説明

NOSの機能低下が寄与する疾患の予防または治療剤

【目的】本発明は、NOSの機能低下が寄与する疾患を有効に予防または改善する治療剤を提供することを目的とする。
【構成】本発明は 式:


[式中、R1およびR2は、それぞれ水素原子を表すか、または一緒になって単結合を表し、R1およびR2が水素原子を表す場合には、R3は−CH(OH)CH(OH)CH3、−CH(OCOCH3)CH(OCOCH3)CH3、−CH3、−CH2OH又はフェニル基を表し、R1およびR2が一緒になって単結合を表す場合には、R3は−COCH(OH)CH3を表す]で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする、NOSの機能低下が寄与する疾患の予防または治療剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
【0002】
本発明は、式(I):
【0003】
【化1】

【0004】
[式中、R1およびR2は、それぞれ水素原子を表すか、または一緒になって単結合を表し、R1およびR2が水素原子を表す場合には、R3は−CH(OH)CH(OH)CH3、−CH(OCOCH3)CH(OCOCH3)CH3、−CH3、−CH2OH又はフェニル基を表し、R1およびR2が一緒になって単結合を表す場合には、R3は−COCH(OH)CH3を表す]で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする、NOSの機能低下が寄与する疾患を予防および/または治療するための薬剤に関する。
【従来の技術】
【0005】
血管内皮は血管トーヌスや血栓の形成に重要な役割を果たす場であることは知られていたが、1980年に初めて内皮由来弛緩因子(endothelium−derived relaxing factor:EDRF)の存在が報告された。その後、1987年にEDRFの本体が一酸化窒素(NO)であることが証明された。NOは、L−アルギニンが酸化され、NG−ヒドロキシル−L−アルギニンからL−シトルリンになる際に産生され、その反応はNO合成酵素(NOsynthase:NOS)という酵素によって触媒される。なお、NOSは、血管内皮、神経系、腎臓、血小板、心筋、平滑筋など幅広く存在し、産生されるNOは、極めて多彩な作用を有するため、全身の循環調節において重要な役割を果たす。NOの産生低下が認められる疾患としては、高血圧、高脂血症、動脈硬化、虚血性心疾患、心不全、血栓症等の循環器疾患、喘息、慢性閉塞性肺疾患、肺高血圧、ARDS等の呼吸器疾患、肝障害、肝硬変、胃腸粘膜障害、肥厚性幽門狭窄症、膵炎等の消化器疾患、脳虚血、脳梗塞、脳循環不全、老年性痴呆等の脳血管障害、腎障害、インポテンス等の腎・泌尿器疾患、妊娠中毒症等の産婦人科疾患、その他感染症・免疫疾患、糖尿病、熱傷等その他薬剤性にNO産生の低下が認められる疾病が数多く知られている。また、NOSについてはその遺伝子がクローニングされ、構造解析が行われた。その結果、NOS遺伝子には補酵素として、カルモジュリン(CaM)、フラビン、NADPHの結合部位に加えて、本発明の有効成分である式(I)の化合物に含まれる、(6R)−L−エリスロ−5,6,7,8−テトラヒドロビオプテリン(以下、「BH4」という)の結合部位が存在することが判明した。さらに、BH4が実際にNOSの機能制御に関与することも示唆されている。
【0006】
一方、実験動物にNOS阻害薬を静脈注射すると、血圧が上昇することが報告されている(Sakuma I.et al.Circ.Res.70:607−611,1992)。さらに、DOCA−食塩高血圧ラット、SHR−SPラット、Dahl−Sラット、Goldblatt高血圧ラット等の高血圧モデル動物において内因性NOの産生が低下しているとの報告がある。
【0007】
しかしながら、これらのモデル系におけるNOの産生低下の原因は明らかにされていなかった。また、高血圧モデル動物として頻用される高血圧自然発症ラット(SHR)ではNOの生成はむしろ亢進しているという報告も多い(Dominizak AFら,Hypertension25:1202−1211,1995)。SHRの場合は高血圧状態に対してNOを過剰に放出し、血圧を低下させようとするものの、NOの作用が不十分な状態と考えることもできる(Nava Eら,Circulation92:I−347,1995)。即ち従来、高血圧に対するNOの関連性が指摘されてはいたものの、NOSの活性と高血圧との関連は必ずしも明らかにされていなかった。さらに、高血圧における血管弛緩反応の低下にはまだその本態が不明な内皮由来過分極因子(EDHF)反応の低下や内皮由来血管物質(EDCF)の増加が関与している可能性も残されている。
【0008】
このように、従来、NOの血管弛緩作用、ならびにBH4によるNOS機能制御についてはある程度知見が得られていた。しかしながら、NOの産生低下の原因およびNOSの活性と高血圧との関連は明らかにされておらず、もとより高血圧と生体内のBH4との関係はもちろんBH4の降圧作用については全く知られていなかった。
【0009】
また、多くの産業化した国々では心血管疾患は最も多い死因となっている。これまでも血圧降下剤、高脂血症用剤、利尿剤、血管拡張剤、抗血小板薬など様々な薬物が臨床に用いられているが、その多くは血圧、コレステロールなどの指標の改善を目標としたものであり、発症の予防、悪化・進行の抑制、長期予後の観点からは未解決の部分が多い。近年、以上の疾患に関わるような血管疾患についての分子レベルからの究明により、内皮細胞をはじめとする血管を治療の場とする治療戦略が考えられており、そこでのEDRFの本体であるNOの産生制御、あるいは抗酸化作用を有する物質の適用が最も期待される治療法のひとつであることが提唱されている(Gibbons,G.H.,Dzau,V.J.,Science. Vol.272,689-693, 1996年)。しかし、未だこの治療戦略を満足する薬剤や治療法は確立していない。
【0010】
なお、従来からこうした疾病のうち狭心症や心不全などの治療に外因性のNO供与剤として、硝酸剤(ニトログリセン製剤など)が有効とされているが、長期連用に際しては、耐性という問題をかかえている。すなわち、硝酸剤からNOを産生するには、チオール基(SH基)が不可欠であり、硝酸剤の長期連用により、このSH基が枯渇してしまうのである。さらにNO発生には代謝酵素を必要とし、また反応途中でニトロソチオールなど他のNO関連物質が生じ、長期使用において、他の生体内物質のバランスを乱すことが考えられる。また、β遮断薬やK+チャネル開口薬の性質をあわせもつ新しいタイプのNO供与剤も開発されているが、これらも上記NO供与剤の域を脱するものではない。したがって、発症の予防、悪化・進行の抑制、長期予後の観点から内因性NO機能を維持賦活し、内皮細胞機能を改善することが最も理想的な治療法と考えられる。
【0011】
その観点から、生体内で自発的なNO産生を行うこと、すなわちNOSの活性化を図ることが最も優れた方法であると考えられ、これまでもNOSの基質であるL−アルギニンの効果が以下の疾患などで検討されてきた。例えば、高血圧(Higashi,Y.ら,Hypertension 1995,25,898-902)、狭心症(Egashira,K.ら,Circulation 1996,94,130-134)、心不全(Rector T.S.ら,Circulation 1996,93,2135-2141)などの疾患である。
