説明

LXRアゴニストを有効成分として含有する、動脈硬化の予防又は治療薬

【課題】 従来から抗動脈硬化予防薬・改善薬としての有効利用が期待されているLXRアゴニストは、臨床利用においては副作用を示す恐れがあるため、副作用の少ないLXRアゴニストを有効成分として含有する、動脈硬化の予防及び治療薬の開発が望まれている。
【解決手段】 インクレチンの分泌を抑制しないLXRアゴニストを有効成分として含有する、動脈硬化の予防又は治療薬、及びインクレチン遺伝子の発現量を指標とした、副作用の少ない、動脈硬化の予防及び治療薬の有効成分として有用な化合物のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動脈硬化の予防又は治療薬に関する。より具体的には、本発明は、インクレチンの分泌を抑制しないLXRアゴニストを有効成分として含有する、動脈硬化の予防又は治療薬に関する。本発明の動脈硬化の予防又は治療薬は、有効成分として使用するLXRアゴニストがインクレチンの分泌を抑制しないため、インスリン分泌の低下といった副作用がなく非常に有用である。また、本発明は、副作用の少ない、動脈硬化の予防又は治療薬の有効成分として有用な化合物のスクリーニング方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
LXR(Liver X receptor)は核内受容体であり、LXRαおよびLXRβの2つのアイソフォームが存在する。LXRαは主に肝臓、脂肪組織、小腸、腎臓及びマクロファージに発現し、LXRβは幅広い組織に発現している。LXR欠損マウスに高コレステロール食を与えると脂肪肝、血中のLDLコレステロール濃度上昇、及びHDLコレステロール濃度低下などの症状を示すことが報告されており(非特許文献1及び非特許文献2)、LXRがコレステロール代謝において重要な役割を果たしていることが強く示唆されている。また、肝臓及び小腸などでは正常なLXRα及びLXRβを発現し、マクロファージではLXRα及びLXRβが欠損している動脈硬化モデルマウスの症状を解析することにより、マクロファージにおけるLXRα及びLXRβの活性が動脈硬化の罹患率に強い影響を及ぼすことが明らかにされている(非特許文献3)。
【0003】
LXRの天然のリガンド(受容体結合分子)は、コレステロールの異化・同化過程で生成するオキシステロール(22−R-ヒドロキシコレステロールなど)であるが、様々な合成リガンド(T0901317やGW395など)も知られている。オキシステロールがLXRに結合すると、ABC(ATP-binding cassette)トランスポーターA1、G1、G5およびG8の発現が上昇し、その結果、コレステロールの細胞外への放出が促進される。このような現象から、LXRのアゴニストによって、動脈硬化巣における泡沫化マクロファージのABCトランスポーターA1(以下、「ABCA1」と略す)の発現量が上昇し、細胞外へのコレステロールの放出を促進することができると考えられる。
【0004】
例えば、非特許文献4においては、LXRアゴニストである上記の合成リガンドT0901317を投与した高脂肪食負荷LDL受容体欠損マウスにおいて、HDLコレステロールの上昇、VLDL及びLDLコレステロールの低下、及び動脈硬化病変部位面積の減少が報告されている(非特許文献4)。また、特許文献1〜3には、LXRアゴニストとして機能する様々な合成リガンドが、高コレステロール血症やアテローム性動脈硬化症等の疾患の予防・治療に有効であることが示唆されている。
【0005】
また、LXRアゴニストは、脂肪細胞による糖の取り込みの増加や、肝臓における糖新生の低下といった作用を示し、そのためインスリン抵抗性の改善に使用することが提案されている。例えば、特許文献4は、LXRアゴニストの糖尿病の治療・予防薬としての用途を提案している。具体的には、特許文献4においては、自然発症糖尿病モデルである Zucker Diabetic Fatty (ZDF) ラットにLXRアゴニストを投与することにより、膵臓のランゲルハンス島におけるインスリンの濃度が上昇することを確認している。しかし、他方で、肝臓や膵β細胞のLXRにオキシステロールなどのアゴニストが結合すると、転写因子であるSREBP−1c(sterol regulatory element-binding protein-1c)の発現が上昇し、SREBP−1cの制御下にある遺伝子の発現が上昇し、その結果、脂肪合成が促進され、それにより脂肪肝及び脂肪の過剰蓄積に伴う膵β細胞のアポトーシス、そして膵β細胞の死滅によるインスリンの産生・分泌の低下といった現象を観察されるという報告もある(非特許文献5)。
【0006】
上述したように、LXRアゴニストは、ABCトランスポーターの発現上昇によるコレステロールの細胞からの放出という機能から、動脈硬化や糖尿病の予防薬・改善薬の候補として注目されている。しかし、LXRアゴニストの生体内における作用については未だ不明な点が多く、肝臓や膵β細胞においてLXRアゴニストが脂肪合成の促進によるインスリンの産生・分泌の低下など以外にも福作用を示す恐れがある。従って、医薬目的でLXRアゴニストを使用する際には、目的とする作用を発揮するだけでなく、副作用のリスクを可能な限り低減できる医薬の開発が望まれていた。
【0007】
【特許文献1】特表2002-539155号公報
【特許文献2】特表2004-509161号公報
【特許文献3】特開2007-284367号公報
【特許文献4】国際公開公報 WO 2006/120213
【非特許文献1】Peetら、Cell, 93, pp.693-704, 1998
【非特許文献2】Albertiら、J. Clin. Invest., 107, pp.565-573, 2001
【非特許文献3】Tangiralaら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99, pp.11896-11901, 2002
