説明

LiMPO4化合物の合成方法、及び、この化合物のリチウム蓄電池(storagebattery)の電極材料としての使用

LiMPO化合物は、350℃以下の温度の下において、硝酸リチウムのようなリチウムの原料と、化学式XMPO,nHOで示される化合物と、の反応によって合成され、Xは、−NH、及び、−Hから選択されるラジカルを示し、及び、Mは、Coと、Niと、Mnと、から選択される遷移金属である。さらに、XMPO,nHO化合物は、2つの前躯体の間の反応の期間に現れる小片の形状である、特有な形態を有する。従って、合成されたLiMPO化合物は、有利には、リチウム蓄電池のための電極の活性材料として用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LiMPO化合物、及び、それらの誘導体(derivative)に関するものであり、Mは、コバルト、ニッケル、マンガンからなる群から選択される遷移金属(transition metal) である。本発明は、この化合物のリチウム蓄電池の電極材料としての使用と、この化合物の合成と、に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウム蓄電池は、自立型電源(autonomous power source)、詳細には、携帯用機器(portable equipment)として、ニッケル−カドミニウム(Ni-Cd)、又は、金属ニッケル−水素化物(Ni-MH)電池、に対して、取って代わろうとしている。この傾向は、リチウム蓄電池のパフォーマンスが進歩し続けることによって、説明することができ、その進歩は、リチウム蓄電池に、Ni-Cd、及び、Ni-MHの電池のものと比べて、実質的に高い、質量エネルギー密度(Mass energy density)と、体積エネルギー密度(Volume energy density) と、を与えるものである。従って、Liイオンタイプである最初のリチウム蓄電池は、約85Wh/kgの質量エネルギー密度を有していたが、現在では、約200Wh/kgの質量エネルギー密度を得ることが可能となっている。比較として、Ni-MH蓄電池とNi-Cd蓄電池とは、それぞれ、質量エネルギー密度として、100Wh/kgと50Wh/kgとを有する。
【0003】
現在市販されているリチウム蓄電池に用いられる活性材料(active material)は、正電極用として、LiCoO、LiNiO、酸化混合物Li(Ni,Co,Mn,Al)Oといった層状化合物(lamellar compound)、又は、LiMnの構成(composition)と近い構成を有するスピネル(spinelle)構造の化合物、である。負電極は、通常、炭素(黒鉛、コークス等)から、又は、可能であれば、LiTi12スピネルから、又は、リチウムの合金(Sn、Si等)から形成された金属から、作製される。これらの化合物の、論理的な単位質量あたりの能力(capacity)と、実験的(practical)な単位質量あたりの能力と、は、約4ボルトの金属リチウムに対しての動作電圧(operation voltage)において、LiCoOとLiNiOとは、275mAh/gと140mAh/gとであり、LiMnは、148mAh/gと120mAh/gとである。
【0004】
リチウム蓄電池の出現により、様々な世代の正電極材料は、途切れることなく市場に現れている。さらに、新世代のリチウム蓄電池は、ハイブリット、又は、電気による自動車、太陽電池(photovoltaic cell)等の増加する多様な応用のために、既に発展し続けている。しかしながら、増え続けるエネルギー要求(単位質量、及び/又は、単位体積あたりの)に応じるために、さらに良好なパフォーマンスを有する活性リチウム挿入材料(active lithium insertion material)を用いることは、必要不可欠である。
ここ数年間においては、XOm-タイプのポリアニオン・エンティティ(polyanionic entity)から構成され、Xは、P、S、Mo、W等であるような、三次元構造(three-dimensional structure)材料は、リチウム蓄電池の分野では、実際に興味深いものとなっており、さらに詳細には、その構造材料は、カンラン石(olivine)構造のオルトリン酸塩(orthophosphate)であり、その化学式(general formula)は、LiMPOであって、Mは、Fe、Mn、Co、Ni、である。
【0005】
