説明

N結合型グリカン化合物

A−GlcNAc[GlcNAc]−GalNAc−GalNAc−QuiNAc4NAc(AはGlcNAcまたはGlcである)を含む単離または精製化合物が提供される。カンピロバクター生物により引き起こされる感染症を治療または予防するための特定の用途を有する、前記化合物に基づくワクチンがさらに提供される。カンピロバクター生物により引き起こされる感染症の存在を診断するための特定の用途を有する、前記化合物に対する抗体または抗血清も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意選択によりアミノ酸、ペプチド、タンパク質もしくは脂質に融合または結合していてもよい式1のN結合型グリカン化合物に関する。本発明はさらに、前記化合物に対する抗体および抗血清、ならびにカンピロバクター(Campylobacter)病原体により引き起こされる感染症を診断するためのその使用に関する。本発明はさらに、カンピロバクター病原体による感染症を治療または予防するためのワクチンとしての該化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)およびカンピロバクター・コリ(Campylobacter coli)は、ヒト感染症を引き起こすカンピロバクターの最も一般的に単離された2種である。これらの生物は、世界中で高い割合の胃腸炎を引き起こし、ケース数ではしばしばサルモネラ、赤痢菌および腸内毒素原性大腸菌を合わせた数を超えている(Butzler JP、Clinical Microbiology and Infection 2004)。さらに、カンピロバクター・ジェジュニ感染症は、ポリオ根絶以来病原体により引き起こされる麻痺の最も一般的な原因であるギラン−バレー症候群の発症と関連づけられてきた(概要については、Kaida K、Glycobiology、2009;Bereswill S&Kist M、Current Opinion in Infectious Diseases、2003参照)。他のカンピロバクター種は、ヒト胃腸炎の新興病原体と認識されており(カンピロバクター・ウプサリエンシス(C.upsaliensis)、カンピロバクター・ハイオインテスティナリス(C.hyointestinalis))、子供の炎症性腸疾患、歯肉炎、歯周炎およびヒトの流産(カンピロバクター・レクタス(C.rectus)、カンピロバクター・コンサイサス(C.concisus))(Zhang LS等、Journal of Clinical Microbiology、2009)、ならびに家畜の性病および不妊症(特にウシ;カンピロバクター・フィタス・ベネレアリス(C.fetus venerealis))、およびヒツジの流産(カンピロバクター・フィタス・フィタス(C.fetus fetus))(Butzler JP、Clinical Microbiology and Infection、2004およびその中の参考文献)と関連づけられた。
【0003】
2000年のカンピロバクター・ジェジュニのゲノム配列の公開(Parkhill等、Nature、2000)以来、いくつかの他のカンピロバクターのゲノム配列が報告されてきた。今までに記載されてきた細菌の大部分とは異なり、全てのカンピロバクターは、N結合型タンパク質グリコシル化に必要とされる保存されたpgl遺伝子を含む(Szymanski CM&Wren BW、Nature Reviews Microbiology 2005;Nothaft H&Szymanski CM、Nature Reviews Microbiology、2010)。
【0004】
真核生物では、グリコシル化タンパク質は、細胞外基質および細胞表面の遍在性成分である。そのオリゴ糖部分は、免疫認識からがん進行に及ぶ生物学的過程において重要な広範囲の細胞−細胞および細胞−基質認識事象に関係している。グリコシル化は、以前は真核生物に限定したものであると考えられていたが、分析方法およびゲノム配列決定の進歩により、細菌においてO結合型およびN結合型タンパク質グリコシル化経路の両方についての報告が増加してきた(Nothaft H&Szymanski CM、Nature Reviews Microbiology 2010)。細菌における最初の一般的なタンパク質グリコシル化経路の発見(Szymanski CM等、Molecular Microbiology 1999)、カンピロバクター・ジェジュニのグリカンは、全部N結合を通して結合しており(Kelly JH等、Journal of Bacteriology 2006、Wacker M等、Science 2002、Young NM等、Journal of Biological Chemistry、2002)、経路を大腸菌に機能的に伝達することができるだけでなく(Wacker M等、Science、2002)、オリゴサッカリルトランスフェラーゼ酵素(PglB)は外来性の糖をタンパク質に付加することができる(Feldman M等、PNAS 2005)という証明以来、高まる研究活動が、この系のさらなる特徴づけおよび利用をもたらしてきた。
【0005】
カンピロバクター・ジェジュニのN結合型七糖の詳細な構造が記載されている(Young NM等、Journal of Biological Chemistry、2002)。高分解能マジック角スピニング(HR−MAS)NMRなどの方法を使用して(Szymanski CM等、Journal of Biological Chemistry、2003)、カンピロバクター・ジェジュニとカンピロバクター・コリの両方でこの七糖は構造が保存されていることが示された。
【0006】
カンピロバクター・ジェジュニのN結合型グリコシル化経路の中間体、すなわち、遊離(オリゴ−)七糖(fOS)−カンピロバクター・ジェジュニの細胞膜周辺腔の可溶性成分が記載されている(Liu X等、Analytical Chemistry、2006)。このfOSは、タンパク質上に付加しているN結合型オリゴ糖と同一の構造を有する(Nothaft H等、PNAS 2009)。実験室での増殖条件下で、fOS対タンパク質にN結合している七糖の比率は、約9:1である。カンピロバクター・ジェジュニのfOSは、細菌の周辺質グルカンと同様に浸透圧調節で役割を果たしており、この経路は、環境の浸透圧調節物質濃度を変えることにより、操作することができる(Nothaft H等、PNAS 2009)。
