説明

Mdm2タンパク質の腫瘍原活性のアンタゴニスト及び癌治療におけるその使用

【課題】過増殖症(癌、再発性狭窄症等)の新規治療方法及び対応する医薬組成物の提供。
【解決手段】無p53コンテキストの癌の治療用医薬組成物の製造のための、Mdm2タンパク質の腫瘍原活性を少なくとも部分的に阻害することが可能な化合物、例えば、Mdm2タンパク質の1〜134ドメインに対する細胞内抗体、または細胞内抗体をコードする核酸配列、更には、Mdm2タンパク質の腫瘍原活性を少なくとも部分的に阻害することが可能な化合物をコードする核酸配列を含むウイルスベクター及び対応する医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は過増殖症(癌、再発性狭窄症等)の新規治療方法及び対応する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
大半の癌は1個以上の遺伝子の過剰発現及び/又は1個以上の突然変異もしくは異常遺伝子の発現により出現する遺伝子異常が少なくとも一因であることが現在周知である。例えば、癌遺伝子が発現すると、殆どの場合に癌が発生する。癌遺伝子とは、遺伝的に障害のある遺伝子を意味し、その発現産物は細胞の正常な生物学的機能を妨げ、腫瘍状態を開始する。多数の癌遺伝子がこれまでに同定され、部分的に特性決定されており、特にras、myc、fos、erb、neu、raf、src、fms、jun及びabl遺伝子の突然変異形態は細胞増殖障害の原因であると思われる。
【発明の概要】
【0003】
正常細胞コンテキストでは、これらの癌遺伝子の増殖はp53やRb等の所謂腫瘍抑制遺伝子の形成により少なくとも部分的に抑制されると思われる。しかし、何らかの現象がこの細胞自己調節メカニズムを乱し、腫瘍状態の発生を助長する場合がある。これらの現象の1つは腫瘍抑制遺伝子レベルの突然変異である。例えば、p53遺伝子の欠失及び/又は突然変異による突然変異形態はヒト癌の大部分の発生に関与し(Bakerら,Science 244(1989)217)、Rb遺伝子の不活化形態は種々の腫瘍、特に網膜芽腫や骨肉腫等の間葉癌の原因に挙げられている。
【0004】
p53タンパク質は正常組織の大部分で発現される53kDの核リンタンパク質である。該タンパク質は細胞周期の制御(Mercerら, Critic Rev. Eucar.Gene Express,2,251,1992)、転写調節(Fieldsら,Sciences(1990)249,1046)、DNAの複製(WilcoqとLane,(1991),Nature 349,4290及びBargonnettiら,(1992) Cell 65 1083)及びアポトーシスの誘導(Shawら,(1992)P.N.A.S.USA 89,4495)に関与する。従って、細胞を例えばそのDNAを損傷することが可能な物質に暴露すると、細胞シグナル伝達カスケードが開始し、p53タンパク質が転写後修飾され、gadd45(成長停止及びDNA損傷)(Kastanら,Cell,71,587−597,1992)、p21 WAF/CIP(ElDeiryら,Cancer Res.,54,1169−1174,1994)又はmdm2(マウスDM)(Barakら,EMBO J.,12,461−468,1993)等の多数の遺伝子がp53により転写活性化される。
【0005】
従って、癌発生を理解し、癌に有効な治療方法を開発するためには、特にこの細胞シグナル伝達経路に関与する全タンパク質の種々の生物学的機能、その作用方法及びその特性を解明することが明らかに重要である。
【0006】
本発明は厳密にはこのコンテキストに該当し、Mdm2タンパク質の新規機能を報告する。
【0007】
Mdm2タンパク質はmdm2(マウスDM2)遺伝子から発現される分子量90kDのリンタンパク質である。このmdm2遺伝子は自然腫瘍細胞BALB/c 3T3で最初にクローニングされ、過剰発現すると腫瘍原能を著しく増すことが確認されている(Cahilly−Snyderら,Somat.Cell.Mol.Genet.,13,235−244,1987; Fakharzadehら,EMBO J.10,1565−1569,1991)。野生型p53及び突然変異p53タンパク質を含む複数の細胞系で複合体Mdm2/p53が同定されている(Martinezら,Genes Dev.,5,151−159,1991)。更に、Mdm2は筋クレアチンキナーゼのプロモーター等のプロモーター上でp53の転写活性を阻害することが示されており、Mdm2はp53の活性を調節するらしい(Momandら,Cell,69,1237−1245,1992; Olinerら,Nature,362,857−860,1993)。
【0008】
以上の結果をまとめると、Mdm2タンパク質はこれまで主にp53の活性のモジュレーターとして認められている。Mdm2タンパク質は野生型又は突然変異p53タンパク質と結合することにより、それらの転写活性を阻害し、細胞増殖の抑制を解除する。従って、これらの情報の治療面での応用は、主にMdm2によるp53タンパク質のこの阻害に対抗する手段を求めることである。
【0009】
予想外にも、本願出願人はこのMdm2タンパク質が固有の腫瘍原性、即ちp53タンパク質との複合形態に関連する腫瘍原性とは全く異なる腫瘍原性をもつことを立証した。より詳細には、Mdm2タンパク質は無p53コンテキストで腫瘍原性を発現する。Mdm2の腫瘍原性がp53から独立しており、特に野生型p53のトランス作用活性の阻害に起因しないというこの発見を裏付けるために、本願出願人はそのトランス作用性を維持しながらMdm2ともはや相互作用しないp53の突然変異体(p53(14−19); Linら,Genes Dev.,1994,8,1235−1246)がMdm2の腫瘍原性を阻害できないことを立証した。更に、Mdm2、特にMdm2の1〜134ドメインがp107の過剰発現により誘導されるG1細胞周期の停止を解除できることも判明した。従って、Mdm2はp53以外に細胞周期の制御に関与する因子の重要なレギュレーターであることが判明した。
【0010】
