説明

MRIデータの形成方法およびそれを用いたイメージング装置

【課題】 撮像時間の短縮化を図り、データの収集方法、画像再構成方法を改良して撮像後の処理を高速化し、傾斜磁場の動作特性が悪いMRI装置でも高速撮像を可能にするデータの形成方法(ハーフフーリエ核磁気共鳴イメージング方法)およびそれを用いたイメージング装置を提供することにある。
【解決手段】 傾斜磁場を可変して磁気共鳴するスピンの位相を2方向にエンコードした、k空間においてデータを2次元配列(行および列)する。その際のデータの形成方法は、k空間をその中心点を境界として2分割し、一方を偶数番目の行データ、他方を奇数番目の行データを収集する。分割した他方のデータは前記一方のデータをk空間の中心で対称(点対称)に折り返し補間してk空間における全データとすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は核磁気共鳴(NMR)を原理とする撮像(イメージング)装置、特にハーフフーリエ核磁気共鳴イメージング方法およびイメージング装置に関する。
この技術は、金属および磁性材料を除く種々の材料における内部構造や物性の解析(非破壊検査)、流体の可視化、薬学や化学における化学的な構造や薬理効果、動物学、生物学、医学、生理学などにおける生体の組織構造や機能の解析、生体反応、病気の検査・診断などの計測(無侵襲検査・診断)、治療中の生体計測などに利用することができる。性能的には、従来に比して高速化し、撮像時間の短縮化(約1/2)を可能にする。
【背景技術】
【0002】
NMRを原理とするMRI装置(Magnetic Resonance Imaging;核磁気共鳴イメージング装置)は、撮像対象の周囲に静磁場発生用のマグネットと時間的・空間的に磁場強度が可変できる傾斜磁場発生コイルを備え、静磁場発生マグネットで空間的に均一な磁場Boを形成し、これと共に傾斜磁場発生コイルで空間的に磁場の強さを制御する。MRI装置は、静磁場Bo中で傾斜磁場の強度を変えて磁気共鳴する原子核が有する磁気モーメントに由来するスピンの位相を可変して信号(エコー信号あるいはFID(自由誘導減衰)信号)を得る。
【0003】
これらエコー信号およびFID(自由誘導減衰)信号をMRIデータといい、以後MRIデータを単に「データ」と省略して記す。
この信号をフーリエ変換などによって再構成すると画像(MRI画像)が得られる。スピンの位相をエンコードしてk空間に分布させるためには、x,y,z方向に傾斜磁場を加えて、磁場強度を空間的に変化させる。
【0004】
MRI装置においては、従来のSE(スピンエコー)法、IR(反転回復)法などの手法に加えて、撮像時間の短縮を図るための高速化技術が求められている。MRIにおける高速および超高速イメージング方法として、従来から種々の方法が提案および特許出願されている。これらには、GRE(グラジエントエコー;Gradient Recalled Echo)法、FE(フィールドエコー;Fast Field Echo)法、EPI(エコープレナーイメージング;Echo Planar Imaging)法、SPI(スパイラルスキャン;Spiral Fast Imaging)法、単励起SE(スピンエコー;Singleshot Spin Echo)法、ランダムウオーク磁気共鳴イメージング(超高速磁気共鳴イメージング装置)がある。2次元画像の撮像時間は、128×128画素を撮像する場合、数秒〜数10秒(GRE法)、0.1秒から数秒(EPIおよびSPI)、0.02〜数秒(Oneshot−SE法、ランダムウオーク法)となる。
【0005】
これら従来の方法では、画像処理のために時間がかかった。この問題を解決するために次にハーフフーリエ変換を用いたMRイメージング方法が提案されていた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−4818号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来のMRイメージング方法、イメージング装置、およびは、ハーフフーリエ変換を用いたMRイメージング方法は、その特性から下記の点が要求される。
(1)撮像の高速化:
撮像に要する時間を短縮することは、高速で変化する対象の計測および画像化を可能にする。加えて、測定対象が人間や動物の場合、身体的および精神的負担の軽減に寄与する。
