説明

O2−アリール化またはO2−グリコシル化1−置換ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート類およびO2−置換1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート類

【課題】新規ジアゼニウムジオレート類(ここで、N位は無機基または有機基で置換され、かつO−酸素は置換または無置換の芳香基に結合している。)の提供。
【解決手段】O−グリコシル化1−置換ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート類(O−グリコシル化ジアゼニウムジオレート類)およびO−置換1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート類(1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼニウムジオレート類)を提供する。O−アリール化ジアゼニウムジオレート類は、非求核性の中性から酸性の溶液中では、一酸化窒素の加水分解性の発生の点で安定であり、塩基性または求核性の環境または微環境下では、一酸化窒素を発生する。また、そのような化合物を含有する、医薬組成物を含む組成物、およびそのような化合物の使用方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[発明の技術分野]
本発明は、O−アリール1−置換ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート類(O−アリールジアゼニウムジオレート類:diazeniumdiolates)、O−グリコシル化1−置換ジアゼニウムジオレート類、およびO−置換1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼニウムジオレート類、並びにそのようなジアゼニウムジオレート類を含有する組成物、そのようなジアゼニウムジオレート類の使用方法、およびO−アリールジアゼニウムジオレート類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[発明の背景]
一酸化窒素(NO)は、広範な種々の生物調節(bioregulatory)プロセスに関係し、一酸化窒素を含む、あるいは一酸化窒素を放出できる化合物は、これらのプロセスを調節するのに有用であると証明されてきた。トリニトログリセリン、ニトロプルシド等の、多類の一酸化窒素含有および/または放出付加物が、この分野において知られている(米国特許第5,405,919号(Keeferら、生物学的適用におけるそれらの使用の制限を含む)に概説されている)。そのような化合物の制限された有用性は、一部には、特に生物学的に有用な、別類の一酸化窒素発生化合物、即ち、ジアゼニウムジオレート類の発展を生んだ。
【0003】
ジアゼニウムジオレート類としてN官能基を含む化合物が挙げられ、構造的および機能的にニトロサミン類と区別される(例えば、Reilly,米国特許第3,153,094号参照)。公知のジアゼニウムジオレート類は、最近発行された特許に開示されている。米国特許第5,039,705号(Keeferら)および第5,208,233号(Keeferら)は、第2級アミン−一酸化窒素付加物およびその塩を開示している。米国特許第5,155,137号(Keeferら)および第5,250,550号(Keeferら)は、一酸化窒素とポリアミンの複合体を開示している。米国特許第5,389,675号(Christodoulouら)は、一酸化窒素−求核剤付加物のリガンド金属混合複合体を開示し、米国特許第 5,525,357号(Keeferら)および第5,405,919号(Keeferら)は、ポリマー結合一酸化窒素/求核剤付加物組成物を開示している。米国特許第4,954,526号(Keeferら;'526特許)および第5,212,204号(Keeferら)は、心臓血管剤としてイオン性ジアゼニウムジオレート類の使用を開示している。加えて、'526特許は、O−置換および金属結合ジアゼニウムジオレート類を開示している。Keeferら、米国特許第5,366,997号('997)は、式:
【0004】
【化1】

【0005】
[式中、N基のO−酸素は官能基Rに結合している。]
を有するジアゼニウムジオレート類を開示している。R基がO−酸素から開裂する時、NOは自発的に放出され得る。
【0006】
Keeferら('997)は、(i)RおよびRは、それらが結合している窒素原子と一緒になって、ピロリジニル、ピペラジノまたは他の複素環基を形成し得る、(ii)Rは、オレフィン性であってもおよび/またはヒドロキシ、ハロ、アシルオキシまたはアルコキシで置換されていてもよいC1−12直鎖もしくはC3−12分岐鎖アルキル、C1−12無置換/置換アシル、スルホニル、カルボキサミド、スルフィニル、スルフェニル、カルボネート誘導基またはカルバメート誘導基であり、かつ(iii)ピロリジニル基は、構造:
【0007】
【化2】

【0008】
[式中、w=4、かつR=水素、C1−8直鎖もしくは分岐鎖アルキル、C3−8シクロアルキル、または置換もしくは無置換アリールである。]を有し得ることを開示しているが、Keeferら('997)は、Rがアリールもしくは置換アリールであること、およびピロリジノ基が2位で置換もしくは無置換カルボキシル基で置換され得ること、を開示していない(米国特許第5,632,981号の実施例1も参照)。同様に、Keeferら('997)は、ジアゼニウムジオレート類のO−グリコシル化を開示していない。
【0009】
これまで、ジアゼニウムジオレート類のO−アリール置換体があり得ることは知られていなかった。さらに、以前から開示されていたジアゼニウムジオレート類の化学的研究は、それらが、低いpHと同様に高いpHにおいても、一般に少なくとも安定であること、および特定の他類の「ニトロ血管拡張」薬とは違って、それらのNO放出速度は、求核性チオールの存在に影響されないことという結果を導いた。
【0010】
従って、現在入手できる他のジアゼニウムジオレート類に対して利点を与えるような類のジアゼニウムジオレート類の必要性がある。この点について、O−アリール置換ジアゼニウムジオレート類は、アルカリ条件下または求核性攻撃後に自発的にNOを放出し得る点で有利である。O−アリール置換ジアゼニウムジオレート類はまた、酸化性または求電子性の活性化と求核性攻撃の組み合わせの後にも自発的にNOを放出し得る。
【0011】
従って、本発明の主な目的は、NOの自発的な放出からジアゼニウムジオレートを保護するために、N基のO−酸素がアリールまたは置換アリール基で誘導される、一酸化窒素/求核剤付加物を提供することである。本発明の別の目的は、中性または酸性溶液下では一酸化窒素の放出に抵抗するが、求核性攻撃時またはpH増加時にNOを放出する、新規な類のジアゼニウムジオレート類を提供することである。本発明のさらに別の目的は、O−グリコシル化1−置換ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート類およびO−置換1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート類を提供することである。さらに本発明の目的は、そのような化合物を含有する組成物(新規なターゲティング部分を含む一酸化窒素/求核剤付加物を含有する組成物を含む)を提供することである。関連の目的は、NO放出をターゲティングするのにより大きい柔軟性および特異性を与える生物学的組織ターゲティング戦略に従う、O−アリール置換ジアゼニウムジオレート類を提供することである。さらに本発明の目的は、そのような化合物の使用方法を提供することである。本発明のこれらおよび他の目的、並びに付加的な発明の特徴は、以下に与えられる本発明の記述から明らかだろう。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、式:
【0013】
【化3】

【0014】
[式中、Xは無機基または有機基であり、かつQはアリール基である。]
により説明される、O−アリール置換ジアゼニウムジオレート(即ち、O−アリールジアゼニウムジオレート)を提供する。この新規な類の化合物において、アリール基Qの原子はN官能基のO−酸素に結合している。式(I)のジアゼニウムジオレート類は、中性から酸性の溶液中で一酸化窒素の加水分解性の発生の点で安定である。意外にも、これらの新規化合物、またはこれらの化合物の酸化性または求電子性の活性化後に生じた生成物は、アリール基がジアゼニウムジオレート残基から分離する塩基性もしくは求核性環境下で、一酸化窒素を発生し得ることが証明された。
【0015】
本発明はまた、O−グリコシル化1−置換ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート類およびO−置換1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート類も提供し、これらは、共に式:
【0016】
【化4】

【0017】
[式中、XおよびRは、ここで定義したように有機基および/または無機基であるが、O−グリコシル化1−置換ジアゼニウムジオレート類の場合、Rは糖でなければならない。]で示され得る。
【0018】
さらに、O−グリコシル化1−置換ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート類に関して、基Xは、どの有機基または無機基であってもよい。好ましくは、Xは、炭素および水素とは異なる原子を含み、かつ炭素とは異なる原子を介してジアゼニウムジオレートの窒素に結合している。最も好ましくは、Xはアミノ基であり、かつ窒素原子を介してジアゼニウムジオレートの窒素に結合している。
【0019】
−置換1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート類に関して、式IaのXは
【0020】
【化5】

【0021】
であってもよく、その[1−(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼニウムジオレート類は、以下の式によって示される。:
【0022】
【化6】

【0023】
[式中、R22は、水素、ヒドロキシ、OM(式中、Mはカチオンである。)、ハロまたはX2324(式中、Xは酸素、窒素または硫黄であり、かつR23およびR24は、独立して置換もしくは無置換C1−24アルキル、置換もしくは無置換C3−24シクロアルキル、置換もしくは無置換C2−24オレフィン基、置換もしくは無置換アリール(例えば、アクリジン、アントラセン、ベンゼン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ベンゾオキサゾール、ベンゾピラゾール、ベンゾチアゾール、カルバゾール、クロロフィル、シンノリン、フラン、イミダゾール、インドール、イソベンゾフラン、イソインドール、イソオキサゾール、イソチアゾール、イソキノリン、ナフタレン、オキサゾール、フェナントレン、フェナントリジン、フェノチアジン、フェノキサジン、フタルイミド、フタラジン、フタロシアニン、ポルフィン、プテリジン、プリン、ピラジン、ピラゾール、ピリダジン、ピリジン、ピリミジン、ピロコリン、ピロール、キノリジニウムイオン、キノリン、キノキサリン、キナゾリン、シドノン、テトラゾール、チアゾール、チオフェン、チロキシン、トリアジンおよびトリアゾール)、または複素環基(例えばグリコシル等)であり、XがOまたはSの時、R24は存在しない。)である。]。あるいは、Xが窒素の時、R23およびR24は、Xと一緒になって複素環、例えば、
【0024】
【化7】

【0025】
[式中、AはN、OまたはSであり、wは1−12であり、yは1または2であり、zは1−5であり、R、R、R25およびR26は、水素、C1−8直鎖アルキル、C3−8分岐鎖アルキル、C3−8シクロアルキルまたはアリールである。]からなる群より選択される複素環を形成する。上記のR23およびR24基は、無置換または適当に置換されてもよい。例えば、R23およびR24基は、アシルオキシ、アシルチオ、ヒドロキシ、アミノ、カルボキシ、メルカプト、ハロ、アミド、スルホニル、スルホキシ、スルフェニル、ホスホノ、ホスファト等で適当に置換されてもよい。
【0026】
さらに、O−置換1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート類に関して、式Iaの基Rは、どの有機基または無機基であってもよく、これは、示されるように、ジアゼニウムジオレートの末端酸素に共有結合するが、水素とは異なり、かつ置換もしくは無置換C1−12直鎖もしくはC3−12分岐鎖アルキル、置換もしくは無置換C2−12直鎖もしくはC3−12分岐鎖オレフィン基、置換もしくは無置換C1−12アシル、スルホニル、カルボキサミド、グリコシル基、アリール基、または式−(CH−ON=N(O)NR2829(式中、nは2−8の整数であり、かつR28およびR29は、独立してC1−12直鎖アルキル、C3−12分岐鎖アルキル、C2−12直鎖もしくはC3−12分岐鎖オレフィン基であるか、あるいはR28およびR29は、それらが結合している窒素原子と一緒になって、複素環基、好ましくはピロリジノ、ピペリジノ、ピペラジノまたはモルホリノ基を形成する。)の基である。上記のR基は、無置換でもまたは置換されてもよい。好ましい置換として、ヒドロキシ、ハロ、アシルオキシ、アルコキシ、アシルチオまたはベンジルによる置換が挙げられる。
【0027】
別の観点から、本発明は、本発明のジアゼニウムジオレートを含有する、医薬組成物を含む組成物を包含する。医薬組成物は、好ましくは、医薬上許容され得る担体を付加的に含有する。
さらに別の観点から、本発明は、本発明に従う化合物の使用方法を提供する。
さらに別の観点から、本発明は、O−アリールジアゼニウムジオレート類の製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、時間(分)に対するTrp37蛍光(RFU)のグラフであり、O−アリールジアゼニウムジオレート類による、HIV-1核キャプシドp7タンパクからの亜鉛の放出を示す。グラフにおいて、○はネガティブコントロール、即ち薬剤なしを示し、□はポジティブコントロール、即ち624151(RiceらAntimicrob. Agents Chemother. 41: 419426 (1997)参照)を示し、■は実施例1の化合物(LK1)を示し、◆は実施例8の化合物(LK2)を示し、▲は実施例5の化合物(LK3)を示し、●は実施例10の化合物(LK4)を示し、×は実施例11の化合物(LK5)を示す。
【図2】図2は、時間(分)に対する相対的NO放出速度のグラフであり、グルタチオンS−転移酵素(GST) によるDNP-PYRRO/NOからのNOの放出の触媒作用を示す。
【0029】
[発明の詳細な記述]
−アリール化ジアゼニウムジオレート類
本発明は、式:
【0030】
【化8】

【0031】
[式中、Xは有機基または無機基であり、かつQはアリール基である。]
を有するO−アリール1−置換ジアゼニウムジオレート(即ち、O−アリール1−置換ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート)を提供する。
本発明によれば、N基のO−酸素は、アリール基の環の原子に直接結合している。言い換えると、アリール環からO−酸素を分離するスペーサー(spacer)原子(例えば、メチレン)がない。もし、アリール基が、2環基または多環基を含み、そのアリール基の全ての環が必ずしも芳香性ではないなら、O−酸素とアリール基間の結合は、芳香環の一部である原子を介している。さらに、O−酸素は、N基のO−酸素に結合し得るアリール基のどの芳香環原子にも結合し得る。N基のO−酸素と結合し得る芳香環の原子は、他の結合もあり得るが、一般的には炭素または窒素である。
【0032】
どの特別な理論にも結びつくとは思わないが、O−酸素とアリール環の原子との結合は、その環の活性化された原子に結合することにより達成されると現在考えられる。活性化は、どの適当なメカニズムを介しても達成され得る。この点について、アリール環を活性化させる好ましいメカニズムは、部分的な正電荷を有するアリール環の原子を介してジアゼニウムジオレートを反応させるか、あるいはより特別には、環構造のアミノ置換基を置き換えることによる。
【0033】
第1の好適な反応メカニズムにおいて、アリール環は、適当な電子求引性基で置換され、当該基は、実施例12のように、環の一部で、かつジアゼニウムジオレートと反応する前は「脱離基」であってもよい。電子求引性基および脱離基は、ある場合には、同じ基であってもよいことが当業者にはわかるだろう。脱離基は、ジアゼニウムジオレートに置き換わり、本発明のO−アリールジアゼニウムジオレートを形成する。好適な脱離基としては、限定されないが、F、Cl、Br、I、NO、OSORおよびOSOR(ここで、Rは有機基、金属中心等である。)が挙げられ、その合成物は当業者には十分理解される。説明のために、限定はされないが、好適なR基として、H、アルキル、アルケニルまたはアリールが挙げられる。この反応は、よく知られたSArメカニズムを基礎としている。例えば、Nucleophilic Aromatic Displacement: The Influence of the Nitro Group, Francois Terrier, VCH Publishing, Inc., New York, New York, pages 1-11 (1991) 参照。好ましくは、これらのSAr反応は、少なくとも1つの電子求引性基を含む、電子が不足したアリール環において行われる。
【0034】
第2の好適な反応メカニズムにおいて、アリール反応物は、適当なアミノ基で置換されて、置き換わったアミノ基に結合するアリール基の環原子の直接誘導化を可能にする(例えば、アミノ基のジアゾ化後)。本発明化合物に組み込まれた後は、活性化されるべきO−酸素に結合するアリール環の原子に対する要求はない。しかし、本発明化合物に組み込まれた後、この原子が活性化されるなら、その原子が結合するジアゼニウムジオレート基は、後続の求核性置換を介して置き換わり得る(例えば、適当な強い塩基下で)。言い換えると、酸化性または求電子性の活性化の結果、本発明化合物は変化して、O−酸素に結合するアリール環原子が活性化され、従って、上記のように、その化合物は後続の求核性置換を受ける。
【0035】
有利には、本発明化合物は、以前からこの分野で知られていた、他の一酸化窒素/求核剤付加物が有しない、新規で有用な特性を有する。一般的に、本発明化合物は、中性または酸性のpH下では安定である(即ち、中性または酸性のpH下では、式Iで示される化合物はNOを発生しない。)。本発明化合物の別の有利な特性は、O−アリール結合は、水酸化イオンを含む求核剤による開裂をよく受けやすいということである。特定のO−アリールジアゼニウムジオレートまたは酸化的もしくは求電子的に活性化された本発明のO−アリールジアゼニウムジオレートは、塩基性または求核性環境下に置かれた時、O−酸素へのアリール結合は壊れ得る。生じたジアゼニウムジオレートイオンは、予想できる第1段階メカニズムを介して自発的に減少し、NOを発生する。生じたアリール基は、その環境により与えられた求核剤で置換される。もしその環境により与えられた求核剤が酵素の一部であれば、その酵素は不活性化され得る。O−アリールジアゼニウムジオレート類の求核性攻撃に対する感受性により、当該化合物はまた、求核性の組織成分、生体部位および生体の微環境へ一酸化窒素をターゲティングするための、プロドラッグを設計することに特に従う。
【0036】
チオールが混合物で存在する時、本発明化合物はまた、個々のチオール(有機性−SH含有化合物)を同定および量を測定するのに有用である。例えば、C−C直鎖チオールから成ると予想されるサンプルは、実施例1の生成物をテトラヒドロフランまたは他の不活性溶媒に溶解し、次いで過剰モルの得られた溶液をアッセイされるべきサンプルと混合することにより、分析され得る。続く反応が終了した後、一部は、紫外線検出システムを用いてHPLC分析される。得られたクロマトグラムで見られるピークは、それらの保持時間と、別に誘導された信頼性のある、個々のC−C直鎖チオールの標準品の保持時間とを比較することにより同定され、そしてピーク面積を、個々の標準カーブを介した濃度に変換することにより量が測定され得る。
【0037】
−アリールジアゼニウムジオレート類に関して、ここで使用される「アリール基」は、(同素)環((homo)cyclic)、複素環または多環構造の一部であるかどうかにかかわらず、どの芳香基にも言及される。「芳香性」の標準的な理解がここで使用される(例えば、L.G. Wade, Jr., Organic Chemistry, 2d Edition, Prentice Hall, Englewood Cliffs, New Jersey, 682-683 (1991)参照)。ここで使用されるアリール基はまた、広範な種々の置換基を有してもよい。置換基がアリール環の芳香性を壊さないなら、どの適当なアリール置換基も、使用され得る。
【0038】
式Iのアリール基Qに話を変えると、Qは、ジアゼニウムジオレートのO−酸素原子との反応に従う(または従わされ得る)全てのアリール基を含むことを意味する。このような基Qとしては、同素環、複素環および多環の芳香性構造、並びにそれらの誘導体が挙げられる。アリール基Qの例として、アクリジン、アントラセン、ベンゼン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ベンゾオキサゾール、ベンゾピラゾール、ベンゾチアゾール、カルバゾール、クロロフィル、シンノリン、フラン、イミダゾール、インドール、イソベンゾフラン、イソインドール、イソオキサゾール、イソチアゾール、イソキノリン、ナフタレン、オキサゾール、フェナントレン、フェナントリジン、フェノチアジン、フェノキサジン、フタルイミド、フタラジン、フタロシアニン、ポルフィン、プテリジン、プリン、ピラジン、ピラゾール、ピリダジン、ピリジン、ピリミジン、ピロコリン、ピロール、キノリジニウムイオン、キノリン、キノキサリン、キナゾリン、シドノン、テトラゾール、チアゾール、チオフェン、チロキシン、トリアジンおよびトリアゾールが挙げられる。
【0039】
本発明と一致して、これら芳香性化合物Qのそれぞれは、環の芳香性が維持される限り、芳香環に置換され得る、この分野でよく知られた多くの置換基で不定に誘導化され得る。例えば、アリール基Qの置換基として、X[N(O)NO](式中、Xはこれ以後定義され、式IのXと同様である。)、ハロ、ヒドロキシ、アルキルチオ、アリールチオ、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、モノ−またはジ−置換アミノ、アンモニオまたは置換アンモニオ、ニトロソ、シアノ、スルホナト、メルカプト、ニトロ、オキソ、C−C24脂肪族基、C−C12オレフィン基、C−C24シクロアルキル、C−C24ヘテロシクロアルキル、ベンジル、フェニル、置換ベンジル、置換フェニル、ベンジルカルボニル、フェニルカルボニル、糖類、置換ベンジルカルボニル、置換フェニルカルボニルおよびリン誘導基が挙げられる。リン誘導基の例として、ホスフェートおよびホスホノ基が挙げられる。ホスフェート基の例として、(OH)P(O)O−および置換(OH)P(O)O−基が挙げられ、これらの1またはそれ以上の酸素原子は、独立してSまたはNR’(式中、R’はC−C10脂肪族基、シクロアルキルまたはアリール基であると理解される。)に置き換わってもよい。C−C24脂肪族基の置換基の例として、C−C24アシル、および
【0040】
【化9】