本発明は、配列番号1に示すMdm2タンパク質の配列のタンパク質配列1〜134がこのタンパク質の腫瘍原能を発現するために十分であるという事実の解明の結果でもある。
【0011】
本発明は更に、Mdm2タンパク質と相互作用することが可能な化合物を使用することにより、このタンパク質のこの腫瘍原性を改変できるという事実の解明の結果でもある。本発明は前記化合物を腫瘍に直接in vivo送達し、従って、癌の発生を抑制し得る特に有効なシステムにも関する。従って、本発明は結腸腺癌、甲状腺癌、肺癌腫、骨髄性白血病、結腸直腸癌、乳癌、肺癌、胃癌、食道癌、Bリンパ腫、卵巣癌、膀胱癌、グリオブラストーマ等の特に無p53コンテキストの腫瘍の治療に特に有効な新規アプローチを提供する。
【0012】
従って、本発明の第1の目的は、無p53コンテキストの癌の治療用医薬組成物の製造のための、Mdm2タンパク質の腫瘍原活性を少なくとも部分的に阻害することが可能な化合物の使用である。
【0013】
Mdm2がp53に固定すると、p53はその腫瘍抑制機能を発揮できなくなり、細胞はp53で調節されずに成長できるようになるが、本発明の意味では、無p53コンテキスト癌とはこのような固定以外の任意修飾又は任意メカニズムによりp53がその腫瘍抑制遺伝子機能を発揮できないような癌を意味する。p53の腫瘍抑制活性を阻害するこれらの修飾又はメカニズムの非限定的な例としては、例えばp53遺伝子の遺伝子改変(点突然変異、欠失等)、Mdm2以外のタンパク質との相互作用、HPV−16やHPV−18等の危険度の高いヒトパピローマウイルスのE6タンパク質の存在に結び付けられるp53タンパク質の非常に迅速なタンパク分解等を挙げることができる。
【0014】
本発明の意味では、Mdm2タンパク質の腫瘍原活性の阻害は2つの方法により達成することができる。
【0015】
このタンパク質の1〜134ドメインのレベルに直接介入することにより阻害を行うのが好ましい。こうすると、このドメインに結合することが可能な任意のタンパク質はMdm2の腫瘍原性に対して拮抗機能を発揮する。
【0016】
また、例えば配列番号1の配列に示すMdm2の135〜491ドメインや配列番号1の配列に示すそのC末端配列等の隣接ドメインと化合物の相互作用によってもこの阻害効果を達成することができる。従って、本発明はこのドメインと直接相互作用しないものであっても、その腫瘍原性を改変できるものであれば、任意の化合物の使用を包含する。
【0017】
特定態様によると、本発明は無p53コンテキストの癌の治療用医薬組成物を製造するための、配列番号1に示すMdm2タンパク質の配列の1〜134ドメインのレベルに結合することが可能な化合物の使用に関する。
【0018】
Mdm2タンパク質の1〜134ドメインのレベルに直接相互作用することが可能な化合物としては、特にこのドメインに特異的なscFVが挙げられる。
【0019】
scFVは抗体と同等の結合性をもつ細胞内活性分子である。より詳細には、抗体のH鎖の可変領域の結合部位に対応するペプチドにペプチドリンカーを介して結合した抗体のL鎖の可変領域の結合部位に対応するペプチドから構成される分子である。このようなscFVは遺伝子導入によりin vivo生産できることが本願出願人により示されている(国際出願公開第WO94/29446号参照)。
【0020】
前記化合物としては、Mdm2の1〜134ドメインと特異的に結合できることが既に知られているペプチド又はタンパク質も利用でき、例えば配列番号1とのp53タンパク質の結合ドメインの全部又は一部、より詳細には配列番号2(Olinerら,Nature,1993,362,857−860)に示すp53の配列のペプチド1〜52、1〜41及び6〜41の1種の全部又は一部、より単純なものでは、厳密にマッピングされたペプチド16〜25の全部又は一部(Laneら,Phil.Trans.R.Soc.London B.,1995,347,83−87)、ヒト又はマウスp53のペプチド18〜23、更にはMdm2との相互作用に必須の残基を保存した上記ペプチドの近傍の誘導ペプチド(Picksleyら,Oncogene,1994,9,2523−2529)である。
【0021】
本発明によると、配列番号1に示すMdm2の1〜134ドメインの近傍のドメインに結合することが可能であり、この結合によりMdm2タンパク質の腫瘍原活性を改変する化合物も利用できる。このような化合物としては、例えば転写因子TFII、TBP及びTaF250のように前記タンパク質のC末端ドメインのレベルに相互作用する化合物や、例えばタンパク質L5(リボソームタンパク質)及びRb(網膜芽腫タンパク質)や転写因子E2F(Rbにより調節される)のように配列番号1に示すMdm2の135〜491ドメインのレベルに相互作用するタンパク質を挙げることができる。
【0022】
本発明の別の目的は、癌治療用医薬組成物を製造するための、配列番号1に示すMdm2タンパク質の配列のこの1〜134ドメインに特異的なscFVの使用にも関する。
【0023】
本発明の意味では、上記相互作用全体が結果的にMdm2の腫瘍原性を改変するとみなす。更に、Mdm2タンパク質との結合ドメインの1つに対して活性な部分を利用し且つこの相互作用が該タンパク質の腫瘍原性の改変をもたらすものであれば、これらのタンパク質の全体又は一部を使用してもよい。
【0024】
本発明の範囲では、これらの化合物はそのまま使用してもよいが、in vivo発現を可能にする遺伝子構築物の形態で使用すると有利である。
【0025】
本発明の特に有利な実施態様は、無p53コンテキストの癌の治療用医薬組成物を製造するために、Mdm2タンパク質の腫瘍原活性を少なくとも部分的に阻害することが可能な化合物をコードする核酸配列を利用する。
【0026】
この観点では、本発明の範囲で使用される核酸は種々の型のものを利用できる。好ましい例としては、アンチセンス核酸、Mdm2タンパク質のドメインの1つに直接固定し、その腫瘍原活性を阻害することが可能なオリゴリボヌクレオチド(リガンドオリゴヌクレオチド)、Mdm2のドメインの1つとオリゴマーを形成し、その腫瘍原活性を阻害することが可能なペプチド又はタンパク質の全部又は一部をコードする核酸、Mdm2タンパク質の配列番号1の配列の1〜134ドメインに対する細胞内抗体をコードする核酸(例えば抗体に由来する可変フラグメント単一鎖)が挙げられる。