(2)超高速MRI装置:
MRイメージング方法およびイメージング装置におけるデータの収集方法、画像再構成法を改良して高速化する。
(3)低性能傾斜磁場を用いた超高速MRI:
通常、超高速でMRIを実施する場合には、優れた特性(磁場の立ち上がりと立ち下がりの特性)の傾斜磁場の利用が不可欠となっている。
本発明の目的は、撮像時間の短縮化を図り、MRIデータの収集方法、画像再構成方法を改良して撮像を高速化し、傾斜磁場の動作特性が悪いMRI装置でも高速撮像を可能にするMRIデータの形成方法およびそれを用いたイメージング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)画像の再構成法(フーリエ変換の性質を利用したデータ収集軌跡と画像再構成)
直交変換の一つであるフーリエ変換の性質にエルミート対象性がある。再構成する画像の基になるデータ(エコー信号あるいはFID信号)をk空間(周波数空間)において±SW(正負の周波数に分布するスペクトル)の周波数範囲で観測する。観測されるデータは、k空間の原点(SW=0)に対して点対称の関係を持つ。このため、±SWを周波数分布とするk空間において全てのデータ(N点×N点)を収集する必要はなく、全体の1/2のデータ収集(N×N/2)、即ち、±SWに対して、+SWあるいは−SWの何れかを収集し、k空間において収集していない領域に対して、収集したデータを原点対象になるように付与することで代替えすることができる。これにより、全k空間においてデータが与えられる。この性質がエルミート対称性である。実際のMRI撮像においては、k空間の領域に対して1/2のデータ収集のみで画像(MRI画像)を再構成することができる。再構成した画像のSNR(信号対雑音比)は1/√2に減弱するが、収集するデータ量は1/2となり、これに比例して撮像時間を1/2に短縮することができる。この特徴は、現状のハーフフーリエMRIとして既に活用されている。
本発明は、このエルミート対称性を利用した従来とは異なる画像再構成法を与えるものである。従来技術では困難であったスパイラルスキャン法を含めた現状におけるフーリエ変換を利用したMRI画像再構成法に適用できる点を特色とする。特に、スパイラルスキャン法にエルミート対象性の概念を導入した初めての事例となる。同手法に対しても撮像時間を1/2に短縮することができる。
【0008】
(2)位相の補正方法
本提案手法ではk空間上で1行おき(奇数もしくは偶数)に信号を収集し、収集した信号を折り返してデータを充填する。静磁場の不均一性や傾斜磁場の非直線性により、折り返して充填したデータとの間でスピンの位相に差が生じる場合がある。この位相差が生じると再構成した画像にアーチファクト(濃淡の不整や偽像)が生じる。このため、位相差が発生した場合には、奇数番目のデータと偶数番目のデータの位相の平均値を算出してデータの位相として与えるか、何れかのデータが有する位相に合致させる処理を行う。
【0009】
具体的には以下の手段を採用する。
(1)データの形成方法は、静磁場中で傾斜磁場を可変して2次元方向にエンコードして得たデータの形成方法であって、データは、k空間の中心を境界として2分割し、一方を偶数番目の行データ、他方を奇数番目の行データを収集するようにエンコードし、分割した他方のデータは前記一方のデータを前記中心で対称に折り返し補間して作成することを特徴とする
(2)上記(1)記載のデータの形成方法において、前記データの2分割は、前記k空間において正負の領域に分割することを特徴とする。
(3)上記(1)又は(2)記載のデータの形成方法は、前記データの収集方法をフーリエ変換を用いるMRI画像再構成法に適用することを特徴とする。
【0010】
(4)ハーフフーリエ核磁気共鳴イメージング装置は、MRI画像を構成する撮像対象からのエコー信号又は自由誘導減衰信号を検出する励起・検出装置と、前記エコー信号又は自由誘導減衰信号に基づいてデータおよびデータを2次元配列したk空間を形成し、該k空間のデータをフーリエ変換してMRI画像を形成する画像再構成装置とからなるハーフフーリエ核磁気共鳴イメージング装置であって、前記画像再構成装置は、傾斜磁場を印加することにより2方向(x,y)にスピンの位相をエンコードしてk空間において2次元配列する際に、前記請求項1乃至3のいずれか1項記載のデータの形成方法を適用して前記中心点で対称に折り返し補間して作成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