【0041】
[式中、Rは、水素、置換もしくは無置換C−C23脂肪族基、置換もしくは無置換C−C23シクロアルキル、置換もしくは無置換C−C12オレフィン基、ベンジル、フェニル、置換ベンジルまたは置換フェニルであり、当該置換ベンジルまたは置換フェニルは、ニトロ、ハロ、ヒドロキシ、C−C24アルキル、C−C24アルコキシ、アミノ、モノ−C−C24アルキルアミノ、ジ−C−C24アルキルアミノ、シアノ、フェニルおよびフェノキシからなる群より選択される1−5の置換基で置換されている。]が挙げられる。好適な糖類として、リボース、グルコース、デオキシリボース、デキストラン、スターチ、グリコーゲン、ラクトース、フコース、ガラクトース、フルクトース、グルコサミン、ガラクトサミン、ヘパリン、マンノース、マルトース、スクロース、シアル酸およびセルロースが挙げられる。他の好適な糖類は、ホスホリル化、3,5−シクロホスホリル化並びにポリホスホリル化された、ヘキソース類およびペントース類である。
【0042】
ジアゼニウムジオレート基に結合し得る本発明の置換アリール化合物の例として、ジニトロフェノール(ベンゼン)、ヒポキサンチン(プリン)、ウリジン(ピリミジン)、ビタミンK(ナフタレン)およびリボシルウリジン(ヌクレオシド)が挙げられる。
【0043】
本発明の別の特定の実施態様においては、アリール基は、生存している有機体で通常見られる分子またはその置換体と同一または構造的に類似している。これらの生物学的に適切な基は、ヌクレオチド類、ヌクレオシド類、核酸類、ペプチドホルモン類を含むペプチド類、非ペプチドホルモン類、ビタミン類および他の酵素補因子類(例えばポルフィリン等)からなる群より選択され得る。生物学的に適切なアリール基の例として、チロキシン、NAD(またはNADH)、クロロフィル、ヒポキサンチン、ウリジンおよびビタミンKである。
【0044】
以下の反応概略図は、本発明のO−アリールジアゼニウムジオレート類の製造方法を例証する。これらの例証する反応概略図において、一般的には、ジアゼニウムジオレート(X−[N])の5%炭酸水素ナトリウム水溶液(弱塩基性である)の溶液を、好ましくは窒素等の不活性ガスのブランケット下で、0℃に冷却する。次いで、1当量の活性化された芳香性試薬の、t−ブチルアルコール、ジメチルスルホキシドまたはN,N−ジメチルホルムアミド等の溶媒の溶液を、ゆっくりと添加する。どの特別な理論にも結びくわけではないが、極性の非プロトン性溶媒が好ましいと考えられる。反応温度は、より小さい反応性アリール基のために、例えば、室温またはそれ以上まで少しずつ上げる。一般的に、添加時に沈殿物が形成される。次いで、混合物を徐々に室温まで温め一晩攪拌する。生成物をジクロロメタン等の適当な抽出剤で抽出し、希塩酸次いで炭酸水素ナトリウム溶液で続いて洗浄する。有機層は、硫酸ナトリウム等の適当な乾燥剤で乾燥し、好ましくは無水硫酸マグネシウムの層を通して濾過し、真空下で溶媒を留去して、粗生成物を得る。通常は、生成物は固体である。エタノールまたは他の適当な溶媒からの再結晶化は、生成物の好ましい精製方法である。
【0045】
これらの条件は、当業者の特定の適用に合うように改変し得ることは、当業者にはわかるだろう。
クロロ化されたキノリンおよびイソキノリンは、ジアゼニウムジオレートと反応でき、Cl置換基は、以下に示すように、ジアゼニウムジオレートのO−酸素に置き換わる。
【0046】
【化10】

【0047】
その上、キナゾリンは以下に示すように組み込まれ得る。
【0048】
【化11】

【0049】
フタラジン類もまた、本発明に従って以下に示すように組み込まれる。
【0050】
【化12】

【0051】
アクリジンは、以下に示すように組み込まれ得る。
【0052】
【化13】

【0053】
シンノリンもまた、以下に示すように組み込まれ得る。
【0054】
【化14】

【0055】
キノキサリンもまた、以下に示すように組み込まれ得る。
【0056】
【化15】

【0057】
酸素−および窒素−含有ヘテロ芳香性化合物もまた、本発明に従って、ジアゼニウムジオレートのO−酸素置換のための芳香性試薬として使用され得る。例えば、オキサゾールおよびベンゾオキサゾールは、以下に示すように、2位で誘導化され得る。
【0058】
【化16】

【0059】
同様に、チアゾールおよびベンゾチアゾールもまた、2位で誘導化され得る。
【0060】
【化17】

【0061】
誘導化されたビタミンKもまた、以下に示すように製造され得る。
【0062】
【化18】

【0063】
最も右の(すぐ上の)構造における、アリール環のO−ジアゼニウムジオレート化された原子は、活性化されない。従って、最も右の構造は、X−Nを再生させる求核性攻撃に抵抗する、言い換えると、NOの製造が自発的に低下するだろう。従って、NOを発生させるために、最も右の構造は、求核性攻撃の前に酸化性プレ活性化を行うことが必要である。要求される酸化を独自に行い得るある細胞または器官種をターゲティングし、従って、組織の他のNO感受性部位での暴露を避けながら、所望の組織へのNO暴露を制限するのに、この酸化性プレ活性化の要求もまた有利だろう。
【0064】
求電子性プレ活性化を必要とする類の化合物の例として、以下に示す化合物がある。
【0065】
【化19】

【0066】
トリアジン類も、同様に、以下に示すように、本発明のO−アリール置換ジアゼニウムジオレート類を形成する芳香性試薬であり得る。そのような化合物の合成は、現存する、トリアジンから誘導された除草剤の有効性を向上させる。
【0067】
【化20】

【0068】
核酸類、およびそれらが含むニトロを生ずる塩基(リボシル化された塩基を含む)もまた、本発明のO−アリール置換ジアゼニウムジオレート類を形成する芳香性試薬として有用であり得る。このことは実施例13で例証される。
【0069】
別の興味あるO−アリール化ジアゼニウムジオレートは、以下の反応の生成物として示される;それは、加水分解時にNOおよびアロプリノールを共に発生し得る。
【0070】
【化21】

【0071】
有利には、アロプリノールは既に医薬上有用であることが知られている。従って、適当なアリール基を含む公知の医薬上有用な化合物を、本発明のO−アリールジアゼニウムジオレート類に変換することによって、本発明は、現存する薬剤を、NOの放出により増強させる。
【0072】
同様に、ビオプテリンジアゼニウムジオレートの誘導体は、以下に示すように、置換プテリジンから製造され得る。
【0073】
【化22】

【0074】
ヘテロ原子を介した結合を利用する適当なアリール置換の例は、以下の反応概略図で示され、BuONOまたは他の適当なニトロソ化剤と反応させることにより行われ得る。
【0075】
【化23】

【0076】
よく知られた抗炎症剤であるベンダザック(Bendazac)の構造類似体は、以下のように製造され得る。
【0077】
【化24】

【0078】
本発明によれば、ジアゼニウムジオレート類として定義される化合物類のどの化合物も、O−アリール置換を受け得る。従って、式Iを有する化合物のXはどの有機基または無機基であってもよい。好ましくは、Xは、炭素および水素とは異なる原子を含み、炭素とは異なる原子を介してN基の窒素に結合している。最も好ましくは、Xのアミンであり、窒素原子を介してN基の窒素に結合している。好適なXの基としてまた、限定されないが、C−C24脂肪族基、アリール、および非芳香環基が挙げられる。「脂肪族基」は、炭素および水素を含み、窒素、酸素、硫黄、リンおよびハロゲンを含んでもよい非環式基を意味する。「アリール」は、上述のように、少なくとも1つの芳香環を含む基を意味する。好ましくは、アリール基はC−C30含有基である。非芳香環基は、少なくとも1つの環構造を含み、芳香環を含まない基を意味する。好ましくは、非芳香環基はC−C30含有基である。
【0079】
式Iの基Xは、無置換であるか、または適当な付加基で置換されてもよく、例えば、−[N(NO)O]、ハロ、ヒドロキシ、アルキルチオ、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、モノ−またはジ−置換アミノ、シアノ、スルホナト、メルカプト、ニトロ、置換もしくは無置換C−C12脂肪族基、置換もしくは無置換C−Cシクロアルキル、置換もしくは無置換C−Cヘテロシクロアルキル、置換もしくは無置換C−C12オレフィン基、ベンジル、フェニル、置換ベンジル、置換フェニル、ベンジルカルボニル、フェニルカルボニル、糖類、置換ベンジルカルボニル、置換フェニルカルボニルおよびリン誘導基である。リン誘導基の例として、ホスファトおよびホスホノ基が挙げられる。ホスファト基の例として、(OH)P(O)O−および置換(OH)P(O)O−基が挙げられ、これらの1またはそれ以上の酸素原子は、独立してSまたはNR’(式中、R’はC−C含有脂肪族基、シクロアルキルまたはアリール基であると理解される。)に置き換わってもよい。好ましいC−C12脂肪族基の置換基として、C−C12アシル、および
【0080】
【化25】

【0081】
[式中、Rは、C−C10置換もしくは無置換脂肪族基、C−C11オレフィン基、C−C置換もしくは無置換シクロアルキル、ベンジル、フェニル、置換ベンジルまたは置換フェニルであり、当該置換ベンジルまたは置換フェニルは、ハロゲン、ヒドロキシ、C−Cアルキル、C−Cアルコキシ、アミノ、モノ−C−Cアルキルアミノ、ジ−C−Cアルキルアミノ、フェニルおよびフェノキシからなる群より選択される1または2で置換されている。]が挙げられる。好適な糖類および多糖類として、リボース、グルコース、デオキシリボース、デキストラン、スターチ、グリコーゲン、ラクトース、ガラクトース、フルクトース、グルコサミン、ガラクトサミン、ヘパリン、マンノース、マルトース、スクロース、シアル酸およびセルロースが挙げられる。他の好適な糖類は、ホスホリル化、3,5−シクロホスホリル化並びにポリホスホリル化された、ペントース類およびヘキソース類である。
【0082】
本発明の1つの実施態様において、Xは、米国特許第5,212,204号に開示の無機基である。Xが無機基である式Iの好適な実施態様は、S−(スルファイト)および−O(オキサイド)である。
【0083】
本発明の別の実施態様において、Xは、米国特許第5,155,137号に開示のポリアミンである。従って、ポリアミン置換O−アリールジアゼニウムジオレート類は以下の式を有する。
【0084】
【化26】

【0085】
[式中、Qは式IのQと同様で、上記のように定義され、bおよびdは、同一または異なってもよく、0または1であり、R、R、R、RおよびRとして、同一または異なって、水素、置換もしくは無置換C−Cシクロアルキル、置換もしくは無置換C−C12直鎖もしくは分岐鎖アルキル、置換もしくは無置換ベンジル、置換もしくは無置換ベンゾイル、置換もしくは無置換C−C12オレフィン基、フタロイル、アセチル、トルフルオロアセチル、p−トルイル、t−ブトキシカルボニルまたは2,2,2−トリハロ−t−ブトキシカルボニルが挙げられる。式IIのi、jおよびkの値は、同一または異なってもよく、2〜12の整数である。]
【0086】
本発明の好適な実施態様において、O−アリールジアゼニウムジオレート類は、米国特許第5,039,705号(Keeferら)および第4,954,526号(Keeferら)に開示の化合物から誘導され、以下の式を有する。
【0087】
【化27】

【0088】
[式中、RおよびRは、同一または異なってもよく、H、C−C12直鎖アルキル、C−C12アルコキシもしくはアシルオキシ置換直鎖アルキル、C−C12ヒドロキシもしくはハロ置換直鎖アルキル、C−C12分岐鎖アルキル、C−C12ヒドロキシ、ハロ、アルコキシもしくはアシルオキシ置換分岐鎖アルキル、C−C12直鎖オレフィン基、およびC−C12分岐鎖オレフィン基からなる群より選択され、無置換であるか、あるいはヒドロキシ、アルコキシ、アシルオキシ、ハロまたはベンジルで置換され、但し、RとRの両方がHであるということはない;あるいはRおよびRは、それらが結合している窒素原子と一緒になって、
【0089】
【化28】

【0090】
(式中、Aは、N、OまたはSであり、wは1〜12であり、yは1または2であり、zは1〜5であり、Rは、水素、C−C直鎖アルキル、C−C分岐鎖アルキル、C−Cシクロアルキル、置換もしくは無置換アリール(例えば、フェニル、トルイル等)であり、かつRは、水素、C−C直鎖アルキルまたはC−C分岐鎖アルキルである。)からなる群より選択される複素環を形成する。]。典型的なアザクラウン基は、1−アザ−12−クラウン−4、1−アザ−15−クラウン−5および1−アザ−18−クラウン−6である。Aが窒素の時、例えば、ここに言及により組み込まれた、米国出願第08/475,732号に開示のように、窒素原子自体、置換されてもよい。
【0091】
さらなる例として、以前に言及により完全に組み込まれた、参考のために組み入れた、米国特許第5,250,550号に開示の化合物から誘導される、O−アリール置換ジアゼニウムジオレート類が挙げられ、以下の式を有する。
【0092】
【化29】

【0093】
[式中、Dは、
【0094】
【化30】

【0095】
であり、ここで、R10およびR11は、同一または異なっている。置換基R10およびR11は、どの適当な置換基であってもよく、その例として、水素、C3−8シクロアルキル、C1−12直鎖もしくは分岐鎖アルキル、ベンジル、ベンゾイル、フタロイル、アセチル、トルフルオロアセチル、p−トルイル、t−ブトキシカルボニルおよび2,2,2−トリハロ−t−ブトキシカルボニルが挙げられる。式IVにおいて、fは0〜12の整数である。]
【0096】
好適なO−アリール置換ジアゼニウムジオレート類として、実施例14の化合物も挙げられる。
【0097】
−アリール化ジアゼニウムジオレート類の代替の製造方法は、以下の文献反応(Stevens, J. Org. Chem. 29: 311-315 (1964))の適用を通して可能である。
【0098】
【化31】

