国)を用いて信号を検出した。
【0238】
代表的なタンパク質の例としてP.69パータクチンを用いて、同位体標識効率を調べた。タンパク質をSDS−PAGE上で分離した後に、14N−及び15N−標識69kDaバンドをゲルから切り出した。14N−及び15N−標識P.69パータクチン、及びそのトリプシン消化物を、それぞれLCMS(P.69パータクチン)及びLCMS/MS(消化物)で分析した。
【0239】
14N−及び15N−標識rP.69パータクチン調製物内のタンパク質の完全性、及び14N−及び15N−OMV調製物内のPorAの完全性、並びにタンパク質及びトリプシン消化物の同位体標識効率を、百日咳菌の膜複合体について上記した同様の技法(SDS−PAGE、ウェスタンブロッティング、LCMS、及びLCMS/MS)により、具体的にはP.69パータクチン、及びPorAそれぞれをターゲティングすることにより評価した。PorAでは、血清亜型特異的モノクロナール抗体をウェスタンブロッティングで用いた。
【0240】
実験アプローチD、E、及びFにより、病原体関連MHCクラスIIリガンドームを発現するヒトMDDCバッチが得られる
アプローチDでは、若干の修正を加えて、実験法Iに記載する手順に基づきヒトMDDCを培養した。ここでは、同意を得た上で、HLA−DR2ホモ接合型血液ドナーから得た、白血球アフェレーシスのバッフィーコートを用いて1×109個のPBMCを単離した。第6日目に、依然未成熟のMDDCを、最終濃度がOD590=0.028である、14N−及び15N−標識全細胞百日咳菌調製物からなる1:1混合物でパルシングした。第8日目に、全細胞百日咳菌でパルシングしたMDDCを捕集し、PBSで洗浄し、そして計測した。次に、20×106個のプールされたMDDCをペレット化、凍結し、そしてペプチドの単離及び分析を行うまで−80℃で保存した。全細胞百日咳菌でパルシングする前後で、MDDCの少量一定量(1%)を、フローサイトメトリーにより特徴づけを行って、MDDCの純度並びに成熟度を確認した(図示せず)。
【0241】
アプローチEでは、上記のように若干の修正を加えた実験法Iに記載する手順に基づきヒトMDDCを調製した。ここでは、同意を得た上で、異なる血液バンクドナー9名から得た、いくつかのHLA−DRタイピングからなる異種母集団を代表するPBMCを、別々に培養(3×108個のPBMC/ドナー)してMDDCに成長させた。第6日目に、依然未成熟のMDDCを、ウマ流産菌(S.abortis equi)由来のLPSが20ng/mlで存在し、最終タンパク質濃度が10μg/mlである、14N−及び15N−標識rP.69パータクチン調製物からなる1:1混合物でパルシングした。第8日目に、rP.69パータクチンでパルシングされたMDDCを捕集し(n=9)、PBSで洗浄し、プールし、そして計測した。次に、70×106個のプールされたMDDCをペレット化、凍結し、そしてペプチドの単離及び分析を行うまで−80℃で保存した。百日咳菌rP.69パータクチンでパルシングする前後で、MDDCの少量一定量(1%)を、フローサイトメトリーにより特徴づけを行って、MDDCの純度並びに成熟度を確認した(図示せず)。
【0242】
アプローチFでは、上記の通り、若干の修正を加えた実験法Iに記載する手順に基づきヒトMDDCを調製した。ここでは、HLA−DR1ホモ接合型ドナーから同意を得た上で、及びHLA−DR2ホモ接合型ドナーから同意を得た上で得たPBMCを別々に培養して(2×109個のPBMC/ドナー)MDDCに成長させた。第6日目に、各MDDCバッチを2分量に分割し、ウマ流産菌(S.abortis equi)由来のLPSが20ng/mlで存在し、タンパク質の最終濃度が25μg/mlである、14N−及び15N−標識P1.7−2,4OMVからなる、又は14N−及び15N−標識P1.5−2,10OMVからなる1:1混合物のいずれか一方を用いてパルシングした。第8日目に、OMVでパルシングされた4つの異なるMDDCバッチを捕集、PBSで洗浄、計測、ペレット化、凍結し、及び個々のペプチドについて単離及び分析を行うまで−80℃で保存した。OMVでパルシングする前後で、各MDDCバッチの少量一定量(1%)を、フローサイトメトリーにより特徴づけを行って、MDDCの純度並びに成熟度を確認した(図示せず)。
【0243】
ペプチド合成
SYRO II同時多品種ペプチド合成装置(MultiSyntech GmbH、Witten、ドイツ)を用いて固相FMOCケミストリーにより、合成ペプチド標準品を作製した。合成したペプチドの純度及び同一性を、逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により評価した。
【0244】
MHCクラスIIリガンドームの単離
下記のような若干の修正を加えながら、実験法Iに記載するMHCクラスIリガンドームの単離法に従い、MHCクラスII分子を可溶化し、次いで免疫化学により病原体関連MHCクラスIIリガンドームを単離するために、アプローチD、E、及びFに基づき調製したMDDCバッチを解凍、溶解した。クリアステップでは、ヒトHLA−DR分子(クローンB8.11.2)に特異的なマウス抗体を用い、また、10%(v/v)酢酸でクリアカラムから溶出させた後、HLA−DR分子及び関連ペプチドを10kDa分子量カットオフメンブレンフィルターに通し、そして当該ろ過物を70℃で15分間加熱した。MHCクラスIIリガンドームの濃縮、再構成、スパイキング、及び保存は、実験法IのMHCクラスIリガンドームについて記載した手順と同様であった。
【0245】
プラットフォームLCMS分析
ペプチドサンプルを、エレクトロスプレーイオン化質量分析器に連結した最適化されたナノフロー液体クロマトグラフィー(プラットフォームLCMS)により、本明細書にすでに記載したように分析した。1〜2×107個のMDDCに相当するペプチドサンプルの一定量を、改変されたMicroTeeチューブ要素を介して3μmC18粒子が緊密充填された、25μmIDの25cm長の分析カラムに直列に接続しているC18プレカラムにロードした。使用した移動相は、流速が30nl/分で、アセトニトリル+0.1M酢酸からなる緩やかなリニアグラジエントであり、100%のA(水+0.1M酢酸)から開始して、45分間でAが60%アセトニトリル+0.1M酢酸になるまでであった。カラムチップは、金コーティング及びカーボンコーティングされ、カラムヘッド圧力は>250barであった。質量スペクトルを、スキャン速度が1秒/スキャン、質量範囲が300〜1,500Da、及び質量分解能が少なくとも10,000FWHMで記録した(MS分析)。
【0246】
病原体関連MHCクラスIIエピトープ候補のMS配列決定(MS/MS分析)では、ほとんどの場合、ペプチドサンプルの2番目の一定量を用いたが、MS1分析のサイクルは、事前に選択された質量に関する、又は質量分析器流入時において最も多く存在する質量に関する衝突誘起フラグメンテーションのサイクルにより変更された。MS/MSスペクトルを、スキャン速度が1秒/スキャン、質量範囲が50〜2,000Da、及び質量分解能が5,000FWHMで取得した。最適衝突エネルギーは、エピトープの性質、及び用いた質量分析器に大きく依存したが、本実験では最適化された。MS/MSスペクトルの解釈は、手作業で、又はソフトウェアツール、例えばMascot(Perkinsら、1999年、www.matrixscience.com、Matrix Science Ltd.、London、英国)、ProteinProspector(www.prospector.ucsf.edu、University of California、San Francisco、CA、米国)、BioWorks(商標)(Thermo Scientific、Waltham、MA、米国)及び/又はProteinLynx(商標)(Waters Corp.、Milford、MA、米国)等を用いて実施した。
【0247】
同定されたエピトープの定量化では、相対感度係数を計算したが、これは同定されたエピトープの合成類似体の強度−量を、標準ペプチドであるアンジオテンシン−III及びオキシトシンの強度−量平均値で割ることに基づく。かかる係数は、細胞バッチ内に存在する天然エピトープの数を半定量化するために、その後用いられた。
【0248】
オンライン2次元プラットフォームLCMS分析
ペプチドを、エレクトロスプレーイオン化質量分析器に連結したオンライン2次元ナノスケール液体クロマトグラフィー(2D−LCMS)により分析した。1〜2×107個のMDDCに相当するペプチドサンプルの一定量を、弱アニオン交換粒子(例えば、PolyWAX LP(商標)、PolyLC、Columbia、MD、米国、より市販されている)と、強カチオン交換粒子(例えば、PolySULFOETHYL Aspartamide(商標)、PolyLC、Columbia、MD、米国、より市販されている)とからなり、乾燥粒子重量で2〜3の比で混合された混合物を含むプレカラム上にロードした。かかる混合されたアニオン−カチオン交換体(ACE)固定相は溶融シリカチューブ内にスラリー充填されたものであり、C18粒子を含む2つの(カラム)ベッド長(例えば、Reprosil−Pur(登録商標)C18−AQ、粒子サイズ5μm、ポアサイズ120Å、Dr.Maischより入手可能、ドイツ)の間に挟まれている。プレカラムベッドの各部分の長さは20mmであり、当該プレカラムの内径は50μmであった。C18−ACE−C18サンドイッチプレカラムは、改変されたMicroTeeチューブ要素を介して3μmC18粒子が緊密充填された、25μmIDの25cm長の分析カラムに直列に接続された(例えば、Reprosil−Pur(登録商標)C18−AQ、粒子サイズ3μm、ポアサイズ120Å、Dr.Maischより入手可能、ドイツ)。使用した移動相は、流速が30nl/分で、アセトニトリル+0.1M酢酸からなる緩やかなリニアグラジエントであり、100%のA(水+0.1M酢酸)から開始して、Aが60%アセトニトリル+0.1M酢酸になるまでであった。カラムチップは、金コーティング及びカーボンコーティングされ、カラムヘッド圧力は>250barであった。質量スペクトルを、スキャン速度が1秒/スキャン、質量範囲が300〜1,500Da、及び質量分解能は少なくとも10,000FWHMで記録した(MS分析)。それぞれ1nM、1μM、10mM、1M、及び2Mの濃度となるようにギ酸及びジメチルスルホキシド(DMSO)の量が増加した水を含む塩を含まない溶出溶媒の一定量を注入することにより、これに続いて上記のアセトニトリル+0.1M酢酸からなる緩やかなリニアグラジエント、及び質量分析条件を用いてペプチドの分離及びMS分析を行うことにより、5回連続して注入、分析分離、及びMS分析サイクルを実施した。
【0249】
病原体関連MHCクラスIIリガンド候補の同定
自己由来リガンドから病原体由来MHCクラスIIリガンドを区別するために、必須の質量スペクトル情報(「質量値」及び「強度値」と定義する)を、MSスペクトルから抽出し、そして質量スペクトルダブレットを探索するMHCクラスII質量スペクトル解釈アルゴリズムに用いた。質量スペクトルのダブレットを病原体関連MHCクラスIIリガンドの候補として確実に帰属するためには、下記5つの基準が満たされなければならない:
(i)「軽い」エピトープと「重い」エピトープのモノアイソトピック質量間の質量の差(Δm)は、「軽い」エピトープの質量の約1.2%でなければならない。かかる相対的な質量の差は、タンパク質及びペプチド中の窒素原子の平均自然発生率に基づく。各窒素原子の質量が1Daだけ増加すると、元のペプチド/タンパク質について相対質量が1.2%増加する;
(ii)「軽い」エピトープと「重い」エピトープの荷電数(z)は等しくなければならない;
(iii)「軽い」エピトープと「重い」エピトープの強度比は約1でなければならない;
(iv)「重い」エピトープの質量スペクトルパターンは、98原子%濃縮15N同位体の取込みを、[M*−1]及び[M*−2]同位体ピークとして可視化された状態で表さなければならない(M*は、15N同位体が均一に取り込まれた「重い」エピトープのモノアイソトピック質量を表す)
(v)エピトープ候補に存在する計算で求めた窒素原子数は整数でなければならない。かかる数は「軽い」エピトープと「重い」エピトープのモノアイソトピック質量の絶対質量差(Δm)に、かかるエピトープの荷電数(z)を乗ずることにより計算可能である。
【0250】
図8(下段、右側のスペクトル)は、抗原でパルシングしたMDDCから抽出された病原体関連クラスIIリガンドについて、安定同位体を用い、上記基準を満たす場合のシミュレーション同位体パターンを示す。シミュレーションした同位体パターンをペプチド溶出物に関するMSスペクトルの質量軸に沿って、数学的に移動させることにより、病原体関連MHCクラスIIリガンド候補を探索した。一致した同位体クラスターを更なるLCMS/MS分析用として選択した。
【0251】
免疫リンパ球
Sanquin(Amsterdam)出身の健常血液バンクドナーから、同意を得た後に末梢血液を得た(S03.0015−X)。fycoll−hypaque(Pharmacia Biotech、Uppsala、スウェーデン)上でバッフィーコート細胞を遠心分離して末梢血単核球(PBMC)を単離し、そしてこれを新鮮な状態で使用し、又は実験で使用するときまで冷凍保存した。PBMCを、2%ヒトAB血清(Harlan、米国)を補給した完全培地、すなわち、AIM−V培地(GibcoBRL、米国)内で培養した。雌のspf Balb/cマウス、及びC57black/6マウスをHarlanより購入し、従来条件下の舎内で飼育した。全ての実験は、NVIの動物倫理委員会(The Animal Ethics Committee)の承認を受けた。マウス4匹からなる群について、0日目及び28日目に、rP1.7−2,4、若しくはrP1.5−2,10(1.5μg)をPBS中に含む、LpxL1でアジュバンド添加されたリポソームで、又は実験法IIの記載に従い調製したP1.7−2,4、若しくはP1.5−2,10 OMV(1.5μg PorA/用量)を用いて皮下経由で免疫した。42日目に切除後、臓器を機械的に分離し、ポアサイズ70μmのナイロンフィルターを通して、単一の脾細胞懸濁物及びリンパ節細胞懸濁物を得た。脾細胞懸濁物中の赤血球を、10mM KHCO3、0.1mM EDTAを用い、4℃で2分間溶解した。脾細胞を完全IMDM−10培地、すなわち10%FCS(HyClone、米国)、及びpen/strep/glu(GibcoBRL、米国)が補給されたイスコフ改変ダルベッコ培地(GibcoBRL、米国)に回収した。リンパ節細胞を、5%正常マウス血清(Harlan、米国)、及びpen/strep/gluが補給された完全IMDM−5培地に回収した。
【0252】
PorAペプチド及びタンパク質
各P1.7−2,4及びP1.5−2,10タンパク質全体に及ぶオーバーラッピング合成18マーペプチドは、12個のアミノ酸の重複部分を有し、前記のように調製されたが、これをスマートプーリング法により、すなわち各合成ペプチドが、8つのペプチドを含むプールのうち異なる2つのプールに現れるように16種類のプール(A〜H、及び1〜8)にプールした。すでに記載した髄膜炎菌H44/76の同質遺伝子系統に由来するPorA遺伝子を用いて、当技術分野で公知の組換えタンパク質発現技術により、組換えP1.7−2,4、及びP1.5−2,10タンパク質(以後、rP1.7−2,4、及びrP1.5−2,10と呼ぶ)を得た。
【0253】
増殖アッセイ
P.69パータクチン特異的ヒト増殖アッセイでは、関連ペプチド(単数又は複数)の存在/不存在下、150μl/ウェル、1又は10μM、37℃の条件、5%CO2雰囲気の中にある完全培地内で105個のPBMCをインキュベーションした。PorA特異的ヒト増殖アッセイでは、関連ペプチド(単数又は複数)、ペプチドプール、又はPorA rP1.7−2,4、P1.5−2,10、P1.7,16、P1.19,15、又はP1.22,14が表示の濃度で存在/不存在下、150μl/ウェル、37℃の条件、5%CO2雰囲気の中にある完全培地内で、105個のPBMC、又は2×104個のMB71.5T細胞をインキュベーションした。4日目に、サイトカインを判定するために100μl容量を取り出した。次に、0.5μCi(18.5kBq)3H−チミジン(Amersham、米国)を、細胞を捕集する18時間前に培養物に添加した。免疫脾細胞の増殖アッセイについては、CPM測定及び結果の計算を実施した。少なくとも3つのウェルに基づき、結果をSI±SDで表した。完全培地中で、0.5μg/mlの濃度のrP1.5−2,1を用いて、MB71 PBMCを繰返しin vitroで再刺激することにより、領域4に特異的なT細胞系MB71.5を産生させた。マウス増殖アッセイでは、P1.7−2,4、又はP.15−2,10で免疫されたBalb/c又はC57Black/6マウスに由来する脾細胞を、IMDM−10内にrPorA若しくは18マーオリゴペプチドが存在する、又は培地のみが存在する中、96ウェル丸底プレート(Greiner)において1.5×105個の細胞/150μlにて培養した。4日目に、0.5μCi(18.5kBq)3H−チミジン(Amersham、米国)をウェルに添加し、細胞を更に18時間培養した。細胞を捕集し、3H−チミジンの取込みを、Wallac 1205βプレート液体シンチレーションカウンターを用いて、カウント/分(CPM)として求めた。結果を、抗原存在下の培養物のCPMを、培地のみが存在する培養物のCPMで割った商として算出した、3つのウェルに基づく刺激指数(SI)±SDとして表す。
【0254】
結果II:MHCクラスIIリガンドーム
最少培地内でのタンパク質の発現、及び14N及び15N同位体ラベリング効率
実験法IIのアプローチDに記載するように作製された14N−及び15N−標識全細胞百日咳菌調製物の膜複合体中の細菌性タンパク質をSDS−PAGEで分離し、ウェスタンブロッティング法で分析した。線維状赤血球凝集素、P.69パータクチン、百日咳毒素サブユニット1と4、及び線毛2が14N−及び15N−標識調製物中に類似した割合で発現したが、これは重い同位体で標識された培地中で正常にタンパク質が発現したことを示唆する。14N−及び15N−P.69パータクチンバンドから抽出されたタンパク質のLCMS分析では、P.69パータクチンタンパク質の重い形態は、その軽い形態と比較して1.2%の質量増加が確認された。更に、14N−及び15N−P.69パータクチン由来のトリプシン消化物から得られたMS/MSスペクトルにより、重いアミノ酸、及び軽いアミノ酸への典型的なフラグメンテーションが明らかとなり、P.69パータクチンタンパク質の全配列において、安定同位体標識が成功したことが確認された。
【0255】
同様に、タンパク質の発現、及び14N及び15N−標識効率を、実験法IIに基づき、rP.69パータクチンについてアプローチEに記載するように、髄膜炎菌に由来するOMV調製物についてアプローチFに記載するように評価した。rP.69パータクチン及びPorA調製物のそれぞれについて、全タンパク質においてタンパク質が完全であること、及び標識が成功したことが認められた。
【0256】
実験アプローチDにおけるHLA−DR2結合百日咳菌エピトープの同定
病原体関連HLA−DRリガンドを、実験法IIに記載するように、14N−及び15N−標識全細胞百日咳菌調製物からなる1:1(OD/OD)混合物でパルシングしたHLA−DR2ホモ接合型MDDCから抽出した。百日咳菌MHCクラスIIリガンド候補に相当する質量スペクトルのダブレットを、数学的な探索アルゴリズムを用いて、LCMSスペクトル中で探索した。図13(上段)は、788.94Da及び797.42Daのm/zにおいて検出された一致する同位体クラスターの例を示し、17個の窒素原子を含むエピトープ候補に相当する(図13、挿入図)。エピトープのMS/MSスペクトル(図13、下段)により、部分配列が明らかとなり、百日咳菌から得られた推定周辺タンパク質(受入番号CAE43606)に由来するエピトープとして同定された。6つのその他のスペクトルダブレットについても配列決定され、これらは、百日咳菌の4つの異なるタンパク質に由来する4つのエピトープの長さ変異体に相当した(表4)。内部標準を用いて当該エピトープの半定量化を行った。
【0257】
実験アプローチEにおけるHLA−DR結合百日咳菌rP.69パータクチンエピトープの同定
病原体関連HLA−DRリガンドを、実験法IIに記載するように、14N−及び15N−標識rP.69パータクチンからなる1:1(OD/OD)混合物でパルシングしたHLA−DRホモ接合型MDDCプールバッチから抽出した。P.69パータクチンMHCクラスIIリガンド候補に相当する質量スペクトルのダブレットを、数学的な探索アルゴリズムを用いて、LCMSスペクトル中で探索した。図14(上段)は、770.43Da及び780.39Daのm/zにおいてスペクトルダブレットとして検出された一致する同位体クラスターの例を示し、20個の窒素原子を含むエピトープ候補に相当する(図14、挿入図)。エピトープのMS/MSスペクトル(図14、下段)により、P.69Prn1(受入番号AJ011091)の一致するペプチド配列LRDTNVTAVPASGAPAを含むb−タイプイオンシリーズが明らかとなった。全部で、5つのスペクトルダブレットについて配列決定され、これらは百日咳菌P.69パータクチン由来の2つのエピトープ領域に関する長さ変異体に相当した(表5)。内部標準を用いて当該エピトープの半定量化を行った。
【0258】
本発明者らは、健常成人ドナー集団から得られたPBMCを、エピトープに相当する合成標準品を用いてin vitroで再刺激することにより、2箇所百日咳菌P.69パータクチンエピトープ領域の免疫原性をヒトで調査した。ASTLWYAESNALSKRLG配列を含む第2のエピトープ領域では、少なくとも2名のドナーにおいて免疫認識が認められ(表5)、当該エピトープは機能的ヒトエピトープであることを示唆した。
【0259】
実験アプローチFにおけるHLA−DR1及び2結合髄膜炎菌エピトープの同定
実験法IIの記載に従い、標識されたOMV調製物でパルシングした4つのMDDCバッチから、HLA−DR対立遺伝子とPorA血清亜型とからなる下記の組合せ:すなわち、HLA−DR1/P1.7−2、4、HLA−DR2/P1.7−2,4、HLA−DR1/P1.5−2,10、及びHLA−DR2/P1.5−2,10でそれぞれ表されるような病原体関連HLA−DRリガンドを抽出した。P1.7−2,4又はP1.5−2,10に由来するMHCクラスIIリガンド候補に相当する質量スペクトルのダブレットを、数学的な探索アルゴリズムを用いてLCMSスペクトル中で探索した。図15はスペクトルダブレットの2つの例、すなわち、HLA−DR1/P1.7−2,4リガンドーム(A図)では、1065.01Da及び1076.47Daのm/zにおいて検出された1対の[MH2]2+イオン、及びHLA−DR2/P1.5−2,10リガンドーム(B図)では、701.01Da及び708.67Daのm/zにおいて検出された1対の[MH3]3+イオンを示している。両質量スペクトルダブレットにおける質量増加は、各エピトープ候補内に24個の窒素原子が存在することを示唆する。1065.01Daのm/zにおける[MH2]2+イオン、及び701.01Daのm/zにおける[MH3]3+イオンのそれぞれについてMS/MS配列決定を行うと、スペクトルが一致するPorA類似エピトープSPDFSGFSGSVQFVPIQNSK(P1.7−2,4、C図)、及びSPEFSGFSGSVQFVPAQNSK(P1.5−2,10、D図)が明らかになった。総じて、実験法IIに記載するように、アプローチFに基づき調製された4つのリガンドームでは、38個のスペクトルダブレットが、髄膜炎菌PorAに由来する8個のエピトープ領域から得られた長さ変異体、血清亜型変異体、及び/又はHLA−DR対立遺伝子特異的リガンドとして特徴づけられた(表6)。内部標準を用いて当該エピトープの半定量化を行った。天然に提示されるエピトープのうち、28個が新規のPorA HLA−DRリガンドであったが、このうち10個が公知の4つのエピトープ領域(領域1、3、7、及び8)に位置し、すでに記載された。したがって、新規4つの天然に提示されるPorAエピトープ領域(領域2、4、5、及び6)が開示され、このうち領域2はヒトCD4+ T細胞を刺激することが報告されている(Wiertzら、1992年)。調査した全4リガンドームにおいて、領域8のエピトープが豊富に発現していた。HLA−DR1/P1.7−2,4リガンドームについて質量スペクトルダブレットのMS配列決定を行い、かかるエピトープ領域で2つの変異体が明らかとなったが、これらは、領域8リガンドーム全体の約1%に相当し、IGNYTQINAASVGコア配列を含み、但し、C−末端が+114Da又は+270Daだけ延長しており、PorA内のこれほどに高度に保存的な領域内にあるエピトープの天然型C−末端隣接残基とは一致しない(図16)。かかる変異体、及びこの目的のために作製された合成標準品の、14N−及び15N−標識された対応部分のLCMSの特徴により、当該延長は、アミノ酸GG(若しくはN)又はGGR(若しくはNR)をそれぞれ含むコア配列の非正統的な延長に一致し、かかる延長は分子内スプライシング事象に起因するはずであることが明らかになった。MHCクラスIIリガンドのスプライシングは記載されていない。MHCクラスIIリガンドのPTMとして、初めてスプライシングが実証されたが、これは専用の免疫学実験デザイン及びLCMSと併用した安定同位体の利用に直接関連した結果である。したがって、MHCクラスIIリガンドのPTM現象について無知であることは、MHCクラスIリガンドの場合もそうであるように、T細胞エピトープに関する本発明者らの知識にとって現実的脅威であり、解決されるべき上記アプローチを必要とする。
【0260】
実験法のアプローチFに記載するように、得られた4つのリガンドームの質量スペクトルダブレットについて総合的なLCMS分析を行い、これから得られた別の結果として、PorAタンパク質に由来しない24個の更なるエピトープが同定された。総じて、当該エピトープは、髄膜炎菌OMV調製物に関連する13種類の異なるタンパク質に由来する18個のエピトープ(の長さ変異体)に相当した(表7)。かかる新知見により、エピトープ領域、及びT細胞の標的となり得る当該エピトープの各前駆体タンパク質が開示される。
【0261】
オンライン2次元プラットフォームLCMS技術を用いたMHCリガンドームのハイスループット分析
MHCリガンドームのハイスループット分析を促進するために、アプローチFに記載するOMVでパルシングしたMDDCバッチに由来するMHCクラスIIペプチドサンプルの同一物の半量を、オンライン2次元プラットフォームLCMS技術で分析した。プラットフォームLCMS分析を用いて、オフラインで調製されたアプローチFのSCX分画についてすでに同定されているエピトープに加えて、オンライン2−Dアプリケーションにより、髄膜炎菌のPorA及び非PorAタンパク質に由来する、これまでに同定されていなかった19個の更なるペプチドエピトープが、迅速且つサンプル消費量が少ないやり方で得られた(表8)。
【0262】
MHCリガンドームは免疫原性及び防御と(相互に)相関している
