説明

MEMS構造体

【課題】MEMS構造体における可動部と固定部とが対向する端部の損傷を抑制することを課題とする。
【解決手段】固定部11と固定部11に対して相対的に可動する可動部12とを備え、固定部11に対して可動部12が可動することで所定の機能を有する素子が基板13に形成されたMEMS構造体において、固定部11と可動部12とが対向する対向面14の端部15を面取り加工したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械要素部品と電気回路部品とを1つの基板上に集積化して構成されたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems) 構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術としては、例えば以下に示す文献に記載されたものが知られている(特許文献1参照)。この文献には、閉ループ面内のMEMS加速度計内に配置されて、共動する可動及び固定櫛駆動歯の厚さや長さといった幾何学的な形状を工夫改善することで、振動整流を低減した発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−533567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような従来のMEMS構造体においては、可動櫛歯の可動部と固定櫛歯の固定部との間隔は数〜数十ミクロン程度と極めて狭いので、形成時や形成後において両者の相対的な動きに対して両者が接触するおそれがあった。可動部と固定部が接触した場合には、両者の特に構造的に脆弱な角部が損傷しやすいといった不具合を招いていた。
【0005】
そこで、本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、可動部と固定部との端部の損傷を抑制し得るMEMS構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係るMEMS構造体は、固定部と、固定部に対して相対的に可動する可動部とを備え、固定部に対して可動部が可動することで所定の機能を有する素子が基板に形成されたMEMS構造体において、固定部と可動部とが対向する対向面の端部を面取り加工したことを第1の特徴とする。
【0007】
本発明に係るMEMS構造体は、上記第1の特徴のMEMS構造体において、面取り加工が施された端部表面には、保護膜が形成されていることを第2の特徴とする。
【0008】
本発明に係るMEMS構造体は、上記第2の特徴のMEMS構造体において、保護膜は、金属もしくは有機物で構成されていることを第3の特徴とする。
【0009】
本発明に係るMEMS構造体は、上記第1〜3のいずれかの1つの特徴のMEMS構造体において、端部は、基板表面と対向面とが接する角部、基板裏面と対向面とが接する角部のいずれか一方または双方であることを第4の特徴とする。
【0010】
本発明に係るMEMS構造体は、上記第1〜4のいずれか1つの特徴のMEMS構造体において、異方性エッチングにより固定部と可動部とが対向する対向面の端部を選択的に除去して、端部を面取り加工することを第5の特徴とする。
【0011】
本発明に係るMEMS構造体は、上記第1〜4のいずれか1つの特徴のMEMS構造体において、誘導結合プラズマエッチングにより固定部と可動部とが対向する対向面の端部を選択的に除去して、端部を面取り加工することを第6の特徴とする。
【0012】
本発明に係るMEMS構造体は、上記第1〜4のいずれか1つの特徴のMEMS構造体において、異方性エッチングならびに誘導結合プラズマエッチングにより固定部と可動部とが対向する対向面の端部を選択的に除去して、端部を面取り加工することを第7の特徴とする。
【0013】
本発明に係るMEMS構造体は、上記第6または7の特徴のMEMS構造体において、基板に形成された絶縁膜により前記誘導結合プラズマエッチングによる基板の一方向のエッチングを停止し、かつ前記基板の他方向をエッチングすることを第8の特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る第1の特徴のMEMS構造体では、対向する固定部と可動部の端部を面取り加工することで、端部の損傷を緩和抑制することが可能となる。
【0015】
本発明に係る第2の特徴のMEMS構造体では、面取り加工が施された端部表面に保護膜を形成したことで、端部の損傷をより一層緩和抑制することができる。
【0016】
本発明に係る第3の特徴のMEMS構造体では、保護膜を金属または有機物で構成することで、既存の半導体微細加工技術により容易に保護膜を形成することが可能となる。
【0017】
本発明に係る第4の特徴のMEMS構造体では、基板表面と対向面とが接する角部、基板裏面と対向面とが接する角部のいずれか一方または双方の端部の損傷を緩和抑制することが可能となる。
