説明

MRI装置

【課題】血流を広範囲に描出することができるMRI装置を提供する。
【解決手段】選択的RF反転パルスP1を印加した後、第1の反転時間TIaが経過した時点で、非選択的RF反転パルスP2を印加し、その後、第2の反転時間TIbが経過した時点で、データの収集を開始する。したがって、動脈血ARの縦磁化の方向を反転させてから、データの収集を開始するまでの時間(反転時間)が、静脈血VEの縦磁化の方向を反転させてからデータの収集を開始するまでの時間よりも長くなり、動脈血を広範囲に渡って描出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血流を撮像するMRI装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば血管を流れる血液を撮像する場合に、MRI装置が使用されている。血流を撮像する方法として、例えばTime-SLIP法が知られている(非特許文献1参照)。
【非特許文献1】映像情報Medical 2006年9月号 952ページ〜957ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
非特許文献1の方法では、血流の遅い患者を撮像する場合、描出される血流範囲が狭くなることがある。
【0004】
本発明は、上記の事情に鑑み、血流を広範囲に描出することができるMRI装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の問題を解決する本発明のMRI装置は、
第1の領域から撮像領域を経由して第2の領域に流れる血液を有する被検体から、前記血液の血液信号を収集するMRI装置であって、
第1の反転期間に、前記第1の領域の前記血液の縦磁化の方向を反転させる第1の縦磁化反転手段、
前記第1の反転期間の後の第2の反転期間に、縦磁化回復する途中の前記血液の縦磁化の方向を反転させるとともに、前記撮像領域および前記第2の領域の組織の縦磁化の方向を反転させる第2の縦磁化反転手段、および
前記第2の反転期間の後のデータ収集期間に、前記第1の領域から前記撮像領域に流入した血液の血液信号を収集するデータ収集手段、
を有している。
【発明の効果】
【0006】
第2の縦磁化反転手段は、第2の反転期間に、縦磁化回復する途中の前記血液の縦磁化の方向を反転させるとともに、前記撮像領域および前記第2の領域の組織の縦磁化の方向を反転させている。したがって、第2の反転期間が終了した時点では、前記撮像領域および前記第2の領域の組織の縦磁化成分MzはMz=−1であるが、縦磁化回復する途中の血液の縦磁化成分Mzは−1<Mz<1である。したがって、前記撮像領域および前記第2の領域の組織の縦磁化が、ヌルポイント(null point)に到達した時点又はヌルポイントの近くに到達した時点で、データ収集期間を開始することによって、血液を他の組織よりも強く描出することができる。
【0007】
また、本発明では、撮像領域および第2の領域の組織の縦磁化の方向を反転させる前に、血液の縦磁化の方向を反転させている。したがって、血液の縦磁化の方向を反転させてからデータの収集を開始するまでの時間(第1の反転時間と第2の反転時間との合計時間)は、撮像領域および第2の領域の組織の縦磁化の方向を反転させてからデータの収集を開始するまでの時間(第2の反転時間)よりも長くなる。このため、血液の流速が遅くても、血液を広範囲に渡って描出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。尚、本発明は、発明を実施するための最良の形態に限定されるものではない。
【0009】
図1は、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置100のブロック図の一例である。このMRI装置100は発明を実施するための最良の形態の一例である。
【0010】
MRI装置100は、マグネットアセンブリ101を有している。マグネットアセンブリ101は、被検体10を挿入するためのボア114を有している。また、マグネットアセンブリ101は、静磁場コイル101Cと、勾配コイル101Gと、送信コイル101Tと、を有している。
【0011】
静磁場コイル101Cはボア114内に一定の静磁場を印加する。勾配コイル101Gは、勾配コイル駆動回路103に接続されており、X軸,Y軸,Z軸の勾配磁場を発生する。送信コイル101Tは、RF電力増幅器104に接続されており、ボア114内にRFパルスを供給する。
【0012】
また、MRI装置100は、ベローズ115および心拍センサ116を有している。
ベローズ115は、被検体10の呼吸を検出し、呼吸信号115aを計算機107に送信する。また、心拍センサ116は、被検体10の心拍を検出し、心電信号116aを計算機107に送信する。
【0013】
計算機107は、受け取った呼吸信号115aおよび心電信号116aに基づいて、被検体10の呼吸状態および心拍状態を計算し、計算結果をシーケンサ108に出力する。
【0014】
シーケンサ108は、計算機107から受け取った命令に従って、勾配コイル駆動回路103およびゲート変調回路109を制御する。勾配コイル駆動回路103は、シーケンサ108からの指令に従って勾配コイル101Gを駆動し、この結果、勾配コイル101Gは被検体10に勾配パルスを印加する。ゲート変調回路109は、シーケンサ108からの指令に従って、RF発振回路110からの搬送波を変調し、その変調信号をRF電力増幅器104に出力する。RF電力増幅器104は、変調信号をパワー増幅した後、送信コイル101Tに印加し、この結果、送信コイル101Tは被検体10に送信パルスを印加する。
【0015】
また、MRI装置100は受信コイル101Rを有している。受信コイル101Rは、前置増幅器105に接続されており、被検体10からのMR信号を受信する。このMR信号は前置増幅器105によって増幅され、レシーバ112に供給される。レシーバ112は、増幅されたMR信号をデジタル信号に変換し、計算機107に出力する。
【0016】
計算機107は、レシーバ112からのデジタル信号に基づいて画像を再構成する。再構成された画像は、表示装置106に表示される。MRI装置100の操作者は、表示装置106および操作卓113を通じてインタラクティブにMRI装置100を操作することができる。