【0012】
しかしながら、アセチルコリンによる内皮依存性血管拡張反応の低下、基礎的およびエンドセリン受容体(ETB)刺激による腎NO産生の低下しているモデル(Hirata Y,Hayakawa H,0mata Mら:Circulation l995:91:1229−1235)としてよく知られている、DOCA食塩高血圧ラットにおいて、L−アルギニン長期投与により内皮依存性血管拡張反応と腎NO産生は回復するものの、その効果は部分的であると報告されている(Hayakawa H,Hirata Y,Omata Mら:Hypertension l994:23:752−756)。また、高血圧患者に対し、L−アルギニン投与を行うと正常者同様血圧低下が起きるが、正常者にみられる腎血流の増大、濾過分画の低下、腎血管抵抗の減弱がみられず、血中cGMPは高血圧患者で有意に低下していたと報告されている(Higashi Y.0hshima T,Kajiyama Gら:Hypertension l996:25:898−902)。これらのことは、L−アルギニンという基質の多寡によらない腎循環におけるNO産生不全があること、ひいては単にNOSの酵素としての活性が低下しているだけでないことを示唆している。すなわち、L−アルギニン−NO系の循環調節への関与、内皮依存性血管拡張反応低下の機序として、基質であるL−アルギニンの利用障害または不足等では説明できず、NOSの活性あるいは量的変化等について、さらなる検討を要する状況である。
【0013】
また、高血圧治療の目的は高血圧に起因する心血管系の合併症を予防して患者の生命を延長し、かつ充実した生活を送らせることにある。このためには生涯にわたる長期的な血圧の管理が必要であり、減塩、肥満の是正、運動療法などの一般療法の基礎の上に、降圧薬による薬物療法が長期間にわたって行われることとなる。
【0014】
現在では、サイアザイド系利尿薬、β遮断薬、Ca拮抗薬、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、α1遮断薬が主な降圧剤として治療に用いられている。しかし、これらの薬物は、以下に示すような望ましい降圧剤としての条件をすべて満たしているとは言えず、それぞれ一長一短があると考えられている。
【0015】
望ましい降圧剤としての条件とは、
1.作用が温和で効果が安定している。
2.使用初期の副作用が少ない。
3.循環動態、臓器機能への影響が望ましい方向に作用する。
4.長期連用において心血管系に対する危険因子に悪影響がなく、むしろ改善させる。
5.治療に対する患者のコンプライアンスをよくする。
6.種々の合併症、偶発症による使用禁忌がない。
7.治療により、さらに充実した生活が期待できる。
【0016】
具体的には、現在使用されている降圧剤には以下のような問題点がある。
サイアザイド系利尿薬では、塩分制限が守りにくい場合や、体液貯留傾向のある場合にはよい適応となるが、耐糖能異常、高尿酸血症、腎機能障害、高脂血症、低K血症を認める患者に投与するのは避けた方がよいとされている。
【0017】
β遮断薬は、若年者や頻脈傾向のある場合には投与の好適応となるが、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患を伴う患者や、末梢動脈に閉塞性の病変をもつ患者、レイノー症状を有する患者には使用するのを避けた方が無難であると考えられている。また、インスリン分泌にも影響を与えるため、糖尿病を合併した高血圧症患者にも使用しにくいという欠点がある。
【0018】
Ca拮抗薬の副作用としては、ジヒドロピリジン誘導体では血管拡張作用による顔面紅潮、頭痛があり、強い降圧作用による低血圧、めまい、反射性交感神経緊張による頻脈、動悸を生じることがある。
【0019】
ACE阻害薬の副作用としては、起立性低血圧、空咳、血管性浮腫、高K血症などがある。主として腎より排泄されるので、腎機能障害例では用量と高K血症に注意しなければならない。また、胎児への障害が報告され、妊婦への投与禁忌のものもある。
【0020】
α1遮断薬では、起立性低血圧などの副作用を招かないように注意する必要がある。
このように、高血圧治療薬としては、様々な作用を有した薬剤が数多く存在するが、副作用や長期連用の安全性、またQOLの改善という点では、まだ全てを十分に満たした薬剤は存在しないというのが現状である。加えて、高血圧治療は、その第1目標とされている高血圧の臓器障害の進展を予防して、心不全や腎不全、脳卒中などの発症やそれによる死亡率を減少させることにあり、確かに降圧薬療法により心不全や脳卒中の死亡率は改善したとされているが、高血圧による腎不全の患者の増加は阻止されていない。また、急性あるいは慢性糸球体腎炎などでは糸球体障害が原因となって高血圧が引き起こされる。高血圧を有する慢性糸球体腎炎では予後が悪く、高血圧の存在は独立した慢性糸球体腎炎の予後増悪因子でもあることが明らかにされている。しかし、慢性糸球体腎炎に伴う高血圧の治療は確立されていない。
【0021】
以上のように、真に望ましい条件を備えた治療薬が要望され、とりわけ、腎保護作用をもあわせ持つ薬剤の開発は切望されている。
なお、本発明の治療剤の有効成分である式(I)の化合物は公知化合物であり、悪性高フェニルアラニン血症、うつ病、パーキンソン病、その他の治療薬としての用途が知られている。例えば、特開昭59−25323号公報、同59−76086号公報、同61−277618号公報、同63−267781号公報を参照。
[発明が解決しようとする課題]
【0022】
本発明は、NOSの機能低下が寄与する疾患に対し、内因性NO産生低下抑制作用および内皮細胞機能調節作用により循環動態、臓器機能を改善させ、諸合併症の進展を抑制し、患者の日常生活の質を高めるべく、副作用がなく安全な治療剤を提供することを目的とする。
[課題を解決するための手段]
【0023】
本発明者らは種々の検討の結果、NOSの機能低下が寄与する疾患ではBH4レベルも低下しているのではないかとの仮説をたてた。そこで、DOCA−食塩高血圧ラットおよびDOCA−食塩SHRに対するBH4の投与を試みた。その結果、当該DOCA−食塩高血圧ラットでは実際にBH4レベルが、さらに驚くべきことにNOS発現レベルも低下していることを認め、BH4の投与によって、内因性NO産生低下抑制作用による、生理的に極めて自然な優れた血圧上昇抑制効果が得られることを見いだした。また、DOCA−食塩SHRでも実際にBH4レベルが低下していることを認め、さらにまた、病理組織学的に壊死性糸球体炎および壊死性血管炎を認め、BH4の投与によって、血圧上昇抑制効果とともに、内皮細胞機能調節作用による、上記病理組織学的所見の顕著な改善効果が得られることを見いだし、BH4がNOSの機能賦活作用を有するとの知見を得て、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、BH4類製剤による、NOSの機能低下が寄与する疾患の効果的な治療に関するものである。
【0024】
従って、本発明は、式(I):
【0025】
【化2】