【非特許文献4】Terasakaら、FEBS Lett., 536, pp.6-11, 2003
【非特許文献5】Sung Sik Choeら、Diabetes, 56, pp.1534-1543, 2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来から抗動脈硬化予防薬・改善薬としての有効利用が期待されているLXRアゴニストは、臨床利用においては副作用を示す恐れがあるため、副作用の少ないLXRアゴニストを有効成分として含有する、動脈硬化の予防又は治療薬の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、上記の課題を解決するために、副作用の少ないLXRアゴニストを有効成分として含有する、動脈硬化の予防又は治療薬を提供することである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の動脈硬化の予防又は治療薬を使用すると、インスリンの分泌低下などの副作用を抑制しつつ、効果的に動脈硬化の予防又は治療を行うことができる。更に、本発明のスクリーニング方法により、インスリンの分泌低下などの副作用が少ない、動脈硬化の予防又は治療薬の有効成分として有用な化合物を容易に特定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本願発明者は、上述の課題と実情に鑑み、長年にわたる深い洞察と試行錯誤の結果、LXRのアゴニストの中には、インクレチンの分泌抑制作用を有するものが存在し、このようなLXRアゴニストを生体に投与すると、インスリンの分泌低下、更には糖尿病の発症を促す恐れがあることを見出した。また、インクレチン遺伝子の発現量を指標として、インスリンの分泌低下などの副作用の少ない、動脈硬化の予防及び治療薬の有効成分として有用な化合物をスクリーニングできることを見出した。これらの知見に基づき、本発明を完成した。
【0012】
次に、本発明の理解を容易にするために、本発明の基本的特徴及び好ましい諸態様を列挙する。
【0013】
1.インクレチンの分泌を抑制しないLXRアゴニストを有効成分として含有する、動脈硬化の予防又は治療薬。
【0014】
2.該インクレチンがGLP−1であることを特徴とする、前項1に記載の動脈硬化の予防又は治療薬。
【0015】
3.副作用の少ない、動脈硬化の予防及び治療薬の有効成分として有用な化合物のスクリーニング方法であって、
(1)インクレチンを分泌する細胞をLXRアゴニストで処理し、
(2)処理した細胞について、インクレチン遺伝子の発現量を測定し、そして
(3)工程(2)で得られた測定値を、LXRアゴニストで処理していないインクレチン分泌細胞におけるインクレチン遺伝子の発現量と比較し、インクレチン遺伝子の発現量を低下させることのないLXRアゴニストを、動脈硬化の予防及び治療に有効であり、且つ副作用の少ない化合物であると判定する、
ことを包含する方法。
【0016】
4.該LXRアゴニストが、コレステロールの細胞外への排出を促進するものであることを特徴とする、前項3に記載の方法。
【0017】
5.該細胞が、腸内分泌細胞であることを特徴とする、前項3又は4に記載の方法。
【0018】
6.該副作用が、インクレチンの分泌抑制であることを特徴とする、前項3〜5のいずれかに記載の方法。
【0019】
7.該インクレチンが、GLP−1であることを特徴とする、前項3〜6のいずれかに記載の方法。
【0020】
8.前項3のスクリーニング方法で得られた化合物を有効成分として含有する、動脈硬化の予防又は治療薬。
【0021】
9.LXRアゴニストを含有するインクレチン阻害剤。
【0022】
10.該インクレチンが、GLP−1であることを特徴とする、前項9に記載のインクレチン阻害剤。
【0023】
11.該LXRアゴニストが、T0910317であることを特徴とする、前項9又は10に記載のインクレチン阻害剤。
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0025】
本発明者らは、LXRアゴニストを有効成分とする動脈硬化の予防又は治療薬の開発に際し、LXRアゴニストがインクレチンの合成・分泌に与える影響に着目した。
【0026】
インクレチンはインスリンの分泌に関係のあるホルモンの1つであり、糖質、脂質や蛋白摂取後に、消化管内分泌細胞である腸L細胞や腸K細胞から分泌される消化管ホルモンの総称である。インクレチンには、GIP(gastric inhibitory polypeptide またはglucose dependent insulinotropic polypeptide)とGLP−1(glucagon-like peptide 1)の2種類が存在する。インクレチンは、げっ歯類においては膵β細胞によるインスリン分泌を促進することが確認されている。特にGLP−1には膵β細胞を増殖させる作用も確認されており、食欲を低下させる作用を有することも知られている。GLP−1のアナログやGLP−1分解酵素の阻害剤が次世代の糖尿病治療薬として期待されるほど、GLP−1は糖尿病との深い関わりが知られている。
【0027】
本発明者らは、公知のLXRリガンド(T0901317)を用いて、インクレチンを分泌する腸内分泌細胞株であるSTC−1細胞とGLUTag細胞における、LXRアゴニストがインクレチン遺伝子の発現に与える影響を検証した。その結果、上記のLXRアゴニストが、インクレチンの分泌を大幅に抑制することを見出した。従って、LXRアゴニストの中には、インスリンの分泌を抑制することによって糖尿病の発症などの副作用を示す恐れのあるものが存在し、そのためLXRアゴニストを動脈硬化(特にアテローム性動脈硬化)の予防又は治療薬をして用いる際には、インクレチンの分泌を抑制しない化合物をLXRアゴニストとして使用することにより、副作用の少ない動脈硬化の予防・治療薬を提供できることを知見した。
【0028】
