説明

Nav1.8遺伝子の発現を抑制するための組成物および方法

本発明は、Nav1.8遺伝子(Nav1.8遺伝子)の発現を抑制するための二本鎖構造のリボ核酸(dsRNA)に関し、該dsRNAは、長さが25ヌクレオチド未満でNav1.8遺伝子の少なくとも一部にほぼ相補的なヌクレオチド配列を有するアンチセンス鎖を含む。本発明はまた、該dsRNAを医薬として許容可能な担体とともに含む医薬組成物;該医薬組成物を用いてNav1.8遺伝子の発現を原因とする疾患を治療する方法;ならびに細胞内におけるNav1.8遺伝子の発現を抑制する方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二本鎖構造のリボ核酸(dsRNA)、ならびに、Nav1.8遺伝子の発現を抑制するためのRNA干渉の仲介における前記dsRNAの使用、および疼痛を治療するための該dsRNAの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
関連出願
本願は、2005年11月4日に出願された米国仮特許出願第60/733,816号;2005年12月2日に出願された米国仮特許出願第60/741,586号;2006年1月26日に出願された米国仮特許出願第60/763,202号;2006年4月27日に出願された米国仮特許出願第60/795,443号;ならびに2006年10月4日に出願された米国仮特許出願第60/849,364号の利益を主張する。これらの先行出願の内容は、参照により全体が本願に組み込まれる。
【0003】
発明の背景技術
神経障害性疼痛は、末梢性および中枢性の神経障害性疼痛として分類することができる。末梢性の神経障害性疼痛は末梢知覚神経の傷害または感染によって引き起こされ、中枢性の神経障害性疼痛はCNSおよび脊髄のうち少なくともいずれか一方の損傷によってもたらされる。末梢性および中枢性いずれの神経障害性疼痛も、明白な最初の神経損傷を伴わずに生じる場合がある。
【0004】
同様の定義は、国際疼痛学会(IASP、米国ワシントン州シアトル所在)からも与えられている。すなわち、末梢性の神経障害性疼痛は、末梢神経系における最初の病変または機能不全によって開始または誘発される疼痛であり、中枢性の神経障害性疼痛は、中枢神経系における最初の病変または機能不全によって開始または誘発される疼痛である。
【0005】
末梢の病変は、末梢神経の病変(例えば糖尿病性神経障害、例えば化学療法における薬剤性神経障害)、神経根および後神経節の病変(例えばヘルペス後神経痛、神経根の引き抜き)、末梢神経、神経叢および神経根の圧迫による神経障害性のがん性疼痛などの場合がある。中枢の病変は、例えば脳幹における、梗塞による病変、圧迫性の腫瘍または膿瘍の場合もあるし、あるいは外傷または手術による脊髄傷害の場合もある(非特許文献1および2)。
【0006】
末梢性および中枢性の神経障害性疼痛の上記の例は、末梢性および中枢性の神経障害性疼痛が、病変または機能不全の解剖学上の位置によってのみ区別されるのではないことを実証するとともに、末梢性および中枢性の神経障害性疼痛が、そのメカニズムによって区別されうることをも実証している(非特許文献2)。従って、薬物作用メカニズムと個々の疼痛状態における効果との間に、あるいは単一薬物の部類と様々な疼痛状態とについては、明瞭な関係はない(非特許文献3)。
【0007】
オピオイドおよび非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)のような一般の鎮痛剤は、効能が不十分であるかまたは副作用で用量が制限されるかのうち少なくともいずれか一方が原因で、末梢性および中枢性の神経障害性疼痛としての慢性的な異常疼痛症候群を不十分にしか改善しない。十分かつ維持された鎮痛を得るための代替治療法の探索では、コルチコステロイド、伝達ブロック、グリセロール、抗痙攣薬、不整脈治療剤、抗うつ薬、局所麻酔薬、カプサイシンのような局所薬、ガングリオシドおよび電気刺激が試みられたが、神経障害性疼痛の患者の一部しかそのような治療に応答せず、通常これらの応答者でもか
なりの疼痛が残存する。現行の治療法に伴う重大な問題点は治療濃度域である。すなわち、特定の治療は奏功する可能性を有し得るが、患者は、用量増加による副作用を制限するために「奏功するように治療」されない。
【0008】
中枢性の神経障害性疼痛とは、治療が特に困難な種類の神経障害性疼痛の種類である(非特許文献4)。脊髄視床皮質路の病変により、異所性のニューロンの放電が脊髄および脳の様々なニューロンに生じる場合がある。中枢神経系の損傷域における過興奮は、中枢性の神経障害性疼痛の発生において主要な役割を果たす。中枢性の神経障害性疼痛を有する患者は、刺激とは無関係な疼痛をほとんど常に有している。さらに、例えば脊髄損傷の場合には、通常は病変より下方の皮膚領域または内臓が異痛を示すので、刺激依存性の疼痛が存在しうる。したがって、局部的な脊髄の病変が、完全な病変よりも高度の疼痛を生じる傾向があり得る。
【0009】
その他の一般に認められた種類の中枢性の神経障害性疼痛または中枢性の神経障害性疼痛を伴う疾患も存在する。例を挙げると、多発性硬化症、脊髄炎または梅毒のような炎症性のCNS疾患、視床、脊髄視床路もしくは視床皮質投射における虚血、出血または動静脈奇形(例えば脳卒中後の神経障害性疼痛)、ならびに脊髄空洞症が含まれる(非特許文献5)。
【0010】
Naチャネルは、ニューロンおよび筋細胞のようなすべての興奮性細胞における活動電位生成の中心である。そのようなものとして、Naチャネルは、疼痛のような様々な疾病状態において重要な役割を果たす(非特許文献6および7を参照)。遺伝子ファミリーのうち3つのメンバー(NaV1.8、1.9、1.5)は、公知のNaチャネル遮断薬TTXによる遮断に対して抵抗性であり、このことはかかる遺伝子ファミリー内のサブタイプ特異性を証明している。突然変異分析から、グルタミン酸387がTTX結合のための重大な残基であることが確認されている(非特許文献8を参照)。
【0011】
一般に、電位依存性ナトリウムチャネル(NaV)は、正常および異常な痛覚を構成し記号化する電気的信号を伝える神経系の、興奮性組織における活動電位の迅速な立ち上がりの開始に関与する。NaVチャネルのアンタゴニストはこれらの疼痛信号を減弱させることが可能であり、様々な疼痛状態、例えばこれらに限定されるものではないが急性、慢性、炎症性、および神経障害性の疼痛を治療するのに有用である。既知のNaVアンタゴニストには、TTX、リドカイン(非特許文献9を参照)、ブピカイン、カルバマゼピン、メキシリテン(mexilitene)、フェニトイン(非特許文献10を参照)、およびラモトリジン(非特許文献11および10を参照)が含まれる。しかしながら、副作用として、めまい、傾眠、悪心および嘔吐(非特許文献12を参照)があり、該副作用により疼痛治療のための既知NaVアンタゴニストの有用性は制限される。これらの副作用は、少なくとも部分的には、複数のNaVサブタイプを遮断することに起因すると思われる。NaV1.8チャネルを選択的に抑制する作用薬は、これらの既知の非選択的NaVアンタゴニストよりもはるかに広い治療濃度域を提供するであろう。
【0012】
侵害刺激の検出および伝達は小型の知覚ニューロンによって仲介される。免疫組織化学法、in‐situハイブリダイゼーションおよび電気生理学実験のいずれからも、ナトリウムチャネルNaV1.8が後根神経節および三叉神経節の小型の知覚ニューロンに選択的に局在していることが示されている(非特許文献13を参照)。実験的な神経損傷後、免疫組織化学法のデータは、神経損傷部位にNav1.8が集積し、これにTTX抵抗性のナトリウム電流のアップレギュレーションが伴うことを実証したが、このことはNaV1.8を痛覚過敏の根底にあるメカニズムとすることと合致している(非特許文献14を参照)。髄腔内注射で投与されたアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドによるNaV1.8発現の減弱化により、実験的な神経損傷により誘発されるNav1.8の坐骨神
経への再分布が防止され、神経障害性疼痛(触覚性および温熱性痛覚過敏)が無効となったが、このことは神経損傷により誘発される疼痛におけるNavl.8の因果的役割を実証するものである(非特許文献15および16も参照されたい)。炎症性疼痛モデルでは、NaV1.8に対するアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドの髄腔内投与の結果、PGE誘発型の痛覚過敏(非特許文献17を参照)、およびCFA(完全フロインドアジュバント)誘発型の痛覚過敏(非特許文献18)が著しく減少した。さらに、酢酸を膀胱内に注入することによって誘発される内臓痛ラットモデルにおいて、膀胱の活動亢進はNaV1.8に対するアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドの髄腔内注射によって低減され、Nav1.8が内臓痛における知覚神経の賦活に寄与することが示された(非特許文献19)。
【0013】
総括すると、これらのデータは炎症性および神経障害性疼痛の検出および伝達におけるNaV1.8の役割を支持するものである。
最近、二本鎖RNA分子(dsRNA)が、RNA干渉(RNAi)として知られる高度に保存された調節メカニズムで遺伝子発現を阻止することが示された。特許文献1(ファイア(Fire)ら)は、線虫(C . elegans)においてNav1.8遺伝子の発現を抑制
するために少なくとも25ヌクレオチド長のdsRNAを使用することを開示している。dsRNAはまた、他の生物、例えば植物(例えばウォーターハウス(Waterhouse)らの特許文献2;およびハイフェッツ(Heifetz)らの特許文献3を参照)、ショウジョウバ
エ(例えば非特許文献20を参照)、および哺乳動物(リマー(Limmer)の特許文献4およびクロイツァー(Kreutzer)らの特許文献5を参照)などにおいて標的RNAを分解することも示されている。この天然のメカニズムは今や、遺伝子の制御異常もしくは望ましくない制御を原因とする病気を治療するための、新しい種類の医薬品の開発の焦点となっている。
【特許文献1】国際公開公報第99/32619号パンフレット
【特許文献2】国際公開公報第99/53050号パンフレット
【特許文献3】国際公開公報第99/61631号パンフレット
【特許文献4】国際公開公報第00/44895号パンフレット
【特許文献5】DE 101 00 586.5明細書
【非特許文献1】Jain K K, Emerging Drugs, 2000, 5:241-257
【非特許文献2】McQuay, 2002, European Journal of Pain 6 (Suppl. A): 11-18
【非特許文献3】Sindrup S H, Jensen T S, Pain 1999, 83:389-400
【非特許文献4】Yezierski and Burchiel, 2002
【非特許文献5】Koltzenburg, Pain 2002--An Updated Review: Refresher Course Syllabus; IASP Press, Seattle, 2002
【非特許文献6】Waxman, S. G., S. Dib-Hajj, et al. (1999) "Sodium channels and pain" Proc Natl Acad Sci USA 96(14): 7635-9
【非特許文献7】Waxman, S. G., T. R. Cummins, et al. (2000) "Voltage-gated sodium channels and the molecular pathogenesis of pain: a review" J Rehabil Res Dev 37(5): 517-28
【非特許文献8】Noda, M., H. Suzuki, et al. (1989) "A single point mutation confers tetrodotoxin and saxitoxin insensitivity on the sodium channel II" FEBS Lett 259(1): 213-6
【非特許文献9】Mao, J. and L. L. Chen (2000) "Systemic lidocaine for neuropathic pain relief" Pain 87(1): 7-17
【非特許文献10】Jensen, T. S. (2002) "Anticonvulsants in neuropathic pain: rationale and clinical evidence" Eur J Pain 6 (Suppl A): 61-8
【非特許文献11】Rozen, T. D. (2001) "Antiepileptic drugs in the management of cluster headache and trigeminal neuralgia" Headache 41 Suppl 1: S25-32
【非特許文献12】Tremont-Lukats, I. W., C. Megeff, and M. M. Backonja (2000) "Anticonvulsants for neuropathic pain syndromes: mechanisms of action and place in therapy" Drugs 60:1029-1052
【非特許文献13】Akopian, A. N., L. Sivilotti, et al. (1996) "A tetrodotoxin-resistant voltage-gated sodium channel expressed by sensory neurons" Nature 379(6562): 257-62
【非特許文献14】Gold, M. S., D. Weinreich, et al. (2003) "Redistribution of Nav1.8 in uninjured axons enables neuropathic pain" J. Neurosci. 23: 158-166
【非特許文献15】Lai, J., M. S. Gold, et al. (2002) "Inhibition of neuropathic pain by decreased expression of the tetrodotoxin-resistant sodium channel, NaV1, 8" Pain 95(1-2): 143-52
【非特許文献16】Lai, J., J. C. Hunter, et al. (2000) "Blockade of neuropathic pain by antisense targeting of tetrodotoxin-resistant sodium channels in sensory neurons" Methods Enzymol 314: 201-13
【非特許文献17】Khasar, S. G., M. S. Gold, et al. (1998) "A tetrodotoxin-resistant sodium current mediates inflammatory pain in the rat" Neurosci Lett 256(1): 17-20
【非特許文献18】Porreca, F., J. Lai, et al. (1999) "A comparison of the potential role of the tetrodotoxin-insensitive sodium channels, PN3/SNS and NaN/SNS2, in rat models of chronic pain" Proc. Nat'l. Acad. Sci. 96: 7640-7644
【非特許文献19】Yoshimura, N., S. Seki, et al. (2001) "The involvement of the tetrodotoxin-resistant sodium channel Nav1.8 (PN3/SNS) in a rat model of visceral pain" J. Neurosci. 21: 8690-8696
【非特許文献20】Yang, D., et al., Curr. Biol. (2000) 10:1191-1200
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
RNAiの分野における著しい進歩および疼痛治療における進歩にもかかわらず、高い生物活性および生体内での安定性の両方を有する、細胞自身のRNAi機構を使用してNav1.8遺伝子を選択的かつ効率的にサイレンシングすることが可能である作用薬であって、かつ疼痛治療において使用するために標的Nav1.8遺伝子の発現を有効に抑制することができる作用薬が、依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の要約
本発明は、二本鎖構造のリボ核酸(dsRNA)、ならびにそのようなdsRNAを使用して細胞または哺乳動物のNav1.8遺伝子の発現を抑制するための組成物および方法を提供する。本発明はさらに、Nav1.8遺伝子の発現、例えば神経障害性および炎症性疼痛の疼痛信号の伝播における発現を原因とする病的状態および疾患を治療するための、組成物および方法を提供する。本発明のdsRNAは、長さ30ヌクレオチド未満でNav1.8遺伝子のmRNA転写物の少なくとも一部にほぼ相補的な領域を有するRNA鎖(アンチセンス鎖)を含む。
【0016】
1つの実施形態では、本発明はNav1.8遺伝子の発現を抑制するための二本鎖構造のリボ核酸(dsRNA)分子を提供する。該dsRNAは、互いに相補的な少なくとも2つの配列を有する。該dsRNAは、第1の配列を有するセンス鎖と第2の配列を有するアンチセンス鎖とを含む。アンチセンス鎖は、Nav1.8をコードするmRNAの少なくとも一部にほぼ相補的なヌクレオチド配列を有し、該相補領域の長さは30ヌクレオチド未満である。該dsRNAは、Nav1.8を発現する細胞と接触させると、Nav1.8遺伝子の発現を少なくとも20%抑制する。
【0017】
例えば、本発明のdsRNA分子は、表1、4および6のセンス配列から成る群から選択される、dsRNAの第1の配列を有するものでよく、第2の配列は表1、4および6のアンチセンス配列から成る群から選択される。本発明のdsRNA分子は、天然に存在するヌクレオチドからなるものでもよいし、あるいは少なくとも1つの修飾ヌクレオチド、例えば2’−O−メチル修飾ヌクレオチド、5’−ホスホロチオエート基を含むヌクレオチド、およびコレステリル誘導体もしくはドデカン酸ビスデシルアミド基に連結された末端ヌクレオチドなどを含むものでもよい。あるいは、修飾ヌクレオチドは、次の群、すなわち2’−デオキシ−2’−フルオロ修飾ヌクレオチド、2’−デオキシ修飾ヌクレオチド、ロックされたヌクレオチド、脱塩基ヌクレオチド、2’−アミノ修飾ヌクレオチド、2’−アルキル修飾ヌクレオチド、モルホリノヌクレオチド、ホスホロアミデート、および非天然の塩基を含むヌクレオチド、から選択されうる。好ましくは、前記dsRNAの第1の配列は、表1、4および6のセンス配列から成る群から選択され、第2の配列は、表1、4および6のアンチセンス配列から成る群から選択される。
【0018】
別の実施形態では、本発明は、本発明のdsRNAのうちの1つを含む細胞を提供する。該細胞はヒト細胞のような哺乳動物細胞であることが好ましい。
別の実施形態では、本発明は、1以上の本発明のdsRNAと、薬学的に許容可能な担体とを含む、生物体におけるNav1.8遺伝子の発現を抑制するための医薬組成物を提供する。
【0019】
別の実施形態では、本発明は、細胞内のNav1.8遺伝子の発現を抑制するための、下記工程(a)および(b)を含む方法を提供する。
(a)細胞内に、二本鎖構造のリボ核酸(dsRNA)を導入する工程であって、該dsRNAは、互いに相補的な少なくとも2つの配列を有する、工程。該dsRNAは、第1の配列を有するセンス鎖と、第2の配列を有するアンチセンス鎖とを含む。アンチセンス鎖は、Nav1.8をコードするmRNAの少なくとも一部にほぼ相補的な相補領域を含み、該相補領域の長さは30ヌクレオチド未満であり、dsRNAは、Nav1.8を発現する細胞と接触させると、Nav1.8遺伝子の発現を少なくとも20%抑制する。
【0020】
(b)工程(a)で生成された細胞を、Nav1.8遺伝子のmRNA転写物を分解させるのに十分な時間維持することによって、細胞のNav1.8遺伝子の発現を抑制する工程。
【0021】
別の実施形態では、本発明は、疼痛を治療、予防、または管理する方法であって、そのような治療、予防または管理を必要とする患者に、治療上または予防上有効な量の1つ以上の本発明のdsRNAを投与することからなる方法を提供する。
【0022】
別の実施形態では、本発明は、細胞のNav1.8遺伝子の発現を抑制するためのベクターであって、本発明のdsRNAのうち1つの少なくとも一方の鎖をコードするヌクレオチド配列に作動可能なように連結された調節配列を有するベクターを提供する。
【0023】
別の実施形態では、本発明は、細胞のNav1.8遺伝子の発現を抑制するためのベクターを含む細胞を提供する。該ベクターは、本発明のdsRNAのうち1つの少なくとも一方の鎖をコードするヌクレオチド配列に作動可能なように連結された調節配列を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
発明の詳細な説明
本発明は、二本鎖構造のリボ核酸(dsRNA)、ならびに該dsRNAを使用して細胞または哺乳動物のNav1.8遺伝子の発現を抑制するための組成物および方法を提供
する。本発明はさらに、dsRNAを使用してNav1.8遺伝子の発現を原因とする哺乳動物の病的状態および疾患を治療するための組成物および方法を提供する。dsRNAは、RNA干渉(RNAi)として知られるプロセスを通じて、mRNAの配列特異的な分解を導く。このプロセスは、哺乳動物および他の脊椎動物を含む種々様々な生物において生じる。
【0025】
本発明のdsRNAは、長さが30ヌクレオチド未満でありNav1.8遺伝子のmRNA転写物の少なくとも一部にほぼ相補的な領域を有するRNA鎖(アンチセンス鎖)を含む。これらのdsRNAを使用することにより、哺乳動物の疼痛応答に関与する遺伝子のmRNAを標的とした分解が可能である。細胞アッセイおよび動物アッセイを使用して、本発明者らは、非常に低用量の上記dsRNAが特異的かつ効率的にRNAiを仲介する結果、Nav1.8遺伝子の発現を顕著に抑制することができることを実証した。したがって、これらのdsRNAを含む本発明の方法および組成物は、疼痛の治療に有用である。
【0026】
以降の詳細な説明は、標的Nav1.8遺伝子の発現を抑制するためにdsRNAおよびdsRNA含有組成物を製造および使用する方法、ならびに神経障害性および炎症性疼痛のようなNav1.8の発現を原因とする疾患および障害を治療するための組成物および方法を開示する。本発明の医薬組成物は、長さが30ヌクレオチド未満でNav1.8遺伝子のRNA転写物の少なくとも一部にほぼ相補的な相補領域を含むアンチセンス鎖を有するdsRNAを、薬学的に許容可能な担体と一緒に含む。
【0027】
従って、本発明のある態様は、本発明のdsRNAを薬学的に許容可能な担体と一緒に含む医薬組成物、Nav1.8遺伝子の発現を抑制するために該組成物を使用する方法、およびNav1.8遺伝子の発現を原因とする疾患を治療するために該医薬組成物を使用する方法を提供する。
【0028】
I.定義
便宜のために、本明細書、実施例、および添付の特許請求の範囲において使用される一定の用語および語句の意味を以下に示す。本明細書の他の部分におけるある用語の使用法と、本項に示された該用語の定義との間に明白な矛盾がある場合、本項の定義が優先されるものとする。
【0029】
「G」、「C」、「A」および「U」は各々、一般に、塩基としてグアニン、シトシン、アデニン、およびウラシルをそれぞれ含んでいるヌクレオチドを表わす。しかしながら、当然のことであるが、用語「リボヌクレオチド」または「ヌクレオチド」は、以下にさらに詳述するような修飾ヌクレオチド、または代用置換部分をも意味しうる。当業者には良く知られていることであるが、グアニン、シトシン、アデニンおよびウラシルを他の構成部分で置換し、そのような置換部分を有するヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドの塩基対形成特性を本質的に変化させないでおくことができる。例えば、限定するものではないが、塩基としてイノシンを含むヌクレオチドは、アデニン、シトシン、またはウラシルを含んでいるヌクレオチドと塩基対形成することができる。従って、ウラシル、グアニン、またはアデニンを含むヌクレオチドは、本発明のヌクレオチド配列中において例えばイノシンを含んでいるヌクレオチドで置換される場合がある。そのような置換部分を含む配列は本発明の実施形態である。
【0030】
本明細書で使用されるように、「Nav1.8」は、イオンチャネルの発生または維持に関連する任意のNav1.8タンパク質、ペプチドまたはポリペプチドを意味する。用語「Nav1.8」はまた、任意のNav1.8タンパク質、ペプチドまたはポリペプチドをコードする核酸配列も指す。実施例については、使用したNav1.8 mRNA配
列は、ヒト(NM_006514)、マウス(NM_009134)、ラット(NM_017247)およびイヌ(NM001003203)のmRNA配列であった。
【0031】
本明細書で使用されるように、「標的配列」は、Nav1.8遺伝子の転写の際に形成されるmRNA分子のヌクレオチド配列の連続した一部分、例えば一次転写産物のRNAプロセシング生成物であるmRNAなどを指す。
【0032】
本明細書で使用されるように、用語「配列を有する鎖」は、標準的なヌクレオチド命名法を使用して示された配列によって記述されるヌクレオチド鎖を有するオリゴヌクレオチドを指す。
【0033】
本明細書で使用されるように、かつ別途記載のない限り、用語「相補的」は、第1のヌクレオチド配列について第2のヌクレオチド配列との関連において記述するために使用される場合、第1のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドが、第2のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドとともに、ある条件下でハイブリダイズして二重鎖構造を形成する能力を指し、このことは当業者には当然のことである。そのような条件は、例えばストリンジェントな条件であってよく、ここでストリンジェントな条件としては:400mM NaCl、40mM PIPES(pH6.4)、1mM EDTA、50℃または70℃で12〜16時間の後に洗浄、が挙げられる。その他の条件、例えば生物体内で遭遇しうるような生理学的に関連のある条件なども当てはまる。当業者であれば、2つの配列の相補性を、ハイブリダイズしたヌクレオチドの最終的な用途に従って試験するための、最も適した条件一式を決定することができるであろう。
【0034】