【0026】
[式中、R1およびR2は、それぞれ水素原子を表すか、または一緒になって単結合を表し、R1およびR2が水素原子を表す場合には、R3は−CH(OH)CH(OH)CH3、−CH(OCOCH3)CH(OCOCH3)CH3、−CH3、−CH2OH又はフェニル基を表し、R1およびR2が一緒になって単結合を表す場合には、R3は−COCH(OH)CH3を表す]で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とする、NOSの機能低下が寄与する疾患を予防または治療するための薬剤である。
【0027】
本明細書において、NOSの機能低下とは、血管内皮、神経系、腎臓、血小板、心筋、平滑筋など幅広く存在するNOSが、何らかの理由で発現が減少し、または発現はしていてもこれらの細胞の機能低下によってNOS活性が発揮されていないことを意味する。NOSの機能低下の典型例は、内因性NOのレベルの低下である。NOSの機能低下が寄与する疾患とは、NOSの機能低下が原因となって発症する疾患、NOSの機能低下が症状を悪化させる疾患、NOSの機能低下が治癒を遅らせる疾患等を含み、例えば高血圧、高脂血症、動脈硬化、冠血管攣縮、虚血性心疾患、心不全、血栓症、肺高血圧、脳循環不全、脳血管攣縮、糸球体腎炎、慢性腎不全、糖尿病、術後再狭窄、アカラシア、門脈圧亢進症、肝障害、胃腸粘膜障害、肥厚性幽門狭窄症、腸炎、インポテンス、網脈絡膜症などにおいて、NOSの機能低下が寄与する場合が挙げられる。
【0028】
BH4は、これらの疾患を有する患者に投与されたとき、体内でのNOSの産生を刺激し、または低下した内皮細胞の機能を回復させることによりNOSの機能を正常化して、これらの疾患を予防または治療することができる。
【0029】
したがって、本発明の治療または予防対象は、BH4によるNOSの機能賦活作用によって処置できる疾患である。
本発明の有効成分である式(I)で表される化合物には次のものおよびそれらの薬学的に許容される塩が含まれる:
(6R)−L−エリスロ−5,6,7,8−テトラヒドロビオプテリン(BH4)
【0030】
【化3】