(1)撮像時間の短縮(MRI撮像の高速化):
k空間における全データの半分を収集するだけでMRI画像を再構成する。撮像時間は、収集するデータ量に依存することから、本発明によれば、撮像速度を2倍(撮像時間は1/2)にすることができる。従来手法に比して、データ量1/2になることから、SN比は1/√2倍に低下する。この方法は、フーリエ変換を画像再構成の原理とする全てのMRI撮像法に適用することができる。他方、キーホール(keyhole)技術を使って特定の空間周波数成分のデータ収集を行う場合、画像の空間周波数はk空間において、原点を中心に同心円状に分布する。このため、高速化を目的としてキーホール技術を用いる場合には、ハーフフーリエスパイラルMRイメージングは有益である。
【0012】
(2)磁場不均一性の補正(磁場不均一性を有するマグネットへの対応):
MRI装置において静磁場Boが時間的に変動し、あるいは空間的に磁場の強度が均一性を有さず異なると、その変動に応じて計測される信号の位相が変化する。他方、傾斜磁場の空間的な線形性や時間的な安定性が低い場合にも同様に変化する。これらの変化は、再構成される画像において画像の歪みや変形、不整な濃淡変化となって現れる。高速化するためにk空間の半領域だけのデータを収集する従来のハーフフーリエMRイメージングの場合、k空間の半分の領域のみのデータ収集に起因してこれらの変動の影響を受けやすくなる。
このように磁場の均一性や時間的な安定性が良くないMRI装置においてもフーリエ変換のエルミート対象性を活用した高速化を実現するためには、本手法のようにしてk空間の全領域に渡ってデータ収集を行うことにより、これらに起因する変化の補正を容易にする。この結果、磁場不均一性に起因する画像の歪みや不整な濃淡変化を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を図に基づいて説明する。
図1は本発明の核磁気共鳴イメージング装置のブロック構成図を示す。
本発明の磁気共鳴イメージング装置は、NMR(核磁気共鳴)を原理とする。励起・検出コイル10の外側には、撮像対象(または測定物質)に対して両側に時間的・空間的に一定な磁場を発生するための静磁場発生マグネット11a、11bと、時間的・空間的に磁場強度を変動させる傾斜磁場発生コイル12a、12bを設ける。静磁場発生マグネット11a、11bには、静磁場発生マグネット・シムコイル電源13と磁場の強度を制御する制御装置14が接続される。傾斜磁場発生コイル12a、12bには、傾斜磁場発生コイル電源16と磁場の強度を制御する制御装置17が接続される。励起・検出コイル10には、核磁気共鳴に応じた信号を受信する受信器19と、画像を再構成する画像再構成装置20と、画像表示装置21とからなる画像処理装置が接続される。
【0014】
また、励起・検出コイル10には、撮像する対象(または測定物質)の原子核が有する核磁気を共鳴させるために、共鳴周波数に等しい周波数を持つRF(ラジオ周波数)波をパルス状に印加するRFパルス発生器18が接続されている。励起・検出コイル10にRFパルス発生器18のRFパルスを印加すると、撮像対象が核磁気共鳴を誘起し、撮像対象の周辺に配置した検出コイルにより、検出信号(FID[自由誘導減衰]信号あるいはエコー信号)として出力される。この信号を励起・検出コイル10に接続される受信器19により収集する。その後、画像再構成装置20により画像が再構成される。
図2は本発明の原理に基づく2次元イメージングに対するk空間におけるデータ収集の軌跡を示す説明図である。図2に示すデータ収集軌跡は2次元SE(スピンエコー)法、GRE(グラジエントエコー)法、FastSE(高速スピンエコー)法など、RFパルスによる励起を複数回繰り返してk空間の全領域のデータを収集するMRI手法に適用できる。
【0015】
本発明における画像化の対象は2次元座標系であることから、k空間は画像の2次元空間周波分布を与える空間となる。k空間の中心は空間周波数が0、左右および上下に±ωの信号強度を示す。即ち、k空間における(+n,+m)の位置に分布する信号は周波数ω+n,+mを与え、その周波数の信号強度がこの点の値(強度)となる。
