説明

Moスパッタリングターゲットおよびその製造方法

【課題】 均一な組織を有するMoスパッタリングターゲットを提供する。また、このよ
うなMoスパッタリングターゲットの製造方法を提供する。
【解決手段】 純度99.9%以上のMoスパッタリングターゲットにおいて、平均結晶
粒径が60μm以下、スパッタ面の平均ビッカース硬度Hvが150〜200でビッカー
ス硬度Hvのばらつきが±10%以内であることを特徴とする。また、結晶配向をランダ
ム配向とすることも有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置や液晶表示装置などの配線を形成するためのMoスパッタリング
ターゲットおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置や液晶表示装置などの配線にはタングステンやモリブデンなどの高融点金属
が用いられている。これらの配線は、スパッタリング法と呼ばれる成膜方法が使われてい
る。スパッタリング法は、スパッタリングターゲットにArイオンをぶつけて目的とする
金属膜を得る方法である。
従来のタングステンまたはモリブデンターゲットは、例えば特許第3244167号公
報(特許文献1)には、加圧焼結することにより、平均粒径10μm以下かつ相対密度9
9%以上のターゲットを得ている。
近年、半導体装置の小型化のために配線の狭ピッチ化(小型化)が進められている。配
線を小型化するには、配線素材を低抵抗のものにする方法が有効である。理化学辞典など
を参照すると、タングステンの比抵抗値は5.65×10−6Ωcmであるのに対し、モ
リブデンの比抵抗値は5.2×10−6Ωcmである。そのため、一般的にタングステン
よりはモリブデンの方が低抵抗の配線が得られる。
特許文献1では、Mo粉末をHIPなどの加圧焼結することにより、ターゲットを得て
いる。この方法であれば、平均粒径を小さく、密度の高いスパッタリングターゲットを得
ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3244167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スパッタリング法は、ターゲットにArイオンをぶつけて、その衝撃でターゲット材の
原子を飛ばして成膜する方法である。そのため、長期間安定して成膜するにはターゲット
組織が均一である必要があるが、特許文献1のように加圧焼結するだけでは、組織に不均
一な部分ができスパッタレートが変化するなどの不具合があった。特にターゲットが大型
化すると、組織の不均一による問題が顕著になっていた。
本発明は、このような問題に鑑み、均一な組織を有するMoスパッタリングターゲット
およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第一のMoスパッタリングターゲットは、純度99.9%以上のMoスパッタ
リングターゲットにおいて、平均結晶粒径が60μm以下、スパッタ面の平均ビッカース
硬度Hvが150〜200でビッカース硬度Hvのばらつきが±10%以内であることを
特徴とするものである。
また、繊維状組織を具備していないことが好ましい。また、スパッタ面は、アスペクト
比3以下の結晶が面積率で70%以上であることが好ましい。また、直径が320mm以
上であることが好ましい。また、再結晶組織であることが好ましい。
また、スパッタ面のX線回折を行ったときの(110)、(200)、(211)、(
310)の各面のピークの相対強度が(110)>(211)>((200)または(3
10))の順で小さくなることが好ましい。また、結晶配向がランダム配向であることが
好ましい。
本発明の第二のMoスパッタリングターゲットは、純度99.9%以上のMoスパッタ
リングターゲットにおいて、平均結晶粒径が60μm以下、スパッタ面のX線回折を行っ
たときの(110)、(200)、(211)、(310)の各面のピークの相対強度が
(110)>(211)>((200)または(310))の順で小さくなることを特徴
とするものである。
【0006】
また、本発明の第一のMoスパッタリングターゲットの製造方法は、平均粒径10μm
以下、1次粒子の割合50%以上、純度99.9%以上のMo粉末を円板状の成形体に成
形する工程と、成形体を1000℃以上で焼結する工程と、焼結体を700℃以上で熱間