【0018】
本発明に係る第5の特徴のMEMS構造体では、異方性エッチングにより基板を選択的に除去することで、既存の半導体微細加工技術により面取り加工することが可能となる。
【0019】
本発明に係る第6の特徴のMEMS構造体では、誘導結合プラズマエッチングにより基板を選択的に除去することで、既存の半導体微細加工技術により面取り加工することが可能となる。
【0020】
本発明に係る第7の特徴のMEMS構造体では、異方性エッチングならびに誘導結合プラズマエッチングにより基板を選択的に除去することで、既存の半導体微細加工技術により面取り加工することが可能となる。
【0021】
本発明に係る第8の特徴のMEMS構造体では、絶縁膜により誘導結合プラズマエッチングによる基板のエッチング方向を変えることで、既存の半導体微細加工技術により面取り加工することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例1に係るMEMS構造の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例2に係るMEMS構造の構成を示す図である。
【図3】本発明の実施例2に係るMEMS構造の他の構成を示す図である。
【図4】本発明の実施例3に係るMEMS構造体の製造方法を示す工程断面図である。
【図5】本発明の実施例4に係るMEMS構造体の製造方法を示す工程断面図である。
【図6】本発明の実施例5に係るMEMS構造体の製造方法を示す工程断面図である。
【図7】本発明の実施例6に係るMEMS構造体の製造方法を示す工程断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を用いて本発明を実施するための実施例を説明する。
【実施例1】
【0024】
図1は本発明の実施例1に係るMEMS構造体の構成を示す図であり、同図(a)は平面図、同図(b)は同図(a)I−I線の断面図である。
【0025】
図1において、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems) 構造体は、半導体微細加工技術を用いて可動部と固定部とを含む機械的要素部品と電気回路部品が1つの基板に一体的に集積化された構造を有し、可動部と固定部とを有する構造体として加速度センサや圧力センサ等のセンサ類やアクチュエータ等が形成される。
【0026】
図1において、この実施例1のMEMS構造体では、固定部11と可動部12を有し、ばね要素となる支持部材に支持されて外部から加わる応力によって可動する可動部12と、この可動部12に数〜数十ミクロン程度の距離で近接して配置された固定部11とが同一の基板13に形成されている。可動部12は、例えば特開2007−298408号公報の特許文献に記載されているような静電容量式のセンサにおける櫛歯状に配置された可動電極に相当し、固定部11は、同特許文献における固定電極に相当する。
【0027】
このような固定部11と可動部12とを有するMEMS構造体において、図1(b)の断面図に示すように、対向する固定部11と可動部12との対向面14における端部15となる角部、すなわち対向面14と上部水平面16とが接する角部が面取り加工されて、角を除いて丸みを帯びた形状に形成されている。
【0028】
なお、図1(b)には図示していないが、対向する固定部11と可動部12との対向面14における他の端部17となる角部、すなわち対向面14と下部水平面18とが接する角部が面取り加工され、角を除いて丸みを帯びた形状に形成してもよく、また、双方の角部を面取り加工するようにしてもよい。
【0029】
このような構成においては、固定部11と可動部12の角部が面取り加工されているので、面取り加工されていない場合に比べて固定部11と可動部12の角部は、両者の接触に対する構造的な強度を増すことができ、両者の接触による欠け等の損傷を緩和抑制することが可能となる。
【実施例2】
【0030】
図2、図3は本発明の実施例2に係るMEMS構造体の一部断面を示す図である。この実施例2の特徴とするところは、先の実施例1で説明した面取り加工が施された端部15(図2に示す)、もしくは端部15,17(図3に示す)にアルミニウム等の金属、もしくはポリイミド膜等の樹脂製有機物の保護膜21を設けたことにある。
【0031】
このような構成においては、保護膜21が固定部11と可動部12との接触において緩衝材として機能するので、先の実施例1に比べて両者の接触による欠け等の損傷をさらに緩和抑制することが可能となる。
【実施例3】
【0032】
図4は本発明の実施例3に係るMEMS構造体の製造方法の工程を示す断面図である。図4に示す製造方法は、先の図1に示す実施例1の面取り加工の工程を示すものである。 図4において、先ず可動部と固定部とが一体形成される基板41、例えば半導体のシリコン基板の表面に(図4(a))、フォトリソグラフィ技術によりパターニングされたレジスト材(図示せず)を形成し、このレジスト材をマスクにして、KOH等のアルカリ溶液により基板41を選択的に異方性エッチングして側面がテーパ状の溝42を形成する(図4(b))。
