説明

MDA合成における均一系触媒のコスト効率的な析出のための2段階製法

本発明は、ジフェニルメタンジアミンを調製する製法であって:
a)酸の存在下でアニリンをホルムアルデヒドと反応させるステップと、
b)酸の大部分をアンモニアおよび/またはアンモニア水溶液によって中和するステップと、
c)ステップb)で生じた反応混合物を水相および有機相に分離するステップと、
d)有機相中に存在する酸の残りの部分をアルカリ金属水酸化物水溶液によって中和するステップと、
e)ステップd)で生じた反応混合物を水相および有機相に分離するステップと、
f)ステップc)で得た水相、または場合によりステップc)およびe)で生じた水相を合わせた水相を少なくとも1種のアルカリ土類金属酸化物または水酸化物によって処理するステップと、
g)ステップf)で得たアンモニアを除去するステップと
を含む製法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、酸の存在下でホルムアルデヒドを用いてアニリンからジフェニルメタンジアミンを調製する製法であって、その酸がアンモニアによる第1段階およびアルカリ金属水酸化物水溶液による第2の段階の、2段階で中和される製法に関する。アンモニアは生じた水相からアルカリ土類金属の酸化物および/または水酸化物による処理によって回収され、中和に再度利用できる。
【技術分野】
【0002】
酸存在下でのアニリンとホルムアルデヒドとの反応によるジフェニルメタンジアミン(MDA)の調製は公知であり、広範に記載されてきた。実際に、このように調製されたジフェニルメタンジアミンは、より高度に縮合したポリフェニレンポリメチレンポリアミンを有する混合物として常に得られる。以下、「MDA」は2環式ジフェニルメタンジアミンおよびより高度に縮合したポリフェニレンポリメチレンポリアミンの混合物を指す。
【0003】
当分野において、MDAは通常、ホスゲンとの反応によって、ポリウレタン生産によく使用される基礎的生成物であるジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)に変換される。ある用途では、例としてプラスチックの架橋剤またはコーティング材料として純粋な2環式MDAを使用することも可能である。
【0004】
当分野において、MDAは、記載されたように、酸存在下でのアニリンとホルムアルデヒドとの反応により調製される。塩酸は通例用いられる酸である。この種の製法は一般知識であり、たとえばKunststoffhandbuch,volume 7,polyurethanes,Carl Hanser,Munich,Vienna,3rd edition,1993,pages 76 to 86および多くの特許出願に記載され、たとえば国際公開第99/40059号が一例である。酸のアニリンに対する比およびホルムアルデヒドのアニリンに対する比を変えることにより、要件に従ったMDA中の2環式生成物の割合を調整することが可能である。
【0005】
MDAの調製に影響する問題は、用いられる酸触媒の中和である。
【0006】
酸存在下でアニリンとホルムアルデヒドとの反応で得られた反応混合物の塩基、さらに詳細にはNaOHによる中和は、欧州特許第1288190号から公知である。
【0007】
欧州特許第1344766号は、第1のステップにおいて、反応混合物を塩基により中和して、第2のステップにおいて、MDAを含む除去された有機相を塩基により処理する、生じた反応混合物の2段階処理を開示する。使用される塩基は、アルカリ土類金属水酸化物およびアルカリ金属水酸化物、さらに詳細には水酸化物ナトリウムである。
【0008】
国際公開第2008/083997号は、触媒として使用される酸がアルカリ/アルカリ土類金属酸化物および/または水酸化物よりもむしろアンモニアの添加によって中和される、MDAを調製する製法について記載している。この中和で形成されたアンモニウム塩は、アルカリ土類金属の酸化物または水酸化物の反応により回収される。
【0009】
MDA調製からの反応放出物中に存在する酸の、水酸化ナトリウム水溶液を使用する中和により、2つの相:水相および有機相が得られる。水相は、酸の中和により形成された塩を含む;有機相は、未反応有機開始化合物と共に反応生成物を含む。ホルムアルデヒドに対して使用するアニリンの割合に、およびまたアニリンに対して使用する酸の割合に応じて、水相および有機相の密度は異なる。水相は、有機相よりも軽い、または重いことがあり得る;また2相の密度は同じであり得る。開始化合物および使用する酸触媒の異なる割合は、異なる特性、たとえば組成、ダイマー含有率、およびオリゴマー含有率などを有するMDAを得るために通例必要である。工業用途では、相分離は完了まで急速におよび実質的に進行するはずであり、これには2つの相間に十分に大きい密度差が必要である。