加工する工程と、焼結体を700℃以上で再結晶熱処理する工程、を具備することを特徴
とするものである。
また、第二のMoスパッタリングターゲットの製造方法は、純度99.9%以上のMo
粉末またはMoブロック体をEB溶解する工程と、インゴットを700℃以上で熱間加工
する工程と、インゴットを700℃以上で再結晶熱処理する工程、を具備することを特徴
とするものである。
また、第三のMoスパッタリングターゲットの製造方法は、Moの焼結体またはインゴ
ットを鉄製またはステンレス製のカプセルに密閉してから、700℃以上で熱間加工する
工程、700℃以上で再結晶熱処理する工程、を具備することを特徴とするものである。
いずれの製造方法も、ターゲットの直径が320mm以上と大型化したものに有効であ
る。
【発明の効果】
【0007】
本発明のMoスパッタリングターゲットは、スパッタ面のビッカース硬度のばらつきを
低減しているので均一な組織が得られている。また、スパッタ面の結晶方位をランダム配
向となっている。このため、スパッタレートが安定し、ターゲットの長寿命化が図れる。
また、本発明のMoスパッタリングターゲットの製造方法は、均一な組織またはおよび
ランダム配向を有するMoスパッタリングターゲットを効率よく得ることができる。特に
、ターゲットサイズが大型化しても均一な組織またはおよびランダム配向のMoスパッタ
リングターゲットが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】Moスパッタリングターゲットのスパッタ面のビッカース硬度の測定位置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のMoスパッタリングターゲットは、純度99.9%以上のMoスパッタリング
ターゲットにおいて、平均結晶粒径が60μm以下、スパッタ面の平均ビッカース硬度H
vが150〜200でビッカース硬度Hvのばらつきが±10%以内であることを特徴と
するものである。
まず、Moの純度は99.9wt%以上(3N以上)である。Mo純度は高い程良く9
9.99wt%以上(4N以上)、さらには99.999wt%(5N以上)であること
が好ましい。
純度の測定は、ガス成分(酸素、窒素、炭素)を除き、金属不純物であるNa、K、M
g、Fe、Cu、Cr、Al、Ca、Ni、W、U、Thの合計値を100%から引いた
値をMoの純度とする。また、酸素は100ppm以下、窒素は30ppm以下、炭素1
0ppm以下であることが好ましい。なお、本発明では特に断りのない限り、ppmはw
tppmの意味である。
【0010】
平均粒径は60μm以下である。Mo結晶の平均粒径が60μmを超えると、組織が大
きくなり過ぎてビッカース硬度のばらつきを大きくする。平均粒径は、好ましくは30μ
m以下である。
平均粒径の求め方は、線インターセプト法を用いる。Moスパッタリングターゲットの
任意のスパッタ面(単位面積500μm×500μm)を拡大写真(光学顕微鏡写真など
)に撮り、直線500μm上に存在するMo結晶粒子の個数をカウントする。(500μ
m/直線500μm上のMo結晶粒子の個数)=平均値とし、この作業を3回行い、その
平均値を“平均粒径”とする。
【0011】
また、スパッタ面の平均ビッカース硬度Hvが150〜200でビッカース硬度Hvの
ばらつきが±10%以内であることを特徴とする。図1はスパッタ面のビッカース硬度の
測定点を示す図である。円板状ターゲットの中心部(位置1)と、中心部を通り円周を均
等に分割した4本の直線上の外周近傍位置(位置2〜9)およびその1/2の距離の位置
(位置10〜17)をそれぞれ測定点とする。スパッタ面をそのまま測定できるときは、
そのまま測定するものとし、測定が困難な場合はスパッタ面を含む10mm角の試料を切
り出して測定してもよい。また、外周近傍位置は中心部から外周までの距離を100%と
したとき90%の位置で行うものとする。また、ビッカース硬度の測定は、ビッカース硬
度試験機を用いて、荷重200g、荷重付加時間15秒の条件で行うものとする。
17点の測定結果の平均値をビッカース硬度Hvの平均値とする。また、ばらつきは、
[(測定点のビッカース硬度−平均値)/平均値]×100%で求めるものとする。
まず、スパッタ面の平均ビッカース硬度Hvが150〜200である。ビッカース硬度