【0027】
本発明の特定態様によると、核酸はアンチセンス核酸である。このアンチセンスは、Mdm2タンパク質をコードする核酸に相補的であって、その転写及び/又はその翻訳を阻害することが可能なRNA(アンチセンスRNA)又はリボザイムをコードするDNAである。
【0028】
最近になって、標的遺伝子の発現を調節することが可能な新規種の核酸が報告された。これらの核酸は細胞mRNAとハイブリダイズせずに、2本鎖ゲノムDNAと直接ハイブリダイズする。この新規アプローチは、所定の核酸がDNAの二重螺旋の大きい溝で特異的に相互作用して局所的に三重螺旋を形成することが可能であり、その結果、標的遺伝子の転写を阻害するという事実の解明に基づく。これらの核酸はオリゴプリン−オリゴピリミジン配列のレベル、即ち一方の鎖上にオリゴプリン配列をもち、相補鎖上にオリゴピリミジン配列をもつ領域のレベルでDNAの二重螺旋を選択的に認識し、このレベルで局所的に三重螺旋を形成する。第3の鎖(オリゴヌクレオチド)の塩基はワトソン・クリック塩基対のプリンと水素結合(フーグスティーン又は逆フーグスティーン結合)を形成する。このような核酸は特にPr.HeleneによりAnti−Cancer drug design 6(1991)569に記載されている。
【0029】
本発明によるアンチセンス核酸はアンチセンスRNA又はリボザイムをコードするDNA配列であり得る。こうして生産されるアンチセンスRNAはmRNA又は標的ゲノムDNAと相互作用し、二重又は三重螺旋を形成することができる。前記アンチセンス核酸は、標的遺伝子又はRNAと直接相互作用することが可能な、場合により化学的に修飾されたアンチセンス配列(オリゴヌクレオチド)でもよい。
【0030】
同様に本発明の好適実施態様によると、核酸は場合により化学的に修飾された上記のようなアンチセンスオリゴヌクレオチドである。特に、ホスホジエステル骨格が化学的に修飾されたオリゴヌクレオチドを挙げることができ、例えばオリゴヌクレオチドホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホラミデート及びホスホロチオエートであり、このような化合物は例えば国際出願公開第WO94/08003号に記載されている。αオリゴヌクレオチドや、アクリル化合物等の物質に結合したオリゴヌクレオチドでもよい。
【0031】
本発明の意味では、リガンドオリゴヌクレオチドとは、その腫瘍原機能を阻害するためにMdm2タンパク質に特異的に固定することが可能なオリゴリボヌクレオチド又はオリゴデオキシリボヌクレオチドを意味する。このようなヌクレオチドは例えばSELEX法(Edgington,Bio/technology,1992,10,137−140;米国特許第5,270,163号及び国際出願公開第WO91/19813号)等の「in vitro進化」技術により得られる。
【0032】
より一般には、これらの核酸はヒト、動物、植物、細菌、ウイルス、合成等の起源であり得る。これらの核酸は当業者に公知の任意技術により得られ、特にライブラリーのスクリーニング、化学的合成、又はライブラリーのスクリーニングにより得られた配列の化学的もしくは酵素修飾を含む混合法により得られる。
【0033】
後述するように、核酸はプラスミド、ウイルス又は化学的ベクター等のベクターに組み込むことができる。また、国際出願公開第WO90/11092号に記載の技術に従って裸のDNA形態でそのまま投与してもよいし、例えばDEAE−デキストラン(Paganoら,J.Virol.1(1967)891)、核タンパク質(Kanedaら,Science 243(1989)375)、カチオン脂質もしくはポリマー(Felgnerら,PNAS 84(1987)7413)との複合形態で投与してもよいし、リポソーム形態(Fraleyら,J.Biol.Chem.255(1980)10431)で投与してもよい。
【0034】
本発明の範囲で使用される配列はベクターの一部を構成することが好ましい。このようなベクターを使用すると、治療しようとする細胞への核酸の投与を実際に改善できると共に、前記細胞におけるその安定性を増し、持続的治療効果が得られる。更に、同一ベクターに複数の核酸配列を導入し、同様に治療効果を増すことも可能である。
【0035】
使用するベクターは動物細胞、好ましくはヒト癌細胞を形質転換できるものであれば、種々の起源のものでよい。本発明の好適実施態様によると、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)又はヘルペスウイルスから選択され得るウイルスベクターを使用する。
【0036】
この点で、本発明はMdm2タンパク質の腫瘍原性を少なくとも部分的に阻害することが可能な化合物をコードする核酸をそのゲノムに挿入してなる任意ウイルスベクターにも関する。
【0037】
より詳細には、本発明はその腫瘍原能を改変するようにMdm2タンパク質と結合することが可能な化合物をコードする核酸配列を含む任意組換えウイルスに関する。このコンテキストでは、核酸配列は上記ペプチド、タンパク質又は転写因子をコードすることができる。
【0038】
より好ましくは、この核酸配列はscFV又はペプチド(Mdm2タンパク質の1〜134ドメイン(配列番号1)のレベルに相互作用することが可能な)をコードする。
【0039】
本発明の範囲で使用されるウイルスは好ましくは欠損ウイルスであり、即ち感染細胞で自律的に複製できないウイルスを使用すると有利である。従って、一般に本発明の範囲で使用される欠損ウイルスのゲノムは少なくとも感染細胞で該ウイルスの複製に必要な配列を欠失している。これらの領域は(完全に又は部分的に)除去してもよいし、非機能的にしてもよいし、他の配列、特にMdm2タンパク質の腫瘍原性に対する拮抗機能をもつ化合物をコードする配列で置換してもよい。但し、欠損ウイルスはウイルス粒子のキャプシド化に必要なそのゲノムの配列を保存していることが好ましい。
【0040】