【0010】
2つの相間の密度差を十分に高くするためには、技術的な対策をとることがしばしば必要であり、例としては相の一方の希釈または成分(アニリン/水)の蒸発による濃縮が挙げられる。これにより比較的高いレベルの技術的コストおよび複雑さが示唆される。
【0011】
加えて、構成されたプラントの場合、パイプライン接続がどの相をその相の除去時に特定のさらなる処理ステップに供給するかを決定する。したがって反応物質または使用する酸の割合の変更を受けた相の変化によって、再構成または最初からより複雑であったプラント構成、たとえば分離層の移動、および追加バルブが必要になる。
【0012】
MDA調製に影響するさらなる問題は、MDAがさらにMDIに処理されるときに望ましくない着色の例を引き起こし得る、望ましくない副生成物の発生である。ホルムアルデヒドおよびアニリンからのMDAの合成では、形成される生成物にはN−アミノベンジルアニリンがある。これらの化合物は、酸性条件下および高温にて転位を受けてMDAを形成する。MDAがホスゲン化されてMDIを形成する場合、N−アミノベンジルアニリンのレベル上昇が塩化カルバモイルの形成を生じ、塩化カルバモイルはホスゲン化でイソシアネートに開裂せず、結果として最終生成物は塩素を含有する。さらにホルムアルデヒドによるさらなる濃縮が、N−アミノベンジルアニリンから形成されるジヒドロキナゾリンを生じ得る。ジヒドロキナゾリンは、MDAから調製されるMDIの明度に悪影響を有することが公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】欧州特許第1288190号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的はMDAを調製する製法を提供することであり、該製法において、MDA調製からの反応放出物中に存在する酸の中和で形成された2相は、用いられたアニリン、ホルムアルデヒド、および酸の割合から独立して、十分な密度差を有し、常に同じ相がより高いまたはより低い密度をそれぞれ有し、これにより十分に大きい密度差を引き起こす技術的対策の必要が取り除かれ、用いられる反応物質および酸の割合から独立して、再構成または追加の内部構造物なしに、既存のプラントを動作させることが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本目的は、ジフェニルメタンジアミンおよびより高度に縮合したポリフェニレンポリメチレンポリアミンを調製する製法であって:
a)酸の存在下でアニリンをホルムアルデヒドと反応させるステップと、
b)酸の大部分をアンモニアおよび/またはアンモニア水溶液によって中和するステップと、
c)ステップb)で生じた反応混合物を水相および有機相に分離するステップと、
d)有機相中に存在する酸の残りの部分をアルカリ金属水酸化物水溶液によって中和するステップと、
e)ステップd)で生じた反応混合物を水相および有機相に分離するステップと、
f)ステップc)で得た水相、または場合によりステップc)およびe)で生じた水相を合わせた水相を少なくとも1種のアルカリ土類金属酸化物または水酸化物によって処理するステップと、
g)ステップf)で得たアンモニアを除去するステップと
を含む製法によって達成される。
【0016】
アンモニアを中和剤として使用する場合、用いられたアニリンのホルムアルデヒドに対する割合および酸のアニリンに対する割合とは無関係に、有機相は水相より重い。用いられる酸触媒の中和における水相と有機相との間の密度差を増加させるために通例必要である技術的対策を省くことができる。第1の中和ステップ(ステップb)において、酸の大部分が有機相からすでに除去されているために、アルカリ金属水酸化物水溶液を用いる第2の中和ステップでは、中和時に形成された塩化ナトリウムが比較的少量であるので、さまざまな密度差の上記の問題はもはや起こらない。塩化ナトリウムの吸収による、使用される水酸化ナトリウム水溶液の密度の変化は小さく、この密度は有機相の密度よりもはるかに大きいままである。中和の第2の段階における水酸化ナトリウム水溶液の使用により、用いられる酸触媒全体が確実に中和される。アルカリ金属水酸化物水溶液による第2の中和ステップは加えて、有機相中に残るアンモニアだけでなく、有機相中に残るアンモニアの形のアンモニウム塩も、塩変換によって除去する利点を有する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の製法に従って調製されたMDAは驚くべきことに、アンモニアの1段階中和、水酸化ナトリウム水溶液を用いる1段階中和、または両方の段階で水酸化ナトリウム水溶液を用いる2段階中和による同様の製法で調製されたMDAよりも良好な明度を示す。