Hvが150未満ではターゲットの硬度が不十分である。硬度が不十分である原因として
はターゲット内部にポア(気孔)がある場合、Feなどのやわらかい不純物金属が偏析し
ている場合などが挙げられる。
【0012】
一方、ビッカース硬度が200を超える場合は、アスペクト比が5以上の長細い繊維状
組織を具備する場合が挙げられる。このため、本発明では繊維状組織を具備していないこ
とが好ましい。繊維状の組織があると結晶粒の存在割合(粒界の存在割合)にばらつきが
できて、ビッカース硬度のばらつきを10%以下にすることが困難となる。
また、ビッカース硬度Hvのばらつきは±10%の範囲である。本発明では硬さのばら
つきを制御することにより均一な組織を得るものである。これは平均粒径を制御すること
により、部分的なMo結晶粒と粒界の存在割合を略均一なものとしたためである。
このような均一な組織とするためにはスパッタ面は、アスペクト比3以下の結晶が面積
率で70%以上であることが好ましい。アスペクト比が3以下のMo結晶粒であれば単位
面積100μm×100μmあたりのMo結晶粒の個数に大きな差が出ないので硬さのば
らつきが抑えられる。
また、ビッカース硬度のばらつきを±10%以内に抑えるには再結晶組織であることが
好ましい。再結晶組織であれば平均粒径を60μm以下、さらには30μm以下と小さく
した上で繊維状組織をなくし、アスペクト比3以下の結晶が面積率で70%以上とするこ
とができる。
【0013】
また、スパッタレートの変化を小さくし、長寿命、長期信頼性の高いスパッタリングタ
ーゲットを得ることができる。このため、スパッタリングターゲットの厚さを6mm以上
と厚くしても十分使用できる。
また、スパッタレートの変化を小さくする方法としてはスパッタ面の結晶配向をランダ
ム配向とすることが挙げられる。ランダム配向とは、特定の結晶方位に50%以上の配向
がない状態を示すものである。結晶配向はX線回折(XRD)で測定できる。X線回折は
、Cuターゲット(Cu−Kα)、管電圧40kV、管電流100mAで行うものとする

また、スパッタ面のX線回折を行ったときの(110)、(200)、(211)、(
310)の各面のピークの相対強度が(110)>(211)>((200)または(3
10))の順で小さくなることが好ましい。(200)と(310)のX線回折強度は、
ほぼ同じ値を示すことがあるので(200)と(310)はどちらが大きくてもよい。こ
のため、(110)>(211)>(200)≧(310)または(110)>(211
)>(310)≧(200)となる。
【0014】
また、Moスパッタリングターゲットから任意の試料を切り出し、スパッタ面のX線回
折を行ったとき、X線回折の各面のピークの相対強度はスパッタ面のピークの高さの順番
と、PDFピーク(粉末試料のXRDピーク)の高さの順番を比較するとほぼ同じになる
。個々のピークの高さの比は、スパッタ面とPDF(粉末)では異なる場合もあるが、検
出されるピークの高さの順番はほぼ一致する。スパッタ面のピーク順は(110)>(2
11)>((200)または(310))であり、この順番が粉末(PDFピーク)にな
っても同じ傾向であるということはターゲット全体で均一なランダム配向であることを示
すものである。
【0015】
平均粒径を調製した上で、ビッカース硬度または結晶配向のどちらか一方を制御するこ
とによって安定したスパッタレートが得られるが、ビッカース硬度および結晶配向の両方
を制御した方がより安定したスパッタレートが得られる。
また、ビッカース硬度またはおよび結晶配向の制御により、直径が320mm以上の大
型のターゲットにしたとしても安定したスパッタレートが得られるので長期信頼性が向上
する。
また、相対密度は99.5%以上であることが好ましい。相対密度はモリブデンの理論
密度を10.22g/cmとし、アルキメデス法で測定した実測値を割った値で求める
。具体的には、(アルキメデス法による実測値/理論密度10.22)×100(%)=
相対密度とする。
【0016】
次に製造方法について説明する。本発明のMoスパッタリングターゲットの製造方法は
特に限定されるものではないが、効率よく得る方法として次のものが挙げられる。
本発明の第一のMoスパッタリングターゲットの製造方法は、平均粒径10μm以下、
1次粒子の割合50%以上、純度99.9%以上のMo粉末を円板状の成形体に成形する