尚、本明細書において「LXRアゴニスト」とは、LXRαおよびLXRβのいずれか又は両方に対してリガンドとして結合する性質を有し、かつLXRとの結合によってLXRを活性化する物質である。本発明においては、LXRの活性化に伴う細胞からのコレステロールの放出に着目しているため、コレステロール逆輸送経路の活性化に関与する遺伝子(例えば、ABCA1遺伝子)の発現レベルを上昇させる物質がLXRアゴニストとして好ましい。このようなLXRアゴニストはコレステロール逆輸送経路を活性化して、それにより末梢からのコレステロール流出を増加させ、HDLコレステロールを増加させるとともに動脈硬化病変のコレステロール含量を減少させる作用を有する。
【0029】
また、本発明において「インクレチンの分泌を抑制しない」とは、インクレチンを分泌する細胞をLXRアゴニストで処理した際に、インクレチン遺伝子の発現量が、LXRアゴニストで処理していない場合の発現量の約90%以上であることを意味する。ここで使用するインクレチン分泌細胞や試薬並びに測定の方法及び条件などについては、本発明のスクリーニング方法に関連して後述するものを用いることができる。
【0030】
上記のインクレチンに関しては、GIPとGLP−1の両方の分泌を抑制しないことが最も望ましいが、いずれか一方でもかまわない。しかし、インスリン分泌とのより強い関連性が報告されているGLP−1の分泌を抑制しないことが好ましい。
【0031】
本発明の予防又は治療薬としては、上記のLXRアゴニストをそのまま使用してもよいが、該LXRアゴニストと少なくとも1種の製剤用添加物とを含む医薬組成物として調製することが好ましい。このような医薬組成物において、LXRアゴニストとして使用する化合物は、塩、水和物又は溶媒和物などの形で用いても良い。本発明の予防又は治療薬の投与経路は特に限定されず、経口的又は非経口的に投与することが可能であり、治療目的などに応じて適宜選択できる。例えば、経口投与用の固形製剤、経口投与用の液体製剤、注射剤、坐剤、軟膏剤、吸入剤、点眼剤、点鼻剤、又は経皮吸収剤などのいずれの形態であってもよい。これらの投与形態に適した医薬組成物は公知の方法により製造できる。
【0032】
経口投与用固形製剤を調製する場合は、有効成分である上記の物質に賦形剤を添加し、さらに必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、又は矯臭剤等の製剤用添加物を1種又は2種以上加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、又はカプセル剤等として調製すればよい。製剤用添加物としては、例えば、当業界で一般的に使用されているものを使用することができる。より具体的には、賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、又は珪酸等が挙げられる。結合剤としては、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、又はポリビニルピロリドン等が挙げられる。崩壊剤としては、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、又は乳糖等が挙げられる。滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコール等が挙げられる。矯味剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。
【0033】
経口投与用の液体製剤を調製する場合は、有効成分である上記のLXRアゴニストに矯味剤、緩衝剤、安定化剤、又は矯臭剤等の製剤用添加物を1種又は2種以上を加えて常法により内服液剤、シロップ剤、又はエリキシル剤等として調製すればよい。矯味剤としては、例えば上記に挙げたものを私用することができ、緩衝剤としては、例えばクエン酸ナトリウム等を使用することができる。安定化剤としては、例えばトラガント、アラビアゴム、又はゼラチン等が挙げられる。
【0034】
注射剤を調製する場合は、有効成分である上記のLXRアゴニストにpH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、又は局所麻酔剤等の製剤用添加物を1種又は2種以上添加し、常法により皮下、筋肉及び静脈内注射剤を製造することができる。pH調製剤及び緩衝剤としては、例えばクエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、又はリン酸ナトリウム等が挙げられる。安定化剤としては、例えばピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、又はチオ乳酸等が挙げられる。局所麻酔剤としては、例えば塩酸プロカイン又は塩酸リドカイン等が挙げられる。等張化剤としては、例えば塩化ナトリウム又はブドウ糖等が挙げられる。
【0035】
坐薬を調製する場合は、有効成分である上記のLXRアゴニストに公知の坐薬用担体、例えば、ポリエチレングリコール、ラノリン、カカオ脂、又は脂肪酸トリグリセライド等を添加し、さらに必要に応じてTween(登録商標)等の界面活性剤等を添加して、常法により製造することができる。
【0036】
軟膏剤を調製する場合は、有効成分である上記のLXRリガンドに通常使用される基剤、安定化剤、湿潤剤、又は保存剤等の製剤用添加物を1種又は2種以上必要に応じて添加し、常法により混合して製剤化すればよい。基剤としては、例えば流動パラフィン、白色ワセリン、サラシミツロウ、オクチルドデシルアルコール、又はパラフィン等が挙げられる。保存剤としては、例えばp−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸エチル、又はp−ヒドロキシ安息香酸プロピル等が挙げられる。
【0037】
本発明において、医薬組成物の形態は上記に説明した特定の形態に限定されることはなく、例えば、常法により吸入剤、点眼剤、又は点鼻剤などの形態の医薬組成物を調製することもできる。