【0033】
続いて、先のレジスト材を除去した後、フォトリソグラフィ技術によりパターニングされた新たなレジスト材(図示せず)を形成し、このレジスト材をマスクにして、IPC(誘導結合プラズマ)エッチングにより溝42の底面の部分を基板41を貫通する程度に深堀して選択的に除去する(図4(c))。これにより、対向面と上部水平面との端部43が面取り加工された可動部44と固定部45とを形成することができる。
【0034】
このような実施例3においては、アルカリ水溶液を用いた異方性エッチングという既存の半導体微細加工技術を用いることで端部を面取り加工することが可能となる。
【実施例4】
【0035】
図5は本発明の実施例4に係るMEMS構造体の製造方法の工程を示す断面図である。図5に示す製造方法は、先の実施例1のところで触れた、可動部と固定部の対向面と上部水平面とが接する端部(角部)、ならびに可動部と固定部の対向面と下部水平面とが接する端部(角部)の双方の端部を面取り加工する工程を示すものである。
【0036】
図5において、先ず可動部と固定部とが一体形成される基板51、例えば半導体のシリコン基板の表面(一主面)に(図5(a))、フォトリソグラフィ技術によりパターニングされたレジスト材(図示せず)を形成し、このレジスト材をマスクにして、KOH等のアルカリ溶液により基板51の表面を選択的に異方性エッチングして側面がテーパ状の溝52aを形成する(図5(b))。
【0037】
続いて、先のレジスト材を除去した後、基板51の裏面(他主面)に、表面側に形成されたレジスト材に対応した位置に、フォトリソグラフィ技術によりパターニングされたレジスト材(図示せず)を形成し、このレジスト材をマスクにして、KOH等のアルカリ溶液により基板51の裏面を選択的に異方性エッチングして側面がテーパ状で底面の位置が先の溝52aに対応した溝52bを形成する(図5(c))。
【0038】
次に、先のレジスト材を除去した後、基板51の表面にフォトリソグラフィ技術によりパターニングされたレジスト材(図示せず)を形成し、このレジスト材をマスクにして、IPC(誘導結合プラズマ)エッチングにより溝52aの底面の部分を溝52bの底面に至り基板51を貫通する程度に深堀して選択的に除去する(図5(d))。これにより、対向面と上部水平面とが接する端部53、ならびに対向面と下部水平面とが接する端部54が面取り加工された可動部55と固定部56とを同時に形成することができる。
【0039】
このような実施例4においては、アルカリ水溶液を用いた異方性エッチングという既存の半導体微細加工技術を用いることで端部を面取り加工することが可能となる。
【実施例5】
【0040】
図6は本発明の実施例5に係るMEMS構造体の製造方法の工程を示す断面図である。図6に示す製造方法は、先の実施例1のところで触れた、可動部と固定部の対向面と下部水平面とが接する端部(角部)を面取り加工する工程を示すものである。
【0041】
図6において、先ず可動部と固定部とが一体形成される基板61、例えば半導体のシリコン基板の裏面に(図6(a))、後述するIPCエッチングによる基板61の選択的な除去を停止させる機能を有する部材となる絶縁膜、例えばシリコン酸化膜62を堆積形成する(図6(b))。続いて、基板61の表面にフォトリソグラフィ技術によりパターニングされたレジスト材(図示せず)を形成し、このレジスト材をマスクにして、IPC(誘導結合プラズマ)エッチングにより基板61を貫通する程度に深堀して選択的に除去する(図6(c))。IPCにより基板61を深堀する工程において、基板61が徐々にエッチング除去されてシリコン酸化膜62に至るまでエッチングが進むと、エッチングにより掘り込まれた基板61の側面とシリコン酸化膜62とが接する端部(角部)63には、IPCによる電荷が堆積しやすくなりこの端部63では、基板61の縦方向へのエッチングが停止し、基板61が横方向にエッチングされる。これにより、エッチング時間を適切に設定することで、端部を面取り加工することが可能となる。
【0042】
その後、シリコン酸化膜62ならびにIPCエッチング時のレジスト材を除去し、対向面と下部水平面との端部63が面取り加工された可動部64と固定部65とが形成される(図6(d))。
【0043】
このような実施例5においては、誘導結合プラズマエッチングという既存の半導体微細加工技術を用いることで端部を面取り加工することができる。また、誘導結合プラズマエッチングを用いることで、基板61の深堀が可能となり、端部の面取り加工と同時に可動部64と固定部65を分離形成することが可能となる。さらに、シリコン酸化膜62により誘導結合プラズマエッチングによる基板61のエッチング方向を変えることで、面取り加工処理に誘導結合プラズマエッチングを用いてことが可能となる。
【実施例6】
【0044】