MRIは、SE法、GRE法、EPI法(後記する図7)やスパイラル法(後記する図11)などの撮像法の何れかを用いて信号(スピンエコーあるいはFID)を観測する。信号の一例を図3に示す。横軸は時間(一般には数10msecで観測)、縦軸は信号の強度を示す。MRIにける撮像法に依存して図3、図5、図8、図12、図13などの軌跡に基づいて信号を収集する。
例えば、図2に示す複数の横線の一本において図3の信号を観測する。256×256画素の2次元画像を再構成する場合には、256個の信号を観測することから、256本の軌跡をとる。観測される各々の信号に対して256点のサンプリングを行ない、得られる256×256のデータに対して2次元フーリエ変換することにより、2次元MRI画像が再構成される。
【0016】
本発明の方法は、k空間における軌跡を半減して画像再構成する方法であり、軌跡を半減することから、撮像時間が半減され、高速撮像を可能にする特徴を有する。また、本発明の方法は、既に提案されているMRI撮像の殆ど(フーリエ変換を画像再構成に使うMRI撮像法の全て)に適用できる。画像再構成の一例として、k空間において図2の軌跡に基づいて収集したデータ(図3)に対する画像最再構成法(図4)を用いて説明する。
図4(a)にk空間において実際に収集するデータの軌跡を示す。再構成するMRI画像をN×N画素(N=128,256,512など)とする場合、N/2個の信号を収集する。図4(b)は図4(a)を点対称で転置した結果で、同一の座標系において単に転置しただけであることから、例えば、図4(a)中に左上にあるデータ点は、図4(b)では右下に位置する。次に、図4(a)と図4(b)を重ね合わせる処理を行う。この結果を図4(c)に示す。図4(a)はN/2×N個のデータからなり、(b)も同様にN/2×N個のデータである。相互に重複しないことから、両者を重ね合わせた(c)はN/2×N+N/2×NであることからN×N個のデータになる。
【0017】
MRIにおける画像再構成法にはフーリエ変換が多用されることから、それらの画像再構成法の全てにこの処理が適用できる。この転置を可能にするのは、フーリエ変換の周波数分布の対称性で、その原理はフーリエ変換が有する特性として既知である。
本発明の方法は、k空間の全領域に分布するデータを収集し、かつ、撮像時間を半減することが特徴となる。k空間の全領域でデータ収集することから、マグネットで作られる静磁場Boの強度が空間的に不均一なMRI装置であっても不均一に起因する観測信号の位相変化が補正できる特徴を有する。また、スパイラルスキャン法への適用も可能にする。反面、欠点としてはデータ収集量が半分であることから、再構成したMRI画像のS/N比は、理論上1/√2倍に低下する。この際に、図4(a)の軌跡データと図4(b)の軌跡データの間に位相差がある場合には、位相の補正を行う。画像は図4(c)の軌跡データをフーリエ変換することにより得られる。なお、Oは原点(以降の図においても同様)を表す。
【0018】
具体的には、
(1)傾斜磁場を印加することにより2方向(x,y)にスピンの位相をエンコードしてk空間において2次元配列する。その際、k空間を、その中心を境界として2分割し、一方を偶数番目の行配列データ、他方を奇数番目の行配列データを収集する。分割した他方のデータは前記一方のデータをk空間の中心点で対称(点対称)に折り返し補間してk空間におけるデータとすることを特徴とする。
(2)上記(1)記載のデータの形成方法は、前記データの2分割は、前記k空間において正負の位相領域に分割することを特徴とする。
(3)前記データの収集方法を従来のSE法、GRE法、FastSE法、EPI法、スパイラルスキャン手法などのフーリエ変換を用いた全てのMRI画像再構成法(磁気共鳴イメージング)に適用することを特徴とする。
【0019】
(4)ハーフフーリエ核磁気共鳴イメージング装置は、MR画像信号となる撮像対象からのエコー信号又は自由誘導減衰信号を検出する励起・検出装置と、前記エコー信号又は自由誘導減衰信号に基づいてデータを2次元配列したk空間を形成し、該k空間のデータをフーリエ変換してMRI画像を形成する画像再構成装置とからなる核磁気共鳴イメージング装置であって、前記画像再構成装置は、傾斜磁場によりxとy方向にエンコードして2次元k空間を形成する際に、前記請求項1乃至3のいずれか1項記載のデータの形成方法を適用して前記中心点で対称に折り返し補間して作成することを特徴とする。
【0020】