【0017】
次に、上記のように構成されたMRI装置100の動作について説明する。
【0018】
図2は、計算機107の機能ブロック図の一例である。
【0019】
計算機は107は、タイミング算出部11、パルスシーケンス実行制御部21、およびデータ収集続行判断部17と、を有している。
【0020】
タイミング算出部11は、呼吸信号115aおよび心電信号116a(図1参照)に基づいて、パルスシーケンス(後述する図5参照)を開始するタイミングを算出する。パルスシーケンス実行制御部21は、パルスシーケンスの実行を制御する。データ収集続行判断部17は、データの収集を続行するか否かを判断する。
【0021】
パルスシーケンス実行制御部21は、パルスシーケンスの実行を制御するために、5つの機能ブロック(第1のRF反転パルス印加制御部12、TIa待ち部13、第2の反転パルス印加制御部14、TIb待ち部15、およびデータ収集制御部16)を有している。
【0022】
第1のRF反転パルス印加制御部12は、第1の反転パルスP1(後述する図5参照)を被検体10に印加するための命令をシーケンサ108に送る。第2のRF反転パルス印加制御部14は、第2の反転パルスP2(後述する図5参照)を被検体10に印加するための命令をシーケンサ108に送る。データ収集制御部16は、被検体10からMR信号を収集するための命令をシーケンサ108に送る。また、パルスシーケンス実行制御部21は、2つの待ち部13および15を有している。TIa待ち部13は、第1の反転パルスP1と第2の反転パルスP2との間に待ち時間(第1の反転時間TIa)を確保する命令をシーケンサ108に送る。一方、TIb待ち部15は、第2の反転パルスP2とデータ収集期間の励起パルスPda(後述する図5参照)との間に待ち時間(第2の反転時間TIb)を確保する命令をシーケンサ108に送る。
【0023】
次に、被検体10の動脈血を撮像する場合を取り上げて、MRI装置100がどのような処理を実行するかについて説明する。
【0024】
図3は、MRI装置100の処理フローを示す図である。
【0025】
先ず、ステップS11において、呼吸信号115aおよび心電信号116a(図1参照)に基づいて、パルスシーケンス(後述する図5参照)を開始するタイミングを算出する。ステップS11の後、ステップS12に進む。
【0026】
ステップS12では、パルスシーケンス(後述する図5参照)を実行することにより、被検体10の撮像領域FOVから動脈血ARのデータを収集する。
【0027】
図4は、被検体10の撮像領域FOVを概略的に示す図である。
【0028】
図4には、被検体10の心臓11に繋がっている動脈12および静脈13が示されている。動脈12は腎臓14にも繋がっている。本形態では、腎臓14を含む領域を撮像領域FOVとする。心臓11は動脈12に動脈血ARを供給する。動脈血ARは、上流領域UPから、撮像領域FOVを経由して、下流領域DWに流れる。静脈血VEは、動脈血ARとは反対に、下流領域DWから、撮像領域FOVを経由して、上流領域UPに向かって流れる。
【0029】
ステップS12で、動脈血ARのデータを収集した後、ステップS13に進み、更にデータの収集を続行するかどうかが判断される。データの収集を続行する場合は、ステップS11に戻る。ステップS13において、データの収集を続行しないと判断された場合、ループを終了する。
【0030】
しかし、撮像領域FOVには、動脈血ARの他に静脈血VEが流れており、更に静止組織(例えば、筋肉や腎臓14)なども含まれている。本実施形態では、動脈血ARを描出することを考えているので、動脈血ARと一緒に、静脈血VEや腎臓14自体も描出されてしまうと、動脈血ARの血流状態を視認することが困難になる。したがって、撮像対象ではない組織(静脈血VE、腎臓14など)はできるだけ描出されないようする必要がある。そこで、本実施形態では、撮像対象ではない組織(静脈血VE、腎臓14など)はできるだけ描出されないようするため、ステップS12は、以下のようなパルスシーケンスを実行する。
【0031】
図5は、ステップS12において実行されるパルスシーケンスの一例を示す図である。
【0032】
パルスシーケンス50は、第1の反転期間IR1、第2の反転期間IR2、およびデータ収集期間ACQを有している。
【0033】
第1の反転期間IR1の間に、勾配コイル101G(図1参照)が被検体10に勾配パルスGを印加する。勾配パルスGが印加されている間に、送信コイル101Tは、選択的RF反転パルスP1を印加する。勾配パルスGおよび選択的RF反転パルスP1は、上流領域UP(図4参照)の組織の縦磁化の方向が反転するように設計されている。第1の反転期間IR1の後に、第2の反転期間IR2が設けられている。
【0034】
第2の反転期間IR2の間に、送信コイル101Tは、被検体10に非選択的RFパルスP2を印加する。非選択的RFパルスP2は、選択的RFパルスP1が印加されてから、第1の反転時間TIaが経過した時点で印加される。第2の反転期間IR2の後に、データ収集期間ACQが設けられている。
【0035】
データ収集期間ACQの間に、データが収集される。データ収集期間ACQの間、送信コイル101Tは、多数の励起パルスPdaを印加する。送信コイル101Tは、非選択的RF反転パルスP2を送信してから、第2の反転時間TIbが経過した時点で励起パルスPdaの印加を開始する。
【0036】
図5に示すパルスシーケンス50を実行することによって、動脈血ARが強調された血流画像を取得することができる。図5のパルスシーケンスを実行するために、ステップS12は、図3に示すように、5つのサブステップS121〜サブステップS125を有している。
【0037】
サブステップS121では、第1の反転期間IR1に第1の反転パルスP1を被検体10に印加する。サブステップS123では、第2の反転期間IRに第2の反転パルスP2を被検体10に印加する。サブステップS125では、データ収集期間ACQに被検体10からMR信号を収集する。また、サブステップS121とS123との間には、サブステップS122が設けられ、サブステップS123とS125との間には、サブステップS124が設けられている。サブステップS122では、第1の反転パルスP1と第2の反転パルスP2との間に、第1の反転時間TIaの待ち時間を確保する。一方、サブステップS124では、第2の反転パルスP2と励起パルスPdaとの間に、第2の反転時間TIbの待ち時間を確保する。