【0099】
アリールオキシアニオンArOをStevens反応のメトキシドに置換することによって、種々の構造のO−アリールジアゼニウムジオレート類を得ることが可能である。同様に、ArS種に対応する誘導体を得ることが可能である。
【0100】
−グリコシル化ジアゼニウムジオレート類および1−〔(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル〕ジアゼニウムジオレート類
本発明はまた、2つの他の新しい類のジアゼニウムジオレート類を提供する。この1つの類のジアゼニウムジオレート類は、加水分解的に不安定な基(R)を含むものであり、遊離ジアゼニウムジオレート(NO供与体)X−NO=NOへの開裂時に、無毒かつ恐らくは有益な糖を放出して、糖に基づくレセプター媒介現象を利用できる。他の類のジアゼニウムジオレート類は、とりわけ、抗血栓剤および血管拡張剤としての有効性が証明されている超高速NO供与体であるが、その不安定性により誘導化することが本質的に極めて困難である、1−〔(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル〕ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート二ナトリウム塩(PROLI/NO)のプロドラッグを提供する(Saavedraら、J. Med. Chem. 31:4361-4365(1996);および米国特許第5,632,981号(Saavedraら))。超高速NO供与体PROLI/NOのプロドラッグを生成する新たに発見された能力は、そのPROLI/NOプロドラッグが、安定化しているO−保護基の代謝的な除去のための所望の器官または細胞種に到達するまで、循環システムを介して自由に動くことを可能にし、それによって、特異的なまたは好ましい部位でNOの迅速な放出を与え、そしてターゲティング組織付近での調節された速度での注入による投与の必要性は除かれる。さらに、対応するニトロサミン(N−ニトロソプロリン)は、生物学的媒体中で形成される場合、他のニトロサミン類とは違って、発癌性のおそれはない。
【0101】
従って、本発明は、O−グリコシル化1−置換ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート類(O−グリコシル化ジアゼニウムジオレート類)およびO−置換1−〔(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル〕ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート類(1−〔(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル〕ジアゼニウムジオレート類)を提供する。これらの両方は以下の式により表すことができる:
【0102】
【化32】

【0103】
[式Iaにおいて、XおよびRは、本明細書中で定義される有機基および/または無機基である。]。
【0104】
−グリコシル化ジアゼニウムジオレート類
−グリコシル化ジアゼニウムジオレートに関して、ジアゼニウムジオレート類として定義される類の化合物(例えば、米国特許第5,039,705号、同第5,208,233号、同第5,155,137号、同第5,250,550号、同第5,389,675号、同第5,525,357号、同第5,405,919号ならびに関連特許および特許出願参照)のどの化合物も、ジアゼニウムジオレートのOがグリコシル化に利用可能であるならば、O−グリコシル化を受け得る。式Iaの基Rは、どの糖でもよく、これはピラノース環またはフラノース環の2位によりジアゼニウムジオレートのOに結合している。この糖は官能化されてもよい。望ましくは、この糖およびその誘導体は、生理学的pHで加水分解可能である。この糖は、単糖、二糖(例えば、スクロースまたはマルトース)、オリゴ糖または多糖であり得る。好ましい糖類および多糖類としては、とりわけ、リボース、グルコース、デオキシリボース、フコース、ラクトース、ガラクース、フルクトース、グルコサミン、ガラクトサミン、マンノース、マルトース、スクロース、ならびにレセプター媒介細胞間相互作用において認識配列として役立つ多くの糖およびオリゴ糖単位が挙げられる。他の好ましい糖類としては、ホスホリル化、3,5−シクロホスホリル化ならびにポリホスホリル化されたペントース類およびヘキソース類が挙げられる。
【0105】
例示として、この糖残基(例示のためにジアゼニウムジオレートに結合して示される)は、アミノ糖(例えば、以下の構造を有するグルコサミンまたは置換グルコサミン)であってもよい:
【0106】
【化33】

【0107】
〔式中、R12およびR13は、同一でも異なってもよく、水素、C1−6アルキル、アシル、ホスフェート、スルフェート、ペプチドまたはタンパクである。〕。この糖残基は、例えば、グルクロン酸または以下に表されるその誘導体であってもよい:
【0108】
【化34】

【0109】
〔式中、R14はX1516であり、ここでXはN、OまたはSであり、XがNの時、R15およびR16は、独立して、水素、置換もしくは無置換C1−24アルキル、C3−24シクロアルキル、C2−24オレフィン基、アリール(例えば、アクリジン、アントラセン、ベンゼン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ベンゾオキサゾール、ベンゾピラゾール、ベンゾチアゾール、カルバゾール、クロロフィル、シンノリン、フラン、イミダゾール、インドール、イソベンゾフラン、イソインドール、イソオキサゾール、イソチアゾール、イソキノリン、ナフタレン、オキサゾール、フェナントレン、フェナントリジン、フェノチアジン、フェノキサジン、フタルイミド、フタラジン、フタロシアニン、ポルフィン、プテリジン、プリン、ピラジン、ピラゾール、ピリダジン、ピリジン、ピリミジン、ピロコリン、ピロール、キノリジニウムイオン、キノリン、キノキサリン、キナゾリン、シドノン、テトラゾール、チアゾール、チオフェン、チロキシン、トリアジン、およびトリアゾール)または複素環基(例えば、グリコシル等)であり、かつXがOまたはSの時、R16基は存在しない。〕。
【0110】
あるいは、Xが窒素の場合、R15およびR16は以下の基からなる群より選択される複素環を形成する:
【0111】
【化35】

【0112】
〔式中、AはN、O、またはSであり、wは1−12であり、yは1または2であり、zは1−5であり、Rは、水素、C1−8直鎖アルキル、C3−8分岐鎖アルキル、C3−8シクロアルキル、アリール (例えば、フェニル、トリル等)またはカルボキシラト並びに後述するその誘導基であり、かつR は、水素、C1−6直鎖アルキルまたはC3−6分岐鎖アルキルである。〕。上記基は、無置換でもあるいは適当に置換されてもよい。
【0113】
アザクラウン基(すなわち、AがNである時)の例としては、1−アザ−12−クラウン−4、1−アザ−15−クラウン−5および1−アザ−18−クラウン−6が挙げられる。Aが窒素である場合、窒素原子自体、例えば、米国特許出願第08/475,732号に記述のように置換されてもよい。
【0114】
さらにO−グリコシル化ジアゼニウムジオレート類に関して、Xを介してカルボニル基に結合している基は、ジアゼニウムジオレートアニオンへの開裂を妨げないどんなものでもよい。
【0115】
さらにO−グリコシル化ジアゼニウムジオレート類に関して、Xを介してカルボニル基に結合している基は、ジアゼニウムジオレートアニオンへの開裂を妨げないどんなものでもよい。
【0116】
好ましくは、基Xは、炭素および水素とは異なる原子を含み、かつ炭素とは異なる原子を介してN基の窒素に結合している。最も好ましくは、Xはアミノ基であり、かつ窒素原子を介してN基の窒素に結合している。好適なXの基としては、限定されないが、C1−24脂肪族基、アリールおよび非芳香環基が挙げられる。「脂肪族基」は、炭素および水素を含み、窒素、酸素、硫黄、リンまたはハロゲンを含んでもよい非環式基を意味する。「アリール」は、少なくとも1つの芳香環を含む基を意味する。好ましくは、アリール基は、C6−30基である。「非芳香環基」は、少なくとも1つの環構造を含み、かつ芳香環を含まない基を意味する。好ましくは、非芳香環基は、C6−30基である。さらに、Xは、無置換でもあるいは好適な付加基(例えば、−〔N(NO)O〕、ハロ、ヒドロキシ、アルキルチオ、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、モノ−またはジ−置換アミノ、シアノ、スルホナト、メルカプト、ニトロ、置換もしくは無置換C1−12脂肪族基、置換もしくは無置換C3−8シクロアルキル、置換もしくは無置換C3−12オレフィン基、置換もしくは無置換C3−8複素環アルキル、ベンジル、フェニル、置換ベンジル、置換フェニル、ベンジルカルボニル、フェニルカルボニル、糖、置換ベンジルカルボニル、置換フェニルカルボニルおよびリン誘導基)で置換されてもよい。リン誘導基の例としては、ホスファトおよびホスホノ基が挙げられる。ホスファト基の例としては、(OH)P(O)O−および置換(OH)P(O)O−基が挙げられ、その1つまたはそれ以上の酸素原子は、独立してSまたはNR17(式中、R17はC1−8脂肪族基、
【0117】
【化36】

【0118】
(式中、R18は、C1−10無置換もしくは置換脂肪族基である。)、C3−8無置換もしくは置換シクロアルキル、ベンジル、フェニル、置換ベンジルまたは置換フェニルであると理解される。)に置き換わってもよい。ベンジルまたはフェニルが置換されている場合、好ましくはそれはハロゲン、ヒドロキシ、C1−4アルキル、C1−4アルコキシ、アミノ、モノ−C1−4アルキルアミノ、ジ−C1−4アルキルアミノ、フェニルおよびフェノキシからなる群より選択される1または2の置換基で置換されている。
【0119】
本発明の1つの実施態様において、式IaのXは、米国特許第5,212,204号に記述のような無機基である。Xが無機基である式Iaの好ましい実施態様は、S−(スルファイト)および−O(オキサイド)である。
【0120】
本発明の別の実施態様において、式Ia中のXは、米国特許第5,250,550号で定義されるようなポリアミンである。従って、ポリアミンO−グリコシル化ジアゼニウムジオレート類は以下の式を有する:
【0121】
【化37】

【0122】
〔式中、Qは、式Ia中のRと同一で上記で定義した通りであり、bおよびdは同一または異なってもよく、0または1であり、R、R、R、RおよびRは、同一または異なって、水素、置換もしくは無置換C3−8シクロアルキル、置換もしくは無置換C1−12直鎖もしくは分岐鎖アルキル、置換もしくは無置換ベンジル、置換もしくは無置換ベンゾイル、置換もしくは無置換C3−12オレフィン基、フタロイル、アセチル、トリフルオロアセチル、p−トルイル、t−ブトキシカルボニルまたは2,2,2−トリハロ−t−ブトキシカルボニルである。〕。式II中のi、j、およびkの値は、同一または異なって、2〜12の整数である。
【0123】
本発明の好ましい実施態様において、ジアゼニウムジオレート類は、米国特許第5,039,705号(Keeferら)および同第4,954,526号(Keeferら)に開示の化合物から誘導されて、以下の式を有する:
【0124】
【化38】

【0125】
〔式中、Rは、式Ia中のRと同一で上記で定義した通りであり、かつR19およびR20は、同一または異なって、水素、C1−12直鎖アルキル、C3−12分岐鎖アルキル、またはC2−12直鎖もしくはC3−12分岐鎖オレフィン基である。但し、R19およびR20の両方が水素であるということはない。〕。上記のどの置換基も、無置換でもあるいはアルコキシ、アシルオキシ、アシルチオ、ヒドロキシ、ハロもしくはベンジル基で置換されてもよい。
【0126】
あるいは、R19およびR20は、それらが結合している窒素原子と一緒になって、以下の基からなる群より選択される複素環を形成する:
【0127】
【化39】

【0128】
〔式中、AはN、O、またはSであり、wは1−12であり、yは1または2であり、zは1−5であり、Rは、水素、C1−8直鎖アルキル、C3−8分岐鎖アルキル、C3−8シクロアルキル、置換もしくは無置換アリール (例えば、フェニル、トリル等)またはカルボキシラト並びに後述するその誘導基であり、かつRは、水素、C1−6直鎖アルキルまたはC3−6分岐鎖アルキルである。〕。上記の基は、無置換でもあるいは適当に置換されてもよい。
【0129】
アザクラウン基(すなわち、AがNである時)の例としては、1−アザ−12−クラウン−4、1−アザ−15−クラウン−5および1−アザ−18−クラウン−6が挙げられる。Aが窒素である時、窒素原子自体、例えば、米国特許出願第08/475,732号に記述のように置換されてもよい。
【0130】
さらに実施例として、米国特許第5,250,550号に開示の化合物から誘導されるO−グリコシル化ジアゼニウムジオレート類が挙げられ、以下の式を有する:
【0131】
【化40】

【0132】
〔式中、Dは、
【0133】
【化41】

【0134】
であり、ここでR21は式Iaの糖中のRと同一で上記で定義した通りであり、かつR10およびR11は、同一または異なってもよく、どの適当な基(この例としては、水素、C3−8シクロアルキル、C1−12直鎖または分岐鎖アルキル、ベンジル、ベンゾイル、フタロイル、アセチル、トリフルオロアセチル、p−トルイル、t−ブトキシカルボニルおよび2,2,2−トリハロ−t−ブトキシカルボニルが挙げられる。)でもよい。〕。式IVにおいて、fは0〜12の整数である。
【0135】
好ましいO−グリコシル化ジアゼニウムジオレートは、式Iaに関して、XがN(CHCHNHであり、かつRがフコースまたはマンノースである化合物である。
【0136】
上記化合物は、当業者に公知の方法に従って製造することができる。グリコピラノシル化試薬としては、アセトブロモ−α−ガラクトースおよびアセトブロモグルコサミンが挙げられる。グリコフラノシル化試薬としては、トリベンジル−α−アラビノフラノシルブロミドおよびブロモアセチルキシロースが挙げられる。
【0137】
オリゴ糖類は、例えば、Sigma Chemical Co.(St. Louis, MO)およびCarbomer Specialty Biochemicals and Polymers(Westborough, MA)から購入できる。さらに、オリゴ糖類は、 Preparative Carbohydrate Chemistry, Stephen Hanessian, ed., Marcel Dekker, New York, NY (1997)およびPolysaccharides in Medicinal Applications, Severian Dumitriu, ed., Marcel Dekker, New York, NY (1996)に記述のような化学的および酵素的な製造法を含む、十分確立された手順に従って合成することができる。
【0138】
保護された直鎖または分岐鎖多糖は、ジアゼニウムジオレートイオンとの反応のために、アノマー末端のハロゲン化により活性化されてもよく、続いてジアゼニウムジオレートのグリコシル化を受け得る。O−グリコシル化ジアゼニウムジオレート類の生成のための活性化された二糖類としては、アセトブロモ−α−マルトースおよびアセトブロモ−α−ラクトースが挙げられる。
【0139】
−グリコシル化ジアゼニウムジオレート類は、細胞接着を含む、分子のシグナル化および認識プロセスが、炭水化物に関与する場合に有用である。例えば、O−グリコシル化ジアゼニウムジオレート類は、寄生生物(例えば、ライシュマニア(lieshmania)属)、ウイルスまたはバクテリアに起因するような感染、ならびに炎症および転移の治療に有用であると考えられている。この点について、O−グリコシル化ジアゼニウムジオレートは、実施例36に例示されるような、マンノース−フコースレセプターに指向するように製造することができる。糖残基(この場合マンノース)は、ジアゼニウムジオレートを保護すると考えられる。このマンノースは、マクロファージ上でマンノース−フコースレセプターに結合し、O−マンノシル化ジアゼニウムジオレートがこの細胞内に入り、そこで糖残基が開裂する時、NOが放出される。
【0140】
1−〔(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル〕ジアゼニウムジオレート類
1−〔(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル〕ジアゼニウムジオレート類に関して、式Iaの基Xは、
【0141】
【化42】

【0142】
であってもよく、1−〔(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル〕ジアゼニウムジオレート類は以下の式で構造的に表すことができる:
【0143】
【化43】

【0144】
〔式中、R22は、水素、ヒドロキシル、OM(式中、Mはカチオンである)、ハロまたはX2324(式中、XはN、OまたはSであり、XがNの時、R23およびR24は独立して、置換もしくは無置換C1−24アルキル、C3−24シクロアルキル、C2−24オレフィン基、アリール(例えば、アクリジン、アントラセン、ベンゼン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ベンゾオキサゾール、ベンゾピラゾール、ベンゾチアゾール、カルバゾール、クロロフィル、シンノリン、フラン、イミダゾール、インドール、イソベンゾフラン、イソインドール、イソオキサゾール、イソチアゾール、イソキノリン、ナフタレン、オキサゾール、フェナントレン、フェナントリジン、フェノチアジン、フェノキサジン、フタルイミド、フタラジン、フタロシアニン、ポルフィン、プテリジン、プリン、ピラジン、ピラゾール、ピリダジン、ピリジン、ピリミジン、ピロコリン、ピロール、キノリジニウムイオン、キノリン、キノキサリン、キナゾリン、シドノン、テトラゾール、チアゾール、チオフェン、チロキシン、トリアジン、およびトリアゾール)または複素環基(例えば、グリコシル等)であり、かつXがOまたはSの時、R24は存在しない。)である。〕。あるいは、Xが窒素の時、R23およびR24は、それらが結合している窒素原子と一緒になって、複素環、例えば以下の基からなる群より選択される複素環を形成する:
【0145】
【化44】