したがって、この種類の分析を行うことにより、抗原由来の顕在しないCD4T細胞エピトープ領域の多様性が明らかになるばかりでなく、T細胞反応の免疫原性及び質、並びに最終的なPTMを制御するエピトープの相対的な量についても洞察がもたらされる。重要なこととして、本実施例が示すように、当該実験装置を同位体標識及び専用LCMS技術と併用すると、病原体抗原変異体、及びT細胞免疫におけるヒトHLA−DR多型の役割を調査するのに役立つ。複数の公知の髄膜炎菌PorA血清亜型について配列アラインメントを行うと、表6に記載する天然に存在する領域のうち、3領域(領域1、4、及び5)においてマイクロ多型が生じていることが明らかとなった。本発明者らは、健常成人ドナーから得たPBMC、及び免疫したBalb/cマウス、及びC57black/6マウスから得た脾細胞を用いて、新規のマイクロ多型領域である領域4の機能的役割について調査した。第1に、本発明者らは、P1.7−2,4又はP1.5−2,10をそれぞれ有する様々なドナーから得たPBMCを繰返し、in vitroで再刺激することにより、SPDFSGFSGSVQFVPIQNSK(P1.7−2,4変異体、以後D/Iと呼ぶ)、又はSPEFSGFSGSVQFVPAQNSK(P1.5−2,10変異体、以後E/A)それぞれに特異的なT細胞系が産生されるかどうか調べた。ドナー1名から、特異的T細胞系(MB−71.5)が産生され、これはオーバーラッピング合成18マーペプチドであるPEFSGFSGSVQFVPAQNS(code S011−24)、及びSGSVQFVPAQNSKSAYTP(code S011−25)でパルシングした自己抗原提示細胞を認識し、P1.7−2,4の対応部分に相当するオーバーラッピング合成18マーペプチドである、PDFSGFSGSVQFVPIQNS(code S004−29)、及びSGSVQFVPIQNSKSAYTP(code S004−30)ではなく、1.5−2,10エピトープ変異体に相当する(図17A)。MB−71.5 T細胞も増殖し(図17B)、又はP1.5−2,10タンパク質でパルシングした自己抗原提示細胞で刺激するとサイトカインを産生した(図示せず)。その他のPorA変異体、5種類からは、P1.5−1,2−2(E/A)、及びP1.22,14(D/A)変異体のみがMB−71.5 T細胞を再刺激したが、P1.7−2,4(D/I)、P1.7,16(E/I)、又はP1.19,15(D/I)はそうではなく、これは、自然にプロセシングされる「領域4」エピトープのC−末端側半分に含まれるアラニン(A)残基がT細胞認識に必須であることを示唆する。更に、テストした個体(n=5)のいずれからも、非D/I又はA/I特異的T細胞を検出することができた。前臨床動物試験で、本発明者らは同様の観察結果を得た:すなわち、P1.5−1,2−2(P1.5−2,10のようなE/A「領域4」変異体)で免疫したBalb/cマウスから得た脾細胞は、P1.5−2,10「領域4」ペプチドS011−24、及びS011−25に反応したが、P1.7−2,4特異的、領域4変異体S004−29、及びS004−30には反応しなかった(データは示されていない)。P1.7−2,4で免疫したマウスは、領域4に対して(測定可能な)T細胞反応を示さなかった(表9)。更に、P1.5−2,10で免疫したBalb/cマウスに由来するT細胞ハイブリドーマは、6野生型PorA変異体存在下で、ヒトMB−71.5細胞と同じ反応パターンを有した(データは示されていない)。また、C57black/6マウスでも、P1.7−2,4は、「領域4」に対して(測定可能な)T細胞反応を誘発することができなかったが、P1.5−1,2−2「領域4」は免疫原性であった。両PorAは、専用LCMS技術により同定された別のエピトープ領域、「領域6」に対するT細胞反応を等しく誘発することが可能であり、これは、P1.7−2,4はT細胞抗原として全く機能不能なわけではないことを示唆した(表9)。P1.7−2,4は、ヒトの他マウスにおいても殺菌性抗体を誘発する能力に乏しいが(参考文献15及び16)、これはワクチン開発上問題である。Balb/cマウスでは、抗「領域4」脾細胞が増殖する程度は、各マウスにおいてP1.5−1,2−2に対する殺菌力価のレベルに相関した(R=0.78)。総じて、かかる免疫原性データにより、「領域4」はPorAの重要な機能性T細胞エピトープとして位置づけられる。
【0263】
考察:MHCクラスI及びIIリガンドーム
初めての試みとして、いくつかの方法を新規に組み合わせると、プラットフォームLCMS技術と呼ばれる改良型LCMSデバイスがもたらされ、これは標準的なLCMS技術を用いたのでは、これまで限られた数のエピトープしか得られなかった、MHCクラスI及びIIペプチドサンプルのエピトープマイニングに寄与した。更に、具体的なエピトープの特徴、例えば長さ、長さ変異体、量、及びPTMが、本プラットフォーム技術により明らかにされた。
【0264】
関連する免疫学的実験デザイン及び同位体標識を併用することで、本プラットフォームLCMS技術は、先例のない高いレベルの精度と感度で、病原体関連MHCクラスI及びIIリガンドームを確実に同定することができる。
【0265】
プラットフォームLCMS技術は、必要とされるより長尺の、そしてより信頼性のある液体スプレープロセスと併用して低流速、高カラムヘッド圧力を可能にすることにより、MHCクラスI及びIIリガンドーム分析でこれまでに用いられた(標準的な)LCMS法と、同技術そのものとを区別する。総じて、同技術はMS/MSサイクル時の強度及びイオンの滞留時間を向上させ、したがって、LCMS/MSの同定性能を、優位的及び準優位的なペプチド種を確実に特徴づけることが可能なレベルまで高める。
【0266】
【表1】
【0267】
【表2−1】
【表2−2】
【表2−3】
【表2−4】
【0268】
【表3】
【0269】
【表4】
【0270】
【表5】
【0271】
【表6−1】
【表6−2】
【表6−3】
【0272】
【表7−1】
【表7−2】
【表7−3】
【0273】
【表8−1】
【表8−2】
【0274】
【表9】
(参考文献)
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善したLCMS技術、並びに免疫原性エピトープの選択的同定及び特徴づけを行うための方法における当該技術の使用、並びにワクチン開発での当該技術の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫原性病原体関連エピトープの免疫系T細胞による特異的受容体媒介型認識は、感染症に対する防御免疫の基礎である。十分に刺激性の状況下で初期認識が行われると、その後かかるエピトープは、特異的T細胞のクローン集団の増殖、分化、及び維持を促進する。感染期間中、かかるT細胞集団は病原体を不活性化し、及び排除する。その後、T細胞集団は強い収縮作用を受けるが、特異抗原と再度遭遇した際に迅速なメモリー応答が生じるようにわずかな一部分が維持される。この概念はワクチン開発で採用される。抗感染症ワクチンは、関連する病原体由来エピトープに免疫系を暴露して、防御レベルの特異的メモリーT細胞の生成を誘発する必要がある。
【0003】
病原体関連T細胞エピトープは、病原体によりエンコードされたタンパク質に由来する小タンパク質断片であり、細胞内プロセシング後に主要組織適合遺伝子複合体(以後MHCと呼ぶ)分子のリガンドとして抗原提示細胞(以後APCと呼ぶ)の細胞表面に露出する。MHC分子によるペプチドエピトープの切除、存続、競合、及び最終的な提示に関係するプロセス及び酵素ついては、ほとんど分かっていない。2種類のMHC分子が、2つの機能的分類に属するT細胞に対するエピトープ提示に関わっている。MHCクラスI分子は、CD8+T細胞に対してエピトープを提示し、一方、MHCクラスII分子はCD4+T細胞に対してエピトープをそれぞれ提示する。
【0004】
将来のワクチンを設計するために、本発明者らはT細胞エピトープについて新規概念を必要とする。特に、非常に変化しやすい表面抗原を提示する病原体、又は(新規)新生病原体の防御的Tエピトープ及びその抗原はいまだなおとらえ難い。
【0005】
本出願の発明者らは、現在の技術水準において、病原体関連エピトープの2種類の区別可能な分類、すなわちMHCクラスIリガンドーム及びMHCクラスIIリガンドームに関する知見のギャップが、最新のワクチン学の主要会議においてなおも存在していることに今気付いた。
【0006】
第1に、抗原ゲノム創薬(genome−based antigen discovery)(逆ワクチン学(reverse vaccinology))はワクチン学の扉を開き、病原体プロテオームの全体像を明らかにすることを我々に約束した。免疫インフォーマティクスの恩恵により、防御的抗原候補となり得る表面構造、例えば主要な細菌毒性因子、及びウイルス表面抗原等が、in silicoで予測される。したがって、逆ワクチン学アプローチでは、実験動物による組換え抗原発現技術、及び免疫原性研究が必要となる。確かに、かかるアプローチにより、PorAに基づく髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)の血清学的グループBワクチンに代わる有望なワクチン候補が選択され、成功を収めている(Masignaniら、2002年)。しかし、逆ワクチン学アプローチによってもなお、エピトープに関する知見のギャップは存在する:(i)病原体の内部タンパク質の場合、逆ワクチン学によって免疫優勢T細胞抗原は明らかにされない、及び(ii)動物における免疫原性から、ヒトにおける免疫原性及び免疫優勢性を予測することはできない。
【0007】
第2に、候補タンパク質、アルゴリズム予測エピトープに由来する一連の合成ペプチドの利用に基づく古典的なT細胞エピトープ同定法、又はハイスループットMHC結合アッセイ及びT細胞アッセイにおける、オーバーラッピング合成ペプチドのような全プロテオームさえも、病原体関連エピトープを含む非常に多くのT細胞エピトープについて知識をもたらした。しかし、本発明者らは、本アプローチにも限界があると考えた:かかる従来法は、細胞内自然プロセシングの効果、すなわちエピトープの破壊と、それに対する生き残り、それぞれ選択と競合の効果の他、エピトープの諸特徴、例えば一次配列、多様性、正確な分子長及び長さの多型、存在量、自然変異体等の免疫原性に関する重要性、並びに最終的に感染の進行に伴う、及び異なる細胞型に基づくT細胞エピトープの動態の重要性を無視している。また、T細胞エピトープは、一般的に、in silicoで予測可能な一次遺伝子配列の真の翻訳物とみなされている。しかし、リン酸化、グリコシル化、脱アミド化、メチル化、及びスプライシングを含む複数種類からなる一次タンパク質配列の翻訳後修飾(以後PTMと呼ぶ)、並びにゲノムのフレーム外翻訳は、in silicoプロテオミクスのみに基づき予測される場合よりも一層多様な集合からなる免疫学的に重要なエピトープをもたらし得るという証拠が蓄積している(Temmermanら、2004年、Engelhardら、2006年)。
【0008】
更に、上記「第2」で記載したような、T細胞エピトープを同定する技術は、通常、前回感染から生き延びることにより対象とする病原体に対して免疫を獲得した個人から単離した末梢血単核球(PBMC)のin vitro反応に依存することに本発明者らは気付いた。一般的に、病原体が稀又は新規出現の場合には、かかる個人は非常に稀である。したがって、新規感染症に関連したエピトープの同定は、これまでに感染した個人から得られたPBMCの使用に依存しない新規技術に基づく必要がある。
【0009】
更に、病原体関連MHCクラスI及びMHCクラスIIエピトープリガンド(いわゆるリガンドーム)の同定は技術的に困難な課題であり、最高度の定量的感度及び定性的感度を必要とすることに本特許出願の発明らは気付いた。様々な研究室で先駆的な研究が行われ、液体クロマトグラフィー(LCMS)を併用した質量分析法がとりわけ最も有用な分析ツールであり、かかる種類のリガンドームについて偏りのない洞察をもたらすことを明らかにした(Huntら、1992年)。しかし、現行のアプローチは、病原体由来タンパク質に起源する免疫原性エピトープの正確な配列、多様性、存在量、PTM、及び動態等のエピトープの特徴について、偏りのない洞察を得るための免疫学的及び技術的に十分な感度及び選択性を実現できていない。ワクチン学では、病原体関連エピトープに関する知見のギャップを埋めるための「免疫プロテオミクス」に対するニーズがなおも存在する。これを前提とした場合に限り、真に免疫原性で防御性のエピトープを識別し、及び病原体が特異的に識別されるのを免れる仕組みを理解することができる。しかし、方法論に顕著な改善がなければ、今日までに分かっているエピトープという氷山の一角に潜むものについて理解を得ることはできない。
【0010】
MHCエピトープ分析は極めてチャレンジングである。APC上のMHC分子は、多種多様の異なるペプチドエピトープを幅広い濃度範囲で提示する。システムの感度は、107〜108細胞を含むAPC細胞培養物から得られた抽出物中において、1細胞当たり1コピーが発現される、すなわち完全に回収されたとして、カラム上で10〜100アトモルのペプチド質量に等しい場合であっても、病原体関連エピトープを検出するのに十分である必要がある。システムの選択性は、何百、何千ものその他の無関係のMHCエピトープの中から、かかるエピトープそれぞれを識別するのに十分である必要がある。
【0011】
本特許出願は、感度、総合的なエピトープマイニングにおける対象範囲、及びダイナミックレンジの観点からカラム技術の進歩を開示する。したがって、本発明の目的は、高感度、高選択性、及び簡便な方式で、単一の分析用エピトープサンプル中の防御的T細胞により、MHCクラスI及びIIリガンドとして認識される、免疫原性病原体関連エピトープを同定することができる、新規プラットフォーム技術を提供することにある。
【0012】
かかる目的は下記3つの新知見を組み合わせることにより達成されると本発明者らは気付いた:(i)非常に複雑なペプチド混合物中の痕跡量の未知ペプチド試料を検出し、同定するための改善された高感度で堅牢なプラットフォームLCMS技術、これと併用される(ii)原タンパク質から関連する方式で各クラスの免疫原性病原体関連エピトープを単一溶液内に遊離するための、オーダーメードされたin vitro免疫学的実験デザイン、及び(iii)サンプル中の関連する病原体関連エピトープを迅速且つ確実に認識及び同定するのに役立つように(任意選択的に)適用される、抗原の選択的化学修飾又は物理修飾。
【0013】
液体クロマトグラフィー質量分析(LCMS)デバイスは、米国特許出願公開第2002/146349号により公知であり、これをそのまま、特にデバイス関連の態様に関連して本明細書に参考として援用する。
【0014】
LCMSデバイスの目的
サンプル中の分析対象物(本明細書ではペプチド)のクロマトグラフィー分離は、液体クロマトグラフィー(LC)カラムを用いて行われる。好ましくは、かかるカラムの内径及び長さは下記のように設定される:
(i)可能な限り最高感度が(ii)と組み合わせて得られる
(ii)最高分離効率
【0015】
ナノスケールカラムを装備した改良型LCMSを提供することが本発明の目的である。本出願ではLCMSデバイスの異なるいくつかの態様が改良されている。改良型LCMSプラットフォームが提供される。改良型LCMSプラットフォームでは、先行技術LCMSプラットフォームよりも詳細な分析が可能となり得ることが証明された。
【0016】
総分析時間を有意に延長可能にすることも、本発明の更なる目的でもある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の1つの態様は、液体クロマトグラフィー質量分析(LCMS)デバイスに関する。LCMSデバイスを用いた分析について改良法が提供される。当該デバイスの部品を製造する更に改良された方法も提供される。
【0018】
本発明の別の態様は、クロマトグラフィー法、特に2次元液体クロマトグラフィーに関する。
【0019】
本発明の更なる態様は、塩を含まない2次元高性能ナノスケール液体クロマトグラフィー分離技術に関する。
【0020】
なおも更なる態様によれば、本発明はナノスケール液体クロマトグラフィーカラム、及び液体クロマトグラフィーの用途で、特に液体クロマトグラフィー質量分析で用いられる、かかるカラムの作製に関する。
【0021】
本発明の別の態様は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)エミッター、及び液体クロマトグラフィー用カラムと共に用いる、好ましくは、エレクトロスプレーイオン化質量分析器(LC−ESI/MS)に連結されるエミッターの製造方法に関する。
【0022】
本発明の別の態様は、接続部、及びナノスケールLCカラムを接続する方法に関する。
【0023】
本発明のなおも別の態様は、接続部、及びナノスケール液体クロマトグラフィーカラムにおける(デッドボリュームの無い)接続方法に関する。1つの実施形態では、小内径(キャピラリー)ナノスケール液体クロマトグラフィーカラムが提供される。
【0024】
更なる態様では、本発明は、エピトープの同定法で本発明のLCMSデバイスを使用することに関連する。
【0025】
なおも更なる態様では、本発明はエピトープを同定する方法に関し、同方法は、a)サンプルを調製するステップであって、少なくとも1つのMHCクラスI及びMHCクラスIIエピトープ(リガンドーム)を含み、前記エピトープが抗原提示細胞によりプロセシング及び提示されるステップと、b)a)で得られたサンプルを本発明のLCMSデバイス内で分析するステップとを含む。
【0026】
1つの態様では、本発明は、本発明の方法に基づき同定されたエピトープを含む組成物を製造する方法に関し、当該方法は、当該エピトープを含む分子の化学合成及び組換え発現のうちの少なくとも1つを含む。
【0027】
1つの別の態様では、本発明は、本発明のLCMSデバイス、及び/又は本発明のエピトープ同定法を利用することにより入手可能なエピトープに関する。
【0028】
本発明の別の態様は、本発明に基づき同定されたエピトープの利用、又は前記エピトープを含む組成物の利用に関する。当該エピトープ又は当該エピトープを含む組成物は、かかるエピトープを担持する病原体によって引き起こされる疾患を予防及び/又は治療するための、又は哺乳動物の免疫状態を評価するためのワクチンを製造するために用いられる。
【0029】
本発明の上記全ての態様は以下で議論される。
【0030】
LCMSデバイス
1つの実施形態では、LCMSデバイスは、カラム、好ましくはクロマトグラフィーを実施するためのナノスケールカラムを含む。LCMSデバイスは、毎分ナノリットル(nl/分)の範囲の流速で稼働するように配置、及び構成された液体クロマトグラフィー(LC)カラムを備える。かかるナノスケールカラムは、質量分析(MS)において改善した分析を可能にする高分離効率のクロマトグラフィー用カラムを実現する。
【0031】
質量分析法がペプチドを同定するための強力な技術として登場して以来、質量分析法と組み合わされたナノスケール液体クロマトグラフィーは、低アトモル量で個々のペプチドの配列情報を提供する能力を有する技術であるが故に、今日、MHC提示ペプチドを同定するための第一選択法である。しかし、本発明の実施形態を応用する場合、それはLCMS用途に限られない。
【0032】
一般的に、LCMSデバイスの実施形態は、ポンプ、好ましくは高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)ポンプを有する混合ポンプ構成物を含み、1つの実施形態では、非常に正確な方法で所望の低流速混合溶媒系を生み出すための便利な方式として用いられる、フロー分離デバイス、分析用カラム、及び質量分析器と組み合わされる。
【0033】
LCMSデバイスは、エミッター、コーティング物、及び専用エレクトロスプレーイオン化源を備えるエレクトロスプレーイオン化(ESI)ユニットを更に有する。LCMSデバイスは各キャピラリーチューブを接続するための接続要素を備える。好ましい実施形態について以下に詳細に議論する。
【0034】
液体クロマトグラフィー
物理的には、液体クロマトグラフィー(LC)は、カラム、例えば内部に材料を収納するための空間(空孔)を有する円筒状の構築物内で実施される。当該カラム材料及び使用溶出液は、通常クロマトグラフィーの種類を決定する。空孔内で材料は保持され、これは固定相として定義される。好ましい実施形態では、サンプルは移動相に溶解される。サンプル及び移動相は固定相を通過し、ここでは分析対象物の分離が、その測定前又は分析前に行われる。以降のステップで、更なる単離も可能である。
【0035】
サンプルを分画した後、好ましい実施形態では複数のペプチド、及びLCMSデバイス装置の好ましい実施形態では、個々のペプチドが質量分析器で同定される。質量分析器は、同定され得るペプチドに基づき、質量(Mw)及び構造上の情報(アミノ酸配列)を生成する。
【0036】
LCMS分析
本発明の目的は、タンパク質分解されたタンパク質の多次元LCMS/MS分析により実現可能であり、同分析では、逆相(RP)分離と併用して強カチオン交換体(SCX)による分画化が用いられた。かかる分析技法は、分析の分離効率及びダイナミックレンジを向上させるために併用される。
【0037】
1つの実施形態では、第1次元分離用のアニオン交換粒子及びカチオン交換粒子からなる混合ベッドを用いたオンライン多次元LC法が提供される。
【0038】
トラッピングカラム
1つの実施形態では、LCMSデバイスは、固相抽出(SPE)トラッピングカラム、又は分析カラム若しくは分離カラムの上流にトラッピングカラムを備える。トラッピングカラムでは、強カチオン交換(SCX)樹脂若しくは弱アニオン交換(WAX)樹脂、又はSCX樹脂及びWAX樹脂からなる混合ベッドが利用可能である。これはLCMS/MS分析のうちの1つの次元を構成する。分析カラム下流にC18逆相(RP)クロマトグラフィーにより、第2次元の分析を付加することができる。更に、トラッピングカラムは、比較的大きなサンプルボリュームを、ナノスケールLCカラム内に比較的迅速にロード(移送)することができる。したがって、トラッピングカラムの内径は、分析カラムの内径とバランスが取れている必要がある。
【0039】
1つの実施形態では、ペプチド(少なくとも1つのペプチドを意味する)を含むサンプルが、トラッピングカラム内に導入される。好ましくは、本明細書で後ほど特定されるように、エピトープを含むサンプルが同定される。1つの実施形態では、その後トラッピングカラム内に溶媒が注入され、同溶媒は結合したペプチドをトラッピングカラムから逆相C18分析カラムに移送する。
【0040】
1つの実施形態では、アニオン−カチオン交換体(ACE)固相トラッピングカラムは、強カチオン樹脂及び弱アニオン樹脂の両方からなる混合物を含む。かかる混合ベッドは、Motoyama(Motoyamaら、2007年)より公知であり、当該ベッドでは酢酸アンモニウムが結合ペプチドの回収に用いられる。
【0041】
先行技術の問題点として、結合した分析対象物を回収するために酢酸アンモニウムを含むカチオン性の塩を使用すると、第2次元目のオンライン逆相ナノスケールLCシステム性能に悪影響を及ぼすことが挙げられる。
【0042】
本発明の更なる態様によれば、第1次元目で結合した分析対象物を回収する際に、塩を含まない方法でかかる回収を実現することができる。塩を含まない溶液を使用すると、下流の逆相樹脂の劣化が予防される。
【0043】
好ましくは、移動溶媒又は溶出溶媒は塩を含まない溶媒である。好ましくは、ギ酸(メタン酸)が移動溶媒として用いられる。換言すれば、ギ酸が結合したペプチドの溶出に用いられる。文献では、ギ酸の溶出強度はイオン交換樹脂からペプチドを回収するのに低すぎることが知られているが、驚くべきことに、ギ酸が移動溶媒として利用可能であることが実験で明らかとなった。かかる驚くべき効果に対する説明は、結晶構造を有する架橋分子の多かれ少なかれ開放した構造を含む、シリカ粒子上のWAX樹脂の構造に見出すことができるが、ここでは、ギ酸のCOO−基が結合した分析対象物(ペプチド)を貫通し、これと置換することができる。
【0044】
1つの実施形態では、塩酸(HCl)がかかる目的のために用いられたが、但し、これはそれほど好ましくない。
【0045】
LCMSデバイス、又はかかるデバイスの操作方法に関する1つの実施形態では、所定量(例えば、10μl)のギ酸とジメチルスルホキシドとからなる、(濃度が)増強された等モル混合物が、トラッピングカラム経由で添加される。ACEトラッピングカラムから流出したペプチドは、逆相カラムスイッチングシステムのC18逆相トラッピングカラム上で再トラップされる。
【0046】
LC分析カラム
サンプル中の分析対象物(ここではペプチド)をクロマトグラフィー分離する場合、これはLC分析カラムを用いることにより達成される。1つの実施形態では、カラムは少なくとも50cm、好ましくは少なくとも75cm、より好ましくは少なくとも85cm、及びなおもより好ましくは少なくとも90cmの長さを有する。カラムの長さは、LCカラム性能にとって、特にカラムの分離効率の観点から重要なパラメーターである。
【0047】
1つの実施形態では、70μm未満、好ましくは55μm未満の内径を有する、及び1つの実施形態では、5μmのC18粒子が充填された50μm未満の内径を有する、少なくとも75cm、例えば90cmの分析カラムがHLA−A2溶出サンプルの深さ分析で組み込まれた。サンプルは4時間グラジエントで流された。質量分析器は、1サイクル当たり1MS及び3回の連続したCAD MS/MSスキャンを実施するようにプログラムされた。
【0048】
1つの実施形態では、溶融シリカが用いられる。好ましい実施形態では、溶融シリカキャピラリーカラムが用いられる。当該カラムは、液体クロマトグラフィー用の充填物を含む。カラム充填するための好適な方法が提供される。
【0049】
1つの実施形態では、LCMSデバイスはナノスケールカラムを備える。1つの実施形態では、かかるカラムは、外径及び内径を有する溶融シリカ(キャピラリー)チューブを備えることができ、当該内径は、溶融シリカ全体に広がる空孔に関連する。好ましくは、ナノスケールチューブの外径は、150〜1400μmの範囲である。チューブの外径は、好ましくは200〜800μmの範囲内にある。
【0050】
カラムは、75μm未満、好ましくは55μm未満、より好ましくは50μm未満、なおもより好ましくは30μm未満、及びなおも更に好ましくは26μm未満の内径を備える。内径が小さいほどLCMSデバイスの感度及び分離効率が改善する。内部空孔は、好ましくは5〜100μmの範囲内、及びより好ましくは16〜70μmの範囲内、及びなおもより好ましい実施形態では18〜50μmの範囲内の直径を有する。かかるキャピラリーチューブは、5〜50nl/分の範囲内の、及びより好ましくは10〜30nl/分の範囲の流速で用いることができる。
【0051】
LC分析カラムの製造
本発明の1つの態様によれば、内径が最大55μmの内部空孔を有する、少なくとも45、好ましくは少なくとも75cmの長さのカラムを備えるLCカラムを製造し、カラムの一端にフリット(frit)を設け、及びカラム内に適する液体クロマトグラフィー固相材料を充填するための方法が提供されるが、当該液体クロマトグラフィー固相材料は、低粘度溶媒中のスラリーとして提供される。好ましい実施形態では、低粘度溶媒は、20℃で0.32cPの粘度を有するアセトンである。
【0052】
LC分析カラムの充填
本発明の更なる態様によれば、内径が最大55μmの内部空孔を有する、少なくとも45cm、好ましくは少なくとも75cmの長さのカラムを備えるLC分析カラムを製造し、カラムの一端にフリットを設け、及びカラム内に適する液体クロマトグラフィー固相材料を充填するための方法が提供されるが、当該カラムは充填中に振動が加えられ、又は超音波で処理される。1つの実施形態では、カラムは超音波処理される。
【0053】
先行技術で公知の問題は、「長尺」LC分析カラムの充填スピードである。
【0054】
1つの実施形態では、本発明に基づく改良された充填方法は、充填中に好ましくは超音波振動を用いてカラムに振動を加えるステップを含む。
【0055】
1つの実施形態では、超音波振動は充填中に実施される。好ましくは、カラムに進入するスラリーに振動が加えられる。こうすることにより、充填効率が改善し、充填ベッドに空隙/空孔が生ずるのを阻止する。
【0056】
1つのなおも更なる態様によれば、非粘性溶媒、例えばアセトンが、カラム充填法と併用される。好ましい実施形態では、非粘性溶媒はスラリーと併用される。好ましくは、イソプロパノールの少なくとも1/2未満の粘度の溶媒が用いられる。
【0057】
1つの特定の実施形態では、溶融シリカカラムのフリット処理された末端部は超音波バス(例えば、Branson 200)内に配置される。1つの更なる実施形態では、超音波処理は、固相粒子が溶融石英シリカカラム内にフラッシングされた後に限り実施される。
【0058】
1つの実施形態では、スラリーは、1mlのアセトンに懸濁された少なくとも150mgの逆相粒子を含む。充填中にカラムを通過するアセトンの線速度は、イソプロパノールに比較して、驚くべきことに7±1倍に等しい。
【0059】
エレクトロスプレーイオン化(ESI)及びエミッターの製造
1つの実施形態では、LCMSデバイスは、エレクトロスプレー用のチップを有するエレクトロスプレーイオン化質量分析器(LC−ESI/MS)と連結した液体クロマトグラフィーで用いられるエミッターを備える。当該チップは、コーティング物及びエレクトロスプレーイオン化源をやはり備えるエレクトロスプレーイオン化ユニットの部品であり、同チップは、好ましくは分析カラムより引き継いだナノリットル流速でエレクトロスプレーするように構成及び配置される。
【0060】
公知のエミッターの問題として、チップ末端部に特に近接する金層の劣化が挙げられ、かかる劣化は脈動性のスプレーを引き起こし得る。特により長期間LCMS−ESI稼働が可能となるようにエミッターを改良することが本発明の目的である。
【0061】
好ましくは、チップ/エミッターは、1次コーティング物、好ましくは金等の貴金属製の導電性コーティング物を含むのが好ましい。2次コーティング物が保護層として用いられる。1つの実施形態では、2次コーティング物は導電性カーボンベースのコーティング物である。別の実施形態では、シリコンベースのコーティング物が2次コーティング物として用いられる。別の実施形態では、導電性ポリマーコーティング物が用いられる。
【0062】
好ましくは、エミッターはチューブ、好ましくは溶融シリカキャピラリーチューブからなる。1つの実施形態では、エミッターは最大55μm、好ましくは最大30μmの内径を有する。
【0063】
本発明の1つの実施形態では、エミッター形成方法が提供される。当該方法は、チューブを加熱するステップ、及び内径が細くなったチップを形成するように延伸するステップを含む。このように内径を細くすると、LCMS分析の性能が更に高まる。1つの態様によれば、本発明はかかる改良型エミッターの製造方法を提供する。LCMS装置で用いられる改良型チップの製造方法は、当該チップを、特に当該チップ末端部を、導電性カーボンベースコーティング物でコーティングするステップを含む。先細りのチップ末端部近傍のチップ内径は、好ましくは約2〜30μm、より好ましくは3〜10μmの範囲内である。1つの実施形態では、エミッター/チップは、先細りの末端部におけるエミッターの内径が最高10μmとなるように形成される。
【0064】