【0007】
図1は、カンピロバクター・ジェジュニ中のN結合型タンパク質グリコシル化および遊離オリゴ糖を示している。ウンデカプレニルピロリン酸結合型七糖は、ヌクレオチド活性化糖の付加により、サイトゾル内に集合する(Szymanski CM等、Journal of Biological Chemistry、2003;Szymanski CM等、Trends Microbiology 2003)。完全な七糖は、ABC輸送体PglKにより内膜を横切って周辺質に移される(Alaimo C等、EMBO Journal、2006)。オリゴ糖は、PglBにより、タンパク質コンセンサス配列、D/E−X1−N−X2−S/T(X1、X2は、プロリンを除く任意のアミノ酸であり得る)中のアスパラギンのアミノ基に移される(Kowarik M等、EMBO Journal 2006;Young NM等、Journal of Biological Chemistry、2002)。さらに、大量の遊離七糖(fOS)を、カンピロバクター・ジェジュニ中に見出すことができる(Liu X等、Analytical Chemistry、2006);fOSとN−グリカンの比率は、9:1であると決定された。GlcNAc、N−アセチルガラクトサミン;バシロサミン(Bac)、2,4−ジアセトアミド−2,4,6−トリデオキシグルコース;GalNAc、N−アセチルガラクトサミン;Glc、グルコース(Szymanski CM等、Trends Microbiology、2003より)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、その全てがN結合型グリカンおよびfOSを有するいくつかのカンピロバクター種からN−グリカンおよびfOS構造を決定した。さらに、発明者等は、カンピロバクターのN−グリカンおよびfOSを、2つの構造グループに分けることができることを証明した。第1グループは、カンピロバクター・ジェジュニおよびカンピロバクター・コリについて公開されたものと類似の構造を産生する(Young NM等、Journal of Biological Chemistry、2002;Szymanski CM等、Journal of Biological Chemistry、2003)。第2グループは、カンピロバクター・ジェジュニおよびカンピロバクター・コリについて決定されたものとは異なり、今まで記載されたことがない独特のグリカン構造を産生する。このグループに入るカンピロバクター種には、カンピロバクター・フィタス・ベネレアリス(家畜の性病および不妊症の原因)、カンピロバクター・フィタス・フィタス(ヒツジの流産の原因)、カンピロバクター・コンサイサス(歯肉炎および歯周炎に関連し、胃腸炎の患者の糞便から単離された)、カンピロバクター・ハイオインテスティナリス(カンピロバクター・ジェジュニおよびカンピロバクター・コリのように、下痢に関連する)ならびにカンピロバクター・ハイオインテスティナリス亜種が含まれる。
【0009】
カンピロバクター・スプトルム(Campylobacter sputorum)およびカンピロバクター・スプトルム亜種、カンピロバクター・ラニエナエ(Campylobacter lanienae)、カンピロバクター・ウレオリチカス(Campylobacter ureolyticus)(胃腸炎に関与していることが示唆されている新興腸病原体、Bullman S等、FEMS Immunology&Medical Microbiology、2010)、カンピロバクター・ホミニス(Campylobacter hominis)、カンピロバクター・グラシリス(Campylobacter gracilis)、カンピロバクター・レクタス(Campylobacter rectus)(歯周疾患およびヒトの流産)、カンピロバクター・ショウアエ(Campylobacter showae)、カンピロバクター・ムコサリス(Campylobacter mucosalis)ならびにカンピロバクター・カーブス(Campylobacter curvus)は、第2グループの中に入ると考えられる。
【0010】
図2は、ゲノム配列決定されたカンピロバクター種および他の関連生物を含む、この経路の主要成分、オリゴサッカリルトランスフェラーゼ(PglB)のタンパク質配列の系統発生解析を説明しており、カンピロバクターが2つのグループに分かれることを証明している。カンピロバクター分枝中、構造1を産生する種は上の囲みの中にあり、式1Aおよび式1Bを産生する株は下の囲みの中にある(Nothaft H&Szymanski CM、Nature Reviews Microbiology、2010より)。
【0011】
図3は、(A)カンピロバクター・ジェジュニのN−グリカン特異的抗血清、(B)SBA−レクチン(構造1の末端GalNAc残基を認識する)に対するN−グリカン反応性、(C)WGA−レクチン反応性(GalNAc構造との交差反応性により、式1Aおよび1Bの末端GlcNAc残基を認識する)および(D)質量分析に基づくfOS解析が、pgl経路由来のグリカンがカンピロバクター種間で異なることを示したことを説明している。
【0012】
一態様によると、本発明は、式1:A−GlcNAc[GlcNAc]−GalNAc−GalNAc−QuiNAc4NAc(AはGlcNAcまたはGlcである)の新規なN結合型グリカン(N−グリカンと呼ぶ)化合物に関する。天然型のこの化合物は、いくつかのカンピロバクター種に共通である。その天然型では、化合物は、周辺質に可溶性であると同時に、病原体を含む多くのカンピロバクター種の内膜および周辺タンパク質および最も特に表面外膜タンパク質に結合している。本発明では、式1の化合物は、単離および/または精製型で提供される。化合物は、GlcまたはGlcNAcのいずれかを含む、末端糖が互いに異なる2種の七糖を含む。前記化合物の第1は、GlcNAc−GlcNAc[GlcNAc]−GalNAc−GalNAc−QuiNAc4NAc(本明細書中式1A)である。前記化合物の第2は、Glc−GlcNAc[GlcNAc]−GalNAc−GalNAc−QuiNAc4NAc(本明細書中式1B)である。