【0038】
MRI装置100は、図5に示すパルスシーケンス50を実行することによって、動脈血ARが強調された血流画像を取得することができる。以下に、パルスシーケンス50を実行することによって、動脈血ARが強調された血流画像を取得できる理由について、図5および図6〜図10を参照しながら説明する。
【0039】
図6〜図10は、図5に示すパルスシーケンス50の各時刻における被検体10の動脈血ARと静脈血VEの縦磁化成分Mを示すグラフである。
【0040】
図6〜図10のグラフの横軸は、上流領域UP、撮像領域FOV、および下流領域DW(図4参照)の位置Pを示す。グラフの横軸(位置P)には、撮像領域FOVの全体が示されているが、上流領域UPについては、撮像領域FOVに近接する第1の上流領域UP1(図4参照)のみが示されている。また、下流領域DWについては、撮像領域FOVに近接する第1の下流領域DW1(図4参照)のみが示されている。図6〜図10のグラフの縦軸は、被検体10の動脈血ARおよび静脈血VEの縦磁化成分Mzを示す。
【0041】
先ず、図6のグラフについて考察する。
【0042】
図6は、第1の反転期間IR1の開始直前(図5の時刻t1)における動脈血ARおよび静脈血VEの縦磁化成分Mzを示している。図6(a)のグラフには、時刻t1における動脈血ARの縦磁化成分Mzと位置Pとの関係を表すラインA1が示されている。図6(b)のグラフには、時刻t1における静脈血VEの縦磁化成分Mzと位置Pとの関係を表すラインV1が示されている。
【0043】
(1)図6(a)のグラフについて
時刻t1では、第1の反転期間IR1は開始されていない。したがって、動脈血ARの縦磁化成分Mzは、上流領域UP(第1および第2の上流領域UP1およびUP2)、撮像領域FOV、および下流領域DW(第1および第2の下流領域DW1およびDW2)に渡って、Mz=1である。
【0044】
(2)図6(b)のグラフについて
静脈血VEの縦磁化成分Mzも、上流領域UP(第1および第2の上流領域UP1およびUP2)、撮像領域FOV、および下流領域DW(第1および第2の下流領域DW1およびDW2)に渡って、Mz=1である。
【0045】
時刻t1の直後に、第1の反転期間IR1が開始される(図5参照)。第1の反転期間IR1の間に、勾配パルスGと選択的RF反転パルスP1が印加される。勾配パルスGおよび選択的RF反転パルスP1は、上流領域UP(図4参照)の組織の縦磁化の方向が反転するように設計されている。したがって、第1の反転期間IR1の間に、上流領域UPの組織の縦磁化の方向が反転する。この結果、第1の反転期間IR1の終了直後(時刻t2)における動脈血ARおよび静脈血VEの縦磁化成分Mzは、図7のグラフに示すように変化する。
【0046】
図7は、第1の反転期間IR1の終了直後(図5の時刻t2)における動脈血ARおよび静脈血VEの縦磁化成分Mzを示している。図7(a)のグラフには、時刻t2における動脈血ARの縦磁化成分Mzと位置Pとの関係を表すラインA2が示されている。図7(b)のグラフには、時刻t2における静脈血VEの縦磁化成分Mzと位置Pとの関係を表すラインV2が示されている。
【0047】
(1)図7(a)のグラフについて
第1の反転期間IR1の間に、上流領域UPの組織の縦磁化の方向が反転するので、動脈血ARの縦磁化成分Mzは、上流領域UP(第1および第2の上流領域UP1およびUP2)において、Mz=1からMz=−1に反転する。
【0048】
(2)図7(b)のグラフについて
静脈血VEの縦磁化成分Mzも、動脈血ARの縦磁化成分Mzと同様に、上流領域UP(第1および第2の上流領域UP1およびUP2)において、Mz=1からMz=−1に反転する。
【0049】
第1の反転期間IR1の後、第2の反転期間IR2が設けられる(図5参照)。ただし、第1の反転期間IR1と第2の反転期間IR2との間には、第1の反転時間TIaの時間間隔が設けられている。したがって、第1の反転時間TIaの間に、動脈血ARおよび静脈血VEの縦磁化成分Mzは、図8のグラフに示すように変化する。
【0050】
図8は、第2の反転期間IR2の開始直前(図5の時刻t3)における動脈血ARおよび静脈血VEの縦磁化成分Mzを示している。
【0051】
図8(a)のグラフには、時刻t3における動脈血ARの縦磁化成分Mzと位置Pとの関係を表すラインA3(実線)が示されている。また、図8(a)のグラフには、図7(a)に示されているラインA2が一点鎖線で示されている。
【0052】
図8(b)のグラフには、時刻t3における静脈血VEの縦磁化成分Mzと位置Pとの関係を表すラインV3(実線)が示されている。また、図8(b)のグラフには、図7(b)に示されているラインV2が一点鎖線で示されている。
【0053】
(1)図8(a)のグラフについて
第1の上流領域UP1の動脈血ARの縦磁化成分Mzは、時刻t2において、Mz=−1である(ラインA2参照)。しかし、時刻t2においてMz=−1である動脈血ARは、第1の反転時間TIaの間に縦磁化回復する。第1の実施形態では、反転時間TIaは、動脈血ARの縦磁化成分Mzが、Mz=−1からヌルポイントに到達するまでの時間(約840ms)に設定されている。したがって、時刻t2においてMz=−1である動脈血ARは、第2の反転期間IR2の開始直前(時刻t3)において、実質的にヌルポイントにまで縦磁化回復する。ただし、動脈血ARは、第1の上流領域UP1から撮像領域FOVに向かって流れるので、動脈血ARの縦磁化成分Mzは、ラインA2(時刻t2)からラインA3(時刻t3)に変化する。例えば、ラインA2上の位置P=P1における縦磁化成分MA2_1は、動脈血ARが流れることによって、ラインA3上の位置P=P3における縦磁化成分MA3_1に変化する。また、ラインA2上の位置P=P2における縦磁化成分MA2_2は、動脈血ARが流れることによって、ラインA3上の位置P=P4における縦磁化成分MA3_2に変化する。
尚、第2の上流領域UP2(図4参照)の動脈血ARは、Mz=−1からMz=0に縦磁化回復しながら、第1の上流領域UP1に流入する。したがって、第1の上流領域UP1内の動脈血ARの縦磁化成分Mzは、時刻t=t3において、Mz=0となる。