1つの実施形態では、チューブは両端で引っ張られ、中央部分が加熱される。加熱中、ガラスは中央部付近でより柔軟となり、伸長された状態となり、そして最終的に引きちぎられる。かかる実施形態では、2つの先細りのエミッターが形成される。
【0065】
1つの実施形態では、引き延ばされたチップは金等の貴金属でコーティングされる。その後、当該チップは、内径が細くなった出口が形成されるように、好ましくは先細りした(伸長した/引っ張られた)末端近傍で切断される。
【0066】
1つの実施形態では、エミッターは分析カラムの一端に一体的に形成される。こうすることにより、分析カラム末端部及びエミッターの上流末端部間での接続が省ける。
【0067】
1つの態様によれば、例えば液体クロマトグラフィーカラム、及びサンプルをエレクトロスプレーするための先細りの末端部等からサンプルを受容するための上流末端部を備える、ナノスケールフローのためのエミッターが提供されるが、当該エミッターはエレクトロスプレーイオン化ユニットの部品であり、当該エミッターは溶融シリカから形成され、且つ55μm未満の内径を有し、当該エミッターの上記先細りの末端部には、金からなる導電性1次コーティング物及び2次導電性カーボンベースコーティング物が設けられる。
【0068】
更に、例えば液体クロマトグラフィーカラム、及びサンプルをエレクトロスプレーするための先細りの末端部等からサンプルを受容するための上流末端部を備える、ナノスケールフローのためのエミッターが提供されるが、当該エミッターはエレクトロスプレーイオン化ユニットの部品であり、当該エミッターは溶融シリカから形成され、且つ最大55μmの内径を有し、当該エミッターの上記先細りの末端部には、シリコン合金又は導電性ポリマーを含むコーティング物が設けられる。
【0069】
T−コネクター
ナノスケールLCMSデバイスでは、流路の内径に匹敵するような大きさのデッドボリュームはバンド(ピーク)幅に劇的な効果を及ぼすので、流路中のデッドボリューム、すなわち空隙を無くすことが重要である。拡散によるピークのブロード化は、システムの感度及びダイナミックレンジの両方に有害な影響を及ぼす。
【0070】
1つの実施形態では、LCMSデバイス流路内のデッドボリュームの存在量を、少なくとも顕著に低減する改良型接続要素が提供される。
【0071】
したがって、一般的に固定されるチューブの外径に等しい直径を有する断面を持った内部ボリュームを備える接続要素が提供される。
【0072】
チューブの突合せ接続
本発明の1つの態様は、高圧(>4×104kPa)に耐え得るナノスケールカラムの突合せ接続方法を提供することに関する。
【0073】
本発明の1つの実施形態では、接続されるチューブの末端部は、チューブの長さ方向に対して垂直に「直線切削」が得られるようにダイアモンドカッターを用いて切断される。かかる直線切削は、接続要素内でチューブ末端部の接合を可能にし、上流カラムから下流カラムの入口に流入する際に、少なくとも移動相についてデッドボリュームの存在量を低減する。直線端部を有するチューブの各末端部での接続は、一般的に突合せ接続と呼ばれる。直線切削は、バリやフィンの形成を無くす。
【0074】
チューブの末端は接合状態にあるが、かかる突合せ接続は完全に又は強固に密閉されていないのでリークが生じる可能性がある。漏出容積は、3方向の接続要素からなる本実施形態の接続要素の第3の接続アセンブリに到達可能である。
【0075】
本発明は、具体的な実施形態を用いて記載されるが、本発明が、提示された実施形態に限定されないことは明白であろう。より具体的には、提示された実施形態はLCMS技術の応用形態である。しかし、本発明はLCMSにおける応用形態に限定されない。本発明は具体的な実施形態を用いて説明されるけれども、本発明は本明細書で開示される明示の特徴に限定されず、あらゆる黙示的特徴又は同等の特徴も含む。本出願には具体的な特許請求の範囲が添付されはするものの、本出願の開示は当該特許請求の範囲に限定されるものではなく、全ての黙示及び明示の特徴を含み、並びに後続の分割申請出願はかかる特徴との任意の組合せにおいて関連し得る。
【0076】
本開示に基づく実施形態は併用可能であることは、熟練した読者にとって明白であろう。別途明示しない限り、本明細書に開示された実施形態のいずれも、別に開示された実施形態の特徴(の一部分)と併用可能である。
【0077】
本発明は、後ほど図を参照しながら、より詳細に記載される。
【0078】
出願全体を通じて、用語LCMSは、LCMSプラットフォーム技術、又はLCMS装置と交換可能に用いられる。
【0079】
LCMSデバイスの使用
更なる態様では、エピトープを同定するために、本発明の上記態様で定義したようなデバイスの使用ができるようになる。
【0080】
エピトープが何かは当業者にとって公知である。簡潔には、エピトープはタンパク質の断片、好ましくはペプチドである。通常、エピトープは、MHCクラスIリガンドについて、約8〜10個のアミノ酸からなる長さ、またMHCクラスIIリガンドについて、約11〜34個、好ましくは14〜16個のアミノ酸からなる長さを有するが、但し、他の長さのペプチドも予想され得る。かかるペプチドは、PTMにより更に変化する場合がある(Engelhardら、2004年)。任意のエピトープについて、本発明のLCMSデバイスを用いて同定できる可能性がある。1つの好ましい実施形態では、MHCクラスI T細胞エピトープが同定される。別の好ましい実施形態では、MHCクラスII T細胞エピトープが同定される。当業者は、1つのサンプルを用いて数種類のエピトープが同定可能であることを理解するであろう。1つのサンプルを用いてMHCクラスI及びMHCクラスII T細胞エピトープを同定することも可能である。
【0081】
MHCクラスIエピトープ
第1の好ましい実施形態では、T細胞エピトープはMHCクラスIエピトープである。当業者に公知の、及び「背景技術」ですでに説明したような、MHCクラスIエピトープは、CD8+T細胞を活性化するように、APCによりMHCクラスI分子上に提示されるエピトープである。MHCクラスIエピトープは、好ましくは哺乳動物細胞内に発現するタンパク質に起因又は由来し、好ましくは細胞内感染中のウイルスに由来する。MHCクラスIエピトープは、その他の非自己タンパク質にも由来し、これはMHCクラスI分子に関連してAPC内でプロセシング及び提示される細菌性タンパク質であり得る。好ましくは、かかるタンパク質は、細胞内ライフスタイル、すなわち哺乳動物APC、好ましくはヒトAPCに侵入し得ることを意味するかかるライフスタイルを採用し得る細菌に由来する。MHCクラスIエピトープは、非自己の細菌性又はウイルス性のタンパク質にも由来する場合があり、同タンパク質はAPCにより細胞外環境から取り込まれ、そして交差提示を経由してMHCクラスIプロセシングコンパートメントに到達し得る。また、MHCクラスIエピトープは、宿主タンパク質に由来する場合があり、当該タンパク質の発現は新規誘発性であり、又はAPCの細胞内感染により上方制御されており、したがって感染関連又は病原体関連である。
【0082】
本発明のLCMSデバイスを利用しながら、いくつかの戦略を、MHCクラスIエピトープを同定するために用いることができる。ウイルス性病原体の場合、第1に、MHCクラスIエピトープを同定する必要のある、同定対象ウイルスを選択する必要がある。好ましいウイルスとして、非限定的にあらゆるウイルスが挙げられるが、かかるウイルスは前記哺乳動物で病状又は疾患を誘発することができる。好ましくは、当該哺乳動物はヒトである。MHCクラスIエピトープが同定され得るヒトのウイルスとして以下のものが挙げられる:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)等のレトロウイルス科(Retroviridae);風疹ウイルス(rubellavirus);パラミクソウイルス科(paramyxoviridae)、例えばパラインフルエンザウイルス、麻疹、流行性耳下腺炎、呼吸器合胞体ウイルス、ヒトメタニューモウイルス等;インフルエンザウイルス等のオルトミクソウイルス科(orthomyxoviridae);フラビウイルス科(flaviviridae)、例えば黄熱病ウイルス、デングウイルス、C型肝炎ウイルス(HCV)、日本脳炎ウイルス(JEV)、ダニ媒介脳炎、セントルイス脳炎又はウェストナイルウイルス等;ヘルペスウイルス科(Herpesviridae)、例えば単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、Epstein−Barrウイルス等;ブニヤウイルス科(Bunyaviridae);アレナウイルス科(Arenaviridae);ハンタウイルス等のハンタウイルス科(Hantaviridae);コロナウイルス科(Coronaviridae);ヒトパピローマウイルス等のパポバウイルス科(Papovaviridae);狂犬病ウイルス等のラブドウイルス科(Rhabdoviridae)。ヒトコロナウイルス等のコロナウイルス科(Coronaviridae);アルファウイルス科(Alphaviridae)、アルテリウイルス科(Arteriviridae)、エボラウイルス等のフィロウイルス科(filoviridae)、アレナウイルス科(Arenaviridae)、天然痘ウイルス等のポックスウイルス科(poxviridae)、及びアフリカ豚コレラウイルス。麻疹ウイルス、インフルエンザウイルス、及び呼吸器合胞体ウイルスは、実験パートで実施例として取り上げる。
【0083】
次のステップでは、選択したウイルスから得られたMHCクラスIエピトープを含む混合物が調製され、かかる混合物又はサンプルはLCMSデバイスに提供されるが、同デバイスは、前記MHCクラスIエピトープ同定用として本明細書ですでに特定されている。MHCクラスIエピトープを同定するために、いくつかの戦略が利用可能である。かかる好ましい実施形態(MHCクラスIエピトープ)では、MHCクラスIエピトープを含む混合物は、好ましくは前記エピトープを含む細胞に由来する。したがって、同定対象となるMHCクラスIエピトープがウイルスに起因又は由来する場合には、当業者はまず、哺乳動物細胞を前記ウイルスで感染させて前記混合物を得なければならない。これは、当業者にとって公知の技術を用いて実施可能であり、また麻疹ウイルス、又はインフルエンザウイルスを例とする実験において幅広く記載されている。好ましくは、APCが感染対象として用いられる。APCは細胞系に由来することも、又は哺乳動物、好ましくはヒトから単離することもできる。プロフェッショナルAPCを単離及び同定する方法。使用される好ましいAPCは、実験パートに記載するようにヒトDC、より好ましくはヒト単球由来樹状細胞(MDDC)である。APCは、好ましくは数日間(約4〜6日間)、任意選択により所定の栄養物を補充した、適する培地内で培養される。これに続き、公知の技法によりAPCを選択したウイルスに感染させる。ウイルスの同一性に応じて、どの感染プロトコールに従わなければならないか、当業者にとって公知である。感染後、APCは捕集、洗浄、計測、及び任意選択によりペレット化され、そして更に分析する前に凍結される。対照として、非感染APCを用いることができる。実験デザインに応じて、少なくとも2つの並行培地中でAPCを培養することが可能であるが、そのうちの1つは選択されたウイルスに感染している。並行培地間のその他の唯一の相違として、感染培地は、13C6−L−ロイシン、及び/又は13C5,15N1−L−メチオニン、及び/又は13C5,15N1−L−バリン等の、安定な同位体で標識されたアミノ酸(単数又は複数)が50%、並びにこれらに対応する天然アミノ酸であるL−ロイシン、L−メチオニン、及びL−バリンが50%存在することにより識別されることが挙げられる。その他のアミノ酸、好ましくは実験のHLAバックグラウンドに関連するMHCアンカー残基に相当するアミノ酸も標識用途で選択可能である。1つのMHCクラスIエピトープ組成物を溶出する前に、感染APC及び対照APCの1:1混合物(細胞/細胞)を使用すれば、正常不変の自己エピトープに関する同位体イオンクラスターと比較して、ウイルス感染関連自己エピトープに関する同位体イオンクラスターでは影響が異なるであろう。これにより、その後、ウイルス感染関連MHCクラスIエピトープをより良く同定可能となる。
【0084】
実験デザインに応じて、特定のHLAバックグラウンドから得られるAPCを使用するように選択することもできる。例えば、HLA−A*0201バックグラウンドから得られたAPCを使用する場合、これに関連して特異的に提示されるエピトープが同定されるであろう。また、数種類のバックグラウンドに関連して提示され得るエピトープを同定するために、異なるHLAバックグラウンドから得られたAPCを並行して使用することも選択可能である。APCを1:1混合(細胞/細胞)した後には、当該細胞混合物は、更にエピトープ分析を実施する前に凍結可能である。
【0085】
APCが凍結されている場合には、分析を実施する際にAPCは解凍される。その後、MHCクラスI分子を可溶化するために、公知の技法に基づきAPCは溶解される。好ましい方法は、MHCクラスIIエピトープと題するセクションに記載する方法に類似する。より好ましい方法は、実験パートにも記載されている。溶出組成物内に存在する各エピトープを同定するために、本発明のデバイス内にダウンロードするのに適するMHCクラスIエピトープを含む組成物又はサンプルを調製する場合、かかる調製は、本発明のデバイスにダウンロードされるMHCクラスIIエピトープを含む組成物の調製に類似する。
【0086】
本発明のデバイスに適する組成物をダウンロードするステップ、及びMHCクラスIエピトープが同定されるように得られた結果を分析するステップは、当業者にとって公知の技法に基づき実施され、かかる技法は実施例で説明した。
【0087】
かかるアプローチにより、哺乳動物に感染することが公知の、ある種のウイルスのMHCクラスIエピトープについて、おそらくはその全てが同定可能となる。また、同アプローチは、所定のMHCクラスIエピトープの相対的な量についても洞察をもたらす。また、これは、溶出組成物に含まれる複数の長さ変異体の存在が反映されるエピトープの長さ変化、並びにエピトープの翻訳後修飾(PTM)を含むその他の特徴、又はある種のHLAの状態において提示物上に現れるタンパク質多型又はエピトープ多型の役割についても洞察をもたらす。かかる技法は強力で、機能的ワクチンの開発に必要とされる。選択したウイルスが、既存療法に対して極めて迅速に自己を適応させることが公知のウイルスである場合には、本発明に含まれる好ましい実施形態は、1種類のウイルスの少なくとも2種類の株に由来する共通MHCクラスIエピトープを同定することであるが、好ましくは、かかる好ましい実施形態では、当該ウイルスはインフルエンザウイルスである。
【0088】
MHCクラスIIエピトープ
別のより好ましい実施形態では、T細胞エピトープはMHCクラスIIエピトープである。本発明の好ましい利用形態では、MHCクラスIIエピトープは、APCと共にエピトープ源を含む混合物を抗原パルス実験でインキュベーションし、そしてその後にAPCによりプロセシング及び提示されたエピトープを含むサンプルを本明細書で定義するデバイスに提供した後に同定される。好ましくは、エピトープ源は、エピトープの原タンパク質である。
【0089】
MHCクラスIIエピトープは、当業者が理解する通り、及び「背景技術」ですでに説明したように、APCによりMHCクラスII分子上に提示されてCD4+T細胞を活性化させるエピトープである。本明細書で用いるMHCクラスIIエピトープは、好ましくは非自己タンパク質に起因又は由来する。非自己タンパク質は、好ましくは、本明細書で後ほど特定する病原体から得られたタンパク質であり、同タンパク質は、前記病原体に感染している可能性がある哺乳動物にとって非自己である。本発明のLCMSデバイスを利用しながら、いくつかの戦略が病原体関連MHCクラスIIエピトープを同定するために用いることができる。第1に、MHCクラスIIエピトープを同定する必要のある病原体を選択しなければならない。好ましい病原体として、非限定的にあらゆる哺乳動物の病原体が挙げられ、かかる病原体は、前記哺乳動物において病状又は疾患を誘発することができる。好ましくは、当該哺乳動物はヒトである。MHCクラスIIエピトープが同定され得るヒトの病原体として以下のものが挙げられる:原核細胞又は真核細胞。好ましくは、原核細胞はバクテリアである。好ましいバクテリアとして、例えばヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori)等のヘリコバクター属(Helicobacter)、ナイセリア属(Neisseria)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)等のヘモフィルス属(Haemophilus)、ボルデテラ属(Bordetella)、クラミジア属(Chlamydia)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)等の連鎖球菌(Streptococcus)、コレラ菌(Vibrio cholera)等のビブリオ属(Vibrio)、並びに、例えばサルモネラ属(Salmonella)、赤痢菌(Shigella)、カンピロバクター菌(Campylobacter)、及びエシェリキア属(Escherichia)等を含むグラム陰性腸内病原菌、並びに炭疽病、ハンセン病、結核、ジフテリア、ライム病、梅毒、腸チフス、淋病、及びQ熱を引き起こすバクテリア、が挙げられる。好ましいバクテリアはボルデテラ属又はナイセリア属に属する。より好ましいボルデテラ属として、百日咳菌(Bordetella pertussis)、パラ百日咳菌(Bordetella parapertussis)、又は気管支敗血症菌(Bordetella bronchiseptica)が挙げられる。より好ましいナイセリア属として、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)が挙げられる。病原体は寄生虫、例えばウシ脳性バベシア症原虫(Babesia bovis)、プラスモジウム原虫(Plasmodium)、リーシュマニア種(Leishmania spp)トキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)、及びクルーズ・トリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)等のトリパノソーマ属(Trypanosoma)等の原生動物であってもよい。好ましい真核生物として真菌類が挙げられる。より好ましい真菌類として、酵母菌又は糸状菌が挙げられる。好ましい酵母菌の例は、カンジダ属(Candida)に属する。好ましい真菌類として、アスペルギルス属(Aspergillus)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)等のクリプトコッカス属(Cryptococcus)、及びヒストプラスマ・カプスラーツム(Histoplasma capsulatum)が挙げられる。病原体は、本明細書で後ほど定義するウイルス性病原体でもあり得る。この場合、病原細胞と呼ぶ際には、好ましくはウイルス感染細胞を指す。
【0090】
次のステップでは、選択した病原体に由来する1つ又は複数のMHCクラスIIエピトープ(単数又は複数)の、1つの原タンパク質、又は複数の原タンパク質を含む混合物を調製し、抗原パルス実験においてAPCと共にかかる混合物をインキュベーションし、及びAPCによりプロセシング及び提示された1つのエピトープ、又は複数のエピトープを含むサンプルを、本明細書ですでに特定した前記MHCクラスIIエピトープを同定するためのLCMSデバイスに提供する。1つ又は複数の原タンパク質(単数又は複数)からなる数種類の混合物が、実験の目的、及び/又は選択した病原体について当業者が有する知識に応じて、及び/又は病原体の同一性に応じて利用可能である。
【0091】
好ましい実施形態では、前記混合物は細胞に由来し、又は細胞を含む。より好ましくは、この場合の細胞は病原細胞である。好ましい病原体は本明細書ですでに特定されている。病原細胞に由来する混合物は、好ましくは全細胞調製物に由来する混合物である。前記病原体細胞についてエピトープ(単数又は複数)が全く、又はほとんど判明していない場合には、又は追加のエピトープ(単数又は複数)若しくは未知の病原体タンパク質に由来するエピトープ(単数又は複数)を、前記病原体について同定する必要がある場合には、かかるより好ましい実施形態(全細胞調製物に由来する混合物の使用)は通常魅力的である。病原体に由来するその他の既知又は未知のエピトープに対して優位にプロセシング及び提示されるエピトープとして既知又は未知の病原体関連エピトープを同定する必要がある場合には、かかるより好ましい実施形態はやはり魅力的である。また、哺乳動物のAPC、好ましくはヒトのAPCが、複雑な病原体プロテオーム全体をin vivoで処理及び提示したときに、その結果に類似した全病原体関連MHCクラスIIリガンドームが1つの分析サンプルに含まれる必要がある場合には、かかるより好ましい実施形態は魅力的である。簡潔には、かかる混合物を調製するために、病原細胞は、2つの並行培養物内の適する培地内で、好ましくは静止期まで培養される。2つの並行培養物の唯一の相違点として、一方の培養物は14N(天然窒素同位体)の存在で識別され、また他方は、15N安定同位体の存在で識別されるということが挙げられる。APCを用いた抗原パルス実験で14N−及び15N−標識病原細胞の1:1混合物を使用すると、好ましくは等しいコピー数の軽い(14N)、及び重い(15N)形態のエピトープが生成する。こうすることで、後にLCMSデバイス内で、病原体関連MHCクラスIIエピトープを認識するのを容易にすることができる。病原体に応じて、使用可能な適当な培地、また任意選択的に当該培地に追加の栄養剤を補充する方法について、当業者は理解している。通常、病原細胞はこれが静止期に達したときに、加熱により不活性化される。静止期とは、好ましくは光学濃度測定を用いて細胞のこれ以上の増殖が認められないことを好ましくは意味する。光学濃度は、好ましくは590nmで測定される。その後、適する光学濃度(OD)、好ましくは0.6〜1の間の光学濃度を有する全細胞調製物を得るために、病原細胞はPBS等の生理的バッファー内で濃縮され得る。
【0092】
別の好ましい実施形態では、前記混合物は細胞のタンパク質を含み、又は細胞、好ましくは病原細胞のタンパク質に由来する。病原細胞は、本明細書ですでに定義されている。好ましいタンパク質は、百日咳菌(Bordetella pertussis)に由来するタンパク質であるP.69パータクチンである。病原体に由来するタンパク質が、同定する必要がある、免疫原性の、且つ新規の、進化した、又は支配的なエピトープとしてすでに公知である場合に、この種の混合物が一般的に用いられる。タンパク質は、好ましくは精製された調製物に存在する。精製された調製物は、好ましくは、前記タンパク質を少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、又は少なくとも95%、又は少なくとも98%、又は少なくとも99%(w/w)含む、又はこれから構成される調製物を意味する。タンパク質は、病原体から直接精製可能であり、又はこれをエンコードする遺伝子を、前記タンパク質を発現する別の宿主にクローン化することができる。かかる宿主の好例として、実験パートで記載するように大腸菌(Escherichia coli)(E.coli)が挙げられる。タンパク質の入手方法は、調製物の純度が本明細書に規定する通りである限り本発明の具体的な方法に限定されない。前記タンパク質を入手するために、病原体を前段のように適する条件下で培養する。宿主細胞の場合、誘発剤を添加することにより前記タンパク質の発現を誘発することができる。好ましくは、大腸菌の場合、IPTGが誘発剤として用いられる。前記タンパク質が細胞内で発現する場合には、前記病原体又は宿主細胞は当業者に公知の界面活性剤を用いて培養の最後に溶解される。次いで、前記タンパク質を含む細胞質内細胞抽出物が調製される。次に、前記タンパク質は前記細胞質抽出物から精製される。大腸菌の場合、前記タンパク質は封入体中に存在し得る。封入体中に存在するタンパク質の精製は、当業者にとって公知であり、実施例に記載するように実施可能である。次に、タンパク質調製物は、PBS等の生理的バッファー内で濃縮若しくは稀釈可能であり、又は適する、好ましくは0.3〜2.5mg/mlの間のタンパク質濃度を有するタンパク質調製物を得るために更に精製可能である。
【0093】
別の好ましい実施形態では、混合物は細胞のコンパートメントに由来し、又は細胞、好ましくは病原細胞のコンパートメントを含む。病原細胞は、本明細書ですでに定義されている。好ましいコンパートメントは小胞であり、より好ましくは髄膜炎菌(Neisseiria meningitidis)に由来する外膜小胞(OMV)である。病原体由来の小胞が病原体の免疫原性の本体としてすでに公知で、且つ同定する必要のある新規で、進化した、又は支配的なエピトープである場合には、この種の混合物が一般的に用いられる。細胞のコンパートメントは、好ましくは、前段記載のタンパク質について説明したものと同様の精製されたコンパートメント調製物内に存在する。精製されたコンパートメント調製物は、好ましくは、前記調製物は、かかる調製物内に存在することが公知である1つの代表的なタンパク質について少なくとも5%を含む、又はこれから構成されることを意味する。前記調製物は、好ましくは、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも85%、少なくとも90%、又は少なくとも95%、又は少なくとも98%、又は少なくとも99%(w/w)を含み、又はこれから構成される。髄膜炎菌に由来するOMVに存在する代表的なタンパク質の例として、外膜タンパク質、ポーリンA(PorA)が挙げられる。コンパートメントは、好ましくは病原体から直接的に精製される。コンパートメントの入手方法は、前記コンパートメントを含む調製物の必要純度が満たされる限り、本発明の特定の方法に限定されない。前記コンパートメント調製物を得るために、病原体は上記直前2段に記載するような、適する条件下で培養される。選択したコンパートメントの同一性に基づき、培養病原細胞からこれを単離する方法、及び任意選択によりこれを精製する方法について、当業者は理解している。OMVを含む調製物の好ましい調製方法は実施例に記載されている。次に、当該コンパートメント調製物は、コンパートメントを代表するタンパク質について好適な濃度を有する精製されたコンパートメント調製物が得られるように、PBS等の生理的バッファー中で濃縮又は稀釈可能、又は更に精製可能である。例えば、前記コンパートメントとして、髄膜炎菌に由来するOMVを使用する場合には、当該精製されたコンパートメントは、好ましくは、主要な代表的外膜タンパク質、ポーリンA(PorA)を1.2〜2.4mg/mlの範囲で含む必要がある。
【0094】
MHCクラスIIエピトープ生成源を含むその他の任意の混合物が本発明で利用可能である。好ましくは、かかる生成源はタンパク質生成源である。ウイルス性エピトープの生成源を含む混合物も利用可能である。好ましいウイルスは本明細書で後ほど定義される。ウイルス性エピトープの生成源を含む混合物は、好ましくはウイルス性タンパク質を含む混合物であり、又は同タンパク質に由来し、又はウイルス性タンパク質の生成源、好ましくは複製型ウイルス性生物である。CD4+T細胞を誘発するウイルス関連MHCクラスIIエピトープを同定する必要がある場合には、かかる好ましい実施形態は通常魅力的である。
【0095】
MHCクラスIIエピトープの生成源を含む混合物を調製するのと並行して、選択された病原体の標的となり得ることが公知の哺乳動物由来のAPCを含む調製物も調製される。好ましくは、APCはヒトから得られる。ヒトからAPCを単離する方法は当業者にとって公知である。これは、通常、ヒト全血の勾配遠心分離技術、好ましくは白血球アフェレーシスのバッフィーコート(leukapheresis buffy coat)の勾配遠心分離を利用することにより実施される。APCの同一性は、好ましくは、APCマーカーに特異的な特異抗体を用いるフローサイトメトリーによりチェックされる。使用される好ましいAPCはヒトDC、より好ましくは実験パートに記載するヒト単球由来樹状細胞(MDDC)である。実験デザインに応じて、特定のHLAバックグラウンドに由来するAPCを使用することを選択することができる。例えば、HLA−DR1バックグラウンドに由来するAPCを使用する場合、この条件で特異的に提示されるエピトープを同定することとなる。また、数種類のバックグラウンドに関連して提示され得るエピトープを同定するために、異なる複数のHLAバックグラウンドから得られたAPCを並行して使用することも選択可能である。APCとしてその他の細胞型、好ましくは、Bリンパ球、単球、マクロファージ、及びMDDC以外の樹状細胞の系統等の、免疫系由来のプロフェッショナルAPCを使用することも可能である。また、前記細胞の抗原処理及び提示バックグラウンドに関連して特異的に生成している、又は疾患状態に関連するエピトープ(単数又は複数)を同定するために、その他の哺乳動物細胞型もAPCとして利用可能である。この場合、次にAPCは、好ましくは適する培地内で数日間(約4〜6日間)培養されるが、同培地は栄養剤を補給することができる。培養の最後に、1つのエピトープ又は複数のエピトープ(全細胞、又はタンパク質、又は細胞のコンパートメント)からなる等量の14N−及び15N−源を含む1:1混合物が、APCと共に1〜2日間、適する培地内で培養されるが、同培地は更に補給可能である。補給物はアジュバンドであり得る。好ましいアジュバンドはLPS(リポ多糖類)である。より好ましくは、LPSはウマ流産菌(S.abortis equi)に由来する。これは、いわゆる抗原パルス実験である。インキュベーションの最後に、APCを捕集、洗浄、及び計測する。かかるAPCは、更なるエピトープ分析を実施する前に凍結可能である。