図5は本発明の原理に基づく2次元EPI(エコープレーナ)法のためのデータの収集軌跡を示す説明図である。図中の実線で示す領域を左上(あるいは右下から逆向きでも可能である)から線に添って軌跡を描くように線上のデータ点列を収集する。従来のEPI法は、破線の領域も含めた軌跡を取っていた。本発明のデータ収集方法に基づくと収集データは実線の部分(k空間における半分の領域は偶数番目の行データを、他の半分の領域は奇数番目の軌跡をとる)のみで良く、収集するデータ量は従来のすべて収集するものに比べ1/2の処理時間ですみ、この結果、撮像時間が1/2に短縮される。
図6は図5で与えたEPI法において、k空間における未収集のデータ(画像再構成するために必要なデータ)を本発明の原理に基づいて充填する充填方法を示す説明図である。図4と同様に、画像の半分の未収集のデータ点は原点0を基点に点対称の位置にある既収集データをそのまま反転して充填する。画像(a)と画像(b)をそれぞれ前記のようにして形成する。その後、充填処理した画像(a)と画像(b)を合成し、画像(c)を得る。
【0021】
図7は図5の収集軌跡の形成を可能にするパルス系列を示す波形図である。図7の横軸は時間TR、RFはラジオ周波数の90°RFパルスによる励起信号、Gsはスライス選択用の傾斜磁場、Gpは共鳴するスピンの位相エンコード用の傾斜磁場、Grは周波数エンコード用の傾斜磁場を与える。各々は、図示の時刻において個別に印加される。この結果、図中の両端矢印で示す時刻に信号が観測される。観測される信号はk空間に存在することから、傾斜磁場GpおよびGrの強度に依存してスピンの位相が変化する。GpとGrはユークリット空間において直交する2方向と合致させることにより、GpとGrの2軸に基づくスピンの2次元分布が得られる。スピンの位相は、傾斜磁場(GpおよびGr)の強度に比例する。従って、傾斜磁場を空間的に直線(線形)とすることで、k空間におけるスピンの位相は、線形の位相分布を示すことになる。このため、k空間において収集した観測信号をフーリエ変換することにより、画像(MRI画像)が得られることになる。
【0022】
図8はk空間を渦巻き状に収集軌跡をとる従来のスパイラルスキャン(SPI:Spiral MR Imaging)法を示す説明図である。k空間の中心から外側に、あるいは外側から中心に渦巻き状に軌跡を描き、軌跡上の点をデータとして収集する。
図9は図8で与えたスパイラルスキャン法において、k空間における未収集のデータ(画像再構成するために必要なデータ)を本発明の原理に基づいて充填する充填方法を示す説明図である。
【0023】
これは、図2に対する図4、図5に対する図6と同様に、図9(a)の収集したデータを図9(b)に示すように点対称で転置し、図9(a)と図9(b)のデータを合成することにより、図9(c)に示すようにデータの充填を行う。
図10は図9(c)に示された処理結果であり、k空間における収集データの分布を示す説明図である。実線は図9(a)の収集したデータの軌跡、点線は図9(b)の充填した軌跡であり、図10の実線の軌跡と点線の軌跡を合成した軌跡が本発明で求めるk空間における最終的なデータ収集の軌跡である。図中の線上のデータ点が収集されたことになる。
【0024】
図11は図8〜図10に示すスパイラル状に軌跡をとる撮像方法を可能にするパルスシーケンスを示す波形図である。これは、図7と同様に、共鳴のためのRF波(90°パルス)を、また、傾斜磁場(Gs、G、G)を図示の時系列で印加することにより矢印で示す時間範囲において信号が観測される。Gsはスライス断面の位置を決定するための傾斜磁場、GとGはk空間において図8に示す軌跡を取るために印加する傾斜磁場である。図はFID(自由誘導減衰)信号を観測して画像再構成する撮像法を示すが、図の90゜RFパルスの後にTE(エコー時間)の1/2の時間後に180゜RFパルスを印加すればエコー信号の観測を可能とし、90゜と180゜の間にMPG(傾斜磁場、Motion Probing Gradients)を印加することにより拡散強調イメージング(物質中の拡散や還流などによる磁気共鳴元素の変位)を可能にする。また、図は、図8におけるk空間の中心から外側に向かって軌跡を描く撮像方であるが、前述のように、外側から内側に軌跡を描かせる場合には、図中の傾斜磁場(G、G)の時間変化を逆にする。即ち、図中の経時的な変化において最初を大きく、徐々に減衰させる。信号は図示と同じ期間に観測される。
【0025】