工程と、成形体を1000℃以上で焼結する工程と、焼結体を700℃以上の温度で熱間
加工する工程と、焼結体を700℃以上で再結晶熱処理する工程、を具備することを特徴
とするものである。
【0017】
第一の製造方法は、原料粉末として平均粒径10μm以下、1次粒子の割合50%以上
、純度99.9%以上のMo粉末を使うことを特徴とするものである。
ビッカース硬度の制御にはMo結晶の平均粒径の制御が必要である。Mo粉末の平均粒
径は10μm以下が好ましい。平均粒径が10μmを超えると焼結後に粒成長が起きたと
き、ターゲットの平均粒径(平均結晶粒径)が60μmを超えるおそれがある。
また、1次粒子の割合は50%以上であることが好ましい。粒子同士がくっついた2次
粒子を多く含んだMo粉末を使うと、部分的にMo結晶の存在割合に偏りができてビッカ
ース硬度のばらつきが10%を超えるおそれがある。1次粒子が50%以上のMo粉末の
製造方法は、Mo粉末を十分に粉砕、篩分けする方法や、特願2009−163106号
に記載したように、Mo粉末を製造する工程で内壁をMoで覆った容器を使うことや乾燥
工程(モリブデン化合物を含む第2の水溶液を乾燥させることにより酸化モリブデン粉末
を調製する工程)として、第2の水溶液を回転板上に噴射し、モリブデン化合物が回転板
をはじいて落下している途中で、スプレードライヤーにより乾燥させる工程が挙げられる
。1次粒子の割合の高いMo粉末の製法方法は、特願2009−163106号を参照と
する。
【0018】
次に、Mo粉末を円板状の成形体に成形する工程を行う。成形体は金型成型などの公知
の形成方法が適用でき、金型不純物が混入するのを防ぐために内壁をMoで覆うことも効
果的である。金型成型であれば金型サイズを大型にすることにより、直径320mm以上
または厚さ6mm以上といった大型ターゲットを製造することができる。
次に、成形体を1000℃以上で焼結する工程を行う。焼結方法は、ホットプレスやH
IPなどが適用できる。また、常圧焼結、ホットプレスまたはHIPを組合せて多段焼結
する方法が挙げられる。焼結温度は焼結時に付加する圧力にもよるが、1000〜150
0℃の範囲が好ましい。1500℃を超えるとMo結晶の粒成長が促進され、Mo結晶粒
径の平均粒径を60μm以下にするのが困難になる。また、圧力は500atm(50M
Pa)以上が好ましい。
【0019】
次に、得られたMo焼結体を700℃以上で熱間加工する工程を行う。熱間加工は、熱
間鍛造、熱間押出、熱間圧延などである。熱間加工温度が700℃未満であると加工歪が
残存し易い。熱間加工温度の上限は特に限定されるものではないが装置の負荷を考慮する
と1200℃以下が好ましい。また、加工率については任意であり、Mo焼結体と求める
ターゲットサイズから適宜選定していく。
次に、得られたMo焼結体を700℃以上で再結晶熱処理する工程を行う。焼結工程後
の焼結体は程度の差はあれMo結晶が粒成長している。粒成長しているとMo結晶の存在
割合にばらつきがでてビッカース硬度や結晶方位にばらつきがでる。このため、再結晶さ
せることにより、組織をより均一にする方法が有効である。完全に再結晶させるには再結
晶熱処理温度を1000℃以上1300℃以下にすることが好ましい。特に直径が320
mm以上または厚さ6mm以上の大型ターゲットのときはこの温度が有効である。
再結晶熱処理後は、必要に応じ、表面加工、バッキングプレートの接合を行うものとす
る。
【0020】
本発明の第二のMoスパッタリングターゲットの製造方法は、純度99.9%以上のM
o粉末またはMoブロック体をEB溶解する工程と、インゴットを700℃以上の温度で
熱間加工する工程と、インゴットを700℃以上で再結晶熱処理する工程、を具備するこ
とを特徴とするものである。
まず、第二の製造方法は、純度99.9%以上のMo粉末またはMoブロック体をEB
溶解する工程を行う。Moブロック体とは、Mo粉末の成形体、Mo粉末の焼結体、Mo
の溶解インゴットのいずれかである。
Mo粉末またはMoブロック体のいずれかをEB溶解(電子ビーム溶解)してインゴッ
トを製造する。EB溶解することにより、Mo粉末中またはMoブロック体中の不純物を
さらに低減することができる。また、Mo粉末またはMoブロック体のMo結晶サイズの
ばらつきを一旦リセットしたインゴットを製造することができる。このため、Mo純度9