【0096】
APCが凍結されている場合には、分析を実施する際にAPC細胞は解凍される。その後、MHCクラスII分子を可溶化するために、公知の技法に基づきAPCは溶解される。好ましい溶解バッファーは、実施例で記載するように1%CHAPSを含み、緩衝化され、及びプロテアーゼインヒビターが補給されている。遠心分離後に得られた上清は、その後、1つのエピトープ又は複数のエピトープを含む溶出組成物を得るために、実施例に記載するようにいくつかのCNBr活性化トリスブロック化セファロースカラム上で精製可能である。当該溶出組成物はメンブレンろ過により更に精製可能であり、当該溶出組成物中に存在する各エピトープを同定するために、本発明のデバイスにダウンロードされる適する組成物中又はサンプル中で濃縮及び再構成可能である。
【0097】
本発明のデバイスに、適する組成物又はサンプルをダウンロードし、及び得られた結果を分析してMHCクラスIIエピトープを同定する際には、これは当業者に公知の技法に基づき実施され、同技法については実施例で説明した。
【0098】
かかるアプローチにより、哺乳動物のある種の病原体のMHCクラスIIエピトープについて、おそらくはその全てが同定可能となる。また、同アプローチは、所定のMHCクラスIIエピトープの相対的な量についても洞察をもたらす。また、これは、エピトープのその他の特徴についても洞察をもたらすが、かかる特徴としては、溶出組成物に含まれる複数の長さ変異体の存在が反映されるエピトープの長さの変化、並びにエピトープの翻訳後修飾(PTM)、又はある種のHLAの状況において提示物上に現れるタンパク質多型又はエピトープ多型(髄膜炎菌の領域4に関する実施例で広範囲に示すように)の役割が挙げられる。かかる技法は強力で、機能的ワクチンの開発に必要となる。
【0099】
同定されたエピトープとその使用
更なる別の態様では、本発明は、本明細書に記載する任意の方法を用いて取得可能なエピトープを提供する。好ましいエピトープは、すでに本明細書において特定されている(実験データ中の表1〜8、配列番号1〜153を参照)。実施例で特定される各配列番号は、同定済みのエピトープを表している。カッコ内に特定される各同定済みのエピトープに隣接する残基は、好ましくはエピトープの一部として考慮されない。好ましくは、各配列番号では、本明細書に示すようなあらゆるPTMが考慮されている。
【0100】
麻疹ウイルスに由来する好ましいエピトープは、表1及び表2で特定され、配列番号1〜45からなる群より選択される。より好ましいエピトープは、配列番号7〜45からなる群より選択され、任意選択により、配列番号1〜6のうちの少なくとも1つと組み合わされる。
【0101】
インフルエンザウイルス感染に関連する好ましいエピトープは、表3で特定され、配列番号46〜49、及び配列番号52〜58からなる群より選択される。
【0102】
百日咳菌(B.pertussis)に由来するエピトープは、表4及び表5で特定され、配列番号59〜72からなる群より選択される。
【0103】
髄膜炎菌由来の好ましいエピトープは、表6、表7、及び表8で特定され、配列番号73〜153からなる群より選択される。好ましいエピトープはPorAタンパク質、すなわちポーリンAの血清亜型P1.5−2,10又はポーリンAの血清亜型P1.7−2,4のいずれかに由来する。PorAタンパク質は、8つの領域に再分割可能である(表6を参照):
−領域1はPorAタンパク質、好ましくはポーリンA血清亜型P1.5−2,10又はポーリンA血清亜型P1.7−2,4の最初の20個のアミノ酸に関連する。
−領域2はアミノ酸39〜59に対応、
−領域3はアミノ酸91〜111に対応、
−領域4はアミノ酸131〜168に対応、
−領域5はアミノ酸191〜224に対応、
−領域6はアミノ酸292〜306に対応、
−領域7はアミノ酸318〜349に対応、
−領域8はアミノ酸349〜372に対応する。
【0104】
好ましい実施形態では、1つ又は複数のPorAエピトープは下記のように使用される:任意選択により領域1、及び/又は領域2、及び/又は領域3、及び/又は領域7、及び/又は領域8に含まれるPorAエピトープと組み合わせて、領域4に含まれるPorAエピトープ、及び/又は領域5に含まれるPorAエピトープ、及び/又は領域6に含まれるPorAエピトープ。各領域に含まれる好ましいエピトープは、表6に示されている:
−領域1に含まれる好ましいエピトープは、配列番号73〜76で表され、
−領域2に含まれる好ましいエピトープは、配列番号77〜79で表され、
−領域3に含まれる好ましいエピトープは、配列番号80〜91で表され、
−領域4に含まれる好ましいエピトープは、配列番号92〜95で表され、
−領域5に含まれる好ましいエピトープは、配列番号96〜99で表され、
−領域6に含まれる好ましいエピトープは、配列番号100で表され、
−領域7に含まれる好ましいエピトープは、配列番号101で表され、
−領域8に含まれる好ましいエピトープは、配列番号102〜110で表される。
【0105】
より好ましい実施形態では、PorAエピトープは、任意選択によりその他の同定済みのPorAエピトープの少なくとも1つと併用して、配列番号92〜95からなる群より選択される。
【0106】
表7は、その他(非PorA)のタンパク質から同定された髄膜炎菌由来エピトープを特定し、配列番号111〜134で表される。したがって、好ましい実施形態では、髄膜炎菌由来エピトープは配列番号111〜134からなる群より選択される。
【0107】
より好ましい実施形態では、上記で特定されたPorAエピトープは、表7で特定された別のタンパク質から同定された髄膜炎菌由来エピトープと併用される。最も好ましくは、PorAエピトープは、配列番号111〜134の少なくとも1つと組み合わせて、配列番号92〜95からなる群より選択される。
【0108】
表8は、PorA及び非PorAタンパク質から同定された髄膜炎菌由来エピトープを特定し、配列番号135〜153で表される。したがって、好ましい実施形態では、髄膜炎菌由来エピトープは配列番号135〜153からなる群より選択される。
【0109】
より好ましい実施形態では、上記で特定された髄膜炎菌エピトープは、表8の髄膜炎菌由来エピトープと併用される。最も好ましくは、PorAエピトープは、配列番号135〜153の少なくとも1つと組み合わせて、配列番号92〜95からなる群より選択される。
【0110】
表3、4、及び5に示す各エピトープ、並びに表2、6、7、及び8に示すその他のエピトープの主要部分は新規と考えられ、本発明のLCMSデバイスの独自性を高める。
【0111】
かかるエピトープのいずれも、これが起因又は由来するところの病原体又はウイルスに対するワクチンに組み込まれる候補である。したがって、本発明は、かかるエピトープを担持する病原体により引き起こされる疾患を予防及び/又は治療するためのワクチンの製造に用いられる、本明細書に特定するエピトープを含む組成物にも関する。本発明には、1病原体について本明細書で特定する1、2、3、4、5、6、7、8、9、又はこれ以上のエピトープを含む組成物が含まれると理解される。任意選択により、公知のエピトープは、本明細書で特定するエピトープと併用可能である。
【0112】
本明細書で定義するように、エピトープはある長さを有することにより同定される。前記エピトープを含む組成物は、好ましくはある長さに限定されない。前記組成物は、本明細書で定義する病原体に由来するペプチドを含むことができ、前記ペプチドは、好ましくはPTMを含む天然の処理及び提示を経た同定済みの特徴を有する、同定済みのエピトープを含む。また、組成物は、コア配列として同定済みのエピトープを含むポリペプチドであって、且つin vivo投与後の前記エピトープの提示に有利なアミノ酸配列が隣接したポリペプチドも含み得る。また、組成物は、複数の同定済みのエピトープ、及び隣接配列を含むポリペプチドも含み得る。しかし、かかる組成物によるin vivo送達後のエピトープは、MHCクラスIエピトープについて8〜12個の範囲内のアミノ酸を、又はMHCクラスIIエピトープについては11〜34個の、好ましくは14〜16個の範囲内のアミノ酸が含まれる長さを有するのが好ましい。前記アミノ酸配列は、好ましくは本明細書で定義する病原体により発現されたタンパク質に全体的又は部分的に由来する。したがって、好ましい実施形態では、本明細書で特定するエピトープを含むペプチドは、組成物内でワクチンとして用いられる。MHCクラスIエピトープを含むペプチドは、8〜20個の範囲の、又はそれ以上のアミノ酸からなる長さを有し得る。MHCクラスIIエピトープを含むペプチドは、8〜40個の範囲の、又はそれ以上のアミノ酸からなる長さを有し得る。MHCクラスI又はIIエピトープを含む前記ペプチドは、エピトープ、及び天然の病原体タンパク質に由来する付加的な隣接配列、又は天然の病原体タンパク質に由来しない付加的な隣接配列を含み得る。
【0113】
したがって、ペプチドは、同定済みのペプチドから構成され、同定済みのエピトープを含み、複数の同定済みのエピトープを含み、又は本明細書で特定するエピトープ配列の1つと、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%、若しくは100%の一致性を有するアミノ酸配列を有することができ、また好ましくは、かかるペプチドは、本明細書で特定する病原体に由来する天然のアミノ酸配列ではない。好ましくは、ペプチドは同定済みの配列の1つに対する同ペプチドの一致性によって定義され、また本明細書ですでに特定した長さを有する。同一性は、一致したアミノ酸の数が最も多くなるように両配列を並べた後に、2つの配列間で一致したアミノ酸の数を定義することにより計算される。
【0114】
本明細書で特定したエピトープを含む組成物は下記事項を意味し得ること、すなわちある病原体について1つ又は複数のエピトープが本明細書ですでに特定される場合には、当該病原体の天然タンパク質がワクチンとして用いられるということを意味し得ることも本発明に更に含まれる。これは、好ましくは、病原体の新しい天然タンパク質が、少なくとも1つのエピトープを有するものとして本明細書で特定された場合である。或いは、前記天然タンパク質の一部を利用することもできる。本発明に関連して、「一部」とは、前記成熟タンパク質配列のアミノ酸数の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は100%を意味する。実験データでは(表2、4−8−)、いくつかの病原体固有のタンパク質が同定された。かかる表、又はその一部で特定する各タンパク質は、関連病原体に対するワクチンとして組成物内で利用可能である。
【0115】
本発明で用いられる前記組成物の(ポリ)ペプチドは、容易に合成可能である。別の組成物は、1つ又は複数の同定済みエピトープをその最適な形態で含むポリペプチドに関する遺伝子(DNA)コードを含み得る。当技術分野では、現在、前記(ポリ)ペプチド又は前記DNAを生成する多くの方法が知られている。
【0116】
したがって、本発明は、本明細書ですでに定義した本発明のエピトープを含む組成物に更に関する。前記組成物は好ましくは医薬組成物であり、好ましくはワクチンとして用いられる。ワクチンは、哺乳動物の予防接種(免疫反応を高める)又はワクチン接種で利用可能である。組成物はアジュバンドを更に含み得る。アジュバンドとは、哺乳動物、好ましくはヒトを免疫するようにエピトープと組み合わせて用いたときに免疫系を刺激し、これにより、好ましくはアジュバンドそれ自身に対する特異的な免疫反応を引き起こすことなく、前記エピトープに対する免疫反応を誘発し、強化し、及び促進するあらゆる物質又は化合物を含めるように定義される。好ましいアジュバンドは、同一条件下にあるがアジュバンドが存在しない前記エピトープに対して引き起こされる免疫反応に比較して、対象エピトープに対する免疫反応を少なくとも1.5、2、2.5、5、10、又は20倍増強する。動物又はヒトの群においてアジュバンドにより生み出される対象エピトープに対する免疫反応について、関連する対照群と比較した統計平均増強効果を決定するための試験法を、当技術分野で利用することができる。アジュバンドは、好ましくは少なくとも2つの異なるエピトープに対する免疫反応を強化する能力を有する。本発明のアジュバンドは、通常、哺乳動物にとって外来の化合物であり、これにより哺乳動物にとって内因性の免疫刺激性化合物、例えばインターロイキン、インターフェロン、及びその他のホルモン等を排除する。
【0117】
更に好ましい実施形態では、医薬組成物は、薬学的に許容される担体を更に含む。当該医薬組成物は、薬学的に許容される安定化剤、浸透圧剤、緩衝剤、分散剤等を更に含む。医薬組成物の好ましい形態は、意図する投与様式、及び治療用途に依存する。医薬担体は、活性成分、すなわちエピトープ及び任意選択によりアジュバンドを患者に送達するのに適した、適合性のある、無毒のあらゆる物質であり得る。鼻腔内送達用の薬学的に許容される担体として、水、緩衝化生理食塩水、グリセリン、ポリソルベート20、クレモフォール(cremophor)EL、及び(カプリル/カプリン酸)グリセリルの水性混合物が挙げられ、また中性pH環境を提供するように緩衝化され得る。非経口送達用の薬学的に許容される担体として、滅菌緩衝化された0.9%NaCl又は5%グルコースが挙げられ、任意選択により20%アルブミンが補給される。非経口投与用の調製物は滅菌状態でなければならない。活性成分を投与するための非経口経路は、公知の方法、例えば皮下、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、又は病変内、鼻腔内、皮膚内又は口腔経路による注射又は輸液に基づく。本発明の組成物は、好ましくはボーラス注射により投与される。筋肉内注射用の代表的な医薬組成物は、例えばリン酸緩衝化生理食塩水を1〜10ml、及び本発明のエピトープを1〜100μg、好ましくは15〜45μg含むように調製される。経口投与の場合、活性成分は液状の投薬形態、例えばエリキシル剤、シロップ剤、及び懸濁剤等の状態で投与可能である。経口投与用の液状の投薬形態は、患者許容性を高めるように着色剤及び香味料を含むことができる。非経口、経口、又は鼻腔内投与可能な組成物の調製方法は、当技術分野で周知であり、様々な情報源、例えばRemington’s Pharmaceutical Science(第15版、Mack Publishing、Easton、PA、1980年)等においてより詳細に記載されている(全ての目的のためにこれらをそのまま参考として援用する)。
【0118】
本発明のエピトープのその他の利用
更なる態様では、哺乳動物の免疫状態を評価するために、本発明のエピトープを更に利用できるようにする。かかる態様では、病原体のエピトープを含む混合物は、当業者にとって公知の技術を用いて、前記哺乳動物に由来するAPC又はT細胞と共にin vitroでインキュベーション可能である。哺乳動物の免疫状態を評価するということは、好ましくは、前記哺乳動物がすでに対象病原体に感染しているかどうか、又は投与したワクチンによって、前記哺乳動物が前記病原体に将来的に感染してもなおもこれが保護されるかどうかを評価することを意味する。好ましくは、エピトープは本明細書に記載する任意の方法を用いて取得可能である。好ましいエピトープ、及び好ましい前記エピトープを含む組成物は、本明細書においてすでに定義されている。前記T細胞の活性化、又はAPCと関連したエピトープの処理及び認識が検出された場合、それは前記哺乳動物が前記病原体からなおも保護されていることを示すと考えられる。T細胞の活性化は前記エピトープに対して特異的に関連するが、かかる活性化は増殖アッセイで評価可能、又はかかるT細胞により産生されたサイトカイン又はその他のエフェクター分子の増加により評価可能である。かかるそれぞれの方法は、当業者にとって公知である。前記利用は、in vitro「防御相関(Correlates of Protection(CoP))」とも呼ばれている。
【0119】
本文書で、及びその特許請求の範囲では、動詞「含む」及びその活用形は、当該単語に続く事項が含まれ、但し、特に記載されない事項でも排除されないことを意味する非限定的な意味合いで用いられる。更に、動詞「構成される」は、「から実質的に構成される」と置き換えることが可能で、本明細書で定義する生成物又は組成物は、具体的に特定されたもの以外の追加の成分(単数又は複数)、本発明の固有の特徴を変化させない前記追加の成分(単数又は複数)も含み得ることを意味する。更に、不定冠詞「a」又は「an」で引用する要素は、文脈から明らかに1つしか存在せず、たった1つの要素である必要がない限り、2つ以上の要素が存在する可能性を排除するものではない。したがって、不定冠詞「a」又は「an」は、通常「少なくとも1つの」を意味する。
【0120】
本明細書で引用する全ての特許及び文献資料は、これらをそのまま本明細書により参考として援用する。
【0121】
下記実施例は例示目的に限定して提供され、決して本発明の範囲を限定しようとするものではない。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】第1の実施形態におけるLCMS装置の線図である。
【図2】第2の実施形態におけるLCMS装置内の、エレクトロスプレーするためのエミッター、及び同エミッターがエレクトロスプレーと併用して用いられる分析カラムに取り付けられた状態を示す断面図である。
【図3a】第2の実施形態に基づくチップを作製する方法を概略的に示した図である。
【図3b】第2の実施形態に基づくチップを作製する方法を概略的に示した図である。
【図3c】第2の実施形態に基づくチップを作製する方法を概略的に示した図である。
【図3d】第2の実施形態に基づくチップを作製する方法を概略的に示した図である。
【図4】第3の実施形態に基づく接続要素を示す断面図である。
【図5】分析カラムを充填する方法における1ステップを示す断面図である。
【図6】分析カラムを充填する方法における第2のステップを示す図である。
【図7】第7の実施形態におけるトラッピングカラムを示す概略図である。
【図8】MHCクラスI又はMHCクラスII分子により提示されたT細胞エピトープのアロケーションに関する質量分析認識パターンを表す概略図である。
【図9】複合サンプル分析で用いられるLCMS技術において、いくつかの改良を組み合わせて利用した図である。
【図10】複合サンプル分析で用いられる高品質ナノスケールLC技術の結果を示す図である。
【図11】ヒトMDDCに由来するMHCリガンドームのLCMS分析結果を示す図である。
【図12】ウイルス関連上方制御MHCクラスI自己エピトープについて、安定同位体標識ガイディングLCMS同定法を利用した結果を示す図である。
【図13】複合した病原体の全細胞調製物に由来する病原体由来MHCクラスIIリガンドについて、安定同位体ガイディングLCMS同定法を利用した結果を示す図である。
【図14】単一の組換え技術により発現したタンパク質に由来する病原体由来MHCクラスIIリガンドについて、安定同位体ガイディングLCMS同定法を利用した結果を示す図である。
【図15】細菌性膜調製物に由来する病原体由来MHCクラスIIリガンドについて、安定同位体ガイディングLCMS同定法を利用した結果を示す図である。
【図16】予期しないPTMを伴ったMHCクラスIIエピトープの同定を可能にする安定同位体の利用結果を示す図である。
【図17】ヒトMB71.5T細胞によるP1.5−2,10及びP1.7−2,4「領域4」エピトープの差示的認識を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0123】
図1〜7の詳細説明
図1はLCMS装置1の図を概略的に示している。左手には注入バルブ2が概略的に示されている。バルブ2はポンプ、好ましくは混合ポンプと連結した供給部3と連結可能である。当該バルブは注入ループ5を備えるループ4にも連結される。当該注入バルブは、排出部6及び同7、及び次のバルブ、より具体的には図1の右手に概略的に示すいわゆるディーンズバルブ10と連結した出口8に更に連結可能である。当該バルブは、フローの一部が出口8に分岐して流入可能な構造である。
【0124】
ディーンズバルブ10は、カラムフローを切り替え、分岐させ、及び方向決定して分析カラム11、及び最終的に質量分析器12に導くために用いられる。ディーンズバルブは、単純な6ポート切り替えバルブを用いて遠隔操作で分岐を行う。カラムヘッド圧力は、レストリクター13の寸法により生み出される。ディーンズバルブは、プラグ14、15、及び排出部16、17と更に連結する。
【0125】
1つの実施形態では、LCMSデバイスは、ナノスケールポンプ構成部を備える。ポンプ構成部はポンプを備え、連続的に変化する二成分系溶媒についてnl/分の範囲内の流速を実現することができる。別の実施形態では、従来型の高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)ポンプが用いられる。
【0126】
ポンプ、好ましくはHPLCポンプ又は二元若しくは四元ポンプは下記能力を有する必要がある:
(i)所定のカラム流速、又は正確なグラジエントフロー(少なくとも2種類の溶媒を正確、且つ十分定義された比で混合する)において、リニアグラジエント及び非遅延グラジエントを実現する。
(ii)固相抽出トラップは、(全体的な)分離効率に悪影響を与えてはならない;及び
(iii)ESIインターフェースでのピークのブロード化が生じない、又は最小限に抑えられる必要がある。ポンプのホールドアップ体積(Vm)と比較して低すぎる流速(F)でポンプを稼働すると、非リニアグラジエント及び遅延グラジエントの原因となるおそれがある。
【0127】
1つの実施形態では、ナノスケールLCポンプが、本発明に基づくLCMSデバイスで用いられる。しかし、かかるポンプは高価であり、また非常に低い流速、すなわち30nl/分未満では正確且つ安定なグラジエントを生み出すことができない。
【0128】
1つの実施形態では、ポンプ構成部はポンプ、好ましくはHPLCポンプを備えるが、同ポンプは、混合溶媒系の所望の低流速を非常に正確に生み出す便利な方法として、フロー分岐デバイスと併用される。当該システムは、いわゆる割り込みガスクロマトグラフィーのためにこれまでに開発された遠隔方式切り替え機構に基づき、ディーンズ切り替えと呼ばれる。カラムフローの分岐及び方向決定は、1つの実施形態では、6ポート切り替えバルブ(ディーンズバルブと呼ばれる)を用いて遠隔方式で行われる。所望のカラムヘッド圧力は、トラッピングカラム上流に位置するレストリクターの寸法(長さ、内径)、及びポンプの1次出口流速に起因する。レストリクター及び後続する下流カラムを連結するためにT−コネクターを使用することも可能である。
【0129】
ナノスケールHPLCシステムは、溶媒減圧脱気装置、溶媒混合ポンプ、好ましくは四元混合ポンプ、より好ましくは高圧混合二元ポンプ、少なくとも10μlのサンプルボリュームを注入可能なオートサンプラーを備える。好ましくは全ての接続用チューブは105μm未満、好ましくは55μm、及びより好ましくは30μm未満の内径を有する。チューブは不活性化処理されていない溶融シリカからなる。
【0130】
ディーンズバルブ10のうち、分岐及び方向決定システム部分は、2つの3方コネクター20及び21の中間に位置するトラッピングカラム19である。トラッピングカラムは、最大5μmのサイズを有する粒子を含む固定相ベッドを備え、また前記固定相ベッドの長さは、5mm、好ましくは少なくとも10mm、及びより好ましくは少なくとも20mmであり、内径は約50μmである。
【0131】
1つの実施形態では、LCMSデバイスは、分析カラム11の上流に固相抽出物(SPE)トラッピングカラム、又はトラッピングカラム19を備える。トラッピングカラムは、ディーンズバルブ10と並行して配置可能であり、文献よりベント付きカラム又はV−カラムとしても公知のシステムである(Lickliderら、2002年)。トラッピングカラムは、比較的大きなサンプルボリュームをナノスケールLCカラム内に比較的速くローディング(移送)することができる。トラッピングカラム19の内径は、分析カラム又は分離カラム11の内径と釣り合っている必要がある。
【0132】
内径(ID)の大きなトラッピングカラム19を使用すると、移動相の線速度は最適値の約1mm/秒よりもはるかに落ち込むことから、トラッピングされた化合物が移動するとき、分析カラム11上で比較的ブロードなバンドを引き起こす。トラッピングカラム19内の移動相の線速度は、カラム/トラップID比の二乗に比例する、又は線速度1mm/秒で稼働する50μmIDの分析カラム11と併用した、300μmID、及び100μmIDのトラッピングカラム19の場合、それぞれ0.03及び0.25mm/秒となる。更に、トラッピングカラム19のIDが大きいと、トラッピングカラム19及び接続チューブのボイドボリュームは、溶出プロセスが開始可能となる前にカラムを通過してしまう必要があるので、顕著な遅延の原因となる。
【0133】
1つの実施形態では、分析カラム11は最大3μmのサイズの粒子を含む固定相ベッドを備えることができ、前記固定相ベッドの長さは25cm、好ましくは少なくとも50cm、及びより好ましくは少なくとも95cmであり、また内径は約25μmである。かかるカラムの末端部は、導電性ナノスプレーチップ又はエミッターと突合せ接続しており、その例を図2(約25μmの内径を有し、先細りのチップ末端部近傍の内径が3.5μmまで細くなった溶融シリカチューブを備える)に示すが、ここでは本発明に基づく金−カーボンコーティング物を有する。かかる分析カラム11を備えたLCMS装置は、約30nl/分の流速で稼働することができる。ペプチドサンプルを分析する前に、クロマトグラフィーシステムを確認することが特に推奨される。
【0134】
1つの実施形態ではタンデム型の質量分析器12が用いられる。当該質量分析器は少なくとも10,000FWHMの質量解像度で稼働することができる。質量スペクトルは、スキャン速度が少なくとも0.9秒/スキャンのプロフィール連続モードで取得される必要がある。質量決定精度は百万分の100以上である必要がある。
【0135】
サンプル成分は、分析対象物のいくつかの物理的、化学的、又はその他の固有の特性、例えば分子サイズ、極性、電荷等に基づき分離され得る。いくつかの実施形態では、いくつかの方法(数種類のクロマトグラフィー)が、例えば分子篩クロマトグラフィー、イオン相互作用、又はイオン交換クロマトグラフィー、特異的分子相互作用(例えば、抗体−抗原)等による方法が組み合わされる。また、数種類のかかるクロマトグラフィー法が、サンプルを分画するために利用可能である。
【0136】
第2次元として用いられる逆相クロマトグラフィーと直交関係にあるSCXクロマトグラフィーを第1次元として採用すると、分離効率が顕著に向上する。2−次元LCMS(2D−LC/MS)の最高性能は、オフラインモードで操作する場合に得られるが、それは当該操作は、両分離システムを独立に最適化する際に、最大の自由度をもたらし、また同操作は分離効率に関するあらゆる障害を排除するためである。SCXクロマトグラフィーも、ペプチドサンプル中になおも存在し得る、またペプチドの溶出期間中に妨害する可能性の有るあらゆる残留界面活性剤、又はバッファー成分を除去するのに重要である。かかる化合物はボイドボリュームにおいてSCXカラムから溶出し得るので、したがって一般的にペプチドを含まない最初の分画に現れる。
【0137】
LCカラムの分離効率は、1回の操作で分離可能な成分の数(すなわちピーク容量)で表すことができる。カラム分離効率は、カラム長(L)と段高さ(H)との商である。
【0138】
Van Deemter(Van Deemterら、1956年)によれば、理論的な段高さ(H)は、固定相粒子の粒子サイズ(dp)に比例的に依存する。段数の別のパラメーターは、移動層の流速であり、これは最適な線速度(約1mm/秒)を有する一次関数と双曲線関数との複合関数である。1つの実施形態では、カラムヘッド圧力は、移動相がほぼこの値の線速度を有するように制御される。
【0139】
LCMS装置は当業者にとって公知であり、同者は非常に多くの代替装置も可能であるという事実に精通している。図1に示す装置は、非常に多くの候補装置がある中の1例に過ぎない。
【0140】
図2は、概略的に示すエレクトロスプレーイオン化ユニット500の一部であるエミッター30のチップを表している。点線で示すユニット500は、502を介してエミッター30と接続されている、特にコーティング物と接続されている電流源501を備える。
【0141】