【0146】
〔式中、AはN、O、またはSであり、wは1〜12であり、yは1または2であり、zは1〜5であり、かつR、R、R25およびR26は、水素、C1−8直鎖アルキル、C3−8分岐鎖アルキル、C3−8シクロアルキルまたはアリールである。〕。上記の基は、無置換でもあるいは適当に置換されてもよい。
【0147】
窒素(N−4)上のR26置換基は、水素、C1−8アルキル基、アリール基またはC(O)−YR27(式中、Yは硫黄、酸素または窒素であり、かつR27は、CHOCH、ビニル、C1−9直鎖アルキル、C3−6分岐鎖アルキル、C3−8シクロアルキル、ポリエチレングリコール、多糖、あるいは他のポリマー、ペプチドまたはタンパクである。)であってもよい。〕。YR27は、タンパク類、ペプチド類、リン脂質類、多糖類、オリゴ糖類、プリン類、ピリミジン類および生体適合性ポリマー類(すなわち、ポリエチレングリコール、ポリラクチド類およびポリカプロラクトン)に結合するための活性化リンカー(例えば、ヒドロキシスクシンイミジル基)であってもよい。YR27は、カルボニル基を、オリゴペプチド類、ポリアミン類およびタンパク類の求核性官能基と反応する求電子性部位にする、カルボニル基のための活性化基であってもよい。YR27は、カルボニル基を多くの求核剤と反応させることができ、そしてポリマー(例えば、ポリエチレングリコール)と反応して、ポリマー−結合化合物を形成できる。
【0148】
さらに1−〔(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル〕ジアゼニウムジオレート類に関して、式Iaの基Rは、どの共有結合した有機基または無機基でもよく、水素とは異なり、かつC1−12直鎖もしくはC3−12分岐鎖アルキル、C2−12直鎖もしくはC3−12分岐鎖オレフィン基、C1−12アシル、スルホニル、C3−12シクロアルキル、カルボキサミド、上述のグリコシル基、上述のアリール基、または式−(CH−ON=N(O)NR2829(式中、nは2−8の整数であり、かつR28およびR29は独立して、C1−12直鎖アルキル、C3−12分岐鎖アルキル、C1−12直鎖もしくはC3−12分岐鎖オレフィン基であるか、あるいはR28およびR29は、それらが結合している窒素原子と一緒になって、複素環、好ましくはピロリジノ、ピペリジノ、ピペラジノまたはモルホリノ基を形成する。)の基である。上記のR基は、無置換でもあるいは適当に置換されてもよい。好ましい置換としては、ヒドロキシ、ハロ、アシルオキシ、アルコキシ、アシルチオまたはベンジルによる置換が挙げられる。
【0149】
上記化合物は、当業者に公知の方法に従って製造することができる。例えば、Sanger, Biochem. J. 39: 507-515 (1945)を参照。
【0150】
−置換1−〔(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル〕ジアゼニウムジオレート類は、それらが水溶液においてO−無置換アニオンよりも安定であるということ、および多くの場合、それらが酵素作用によりNO放出のために活性化され得るということにおいて、他のジアゼニウムジオレート類にまさる利点を与える。さらに、N−ニトロソ誘導体が、1−〔(2−カルボキシラト)ピロリン−1−イル〕ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートのN−N二重結合の正味の正式の開裂により形成されるならば、このN−ニトロソ化合物は、非発癌性である。このような化合物は、劇性肝不全、マラリア、呼吸障害、インポテンス、および多様な心臓血管/血液の障害の治療において特に有用であると考えられる。
【0151】
ポリマー結合ジアゼニウムジオレート類
本発明の特に有用な別の実施態様は、式IのO−アリールジアゼニウムジオレート類または式IaのO−グリコシル化ジアゼニウムジオレート類を含むものであり、ここでXがポリマーであるか、あるいは本発明のどのO−アリールジアゼニウムジオレートまたはO−グリコシル化ジアゼニウムジオレートも、ポリマーマトリックスに組み込まれている。PROLI/NOもまた、R20およびRを介したポリマー結合であってもよい。これらの両方の実施態様は、「ポリマーに結合している」N官能基をもたらす。「ポリマーに結合している」とは、N官能基が、物理的または化学的にポリマーマトリックスの一部と結びついている(associated)、ポリマーマトリックスに取り込まれている(incorporated)または含まれている(contained)ことを意味する。
【0152】
官能基のポリマーへの物理的な結びつき(association)または結合(bonding)は、ポリマーを一酸化窒素/求核剤複合体と共沈させることにより、ならびにN基のポリマーへの共有結合により達成することができる。N基のポリマーへの化学的結合は、例えば、一酸化窒素/求核剤付加物の求核性基がポリマーと共有結合して、N基が結合している求核剤残基がポリマー自体の一部を形成(すなわち、ポリマー骨格中にあるか、またはポリマー骨格上のペンダント基に結合している。)することでもよい。一酸化窒素放出N官能基がポリマーの一部と結びついている、ポリマーに取り込まれているまたはポリマー内に含まれている、すなわちポリマーに「結合」している様式は本発明において重要ではなく、全ての結びつき(association)、取り込み(incorporation)および結合(bonding)の手段が本発明で意図されている。
【0153】
ポリマー結合付加物組成物の部位特異的適用は、一酸化窒素放出N官能基の作用の選択性を高める。もしポリマーに結合しているN官能基が必然的に局在化しているならば、それらの一酸化窒素放出の効果はそれらが接触している組織に集中するだろう。もしこのポリマーが可溶性であれば、例えば、ターゲティング組織に対して特異的な抗体への結合により、あるいはそのような抗体の誘導化により、作用の選択性をさらにアレンジすることができる。同様に、核酸中のターゲティング配列との部位特異的な相互作用が可能なオリゴヌクレオチド類への結合のように、重要なレセプターのためのリガンドの認識配列を模倣した小さなペプチド類へのN基の結合は、局在化した一酸化窒素放出を与える。
【0154】
本発明のO−ジアゼニウムジオレート類は、米国特許第5,525,357号 (Keeferら)および同第 5,405,919号(Keeferら)、ならびに米国特許出願第08/419,424号(Smithら)(これらはそれぞれ言及によりここに組み込まれる。)に開示の材料から誘導することができる。本発明に関して、広範な種々のどのポリマーも使用可能である。選択されるポリマーは、ただ、生物学的に許容し得るものであればよい。本発明における使用に適したポリマーの例として、ポリオレフィン類(例えばポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルクロライド、ポリジフッ化ビニリデン)、ポリエーテル類(例えば、ポリエチレングリコール)、多糖類(例えば、デキストラン)、ポリエステル類(例えば、ポリ(ラクチド/グリコライド))、ポリアミド類(例えば、ナイロン)、ポリウレタン類、ポリエチレンイミン類、生体ポリマー類(例えば、ペプチド類、タンパク類、オリゴヌクレオチド類、抗体類および核酸類)、スターブラストデンドライマー類(starburst dendrimers)、多糖類等が挙げられる。
【0155】
この点において、ジアゼニウムジオレートを含むポリマーは、糖と反応でき、糖はN官能基に結合する。
【0156】
生体ポリマー由来のジアゼニウムジオレートの形成は、関心がある生物学的部位に特異的に適用することができる生体ポリマー結合ジアゼニウムジオレート組成物を与える。生体ポリマー結合ジアゼニウムジオレートの部位特異的適用は、一酸化窒素放出ジアゼニウムジオレートの作用(これは、PROLI/NOにおいて、O−アリールもしくはO−グリコシル化結合またはO−R結合の開裂に続いて発生する(31ページ参照))の選択性を高める。上記に開示した他のポリマーに関して、もし生体ポリマーに結合しているジアゼニウムジオレートがその分子の固有の特性により局在化しているならば、その一酸化窒素放出効果はそれらが接触している組織に集中するだろう。もし生体ポリマーが可溶性ならば、例えば、ターゲティング組織に対して特異的な抗体への結合により、あるいはそのような抗体の誘導化により、作用の選択性をさらにアレンジすることができる。同様に、核酸中のターゲティング配列との部位特異的な相互作用が可能なオリゴヌクレオチド類への結合のように、重要なレセプターのためのリガンドの認識配列を模倣した小さなペプチド類へのジアゼニウムジオレート基の結合は、局在化した一酸化窒素放出を与える。他のタンパク類、ペプチド類、ポリペプチド類、核酸類および多糖類も同様に利用できる。米国特許第5,405,919号(Keeferら)および米国特許第5,632,981号(Saavedraら)(言及により完全にここに組み込まれる)は、ジアゼニウムジオレート類の製造において有用な類似の化合物および製品を開示する。
【0157】
例示として、O−アリール化ピペラジンジアゼニウムジオレートは、癌細胞化学走性に重要なIKVAV認識配列を含むポリペプチドに共有結合され得る。抗接着剤(anti-adhesive agent)としてのNOの再生能と、癌細胞および/または癌細胞が接着(attach)しやすい血管系およびリンパ系の部位に対するIKVAV配列の親和力の両方の保持によって、転移を減少させる、あるいは予防することさえもできる。さらに、アリール基は、それがさらなる抗癌細胞活性を与えるように選択してもよい。ピペラジンのN位での置換は、ペプチド類、ポリペプチド類、タンパク類、多糖類およびヌクレオチド類へのグリコシル化ジアゼニウムジオレートの結合に使用できる。
【0158】
本発明のジアゼニウムジオレート類は、プロテーゼ、ステントおよび胸部インプラントのような医療用インプラントと関係する固形癌の発生の危険性を少なくする手段として、生体への外科的結合の前に、それらを被覆するのに用いることができると考えられる。さらに、このプロテーゼおよびインプラントは、出発物質の必須成分として、ジアゼニウムジオレートを使用して製造することができる。ジアゼニウムジオレートを組み込んだ医療用デバイスは、NOの局所的放出もまた有利に与える有用な医療用構造物を提供して、多くの生物学的障害の治療への非常に貴重な二股のアプローチ(two-pronged approach)を提供する。
【0159】
組成物
当該分野で十分知られているように、一酸化窒素およびN官能基を含む化合物は、一部には、その生体調整プロセスにおける一酸化窒素の多方面の役割(multifaceted role)のために、広範な有用性を有し得る。従って、本発明はまた、本発明のジアゼニウムジオレートを含有する、医薬組成物を含む組成物も提供する。好ましくは、この医薬組成物は、さらに医薬上許容し得る担体を含有する。
【0160】
本発明のジアゼニウムジオレート組成物を動物(例えば、哺乳動物)に投与する適当な方法が利用できること、およびある特定の組成物を投与するのに1より多い投与経路を用いることができるが、ある特定の投与経路が別の投与経路よりも、より迅速なかつ効果的な反応を与えることは、当業者であれば理解できるであろう。医薬上許容し得る担体もまた当業者によく知られている。担体の選択は、一部には、特定の組成物ならびに該組成物を投与するために用いられる特定の方法の両方により、決定されるだろう。従って、本発明の医薬組成物の広範な種々の適当な製剤がある。
【0161】
経口投与に適した製剤は、(a)水または生理食塩水のような希釈剤に溶解した有効量のジアゼニウムジオレートのような液体溶液、(b)固形物または顆粒として、予め決められた量の活性成分をそれぞれ含むカプセル剤、小袋剤(sachet)または錠剤、(c)適当な液体中の懸濁剤、および(d)適当な乳剤からなり得る。錠剤は、1またはそれ以上のラクトース、マンニトール、トウモロコシ澱粉、バレイショ澱粉、微結晶セルロース、アラビアゴム、ゼラチン、コロイド状二酸化ケイ素、クロスカルメロースナトリウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、および他の賦形剤、着色剤、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存剤、矯味剤、および医薬上適合し得る担体を含んでいてもよい。ロゼンジ剤は、矯味剤(通常、スクロースおよびアラビアゴムまたはトラガント)中の活性成分を含み、同様に香剤は、不活性基剤(ゼラチンおよびグリセリンまたはスクロースおよびアラビアゴム乳剤、ゲル剤等)中に活性成分を含み、活性成分に加えて当該分野で公知の担体を含む。
【0162】
本発明のジアゼニウムジオレート類は、単独でまたは他の適当な成分と組み合わせて、吸入により投与されるエアロゾル製剤に調製してもよい。これらエアロゾル製剤は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素等の加圧された許容し得る噴射剤中に置かれる。
【0163】
非経口投与に適した製剤としては、水性および非水性溶液、即ち、抗酸化剤、緩衝液、制菌剤および該製剤を投薬を受ける者の血液と等張にするための溶質を含有し得る等張性無菌注射溶液、および懸濁化剤、溶解補助剤、増粘剤、安定化剤および保存剤を含有し得る水性および非水性の無菌の懸濁液が挙げられる。該製剤は、アンプルおよびバイアルのような1回投与量または複数回投与量の密閉された容器で与えられ、注射には、使用直前に、例えば水のような無菌の液体担体を添加するだけでよい、凍結乾燥状態で保存されてもよい。即席の注射溶液および懸濁液は前に述べた種類の無菌の粉末剤、顆粒剤および錠剤から調製され得る。
【0164】
本発明において、動物(特にヒト)に投与する量は、適当な時間枠にわたって該動物に対して治療の効果を奏するのに十分量とすべきである。投与量は、使用する特定の組成物の強さ(少なくとも、NO発生速度、NO発生の範囲およびジアゼニウムジオレート類由来の分解産物の生物学的活性を考慮して)、治療すべき動物の状態および体重により決定されるであろう。投与量もまた、ある特定の組成物の投与に伴うかもしれない悪いいかなる副作用の有無、性質および程度によっても決定されるであろう。内部投与に適した投与量は、0.01〜100mg/kg/日である。好ましい投与量は、0.01〜35mg/kg/日である。より好ましい投与量は、0.05〜5mg/kg/日である。典型的な投与のための医薬組成物において、O−アリールジアゼニウムジオレート類の適切な濃度は、0.05〜15%(重量当たり)である。好ましい濃度は、0.02〜5%である。より好ましい濃度は、0.1〜3%である。
【0165】
使用方法
上記を考慮して、本発明は、本発明のジアゼニウムジオレートを使用する方法を提供する。1つの実施態様において、一酸化窒素によって治療可能な生物学的障害を有する動物(例えば、哺乳動物)を治療する方法が提供される。この方法は、動物における生物学的障害を治療するのに十分量の、本発明によるジアゼニウムジオレートを動物(例えば、哺乳動物)に投与することを含む。本実施態様において、「生物学的障害」は、一酸化窒素で治療可能な障害である限り、遺伝的欠陥または感染因子(例えば、ウィルス、バクテリアまたは寄生生物)による感染に起因する生物学的障害を含む、どの生物学的障害でもよい。
【0166】
使用方法の別の実施態様において、例えば、ウィルス、バクテリアまたは寄生生物(例えば、ライシュマニア属)による感染のために、動物(例えば、哺乳動物)を治療するための方法が提供される。この方法は、動物における感染を治療するのに十分量のジアゼニウムジオレートを動物(例えば、哺乳動物)に投与することを含む。
【0167】
本発明の本実施態様の1つの局面において、例えば、ウィルス(例えば、レトロウィルス、特にHIV、より特にHIV−1)、バクテリア(例えば、グラム陽性菌)または寄生生物(例えば、ギアルディア(Giardia)属)(これらのどれも、O−アリールジアゼニウムジオレートにより不活性化され得るジンクフィンガータンパクを含む)による感染のために、動物(例えば、哺乳動物)を治療する方法が提供される。「ジンクフィンガータンパク」は、システイン類単独またはシステインおよびヒスチジンリガンド類を含む短いアミノ酸ドメインを含むタンパクを意味し、これらの両方は亜鉛と配位結合して核酸と相互作用する(SouthおよびSummers、「ジンクフィンガー」("Zinc Fingers, ")Chapter 7, In: Adv. Inorg. Biochem. Ser. 8, pp. 199-248(1990)、そこで引用されている全ての文献の内容を含めて、言及によって完全にここに組み込まれる。)。「不活性化された」とは、不活性化されるジンクフィンガータンパクの活性が部分的または完全に消失することを意味する。このような不活性化は、それ自身、動物の健康および良好な生活状態を過度に危険にさらすような程度までに、動物の生物学的に重要なジンクフィンガータンパクの不活性化をもたらすべきではない。この方法は、動物における感染を治療するように、上記感染因子中のジンクフィンガータンパクを不活性化するのに十分量の、O−アリールジアゼニウムジオレートを動物(例えば、哺乳動物)に投与することを含む。
【0168】
上記方法はまた、ウィルス(例えば、タバコストリークウィルス(TSV)またはアルファルファモザイクウィルス(AIMV))のような感染因子による感染に対して、植物、植物細胞またはその培養組織を治療する手段として適用され得る(上記 SouthおよびSummers(1990);およびSehnkeら、Virology 168:48(1989))。
【0169】
ここに記述する方法は、C−X2−C−X4−H−X4−Cモチーフ(ここで「C」はシステインを表し、「H」はヒスチジンを表し、「X」は任意のアミノ酸を表し、そして「2」および「4」は、「X」アミノ酸の数を表す)(例えば、Wain-Hobsonら、Cell 40(1): 9-17 (1985)参照)を含むジンクフィンガーに対して有用である。このようなモチーフは、レトロウィルス、特にレトロウィルスのgagタンパク(gag protein)を特徴付けるものである。従って、ここの方法は、レトロウィルス、例えばHIV、特にHIV−1(これらは、2つの亜鉛結合ドメインを含むヌクレオキャプシドp7タンパク(NCp7タンパク)を含む)(Riceら、Nature Medicine 3(3):341-345(1997);およびRiceら、Reviews in Medical Virology 6: 187−199 (1986))に対して有用である。実際のおよび/または潜在的なジンクフィンガーもまた、とりわけ、アデノウィルスのEIAゲノム領域の遺伝子産物、シモンウィルス40(SV40)およびポリオーマウィルス由来のラージT抗原、大腸菌(E. coli) におけるUvrAタンパク(Culpら、PNAS USA 85: 6450(1988))、マウス白血病ウィルス(MuLV−F;Greenら、PNAS USA 86: 4047(1989))、およびバクテリオファージT4由来の遺伝子32タンパク(G32P)(Giedrocら、Biochemistry 28: 2410(1989))のようなバクテリオファージタンパク(Berg、Science 232: 484(1986))において同定されている。このようなタンパクは、当該分野で公知の方法(上記SouthおよびSummers (1990) に引用されている文献参照)に従って単離することができ、そしてこのようなジンクフィンガータンパクを不活性化し得るO−アリールジアゼニウムジオレート類は、例えば、ここに記載のジンクフィンガーアッセイおよびRiceらのJ. Med. Chem. 39: 3606-3616 (1996)の記載に従って同定することができる。
【0170】
4または5のシステイン類を含むモチーフを有するジンクフィンガーを含むステロイドホルモンレセプターに限り、O−アリールジアゼニウムジオレートは、動物(例えば、哺乳動物)におけるステロイドホルモン活性を調整するために使用され得る。従って、本発明はまた、ステロイドホルモン活性の調整が必要で、かつO−アリールジアゼニウムジオレートにより不活性化され得るジンクフィンガーを含むステロイドホルモンレセプタータンパクを含む動物(例えば、哺乳動物)において、ステロイドホルモン活性を調整する方法を提供する。この方法は、動物におけるステロイドホルモン活性を調整するように、ステロイドホルモンレセプタータンパクを不活性化するのに十分量の、O−アリールジアゼニウムジオレートを動物(例えば、哺乳動物)に投与することを含む。
【0171】
さらに別の実施態様において、癌およびその転移のために、動物(例えば、哺乳動物)を治療する方法が提供される。この方法は、動物における癌の増殖または転移を予防するのに十分量のジアゼニウムジオレートを動物(例えば、哺乳動物)に投与することを含む。
【0172】
本実施態様の1つの局面において、O−アリールジアゼニウムジオレートにより不活性化され得るジンクフィンガータンパクの活性に、少なくとも部分的に、直接的または間接的に起因する癌のために、動物(例えば、哺乳動物)を治療する方法が提供される。この方法は、動物における癌を治療するように (Riceら、PNAS 89: 7703-7707(1992))、すなわち、動物における癌の増殖または転移を予防するように、ジンクフィンガータンパクを不活性化するのに十分量の、O−アリールジアゼニウムジオレートを動物(例えば、哺乳動物)に投与することを含む。