9.99wt%以上のより高純度のMoスパッタリングターゲットを得るのに好適である

次に、得られたMoインゴットを700℃以上で熱間加工する工程を行う。熱間加工は
、熱間鍛造、熱間押出、熱間圧延などである。熱間加工温度が700℃未満であると加工
歪が残存し易い。熱間加工温度の上限は特に限定されるものではないが装置の負荷を考慮
すると1200℃以下が好ましい。また、加工率については任意であり、Moインゴット
と求めるターゲットサイズから適宜選定していく。
【0021】
次に、得られたインゴットを700℃以上で再結晶熱処理する工程を行う。再結晶させ
ることにより、組織をより均一にすることができる。
第一の製造方法と同様に、再結晶後は、必要に応じ、表面加工、バッキングプレートの
接合を行うものとする。
【0022】
本発明の第三のMoスパッタリングターゲットの製造方法は、Moの焼結体またはイン
ゴットを鉄製またはステンレス製のカプセルに密閉してから、700℃以上で熱間加工す
る工程、700℃以上で再結晶熱処理する工程、を具備することを特徴とするものである

まず、Moの焼結体またはインゴットを鉄製またはステンレス製のカプセルに密閉して
から、700℃以上で熱間加工する工程を行う。焼結法により製造したMo焼結体または
溶解法により製造したMoインゴットを、鉄製またはステンレス製のカプセルに密封する
。カプセルに密封することにより、外部からの不純物の混入や表面酸化を防ぐことができ
る。
鉄製またはステンレス製のカプセルはMoよりも柔らかいので熱間加工の邪魔にはならな
い。この上で、700℃以上で熱間加工を行う。熱間加工は、熱間鍛造、熱間圧延、熱間
押出などの塑性加工が挙げられ、ターゲットサイズの調製、平均粒径(平均結晶粒径)、
結晶配向の制御に効果的である。
次に、700℃以上で再結晶熱処理する工程を行う。再結晶することによりMo結晶の
平均粒径をより微細化することができる。再結晶後は、必要に応じ、表面加工、バッキン
グプレートの接合を行うものとする。
【0023】
また、第三の製造方法においては、Mo焼結体を得る方法は第一の製造方法、Moイン
ゴットを得る方法は第二の製造方法を使うことが好ましい。第一の製造方法の焼結体また
は第二の製造方法のインゴットを使った上で第三の製造方法を適用した場合、ビッカース
硬度のばらつきは±5%以内に制御することができる。
以上のような製造方法であれば、Mo結晶の平均粒径を小さくした上でビッカース硬度
や結晶配向の制御を行うことができる。このため、ターゲットの直径が320mm以上ま
たはおよび厚さが6mm以上の大型のターゲットを製造することができる。
【0024】
[実施例]
(実施例1)
平均粒径10μm、1次粒子の割合が60%、純度99.99%のMo粉末を用意した
。このMo粉末を用いて、円柱状の成形体を製造し、1200℃、圧力1100atm、
5時間でHIP焼結を行った。次いで、熱間加工(1100℃×1時間加熱後の圧延加工
)1200℃×3時間の再結晶熱処理を行った。
表面研磨加工を行い直径350mm×厚さ10mmのMoスパッタリングターゲットを
得た後、バッキングプレートを接合した。なお、Moターゲットの相対密度は99.8%
であった。
(実施例2)
平均粒径10μm、1次粒子の割合が50%、純度99.99%Mo粉末を焼結して焼
結体(Moブロック体)を得た後、EB溶解してMoインゴットを製造した。Moインゴ
ットを1150℃で熱間加工(圧延および鍛造)、1000℃×5時間の再結晶熱処理を
施して円柱状のMoターゲットを得た。表面研磨加工を行い直径300mm×厚さ10m
mのMoスパッタリングターゲットを得た後、バッキングプレートを接合した。なお、M
o純度を測定したところ、99.995wt%以上と高純度化していた。また、Moター
ゲットの相対密度は99.9%であった。
(実施例3)
平均粒径7μm、1次粒子の割合が70%、純度99.99%のMo粉末を用意した。
このMo粉末を用いて、円柱状の成形体を製造し、1200℃、圧力600atm、6時
間でホットプレス焼結を行った。次いで、ステンレス製のカプセルでMo焼結体を覆った

その後、850〜1150℃の熱間鍛造工程、850〜1150℃での熱間圧延工程に
より形状を整えた。ステンレス製カプセルを外して、1100℃で再結晶熱処理を施した
。表面研磨を行うことにより、直径400mm×厚さ8mmのMoスパッタリングターゲ