【0054】
(2)図8(b)のグラフについて
時刻t2においてMz=−1である静脈血VEも、第1の反転時間TIaの間に縦磁化回復する。静脈血VEの縦磁化成分Mzが、Mz=−1からヌルポイントに到達するまでの時間は、動脈血ARの場合と実質的に同じ時間である。したがって、時刻t2においてMz=−1である静脈血VEは、第2の反転期間IR2の開始直前(時刻t3)において、実質的にヌルポイントにまで縦磁化回復する。ただし、静脈血VEは、動脈血ARの流速よりも遅い流速で、動脈血ARとは反対方向に流れるので、静脈血VEの縦磁化成分Mzは、ラインV2(時刻t2)からラインV3(時刻t3)に変化する。例えば、ラインV2上の位置P=P2における縦磁化成分MV2_1は、静脈血VEが流れることによって、ラインV3上の位置P=P1’における縦磁化成分MV3_1に変化する。
尚、第2の下流領域DW2(図4参照)の静脈血VEは、時刻t=t2においてMz=1であり、Mz=1を保持したまま第1の下流領域DW1に流入する。したがって、第1の下流領域DW1内の静脈血VEの縦磁化成分Mzは、時刻t=t3において、Mz=1となる。
【0055】
時刻t3の直後に、第2の反転期間IR2が開始される(図5参照)。第2の反転期間IR2の間に、非選択的RF反転パルスP2が印加される。非選択的RF反転パルスP2が印加されると、動脈血ARおよび静脈血VEの縦磁化成分Mzは、図9のグラフに示すように変化する。
【0056】
図9は、第2の反転期間IR2の終了直後(図5の時刻t4)における動脈血ARおよび静脈血VEの縦磁化成分Mzを示している。
【0057】
図9(a)のグラフには、時刻t4における動脈血ARの縦磁化成分Mzと位置Pとの関係を表すラインA4(実線)が示されている。また、図9(a)のグラフには、図8(a)に示されているラインA3が一点鎖線で示されている。
【0058】
図9(b)のグラフには、時刻t4における静脈血VEの縦磁化成分Mzと位置Pとの関係を表すラインV4(実線)が示されている。また、図9(b)のグラフには、図8(b)に示されているラインV3が一点鎖線で示されている。
【0059】
(1)図9(a)のグラフについて
第2の反転期間IR2の間に、非選択的RF反転パルスP2が印加されると、上流領域UP、撮像領域FOV、および下流領域DWの全体に渡って、被検体10の組織の縦磁化成分M(縦磁化の方向)が反転する。この結果、動脈血ARの縦磁化成分Mz=1は、Mz=−1に反転し、ラインA3からラインA4に変化する。尚、時刻t3とt4との間の時間間隔は十分に短いので、時刻t3から時刻t4の間の動脈血ARの移動距離は無視できる。したがって、例えば、ラインA3上の位置P=P5における縦磁化成分MA3_3は、ラインA4上の位置P=P5における縦磁化成分MA4_3に変化する。
【0060】
(2)図9(b)のグラフについて
静脈血VEの縦磁化成分Mz(縦磁化の方向)も反転し、ラインV3からラインV4に変化する。尚、時刻t3とt4との間の時間間隔は十分に短いので、時刻t3から時刻t4の間の静脈血VEの移動距離は無視できる。したがって、例えば、ラインV3上の位置P=P5における縦磁化成分MV3_3は、ラインV4上の位置P=P5における縦磁化成分MV4_3に変化する。
【0061】
第2の反転期間IR2の後、データ収集期間ACQが設けられる(図5参照)。ただし、第2の反転期間IR2とデータ収集期間ACQとの間には、第2の反転時間TIbの時間間隔が設けられている。したがって、第2の反転時間TIbの間に、動脈血ARおよび静脈血VEの縦磁化成分Mzは、図10のグラフに示すように変化する。
【0062】
図10は、データ収集期間ACQの開始直前(図5の時刻t5)における動脈血ARおよび静脈血VEの縦磁化成分Mzを示している。
【0063】
図10(a)のグラフには、時刻t5における動脈血ARの縦磁化成分Mzと位置Pとの関係を表すラインA5(実線)が示されている。また、図10(a)のグラフには、図9(a)に示されているラインA4が一点鎖線で示されている。
【0064】
図10(b)のグラフには、時刻t5における静脈血VEの縦磁化成分Mzと位置Pとの関係を表すラインV5(実線)が示されている。また、図10(b)のグラフには、図9(b)に示されているラインV4が一点鎖線で示されている。
【0065】
図10の説明に当たっては、先に図10(b)について説明し、次いで、図10(a)について説明する。
【0066】
(1)図10(b)のグラフについて
時刻t4においてMz=−1である静脈血VEは、第2の反転時間TIbの間に縦磁化回復する。第1の実施形態では、第2の反転時間TIbは、静脈血VEの縦磁化成分Mzが、Mz=−1からヌルポイントに到達するまでの時間に設定されている。ラインV4上のP>P1’の範囲の静脈血VEの縦磁化成分Mzは、Mz=−1から縦磁化回復し、データ収集期間の開始直前(時刻t5)において、実質的にヌルポイントに到達する。ただし、静脈血VEは、動脈血ARとは反対方向に流れるので、静脈血VEの縦磁化成分Mzは、ラインV4(時刻t4)からラインV5(時刻t5)に変化する。例えば、ラインV4上の位置P=P1’における縦磁化成分MV4_1は、静脈血VEが流れることによって、ラインV5上の位置P=P2’における縦磁化成分MV5_1に変化する。図10(b)から分かるように、撮像領域FOV内の静脈血VEは、時刻t5において、縦磁化成分Mzがゼロになっていることが分かる。
尚、第2の下流領域DW2内の静脈血VEも、Mz=−1からMz=0(ヌルポイント)に縦磁化回復しながら、第1の下流領域DW1に流入する。したがって、第1の下流領域DW1内の静脈血VEの縦磁化成分Mzは、時刻t=t5において、Mz=0となる。
【0067】
(2)図10(a)のグラフについて
時刻t4においてMz=−1である動脈血ARも、第2の反転時間TIbの間に縦磁化回復する。動脈血ARの縦磁化成分Mzが、Mz=−1からヌルポイントに到達するまでの時間は、静脈血VEの場合と実質的に同じ時間である。したがって、動脈血ARの血流方向を考慮すると、ラインA4(時刻t4)上のP>P4の範囲の縦磁化成分Mz(=1)は、縦磁化回復によって、ラインA5(時刻t5)上のP>P6の範囲の縦磁化成分Mz(=0)に変化する。例えば、ラインA4上の位置P=P5における縦磁化成分MA4_3は、ラインA5上の位置P=P7における縦磁化成分MA5_3に変化する。