化学式LiMPOで示される、4つの化合物においては、リン酸鉄リチウムLiFePOだけが、現在、実験的な要求に応えることが可能であり、それは、リン酸鉄リチウムの実験的比容量(practical specific capacity)が、例えば、170mAh/gという理論値に、近いものであるからである。それでも、この化合物は、Fe3+/Fe2+の電気化学対(electrochemical couple)が実現することに基づいて、Li/Liに対するポテンシャル(potential)3.4Vにおいて動作し、580Wh/kgの最大比質量エネルギー密度を示す。オルトリン酸マンガンと、オルトリン酸コバルトと、オルトリン酸ニッケルと、は、LiFePOと同形(isotype)であって、高いリチウムイオンの脱離/挿入(extraction/insertion)ポテンシャルを示すことで知られており、それぞれ、Li/Liに対する電圧が、4.1Vと、4.8Vと、5.1Vとである。これらの3つの化合物の理論的比容量は、LiFePOのものと、近い値である。しかしながら、これらの発展の大きな問題は、実験的な観点のおいては、満足するような実験的比容量値が得られていないこと、である。
【0006】
例として、M.E.Rabanal らの“Improved electrode characteristics of olivine-LiCoPO4 processed by high energy milling”(Journal of Power Sources、160(2006)523-528)において述べられているように、リチウムは、カンラン石構造のLiCoPO化合物から可逆的に離脱することができ、その際の、リチウムの電気化学的脱離/挿入ポテンシャルは、Li/Liに対して、約4.8Vであり、且つ、この化合物の理論的比容量は、約167mAh/gである。しかしながら、この文献に述べられたLiCoPoの実験的比容量は、比較的貧弱なものであった。さらに、LiCoPOにおける、リチウムイオンの脱離/挿入の電気化学曲線は、非常に大きな分極(polarization)を示しており、その主な理由は、この材料が、電気による、及び/又は、イオンによる、電気伝導性に乏しいからである。例えば、M.E.Rabanalらの文献によると、最初の放電における比容量は、C/10の条件において、低下し(104mAh/g)、且つ、サイクルの期間に、実験的比容量の急激なロス(loss)が見られる。このLiCoPO4化合物は、高い温度での固体状態中の反応工程によって得ることができる。LiCOと、Coと、(NHHPOと、の化学量的混合物(stoichiometric mixture)は、粉砕され、350℃の空気中で12時間焼成(calcine)される。冷却後、酸化物の混合物は、ペレット形状になるように加圧され、高い温度(750℃)において、空気中で24時間、アニール(anneal)される。次いで、生成物は、粉砕され、350℃の熱処理を9時間行い、最終的に、均一で高純度なLiCoPO化合物となる。
【0007】
LiCoPOの電気化学的パフォーマンスを、詳細には、電気伝導性を、改善するために、LiCoPOの粒子のサイズを減らし、及び、その粒子の表面に炭素を堆積することは、通常行われることである。従って、M.E.RaBanalらは、LiCoPOの電気伝導を改善するために、すなわち、蓄電池の分極を減らすために、30分間のミリング(milling)をして、LiCoPOの粒子のサイズを減らし、且つ、多量の炭素(0.8から20重量%)をその粒子に混ぜる、ことを提案している。
【0008】
しかしながら、炭素を用いているにもかかわらず、従来の合成工程により用意したLiCoPO4の電気化学的パフォーマンスは、あまり良いものではない。例えば、Satya Kishoreらの文献“Influence of isovalent ion substitution on the electrochemical performance of LiCoPO4”(Materials Research Bulletin、40(2005)1705-1712)によれば、最初の放電において、125mAh/gであるような、LiCoPOの比容量を得ることができる。このために、非常に多量の炭素(45重量%)を用いている。しかしながら、10回の充電/放電サイクルの後には、たった60mAh/gしか出力されない。従って、炭素は、最初の放電における初期容量(initial capacity)を増加させることが可能なのであるにもかかわらず、充電/放電サイクルを数回行った後に、得られる実験的比容量は、炭素の存在によって改善されることはない。さらに、多量の炭素は、電極の、従って、蓄電池の、質量エネルギー密度と、体積エネルギー密度と、に対して、大きな不利益をもたらす。
【0009】