【0038】
本発明の予防又は治療薬の投与量は特に限定されず、患者の年齢及び体重、予防及び/又は治療すべき疾患の症状、投与形態、及び投与回数等の条件に応じて適宜選択することができる。
【0039】
副作用の少ない、動脈硬化の予防及び治療薬の有効成分として有用な化合物のスクリーニング方法
本発明の他の1つの態様においては、副作用の少ない、動脈硬化の予防及び治療薬の有効成分として有用な化合物のスクリーニング方法であって、(1)インクレチンを分泌する細胞をLXRアゴニストで処理し、(2)処理した細胞について、インクレチン遺伝子の発現量を測定し、そして(3)工程(2)で得られた測定値を、LXRアゴニストで処理していないインクレチン分泌細胞におけるインクレチン遺伝子の発現量と比較し、インクレチン遺伝子の発現量を低下させることのないLXRアゴニストを、副作用の少ない、動脈硬化の予防及び治療薬の有効成分として有用な化合物であると判定する、ことを包含する方法が提供される。
【0040】
本発明のスクリーニング方法の工程(1)では、インクレチンを分泌する細胞をLXRアゴニストで処理する。インクレチンを分泌する細胞は、上記したように消化管内分泌細胞である腸L細胞や腸K細胞である。本発明の方法で使用するインクレチン分泌細胞に特に限定はなく、生体試料から採取した細胞や、既に確立された細胞系でもかまわない。例えば、腸内分泌細胞系であるSTC−1細胞とGLUTag細胞などを使用することができる。尚、STC−1細胞はトランスジェニックマウスで生じた、小腸K細胞由来の腫瘍から得た細胞であり、インクレチンであるGLP−1をコードする遺伝子とGIPをコードする遺伝子を発現している。そしてGLUTag細胞は、トランスジェニックマウスで生じた小腸L細胞由来の腫瘍から得た細胞であり、GLP−1をコードする遺伝子のみを発現している。
【0041】
インクレチン分泌細胞をLXRアゴニストで処理する方法に特に限定はなく、例えば、インクレチン分泌細胞をLXRアゴニストの存在下で培養すればよい。この際の培養方法にも特に限定はなく、一般的な動物細胞の培養方法をそのまま適用することができる。培地としては、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)等の基礎培地に仔ウシ血清等の成分を適宜添加したものを用いることができる。
【0042】
本発明のスクリーニング方法においては被試験物質としてLXRアゴニストを使用する。上述したように、「LXRアゴニスト」とは、LXRαおよびLXRβのいずれか又は両方に対してリガンドとして結合する性質を有し、かつLXRとの結合によってLXRを活性化する物質である。被試験物質として用いるLXRアゴニストは、コレステロール逆輸送経路の活性化に関与する遺伝子(例えば、ABCA1遺伝子)の発現レベルを上昇させる物質が好ましい。種々のLXRアゴニストが報告されているため(例えば、特許文献3や特許文献4を参照)、公知のLXRアゴニストを被試験物質として使用することができる。また、化合物ライブラリーなどから公知の方法に従ってLXRアゴニストを選択し、本発明のスクリーニング方法に使用することもできる。例えば、本願の実施例1で行ったような、LXR関連遺伝子の発現に対する化合物の影響を調べることで、動脈硬化の治療や予防に有効なLXRアゴニストを選択することができる。
【0043】
スクリーニングに使用する被試験物質の量及び細胞の処理方法には特に限定はなく、被試験物質の溶解性、物理的性質、特性等を考慮して適宜選択することができるが、インクレチン分泌細胞の増殖を阻害しない範囲から選択することが好ましい。具体的な処理方法としては、例えば、被験物質を溶媒(例えばDMSO)に溶解したものを調整し、被検物質の終濃度が所望の値となるように細胞の培養液に加えたり、被検物質を加えた培地で培地交換したりすることによって被試験物質と細胞を接触させ、更に細胞を1〜3日程度培養することにより、細胞を被試験物質(LXRアゴニスト)で処理することができる。
【0044】
工程(2)においては、処理したインクレチン分泌細胞におけるインクレチン遺伝子の発現量を測定する。インクレチン遺伝子の発現量は、RNAへの転写レベルとタンパク質への翻訳レベルの2つの段階で測定することができる。RNAへの転写レベルでインクレチンの発現量を測定する場合は、インクレチン遺伝子のmRNA量を測定する。この際の測定試料は、インクレチン分泌細胞から全RNAを抽出することによって調製することができる。全RNAをインクレチン分泌細胞から抽出する際には公知の方法が使用でき、例えば、グアニジンチオシアネート/塩化セシウム法により抽出することができる。その他、市販のRNA抽出キットを使用することにより、全RNAを簡便に抽出することもできる。また、インクレチン遺伝子のmRNA量を測定する方法としては、インクレチン遺伝子のmRNAを特異的に定量できる方法であれば特に制限はなく、例えば、RT−PCR、定量PCR、DNAマイクロアレイ、ノーザンブロット等を用いることができる。特に、RT−PCRは簡単かつ迅速にインクレチン遺伝子のmRNA量を測定できるので、きわめて好適である。RT−PCRを行うためのプライマーは、公知のインクレチン遺伝子の塩基配列に基づいて設計することができるが、市販されているものを使用することもできる。例えば、本願の実施例2で使用したTaqMan Gene Expression Assaysの既製プライマーであるMm00801712_m1(プログルカゴン用)及びMm00433601_m1(GIP用)が挙げられる(尚、プログルカゴン遺伝子の遺伝子産物は、膵島α細胞においてはグルカゴンであるが、腸内分泌細胞においてはGLP−1なので、GLP−1の検出にプログルカゴンプライマーを使用することができる)。
【0045】