これは、第1のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドと、第2のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドとの、第1および第2のヌクレオチド配列全長にわたる塩基対形成を含んでいる。このような配列は、本明細書においては互いに関して「完全に相補的」ということができる。しかしながら、本明細書において第1の配列が第2の配列に関して「ほぼ相補的」という場合は、その2つの配列は完全に相補的であってもよいし、あるいはその2つの配列が、該配列の最終的な用途に最も適した条件下でハイブリダイズする能力を保持しつつ、ハイブリダイゼーション時に1つ以上、好ましくは4つ、3つまたは2つ以下のミスマッチな塩基対を形成してもよい。ただし、2つのオリゴヌクレオチドが、ハイブリダイゼーション時に1以上の一本鎖突出部を形成するように設計されている場合、そのような突出部は相補性の測定に関してミスマッチとは見なされないものとする。例えば、一方の21ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドともう一方の23ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドとからなるdsRNAであって、長いほうのオリゴヌクレオチドが短いほうのオリゴヌクレオチドに完全に相補的な21ヌクレオチドの配列を有するものは、本発明の目的に関してはこの場合も「完全に相補的」とされうる。
【0035】
「相補的な」配列はまた、本明細書で使用されるように、該配列のハイブリダイズする能力に関して上記の必要条件が満たされる限り、非ワトソンクリック型の塩基対、または非天然ヌクレオチドおよび修飾ヌクレオチドから形成された塩基対のうち少なくともいずれか一方を含んでもよいし、あるいは完全に前記塩基対から形成されてもよい。
【0036】
本明細書中の用語「相補的」、「完全に相補的」および「ほぼ相補的」は、該用語の使用の前後関係から理解されるように、dsRNAのセンス鎖とアンチセンス鎖との間、あるいはdsRNAのアンチセンス鎖と標的配列との間の塩基の対応に関して使用されうる。
【0037】
本明細書で使用されるように、メッセンジャーRNA(mRNA)の「少なくとも一部にほぼ相補的」なポリヌクレオチドとは、対象のmRNA(例えばNav1.8をコードするもの)の連続した一部分にほぼ相補的なポリヌクレオチドを指す。例えば、配列がNav1.8をコードするmRNAの連続した一部分にほぼ相補的である場合、そのポリヌクレオチドはNav1.8 mRNAの少なくとも一部に相補的である。
【0038】
用語「二本鎖RNA」または「dsRNA」は、本明細書で使用されるように、リボ核酸分子、またはリボ核酸分子の複合体であって、2つの逆平行かつ(上記定義のように)ほぼ相補的な核酸鎖からなる二重鎖構造を有するものを指す。二重鎖構造を形成する2つの鎖は、1つの大きなRNA分子の異なる部分であってもよいし、個別のRNA分子であってもよい。2つの鎖が1つの大きな分子の一部であり、したがって、2つの鎖が、一方の鎖の3’末端と、二重鎖構造を形成している対応する他方の鎖の5’末端との間の連続したヌクレオチド鎖で接続されている場合、この接続しているRNA鎖は「ヘアピンループ」と呼ばれる。2つの鎖が、一方の鎖の3’末端と、二重鎖構造を形成している対応する他方の鎖の5’末端との間の連続したヌクレオチド鎖以外の手段によって共有結合で接続されている場合、この接続構造は「リンカー」と呼ばれる。RNA鎖は同数を有してもよいし、異なる数のヌクレオチドを有してもよい。塩基対の最大数は、dsRNAのうち最短の鎖のヌクレオチド数である。二重鎖構造に加えて、dsRNAは1以上のヌクレオチド突出部を含んでもよい。
【0039】
本明細書で使用されるように、「ヌクレオチド突出部」とは、dsRNAの一方の鎖の3’末端が他方の鎖の5’末端を越えて伸びるか、あるいはその逆である場合に、該dsRNAの二重鎖構造から突出する非対合ヌクレオチドを指す。「平滑」または「平滑末端」とは、非対合ヌクレオチドがdsRNAの末端に存在しない、すなわちヌクレオチド突出部がないことを意味する。「平滑末端の」dsRNAとは、その全長にわたって二本鎖構造である、すなわち該分子のいずれの末端にもヌクレオチド突出部がないdsRNAである。
【0040】
用語「アンチセンス鎖」は、dsRNAの鎖であって標的配列にほぼ相補的な領域を含むものを指す。本明細書で使用されるように、用語「相補領域」は、本明細書で定義されるように、配列(例えば標的配列)にほぼ相補的な、アンチセンス鎖上の領域を指す。相補領域が標的配列に完全に相補的ではない場合、ミスマッチは末端領域において最も許容され、かつ、存在する場合は、好ましくは末端領域に、例えば5’または3’末端のうち少なくともいずれかから6、5、4、3、または2ヌクレオチド以内にある。
【0041】
用語「センス鎖」は、本明細書で使用されるように、dsRNAの鎖であってアンチセンス鎖のある領域にほぼ相補的な領域を含んでいるものを指す。
当業者には理解されるように、「細胞に導入する」とは、dsRNAに関する場合、細胞内への取り込みまたは吸収を促進することを意味する。dsRNAの吸収または取り込みは、支援を伴わない拡散プロセスまたは細胞の能動的プロセスを通じて為されてもよいし、あるいは補助的な薬剤またはデバイスによって為されてもよい。この用語の意味は、in vitroの細胞に限定されるものではなく;dsRNAは、生体の一部である細胞について「細胞に導入される」場合もある。そのような場合は、細胞への導入は、生体への送達を含むことになる。例えば、in vivo送達については、dsRNAが組織部位に注入されてもよいし、あるいは全身投与されてもよい。in vitroでの細胞への導入には、エレクトロポレーションおよびリポフェクションのような当分野で既知の方法が挙げられる。
【0042】
用語「サイレンシングする」および「発現を抑制する」は、該用語がNav1.8遺伝子に関するものである限り、本明細書では、Nav1.8遺伝子の発現を少なくとも部分
的に抑制することを指し、該抑制は、Nav1.8遺伝子の転写が行われる第1の細胞または細胞群であってNav1.8遺伝子の発現が抑制されるように処理されたものから単離可能な、Nav1.8遺伝子から転写されたmRNAの量が、第2の細胞または細胞群であって第1の細胞または細胞群と本質的に同一であるが上記処理が為されていないもの(対照細胞)と比較して減少していることによって明らかにされるようなものである。抑制の程度は通常、
[(対照細胞のmRNA)−(処理細胞のmRNA)]/(対照細胞のmRNA)・100%
で表される。
【0043】
別例として、抑制の程度は、Nav1.8遺伝子の転写に機能的関連を有するパラメータ、例えば、細胞によって分泌される、Nav1.8遺伝子にコードされたタンパク質の量、あるいは一定の表現型(例えばアポトーシス)を示す細胞の数など、の減少という観点で与えられる場合もある。原則として、Nav1.8遺伝子のサイレンシングは、構成的にあるいはゲノムの工学操作により標的を発現する任意の細胞において、任意の適切なアッセイによって測定可能である。しかしながら、所与のsiRNAがNav1.8遺伝子の発現を一定の度合いで抑制するか、したがって本発明に包含されるかどうかを判断するために参照が必要な場合、以下の実施例において提供されるアッセイはそのような参照として有用であろう。
【0044】
例えば、ある例では、Nav1.8遺伝子の発現は、本発明の二本鎖オリゴヌクレオチドの投与によって少なくとも約20%、25%、35%または50%抑制される。好ましい実施形態では、Nav1.8遺伝子は、本発明の二本鎖オリゴヌクレオチドの投与によって少なくとも約60%、70%または80%抑制される。より好ましい実施形態では、Nav1.8遺伝子は、本発明の二本鎖オリゴヌクレオチドの投与によって少なくとも約85%、90%または95%抑制される。最も好ましい実施形態では、Nav1.8遺伝子は、本発明の二本鎖オリゴヌクレオチドの投与によって少なくとも約98%、99%またはそれ以上抑制される。
【0045】
用語「治療する」、「治療」などは、疼痛知覚の軽減または緩和、例えば、与えられた刺激(例えば圧力、組織傷害、低温など)に応答して対象が経験する疼痛(例えば灼熱感、ピリピリ感、電気ショック様の感覚など)の強度または持続時間のうち少なくともいずれか一方の軽減または緩和、を指す。疼痛知覚の軽減または緩和は、疼痛の強度または持続時間についての任意の検知できる減少であってよい。治療は、疼痛状態に苦しんでいるか、または本発明によって治療することが可能な疼痛関連障害の1つ以上の症状を有する対象(例えばヒトまたはコンパニオン・アニマル)に為されてもよいし、あるいは、本明細書に記載の神経障害性疼痛のSNLラットモデルまたは慢性的疼痛のCFAラットモデルのような疼痛の動物モデルにおいて為されてもよいし、あるいは疼痛の別の動物モデルにおいて為されてもよい。本発明の文脈において本発明が本明細書中以下に示す任意のその他の(疼痛以外の)状態に関する限り、用語「治療する」、「治療」などは、そのような状態に関連する少なくとも1つの症状を軽減または緩和すること、またはそのような状態の進行を遅延または逆行させることを意味する。
【0046】
本明細書で使用されるように、語句「治療上有効な量」および「予防上有効な量」とは、疼痛または明白な疼痛症状の治療、予防、または管理に治療上の利点を提供する量を指す。治療上有効な具体的な量は、普通の医師により容易に決定可能であり、また当分野で周知の要因、例えば疼痛のタイプ、患者の病歴および年齢、疼痛の程度、ならびに他の抗疼痛剤の投与などに依存して変化しうる。
【0047】
本明細書で使用されるように、「医薬組成物」は薬理学的に有効な量のdsRNAと薬
学的に許容可能な担体とを含む。本明細書で使用されるように、「薬理学的に有効な量」、「治療上有効な量」、または単に「有効な量」とは、意図される薬理学的、治療上、または予防上の結果を生じるのに有効なRNAの量を指す。例えば、ある臨床治療が、疾患または障害に関連した測定可能なパラメータに少なくとも25%の低下があれば有効であると考えられる場合、その疾患または障害の治療のために治療上有効な薬の量は、そのパラメータを少なくとも25%低下させるのに必要な量である。
【0048】
用語「薬学的に許容可能な担体」は、治療薬を投与するための担体を指す。そのような担体には、限定するものではないが、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノール、およびこれらの組み合わせが挙げられる。該用語は細胞培養培地を明確に除外している。経口投与される薬物については、薬学的に許容可能な担体には、限定するものではないが、薬学的に許容可能な添加剤、例えば不活性の賦形剤、崩壊剤、結着剤、潤滑剤、甘味料、香料、着色剤および保存剤などが挙げられる。適切な不活性の賦形剤には、炭酸ナトリウムおよび炭酸カルシウム、リン酸ナトリウムおよびリン酸カルシウム、およびラクトースがあり、またトウモロコシデンプンおよびアルギン酸は適切な崩壊剤である。結着剤にはデンプンおよびゼラチンを挙げることができ、潤滑剤は一般に、存在する場合にはステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸またはタルクであろう。所望の場合には、胃腸管への吸収を遅らせるために錠剤をモノステアリン酸グリセリンまたはジステアリン酸グリセリンのような材料でコーティングしてもよい。
【0049】
本明細書で使用されるように、「形質転換細胞」は、dsRNA分子を発現することが可能なベクターが導入された細胞である。
II.二本鎖構造のリボ核酸(dsRNA)
1つの実施形態では、本発明は、細胞または哺乳動物においてNav1.8遺伝子の発現を抑制するための二本鎖構造のリボ核酸(dsRNA)分子を提供し、該dsRNAはNav1.8遺伝子の発現で形成されるmRNAの少なくとも一部に相補的な相補領域を含むアンチセンス鎖を含み、該相補領域は長さが30ヌクレオチド未満であり、前記dsRNAは、前記Nav1.8遺伝子を発現している細胞と接触すると、前記Nav1.8遺伝子の発現を少なくとも20%抑制する。該dsRNAは、ハイブリダイズして二重鎖構造を形成するのに十分相補的な2つのRNA鎖を含む。dsRNAの一方の鎖(アンチセンス鎖)は、Nav1.8遺伝子の発現の際に形成されるmRNAの配列に由来する標的配列にほぼ相補的、好ましくは完全に相補的な相補領域を含み、他方の鎖(センス鎖)は該アンチセンス鎖に相補的な領域を含み、2つの鎖が適切な条件の下で組み合わせられた時にハイブリダイズして二重鎖構造を形成するようになっている。好ましくは、二重鎖構造は長さが15〜30、より好ましくは18〜25、さらにより好ましくは19〜24、最も好ましくは21〜23塩基対である。同様に、標的配列に相補的な領域は、長さが15〜30、より好ましくは18〜25、さらにより好ましくは19〜24、最も好ましくは21〜23ヌクレオチドである。本発明のdsRNAは、1つ以上の一本鎖ヌクレオチド突出部をさらに含んでもよい。dsRNAは、以降にさらに議論するように当分野で周知の標準的な方法によって、例えば、バイオサーチ(Biosearch)、アプライドバイオ
システムズ社(Applied Biosystems, Inc.)などから市販されているような自動DNA合成装置の使用によって、合成することができる。好ましい実施形態では、Nav1.8遺伝子はヒトのNav1.8遺伝子である。特定の実施形態では、dsRNAのアンチセンス鎖は、表1、4および6のアンチセンス配列を有し、もう一方の配列は、表1、4および6のセンス配列から成る群から選択される。
【0050】
さらなる実施形態では、dsRNAは、表1、4および6に提供された配列群から選択された少なくとも1つのヌクレオチド配列を有する。他の実施形態では、dsRNAは、この群から選択された少なくとも2つの配列を有し、少なくとも2つの配列のうち一方は少なくとも2つの配列のもう一方に相補的であり、少なくとも2つの配列のうちの1つは
、Nav1.8遺伝子の発現で生成されるmRNAの配列にほぼ相補的である。好ましくは、dsRNAは2つのオリゴヌクレオチドを含み、一方のオリゴヌクレオチドは表1、4および6に記載されているものであり、もう一方のオリゴヌクレオチドも表1、4および6に記載されている。
【0051】
当業者には周知のように、20〜23塩基対、特に21塩基対の二重鎖構造を含むdsRNAは、RNA干渉を引き起こすのに特に有効なものとして評価されている(Elbashir
et al., EMBO 2001, 20:6877-6888)。しかしながら、より短いdsRNAや長いdsRNAも同様に有効となりうることが他の研究者によって見出されている。上述の実施形態では、表1、4および6に提供されるオリゴヌクレオチド配列の性質から、本発明のdsRNAは長さが最小21ヌクレオチドの鎖を少なくとも1つ含むことができる。表1、4および6の配列のうちの1つであって一端または両端からわずか数個のヌクレオチドが差し引かれたものを含む短いdsRNAが、上述のdsRNAと比較して同じように有効かもしれないことを期待するのは合理的と思われる。従って、表1、4および6の配列のうちの1つに由来する少なくとも15、16、17、18、19、20またはそれ以上連続したヌクレオチドである部分配列を有し、かつ、本明細書中以降に記載のようなFACS分析においてNav1.8遺伝子の発現を抑制する能力が、完全な配列を有するdsRNAと高々5、10、15、20、25、または30%(抑制)しか違わないdsRNAが、本発明によって企図されている。
【0052】
本発明のdsRNAは、標的配列に対して1つ以上のミスマッチを含んでもよい。好ましい実施形態では、本発明のdsRNAが含むミスマッチは3つ以下である。dsRNAのアンチセンス鎖が標的配列に対するミスマッチを含んでいる場合、ミスマッチ部分が相補領域の中央に位置しないことが好ましい。dsRNAのアンチセンス鎖が標的配列に対するミスマッチを含んでいる場合、該ミスマッチはいずれかの末端から5ヌクレオチド、例えば相補領域の5’または3’末端のいずれかから5、4、3、2、または1ヌクレオチドに限られることが好ましい。例えば、Nav1.8遺伝子のある領域に相補的な23ヌクレオチドのdsRNA鎖については、該dsRNAは、中央の13ヌクレオチドの範囲内にはミスマッチを全く含まないことが好ましい。標的配列に対するミスマッチを含んでいるdsRNAがNav1.8遺伝子の発現を抑制するのに有効かどうか判断するために、本発明に記載の方法を使用することができる。特にNav1.8遺伝子中の特定の相補領域が、集団内で配列多型の変異を有することが知られている場合、ミスマッチを備えたdsRNAの、Nav1.8遺伝子の発現抑制における有効性を考慮することは重要である。
【0053】
1つの実施形態では、dsRNAの少なくとも一方の末端には、1〜4ヌクレオチド、好ましくは1〜2ヌクレオチドの一本鎖ヌクレオチド突出部がある。少なくとも1つのヌクレオチド突出部を有するdsRNAは、予想外なことに、対応する平滑末端のdsRN
Aよりも優れた抑制特性を有する。さらに、本発明者らは、わずか1つのヌクレオチド突出部の存在が、dsRNAの全体的な安定性に影響することなくdsRNAの干渉活性を強化することを発見した。突出部を1つだけ有するdsRNAは、in vivoにおいて、ならびに様々な細胞、細胞培養培地、血液および血清において特に安定かつ有効であることが分かった。好ましくは、一本鎖突出部はアンチセンス鎖の3’末端に位置し、あるいは別例としてセンス鎖の3’末端に位置する。dsRNAは、平滑末端を有していてもよく、該平滑末端は好ましくはアンチセンス鎖の5’末端に位置する。そのようなdsRNAは安定性および抑制活性が改善されており、よって、低用量(すなわち1日につき被投与者の体重1kgあたり5mg未満)での投与が可能になる。好ましくは、dsRNAのアンチセンス鎖は3’末端にヌクレオチド突出部を有し、5’末端が平滑末端である。別の実施形態では、突出部中の1つ以上のヌクレオチドがヌクレオシドチオホスフェートで置換されている。
【0054】
さらに別の実施形態では、dsRNAは安定性増強のために化学修飾される。本発明の核酸は、参照により本願に組み込まれる"Current protocols in nucleic acid chemistry", Beaucage, S.L. et al. (Edrs.), John Wiley and Sons, Inc., placeCityNew York, StateNY, USAに記載のような当分野で確立された方法によって合成かつ/または修飾されうる。化学修飾には、限定するものではないが、2’修飾、非天然塩基の導入、リガンドへの共有結合、およびリン酸エステル結合のチオリン酸エステル結合による置換、が挙げられる。この実施形態では、二重鎖構造の完全性は少なくとも1つ、好ましくは2つの化学結合により強化される。化学結合は、様々なよく知られた技法のうち任意のものによって、例えば、共有結合、イオン結合、もしくは水素結合の導入;疎水性相互作用、ファンデルワールス相互作用もしくはスタッキング相互作用;金属イオン配位、またはプリンアナログの使用、によって達成されうる。好ましくは、dsRNAの修飾に使用することができる化学基には、限定するものではないが、メチレンブルー;二機能性化学基、好ましくはビス−(2−クロロエチル)アミン;N−アセチル−N’−(p−グリオキシルベンゾイル)シスタミン;4−チオウラシル;およびソラレンが挙げられる。1つの好ましい実施形態では、リンカーはヘキサエチレングリコールリンカーである。この場合、dsRNAは固相合成によって作製され、ヘキサエチレングリコールリンカーは標準的な方法(例えば、Williams, D.J., and K.B. Hall, Biochem. (1996) 35:14665-14670)によって
組込まれる。特定の実施形態では、アンチセンス鎖の5’末端およびセンス鎖の3’末端がヘキサエチレングリコールリンカーによって化学的に連結される。別の実施形態では、dsRNAの少なくとも1つのヌクレオチドはホスホロチオエート基またはホスホロジチオエート基を含む。dsRNAの末端での化学結合は、三重らせん結合によって形成されることが好ましい。表1は、本発明の修飾RNAi剤の例を提示している。
【0055】
ある実施形態では、化学結合は1つまたはいくつかの結合基によって形成されてもよく、そのような結合基は好ましくはポリ(オキシホスフィニコオキシ−1,3−プロパンジオール)鎖および/またはポリエチレングリコール鎖である。他の実施形態では、化学結合は、プリンの代わりに二本鎖構造に導入されたプリンアナログによって形成される場合もある。さらなる実施形態では、化学結合は二本鎖構造に導入されたアザベンゼンユニットによって形成されうる。さらに別の実施形態では、化学結合は、ヌクレオチドの代わりに二本鎖構造に導入された分岐状のヌクレオチド類似体によって形成されうる。ある実施形態では、化学結合は紫外線によって導入される場合もある。
【0056】
さらに別の実施形態では、2つの一本鎖のうち一方または両方のヌクレオチドが、細胞内酵素、例えば限定するものではないがある種のヌクレアーゼ、の活性化を防止または阻害するために修飾される場合もある。細胞内酵素の活性化を阻害する技法は当分野で知られており、例えば限定するものではないが2’−アミノ修飾、2’−フルオロ修飾、2’−アルキル修飾、非荷電性バックボーン修飾、モルホリノ修飾、2’−O−メチル修飾、およびホスホロアミデートが挙げられる(例えば、Wagner, Nat. Med. (1995) 1:1116-8
を参照)。したがって、dsRNA上のヌクレオチドの少なくとも1つの2’−ヒドロキシル基が、化学基、好ましくは2’−フルオロまたは2’−O−メチル基によって置換される。さらに、少なくとも1つのヌクレオチドがロックされたヌクレオチドを形成するように修飾されてもよい。そのようなロックされたヌクレオチドは、リボースの2’位の酸素をリボースの4’位の炭素に接続するメチレン架橋またはエチレン架橋を含んでいる。ロックされたヌクレオチドを有するオリゴヌクレオチドは、Koshkin, A.A., et al., Tetrahedron (1998), 54: 3607-3630およびObika, S. et al., Tetrahedron Lett. (1998), 39: 5401-5404に記載されている。ロックされたヌクレオチドをオリゴヌクレオチドに導
入することにより、相補配列への親和性が改善され、融解温度が数度上昇する(Braasch,
D.A. and D.R. Corey, Chem. Biol. (2001), 8:1-7)。
【0057】
dsRNAにリガンドをコンジュゲートすることにより、dsRNAの細胞内吸収を増強することができる。ある例では、細胞膜の直接的な透過を促進するために、疎水性リガンドがdsRNAにコンジュゲートされる。あるいは、dsRNAにコンジュゲートされるリガンドは、受容体依存性エンドサイトーシスの基質である。これらの手法はアンチセンスオリゴヌクレオチドの細胞浸透を促進するために使用されてきた。例えば、コレステロールが様々なアンチセンスオリゴヌクレオチドにコンジュゲートされた結果、非コンジュゲート型の類似物と比較して非常に高活性の化合物が生じている。M. Manoharan Antisense and Nucleic Acid Drug Development 2002, 12, 103を参照されたい。オリゴヌクレオチドにコンジュゲートされたその他の親油性化合物には、1−ピレン酪酸、1,3−ビス−O−(ヘキサデシル)グリセロールおよびメントールが含まれる。受容体依存性エンドサイトーシスのリガンドの一例は葉酸である。葉酸は、葉酸受容体依存性エンドサイトーシスによって細胞に入る。葉酸を有しているdsRNA化合物は、葉酸受容体依存性エンドサイトーシスによって効率的に細胞内に輸送されるであろう。リ(Li)および共同研究者は、オリゴヌクレオチドの3’末端に葉酸を取り付けた結果、該オリゴヌクレオチドの細胞による取り込みが8倍増加したと報告している(Li, S.; Deshmukh, H. M.; Huang, L. Pharm. Res. 1998, 15, 1540)。オリゴヌクレオチドにコンジュゲートされたその
他のリガンドには、ポリエチレングリコール、炭水化物クラスタ、架橋剤、ポルフィリンコンジュゲート、および送達ペプチドが含まれる。
【0058】
ある種の例では、オリゴヌクレオチドにカチオン性リガンドをコンジュゲートすることにより、ヌクレアーゼに対する耐性が改善されることが多い。カチオン性リガンドの代表的な例は、プロピルアンモニウムおよびジメチルプロピルアンモニウムである。興味深いことに、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、カチオン性リガンドが該オリゴヌクレオチド全体にわたって分散された時にmRNAに対する高い結合親和性を保持することが報告された。M. Manoharan, Antisense and Nucleic Acid Drug Development 2002, 12, 103
ならびに同文献に記載の参照文献を参照されたい。
【0059】
リガンドがコンジュゲートされた(以降、本明細書では「リガンドコンジュゲート型」とも称する)本発明のdsRNAは、ペンダントされた反応性官能基、例えば該dsRNA上への連結分子の取り付けに由来するもの、を有するdsRNAを使用して合成されうる。この反応性オリゴヌクレオチドは、市販のリガンド、様々な保護基のうち任意のものを備えて合成されたリガンド、あるいは連結部分が取り付けられているリガンドと、直接反応させることができる。本発明の方法は、一部の好ましい実施形態において、リガンドと適切にコンジュゲートされており、かつ固体支持体材料にさらに取り付けられている場合もあるヌクレオシドモノマーを使用することにより、リガンドコンジュゲート型dsRNAの合成を促進する。任意選択で固体支持体材料に取り付けられたそのようなリガンド・ヌクレオシドコンジュゲートは、選択された血清結合性リガンドを、ヌクレオシドまたはオリゴヌクレオチドの5’位に配置された連結部分と反応させることによって、本発明の方法のいくつかの好ましい実施形態に従って調製される。ある例では、dsRNAの3’末端にアラルキルリガンドが取り付けられているdsRNAが、長鎖アミノアルキル基を介して多孔質ガラス支持体にモノマー・ビルディングブロックを最初に共有結合させることにより調製される。その後、該固体支持体に結合したモノマー・ビルディングブロックに、標準的な固相合成技術によってヌクレオチドを結合させる。モノマー・ビルディングブロックは、ヌクレオシドでもよいし、固相合成に適合したその他の有機化合物でもよい。
【0060】
本発明のコンジュゲートに使用されるdsRNAは、よく知られた固相合成法によって便利に日常的な作業で作製されうる。そのような合成のための装置は、例えばアプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)(米国カリフォルニア州フォスターシティ所在)などのいくつかの業者から販売されている。当分野で既知のそのような合成のための他
の手段も、追加として、あるいは代替として使用可能である。さらに、ホスホロチオエートおよびアルキル化誘導体のような他のオリゴヌクレオチドを調製するために同様の技法を使用することも周知である。
【0061】
特定の修飾オリゴヌクレオチドの合成に関する教示は、以下の米国特許文献に見出すことができる。すなわち、ポリアミンをコンジュゲートしたオリゴヌクレオチドについては米国特許第5,138,045号および同第5,218,105号;キラルのリン結合を有するオリゴヌクレオチドを調製するためのモノマーについては米国特許第5,212,295号;修飾バックボーンを有するオリゴヌクレオチドについては米国特許第5,378,825号および同第5,541,307号;バックボーン修飾型オリゴヌクレオチドおよび還元的カップリングによる該オリゴヌクレオチドの調製については米国特許第5,386,023号;3−デアザプリン環系の修飾核酸塩基およびその合成法については米国特許第5,457,191号;N−2置換プリン系の修飾核酸塩基については米国特許第5,459,255号;キラルのリン結合を有するオリゴヌクレオチドを調製するプロセスについては米国特許第5,521,302号;ペプチド核酸については米国特許第5,539,082号;β−ラクタムのバックボーンを有するオリゴヌクレオチドについては米国特許第5,554,746号;オリゴヌクレオチド合成の方法および材料については米国特許第5,571,902号;アルキルチオ基を有するヌクレオシドであって、該アルキルチオ基が、ヌクレオシドの様々な部位のうち任意の部位に取り付けられた他の部分に対するリンカーとして使用されうるヌクレオシド、については米国特許第5,578,718号;キラル純度の高いホスホロチオエート結合を有するオリゴヌクレオチドについては米国特許第5,587,361号および同第5,599,797号;2’−O−アルキルグアノシンおよび関連化合物、例えば2,6−ジアミノプリン化合物、の調製プロセスについては米国特許第5,506,351号;N−2置換プリンを有するオリゴヌクレオチドについては米国特許第5,587,469号;3−デアザプリンを有するオリゴヌクレオチドについては米国特許第5,587,470号;米国特許第5,223,168号および米国特許第5,608,046号はいずれもコンジュゲートされた4’−デスメチルヌクレオシド・アナログに関し;バックボーン修飾型オリゴヌクレオチド・アナログについては米国特許第5,602,240号および同第5,610,289号;とりわけ2’−フルオロ−オリゴヌクレオチドの合成方法については米国特許第6,262,241号および同第5,459,255号、である。