【0068】
また、ラインA4上のP<P4の範囲の縦磁化成分Mzは、Mz=0である。したがって、ラインA4上のP<P4の範囲の縦磁化成分Mzは、第2の反転時間TIbの間にMz=0よりも大きくなり、Mz=α(0<α<1)まで縦磁化回復する。本実施形態では、αは約0.5である。動脈血ARの血流方向を考慮すると、ラインA4上のP<P4の範囲の縦磁化成分Mz(=0)は、ラインA5上のP<P6の範囲の縦磁化成分Mz(=α=0.5)に変化する。例えば、ラインA4上の位置P=P1における縦磁化成分MA4_1は、ラインA5上の位置P=P3における縦磁化成分MA5_1に変化する。また、ラインA4上の位置P=P4における縦磁化成分MA4_2は、ラインA5上の位置P=P6における縦磁化成分MA5_2に変化する。図10(a)から分かるように、撮像領域FOV内の動脈血ARは、時刻t5において、縦磁化成分Mzがα(=0.5)なっていることが分かる。
尚、第2の上流領域UP2内の動脈血ARも、Mz=0からMz=α(=0.5)に縦磁化回復しながら、第1の上流領域UP1に流入する。したがって、第1の上流領域UP1内の動脈血ARの縦磁化成分Mzは、時刻t=t5において、Mz=α(=0.5)となる。
【0069】
図10(a)と(b)とを比較すると、撮像領域FOVの範囲において、動脈血ARの縦磁化成分Mはα(=0.5)であるが(ラインA5)、静脈血VEの縦磁化成分Mは0(ゼロ)である(ラインV5)。したがって、図5に示すパルスシーケンス50を実行することによって、動脈血ARが強調された血流画像を得ることができる。
【0070】
上記の実施形態では、選択的RF反転パルスP1は、非選択的RF反転パルスP2よりも前に印加されているが、選択的RF反転パルスを非選択的RF反転パルスよりも後に印加するTime−SLIP方法が知られている(例えば、映像情報Medical 2006年9月号 952ページ〜957ページ参照)。しかし、このTime−SLIP法では、上記の実施形態で得られる撮像領域FOVよりも狭い範囲でしか動脈血ARを撮像することができない。その理由について、上記の実施形態とTime−SLIP法とを比較しながら説明する。
【0071】
図11は、上記の実施形態のパルスシーケンスとTime−SLIP法のパルスシーケンスとを示す図である。
【0072】
図11(a)は、上記の実施形態のパルスシーケンス50(図5参照)であり、図11(b)は、Time−SLIP法のパルスシーケンスの一例である。
【0073】
Time−SLIP法のパルスシーケンス51は、本発明の実施形態のパルスシーケンス50と同じタイミングで第2の反転期間IR2が設けられている。しかし、第1の反転期間IR1は、第2の反転期間IR2の直後に設けられている。
【0074】
以下に、これらのパルスシーケンス50および51を実行することにより、動脈血ARの縦磁化成分がどのように変化するかについて説明する。
【0075】
図12〜図17は、図11に示すパルスシーケンス50および51の各時刻における被検体10の動脈血ARの縦磁化成分Mを示すグラフである。
【0076】
図12〜図17のグラフの横軸は、第1の上流領域UP1、撮像領域FOV、および第1の下流領域DW1(図4参照)の位置Pを示す。図12〜図17のグラフの縦軸は、被検体10の動脈血ARの縦磁化成分Mzを示す。
【0077】
図12〜図17のグラフ(a)は、本実施形態のパルスシーケンス50(図11(a)参照)を実行した場合の各時刻における動脈血ARの縦磁化成分Mzを示す。一方、図12〜図17のグラフ(b)は、Time-SLIP法のパルスシーケンス51(図11(b)参照)を実行した場合の各時刻における動脈血ARの縦磁化成分Mzを示す。
【0078】
Time-SLIP法によるパルスシーケンス51では、時刻t3まではパルスは印加されていない。したがって、Time-SLIP法では、時刻t1、t2、およびt3における動脈血ARの縦磁化成分Mzは、図12〜図14のグラフ(b)に示すように、第1の上流領域UP1、撮像領域FOV、および第1の下流領域DW1に渡って、Mz=1である。
【0079】
時刻t3の直後に、第2の反転期間IR2が開始される。
第2の反転期間IR2の間に、非選択的RF反転パルスP2が印加される。非選択的RF反転パルスP2が印加されると、動脈血ARの縦磁化成分Mzは、図15のグラフに示すように変化する。
【0080】
図15は、第2の反転期間IR2の終了直後(図11の時刻t4)における動脈血ARの縦磁化成分Mzを示している。
【0081】
図15(a)は、本実施形態のグラフであり、時刻t4における動脈血ARの縦磁化成分Mzと位置Pとの関係を表すラインA4(実線)が示されている。また、図15(a)のグラフには、図14(a)に示されているラインA3が一点鎖線で示されている。
【0082】
図15(b)は、Time-SLIP法のグラフであり、時刻t4における動脈血ARの縦磁化成分Mzと位置Pとの関係を表すラインA41(実線)が示されている。また、図15(b)のグラフには、図14(b)に示されているラインA31が一点鎖線で示されている。
【0083】
第2の反転期間IR2の間に、非選択的RF反転パルスP2が印加されると、上流領域UP、撮像領域FOV、および下流領域DWの全体に渡って、被検体10の組織の縦磁化成分M(縦磁化の方向)が反転する。この結果、動脈血ARの縦磁化成分Mz=1は、Mz=−1に反転する。図15(a)(本実施形態)では、ラインA3からラインA4に変化し、図15(b)(Time-SLIP法)では、ラインA31からラインA41に変化する。図15(a)と図15(b)とを比較すると、図15(a)では、撮像領域FOVは、縦磁化成分Mz=−1の領域だけでなく、Mz=0の領域も有しているが、図15(b)では、撮像領域FOVの全体に渡って、縦磁化成分Mz=−1であることが分かる。
【0084】
Time-SLIP法では、第2の反転期間IR2の直後に、第1の反転期間IR1が設けられる。したがって、第1の反転期間IR1に選択的RF反転パルスP1を印加することによって、Time-SLIP法では、動脈血ARの縦磁化成分Mzは、図16のグラフに示すように変化する。