特にアデノウイルスについては、構造と性質が少しずつ異なる種々の血清型が特性決定されている。これらの血清型のうち、本発明の範囲内では2もしくは5型ヒトアデノウイルス(Ad2又はAd5)又は動物由来のアデノウイルス(仏国特許出願第9305954号参照)を使用するのが好ましい。本発明の範囲内で使用可能な動物由来のアデノウイルスのうちでは、イヌ、ウシ、マウス(例えばMAV1,Beardら,Virology 75(1990)81)、ヤギ、ブタ、トリ又はサル(例えばSAV)由来のアデノウイルスを挙げることができる。好ましくは、動物由来のアデノウイルスはイヌアデノウイルス、より好ましくはアデノウイルスCAV2[例えばマンハッタン株又はA26/61(ATCC VR−800)]である。好ましくは、本発明の範囲内ではヒトもしくはイヌ由来又は混合アデノウイルスを使用する。
【0041】
好ましくは、本発明の欠損アデノウイルスは、ITRとキャプシド化のための配列とカルパインのモジュレーターをコードする配列を含む。より好ましくは、本発明のアデノウイルスのゲノムにおいて、E1遺伝子とE2、E4、L1〜L5遺伝子の少なくとも1個は非機能的である。該当ウイルス遺伝子は当業者に公知の任意の方法、特に完全抑制、置換、部分欠失、又は該当遺伝子に1個以上の塩基を付加することにより非機能的にすることができる。このような修飾は、例えば遺伝子工学技術又は突然変異誘発物質で処理することによりin vitro(単離したDNAで)又はin situで得られる。
【0042】
本発明による組換え欠損アデノウイルスは当業者に公知の任意の技術により作製することができる(Levreroら,Gene 101(1991)195,ヨーロッパ特許第185573号; Graham,EMBO J.3(1984)2917)。特に、アデノウイルスと特にETSの阻害剤をコードするDNA配列をもつプラスミドの相同組換えにより作製することができる。相同組換えは適当な細胞系に前記アデノウイルスとプラスミドを共トランスフェクション後に生じる。使用する細胞系は、(i)前記エレメントにより形質転換可能であること、及び(ii)組換えの危険を避けるために好ましくは組込み形態で欠損アデノウイルスのゲノムの部分を相補することが可能な配列を含んでいることが好ましい。細胞系の例としては、特にアデノウイルスAd5のゲノムの左側部分(12%)をそのゲノムに組込んだヒト胎児腎細胞293系(Grahamら,J.Gen.Virol.36(1977)59)を挙げることができる。アデノウイルスから誘導されるベクターの構築ストラテジーは、仏国特許出願第9305954号及び9308596号にも記載されている。
【0043】
その後、増殖したアデノウイルスを実施例に記載するように慣用分子生物学技術により回収及び精製する。
【0044】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、比較的小寸法のDNAをもつウイルスであり、これに感染する細胞のゲノムに安定的且つ部位特異的に組込まれる。アデノ随伴ウイルスは細胞増殖、形態又は分化に影響することなく広範な細胞に感染することができる。また、ヒトで疾病に関与しないと思われる。AAVのゲノムは既にクローニングされ、配列及び特性を決定されている。ゲノムは約4700塩基を含み、ウイルスの複製起点として機能する約145塩基の逆方向反復領域(ITR)を各末端に含む。ゲノムの残余はキャプシド化機能をもつ2つの主領域に分けられ、ゲノムの左側部分はウイルス複製とウイルス遺伝子の発現に関与するrep遺伝子を含み、ゲノムの右側部分はウイルスのキャプシドタンパク質をコードするcap遺伝子を含む。
【0045】
AAVから誘導されるベクターを遺伝子のin vitro及びin vivo導入に利用することは文献に記載されている(特に国際出願公開第WO91/18088号、WO93/09239号、米国特許第4,797,368号、5,139,941号、ヨーロッパ特許第488528号参照)。これらの文献は、AAVから誘導され、rep及び/又はcap遺伝子を欠失し、着目遺伝子で置換された種々の構築物と、前記着目遺伝子を(培養細胞に)in vitro又は(生物に直接)in vivo導入するためのその使用について記載している。本発明による組換え欠損AAVは、ヒトヘルパーウイルス(例えばアデノウイルス)に感染させた細胞系に、AAVの2つの逆方向反復領域(ITR)で挟まれたETSの阻害剤をコードする配列を含むプラスミドと、AAVのキャプシド化遺伝子(rep及びcap遺伝子)をもつプラスミドを共トランスフェクトすることにより作製することができる。生成した組換えAAVをその後、慣用技術により精製する。
【0046】
ヘルペスウイルスとレトロウイルスに関しては、組換えベクターの構築について文献に広く記載されており、特にBreakfieldら,New Biologist 3(1991)203; ヨーロッパ特許第453242号及び178220号、Bernsteinら,Genet.Eng.7(1985)235; McCormick, BioTechnology 3(1985)689等を参照されたい。特に、レトロウイルスは分裂細胞に選択的に感染する組込みウイルスである。従って、癌に適用するのに有利なベクターである。レトロウイルスのゲノムは主に2つのLTRと、キャプシド化配列と、3つのコーディング領域(gag、pol及びenv)を含む。レトロウイルスから誘導される組換えベクターでは、一般にgag、pol及びenv遺伝子が完全又は部分的に欠失しており、着目異種核酸配列で置換されている。これらのベクターは種々の型のレトロウイルスから作製することができ、特にMoMuLV(「モロニーマウス白血病ウイルス」、別称MoMLV)、MSV(「モロニーマウス肉腫ウイルス」)、HaSV(「ハーベー肉腫ウイルス」)、SNV(「脾壊死ウイルス」)、RSV(「ラウス肉腫ウイルス」)又はフレンドウイルス等のレトロウイルスから得られる。
【0047】