【0062】
本発明の、リガンドコンジュゲート型dsRNAおよびリガンド分子を有する配列特異的な連結ヌクレオシドにおいて、オリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオシドは、ヌクレオチドまたはヌクレオシドの標準的な前駆体、あるいは、既に連結部分を有しているヌクレオチドまたはヌクレオシド‐コンジュゲート前駆体、既にリガンド分子を有しているリガンド‐ヌクレオチドまたはヌクレオシド‐コンジュゲート前駆体、あるいは、リガンドを有する非ヌクレオシドのビルディングブロック、を利用して適切なDNA合成装置にて構築可能である。
【0063】
既に連結部分を有しているヌクレオチド‐コンジュゲート前駆体を使用する場合、配列特異的な連結ヌクレオシドの合成が通常完了してから、リガンド分子を連結部分と反応させて、リガンドコンジュゲート型のオリゴヌクレオチドを形成させる。ステロイド、ビタミン、脂質およびレポーター分子のような様々な分子を有するオリゴヌクレオチド‐コンジュゲートについては、以前に報告されている(Manoharan et al., PCT Application WO
93/07883を参照)。好ましい実施形態では、本発明のオリゴヌクレオチドまたは連結ヌ
クレオシドは、リガンド‐ヌクレオシドコンジュゲート由来のホスホロアミダイト、ならびに標準的なホスホロアミダイトおよび市販され日常的にオリゴヌクレオチド合成で使用される非標準的なホスホロアミダイトを使用して、自動合成装置によって合成される。
【0064】
2’−O−メチル基、2’−O−エチル基、2’−O−プロピル基、2’−O−アリル基、2’−O−アミノアルキル基または2’−デオキシ−2’−フルオロ基をオリゴヌクレオチドのヌクレオシドに組み入れることにより、該オリゴヌクレオチドに増強されたハイブリダイゼーション特性が付与される。さらに、ホスホロチオエート・バックボーンを有するオリゴヌクレオチドは、ヌクレアーゼ安定性が強化されている。したがって、本発明の、官能化された連結ヌクレオシドは、ホスホロチオエート・バックボーン、あるいは、2’−O−メチル基、2’−O−エチル基、2’−O−プロピル基、2’−O−アミノアルキル基、2’−O−アリル基または2’−デオキシ−2’−フルオロ基のうちいずれかまたは両方を含むように補強される場合がある。
【0065】
いくつかの好ましい実施形態では、5’末端にアミノ基を有する本発明の官能化ヌクレオシド配列がDNA合成装置を使用して調製され、次いで、選択されたリガンドの活性エステル誘導体との反応に供される。活性エステル誘導体は当業者にはよく知られている。代表的な活性エステルには、N−ヒドロスクシンイミドエステル、テトラフルオロフェノールエステル、ペンタフルオロフェノールエステルおよびペンタクロロフェノールエステルが挙げられる。アミノ基と活性エステルとの反応により、選択されたリガンドが連結基を介して5’位に取り付けられたオリゴヌクレオチドが生じる。5’末端のアミノ基は5’−Amino−Modifier C6試薬を利用して調製することができる。好ましい実施形態では、リガンド分子は、リガンドがリンカーを介して直接あるいは間接的に5’−ヒドロキシ基に連結されているリガンド‐ヌクレオシドホスホロアミダイトの使用により、オリゴヌクレオチドの5’位にコンジュゲートされる場合がある。そのようなリガンド‐ヌクレオシドホスホロアミダイトは、リガンドがコンジュゲートされたオリゴヌクレオチドであって5’末端に該リガンドを有しているものを提供するために、通常自動合成手順の最後に使用される。
【0066】
本発明の方法の1つの好ましい実施形態では、リガンドがコンジュゲートされたオリゴヌクレオチドの調製は、リガンド分子を構築するための適切な前駆体分子を選択することから始まる。通常、前駆体は一般に用いられているヌクレオシドが適切に保護された誘導体である。例えば、本発明のリガンドコンジュゲート型オリゴヌクレオチドを合成するための合成前駆体には、限定されるものではないが、2’−アミノアルコキシ−5’−ODMT−ヌクレオシド、2’−6−アミノアルキルアミノ−5’−ODMT−ヌクレオシド、5’−6−アミノアルコキシ−2’−デオキシヌクレオシド、5’−6−アミノアルコキシ−2−保護ヌクレオシド、3’−6−アミノアルコキシ−5’−ODMT−ヌクレオシド、ならびに3’−アミノアルキルアミノ−5’−ODMT−ヌクレオシドであって該分子の核酸塩基部分に保護がなされている場合もあるもの、が挙げられる。このようなアミノが連結された保護ヌクレオシド前駆体の合成方法は、当業者にはよく知られている。
【0067】
多くの場合、本発明の化合物の調製の際に保護基が使用される。本明細書中で使用されるように、用語「保護(された)」とは、指定部分に保護基が付加されていることを意味する。本発明のいくつかの好ましい実施形態では、化合物は1つ以上の保護基を含んでいる。種々様々の保護基を本発明の方法において使用することができる。一般に、保護基は、化学官能基を特定の反応条件に対して不活性化し、かつ、分子の残り部分をほとんど損ねることなく該分子中のそのような官能基に付加されたり該官能基から除去されたりすることができる。
【0068】
代表的なヒドロキシル保護基は、例えば、Beaucage et al., Tetrahedron, 1992, 48:2223-2311に開示されている。さらなるヒドロキシル保護基、ならびにその他の代表的な保護基は、Greene and Wuts, 撤rotective Groups in Organic Synthesis・ Chapter 2, 2d
ed., John Wiley and Sons, New York, 1991および 徹ligonucleotides And Analogues A Practical Approach・ Ekstein, F. Ed., IRL Press, N. Y, 1991に開示されている。
【0069】
ヒドロキシル保護基の例には、限定するものではないが、t−ブチル、t−ブトキシメチル、メトキシメチル、テトラヒドロピラニル、1‐エトキシエチル、1‐(2−クロロエトキシ)エチル、2−トリメチルシリルエチル、p−クロロフェニル、2,4−ジニトロフェニル、ベンジル、2,6−ジクロロベンジル、ジフェニルメチル、p,p’−ジニトロベンズヒドリル、p−ニトロベンジル、トリフェニルメチル、トリメチルシリル、トリエチルシリル、t−ブチルジメチルシリル、t−ブチルジフェニルシリル、トリフェニルシリル、ベンゾイルホルメート、アセテート、クロロアセテート、トリクロロアセテート、トリフルオロアセテート、ピバロエート、ベンゾエート、p−フェニルベンゾエート、9−フルオレニルメチルカーボネート、メシレートおよびトシラートが含まれる。
【0070】
酸処理に安定なアミノ保護基は塩基処理で選択的に除去され、反応性アミノ基を置換のために選択的に利用可能にするために使用される。そのような基の例は、Fmoc(E. Atherton and R. C. Sheppard in 典he Peptides・ S. Udenfriend, J. Meienhofer, Eds., Academic Press, Orlando, 1987, volume 9, p.1)およびNsc基を例とする様々な置換スルホニルエチルカルバメート(Samukov et al., Tetrahedron Lett., 1994, 35:7821; Verhart and Tesser, Rec. Trav. Chim. Pays-Bas, 1987, 107:621)である。
【0071】
さらなるアミノ保護基には、限定するものではないが、カルバメート保護基、例えば2−トリメチルシリルエトキシカルボニル(Teoc)、1−メチル−1−(4−ビフェニリル)エトキシカルボニル(Bpoc)、t−ブトキシカルボニル(BOC)、アリルオキシカルボニル(Alloc)、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)、およびベンジルオキシカルボニル(Cbz);アミド保護基、例えばホルミル、アセチル、トリハロアセチル、ベンゾイル、およびニトロフェニルアセチル;スルホンアミド保護基、例えば2−ニトロベンゼンスルホニル;ならびに、イミンおよび環式イミド保護基、例えばフタルイミドおよびジチアスクシノイル、が挙げられる。これらのアミノ保護基の同等物も、本発明の化合物および方法に包含される。
【0072】
多くの固体支持体が市販されており、当業者であれば固相合成ステップで使用される固体支持体を容易に選択することができる。ある実施形態では、万能支持体が使用される。万能支持体は、3’末端に異常ヌクレオチドまたは修飾ヌクレオチドを有するオリゴヌクレオチドの調製を可能にする。Universal Support 500およびUniversal Support IIは、米国22825バージニア州スターリング、デイビスドライブ所在のグレン・リサーチ(Glen Research)から市販されている万能支
持体である。万能支持体に関するさらなる詳細については、Scott et al., Innovations and Perspectives in solid-phase Synthesis, 3rd International Symposium, 1994, Ed. Roger Epton, Mayflower Worldwide, 115-124;Azhayev, A. V. Tetrahedron 1999, 55, 787-800;およびAzhayev and Antopolsky Tetrahedron 2001, 57, 4977-4986を参照さ
れたい。さらに、より容易に塩基性加水分解を受けるsyn−1,2−アセトキシホスフェート基を介してオリゴヌクレオチドが固体支持体に結合される場合は、オリゴヌクレオチドはより穏やかな反応条件下で万能支持体から切断されうることが報告されている。Guzaev, A. L; Manoharan, M. J Am. Chem. Soc. 2003, 125, 2380を参照のこと。
【0073】
上記ヌクレオシドは、リンを含むかまたはリンを含まないヌクレオシド間共有結合により連結される。確認しておくと、そのようなコンジュゲートされたヌクレオシドは、リガンドを有しているヌクレオシドまたはリガンド−ヌクレオシドコンジュゲートと見なすことができる。ヌクレオシド配列内のヌクレオシドにアラルキルリガンドがコンジュゲートされている連結ヌクレオシドは、コンジュゲートされていないdsRNA化合物と比較して高いdsRNA活性を示すであろう。
【0074】
本発明のアラルキルリガンドがコンジュゲートされたオリゴヌクレオチドはさらに、リンカー基の仲介を伴わずにヌクレオシドまたはヌクレオチドにリガンドが直接取り付けられているオリゴヌクレオチドおよび連結ヌクレオシドのコンジュゲートも含む。リガンドは、連結基を介して、リガンドのカルボキシル基、アミノ基、またはオキソ基で取り付けられることが好ましい場合もある。典型的な連結基は、エステル、アミドまたはカルバメート基でよい。
【0075】
本発明のリガンドコンジュゲート型オリゴヌクレオチドに使用するために想定される好ましい修飾オリゴヌクレオチドの具体例には、修飾バックボーンまたは非天然のヌクレオシド間結合を有するオリゴヌクレオチドが挙げられる。ここで定義されるように、修飾型のバックボーンまたはヌクレオシド間結合を有するオリゴヌクレオチドには、バックボーン中にリン原子を保持しているものと、バックボーンにリン原子を持たないものとが含まれる。本発明に関しては、糖の間のバックボーンにリン原子のない修飾オリゴヌクレオチドも、オリゴヌクレオシドであると考えることができる。
【0076】
具体的なオリゴヌクレオチド化学修飾について下記に述べる。所与の化合物中のすべての部位が一様に修飾される必要はない。逆に、2以上の修飾が単一のdsRNA化合物に、または該dsRNA化合物の単一のヌクレオチドに組み入れられることもある。
【0077】
好ましい修飾型のヌクレオシド間結合またはバックボーンには、例えば、ホスホロチオエート、キラルのホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホトリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、メチルおよびその他のアルキルホスホネート、例えば3’−アルキレンホスホネートおよびキラルのホスホネート、ホスフィネート、ホスホロアミデート、例えば3’−アミノホスホロアミデートおよびアミノアルキルホスホロアミデート、チオノホスホロアミデート、チオノアルキルホスホネート、チオノアルキルホスホトリエステル、ならびに、正常な3’−5’結合を有するボラノホスフェート、その2’−5’結合アナログ、および隣接するヌクレオシドユニット対が3’−5’→5’−3’または2’−5’→5’−2’に連結されている逆方向のもの、が挙げられる。様々な塩、混合塩および遊離酸の形のものも含まれる。
【0078】
上記のリン原子を含む結合の調製に関連する代表的な米国特許文献には、限定するものではないが、米国特許第3,687,808号;同第4,469,863号;同第4,476,301号;同第5,023,243号;同第5,177,196号;同第5,188,897号;同第5,264,423号;同第5,276,019号;同第5,278,302号;同第5,286,717号;同第5,321,131号;同第5,399,676号;同第5,405,939号;同第5,453,496号;同第5,455,233号;同第5,466,677号;同第5,476,925号;同第5,519,126号;同第5,536,821号;同第5,541,306号;同第5,550,111号;同第5,563,253号;同第5,571,799号;同第5,587,361号;同第5,625,050号;および同第5,697,248号があり、これらは各々参照によって本願に組込まれる。
【0079】
好ましい修飾型のヌクレオシド間結合またはバックボーンであってその中(すなわち、オリゴヌクレオシド中)にリン原子を含んでいないものは、短鎖アルキルまたはシクロアルキルの糖間結合、ヘテロ原子およびアルキルまたはシクロアルキルの糖間結合の混合したもの、あるいは1以上の短鎖ヘテロ原子またはヘテロ環式の糖間結合により形成されるバックボーンを有する。これらには、モルホリノ結合(一部はヌクレオシドの糖部分から形成される)を有するもの;シロキサンのバックボーン;スルフィド、スルホキシドおよびスルホンのバックボーン;ホルムアセチルおよびチオホルムアセチルのバックボーン;メチレンホルムアセチルおよびメチレンチオホルムアセチルのバックボーン;アルケンを
含んでいるバックボーン;スルファメートのバックボーン;メチレンイミノおよびメチレンヒドラジノのバックボーン;スルホネートおよびスルホンアミドのバックボーン;アミドのバックボーン;ならびに構成部分N、O、SおよびCHが混在するその他のもの、が挙げられる。
【0080】
上記のオリゴヌクレオシドの調製に関連する代表的な米国特許文献には、限定するものではないが、米国特許第5,034,506号;同第5,166,315号;同第5,185,444号;同第5,214,134号;同第5,216,141号;同第5,235,033号;同第5,264,562号;同第5,264,564号;同第5,405,938号;同第5,434,257号;同第5,466,677号;同第5,470,967号;同第5,489,677号;同第5,541,307号;同第5,561,225号;同第5,596,086号;同第5,602,240号;同第5,610,289号;同第5,602,240号;同第5,608,046号;同第5,610,289号;同第5,618,704号;同第5,623,070号;同第5,663,312号;同第5,633,360号;同第5,677,437号;および同第5,677,439号があり、これらは各々参照によって本願に組込まれる。
【0081】
他の好ましいオリゴヌクレオチドミメティックでは、ヌクレオシドユニットの糖およびヌクレオシド間結合(つまりバックボーン)の両方が、新しい基で置換される。核酸塩基ユニットは、適切な核酸標的化合物とのハイブリダイゼーションのために維持される。そのようなオリゴヌクレオチド(オリゴヌクレオチドミメティック)であって、優れたハイブリダイゼーション特性を有することが示されたものは、ペプチド核酸(PNA)と呼ばれる。PNA化合物では、オリゴヌクレオチドの糖バックボーンは、アミドを含むバックボーン、特にアミノエチルグリシンバックボーンで置換される。核酸塩基は保持され、バックボーンのアミド部分の原子に直接または間接的に結合している。PNA化合物の調製について教示する代表的な米国特許文献には、限定するものではないが、米国特許第5,539,082号;同第5,714,331号;および同第5,719,262号があり、これらは各々参照によって本願に組込まれる。PNA化合物についてのさらなる教示は、Nielsen et al., Science, 1991, 254, 1497に見られる。
【0082】
本発明のいくつかの好ましい実施形態は、ホスホロチオエート結合を備えたオリゴヌクレオチドおよびヘテロ原子バックボーンを備えたオリゴヌクレオシド、特に、上記に引用された米国特許第5,489,677号の‐CH‐NH‐O‐CH‐、‐CH‐N(CH)‐O‐CH‐[メチレン(メチルイミノ)またはMMIバックボーンとして知られる]、‐CH‐O‐N(CH)‐CH‐、‐CH‐N(CH)‐N(CH)‐CH‐、および‐O‐N(CH)‐CH‐CH‐[天然のホスホジエステルのバックボーンは、‐O‐P‐O‐CH‐として表される]、および上記に引用された米国特許第5,602,240号のアミドバックボーンを使用する。さらに好ましいのは、上記に引用された米国特許第5,034,506号のモルホリノバックボーン構造を有するオリゴヌクレオチドである。
【0083】
本発明のリガンドコンジュゲート型オリゴヌクレオチドにおいて使用されるオリゴヌクレオチドは、追加として、または別例として核酸塩基(当分野では単に「塩基」と呼ばれることが多い)の修飾または置換を含む場合がある。本明細書中で使用されるように、「未修飾の」または「天然の」核酸塩基には、プリン塩基のアデニン(A)およびグアニン(G)、ならびにピリミジン塩基のチミン(T)、シトシン(C)およびウラシル(U)が含まれる。修飾核酸塩基には、その他の合成および天然の核酸塩基、例えば5−メチルシトシン(5−me−C)、5−ヒドロキシメチルシトシン、キサンチン、ヒポキサンチン、2−アミノアデニン、アデニンおよびグアニンの6−メチル(および他のアルキル)誘導体、アデニンおよびグアニンの2−プロピル(および他のアルキル)誘導体、2−チ
オウラシル、2−チオチミンおよび2−チオシトシン、5−ハロウラシルおよび5−ハロシトシン、5−プロピニルウラシルおよび5−プロピニルシトシン、6−アゾウラシル、6−アゾシトシンおよび6−アゾチミン、5−ウラシル(プソイドウラシル)、4−チオウラシル、8−ハロ、8−アミノ、8−チオール、8−チオアルキル、8−ヒドロキシルおよびその他の8−置換型のアデニンおよびグアニン、5−ハロ、特に5−ブロモ、5−トリフルオロメチルおよびその他の5−置換型のウラシルおよびシトシン、7−メチルグアニンおよび7−メチルアデニン、8−アザグアニンおよび8−アザアデニン、7−デアザグアニンおよび7−デアザアデニン、ならびに3−デアザグアニンおよび3−デアザアデニン、が含まれる。
【0084】
さらなる核酸塩基には、米国特許第3,687,808号に開示されているもの、Co ncise Encyclopedia Of Polymer Science And Engineering, pages 858-859, Kroschwitz,
J. L, ed. John Wiley and Sons, 1990に開示されているもの、Englisch et al., Angewandte Chemie, International Edition, 1991, 30, 613に開示されているもの、およびSanghvi, Y. S., Chapter 15, Antisense Research and Applications, pages 289-302, Crooke, S. T. and Lebleu, B., ed., CRC Press, 1993に開示されているものが挙げられる。これらの核酸塩基のうちあるものは、本発明のオリゴヌクレオチドの結合親和性を増大させるのに特に有用である。それらには、5−置換ピリミジン、6−アザピリミジン、およびN−2、N−6およびO−6置換プリン、例えば2−アミノプロピルアデニン、5−プロピニルウラシルおよび5−プロピニルシトシンが挙げられる。5−メチルシトシン置換は核酸二重鎖の安定性を0.6〜1.2℃上昇させることが示されており、(前掲、276−278ページ)、また現時点で好ましい塩基置換であり、2’−メトキシエチル糖修飾と併用した場合はさらに一層好ましい。
【0085】
上記の修飾核酸塩基ならびにその他の修飾核酸塩基のうち一部の調製に関連する代表的な米国特許文献には、限定するものではないが、上述の米国特許第3,687,808号、ならびに米国特許第4,845,205号;同第5,130,302号;同第5,134,066号;同第5,175,273号;同第5,367,066号;同第5,432,272号;同第5,457,187号;同第5,459,255号;同第5,484,908号;同第5,502,177号;同第5,525,711号;同第5,552,540号;同第5,587,469号;同第5,594,121号、同第5,596,091号;同第5,614,617号;同第5,681,941号;および同第5,808,027号;があり、これらはいずれも参照によって本願に組込まれる。
【0086】
ある実施形態では、本発明のリガンドコンジュゲート型オリゴヌクレオチドに使用されるオリゴヌクレオチドは、追加として、または別例として1つ以上の置換型糖部分を含む場合がある。好ましいオリゴヌクレオチドは、2’位に、以下のもの、すなわち:OH;F;O−、S−、またはN−アルキル、O−、S−、またはN−アルケニル、あるいはO−、S−、またはN−アルキニル(該アルキル、アルケニルおよびアルキニルは置換または非置換のC〜C10アルキルまたはC〜C10アルケニルおよびアルキニル)のうちの1つを含む。特に好ましいのは、O[(CHO]CH、O(CHOCH、O(CHNH、O(CHCH、O(CHONH、およびO(CHON[(CHCH)]であり、式中、nおよびmは1から約10までである。その他の好ましいオリゴヌクレオチドは、2’位に、以下のもの、すなわち:C〜C10低級アルキル、置換された低級アルキル、アルカリル、アラルキル、O−アルカリルまたはO−アラルキル、SH、SCH、OCN、Cl、Br、CN、CF、OCF、SOCH、SO CH、ONO、NO、N、NH、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルカリル、アミノアルキルアミノ、ポリアルキルアミノ、置換されたシリル、RNAを開裂する基、レポーター基、インターカレータ、オリゴヌクレオチドの薬物動態学的特性を改善するための基、またはオリゴヌクレオチドの薬力
学的特性を改善するための基、ならびに同様の特性を有するその他の置換基、のうちの1つを含む。好ましい修飾には、2’−メトキシエトキシ[2’−O−CHCHOCH、さらに2’−O−(2−メトキシエチル)もしくは2’−MOEとしても知られている](Martin et al, Helv. Chim. Acta, 1995, 78, 486)、つまりアルコキシアルコキ
シ基が挙げられる。さらなる好ましい修飾には、1998年1月30日出願の米国特許第6,127,533号明細書(内容は参照により組込まれる)に記載の2’−ジメチルアミノオキシエトキシ、すなわちO(CHON(CH基(2’−DMAOEとしても知られている)がある。
【0087】
他の好ましい修飾には、2’−メトキシ(2’−O−CH)、2’−アミノプロポキシ(2’−OCHCHCHNH)および2’−フルオロ(2’−F)がある。同様の修飾が、オリゴヌクレオチド上の他の部位に、特に3’末端のヌクレオチド上または2’−5’結合したオリゴヌクレオチド中の糖の3’位になされてもよい。
【0088】
本明細書中で使用されるように、用語「糖置換基」または「2’−置換基」には、酸素原子とともに、または酸素原子を伴わずにリボフラノシル部分の2’位に取り付けられる基が挙げられる。糖置換基には、限定するものではないが、フルオロ、O−アルキル、O−アルキルアミノ、O−アルキルアルコキシ、保護されたO−アルキルアミノ、O−アルキルアミノアルキル、O−アルキルイミダゾールおよび式(O−アルキル)(mは1から約10まで)のポリエーテルがある。これらのポリエーテルのうち好ましいものは、直鎖状および環状のポリエチレングリコール(PEG)、および(PEG)含有基、例えばクラウンエーテルならびにOuchi et al., Drug Design and Discovery 1992, 9:93;Ravasio et al., J. Org. Chem. 1991, 56:4329;およびDelgardo et al., Critical Reviews
in Therapeutic Drug Carrier Systems 1992, 9:249(各々その全体が参照により本願に組み込まれる)に開示されているものである。さらなる糖修飾はCook, Anti-pain Drug Design, 1991, 6:585-607に開示されている。フルオロ、O−アルキル、O−アルキルアミノ、O−アルキルイミダゾール、O−アルキルアミノアルキル、およびアルキルアミノ置換は、「Oligomeric Compounds having Pyrimidine Nucleotide(s) with 2' and 5' Substitutions」という発明の名称の米国特許第6,166,197号明細書(全体が参照に
より本願に組み込まれる)に述べられている。
【0089】
本発明に適したさらなる糖置換基には、2’−SR基および2’−NR基(ここでRはそれぞれ独立に水素、保護基または置換もしくは非置換のアルキル、アルケニルあるいはアルキニルである)が含まれる。2’−SRヌクレオシドは米国特許第5,670,633号(全体が参照により本願に組み込まれる)に開示されている。2’−SRモノマーのシントンの組み込みは、Hamm et al., J Org. Chem., 1997, 62:3415-3420に開示され
ている。2’−NRヌクレオシドは、Goettingen, M., J. Org. Chem., 1996, 61, 6273-6281およびPolushin et al., Tetrahedron Lett., 1996, 37, 3227-3230に開示されてい
る。本発明に適したさらなる代表的な2’−置換基には、式IまたはIIのうちの1つを有するものが挙げられる。
【0090】
【化1】