最終的には、J.Wolfenstineらによる文献“Effect of oxygen partial pressure on the discharge capacity of LiCoPO4”(Journal of Power Sources、144(2005)226-230)において、合成されたLiCoPOの放電能力(discharge capacity)に対する効果が述べられており、この化合物は、アルゴン雰囲気中、空気中、又は、酸素中で行われた高い温度での、炭素を含む少なくとも1つの前躯体(precursor)との、固体状態での反応によって、合成される。アルゴン雰囲気中において用意したLiCoPOは、良好な電気化学的パフォーマンスを示すが、しかしながら、その値は、低いままである(最初の放電において、約100mAh/gである)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、電気化学的パフォーマンスの改善を示すような、LiMPO化合物、又は、その誘導体の1つである化合物、を得る事ができるような、合成方法を提供することであり、Mは、Coと、Niと、Mnと、有利にはコバルトと、から選択される遷移金属である。さらに詳細には、本発明の目的は、LiMPO化合物、又は、その誘導体の1つである化合物、を得る事ができるような、合成方法を提供することであり、それらの化合物は、弱い分極と、放電における高い出力比容量(output specific capacity)と、を示す。
【0011】
本発明によれば、下記の請求項によって、この目的を達成することができる。
【0012】
さらに詳細には、この目的は、以下の方法から達成することができ、この方法は、350℃以下の温度において、硝酸リチウムを、XMPO,nHO、又は、その誘導体の1つ、によって形成された固体状の前躯体と反応させる、少なくとも1つのステップを備え、Xは、−NHと、−Hと、から選択されるラジカルであり、nは、XMPOエンティティ(entity)と会合(associate)する水分子の数を示す。
【0013】
さらに、本発明の目的は、LiMPO化合物、又は、その誘導体の1つを提供することであり、Mは、Coと、Niと、Mnと、有利にはコバルトと、からなる群から選択される遷移金属であり、この化合物は、従来技術と比べて改善された電気化学的パフォーマンスを有する。
【0014】
本発明によれば、この目的は、以下の化合物から達成され、この化合物は、BET法による比表面積が、5m/g−1以上であり、小片(platelet)で形成された、ほとんど凝集(agglomerate)していない粒子からなる。
【0015】
さらに、本発明の目的は、リチウム蓄電池、及び、好ましくは、Liイオンタイプのリチウム蓄電池のための電極の活性物質として、このような化合物を用いることである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明にかかる特有の実施形態によって用意された化学式LiCoPOで示される化合物と、従来技術の合成方法によって用意された化学式LiCoPOで示される化合物との、X線回折ダイアグラム(X-ray diffraction diagrams)(λCuKα)を示すグラフである。
【図2】平面(a、b)のおけるLiCoPOの結晶構造を示す。
【図3】本発明にかかる特有な実施形態によって得られたLiCoPO化合物を160倍に拡大にした走査電子顕微鏡による写真。
【図4】本発明にかかる特有な実施形態によって得られたLiCoPO化合物を2840倍に拡大にした走査電子顕微鏡による写真。
【図5】LiCoPO化合物の合成で用いられる固体状前躯体NHCoPO,nHOを1211倍に拡大した走査電子顕微鏡による写真。
【図6】LiCoPO化合物の合成で用いられる固体状前躯体NHCoPO,nHOを1478倍に拡大した走査電子顕微鏡による写真。
【図7】本発明にかかる特有な実施形態によって得られたLiCoPO化合物と、従来技術によって得られたLiCoPO/C複合材料と、をそれぞれ備える、Liイオンタイプのリチウム蓄電池の、定電流モード、C/10条件、且つ、20℃の下での、充電/放電曲線を示す。
【図8】本発明にかかる特有な実施形態によって得られたLiCoPO化合物の場合において、行われたサイクル数に対しての、充電と放電とにおける、比容量の変化を示す。
【図9】本発明にかかる特有な実施形態によって得られたLiCoPO化合物を備える、リチウム蓄電池の、定電圧モード、20℃の下においての、100mV/hスキャンにおける、サイクル曲線(ポテンシャルに対する比強度(specific intensity))を示す。
【図10】本発明にかかる特有な実施形態によって得られたLiCoPO化合物を備える、リチウム蓄電池の、定電圧モード、20℃の下においての、10mV/hスキャンにおける、サイクル曲線(ポテンシャルに対する比強度)を示す。