着目配列を含む組換えレトロウイルスを構築するためには、特にLTRとキャプシド化配列と前記着目配列を含むプラスミドを構築した後、このプラスミドを使用して、欠損レトロウイルス機能をプラスミドにトランス導入することが可能な所謂キャプシド化細胞系にトランスフェクトする。従って、一般にキャプシド化系はgag、pol及びenv遺伝子を発現させることができる。このようなキャプシド化系は従来技術に記載されており、特にPA317系(米国特許第4,861,719号)、PsiCRIP系(WO90/02806)及びGP+envAm−12系(WO89/07150)が挙げられる。更に、組換えレトロウイルスは転写活性を抑制するようにLTRのレベルに修飾を含んでいてもよいし、gag遺伝子の一部を含む拡張キャプシド化配列も含んでいてもよい(Benderら,J.Virol.61(1987)1639)。生成した組換えレトロウイルスをその後、慣用技術により精製する。
【0048】
本発明のベクターでは、Mdm2の腫瘍原性に対する拮抗性をもつ化合物をコードする配列を、腫瘍細胞で発現できるようにするシグナルの制御下におくと有利である。このようなシグナルは、異種発現シグナル、即ち阻害剤の発現に天然に関与するシグナルとは異なるシグナルが好ましい。これらは、特に、他のタンパク質の発現に関与する配列又は合成配列であり得る。特に、真核生物又はウイルス遺伝子のプロモーター配列であり得る。例えば、感染させたい細胞のゲノムに由来するプロモーター配列であり得る。また、使用するウイルスも含めてウイルスのゲノムに由来するプロモーター配列でもよい。この点では、例えばプロモーターE1A、MLP、CMV、LTR−RSV等を挙げることができる。更に、活性化配列、調節配列又は組織特異的発現を可能にする配列を加えてこれらの発現配列を修飾してもよい。実際に、ウイルスが腫瘍細胞に有効に感染したときのみにDNAの配列が発現されてその効果を発揮するように、腫瘍細胞で特異的又は主に活性な発現シグナルを使用すると特に有利であり得る。
【0049】
特定実施態様では、本発明はMdm2の腫瘍原性に対して拮抗性をもつ化合物をコードするcDNA配列を好ましくはLTR−RSV及びCMVプロモーターから選択されるウイルスプロモーターの制御下に含む組換え欠損ウイルスに関する。
【0050】
同様に好適態様において、本発明はMdm2の腫瘍原性に対して拮抗性をもつ化合物をコードするDNA配列を腫瘍細胞で主に発現できるようにするプロモーターの制御下に含む組換え欠損ウイルスに関する。
【0051】
本発明の意味では、他の細胞種にも残留発現が観察されるとしても、腫瘍細胞での発現レベルのほうが高い場合に主な発現とみなす。
【0052】
本発明は、一般に癌治療用の医薬組成物の製造のための、配列番号1に示すMdm2タンパク質の配列の1〜134ドメインに対する細胞内抗体又はscFVをコードする核酸の使用にも及ぶ。
【0053】
本発明は更に、Mdm2タンパク質の腫瘍原活性を阻害することが可能な化合物又は該化合物をコードする核酸配列を含む任意医薬組成物にも関する。本発明の特定実施態様によると、前記組成物は1種以上の上記のような組換え欠損ウイルスを含む。これらの医薬組成物は、局所、経口、非経口、鼻孔内、静脈内、筋肉内、皮下、眼内、経皮等の経路で投与するように調剤することができる。好ましくは、本発明の医薬組成物は、特に患者の腫瘍に直接注射するための注射用製剤に医薬的に許容可能なキャリヤーを含む。特に、滅菌等張溶液、又は場合に応じて滅菌水もしくは生理的血清を加えて注射可能な溶質を構成できる乾燥組成物、特に凍結乾燥組成物が挙げられる。患者の腫瘍に直接注射すると、患部組織のレベルに治療効果を集中できるので有利である。
【0054】
注射に使用する組換え欠損ウイルスの用量は種々のパラメーター、特に使用する投与方法、該当疾病、又は所望の治療期間に応じて適応できる。一般に、本発明による組換えアデノウイルスは10〜1014pfu/ml、好ましくは10〜1010pfu/mlの用量で調剤及び投与される。pfu(「プラーク形成単位」)なる用語はウイルス溶液の感染能に対応し、適当な細胞培養物の感染により測定され、一般に48時間後の感染細胞のプラーク数を表す。ウイルス溶液のpfu力価の測定方法は文献に詳細に記載されている。レトロウイルスについては、本発明による組成物はその移植用の産生細胞を直接含むことができる。
【0055】
本発明による医薬組成物はMdm2タンパク質の腫瘍原活性を中和し、その結果、所定の細胞種の増殖を制御するために特に有利である。
【0056】
特に、これらの医薬組成物は例えば結腸腺癌、甲状腺癌、肺癌腫、骨髄性白血病、結腸直腸癌、乳癌、肺癌、胃癌、食道癌、Bリンパ腫、卵巣癌、膀胱癌、グリオブラストーマ等の無p53癌の治療に適している。
【0057】
本発明は過増殖(即ち異常増殖)細胞を死滅させるためにin vivoで有利に使用される。従って、本発明は腫瘍細胞又は血管壁の平滑筋細胞(再発性狭窄症)を死滅させるのに利用できる。
【0058】
本発明の他の利点は、非限定的な例示とみなすべきである以下の実施例及び図面に明示される。
【0059】
一般分子生物学技術
プラスミドDNAの分取抽出、プラスミドDNAの塩化セシウム勾配遠心分離、アガロース又はアクリルアミドゲル電気泳動、DNAフラグメントの電気溶離精製、タンパク質のフェノール又はフェノール−クロロホルム抽出、塩類溶媒中のDNAのエタノール又はイソプロパノール沈降、大腸菌での形質転換等の分子生物学で慣用的に使用されている方法は当業者に周知であり、文献に詳細に記載されている[Maniatis T.ら,“Molecular Cloning,a Laboratory Manual”,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.,1982; Ausubel F.M.ら(編),“Current Protocols in Molecular Biology”,John Wiley & Sons,New York,1987]。
【0060】
連結については、DNAフラグメントをアガロース又はアクリルアミドゲル電気泳動によりその寸法に応じて分離し、フェノール又はフェノール/クロロホルム混合物で抽出し、エタノール沈降させた後、製造業者の指示に従ってファージT4(Biolabs)のDNAリガーゼの存在下でインキュベートする。