図12は本発明の撮像法の応用の一例を示す説明図である。図12は、本発明にキーホール法を併用した高速撮像で、経時的に変化する対象を超高速で撮像できる。図12(a)は、最初のデータ収集時の軌跡を示し、従来のスパイラルスキャン法を用いて全領域のデータを収集する。図12(b)は、2回目以降のデータ収集軌跡を示し、特定の周波数領域のみを収集する。図12(c)は、本発明に基づく画像再構成のためのデータ収集軌跡を示し、本発明に基づいて図12(b)のデータを転置してデータを充填する。図12(d)は、キーホール法を適用したデータ収集軌跡を示し、図12(c)の結果において欠落する領域(図では中心部)のデータを図12(a)の収集データを充填してk空間における最終的なデータを得る。この後、フーリエ変換により画像(MRI画像)を再構成する。図12(b)のデータ収集のみで図12(a)と同等の画像を再構成する。k空間において変化する特定の領域(図12(b))のみを本発明で示す手法でデータ収集する。データ収集時間は収集するデータ量に比例することから、撮像時間は収集データの削減量に依存して変化する。機能MRI(Functional MRI)に見られる脳機能の撮像、心臓や四肢の動作などが適用事例になる。
【0026】
図13は本発明で与える撮像法の他の応用例を示す説明図である。図13では、対象が変化を示す周波数分布に応じてk空間における軌跡を変化させることができ、対象が存在する実空間において一様に変化する場合は図13(a)のように、横方向の変化を示す場合は図13(b)のように、斜め方向に変化する場合には図13(c)のように収集軌跡を変化させることを可能にする。具体的には、図11に示す傾斜磁場印加信号GとGを、k空間において図13(a)〜(c)のうちの任意の軌跡を取るように変化させる。
【実施例】
【0027】
図14は本発明の実施例を示す説明図である。同図はEPI手法に本発明の概念を導入したもので、図7のパルスシーケンスに基づいて、図5のデータ収集を行い、図6のデータ処理を行って再構成した画像である。図中、図14(a)は、従来のEPI法に基づいて画像(2次元画像、128×128画素、撮像時間約100msec)を再構成した結果である。これに対して、図14(b)は、撮像時間の短縮を目的とした従来のハーフフーリエEPI法(k空間における半分強[半分+3程度]の領域のみをデータ収集)の結果で、撮像時間は約1/2に短縮される。図14(c)は、本発明に基づくハーフフーリエEPI法を適用した画像である。本方法は従来手法より短い1/2の時間で撮像を完了する。また、k空間の全領域のデータを収集することから静磁場などの時・空間的な不均一性に強く(k空間において全データを収集する従来のEPI法(a)と同等)、撮像時間が短縮される。
(従来技術との差異)
【0028】
図15は、ハーフフーリエメージングにおけるEPIのパルス系列を説明する説明図である。従来のEPI法は、RFパルスを用いてスピンを励起した後に、画像化する2次元面に対して、図15(a)に示すように傾斜磁場を可変させた。EPI法においては、フーリエ変換におけるエルミート対象性を利用したハーフフーリエメージングがあり、これをEPI法に適用することも可能である。その際のk空間におけるデータ収集の軌跡を図15(b)に示す。MRIにおけるハーフフーリエ技術の目的には撮像の高速化にある。k空間の半分強の領域のみをデータを収集し、これを他の領域に充填することで画像再構成を可能とした。この方法の問題点は、半分の領域のみの収集であることから、収集されるデータの位相を補正することが困難であり、磁場の不均一性に弱い点を指摘することができる。本発明(c)は、これらの問題点を克服した特徴を有する。
図16は図15に示すパルス系列に対するk空間における軌跡を示す説明図である。各々、(a)フルエンコード法、(b)ハーフエンコード法、(c)提案するエンコード法で、データ収集のための軌跡は図示の通りである。
図17はスパイラルスキャン法における傾斜磁場の印加方法を示す説明図である。k空間において螺旋状のデータ収集軌跡を描かせるために、傾斜磁場は図示の正弦波をとる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