エミッター30は、コネクター32を用いて分析カラム31の末端部に接続されている。コネクター32は概略的にしか表されていない。図2は、カラム31の末端部33に接続されたエミッター30の断面図を表す。特定の実施形態では、エミッター30及びカラム末端部33の間の接続は、突合せ接続である。更なる実施形態では、カラム及びチップの間で好適な突合せ接続を可能にするように、カラム31の遠位末端部33、及びエミッター30の近位末端部34を作製するためにダイアモンドカッターが用いられる。カラム31の外径36は、好ましくは200〜800μmの範囲である。チューブは溶融シリカを含み得る。溶融シリカチューブでは、内部空孔37は、好ましくは約10μm〜約200μm、より好ましくは15μm〜50μmの範囲の内径38を有するように形成される。
【0142】
エミッター30は、カラム末端部33と接続される近位末端部34、及び先細りの形状を有する遠位末端部39を備える。先細りの末端部39は、細くなった外径と細くなった内径の両方を有する。
【0143】
図3a〜3dでは、提示されるエミッター30のチップを作製する方法の例を示す。第1ステップでは、図3aに示すように、溶融シリカチューブ43のコーティング物42が、例えばブタントーチ44を用いて(少なくとも部分的に)除去される。次のステップでは、溶融シリカ43の加熱された末端部46は(図3bに概略的に示す手段により)、45の方向に引っ張られ、エミッター30は前記方向に延長又は伸長される。チューブは互いに圧迫され、内部空孔は細くなり、最終的に閉鎖される。次に、溶融シリカチューブは、その外部表面にコーティング物47が設けられ、電流が流れ、そしてその先細りの末端部46に達するようにして、エレクトロスプレー操作を可能にする。チップの先細り末端部46近傍のチップ内径41は、好ましくは約2〜30μm、より好ましくは3〜10μmの範囲である。内径が小さくなるほど、その後の質量分析感度を更に向上させる。
【0144】
図3cでは、すでに記載したチップ上へのコーティング物の塗布を表している。1つの実施形態では、金等の貴金属を含む第1のコーティング物がチップ46上に塗布される。しかし、金コーティング物はエレクトロスプレー中に劣化し、長期間持続した導電性を提供することができないことが判明している。二者択一的に、又は付加的に、カーボンベースの導電性コーティング物がチップ46上に塗布される。かかるコーティング物は、スプレープロセスによりチップ上に塗布可能である。1つの実施形態では、カーボンはエアゾール沈着法又は蒸着法を用いて沈着される。カーボン粒子はイソプロパノール中で懸濁可能である。
【0145】
本発明に基づく1つの実施形態では、コーティング物を塗布するステップは1回又は1回よりも多く繰返すことができる。1つの実施形態では、複数のコーティング物が互いに重なり合って塗布される。
【0146】
好ましくは、コーティング物を組み合わせたものが、チップをコーティングするために用いられる。1つの実施形態では、金コーティング物が最初に塗布され、その後にカーボンベースの導電性コーティング物が塗布される。更なる実施形態では、金コーティング物が最初に塗布され、次に当該金コーティング物はカーボンベースの導電性コーティング物の層で被覆される。カーボンベースの導電性コーティング物の層は、Leit−C(商標)カーボン粒子50mgをイソプロパノール1mlに懸濁して調製し、そしてこれをエミッター(すなわちチップ上)にスプレーすることにより塗布される。Leit−C−plast(商標)は、高導電性で永久的な可塑性を備えた接着剤で、Electron Microscopy Sciences(EMS)、Hatford、英国より入手可能である。
【0147】
1つの実施形態では、導電性耐酸化性材料が、チップの先細り末端部にある金コーティング物上の更なるコーティング物として用いられる。1つの実施形態では、カーボンベースの導電性コーティング物が用いられる。
【0148】
別の実施形態では、シリコン合金が用いられる。
【0149】
更なる実施形態では、導電性ポリマーが本発明に基づくコーティング物又は追加のコーティング物として用いられる。
【0150】
追加のコーティング物は金コーティング物に接着可能である。追加のコーティング物は保護を提供する。1つの実施形態では、コーティング物はエミッターの先細り末端部にスプレーされる。別の実施形態では、耐酸化性コーティング物が先細りの末端部に塗布される。イソプロパノール等の適する溶媒がスプレーするために用いられる。別の実施形態では、エミッターの先細り末端部にスプレーされるスラリーは、イソプロパノール1ml中に導電性カーボンセメントを30〜70mg、好ましい実施形態では45〜55mg含む。
【0151】
図3dに示す次のステップでは、エミッター30の閉鎖した末端部48は、カッター49、例えばダイアモンドカッターを用いて取り除かれる。切断することにより、内径が細くなった先細りの末端部39を有するエミッター30が得られる。チューブ43を圧迫する効果とチューブ43の自由末端部において引張り力を加える効果が組み合わされて、内径はスムーズに減少する。
【0152】
1つの実施形態では、溶融シリカチューブ用のコネクターが、トラッピングカラム及び/又は分析カラムの各部分を接続するために用いられる。LCMS装置では、3方コネクター、又はT−コネクターが、カラム又はバルブを接続するために用いられる。先行技術では、Upchurch(登録商標)の3方コネクター(当技術分野ではUpchurch Scientific、Oak Harbor、WAより入手可能なスルーホールユニオンとして公知)が用いられる。好ましくは、外径及び内径を有し、内径が空孔を画定する溶融シリカからなるチューブが、かかるコネクターを用いて接続される。好ましい実施形態では、コネクターはスルーホールコネクターである。
【0153】
1つの実施形態では、LCMSデバイスは、内径25μmのナノスケールカラムを備える。ペプチドを用いる応用形態では、かかるペプチドは、一般的に1ナノリットル以下の容積の濃縮したバンドの状態でかかるカラムを通過する。
【0154】
別の実施形態では、ナノスケールチューブ用のコネクターにはデッドボリュームがなく、これは、好ましくは400bar(すなわち4×104kPa)を超える圧力で用いるのに適する。
【0155】
1つの実施形態では、コネクターは改変されたUpchurchスルーホールT−コネクターである。
【0156】
1つの実施形態では、Tコネクターは少なくとも1つの、おそらくは2つのフェルール、好ましくは3つのフェルールを備える。チューブ、及び特にマイクロキャピラリーナノスケールカラムが、当該フェルールの空孔に受容可能である。こうして、接続要素の内部ボリューム内にチューブを嵌め込むことが可能となる。フェルールの空孔は適するサイズである。フェルールの空孔は、一般的にフェルールの空孔に受容されるチューブの外径と等しい又はこれに近い内径を有するスルーキャビティー(through cavity)である。フェルールの空孔は、挿入されたチューブのチューブ外径と摩擦接触する。
【0157】
コネクターと併用されるフェルールは、チューブの空孔と接続要素の空孔とを一致させるために用いられる。接続要素は、フェルールを固定するための受容用の空孔を備え、当該固定用の空孔とフェルールは共同的に働き、また脱着可能である。接続した状態では、フェルールは、内部空孔が接続要素の内部空孔に適合するようにチューブを配置する。好ましくは、当該接続要素は、2つのフェルール固定用空孔コンビネーションを備える。現在のUpchurch設計では、コネクターの内部ボリュームはデッドボリュームを含む。
【0158】
現在のUpchurch設計では、内部空孔はかなり拡大されている。これは当業者の公知技術とは反対である。
【0159】
図4は、図1に基づく装置1の3方接続要素又は切り替え要素20、21の詳細を示している。当該図の縮尺は一定ではない。より具体的には、ここに示す要素の直径の比は、ここに示す比に限定されない。
【0160】
3方接続要素20は3つのフェルール51〜53を備える。フェルールとは、3方コネクター20の3つの末端部で受容用の空孔と嵌合する本体である。1つの実施形態では、3つのフェルールは異なるサイズを有する。取り付けられるフェルールは、その形状が空孔の形状に本質的に関連するため、当該空孔にセルフアライメントし得る。より具体的には、ここに示す実施形態では、フェルールは、空孔の円錐状の形状に関連して円錐状の形状を有し得る。セルフアライメントすることにより、フェルールの受容用の空孔を接続要素20に関して事前決定された位置に配置できるようにする。
【0161】
フェルール51〜53は空孔を備えることができる。チューブ54〜56の外径、及び当該空孔の内径は、フェルールがいずれのチューブ54〜56をもその空孔内に受容できるように調節されている。
【0162】
フェルール51〜53は、接続した状態で示されており、接続要素20、21の各空孔内に収まっている。キャップ57〜59が設けられるが、当該キャップは、コネクターに当該キャップ57〜59を固定するための固定システム(詳細に示していない)を備え、これによりフェルール51〜53の位置を固定する。1つの実施形態では、固定システムは係止システム、例えばスクリュー状の接続部を備える。固定システムは、接続状態においてフェルール51〜53を固定及びクランプするように構成及び配置されてもよく、その結果チューブ54〜56の外径上にクランプ力がもたらされる。こうしてチューブ54〜56はその各位置で係止される。
【0163】
接続要素20、フェルール51〜53、及びキャップ57〜59は、様々な製造技術を用いて、特に射出成形により製造可能である。
【0164】
チューブ54、56はフェルールに収納された状態にあり、当該フェルールは実質的にアライメントされて接続要素に接続されている。これは、チューブ54、56の内部空孔もやはり実質的にアライメントされていることを意味する。
【0165】
別の実施形態では、接続要素の内部ボリュームは、好ましくはコネクターのT字形本体の内部ボリュームは、チューブを収納するためのフェルールの空孔に一致する。かかる改変された接続要素、好ましくは接続要素の内部本体の一部が掘削により取り除かれたUpchurch要素では、チューブが接続要素の水平方向の2つの各末端部で直線状に配置するのを可能にする接続要素が提供され、当該チューブは、当該接続要素内、すなわちコネクター、好ましくは3方コネクターの内部空孔内で、その末端部を突き合わせた状態で配置可能となる。
【0166】
ここに示す実施形態では、溶融シリカチューブ54、56の末端部60、61は、フェルール51、53が接続状態にあるときに、チューブ54、56は突合せた状態になるのを可能にする直線切削が得られるように、ダイアモンドカッターを用いて切断されている。こうして、接続要素20の本体内にデッドボリュームが生ずるのを防止する。突合せ接続であっても、チューブ54、56内を経由する液体は、突合せ末端部を通って漏出する可能性があり、チューブ55を経由する液の通過を可能にする。
【0167】
別の実施形態では、接続要素はフェルールを接続要素と固定するための固定要素を備える。1つの実施形態では、当該固定デバイスはクランピング手段を備える。1つの実施形態では、フェルールをクランピングすると、その結果フェルール内に収納されているチューブをその位置でクランピングする。当該固定デバイスは、チューブ及びフェルールをその位置で固定するように構成及び配置される。
【0168】
更なる実施形態では、1つのチューブを構成する2つのピースが3方コネクターに接続され、ここでは接続要素の入口側ポート及び出口側ポートが直線状に配置し、そして第3のコネクターはかかる直線に対して垂直に接続されている。当該チューブは突合せ接続位置で配置されるが、但し、第3のコネクターは接続チャンネルを有し、液体クロマトグラフィーで用いられる高圧により、漏出した容積がかかる接続チャンネルに到達可能となるので、かかる突合せ接続は、接続部材の中央部において正確に中心に位置する必要がない。
【0169】
図5及び図6は加圧容器又はボンベ70を表す。ボンベ70はクロマトグラフィー粒子の懸濁物を、好ましくは懸濁したクロマトグラフィー固定相を含むバイアルを収納することができる。
【0170】
1つの実施形態では、チューブは、例えば温度がプログラムされたオーブン内に当該チューブを配置することにより加熱される。好ましくは、プログラムされた温度が用いられる。1つの実施形態では、最初の温度は30℃設定で5分間継続されるが、その後15分間のうちに100℃まで高められ、そしてかかる温度は5時間維持される。次いで、フリット及びチューブは周囲温度まで冷却される。その後、硬化したフリット及び溶融シリカは室温まで冷却される。次に、溶融シリカカッターを用いてセラミックフリットを切り取り、約1〜2mmの長さにする。好ましくは直線切削される。
【0171】
別の実施形態では、カラム充填することによりナノスケールLCカラムが製造され、及び提供される。カラムに充填する方法は、溶融シリカ(FS)チューブ内に粒子保持フリットを作製するステップを含む。当該チューブは所望の長さに切断される。特定の実施形態では、90/10(v/v)の比で、ケイ酸カリウム溶液(本明細書ではKASILとも呼ぶ)とホルムアミドの混合物が提供される。当該混合物は激しく振とうされる。1つの実施形態では、ボルテックス混合が、例えば10秒間用いられる。好ましくは、長さ数cmの当該混合物からなるプラグをチューブ内に吸入させるように、その後速やかに溶融シリカはかかる混合物に短時間(厳密ではなく、例えば1秒間)浸漬される。
【0172】
1つの実施形態では、LC分析カラムを充填するステップは、フリットが設けられた溶融シリカチューブを加圧容器(ボンベ)内に組み込むステップを含む。加圧容器は、所望の粒子からなるスラリーを収納し得る。好ましくは、フェルールがチューブを加圧容器に組み込むために用いられる。好ましくは、本発明の接続部品が、当該チューブを加圧容器に接続するために用いられる。
【0173】
好ましくは、カラム全体を振動させるために振動要素74が用いられる。本発明に基づく方法に関する実施形態では、カラムは、カラムの長さ方向において少なくとも2箇所で振動を受ける。1つの実施形態では、少なくとも2種類の周波数、好ましくは超音波周波数が振動に用いられる。
【0174】
特定の実施形態では、溶融シリカカラムのフリット化された末端部は超音波バス(例えば、Branson 200)中に置かれる。更なる実施形態では、超音波処理は、固相粒子が溶融シリカカラム内に流れ込んだ後に限り実施される。
【0175】
カラムを充填する方法に関する1つの実施形態では、高度に濃縮した(濃厚な)スラリーが用いられる。スラリーの利用は、細く(25μmID)、延長されたカラムに充填するのに最も便利な方法である。
【0176】
1つの実施形態では、スラリーは、アセトン1mlに懸濁した逆相粒子を少なくとも150mg含む。充填時にカラムを通過するアセトンの線速度は、驚くべきことに、イソプロパノールに対して7±1倍に等しい。
【0177】
充填カラムを製造する別の実施形態では、フリット化されたFSチューブは、0.5mmの孔を有するフェルールを経由して加圧容器内の所望の粒子からなるスラリー内に配置(フリットアップ)される。当該フェルールは当該容器に接続される。次に、例えばヘリウムシリンダーに取り付けられた減圧器の二次圧は約50barに調整され、例えばバルブ(例えば、Swagelok SS−41GSX2バルブ)を開くことによりボンベに圧力が加えられる。
【0178】
カラムの準備が整うと、充填物の稠密度が双眼鏡(25×)を用いて目視により検査される。使用する前に、HPLCポンプを用いて250barの圧力で、アセトニトリル/水(85/15、v/v)及び0.1M酢酸によりカラムをフラッシュする。
【0179】
好ましくは、カラムは使用前に試験される。カラムの背圧(bar/cm)をチェックすることができる。カラムのフリット化された末端部にスリーブ(内径0.4mm)を配置する。スリーブ内のメニスカスの変位(mm)を1分間測定する。体積は次式から得られる:
流速(nl/分)=変位(mm)×100(nl/mm)
【0180】
ポンプの圧力を読み取り、カラム全体について標準化された圧力損失(Pb、bar/カラム長、cm)を計算する:
Pb=[時間/体積]×[(ID/50)2×125]×P/L
式中、「時間」は分で表された流量測定時間、「体積」はnlで表された回収体積、「ID」はμmで表されたカラム内径、「P」はbarで表された流量測定中のカラムヘッド圧力、及び「L」はcmで表されたカラム長である。
【0181】
溶融シリカチューブ71が提供され、多孔性のセラミック製フリット72がチューブ71の一方の末端部に形成される。もう一方の末端部は高圧容器70に接続される。高い圧力により、懸濁粒子の一部が空孔内に運ばれる。粒子が空孔内を流れる間、粒子内でボイドボリュームが形成されるのを防止するために、超音波振動要素74を用いてカラム71又は当該カラムの一部を振動させることができる。1つの実施形態では、振動要素74は、カラム内で材料が密集している近傍に配置される。
【0182】
下流で目詰まりが生じた場合には、カラムをスラリーから引き上げ、取り出し(但し、まだ容器の中にある)、そして液をフラッシュして乾燥することができる。次に、FSをスラリー内に戻し、所望のベッド長が得られるまで充填プロセスを再開する。
【0183】
図7は、本発明に基づく実施形態の1つと併用される、2次元液体クロマトグラフィーの応用形態を概略的に示す。第1次元目として、強カチオン交換体(SCX)が、また図解による実施形態ではSCX及び弱アニオン交換(WAX)樹脂からなる混合ベッドが用いられる。アニオン及びカチオン交換粒子からなる混合ベッド、例えばMotoyama(Motoyamaら、2007年)が記載するものが好ましい。第2次元目は、例示のようにC18逆相(RP)クロマトグラフィーであり得る。
【0184】
SCXと逆相クロマトグラフィーとの相性は、特にカチオン性の溶媒、バッファー、又は媒体との併用において乏しい。本発明の実施形態によれば、ギ酸又は塩酸(HCl)等の溶媒81が用いられる。かかる媒体の溶出強度は低いが、特にギ酸は、アニオンカチオン交換(ACE)樹脂に結合した結合ペプチドの回収において高い効率を示す。
【0185】
タンパク質分解されたタンパク質の多次元LCMS/MS分析の1つの実施形態では、SCX分画法が、RP分離法と併用して用いられた。当該分析技術は、分析の分離効率及びダイナミックレンジを向上させるために組み合わされた。1つの実施形態では、第1次元目の分離用としてアニオン交換粒子及びカチオン交換粒子からなる混合ベッドを用いたオンライン多次元LC法が提供される。
【0186】
1つの実施形態では、Motoyama(Motoyamaら、2007年)に基づく混合型イオン交換ベッドが用いられる。
【0187】
LCMSデバイスの1つの実施形態では、サンプルはオンライン方式で分画される。好ましくは、2次元クロマトグラフィーがLCMSデバイス内に構成、配置される。好ましくは、少なくとも1つの分離機構がサンプル成分の疎水特性を利用する。更なる実施形態では、用いられる複数の分離機構のうちの少なくとも1つはSCXであり、これは、好ましくはHLA−DR溶出サンプルの分画に用いられる。
【0188】
1つの実施形態では、直交した分画法が用いられる。1つの好ましい実施形態では、SCX分画法が用いられる。複合された装置では、総分析時間は、一般的に15倍まで容易に増加し得る。SCXの次元は、オンライン方式及びオフライン方式の両方で利用可能である。
【0189】
SCX樹脂は、陰性に強く荷電した基を粒子表面に有する粒子を含み、陽性に荷電した分子との結合を可能にする。SCX樹脂は陽性に荷電したペプチドを保持(維持/結合)する能力を有する。
【0190】
適するカチオン性の塩水溶液の強度を増加させるグラジエント(連続/不連続の)により、樹脂をフラッシングするかかる手段を用いて置換/溶出することにより、通常、結合した分子は遊離/回収される。グラジエントにより、ほんの緩く結合している分子は強く結合している分子よりも速やかに遊離する。こうして、複合サンプルについて所望の分離が実現する。
【0191】
第2次元目は逆相クロマトグラフィーであり得る。1つの実施形態では、第2の分離ステップは、好ましくはC18RPクロマトグラフィーを含む。1つの実施形態では、C18逆相のLCMSデバイスは、混合型のアニオン及びカチオン交換体固相抽出トラッピングカラムを備える。
【0192】
SCX法及びRP分離法間の直交性は、SCXはペプチドを保持するために静電相互作用を利用するという事実に基づく。実際には、SCXでペプチドを分離する際の保持力は、静電相互作用(主)と疎水的相互作用(副)の組合せからなり、後者はスルホニルポリマー骨格の疎水的性質に起因する。かかる「混合モード」特性は、SCXが同一の正味荷電を有する構造的に類似したペプチドを分離できる理由の1つとして認識されている。
【0193】
イオン交換法(IEX)及びRP分離法間の直交性は、静電相互作用及び疎水性に基づく。実際には、IEXでペプチドを分離する際の保持力は、静電相互作用(主)と疎水的相互作用(副)の組合せからなり、後者はシリカ粒子表面性におけるシラノール基との疎水的相互作用に起因する。かかる「混合モード」特性は、IEXが同一の正味荷電を有する構造的に類似したペプチドを分離できる理由の1つとして認識されている。
【0194】
好ましくは、LCMS法は、弱アニオン交換体(Poly WAX LP(商標)、The Nest Group、Inc.45 Valley Road Southborough、MA 01772−1323、本明細書ではWAXとも呼ぶ)を用いて分画するステップを含む。WAX粒子は、好ましい実施形態においては、陽性のカチオン粒子を含む架橋コーティング物の層を含む。より好ましくは、WAX粒子は直鎖状のポリエチレンイミンと架橋したシリカベースの物質を含む。
【0195】
LCMSデバイスは、好ましくは結合ペプチドの回収を可能にする第1次元目としてACE固相抽出カラムを備える。
【0196】
1つの実施形態では、SCXにおけるペプチド溶出は、酢酸アンモニウム等の揮発性の有機塩を用いて実現可能である。酢酸中の酢酸アンモニウムが、ACEカラムからペプチドを分離するのに適する溶媒として提案されてきた。
【0197】
図8は、MHCクラスI又はMHCクラスII分子により提示されたT細胞エピトープのアロケーションに関する質量スペクトル認識パターンの概略図である。
上段:天然アミノ酸残基及び同位体標識アミノ酸残基(感染の際に培地に等モル量存在する)の取込みに起因する質量スペクトル同位体二項分布により、MHCクラスI関連ペプチドを特徴づけている。自己ペプチドの上方制御の程度は、天然エピトープ(m)と1つだけ標識されたエピトープ(m+Δ)のモノアイソトピック質量の強度比に基づき計算可能である。新規に合成されたタンパク質、及び病原体由来タンパク質の場合には、理論的同位体パターンは完全な二項分布を示す。最大2個の標識アミノ酸残基を含むエピトープに関する理論的同位体分布パターンを上段に示す:自己ペプチドのそのままの発現、並びに5倍、20倍、及び100倍上方制御された発現、並びに感染後の新規の上方制御された自己ペプチド又はウイルス性ペプチド。下段:実験法IIに記載するように、病原体由来のMHCクラスII関連ペプチドは、その特徴的な質量スペクトルのダブレットに基づき、明らかに自己ペプチドと区別することができる。
【0198】
図9は、実験法Iに記載する標準LCMS技術(上段)を利用した後、及びプラットフォームLCMS技術(下段)を利用した後に得られた、MV−感染WH細胞に由来する未分画のHLA−A2リガンドームから求めたLCMS基準ピークイオン図を表している。
【0199】
図10は、複合サンプル分析における高品質ナノスケールLC技術の利用を示す。90cm長のC18カラム(50μmID、df=5μm)上でのトリプシン処理ペプチドの分離であり、有機変性アセトニトリルを2%/分(上段)、アセトニトリルを6.7%/時(中段)、及びアセトニトリルを4%/時(下段)と増加させた、かかる範囲の異なるグラジエントプロフィールを用いた。半値幅(FWHM)は3秒から約30秒に増大した。ピーク容量は、急速なグラジエントにおける約300(上段)から、緩やかなグラジエントにおける約900(下段)まで増大した。デューティサイクル(稼働時間の割合(%)として表された溶出ウィンドウ)が増大し、及びMS源中の化合物の存在が拡張されると、量が少ないペプチドにおいても、総合的なデータ依存性−多段階LCMS分析(すなわち、ペプチドマイニング)が可能となる。
【0200】
図11では、ヒトMDDCに由来する複合MHCクラスIIリガンドームを、3μm C18粒子、及び5μm C18粒子がそれぞれ充填された25μmIDカラム(図A、基準ピークイオン図)、及び50μmIDカラム(図B、基準ピークイオン図)上で、等しいグラジエントスロープを用いて分析した。固相パラメーターが、MHCクラスIIリガンドーム分析におけるLCMS性能を決定する。25μmIDカラムでは、LCMS性能が感度及びピーク分解度に関して顕著に向上していることが明白である。図C及び図Dは、それぞれ25μmIDカラム、及び50μmIDカラム上で得られたLC性能の相違を、本サンプル中の2つの同重体ペプチド(すなわち、ペプチド配列は一致しないが、[M+2H]2+=615.4Daに等しい質量を有する)について詳細に示す。
【0201】
図12では、インフルエンザウイルスに感染させ、及び実験法I(アプローチC)に記載する安定同位体標識アミノ酸を利用した後の、ヒトMDDCから単離されたHLA−A2リガンドームについて、LCMS分析を行った。上段は、ほぼ二項分布の同位体パターンが認められる二価の電荷を有する上方制御されたエピトープを示す。3個の標識残基がエピトープに取り込まれている。m/z 573.3Daで得られた本ペプチドのMS/MSスペクトル(下段)は、ペプチド配列がVVSEVDIAKADであることを示す(y−タイプイオンシリーズ、及び正確な質量測定に基づく)。かかる特別な実験は、感染の際に、標識残基としてロイシン(L)、バリン(V)、及びメチオニン(M)を培地内で用いて実施された。本ペプチド中の3個の標識残基は全てバリン(V)であった。本エピトープの上方制御の程度は、m/z 573.306Daにおける天然エピトープのモノアイソトピック質量mと、m/z 576.313Daにおける1個標識されたアイソマーのモノアイソトピック質量[m+3]との質量スペクトル強度比に基づき計算可能である(実験法Iを参照)。かかる特別なエピトープの場合、インフルエンザウイルス感染による上方制御の程度は16倍に等しい。
【0202】
図13では、実験法II(アプローチD)に記載するように、14N−、及び15N−標識百日咳菌(B.pertussis)全細胞調製物でパルシングした後のヒトMDDCから単離されたHLA−DR2リガンドームについて、LCMS分析を行った。上段はESI質量スペクトルを示し、m/z 788.94Da及び797.42Daにおいて二価に荷電した質量スペクトルのダブレットを含む。挿入図は、17個の窒素原子を含む百日咳菌ペプチドの候補を示す解析済みの質量スペクトルを示す。MSスペクトルは、安定同位体アプローチ(本文参照)を用いた細菌由来エピトープのポジティブアロケーションに関する一般基準に従う。下段は、m/z 788.94Daにおける本ペプチドの解析済みMS/MSスペクトルを表し、推定周辺タンパク質(Putative Periplasmic Protein)(受入番号CAE43606)由来のペプチドAAFIALYPNSQLAPTの配列(b−タイプイオンシリーズ)を示している。
【0203】
図14では、実験法II(アプローチE)に記載するように、14N−、及び15N−標識百日咳菌rP.69Prn1でパルシングした後の様々なヒトMDDCの不均質混合物から単離されたHLA−DRリガンドームについて、LCMS分析を行った。上段はESI質量スペクトルを表し、m/z 770.43Da及び780.39Daにおいて二価に荷電した質量スペクトルのダブレットを含む。挿入図は、20個の窒素原子を含むrP.69Prn1由来ペプチドの候補を示す解析済みの質量スペクトルを示す。MSスペクトルは、質量タグ支援アプローチ(本文参照)を用いたrP.69Prn1由来エピトープのポジティブアロケーションに関する一般基準に従う(実験法II)。下段は、m/z 770.43Daにおける本ペプチドの解析済みMS/MSスペクトルを表し、rP.69Prn1由来ペプチドLRDTNVTAVPASGAPAの配列(b−タイプイオンシリーズ)を示している。
【0204】
図15では、実験法II(アプローチF)に記載するように、異なる14N−、及び15N−標識髄膜炎菌(N.meningitidis)OMV調製物でパルシングした後のヒトMDDCから単離されたHLA−DR1/P1.7−2,4、及びHLA−DR2/P1.5−2,10リガンドームについて、LCMS分析を行った。探索アルゴリズムにより、図AのHLA−DR1/P1.7−2,4サンプル、及び図BのHLA−DR2/P1.5−2,10サンプルに関する両リガンドームにおいて、スペクトルのダブレットが検出された。MS配列分析により、P1.7−2,4由来エピトープSPDFSGFSGSVQFVPIQNSK(図B)、及びそのP1.5−2,10類似体SPEFSGFSGSVQFVPAQNSK(図D)が同定された。かかるエピトープの位置3及び位置16の残基は株特異的である。質量タグ支援アプローチを用いたLCMSスペクトルは、細菌由来エピトープに関する一般基準に従う(実験法II)。更に、各エピトープ内に含まれる窒素原子数は、LCMSスペクトルから推定可能である。図Aにおける二価に荷電した質量スペクトルのダブレット間の質量差(Δ=12Da)、及び図Bにおける三価に荷電した質量スペクトルのダブレット間の質量差(Δ=8.0Da)は、各エピトープは24個の窒素原子を含むことを示す。確かに、両同定エピトープは上記データに従う。