【0013】
上記式1中、QuiNAc4NAcは、バシロサミンの略語を構成する糖類Bacの代替能記を表す。
【0014】
一態様では、本発明は、単一のアミノ酸、オリゴペプチド、ペプチド、タンパク質もしくは脂質に接続または結合した式1の化合物を含む、単離または精製化合物に関する。一態様では、オリゴペプチドまたはペプチドは、2〜4個のアミノ酸、または2〜30個のアミノ酸、または2〜20個のアミノ酸、または2〜10個のアミノ酸を含む。
【0015】
本発明はさらに、式1の化合物を提供するステップと、前記化合物を動物またはヒトに接種して前記化合物に対する免疫応答を刺激するステップと、前記動物から血清を回収するステップと、任意選択により前記血清を精製して抗体または抗血清を得るステップとを含む、抗体または抗血清を産生する方法に関する。得られる抗体または抗血清は、カンピロバクター・フィタス・ベネレアリス、カンピロバクター・フィタス・フィタス、カンピロバクター・コンサイサス、カンピロバクター・ハイオインテスティナリスおよびカンピロバクター・ハイオインテスティナリス亜種、カンピロバクター・スプトルムおよびカンピロバクター・スプトルム亜種、カンピロバクター・ラニエナエ、カンピロバクター・ウレオリチカス、カンピロバクター・ホミニス、カンピロバクター・グラシリス、カンピロバクター・レクタス、カンピロバクター・ショウアエ、カンピロバクター・ムコサリスならびにカンピロバクター・カーブスを含む、本明細書に記載されているグリカンが生まれつき備わっているカンピロバクター種に結合する。
【0016】
抗体または抗血清は、動物中またはヒト中の前記生物の存在を検出する診断目的のために使用することができる。
【0017】
本発明の化合物は、家畜の生殖障害の主要な原因であり、現在のワクチンの使用が限られているカンピロバクター・フィタス・ベネレアリスに対する、または式1のグリカンが生まれつき備わっている、上に列挙した種を含む他のカンピロバクター種に対する、アジュバントを含むまたは含まないワクチン製剤に使用することができる。本発明の化合物は、タンパク質糖タンパク質工学、治療および診断用途への使用が可能である。したがって、本発明は、任意選択により単一のアミノ酸、オリゴペプチド、ペプチド、タンパク質もしくは脂質に接続または結合している式1の化合物を含むワクチンに関する。単一のアミノ酸は、アスパラギンを含むことができる。
【0018】
本発明はさらに、カンピロバクター生物により引き起こされる感染症を治療もしくは予防するための、式1の化合物が前記生物中の天然グリカンを含む前記ワクチンの使用、およびヒトもしくは動物中での前記使用を含む治療方法に関する。
【0019】
別の態様によると、本発明は、上記ワクチンを動物の群に投与することにより動物の群の生殖力および健康を改善する方法に関する。
【0020】
本明細書に記載するワクチン、抗体および抗血清はまた、ヒトにおける予防、治療および診断のために使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】カンピロバクター・ジェジュニ中のN結合型タンパク質グリコシル化および遊離オリゴ糖を示す図である。
【図2】種々のカンピロバクター種におけるfOSおよびN−グリカン構造を要約する図である。
【図3】選択したカンピロバクター種におけるN−グリカンおよびfOS解析を示す図である。
【図3D(1)】選択したカンピロバクター種におけるN−グリカンおよびfOS解析を示す図である。
【図3D(2)】選択したカンピロバクター種におけるN−グリカンおよびfOS解析を示す図である。
【図3D(3)】選択したカンピロバクター種におけるN−グリカンおよびfOS解析を示す図である。
【図3D(4)】選択したカンピロバクター種におけるN−グリカンおよびfOS解析を示す図である。
【図3D(5)】選択したカンピロバクター種におけるN−グリカンおよびfOS解析を示す図である。
【図4A】カンピロバクター・フィタス・フィタスから精製したfOSの1H NMRスペクトルを示す図である。
【図4B】カンピロバクター・フィタス・フィタスおよびカンピロバクター・フィタス・ベネレアリスについての2D HSQC NMRスペクトルの重ね合わせを示す図である。
【図5】カンピロバクター・ジェジュニ、カンピロバクター・コリおよびカンピロバクター・ウプサリエンシスのfOSおよびN−グリカン(構造1)ならびに本明細書に記載する他のカンピロバクター種からの式1Aおよび式1Bの構造を示す図である。
【図6】本明細書に記載する条件下での式1Aおよび式1Bの溶出プロファイルならびに精製した式1Aおよび式1Bの確認を示す図である。
【図6D】本明細書に記載する条件下での式1Aおよび式1Bの溶出プロファイルならびに精製した式1Aおよび式1Bの確認を示す図である。
【図6E】本明細書に記載する条件下での式1Aおよび式1Bの溶出プロファイルならびに精製した式1Aおよび式1Bの確認を示す図である。
【図7】精製した式1Aおよび式1B化合物とBSAの結合を示す図である。
【図8】BSA−糖複合体の各々に対して産生した抗血清による免疫ブロットを示す図である。
【図9A】グリカン部分として式1の化合物を含む糖ペプチドのMSスペクトルを示す図である。
【図9B】グリカン部分として式1の化合物を含む糖ペプチドのMSスペクトルを示す図である。
【図9C】グリカン部分として式1の化合物を含む糖ペプチドのMSスペクトルを示す図である。
【図9D】グリカン部分として式1の化合物を含む糖ペプチドのMSスペクトルを示す図である。
【図9E】グリカン部分として式1の化合物を含む糖ペプチドのMSスペクトルを示す図である。