【図11】本発明にかかる特有な実施形態によって得られたLiCoPO化合物を備える、リチウム蓄電池の、サイクリング・レジーム(cycling regime)に対する、放電における比容量の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明にかかる実施形態についての下記の説明を読むことにより、本発明はより理解され、且つ、他の利点及び特徴が、明らかにされる。下記の説明は、例示であって、本発明を限定するものではない。
【0018】
特有の実施形態によれば、LiCoPO化合物は、低い温度での2つの前躯体の反応を起こすことによって、合成され、例えば、その温度は、350℃以下の温度であり、有利には、約300℃であり、例えば、300℃±10℃である。
【0019】
第1の前躯体は、固体状の前躯体であって、コバルトと、PO3−ポリアニオン・エンティティと、の両方の原料となる。化学式XCoPO,nHOで示される化合物によって、形成されている。Xは、−NHと、−Hと、から選択されるラジカル(radical)を示し、nは、XCoPOエンティティと会合する水分子の数を示している。さらに詳細には、nは、0から9の間であり、好ましくは、0から2の間である。さらに、第1の前躯体は、小片形状の特有な形態を有する。小片形状とは、平らな塊(volume)であり、例えば、1次元を示す塊であり、さらに詳細には、その厚さは、他のディメンション(dimension)よりも小さい。そのような塊の断面は、好ましくは、正方形、又は、長方形である。
【0020】
第1の前躯体は、有利には、コバルトを含む第1の水溶性試薬を、リン系(phosphorus-base)の第2の水溶性試薬を含む水溶液に、加えた際の、沈殿によって得ることができる。第1の試薬は、有利には、酢酸コバルトと、シュウ酸コバルトと、硝酸コバルトと、から選択され、一方、第2の試薬は、(NHHPOと、NHPOと、から選択される。固体状の第1の前躯体は、例えば、リンを含む水溶液に、コバルトを含む水溶液を一滴ずつ(drop by drop)加えることによって、得られる。2つの水溶液の間の反応は、沈殿物(precipitate)を生成し、その沈殿物は、回収され、及び、乾燥される。乾燥は、例えば、空気中の加熱器(oven)の中で行われ、無形状(non-structural)の水を蒸発させる。第1と第2との試薬の濃度とpHとは、沈殿物の形状を制御することができる。さらに、沈殿反応は、好ましくは、周囲温度(ambient temperature)において、行われる。最終的に、沈殿物を乾燥させた後に得られる生成物の粒子のサイズは、水溶液の濃度と、反応中のpHと、を調節することで制御することができる。例えば、リンを過剰に飽和させて、沈殿物の核成長速度を増加させ、その成長を阻害することで、粒子を小さくして、LiCoPO粒子を形成するために、有利なものとする。
【0021】
LiCoPO化合物を得るためには、固体状の第1の前躯体は、リチウムの原料となる第2の前躯体と反応させられ、XCoPO化合物中において、Li元素は、X元素と替わる。第2の前躯体は、硝酸リチウム(LiNO)である。第2の前躯体は、周囲温度においては、固体であり、有利には、255℃の融点を示す。従って、第1の前躯体と反応を起こしている際には、液体状であり、その温度は、例えば、350℃以下であり、好ましくは、300℃であり、このようにすることによって、硝酸リチウムと、固体状の第1の前躯体と、の反応が起きている際に、拡散しやすくなる。固体状の第1の前躯体は、例えば、るつぼの中の第2の前躯体に加えられ、350℃以下の、好ましくは、約300℃の温度において、加熱処理される。
【0022】
加熱処理は、有利には、空気中において、例えば、1時間から2時間半の間である、短い時間に、行われる。または、例えば、アルゴンや窒素の存在中といった、不活性雰囲気中においても、行うことができる。
【0023】
回収された、るつぼの中の固体状の残留物は、好ましくは、蒸留水によって洗浄され、及び、乾燥され、この反応によって生成された他の生成物からLiCoPO化合物は分離され、及び、精製される。乾燥は、好ましくは、空気中で行われ、その温度は、約50℃から約100℃の間である。
【0024】
2つの前躯体の間の反応は、有利には、過剰なリチウムによって、行われる。さらに詳細には、この反応中に含まれる第2の前躯体の量は、LiCoPO化合物を得るために必要な化学量と比べて、過剰なリチウムを生ずるものであると見積もられるようなものである。過剰なリチウムとは、例えば、必要な化学量に対して、5から50倍のものである。
【0025】
本発明による合成方法は、カンラン石構造の、しかし、詳細には、粒子形状である、LiCoPO化合物を得る事ができるが、それは、高い温度で行われた固体状態での合成方法によって得られたものと異なるものである。驚くべきことに、350℃以下の温度の下での、一方はコバルトとリンとを含み、他方はリチウムを含む、2つの前駆体の反応によって得られるLiCoPO化合物は、固体粒子の形状をしている。