【0085】
図16は、時刻t4’時点における動脈血ARの縦磁化成分Mzを示している。
【0086】
図16(a)は、時刻t4’における本実施形態の動脈血ARの縦磁化成分Mzのグラフである。図16(b)は、時刻t4’におけるTime-SLIP法の動脈血ARの縦磁化成分Mzのグラフである。
【0087】
Time-SLIP法においては、第1の反転期間IR1の間に、上流領域UPの組織の縦磁化の方向が反転する。したがって、図16(b)に示すように、動脈血ARの縦磁化成分Mzは、上流領域UP(第1および第2の上流領域UP1およびUP2)において、Mz=−1からMz=1に反転する。
【0088】
一方、本実施形態の場合、時刻t4〜t4’の間に選択的RF反転パルスP1は印加されない。したがって、本実施形態では、時刻t4’のグラフA4’は、時刻t4のグラフA4(図15(a)参照)と実質的に同じである。尚、時刻t4とt4’との間の時間間隔は十分に短いので、時刻t4から時刻t4’の間の動脈血ARの移動距離は無視されている。
【0089】
時刻t4’の後、データ収集期間ACQが開始される。第2の反転期間IR2とデータ収集期間ACQとの間には、第2の反転時間TIbの時間間隔が設けられている(図5参照)。したがって、第2の反転時間TIbの間に、動脈血ARの縦磁化成分Mzは、図17のグラフに示すように変化する。
【0090】
図17は、データ収集期間ACQの開始直前(図11の時刻t5)における動脈血ARの縦磁化成分Mzを示している。
【0091】
図17(a)は、時刻t5における本実施形態の動脈血ARの縦磁化成分Mzのグラフである。図17(b)は、時刻t5におけるTime-SLIP法の動脈血ARの縦磁化成分Mzのグラフである。
【0092】
図17(a)は、本実施形態のグラフであり、時刻t5における動脈血ARの縦磁化成分Mzと位置Pとの関係を表すラインA5(実線)が示されている。また、図17(a)のグラフには、図16(a)に示されているラインA4’が一点鎖線で示されている。
【0093】
図17(b)は、Time-SLIP法のグラフであり、時刻t5における動脈血ARの縦磁化成分Mzと位置Pとの関係を表すラインA51(実線)が示されている。また、図17(b)のグラフには、図16(b)に示されているラインA41’が一点鎖線で示されている。
【0094】
時刻t4’においてMz=−1である動脈血ARは、第2の反転時間TIbの間にヌルポイントにまで回復する。しかし、動脈血ARの血流方向を考慮すると、ラインA4’(時刻t4’)は、ラインA5(時刻t5)に変化し、ラインA41’(時刻t4’)はラインA51(時刻t5)に変化する。
【0095】
Time-SLIP法では、図17(b)に示すように、撮像領域FOVの左半分では、動脈血ARの縦磁化成分MはM=1である。しかし、撮像領域FOVの右半分では、動脈血ARの縦磁化成分MはM=0である。したがって、撮像領域FOVの右半分では、動脈の血流状態を視認することができない。
【0096】
これに対して、本実施形態では、図17(a)に示すように、動脈血ARの縦磁化成分Mzは、撮像領域FOVの全体に渡ってゼロより大きい値α(=0.5)を有している。したがって、MRI装置1は、Time−SLIP法よりも、動脈の下流側を広範囲に撮像できることがわかる。
【0097】
尚、本実施形態(ラインA5)では、縦磁化成分Mzは、撮像領域FOVにおいて、Mz=α(=0.5)である。したがって、α<1であるので、撮像領域FOVの左半分の範囲では、本実施形態における動脈血ARは、Time−SLIP法で撮像された動脈血ARよりも、視認しにくいのではないかとも考えられる。しかし、本実施形態では、動脈血ARの縦磁化成分MはMz=α(=0.5)の大きさを有するとともに、静脈血VEの縦磁化成分Mは0(ゼロ)である(図10(b)参照)。したがって、静脈血VEは血流画像の中に実質的に描出されないので、動脈の血流状態は十分に視認できると考えられる。
【0098】
尚、上記の実施形態のデータ収集開始時点の動脈血ARの縦磁化成分Mzは、Mz=α=0.5であるが(図10(a)および図17(a)参照)、データ収集開始時点の動脈血ARの縦磁化成分Mzを、αよりも大きくすることもできる。データ収集時点の動脈血ARの縦磁化成分Mzを、αよりも大きくしたい場合は、例えば、第1の反転時間TIaを短くすればよい。以下に、第1の反転時間TIaを短くすることにより、データ収集開始時点の動脈血ARの縦磁化成分Mzを、αよりも大きくすることができる理由について説明する。
【0099】
先ず、第1の反転時間として、2つの反転時間TIaを考える。1つは、上記の実施形態と同じ反転時間TIa=840msであり、もう1つは、840msよりも短い反転時間TIaである。ここでは、840msよりも短い反転時間TIaとして、TIa=600msを考える。
【0100】
図18〜図20は、2つの反転時間TIa(840msおよび600ms)において、図5に示すパルスシーケンス50の各時刻における動脈血ARの縦磁化成分Mがどのように変化するかを示すグラフである。尚、時刻t1およびt2における動脈血ARの縦磁化成分Mzは、図12および図13と同じであるので、説明は省略する。
【0101】
反転時間TIa=840ms、およびTIa=600msの場合、時刻t3における動脈血ARの縦磁化成分は、図18に示すグラフで示される。
【0102】
図18は、TIa=840ms、およびTIa=600msの場合において、時刻t3における動脈血ARの縦磁化成分Mzを示す図である。
【0103】
図18のグラフには、2つのラインA3(実線)およびラインA32(一点鎖線)が示されている。ラインA3は、反転時間TIa(=840ms)の場合の時刻t3における動脈血ARの縦磁化成分Mzと位置Pとの関係を表している。ラインA32は、反転時間TIa(=600ms)の場合の時刻t3における動脈血ARの縦磁化成分Mzと位置Pとの関係を表している。
【0104】
ラインA3(反転時間TIa=840ms)では、縦磁化成分Mzは、P<Pa’の範囲において、ヌルポイントに到達している。しかし、ラインA32の反転時間TIaは600msであるので、ラインA32では、縦磁化成分Mzは、まだヌルポイントに到達していない。ラインA32は、P<Paの範囲において、Mz=−βである(0<β<1)。