一方、タンパク質の定量によってインクレチン遺伝子の発現量を測定する場合は、インクレチン分泌細胞が分泌したインクレチン量を測定することができる。細胞が分泌したインクレチン量を測定する場合は、例えば、培養上清やその濃縮物を測定試料とすればよい。インクレチン量を測定する方法としては、インクレチンを特異的に測定できる方法であればよく、例えば、市販のインクレチン特異的抗体を使用した免疫測定法やウェスタンブロッティングを用いることができる。免疫測定法の例としては、酵素免疫測定法(ELISA)、放射性免疫測定法(RIA)、蛍光免疫測定法(FIA)等が挙げられる。本願の実施例3においては、GLP−1 ELISAキットワコー(日本国、和光純薬製)を用いて、ELISA法で培養上清中のGLP−1量を測定した
【0046】
尚、工程(2)において発現量を測定するインクレチン遺伝子は、GIP遺伝子とプログルカゴン遺伝子の両方または一方であるが、糖尿病との関連性が指摘されているプログルカゴン遺伝子の発現量を測定することが望ましい。
【0047】
続いて工程(3)では、上記(2)の測定値を、被検物質によって処理していないインクレチン分泌細胞におけるインクレチン遺伝子の発現量と比較する。被検物質によって処理していない細胞におけるインクレチン遺伝子の発現量は、上記(2)の測定値(即ち、被検物質によって処理した細胞におけるインクレチン遺伝子の発現量)と同じ方法で測定する。尚、測定誤差などの測定値への影響を低減し、より正確な比較を行うために、被検物質によって処理した場合も、処理なしの場合も、測定値を内部標準などで補正してから比較することが望ましい。
【0048】
本発明の方法において、副作用の少ない、動脈硬化の予防及び治療薬の有効成分として有用な化合物であると判定する際の具体的な判定基準については、LXRアゴニストで処理したインクレチン分泌細胞インクレチン遺伝子の発現量が、LXRアゴニストで処理していない場合の発現量の約90%以上である時に、該LXRアゴニストを副作用の少ない、動脈硬化の予防及び治療薬の有効成分として有用な化合物であると判定する。
【0049】
以上のような本発明のスクリーニング方法で得られた化合物を有効成分として含む動脈硬化の予防又は治療薬は、インスリン分泌低下などの副作用の少ない、動脈硬化の予防及び治療薬として有用である。
【0050】
インクレチン阻害剤
本発明の更に他の1つの態様によれば、LXRアゴニストを含有するインクレチン阻害剤が提供される。本発明のインクレチン阻害剤においては、上記のT0910317のようにインクレチンの分泌を抑制するLXRアゴニストを使用する。ここで、「インクレチンの分泌を抑制する」とは、上記のスクリーニング方法と同様の方法で、LXRアゴニストで処理したインクレチン分泌細胞のインクレチン遺伝子の発現量を、LXRアゴニストで処理していないインクレチン分泌細胞のインクレチン遺伝子の発現量と比較し、前者が後者の約50%以下であることを意味する。
【0051】
上述したように、インクレチンは、糖質、脂質や蛋白摂取後に、消化管内分泌細胞である腸L細胞や腸K細胞から分泌される消化管ホルモンの総称であり、GIPとGLP−1の2種類が存在する。本発明のインクレチン阻害剤は、未知の部分が多い、インクレクチンの生体内における作用などの様々な研究において有効に活用することができる。また、インスリン分泌促進作用が知られるGLP−1を阻害する化合物は、低血糖症の治療やインスリン抵抗性の予防などにも有効であると考えられる。
【0052】
本発明のインクレチン阻害剤の一例は合成LXRアゴニストであるT0901317である。この化合物は、GLP−1をコードするプログルカゴン遺伝子の発現のみならず、GLP−1蛋白の分泌も抑制する。T0901317以外のインクレチン阻害剤も上述したようなスクリーニング方法によって単離することができる。具体的には、本発明スクリーニング方法の工程(3)において、被試験物質による処理によってインクレチン分泌細胞のインクレチン遺伝子の発現量が低下することが判明した被試験物質を、インクレチン阻害剤として使用することができる。
【0053】
本発明においては、上記のインクレチンの分泌を抑制するLXRアゴニストをそのままのインクレチン阻害剤として使用することもできるが、該LXRアゴニストと少なくとも1種の製剤用添加物とを含む医薬組成物をインクレチン阻害剤として使用することが好ましい。LXRアゴニストを含む医薬組成物を調製する際に使用する他の成分については、動脈硬化予防・治療剤に関連して上記したものを使用することができる。
【0054】
また、インクレチン阻害剤の投与経路についても経口的又は非経口的に投与することが可能であり、投与形態についても、動脈硬化予防・治療剤に関連して上記したものと同様のものが使用できる。
【0055】
本発明のインクレチン阻害剤が分泌を抑制するインクレチンは、GLP−1及びGIPのいずれか、若しくは両方である。例えば、T0901317は、GLP−1の分泌を抑制する。
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0057】
LXRアゴニストのLXR関連遺伝子への影響
(1)細胞培養及び細胞の薬剤処理
腸内分泌細胞系であるSTC−1細胞とGLUTag細胞を準備した。STC−1細胞はトランスジェニックマウスで生じた、小腸K細胞由来の腫瘍から得た細胞株であり、インクレチンであるGLP−1をコードする遺伝子とGIPをコードする遺伝子を発現している。GLUTag細胞は、トランスジェニックマウスで生じた小腸L細胞由来の腫瘍から得た細胞株であり、GLP−1をコードする遺伝子のみを発現している。いずれの細胞も、カナダ、トロント大学の DJ Drucker 博士より分与されたものである。初めに、各細胞を10% FBSと1% ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM(Dulbeco's Modified Eagle's Medium)で維持した後、6穴培養皿のウェルに細胞数が2〜5×105/ウェルになるように移し、一晩培養した。培養条件は37℃、5% CO2雰囲気下とした。
【0058】