【0031】
(6R,S)−5,6,7,8−テトラヒドロビオプテリン 1',2'−ジアセチル−5,6,7,8−テトラヒドロビオプテリン
【0032】
【化4】

【0033】
セピアプテリン
【0034】
【化5】

【0035】
6−メチル−5,6,7,8−テトラヒドロプテリン
【0036】
【化6】

【0037】
6−ヒドロキシメチル−5,6,7,8−テトラヒドロプテリン
【0038】
【化7】

【0039】
6−フェニル−5,6,7,8−テトラヒドロプテリン
【0040】
【化8】

【0041】
以上の化合物で、好ましい化合物は5,6,7,8−テトラヒドロビオプテリン類又はその塩であり、更にそのうちでも最も好ましい化合物はBH4又はその塩である。
本発明で有効成分として使用する式(I)で表される化合物は公知化合物である。例えば、特開昭59−25323号公報、同59−76086号公報、同61−277618号公報、同63−267781号公報参照。これらは適当な塩として用いてもよく、そのような塩としては薬理的に無毒性の酸、例えば、塩酸、リン酸、硫酸、ホウ酸等の鉱酸、及び、酢酸、ギ酸、マレイン酸、フマル酸、メシル酸等の有機酸との塩が例示される。
【0042】
本発明の薬剤は前記した疾患に有効である。例えば、高血圧においては、本態性高血圧のみならず、急激な経過をとり腎臓、網膜などの小動脈壁の壊死をもたらす悪性高血圧や、腎障害を伴う腎性高血圧も対象となる。具体的には、本態性高血圧、腎性高血圧、腎血管性高血圧、妊娠高血圧、老年性高血圧、副腎性高血圧のすべてに有効である。
【0043】
本発明の治療剤は、式(I)で表される化合物を一般の医薬製剤に用いられる担体と、常法によって経口、直腸又は非経腸(静脈内、髄液中への投与を含む)投与に適する製剤形態にすることにより製造される。
【0044】
これら医薬製剤に用いられる担体としては、用いられる剤形によるが、一般的に賦形剤、結合剤、崩壊剤などが挙げられる。
賦形剤の代表的な例としては澱粉、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニトール、セルロース等があり、結合剤としてはポリビニルピロリドン、澱粉、白糖、ヒドロキシプロピルセルロース、アラビアゴムなどがある。又、崩壊剤の例としてはデンプン、寒天、ゼラチン末、セルロース、CMCなどがあるが、一般に用いられている賦形剤、結合剤、崩壊剤であればこれら以外でもよい。
【0045】
本発明の治療剤は、好ましくは上記担体以外に、有効成分を安定化するための酸化防止剤を含有する。酸化防止剤は医薬製剤に一般に使用されているものから適宜選択され、例えば、アスコルビン酸、N−アセチルシステイン、L−システイン、dl−α−トコフェロール、天然トコフェロール等があげられる。使用する量は、活性成分(1種またはそれ以上)を安定化させる量であればよいが、一般的には活性成分1に対し重量で0.2ないし2.0が好ましい。
【0046】
経口投与に適する本発明の製剤は各々所定量の活性成分(1種またはそれ以上)を含有する錠剤、舌下錠、カプセル剤、粉末、散剤、顆粒剤もしくは細粒剤として、またはシロップ、エマルジョン若しくは頓服剤のような非水性液中の懸濁液として提供できる。
【0047】
例えば、顆粒剤は、活性成分(1種またはそれ以上)と1種またはそれ以上の前記担体、酸化防止剤等の補助成分を均一に混合して造粒し、ふるいを用いてメッシュをそろえることにより提供される。錠剤は、活性成分(1種またはそれ以上)を、場合により1種またはそれ以上の補助成分と共に、圧縮または成形により製造できる。カプセル剤は、活性成分(1種またはそれ以上)を、場合により1種またはそれ以上の補助成分と均一に混合した粉末または顆粒を適当なカプセルに充填機等を用いて充填して製造する。直腸投与用の製剤は、カカオ脂などの慣用の担体を使用し、座薬として提供できる。非経腸投与用製剤は、殺菌窒素浄化容器中に活性成分(1種またはそれ以上)を乾燥固体として密封して提供できる。この乾燥固体製剤は非経腸投与時に、所定量の無菌水に分散もしくは溶解して患者に投与することができる。
【0048】
これらの製剤の製造においては、有効成分及び通常の担体の他に前述の酸化防止剤を加えて製剤することが好ましく、又所望により緩衝剤、風味付与剤、表面活性剤、増粘剤、潤滑剤、滑沢剤等から選ばれる1種またはそれ以上の補助成分をさらに含有してもよい。
【0049】
活性成分、すなわち、式(I)で表される化合物の投与量は投与経路、処置される症状、および処置を受ける患者によって変わることは勿論のことであるが、最終的には医師の判断にまかせられる。
【0050】
例えば、高血圧を処置するのに適当な投与量は、0.1〜50mg/kg(体重)/日の範囲にあり、代表的な好適投与量は0.5〜10mg/kg(体重)/日である。
所望の投与量は上記の活性成分を1日1回投与してもよいが、1日中の適当な間隔で2〜4回分割投与してもよい。
【0051】
活性成分は単独で、そのまま他の成分と混合せずに投与することもできるが、投与量の調節を容易にするため等の理由から適用疾患に応じた他の活性成分を医薬製剤として投与することもできる。
【0052】
また、本発明の製剤は、有効成分として式(I)で表される化合物と共に、NOSの基質または補酵素もしくは補因子の、例えばL−アルギニン、フラビン類(例えば、FAD、FMN等)およびカルシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種を補助的有効成分として含有してもよい。これら、有効成分の混合により、式(I)で表される化合物の単独使用に比べて、一層優れた治療効果を期待できる。本発明製剤中における上記各成分の比率は特に限定されないが、例えば、重量で式(I)で表される化合物の1に対して、L−アルギニン、フラビン類およびカルシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種を0.1〜10の範囲、好ましくは0.5〜2の範囲とすることができる。