上記式中、
Eは、C〜C10アルキル、N(Q)(Q)またはN=C(Q)(Q)であり;QおよびQはそれぞれ独立に、H、C〜C10アルキル、ジアルキルアミノアルキル、窒素保護基、係留部を備えているかまたは係留部を備えていないコンジュゲート基、固体支持体へのリンカーであるか;あるいは、QおよびQが一緒になって、窒素保護基または環状構造であってNおよびOから選択された少なくとも1つの追加のヘテロ原子を任意選択で含むものを形成し;
は1〜10の整数であり;
は1〜10の整数であり;
は0または1であり;
は0、1または2であり;
、ZおよびZはそれぞれ、独立に、C〜Cシクロアルキル、C〜C14アリールまたはC〜C15ヘテロシクリルであって、前記ヘテロシクリル基のヘテロ原子は酸素、窒素および硫黄から選択され;
は、OM、SM、またはN(Mであって;Mはそれぞれ、独立に、H、C〜Cアルキル、C〜Cハロアルキル、C(=NH)N(H)M、C(=O)N(H)MまたはOC(=O)N(H)Mであり;MはHまたはC〜Cアルキルであり;
は、C〜C10アルキル、C〜C10ハロアルキル、C〜C10アルケニル、C〜C10アルキニル、C〜C14アリール、N(Q)(Q)、OQ、ハロ、SQまたはCNである。
【0091】
代表的な式Iの2’−O−糖置換基は、「Capped 2'-Oxyethoxy Oligonucleotides」という発明の名称の米国特許第6,172,209号明細書(参照によってその全体が本願に組み込まれる)に開示されている。代表的な式IIの環式2’−O−糖置換基は、「RNA Targeted 2'-Modified Oligonucleotides that are Conformationally Preorganized」という発明の名称の米国特許第6,271,358号明細書(参照によってその全体が本願に組み込まれる)に開示されている。
【0092】
さらに、リボシルの環の上にO−置換基を有する糖も本発明に適している。環のOについての代表的な置換基には、限定するものではないが、S、CH、CHF、およびCFがある。例えば、Secrist et al., Abstract 21, Program and Abstracts, Tenth International Roundtable, Nucleosides, Nucleotides and their Biological Applications, Park City, Utah, Sep. 16-20, 1992を参照のこと。
【0093】
オリゴヌクレオチドは、糖ミメティック、例えばシクロブチル部分をペントフラノシル糖の代わりに有していてもよい。そのような修飾糖の調製に関連した代表的な米国特許文献には、限定するものではないが、米国特許第4,981,957号;同第5,118,800号;同第5,319,080号;同第5,359,044号;同第5,393,878号;同第5,446,137号;同第5,466,786号;同第5,514,78
5号;同第5,519,134号;同第5,567,811号;同第5,576,427号;同第5,591,722号;同第5,597,909号;同第5,610,300号;同第5,627、0531号 同第5,639,873号;同第5,646,265号;同第5,658,873号;同第5,670,633号;同第5,700,920号;また同第5,859,221号があり、これらはいずれも参照によって本願に組込まれる。
【0094】
追加の修飾が、オリゴヌクレオチド上の別の部位に、特に3’末端ヌクレオチド上の糖の3’位に施されてもよい。例えば、本発明のリガンドコンジュゲート型オリゴヌクレオチドに修飾を1つ追加することは、オリゴヌクレオチドの活性、細胞内分布または細胞への取り込みを増強する1つ以上の追加のリガンド以外の部分またはコンジュゲートを、オリゴヌクレオチドに化学結合させることを意味する。そのような部分としては、限定するものではないが、脂質部分、例えばコレステロール部分(Letsinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1989, 86, 6553)、コール酸(Manoharan et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. , 1994, 4, 1053)、チオエーテル、例えばヘキシル−S−トリチルチオール(Manoharan et al., Ann. NY. Acad. Sci., 1992, 660, 306; Manoharan et al., Bioorg.
Med. Chem. Let, 1993, 3, 2765)、チオコレステロール(Oberhauser et al., Nucl. Acids Res., 1992, 20, 533)、脂肪鎖、例えばドデカンジオール残基またはウンデシル残基(Saison-Behmoaras et al., EMBO J., 1991, 10, 111; Kabanov et al., FEBS Lett.,
1990, 259, 327; Svinarchuk et al., Biochimie, 1993, 75, 49)、リン脂質、例えば
ジヘキサデシル−rac−グリセロールまたはトリエチルアンモニウム1,2−ジ−O−ヘキサデシル−rac−グリセロ−3−H−ホスホネート(Manoharan et al., Tetrahedron Lett, 1995, 36, 3651; Shea et al., Nucl. Acids Res., 1990, 18, 3777)、ポリ
アミン鎖またはポリエチレングリコール鎖(Manoharan et al., Nucleosides and Nucleotides, 1995, 14, 969)、あるいはアダマンタン酢酸(Manoharan et al., Tetrahedron Lett, 1995, 36, 3651)、パルミチル部分(Mishra et al., Biochim. Biophys. Acta, 1995, 1264, 229)、あるいはオクタデシルアミンまたはヘキシルアミノ−カルボニル−オキシコレステロール部分(Crooke et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 1996, 277, 923
)がある。
【0095】
そのようなオリゴヌクレオチドコンジュゲートの調製に関連する代表的な米国特許文献には、限定するものではないが、米国特許第4,828,979号;同第4,948,882号;同第5,218,105号;同第5,525,465号;同第5,541,313号;同第5,545,730号;同第5,552,538号;同第5,578,717号、同第5,580,731号;同第5,580,731号;同第5,591,584号;同第5,109,124号;同第5,118,802号;同第5,138,045号;同第5,414,077号;同第5,486,603号;同第5,512,439号;同第5,578,718号;同第5,608,046号;同第4,587,044号;同第4,605,735号;同第4,667,025号;同第4,762,779号;同第4,789,737号;
同第4,824,941号;同第4,835,263号;同第4,876,335号;同第4,904,582号;同第4,958,013号;同第5,082,830号;同第5,112,963号;同第5,214,136号;同第5,082,830号;同第5,112,963号;同第5,214,136号;同第5,245,022号;同第5,254,469号;同第5,258,506号;同第5,262,536号;同第5,272,250号;同第5,292,873号;同第5,317,098号;同第5,371,241号、同第5,391,723号;同第5,416,203号、同第5,451,463号;同第5,510,475号;同第5,512,667号;同第5,514,785号;同第5,565,552号;同第5,567,810号;同第5,574,142号;同第5,585,481号;同第5,587,371号;同第5,595,72
6号;同第5,597,696号;同第5,599,923号;同第5,599,928号;および同第5,688,941号があり、これらは各々が参照によって本願に組込まれる。
【0096】
本発明はさらに、オリゴヌクレオチド内の特定の部位についてキラルに関してほぼ純粋なオリゴヌクレオチドを使用する組成物も含んでいる。キラルに関してほぼ純粋なオリゴヌクレオチドの例には、限定するものではないが、少なくとも75%のSpまたはRpであるホスホロチオエート結合を有するもの(Cook et al., U.S. Pat. No. 5,587,361)、ならびにキラルに関してほぼ純粋な(SpまたはRpの)アルキルホスホネート、ホスホロアミデートまたはホスホトリエステル結合を有するもの(Cook, placecountry-regionU.S. Pat. Nos. 5,212,295 and 5,521,302)がある。
【0097】
ある例では、オリゴヌクレオチドは非リガンド基によって修飾される場合がある。多くの非リガンド分子が、オリゴヌクレオチドの活性、細胞内分布または細胞への取り込みを増強するためにオリゴヌクレオチドにコンジュゲートされ、そのようにコンジュゲートするための手法は科学文献から入手可能である。そのような非リガンド部分は、脂質部分、例えばコレステロール(Letsinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1989, 86:6553)、コール酸(Manoharan et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. , 1994, 4:1053)、チオエーテル、例えば、ヘキシル−S−トリチルチオール(Manoharan et al., Ann. NY. Acad. Sci., 1992, 660:306; Manoharan et al., Bioorg. Med. Chem. Let, 1993, 3:2765)、チオコレステロール(Oberhauser et al., Nucl. Acids Res., 1992, 20:533)、脂肪
鎖、例えばドデカンジオール残基またはウンデシル残基(Saison-Behmoaras et al., EMBO J., 1991, 10: 111; Kabanov et al., FEBS Lett., 1990, 259:327; Svinarchuk et al., Biochimie, 1993, 75:49)、リン脂質、例えば、ジヘキサデシル−rac−グリセロ
ールまたはトリエチルアンモニウム1,2−ジ−O−ヘキサデシル−rac−グリセロ−3−H−ホスホネート(Manoharan et al., Tetrahedron Lett., 1995, 36:3651; Shea et al., Nucl. Acids Res., 1990, 18:3777)、ポリアミン鎖またはポリエチレングリコール鎖(Manoharan et al., Nucleosides and Nucleotides, 1995, 14:969)、あるいはア
ダマンタン酢酸(Manoharan et al., Tetrahedron Lett., 1995, 36:3651)、パルミチル部分(Mishra et al., Biochim. Biophys. Acta, 1995, 1264:229)、あるいはオクタデ
シルアミンまたはヘキシルアミノ−カルボニル−オキシコレステロール部分(Crooke et al., J Pharmacol. Exp. Ther., 1996, 277:923)である。そのようなオリゴヌクレオチ
ドコンジュゲートの調製を教示する代表的な米国特許文献は、上記に列挙されている。コンジュゲート実施の典型的なプロトコールは、配列の1つ以上の部位にアミノリンカーを有するオリゴヌクレオチドの合成を要する。その後、該アミノ基を、適切なカップリング剤または活性化剤を使用して、コンジュゲートさせる分子と反応させる。コンジュゲート反応は、まだ固体支持体に結合しているオリゴヌクレオチドを用いて実施してもよいし、溶液相中でオリゴヌクレオチドを切断した後に実施してもよい。HPLCによりオリゴヌクレオチドコンジュゲートを精製すると、通常純粋なコンジュゲートが得られる。
【0098】
別例として、コンジュゲートさせる分子を、該分子中に存在するアルコール性基を介して、あるいはアルコール性基(ホスフィチル化されていてもよい)を有するリンカーを取り付けることによって、ホスホロアミダイトのようなビルディングブロックに変換してもよい。
【0099】
重要なことは、上記手法のそれぞれが、リガンドがコンジュゲートされたオリゴヌクレオチドの合成に使用可能だということである。アミノが結合されたオリゴヌクレオチドは、カップリング試薬の使用により直接リガンドと接続されてもよいし、NHSまたはペンタフルオロフェノレートエステルとしてリガンドを活性化してから接続されてもよい。リガンドのホスホロアミダイトは、カルボキシル基のうちの1つにアミノヘキサノールリン
カーを取り付けてから末端のアルコール官能基をホスフィチル化することによって合成されうる。システアミンのようなその他のリンカーも、合成されたオリゴヌクレオチド上に存在するクロロアセチルリンカーにコンジュゲートするために利用可能である。
【0100】
III.dsRNAを含む医薬組成物
1つの実施形態では、本発明は、本明細書に記載されるようなdsRNAと、薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物を提供する。dsRNAを含む医薬組成物は、神経障害性疼痛または炎症性疼痛のような、Nav1.8遺伝子の発現または活性に関連した疾患または障害を治療するのに有用である。
【0101】
別の実施形態では、本発明は、Nav1.8遺伝子の異なる領域を標的とするように設計された少なくとも2つのdsRNAと、薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物を提供する。この実施形態では、個々のdsRNAは、参照によってここに組込まれる先の項に記載したように調製される。1つのdsRNAは、Nav1.8遺伝子の少なくとも1つの部分にほぼ相補的なヌクレオチド配列を有することが可能であり;追加の、各々がNav1.8遺伝子の異なる部分にほぼ相補的なヌクレオチド配列を有するdsRNAが調製される。複数のdsRNAは同じ医薬組成物中で組み合わせられてもよいし、あるいは別々に製剤化されてもよい。個々に製剤化される場合は、個別のdsRNAを含んでいる組成物は同じ担体を含んでも異なる担体を含んでもよく、同じ投与経路で投与されても異なる投与経路で投与されてもよい。さらに、個々のdsRNAを含む医薬組成物は、ほぼ同時に投与されても、連続して投与されても、あるいは投与日または治療期間を通じて予め設定された間隔で投与されてもよい。
【0102】
本発明の医薬組成物はNav1.8遺伝子の発現を抑制するのに十分な用量で投与される。本発明者らは、有効性が高められたことにより本発明のdsRNAを含む組成物を驚くほど低用量で投与することができることを見出した。1日に被投与者の体重(キログラム)あたり5mgのdsRNAを最大用量とすると、Nav1.8遺伝子の発現を抑制または完全に抑止するのに、あるいは慢性疼痛を緩和するのに十分である。
【0103】
一般に、dsRNAの適切な用量は、1日に被投与者の体重(キログラム)当たり0.01〜5.0ミリグラムの範囲、好ましくは1日に体重(キログラム)当たり0.1〜200マイクログラムの範囲、より好ましくは1日に体重(キログラム)当たり0.1〜100マイクログラムの範囲、さらに好ましくは1日に体重(キログラム)当たり1.0〜50マイクログラムの範囲、最も好ましくは1日に体重(キログラム)当たり1.0〜25マイクログラムの範囲になるであろう。医薬組成物は1日に1回投与されてもよいし、あるいは、dsRNAが、その日を通じて適切な間隔で2、3、4、5または6回以上の分割用量として、または持続注入を使用して投与されてもよい。その場合、それぞれの分割用量に含まれるdsRNAは1日あたりの合計用量を達成するように相応に少なくなるはずである。投薬単位は、数日間にわたって送達されるように、例えば、数日間にわたりdsRNAを持続的に放出する従来の徐放性剤型を使用して、調合されてもよい。徐放性剤型は当分野においてよく知られている。この実施形態では、投薬単位は1日の用量の倍数相当を含んでいる。
【0104】
当業者には当然のことであるが、ある種の要因は対象を有効に治療するために必要な投薬量およびタイミングに影響を及ぼす可能性があり、該要因は、限定するものではないが、例えばその疾患または障害の重症度、事前の治療、対象の全体的な健康状態および/または年齢、ならびにその他の疾患の存在である。さらに、治療上有効な量の組成物を用いた対象の治療は、単回の治療であってもよいし、一連の治療を含んでもよい。本明細書中に別記されるように、本発明に包含される個々のdsRNAについての有効な投薬量およびin vivoにおける半減期の評価は、従来の方法論を用いて為されてもよいし、あ
るいは適切な動物モデルを使用したin vivo試験に基づいて為されてもよい。
【0105】
マウス遺伝学の進歩により、疼痛のような様々なヒト疾患に関する研究のための多くのマウスモデルが生み出されている。そのようなモデルは、dsRNAのin vivo試験、ならびに治療上有効な用量の決定に使用される。
【0106】
本発明に包含される医薬組成物は、当分野において周知の任意の手段、例えば、経口または非経口の経路に限定することなく、例えば、静脈内、筋肉内、腹腔内、硬膜外、髄腔内、脳室内、実質内(末梢神経系または中枢神経系内)、皮下、経皮、鼻腔内、気道内(エアロゾル)、直腸内、膣内および局所(口腔内および舌下など)への投与により投与可能である。好ましい実施形態では、医薬組成物は、ポンプなどを用いて持続注入により髄腔内に、あるいはボーラス注射によって髄腔内に投与される。他の好ましい実施形態では、医薬組成物は、ポンプなどを用いて持続注入により静脈内に、あるいはボーラス注射によって静脈内に投与される。
【0107】
髄腔内、脳室内、筋肉内、実質内(末梢神経系または中枢神経系内)、皮下および静脈内での使用については、本発明の医薬組成物は、一般に、適切なpHおよび等張性に緩衝化された無菌の水性の溶液または懸濁液中に提供されることになる。適切な水性ビヒクルには、リンゲル液および等張食塩水がある。好ましい実施形態では、担体は水性緩衝液単独で構成される。この文脈において「単独で」とは、Nav1.8遺伝子を発現する細胞へのdsRNAの取り込みに影響を与えるかまたは該取り込みを仲介するおそれのある補助剤またはカプセル化物質が存在しないことを意味する。そのような物質としては、下記に述べるように、例えば、リポソームまたはカプシドのようなミセル構造が挙げられる。驚いたことに、本発明者らは、単に裸のdsRNA(該dsRNAはNav1.8遺伝子の発現を有効に抑制する)および生理学的に許容可能な溶媒のみを含んでいる組成物が、細胞に取り込まれることを発見した。dsRNAを細胞培養物に導入するためには、マイクロインジェクション、リポフェクション、ウイルス、ウイロイド、カプシド、カプソイド、またはその他の補助剤が必要であるが、驚いたことに、in vivoにおけるdsRNAの取り込みにはこれらの方法および薬剤は必要ではない。本発明による水性懸濁液は、セルロース誘導体、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドンおよびトラガカントゴムのような懸濁化剤、ならびにレシチンのような湿潤剤を含みうる。水性懸濁液に適した保存剤には、エチルおよびn−プロピルp−ヒドロキシベンゾエートがある。
【0108】
本発明の有用な医薬組成物には、体内から急速に消失しないようにdsRNAを保護するカプセル化製剤、例えば制御放出製剤、例えば植込剤およびマイクロカプセル化された送達システムも含まれる。生物分解性で生体適合性のポリマー、例えばエチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などを使用することができる。そのような製剤の調製方法は当業者には明白であろう。材料も、アルザコーポレイション(Alza Corporation)およびノバ製薬会社(Nova Pharmaceuticals, Inc)から商業的に購入することができる。リポソーム懸濁物(ウイルス抗原
に対するモノクローナル抗体を用いて感染細胞に標的設定されたリポソームを含む)も、薬学的に許容可能な担体として使用することができる。これらは、当業者に周知の方法に従って、例えば、米国特許第4,522,811号;PCT公報WO91/06309号;および欧州特許出願公開第EP−A−43075号(これらの文献は参照により本願に組込まれる)に記載のようにして調製することができる。
【0109】
前述の小さい干渉RNAのベクターを使用して、本発明は、小さい干渉RNAを神経系内または脳内の標的位置に送達するためのデバイス、システムおよび方法をも提供する。想定される送達経路は、埋め込み型、留置型、髄腔内、脳室内、または実質内カテーテルの使用によるものであり、該カテーテルは、本発明のdsRNAを含んでいる少量の液体
を局所の神経または局所の脳組織に直接、あるいはこれらの組織を取り囲んでいる体液中に注入するための手段を提供する。これらのカテーテルの基端は、患者の体または頭蓋に外科的に取り付けられた埋め込み型、髄腔内、または大脳内アクセスポートに、あるいは患者の胴に配置された埋め込み型薬物ポンプに接続されうる。
【0110】
別例として、埋め込み式ポンプのような移植可能な送達デバイスが使用されてもよい。本発明の範囲内の送達デバイスの例には、治験中のデバイスであるモデル8506(米国ミネソタ州ミネアポリス所在のメドトロニック社(Medtronic, Inc.)製)があり、該デ
バイスは、身体または頭蓋上で皮下に移植可能であり、治療薬を神経または脳に送達可能なアクセスポートを提供する。送達は、定位的に埋め込まれたポリウレタンカテーテルを介して為される。モデル8506のアクセスポートとともに機能しうる2つのカテーテルモデルには、米国特許第6,093,180号(参照により本願に組み込まれる)に開示されている、大脳の脳室へ送達するためのメドトロニック社製のモデル8770脳室カテーテル、ならびに、米国特許出願第09/540,444号および同第09/625,751号(参照により本願に組み込まれる)に開示されている、脳組織自体へ送達(つまり実質内へ送達)するためのメドトロニック社製IPA1カテーテルが含まれる。後者のカテーテルは、該カテーテルの通路に沿った複数の部位に治療薬を送達するために、先端に複数の出口を有している。前述のデバイスに加えて、本発明による小さい干渉RNAベクターの送達は、種々様々のデバイス、例えば、限定するものではないが、米国特許第5,735,814号、同第5,814,014号および同第6,042,579号(いずれも参照によって本願に組込まれる)を用いて達成することができる。本発明の教示を用いれば、また当業者であれば、これらおよびその他のデバイスおよびシステムが、本発明による疼痛治療のための小さい干渉RNAベクターの送達に適切でありうることを認識するであろう。
【0111】
1つのそのような実施形態では、該方法は、カテーテルの基端に接続されたポンプを身体または脳の外側に移植するステップと、ポンプを操作して、少なくとも1つの小さい干渉RNAまたは小さい干渉RNAベクターの所定用量を、カテーテルの放出部を通して送達するステップとをさらに含む。さらなる実施形態は、前記身体または脳の外側のポンプへの、少なくとも1つの小さい干渉RNAまたは小さい干渉RNAベクターの供給を、周期的に更新する追加のステップを含む。
【0112】
したがって、本発明は、米国特許第5,735,814号および同第6,042,579号に教示されているもののような移植可能なポンプおよびカテーテルを使用して、ならびに、米国特許第5,814,014号に教示されているもののような、神経または脳に送達される小さい干渉RNAベクターの量を制御する注入システムの一部としてのセンサをさらに使用して、小さい干渉RNAベクターを送達することを含む。その他のデバイスおよびシステム、例えば、いずれも参照により本願に組込まれる米国特許出願第09/872,698号(2001年6月1日出願)および同第09/864,646号(2001年5月23日出願)に開示されたデバイスおよびシステムを、本発明の方法に従って使用することもできる。
【0113】
そのような化合物の毒性および治療上の有効性は、細胞培養物または実験動物における標準的な薬学的手法、例えばLD50(集団の50%が死亡する用量)およびED50(集団の50%において治療上有効な用量)を測定する手法によって判定することができる。毒性と治療効果との間の用量比は治療指数であり、治療指数はLD50/ED50比として表すことができる。高い治療指数を示す化合物が好ましい。
【0114】
細胞培養アッセイおよび動物実験から得られたデータを、ヒトで使用するための用量範囲の策定において使用することができる。本発明の組成物の用量は、毒性をほとんどまた
は全く伴わないED50を含む、循環血中濃度範囲内にあることが好ましい。用量は、この範囲内で、使用される剤形および利用される投与経路に依存して変動しうる。本発明の方法で使用される任意の化合物について、治療上有効な量を、細胞培養アッセイから最初に推定することができる。用量は、細胞培養で決定されるようなIC50(つまり症状の最大抑制の半分を達成する試験化合物の濃度)を含む、該化合物の循環血漿中濃度範囲、または適切な場合には標的配列のポリペプチド生成物の循環血漿中濃度範囲(例えば、該ポリペプチドの濃度減少の達成)を達成するように、動物モデルにおいて策定可能である。そのような情報は、ヒトにおいて有用な用量をより正確に決定するために使用することができる。血漿中のレベルは、例えば高速液体クロマトグラフィによって測定可能である。
【0115】
上記に議論したように、dsRNAを個々にまたは複数として投与することに加えて、本発明のdsRNAは、疼痛の治療に有効な他の既知の作用薬と組み合わせて投与することができる。どの場合も、投与する医師は、当分野で既知または本明細書に記載の標準的な有効性の尺度を使用して観察された結果に基づいて、dsRNA投与の量およびタイミングを調節することができる。
【0116】
Nav1.8遺伝子の発現によって引き起こされる疾患を治療する方法
1つの実施形態では、本発明は、神経障害性疼痛または炎症性疼痛のような、Nav1.8遺伝子の発現によって媒介される病的状態を有する対象の治療方法を提供する。この実施形態では、dsRNAは、Nav1.8タンパク質の発現をコントロールするための治療薬として作用する。該方法は、Nav1.8遺伝子の発現がサイレンシングされるように、本発明の医薬組成物を患者(例えばヒト)に投与することを含む。特異性が高いので、本発明のdsRNAはNav1.8遺伝子のmRNAを特異的に標的とする。
【0117】
疼痛
本明細書で使用されるように、用語「疼痛」は当分野で認識されており、対象(例えばヒトのような哺乳動物)における、有害な化学的、機械的、または温度的刺激によって誘発された身体感覚を包含する。用語「疼痛」は、慢性疼痛、例えば下背痛;関節炎(例えば変形性関節症)による疼痛;関節痛(例えば膝痛または手根管症候群);筋筋膜疼痛、および神経障害性疼痛を含む。用語「疼痛」はまた、急性疼痛、例えば筋肉緊張および捻挫に関連した疼痛;歯痛;頭痛;外科手術に関連した疼痛;ならびに様々な形の組織傷害(例えば炎症、感染、虚血)に関連した疼痛を含む。
【0118】
「神経障害性疼痛」は、中枢神経系または末梢神経系の損傷または疾患を原因とする疼痛を指す。組織傷害を原因とする即時の(急性)疼痛とは対照的に、神経障害性疼痛は外傷の数日または数か月後に発症しうる。神経障害性疼痛は、長期にわたる、すなわち慢性であることが多く、持続期間は組織の修復期間に限られない。神経障害性疼痛は自然に生じる場合もあるし、通常は痛みのない刺激の結果として生じる場合もある。神経障害性疼痛は、異常な体性感覚プロセスを原因とし、慢性の感覚障害、例えば自発痛、痛覚過敏(すなわちその刺激について正当な感覚よりも強い疼痛を知覚すること)、および異痛症(すなわち通常は無痛の刺激により疼痛経験が誘発される状態)に関係している。神経障害性疼痛には、その他の原因の中では、限定するものではないが、末梢神経の損傷、ウイルス感染、糖尿病、化学療法、カウザルギー、神経叢引き抜き、脊髄損傷、神経腫、四肢切断、血管炎、外科手術による神経損傷、慢性アルコール中毒症による神経損傷、甲状腺機能低下、尿毒症およびビタミン欠乏を原因とする疼痛がある。神経障害性疼痛は、がんに関連した疼痛の1つのタイプである。がん性疼痛は「侵害受容性」または「混在型」の場合もある。
【0119】
「慢性疼痛」は、3か月より長く続く疼痛として定義することができ(Bonica, Semin.
Anesth. 1986, 5:82-99)、慣例的な疼痛管理方法には十分には適さない、間断のない執拗な疼痛を特徴としうる。慢性疼痛には、限定するものではないが、炎症性疼痛、術後痛、がん性疼痛、転移がんに関連した変形性関節症疼痛、化学療法で引き起こされた疼痛、三叉神経痛、急性ヘルペス神経痛およびヘルペス後神経痛、糖尿病性神経障害、関節炎による疼痛、関節痛、筋筋膜疼痛、カウザルギー、腕神経叢引き抜き、後頭神経痛、反射性交感神経性ジストロフィー、線維筋痛、痛風、幻想肢痛、熱傷痛、脊髄損傷に関連した疼痛、多発性硬化症、反射性交感神経性ジストロフィーおよび下背痛、ならびにその他の種類の神経痛、神経障害性および特発性疼痛症候群が挙げられる。
【0120】
「侵害受容性の疼痛」は、体性または内臓性のいずれかの疼痛感受性神経繊維の活性化に起因する。侵害受容性の疼痛は一般に、直接の組織損傷に対する応答である。最初の損傷により、ブラジキニン、セロトニン、サブスタンスP、ヒスタミンおよびプロスタグランジンを含むいくつかの化学物質が放出される。体性神経が関与する場合、疼痛は通常疼くような感覚または圧迫されるような感覚として感じられる。
【0121】
語句「疼痛および関連障害」において、用語「関連障害」は、疼痛を引き起こすかまたは疼痛に関係があるか、あるいは疼痛と同様のメカニズムを有することが示されている障害を指す。これらの障害には、中毒、発作、脳卒中、虚血、神経変性障害、不安、抑うつ、頭痛、喘息、リウマチ性疾患、変形性関節症、網膜症、炎症性の眼障害、そう痒症、潰瘍、胃の病変、尿失禁、炎症性または不安定性の膀胱障害、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群(IBS)、過敏性腸疾患(IBD)、胃食道逆流疾患(GERD)、機能性消化不良、食道起原と推定される機能性胸痛、機能性嚥下障害、非心臓性胸痛、症候性胃食道疾患、胃炎、呑気症、機能性便秘、機能性下痢、おくび、慢性機能性腹痛、反復性腹痛(RAP)、機能性腹部膨満症、機能性胆道痛、機能性失禁、機能性肛門・直腸痛、慢性骨盤痛、骨盤底の共同運動障害、詳細不明の機能性肛門・直腸障害、胆嚢仙痛、間質性膀胱炎、月経困難症、ならびに性交疼痛症が挙げられる。
【0122】
このように本発明は、神経障害性疼痛および炎症性疼痛を含む疼痛を治療するための、特に髄腔内注入または注射により、あるいは静脈内注入または注射によりヒトに投与される抗Nav1.8 dsRNAの使用を提供する。
【0123】
本発明に包含される医薬組成物は、当分野で周知の任意の手段、例えば、経口または非経口の経路に限定するものではなく、例えば、静脈内、筋肉内、腹腔内、硬膜外、髄腔内、脳室内、実質内(末梢神経系または中枢神経系内)、皮下、経皮、鼻腔内、気道内(エアロゾル)、鼻内、直腸内、膣内および局所(口腔内および舌下など)への投与、ならびに硬膜外投与により投与可能である。好ましい実施形態では、医薬組成物は、ポンプなどによる持続注入で髄腔内に、あるいはボーラス注射により髄腔内に投与される。他の好ましい実施形態では、医薬組成物は、ポンプなどによる持続注入で静脈内に、あるいはボーラス注射により静脈内に投与される。
【0124】
Nav1.8遺伝子の発現を抑制する方法
さらに別の態様では、本発明は、哺乳動物におけるNav1.8遺伝子の発現を抑制する方法を提供する。該方法は、標的Nav1.8遺伝子の発現がサイレンシングされるように、本発明の組成物を哺乳動物に投与することを含む。特異性が高いため、本発明のdsRNAは、標的Nav1.8遺伝子のRNA(第一次RNAまたはプロセシング後RNA)を特異的に標的とする。dsRNAを使用してこれらのNav1.8遺伝子の発現を抑制するための組成物および方法は、本明細書中に別記されるようにして実施することができる。
【0125】
1つの実施形態では、該方法はdsRNAを含む組成物を投与することを含み、該ds
RNAは、治療される哺乳動物のNav1.8遺伝子のRNA転写物の少なくとも一部に相補的なヌクレオチド配列を有する。治療される生物がヒトのような哺乳動物である場合、組成物は、当分野で周知の任意の手段、例えば、経口または非経口の経路に限定するものではなく、例えば、静脈内、筋肉内、腹腔内、硬膜外、髄腔内、脳室内、実質内(末梢神経系または中枢神経系内)、皮下、経皮、鼻腔内、気道内(エアロゾル)、直腸内、膣内および局所(口腔内および舌下など)への投与により投与可能である。好ましい実施形態では、組成物は、髄腔内への注入または注射により、あるいは静脈内への注入または注射により投与される。
【0126】
別途定義のないかぎり、本明細書中で使用される技術用語および科学用語はすべて本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されたものと同様または等価である方法および材料は本発明の実行または試験において使用することができるが、適切な方法および材料について下記に述べる。本明細書において言及されたすべての出版物、特許出願、特許、および他の参照文献は、参照によってその全体が組み込まれる。矛盾が生じる場合には、定義を含めて本明細書に従うことになる。さらに、材料、方法および実施例は単なる例証であり、限定することを意図したものではない。
【実施例1】
【0127】
Nav1.8遺伝子の遺伝子ウォーキング
対象とする4生物種のNav1.8遺伝子を標的とするsiRNAを設計するために、多段階の配列分析法でsiRNAを同定した。
【0128】
BioEdit配列アラインメントエディタ(BioEdit Sequence Alignment Editor)
(バージョン7.0.4.1)のClustalWマルチアラインメント機能を用いて、ヒト(NM_006514)、マウス(NM_009134)、ラット(NM_017247)およびイヌ(NM001003203)のNav1.8 mRNA配列の広域アラインメントを実施した。
【0129】
前記ソフトウェアに組み込まれた配列分析機能により、保存領域を同定した。保存領域は、内部にギャップを含まない、アラインしたすべての配列についての長さが最小19塩基の連続配列として定義した。保存領域の配列の部位はヒトの配列に従って数えた。
【0130】
ホワイトヘッド研究所(Whitehead Institute for Biomedical Research)のsiRN
A設計ウェブインターフェース(http://jura.wi.mit.edu/siRNAext/)を使用して、保存領域を標的とするすべてのsiRNA候補を同定し、また該候補それぞれについてヒト、マウスおよびラットのRefSeqデータベース中の配列に対する標的外(オフターゲット)の適合を同定した。交差反応性の基準を満たすsiRNAを候補物群から選び出し、ソフトウェアに組み込まれたオフターゲット分析に供した。これについては、選択されたすべてのsiRNAについて、NCBIのblastアルゴリズムによってNCBIのヒト、マウスおよびラットRefSeqデータベースに対して3回分析した。
【0131】
blastの結果をダウンロードし、そのアンチセンス種について最もオフターゲットの適合を生じやすいものの実体を知り、またミスマッチを生じる部位を知るために、perlスクリプトによって分析した。
【0132】
全てのsiRNA候補を予測された特性に従って格付けした。これについては、異なる基準を適用してsiRNAを次の特性、すなわち:
− 反応性の基準:ヒト、マウス、ラットおよびイヌの配列を標的とする
− 特異性の基準:ヒトに対して高度に特異的、少なくともラットおよびマウスに対し
て特異的
に従って分類した。
【0133】
適用した基準を満たした2つのsiRNAを「多生物種を標的とするsiRNA」とした。
より多くのsiRNAを同定するために、siRNA同定ステップの第2回を、イヌの配列との反応性が無いためそれまで除かれていた領域を追加して同様に実施した。
【0134】
その結果得られた、上述の基準に適合する10個のsiRNAの集まりを、「ヒト/ラット/マウスを標的とするsiRNA」とした。
siRNA設計プロセスの第3回は、マウスとの交差反応性を無視して実施した。
【0135】
すべての候補siRNAについて、以下の基準に従って3ステップで再度抽出し格付けした。
ステップ1:
− 反応性の基準:ヒト、ラットおよびマウスの配列を標的とする
− 特異性の基準:ヒトおよびラットに対して高度に特異的、マウスに対して中程度に特異的
→ 4個のsiRNA(「ヒト/ラット/マウスを標的とするsiRNA」の集まりに追加)
ステップ2:
− 反応性の基準:ヒトおよびラットの配列を標的とする
− 配列内部の基準:列内に連続4以上のGが存在しない
− 特異性の基準:ヒトに対して高度に特異的
→ 19個のsiRNA
ステップ3:
− 反応性の基準:ヒトおよびラットの配列を標的とする
− 特異性の基準:ラットに対して高度に特異的、ヒトに対して特異的、および好ましいddG値
→ 1個のsiRNA
ステップ2および3から得られた集まり(20個のsiRNA)を、「ヒト/ラットを標的とするsiRNA」とした。
【0136】
これらのin silicoで選択された36個のsiRNAを合成した(表1)。
さらなる配列の選択は、種間の交差反応性を選択基準として使用しなかったこと、すなわち配列の選択をヒトのNav1.8配列だけを基準として実施したことを除き、上記の一般化された方法を使用して実施した。さらに、FASTAでの最適合に基づいた標的外スコアならびに標的外遺伝子の候補の数を基準として格付した。これらのsiRNAを表4に示す。
【0137】