【0173】
さらになお別の実施態様において、例えば、化学療法剤の活性に悪影響を与える酵素の作用に起因して、化学療法剤(例えば、Kelley et al.、Biochem. J. 304: 843-848 (1994)を参照)、特にDNA損傷化剤(DNA damaging agent)(例えば、アルキル化剤または酸化剤)による治療に耐性である癌のために、動物(例えば、哺乳動物)を治療する方法が提供される。この方法は、動物における癌を化学療法剤による治療に影響されやすくするのに十分量の、O−アリールジアゼニウムジオレートを動物(例えば、哺乳動物)に投与することを含む。従って、このような方法は、必要に応じて化学療法に対する付加療法として使用され得る。
【0174】
例えば、ある特定のO−アリールジアゼニウムジオレート類は、グルタチオンS−転移酵素、特にアイソザイムπ(例えば、Jiら、Biochemistry 32(49): 12949-12954(1993);およびJiら、Biochemistry 36: 9690-9702(1997)参照)の活性部位に適合するように合成され得る。従って、O−アリールジアゼニウムジオレートを用いた、この化合物とグルタチオンとの酵素結合による、グルタチオンS−転移酵素πの活性部位からのグルタチオンの可逆的な消費は、この酵素が、種々の生体異物化合物(例えば、化学療法剤、特にアルキル化剤(例えば、クロラムブシル、メルファランおよびヘプスルファム(hepsulfam ))および他のDNA損傷化剤(例えば、求電子性攻撃または酸化を誘導する薬剤))を解毒するのを防止し得る(例えば、Morganら、Cancer Chemother. Pharmacol. 37: 363−370(1996)参照)。本方法はまた、インビトロにおいて、薬物耐性癌細胞株をスクリーニングするために適用可能である。
【0175】
別の実施態様において、潜在的感染性のウィルス、バクテリアまたは寄生生物の存在のための、無生命体を処理する方法が提供される。この方法は、潜在的感染性のウィルス、バクテリアまたは寄生生物の存在を低減させるのに十分量の、本発明のジアゼニウムジオレートを無生命体に接触させることを含む。「潜在的感染性」は、動物(例えば、哺乳動物)を感染させる能力を意味する。
【0176】
本実施態様の1つの局面において、無生命体上の、潜在的感染因子(例えばウィルス、バクテリアまたは寄生生物)(これらのどれも、O−アリールジアゼニウムジオレートにより不活性化され得るジンクフィンガータンパクを含む)の存在を低減させる方法が提供される。この方法は、無生命体上の、潜在的感染因子(例えば、ウィルス、バクテリアまたは寄生生物)の存在を低減するように、ジンクフィンガータンパクを不活性化するのに十分量の、O−アリールジアゼニウムジオレートを無生命体に接触させることを含む。「潜在的感染性」とは、動物(例えば、哺乳動物)を直接的または間接的に感染させる能力を意味する。
【0177】
以下の実施例により本発明をさらに説明するが、もちろん、それらは本発明の範囲を何ら制限するものではない。以下の実施例に関して、NOはMatheson Gas Products(Montgomeryville, PA)より入手し、β−およびα−グリコシダーゼ並びにブタ肝臓エステラーゼはSigma Chemical Co.(St. Louis, MO)より入手し、ポリウレタン(Tecoflex) はThermedics Inc.(Woburn, MA)より入手し、グルコースおよびマンノースはAldrich Chemical Co. (Milwaukee, WI)より入手した。プロトンNMRスペクトルは300 MHz Varian Unity PlusまたはVarian XL-200 NMR分光計を用いて記録した。スペクトルは共有化合物については重水素化クロロホルム中で、また塩についてはD0 中で得た。化学シフトはTMSからの低磁場でミリオン(ppm)に対して所々記録した。低分解および高分解質量スペクトル(MS)測定は、VG-Micromass Model 7070分光計で行った。特に示さなければ、MSデータは、ダイレクトプローブを介して試料導入し、電子衝撃モードで集積した。紫外線(UV)スペクトルは、水溶液または0.01 M NaOH溶液としてHP 8451A Diode Array分光光度計で実施した。グルタチオンS−転移酵素のカイネティックスは、Beckman DU 640分光光度計を用いて380nmにおけるUV吸収の変化を測定することによりモニタリングした。化学発光測定はThermal Energy Analyzer Model 502A装置 (Thermedics, Inc., Woburn, MA) で実施した。元素分析はAtlantic Microlab Inc.が行った。
【0178】
実施例1
本実施例ではO−(2,4−ジニトロフェニル)1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートの調製について説明する。
5%重炭酸ナトリウム水溶液20ml中のナトリウムジエチルアミノジアゼニウムジオレート1.67 g (11 mmol)の溶液を窒素下0℃に冷却し、t−ブチルアルコール 10 ml中の2,4−ジニトロフルオロベンゼン1.3 ml (0.01 mol) の溶液をゆっくりと加えた。添加時に沈殿物が形成された。該混合物を放置して室温まで徐々に温め、次いで一晩攪拌した。生成物をジクロロメタンで抽出した後、冷希塩酸次いで重炭酸ナトリウム溶液で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸マグネシウム層を通して濾過し、真空下で溶媒を留去して赤色オイル状物1.3gを得、これを静置して結晶化した。エタノールからの再結晶化により黄橙色針状物を得た:融点76-7℃;NMR δ 1.25 (t, 6H), 3.58 (q, 4H), 7.68 (d, 1H), 8.44 (m, 2H), 8.89 (m, 1H); UV (エタノール)λmax(ε) 218 (17.4 mM−1cm1−) および302 (15.6 mM−1cm−1) nm; MS, 正確な質量: C10H13NOとしての計算値 (M+) 299.0865;実測値 M+ 299.08658; C, H, N分析:C10H13NOとしての計算値: C 40.13%, H 4.35%, N 23.41% ; 実測値: C 40.21%, H 4.43%, N 23.37% 。
【0179】
実施例2
本実施例では、アニオン性ジアゼニウムジオレートの、そのO−アリール置換体(O−(2,4−ジニトロフェニル)1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート)からの再生について説明する。
実施例1のように調製したO−(2,4−ジニトロフェニル)1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート85 mg (0.28 mmol) のエーテル1 ml中の溶液を-4℃に冷却し、ジエチルアミン1 mlで処理した。該溶液を1 時間-4℃に保ち、沈澱物を得た。該固体を濾取した。濾液を濃縮してNMRで分析したところ、残渣は2,4−ジニトロ−N,N−ジエチルアニリンの真正なサンプルと同一であることがわかった。沈澱物を石油エーテルで洗浄し、N下で乾燥させて、λmax250 nm; NMR (DO) δ 0.96 (t, 6H), 1.28 (t, 6H), 2.94 (q, 4H), 3.08 (q, 4H)を有する生成物5.4 mgを得た。この生成物はジエチルアンモニウム1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートの真正なサンプルと同一であることがわかった。
【0180】
実施例3
本実施例では、ナトリウムメトキシドにより仲介される、O−アリールジアゼニウムジオレートのO−アリール結合の化学的開裂について説明する。
エーテル1 ml中のO−(2,4−ジニトロフェニル)1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート16 mg (0.064 mmol)の溶液を、メタノール 0.14 mmol中の25% ナトリウムメトキシド29μlで処理し、-4℃で2時間静置した。固体を濾取し、エーテルで洗浄し、減圧乾燥して、1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートナトリウム塩の真正なサンプルと同一の固体4 mgを得た。
【0181】
実施例4
本実施例では、メタノール中での、O−(2,4−ジニトロフェニル)1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートとナトリウムメトキシドとの反応のカイネティックスについて説明する。この反応のカイネティックスは、アルカリ性または求核性環境下における、O−(2,4−ジニトロフェニル)1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートの1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートイオンへの変換速度を示す。
過剰のNaOMeを反応に使用した。アリコートを間隔をあけて回収し、メタノール中の0.1 N HClで反応を止めた。O−(2,4−ジニトロフェニル)1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートの消失をHPLCによりモニタリングしたところ、一次反応速度式に合致することがわかった。このことは、4つの異なる濃度のNaOMeにおけるkobs’を見出すために、log[O−(2,4−ジニトロフェニル)1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート]を時間に対してプロットすることにより決定した。同様に、二次速度定数(7.87 M−1min−1)を、log kobsをlog[NaOMe]に対してプロットすることにより決定した。
【0182】
実施例5
本実施例ではO−(2,4−ジニトロフェニル)1−(N−イソプロピルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートの調製について説明する。
5%重炭酸ナトリウム1 ml中のナトリウム1−(N−イソプロピルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート84 mg (0.597 mmol)の溶液を0 ℃に冷却し、2,4−ジニトロフルオロベンゼン69 mg (0.55 mmol)を加えた。氷浴を除き、混合物を室温で一晩攪拌し、次いで混合物をジクロロメタンで抽出した。抽出物を硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過および真空下で溶媒留去してフィルム状物86 mg を得、それを静置して結晶化させた:融点 92-93℃;NMR δ 1.39 (d, 6H), 3.99 (septet, lH), 6.93 (d, 1 H), 8.27 (dd, 1H), 8.5 (b, 1H), 9.15 (d, lH)。
【0183】
実施例6
本実施例では、ピロリジニウム1−[ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートの合成について説明する。
エーテル 50 mlおよびアセトニトリル 25 ml中のピロリジン36 g (0.507 mol)の溶液を500 ml Parr ビン中に入れ、脱気して40 psiの一酸化窒素を充填した。該反応器を-80 ℃に冷却した。圧力は40 psiに維持した。4時間後、圧力を緩めて結晶性生成物をフリット化ガラス漏斗中で濾取し、次いで窒素雰囲気下、冷エーテルで洗浄した。該材料を真空デシケーター中、1 mm Hg および25℃で3時間乾燥させ、白色針状物23 g (45%)を得た:融点 68-70℃。C,H,N 分析:CH18NOとしての計算値: C 47.51%, H 8.97%, N 27.70% ;実測値: C 47.62%, H 9.04%, N 27.46% 。
後続のO−アリール化のために、カチオン交換を促進する10 N NaOH 処理によりピロリジニウム塩をより安定なナトリウム塩に変換した。次いでそれに多量のエーテルで満たし、生成物を濾取した。
【0184】
実施例7
本実施例では、実施例6で示した1−(ピロリジン−1−イル)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオールのナトリウム塩の調製の別法を提供する。
アセトニトリル100 mlおよびエーテル100 ml中のピロリジン28.2 g (0.397 mol)の溶液を、メタノール中の25% ナトリウムメトキシド 94 ml (0.4 mol)と混合した。得られた溶液に窒素を大量に流し、次いで40 psiのNOを充填して室温で2日間攪拌すると、濁った沈殿物を形成した(この沈殿物はNOに曝露してから1時間以内に形成し始めた。)。圧力を緩めて生成物を濾取した。該生成物をエーテルで洗浄し、真空乾燥させて白色粉末32.1 g (54%)を得た:UV (0.01 N NaOH)λmax(ε), 252 nm (8.84 mM−1cm−1,); t1/2 25 ℃で8.5 秒および37℃で2.8 秒(リン酸緩衝液pH 7.4中); NMR (D0) δ 1.91 (m, 4H), 3.22 (m, 4H)。
【0185】
実施例8
本実施例では、O−(2,4−ジニトロフェニル)1−(ピロリジン−1−イル)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートの調製について説明する。
5%重炭酸ナトリウム水溶液 10 ml中のナトリウム1−(ピロリジン−1−イル)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート556 mg (3.63 mmol)の溶液を0℃に冷却した。t−ブチルアルコール2 ml中の2,4−ジニトロフルオロベンゼン456 μl (3.63 mmol) の溶液を加え、得られた混合物を室温で一晩攪拌した。黄橙色沈殿物を濾取し、水洗、乾燥して758 mgの生成物を得、これをエタノールより再結晶化させた:融点 94-95℃; NMR,δ 2.04 (m, 4H), 3.35 (m, 4H), 6.90 (d, 1H), 8.20 (dd, 1H), 8.67 (d, 1H); MS, m/z(%), 297 (M, 1), 220 (100), 237 (30), 190 (94), 180 (15), 162 (10), 149 (26), 130 (20), 100 (95),70 (24), 63 (35), 56 (18) ;正確な質量:C10H11NOとしての計算値(M)297.0708;実測値 297.0709 。
【0186】
実施例9
本実施例では、ナトリウム1−[(4−エトキシカルボニル)ピペラジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートの調製について説明する。
メタノール 60 ml中のN−カルボエトキシピペラジン20 g (0.126 mol)の溶液をParrビンに入れた。該溶液をメタノール中の25% ナトリウムメトキシド溶液27.4 ml (0.126 mol) で処理した。この系を脱気し、40 psiの一酸化窒素を充填して25℃で48時間保った。白色の結晶性生成物を濾取し、冷メタノールおよび大量のエーテルで洗浄した。該生成物を真空乾燥して収量14.5 g (48%)のナトリウム1−[(4−エトキシカルボニル)ピペラジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートを得た:融点 184-5℃; UV (0.01 N NaOH) λmax(ε) 252 nm (10.4 mM −1cm−1); NMR (D0) δ 1.25 (t, 3H), 2.15 (q, 2H), 3.11 (m, 4H), 3.68 (m, 4H)。分析:CH13NONaとしての計算値: C 35.00%, H 5.42%, N 23.33%, Na 9.58% ;実測値: C 34.87%, H 5.53%, N 23.26%, Na 9.69% 。
この化合物のpH 7および25℃での半減期は5分と評価された。この測定は、紫外スペクトルにおける252 nmの発色団の消失に基づいた。
【0187】
実施例10
本実施例では、O−(2,4−ジニトロフェニル)1−[(4−エトキシカルボニル)ピペラジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートの調製について説明する。
5%重炭酸ナトリウム 10 ml中のナトリウム1−[(4−エトキシカルボニル)ピペラジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート1.073 g (0.0045 mol)の溶液を窒素下0℃に冷却した。t−ブチルアルコール 10 ml中の2,4−ジニトロフルオロベンゼン0.89 ml (0.0044 mol)の溶液の一部を加えた。添加時に沈殿物が生じた。該混合物を室温で4時間攪拌した。生成物をジクロロメタンで抽出した。該抽出物を水洗し、硫酸ナトリウムで乾燥させて無水硫酸マグネシウム層を通して濾過した。溶媒を留去して橙色ガラス状物を得、静置して結晶化させた。該生成物をエタノール:ジクロロメタンより再結晶化させて1.3 g (76%) の分析上純粋な物質を得た:融点 140-141℃; NMR δ 1.32 (t, 3H), 3.63 (m, 4H), 3.74 (m, 4H), 4.19 (q, 2H), 7.66 (d, 1 H), 8.48 (q, 1H), 8.88 (d, 1 H); UV (H0)λmax(ε) 210 nm (13.3 mM −1cm−1), 300 nm (12 mM−1cm−1)。分析: C13H16NOとしての計算値 C 40.61%, H 4.20%, N 21.87%;
実測値:C 40.74%, H 4.13%, N 21.98% 。
【0188】
実施例11
本実施例では、O−(2−クロロピリミジン−4−イル)1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートの調製について説明する。
ジメチルスルホキシド2 mlおよびテトラヒドロフラン5 ml中の2,4−ジクロロピリミジン600 mg (4 mmol) の溶液を、窒素下、室温で、シリンジにより、テトラヒドロフラン5 ml中のナトリウム1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート678 mg (4.37 mmol)のスラリーに加え、得られた混合物を72時間攪拌した。該混合物にエーテル5 mlを加えた。水洗後、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、硫酸マグネシウム層を通して濾過し、溶媒を留去して679 mgのオイル状物を得、それを-20 ℃で結晶化させた。この物質をエーテル−石油エーテルより再結晶化させた:融点 37-38℃; NMR δ 1.25 (t, 6H), 3.56 (q, 4H), 7.00 (d, lH), 8.50 (d,lH); UV, λmax(ε) 268 nm (9.3 mM−1cm−1)。C, H, N 分析: CH12NOCl としての計算値: C 39.11%, H 4.92%, N 28.51%, Cl 14.43%; 実測値: C 38.96%, H 4.96%, N 28.35%, Cl 14.60%。
【0189】
実施例12
本実施例では、O−(2−クロロピリミジン−1−イル)1−[(4−エトキシカルボニル)ピペラジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートの調製について説明する。
ジメチルスルホキシド3 ml中の2,4−ジクロロピリミジン262 mg (1.76 mmol)の溶液を、窒素下、室温で、テトラヒドロフラン 10 ml中のナトリウム1−[(4−エトキシカルボニル)ピペラジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート424 mg (1.76 mmol)のスラリーに加え、72時間攪拌した。得られた均質な溶液を水100 mlで処理した。沈殿物を濾取し、真空乾燥して300 mgの生成物を得た:融点 136-137℃; NMR δ 1.29 (t, 3H), 3.69 (m, 4H), 3.71 (m, 4H), 4.18 (q, 2H), 6.99 (d, 1H), 8.52 (d, 1H); (UV) λmax(ε) 270 nm (4.1 mM−1cm−1)。
この化合物は、メトキシドを用いた求核性置換により、C2位の塩素原子とC4位のジアゼニウムジオレートが置換されて、2,4−ジメトキシピリミジンとなる。
【0190】
実施例13
本実施例では下記の化合物の合成について記載する。
【0191】
【化45】