次に、合成LXRアゴニストであるT0901317を用いて細胞を処理した。具体的には、終濃度が10mMとなるようにT0901317(米国、カルビオケム製)を添加した培地(10% FBSを含有するDMEM)を用いて、培養した細胞の培地交換を行った。T0901317はジメチルスフォキシド(DMSO)に溶解したものを使用し、対照としては、0.05%のDMSOを添加した培地を使用した。培地交換後に細胞を24〜72時間培養し、薬剤処理細胞とした。
【0059】
(2)リアルタイム定量的RT−PCRによる、LXR関連遺伝子発現量の測定
上記(1)項で作製した薬剤処理細胞から、RNeasy mini kit(米国、キアゲン製)を用いて全RNAを抽出し、以下の表1に示す遺伝子の発現量を、mRNAの定量によって測定した。具体的には、0.5ng相当の全RNAから、PrimeScript RT kit(日本国、タカラ製)を用いてcDNAを合成し、表1に示したプライマーを用い、SYBR Green Master mixを試薬としたPCRを行った。PCRは、50℃で2分、次に95℃で10分を1サイクルとして40サイクル行い、最後に95℃、15秒、更に60℃、1分間処理することで完了した。PCR用の機器としてABI 7300(米国、アプライド・バイオシステムズ製)を用い、解析はSequence Detection System Ver 1.3(米国、アプライド・バイオシステムズ製)で行った。
【0060】
【表1】

【0061】
表1に示した遺伝子の内、CYCA(サイクロフィリンA)とTBP(TATAボックス結合タンパク質)のmRNA量は、内部標準として測定した。各遺伝子のmRNA量を内部標準で補正した結果を、図1Aと1B及び図2A、2Bと2Cに示した。
【0062】
LXRの合成リガンドであるT0901317で処理したSTC−1細胞とGLUTag細胞の両方において、SREBP1の発現が上昇した(図1A)。また、ChREBPの発現も、わずかながら上昇した(図1B)。更に、STC−1細胞とGLUTag細胞の両方において、FASとACCの発現が上昇した(図2Aと2B)。FASとACCは共に転写因子であるSREBP1−cの標的となる遺伝子であるため、SREBP1の発現上昇に伴って、FASとACCの発現も上昇したと考えられる。この結果は、LXRリガンドであるT0901317が腸内分泌細胞における脂肪合成を亢進することを示している。
【0063】
また、T0901317処理によって、STC−1細胞とGLUTag細胞の両方において、コレステロールの細胞からの放出に関わるABCA1の発現量が著しく上昇した(図2C)。具体的には、対照(DMSO処理細胞)のABCA1の発現量が内部標準とほぼ等しい時に、T0901317処理によってABCA1発現量は、STC−1細胞では内部標準の17倍以上、GLUTag細胞でも少なくとも5倍近くまで上昇した。そして、脂肪酸を認識する受容体であるGPR40とGPR120、胆汁酸の受容体であるFXR、及びコレステロールの合成に関わる転写因子であるSREBP−2の発現には変化が認められなかった(結果は図示しない)。これらの結果は、T0901317はコレステロールの合成に関与する遺伝子の発現を増加させることなく、コレステロールの放出に係るABCA1の発現量を上昇させるので、血中コレステロール量の低下を促す作用を有することを示唆している。
【実施例2】
【0064】
LXRアゴニストのインクレチン遺伝子への影響
実施例1の(1)項と同様にSTC−1細胞とGLUTag細胞を培養し、T0901317(米国、カルビオケム製)による薬剤処理を行った。薬剤処理時間は36〜72時間とした。
【0065】
次に、実施例1の(2)項と同様に、リアルタイム定量的RT−PCRによって、インクレチンであるGLP−1とGIPのそれぞれをコードする遺伝子(GLP−1についてはプログルカゴン遺伝子)の発現量を測定した。尚、GIPの発現はSTC−1細胞にのみ認められる。各細胞株から、RNeasy mini kit(米国、キアゲン製)を用いて全RNAを抽出した。次に、0.5ng相当の全RNAから、PrimeScript RT kit(日本国、タカラ製)を用いてcDNAを合成し、PCRによってプログルカゴン遺伝子とGIP遺伝子のそれぞれの発現量を測定した。PCRは、TaqMan Gene Expression Assaysの既製プライマーであるMm00801712_m1(プログルカゴン用)とMm00433601_m1(GIP用)を用い、実施例1の(2)項と同じ条件下で行った。
【0066】
尚、プログルカゴン遺伝子の遺伝子産物は、膵島β細胞においてはグルカゴンであるが、腸内分泌細胞においてはGLP−1である。従ってこの実験では、GLP−1の検出にプログルカゴンプライマーを使用した。
【0067】
更に、内部標準として、CYCAとTBPのmRNA量も実施例1の(2)項と同様に測定した。プログルカゴン遺伝子とGIP遺伝子のmRNA量を内部標準で補正した結果を、結果を図3Aと3Bに示した。
【0068】
T0901317は、インクレクチンに対して負の作用を示した。具体的には、プログルカゴン遺伝子の発現量がSTC−1細胞とGLUTag細胞の両方で減少した(図3A)。一方、GIPを発現するSTC−1細胞におけるGIP発現量は、内部標準によって結果が変動し、プログルカゴン遺伝子のような、一定の発現抑制傾向は認められなかった(図3B)。
【0069】
これらの結果は、T0901317はインクレチンの1種であるGLP−1の発現を抑制するため、インシュリンの分泌抑制などの望ましくない作用を生じる可能性を示している。
【実施例3】
【0070】
LXRアゴニストのインクレチン分泌に対する影響
実施例1の(1)項と同様にGLUTag細胞を培養し、LXRアゴニストとしてT0901317(米国、カルビオケム製)を使用して細胞を処理した。具体的には、終濃度が10mMとなるように、T0901317を添加した培地(10% FBSを含有するDMEM)を用いて、培養した細胞の培地交換を行った。いずれの薬剤もDMSOに溶解したものを使用し、対照としては、0.05%のDMSOを添加した培地を使用した。薬剤処理時間は24時間とした。