【表1】


【0138】

【表2】









【実施例2】
【0139】
化学修飾によるsiRNAの最適化
アンチセンスの分野の研究者が経験してきたように、リボ核酸は、事実上すべての生物学的環境中に存在する様々なヌクレアーゼ(例えばエンドヌクレアーゼ、エキソヌクレアーゼなど)によって急速に分解されることが多い。この脆弱性は、ヌクレアーゼがもはや攻撃できないようにこれらのオリゴヌクレオチドを化学修飾することにより、回避される可能性がある。従って、表1のsiRNAは化学修飾されたオリゴヌクレオチドを表わし、これらの化学修飾siRNAを、Nav1.8遺伝子の発現(Nav1.8のmRNAレベル)に対する抑制活性に関して試験した。
【0140】
dsRNAの合成
試薬の供給源
試薬の供給源が本明細書中で具体的に示されない場合、その試薬は、分子生物学に適用
するための品質/純度規格の分子生物学用試薬を供給する任意の業者から入手可能である。
【0141】
siRNAの合成
一本鎖RNAは、Expedite 8909合成装置(ドイツ連邦共和国ダルムシュタット所在のApplied Biosystems, Applera Deutschland GmbH)および固体支持体として多孔質ガラス(CPG、500Å、ドイツ連邦共和国ハンブルク所在のProligo Biochemie GmbH)を使用して、1マイクロモル規模で固相合成により作製した。RNAおよび2’−O−メチル・ヌクレオチド含有RNAは、対応するホスホロアミダイトおよび2’−O−メチル・ホスホロアミダイト(ドイツ連邦共和国ハンブルク所在のProligo Biochemie GmbH)をそれぞれ使用した固相合成によって生成させた。これらのビルディングブロックを、Current protocols in nucleic acid chemistry, Beaucage, S.L. et al. (Edrs.), John Wiley and Sons, Inc.(米国ニューヨーク州ニューヨーク所在)に記載のような標
準的なヌクレオシド・ホスホロアミダイトの化学的手法を使用して、オリゴリボヌクレオチド鎖配列内の選択部位に組み込んだ。ホスホロチオエート結合は、ヨウ素酸化剤溶液をアセトニトリル(1%)中のBeaucage試薬(英国グラスゴー所在のChruachem Ltd)溶液に置き換えることにより導入した。さらなる補助試薬はMallinckrodt Baker(ド
イツ連邦共和国グリースハイム所在)から入手した。
【0142】
陰イオン交換HPLCによる粗製オリゴリボヌクレオチドの脱保護および精製は、確立された手法によって実行した。収率および濃度は、分光光度計(DU640B、ドイツ連邦共和国ウンターシュライスハイム(Unterschleissheim)所在のBeckman Coulter GmbH
)を使用して、波長260nmにおける各RNA溶液のUV吸収によって測定した。二本鎖RNAは、相補鎖の等モル溶液をアニーリング用バッファー(20mMリン酸ナトリウム、pH6.8;100mM塩化ナトリウム)中で混合し、85〜90℃の水浴中で3分間加熱し、3〜4時間かけて室温に冷却することにより生成させた。アニーリングさせたRNA溶液は、使用するまで−20℃で保存した。
【0143】
3’−コレステロールコンジュゲート(3’にコレステロールがコンジュゲートされた)siRNA(本明細書では、コレステリル基への連結がホスホジエステル基を介するかホスホロチオエートジエステル基を介するかによって‐Cholまたは‐sCholと称する)の合成用には、適切に修飾された固体支持体をRNA合成に使用した。修飾固体支持体は以下のように準備した。
【0144】
ジエチル−2−アザブタン−1,4−ジカルボン酸 AA
【0145】
【化2】

4.7Mの水酸化ナトリウム水溶液(50mL)を、撹拌かつ氷冷したエチルグリシネート塩酸塩(32.19g、0.23モル)の水(50mL)中溶液に添加した。その後、アクリル酸エチル(23.1g、0.23モル)を添加し、該混合物を、反応の完了がTLCによって確認されるまで室温で撹拌した。19時間後、該溶液をジクロロメタン(3×100mL)で分配した。有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水し、ろ過し、蒸発濃縮した。残留物を蒸留してAAを得た(28.8g、61%)。
【0146】
3−{エトキシカルボニルメチル−[6−(9H−フルオレン−9−イルメトキシカルボニル−アミノ)−ヘキサノイル]−アミノ}−プロピオン酸エチルエステル AB
【0147】
【化3】

Fmoc−6−アミノヘキサン酸(9.12g、25.83mmol)をジクロロメタン(50mL)に溶解して氷冷した。0℃の該溶液に、ジイソプロピルカルボジイミド(3.25g、3.99mL、25.83mmol)を添加した。その後、ジエチル−アザブタン−1,4−ジカルボン酸(5g、24.6mmol)およびジメチルアミノピリジン(0.305g、2.5mmol)を添加した。該溶液を室温にしてさらに6時間撹拌した。反応の完了をTLCによって確認した。反応混合物を真空下で濃縮し、酢酸エチルを添加してジイソプロピル尿素を沈澱させた。該懸濁液をろ過した。ろ液を、5%塩酸水溶液、5%重炭酸ナトリウムおよび水で洗浄した。有機層を合わせて硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮して粗製生成物を得て、該粗製生成物をカラムクロマトグラフィ(50%EtOAC/ヘキサン)によって精製して11.87g(88%)のABを生成した。
【0148】
3−[(6−アミノ−ヘキサノイル)−エトキシカルボニルメチル−アミノ]−プロピオン酸エチルエステル AC
【0149】
【化4】

3−{エトキシカルボニルメチル−[6−(9H−フルオレン−9−イルメトキシカルボニルアミノ)−ヘキサノイル]−アミノ}−プロピオン酸エチルエステルAB(11.5g、21.3mmol)を、0℃のジメチルホルムアミド中20%ピペリジンに溶解した。該溶液を1時間撹拌し続けた。反応混合物を真空下で濃縮し、残留物に水を加え、生成物を酢酸エチルで抽出した。粗製生成物をその塩酸塩に転化することよって精製した。
【0150】
3−({6−[17−(1,5−ジメチル−ヘキシル)−10,13−ジメチル−2,3,4,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17−テトラデカヒドロ−1H−シクロペンタ[a]フェナントレン−3−イルオキシカルボニルアミノ]−ヘキサノイル}エトキシカルボニルメチル−アミノ)−プロピオン酸エチルエステル AD
【0151】
【化5】

3−[(6−アミノ−ヘキサノイル)−エトキシカルボニルメチル−アミノ]−プロピオン酸エチルエステルACの塩酸塩(4.7g、14.8mmol)をジクロロメタン中に添加した。この懸濁物を氷上で0℃に冷却した。該懸濁物にジイソプロピルエチルアミン(3.87g、5.2mL、30mmol)を添加した。得られた溶液に、コレステリルクロロホルメート(6.675g、14.8mmol)を添加した。反応混合物を一晩撹拌した。該反応混合物をジクロロメタンで希釈し、10%塩酸で洗浄した。生成物をフラッシュクロマトグラフィで精製した(10.3g、92%)。
【0152】
1−{6−[17−(1,5−ジメチル−ヘキシル)−10,13−ジメチル−2,3,4,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17−テトラデカヒドロ−1H−シクロペンタ[a]フェナントレン−3−イルオキシカルボニルアミノ]−ヘキサノイル}−4−オキソ−ピロリジン−3−カルボン酸エチルエステル AE
【0153】
【化6】