【0192】
化合物ないしの一般的合成:ジメチルスルホキシド中のナトリウム1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートの1M溶液を窒素下5℃で攪拌した。0.95モル当量のアリール化剤含有テトラヒドロフラン1M溶液をセプタム(septum)を通してインジェクションした。反応混合物を室温まで温め、一晩攪拌し、氷水で反応を止めてエーテル抽出した。該エーテルを水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸マグネシウム層を通して濾過し、ロータリーエバポレーターで濃縮した。精製方法は各々の調製で変更したが、それについては下記の個々の化合物とともに記述する(注:化合物ないしは、並行して液相合成法を用いて構築したO−アリール化合物ライブラリーより選ばれた生成物である)。NMRスペクトルはCDCl中で測定した。
【0193】
−(2−ニトロ−4−トリフルオロメチルフェニル)1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート,:4−フルオロ−3−ニトロベンゾトリフルオライドを用いてアリール化した。該生成物の精製は、1 inchのC-18カラムを用い、20% アセトニトリル水溶液から50% アセトニトリル:50% 水までの溶媒グラジェントで溶出する分取用HPLCにて行った。収量42% の生成物をオイル状物として得た:NMR δ 1.23 (t, 6H), 3.50 (q, 4H), 7.66 (d, 1H), 7.82 (d, 1H) , 8.28 (s, 1H)。
【0194】
−(2−ニトロ−4−カルボキシラトフェニル)1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート,:この調製では4−フルオロ−3−ニトロ安息香酸を用いた。該生成物の精製は、4.0 x 15.0 cm KP-Silカラムを用いてBiotage Flash 40系にて行った。この系を、5:1 のジクロロメタン:酢酸エチルを用い、15 psiの気圧をかけて25 ml/min の溶出速度で溶出し、収率22% で生成物を得た:融点 115-6℃; NMR δ 1.22 (t, 6H), 3.33 (q, 4H), 7.06 (d, 1H), 8.03 (dd, 1H), 8.37 (m, 1H)。
【0195】
−(5−ニトロピリジン−2−イル)1−(N,N−ジエチル)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート,:2−ブロモ−5−ニトロピリジンとの反応生成物をエーテル:エタノールより再結晶化させて純粋なを収率62% で得た:融点 77-8 ℃; NMR δ 1.24 (t, 6H), 3.53 (q, 4H), 7.21 (dd, 1H), 8.52 (dd, 1H), 9.17 (dd, 1H)。C,H,N 分析:CH13NOとしての計算値: C 42.35%, H 5.13%, N 27.44% ;実測値: C 42.46%, H 5.14%, N 27.52% 。
【0196】
−(3,5−ジニトロピリジン−2−イル)1−(N,N−ジエチル)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート,:2−クロロ−3,5−ジニトロピリジンを用い、一般的手順に記述のようにアニール化(Anylation) した。粗生成物をエーテル:石油エーテルより再結晶化させてを収率33% で得た:融点 56-7 ℃; NMR δ 1.28 (t 6H), 3.57 (q, 4H), 8.81 (d, 1H), 9.10 (d, 1H)。
【0197】
−(3−ニトロピリジン−2−イル)1−(N,N−ジエチル)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート,:2−クロロ−3−ニトロピリジンをこの反応に使用した。100%ジクロロメタンで溶出する4.0 x 7.0 cm KP-Sil カラムを用いたFlash 40システムで粗生成物を精製し、収率52% で生成物を粘性のオイル状物として得た:NMR δ 1.25 (t, 6H), 3.55 (q, 4H), 7.26 (m, 1H), 8.48 (m, 2H)。
【0198】
実施例14
本実施例では、O−ビニル1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート(V−PROLI/NO)の調製について説明する。
−(2−ブロモエチル)1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート 2−ブロモエチルエステル3.56 g (9.2 mmol) に10 N水酸化ナトリウム溶液10 ml を加えた。
該二相混合物を25℃で攪拌すると、該化合物は徐々に水層に溶解した。一晩攪拌後、反応混合物のUVは、266 nmで最大吸収を示し(出発材料は252 nmで吸収した)、ビニル基の形成が示された。
溶液を0℃に冷却し、10% 塩酸をゆっくり添加してpH 4まで注意深く酸性にした。酸を添加する間、溶液を保冷し続けるよう注意を払わねばならない。該酸性溶液を酢酸エチルで抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸マグネシウム層を通して濾過した。溶媒を留去して1.4 g のオイル状物を得た。4.0 x 7.0 cm KP-Sil カラムおよび溶出液として2:1 の酢酸エチル:シクロヘキサンを用いたFlash 40システムで精製を行った:ir (film) 3163, 2987, 1734, 1630, 1490 cm−1;
NMR (CDCl) δ 2.06-2.3 (m, 4H), 3.62 (m, 2H), 4.47 (q, 1H), 4.77 (ABq,
1H), 5.02 (ABq, 1H), 6.75 (q, 1H); UV λmax(ε) 266 nm (6.3 mM−1cm−1); MS, m/z(%) 201 (M, 5), 176(10), 150(49), 145(27), 114(9), 99(45), 70(99.9), 69(57), 68(45)。
【0199】
実施例15
本実施例では、グルタチオンの存在下ではO−(2,4−ジニトロフェニル)1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートからNOが再生するが、非存在下では再生しないことを説明する。
1 mMグルタチオン (GSH)含有10 mM リン酸緩衝液をアルゴンで10分間で浄化して脱気した後、アリコート3 mlをO−(2,4−ジニトロフェニル)1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート2 mMのジオキサン溶液3 μl とを混合した。該混合物を37℃に保ちながらNOの放出を化学発光によりモニタリングした。短いラグタイムの後、反応開始約15分後に一酸化窒素発生のピークが観察され、約 100分間容易に検出可能なレベルが続いた。最初の112 分間の総NO発生量は約9 nmolであった。O−(2,4−ジニトロフェニル)1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート1 mol あたり2 nmolのNOが発生すると仮定すると、この9 nmolは、理論的収量のおよそ75% に相当する。
GSH を除く以外は上記のようにして反応を繰り返すと、NOの発生は観察されなかった。求核性のグルタチオンがO−(2,4−ジニトロフェニル)1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートと反応して下記式にしたがってNOを生成した。
【0200】
【化46】