【0026】
−それらは、非常に薄く、又は、まったく、凝集していない、
−固体状の第1の前躯体と同じ形態を示し、例えば、小片形状であり、好ましくは、実質的に正方形又は長方形の断面を有し、側面(side)は、約数マイクロメートルのディメンションを有し、厚さは、10nmから1μmの間であり、それらは、合成条件に依存する。
【0027】
さらに、この化合物は、Brunauer-Emmett-Teller(BET)法によって計測された比表面積は、5m・g−1以上であり、さらにその化合物の粒子は、有利には多孔質である。
【0028】
特有な例によれば、LiCoPO化合物は、NHCoPO,nHOと、硝酸リチウム(LiNO)と、を低い温度の下で、反応させることによって生成される。さらに詳細には、この前躯体NHCoPO,nHOは、水溶液中で沈殿させることによって、合成される。第1の水溶液は、リン酸水素ジアンモニウム((NHHPO)13.206gを、蒸留水0.1Lに溶解させることによって得ることができる。従って、この第1の水溶液中のリンの濃度は、1mol/Lである。第1の水溶液は、磁力攪拌(magnetic stirring)に置かれる。次いで、0.5mol/Lのコバルト濃度を有する酢酸コバルト溶液によって生成された第2の水溶液は、一滴ずつ、第1の溶液に加えられる。第1の水溶液は、無色であるが、ピンク色の沈殿物を含む。この沈殿物を洗浄し、遠心分離し、及び、55℃、24時間の条件で乾燥することで、マゼンタ色の粉を得ることができ、分析し、この化合物が、nが実質的に1と等しい、NHCoPO,nHOであることを明らかにする。
【0029】
次いで、3.7gのNHCoPO,nHOを、40.3gの硝酸リチウム(LiNO)を含む、磁器坩堝(porcelain crucible)の中に置く。坩堝は、加熱機の中に置かれると、すぐにその温度が300℃に到達する。2時間の加熱処理の後に、加熱機の加熱を止め、及び、坩堝を取り除く。固体状の残存物は、蒸留水によって十分に洗浄されることで、副生成物を、溶解し、及び、除去し、及び、得られた粉は、55℃、12時間の条件で、乾燥される。
【0030】
図1に示されるように、この粉をX線回折(x-ray diffraction)によって分析する。さらに、この粉のX線回折スペクトル(曲線A)を、従来の合成方法(高温)によって得られた従来のLiCoPO化合物のもの(曲線B)と比較する。
【0031】
曲線Aと曲線Bとを比較すると、上記の特有の例において得られた粉の構成は、LiCoPO化合物の構成に対応することがわかる。従来の方法に従って得られたLiCoPO化合物のように、その粉の構成は、図2の平面(a、b)に模式的に表されているような、カンラン石構造を示す。この構造は、酸素原子の六方最密充填(compact hexagonal stacking)で構成され、リチウムイオンは、図2中の円形として示され、コバルトイオンは、八面体サイト(octahedric site)の半分に配置され、一方、リンは、四面体サイト(tetrahedric site)の1/8を占める。従って、図2中に示される八面体は、6つの酸素原子と結合するコバルト(CoO)と対応し、図2中に示される四面体は、4つの酸素と結合するリン(PO)と対応する。図1に示される別々の線である曲線AとBとは、2つのLiCoPO化合物結晶を示し、この2つのLiCoPO化合物結晶は、Pnma空間群に属し、格子定数(lattice parameter)は、“a”が約10.2Å、“b”が約5.9Å、及び、“c”が約4.7Åである。
【0032】
しかしながら、従来技術によって得られたLiCoPO化合物とは異なり、本発明によって得られたLiCoPO化合物は、(h00)方向を選択的に示している。詳細には、図1に示されるように、17.4°2θ°付近の回折ピーク(200)については、曲線Aは、曲線Bに比べて、相当高いピークを持っている。この選択的な(h00)方向への配向は、走査電子顕微鏡(SEM)によって得られた、図3と図4とに示される写真によって、確認することができる。実際に、合成された粒子は、ほとんど凝集しておらず、且つ、小片形状である。粒子の多くは、長方形、又は、正方形の断面を持ち、1辺(sides)は、約10マイクロメートルであり、厚さは、約100ナノメートルである。
【0033】
走査電子顕微鏡による分析は、合成された前躯体NHCoPO,nHOに対しても、行った(図4及び5)。この固体状の前躯体の粒子も、小片形状であり、且つ、ほとんど凝集していない。このことは、LiCoPO粒子において見られる特有の形状は、固体状の前躯体NHCoPO,nHOに直接的に由来するものであり、且つ、低い温度で行われた熱処理によって、このような形状を得ることができるということを、証明するものである。