【図9F】グリカン部分として式1の化合物を含む糖ペプチドのMSスペクトルを示す図である。
【図10】式1Aおよび式1B特異的抗血清により標識したカンピロバクター細胞を示す図である。
【図11】式1A、式1Bおよび構造1に対して産生した抗血清による免疫ブロットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、グリカン化合物A−GlcNAc[GlcNAc]−GalNAc−GalNAc−QuiNAc4NAc(AはGlcNAcまたはGlcである)に関する。上記化合物は、2種のグリカン化合物GlcNAc−GlcNAc[GlcNAc]−GalNAc−GalNAc−QuiNAc4NAc(本明細書中式1A)およびGlc−GlcNAc[GlcNAc]−GalNAc−GalNAc−QuiNAc4NAc(本明細書中式1B)を包含する。
【0023】
上記式中、QuiNAc4NAcは、バシロサミンの略語を構成する糖類Bacの代替能記を表す(diNAcBacとしても知られている)。式1の化合物は、任意選択により単一のアミノ酸、オリゴペプチド、ペプチド、タンパク質もしくは脂質に接続または結合している。
【0024】
前記脂質は、細菌の、古細菌のもしくは真核生物の供給源から単離および精製することができる、あるいは化学合成することができる。グリカン化合物と脂質の前記結合は、リン酸、ピロリン酸リンカーにより、またはグリコシド結合により媒介され得る。N−グリカンに結合している脂質(種々の鎖長、飽和度および立体配置を有する)の例が記載された(Faridmoayer等、Journal of Biological Chemistry、2009;Chen MM等、Biochemistry、2007)。本来の宿主中でまたは異種発現系中で産生される脂質結合N−グリカン化合物には、カンピロバクター・ジェジュニのN−グリカンについて示され(Reld CW等、Analytical Chemistry、2008、Reid CW等、Analytical Chemistry、2009)、カンピロバクター・ラリ(C.lari)のN−グリカン(Schwarz F等、Glycobiology 2011)およびN−グリカン−脂質A複合体(カンピロバクター・ジェジュニのN−グリカンについて示された(van Sorge NM等、Cellular Microbiology、2009))について提案されたようなウンデカプレニル−リン酸結合N−グリカン化合物が含まれる。
【0025】
上記化合物は、複数種のカンピロバクター中で実質的に保存されていることが決定された。
【0026】
図3A〜図3Dは、選択したカンピロバクター種におけるN−グリカンおよびfOSを示している。(A)(B)末端GalNAc残基を認識するダイズ凝集素とも反応するが、(C)式1Aおよび式1B中に存在する末端GlcNAc残基を認識するコムギ胚芽凝集素(WGA)とほとんど反応性を示さない他のカンピロバクター種(開いた囲み)と交差反応するカンピロバクター・ジェジュニのN結合型七糖を認識する抗血清を使用したウェスタンブロット。カンピロバクター・ジェジュニ特異的抗血清と反応しなかったが、WGAと反応した種を強調表示した。(D)(1)カンピロバクター・ジェジュニ、(2)カンピロバクター・フィタス・ベネレアリス、(3)カンピロバクター・コンサイサス、(4)カンピロバクター・フィタス・フィタスおよび(5)カンピロバクター・ハイオインテスティナリスのfOSまたはAsn−結合に富む分画の質量分析の例;質量分析により解析した全ての種の結果を表1に要約している。
【0027】
【表1】

【0028】
表1.選択したカンピロバクター菌株中の質量分析により決定したfOSおよびN−グリカン構造質量。数字は、遊離オリゴ糖(fOS)もしくはAsn結合型のいずれかとしての式1Aおよび式1Bの質量を示している。質量は、示した菌株の全細胞可溶化液から陽イオンモードで得た。式1Aおよび式1Bの構造を、図4、表3および図5に示すようにNMRにより決定した。N/Dは未決定である。
【0029】
実施例1 式1Aおよび1Bの化合物の精製
カンピロバクター・ジェジュニ11168、カンピロバクター・コンサイサス、カンピロバクター・ハイオインテスティナリス、カンピロバクター・フィタス・フィタスおよびカンピロバクター・フィタス・ベネレアリスを、微好気性条件下で培養した。遠心分離後に得られた全細胞をpH8(アンモニアの添加により調整した)、37℃で48時間、大過剰のプロテイナーゼKにより分解した。分解産物または遊離オリゴ糖を、Sephadex G−15カラム(1.5×60cm)で分離し、各分画を溶出した後、塩ピークを乾燥して、1H NMRにより解析した。所望の産物を含む分画を、Hitrap Qカラム(5mLサイズ、Amersham)で陰イオン交換クロマトグラフィーにより分離し、グリカンを直線勾配のNaCl(0〜1M、1時間)で溶出したところ、両グリカン化合物(式1Aおよび式1B)の混合物が単離された。NMRによる解析の前に、Sephadex G15で脱塩を行った。
【0030】
実施例2:NMR分光法解析
標準パルスシーケンスDQCOSY、TOCSY(混合時間120ms)、ROESY(混合時間500ms)、HSQCおよびHMBC(100ms広範囲転送遅延)を使用して、アセトン内部標準(1Hについては2.225ppmおよび13Cについては31.45ppm)を用いて、25℃、3mm勾配プローブにより、Varian INOVA500MHz(1H)分光計で、実施例1で得たグリカンに対するNMR実験を行った。AQ時間を、H−H相関については0.8〜1秒およびHSQCについては0.25秒に維持し、t1について256インクリメントを得た。結果を、図4、図5(NMRスペクトルおよび構造)ならびに化学シフトに相当する表2に示す。
【0031】