【0061】
付着5’末端の充填は製造業者の指示に従って大腸菌(Biolabs)のDNAポリメラーゼIのクレノーフラグメントにより実施できる。付着3’末端の破壊は、ファージT4(Biolabs)のポリメラーゼDNAを製造業者の指示に従って使用することにより実施される。付着5’末端の破壊はヌクレアーゼS1処理により実施される。
【0062】
合成オリゴヌクレオチドによるin vitro突然変異誘発は、Amershamから市販されているキットを使用することにより、Taylorら[Nucleic Acids Res.13(1985)8749−8764]により開発された方法に従って実施することができる。
【0063】
所謂PCR法[olymerase−catalyzed hain eaction,Saiki R.K.ら,Science 230(1985)1350−1354; Mullis K.B.とFaloona F.A.,Meth.Enzym.155(1987)335−350]によるDNAフラグメントの酵素増幅は、「DNAサーマルサイクラー」(Perkin Elmer Cetus)を製造業者の指示に従って使用することにより実施することができる。ゲノムDNAの増幅はより詳細には、適当なプローブを使用して100℃で5分間、95℃で1分間を30サイクル、58℃で2分間、次いで72℃で3分間の条件下で実施される。増幅産物はゲル電気泳動により分析する。
【0064】
ヌクレオチド配列の確認は、Amershamにより市販されているキットを使用することにより、Sangerら[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,74(1977)5463−5467]により開発された方法により実施することができる。
【0065】
材料と方法:
1.使用した構築物:
−プラスミドpBKCMVはStratageneの市販品であり、ネオマイシン耐性遺伝子を含む。
−夫々野生型p53及びp53 R273HをコードするプラスミドpC53C1N3及びp53−4.2.N3はA.Levine(Hindsら,Cell Growth and Diff.(1990),1,571)に由来する。
−プラスミドpBKp53(R273H)はヒトミニ遺伝子p53を含む。このプラスミドはpC53−4.2.N3から得た。
−プラスミドpBKMdm2はβグロビンをコードする配列の末端の非翻訳領域とそれに続くMdm2をコードする配列から構成されるコーディングカセットをpBKCMVにクローニングすることにより得た。
−プラスミドpGKhygroはハイグロマイシン耐性遺伝子の発現を可能にする(Nature(1990)348,649−651)。
−プラスミドpCMVNeoBamはネオマイシン耐性遺伝子を発現させる(Hindsら(1990)Cell.Growth and Diff.,1,571−580)。
−プラスミドpCMVp107及びpCMVCD20はp107タンパク質とCD20表面マーカーの発現を可能にする(Zhuら(1993)Genes and Development,7,1111−1125)。
−プラスミドpCMVE2F−4及びpCMVE2F−5はE2F−4及びE2F−5タンパク質の発現を可能にする(Sardetら(1995)Proc.Natl.Acad.Sc.,92,2403−2407)。
−プラスミドpLexA、pLexA(6−41)、pLeXA(16−25)は遊離又はp53(6−41)もしくはp53(16−25)とフェーズを合せて融合したLexAのDNA(アミノ酸1〜87)への付着のためのドメインの発現を可能にする。pLexA(6−41)及びpLeXA(16−25)はLGME(Strasbourg)で構築されたプラスミドpLexApolyIIから得た。
−p107の真核生物発現プラスミド:p107(385−1068)、p107(1−781)及びp107(781−1068)(Zhuら,EMBO J.14(1995)1904)。
−プラスミドpSGK1HAp107はp107のin vitro及びin vivo発現を可能にする。p107はKozak配列のコンテキストに含まれ、エピトープHAはp107のC末端に融合発現される。
−プラスミドpBC−MDM2及びpBC−MDM2(1−134)はMDM2及びMDM2(1−134)をpBCにクローニングすることにより得た(Chattonら,Biotechniques 18(1995)142)。
−プラスミドpGex−MDM2及びpGex−MDM2(1−177)はMDM2及びMDM2(1−177)をpGexにクローニングすることにより得た。
【0066】
2.方法:
p53の発現はモノクローナル抗体D01を使用して全細胞抽出物でウェスタンブロッティングにより測定する。
【0067】
Mdm2タンパク質をコードするmRNAの発現は半定量的RT−PCRにより評価する。
【0068】
DNAが汚染されていないことはPCRにより確認する。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】Mdm2タンパク質A〜Fの模式図。
【図2】種々のMdm2タンパク質を発現するプラスミドによるSaos−2細胞のトランスフェクションのグラフ。
【図3a】種々のp53によるMdm2の形質転換性の阻害を示す模式図。
【図3b】種々のp53によるMdm2の形質転換性の阻害を示す模式図。
【図4】細胞周期に及ぼすMdm2過剰発現の効果。
【図5】細胞周期に及ぼすMdm2過剰発現の効果。
【0070】
実施例1:Mdm2の形質転換性の立証
Saos−2細胞にプラスミドpBKMDM2、対照プラスミドpBKp53(R273H)又はp53−対照プラスミドpBKCMVをトランスフェクトした後、ゲネチシン418(G418)耐性を選択する。
【0071】
第1の試験では、クローンを個々に選択して増殖させ、他の2つの試験ではクローンを単離せずに軟質寒天培地で培養する。
【0072】