【0201】
本実施例は、本発明のO−アリールジアゼニウムジオレート化合物の幾つかが、酵素の活性部位においてしばしば見られる、システインのようなアミノ酸の求核性側鎖によって求核置換され得ることを示している。このような求核置換の結果、予測できる一次反応を介して、アミノ酸残基とNOを生成し得るジアゼニウムジオレートが置換されたアリール誘導体が発生する。
−(2,4−ジニトロフェニル)1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートとグルタチオンを、グルタチオンS−転移酵素の存在下および非存在下でアッセイした。アッセイは、25℃に温度制御されたセル隔壁 (cell compartment)中で、0.1 M リン酸緩衝液 (pH 7.4)を用いて最終容量3 mlで行った。酵素濃度は0.7 μg/ml、一方グルタチオン濃度は1.4 mMであった。ジアゼニウムジオレート濃度は50-100 μM で変化させた。Henri-Michaelis-Menten式の積分型を用いると、Kは46.3 μM であり、Vmaxは0.89 μMmin−1であることがわかった。
【0202】
実施例16
本実施例では、ジアゼニウムジオール化したヌクレオチド類、ヌクレオシド類および核酸類の製造に有用な合成経路について説明し、さらに、アミノ基をジアゾニウム基に変換した後、ジアゾニウム基をジアゼニウムジオレートと反応させることを含む、O−アリールジアゼニウムジオレート類の合成経路について説明する。
2’−デオキシシチジンを、シチジンのアミノ基をジアゾニウム基に結果的に変換する適当な1電子酸化剤の存在下で、一酸化窒素と反応させる(該変換により該酸化剤は還元され、水酸化物イオンが生成される)。次いで、得られるジアゾ化(すなわちジアゾニウム誘導体)ピリミジンを、前記実施例で記載したように、1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートイオンと反応させて、ジアゼニウムジオレート2’−デオキシウリジン誘導体を生ずる。このジアゼニウムジオレート2’−デオキシウリジン誘導体は強力な求核剤(例えば、水酸化物イオン)と反応することができる。この結果、1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートイオンと2’−デオキシウリジンが再生するだろう。この再生した1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートイオンは、予測できる一次反応によりNOを発生するだろう。本実施例は、哺乳動物の特定の生体部位に一酸化窒素をターゲッティングし、NO作用の特異性を増大させ得るのに適当なメカニズムの原理を実証するものである。
【0203】
実施例17
本実施例では、O−アリールジアゼニウムジオレートが亜鉛の放出によってジンクフィンガータンパクを不活性化し得ることを実証する。
HIV−1(L.O. Arthur, AIDS Vaccine Program, NCI-FCRDC, Frederick, MD)由来の組換えヌクレオキャプシドタンパクp7 (p7NC) のサンプルを10 mM リン酸ナトリウム緩衝液 (pH = 7.0) 中でμg/mlで調製し、O−アリールジアゼニウムジオレート 25 μmol(全量1.0 ml中)で処理した。時間(分)に対するTrp37 の蛍光 (RFU)のグラフである図1に示すように、種々の時間間隔で、どんな人口的なクエンチ効果の導入も防ぐために、該サンプルを10 mM リン酸ナトリウム緩衝液 (pH = 7.0) に1/10希釈し、各サンプル中のp7NCのC末端ジンクフィンガー中のトリプトファン残基 (Trp37)の蛍光強度を以前に記載されているようにして測定した (Riceら, Int. Antiviral News 3: 87-89 (1995))。Shimadzu RF500O 蛍光分光計で利用した励起および放出波長は、それぞれ280 および351 nmであった。結果を図1に示す。図中、○はネガティブコントロール、すなわち薬剤なしを表し、□はポジティブコントロール、すなわち642151 (Riceら (1997),上述を参照)を表し、■は実施例1の化合物 (LK1)を表し、◆は実施例8の化合物 (LK2)を表し、▲は実施例5の化合物 (Lk3)を表し、●は実施例10の化合物 (Lk4)を表し、×は実施例11 (LK5)の化合物を表す。結果はO−アリールジアゼニウムジオレートがジンクフィンガータンパクから亜鉛を放出し得ることを示している。
【0204】
実施例18
本実施例ではO−アリールジアゼニウムジオレートの抗HIV活性を実証する。
CEM-SSと呼ばれるT4リンパ球の癌細胞株を胎仔ウシ血清含有合成培地(Riceら,Advances in Pharmacol. 33: 389-438 (1995))中で増殖させた。国立癌研究所 (National Cancer Institute)のXTTに基づく細胞生存性アッセイ(例えば、Riceら (1995),上述を参照)に従って、O−アリールジアゼニウムジオレート類をHIV−1感染および非感染CEM-SS細胞に10−3.5〜10−7.0Mの濃度範囲で投与した。
CEM-SS細胞を化合物に曝露した後、T細胞生存のパーセントを調べた。やや毒性のある濃度の上記O−アリールジアゼニウムジオレート類のいずれかと接触させたHIV−1感染CEM-SS細胞も、非処理細胞に比べて生存性が実質的に増大した。実施例13からの化合物1〜3が特に有効であった。
【0205】
実施例19
本実施例は、ジナトリウム1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートの調製について記載する。
25% ナトリウムメトキシド(メタノール中)39 ml (0.18 mol)、メタノール20 ml およびエーテル40 ml 中のL−プロリン10 g (0.087 mol)の溶液を脱気して、40 psiの一酸化窒素に20時間曝露した。圧力を緩めて固形残渣を濾取し、エーテルで洗浄し、真空乾燥して白色固体17 gを得た:融点 250℃(分解); UV (0.01 N NaOH)λmax(ε) 252 nm (8.4 mM−1cm−1); NMR (D0) δ 1.71 (m, 1H), 1.91 (m, 2H), 2.27 (m, 1H), 3.27-3.43 (m, 2H), 4.04 (m, 1H) (3.34におけるメタノールの一重線も観察される); 13C NMR, 24.45 ppm, 30.97, 48.73 (methanol), 54.95, 67.70, 182.75 。
C,H,N 分析: CHNONa・CHOH としての計算値:C 28.69%, H 4.41%, N 16.73%, Na 18.30%; 実測値:C 28.65%, H 3.99%, N 16.74%, Na 18.04%。
【0206】
実施例20
本実施例では、O−メチル1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートメチルエステルの調製について記載する。
ジナトリウム1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート(メタノール溶媒和物, FW 251; 6.8 g; 0.027 mol)を 300 ml 3首フラスコに入れて-20 ℃に冷却した。冷メタノール (-20 ℃; 200 ml)を攪拌しながら該固体に加えて均一溶液を得、それをさらに-35 ℃に冷却した。エーテル 25 ml中のジメチル硫酸9.5 ml (0.1 mol)の溶液を15分間かけて滴下した。次いで、反応混合物を室温まで徐々に温め、さらに4時間攪拌した。反応の進行を、展開液として10:1のジクロロメタン:エーテルを用いたシリカゲルTLCでモニタリングした。反応混合物を濾過し、ロータリーエバポレーターでメタノールを除去し、残渣をジクロロメタンで抽出した。該溶液を重炭酸ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸マグネシウム層を通して濾過した。溶媒を留去してオイル状物を得、それを静置して結晶化させた。エーテル:石油エーテルより再結晶化させて、分析上純粋なサンプル945 mg (18%)を得た:融点 62-63℃; UV (0.01 N NaOH), λmax(ε) 252 nm (6.79 mM−1cm−1); NMR δ2.05 (m, 3H), 2.30 (m, 1H), 3.65 (m, 1H), 3.75 (s, 3H), 3.83 (m, 1H), 3.96 (s, 3H), 4.55 (m, 1H); MS m/z (%) 203 (M, 6), 188 (20), 58 (35), 120 (22), 99 (100), 95 (34), 69 (36), 59 (24); CH13N0として計算される正確な質量 (M) 203.0906, 実測値 (M) 203.0906。
C,H,N 分析: CH13N0としての計算値 C 41.38%, H 6.45%, N 20.68%: 実測値 C 41.48%, H 6.43%, N 20.59%。
【0207】
実施例21
本実施例では、O−(N,N−ジメチルスルファモイル)1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートの調製について記載する。
テトラヒドロフラン5 ml中のN,N−ジメチル−スルファモイルクロリド1.08 ml (0.01 mol)の溶液を、0.1 N NaOH (食塩水中)25 ml 中のジナトリウム1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート1.57 g (0.0062 mol) の冷(0℃)溶液に加えた。反応混合物を室温まで温め、一晩攪拌した。水層をジクロロメタンで抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。抽出後、水層は有意なUV吸収を示さず、したがって抽出物にはジアゼニウムジオレートがないことが示された。有機層を硫酸マグネシウム層を通して濾過し、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去して淡黄色オイル状物989 mgを得、これを5:1 のジクロロメタン:酢酸エチルを溶出液としてシリカゲルクロマトグラフィー処理した。所望の生成物を含む画分をあわせて真空下で濃縮して固体を得、エーテル:石油エーテルより再結晶化させた:融点 97-98℃; UV (0.01 N NaOH) λmax(ε) 266 nm (8.05 mM−1cm−1); NMR δ 2.16 (m, 3H), 2.40 (m, 1H), 3.01 (s, 6H), 3.83 (m, 1H), 3.94 (m, 1H), 4.69 (q, 1H), 6.80 (b, 1H)。
C,H,N,S 分析: CH14NS0としての計算値:C 29.79%, H 5.00%, N 19.85%, S 11.36% :実測値 C 29.93%, H 5.09%, N 19.76%, S 11.27%。
【0208】
実施例22
本実施例ではO−メトキシメチル1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートメトキシメチルエステルの調製について記載する。
無水テトラヒドロフラン 20 ml中ジナトリウム1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート485 mg (1.93 mmol)のスラリーを窒素雰囲気下0℃に冷却した。トリエチルアミン (0.5 ml)を該冷溶液に加えた後、クロロメチルメチルエーテル360 mg (4.45 mmol)をゆっくりと加え、続いてメタノール0.5 mlを滴下した。次いで該溶液を冷却しながら1.5 時間攪拌した。反応混合物を室温まで温め、窒素下でさらに1.5 時間攪拌した。砕いた氷で反応を止めた後、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、残渣をジクロロメタンで抽出した。有機層を水洗し、硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸マグネシウムを通して濾過および真空下で溶媒留去して、黄色オイル状物330 mgを得、これを5:1 のジクロロメタン:酢酸エチルを溶出液としてシリカゲルカラムで精製した:UV (H0)λmax(ε) 250 nm (8.58 mM−1cm−1); NMR δ 2.09 (m, 3H), 2.35 (m, 1H), 3.48 (s, H), 3.71 (m, 2H), 3.90 (m, 1H), 4.61 (dd, 1H), 5.17 (ab q, 2H), 5.31 (ab q, 2H)。
C,H,N 分析: CH17N0としての計算値: C 41.06%, H 6.51%, N 15.96 %: 実測値 C 40.87%, H 6.53%, N 15.76%。
【0209】
実施例23
本実施例では、O−(2−ブロモエチル)1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート2−ブロモエチルエステルの調製について記載する。
ジクロロメタン50 ml中のブロモエタノール20 ml (0.28 mol)の溶液を0℃に冷却し、該溶液に、ジクロロメタン 50 ml中のスルフリルクロリド11.25 ml (0.28 mol) の溶液を滴加した。得られた溶液を72時間4℃に保った。洗浄液が試験の結果はっきりと塩基性となるまで、該溶液を冷10% NaOHで洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸マグネシウム層を通して濾過し、ロータリーエバポレーターで濃縮した。得られた粗生成物(2−ブロモエトキシスルホニルクロリド, BrCHCHOSOCl)を真空蒸留して無色オイル状物35 g (56%)を得た: 沸点 (1.5 mmHgで)73-75 ℃; NMR δ 3.64 (t, 2H), 4.752 (t, 2H); MS m/z (%) 221 (M, 1), 143 (10), 129 (25), 106 (100), 93 (62)。C,H,N,S,X 分析: CHSOClBr としての計算値: C 10.75%, H 1.80%, S 14.35%, 全ハロゲンをBrとして71.52%およびClとして31.72%; 実測値: C 10.82% H 1.80%, S 14.35%, 全ハロゲンをBrとして71.63%およびClとして31.78%。
ジナトリウム1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート(4.86 g; 0.0194 mol)を、無水炭酸ナトリウム2.2 g とともに100 ml丸底フラスコに入れた。該フラスコをドライアイス−アセトニトリル浴 (-40 ℃)中に浸漬し、冷 (-20 ℃) エタノール50mlを加えた。次いで、混合物を攪拌し、窒素雰囲気下-40 ℃に安定化した。該冷スラリーに、2−ブロモエトキシスルホニルクロリド9.45 g (0.0422 mol)をシリンジにより10分間かけて添加した。2時間攪拌後、反応混合物を15℃まで温め、さらに2時間攪拌した。反応混合物を氷水250 ml中に注ぎ、ジクロロメタンで抽出した。有機層を亜硫酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸マグネシウム層を通して濾過した後、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去した。粗生成物を1:1 のシクロヘキサン:酢酸エチルを溶出液として用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行い、黄色オイル状物2.7 g (36%)を得た: NMR δ 2.11 (m, 3H), 2.35 (m, 1H), 3.55 (m, 4H), 3.68 (m, 1H), 3.86 (m, 1H), 4.46 (m, 4H), 4.59 (m, 1H); UV (H0) λmax (ε) 252 nm (6.6 mM−1cm−1)。
【0210】
実施例24
本実施例では、O−[S−アセチル−(2−メルカプトエチル)]1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート[S−アセチル−(2−メルカプトエチル)]エステルの調製について記載する。
1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン(DBU、1.03 g; 0.0068 mol)を、テトラヒドロフラン 35 ml中のO−(2−ブロモエチル)1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート2−ブロモエチルエステル1.33 g (0.0034 mol)の溶液に加え、得られた溶液を窒素下、室温で攪拌した。2当量のチオール酢酸 (0.479 ml, 0.0068 mol)を加え、混合物を室温で2時間攪拌した。該混合物を濾過し、固形残渣をエーテルで洗浄した。濾液を溶媒留去して減圧乾燥し、残渣を塩化メチレンで抽出した。有機層を氷冷した5 N HCl、重炭酸ナトリウム水溶液および水で順次洗浄した。該溶液を硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸マグネシウム層を通して濾過し、真空下で溶媒留去して黄色オイル状物710 mgを得た。クロマトグラフィーはシリカゲルカラムで行い、1:1 のシクロヘキサン:酢酸エチルで溶出した:UV (H0) λmax (ε) 232 nm (7.0 mM−1cm−1); NMR δ 2.09 (m, 3H), 2.36 (m, 1H), 2.38 (s, 6H), 3.09 (m, 4H), 3.78 (m, 2H), 4.27 (m, 4H), 4.55 (m, 1H)。
【0211】
実施例25
本実施例では、ブタ肝臓エステラーゼの非存在下および存在下での、25℃およびpH 7.4における実施例24で製造した化合物の半減期の測定を記載する。
0.009 M O−[S−アセチル−(2−メルカプトエチル)]1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート[S−アセチル−(2−メルカプト−エチル)]エステルのエタノールストック溶液を調製した。この化合物の崩壊を、リン酸緩衝液3 ml(pH 7.4) およびストック溶液50 mlを含む4 mlクオーツキュベット中の1.5 x 10−4 M溶液として、25℃でモニタリングした。232 nmの発色団の消滅を紫外分光光度計でモニタリングした。半減期は3.2 時間と見積られた。
第2セットの実験は、上記パラメーターを用いて行い、ブタ肝臓エステラーゼ懸濁液5 ml添加後の崩壊を測定した。エステラーゼ反応に対する半減期は25℃で8分であった。
【0212】
実施例26
本実施例では、O−[S−アセチル−(2−メルカプトエチル)]1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート[S−アセチル−(2−メルカプトエチル)]エステルの一酸化窒素放出性ポリマー混合物の調製について記載する。
テトラヒドロフラン1 ml中のO−[S−アセチル−(2−メルカプトエチル)]1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート[S−アセチル−(2−メルカプトエチル)]エステル50 mg (0.132 mmol)の溶液を、テトラヒドロフラン 10 ml中のポリウレタン498 mgの溶液に溶解した。均一なラッカーを乾燥窒素ガス流下で濃縮した後、高真空下でさらに乾燥して、ポリマー複合物1 mgあたりO−[S−アセチル−(2−メルカプトエチル)]1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート[S−アセチル−(2−メルカプトエチル)]エステル0.091 mg (0.24 mmol)含む固形物を得た。NO放出速度を、ジアゼニウムジオレートのアリコート32 mg (2 ml リン酸緩衝液, pH 7.4中) の浸漬後の時間の関数として、化学発光検出器を用いて37℃で測定した。1セットの実験は混入物のない緩衝液中で行ったが、もう1つのセットはブタ肝臓エステラーゼの存在下で行った。酵素の非存在下では、200 時間をかけてごく少量のNOが放出されたが、酵素が緩衝液中に存在すると顕著な速度でNOの生成が観察された。このことは、ポリマー複合物からジアゼニウムジオレートが漏出するにしたがって、それが酵素よって加水分解されてさらにNOに開裂することを示している。
【0213】
実施例27
本実施例では、β−シクロデキストリンへの一酸化窒素放出性O−[S−アセチル−(2−メルカプトエチル)]1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート[S−アセチル−(2−メルカプトエチル)]エステルの導入を記載する。
β−シクロデキストリン (228 mg, 0.201 mmol)を水2 mlと混合し、65℃に加熱して均一溶液を得た。該温溶液に、O−[S−アセチル−(2−メルカプトエチル)]1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート[S−アセチル−(2−メルカプトエチル)]エステル76 mg (0.201 mmol)を加えた。混合すると白色沈殿物が形成された。該混合物を室温まで冷却し、生成物を濾取し、水洗し、真空乾燥して生成物170 mgを得た。33 mg のO−[S−アセチル−(2−メルカプトエチル)]1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート[S−アセチル−(2−メルカプトエチル)]エステル:β−シクロデキストリン混合物を含む水溶液は232 nmで最大吸収を、またモル吸光係数 (ε)10.8 mM−1cm−1を示した。NO放出速度を、そのカプセル化された物質のアリコート13 mg (4 ml リン酸緩衝液, pH 7.4中) の浸漬後の時間の関数として、化学発光検出器を用いて37℃で測定した。1セットの実験は混入物のない緩衝液中で行ったが、もう1つのセットはブタ肝臓エステラーゼの存在下で行った。酵素の非存在下では、400 時間をかけてごく少量のNOが放出されたが、酵素が緩衝液中に存在すると顕著な速度でNOの生成が観察された。
【0214】
実施例28
本実施例では、O−グリコシル化ジアゼニウムジオレート類の調製の一般的な手順を記載する。
2,3,4,6−テトラアセチル−α−D−グルコピラノシルブロミド(アセトブロモグルコース)をRedemannら, Org. Syn. Coll. Vol. III: 11-14 (1955)に記載のようにして調製した。2,3,4,6−テトラアセチル−α−D−マンノピラノシルブロミド(アセトブロモマンノース)をLeveneら, J. Biol. Chem. 90: 247-250(1931)に記載のようにして調製した。次いで、ジメチルスルホキシド (DMSO)中のジアゼニウムジオレート1 当量のスラリー(0.5 mmol 固形物/1 ml DMSO)を酸化銀0.03当量とともに窒素下室温で攪拌した。DMSO中の1.2 当量のアセトブロモマンノースまたはアセトブロモグルコースの0.5 M 溶液を滴下注入して混合物を3日間攪拌した。得られた均一溶液を氷水100 mlに注ぎエーテル抽出した。エーテル層を水洗し、硫酸ナトリウムで乾燥し、木炭で処理した。溶液を硫酸マグネシウムを通して濾過し、ロータリーエバポレーターで濃縮して真空乾燥した。該グルコース誘導体は再結晶化により精製したが、ガラス状のマンノース付加生成物はカラムクロマトグラフィーを要した。
【0215】
実施例29
本実施例では、ナトリウム1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート("DEA/NO")の調製について記載する。
1:1 のエーテル:アセトニトリル100 ml中のジエチルアミン119 g (1.63 mol)の溶液を500 ml Parr ビン中に入れた。該溶液を脱気し、40 psiの一酸化窒素を充填して室温で一晩静置した。圧力を緩めて結晶性生成物を濾取し、窒素下で乾燥してジエチルアンモニウム1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート13 gを得た。この塩を10 M水酸化ナトリウム溶液10 ml で処理し、得られたペーストをエーテル200 mlで処理してナトリウム塩を得た。このナトリウム塩("DEA/NO")を真空濾過して集め、エーテルで洗浄し、真空乾燥して生成物7.1 g を得た: UV (0.01 N NaOH 中) λmax(ε) 250 (6.88 mM−1cm−1); NMR (D0) δ 0.96 (t, 3H), 2.94 (q, 2 H); DMSO-d中 δ 0.84 (t, 3 H)および2.75 (q, 2 H)。
【0216】
実施例30
本実施例では、O−(2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−α−D−グルコピラノシル)1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートの調製を記載する。
実施例28の一般的手順に記載したように、DMSO中のDEA/NO(2.98 g; 0.019 mol)を、アセトブロモグルコース6.9 g; 0.017 mol) と反応させた。生成物を石油エーテルより再結晶化させて5.7 g (72%) 結晶性固体108 mgを得た:融点107-108 ℃; UV λmax(ε) 228 nm (6.92 mM−1cm−1); NMR δ 1.11 (t, 6H, J= 7.11), 2.02 (s, 3H), 2.03 (s, 3H), 2.04 (s, 3H), 2.07 (s, 3H), 3.21 (q, 4H, J= 7.12), 3.81 (m, 1H), 4.20 (m, 2H), 5.14 (m, 1H), 5.33 (m, 3H)。分析:C18H29NO11 としての計算値: C, 46.65; H, 6.31; N, 9.07。実測値: C, 46.73; H, 6.26; N, 9.01。
【0217】
実施例31
本実施例では、O−(2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−α−D−グルコピラノシル)1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート(実施例30より)の脱アシル化について記載する。
メタノール5 ml中の上記化合物253 mg (0.55 mmol)の溶液を、25% メタノール性ナトリウムメトキシド10μlとともに攪拌した。反応の進行を5:1 のCHCl:酢酸エチルを用いたTLCによってモニタリングした。反応は25℃で1時間以内に完了した。
Dowex-50W-H 樹脂 (1 g)を攪拌中の該メタノール溶液に加えた。該混合物を濾過して樹脂を除去し、メタノール溶液を真空下で溶媒留去してO−グルコピラノシル1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート122 mg (75%)を得た:UV λmax(ε) 228 nm (6.4 mM−1cm−1); NMR (CDCl) δ 1.08 (t, 6H), 3.23 (9, 4H), 5.59 (m, 4H), 3.88 (m, 2H), 5.29 (m,1H)
驚くべきことに、この脱アシル化生成物は、そのアセタール様構造にもかかわらず、pH 3で極めてゆっくりと1−(N,N−ジエチルアミノ)ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート(DEA/NO)アニオン、次いでNOに開裂するに過ぎなかった。いっそう驚くべきことに、この開裂はpH 13 では極めて急速に進行した。
【0218】
実施例32
本実施例では、ナトリウム1−[(1−エトキシカルボニル)ピペラジン−4−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートの調製について記載する。
メタノール 60 ml中のカルボエトキシピペラジン20 g (0.126 mol)の溶液をParrビンに入れた。該溶液をメタノール中の25% ナトリウムメトキシド27.4 ml (0.126 mol) で処理した。この系を脱気し、40 psiの一酸化窒素を充填して25℃に48時間保った。白色の結晶性生成物を濾取し、冷メタノールおよび大量のエーテルで洗浄した。該生成物を真空乾燥してナトリウム1−[(1−エトキシカルボニル)ピペラジン−4−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート14.5 g (収率48%)を得た: 融点: 184-185 ℃; UV (0.01 N NaOH) λmax (ε) 252nm (10 mM−1cm−1); NMR (D0) δ 1.25 (t, 3H), 3.11 (m, 2H), 3.68(m, 2H), 2.15 (q, 2H)。分析:CH13NONa としての計算値: C 35.00%, H 5.42%, N 23.33%, Na 9.58% 。実測値: C 34.87%, H 5.53%, N 23.26%, Na 9.69% 。この化合物のpH 7および25℃での半減期は5分と見積もられた。この測定は紫外スペクトルにおける252 nmの発色団の消失に基づいた。
【0219】
実施例33
本実施例では、O−(グルコピラノース−2−イル)1−[(1−エトキシカルボニル)ピペラジン−4−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートテトラアセテートエステルの調製について記載する。
アセトブロモグルコース (2.055 g; 0.005 mol)とナトリウム1−[(1−エトキシカルボニル)ピペラジン−4−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート1.11 g (0.00466 mol)とを上記のように反応させてO−(グルコピラノース−2−イル)1−[(1−エトキシカルボニル)ピペラジン−4−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートテトラアセテートエステル624 mg (25%)を得た: UV λmax(ε) 228 nm (7.20 mM−1cm−1); NMR δ 1.26 (t, 3H), 2.02 (s, 3H), 2.03 (s, 3H), 2.04 (s, 3H), 2.09 (s, 3H), 3.46 (m, 4H), 3.68 (m, 4H), 3.82 (m, 1H), 4.17 (q, 2H), 4.25 (m, 3H), 5.27 (m, 3H)。
【0220】
実施例34
本実施例では、O−(マンノピラノース−2−イル)1−[(1−エトキシカルボニル)ピペラジン−4−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートテトラアセテートの調製について記載する。
アセトブロモマンノース (10.2 g ; 0.025 mol) とナトリウム1−[(1−エトキシカルボニル)ピペラジン−4−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート5.28 g (0.022 mol)とを上記のように反応させて6.4 g (53 %)のガラス状物を得た: UV λmax(ε) 238 nm (7.5 mM−1cm−1); NMR δ 1.29 (t, 3H), 2.01 (s, 3H), 2.05 (s, 3H), 2.11 (s, 3H), 2.17 (s, 3H), 3.13 (m, 1H), 3.50 (m, 4H), 3.78 (m, 5H), 4.19 (q, 2H), 4.27(m, 3H), 5.28 (m, 3H), 5.42 (m, 1H)。
【0221】
実施例35
本実施例では、マンノース−フコースレセプターに指向されるO−グリコシル化ジアゼニウムジオレートの調製について記載する。
ビス−[2−(N−エトキシカルボニルアミノ)エチル]アミン:2つの滴下漏斗を備えた3首フラスコを氷水浴中に浸した。ジエチレントリアミン (10.7 g, 0.104 mol)を該冷フラスコ中に入れ、95% エタノール100 mlに溶解した。該冷溶液にクロロ蟻酸エチル10 ml (0.205 mol)を滴加した。蒸留水100 ml中の炭酸ナトリウム10.6 g (0.1 mol)の溶液をクロロ蟻酸エチル10 ml (0.205 mol) と同時に加えた。反応混合物を室温で一晩攪拌した。ロータリーエバポレーターでエタノールを除去し、水性部分をジクロロメタンで抽出した。有機層を水洗し、次いで5%塩酸で抽出した。中性生成物を含む有機層を分離して取っておいた。水層をジクロロメタンで抽出し、水酸化ナトリウムで塩基性にした。生成物をジクロロメタン中に抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸マグネシウムを通して濾過し、溶媒を留去して無色オイル状物4 g を得た: NMR (CDCl) δ 1.25 (t, 6H), 2.78 (m, 4H), 3.36 (m, 4H), 4.14 (q, 4H), 5,13 (b, 2H)。
ナトリウム1−[ビス−{2−(N−エトキシカルボニルアミノ)エチル}アミノ]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート:エーテル 20 mlおよびメタノール5 ml中のビス−[2−(N−エトキシカルボニルアミノ)エチル]アミン2.6 g (0.011 mol) の溶液を50 ml Parrビン中に入れ、25% メタノール性ナトリウムメトキシド2.4 ml (0.011 mol)で処理し、脱気し、-80 ℃で冷却して50 psiの一酸化窒素を充填した。3時間攪拌後に濁った沈殿物が観察された。該混合物を24時間NOに曝露し、圧力を緩めて生成物を濾取した。該固形物をエーテルで洗浄し、真空乾燥してジアゼニウムジオレート1.26 g (35%)を得た:融点 170-2℃; UV λmax(ε) 252 nm (7.6 mM−1cm−1); NMR δ 1.24 (t, 6H), 3.19 (m, 8H), 4.11 (q, 4H)。
−(マンノース−2−イル)1−[ビス−{2−(N−エトキシカルボニルアミノ)エチル}アミノ]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートテトラアセテート:ジメチルスルホキシド (DMSO) 2 ml中のナトリウム1−[ビス−{2−(N−エトキシカルボニルアミノ)エチル}アミノ]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート251 mg (0.763 mmol)の溶液の一部を窒素下0℃に冷却した。これに酢酸銀10 mg (0.06 mmol)を加えた後、テトラヒドロフラン中の0.82 Mアセトブロモマンノース溶液1 mlをゆっくりと加えた。該反応混合物を48時間室温で攪拌し、氷水に注ぎ、エーテル抽出した。該エーテル溶液を硫酸ナトリウムで乾燥、硫酸マグネシウム層を通して濾過し、真空下で溶媒留去してオイル状物307 mgを得た:UV λmax240 nm。
−(マンノース−2−イル)1−[ビス(2−アミノエチル)アミノ]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート]:
10 N NaOH 2 ml、エタノール2 mlおよび水2 mlの混合物中のO−(マンノース−2−イル)1−[ビス−{2−(N−エトキシカルボニルアミノ)エチル}アミノ]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレートテトラアセテート145 mg (0.23 mmol)の溶液を15時間加熱還流した。該溶液を真空下で濃縮し残った水溶液をジクロロメタンで抽出した。該水溶液を真空下で溶媒留去して乾燥した。残渣をメタノール中に取り、10 g、60 cc のプレパック C-18 カラムに通してメタノールで溶出した。236 nmで最大吸収を示す画分を集め、溶媒を留去して白色粉末32 mg を得た:NMR (CDOD) δ 2.74 (t, 4H), 3.02 (t, 4H), 3.74 (m, 4H), 4.2 (m, 3H); UV λmax238 nm。
【0222】
実施例36
本実施例では、ジナトリウム1−(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート(PROLI/NO)を出発材料として用いた組み合わせライブラリーの調製について記載する。
Calbiochem-Novabiochem Int'l.(San Diego, CA) より入手できるピペラジントリチル樹脂1を塩化スルフリルで処理してクロロスルホンアミド2を形成させる。この樹脂をPROLI/NOと反応させて化合物3を得る。ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)およびN−ヒドロキシコハク酸イミドとの反応によりフリーのカルボン酸を4に活性化することができる。樹脂結合ジアゼニウムジオレートへのR30XH (X=O, N, S) の求核性付加により分子のカルボキシラト基で置換された化合物5の、潜在的に大きなライブラリーが提供される。5の塩基加水分解により、樹脂からアニオン性ジアゼニウムジオレート6が遊離する。このライブラリー6を求電子剤31Xと反応させて構造7を有する化合物の新しいセットを形成できる。
【0223】
【化47】