図4Aは、カンピロバクター・フィタス・フィタスから精製したfOSの1H NMRスペクトルである。図4Bは、カンピロバクター・フィタス・フィタスおよびカンピロバクター・フィタス・ベネレアリスについての2D HSQCスペクトルの重ね合わせであり、両種のfOS構造が同一であることを示している。NMRスペクトルは、カンピロバクター・コンサイサスについて得られたものと重ね合わせることもできる(図示せず)。カンピロバクター・フィタス・フィタスから精製した遊離オリゴ糖についての対応する化学シフトδ(ppm)(図4Aに示すような)を、表2に要約する。炭素およびプロトン化学シフトは、内部アセトン標準(δH2.225ppm、δC31.07ppm)を基準とした。
【0032】
タンパク質に付加しているまたは遊離型(fOS)で現れるカンピロバクターグリカンは、2つの構造グループに分けることができる。カンピロバクター種の第1グループは、カンピロバクター・ジェジュニおよびカンピロバクター・コリについて以前に決定され、カンピロバクター・ウプサリエンシスについて本明細書で決定された独特のグリカン構造を産生する。第2グループに入るカンピロバクターは、カンピロバクター・フィタス・ベネレアリス(家畜の性病および不妊症の原因)、カンピロバクター・フィタス・フィタス(ヒツジの流産の原因)、カンピロバクター・コンサイサス、カンピロバクター・ハイオインテスティナリス、カンピロバクター・ハイオインテスティナリス亜種、カンピロバクター・スプトルムおよびカンピロバクター・スプトルム亜種、カンピロバクター・ラニエナエ、カンピロバクター・ウレオリチカス、カンピロバクター・ホミニス、カンピロバクター・グラシリス、カンピロバクター・レクタス、カンピロバクター・ショウアエ、カンピロバクター・ムコサリスならびにカンピロバクター・カーブスからなる。
【0033】
カンピロバクター・フィタス・フィタス、カンピロバクター・フィタス・ベネレアリスおよびカンピロバクター・コンサイサスから大規模精製した遊離オリゴ糖(fOS)を使用したNMRによる構造決定は、カンピロバクターのこの第2グループが、カンピロバクター・ジェジュニおよびカンピロバクター・コリについて当初記載されたものとは異なる構造を産生することを証明した(図4および図5)。
【0034】
【表2】

【0035】
表2:カンピロバクター・フィタス・フィタスから精製した遊離オリゴ糖(式1Aおよび式1B)についての化学シフトδ(ppm)(スペクトルについては図4Aに示す)。炭素およびプロトン化学シフトは、内部アセトン標準(δH2.225ppm、δC31.07ppm)を基準とした。大文字は、図4Aおよび図5に概要を述べた単糖残基を指す。
【0036】
実施例3:単一のアミノ酸に結合した式1の化合物のグリカンの調製
完全細胞の溶解後に得られた全細胞抽出物をプロナーゼEで分解した後、Liu X.等、AnalChem、2005およびNothaft H.等、Methods Mol Biol、2010により記載されているような質量分析により、カンピロバクター・ジェジュニの単一のアスパラギンに結合した七糖(構造1)およびカンピロバクター・フィタス・フィタスの単一のアスパラギンに結合した式1A(表1)が同定された。
【0037】
実施例4:式1化合物の発現
式1Aおよび式1B化合物の産生および移行に必要な全ての遺伝子をコードするタンパク質グリコシル化オペロンをクローニングし、大腸菌プラスミドから発現させることができる。あるいは、カンピロバクター・ジェジュニのタンパク質グリコシル化(pgl)オペロンを含む、Wacker等、Science 2002により記載されたプラスミドpスフェラーゼに交換することができる。N結合型タンパク質グリコシル化のためのアフィニティータグ受容体ペプチド(カンピロバクター・ジェジュニおよびカンピロバクター・ラリのN−グリカンについて既に示されている。Wacker等、Science 2002、Schwarz等、Glycobiology 2011)の存在下で、またはこのようなタンパク質とファージタンパク質との融合体として(Duerr等、Glycobiology、2010)、異種系で、式1Aおよび式1B化合物の発現を行うことができる。タンパク質/ペプチド/ファージを含むグリカンを、必要に応じてレクチンもしくはグリカン認識剤アフィニティークロマトグラフィーと組み合わせて、アフィニティータグ精製により精製して、グリコシル化ペプチドと非グリコシル化ペプチドを分離することができる。
【0038】
実施例5:式1Aおよび式1Bの精製
パルスアンペロメトリック検出(HPAEC/PAD)を使用して高速陰イオン交換クロマトグラフィーにより、精製した式1Aおよび式1B fOSを分離した。図6は、以下の条件下でのCarboPac(登録商標)PA200 Analytical Column(ガードカラム:3×50mmを備えた3×250mm CarboPac PA100)の溶出プロファイルを示す:流速:0.5mL/分;溶離系、100mM水酸化ナトリウム中50mM酢酸ナトリウム;検出モード、パルス電流測定、四倍波形、Au電極;周囲カラム温度を約30℃に設定した(図6A)。上で概要を述べたのと同じ条件下で、セミ分取PA100カラム(9×250mm)およびフラクションコレクター(DIONEX UltiMate 3000)を使用して、約0.5nmolの式1Aと式1Bの混合物(図6A)あるいは分離後の式1B(図6B)および式1A(図6C)のいずれかをHPAEC/PADにより解析した。式1Aまたは式1Bのいずれかを含む分画を、等モル両の0.2M HClで中和し、−20℃で保管した。表1に概要を述べた式1Aおよび式1Bの観測質量に対応する、精製後の精製した式1A(図6D)および式1B(図6E)のエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)により得られたスペクトル。
【0039】
実施例6:式1Aおよび式1BとBSAとの結合