【0018】
本発明の製法は、通例、中和剤として使用されるナトリウム水酸化物の大部分が大幅によりコスト効率的なアルカリ土類金属酸化物によってコスト節減のために置き換えられるので、さらに注目すべきである。部分的な置き換えはアンモニアによる媒介で行われ、アンモニアは主中和剤として使用され、たとえばCaOを用いる反応によって回収されて、再度使用することができる。
【0019】
上記のように、ステップa)において、触媒としての酸存在下でのアニリンとホルムアルデヒドとの反応によりMDAの調製が行われる。この種の製法は一般知識であり、たとえばKunststoffhandbuch,volume 7,polyurethanes,Carl Hanser,Munich,Vienna,3rd edition,1993,pages 76 to 86および多くの特許出願、たとえば国際公開第99/40059号に記載されている。ステップa)の酸として、無機酸、さらに詳細には塩酸を使用することが好ましい。
【0020】
ホルムアルデヒドの代わりにまたはホルムアルデヒドとの混合物中で、少なくとも1つのホルムアルデヒド供与体化合物を使用することも可能である。ホルムアルデヒドは、さらに詳細にはホルマリン水溶液、ホルマリンアルコール溶液、メチルヘミアセタール、1級アミンのメチレンイミン、または1級または2級アミンのN,N’−メチレンジアミン、およびパラ−ホルムアルデヒドの形で用いられる。
【0021】
本発明の製法は、連続式、セミバッチ式またはバッチ式で、好ましくは連続式またはセミバッチ式で行うことができる。
【0022】
連続方式の場合、反応物質が反応装置内に相互に対する所望の割合で計量され、本反応装置から流入量と等しい反応産生量が取り出される。用いられる反応装置の例は、チューブ反応装置を含む。バッチ式またはセミバッチ式方式の場合、反応物質は、好ましくは撹拌機および/またはポンプ式循環を装備したバッチ反応装置内に計量され、全反応が行われると、反応生成物はここから取り出されて、後処理に送られる。
【0023】
本発明の製法は通例、20から1.5の、好ましくは10から1.6の、さらに好ましくは2.5から1.8のアニリンのホルムアルデヒドに対するモル比で行われる。酸のアニリンに対するモル比は、好ましくは0.04から0.5、さらに好ましくは0.04から0.25である。これらの比を用いると、反応混合物中のそれぞれの2環式生成物の形成が増加する。
【0024】
酸として無機酸、たとえば塩酸、硫酸、およびリン酸を使用することが好ましく、塩酸を使用することが非常に好ましい。
【0025】
反応は、好ましくは0から200℃の間の、好ましくは20から150℃の間の、およびさらに詳細には40から120℃の間の範囲の温度にて行われる。温度の上昇は、反応生成物中の2,2’および2,4’異性体の部分の増加を伴うことが明らかになった。
【0026】
反応中の圧力は0.1−50絶対バール、好ましくは1−10絶対バールである。
【0027】
反応をバッチ式およびセミバッチ式で実施する場合、原料を完全に計量した後に、反応混合物にいわゆるエージング手順を受けさせることができる。この目的のために、反応混合物を反応装置内に残すか、または異なる反応装置、好ましくは撹拌反応装置に移送する。この場合の反応混合物の温度は、好ましくは75℃超、さらに詳細には110から150℃の間の範囲にある。
【0028】
ステップa)における調製の後に、反応混合物のステップb)における大部分の酸の中和が続く。この目的のために、アンモニアを反応混合物に添加する。本アンモニアは、ガス状形態で、場合により水で飽和されてアンモニア水溶液として、または両相の混合物として、反応混合物に供給される。アンモニアは好ましくは、水溶液として添加される。この場合のアンモニアの濃度は、3バールおよび室温にて測定して、好ましくは14%から60重量%、さらに好ましくは25重量%である。反応混合物中に存在する酸の少なくとも60%、さらに好ましくは少なくとも70%、およびさらに詳細には少なくとも90%が添加されたアンモニアによって中和されることが好ましい。