【0053】
この混合製剤により、例えば高血圧を治療する際の適当な投与量は、有効成分の合計量として0.1〜50mg/kg(体重)/日の範囲にあり、好ましくは0.5〜10mg/kg(体重)/日である。
【0054】
治療に当たり、式(I)で表される化合物を単独で有効成分として含む製剤および他の有効成分とともに含む製剤の選択は、年齢、症状等に応じて医師により適宜選択される。
本発明に用いられる活性成分は、(6R)−L−エリスロ−5,6,7,8−テトラヒドロビオプテリン(BH4)およびその塩が最も好ましいが、(6R,S)−5,6,7,8−テトラヒドロビオプテリン、1',2'−ジアセチル−5,6,7,8−テトラヒドロビオプテリン、セピアプテリン、6−メチル−5,6,7,8−テトラヒドロプテリン、6−ヒドロキシメチル−5,6,7,8−テトラヒドロプテリンまたは6−フェニル−5,6,7,8−テトラヒドロプテリンおよびそれらの塩等の類似化合物でもよい。しかし、生体内に存在する天然体であるBH4が好ましいことは言うまでもない。このBH4・2塩酸塩のラットに対する急性毒性は経口投与で2g/kg(体重)以上であり、ほとんど毒性は見い出されない。また、光学活性体でない(6R,S)−5,6,7,8−テトラヒドロビオプテリンも、特開昭59−25323号公報におけるパーキンソン病の治療にも見られるように毒性は弱く、本発明の治療に用いられることは可能である。これら以外の式(I)に属する化合物も、急性毒性は殆ど見いだされない。
【0055】
以下の実施例に従ってさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0056】
実施例1 (顆粒剤、細粒剤)
ポリビニルピロリドン(コリドン30)1部(重量部)を滅菌精製水に溶かし、これにアスコルビン酸10部およびL−システイン・塩酸塩5部を加え均一な溶液とした後、BH4・2塩酸塩10部を加え均一とした。
この溶液を賦形剤(マンニトールまたは乳糖)59部および崩壊剤[コーンスターチまたはヒドロキシプロピルセルロース(LH−22)]15部に加え、練合、造粒、乾燥した後、篩別した。
【0057】
実施例2 (錠剤)
実施例1で作った活性成分の均一溶液に乳糖58部、微結晶セルロース15部を混合したのち、さらにステアリン酸マグネシウム1部を加え混合し打錠した。
【0058】
実施例3 (カプセル剤)
実施例1で作成した剤形のものをカプセルに充填した。但し滑沢剤としてステアリン酸マグネシウムを0.2%添加して製剤したものを用いた。
【0059】
実施例4 (注射用剤)
BH4・2塩酸塩 1.5g
アスコルビン酸 1.5g
L−システイン・塩酸塩 0.5g
マンニトール 6.5g
上記成分を滅菌精製水に溶かし、100mlとし除菌したものを、1ml又は2mlずつバイアル又はアンプルにとり凍結乾燥密封した。
【0060】
実施例5 (注射用剤)
BH4・2塩酸塩 2.0gを無酸素で滅菌精製水に溶かし、100mlとした溶液を、除菌し、実施例4と同様に密封した。
【0061】
実施例6 (座薬用剤)
BH4・2塩酸塩 150部
アスコルビン酸 150部
L−システイン・塩酸塩 50部
上記成分を用い、均一な粉末にしたものをカカオ脂9950部に分散させた。
【0062】
実施例7 (顆粒剤)
BH4・2塩酸塩 5部
アスコルビン酸 5部
L−システイン・塩酸塩 2部
上記成分を用いて均一な溶液とした。
【0063】
一方マンニトール55部、ポリビニルピロリドン1部、ヒドロキシプロピルセルロース14部、ならびにL−アルギニンもしくはカルシウム5部を均一に混合したものに上記の溶液を加え、練合、造粒、乾燥した後、篩別した。
【0064】
実施例8 (顆粒剤)
BH4・2塩酸塩 5部
アスコルビン酸 5部
L−システイン・塩酸塩 5部
マンニトール 52部
ポリビニルピロリドン(コリドン30)1部
ヒドロキシプロピルセルロース(LH−22)
12部
L−アルギニンまたはカルシウム 10部
上記成分を用い実施例7と同様に造粒し、篩別した。
【0065】
実施例9 (顆粒剤)
BH4・2塩酸塩 5部
アスコルビン酸 5部
L−システイン・塩酸塩 2部
上記成分を使用し均一溶液とした。
【0066】
一方、L−アルギニンまたはカルシウム10部、マンニトール50部、ポリビニルピロリドン(コリドン30)1部およびヒドロキシプロピルセルロース(LH−22)9部を均一に混合したものに上記溶液を練合、造粒、乾燥した後、篩別した。
【0067】
実施例10
DOCA−食塩高血圧ラットの作成
8週齢のSprague−Dawleyラット(Charles Riverから入手)に片腎摘出(対照群を除く)を行なった。その後、以下の3つの実験群にわけて比較検討した。
1)飲料水のみを与えた群(対照群) 被験数 n=3
2)片腎摘出1週間後よりデオキシコルチコステロン酢酸塩(deoxycorticosterone acetate:DOCA)30mg/kg体重を週1回皮下投与し、1%食塩水を与え,DOCA−食塩高血圧ラットを作成した群(DOCA群) n=6 3)DOCA−食塩高血圧ラットに、BH4(10mg/kg体重/日)を経口投与した群(DOCA+BH4群) n=5
各群を実験終了5週目まで観察した。実験開始時、2週間後、4週間後、5週間後(観察終了時)に代謝ケージにより24時間尿を採取した。観察終了時、フェノバルビタール麻酔下で腹部大動脈より採血、その後腎臓を生理食塩水で潅流後摘出し、組織学的検討および免疫組織学的検討を行った。