【0034】
さらに、XCoPO,nHOからLiCoPOへの変化は、LiCoPO粒子中に一定の孔を形成することを促進することができる。実際に、多数の孔は、前躯体XCoPO,nHOが、溶融リチウム塩(molten lithium salt)のような、リチウムの原料となる前躯体と、反応を起こす際に、現れる。この孔の多くは、好ましくは、約10nmの直径を有している。
【0035】
最終的に、上記の特有な例において合成されたLiCoPO化合物は、10.1m/gのBET法による比表面積を示し、及び、同様に、固体状の前躯体NHCoPO,HOは、1.0m/gである。
【0036】
これらの特有の形態から、低い温度における、2つの固体状の前躯体の反応によって用意されたLiCoPO化合物は、従来技術において用いられてきたLiCoPO化合物と比べて、改善された電気化学的パフォーマンスを有する。さらに詳細には、炭素によって覆われる必要もなく、従来から合成されていたLiCoPO化合物と比べて、高い電気化学的分極を示さず、且つ、放電における高い出力比容量を示す。さらに、通常とは異なるような、低い、Liイオン蓄電池電極材料の合成温度は、過剰で無意味な粒子サイズの増加を防ぎ、且つ、多孔質を形成することを可能にする。
【0037】
従って、このような化合物は、リチウム蓄電池のための電極の活性材料として、詳細には、正電極のための活性材料として、用いられることを可能にする。さらに詳細には、リチウム蓄電池の正電極は、密に分散した形状(the form of an intimate dispersion)となることができ、本発明によって合成されたLiCoPO化合物と、電気伝導性添加剤(electronic conducting additive)と、可能であれば、有機結合剤(organic binder)と、を備える。このような分散は、通常、電流コレクタ(current collector)として動作する金属膜の上に、堆積される。電気伝導性添加剤は、炭素(ファイバー、ナノチューブ、小片、球状粒子…)であることができ、良好なイオン伝導と、十分な機械的強度を提供するように構成された有機結合剤は、例えば、ポリエーテルやポリエステルといった、メタクリル酸メチル系(methyl methacrylate-base)、アクリロニトリル系(acrylonitrile-base)、フッ化ビニリデン系(vinylidene fluoride-base)、から選択される高分子によって、形成されることができる。
【0038】
例として、上記の特有な例によって合成されたLiCoPO化合物を、正電極の活性物質として用いて、”ボタン電池(button cell)”形状のLiイオンタイプの蓄電池を、作製し、及び、試験した(図7から11)。従って、このような蓄電池は、以下を備える:
−電流コレクタとして動作するニッケル板(nickel disk)の上に積層された、直径16mm、厚さ130μmのリチウム板(lithium disk)によって形成された負極電極と、
−上記の例によって用意された本発明の材料(80重量%)と、カーボンブラック(10重量%)と、結合剤としての六フッ化ポリビニリデン(polyvinylidene hexafluoride)(10重量%)と、を備え、厚さ20マイクロメートルのアルミニウム電流コレクタの上に堆積される、直径14mm、厚さ25μmの板(disk)によって形成された正極電極と、
−炭酸プロピレン(propylene carbonate)と、炭酸ジメチル(dimethyl carbonate)と、が混合された溶液中のLiPF塩基(salt-base)(1mol/L)の液体電解質を吸収する、セパレータと、
上記のリチウム蓄電池の最初の充電/放電サイクルに対応する、図7中の曲線Cに示されるように、20℃、C/10の条件において、正電極材料中に存在するリチウムのほとんどは、脱離(extract)されることが可能となる。
【0039】
さらに、本発明の化合物の電気化学的性質は、従来技術と比べて、有利であり、特に、分極と、放電の際の出力比容量と、についてである。
【0040】
図7中において、曲線Cは、曲線Dと比較することができる。曲線Dは、リチウム蓄電池の最初の充電/放電サイクルに対応するものであり、そのリチウム蓄電池は、本発明によって合成されたLiCoPOの代わりに、650℃のアルゴン中での、自己酸化合成(self-combustion synthesis)と呼ばれる合成によって用意された、LiCoPOと、3重量%の炭素と、を含む複合材料を備える。2つの曲線CとDとを見ると、本発明により合成されたLiCoPO化合物を備えるリチウム蓄電池の、充電曲線と放電曲線との間のポテンシャルの違い、すなわち、内部分極(internal polarization)は、複合材料を備えるリチウム蓄電池のものと比べて、小さいことがわかる。