このために、0.375%軟質寒天に細胞104個を2回接種する。24時間後に50個を上回る細胞を含むコロニーの合計数と、コロニー当たりの細胞数(コロニー寸法)を測定する。各値は夫々2回ずつ実施した4回の実験の平均に対応する。得られた結果を表Iに示す。Mdm2に対応する試験1のクローンをM1〜M6、p53(R273H)のクローンをp53−1〜p53−6、対照クローンをCo1〜Co5として示す。
【0073】
予想通り、Co1とCo4はトランスフェクトしたMdm2を発現せず、Co1〜3はp53タンパク質を発現しない。
【0074】
【表1】

【0075】
実施例2:配列番号1のMdm2のN末端領域(1〜134)はSaos−2細胞の軟質寒天増殖を刺激するのに必要且つ十分である。
【0076】
neo耐性と図1に示すMdm2タンパク質A〜Fを同時に発現するプラスミドpBKCMV又はブランク対照プラスミドpBKCMVをSaos−2細胞にトランスフェクトした後、G418耐性を選択する。生存細胞を集めて増幅後、軟質寒天コロニー形成を試験する。図2の結果は軟質寒天で形成されたクローン数を完全Mdm2(A)のクローン数の相対値として表す。これらの結果は、構築物に応じて3〜7個の異なる細胞プールを試験した独立トランスフェクションを表す2回の実験の結果である。これらの結果から明らかなように、Mdm2のN末端ドメインは腫瘍原性をもつ。最も有効な構築物は全タンパク質に対応する。
【0077】
実施例3:野生型p53、p53突然変異体及びp53フラグメントによるMdm2の腫瘍原性の復帰
Mdm2で形質転換した1群のSaos−2細胞にプラスミ
ドpGHhygroと、pC53C1N3(p53)、pC53−4.2.N3、p53(R273H)、p53(1−52)、pLexA(6−41)、pLexA(16−25)、pLexA、p53(L14Q,F19S)、p53(L22Q,W23S)とpCMVNeoBamとのどちらかとを共トランスフェクトした後、G418の存在下でハイグロマイシン耐性を選択する。耐性細胞の独立プール3〜5個からの細胞100000個を軟質寒天(0.375%)に2回接種する。25日間培養後に、少なくとも50個の細胞を含むコロニーを数える。図3は代表的実験の結果と、Mdm2の形質転換性の阻害を試験した種々のp53の模式図を示す。この実験から明らかなように、Mdm2タンパク質に結合することが可能なタンパク質の発現を可能にする構築物しかMdm2の腫瘍原性を阻害せず、この場合にはp53、p53R273H、p53(1−52)、LexA(6−41)、LexA(16−25)である。他方、Mdm2と結合する能力を失ったことが判明した二重突然変異体(Linら,Gene Dev.,1994,8,1235−1246)は阻害効果をもたない。野生型p53のトランス作用性を維持した突然変異体p53(14−19)がMdm2による形質転換を阻害しないという事実は、Mdm2の腫瘍原性がMdm2によるp53のトランス作用性の阻害から独立していることを裏付けるものである。
【0078】
実施例4:Mdm2はSaos−2細胞でp107により誘導されるG1細胞周期の遮断を阻害する。
【0079】
(i)CD−20の発現用プラスミド(CD−20細胞表面マーカーをコードするpCMVCD20 2μg)、(ii)コーディング配列をもたないか、又はMdm2(PBKCMVMdm2)、Mdm2の1〜134ドメイン(PBKCMVMdm2(1−134))、E2F−4(pCMVE2F−4)もしくはE2F−5(pCMVE2F−5)をコードするCMV(サイトメガロウイルスのプロモーター)型の発現プラスミド(9μg)、及び(iii)p107の発現ベクター(pCMVp107、9μg)の3種のプラスミドをSaos−2細胞に共トランスフェクトする。その後、Zhuら,Gene Dev.,1993,7,1111−1125に記載されているようにFACScanにより分析するために細胞を処理する。代表的実験の結果を図4に示す。同図から明らかなように、p107の過剰発現の不在下ではMdm2又はその1〜134ドメインの発現は細胞周期に無効である。他方、Mdm2と効力をもつその1〜134ドメインの発現はp107により誘導されるG1細胞周期の停止を解除することができる。本実施例から明らかなように、Mdm2はp53のトランス作用活性の阻害剤であるばかりでなく、細胞周期の制御に関与する因子を阻害することが可能な細胞周期の正のレギュレーターでもある。
【0080】
同様の実験で、p107(385−1068)1μg、pCMVNeoBam 8μg、pXJMDM2 1μg、pXJ41 8μg及びpCMVCD20 2μgをSaos−2細胞にコトランスフェクトする。代表的実験の結果を図5に示す。これらの結果から明らかなように、MDM2の発現はp107及びMDM2と相互作用することが可能な欠失突然変異体p107(385−1068)により誘導されるG1遮断を解除することができる。
【0081】
実施例5:Mdm2はp107とin vitro及びin vivo相互作用する。
【0082】
本実施例はMdm2とp107がin vivoと同様にin vitroでも物理的相互作用することを立証する。これらの結果を細胞周期のレベルのMdm2活性(実施例4)と相関させる。
【0083】
5.1.in vitro
S35でin vitro標識したp107をセファロースグルタチオンビーズに固定化したタンパク質GST−MDM2(ベクターpGex−MDM2)又はGST−MDM2(1−177)(ベクターpGex−MDM2(1−177))と接触させる。MDM2に結合したp107をポリアクリルアミドゲル後にオートラジオグラフィーにより検出する。得られた結果を下表IIに示す。
【0084】
5.2.in vivo
融合タンパク質GST−MDM2又はGST−MDM2(1−134)を発現するプラスミドpBC−MDM2又はpBC−MDM2(1−134)と、p107又はp107の突然変異体の発現プラスミドをCos細胞に共トランスフェクトする。全細胞抽出物からのタンパク質複合体GST−MDM2−p107をセファロースグルタチオンビーズ上で単離し、抗p107ポリクローナル抗体(Santa Cruz p107−C18)を用いてウェスタンブロットによりp107タンパク質を検出する。得られた結果を下表IIに示す。
【0085】
【表2】

【0086】