【0068】
血圧測定
血圧はtail-cuff法により、実験開始時、2週間後、4週間後、5週間後において測定した。
【0069】
尿中NO2/NO3の測定
Griess法に基づきCyman Chemical Company社のNitrate−Nitrite assay kit,kit No.780001を用いて測定した。尿中NO2/NO3の値が大きいほどNOSの活性が高いことを意味する。
【0070】
尿中BP測定
Fukushima and Nixonの方法(Anal. Biochem. 102;176-188, 1980)に基づきHPLC分析を行い、BH4の代謝物であるビオプテリン(BP)を測定した。尿中BPの値の推移によりBH4投与の影響を考察する。
【0071】
腎組織NOS免疫染色
摘出した腎組織を凍結、その薄切切片上で腎組織における内皮型NOS(E−NOS)および脳型NOS(B−NOS)の発現をそれぞれに特異的な抗体、抗E−NOS抗体および抗B−NOS抗体(Affinity Bioreagents社より入手)を用いた免疫染色で検討した。
【0072】
NOS mRNA発現測定
a)腎組織からの全RNAの抽出
腎組織からのRNA抽出は、グアニジウム・塩化セシウム抽出法によって行った。
詳細には、先ず、摘出した腎臓の皮質部分より少量の組織を採取し、直ちに融解溶液4Mグアニジニウムチオシアネート(Guanidinium thiocyanate)に加え、ガラス/テフロンホモジェナイザーにて破砕した。この細胞融解溶液を5.7M塩化セシウム上に重層し、80,000rpmにて2時間遠心後、その後沈殿物を0.1%ジエチルピロカーボネート(DEP)溶液にて溶解した。これに2.5M酢酸アンモニウムとエタノールを加え、−20℃にて1時間沈殿させ、これを10,000rpmにて4℃、20分間遠心し沈殿を得た。沈殿を約1μg/μlの濃度に0.1%DEP溶液にて溶解し、使用時まで−20℃で保存した。
【0073】
b)逆転写酵素(RT)反応
全RNAよりMoMLV逆転写酵素を用いcDNAを合成した。
詳細には、全RNA、プライマー、バッファー、H2Oを混合した試料を95℃で2分間加熱後、氷冷した。次に37℃で30分間保温し、プライマーをRNAにアニールさせた。これに0.2Mジチオスレイトール(DTT)、5mMデオキシリボヌクレオチド(dNTP)混合液、RNasin、MoMLV逆転写酵素を加え、90℃で5分間加熱後、氷冷し反応を停止した。
【0074】
c)PCR
RT法によって得られたcDNAを鋳型としてPCRを行った。
詳細には、検出目的であるE−NOSおよび内部対照として用いるリンゴ酸デヒドロゲナーゼ(MDH)に対するそれぞれの5'側プライマー、3'側プライマー、PCRバッファー、2.5mMdNTP混合液、TaqDNAポリメラーゼを混合しRT反応液を加えた。ミネラルオイルを重層し、遠心後、自動PCR装置にて反応を開始した。1サイクルを94℃30秒、50℃30秒、72℃30秒とし、これを30サイクル繰り返してPCR産物を得た。なお、E−NOS検出およびMDH検出用に用いたプライマーは、Ujiie.K.ら、Am.J.Physiol.267(Renal Fluid Electrolyte Physiol.36):F296-F302.1994に従った。具体的には、E−NOS検出に用いたプライマーの塩基配列は、5'側プライマー:TACGGAGCAGCAAATCCAC(配列番号1)、3'側プライマー:CAGGCTGCAGTCCTTTGATC(配列番号2)である。MDH検出用に用いたプライマーの塩基配列は、5'側プライマー:CAAGAAGCATGGCGTATACAACCC(配列番号3)、3'側プライマー:TTTCAGCTCAGGGATGGCCTCG(配列番号4)である。
【0075】
d)ポリアクリルアミドゲル電気泳動およびサザンハイブリダイゼーションによるNOS mRNA発現の測定
PCR産物を5%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動し、サザンハイブリダイゼーションによるNOS mRNA発現の測定を行った。
【0076】
詳細には、先ず、PCR反応液を5%ポリアクリルアミドで電気泳動し、泳動終了後ゲルをメンブレンフィルターに転写した。E−NOS検出およびMDH検出のため、γ32P−ATPで5’末端をラベルしたプローブを用いてメンブレンフィルター上でハイブリダイゼーションを行った(Ujiie.K.ら、1994,上述)。E−NOS検出用のプローブの塩基配列は、CTGGAACAATTTCCATCCG(配列番号5)であり、MDH検出用のプローブの塩基配列は、TTTGTCTTCTCCCTGGTGGA(配列番号6)であった。その後、−70℃で数時間オートラジオグラフィーを行い、感光したオートラジオグラフィーはデンシトケーターを用いて解析を行った。結果を図4に示す。
【0077】
オートラジオグラフィーの結果に基づき、E−NOSPCR産物量をハウスキーピング遺伝子であるMDHPCR産物量により標準化し、E−NOS遺伝子発現を半定量化した。
【0078】
統計
測定値は平均±標準誤差で表し、群間の統計はtwo−wayANOVAにより行った。以下、p<0.05を有意水準とした。
【0079】
血圧の推移を以下の表1および図1に示す。DOCA群は観察4週目において高血圧を呈した。DOCA群の血圧上昇は他の2群に比して有意であった。これに対し、DOCA+BH4群では観察終了時まで対照群と同様に正常血圧にとどまった。
【0080】
【表1】