【0041】
図8は、行われたサイクルの回数に対しての、蓄電池の充電時の比容量の変化(曲線E)と、放電時の比容量の変化(曲線F)と、を示す。曲線EとFとの変化(evolution)は、放電時の出力比容量が、充電時の比容量と近くなっていくことを示している。さらに、15サイクルにおいては(above 15 cycles)、充電時と放電時との比容量は、100mAh/gより大きくなる。最終的には、1サイクルの後の、充電時の比容量は、約150mAh/gであり、その値は、従来技術において知られているものよりも実質的に大きい値である。
【0042】
図9は、電流−電圧サイクル(cyclic voltamperometry)の曲線を示すものであり(スキャン +/−100mV/h)、上記の特有の例にかかるリチウム蓄電池中のLiCoPO/CoPO対(couple)の良好な電気化学的可逆性を、サイクルの再現性とともに、示す。図10中に示される電流−電圧サイクルの曲線は、ゆっくりとしたスキャン(+/−10mV/h)によって行われたものであり、このサイクルは、2つの酸化反応ピークと、2つの還元反応ピークと、の存在を、はっきりと確認することを可能にし、図7中の曲線Cに見られるステップに対応するものである。従って、このステップは、Li/Liに対して4.76V、Li/Liに対して4.84V、のポテンシャルにおいて、起きたものである。
【0043】
最終的には、この特有の形態と、低い温度で用意することと、によって、本発明によって合成されたLiCoPO化合物は、比較的高いサイクル条件の下であっても、高い容量を与えることができる(図11)。“C”放電条件(1時間で放電する)の下では、最初の放電において、約140mAh/gに達する(図11)。
【0044】
従って、このような合成方法は、LiCoPO化合物の改善された電気化学的パフォーマンスを得ることを可能にし、それによって、Liイオン電池のようなリチウム蓄電池の電極用の活性材料として効果的に用いることを可能にする。さらに、このような方法は、使用が簡単である。また、短い期間で、すばやく、1つ、又は、複数のステップを行うことができ、空気中で実施することができるようにするためであっても、少しのエネルギーしか必要としない。
【0045】
このような合成方法は、LiCoPO誘導体を合成することも可能にする。LiCoPO誘導体とは、LiCoPOタイプの主組成物を持つ化合物のことを意味し、しかしながら、不純物を含んでいることもあり、また、周期表の他の元素を添加、又は、置換していることもあり、又は、リチウム、コバルト、リン、又は、酸素のサイト(site)に欠陥(vacancy)を含む場合もある。従って、このようなLiCoPO誘導体の合成は、例えば、XCoPO,nHOタイプの化合物を主に有する化合物であって、不純物を含む場合もあり、周期表の他の元素を添加又は置換している場合もあり、X、Co、P、又は、Oのサイトに欠陥を含む場合もあるような、固体状の第1前躯体の誘導体を用いて、同じように、行われる。
【0046】
さらに、このような方法は、LiCoPOの合成について制約がない。実際には、固体状の第1の前躯体XCoPO,nHO、又は、その誘導体の1つを、XMPO,nHO、又は、その誘導体の1つに、よって置換することによって、LiMPO化合物、又は、その誘導体の1つ、を合成することが可能となり、ここでのMは、NiとMnとから選択される遷移金属である。一方、前躯体LiNOを用いた方法では、LiFePOを合成することはできない。
【0047】
第1遷移金属のCoと、Niと、Mnとは、実際には、合成方法と密接に結びつくことによって、カンラン石タイプの構造(LiMPO)となることが知られている。従って、LiCoPO4のための上記の合成方法は、他の遷移金属である、NiとMnとに、適用することができる。この場合、固体状の第1の前躯体XMPO,nHOは、遷移金属Mを含む第1の水溶性試薬を、リンを含む第2の水溶性試薬を含む水溶液に、加えた際に、沈殿させ、次いで、その沈殿物を、回収し、及び、乾燥させることによって、得ることができる。従って、第1の水溶性試薬は、遷移金属Mの酢酸塩(acetate of transition metal M)、遷移金属Mのシュウ酸塩(oxalate of transition metal M)、又は、遷移金属Mの硝酸塩(nitrate of transition metal M)とすることができる。さらに、LiCoPOについて考慮すると、MがNi、又は、MnであるLiMPO化合物と、その誘導体の1つである化合物とは、5m・g−1以上のBET法による比表面積を示し、且つ、それら化合物は、小片によって形成されたほとんど凝集していない粒子からなる、ものである。このような化合物は、リチウム蓄電池のための電極の活性材料として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiMPO化合物、又は、その誘導体の1つの合成方法であって、Mは、Co、Ni、及び、Mnからなる群から選択される遷移金属であり、