図7は本発明の実施例6に係るMEMS構造体の製造方法の工程を示す断面図である。図7に示す製造方法は、先の実施例1のところで触れた、可動部と固定部の対向面と上部水平面とが接する端部(角部)、ならびに可動部と固定部の対向面と下部水平面とが接する端部(角部)の双方の端部を面取り加工する工程を示すものである。
【0045】
図7において、先ず可動部と固定部とが一体形成される基板71、例えば半導体のシリコン基板の表面(一主面)に(図7(a))、フォトリソグラフィ技術によりパターニングされたレジスト材(図示せず)を形成し、このレジスト材をマスクにして、KOH等のアルカリ溶液により基板71の表面を選択的に異方性エッチングして側面がテーパ状の溝72を形成する(図7(b))。
【0046】
続いて、先のレジスト材を除去した後、基板71の裏面(他主面)に、シリコン酸化膜73を堆積形成する(図7(c))。引き続いて、基板71の表面にフォトリソグラフィ技術によりパターニングされたレジスト材(図示せず)を形成し、このレジスト材をマスクにして、IPC(誘導結合プラズマ)エッチングにより溝72の底面の部分をシリコン酸化膜73に至り基板71を貫通する程度に深堀して選択的に除去する(図7(d))。IPCにより基板71を深堀する工程において、基板71が徐々にエッチング除去されてシリコン酸化膜73に至るまでエッチングが進むと、エッチングにより掘り込まれた基板71の側面とシリコン酸化膜73とが接する端部(角部)74には、IPCによる電荷が堆積しやすくなりこの端部74では、基板71の縦方向へのエッチングが停止し、基板71が横方向にエッチングされる。これにより、エッチング時間を適切に設定することで、角部を面取り加工することが可能となる。
【0047】
その後、シリコン酸化膜73ならびにIPCエッチング時のレジスト材を除去し、対向面と上部水平面とが接する端部75ならびに対向面と下部水平面とが接する端部74が面取り加工された可動部76と固定部77とが形成される(図7(e))。
【0048】
このような実施例6においては、先の実施例4ならびに実施例5で得られる効果と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0049】
11,45,56,65,77…固定部
12,44,55,64,76…可動部
13,41,51,61,71…基板
14…対向面
15,17,43,53,54,63,74,75…端部
16…上部水平面
18…下部水平面
21…保護膜
42,52a,52b,72…溝
62,73…シリコン酸化膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部と、前記固定部に対して相対的に可動する可動部とを備え、前記固定部に対して前記可動部が可動することで所定の機能を有する素子が基板に形成されたMEMS構造体において、
前記固定部と前記可動部とが対向する対向面の端部を面取り加工した
ことを特徴とするMEMS構造体。
【請求項2】
前記面取り加工が施された端部表面には、保護膜が形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のMEMS構造体。
【請求項3】
前記保護膜は、金属もしくは有機物で構成されている
ことを特徴とする請求項2に記載のMEMS構造体。
【請求項4】
前記端部は、前記基板表面と前記対向面とが接する角部、前記基板裏面と前記対向面とが接する角部のいずれか一方または双方である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のMEMS構造体。
【請求項5】
異方性エッチングにより前記固定部と前記可動部とが対向する対向面の端部を選択的に除去して、前記端部を面取り加工する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のMEMS構造体。
【請求項6】
誘導結合プラズマエッチングにより前記固定部と前記可動部とが対向する対向面の端部を選択的に除去して、前記端部を面取り加工する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のMEMS構造体。
【請求項7】
異方性エッチングならびに誘導結合プラズマエッチングにより前記固定部と前記可動部とが対向する対向面の端部を選択的に除去して、前記端部を面取り加工する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のMEMS構造体。
【請求項8】
前記基板に形成された絶縁膜により前記誘導結合プラズマエッチングによる前記基板の一方向のエッチングを停止し、かつ前記基板の他方向をエッチングする
ことを特徴とする請求項6または7に記載のMEMS構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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