【0029】
本発明により、アンモニアは、用いられる酸触媒に基づいて化学量論的量の1から2倍、好ましくは化学量論的量の1から1.7倍で添加される。アンモニアおよび/またはアンモニア水溶液は1ステップで、または2以上の連続ステップで添加される。アンモニアおよび/またはアンモニア水溶液が2以上のステップで添加される場合、操作で産生された2相を次の添加の前に分離することも可能であり、各場合で有機相はアンモニアおよび/またはアンモニア水溶液と再度混合される。この場合、アンモニアおよびアンモニア水溶液は、個々のステップでそれぞれに交互に使用することもできる。
【0030】
アンモニアと反応混合物の化合は通例、好適な混合装置、例として撹拌タンク、場合により静的混合要素を装備したチューブ内で、または他の装置内で実施される。塩基性アンモニアの添加により、反応混合物中に存在する大部分の酸の中和が起こり、結果として、2つの不混和性相:より軽い水相およびより重い有機相の形成が引き起こされる。中和は、40から120℃の平均温度、1から10絶対バールの圧力下で行われる。
【0031】
ステップb)からの混合物は、記載したように、有機相および水性相中に存在する。2相は、ステップc)において、たとえばデカンテーションによって相互から分離される。水酸化ナトリウム水溶液による中和と比較すると、驚くべきことに、アンモニア水溶液を中和剤として使用するときに、相境界がより良好に形成されることが明らかになった。このことは、下流の洗浄操作が、特に水性洗浄相によって受ける負荷の程度が軽減されることを意味する。
【0032】
触媒として使用された酸のアンモニウム塩を含む水相の除去後に、有機相中に残った酸の残りの部分がステップd)においてアルカリ金属水酸化物水溶液によって中和される。
【0033】
この目的のために、たとえば水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムを使用することが可能である;好ましくは水酸化物ナトリウムが使用される。
【0034】
本発明により、水酸化ナトリウム水溶液は、反応混合物中の触媒として最初に用いられた酸に基づいて、最大2の化学量論的過剰量で、好ましくは最大1の化学量論比で、さらに好ましくは0.5以下の化学量論比で添加される。
【0035】
本発明の好ましい一実施形態において、ステップd)では、有機相のpHは>8.5に、好ましくは>9に、さらに好ましくは>9.5のレベルに、非常に好ましくは>11に調整される。このような方法で、通例、MDAを非常に大量に産生するプラントにおいてさえMDA含有相に存在する酸全体を確実に中和することが可能である。
【0036】
アルカリ金属水酸化物水溶液と反応混合物の化合は通例、好適な混合装置、例として撹拌タンク、場合により静的混合要素を装備したチューブ内で、または他の装置内で実施される。アルカリ金属水酸化物水溶液の添加により、反応混合物の中和が起こるため、2つの不混和性相:水性相および有機相の形成が引き起こされる。中和は、40から120℃の平均温度、1から10絶対バールの圧力下で行われる。ステップd)におけるアルカリ金属水酸化物水溶液の中和は、より軽い有機相およびより重い水性相を産生する。それぞれの中和剤は、ステップb)およびd)において、好ましくは向流または並流に添加される。
【0037】
ステップd)から生じ、水相および有機相から成る2相混合物の形を取る混合物は、ステップe)においてたとえばデカンテーションによって分離される。ステップe)からの水相は、ステップc)から生じる水相と合せて、共に後処理することができる。または2つの水相を相互に別々に後処理することもできる。
【0038】
本発明の好ましい一実施形態により、ステップe)で除去された水相はステップd)および/またはステップb)の中和で再利用される。水相が消費されなかったアルカリ金属水酸化物をなお含んでいる場合に、このことは好都合である。第2の中和段階が、第1の中和段階で中和されていない酸の量に対して過剰量の水酸化物で行われる場合に、このことが概して当てはまる。
【0039】
水、その中に溶解したアンモニウム塩、用いられた酸触媒、ならびにまた微量のアニリンおよびホルムアルデヒド原料、ならびにまた微量の最終生成物、すなわちMDAから実質的に成る、ステップc)から得た水相は、場合によりステップe)から生じた水相と合せて、次にステップf)において少なくとも1つのアルカリ土類金属の酸化物および/または水酸化物によって処理される。カルシウム酸化物および/またはカルシウム水酸化物は、ただちに入手可能であるために、ならびに生じた廃棄物の処理および廃棄に問題がないために好ましい。カルシウム酸化物/水酸化物は、たとえば石灰乳または消石灰の形で用いられ得る。この場合、アンモニウム塩はアンモニアの形成により分解される。製法のこのステップは、炭酸ナトリウムを産生するためのソルベー法のサブステップとして公知である。アンモニアは好ましくは、蒸留によってまたは蒸気もしくは不活性ガスを用いたストリッピングによって除去される。