カリウムt−ブトキシド(1.1g、9.8mmol)を乾燥トルエン30mL中でスラリー化した。該混合物を氷上で0℃に冷却し、5g(6.6mmol)のジエステル体ADを、撹拌しながらゆっくり20分以内に添加した。添加の間、温度は5℃未満に維持した。0℃で30分間撹拌を続け、氷酢酸1mLを添加し、直ちに4gのNaHPO・HOの水中(40mL)溶液を添加した。得られた混合物を各100mLのジクロロメタンで2回抽出し、合わせた有機抽出物を、各10mLのリン酸バッファーで2回洗浄し、脱水し、蒸発乾固させた。残留物を60mLのトルエンに溶解し、0℃に冷却し、50mLずつの冷炭酸バッファー(pH9.5)3部で抽出した。水性抽出物をリン酸でpH3に調節し、40mLずつのクロロホルム5部で抽出して合わせ、脱水し、蒸発乾固させた。残留物を、25%酢酸エチル/ヘキサンを使用したカラムクロマトグラフィによっ
て精製し、1.9gのb−ケトエステルを得た(39%)。
【0154】
[6−(3−ヒドロキシ−4−ヒドロキシメチル−ピロリジン−1−イル)−6−オキソ−ヘキシル]−カルバミン酸17−(1,5−ジメチル−ヘキシル)−10,13−ジメチル−2,3,4,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17−テトラデカヒドロ−1H−シクロペンタ[a]フェナントレン−3−イルエステル AF
【0155】
【化7】

b−ケトエステルAE(1.5g、2.2mmol)および水素化ホウ素ナトリウム(0.226g、6mmol)のテトラヒドロフラン(10mL)中の還流混合物に、メタノール(2mL)を1時間かけて少量ずつ添加した。還流温度で撹拌を1時間継続した。室温に冷却した後、1NのHCl(12.5mL)を添加し、混合物を酢酸エチル(3×40mL)で抽出した。酢酸エチル層を合わせて無水硫酸ナトリウムで脱水し、真空下で濃縮して得た生成物をカラムクロマトグラフィ(10%MeOH/CHCl)で精製した(89%)。
【0156】
(6−{3−[ビス−(4−メトキシ−フェニル)−フェニル−メトキシメチル]−4−ヒドロキシ−ピロリジン−1−イル}−6−オキソ−ヘキシル)−カルバミン酸17−(1,5−ジメチル−ヘキシル)−10,13−ジメチル−2,3,4,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17−テトラデカヒドロ−1H−シクロペンタ[a]フェナントレン−3−イルエステル AG
【0157】
【化8】

ジオールであるAF(1.25gm、1.994mmol)をピリジン(2×5mL)とともに真空内で蒸発させて乾燥させた。無水ピリジン(10mL)および4,4’−ジメトキシトリチルクロリド(0.724g、2.13mmol)を撹拌しながら添加した。この反応は、室温で一晩実施した。メタノールを添加して反応を停止させた。反応混合物を真空下で濃縮し、残留物にジクロロメタン(50mL)を添加した。有機層を1Mの重炭酸ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水し、ろ過し、濃縮した。残存ピリジンを、トルエンとともに蒸発させて除去した。粗製生成物を、カラムクロマトグラフィで精製した(2%MeOH/クロロホルム、5%MeOH/CHCl中でRf=0.5)(1.75g、95%)。
【0158】
コハク酸モノ−(4−[ビス−(4−メトキシ−フェニル)−フェニル−メトキシメチル]−1−{6−[17−(1,5−ジメチル−ヘキシル)−10,13−ジメチル2,3,4,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17−テトラデカヒドロ−1Hシクロペンタ[a]フェナントレン−3−イルオキシカルボニルアミノ]−ヘキサノイル}−ピロリジン−3−イル)エステル AH
【0159】
【化9】

化合物AG(1.0g、1.05mmol)を、無水コハク酸(0.150g、1.5mmol)およびDMAP(0.073g、0.6mmol)と混合し、40℃で真空中にて一晩乾燥させた。該混合物を無水ジクロロエタン(3mL)に溶解し、トリエチルア
ミン(0.318g、0.440mL、3.15mmol)を添加し、この溶液をアルゴン大気下に室温で16時間撹拌した。その後、該溶液をジクロロメタン(40mL)で希釈し、氷冷クエン酸水溶液(5重量%、30mL)および水(2×20mL)で洗浄した。有機相を無水硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮乾固した。残留物をそのまま次のステップに使用した。
【0160】
コレステロールで誘導体化したCPG AI
【0161】
【化10】

コハク酸塩であるAH(0.254g、0.242mmol)をジクロロメタン/アセトニトリル混合物(3:2、3mL)に溶解した。この溶液に、DMAP(0.0296g、0.242mmol)のアセトニトリル(1.25mL)中溶液、2,2’−ジチオビス(5−ニトロピリジン)(0.075g、0.242mmol)のアセトニトリル/ジクロロエタン(3:1、1.25mL)中溶液を連続して添加した。得られた溶液に、トリフェニルホスフィン(0.064g、0.242mmol)のアセトニトリル(0.6ml)中溶液を添加した。この反応混合物の色は明るいオレンジ色になった。この溶液を、手首運動型(wrist-action)振盪機で短時間激しく撹拌した(5分)。長鎖アルキルアミン−CPG(LCAA−CPG)(1.5g、61mM)を添加した。この懸濁物を2時間激しく撹拌した。CPGを焼結漏斗でろ過し、アセトニトリル、ジクロロメタンおよびエーテルで連続的に洗浄した。未反応のアミノ基を、無水酢酸/ピリジンを使用してマスキングした。CPGの装荷の達成は、UV測定法により測定された(37mM/g)。
【0162】
5’−12−ドデカン酸ビスデシルアミド基(本明細書では「5’−C32−」と称する)または5’−コレステリル誘導体基(本明細書では「5’−Chol」と称する)を有するsiRNAの合成は、WO2004/065601に記載のようにして実施したが、ただしコレステリル誘導体については、Beaucage試薬を使用して酸化ステップを実施し核酸オリゴマーの5’末端にホスホロチオエート結合を導入した。
【0163】
核酸配列は、標準名称法を用いて、特に表2の略語を用いて以降に示す。
【0164】
【表3】

Cos−7細胞にトランスフェクションされたヒトNav1.8のmRNA発現に対するNav1.8 siRNAの単回投与でのスクリーニング。
【0165】
表1および表4のNav1.8 siRNAすべてについて、最初に、Cos−7細胞にトランスフェクションされたヒトNav1.8のmRNA発現を低減する活性に関して100nM(表1)または50nM(表4)の単一用量で試験した。トランスフェクションの1日前に、Cos−7細胞(DSMZ、ドイツ連邦共和国ブラウンシュワイク所在)を、96ウェルプレート(Greiner Bio-One GmbH、ドイツ連邦共和国フリッケンハウゼン(Frickenhausen)所在)の1ウェルあたり細胞1.5×10個として、100μlの
増殖培地(ダルベッコのMEM、10%ウシ胎仔血清、2mM L−グルタミン、1.2μg/ml重炭酸ナトリウム、100uペニシリン/100μg/mlストレプトマイシン、いずれもドイツ連邦共和国ベルリン所在のBiochrom AGより)中に播種した。siR
NAトランスフェクションの4時間前に、20ng/ウェル(表1)または50ng/ウェル(表4)のプラスミドを、siRNAについて下記に述べるようにしてLipofectamine2000(Invitrogen)とともにトランスフェクションしたが、このとき該プラスミドはOpti−MEMで希釈して1ウェルあたりの最終体積を12.5μlとし、プレート全体用にマスターミックスとして調製した。
【0166】
siRNAトランスフェクションは3連で実施した。各ウェルについて、0.5μlのLipofectamine2000(Invitrogen GmbH、ドイツ連邦共和国カールスル
ーエ所在)を12μlのOpti−MEM(Invitrogen)と混合し、室温で15分間インキュベーションした。100μlのトランスフェクション体積中でsiRNA濃度を100nMとする場合は、1ウェルあたり2μlの5μM siRNAを10.5μlのOpti−MEMと混合し、Lipofectamine2000−Opti−MEM混合物と合わせ、再び室温で15分間インキュベーションした。そのインキュベーション時に、細胞から増殖培地を取り除き、1ウェルあたり75μlの新鮮な培地に交換した。6つのウェルでは、増殖培地を100μlの新鮮な培地に交換し、下記に述べるように細胞溶解用混合物を加えて細胞を直ぐに溶解し、プラスミド中のNav1.8−cDNAに起因するbDNAアッセイのバックグラウンド値を分析した。siRNA−Lipofectamine2000複合物を全部(1ウェルあたり25μlずつ)細胞に施用し、細胞を、加湿型インキュベータ(Heraeus GmbH、ドイツ連邦共和国ハーナウ所在)にて37℃および5%COで24時間インキュベーションした。
【0167】
細胞を、各ウェルに50μlの細胞溶解用混合物(QuantiGene(R)bDNAキット(米国フレモント所在のGenospectra)由来)を適用することによりハーベスト
し、53℃で30分間溶解させた。その後、50μlの溶解産物を、ヒトNav1.8およびヒトGAPDHに特異的なプローブセット(プローブセットの配列については以下を参照)とともにインキュベーションし、QuantiGeneの製造業者のプロトコールに従って処理した。化学発光を、Victor2−Light(Perkin Elmer、ドイツ連邦共和国ヴィースバーデン所在)でRLU(相対発光量)として測定し、ヒトNav1.8プローブセットについて得られた値を、各ウェルについてのそれぞれのヒトGAPDH(ミドリザル(Cercopithecus aethiops)のGAPDH配列は今のところ未知)の値に対して標準化した。プラスミドのトランスフェクションの4時間後に溶解させた細胞で得られた値を、siRNAトランスフェクションの24時間後に溶解させた細胞で得られた値から差し引いた。Nav1.8を標的としたsiRNAで得られた値を、無関係なsiRNA(C型肝炎ウィルスを標的とするもの)で得られた値(100%とする)に関してさらに標準化した。
【0168】
図1は、表1のsiRNAを100nMの単一用量で試験した代表的な実験の結果を示し、表4は追加のsiRNAについての50nM用量での結果を示している。いくつかのsiRNA(表1および4)は、試験した用量において、Nav1.8でトランスフェクションされたCOS−7細胞においてNav1.8 mRNAのレベルを少なくとも50%低減するのに有効であった。
【0169】
Cos−7細胞にトランスフェクションされたヒトNav1.8のmRNA発現に対する、選択されたsiRNAの用量−応答曲線
単一用量でのスクリーニング(図1の結果)から得た、Nav1.8に対するいくつかの有効なsiRNAについて、用量−応答曲線によってさらに特徴解析した。用量−応答曲線については、トランスフェクションを上記の単一用量でのスクリーニングのように実施し、ただしsiRNAの濃度(nM)を次のとおり、すなわち100、33、11、3.7、1.2、0.4、1、0.14、0.05、0.015、0.005およびmock(siRNAなし)とした。siRNAは、上記のプロトコールに従ってOpti−MEMで希釈して最終体積を12.5μlとした。
【0170】
3回の独立した用量応答実験を実施し、用量−応答曲線(DRC)を生成した。用量−応答曲線には再現性がみられた。結果の要約を表3に示す。
【0171】
【表4】

Nav1.5 mRNAを対象としたNav1.8 siRNAの特異性試験
Nav1.5は、Nav1.8と近縁のNaVサブタイプであるが、正常な心臓機能において重要な役割を有している。したがって、Nav1.8に選択的なsiRNAがNav1.5の発現を抑制しないことを確認することは重要である。いくつかのsiRNAについて、これらのsiRNAを用いて、内在性のヒトNav1.5を発現するSW620細胞をトランスフェクションし、Nav1.5 mRNAのレベルを評価することにより、Nav1.8に対する特異性を試験した。対照の無関係なsiRNA(AL−DP−5002)もSW620細胞にトランスフェクションした。Nav1.8を標的とするsiRNAを、次の用量:1200nM、400nM、133.3nM、44.4nM、14.8nM、4.9nM、1.6nMおよびmock(siRNAなし)について試験した。Nav1.8を標的とする1つのsiRNA(AL−DP−6217)については、1nM、10nM、100nMおよび1uMで試験した。その後、Navファミリー中で最もNav1.8との相同性の高いタンパク質をコードするNav1.5 mRNAの発現を定量した。
【0172】
トランスフェクションの1日前に、SW620細胞(LCG Promochem、ドイツ連邦共和
国ヴェーゼル所在)を、96ウェルプレート(Greiner Bio-One GmbH、ドイツ連邦共和国フリッケンハウゼン所在)の1ウェルあたり細胞1.5×10個として、100μlの増殖培地(Leibowitz L−15培地、10%ウシ胎仔血清、2mM L−グルタミン、100uペニシリン/100μg/mlストレプトマイシン、いずれもドイツ連邦共和国ベルリン所在のBiochrom AGより)中に播種した。
【0173】
siRNAのトランスフェクションは3連で実施した。各ウェルについて、0.6μlのOligofectamine(TM)(Invitrogen GmbH、ドイツ連邦共和国カール
スルーエ所在)を2.4μlのOpti‐MEM(Invitrogen)と混合し、室温で10分間インキュベーションした。100μlのトランスフェクション体積中でsiRNA濃度を1200nMにする場合は、1ウェルあたり5μlの24μM siRNAを12μlのOpti−MEMと混合し、Oligofectamine−Opti−MEM混合物と合わせ、再び室温で20分間インキュベーションした。そのインキュベーション時に、
細胞から増殖培地を取り除き、血清を含まない新鮮な増殖培地80μl/ウェルに交換した。siRNA−Oligofectamine複合物を全部(1ウェルあたり20μlずつ)細胞に施用し、細胞を、加湿型インキュベータ(Heraeus GmbH、ドイツ連邦共和国ハーナウ所在)にて37℃でCOを加えずに24時間インキュベーションした。
【0174】
細胞を、各ウェルに細胞溶解用混合物(QuantiGene(R)bDNAキット(米国フレモント所在のGenospectra)に含まれる)50μlを適用することによりハーベ
ストし、53℃で30分間溶解させた。その後、50μlの溶解産物を、ヒトNav1.5およびヒトGAPDHに特異的なプローブセット(プローブセットの配列については以下を参照)とともにインキュベーションし、QuantiGeneの製造業者のプロトコールに従って処理した。化学発光を、Victor2−Light(Perkin Elmer、ドイツ連邦共和国ヴィースバーデン所在)でRLU(相対発光量)として測定し、ヒトNav1.5プローブセットについて得られた値を、各ウェルについてそれぞれのヒトGAPDHの値に対して標準化した。無関係な対照siRNA(C型肝炎ウィルスを標的とするもの)を陰性対照として使用した。
【0175】
図2は結果を示している。試験した濃度では、Nav1.8を標的とする選択されたsiRNAは、無関係な対照siRNA(AL−DP−5002)と比較してNav1.5
mRNAの有意な用量依存的抑制を示さず、これらのNav1.8 siRNAがNav1.5に比べてNav1.8に対して特異的であることが確認された。
【0176】
さらに、1uMまでの濃度では、AL−DP−6217はNav1.5 mRNAの有意な抑制を示さず(データは示さない)、このNav1.8 siRNAがNav1.5に比べてNav1.8に対して特異的であることが確認された。
【0177】

【表5】


ラット後根神経節細胞の初代培養物における内在性Nav1.8のmRNA発現に対するNav1.8 siRNAの単一用量によるスクリーニング。
【0178】
Cos−7細胞にトランスフェクションされたヒトNav1.8のmRNA発現について得られた結果を確認および拡張するために、表1のNav1.8 siRNAを、ラット後根神経節(DRG)細胞の初代培養物における内在性Nav1.8のmRNA発現を低減する活性に関して200nMの単一用量で試験した。
【0179】
DRG細胞を生後3〜6日のスピローグ・ドーリー・ラットから分離した。DRGを切開し、細胞を、S−MEM(Gibco)中に0.28Wunschユニット/mlのリベラ
ーゼブレンザイム(Liberase Blendzyme(Roche))溶液とともに37℃で35分間イン
キュベーションすることにより、解離させて単細胞とした。この細胞懸濁液をあらかじめ組織培養用プレートに播種し、非ニューロン細胞を除いた。その後、ニューロンを、組織培養用BiocoatTMPDL ポリD−リジン/ラミニン96ウェルプレート(BD Biosciences、米国マサチューセッツ州ベッドフォード所在)を用いて、F12−HAM培地にグルタミン(Invitrogen Gibco、米国カリフォルニア州カールスバード所在)と5%ウシ胎児血清(FBS、加熱して不活性化)および5%ウマ血清(加熱して不活性化)(いずれもInvitrogen Gibco、米国カリフォルニア州カールスバード所在)とを含めて50ng/mlマウス神経成長因子2.5S(NGF;Promega Corp.、米国ウィスコンシン
州マディソン所在)を補足した培地中に播種し、トランスフェクションまで加湿型インキュベータ中で37℃、5%COに維持した。
【0180】
Nav1.8 siRNAのスクリーニングは、DRG培養物中200nMで2連とし
て、脂質配合系のTransMessengerTMトランスフェクション試薬(Qiagen
GmbH、ドイツ連邦共和国ヒルデン所在、カタログ番号301525)、特異的なRNA
濃縮試薬(Enhancer RTM)およびRNA濃縮用バッファー(Buffer EC−RTM)を使用して、siRNA:Enhancer RTM比(μg:μl)を常に1:2に、またsiRNA:TransMessengerTM比(μg:μl)を常に1:12に維持しながら実施した。
【0181】
DRGニューロンを、プレート播種の24時間後にトランスフェクションした。各ウェルについて、0.52μlのEnhancer RTMを最初に13.68μlのBuffer EC−RTMと混合した。アニーリングバッファー(20mMリン酸ナトリウム、pH6.8;100mM塩化ナトリウム)中25μM溶液のAL−DP−5987を0.8μl(0.26μg)、あるいはアニーリングバッファー0.8μl(siRNAを含まない対照)を添加し、混合物を室温で5分間インキュベーションした。3.12μlのTransMesssengerTMトランスフェクション試薬を6.88μlのBuffer EC−RTMで希釈して混合物に加え、該混合物を室温でさらに10分間インキュベーションしてトランスフェクション複合体を形成させた。血清を含まないF12−HAM培地にグルタミン(Invitrogen Gibco、米国カリフォルニア州カールスバード所在)を含めて50ng/mlのNGF2.5S(Promega Corp.、米国ウィスコンシン州マ
ディソン所在)および1:50のB27サプリメント(Invitrogen Gibco、米国カリフォルニア州カールスバード所在)を補足した培地75μlを、トランスフェクション複合体に添加し、優しく上下にピペット操作することにより完全に混合した。増殖培地をDRG細胞から取り除き、上記のトランスフェクション複合体混合物90μlを該細胞上に添加した。加湿型インキュベータ内で37℃、5%COで7〜8時間インキュベーションした後、細胞から上清を除き、新鮮なF12−HAM培地にグルタミンを含めて5%FBS、5%ウマ血清(いずれもInvitrogen Gibco、米国カリフォルニア州カールスバード所在)、50ng/mlのマウスNGF2.5S(Promega Corp.、米国ウィスコンシン州マ
ディソン所在)および1:100ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen Gibco、米国カリフォルニア州カールスバード所在)を補足した培地を加え、細胞を加湿型インキュベータ内で37℃、5%COでさらに16時間インキュベーションし、Nav1.8
mRNAを定量した。
【0182】
Nav1.8 mRNAのレベルは、QuantiGeneTMbDNAキット(Genospectra、米国フレモント所在)を使用し製造業者のプロトコールに従って計測した。簡
潔に述べると、DRG細胞から上清を除き、150μlのLysis Working試薬(1容のLysis Mixture+2容の培地)を添加し52℃で30分間インキュベーションすることによって細胞を溶解させた。40μlの溶解産物を、ラットのNav1.8およびマウスのシヌクレイン(SNCL)に特異的なプローブセットとともに52℃で40分間インキュベーションした。化学発光を、Victor−LightTM(PerkinElmer Life And Analytical Sciences, Inc.、米国マサチューセッツ州ボストン所在)で相対発光量(RLU)として読み取った。Nav1.8のRLUを、各ウェルについてSNCLのRLUに対して標準化した。その後、標準化したNav1.8/SNCL比を、siRNAを含まない対照(100%とする)と比較した。
【0183】
図3はその結果を示している。200nMでは、試験したNav1.8 siRNAのうち少なくとも13個(「*」で示す)が、siRNAを含まない対照(TransMessengerTMのみ;TMのみ)と比較してNav1.8 mRNAを少なくとも50%低減させることを示し、RhoAに対する無関係な対照siRNAでは効果がないことが示された。
【0184】
ラット後根神経節細胞の初代培養物における内在性Nav1.8のmRNA発現に対す
るdsRNA AL−DP−6209の用量応答
ラット後根神経節細胞の初代培養物における単一用量スクリーニングから、Nav1.8に対して有効な1つのsiRNA(AL−DP−6209)について、用量依存性に関しさらに特徴解析した。用量−応答曲線については、上記のDRG培養物における単一用量スクリーニングと同様に実験を実施したが、ただしsiRNAの濃度を以下のとおり、すなわち175、88、44、22、11および5.5nMとした。すべてのsiRNA濃度について、siRNA:Enhancer R比(ug:ul)を常に1:2に維持し、siRNA:TransMessenger比(ug/ul)を常に1:12に維持した(図4)。
【0185】
図4は、選択されたsiRNA AL−DP−6209についての用量応答実験の結果を示している。5.5nMおよび11nMでは、AL−DP−6209は、SNCLと比較してNav1.8のmRNA発現を抑制しなかったが、88nMおよび175nMでは、AL−DP−6209は、SNCLと比較してNav1.8のmRNA発現を>40%抑制した。この実験において、SNCLと比較してNav1.8のmRNA発現が最大の抑制を受けたのは175nMのときであった。
【0186】
Nav1.8に対するsiRNAのiFECTを用いた髄腔内ボーラス投与により炎症性疼痛が防止される
iFECTを用いて製剤化された抗Nav1.8 siRNAの、完全フロインドアジュバント誘発型触覚過敏に対する効果を、ラットで評価した(図5)。第0日に、成体オスのスピローグ・ドーリー・ラットの後肢にCFA(150uL)を注射した。次いで、第1日、第2日および第3日に、Nav1.8に対するsiRNAを腰部脊髄に髄腔内ボーラス投与した;具体的には、各ボーラス注射について、2ugのsiRNAを、iFECTトランスフェクション試薬(Neuromics、米国ミネソタ州ミネアポリス所在)と、全
体積を10uLとして1:4(w:v)の比率で複合させた。5群のラット(1群当たりラット5匹)を、iFECTの存在下で、siRNA(AL−DP−6049、AL−DP−6209、AL−DP−6217またはAL−DP−6218;表1)あるいはPBSのいずれかで治療した。触覚過敏は、8本の較正済みvon Freyフィラメント(Stoelting、米国イリノイ州ウッドデール所在)で後肢を調べることにより計測された触
覚の逃避閾値として表した(0.41g〜15g)。各フィラメントを肢の足底表面に適用した。刺激の強度を連続的に増大および減少させることにより逃避閾値を測定し、ディクソンのノンパラメトリック検定を用いて計算した(Dixon, WJ. (1980) "Efficient analysis of experimental observations" Annu Rev Pharmacol Toxicol 20:441-462; Chaplan, S.R., F.W. Bach, et al.(1994) "Quantitative assessment of tactile allodynia in the rat paw" J Neurosci Methods 53:55-63を参照のこと)。触覚の閾値は、ベース
ラインの閾値を調べるためにCFA注射の前、ならびにCFAおよび被験物質による治療の後の第4日に計測した。PBSで治療されたラットでは、予想通り、肢の逃避閾値が低下したことで証拠づけられるように、第4日には触覚過敏が明白であった。AL−DP−6209で治療されたラットでは、触覚の閾値は第4日においてほぼ正常化され、Nav1.8 siRNAであるAL−DP−6209がin vivoにおいて炎症誘導性の痛覚過敏に対して効果的であることが実証された。Nav1.8 siRNAであるAL−DP−6217による治療の結果、触覚の閾値の平均はベースラインに向かう傾向を示し、5匹のラットのうちの1匹は正常な触覚応答を示した。AL−DP−6049およびAL−DP−6218は、この実験例ではPBSによる治療と比較して顕著な触覚の閾値の変化を示さなかった。
【0187】
これらの結果は、Nav1.8を標的とするsiRNAが、トランスフェクション試薬とともに製剤化され髄腔内投与されると、CFA誘発型の触覚の痛覚過敏を緩和し、したがって、臨床の炎症性疼痛の有効治療を提供するための新しいアプローチに相当すること
を実証している。
【0188】
Nav1.8に対するsiRNAのトランスフェクション試薬を用いない髄腔内ボーラス投与により炎症性疼痛が緩和される
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に製剤化された抗Nav1.8 siRNAの、完全フロインドアジュバント(CFA)誘発型触覚過敏に対する効果を、ラットにおいて評価した(図6)。試験した3つのNav1.8 siRNAのうち、2つのsiRNAは、CFA誘発触覚過敏に対して効果的であった:すなわち、AL−DP−6050と化学修飾は異なるが配列は同一の非コンジュゲート型siRNAであるAL−DP−4461、ならびにAL−DP−6050と同じ化学修飾および配列を備え、コレステロールがコンジュゲートされたsiRNAであるAL−DP−4459である。この実験で評価した投薬例では、AL−DP−6980(AL−DP−6209と同じ化学修飾および配列を備え、コレステロールがコンジュゲートされたsiRNA)は、CFA誘発型触覚過敏に対して効果的ではなかった。AL−DP−4461、AL−DP−4459およびAL−DP−6980の配列を表6に示す。
【0189】
【表6】