ットを製造した。その後、バッキングプレートを接合した。なお、Moターゲットの相対
密度は99.9%であった。
【0025】
(比較例1)
平均粒径5μm、1次粒子の割合40%、純度99.99%のMo粉末を用意した。こ
のMo粉末を用いて円板状の成形体を製造し、1250℃、1000atm、2時間のH
IP処理を行った。HIP焼結体を550℃で熱間加工して形状を整えた。その後、55
0℃で再結晶熱処理を行った。
その後、表面加工を行い、直径300mm×厚さ8mmのMoスパッタリングターゲッ
トを製造した。次いでバッキングプレートの接合を行った。得られたMoターゲットの相
対密度は99.8%であった。
実施例1〜3および比較例1のMoスパッタリングターゲットに関し、Mo結晶の平均
粒径、アスペクト比3以下の割合(面積%)ビッカース硬度の平均値およびばらつきを測
定した。以下にその結果を示す。
Mo結晶の測定はスパッタ面に平行な任意の断面において単位面積500μm×500
μmの拡大写真を撮り、線インターセプト法で行った。同様の拡大写真にてアスペクト比
3以下のMo結晶の割合(面積%)を求めた。
また、ビッカース硬度については図1に示した5mm角の試料17点を切り出し、ビッ
カース硬度試験機を用いて、荷重200g、荷重付加時間15秒の条件で行った。
【0026】
【表1】

【0027】
表から分かる通り、実施例1〜3に係るMoターゲットは、ビッカース硬度Hvの平均
値は150〜200の範囲内であり、そのばらつきも10%以内であった。また、組織を
観察した結果、アスペクト比5以上の繊維状の組織は観察されなかった。
一方、比較例1のものはビッカース硬度Hvが200を超え、そのばらつきは10%を
超えていた。組織を観察した結果、アスペクト比5以上の繊維状の組織が面積比5%観察
された。
次に、実施例1〜3および比較例1のスパッタリングターゲットのスパッタ面のX線回
折分析を行い、配向性を確認した。X線回折は、銅ターゲット(Cu−Kα)、管電圧4
0kV、管電流100mAで行った。(110)、(200)、(211)、(310)
の相対強度比の順番を調べた。X線回折ではビッカース硬度の測定に使った試料17個の
スパッタ面を使って分析した(ビッカース硬度測定のための圧痕形成前に分析した)。そ
の結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表から分かる通り、実施例1〜3に係るスパッタリングターゲットは、X線回折強度の
順番は(110)>(211)>(200)>(310)または(110)>(211)
>(310)>(200)であった。いずれもランダム配向を示すものであった。それに
対し、比較例1のものは部分的に異なる配向を示す箇所があった。
また、各試料を粉末に粉砕して粉末のX線回折を分析した結果を表3に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
実施例に係るMoスパッタリングターゲットは、スパッタ面のX線回折の強度の順番と
粉末での強度の順番が同じであった。このため、実施例に係るターゲットはランダム配向
が全体に渡って維持されていることが分かる。
それに対し、比較例のものは場所(試料)によって異なる箇所があった。これはターゲ
ットの厚さ方向に進むに従って結晶配向が異なる箇所があることを意味するものである。
次に、実施例1〜3および比較例1に係るMoスパッタリングターゲットを用いてスパ
ッタリングを行いMo膜の成膜工程を行った。この結果、実施例1〜3に係るMoスパッ
タリングターゲットを使った場合は、単位時間あたりの成膜量の変化が最後まで5%以内
であった。それに対し、比較例1のものは10%変わる時間帯があった。このため、比較
例1に係るものはスパッタレートが大きく変化していることが分かる。
本実施例に係るMoスパッタリングターゲットは、スパッタレートが安定し、長期信頼
性の高い成膜を行うことが可能である。
【0032】
(実施例4〜6)
平均粒径10μm、1次粒子の割合80%、純度99.99%のMo粉末を用意した。
このMo粉末を用いて円板状に成型し表4に示す製造工程にて実施例4〜6に係るスパッ
タリングターゲットを製造した。各ターゲットについて実施例1と同様の測定を行った。
以下にその結果を示す。
【0033】
【表4】

【0034】