前記合成方法は、少なくとも1つのステップを備え、前記ステップは、350℃以下の温度の下においての、硝酸リチウムと、XMPO,nHO、又は、その誘導体の1つによって形成された固体状の前躯体と、の反応を含み、−Xは、−NH、及び、−Hから選択されるラジカルを示し、及び、nは、XMPOエンティティと会合する水分子の数を示す、
ことを特徴とするLiMPO化合物、又は、その誘導体の1つの合成方法。
【請求項2】
前記温度は、約300℃であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固体状の前躯体と前記硝酸リチウムとの間の前記反応は、空気中、又は、不活性雰囲気中、で行われることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記固体状の前躯体と前記硝酸リチウムとの間の前記反応の期間は、1時間から2時間半の間である、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記固体状の前躯体と前記硝酸リチウムとの間の前記反応は、過剰なリチウムを用いて行われることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記固体状の前躯体と前記硝酸リチウムとの間の前記反応の後に、前記LiMPO化合物、又は、その誘導体の1つを単離する分離ステップが続く、ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記分離ステップは、約50℃から約100℃の間である温度の下において、前記固体状の前躯体と前記硝酸リチウムとの間の前記反応によって得られた生成物を、蒸留水によって洗浄し、及び、洗浄によって得られた化合物を空気によって乾燥する、ものであることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記固体状の前躯体は、前記遷移金属Mを含む第1の水溶性試薬を、リンを含む第2の水溶性試薬を含む水溶液に加えた際の沈殿により、及び、次いで、その沈殿物を回収し、及び、乾燥させることによって、得られる、ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記第1試薬は、前記遷移金属Mの酢酸塩と、シュウ酸塩と、硝酸塩と、から選択されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第2試薬は、(NHHPOと、NHPOと、から選択されることを特徴とする請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
LiMPO化合物、又は、その誘導体の1つであって、Mは、Coと、Niと、Mnと、からなる群から選択される遷移金属であり、
前記LiMPO化合物、又は、前記その誘導体の1つは、5m・g−1以上のBET法による比表面積を示し、且つ、小片により形成されるほとんど凝集していない粒子からなる、ことを特徴とする化合物。
【請求項12】
前記小片は、実質的に、長方形、又は、正方形の断面を有し、且つ、その厚さが、約10nmから約1μmの間である、ことを特徴とする請求項11に記載の化合物。
【請求項13】
前記化合物は、多孔質である、ことを特徴とする請求項11又は12に記載の化合物。
【請求項14】
請求項11から13のいずれか1つに記載の化合物の、リチウム蓄電池のための電極の活性材料としての使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−521395(P2010−521395A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553179(P2009−553179)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【国際出願番号】PCT/FR2008/000322
【国際公開番号】WO2008/132336
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(502142323)コミサリア、ア、レネルジ、アトミク−セーエーアー (195)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE
【Fターム(参考)】