【0105】
時刻t3の直後に、第2の反転期間IR2が設けられ(図5参照)、第2の反転期間IR2の間に、非選択的RF反転パルスP2が印加される。非選択的RF反転パルスP2が印加されると、動脈血ARの縦磁化成分Mzは、図19のグラフに示されるように変化する。
【0106】
図19は、第2の反転期間IR2の終了直後(図5の時刻t4)における動脈血ARの縦磁化成分Mzを示している。
【0107】
図19のグラフには、2つのラインA4(実線)およびラインA42(一点鎖線)が示されている。ラインA4は、反転時間TIa=840msの場合の時刻t4における動脈血ARの縦磁化成分Mzを表している。ラインA42は、反転時間TIa=600msの場合の時刻t4における動脈血ARの縦磁化成分Mzを表している。
【0108】
非選択的反転パルスP2が印加されたので、動脈血ARの縦磁化成分Mz(縦磁化の方向)は反転する。その結果、反転時間TIa(=840ms)の場合、P<Pa’の範囲の縦磁化成分MzはMz=0のままであるが、反転時間TIa’(=600ms)の場合、P<Paの範囲の縦磁化成分MzはMz=−βからMz=+βに反転する。
【0109】
第2の反転期間IR2の後、データ収集期間ACQが設けられる。ただし、第2の反転期間IR2とデータ収集期間ACQとの間には、第2の反転時間TIbの時間間隔が設けられている。第2の反転時間TIbは、上記の実施形態と同様に、840msとする。第2の反転時間TIbの間に、動脈血ARの縦磁化成分Mzは、図20のグラフに示すように変化する。
【0110】
図20は、データ収集期間ACQの開始時点(図5の時刻t5)における動脈血ARの縦磁化成分Mzを示している。
【0111】
図20のグラフには、2つのラインA5(実線)およびラインA52(一点鎖線)が示されている。ラインA5は、反転時間TIa=840msの場合の時刻t5における動脈血ARの縦磁化成分Mzを表している。ラインA42は、反転時間TIa=600msの場合の時刻t5における動脈血ARの縦磁化成分Mzを表している。
【0112】
動脈血ARは、第2の反転期間TIbの間に縦磁化回復する。反転時間TIa=840msの場合、縦磁化成分Mzは、Mz=0(図19参照)からMz=α(図20参照)にまで縦磁化回復している。一方、反転時間TIa=600msの場合、縦磁化成分Mzは、Mz=β(図19参照)からMz=γ(図20参照)にまで縦磁化回復している。図19を参照すると、反転時間TIa=840msの場合の縦磁化成分Mzは、P<Pa’の範囲において、ヌルポイントであるが、一方、反転時間TIa=600msの場合の縦磁化成分Mzは、P<Paの範囲において、ヌルポイントよりも大きい値βを有している。したがって、図20に示すように、反転時間TIa=600msの場合の縦磁化成分Mzは、αよりも大きくなり、γまで縦磁化回復する。
【0113】
したがって、反転時間TIaを短くすることによって、データ収集開始時点における動脈血ARの縦磁化成分Mzを大きくすることができる。
【0114】
ただし、反転時間TIaを短くすると、図20に示すように、撮像領域FOV内の一部において、動脈血ARの縦磁化成分Mzはゼロになる。したがって、反転時間TIaを短くすることによって、撮像領域FOVに描出される動脈血ARの範囲が狭くなる。このため、動脈血ARを広範囲に渡って描出したい場合は、反転時間TIaを短くし過ぎないことが好ましい。尚、反転時間TIaを、動脈血ARの縦磁化成分MzがMz=−1からヌルポイントに到達するまでの時間(840ms)よりも長くすることも可能である。
【0115】
また、上記の実施形態では、第2の反転時間TIbは、静脈血VEの縦磁化成分MzがMz=−1からヌルポイントに到達するまでの時間に設定されている。しかし、動脈血ARを静脈血VEから十分に分離することができるのであれば、第2の反転時間TIbは、静脈血VEの縦磁化成分MzがMz=−1からヌルポイントに到達するまでの時間よりも、長く又は短くすることも可能である。
【0116】
また、上記の実施形態では、静脈血VEが描出されないようにするため、第2の反転時間TIbは、静脈血VEの縦磁化成分MzがMz=−1からヌルポイントに到達するまでの時間に設定されている。しかし、静脈血VE以外の他の組織(例えば、腎臓14)が描出されないようにしたい場合は、第2の反転時間TIbを、他の組織の縦磁化成分MzがMz=−1からヌルポイントに到達するまでの時間に設定すればよい。
【0117】
また、上記の実施形態では、動脈血ARを描出している。しかし、本発明を用いることによって、静脈血VEを描出することも可能である。静脈VEを描出したい場合は、第2の反転時間TIbを、動脈血AR又は他の組織(例えば、静止組織)の縦磁化成分MzがMz=−1からヌルポイントに到達するまでの時間に設定すればよい。
【0118】
また、本実施形態では、第2の反転期間には、非選択的RF反転パルスP2が印加されている。しかし、撮像領域FOV内を流れる動脈ARを十分に描出できるのであれば、第2の反転期間に、選択的RF反転パルスを印加してもよい。
【0119】
更に、本実施形態では、腎臓14を含む部位を撮像しているが、本発明は、他の部位(頭部など)を撮像する場合にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】MRI装置100のブロック図の一例である。
【図2】計算機107の機能ブロック図の一例である。
【図3】MRI装置100の処理フローを示す図である。
【図4】被検体10の撮像領域FOVを概略的に示す図である。
【図5】ステップS12において実行されるパルスシーケンスの一例を示す図である。
【図6】図5に示すパルスシーケンス50の時刻t1における被検体10の動脈血ARと静脈血VEの縦磁化成分Mを示すグラフである。
【図7】図5に示すパルスシーケンス50の時刻t2における被検体10の動脈血ARと静脈血VEの縦磁化成分Mを示すグラフである。
【図8】図5に示すパルスシーケンス50の時刻t3における被検体10の動脈血ARと静脈血VEの縦磁化成分Mを示すグラフである。
【図9】図5に示すパルスシーケンス50の時刻t4における被検体10の動脈血ARと静脈血VEの縦磁化成分Mを示すグラフである。