還元的アミノ化により、実施例5で調製した精製および中和した、式1Aおよび1B化合物をBSAに結合させた(Gildersleeve JC.、Bioconjug Chem.2008参照)。ウシ血清アルブミン(BSA;2μLの150mg/mL溶液;分画V)、ホウ酸ナトリウム(5.5μLの400mM溶液、pH8.5)、硫酸ナトリウム(3.7μLの3M溶液、50℃)、オリゴ糖(式1Aもしくは式1B)(7.0μLの15当量の20mM溶液)、H2O(1.4μL)およびシアノ水素化ホウ素ナトリウム(2.2μLの3M溶液)の混合物を、加熱した蓋をして、56℃で96時間、PCRサーマルサイクラー中、200μLのPCRチューブ中でインキュベートした。反応物をH2Oで100μLの最終容積に希釈し、500μlの透析チューブ(MWCO10000)に移し、H2O(2.5L)に対して3回透析した。
【0040】
図7は、式1Aおよび式1BとBSAの結合を示す。糖複合体を12.5%PAGEにより分離し(A)、アルカリホスファターゼと結合した市販のWGA−レクチンを使用してウエスタンブロッティングにより監視した(B)。1レーン、400ng BSA分画V;2レーン、400ngのBSA分画Vに連結した式1B;3レーン、400ngのBSA分画Vに連結した式1B。分子量マーカー(KDaのMW)を左に示す。
【0041】
実施例7:式1Aまたは式1B−BSA複合体によるウサギ免疫化
6週間免疫化プロトコル(承認された動物実験委員会プロトコル第717号)を使用して、2mgの実施例6で調製した糖複合体化合物の各々でニュージーランドホワイトウサギを免疫化した。フロイント完全アジュバント(抗原と1:1の比率)を使用した2.0mgの抗原の初回皮下注射(3部位、各部位に0.5mlを注射した)後、フロイント不完全アジュバント(抗原と1:1の比率)と混合した2.0mgの式1A−BSA複合体および式1B−BSA複合体の各々のブースター投与を、4週間後に皮下に行った(3部位、各部位に0.5mlを注射した)。6週間後、血液試料を氷上で60分間冷却した後、10.000×gで20分間遠心分離することにより、各動物の5ml血液試料から血清を調製した。カンピロバクター全細胞可溶化液を使用したウエスタンブロッティングにより、式1Aおよび式1B特異的抗体の産生について、個々の血清を解析した(図8)。
【0042】
図8は、単一BSA−糖複合体に対して産生した抗血清による免疫ブロットを示す:カンピロバクター・ジェジュニ11168野生型(1レーン)、カンピロバクター・ジェジュニ11168pglB変異株(2レーン)またはカンピロバクター・フィタス・フィタス(3レーン)のいずれかからの120μgの全細胞可溶化液を、12.5%SDS−PAGEにアプライした。PVDF膜への転写後、固定化タンパク質を、(A)BSA−式1B化合物で免疫化したウサギから得た1:2000希釈の血清試料(SZR−1)および(B)BSA−式1A化合物で免疫化したウサギの血清(SZR−3)でプローブした。分子量マーカー(KDaのMW)を左に示す。
【0043】
実施例8:式1Aおよび式1B化合物はN結合している。
細胞を、MHブロス中、微好気性条件下で培養し、遠心分離により収集し、50mMトリス−HCl、pH7.2中で2回洗浄した。ペレットを凍結乾燥し、1.5mlのLobindチューブ(Eppendorf)に入れた。ペレット(10mg)を、150ユニットのBenozanaseの存在下で1ml氷冷トリス−HCl(pH7.5)に再懸濁し、ボルテックスして再懸濁し、氷上に保った。超音波処理(間に氷上で1分間を入れて、30秒で6回)後、4℃、20000×gで30分間の遠心分離により、細胞片を除去した。上清をLoBind(Eppendorf)チューブに回収し、凍結乾燥した。記載のように試料処理、糖ペプチド富化および質量分析を適用した(Scott NE等 Molecular and Cellular Proteomics、2010)。カンピロバクター・フィタス・フィタス、カンピロバクター・フィタス・ベネレアリスおよびカンピロバクター・コンサイサスについて、タンパク質分解細胞可溶化液から得られるポリペプチド中に位置するアスパラギンにN結合した式1Aおよび式1Bを同定した(表3)。
【0044】
カンピロバクター・フィタス・フィタス、カンピロバクター・フィタス・ベネレアリスおよびカンピロバクター・コンサイサスから糖ペプチドを単離および同定し、結果を表3に示す。その全てのグリカン部分は、式1Aまたは1Bの化合物を含んでいた。
【0045】
【表3】

【0046】
式1Aおよび式1BとN結合していると同定されたタンパク質のリスト。多重反応モニタリング(MRM)質量分析により、式1Aおよび式1Bについての単一ピーク面積を測定した。
【0047】
図9A〜図9Fは、以下のように、式1Aおよび式1B化合物が(同じペプチドと)N結合していることを示すMSスペクトルを示している。
9A)トリプシン分解したHILIC−LC富化ペプチドのMSスペクトル(前駆体イオンスキャン);(B)対応するイオンの相対ピーク面積の定量化;(C)炭水化物部分のMS/MS、(D)m/zイオン968.44545のペプチド部分のMS/MS;9E)炭水化物部分のMS/MSおよび9F)m/zイオン982.12069のペプチド部分のMS/MS。
【0048】
実施例9 式1Aおよび1Bは、カンピロバクター細胞表面上に提示される。
カンピロバクター・フィタス・フィタス、カンピロバクター・フィタス・ベネレアリス、カンピロバクター・コンサイサス、カンピロバクター・ハイオインテスティナリスおよびカンピロバクター・ジェジュニの細胞を、微好気性条件下で18〜24時間MHプレートで培養した。細胞を2mlのMHブロスとともにプレートから収集し、氷上で10分間冷却し、6000×gで5分間遠心分離した。さらなる標識化および予冷却した(4℃)溶液を使用した洗浄ステップのために細胞を氷上に保った。細胞を、2ml洗浄緩衝液(50mMリン酸カリウム、100mM NaCl)で2回洗浄した。非特異的結合を防ぐために、細胞を30分間洗浄緩衝液中1%脱脂乳でブロックした。一次抗体(0.5%脱脂乳を含む洗浄緩衝液に1:1000希釈)を30分間アプライした。細胞を、2ml洗浄緩衝液で3回洗浄した。蛍光標識二次抗体(抗ウサギ−IgG−Alexa−Flour546、0.5%脱脂乳を含む洗浄緩衝液に1:100希釈)を30分間アプライし、細胞を洗浄緩衝液中で4回洗浄した。Optronics MacroFire Digital Camera(LM−MFCCD)を備えたLeica DMRXA Upright Microscopeを使用して細胞表面標識を監視した。同一のソフトウェア設定で各写真を撮影した。構造1を産生するカンピロバクター・ジェジュニが陰性対照となった。