【0205】
図16では、実験法II(アプローチF)に記載するように、14N−、及び15N−標識髄膜炎菌P1.7−2,4OMV調製物でパルシングした後のヒトMDDCから単離されたHLA−DR1リガンドームについて、LCMS分析を行った。領域8に相当する一連の長さ変異体の1つとして、髄膜炎菌P1.7−2,4由来エピトープIGNYTQINAASVGL(図A及びC)が同定された。本天然エピトープの存在量が1%のとき、二価に荷電した質量スペクトルのダブレットが検出されたが、これは変則的なP1.7−2,4由来エピトープが、+1Daしか相違しないC末端アミノ酸残基を除き、天然のエピトープと顕著な類似性を示すことを表している。IGNYTQINAASVG−[+114Da](図B及び図D)(変則的なエピトープに含まれる病原体由来窒素原子数は、そのイオン対から推定されるように、天然エピトープの17とは異なり18個であったことに留意されたい)。その結果、非天然エピトープ(D)の完全なy−タイプイオンシリーズは、天然のエピトープ(C)と比較して+1Daだけシフトしているが、一方、b−タイプイオンシリーズは無変化のままである。ダブレットの重イオン及び軽イオンの両方からなるy−タイプ及びb−タイプイオンシリーズは、これら合わせて、かかる非天然エピトープが病原体由来タンパク質のタンパク質スライシング事象の結果、またその後に、同じP1.7−2,4分子の異なる複数の断片が分子内でライゲーションした結果であり、その結果スプライスされたMHCクラスIIリガンドが生じたことを示している。
【0206】
図17は、ヒトMB71.5 T細胞によるP1.5−2,10「領域4」エピトープ、及びP1.7−2,4「領域4」エピトープの差示的認識を示す。A:MB71.5 T細胞。これは、ドナーMB71から得られたPBMCを、組換えP1.5−2,10タンパク質を用いてin vitroで再刺激(2X)した後に生成し、合成ペプチドPDFSGFSGSVQFVPIQNS(S004.29)又はSGSVQFVPIQNSKSAYTP(S004.30)ではなく、PEFSGFSGSVQFVPAQNS(S011−24)、及びSGSVQFVPAQNSKSAYTP(S011−25)でパルシングされた自己PBMC存在下で増殖した。B:MB71.5 T細胞は、「領域4」配列のC−末端部分内のイソロイシン(I)を発現するPorA変異体、すなわちP1.7−2,4、P1.7,16、及びP1.19,15ではなく、アラニン(A)を発現するPorA変異体、すなわち、それぞれP1.5−2,10、P1.5−1,2−2、及びP1.22,14のみを認識する(「結果」の本文を参照)。
【実施例】
【0207】
実験方法I:MHCクラスIリガンドーム
麻疹ウイルス、インフルエンザウイルス、及び呼吸器合胞体ウイルス
Edmonston B株(以後MVと呼ぶ)のプラーク精製麻疹ウイルスを、ベロ細胞(Vero cell)内で増殖させた。インフルエンザウイルス(A/Wisconsin/67/2005株)を、MDCK1細胞内で増殖させた。プラーク精製呼吸器合胞体ウイルス(RSV−A2 no.VR−1302、ATTC)を、hep−2細胞内で増殖させた。
【0208】
ヒトB細胞系WH及びMB02、並びにヒト単球由来樹状細胞
EBVにより形質転換されたB細胞系WHを発現するHLA−A*0201、及びEBVにより形質転換されたB細胞系MB−02を発現するHLA−A*0201、HLA−B*0701を、抗生物質及び5%ウシ胎仔血清(以後FBSと呼ぶ、Harlan、米国)が補給されたRPMI 1640培地内で培養した。
【0209】
ヒト単球由来樹状細胞(以後MDDCと呼ぶ)を、Sallusto(Sallustoら、1994年)が記載する手順に基づき培養した。簡潔には、同意を得た上で、HLA−A*0201、HLA−B*0701ホモ接合型血液ドナーから得た、白血球アフェレーシスのバッフィーコート(buffy coat)のリンホプレップ(lymphoprep)(Axis−shield、ノルウェイ)を用いて、密度遠心分離法により1×109個のPBMCを新たに単離した。PBMCを、抗生物質(GibcoBRL、米国)及び1%FBSが補給されたイスコフ改変ダルベッコ培地(GibcoBRL、米国)を含む150mmの組織培養ディッシュ(Corning Costar、米国)内に5×106個/mlで播種し、5%CO2を含む加湿インキュベータ中に37℃で2時間置いた。非付着性の分画を除去した後、接着細胞を、抗生物質、1%FBS、500U/ml組換えヒトGM−CSF(PeproTech、米国)、及び250U/ml組換えヒトIL−4(Strathman Biotech、ドイツ)を含む培地内で更に6日間培養した。培地及び増殖因子を3日毎に取り替えた。6日目に、MDDCはいつでもウイルス感染できるようになった。ウイルス感染前後に、MDDCの1%量について、MDDCの純度並びに成熟度を確認するためにフローサイトメトリーにより特徴づけを行った(図示せず)。
【0210】
ペプチド合成
SYRO II同時多品種ペプチド合成装置(MultiSyntech GmbH、Witten、ドイツ)を用いて固相FMOCケミストリーにより、合成ペプチド標準品を作製した。合成したペプチドの純度及び同一性を、逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により評価した。
【0211】
実験アプローチA、A’、B、C、及びC’から、ウイルス感染関連MHCクラスIリガンドームを発現するヒト細胞バッチが得られた。アプローチAでは、50%組織培養感染量である107個/mlのMVストックを用いて、抗生物質及び1%FBSを含むRPMI 1640培地内で、0.5の感染多重度(以後、m.o.iとする)で2時間、2×109個のWH細胞からなるB細胞バッチを感染させた。その後、細胞を洗浄し、MV関連MHCクラスIリガンドームが発現可能となるように、40時間放置して増殖させた。2×109個の未処理WH細胞からなる別の細胞バッチを作製し、標準培地内で培養後、対照となるMHCクラスIリガンドームを発現させた。MHCクラスIリガンドームを調製し、個別に分析する前に、両細胞バッチを捕集、洗浄、計測、ペレット化、即時凍結し、そして−70℃で保存した。
【0212】
同様に、アプローチA’では、50%組織培養感染量である108個/mlのインフルエンザウイルスのストックを用いて、抗生物質及び1%FBSを含むRPMI 1640培地内で、5の感染多重度(以後、m.o.iとする)で1時間、3.5×108個のMB−02細胞からなるB細胞バッチを感染させた。その後、細胞を洗浄し、インフルエンザ関連MHCクラスIリガンドームが発現可能となるように、更に9時間放置して増殖させた。MHCクラスIリガンドームを調製、分析する前に、当該細胞バッチを捕集、洗浄、計測、ペレット化、即時凍結し、そして−70℃で保存した。
【0213】
アプローチBでは、50%組織培養感染量である107個/mlのMVを用いて、抗生物質及び1%FBSを含むRPMI−1640培地内で、0.5のm.o.iで2時間、1.5×109個のWH細胞からなるB細胞バッチを感染させた。その後、ウイルス感染関連MHCクラスIリガンドームが発現可能となるように、L−ロイシン及びL−メチオニンを含まないRPMI−1640培地(Invitrogen)であって、5%FBC、並びにL−ロイシン及びL−メチオニンの標準濃度の50%量について、安定同位体標識アミノ酸の13C6−L−ロイシン、及び13C5,15N1−L−メチオニン(それぞれ、それらの標識されていない軽い同位体と比較して6Da増加した質量を有する;Cambridge Isotope Laboratories)、並びに他方の50%量について未標識アミノ酸のL−ロイシン及びL−メチオニン(Sigma−Aldrich)が補給された前記培地内で、かかる細胞を40時間インキュベーションした。かかるアミノ酸はHLA−A2リガンドの主要なアンカー残基である。1.5×109個の未感染WH細胞からなる別のバッチを作製するために、5%FBS及び100%の未標識アミノ酸を含むRPMI−1640培地を用いた。MHCクラスIリガンドームを調製、分析する前に、両細胞バッチを捕集、洗浄、計測し、1:1の細胞比で混合し、次いで1つの単一細胞バッチとしてペレット化し、即時凍結し、そして−70℃で保存した。
【0214】
アプローチCでは、プラーク形成単位である7×107個/mlのインフルエンザウイルスを用いて、2.2×107個のHLA−A*0201ホモ接合型MDDCからなる細胞バッチを、2のm.o.iで4時間感染させた。その後、ウイルス感染関連MHCクラスIリガンドームが発現可能になるように、L−ロイシン、L−メチオニン、及びL−バリンを含まないRPMI−1640培地(Invitrogen)であって、5%FBC、並びにL−ロイシン、L−メチオニン、及びL−バリンの標準濃度の50%量について、安定同位体標識アミノ酸の13C6−L−ロイシン、13C5,15N1−L−メチオニン、及び13C5,15N1−L−バリン(それぞれ、それらの標識されていない軽い同位体と比較して6Da増加した質量を有する;Cambridge Isotope Laboratoriesより)、並びに他方の50%量について未標識アミノ酸のL−ロイシン、L−メチオニン、及びL−バリン(Sigma−Aldrich)が補給された前記培地内で、かかる細胞を40時間インキュベーションした。2.2×107個のHLA−A*0201ホモ接合型MDDCからなる別の細胞バッチを作製し、標準培地内で培養した後、対照となるMHCクラスIリガンドームを発現させた。MHCクラスIリガンドームを調製、分析する前に、両細胞バッチを捕集、洗浄、計測し、1:1の細胞比で混合し、次いで1つの単一細胞バッチとしてペレット化し、即時凍結し、そして−70℃で保存した。
【0215】
同様に、アプローチC’では、プラーク精製した呼吸器合胞体ウイルスを用いて、2.5×107個のHLA−A*0201、HLA−B*0701ホモ接合型MDDCからなる細胞バッチを、5のm.o.iで3時間感染させた。その後、ウイルス感染関連MHCクラスIリガンドームが発現可能となるように、完全なRPMI−1640培地内で、かかる細胞を48時間インキュベーションした。MHCクラスIリガンドームを調製、分析する前に、当該細胞バッチを捕集、洗浄、計測、ペレット化、即時凍結し、そして−70℃で保存した。
【0216】
MHCクラスIリガンドームの単離
実験アプローチA、A’、B、C、又はC’に基づき増殖させた細胞バッチを、MHCクラスI分子を可溶化し、次にウイルス感染関連MHCクラスIリガンドームを単離するために解凍、溶解した。簡潔には、細胞を1%CHAPS(Roche)及びプロテアーゼインヒビターを含むpH8.0のトリス−塩酸バッファー内で溶解した。遠心分離後、上清を、3つのCNBr活性化トリス−ブロック化セファロースカラムに連続して通した:第1の非免疫グロブリン結合(すなわち、プレクリア1)、正常マウス免疫グロブリンとの第2の結合(すなわち、プレクリア2)、及びヒトMHCクラスI分子に特異的な、特異的マウス抗体との第3の結合(すなわち、クリア)。1つの実施例では、HLA−A2分子(クローンBB7.2)と反応するマウス抗体を用い、別の実施例ではHLA−B分子(クローンB1.23.2)と反応するマウス抗体を用いた。クリアカラムに保持されているMHCクラスI分子、及び関連ペプチドを、10%(v/v)酢酸で溶出し、そして10kDa分子量カットオフメンブレンフィルターを通過させた。ろ過物を±10μlまで真空遠心分離法を用いて濃縮し、次いで5%ギ酸、5%ジメチルスルホキシド内で最終容積が100μlとなるように再構成し、そして分析するまで−70℃で保存した。当該ペプチド混合物について、既知量の2種類の合成ペプチド標準品(Angiotensin−III及びOxytocin、Sigma−Aldrich、St Louis、MO、米国)でスパイクして、その後のサンプル処理中に生じたサンプルロスを修正した。
【0217】
標準LCMS技術
ペプチドサンプルを、エレクトロスプレーイオン化質量分析器に連結したナノフロー液体クロマトグラフィー(以後LCMSと呼ぶ)により分析した。±109個のB細胞、又は1〜2×107個のMDDCに相当するペプチドサンプルの一定量を、標準的なナノフローLCカラムスイッチングシステムのC18プレカラムであって、標準的なMicroTeeチューブ要素を介して5μmC18粒子が充填された、内径(以後IDと表す)50μmの20cm長の分析カラムに直列に接続している前記C18プレカラムにロードした。使用した移動相は、流速が125nl/分のアセトニトリルからなるリニアグラジエントであり、100%のA(水+0.1M酢酸)から開始して、55分間でA内のアセトニトリルに限り60%+0.1M酢酸となるまでであった。カラムチップは、金コーティングされ、カラムヘッド圧力は150barであった。質量スペクトルを、「質量電荷比」(以後、m/zで表す)として1秒毎に、300〜1,500Daの範囲で少なくとも10,000全半値幅(以後FWHM)の分解能を有する質量分析器(Q−TOF、Waters Corp.)で記録した(MS分析)。
【0218】
ウイルス感染関連MHCクラスIエピトープ候補のMS配列決定(MS/MS分析)では、ほとんどの場合ペプチドサンプルのその後の一定量を用いたが、MS1分析のサイクルは、事前に選択された質量に関する、又は質量分析器流入時において最も多く存在する質量に関する衝突誘起フラグメンテーションのサイクルにより変更された。MS/MSスペクトルを、スキャン速度が1秒/スキャン、質量範囲が50〜2,000Da、及び質量分解能が5,000FWHMで取得した。最適衝突エネルギーは、エピトープの性質、及び用いた質量分析器に大きく依存したが、本実験では最適化された。MS/MSスペクトルの解釈は、手作業又はソフトウェアツール、例えばMascot(Perkinsら、1999年、www.matrixscience.com、Matrix Science Ltd.、London、英国)、ProteinProspector(www.prospector.ucsf.edu、University of California、San Francisco、CA、米国)、BioWorks(商標)(Thermo Scientific、Waltham、MA、米国)及び/又はProteinLynx(商標)(Waters Corp.、Milford、MA、米国)等を用いて行った。
【0219】
同定されたエピトープの半定量化では、相対感度係数を計算したが、これは同定されたエピトープの合成類似体の強度−量を、標準ペプチドであるアンジオテンシン−III及びオキシトシンの強度−量平均値で割ることに基づく。かかる係数は、細胞バッチ内に存在する天然エピトープの数を半定量化するために、その後用いられた。
【0220】
MV関連MHCクラスIリガンド候補の同定
アプローチAでは、MVに感染、及び未感染のWHに由来するMHCクラスIリガンドームのMSイオン図を、質量毎に比較した。この手順の常套として、両サンプルに存在する豊富なペプチドイオンを、μLC保持時間内に生じた小さなシフトを評価するために用いた。感染したWH細胞にのみ生じているペプチド質量について配列決定し、半定量化を行った。
【0221】
アプローチB及びCでは、必須の質量スペクトル情報(「質量値」及び「強度値」と定義する)を、MHCクラスIリガンドームより得られたMSスペクトルから抽出し、アルゴリズム探索に用いた。第1に、シミュレートした同位体パターンを、(i)用いた安定同位体標識の種類と数、(ii)かかる安定同位体の天然発生率、(iii)エピトープに組み込まれた標識アミノ酸の推定最大数、(iv)実験デザイン、及び(v)関係するイオンの荷電状態に基づき計算した。個別にシミュレーションされた各同位体パターンを、MSスペクトルの質量軸に沿って数学的に移動した。
【0222】
図8の上段は、アプローチBの方法に記載するように、2種類の安定同位体を使用した後のウイルスに感染した細胞バッチから抽出された、ウイルス性及び自己−MHCクラスIリガンドについてシミュレーションした同位体パターンを表す。例えば、2箇所でメチオニン及び/又はロイシンを発現するウイルス性エピトープは、質量m(50)、m+Δ(100)、及びm+2Δ(50)の相対比によって認めることが可能で、ここでΔは、アプローチBの標識手順及び細胞混合手順に固有の3つの同位体変異体に典型的な単一荷電イオンについて6Daである(図8、上段、右側のパターン)。また、無変化のままの自己エピトープ、又はウイルス感染中に上方制御された自己エピトープは、それぞれが有する同位体パターンにより認識可能である(図8、上段、左側の4つのパターン)。更に、上方制御の程度は、単一標識アイソマー(I[m+Δ])、及び天然エピトープ(Im)のモノアイソトピック質量の強度比に基づき計算可能であり、次式に従う:
【数1】
式中、xはエピトープ中に含まれる標識アミノ酸の最大数を表す。感染に有意に関連して、少なくとも2倍上方制御されていると考えられた。したがって、同位体パターンは、例えばアプローチCでは3種類の標識アミノ酸の利用についてシミュレーションされた。更にLCMS/MS分析を行うために、ウイルス感染関連MHCクラスIリガンド候補として、一致する同位体クラスターを選択した。
【0223】
プラットフォームLCMS技術
ウイルス感染関連MHCクラスIリガンドームの「ペプチドマイニング」では、感度が1桁以上改善したプラットフォームLCMS技術を得るために、例えば、107〜108個の細胞からなるバッチ内で、細胞1個当たり1つのコピーとして存在するMHCクラスIエピトープについて検出が可能となるように、LCMSシステムのいくつかの独立パラメーターを修正した。
【0224】
プラットフォームLCMS技術は、改変されたMicroTeeチューブ要素を介して3μmC18粒子が緊密充填された、25μmIDの≧90cm長の分析カラムに直列に接続している、標準的ナノフローLCカラムスイッチングシステムのC18プレカラムから構成された。使用した移動相は、流速が30nl/分のアセトニトリルからなる緩やかなリニアグラジエントで、240分間においてA(水+0.1M酢酸)内で8%アセトニトリル+0.1M酢酸から開始して、A内でアセトニトリルが28%になるまでであった。カラムチップは、カーボンコーティングされ、カラムヘッド圧力は≧400barであった。質量スペクトルの解釈、これに続くMS/MS分析、及びエピトープの半定量化は、標準的なLCMS技術について記載した通りに実施した。
【0225】
プラットフォームLCMS技術の優位性を、アプローチAに記載するMV感染WH B細胞バッチ、アプローチA’に記載するインフルエンザ感染MB−02細胞B−バッチ、及びアプローチC’(本明細書で後ほど示す)に記載するRSV感染MDDC細胞バッチに由来するペプチドサンプルを用いて分析した。
【0226】
結果I:MHCクラスIリガンドーム
標準LCMS技術では、限られた数のHLA−A2−結合MVエピトープしか同定されない。
MV関連MHCクラスIエピトープを標準的なLCMS技術により同定するために、MHCクラスIリガンドームを記載の通りに、MV感染後のヒトWH細胞から入手した。2つのHLA−A2リガンドームサンプル、すなわちアプローチA(サブトラクティブ分析)に従い得られたもの、及びアプローチB(同位体標識)に従うHLA−A2リガンドームサンプルについて調べた。各アプローチでは、MS/MS配列決定後にMVエピトープとして確認された、3つのウイルス関連MHCクラスIエピトープ候補が検出可能であった(表1)。公表のように、標準的なLCMS技術は、1細胞当たり100,000個を超えるコピー数で発現していることが明らかとなった超優位性の(supradominant)MV−C84〜92エピトープを含む、全部で4つの異なるエピトープの同定を可能にした。
【0227】
比較例:プラットフォームLCMS技術により、10〜15倍多くのMVエピトープが同定される
標準的なLCMS技術は、複合したMHCクラスIリガンドームサンプルの中で、数千もの化学的に類似した自己エピトープの中から1フェムトモル未満の範囲でいくつかの、おそらくは最も豊富なウイルス性エピトープについて同定し及び特徴づけるのに役立ち得るが、かかる最新技術をもってしても、重要なこれに付加する準優位性の(subdominant)ウイルス性エピトープに関する知識のギャップが埋められないままであることは明白であった。
【0228】
発明者らは、本技術のLC部分について綿密な改変を施せば、準優位性のMHCクラスIリガンドについても検出及び特徴づけを可能にするプラットフォームLCMS技術が構築されないものかと考えた。図9は、標準的なLCMS技術(上段)、又は「方法」で記載したいくつかの独立した改変の組合せが含まれるプラットフォームLCMS技術(下段)を用いたときの、1つの単一MV感染関連MHCクラスIサンプル(アプローチAで調製された)の分画に関する代表的なLCMSピーク成績を示す。下段のLCMS実験(プラットフォーム技術)に示すオンラインデータ依存性LCMS/MS配列決定により、31個の異なるエピトープに相当する39個のMV由来HLA−A2リガンドが同定された(表2)。かかる天然に提示されたエピトープのうち、26個のエピトープは新規MVエピトープであり、3個は標準LCMS技術を用いてすでに同定され(表1)、2個は定量化された天然のHLA−A2リガンドとして新規ではあるが、マウス及びヒトMV CD8+T細胞エピトープとして文献に記載されていた(Neumeisterら、1998年、Nananら、1995年)。したがって、少なくとも10倍多くのエピトープが、標準的なLCMS法のプラットフォーム改良により同定された。
【0229】
プラットフォームLCMS技術によるその他のウイルスに由来するMHCクラスIリガンドームのエピトープマイニングに関する更なる実施例
かかる技術の優位性を更に分析するために、プラットLCMS技術を用いて、アプローチA’及びC’に記載するような、その他のウイルス感染細胞バッチから調製したMHCクラスIリガンドームを分析した。標準的なLCMS技術では検出されなかった、6個のウイルス性MHCクラスIエピトープが同定された:4つのエピトープはインフルエンザウイルス感染に関連し、2つのエピトープはRSV感染に関連した(表2)。
【0230】
プラットフォームLCMS技術によるMHCクラスIリガンドームのエピトープマイニングは、LC法のいくつか独立した改善に起因する
当該方法で、単一の改変をいろいろ行ったときのピーク性能及びペプチドマイニングに対する寄与を理解するために、長尺カラムと併用してグラジエントを急勾配にしたときの効果、及びカラムIDと連動させたC18粒子サイズの影響を、個々の裏付け実験で調べた。複合したトリプシンによるタンパク質消化物を利用した図10に示すように、90cm長のカラムと併用して、より緩やかで、延長されたグラジエントスロープを適用すると、クロマトグラムでペプチドのピーク容量が増大し、またピーク幅が拡大する。こうして、化合物がMS源中で広範に存在することが可能となり、存在量が少ないペプチドでも総合的なデータ依存性多段階MS/MS分析(ペプチドマイニング)に役立つ。期待したように、3μmC18粒子が充填された50μmIDカラム(図11、上段)とは異なり、3μmC18粒子が充填されたより小さいID(25μm)のカラムを用いると、4倍高感度のLCMSシステムが得られた。思いもよらず、カラムのIDをより小さくすることにより(図11、下段)、分離効率も改善した。
【0231】
プラットフォームLCMS技術により、MVエピトープの特別な特徴を同定することが可能となる
配列情報及び多様性以外のMHCクラスIリガンドの重要な特徴として、エピトープの長さ変異、存在量、及び考えられるPTMが挙げられる。表2は、MV由来HLA−A2リガンド中に5の異なる長さのペプチドが見出されたことを示す:8マー(n=2)、9マー(n=21)、10マー(n=9)、11マー(n=5)、及び12マー(n=2)。したがって、9マーが最も一般的であり、また半定量データによれば、最も豊富な2つのペプチド種は、それぞれMV由来HLA−A2リガンドームの26%及び18%に相当するが、いずれも9マーであった。KLWESPQEIエピトープは、初期の研究より超優位性のエピトープとして公知であるが(表1)、本分析では十分に示されなかった。これは、かかる特別なエピトープのみを含む少量のHPLC分画が、別の研究目的のためにサンプルから選択的に取り出されたためと考えられた。7つのエピトープから、同一のコアエピトープを共有する2つ又は3つの長さ変異体が同定された(表2)。
【0232】
更に、大構造タンパク質由来のエピトープRAN*VSLEEL、融合糖タンパク質F0前駆体由来のKLMPN*ITLL、及び血球凝集素糖タンパク質由来のLSVDLSpPTV(表2)は、翻訳後修飾エピトープであり、翻訳されたゲノム由来のようなものとして推測されるものではない。
かかる修飾は、ウイルスMHCクラスIエピトープについて文献では報告されていない。
【0233】
ウイルス感染関連の上方制御されたMHCクラスI自己エピトープの同定
図8に示すように、ウイルス特異的エピトープに限らず、新規に誘発された、又は上方制御された自己エピトープも、同位体標識の利用と、MHCクラスI単離及びLCMS技術とを組み合わせれば検出可能である。インフルエンザウイルス感染関連HLA−A2リガンドームは、アプローチCに記載するようにヒトMDDCから単離され、標準LCMS技術が適用された。3つの標識アミノ酸を含む上方制御されたペプチドについてシミュレーションされた同位体パターンに一致する同位体クラスターを調査した。図12は、3つの同位体標識アミノ酸を取り込んだ同位体クラスターの例を示す。当該エピトープは、ヒトインターフェロンに誘導されたGTP−結合タンパク質Mx1(受入番号P20591)に由来するVVSEVDIAKADとして同定された。6個の別の上方制御された自己エピトープが、インフルエンザ感染後に同定された(表3)。その他の自己エピトープが、ウイルス感染後に上方制御された天然提示のMHCクラスIリガンドとして報告されているが、本発明で同定されたエピトープは、新規であり、またインフルエンザウイルス感染に特異的に関連するものと考えられる。
【0234】
実験法II:MHCクラスIIリガンドーム
百日咳菌の増殖及び全細胞調製物の生成
百日咳菌株509を、天然の14N−含有最少Bioexpress細胞増殖培地、又は98%−濃縮15N−安定同位体標識最少Bioexpress細胞増殖培地(Cambridge Isotope Laboratories、米国)、但し、いずれの培地もろ過済みの0.15%乳酸(Fluka、Switzerland)及び18.6mM NaOHを含むが、そのいずれか一方において静止期に至るまで増殖させた。増殖後、14N−、及び15N−標識細菌培養物の両方を、56℃で30分間インキュベーションすることにより加熱不活性化し、及びPBS内で2,000g、20分間遠心分離することにより5回濃縮し、そして1/5容積のPBS内にペレットを回収した。14N−、及び15N−標識全細胞調製物の光学濃度を590nmで測定し、及び抗原提示細胞の抗原パルス用として、かかる調製物の1:1混合物をOD590値に基づき作成した。
【0235】
百日咳菌に由来する組換えP.69パータクチンの調製
百日咳菌P.69パータクチン野生種変異体P.69Prn1(受入番号AJ011091)(Hijnenら、2005年)の細胞外ドメインをエンコードするプラスミドpPRN1を含む、大腸菌株BL21−Codonplus(DE3)−RP(Stratagene、la Jolla、CA)を、天然の14N−標識最少Bioexpress細胞増殖培地、又は98原子%−濃縮15N−標識最少Bioexpress細胞増殖培地(Cambridge Isotope Laboratories、米国)のいずれか一方において、OD590が0.6〜0.8に達するまで、37℃、250rpmで増殖させた。その後、培養物を1mMイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)で誘発し、更に4時間インキュベーションした。誘発済みの14N−及び15N−標識細菌を、5,000g、4℃で10分間遠心分離することにより捕集し、次いでBug Buster試薬(Novagen、Darmstadt、ドイツ)を用いて溶解した。細胞溶解物を、湿細胞ペースト1グラム当たり5,000Uのリゾチーム、及び125Uのベンゾナーゼ ヌクレアーゼで処理した。遠心分離により封入体を収集し、1:10に稀釈したBug Buster試薬で3回洗浄した。精製済みの14N−及び15N−標識封入体を、6M塩酸グアニジン(GuHCl)、10mMベンザミジン、1mM EDTA、100mM NaCl、及び50mMトリス塩酸 pH8.8に溶解した。GuHClを含まない同一バッファー内で50倍に急速に稀釈することにより、14N−及び15N−標識rP.69Prn1タンパク質のリフォールディングを開始した。1mM EDTA、100mM NaCl、及び50mMトリス塩酸 pH8.8に対して4℃で1晩透析して、タンパク質を完全にリフォールディングさせた。次いで、リフォールディングしたタンパク質を、分子量カットオフ値が50kDaの透析膜(Spectrum Laboratories、Rancho Dominguez、CA)を用いて50mMトリス塩酸 pH8.8に対して2回透析した。当該タンパク質を、50kDaのカットオフ値を有するAmicon Ultra−15濃縮器(Millipore、Billerica、MA)で濃縮した。最後に、2μgプロテアーゼインヒビター(Roche、Penzberg、ドイツ)を1mg/mlの濃縮タンパク質に添加した。ヒトMDDCの抗原パルス用に、14N−及び15N−標識rP.69Prn1タンパク質からなる1:1タンパク質/タンパク質混合物を、ビシンコニン酸(以後、BCAと呼ぶ)タンパク質アッセイ法(Pierce Protein Research Products、Rockford、米国)で測定したタンパク質含量に基づき作成した。