第0日に、成体オスのスピローグ・ドーリー・ラットの後肢にCFAを注射した。4群のラット(1群当たりラット5匹)を、CFA注射後の第1日目を開始としてNav1.8に対するsiRNA(AL−DP−4461、AL−DP−4459、またはAL−DP−6980)あるいはPBSのいずれかで治療した。Nav1.8に対するsiRNA(AL−DP−4461、AL−DP−4459またはAL−DP−6980)あるいはPBSは、第1日、第2日および第3日に腰部脊髄への髄腔内ボーラス注射(1回の注射当たり10uL)により1日に2回(BID)投与した。ベースラインの閾値を調べるためにCFA注射の前と、次いでCFAおよび被験物質による治療の後の第4日に、上記のようにして触覚過敏を計測した。PBSで治療されたラットでは、予想通り、肢の逃避閾値の低下によって実証されるように、第4日において触覚過敏が明白であった。ボーラスBID(0.5mg/ボーラス)によってAL−DP−4461で治療されたラットでは、触覚の閾値は第4日において中程度に正常化され、Nav1.8 siRNAであるAL−DP−4461が、in vivoのこの投薬例ではCFA誘発型の触覚過敏に対して中程度に効果的であることが実証された。Nav1.8 siRNAのAL−DP−4459を用いたボーラスBID(0.15mg/ボーラス)による治療の結果、触覚の閾値がほぼ完全に正常化され、5匹のラットすべてについて第4日までに触覚閾値が10.2g以上までほぼ回復することが実証された。これに対し、ボーラスBID(0.15mg/ボーラス)によるNav1.8 siRNAのAL−DP−6980は触覚過敏に影響を与えず、培養細胞にトランスフェクションした場合に有効であったとしても標的に対するすべてのコレステロールコンジュゲート型siRNAが等しく効果的または有効であ
るとは限らないことが示された。
【0190】
これらの結果は、コレステロールをコンジュゲートすることにより、慢性疼痛を含む神経障害に対するsiRNAのin vivoでの有効性が増強されることを示唆している。更に、これらの結果は、Nav1.8を標的とし、コレステロールがコンジュゲートされているかまたはコレステロールを含まないsiRNAが、生理食塩水中に製剤化されボーラス注射によって髄腔内投与されると、CFA誘発型の触覚過敏が緩和され、したがって、臨床の炎症性疼痛の有効な治療を提供する新しいアプローチに相当することを実証している。
【0191】
トランスフェクション試薬を用いずにNav1.8に対するsiRNAを髄腔内にポンプ投与またはボーラス投与することにより炎症性疼痛が緩和される
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に製剤化された抗Nav1.8 siRNAの、完全フロインドアジュバント(CFA)誘発型触覚過敏に対する効果を、髄腔内ポンプ注入(図7、左側)または髄腔内BIDボーラス注射(図7、右側)の後にラットにおいて評価した。0.4mg/日の連続的な髄腔内ポンプ注入によって試験した3つのNav1.8 siRNAのうち、1つのsiRNA(AL−DP−6050、表1)は、CFA誘発型の触覚過敏に対して中程度に効果的であった。AL−DP−6050は、0.5mg/ボーラスの髄腔内BIDボーラス注射によって試験した時、CFA誘発型の触覚過敏に対して効果的であった。
【0192】
連続的な髄腔内ポンプ注入を用いた抗NaV1.8 siRNAの効果を評価するために、第0日に成体オスのスピローグ・ドーリー・ラットの後肢にCFAを注射した。4群のラット(1群当たりラット5匹)を、CFA注射後の第1日を開始としてNavl.8に対するsiRNA(AL−DP−6050、AL−DP−6218、またはAL−DP−6219)あるいはPBSのいずれかで治療した。すべてのラットにおいて、被験物質を、第1日を開始として注入速度0.5uL/時の連続的な浸透ミニポンプ注入によって髄腔内投与した。siRNAを0.4mg/日として注入した。ベースラインの閾値を調べるためにCFA注射の前と、次いでCFAおよび被験物質による治療の後との両方について、触覚過敏を上記のようにして計測した(図7、左側)。PBSで治療されたラットでは、予想通り、肢の逃避閾値の低下によって実証されるように、第4日において触覚過敏が明白であった。連続的な髄腔内ポンプ注入(0.4mg/日)によってAL−DP−6050で治療されたラットでは、触覚の閾値は第4日において軽度に正常化され、Nav1.8 siRNAのAL−DP−6050が炎症性疼痛に対しin vivoでこの投薬例を用いることにより軽度に効果的であることが実証された。
【0193】
BIDの髄腔内ボーラス注射によるNaV1.8を対象としたsiRNAの効果を評価するために、第0日に成体オスのスピローグ・ドーリー・ラットの後肢にCFAを注射した。2群のラット(1群当たりラット4〜5匹)を、CFA注射後の第1日を開始としてNav1.8に対するsiRNA(AL−DP−6050、0.5mg/ボーラス)またはPBSのいずれかで治療した。上述のようにして触覚過敏を評価した。ベースラインの閾値を調べるためにCFA注射の前と、次いでCFA注射および被験物質による治療の後の第4日に、触覚の閾値を計測した(図7、右側)。予想通り、PBSで治療されたラットでは、肢の逃避閾値の低下によって実証されるように、第4日において触覚過敏が明白であった。BIDの髄腔内ボーラス注射(0.5mg/ボーラス)によってAL−DP−6050で治療されたラットでは、触覚の閾値は第4日においてほぼ正常化され、Nav1.8 siRNAであるAL−DP−6050が、炎症性疼痛に対しin vivoでこの投薬例を用いることにより適度に効果的であることが実証された。
【0194】
これらの結果は、さらに、Nav1.8を標的とし、コレステロールがコンジュゲート
されていないsiRNAが、生理食塩水中に製剤化されボーラス注射または連続的ポンプ注入のいずれかによって髄腔内投与されると、CFA誘発型の触覚過敏が緩和され、したがって、臨床の炎症性疼痛の有効治療を提供する新しいアプローチに相当することを実証している。
【0195】
Nav1.8に対するsiRNAのトランスフェクション試薬を用いない髄腔内ボーラス投与により、炎症性疼痛が緩和される
Nav1.8に対するsiRNA(リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で製剤化)の、完全フロインドアジュバント(CFA)誘発型熱過敏に対する効果を、ラットで評価した(図8)。非コンジュゲート型のdsRNAであるAL−DP−6050(表1)およびコレステロールがコンジュゲートされたdsRNAであるAL−DP−4459(表6)のいずれも、評価したBIDボーラスの髄腔内投薬例においてCFA誘発型熱過敏に対して効果的であった。
【0196】
第0日に、成体オスのスピローグ・ドーリー・ラットの後肢にCFAを注射した。3群のラット(1群当たりラット4〜5匹)を、CFA注射後の第1日を開始として、Nav1.8に対するsiRNA(AL−DP−6050またはAL−DP−4459)あるいはPBSで治療した。すべてのラットにおいて、被験物質を、第1日に開始してBIDボーラス注射(10uL/ボーラス)で髄腔内投与した。AL−DP−4459は0.15mg/ボーラスで投与し、AL−DP−6050は0.5mg/ボーラスで投与した。熱過敏は、ハーグリーヴスおよび共同研究者らの報告(Hargreaves, K., R. Dubner, et al. (1988) "A new and sensitive method for measuring thermal nociception in cutaneous hyperalgesia" Pain 32:77-88)のようにして有害な温度刺激に対する肢の逃避反応
潜時を調べることにより計測した。有害な熱照射に応答した後肢の逃避反応までの潜時を測定した。最大40秒で終了させることにより組織の損傷を防止した。
【0197】
熱応答を、ベースラインの閾値を調べるためにCFA注射の前と、次いでCFA注射および被験物質による治療後の第4日に計測した。予想通り、PBSで治療されたラットでは、肢の逃避反応潜時が短縮されたことによって証拠づけられるように、第4日において熱過敏が明白であった。髄腔内へのBIDボーラス注射によりAL−DP−6050(0.5mg/ボーラス)またはAL−DP−4459(0.15mg/ボーラス)で治療されたラットでは、熱に対する反応潜時は第4日において正常化され、非コンジュゲート型のNav1.8 siRNAであるAL−DP−6050およびコレステロールがコンジュゲートされたNav1.8 siRNAであるAL−DP−4459が、in vivoにおいてこの投薬例で炎症性疼痛に対して効果的であることが実証された。
【0198】
これらの結果は、コレステロールがコンジュゲートされているかまたは非コンジュゲート型の、Nav1.8を標的とするsiRNAは、生理食塩水中に製剤化され、ボーラス注射によって髄腔内投与されると、CFA誘発性の熱性痛覚過敏ならびに触覚過敏(上記)を緩和し、したがって、臨床の炎症性疼痛における多種類の痛覚過敏の有効治療を提供する新しいアプローチに相当することを実証している。
【0199】
Nav1.8に対するコレステロールコンジュゲート型siRNAのトランスフェクション試薬を用いない髄腔内ボーラス投与により、神経障害性疼痛が緩和される
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で製剤化された、Nav1.8に対するAL−DP−4459(表6)の、脊髄神経結紮(SNL)誘発型の触覚過敏および熱過敏を、ラットで評価した(図9)。評価に用いた髄腔内ボーラス投薬例(0.15mg/ボーラス、BID)において、AL−DP−4459はSNL誘発型の触覚過敏および熱過敏に対して効果的であった。
【0200】
第0日に、成体オスのスピローグ・ドーリー・ラットのL5およびL6脊髄神経を、片側のみ結紮した(SNL外科手術)。3群のラット(1群当たりラット6〜8匹)を、SNL手術後の第3日を開始として、Nav1.8に対するsiRNAであるAL−DP−4459またはPBSのいずれかを髄腔内投与することによって治療した。これらの群のうち2群では、AL−DP−4459またはPBSを、SNL後の3〜7日に1日当たり2回(BID)、腰部脊髄への髄腔内ボーラス注射(1回の注射当たり5uL)により投与した。1群のラットでは、AL−DP−4459を、SNL後の3〜7日に、注入速度0.5uL/時で0.18mg/日の連続的な浸透ミニポンプ注入により髄腔内投与した。触覚過敏および熱過敏は上述のようにして評価した。
【0201】
ベースラインの応答(BL)を調べるためにSNL手術の前と、触覚過敏および熱性痛覚過敏が完全に発症したことを確認するために被験物質による治療前のSNL後第3日に、触覚応答(図9、左)および熱応答(図9、右)を計測した。PBSで治療されたラットでは、予想通り、肢の逃避閾値の低下および熱に対する反応潜時の短縮によってそれぞれ証拠づけられるように、SNL後の第3日、第5日および第7日において触覚過敏および熱過敏が明白であった。Nav1.8 siRNAのAL−DP−4459は、0.18mg/日の連続的なポンプ注入により髄腔内投与された場合、記載の時間枠を越えても触覚または過敏性に有意な影響は及ぼさなかった。対照的に、ボーラスBID(0.15mg/ボーラス)によりAL−DP−4459で治療されたラットでは、触覚の閾値および熱に対する反応潜時がSNL後の第7日(治療第5日)においてほぼ正常化され、Nav1.8 siRNAであるAL−DP−4459がSNL誘発型の触覚過敏および熱性痛覚過敏に対してin vivoで効果的であることが実証された。
【0202】
これらの結果は、Nav1.8を標的とするコレステロールコンジュゲート型siRNAが、生理食塩水中で製剤化されて髄腔内投与されると、ラットにおける実験的神経損傷誘発型の慢性疼痛に対して効果的であり、したがって、臨床の神経障害性疼痛の有効治療を提供するための新しいアプローチに相当することを実証している。
【0203】
NaV1.8を標的とする、非コンジュゲート型およびコレステロールがコンジュゲートされたsiRNAは、37℃のヒト脳脊髄液中で安定である
NaV1.8を標的とする、非コンジュゲート型およびコレステロールがコンジュゲートされたsiRNAの、ヒト脳脊髄液(CSF)中における安定性を測定するために、siRNA二重鎖をヒトCSF中にて37℃で48時間インキュベーションし、一本鎖を定量的イオン交換クロマトグラフィで計測した。この実施例では、非コンジュゲート型siRNAのAL−DP−6050、AL−DP−6209、AL−DP−6217、AL−DP−6218およびAL−DP−6219(表1)と、コレステロールがコンジュゲートされたsiRNAのAL−DP−4459(表6)とを評価した。30μlのヒトCSFを、96ウェルプレート中で3μlの50μM siRNA(150pmole/ウェル)と混合し、蒸発しないように密閉し、37℃で1〜48時間インキュベーションした。30μlのPBS中における37℃で48時間のインキュベーションを、非特異的分解の対照とした。4μlのプロテイナーゼK(20mg/ml)および25μlのプロテイナーゼKバッファーを添加し、この混合物を42℃で20分間インキュベーションすることにより、反応を停止させた。サンプルを、0.2μmの96ウェルフィルタプレートを使用し3000rpmで20分間回転ろ過した。インキュベーションウェルを50μlのミリポア水で2回洗浄し、洗浄液を合わせて同様に回転ろ過した。ろ過体積の体積変化を正規化するための内部標準(IS)として作用するように、50μMの40mer RNAの5μlアリコートを各サンプルに添加した。サンプルを変性条件下のイオン交換HPLCによって分析した。
【0204】
1.コレステロールがコンジュゲートされたsiRNAであるAL−DP−4459の
分析用HPLCシステム
カラム:ダイオネクス(Dionex)DNAPac PA200(4×250mm分析用カラム)
温度:80℃(変性条件)
流速:1ml/分
注入量:50ul
検出:260(参照波長600nm)
HPLC溶離液A:25mM TRIS−HCl;1mM EDTA;50%ACN;pH=8
HPLC溶離液B:A液中の600mM NaBr
グラジエント条件:
【0205】
【表7】

2.非コンジュゲート型siRNAであるAL−DP−6050、6209、6217、6218、6219のためのHPLCシステム
カラム:ダイオネクスDNAPac PA200(4×250mm分析用カラム)
温度:30℃(pH=11のため変性条件)
流速:1ml/分
注入量:50ul
検出:260nm(参照波長600nm)
HPLC溶離液A:10%ACN中の20mM NaPO;pH=11
HPLC溶離液B:A液中の1M NaBr
グラジエント条件:
【0206】
【表8】