【0049】
図10は、一次抗血清および蛍光タグ二次抗体として10A、SZR−1(抗式1B)または10B、SZR−3(抗式1A)でプローブしたカンピロバクター・フィタス・フィタス、カンピロバクター・フィタス・ベネレアリス、カンピロバクター・コンサイサス、カンピロバクター・ハイオインテスティナリスおよびカンピロバクター・ジェジュニ(陰性対照)の全細胞の蛍光顕微鏡法画像を示している。
【0050】
図11は、式1Aもしくは式1Bのいずれかに対して産生した抗血清による、またはカンピロバクター・ジェジュニのN−グリカンを標的にする抗血清(構造1、hR6は、Schwarz等、Nature Chemical Biology、2010に記載された)による免疫ブロットを示している。90μgのカンピロバクター・フィタス・フィタス(1レーン)、カンピロバクター・フィタス・ベネレアリス(2レーン)、カンピロバクター・コンサイサス(3レーン)、カンピロバクター・ハイオインテスティナリス(4レーン)およびカンピロバクター・ジェジュニ11168(5レーン)を、12.5%SDS−PAGEにアプライした。PVDF膜への転写後、固定化タンパク質を、(A)BSA−式1B化合物で免疫化したウサギから得た1:500希釈の血清試料(SZR−1)、(B)BSA−式1A化合物で免疫化したウサギの1:500希釈血清(SZR−3)、または(C)カンピロバクター・ジェジュニのN−グリカンに対して特異的な1:5000の抗血清(hR6)でプローブした。分子量マーカー(KDaのMW)を左に示す。
【0051】
グリカン化合物(式1Aおよび式1B)を、種々のグリカン担体(ペプチド、脂質)に結合させることができる。得られた化合物を使用して、式1Aおよび式1Bを提示する細菌種による感染に対して保護的なそれぞれの構造に対する免疫応答を刺激することができる。
【0052】
産生した抗血清/抗体を、例えば、感染した家畜(特に、カンピロバクター・フィタス・ベネレアリスウシ)中のカンピロバクター・フィタス・ベネレアリスもしくはカンピロバクター・フィタス・フィタスを検出する、またはヒト病原性カンピロバクター株(例えば、カンピロバクター・コンサイサス、カンピロバクター・ハイオインテスティナリス、カンピロバクター・ウレオリチカスを検出するための診断として使用することができる(すなわち、表面上に固定して)。前記抗血清/抗体を、任意の体液または分泌物中の化合物を検出するために使用することができる。例えば、動物中に存在し得るカンピロバクター・フィタス・ベネレアリス感染症を検出するために、式1のグリカンを認識する抗体を使用して雄ウシ精液を試験することができるだろう。
【0053】
本発明の化合物は、カンピロバクター・フィタス・ベネレアリス、カンピロバクター・フィタス・フィタスおよび本明細書に記載するグリカンが生まれつき備わっている他のカンピロバクター種に対して、動物、特に家畜を免疫化するために使用することができる。免疫化は、群の生殖力および健康の改善のために、個々の動物における、または群全体基準での、疾患の治療または予防の形をとることができる。
【0054】
式1のグリカンが生まれつき備わっているカンピロバクター種の範囲において、本明細書に記載する化合物を、ヒト中の前記生物による感染症を治療または予防するためのワクチンを調製するために上記と同様に使用することができる。同様に、前記化合物に対して産生した抗血清または抗体を使用して、同様の診断機能をヒトで得ることができる。同様に、バクテリオファージまたはその受容体結合タンパク質などの他の治療により、この化合物を標的化することができる。
【0055】
本発明は、その種々の実施形態を通して記載されてきた。本発明はこのような実施形態に範囲を限定されないことが当業者により理解されるだろう。逆に、本発明の全範囲は、その特許請求の範囲を含み、特許明細書に基づいて当業者に理解されるであろう修正、変形および代替実施形態を含む、この特許明細書全体を包含し、これを参照することにより認識されるだろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A−GlcNAc[GlcNAc]−GalNAc−GalNAc−QuiNAc4NAc(AはGlcNAcまたはGlcである)を含む単離または精製化合物。
【請求項2】
単一のアミノ酸、オリゴペプチド、ペプチド、タンパク質もしくは脂質に接続または結合した、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記単一のアミノ酸がアスパラギンである、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の化合物を含むワクチン。
【請求項5】
アジュバントをさらに含む、請求項4に記載のワクチン。
【請求項6】
カンピロバクター生物により引き起こされる感染症を治療もしくは予防するための請求項4または5に記載のワクチンの使用であって、請求項1または請求項2に記載の化合物が前記生物中の天然グリカンを含む使用。
【請求項7】
前記生物が、カンピロバクター・フィタス・ベネレアリス、カンピロバクター・フィタス・フィタス、カンピロバクター・コンサイサス、カンピロバクター・ハイオインテスティナリス、カンピロバクター・ハイオインテスティナリス亜種、カンピロバクター・スプトルムおよびカンピロバクター・スプトルム亜種、カンピロバクター・ラニエナエ、カンピロバクター・ウレオリチカス、カンピロバクター・ホミニス、カンピロバクター・グラシリス、カンピロバクター・レクタス、カンピロバクター・ショウアエ、カンピロバクター・ムコサリスならびにカンピロバクター・カーブスである、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