【0040】
アンモニアが豊富な気相は場合により、さらなるステップ、例として吸着による乾燥、蒸留または抽気凝縮において、場合により濃縮および精製される;蒸留による後処理が特に好ましい。本発明の好ましい一実施形態において、後処理されたアンモニアは、ステップb)の中和に戻される。
【0041】
詳細な一実施形態において、蒸気およびアンモニアを含むガスは、生石灰とも呼ばれる酸化カルシウム上を通過する。本手順において、ガスは最初に乾燥され、次に生石灰が水酸化カルシウム、いわゆる消石灰に変換され、消石灰は次にアンモニウム塩分解ステップf)に供給される。
【0042】
アンモニア除去後に残っている低アンモニア含有率の液相は、場合によりさらなる濃縮または精製の後に、廃水として廃棄され得る。
【0043】
主にMDAと、残留量の水、アンモニア、アルカリ金属水酸化物、およびMDAを調製するための原料品から成る、ステップe)で得られた有機相は、同様に後処理される。これはたとえば、水による1回以上の洗浄によって、および/または好ましくは複式蒸留によって行われる。好ましくは、ステップe)の後に、有機相から水および未反応アニリンがたとえば蒸留によって除去される。
【0044】
本発明の製法によって調製されたMDAは通例、ホスゲンと反応してMDIを生じる。この種の製法は一般知識であり、たとえばKunststoffhandbuch,volume 7,polyurethanes,Carl Hanser,Munich,Vienna,3rd edition,1993,pages 76 to 86および多くの特許出願に広く記載され、たとえば国際公開第99/40059号または同第99/54289号が一例である。
【0045】
この目的のために、MDAおよび場合によりホスゲンは、通例不活性溶媒に溶解させて反応させる。使用される溶媒は好ましくは不活性有機溶媒、さらに詳細には芳香族溶媒、例としてトルエンまたはハロゲン化芳香族化合物、例としてモノクロロベンゼンである。
【0046】
相回収は、例として撹拌タンク、撹拌カスケードタンク、カラムおよび/またはチューブ反応装置である、代表的な反応装置内で、たとえば50から150℃、好ましくは70から120℃、さらに好ましくは70から100℃の公知の温度にて、0.5から10バールの圧力下で行われ得る。
【0047】
ホスゲン化はたとえば、少なくとも1つの不活性有機溶媒の存在下にて2段階反応で行われ得て、この場合、ホスゲン化の第1の段階は静的ミキサーで行われ、ホスゲン化の第2の段階は滞留装置で行われる。
【0048】
ホスゲン化によって調製した粗MDIは、慣習的方法、たとえば例として蒸留によって精製することができる。第1の精製手順において、好ましくはホスゲンおよび場合により溶媒を、好ましくはかなりの程度まで、さらに好ましくは完全にホスゲン化による反応混合物から、すなわち粗MDIから除去することができる。
【0049】
好ましくは、続いてたとえば2,2’−、2,4’−および/または4,4’−MDIなどの所望のモノマーMDI、および/または少なくとも2つのこれらの異性体を含む混合物は、好適な方法によって、好ましくはたとえば2から50ミリバール、好ましくは2から20ミリバールの圧力、およびに温度150から250℃、好ましくは180から230℃の温度における蒸留によって、ならびに/または好ましくは一例が分別結晶である、結晶化によって除去され得る。
【0050】
MDIを調製する製法の特定の一実施形態において、2環式生成物を、たとえば欧州特許第570799号に記載されているように粗MDAから除去して、気相ホスゲン化により反応させて、2環式MDIを得ることができる。
【0051】
このように調製されたMDIは特に、少なくとも2個の活性水素原子を有する化合物と反応して、ポリウレタンを形成し得る。
【0052】
本発明の製法は、MDAのコスト効率的で操作上信頼できる後処理を可能にする。MDAに対する損傷は引き起こされない。使用されたアンモニアは、反応生成物から完全に除去することができる。アンモニアの循環は、生成物の損失を防止する。産生された塩水溶液は、問題なく廃棄することができる。本発明の製法によって調製されたMDAからホスゲン化によって調製されたMDIは、明度が改善されている。