IEX−HPLC変性条件下では、二重鎖は2つの分離した一本鎖として溶出された。内部標準は二重鎖の一本鎖よりも長い保持時間で溶出され、分析への干渉はなかった。
【0207】
注入を行うごとに、クロマトグラムをダイオネクスChromeleon(R)6.60HPLCソフトウェアで自動的に積分したが、必要に応じて手動で調節した。ピーク面
積はすべて内部標準(IS)ピークに対して次の方程式:
CF(IS)=100/ピーク面積(IS);補正ピーク面積(s/as)=CF*ピーク面積(a/as)
によって補正した。
【0208】
すべての時点において、残存している完全なFLPの%値は、次の方程式:
%−FLP(s/as)=(補正ピーク面積(s/as)/補正ピーク面積(s/as);t=0分)*100%
によって計算される。
【0209】
すべての値を、t=0分におけるインキュベーションに対し標準化した。
非コンジュゲート型siRNAの結果を図10に示す。PBS中37℃で48時間のインキュベーション(PBS−48)の後、5種すべてのsiRNAが完全に安定であり、検出可能な減少は認められなかった。ヒトCSF中37℃で48時間のインキュベーション後では、5つのsiRNAのうち3つ(AL−DP−6050、AL−DP−6209およびAL−DP−6217)は20%未満の減少を示したが、2つのsiRNA(AL−DP−6218およびAL−DP−6219)は50%を超える減少を示した。コレステロールがコンジュゲートされたsiRNAのAL−DP−4459の結果を図11に示す。PBS中37℃で48時間のインキュベーション(PBS−48)の後、AL−DP−4459は完全に安定であり、検出可能な減少は認められなかった。ヒトCSF中での安定性についての評価では、AL−DP−4459は37℃で48時間安定であることが見出され、48時間を超えて検出された変動は20%未満であった。
【0210】
NaV1.8を標的とする、非コンジュゲート型およびコレステロールがコンジュゲートされたsiRNAは、ラット知覚ニューロン初代培養物において用量依存的にNaV1.8 mRNAを低減する
ラット後根神経節細胞の初代培養物における単一用量スクリーニング由来の、Nav1.8に対する別の有効なsiRNA(AL−DP−6050、表1)およびそのコレステロールコンジュゲート型であるAL−DP−4459(表6)を、用量依存性についてさらに特徴解析した。用量−応答曲線については、次の濃度、すなわち200、80、32、12.8、5.12、2.05、0.82および0.33nMのsiRNAを用いてLipofectamine2000を使用して(以下を参照)トランスフェクションを実施した(図12)。
【0211】
DRGニューロンを、プレートへの播種の24時間後にトランスフェクションした。各ウェルについて、0.4μlのLipofectamineTM2000(Invitrogen Corporation、米国カリフォルニア州カールスバード所在)を使用し、トランスフェクションを製造業者のプロトコールに従って実施した。具体的には、siRNA:LipofectamineTM2000複合体を以下のようにして調製した。適正な量のsiRNAをOpti−MEM I血清使用量低減培地で希釈し、穏やかに混合した。LipofectamineTM2000を使用前に撹拌し;次いで96ウェルプレートの各ウェルについて、0.4ulのLipofectamineTM2000を25μlのOpti‐MEM I血清使用量低減培地で希釈し、穏やかに混合し、室温で5分間インキュベーションした。5分間のインキュベーションの後、1ulの上記希釈siRNAを希釈LipofectamineTM2000と合わせた(全体積26.4μl)。該複合物を穏やかに混合し、室温で20分間インキュベーションしてsiRNA:LipofectamineTM2000複合体を形成させた。その後、グルタミン(Invitrogen Gibco、米国カリフォルニア州カールスバード所在)を含み50ng/mlのNGF2.5S(Promega Corp.、米国ウィスコンシン州マディソン所在)および1:50 B27サプリメント
(Invitrogen Gibco、米国カリフォルニア州カールスバード所在)が補足された無血清F
12−HAM培地100μlを上記トランスフェクション複合体に添加し、穏やかに上下にピペット操作することにより混合した。DRG細胞から増殖培地を取り除き、上記トランスフェクション複合体の混合物100μlを96ウェルプレートの各ウェルに添加した。加湿型インキュベータで37℃、5%COで20時間インキュベーションした後、細胞から上清を取り除き、グルタミンを含んだ新鮮なF12−HAM培地に5%FBS、5%ウマ血清(いずれもInvitrogen Gibco、米国カリフォルニア州カールスバード所在)、50ng/mlマウスNGF2.5S(Promega Corp.、米国ウィスコンシン州マディソ
ン所在)および1:100ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen Gibco、米国カリフォルニア州カールスバード所在)を補足したものを添加した。細胞を、加湿型インキュベータにて37℃、5%COでさらに20〜24時間インキュベーションし、前述のようにbDNA分析によってNav1.8 mRNAを定量した。
【0212】
図12は、選択されたsiRNAであるAL−DP−6050およびそのコレステロールコンジュゲート型であるAL−DP−4459の用量応答実験の結果を示している。AL−DP−6050およびそのコレステロールコンジュゲート型のAL−DP−4459は、この実験において、α−シヌクレイン(SNCA)と比べて用量依存的にNav1.8 mRNA発現を抑制し、最大の抑制は>30nMのsiRNAにおける〜40%であった。
【0213】
トランスフェクション試薬を用いずにNav1.8に対する非コンジュゲート型siRNAを髄腔内ボーラス投与することにより、神経障害性疼痛が緩和される
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で製剤化された、Nav1.8に対するAL−DP−6050(表1)の、脊髄神経結紮(SNL)誘発型熱過敏に対する効果を、ラットで評価した(図13)。評価に用いた髄腔内ボーラス投与例(0.15mg/ボーラス、BID)において、AL−DP−6050はSNL誘発型熱過敏に対して効果的であった。
【0214】
第0日に、成体オスのスピローグ・ドーリー・ラットのL5およびL6脊髄神経を、片側のみ結紮した(SNL外科手術)。2群のラット(1群当たりラット8匹)を、SNL手術後の第3日を開始として、Nav1.8に対するsiRNAであるAL−DP−6050あるいはPBSのいずれかの髄腔内ボーラス注射により治療した。髄腔内ボーラス注射(1回の注射当たり5uL中に0.15mg)は、SNL後の第3〜7日に腰部脊髄に1日2回(BID)実施した。上述のようにして熱過敏性を評価した。
【0215】
熱への応答は、ベースラインの応答(BL)を調べるためにSNL手術の前と、熱性痛覚過敏が完全に発症したことを確認するために被験物質による治療の前のSNL後第3日に計測した。PBSで治療されたラットでは、熱過敏は、予想通り、熱に対する反応潜時の短縮によって証拠づけられるように、SNL後第3日、第5日および第7日において明白であった。対照的に、ボーラスBID(0.15mg/ボーラス)によりAL−DP−6050で治療されたラットでは、熱に対する反応潜時は、SNL後第5日(治療第3日)および第7日(治療第5日)においてほぼ正常化され、Nav1.8 siRNAであるAL−DP−6050がSNL誘発型の熱性痛覚過敏に対してin vivoで効果的であることが実証された。
【0216】
これらの結果は、Nav1.8を標的とするsiRNAが、生理食塩水中で製剤化され、髄腔内ボーラス注射によって投与されると、ラットにおける実験的な神経損傷誘発型の慢性疼痛に対して効果的であり、したがって、臨床の神経障害性疼痛の有効治療を提供するための新しいアプローチに相当することを実証している。
【0217】
Nav1.8に対するsiRNAのND98−2.7リポソーム製剤の髄腔内ボーラス投与により、神経障害性疼痛が緩和される
ND98−2.7中で製剤化され(後述)、髄腔内ボーラス注射によって投与される、Nav1.8に対するAL−DP−6050(表1)の、脊髄神経結紮(SNL)誘発型の熱過敏に対する効果を、ラットで評価した(図14)。評価に用いた髄腔内ボーラス投与例(5マイクログラム/ボーラス、毎日)において、AL−DP−6050はSNL誘発型の熱過敏に対して効果的であった。
【0218】
第0日に、成体オスのスピローグ・ドーリー・ラットのL5およびL6脊髄神経を、片側のみ結紮した(SNL外科手術)。2群のラット(1群当たりラット6匹)を、SNL手術後の第3日を開始として、Nav1.8に対するsiRNAであるAL−DP−6050(ND98−2.7中で製剤化)あるいはPBSのいずれかを髄腔内ボーラス注射することにより治療した。髄腔内ボーラス注射(1回の注射当たり5uL中に5マイクログラム)は、SNL後の第3〜5日に毎日、腰部脊髄に対して実施した。上述のようにして熱過敏を評価した。
【0219】
熱への応答は、ベースラインの応答(BL)を調べるためにSNL手術の前と、熱性痛覚過敏が完全に発症したことを確認するために被験物質による治療の前のSNL後第3日に計測した。PBSで治療されたラットでは、熱過敏は、予想通り、熱に対する反応潜時の短縮によって証拠づけられるように、SNL後第3日、第5日、第7日および第10日において明白であった。対照的に、ND98−2.7リポソーム中に製剤化されたAL−DP−6050の、毎日の髄腔内ボーラス注射(5マイクログラム/ボーラス)により治療されたラットでは、熱に対する反応潜時は、SNL後第5日(治療第3日)においてほぼ正常化され、このことから、Nav1.8 siRNAであるAL−DP−6050は、ND98−2.7リポソーム中に製剤化して髄腔内注射で投与することにより、SNL誘発型の熱性痛覚過敏に対してin vivoで効果的であることが実証された。さらに、ND98−2.7リポソーム製剤を用いて有効とするために必要なsiRNAの用量レベル(1日当たり5マイクログラム)は、PBS製剤を用いて有効と観察された用量レベル(1日当たり300マイクログラム)よりもはるかに低かった。
【0220】
これらの結果は、Nav1.8を標的とするsiRNAが、髄腔内ボーラス注射により、かつND98−2.7リポソーム中で製剤化されて投与されると、ラットにおいて実験的な神経損傷誘発型の慢性疼痛に対して効果的であり、したがって、臨床の神経障害性疼痛の有効治療を提供するための新しいアプローチに相当することを実証している。
【0221】
Nav1.8に対するsiRNAのND98−2.7リポソーム製剤の静脈内ボーラス投与および連続的ポンプ投与により、神経障害性疼痛が緩和される
ND98−2.7中で製剤化され、静脈内ボーラス注射または連続的な静脈内ポンプ注入により投与される、Nav1.8に対するAL−DP−6050(表1)の、脊髄神経結紮(SNL)誘発型の熱過敏に対する効果を、ラットで評価した(図14)。評価に用いたボーラス静脈内投与例(毎日0.5mg/ボーラス、およそ2mg/kg/ボーラスに相当)、および評価に用いた連続的な静脈内ポンプ注入例(0.24mg/日、およそ1mg/kg/日に相当)において、ND98−2.7リポソーム中で製剤化されたAL−DP−6050は、SNL誘発型の熱過敏に対して効果的であった。
【0222】
第0日に、成体オスのスピローグ・ドーリー・ラットのL5およびL6脊髄神経を、片側のみ結紮した(SNL外科手術)。2群のラット(1群当たりラット6匹)を、SNL手術後の第3日を開始として、Nav1.8に対するsiRNAであるAL−DP−6050(ND98−2.7中で製剤化)を静脈内ボーラス注射または連続的な静脈内ポンプ注入により治療した。静脈内ボーラス注射(1回のボーラス注射当たり1mL中に0.5mg)は、SNL後の第3〜5日に毎日実施した。連続的な静脈内ポンプ注入(10uL/時、0.24mg/日に相当)は、SNL後の第3〜10日に頚静脈内カニューレを介
して投与した。上述のようにして熱過敏を評価した。
【0223】
熱への応答は、ベースラインの応答(BL)を調べるためにSNL手術の前に、また熱性痛覚過敏が完全に発症したことを確認するためにSNL後第3日に被験物質による治療前に計測した。熱過敏は、予想通り、熱に対する肢の逃避反応潜時の短縮によって証拠づけられるように、治療前のSNL後第3日において明白であった。対照的に、ND98−2.7リポソーム中に製剤化されたAL−DP−6050の、毎日の静脈内ボーラス注射(0.5mg/ボーラス)により治療されたラットでは、熱に対する反応潜時は、SNL後第5日(治療第3日)、およびSNL後第7日(最後の静脈内ボーラス治療の2日後)においてほぼ正常化され、Nav1.8 siRNAであるAL−DP−6050は、ND98−2.7リポソーム中に製剤化して静脈内ボーラス注射で投与することにより、SNL誘発型の熱性痛覚過敏に対してin vivoで効果的であることが実証された。更に、ND98−2.7リポソーム中に製剤化されたAL−DP−6050を用いて連続的な静脈内ポンプ注入(0.24mg/日)により治療されたラットでは、熱に対する反応潜時は、SNL後第5日(治療第3日)、第7日(治療第5日)および第10日(治療第8日)においてほぼ正常化された。
【0224】
これらの結果は、Nav1.8を標的とするsiRNAが、ND98−2.7リポソーム中で製剤化され、静脈内ボーラス注射または連続的な静脈内ポンプ注入により投与されると、ラットにおいて実験的な神経損傷誘発型の慢性疼痛に対して効果的であり、したがって、臨床の神経障害性疼痛の有効治療を提供するための新しいアプローチに相当することを実証している。さらに、これらの結果は、siRNAのND98−2.7リポソーム製剤が、全身投与により、後根神経節の知覚ニューロンにsiRNAを有効に送達しうることを実証している。
【0225】
製剤化の手順
リピドイド(lipidoid)ND98・4HCl(MW 1487)、コレステロール(Sigma-Aldrich)およびPEG−セラミドC16(Avanti Polar Lipids)を使用して脂質−siRNAナノ粒子を調製した。
【0226】
各々のエタノール溶液ストックを調製した(ND98(図15のND98異性体I)、133mg/mL;コレステロール、25mg/mL;PEG−セラミドC16、100mg/mL)。その後、ND98、コレステロールおよびPEG−セラミドC16の溶液ストックを、42:48:10のモル比で合わせた。この合わせた脂質溶液を、最終的なエタノール濃度が35〜45%となり、最終的な酢酸ナトリウム濃度が100〜300mMとなるように、水性のsiRNA溶液(pH5の酢酸ナトリウム中)と急速に混合した。混合により脂質−siRNAナノ粒子が自然に形成された。所望の粒度分布に応じて、場合によっては、得られたナノ粒子混合物を、加熱バレル式射出装置(Lipex ExtruderTM、Northern Lipids, Inc)を使用して、ポリカーボネート膜(100nmカットオフ)によって射出成形した。その他の場合は、射出成形ステップは省略した。エタノール除去およびこれと同時のバッファー交換は、透析あるいは接線流ろ過のいずれかによって実施した。バッファーをpH7.2のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に交換した。
【0227】
製剤の特徴解析
標準的な方法または射出成形しない方法のいずれかによって調製した製剤を、同じ方法で特徴解析する。製剤を最初に、目視検査によって特徴解析する。該製剤は凝集物や堆積物のない白みがかった半透明の溶液のはずである。脂質ナノ粒子の粒度および粒度分布は、モールヴァン製Zetasizer Nano ZS(Malvern、米国)を使用して動
的光散乱によって計測する。粒子のサイズは、20〜300nm、理想的には40〜10
0nmとする。粒度分布は単峰型とする。製剤中のsiRNA全体の濃度ならびに封入されたフラクションを、色素排除法を使用して概算する。製剤化siRNAのサンプルを、製剤化を妨害する界面活性剤である0.5%トリトン‐X100の存在下または非存在下で、RNA結合性の染料Ribogreen(Molecular Probes)とともにインキュベーションする。製剤中の総siRNAは、界面活性剤を含んでいるサンプルからのシグナルを標準曲線と比較することによって測定する。封入されたフラクションは、総siRNA含量から(界面活性剤の非存在下でのシグナルから計測した)「自由な」siRNA含量を差し引くことにより決定する。封入されたsiRNAの割合(%)は通常>85%である。
【0228】
dsRNA発現ベクター
本発明の別の態様では、Nav1.8遺伝子の発現活性を調節するNav1.8特異的dsRNA分子は、DNAベクターまたはRNAベクターに挿入された転写ユニットから発現される(例えば、Couture, A, et al., TIG. (1996), 12:5-10;Skillern, A., et al., International PCT Publication No. WO 00/22113、Conrad, International PCT Publication No. WO 00/22114、ならびにConrad, US Pat. No. 6,054,299を参照のこと)。
これらの導入遺伝子は、宿主ゲノムに一体化された導入遺伝子として組込まれかつ受け継がれうる、直線状の構築物、環状プラスミド、あるいはウイルスベクターとして導入可能である。導入遺伝子は、染色体外プラスミドとして受け継がれるように構築されてもよい(Gassmann, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1995) 92:1292)。
【0229】
dsRNAの個々の鎖は、2つの別個の発現ベクター上のプロモータによって転写され、標的細胞内に同時トランスフェクションされてもよい。別例として、dsRNAの個々の鎖それぞれが、いずれも同じ発現プラスミド上にあるプロモータによって転写されてもよい。好ましい実施形態では、dsRNAは、リンカー・ポリヌクレオチド配列によって連結された逆方向反復配列として発現され、該dsRNAがステム・アンド・ループ構造を有するようになっている。
【0230】
組換えdsRNA発現ベクターは好ましくはDNAプラスミドまたはウイルスベクターである。dsRNAを発現するウイルスベクターは、限定するものではないが、アデノ随伴ウイルス(総説として、Muzyczka, et al., Curr. Topics Micro. Immunol. (1992) 158:97-129を参照のこと);アデノウイルス(例えば、Berkner, et al., BioTechniques (1998) 6:616, Rosenfeld et al. (1991, Science 252:431-434)およびRosenfeld et al. (1992), Cell 68:143-1555を参照のこと);あるいはアルファ・ウイルスならびに当分野で既知のその他のものに基づいて構築することができる。レトロウイルスは、in vitroまたはin vivoのうち少なくともいずれか一方において、上皮細胞を含む様々な種類の細胞に様々な遺伝子を導入するために使用されてきた(例えば、Eglitis, et al., Science (1985) 230:1395-1398; Danos and Mulligan, Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1998) 85:6460-6464; Wilson et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:3014-3018; Armentano et al., 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:61416145; Huber et al., 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:8039-8043; Ferry et al., 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:8377-8381; Chowdhury et al., 1991, Science 254:1802-1805; van Beusechem. et al., 1992, Proc. Nad. Acad. Sci. USA 89:7640-19; Kay et al., 1992, Human Gene Therapy 3:641-647; Dai et al., 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10892-10895; Hwu et al., 1993, J. Immunol. 150:4104-4115; country-regionU.S. Patent No. 4,868,116; placecountry-regionU.S. Patent No. 4,980,286; PCT Application WO 89/07136; PCT Application WO 89/02468; PCT Application WO 89/05345;およびPCT Application WO 92/07573を参照のこと)。形質導入可能であり、かつ細胞のゲノムに挿入された遺伝子を発現可能な組換えレトロウイルスベクターは、PA317およびPsi−CRIPのような適切なパッケージング細胞株に該組換えレトロウイルスゲノムをト
ランスフェクションすることにより作製することができる(Comette et al., 1991, Human Gene Therapy 2:5-10; Cone et al., 1984, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6349)。組換えアデノウイルスベクターは、感受性宿主(例えばラット、ハムスター、イヌおよびチンパンジー)の種々様々の細胞および組織を感染させるために使用可能であり(Hsu et
al., 1992, J. Infectious Disease, 166:769)、かつ、感染のために活発に有系分裂する細胞を必要とはしないという長所をも有している。
【0231】
本発明のDNAプラスミドまたはウイルスベクターのいずれかの中でdsRNA発現を駆動するプロモータは、真核生物のRNAポリメラーゼIプロモータ(例えばリボソームRNAプロモータ)でもよいし、RNAポリメラーゼIIプロモータ(例えば、CMVの初期プロモータまたはアクチンプロモータまたはU1 snRNAプロモータ)でもよいし、好ましくはRNAポリメラーゼIIIプロモータ(例えばU6 snRNAまたは7SK RNAプロモータ)でもよく、あるいは、発現プラスミドがT7プロモータからの転写に必要なT7 RNAポリメラーゼもコードするものとして、例えばT7プロモータなどの原核生物のプロモータであってもよい。プロモータは、導入遺伝子の発現を膵臓に対して方向付けることも可能である(例えば、膵臓用のインスリン調節配列(Bucchini et al., 1986, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83:2511-2515)を参照)。
【0232】
さらに、導入遺伝子の発現は、誘導可能な調節配列および発現系、例えばある種の生理学的な調節因子(例えば循環血中グルコースレベルまたはホルモン)に感受性の調節配列の使用により、正確に調節することが可能である(Docherty et al., 1994, FASEB J. 8:20-24)。細胞または哺乳動物において導入遺伝子の発現をコントロールするのに適した
、そのような誘導可能な発現系には、エクジソンによる調節、エストロゲン、プロゲステロン、テトラサイクリン、二量体化を誘導する化学物質、およびイソプロピル−β−D1−チオガラクトピラノシド(EPTG)による調節が含まれる。当業者であれば、dsRNA導入遺伝子の使用目的に基づいて適切な調節配列/プロモータ配列を選ぶことができるだろう。
【0233】
好ましくは、dsRNA分子を発現することができる組換えベクターは下記に述べるようにして送達され、標的細胞中に持続される。あるいは、dsRNA分子を一過性に発現させるウイルスベクターを使用することもできる。そのようなベクターは、必要なときに繰り返し投与することができる。一旦発現されると、dsRNAは標的RNAに結合してその機能または発現を調節する。dsRNAを発現するベクターの送達は、静脈内または筋肉内投与などによる全身性のものであってもよいし、患者から取り出された標的細胞に投与した後で患者に再導入することによるものでもよいし、あるいは所望の標的細胞内への導入を可能にする任意の他の手段によるものでもよい。
【0234】
dsRNAを発現するDNAプラスミドは、通常、カチオン性脂質担体(例えばOligofectamine)または非カチオン性の脂質系担体(例えばTransit−TKOTM)との複合体として、標的細胞内にトランスフェクションされる。一週間またはそれ以上の期間にわたる、単一のNav1.8遺伝子の異なる領域または複数のNav1.8遺伝子を標的とするdsRNAを介したノックダウンのための、多重脂質トランスフェクションも、本発明によって企図される。本発明のベクターの宿主細胞内への導入の成功は、様々な既知の方法を使用してモニタすることができる。例えば、一過性トランスフェクションは、緑色蛍光タンパク質(GFP)のような蛍光マーカーなどのリポーターを用いて示すことができる。ex vivoの細胞の安定的トランスフェクションは、トランスフェクションされた細胞に、ヒグロマイシンB耐性のような、特定の環境要因(例えば抗生物質および薬物)に対する耐性を与えるマーカーを使用して、確実にすることができる。
【0235】
Nav1.8特異的dsRNA分子をベクターに挿入し、ヒト患者のための遺伝子療法ベクターとして使用することもできる。遺伝子療法ベクターは、例えば、静脈内注射、局所投与によって(U.S. Patent 5,328,470を参照)、あるいは定位注射によって(例えば
、Chen et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:3054-3057を参照)、対象に送達することができる。遺伝子療法ベクターの医薬調製物は、許容可能な希釈剤中に遺伝子療法ベクターを含んでいてもよいし、あるいは遺伝子送達ビヒクルが埋め込まれた遅延放出マトリックスからなるものでもよい。別例として、組換え細胞から完全な遺伝子送達ベクターがそのまま生成されうる場合(例えばレトロウイルスベクター)、医薬調製物は、該遺伝子送達システムを生成する1個以上の細胞を含んでいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0236】
【図1】Cos‐7細胞にトランスフェクションされたヒトNav1.8のmRNA発現に対する表1のdsRNAのin vitro活性を示す図。
【図2】Nav1.8 dsRNAはin vitroにおいてSW620細胞に内在するNav1.5 mRNAに対し交差反応しないことを示す図。
【図3】ラット後根神経節細胞の初代培養物における内在性Nav1.8 mRNAに対する表1のdsRNAのin vitro活性を示す図。
【図4】後根神経節細胞の初代培養物における内在性Nav1.8 mRNAに対するdsRNA AL−DP−6209の用量応答を示す図。
【図5】ラットにおける完全フロインドアジュバント誘発型触覚過敏に対する、iFECTを伴ったdsRNA AL−DP−6209のin vivoにおける有効性を示す図。
【図6】ラットにおける完全フロインドアジュバント誘発型触覚過敏に対する、dsRNA AL−DP−4459およびAL−DP−4461のin vivoにおける有効性を示す図。
【図7】ラットにおける完全フロインドアジュバント誘発型触覚過敏に対する、dsRNA AL−DP−6050のin vivoにおける有効性を示す図。
【図8】ラットにおける完全フロインドアジュバント誘発型熱過敏に対する、dsRNA AL−DP−6050およびAL−DP−4459のin vivoにおける有効性を示す図。
【図9】ラットにおける脊髄神経結紮誘発型の触覚過敏および熱過敏に対する、dsRNA AL−DP−4459のin vivoにおける有効性を示す図。
【図10】非コンジュゲート型dsRNA AL−DP−6050、AL−DP−6209、AL−DP−6217、AL−DP−6218、およびAL−DP−6219の37℃ヒト脳脊髄液中における安定性を示す図。
【図11】コレステロールがコンジュゲートされたdsRNA AL−DP−4459の37℃ヒト脳脊髄液中における安定性を示す図。
【図12】ラット後根神経節細胞の初代培養物における内在性Nav1.8のmRNA発現に対する、siRNA AL−DP−6050およびそのコレステロールコンジュゲート型であるAL−DP−4459の用量応答を示す図。
【図13】ラットにおける脊髄神経結紮誘発型の熱過敏に対する、dsRNA AL−DP−6050のin vivoにおける有効性を示す図。
【図14】ラットにおける脊髄神経結紮誘発型の熱過敏に対する、dsRNA AL−DP−6050のND98−2.7リポソーム製剤のin vivoにおける有効性を示す図。
【図15】ND98脂質の構造を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内のヒトNav1.8遺伝子の発現を抑制するための二本鎖構造のリボ核酸(dsRNA)であって、前記dsRNAは互いに相補的な少なくとも2つの配列を有し、センス鎖は第1の配列を有し、アンチセンス鎖はNav1.8をコードするmRNAの少なくとも一部にほぼ相補的な相補領域を含む第2の配列を有し、前記相補領域の長さは30ヌクレオチド未満であり、前記dsRNAは、Nav1.8を発現している細胞と接触させると、Nav1.8遺伝子の発現を少なくとも20%抑制する、dsRNA。
【請求項2】
前記第1の配列は表1、4および6からなる群から選択され、前記第2の配列は表1、4および6からなる群から選択される、請求項1に記載のdsRNA。
【請求項3】
少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含む、請求項1に記載のdsRNA。
【請求項4】
少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含む、請求項2に記載のdsRNA。
【請求項5】
前記修飾ヌクレオチドは、2’‐O‐メチル修飾ヌクレオチド、5’‐ホスホロチオエート基を含むヌクレオチド、およびコレステリル誘導体またはドデカン酸ビスデシルアミド基に連結された末端ヌクレオチドからなる群から選択される、請求項3または4に記載のdsRNA。
【請求項6】
前記修飾ヌクレオチドは、2’‐デオキシ‐2’‐フルオロ修飾ヌクレオチド、2’‐デオキシ修飾ヌクレオチド、ロックされたヌクレオチド、脱塩基ヌクレオチド、2’‐アミノ修飾ヌクレオチド、2’‐O‐アルキル修飾ヌクレオチド、モルホリノヌクレオチド、ホスホロアミデート、および非天然の塩基を含むヌクレオチド、なる群から選択される、請求項3または4に記載のdsRNA。
【請求項7】
請求項1に記載のdsRNAを含む細胞。
【請求項8】
dsRNAと、薬学的に許容可能な担体とを含む、生物体におけるNav1.8遺伝子の発現を抑制するための医薬組成物であって、前記dsRNAは互いに相補的な少なくとも2つの配列を有し、センス鎖は第1の配列を有し、アンチセンス鎖はNav1.8をコードするmRNAの少なくとも一部にほぼ相補的な相補領域を含む第2の配列を有し、前記相補領域の長さは30ヌクレオチド未満であり、前記dsRNAは、Nav1.8を発現している細胞と接触させると、Nav1.8遺伝子の発現を少なくとも20%抑制する、医薬組成物。
【請求項9】
前記dsRNAの前記第1の配列は表1、4および6からなる群から選択され、前記dsRNAの前記第2の配列は表1、4および6からなる群から選択される、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
髄腔内への注入または注射、あるいは静脈内への注入または注射からなる群から選択される投与に応じて製剤化されることを特徴とする、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
細胞内のNav1.8遺伝子の発現を抑制する方法であって、
(a)細胞内に、二本鎖構造のリボ核酸(dsRNA)を導入する工程であって、該dsRNAは、互いに相補的な少なくとも2つの配列を有し、センス鎖は第1の配列を有し、アンチセンス鎖はNav1.8をコードするmRNAの少なくとも一部にほぼ相補的な相補領域を含む第2の配列を有し、該相補領域の長さは30ヌクレオチド未満であり、前記dsRNAは、Nav1.8を発現している細胞と接触させると、Nav1.8遺伝子
の発現を少なくとも20%抑制する工程、および
(b)工程(a)で生成された細胞を、Nav1.8遺伝子のmRNA転写物を分解させるのに十分な時間維持することによって、細胞内のNav1.8遺伝子の発現を抑制する工程
を含む方法。
【請求項12】
前記dsRNAの前記第1の配列は表1、4および6からなる群から選択され、前記dsRNAの前記第2の配列は表1、4および6からなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
疼痛を治療、予防、または管理する方法であって、そのような治療、予防または管理を必要とする患者に、治療上または予防上有効な量のdsRNAを投与する工程からなり、該dsRNAは、互いに相補的な少なくとも2つの配列を有し、センス鎖は第1の配列を有し、アンチセンス鎖はNav1.8をコードするmRNAの少なくとも一部にほぼ相補的な相補領域を含む第2の配列を有し、該相補領域の長さは30ヌクレオチド未満であり、前記dsRNAは、Nav1.8を発現している細胞と接触させると、Nav1.8遺伝子の発現を少なくとも20%抑制する、方法。
【請求項14】
前記dsRNAの前記第1の配列は表1、4および6からなる群から選択され、前記dsRNAの前記第2の配列は表1、4および6からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記疼痛は、神経障害性疼痛および炎症性疼痛からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
細胞内のNav1.8遺伝子の発現を抑制するためのベクターであって、前記ベクターは、dsRNAの1つの少なくとも一方の鎖をコードするヌクレオチド配列に作動可能なように連結された調節配列を有し、前記dsRNAの鎖のうち一方は、Nav1.8をコードするmRNAの少なくとも一部にほぼ相補的であり、前記dsRNAの長さは30塩基対未満であり、前記dsRNAは、Nav1.8を発現している細胞と接触させると、Nav1.8遺伝子の発現を少なくとも20%抑制する、ベクター。
【請求項17】
前記dsRNAの前記第1の配列は表1、4および6からなる群から選択され、前記dsRNAの前記第2の配列は表1、4および6からなる群から選択される、請求項16に記載のベクター。
【請求項18】
請求項16に記載のベクターを含む細胞。
【請求項19】
請求項17に記載のベクターを含む細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2009−516505(P2009−516505A)
【公表日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−539112(P2008−539112)
【出願日】平成18年11月3日(2006.11.3)
【国際出願番号】PCT/US2006/043252
【国際公開番号】WO2007/056326
【国際公開日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(505369158)アルナイラム ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (51)
【氏名又は名称原語表記】ALNYLAM PHARMACEUTICALS, INC.
【Fターム(参考)】