【0081】
尿中NO2/NO3の推移を表2および図2に示す。DOCA群では尿中NO2/NO3が経時的に減少し、観察終了時には測定感度以下になった。これに対しDOCA+BH4群では増加した。DOCA群での減少は他の2群に比して有意であり、対照群とDOCA+BH4群では有意差は認められなかった。
【0082】
【表2】

【0083】
尿中BPの推移を表3および図3に示す。DOCA群ではBPが経時的に減少した。これに対し、DOCA+BH4群ではBPが経時的に増加した。DOCA群での減少は他の2群に比して有意であり、対照群とDOCA+BH4群間では有意差は認められなかった。
【0084】
【表3】

【0085】
体重は表4に示すとおりいずれの群でも経時的に増加し、3群間で有意差を認めなかった。
【0086】
【表4】

【0087】
免疫染色の結果、DOCA群では小血管でのE−NOS、マクラ・デンサ(m
acula densa)でのB−NOSの発現がともに減少し、DOCA+BH4群ではこれらの発現は対照群と同等かやや増強して観察された。
(NOS mRNA発現測定結果)
測定の結果、図4に示される通り、DOCA+BH4群ではDOCA群に対し、E−NOSのmRNA発現が有意に増加された。
【0088】
以上、DOCA−食塩高血圧ラットにおいては、血圧上昇と尿中NO2/NO3の減少、腎組織NOS発現の減少がみられ、血管内皮細胞の機能障害が見られた。さらに、当該モデルラットでは、尿中BPが減少していることが明らかにされた。一方、経口投与したBH4により血圧上昇が抑制され、尿中NO2/NO3の増加と腎組織NOSの発現の増加が見られたことから、BH4がNOSの機能を賦活(NOS量/NOS活性の制御)することにより内因性NO産生低下に伴う疾患の治療に有用であることが示された。
【0089】
実施例11
DOCA−食塩SHRの作成
8週齢のSHR(Charles Riverから入手)に片腎摘出(対照群を除く)を行なった。その後、以下の3つの実験群にわけて比較検討した。
1)飲料水のみを与えた群(対照群) 被験数 n=8
2)片腎摘出1週間後よりデオキシコルチコステロン酢酸塩(deoxycorticosterone acetate:DOCA)30mg/kg体重を週1回皮下投与し、1%食塩水を与え,DOCA−食塩SHRを作成した群(DOCA群) n=4
3)DOCA−食塩SHRに、BH4(10mg/kg体重/日)を経口投与した群(DOCA+BH4群) n=6
各群を実験終了6週目まで観察した。実験開始時、2週間後、3週間後、4週間後、5週間後、6週間後(観察終了時)に代謝ケージにより24時間尿を採取した。観察終了時、フェノバルビタール麻酔下で腹部大動脈より採血、その後腎臓を生理食塩水で潅流後摘出し、組織学的検討を行った。
【0090】
血圧測定
血圧はtail-cuff法により、実験開始時、2週間後、3週間後、4週間後、5週間後、6週間後において測定した。
【0091】
尿中BP測定
Fukushima and Nixonの方法に基づきHPLC分析を行い、BH4の代謝物であるビオプテリン(BP)を測定した。尿中BPの値の推移によりBH4投与の影響を考察する。
【0092】
病理組織学的所見
6週後の採尿、血圧測定を終了した後、麻酔下で開腹し、腹部大動脈から脱血し、同部より生理食塩水を注入、灌流を行った。摘出した腎臓を、10%ホルムアルデヒド溶液中で固定し、パラフィン包埋後、ミクロトームにて4μm に薄切し腎組織標本を作製した。ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色およびperiodic acid−Shiff染色を行った。ラット腎組織標本内に見られる病理学的所見、すなわち壊死性糸球体炎、および壊死性細動脈炎の出現頻度を比較検討した。
【0093】
統計
測定値は平均±標準誤差で表し、群間の統計はtwo−way ANOVAにより行った。以下、p<0.05を有意水準とした。
血圧の推移を以下の表5および図5に示す。DOCA群は観察3週目において顕著な高血圧を呈した。DOCA群の血圧上昇は他の2群に比して有意であった。これに対し、DOCA+BH4群では観察終了時まで対照群と同様のレベルにとどまった。
【0094】
【表5】