【0053】
本発明を以下の実施例でより詳細に説明する。
【実施例】
【0054】
[実施例1:密度差]
有機相および水相の密度差を、水酸化ナトリウム水溶液による中和、ならびにそれぞれアニリンのホルムアルデヒドに対する比(A/F)および酸のアニリンに対する比(AdA)の異なる比を用いた、HCIの存在下でのアニリンとホルムアルデヒドとの反応からのMDI反応放出物に対するアンモニア水溶液による中和の後に、それぞれ計算した。
【0055】
【表1】

【0056】
負の符号は、相反転が行われたことと、水相がより重い相であることを意味する。
【0057】
2相の間の密度差は、水酸化ナトリウム水溶液による中和時にAdA比の上昇と共に著しく変化する;2.4mol/molのA/F比では、0.05から0.1のAdA比の間に相反転がある;1.8mol/molのA/F比では、水相と有機相の間の密度差は同様に、AdA比の増加と共に小さくなる;相反転は、0.2から0.25のAdA比の間で行われる。
【0058】
NH水溶液による中和の場合、密度差は常に同じ符号を有し、そのため相反転がなく、絶対値も迅速な相分離を可能にするために十分な大きさである。
【0059】
[実施例2]
HClを用いた触媒作用によるアニリンおよびホルムアルデヒドからのMDAの調製
ホルムアルデヒドおよびアニリン(ホルムアルデヒド/アニリン=2.4mol/mol)を塩酸の存在下で(HCl/アニリン=0.07mol/mol)50−90℃および1−1.5バールにて反応させた。
【0060】
[実施例3](発明)
第1の段階でのNHによる、第2の段階でのNaOH水溶液による2段階中和
実施例1による反応放出物2000gを25%強度のアンモニア水溶液200gと混合した。pHは8.9であった。水相は有機相よりも軽かった。2相を分離した。次のステップで、有機相を水酸化ナトリウム溶液(50重量%)約77gと混合した。混合物のpHは9.7であった。相分離を行った後に、相を実験装置から別々に抜き取った。抜き取った水性上相は、約6.24重量%の塩化物イオンを含み、約3重量%のナトリウムイオンの画分および3.1重量%のアンモニウムイオンの画分を有していた。
【0061】
相分離の後、有機相956gを2段階で脱イオン水によって洗浄して(相比0.28kg/kg)、アニリンおよび残留水を125℃および18ミリバールにて蒸発除去した。有機試料を続いてホスゲン化した。
【0062】
[実施例4](比較)
NHによる1段階中和
実施例1による反応放出物2kgを25%強度のアンモニア水溶液約200gと混合した。pHは9.0であった。水相は有機相よりも軽かった。相分離を行った後に、2相を実験装置から別々に抜き取った。抜き取った水性上相は、約7重量%の塩化物イオンおよび約5重量%のアンモニウムイオンを含んでいた。
【0063】
相分離の後、有機相956gを2段階で脱イオン水によって洗浄して(相比0.28kg/kg)、アニリンおよび残留水を140℃および17バールにて蒸発除去した。有機相を続いてホスゲン化した。
【0064】
[実施例5](比較)
NaOH水溶液による1段階中和
実施例1による反応放出物2.4kgを50%強度の水酸化ナトリウム水溶液102gと混合した。pHは10.8であった。水相は下相を形成する。相を実験装置から別々に抜き取った。抜き取った水性下相は約8重量%の塩化物イオンを含んでいた。
【0065】
相分離の後、有機相956gを2段階で脱イオン水によって洗浄して(相比0.28kg/kg)、アニリンおよび残留水を140℃および17ミリバールにて蒸発除去した。有機試料を続いてホスゲン化した。
【0066】
[実施例6](発明)
ガス状NH、NH水溶液、およびNaOH水溶液による中和
実施例1による反応放出物1400gをガス状NH 57gと混合した。pHは7.4であった。有機相は水相より重かった。除去した有機相(916g)25%強度のNH水溶液227gと混合して、73℃にてpH 9.45を産生した。この手順の間に連続的なガス発生が観察された。加熱後、pHは8.5に低下した。続いて、NaOH水溶液(30%)3.7gを添加した。その後、pHは9.5であった。
【0067】
[実施例7] ジヒドロキナゾリン含有率の決定