【図10】図5に示すパルスシーケンス50の時刻t5における被検体10の動脈血ARと静脈血VEの縦磁化成分Mを示すグラフである。
【図11】実施形態のパルスシーケンスとTime−SLIP法のパルスシーケンスとを示す図である。
【図12】図11に示すパルスシーケンス50および51の時刻t1における被検体10の動脈血ARの縦磁化成分Mを示すグラフである。
【図13】図11に示すパルスシーケンス50および51の時刻t2における被検体10の動脈血ARの縦磁化成分Mを示すグラフである。
【図14】図11に示すパルスシーケンス50および51の時刻t3における被検体10の動脈血ARの縦磁化成分Mを示すグラフである。
【図15】図11に示すパルスシーケンス50および51の時刻t4における被検体10の動脈血ARの縦磁化成分Mを示すグラフである。
【図16】図11に示すパルスシーケンス50および51の時刻t4’における被検体10の動脈血ARの縦磁化成分Mを示すグラフである。
【図17】図11に示すパルスシーケンス50および51の時刻t5における被検体10の動脈血ARの縦磁化成分Mを示すグラフである。
【図18】TIa=840ms、およびTIa=600msの場合において、時刻t3における動脈血ARの縦磁化成分Mzを示す図である。
【図19】第2の反転期間IR2の終了直後(図5の時刻t4)における動脈血ARの縦磁化成分Mzを示している。
【図20】データ収集期間ACQの開始時点(図5の時刻t5)における動脈血ARの縦磁化成分Mzを示している。
【符号の説明】
【0121】
10 被検体
100 MRI装置
101 マグネットアセンブリ
103 勾配コイル駆動回路
104 RF電力増幅器
105 前置増幅器
106 表示装置
107 計算機
108 シーケンサ
109 ゲート変調回路
110 RF発信回路
112 レシーバ
113 操作卓
114 ボア
115 ベローズ
115a 呼吸信号
116 心拍センサ
116a 心電信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の領域から撮像領域を経由して第2の領域に流れる血液を有する被検体から、前記血液の血液信号を収集するMRI装置であって、
第1の反転期間に、前記第1の領域の前記血液の縦磁化の方向を反転させる第1の縦磁化反転手段、
前記第1の反転期間の後の第2の反転期間に、縦磁化回復する途中の前記血液の縦磁化の方向を反転させるとともに、前記撮像領域および前記第2の領域の組織の縦磁化の方向を反転させる第2の縦磁化反転手段、および
前記第2の反転期間の後のデータ収集期間に、前記第1の領域から前記撮像領域に流入した血液の血液信号を収集するデータ収集手段、
を有するMRI装置。
【請求項2】
前記第1の縦磁化反転手段は、前記第1の反転期間に、第1の選択的RF反転パルスを印加し、
前記第2の縦磁化反転手段は、前記第2の反転期間に、非選択的RF反転パルス又は第2の選択的RF反転パルスを印加する、請求項1に記載のMRI装置。
【請求項3】
前記第2の縦磁化反転手段は、前記第1の選択的RF反転パルスが印加された後、第1の反転時間が経過した時点で、前記非選択的RF反転パルス又は第2の選択的RF反転パルスを印加する、請求項2に記載のMRI装置。
【請求項4】
前記データ収集手段は、前記非選択的RF反転パルス又は第2の選択的RF反転パルスが印加された後、第2の反転時間が経過した時点で、励起パルスを印加する、請求項3に記載のMRI装置。
【請求項5】
前記第1の反転時間は、前記第1の縦磁化反転手段により前記血液の縦磁化の方向が反転してから、前記血液の縦磁化成分がヌルポイントに到達するまでの時間である、請求項2〜4のうちのいずれか一項に記載のMRI装置。
【請求項6】
前記第1の反転時間は、前記第1の縦磁化反転手段により前記血液の縦磁化の方向が反転してから、前記血液の縦磁化成分がヌルポイントに到達するまでの時間よりも短い、請求項2〜4のうちのいずれか一項に記載のMRI装置。
【請求項7】
前記第1の反転時間は、前記第1の縦磁化反転手段により前記血液の縦磁化の方向が反転してから、前記血液の縦磁化成分がヌルポイントに到達するまでの時間よりも長い、請求項2〜4のうちのいずれか一項に記載のMRI装置。
【請求項8】
前記第2の反転時間は、前記第2の縦磁化反転手段により前記撮像領域および前記第2の領域の組織の縦磁化の方向が反転してから、前記組織の縦磁化成分がヌルポイントに到達するまでの時間である、請求項5〜7のうちのいずれか一項に記載のMRI装置。
【請求項9】
前記第2の反転時間は、前記第2の縦磁化反転手段により前記撮像領域および前記第2の領域の組織の縦磁化の方向が反転してから、前記組織の縦磁化成分がヌルポイントに到達するまでの時間よりも短い、請求項5〜7のうちのいずれか一項に記載のMRI装置。
【請求項10】
前記第2の反転時間は、前記第2の縦磁化反転手段により前記撮像領域および前記第2の領域の組織の縦磁化の方向が反転してから、前記組織の縦磁化成分がヌルポイントに到達するまでの時間よりも長い、請求項5〜7のうちのいずれか一項に記載のMRI装置。
【請求項11】
前記血液は動脈血であり、前記組織は静脈血である、請求項1〜10のうちのいずれか一項に記載のMRI装置。
【請求項12】
前記血液は動脈血であり、前記組織は静止組織である、請求項1〜10のうちのいずれか一項に記載のMRI装置。
【請求項13】
前記血液は静脈血であり、前記組織は動脈血である、請求項1〜10のうちのいずれか一項に記載のMRI装置。
【請求項14】
前記血液は静脈血であり、前記組織は静止組織である、請求項1〜10のうちのいずれか一項に記載のMRI装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2009−160122(P2009−160122A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340864(P2007−340864)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(300019238)ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー (1,125)
【Fターム(参考)】