【0095】
尿中BPの推移を表6および図6に示す。DOCA群ではBPが経時的に減少した。これに対し、DOCA+BH4群ではBH4が経時的に増加した。DOCA群での減少は他の2群に比して有意であり、対照群とDOCA+BH4群間では有意差は認められなかった。
【0096】
【表6】

【0097】
腎組織標本内に見られる病理組織学的所見の出現頻度を表7および図7に示す。DOCA群では壊死性糸球体炎の出現率と壊死性血管炎の出現率が他の2群に比して有意に高く認められた。
【0098】
【表7】

【0099】
以上、DOCA−食塩SHRにおいては、血圧上昇と壊死性糸球体炎と壊死性血管炎等の病理組織学的所見が見られた。さらに、当該モデルラットでは、尿中BPが減少していることが明らかにされた。一方、経口投与したBH4により血圧上昇が抑制され、病理組織学的所見の顕著な改善が見られたことから、BH4がNOSの機能を賦活することにより内皮細胞機能の低下に伴う疾患の治療に有用であることが示された。
[発明の効果]
【0100】
以上説明したとおり、本発明はNOSの機能低下が寄与する疾患を有効に予防および/または改善する治療剤を提供するものである。また、本発明の治療剤の有効成分は生体内にもともと存在する物質なので長期間使用しても副作用等の心配がない。
【0101】
[配列表]
配列番号:1
配列の長さ: 19塩基対
配列の型: 核酸
鎖の数: 一本鎖
トポロジー: 直鎖状
配列の種類: 他の核酸 合成DNA
配列:
TACGGAGCAG CAAATCCAC 19
配列番号:2
配列の長さ: 20塩基対
配列の型: 核酸
鎖の数: 一本鎖
トポロジー: 直鎖状
配列の種類: 他の核酸 合成DNA
配列:
CAGGCTGCAG TCCTTTGATC 20
配列番号:3
配列の長さ: 24塩基対
配列の型: 核酸
鎖の数: 一本鎖
トポロジー: 直鎖状
配列の種類: 他の核酸 合成DNA
配列:
CAAGAAGCAT GGCGTATACA ACCC 24
配列番号:4
配列の長さ: 22塩基対
配列の型:核酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:他の核酸 合成DNA
配列:
TTTCAGCTCA GGGATGGCCT CG 22
配列番号:5
配列の長さ: 19塩基対
配列の型:核酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:他の核酸 合成DNA
配列:
CTGGAACAAT TTCCATCCG 19
配列番号:6
配列の長さ: 20塩基対
配列の型:核酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:他の核酸 合成DNA
配列:
TTTGTCTTCT CCCTGGTGGA 20
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】図1は、対照群(−○−)、DOCA群(−△−)およびBH4を経口投与したDOCA−食塩高血圧ラット(DOCA+BH4群、−□−)の血圧経時変化を示す。
【図2】図2は、対照群(−○−)、DOCA群(−△−)およびBH4を経口投与したDOCA−食塩高血圧ラット(DOCA+BH4群、−□−)の尿中NO2/NO3経時変化を示す。
【図3】図3は、対照群(−○−)、DOCA群(−△−)およびBH4を経口投与したDOCA−食塩高血圧ラット(DOCA+BH4群、−□−)の尿中BP経時変化を示す。
【図4】図4は、E−NOS mRNAの腎組織における発現を測定した結果を示す。
【図5】図5は、対照群(−●−)、DOCA群(−△−)およびBH4を経口投与したDOCA−食塩SHR(DOCA+BH4群、−□−)の血圧経時変化を示す。
【図6】図6は、対照群(−●−)、DOCA群(−△−)およびBH4を経口投与したDOCA−食塩SHR(DOCA+BH4群、−□−)の尿中BP経時変化を示す。
【図7】図7は、腎組織標本内に見られる病理学的所見を示し、左より対照群、DOCA群およびDOCA+BH4群について、それぞれ、壊死性糸球体炎および壊死性血管炎の出現頻度を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

[式中、R1およびR2は、それぞれ水素原子を表すか、または一緒になって単結合を表し、R1およびR2が水素原子を表す場合には、R3は−CH(OH)CH(OH)CH3、−CH(OCOCH3)CH(OCOCH3)CH3、−CH3、−CH2OH又はフェニル基を表し、R1およびR2が一緒になって単結合を表す場合には、R3は−COCH(OH)CH3を表す]で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分とするNOSの機能低下が寄与する疾患の予防または治療剤。
【請求項2】
NOSの機能低下が寄与する疾患が、内因性NO産生低下を伴う疾患である、請求項1に記載の予防または治療剤。
【請求項3】
NOSの機能低下が寄与する疾患が、内皮細胞機能低下を伴う疾患である、請求項1に記載の予防または治療剤。
【請求項4】
NOSの機能低下が寄与する疾患が、NOS発現の減少が関与するものである、請求項1に記載の予防または治療剤。
【請求項5】
3がL−エリスロ−CH(OH)CH(OH)CH3である、請求項1、2、3または4に記載の予防または治療剤。
【請求項6】
高血圧の予防または治療剤である、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の予防または治療剤。
【請求項7】
腎障害の予防または治療剤である、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の予防または治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−132723(P2009−132723A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14696(P2009−14696)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【分割の表示】特願平9−234646の分割
【原出願日】平成9年8月29日(1997.8.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(503062312)アスビオファーマ株式会社 (25)
【Fターム(参考)】