【0071】
薬剤処理したGLUTag細胞の培養上清を採取した。培養上清に含まれるGLP−1蛋白の濃度を、GLP−1 ELISAキットワコー(日本国、和光純薬製)を用いて、ELISA法で測定した。また、培養上清の総蛋白量をProtein Assay kit(米国、Bio Rad製)を用いて測定した。GLP−1蛋白の濃度を、培養上清中の総蛋白1mg当たりのGLP−1量(ng)として求め、その結果を図4に示した。
【0072】
図4から明らかなように、T0901317処理によってGLP−1蛋白分泌量は対照(DMSO処理細胞)の約半分に低下した。この結果は、T0901317はプログルカゴン mRNA量を抑制するだけでなく、GLP−1としての分泌蛋白量も抑制していることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の動脈硬化の予防又は治療薬は、有効成分として使用するLXRアゴニストがインクレチンの合成及び分泌を抑制しないため、インスリン分泌の低下といった副作用がなく非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1A】腸内分泌細胞であるSTC−1細胞とGLUTag細胞において、LXRリガンドT0901317が転写因子であるSREBP1(sterol regulatory element-binding protein-1c)の発現に与える影響。STC−1細胞については、薬剤処理時間が36時間と72時間の結果を示し、GLUTag細胞については、薬剤処理時間が48時間と72時間の結果を示した。図中、0.05% DMSO処理をグレーで示し、10mM T0901317処理を黒で示した。更に、横軸の「D36h」、「D48h」と「D72h」は、それぞれ36時間、48時間と72時間のDMSO処理を意味し、「T36h」、「T48h」と「T72h」は、それぞれ36時間、48時間と72時間のT0901317処理を意味する。尚、上のパネルはTBPを内部標準として求めた結果であり、下のパネルはCYCAを内部標準として求めた結果である。
【図1B】腸内分泌細胞であるSTC−1細胞とGLUTag細胞において、LXRリガンドT0901317が転写因子であるChREBP(carbohydrate response element-binding protein)の発現に与える影響。STC−1細胞については、薬剤処理時間が36時間と72時間の結果を示し、GLUTag細胞については、薬剤処理時間が48時間と72時間の結果を示した。図中、0.05% DMSO処理をグレーで示し、10mM T0901317処理を黒で示した。更に、横軸の「D36h」、「D48h」と「D72h」は、それぞれ36時間、48時間と72時間のDMSO処理を意味し、「T36h」、「T48h」と「T72h」は、それぞれ36時間、48時間と72時間のT0901317処理を意味する。尚、上のパネルはTBPを内部標準として求めた結果であり、下のパネルはCYCAを内部標準として求めた結果である。
【図2A】腸内分泌細胞であるSTC−1細胞とGLUTag細胞において、LXRリガンドT0901317がFAS(脂肪酸合成酵素)の発現に与える影響。STC−1細胞については、薬剤処理時間が36時間と72時間の結果を示し、GLUTag細胞については、薬剤処理時間が48時間と72時間の結果を示した。図中、0.05% DMSO処理をグレーで示し、10mM T0901317処理を黒で示した。更に、横軸の「D36h」、「D48h」と「D72h」は、それぞれ36時間、48時間と72時間のDMSO処理を意味し、「T36h」、「T48h」と「T72h」は、それぞれ36時間、48時間と72時間のT0901317処理を意味する。尚、上のパネルはTBPを内部標準として求めた結果であり、下のパネルはCYCAを内部標準として求めた結果である。
【図2B】腸内分泌細胞であるSTC−1細胞とGLUTag細胞において、LXRリガンドT0901317がACC(アセチルCoAカルボキシラーゼ)の発現に与える影響。STC−1細胞については、薬剤処理時間が36時間と72時間の結果を示し、GLUTag細胞については、薬剤処理時間が48時間と72時間の結果を示した。図中、0.05% DMSO処理をグレーで示し、10mM T0901317処理を黒で示した。更に、横軸の「D36h」、「D48h」と「D72h」は、それぞれ36時間、48時間と72時間のDMSO処理を意味し、「T36h」、「T48h」と「T72h」は、それぞれ36時間、48時間と72時間のT0901317処理を意味する。尚、上のパネルはTBPを内部標準として求めた結果であり、下のパネルはCYCAを内部標準として求めた結果である。
【図2C】腸内分泌細胞であるSTC−1細胞とGLUTag細胞において、LXRリガンドT0901317がABCA1(ATP-binding cassette transporter A1)の発現に与える影響。いずれの細胞も薬剤処理時間が24時間の結果を示した。図中、0.05% DMSO処理を白で示し、10mM T0901317処理を黒で示した。更に、横軸の「D24h」は、24時間のDMSO処理を意味し、「T24h」は、24時間のT0901317処理を意味する。尚、上のパネルはTBPを内部標準として求めた結果であり、下のパネルはCYCAを内部標準として求めた結果である。
【図3A】腸内分泌細胞であるSTC−1細胞とGLUTag細胞において、LXRリガンドT0901317がインクレチンであるGLP−1(glucagon-like peptide 1)をコードするプログルカゴン遺伝子の発現に与える影響。STC−1細胞については、薬剤処理時間が36時間と72時間の結果を示し、GLUTag細胞については、薬剤処理時間が48時間と72時間の結果を示した。図中、0.05% DMSO処理をグレーで示し、10mM T0901317処理を黒で示した。更に、横軸の「D36h」、「D48h」と「D72h」は、それぞれ36時間、48時間と72時間のDMSO処理を意味し、「T36h」、「T48h」と「T72h」は、それぞれ36時間、48時間と72時間のT0901317処理を意味する。尚、上のパネルはTBPを内部標準として求めた結果であり、下のパネルはCYCAを内部標準として求めた結果である。