ジヒドロキナゾリン含有率は、実施例3から得た溶解した試料のガスクロマトグラフィー分析によって決定した。使用した溶媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)およびDMF 1ml当り3mgのテトラメチル−MDAであった。2環式ジヒドロキナゾリンの溶液、4,4’−MDAの溶液、および3環式MDAの溶液により校正を行った。炎イオン化検出器を有するガスクロマトグラフ(HP 5890)を使用した。使用したキャリアガスはHであった。分析の結果を表2に示す。値≦10は、検出限界より低い含有率を意味する。
【0068】
【表2】

【0069】
本発明の製法によって調製されたMDIは、ジヒドロキナゾリンの全体の含有率が低く、このことが明度に悪影響を有する。
【0070】
[実施例8] 明度の決定
実施例3から得られたMDIの明度をヨウ素還元滴定によって決定した。
高い値は著しい着色を示し、低い値はわずかな着色を示す。結果を表3に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
本発明の製法は、比較的低い明度を有するMDIをもたらす。
【0073】
[実施例9](発明) アンモニアの回収
実施例1の第1の中和から得た水相1000gを、加熱した実験装置内で水酸化カルシウム(消石灰)150gと混合した。生じた含水ガス状アンモニアを、カルシウム酸化物を充填した乾燥塔を通過させて、乾燥させた。乾燥アンモニアを再度中和に使用した。完全な脱気の後、装置に残った材料はおよそ20%強度の塩化カルシウム水溶液であり、廃棄した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジフェニルメタンジアミンおよびより高度に縮合したポリフェニレンポリメチレンポリアミンを調製する製法であって:
a)酸の存在下でアニリンをホルムアルデヒドと反応させるステップと、
b)酸の大部分をアンモニアおよび/またはアンモニア水溶液によって中和するステップと、
c)ステップb)で生じた反応混合物を水相および有機相に分離するステップと、
d)有機相中に存在する酸の残りの部分をアルカリ金属水酸化物水溶液によって中和するステップと、
e)ステップd)で生じた反応混合物を水相および有機相に分離するステップと、
f)ステップc)で得た水相、または場合によりステップc)およびe)で生じた水相を合わせた水相を少なくとも1種のアルカリ土類金属酸化物または水酸化物によって処理するステップと、
g)ステップf)で得たアンモニアを除去するステップと
を含む製法。
【請求項2】
ステップa)における酸として、無機酸を使用する請求項1に記載の製法。
【請求項3】
ステップa)における酸として、塩酸を使用する請求項1または2に記載の製法。
【請求項4】
ステップb)のアンモニアを水溶液として添加する請求項1から3のいずれか1項に記載の製法。
【請求項5】
ステップb)およびd)において、中和剤を向流または並流に添加する請求項1から4のいずれか1項に記載の製法。
【請求項6】
ステップe)で除去された水相をステップd)の中和に再利用する請求項1から5のいずれか1項に記載の製法。
【請求項7】
ステップf)におけるアルカリ土類金属酸化物または水酸化物として、酸化カルシウムおよび/または水酸化カルシウムを使用する請求項1から6のいずれか1項に記載の製法。
【請求項8】
ステップf)におけるアルカリ土類金属水酸化物として、水酸化カルシウムを使用する請求項1から7のいずれか1項に記載の製法。
【請求項9】
ステップg)で得られたアンモニアをステップb)に再使用する請求項1から8のいずれか1項に記載の製法。
【請求項10】
水および未反応アニリンを、ステップe)またはg)の後に有機相から除去する請求項1から9のいずれか1項に記載の製法。
【請求項11】
ステップe)で得られた有機相を精製及び後処理して、ジフェニルメタンジアミンおよびより高度に縮合したポリフェニレンポリメチレンポリアミンとする請求項1から10のいずれかに記載の製法。
【請求項12】
精製されたジフェニルメタンジアミンをホスゲンと反応させてジフェニルメタンジイソシアネートを得る請求項1から11のいずれかに記載の製法。

【公表番号】特表2013−514298(P2013−514298A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543658(P2012−543658)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069526
【国際公開番号】WO2011/080059
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】