実施例4〜6に係るMoスパッタリングターゲットについてMo結晶の平均粒径、アスペ
クト比3以下の割合、スパッタ面のビッカース硬度(平均値、ばらつき)について調べた

【0035】
【表5】

【0036】
次に、スパッタ面の試料についてX線回折を行い強度の順番を調べた。
【0037】
【表6】

【0038】
いずれもスパッタ面とPDFとの強度比を比べたとき、いずれも同じ順番を示した。こ
のため、スパッタ面に限らず、ターゲット内部でもランダム配向が維持されていることが
分かる。
これらターゲットを用いてスパッタしたところ、単位時間あたりの成膜量の変化が最後
まで5%以内であった。このため、最後まで安定したスパッタレートを維持できることが
分かった。
【符号の説明】
【0039】
1…スパッタリングターゲットのスパッタ面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純度99.9%以上のMoスパッタリングターゲットにおいて、平均結晶粒径が60μm
以下、スパッタ面の平均ビッカース硬度Hvが150〜200でビッカース硬度Hvのば
らつきが±10%以内であることを特徴とするMoスパッタリングターゲット。
【請求項2】
繊維状組織を具備していないことを特徴とする請求項1記載のMoスパッタリングター
ゲット。
【請求項3】
スパッタ面は、アスペクト比3以下の結晶が面積率で70%以上であることを特徴とす
る請求項1または請求項2のいずれか1項に記載のMoスパッタリングターゲット。
【請求項4】
直径が320mm以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項
に記載のMoスパッタリングターゲット。
【請求項5】
再結晶組織であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のM
oスパッタリングターゲット。
【請求項6】
スパッタ面のX線回折を行ったときの(110)、(200)、(211)、(310
)の各面のピークの相対強度が(110)>(211)>((200)または(310)
)の順で小さくなることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のM
oスパッタリングターゲット。
【請求項7】
結晶配向がランダム配向であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1
項に記載のMoスパッタリングターゲット。
【請求項8】
純度99.9%以上のMoスパッタリングターゲットにおいて、平均結晶粒径が60μm
以下、スパッタ面のX線回折を行ったときの(110)、(200)、(211)、(3
10)の各面のピークの相対強度が(110)>(211)>((200)または(31
0))の順で小さくなることを特徴とするMoスパッタリングターゲット。
【請求項9】
平均粒径10μm以下、1次粒子の割合50%以上、純度99.9%以上のMo粉末を
円板状の成形体に成形する工程と、成形体を1000℃以上で焼結する工程と、焼結体を
700℃以上で熱間加工する工程と、焼結体を700℃以上で再結晶熱処理する工程、を
具備することを特徴とするMoスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項10】
純度99.9%以上のMo粉末またはMoブロック体をEB溶解する工程と、インゴッ
トを700℃以上で熱間加工する工程と、インゴットを700℃以上で再結晶熱処理する
工程、を具備することを特徴とするMoスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項11】
Moの焼結体またはインゴットを鉄製またはステンレス製のカプセルに密閉してから、
700℃以上で熱間加工する工程、700℃以上で再結晶熱処理する工程、を具備するこ
とを特徴とするMoスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項12】
ターゲットの直径が320mm以上であることを特徴とする請求項9、請求項10、請
求項11のいずれか1項に記載のMoスパッタリングターゲットの製造方法。

【図1】
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