上記結果から明らかなように、Mdm2とp107のタンパク質−タンパク質相互作用はin vitroだけでなく細胞内でも存在する。細胞形質転換に必要なMdm2の領域(1〜134)はp107と相互作用する領域である。この領域はより厳密には「ポケットドメイン」、「A」領域及び「スペーサー」の一部に位置するとして位置決定された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無p53コンテキストの癌の治療用医薬組成物の製造のための、Mdm2タンパク質の腫瘍原活性を少なくとも部分的に阻害することが可能な化合物の使用。
【請求項2】
配列番号1に示すMdm2タンパク質の配列の1〜134ドメインのレベルに結合することが可能な化合物の請求項1に記載の使用。
【請求項3】
化合物が前記Mdm2タンパク質の1〜134ドメインに対するscFVであることを特徴とする請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
化合物が配列番号2に示す配列のペプチド1〜52、1〜41、6〜41、16〜25、18〜23又はその誘導体の1種により完全又は部分的に表されることを特徴とする請求項1又は2に記載の使用。
【請求項5】
配列番号1に示すMdm2タンパク質の配列の1〜134ドメインの近傍のドメインに結合することが可能であり、この結合により前記タンパク質の腫瘍原活性を改変する化合物の請求項1に記載の使用。
【請求項6】
化合物がMdm2タンパク質のC末端ドメインと相互作用することを特徴とする請求項1又は5に記載の使用。
【請求項7】
化合物がTFII、TBP及びTAF250から選択される転写因子であることを特徴とする請求項1、5又は6に記載の使用。
【請求項8】
化合物がMdm2タンパク質の135〜491ドメインと相互作用することを特徴とする請求項1又は5に記載の使用。
【請求項9】
化合物がタンパク質Rb、L5及び転写因子E2Fから選択されるタンパク質の全部又は一部であることを特徴とする請求項1、5又は8に記載の使用。
【請求項10】
癌治療用医薬組成物の製造のための、Mdm2タンパク質の1〜134ドメインに対するscFVの使用。
【請求項11】
無p53コンテキストの癌の治療用医薬組成物の製造のための、Mdm2タンパク質の腫瘍原活性を阻害することが可能な化合物をコードする核酸の使用。
【請求項12】
核酸がアンチセンス核酸、Mdm2タンパク質のドメインの1つに直接固定しその腫瘍原活性を阻害することが可能なリガンドオリゴリボヌクレオチド、Mdm2のドメインの1つとオリゴマーを形成しその腫瘍原活性を阻害することが可能なペプチドもしくはタンパク質の全部もしくは一部をコードする核酸、又は配列番号1に示すMdm2タンパク質の配列の1〜134ドメインに対する細胞内抗体をコードする核酸であることを特徴とする請求項11に記載の使用。
【請求項13】
アンチセンス核酸が、Mdm2タンパク質をコードする核酸に相補的であり、その転写及び/又はその翻訳を阻害することが可能なRNA(アンチセンスRNA)又はリボザイムをコードするDNAであることを特徴とする請求項12に記載の使用。
【請求項14】
核酸がDEAE−デキストランとの複合体、核タンパク質との複合体、カチオン脂質もしくはポリマーとの複合体、リポソーム形態又はそのままで使用されることを特徴とする請求項11から13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
核酸がベクターの一部を構成することを特徴とする請求項11から13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
核酸がアデノウイルス、レトロウイルス及びアデノ随伴ウイルスから選択されるウイルスベクターの一部を構成することを特徴とする請求項15に記載の使用。
【請求項17】
Mdm2タンパク質の腫瘍原活性を少なくとも部分的に阻害することが可能な化合物をコードする核酸配列を含むウイルスベクター。
【請求項18】
核酸配列がscFV又はMdm2タンパク質の1〜134ドメイン(配列番号1)のレベルに相互作用することが可能なペプチドをコードすることを特徴とする請求項17に記載のウイルスベクター。
【請求項19】
アデノウイルス、レトロウイルス及びアデノ随伴ウイルスから選択されることを特徴とする請求項17又は18に記載のウイルスベクター。
【請求項20】
アデノウイルス又はレトロウイルスであることを特徴とする請求項17から19のいずれか一項に記載のウイルスベクター。
【請求項21】
請求項1から11のいずれか一項に記載のMdm2タンパク質の腫瘍原活性を阻害することが可能な化合物を含む医薬組成物。
【請求項22】
請求項12又は13に記載のMdm2タンパク質の腫瘍原活性を阻害することが可能な化合物をコードする核酸配列を含む医薬組成物。
【請求項23】
請求項14から20のいずれか一項に記載の少なくとも1種のウイルスベクターを含むことを特徴とする請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
腫瘍内投与用に調剤された請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
癌治療用医薬組成物の製造のための、Mdm2タンパク質の1〜134ドメイン(配列番号1)に対する細胞内抗体をコードする核酸配列の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−225571(P2011−225571A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−102826(P2011−102826)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【分割の表示】特願平9−510900の分割
【原出願日】平成8年9月2日(1996.9.2)
【出願人】(505360476)
【出願人】(594158585)アンステイテユ・ナシオナル・ドウ・ラ・サンテ・エ・ドウ・ラ・ルシエルシユ・メデイカル (3)
【Fターム(参考)】