【0236】
最少培地内での髄膜炎菌同質遺伝子系統の増殖及びOMVの調製
可変性の主要外膜タンパク質ポーリンA(以後、PorAと呼ぶ)(Peeterら、1996年)の血清亜型P1.5−2,10又はP1.7−2,4をそれぞれ発現する、髄膜炎菌H44/76の2つのクラス3−同質遺伝子系、クラス4−同質遺伝子系を、天然の14N−含有最少Bioexpress細胞増殖培地、又は98%−濃縮15N−標識最少Bioexpress細胞増殖培地(Cambridge Isotope Laboratories、米国)のいずれか一方において静止期に至るまで増殖させた。かかる培養物から得られた、14N−及び15N−標識外膜小胞(以後、OMVと呼ぶ)のバッチを、Claassen(Claassenら、1996年)に基づき調製し、特徴づけを行った。ヒトMDDCの抗原パルス用として、14N−及び15N−標識OMVバッチからなる1:1タンパク質/タンパク質混合物を、BCAタンパク質アッセイ法(Pierce Protein Research Products、Rockford、米国)で測定したタンパク質含量に基づき作成した。
【0237】
最少培地内での病原体由来タンパク質の発現及び標識
全細胞百日咳菌調製物のタンパク質分析用として、14N−及び15N−標識全細胞百日咳菌調製物の少量一定量から膜複合体を調製した。細菌細胞バッチを、7,000g(15分、10℃)で遠心分離し、そしてペレットを10mMトリス塩酸、pH=8.0中に再懸濁した。細胞膜を分離するためにかかる懸濁物を氷上で超音波処理し、6,500g(10分、10℃)で遠心分離し、そして上清を収集した。膜断片を遠心沈殿させ(40,000g、1時間)、そして1%サルコシルを含む10mMトリス塩酸、pH=8.0中に回収した。膜複合体をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(以後、SDS−PAGEと呼ぶ)で泳動し、次いでタンパク質をポリフッ化ビニリデン膜に移した。公知の毒性因子であり、いずれもオランダのオランダワクチン研究所(Netherlands Vaccine Institute)から入手した、線維状赤血球凝集素(1:500、クローン31E5)、P.69パータクチン(1:50、クローンPem4)、百日咳毒素サブユニット1(1:1,000、クローン151C1)、百日咳毒素サブユニット4(1:100、クローン1−227)、及び線毛2(1:1,000、クローン21E7)に対するモノクロナール抗体を用いて、当該膜について精査した(ウェスタンブロッティング法)。次いで、当該膜をアルカリホスファターゼ標識抗マウスIgG(1:5,000;SBA、英国)と共にインキュベーションし、既製のAPコンジュゲート基質キット(Biorad、米国)を用いて信号を検出した。
【0238】
代表的なタンパク質の例としてP.69パータクチンを用いて、同位体標識効率を調べた。タンパク質をSDS−PAGE上で分離した後に、14N−及び15N−標識69kDaバンドをゲルから切り出した。14N−及び15N−標識P.69パータクチン、及びそのトリプシン消化物を、それぞれLCMS(P.69パータクチン)及びLCMS/MS(消化物)で分析した。
【0239】
14N−及び15N−標識rP.69パータクチン調製物内のタンパク質の完全性、及び14N−及び15N−OMV調製物内のPorAの完全性、並びにタンパク質及びトリプシン消化物の同位体標識効率を、百日咳菌の膜複合体について上記した同様の技法(SDS−PAGE、ウェスタンブロッティング、LCMS、及びLCMS/MS)により、具体的にはP.69パータクチン、及びPorAそれぞれをターゲティングすることにより評価した。PorAでは、血清亜型特異的モノクロナール抗体をウェスタンブロッティングで用いた。
【0240】
実験アプローチD、E、及びFにより、病原体関連MHCクラスIIリガンドームを発現するヒトMDDCバッチが得られる
アプローチDでは、若干の修正を加えて、実験法Iに記載する手順に基づきヒトMDDCを培養した。ここでは、同意を得た上で、HLA−DR2ホモ接合型血液ドナーから得た、白血球アフェレーシスのバッフィーコートを用いて1×109個のPBMCを単離した。第6日目に、依然未成熟のMDDCを、最終濃度がOD590=0.028である、14N−及び15N−標識全細胞百日咳菌調製物からなる1:1混合物でパルシングした。第8日目に、全細胞百日咳菌でパルシングしたMDDCを捕集し、PBSで洗浄し、そして計測した。次に、20×106個のプールされたMDDCをペレット化、凍結し、そしてペプチドの単離及び分析を行うまで−80℃で保存した。全細胞百日咳菌でパルシングする前後で、MDDCの少量一定量(1%)を、フローサイトメトリーにより特徴づけを行って、MDDCの純度並びに成熟度を確認した(図示せず)。
【0241】
アプローチEでは、上記のように若干の修正を加えた実験法Iに記載する手順に基づきヒトMDDCを調製した。ここでは、同意を得た上で、異なる血液バンクドナー9名から得た、いくつかのHLA−DRタイピングからなる異種母集団を代表するPBMCを、別々に培養(3×108個のPBMC/ドナー)してMDDCに成長させた。第6日目に、依然未成熟のMDDCを、ウマ流産菌(S.abortis equi)由来のLPSが20ng/mlで存在し、最終タンパク質濃度が10μg/mlである、14N−及び15N−標識rP.69パータクチン調製物からなる1:1混合物でパルシングした。第8日目に、rP.69パータクチンでパルシングされたMDDCを捕集し(n=9)、PBSで洗浄し、プールし、そして計測した。次に、70×106個のプールされたMDDCをペレット化、凍結し、そしてペプチドの単離及び分析を行うまで−80℃で保存した。百日咳菌rP.69パータクチンでパルシングする前後で、MDDCの少量一定量(1%)を、フローサイトメトリーにより特徴づけを行って、MDDCの純度並びに成熟度を確認した(図示せず)。
【0242】
アプローチFでは、上記の通り、若干の修正を加えた実験法Iに記載する手順に基づきヒトMDDCを調製した。ここでは、HLA−DR1ホモ接合型ドナーから同意を得た上で、及びHLA−DR2ホモ接合型ドナーから同意を得た上で得たPBMCを別々に培養して(2×109個のPBMC/ドナー)MDDCに成長させた。第6日目に、各MDDCバッチを2分量に分割し、ウマ流産菌(S.abortis equi)由来のLPSが20ng/mlで存在し、タンパク質の最終濃度が25μg/mlである、14N−及び15N−標識P1.7−2,4OMVからなる、又は14N−及び15N−標識P1.5−2,10OMVからなる1:1混合物のいずれか一方を用いてパルシングした。第8日目に、OMVでパルシングされた4つの異なるMDDCバッチを捕集、PBSで洗浄、計測、ペレット化、凍結し、及び個々のペプチドについて単離及び分析を行うまで−80℃で保存した。OMVでパルシングする前後で、各MDDCバッチの少量一定量(1%)を、フローサイトメトリーにより特徴づけを行って、MDDCの純度並びに成熟度を確認した(図示せず)。
【0243】
ペプチド合成
SYRO II同時多品種ペプチド合成装置(MultiSyntech GmbH、Witten、ドイツ)を用いて固相FMOCケミストリーにより、合成ペプチド標準品を作製した。合成したペプチドの純度及び同一性を、逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により評価した。
【0244】
MHCクラスIIリガンドームの単離
下記のような若干の修正を加えながら、実験法Iに記載するMHCクラスIリガンドームの単離法に従い、MHCクラスII分子を可溶化し、次いで免疫化学により病原体関連MHCクラスIIリガンドームを単離するために、アプローチD、E、及びFに基づき調製したMDDCバッチを解凍、溶解した。クリアステップでは、ヒトHLA−DR分子(クローンB8.11.2)に特異的なマウス抗体を用い、また、10%(v/v)酢酸でクリアカラムから溶出させた後、HLA−DR分子及び関連ペプチドを10kDa分子量カットオフメンブレンフィルターに通し、そして当該ろ過物を70℃で15分間加熱した。MHCクラスIIリガンドームの濃縮、再構成、スパイキング、及び保存は、実験法IのMHCクラスIリガンドームについて記載した手順と同様であった。
【0245】
プラットフォームLCMS分析
ペプチドサンプルを、エレクトロスプレーイオン化質量分析器に連結した最適化されたナノフロー液体クロマトグラフィー(プラットフォームLCMS)により、本明細書にすでに記載したように分析した。1〜2×107個のMDDCに相当するペプチドサンプルの一定量を、改変されたMicroTeeチューブ要素を介して3μmC18粒子が緊密充填された、25μmIDの25cm長の分析カラムに直列に接続しているC18プレカラムにロードした。使用した移動相は、流速が30nl/分で、アセトニトリル+0.1M酢酸からなる緩やかなリニアグラジエントであり、100%のA(水+0.1M酢酸)から開始して、45分間でAが60%アセトニトリル+0.1M酢酸になるまでであった。カラムチップは、金コーティング及びカーボンコーティングされ、カラムヘッド圧力は>250barであった。質量スペクトルを、スキャン速度が1秒/スキャン、質量範囲が300〜1,500Da、及び質量分解能が少なくとも10,000FWHMで記録した(MS分析)。
【0246】
病原体関連MHCクラスIIエピトープ候補のMS配列決定(MS/MS分析)では、ほとんどの場合、ペプチドサンプルの2番目の一定量を用いたが、MS1分析のサイクルは、事前に選択された質量に関する、又は質量分析器流入時において最も多く存在する質量に関する衝突誘起フラグメンテーションのサイクルにより変更された。MS/MSスペクトルを、スキャン速度が1秒/スキャン、質量範囲が50〜2,000Da、及び質量分解能が5,000FWHMで取得した。最適衝突エネルギーは、エピトープの性質、及び用いた質量分析器に大きく依存したが、本実験では最適化された。MS/MSスペクトルの解釈は、手作業で、又はソフトウェアツール、例えばMascot(Perkinsら、1999年、www.matrixscience.com、Matrix Science Ltd.、London、英国)、ProteinProspector(www.prospector.ucsf.edu、University of California、San Francisco、CA、米国)、BioWorks(商標)(Thermo Scientific、Waltham、MA、米国)及び/又はProteinLynx(商標)(Waters Corp.、Milford、MA、米国)等を用いて実施した。
【0247】
同定されたエピトープの定量化では、相対感度係数を計算したが、これは同定されたエピトープの合成類似体の強度−量を、標準ペプチドであるアンジオテンシン−III及びオキシトシンの強度−量平均値で割ることに基づく。かかる係数は、細胞バッチ内に存在する天然エピトープの数を半定量化するために、その後用いられた。
【0248】
オンライン2次元プラットフォームLCMS分析
ペプチドを、エレクトロスプレーイオン化質量分析器に連結したオンライン2次元ナノスケール液体クロマトグラフィー(2D−LCMS)により分析した。1〜2×107個のMDDCに相当するペプチドサンプルの一定量を、弱アニオン交換粒子(例えば、PolyWAX LP(商標)、PolyLC、Columbia、MD、米国、より市販されている)と、強カチオン交換粒子(例えば、PolySULFOETHYL Aspartamide(商標)、PolyLC、Columbia、MD、米国、より市販されている)とからなり、乾燥粒子重量で2〜3の比で混合された混合物を含むプレカラム上にロードした。かかる混合されたアニオン−カチオン交換体(ACE)固定相は溶融シリカチューブ内にスラリー充填されたものであり、C18粒子を含む2つの(カラム)ベッド長(例えば、Reprosil−Pur(登録商標)C18−AQ、粒子サイズ5μm、ポアサイズ120Å、Dr.Maischより入手可能、ドイツ)の間に挟まれている。プレカラムベッドの各部分の長さは20mmであり、当該プレカラムの内径は50μmであった。C18−ACE−C18サンドイッチプレカラムは、改変されたMicroTeeチューブ要素を介して3μmC18粒子が緊密充填された、25μmIDの25cm長の分析カラムに直列に接続された(例えば、Reprosil−Pur(登録商標)C18−AQ、粒子サイズ3μm、ポアサイズ120Å、Dr.Maischより入手可能、ドイツ)。使用した移動相は、流速が30nl/分で、アセトニトリル+0.1M酢酸からなる緩やかなリニアグラジエントであり、100%のA(水+0.1M酢酸)から開始して、Aが60%アセトニトリル+0.1M酢酸になるまでであった。カラムチップは、金コーティング及びカーボンコーティングされ、カラムヘッド圧力は>250barであった。質量スペクトルを、スキャン速度が1秒/スキャン、質量範囲が300〜1,500Da、及び質量分解能は少なくとも10,000FWHMで記録した(MS分析)。それぞれ1nM、1μM、10mM、1M、及び2Mの濃度となるようにギ酸及びジメチルスルホキシド(DMSO)の量が増加した水を含む塩を含まない溶出溶媒の一定量を注入することにより、これに続いて上記のアセトニトリル+0.1M酢酸からなる緩やかなリニアグラジエント、及び質量分析条件を用いてペプチドの分離及びMS分析を行うことにより、5回連続して注入、分析分離、及びMS分析サイクルを実施した。
【0249】
病原体関連MHCクラスIIリガンド候補の同定
自己由来リガンドから病原体由来MHCクラスIIリガンドを区別するために、必須の質量スペクトル情報(「質量値」及び「強度値」と定義する)を、MSスペクトルから抽出し、そして質量スペクトルダブレットを探索するMHCクラスII質量スペクトル解釈アルゴリズムに用いた。質量スペクトルのダブレットを病原体関連MHCクラスIIリガンドの候補として確実に帰属するためには、下記5つの基準が満たされなければならない:
(i)「軽い」エピトープと「重い」エピトープのモノアイソトピック質量間の質量の差(Δm)は、「軽い」エピトープの質量の約1.2%でなければならない。かかる相対的な質量の差は、タンパク質及びペプチド中の窒素原子の平均自然発生率に基づく。各窒素原子の質量が1Daだけ増加すると、元のペプチド/タンパク質について相対質量が1.2%増加する;
(ii)「軽い」エピトープと「重い」エピトープの荷電数(z)は等しくなければならない;
(iii)「軽い」エピトープと「重い」エピトープの強度比は約1でなければならない;
(iv)「重い」エピトープの質量スペクトルパターンは、98原子%濃縮15N同位体の取込みを、[M*−1]及び[M*−2]同位体ピークとして可視化された状態で表さなければならない(M*は、15N同位体が均一に取り込まれた「重い」エピトープのモノアイソトピック質量を表す)
(v)エピトープ候補に存在する計算で求めた窒素原子数は整数でなければならない。かかる数は「軽い」エピトープと「重い」エピトープのモノアイソトピック質量の絶対質量差(Δm)に、かかるエピトープの荷電数(z)を乗ずることにより計算可能である。
【0250】
図8(下段、右側のスペクトル)は、抗原でパルシングしたMDDCから抽出された病原体関連クラスIIリガンドについて、安定同位体を用い、上記基準を満たす場合のシミュレーション同位体パターンを示す。シミュレーションした同位体パターンをペプチド溶出物に関するMSスペクトルの質量軸に沿って、数学的に移動させることにより、病原体関連MHCクラスIIリガンド候補を探索した。一致した同位体クラスターを更なるLCMS/MS分析用として選択した。
【0251】
免疫リンパ球
Sanquin(Amsterdam)出身の健常血液バンクドナーから、同意を得た後に末梢血液を得た(S03.0015−X)。fycoll−hypaque(Pharmacia Biotech、Uppsala、スウェーデン)上でバッフィーコート細胞を遠心分離して末梢血単核球(PBMC)を単離し、そしてこれを新鮮な状態で使用し、又は実験で使用するときまで冷凍保存した。PBMCを、2%ヒトAB血清(Harlan、米国)を補給した完全培地、すなわち、AIM−V培地(GibcoBRL、米国)内で培養した。雌のspf Balb/cマウス、及びC57black/6マウスをHarlanより購入し、従来条件下の舎内で飼育した。全ての実験は、NVIの動物倫理委員会(The Animal Ethics Committee)の承認を受けた。マウス4匹からなる群について、0日目及び28日目に、rP1.7−2,4、若しくはrP1.5−2,10(1.5μg)をPBS中に含む、LpxL1でアジュバンド添加されたリポソームで、又は実験法IIの記載に従い調製したP1.7−2,4、若しくはP1.5−2,10 OMV(1.5μg PorA/用量)を用いて皮下経由で免疫した。42日目に切除後、臓器を機械的に分離し、ポアサイズ70μmのナイロンフィルターを通して、単一の脾細胞懸濁物及びリンパ節細胞懸濁物を得た。脾細胞懸濁物中の赤血球を、10mM KHCO3、0.1mM EDTAを用い、4℃で2分間溶解した。脾細胞を完全IMDM−10培地、すなわち10%FCS(HyClone、米国)、及びpen/strep/glu(GibcoBRL、米国)が補給されたイスコフ改変ダルベッコ培地(GibcoBRL、米国)に回収した。リンパ節細胞を、5%正常マウス血清(Harlan、米国)、及びpen/strep/gluが補給された完全IMDM−5培地に回収した。
【0252】
PorAペプチド及びタンパク質
各P1.7−2,4及びP1.5−2,10タンパク質全体に及ぶオーバーラッピング合成18マーペプチドは、12個のアミノ酸の重複部分を有し、前記のように調製されたが、これをスマートプーリング法により、すなわち各合成ペプチドが、8つのペプチドを含むプールのうち異なる2つのプールに現れるように16種類のプール(A〜H、及び1〜8)にプールした。すでに記載した髄膜炎菌H44/76の同質遺伝子系統に由来するPorA遺伝子を用いて、当技術分野で公知の組換えタンパク質発現技術により、組換えP1.7−2,4、及びP1.5−2,10タンパク質(以後、rP1.7−2,4、及びrP1.5−2,10と呼ぶ)を得た。
【0253】
増殖アッセイ
P.69パータクチン特異的ヒト増殖アッセイでは、関連ペプチド(単数又は複数)の存在/不存在下、150μl/ウェル、1又は10μM、37℃の条件、5%CO2雰囲気の中にある完全培地内で105個のPBMCをインキュベーションした。PorA特異的ヒト増殖アッセイでは、関連ペプチド(単数又は複数)、ペプチドプール、又はPorA rP1.7−2,4、P1.5−2,10、P1.7,16、P1.19,15、又はP1.22,14が表示の濃度で存在/不存在下、150μl/ウェル、37℃の条件、5%CO2雰囲気の中にある完全培地内で、105個のPBMC、又は2×104個のMB71.5T細胞をインキュベーションした。4日目に、サイトカインを判定するために100μl容量を取り出した。次に、0.5μCi(18.5kBq)3H−チミジン(Amersham、米国)を、細胞を捕集する18時間前に培養物に添加した。免疫脾細胞の増殖アッセイについては、CPM測定及び結果の計算を実施した。少なくとも3つのウェルに基づき、結果をSI±SDで表した。完全培地中で、0.5μg/mlの濃度のrP1.5−2,1を用いて、MB71 PBMCを繰返しin vitroで再刺激することにより、領域4に特異的なT細胞系MB71.5を産生させた。マウス増殖アッセイでは、P1.7−2,4、又はP.15−2,10で免疫されたBalb/c又はC57Black/6マウスに由来する脾細胞を、IMDM−10内にrPorA若しくは18マーオリゴペプチドが存在する、又は培地のみが存在する中、96ウェル丸底プレート(Greiner)において1.5×105個の細胞/150μlにて培養した。4日目に、0.5μCi(18.5kBq)3H−チミジン(Amersham、米国)をウェルに添加し、細胞を更に18時間培養した。細胞を捕集し、3H−チミジンの取込みを、Wallac 1205βプレート液体シンチレーションカウンターを用いて、カウント/分(CPM)として求めた。結果を、抗原存在下の培養物のCPMを、培地のみが存在する培養物のCPMで割った商として算出した、3つのウェルに基づく刺激指数(SI)±SDとして表す。
【0254】
結果II:MHCクラスIIリガンドーム
最少培地内でのタンパク質の発現、及び14N及び15N同位体ラベリング効率
実験法IIのアプローチDに記載するように作製された14N−及び15N−標識全細胞百日咳菌調製物の膜複合体中の細菌性タンパク質をSDS−PAGEで分離し、ウェスタンブロッティング法で分析した。線維状赤血球凝集素、P.69パータクチン、百日咳毒素サブユニット1と4、及び線毛2が14N−及び15N−標識調製物中に類似した割合で発現したが、これは重い同位体で標識された培地中で正常にタンパク質が発現したことを示唆する。14N−及び15N−P.69パータクチンバンドから抽出されたタンパク質のLCMS分析では、P.69パータクチンタンパク質の重い形態は、その軽い形態と比較して1.2%の質量増加が確認された。更に、14N−及び15N−P.69パータクチン由来のトリプシン消化物から得られたMS/MSスペクトルにより、重いアミノ酸、及び軽いアミノ酸への典型的なフラグメンテーションが明らかとなり、P.69パータクチンタンパク質の全配列において、安定同位体標識が成功したことが確認された。
【0255】
同様に、タンパク質の発現、及び14N及び15N−標識効率を、実験法IIに基づき、rP.69パータクチンについてアプローチEに記載するように、髄膜炎菌に由来するOMV調製物についてアプローチFに記載するように評価した。rP.69パータクチン及びPorA調製物のそれぞれについて、全タンパク質においてタンパク質が完全であること、及び標識が成功したことが認められた。
【0256】
実験アプローチDにおけるHLA−DR2結合百日咳菌エピトープの同定
病原体関連HLA−DRリガンドを、実験法IIに記載するように、14N−及び15N−標識全細胞百日咳菌調製物からなる1:1(OD/OD)混合物でパルシングしたHLA−DR2ホモ接合型MDDCから抽出した。百日咳菌MHCクラスIIリガンド候補に相当する質量スペクトルのダブレットを、数学的な探索アルゴリズムを用いて、LCMSスペクトル中で探索した。図13(上段)は、788.94Da及び797.42Daのm/zにおいて検出された一致する同位体クラスターの例を示し、17個の窒素原子を含むエピトープ候補に相当する(図13、挿入図)。エピトープのMS/MSスペクトル(図13、下段)により、部分配列が明らかとなり、百日咳菌から得られた推定周辺タンパク質(受入番号CAE43606)に由来するエピトープとして同定された。6つのその他のスペクトルダブレットについても配列決定され、これらは、百日咳菌の4つの異なるタンパク質に由来する4つのエピトープの長さ変異体に相当した(表4)。内部標準を用いて当該エピトープの半定量化を行った。
【0257】
実験アプローチEにおけるHLA−DR結合百日咳菌rP.69パータクチンエピトープの同定
病原体関連HLA−DRリガンドを、実験法IIに記載するように、14N−及び15N−標識rP.69パータクチンからなる1:1(OD/OD)混合物でパルシングしたHLA−DRホモ接合型MDDCプールバッチから抽出した。P.69パータクチンMHCクラスIIリガンド候補に相当する質量スペクトルのダブレットを、数学的な探索アルゴリズムを用いて、LCMSスペクトル中で探索した。図14(上段)は、770.43Da及び780.39Daのm/zにおいてスペクトルダブレットとして検出された一致する同位体クラスターの例を示し、20個の窒素原子を含むエピトープ候補に相当する(図14、挿入図)。エピトープのMS/MSスペクトル(図14、下段)により、P.69Prn1(受入番号AJ011091)の一致するペプチド配列LRDTNVTAVPASGAPAを含むb−タイプイオンシリーズが明らかとなった。全部で、5つのスペクトルダブレットについて配列決定され、これらは百日咳菌P.69パータクチン由来の2つのエピトープ領域に関する長さ変異体に相当した(表5)。内部標準を用いて当該エピトープの半定量化を行った。
【0258】
本発明者らは、健常成人ドナー集団から得られたPBMCを、エピトープに相当する合成標準品を用いてin vitroで再刺激することにより、2箇所百日咳菌P.69パータクチンエピトープ領域の免疫原性をヒトで調査した。ASTLWYAESNALSKRLG配列を含む第2のエピトープ領域では、少なくとも2名のドナーにおいて免疫認識が認められ(表5)、当該エピトープは機能的ヒトエピトープであることを示唆した。
【0259】
実験アプローチFにおけるHLA−DR1及び2結合髄膜炎菌エピトープの同定
実験法IIの記載に従い、標識されたOMV調製物でパルシングした4つのMDDCバッチから、HLA−DR対立遺伝子とPorA血清亜型とからなる下記の組合せ:すなわち、HLA−DR1/P1.7−2、4、HLA−DR2/P1.7−2,4、HLA−DR1/P1.5−2,10、及びHLA−DR2/P1.5−2,10でそれぞれ表されるような病原体関連HLA−DRリガンドを抽出した。P1.7−2,4又はP1.5−2,10に由来するMHCクラスIIリガンド候補に相当する質量スペクトルのダブレットを、数学的な探索アルゴリズムを用いてLCMSスペクトル中で探索した。図15はスペクトルダブレットの2つの例、すなわち、HLA−DR1/P1.7−2,4リガンドーム(A図)では、1065.01Da及び1076.47Daのm/zにおいて検出された1対の[MH2]2+イオン、及びHLA−DR2/P1.5−2,10リガンドーム(B図)では、701.01Da及び708.67Daのm/zにおいて検出された1対の[MH3]3+イオンを示している。両質量スペクトルダブレットにおける質量増加は、各エピトープ候補内に24個の窒素原子が存在することを示唆する。1065.01Daのm/zにおける[MH2]2+イオン、及び701.01Daのm/zにおける[MH3]3+イオンのそれぞれについてMS/MS配列決定を行うと、スペクトルが一致するPorA類似エピトープSPDFSGFSGSVQFVPIQNSK(P1.7−2,4、C図)、及びSPEFSGFSGSVQFVPAQNSK(P1.5−2,10、D図)が明らかになった。総じて、実験法IIに記載するように、アプローチFに基づき調製された4つのリガンドームでは、38個のスペクトルダブレットが、髄膜炎菌PorAに由来する8個のエピトープ領域から得られた長さ変異体、血清亜型変異体、及び/又はHLA−DR対立遺伝子特異的リガンドとして特徴づけられた(表6)。内部標準を用いて当該エピトープの半定量化を行った。天然に提示されるエピトープのうち、28個が新規のPorA HLA−DRリガンドであったが、このうち10個が公知の4つのエピトープ領域(領域1、3、7、及び8)に位置し、すでに記載された。したがって、新規4つの天然に提示されるPorAエピトープ領域(領域2、4、5、及び6)が開示され、このうち領域2はヒトCD4+ T細胞を刺激することが報告されている(Wiertzら、1992年)。調査した全4リガンドームにおいて、領域8のエピトープが豊富に発現していた。HLA−DR1/P1.7−2,4リガンドームについて質量スペクトルダブレットのMS配列決定を行い、かかるエピトープ領域で2つの変異体が明らかとなったが、これらは、領域8リガンドーム全体の約1%に相当し、IGNYTQINAASVGコア配列を含み、但し、C−末端が+114Da又は+270Daだけ延長しており、PorA内のこれほどに高度に保存的な領域内にあるエピトープの天然型C−末端隣接残基とは一致しない(図16)。かかる変異体、及びこの目的のために作製された合成標準品の、14N−及び15N−標識された対応部分のLCMSの特徴により、当該延長は、アミノ酸GG(若しくはN)又はGGR(若しくはNR)をそれぞれ含むコア配列の非正統的な延長に一致し、かかる延長は分子内スプライシング事象に起因するはずであることが明らかになった。MHCクラスIIリガンドのスプライシングは記載されていない。MHCクラスIIリガンドのPTMとして、初めてスプライシングが実証されたが、これは専用の免疫学実験デザイン及びLCMSと併用した安定同位体の利用に直接関連した結果である。したがって、MHCクラスIIリガンドのPTM現象について無知であることは、MHCクラスIリガンドの場合もそうであるように、T細胞エピトープに関する本発明者らの知識にとって現実的脅威であり、解決されるべき上記アプローチを必要とする。
【0260】