この技術は、金属および磁性材料を除く種々の材料における内部構造や物性の解析(非破壊検査)、流体の可視化、薬学や化学における化学的な構造や薬理効果、動物学、生物学、医学、生理学などにおける生体の組織構造や機能の解析、生体反応、病気の検査・診断などの計測(無侵襲検査)、などに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の核磁気共鳴イメージング装置のブロック構成図を示す。
【図2】発明の原理に基づく2次元イメージングに対するk空間におけるデータ収集の軌跡を示す説明図である。
【図3】MRIで観測された信号の波形図を示す。
【図4】図2の軌跡に対するデータの充填方法を示す説明図である。
【図5】本発明の原理に基づく2次元EPI(エコープレーナ)法のためのデータの収集軌跡を示す説明図である。
【図6】図5で与えたEPI法において、k空間における未収集のデータ(画像再構成するために必要なデータ)を本発明の原理に基づいて充填する充填方法を示す説明図である。
【図7】図5の収集軌跡の形成を可能にするパルス系列を示す波形図である。
【図8】k空間を渦巻き状に収集軌跡をとる従来のスパイラルスキャン(SPI:Spiral MR Imaging)法を示す説明図である。
【図9】図8で与えたスパイラルスキャン法において、k空間における未収集のデータ(画像再構成するために必要なデータ)を本発明の原理に基づいて充填する充填方法を示す説明図である。
【図10】図9(c)で与えられるk空間における収集軌跡を示す説明図である。
【図11】図8〜図10に示すスパイラル状に軌跡をとる撮像方法を可能にするパルスシーケンスを示す波形図である。
【図12】本発明の撮像法の応用の一例を示す説明図である。
【図13】本発明で与える撮像法の他の応用例を示す説明図である。
【図14】本発明の実施例を示す説明図である。
【図15】EPI法に対するパルス系列を説明する説明図である。
【図16】EPI法におけるk空間における軌跡を示す説明図である。
【図17】スパイラルスキャン法における傾斜磁場の印加方法を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0031】
10 励起・検出コイル
11a、11b 静磁場発生マグネット
12a、12b 傾斜磁場発生コイル
13 静磁場マグネット・シムコイル電源
14、17 制御装置
16 傾斜磁場発生コイル電源
18 RFパルス発生器
19 受信器
20 画像再構成装置
21 画像表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場中で傾斜磁場を可変して2次元方向にエンコードして得たMRIデータの形成方法であって、2次元の行列で構成されるMRIデータは、k空間の中心を境界として2分割し、一方を偶数番目の行データ、他方を奇数番目の行データを収集するようにエンコードし、分割した他方のMRIデータは前記一方のMRIデータを前記中心点で対称に折り返し補間して形成することを特徴とするMRIデータの形成方法。
【請求項2】
前記MRIデータの2分割は、前記k空間において正負の領域に分割することを特徴とする請求項1記載のMRIデータの形成方法。
【請求項3】
前記MRIデータの収集方法をフーリエ変換を用いるMRI画像再構成法に適用することを特徴とする請求項1または2記載のMRIデータの形成方法。
【請求項4】
MRI画像を構成する撮像対象からのエコー信号又は自由誘導減衰信号を検出する励起・検出装置と、前記エコー信号又は自由誘導減衰信号に基づいてMRIデータおよび前記MRIデータを2次元配列したk空間を形成し、該k空間のMRIデータをフーリエ変換してMRI画像を形成する画像再構成装置とからなるハーフフーリエ核磁気共鳴イメージング装置であって、前記画像再構成装置は、傾斜磁場を印加することにより2方向にスピンの位相をエンコードしてMRIデータをk空間において2次元配列する際に、前記請求項1乃至3のいずれか1項記載のデータの形成方法を適用して前記中心点で対称に折り返し補間して作成することを特徴とするハーフフーリエ核磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−87499(P2006−87499A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−273650(P2004−273650)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】