カンピロバクター生物により引き起こされる感染症を治療または予防する方法であって、治療もしくは予防を必要としている動物またはヒトに、請求項4または5に記載のワクチンを投与することにより、請求項1に記載の化合物が前記生物を生まれつき備えている、方法。
【請求項9】
前記生物が、カンピロバクター・フィタス・ベネレアリス、カンピロバクター・フィタス・フィタス、カンピロバクター・コンサイサス、カンピロバクター・ハイオインテスティナリス、カンピロバクター・ハイオインテスティナリス亜種、カンピロバクター・スプトルムおよびカンピロバクター・スプトルム亜種、カンピロバクター・ラニエナエ、カンピロバクター・ウレオリチカス、カンピロバクター・ホミニス、カンピロバクター・グラシリス、カンピロバクター・レクタス、カンピロバクター・ショウアエ、カンピロバクター・ムコサリスならびにカンピロバクター・カーブスである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項4または5に記載のワクチンを、動物の群れまたはヒトに投与することにより、動物の群れの生殖力および健康あるいはヒトの健康を改善する方法。
【請求項11】
請求項1から3のいずれか一項に記載の化合物を動物またはヒトに接種して、前記動物または前記ヒトにおける前記化合物に対する免疫応答を刺激するステップと、前記動物から血清を回収するステップと、任意選択により前記血清を精製して抗体または精製抗血清を得るステップとを含む、抗体または抗血清を産生する方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法により調製した抗体または抗血清を含む、請求項1に記載の化合物が生まれつき備わっているカンピロバクター生物に対して有効な抗体または抗血清。
【請求項13】
前記生物が、カンピロバクター・フィタス・ベネレアリス、カンピロバクター・フィタス・フィタス、カンピロバクター・コンサイサス、カンピロバクター・ハイオインテスティナリス、カンピロバクター・ハイオインテスティナリス亜種、カンピロバクター・スプトルムおよびカンピロバクター・スプトルム亜種、カンピロバクター・ラニエナエ、カンピロバクター・ウレオリチカス、カンピロバクター・ホミニス、カンピロバクター・グラシリス、カンピロバクター・レクタス、カンピロバクター・ショウアエ、カンピロバクター・ムコサリスならびにカンピロバクター・カーブスである、請求項12に記載の抗体または抗血清。
【請求項14】
カンピロバクター生物により引き起こされる動物またはヒトの感染症の存在を診断する方法であって、動物またはヒトから試料を得て、前記試料を請求項12または13に記載の抗体または抗血清に接触させることにより、請求項1に記載の化合物が前記生物を生まれつき備えている、方法。
【請求項15】
前記生物が、カンピロバクター・フィタス・ベネレアリス、カンピロバクター・フィタス・フィタス、カンピロバクター・コンサイサス、またはカンピロバクター・ハイオインテスティナリス、またはカンピロバクター・ウレオリチカスである、請求項14に記載の方法。

【図2】
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【図3D(1)】
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【図3D(2)】
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【図3D(3)】
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【図3D(4)】
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【図3D(5)】
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【図4B】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図7】
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【図8】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図1】
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【図3】
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【図4A】
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【図6】
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【図6D】
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【図6E】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図9E】
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【図9F】
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【図10】
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【公表番号】特表2013−519737(P2013−519737A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−552217(P2012−552217)
【出願日】平成23年2月11日(2011.2.11)
【国際出願番号】PCT/CA2011/050084
【国際公開番号】WO2011/097733
【国際公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(507388960)ザ・ガバナーズ・オブ・ザ・ユニバーシティー・オブ・アルバータ (9)
【Fターム(参考)】