【0224】
ここに引用した刊行物、特許および特許出願は、各刊行物が言及によって組み込まれるために個々にそして具体的に述べられ、ここに完全に明らかにされたと同程度に、ここに言及することで組み込まれるものである。
【0225】
本発明を好ましい実施態様を強調して説明してきたが、当業者には好ましい実施態様が変更され得ることが自明であろう。本発明はここで特別に記載された以外の方法でも実施され得ることが意図される。したがって、本発明は添付の請求の範囲の精神および範囲に包含される全ての変形を含むものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Ia:
【化1】

[式中、Xは、S−、O−、アミノ、ポリアミノ、C−C24脂肪族基、C−C30アリールおよびC−C30非芳香環基からなる群より選択され、かつRは、ピラノース環またはフラノース環の2位によって、ジアゼニウムジオレートのOに結合している糖である。但し、Xが糖の時、それはピラノース環またはフラノース環の2位によって、ジアゼニウムジオレートのNに結合していない。]
のO−グリコシル化1−置換ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート。
【請求項2】
糖が、単糖、二糖、オリゴ糖および多糖からなる群より選択される、請求項1のジアゼニウムジオレート。
【請求項3】
二糖が、スクロースまたはマルトースである、請求項2のジアゼニウムジオレート。
【請求項4】
単糖が、マンノース、フコースまたはグルコースである、請求項2のジアゼニウムジオレート。
【請求項5】
糖が、レセプター媒介細胞現象のための認識配列である、請求項1のジアゼニウムジオレート。
【請求項6】
Xが、窒素原子を介してジアゼニウムジオレートの窒素に結合しているアミノ基である、請求項1のジアゼニウムジオレート。
【請求項7】
Xが、−[N(NO)O]、ハロ、ヒドロキシ、アルキルチオ、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、シアノ、スルホナト、メルカプト、ニトロ、C−C12脂肪族基、C−Cシクロアルキル、C−Cヘテロシクロアルキル、C−C12オレフィン基、ベンジル、フェニル、ベンジルカルボニル、フェニルカルボニル、糖、ホスホノ、ホスファト、および1またはそれ以上の酸素原子が、独立してSまたはNR(式中、RはC−C脂肪族基、C−Cシクロアルキル、ベンジル、フェニルまたはR18C=N(OH)(式中、R18はC−C10脂肪族基である。)である。)に置き換わっているホスファトからなる群より選択される基で置換されている、請求項1−6のいずれかのジアゼニウムジオレート。
【請求項8】

【化2】

[式中、bおよびdは、同一または異なってもよく、0または1であり得、R、R、R、RおよびRは、同一または異なって、水素、C−Cシクロアルキル、C1−12直鎖または分岐鎖アルキル、ベンジル、ベンゾイル、フタロイル、アセチル、トルフルオロアセチル、p−トルイル、t−ブトキシカルボニルおよび2,2,2−トリハロ−t−ブトキシカルボニルからなる群より選択され、かつi、jおよびkは、同一または異なって、2〜12の整数である。]
を有する、請求項1−7のいずれかのジアゼニウムジオレート。
【請求項9】
Xが、R1920N−であり、かつR19およびR20は、同一または異なって、水素、C1−12直鎖アルキル、C3−12分岐鎖アルキル、またはC2−12直鎖もしくはC3−12分岐鎖オレフィン基であり、ここで、R19およびR20は、アルコキシ、アシルオキシ、アシルチオ、ヒドロキシ、ハロまたはベンジル基で置換されてもよく、あるいは、
19およびR20は、それらが結合している窒素原子と一緒になって、
【化3】

(式中、Aは、NH、OまたはSであり、wは1−12であり、yは1または2であり、zは1−5であり、Rは、水素、C1−8直鎖アルキル、C3−8分岐鎖アルキル、C3−8シクロアルキル、アリールまたはカルボキシラトであり、かつRは、水素、C1−6直鎖アルキルまたはC3−6分岐鎖アルキルである。)からなる群より選択される複素環を形成する、請求項1−7のいずれかのジアゼニウムジオレート。
【請求項10】
1920N−がN(CHCHNHであり、かつ糖がフコースまたはマンノースである、請求項9のジアゼニウムジオレート。
【請求項11】
糖が、どちらか1つがホスホリル化、3,5−シクロホスホリル化またはポリホスホリル化されたペントースまたはヘキソース、リボース、デオキシリボース、ラクトース、ガラクトース、フルクトース、グルコサミン、グルコース、マンノース、フコース、ガラクトサミンまたはグルクロン酸である、請求項1のジアゼニウムジオレート。
【請求項12】
グルコサミンが、構造:
【化4】

または
【化5】

[式中、R12およびR13は、同一または異なってもよく、水素、C1−6アルキル、アシル、ホスフェート、スルフェート、ペプチドまたはタンパクであり、
14はX1516(式中、XはN、OまたはSであり、かつXがNの時、R15およびR16は、独立して水素、C1−24アルキル、C3−24シクロアルキル、C2−24オレフィン基、C−C30アリール、または
【化6】

(式中、AはNH、OまたはSであり、wは1−12であり、yは1または2であり、zは1−5であり、Rは、水素、C1−8直鎖アルキル、C3−8分岐鎖アルキル、C3−8シクロアルキル、アリールまたはカルボキシラトであり、かつRは、水素、C1−6直鎖アルキルまたはC3−6分岐鎖アルキルである。)からなる群より選択される複素環基であり、XがOまたはSの時、R16基は存在しない。)である。]
を有する、請求項11のジアゼニウムジオレート。
【請求項13】
アリールが、アクリジン、アントラセン、ベンゼン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ベンゾオキサゾール、ベンゾピラゾール、ベンゾチアゾール、カルバゾール、クロロフィル、シンノリン、フラン、イミダゾール、インドール、イソベンゾフラン、イソインドール、イソオキサゾール、イソチアゾール、イソキノリン、ナフタレン、オキサゾール、フェナントレン、フェナントリジン、フェノチアジン、フェノキサジン、フタルイミド、フタラジン、フタロシアニン、ポルフィン、プテリジン、プリン、ピラジン、ピラゾール、ピリダジン、ピリジン、ピリミジン、ピロコリン、ピロール、キノリジニウムイオン、キノリン、キノキサリン、キナゾリン、シドノン、テトラゾール、チアゾール、チオフェン、チロキシン、トリアジンおよびトリアゾールからなる群より選択される、請求項12のジアゼニウムジオレート。
【請求項14】

【化7】

[式中、Dは、
【化8】

(式中、R21は、ピラノース環またはフラノース環の2位によって、ジアゼニウムジオレートのOに結合している糖である。)であり、fは0〜12の整数であり、かつR10およびR11は、同一または異なってもよく、水素、C−Cシクロアルキル、C1−12直鎖もしくはC3−12分岐鎖アルキル、ベンジル、ベンゾイル、フタロイル、アセチル、トルフルオロアセチル、p−トルイル、t−ブトキシカルボニルまたは2,2,2−トリハロ−t−ブトキシカルボニルであり得る。]
のO−グリコシル化1−置換ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート。
【請求項15】
式II:
【化9】

[式中、Rは、C1−12直鎖アルキル、C3−12分岐鎖アルキル、C2−12直鎖もしくはC3−12分岐鎖オレフィン基、C1−12アシル、スルホニル、カルボキサミド、グリコシル基、C1−30アリール基、または式−(CHn−ON=N(O)NR2829(式中、nは2−8の整数であり、かつR28およびR29は、独立してC1−12直鎖アルキル、C3−12分岐鎖アルキル、またはC2−12直鎖もしくはC3−12分岐鎖オレフィン基であるか、あるいはR28およびR29は、それらが結合している窒素原子と一緒になって、ピロリジノ、ピペリジノ、ピペラジノおよびモルホリノ基からなる群より選択される複素環基を形成する。)の基であり;かつR22は、水素、ヒドロキシ、OM(式中、Mはカチオンである。)、ハロ、X2324(式中、XはO、NまたはSであり、かつR23およびR24は、独立してC1−24アルキル、C3−24シクロアルキル、C2−24オレフィン基、C3−30アリールまたは複素環基であり、XがOまたはSの時、R24は存在しない。)である。]
のO−置換1−[(2−カルボキシラト)ピロリジン−1−イル]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート誘導体。
【請求項16】
基Rが、ヒドロキシ、ハロ、アシルオキシ、アルコキシ、アシルチオおよびベンジルからなる群より選択される基で置換されている、請求項15のジアゼニウムジオレート。
【請求項17】
が窒素の時、R23およびR24は、それらが結合している窒素と一緒になって、
【化10】

[式中、AはO、NHまたはSであり、wは1−12であり、yは1または2であり、zは1−5であり、R、R、R25およびR26は、水素、C1−8直鎖アルキル、C3−8分岐鎖アルキル、C3−8シクロアルキルまたはC−C30アリールである。]からなる群より選択される複素環を形成する、請求項15のジアゼニウムジオレート。
【請求項18】
アリールが、アクリジン、アントラセン、ベンゼン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ベンゾオキサゾール、ベンゾピラゾール、ベンゾチアゾール、カルバゾール、クロロフィル、シンノリン、フラン、イミダゾール、インドール、イソベンゾフラン、イソインドール、イソオキサゾール、イソチアゾール、イソキノリン、ナフタレン、オキサゾール、フェナントレン、フェナントリジン、フェノチアジン、フェノキサジン、フタルイミド、フタラジン、フタロシアニン、ポルフィン、プテリジン、プリン、ピラジン、ピラゾール、ピリダジン、ピリジン、ピリミジン、ピロコリン、ピロール、キノリジニウムイオン、キノリン、キノキサリン、キナゾリン、シドノン、テトラゾール、チアゾール、チオフェン、チロキシン、トリアジンおよびトリアゾールからなる群より選択される、請求項15−17のいずれかのジアゼニウムジオレート。
【請求項19】
が窒素の時、R23およびR24は、それらが結合している窒素と一緒になって、複素環
【化11】

[式中、R25は、水素、C−C直鎖アルキル、C−C分岐鎖アルキル、C−CシクロアルキルまたはC−C30アリールであり、R26は、水素、C−Cアルキル、C−C30アリールまたはC(O)−YR27(式中、Yは硫黄、酸素または窒素であり、かつR27はCHOCH、ビニル、C−C直鎖アルキル、C−C分岐鎖アルキル、C−Cシクロアルキル、ポリエチレングリコール、多糖、ペプチドまたはタンパクである。)である。]を形成する、請求項17または18のジアゼニウムジオレート。
【請求項20】
(i)請求項1−19のいずれかのジアゼニウムジオレート、または
(ii)式Ia:
【化12】

[式中、XおよびRは、ピラノース環またはフラノース環の2位によって、ジアゼニウムジオレートのOに結合している糖である。]
のジアゼニウムジオレート、および
担体
を含有する組成物。
【請求項21】
動物における、一酸化窒素で治療または予防できる生物学的障害を治療または予防するための組成物であって、
(i)請求項1−19のいずれかのジアゼニウムジオレート、または
(ii)式Ia:
【化13】

[式中、XおよびRは、ピラノース環またはフラノース環の2位によって、ジアゼニウムジオレートのOに結合している糖である。]
のジアゼニウムジオレート、および
担体
を含有する組成物。
【請求項22】
生物学的障害が、感染症、炎症、転移、劇症肝不全、マラリア、呼吸障害、インポテンツ、心臓血管障害および血液の障害からなる群より選択される、請求項21の組成物。
【請求項23】
タンパクを不活性化または阻害するための組成物であって、当該タンパクを不活性化または阻害するのに十分量の、
(i)請求項1−19のいずれかのジアゼニウムジオレート、または
(ii)式Ia:
【化14】

[式中、XおよびRは、ピラノース環またはフラノース環の2位によって、ジアゼニウムジオレートのOに結合している糖である。]
のジアゼニウムジオレート、および
担体
を含有する組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−137965(P2009−137965A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−311808(P2008−311808)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【分割の表示】特願平10−515924の分割
【原出願日】平成9年9月26日(1997.9.26)
【出願人】(502006782)アメリカ合衆国 (47)
【Fターム(参考)】