実験法のアプローチFに記載するように、得られた4つのリガンドームの質量スペクトルダブレットについて総合的なLCMS分析を行い、これから得られた別の結果として、PorAタンパク質に由来しない24個の更なるエピトープが同定された。総じて、当該エピトープは、髄膜炎菌OMV調製物に関連する13種類の異なるタンパク質に由来する18個のエピトープ(の長さ変異体)に相当した(表7)。かかる新知見により、エピトープ領域、及びT細胞の標的となり得る当該エピトープの各前駆体タンパク質が開示される。
【0261】
オンライン2次元プラットフォームLCMS技術を用いたMHCリガンドームのハイスループット分析
MHCリガンドームのハイスループット分析を促進するために、アプローチFに記載するOMVでパルシングしたMDDCバッチに由来するMHCクラスIIペプチドサンプルの同一物の半量を、オンライン2次元プラットフォームLCMS技術で分析した。プラットフォームLCMS分析を用いて、オフラインで調製されたアプローチFのSCX分画についてすでに同定されているエピトープに加えて、オンライン2−Dアプリケーションにより、髄膜炎菌のPorA及び非PorAタンパク質に由来する、これまでに同定されていなかった19個の更なるペプチドエピトープが、迅速且つサンプル消費量が少ないやり方で得られた(表8)。
【0262】
MHCリガンドームは免疫原性及び防御と(相互に)相関している
したがって、この種類の分析を行うことにより、抗原由来の顕在しないCD4T細胞エピトープ領域の多様性が明らかになるばかりでなく、T細胞反応の免疫原性及び質、並びに最終的なPTMを制御するエピトープの相対的な量についても洞察がもたらされる。重要なこととして、本実施例が示すように、当該実験装置を同位体標識及び専用LCMS技術と併用すると、病原体抗原変異体、及びT細胞免疫におけるヒトHLA−DR多型の役割を調査するのに役立つ。複数の公知の髄膜炎菌PorA血清亜型について配列アラインメントを行うと、表6に記載する天然に存在する領域のうち、3領域(領域1、4、及び5)においてマイクロ多型が生じていることが明らかとなった。本発明者らは、健常成人ドナーから得たPBMC、及び免疫したBalb/cマウス、及びC57black/6マウスから得た脾細胞を用いて、新規のマイクロ多型領域である領域4の機能的役割について調査した。第1に、本発明者らは、P1.7−2,4又はP1.5−2,10をそれぞれ有する様々なドナーから得たPBMCを繰返し、in vitroで再刺激することにより、SPDFSGFSGSVQFVPIQNSK(P1.7−2,4変異体、以後D/Iと呼ぶ)、又はSPEFSGFSGSVQFVPAQNSK(P1.5−2,10変異体、以後E/A)それぞれに特異的なT細胞系が産生されるかどうか調べた。ドナー1名から、特異的T細胞系(MB−71.5)が産生され、これはオーバーラッピング合成18マーペプチドであるPEFSGFSGSVQFVPAQNS(code S011−24)、及びSGSVQFVPAQNSKSAYTP(code S011−25)でパルシングした自己抗原提示細胞を認識し、P1.7−2,4の対応部分に相当するオーバーラッピング合成18マーペプチドである、PDFSGFSGSVQFVPIQNS(code S004−29)、及びSGSVQFVPIQNSKSAYTP(code S004−30)ではなく、1.5−2,10エピトープ変異体に相当する(図17A)。MB−71.5 T細胞も増殖し(図17B)、又はP1.5−2,10タンパク質でパルシングした自己抗原提示細胞で刺激するとサイトカインを産生した(図示せず)。その他のPorA変異体、5種類からは、P1.5−1,2−2(E/A)、及びP1.22,14(D/A)変異体のみがMB−71.5 T細胞を再刺激したが、P1.7−2,4(D/I)、P1.7,16(E/I)、又はP1.19,15(D/I)はそうではなく、これは、自然にプロセシングされる「領域4」エピトープのC−末端側半分に含まれるアラニン(A)残基がT細胞認識に必須であることを示唆する。更に、テストした個体(n=5)のいずれからも、非D/I又はA/I特異的T細胞を検出することができた。前臨床動物試験で、本発明者らは同様の観察結果を得た:すなわち、P1.5−1,2−2(P1.5−2,10のようなE/A「領域4」変異体)で免疫したBalb/cマウスから得た脾細胞は、P1.5−2,10「領域4」ペプチドS011−24、及びS011−25に反応したが、P1.7−2,4特異的、領域4変異体S004−29、及びS004−30には反応しなかった(データは示されていない)。P1.7−2,4で免疫したマウスは、領域4に対して(測定可能な)T細胞反応を示さなかった(表9)。更に、P1.5−2,10で免疫したBalb/cマウスに由来するT細胞ハイブリドーマは、6野生型PorA変異体存在下で、ヒトMB−71.5細胞と同じ反応パターンを有した(データは示されていない)。また、C57black/6マウスでも、P1.7−2,4は、「領域4」に対して(測定可能な)T細胞反応を誘発することができなかったが、P1.5−1,2−2「領域4」は免疫原性であった。両PorAは、専用LCMS技術により同定された別のエピトープ領域、「領域6」に対するT細胞反応を等しく誘発することが可能であり、これは、P1.7−2,4はT細胞抗原として全く機能不能なわけではないことを示唆した(表9)。P1.7−2,4は、ヒトの他マウスにおいても殺菌性抗体を誘発する能力に乏しいが(参考文献15及び16)、これはワクチン開発上問題である。Balb/cマウスでは、抗「領域4」脾細胞が増殖する程度は、各マウスにおいてP1.5−1,2−2に対する殺菌力価のレベルに相関した(R=0.78)。総じて、かかる免疫原性データにより、「領域4」はPorAの重要な機能性T細胞エピトープとして位置づけられる。
【0263】
考察:MHCクラスI及びIIリガンドーム
初めての試みとして、いくつかの方法を新規に組み合わせると、プラットフォームLCMS技術と呼ばれる改良型LCMSデバイスがもたらされ、これは標準的なLCMS技術を用いたのでは、これまで限られた数のエピトープしか得られなかった、MHCクラスI及びIIペプチドサンプルのエピトープマイニングに寄与した。更に、具体的なエピトープの特徴、例えば長さ、長さ変異体、量、及びPTMが、本プラットフォーム技術により明らかにされた。
【0264】
関連する免疫学的実験デザイン及び同位体標識を併用することで、本プラットフォームLCMS技術は、先例のない高いレベルの精度と感度で、病原体関連MHCクラスI及びIIリガンドームを確実に同定することができる。
【0265】
プラットフォームLCMS技術は、必要とされるより長尺の、そしてより信頼性のある液体スプレープロセスと併用して低流速、高カラムヘッド圧力を可能にすることにより、MHCクラスI及びIIリガンドーム分析でこれまでに用いられた(標準的な)LCMS法と、同技術そのものとを区別する。総じて、同技術はMS/MSサイクル時の強度及びイオンの滞留時間を向上させ、したがって、LCMS/MSの同定性能を、優位的及び準優位的なペプチド種を確実に特徴づけることが可能なレベルまで高める。
【0266】
【表1】
【0267】
【表2−1】
【表2−2】
【表2−3】
【表2−4】
【0268】
【表3】
【0269】
【表4】
【0270】
【表5】
【0271】
【表6−1】
【表6−2】
【表6−3】
【0272】
【表7−1】
【表7−2】
【表7−3】
【0273】
【表8−1】
【表8−2】
【0274】
【表9】
(参考文献)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ構成物、分析カラム、エレクトロスプレーイオン化ユニット、及び質量分析器を備える、サンプルを分析するための液体クロマトグラフィー質量分析デバイスであって、ポンプ構成物が、分析カラムにナノスケールフローを提供するように構成、及び配置され、分析カラムが液体クロマトグラフィー用の固定相を備え、分析カラムが70μm未満の内径を有し、エレクトロスプレーイオン化ユニットが、サンプルの流路における、前記分析カラムの下流に位置するエレクトロスプレーするためのエミッターを備え、前記エミッターが70μm未満の内径を有し、質量分析器がエミッターの下流に位置し、エミッターが、サンプルをスプレーするための先細りの末端部を備え、前記先細りの末端部には、導電性1次コーティング物、及び保護2次コーティング物が設けられている、上記液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項2】
分析カラム及びエミッターが55μm未満の内径、好ましくは最大55μmの内径を有する、請求項1に記載の液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項3】
エミッターが分析カラムと一体的に形成されている、請求項1又は2に記載の液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項4】
保護2次コーティング物がカーボン、好ましくは導電性カーボンセメントを含む、請求項1から3までのいずれか一項に記載の液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項5】
保護2次コーティング物が、シリコン合金、又は電導性ポリマーである、請求項1から3までのいずれか一項に記載の液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項6】
エミッターの先細りの末端部が20μ未満、好ましくは10μm未満の内径を有する、請求項1から5までのいずれか一項に記載の液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項7】
第1のコーティング物が金等の貴金属である、請求項1から6までのいずれか一項に記載の液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項8】
エミッターが、第1及び第2のコーティング物を備えた溶融シリカを含む、請求項1から7までのいずれか一項に記載の液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項9】
液体クロマトグラフィーカラムからのサンプルなどのサンプルを受容するための上流末端部と、サンプルをエレクトロスプレーするための第2の先細りの末端部とを備える、ナノスケールフローのためのエミッターであって、エミッターがエレクトロスプレーイオン化ユニットの一部であり、エミッターが溶融シリカから形成され、最大55μmの内径を有し、エミッターの先細りの末端部が、金の導電性1次コーティング物、及び2次導電性カーボンベースコーティング物を備える、上記エミッター。
【請求項10】
先細りの末端部近傍のエミッターの内径が最大10μmである、請求項9に記載のエミッター。
【請求項11】
ポンプ構成物、分析カラム、エレクトロスプレーイオン化ユニット、及び質量分析器を備える、サンプルを分析するための液体クロマトグラフィー質量分析デバイスであって、ポンプ構成物が、分析カラムにナノスケールフローを提供するように構成、及び配置され、分析カラムが液体クロマトグラフィー用の固定相を備え、分析カラムが70μm未満の内径を有し、エレクトロスプレーイオン化ユニットが、サンプル流路における、分析カラムの下流に位置するエレクトロスプレーするためのエミッターを備え、前記エミッターが70μm未満の内径を有し、質量分析器がエミッターの下流に位置し、液体クロマトグラフィー質量分析デバイスが少なくとも2次元のクロマトグラフィーを含み、1次元目は少なくとも強カチオン交換(SCX)を含み、2次元目は逆相クロマトグラフィーを含み、溶出溶媒が一般に塩を含まない溶液である、上記液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項12】
前記塩を含まない溶液が酢酸を含む、請求項11に記載の液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項13】
前記塩を含まない溶液がギ酸を含む、請求項11又は12に記載の液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項14】
ポンプ構成物、分析カラム、エレクトロスプレーイオン化ユニット、及び質量分析器を備える、サンプルを分析するための液体クロマトグラフィー質量分析(LCMS)デバイスであって、ポンプ構成物が、分析カラムにナノスケールフローを提供するように構成、及び配置され、分析カラムが、内径70μm未満の空孔を有するチューブ要素により形成され、液体クロマトグラフィー用の固定相が前記空孔に収納され、エレクトロスプレーイオン化ユニットが、サンプル流路における、分析カラムの下流に位置するエレクトロスプレーするためのエミッターを備え、前記エミッターが70μm未満の内径を有し、質量分析器が、エミッターの下流に位置し、LCMSデバイスが、LCMSデバイスの少なくとも2つのチューブ要素を接続するための接続要素を備え、前記チューブ要素が外径を有し、空孔が内径を有し、接続要素が、少なくとも2つのフェルール、及びフェルールを収納するための少なくとも2つの収納用の空孔を備え、前記フェルールが、チューブ部分を収納するのに適合した内径を有する内部空孔を有し、収納スペース内に収納された2つのフェルールがチューブ要素とアライメントされ、接続要素が、フェルールの内部空孔と接続し、及びアライメントされた内部ボリュームを備え、前記内部ボリュームが、チューブ部分の末端部を収納するように適合した、及びチューブ部分の末端部が内部ボリューム内で突合せ状態になるのを可能にする接続状態の内径を有する、上記液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項15】
接続要素が、収納用の空孔内でフェルールを係止するための係止システムを備える、請求項14、又は請求項7と組み合わせた請求項1から13までのいずれか一項に記載の液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項16】
内部ボリューム及びフェルール内部空孔の内径が、チューブ部分の外径に概ね等しい、請求項14若しくは15、又は請求項14と組み合わせた請求項1から13までのいずれか一項に記載の液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項17】
接続要素が3方接続要素である、請求項14から16までのいずれか一項、又は請求項14と組み合わせた請求項1から13までのいずれか一項に記載の液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項18】
3方接続要素の第3の接続が、内部ボリュームの出口を形成する、請求項17に記載の液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項19】
最大55μmの内径を有する内部空孔を有する少なくとも45cm長のカラムを提供し、カラムの1つの末端部にフリットを設け、適する液体クロマトグラフィー固相材料をカラム内に充填することにより、液体クロマトグラフィーカラムを作製する方法であって、カラムが充填中に振動を受ける、上記方法。
【請求項20】
最大55μmの内径を有する内部空孔を有する少なくとも45cm長のカラムを提供し、カラムの1つの末端部にフリットを設け、適する液体クロマトグラフィー固相材料をカラム内に充填することにより、液体クロマトグラフィーカラムを作製する方法であって、液体クロマトグラフィー固相材料が、低粘度溶媒中のスラリーとして提供される、上記方法。
【請求項21】
低粘度溶媒がアセトンである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記低粘度溶媒の粘度が最大0.35cPである、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
内径が最大35μmである、請求項19から22までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
カラムが溶融シリカカラムである、請求項19から23までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
エピトープを同定する方法における、請求項1から8までのいずれか一項、又は請求項11から18までのいずれか一項に記載のデバイスの使用。
【請求項26】
エピトープを同定する方法であって、
a)MHCクラスI及びMHCクラスIIエピトープのうちの少なくとも1つのエピトープを含むサンプルを調製するステップであって、エピトープが抗原提示細胞によってプロセシング及び提示されるステップと、
b)エピトープを同定するために、請求項1から8までのいずれか一項、又は請求項11から18までのいずれか一項に記載するデバイスにおいて、a)で得られたサンプルを分析するステップと
を含む、上記方法。
【請求項27】
請求項25又は26に記載のエピトープを含む組成物を生成する方法であって、前記エピトープを含む分子の化学的合成及び組換え発現のうちの少なくとも1つを含む、上記方法。
【請求項28】
請求項25に記載の使用又は請求項26に記載の方法により取得可能なエピトープ。
【請求項29】
請求項25若しくは26に記載のエピトープ、又は前記エピトープを含む組成物の使用であって、このエピトープを有する病原体により引き起こされる疾患を予防及び/又は治療するためのワクチンの製造を目的とする、上記使用。
【請求項30】
請求項25若しくは26に記載のエピトープ、又は前記エピトープを含む組成物の使用であって、哺乳動物の免疫状態を評価することを目的とする、上記使用。
【請求項1】
ポンプ構成物、分析カラム、エレクトロスプレーイオン化ユニット、及び質量分析器を備える、サンプルを分析するための液体クロマトグラフィー質量分析デバイスであって、ポンプ構成物が、分析カラムにナノスケールフローを提供するように構成、及び配置され、分析カラムが液体クロマトグラフィー用の固定相を備え、分析カラムが70μm未満の内径を有し、エレクトロスプレーイオン化ユニットが、サンプルの流路における、前記分析カラムの下流に位置するエレクトロスプレーするためのエミッターを備え、前記エミッターが70μm未満の内径を有し、質量分析器がエミッターの下流に位置し、エミッターが、サンプルをスプレーするための先細りの末端部を備え、前記先細りの末端部には、導電性1次コーティング物、及び保護2次コーティング物が設けられている、上記液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項2】
分析カラム及びエミッターが55μm未満の内径、好ましくは最大55μmの内径を有する、請求項1に記載の液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項3】
エミッターが分析カラムと一体的に形成されている、請求項1又は2に記載の液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項4】
保護2次コーティング物がカーボン、好ましくは導電性カーボンセメントを含む、請求項1から3までのいずれか一項に記載の液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項5】
保護2次コーティング物が、シリコン合金、又は電導性ポリマーである、請求項1から3までのいずれか一項に記載の液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項6】
エミッターの先細りの末端部が20μ未満、好ましくは10μm未満の内径を有する、請求項1から5までのいずれか一項に記載の液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項7】
第1のコーティング物が金等の貴金属である、請求項1から6までのいずれか一項に記載の液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項8】
エミッターが、第1及び第2のコーティング物を備えた溶融シリカを含む、請求項1から7までのいずれか一項に記載の液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項9】
液体クロマトグラフィーカラムからのサンプルなどのサンプルを受容するための上流末端部と、サンプルをエレクトロスプレーするための第2の先細りの末端部とを備える、ナノスケールフローのためのエミッターであって、エミッターがエレクトロスプレーイオン化ユニットの一部であり、エミッターが溶融シリカから形成され、最大55μmの内径を有し、エミッターの先細りの末端部が、金の導電性1次コーティング物、及び2次導電性カーボンベースコーティング物を備える、上記エミッター。
【請求項10】
先細りの末端部近傍のエミッターの内径が最大10μmである、請求項9に記載のエミッター。
【請求項11】
ポンプ構成物、分析カラム、エレクトロスプレーイオン化ユニット、及び質量分析器を備える、サンプルを分析するための液体クロマトグラフィー質量分析デバイスであって、ポンプ構成物が、分析カラムにナノスケールフローを提供するように構成、及び配置され、分析カラムが液体クロマトグラフィー用の固定相を備え、分析カラムが70μm未満の内径を有し、エレクトロスプレーイオン化ユニットが、サンプル流路における、分析カラムの下流に位置するエレクトロスプレーするためのエミッターを備え、前記エミッターが70μm未満の内径を有し、質量分析器がエミッターの下流に位置し、液体クロマトグラフィー質量分析デバイスが少なくとも2次元のクロマトグラフィーを含み、1次元目は少なくとも強カチオン交換(SCX)を含み、2次元目は逆相クロマトグラフィーを含み、溶出溶媒が一般に塩を含まない溶液である、上記液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項12】
前記塩を含まない溶液が酢酸を含む、請求項11に記載の液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項13】
前記塩を含まない溶液がギ酸を含む、請求項11又は12に記載の液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項14】
ポンプ構成物、分析カラム、エレクトロスプレーイオン化ユニット、及び質量分析器を備える、サンプルを分析するための液体クロマトグラフィー質量分析(LCMS)デバイスであって、ポンプ構成物が、分析カラムにナノスケールフローを提供するように構成、及び配置され、分析カラムが、内径70μm未満の空孔を有するチューブ要素により形成され、液体クロマトグラフィー用の固定相が前記空孔に収納され、エレクトロスプレーイオン化ユニットが、サンプル流路における、分析カラムの下流に位置するエレクトロスプレーするためのエミッターを備え、前記エミッターが70μm未満の内径を有し、質量分析器が、エミッターの下流に位置し、LCMSデバイスが、LCMSデバイスの少なくとも2つのチューブ要素を接続するための接続要素を備え、前記チューブ要素が外径を有し、空孔が内径を有し、接続要素が、少なくとも2つのフェルール、及びフェルールを収納するための少なくとも2つの収納用の空孔を備え、前記フェルールが、チューブ部分を収納するのに適合した内径を有する内部空孔を有し、収納スペース内に収納された2つのフェルールがチューブ要素とアライメントされ、接続要素が、フェルールの内部空孔と接続し、及びアライメントされた内部ボリュームを備え、前記内部ボリュームが、チューブ部分の末端部を収納するように適合した、及びチューブ部分の末端部が内部ボリューム内で突合せ状態になるのを可能にする接続状態の内径を有する、上記液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項15】
接続要素が、収納用の空孔内でフェルールを係止するための係止システムを備える、請求項14、又は請求項7と組み合わせた請求項1から13までのいずれか一項に記載の液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項16】
内部ボリューム及びフェルール内部空孔の内径が、チューブ部分の外径に概ね等しい、請求項14若しくは15、又は請求項14と組み合わせた請求項1から13までのいずれか一項に記載の液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項17】
接続要素が3方接続要素である、請求項14から16までのいずれか一項、又は請求項14と組み合わせた請求項1から13までのいずれか一項に記載の液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項18】
3方接続要素の第3の接続が、内部ボリュームの出口を形成する、請求項17に記載の液体クロマトグラフィー質量分析デバイス。
【請求項19】
最大55μmの内径を有する内部空孔を有する少なくとも45cm長のカラムを提供し、カラムの1つの末端部にフリットを設け、適する液体クロマトグラフィー固相材料をカラム内に充填することにより、液体クロマトグラフィーカラムを作製する方法であって、カラムが充填中に振動を受ける、上記方法。
【請求項20】
最大55μmの内径を有する内部空孔を有する少なくとも45cm長のカラムを提供し、カラムの1つの末端部にフリットを設け、適する液体クロマトグラフィー固相材料をカラム内に充填することにより、液体クロマトグラフィーカラムを作製する方法であって、液体クロマトグラフィー固相材料が、低粘度溶媒中のスラリーとして提供される、上記方法。
【請求項21】
低粘度溶媒がアセトンである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記低粘度溶媒の粘度が最大0.35cPである、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
内径が最大35μmである、請求項19から22までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
カラムが溶融シリカカラムである、請求項19から23までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
エピトープを同定する方法における、請求項1から8までのいずれか一項、又は請求項11から18までのいずれか一項に記載のデバイスの使用。
【請求項26】
エピトープを同定する方法であって、
a)MHCクラスI及びMHCクラスIIエピトープのうちの少なくとも1つのエピトープを含むサンプルを調製するステップであって、エピトープが抗原提示細胞によってプロセシング及び提示されるステップと、
b)エピトープを同定するために、請求項1から8までのいずれか一項、又は請求項11から18までのいずれか一項に記載するデバイスにおいて、a)で得られたサンプルを分析するステップと
を含む、上記方法。
【請求項27】
請求項25又は26に記載のエピトープを含む組成物を生成する方法であって、前記エピトープを含む分子の化学的合成及び組換え発現のうちの少なくとも1つを含む、上記方法。
【請求項28】
請求項25に記載の使用又は請求項26に記載の方法により取得可能なエピトープ。
【請求項29】
請求項25若しくは26に記載のエピトープ、又は前記エピトープを含む組成物の使用であって、このエピトープを有する病原体により引き起こされる疾患を予防及び/又は治療するためのワクチンの製造を目的とする、上記使用。
【請求項30】
請求項25若しくは26に記載のエピトープ、又は前記エピトープを含む組成物の使用であって、哺乳動物の免疫状態を評価することを目的とする、上記使用。
【図1】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11−1】
【図11−2】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15−1】
【図15−2】
【図16−1】
【図16−2】
【図17】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11−1】
【図11−2】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15−1】
【図15−2】
【図16−1】
【図16−2】
【図17】
【公表番号】特表2012−502296(P2012−502296A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526823(P2011−526823)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【国際出願番号】PCT/NL2009/050539
【国際公開番号】WO2010/030178
【国際公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(511002939)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【国際出願番号】PCT/NL2009/050539
【国際公開番号】WO2010/030178
【国際公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(511002939)
【Fターム(参考)】
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