【図3B】腸内分泌細胞であるSTC−1細胞において、LXRリガンドT0901317がインクレチンであるGIP(gastric inhibitory polypeptide/glucose dependent insulinotropic polypeptide)の発現に与える影響。薬剤処理時間が36時間と72時間の結果を示した。図中、0.05% DMSO処理をグレーで示し、10mM T0901317処理を黒で示した。更に、横軸の「D36h」と「D72h」は、それぞれ36時間と72時間のDMSO処理を意味し、「T36h」と「T72h」は、それぞれ36時間と72時間のT0901317処理を意味する。尚、上のパネルはTBPを内部標準として求めた結果であり、下のパネルはCYCAを内部標準として求めた結果である。
【図4】腸内分泌細胞であるGLUTag細胞によるGLP−1蛋白の分泌に対し、LXRリガンドT0901317が与える影響。薬剤処理時間は24時間である。図中、DMSO処理を白で示し、T0901317処理を黒で示した。分泌GLP−1蛋白の濃度は、培養上清中の総蛋白1mg当たりのGLP−1量(ng)とした。
【配列表フリーテキスト】
【0075】
配列番号1: CYCA mRNA検出用のフォワードPCRプライマー
配列番号2: CYCA mRNA検出用のリバースPCRプライマー
配列番号3: TBP mRNA検出用のフォワードPCRプライマー
配列番号4: TBP mRNA検出用のリバースプPCRライマー
配列番号5: SREBP1 mRNA検出用のフォワードPCRプライマー
配列番号6: SREBP1 mRNA検出用のリバースPCRプライマー
配列番号7: ChREBP mRNA検出用のフォワードPCRプライマー
配列番号8: ChREBP mRNA検出用のリバースプPCRライマー
配列番号9: FAS mRNA検出用のフォワードプPCRライマー
配列番号10: FAS mRNA検出用のリバースプPCRライマー
配列番号11: ACC mRNA検出用のフォワードPCRプライマー
配列番号12: ACC mRNA検出用のリバースプPCRライマー
配列番号13: ABCA1 mRNA検出用のフォワードPCRプライマー
配列番号14: ABCA1 mRNA検出用のリバースPCRプライマー
配列番号15: GPR40 mRNA検出用のフォワードPCRプライマー
配列番号16: GPR40 mRNA検出用のリバースPCRプライマー
配列番号17: GPR120 mRNA検出用のフォワードPCRプライマー
配列番号18: GPR120 mRNA検出用のリバースPCRプライマー
配列番号19: FXR mRNA検出用のフォワードPCRプライマー
配列番号20: FXR mRNA検出用のリバースプPCRライマー
配列番号21: SREBP2 mRNA検出用のフォワードPCRプライマー
配列番号22: SREBP2 mRNA検出用のリバースPCRプライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクレチンの分泌を抑制しないLXRアゴニストを有効成分として含有する、動脈硬化の予防又は治療薬。
【請求項2】
該インクレチンがGLP−1であることを特徴とする、請求項1に記載の動脈硬化の予防又は治療薬。
【請求項3】
副作用の少ない、動脈硬化の予防及び治療薬の有効成分として有用な化合物のスクリーニング方法であって、
(1)インクレチンを分泌する細胞をLXRアゴニストで処理し、
(2)処理した細胞について、インクレチン遺伝子の発現量を測定し、そして
(3)工程(2)で得られた測定値を、LXRアゴニストで処理していないインクレチン分泌細胞におけるインクレチン遺伝子の発現量と比較し、インクレチン遺伝子の発現量を低下させることのないLXRアゴニストを、動脈硬化の予防及び治療に有効であり、且つ副作用の少ない化合物であると判定する、
ことを包含する方法。
【請求項4】
該LXRアゴニストが、コレステロールの細胞外への排出を促進するものであることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
該細胞が、腸内分泌細胞であることを特徴とする、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
該副作用が、インクレチンの分泌抑制であることを特徴とする、請求項3〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
該インクレチンが、GLP−1であることを特徴とする、請求項3〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
請求項3のスクリーニング方法で得られた化合物を有効成分として含有する、動脈硬化の予防又は治療薬。
【請求項9】
LXRアゴニストを含有するインクレチン阻害剤。
【請求項10】
該インクレチンが、GLP−1であることを特徴とする、請求項9に記載のインクレチン阻害剤。
【請求項11】
該LXRアゴニストが、T0910317であることを特徴とする、請求項9又は10に記載のインクレチン阻害剤。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−227615(P2009−227615A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75833(P2008−75833)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【Fターム(参考)】