説明

OVD媒体及びOVD媒体を含むカード状情報媒体

【課題】通常の照明条件においては凹凸パターンによる画像が認識されず、所定の方向から光を入射することにより画像を表示することができる、偽造防止効果が高く、且つ、人目をひく効果の高い回折格子パターンによるOVD媒体、およびかかるOVD媒体を備えるカード状情報媒体を提供すること。
【解決手段】OVD媒体22は、表面に光の干渉および/または回折により画像を表示する凹凸パターンが形成された光透過性の凹凸パターン形成層(11)と、前記凹凸パターン形成層の、前記画像の観察側に設けられた、光透過率が光反射率または光吸収率より小さい領域を有する光制御層(14)を備えることを特徴とする。カード状情報媒体は、かかるOVD媒体を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の回折または干渉によって画像を表示する凹凸パターンを有するOVD(Optically Variable Device;光学的変化素子)媒体に係り、特に、通常の照明条件においては凹凸パターンによる画像は認識されず、特定方向から照明されたときに画像を表示することが可能な、人目をひく効果、偽造防止効果が高いOVD媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、商品券や小切手等の有価証券類やクレジットカード、キャッシュカード、IDカード等のカード類、パスポートや免許証等の身分証明書類の偽造防止を目的として、回折格子パターン、レリーフ型のホログラム、干渉縞パターン等の、光の回折および/または干渉により画像を表示する凹凸パターンを含むOVD媒体を前記有価証券類やカード、証明書等の表面に貼付することが行われている。
【0003】
光の回折または干渉により画像を表示する凹凸パターンは、光を回折させる方向や角度、明るさ等を制御することで、観察する方向・角度に応じて、表示画像を変化させることや、立体像を表示することが可能である。かかる凹凸パターンは、通常の印刷技術では表現することのできない指向性のある光沢を有することから、偽造防止策が必要な情報印刷物に広く用いられている。
【0004】
また、凹凸パターンの指向性のある光沢は見る方向により虹色に変化するため、人目をひく効果が高く、書籍や雑誌等の表紙や、宣伝用ポスター、玩具や菓子等のパッケージ用途等にも広く用いられている。
【0005】
回折格子等のパラメータとして、
(1)回折格子の空間周波数(格子線のピッチ)
(2)回折格子の方向(格子線の方向)
(3)回折格子の描画領域
の3つがあり、
(1)に応じて、定点に対してその回折格子パターンが光って見える色が変化し、
(2)に応じて、その回折格子パターンが光って見える方向が変化し、
(3)に応じて、表示画像(絵柄や文字、記号等)が決定される。
【0006】
レリーフ型の回折格子としては、加工の容易さから、図15に示すような断面が矩形状の回折格子27もしくは図16に示すような断面が正弦波状の回折格子28が用いられるのが一般的であり、典型的な格子線ピッチは0.5〜2μm程度、格子深さは0.1〜1μm程度である。矩形状もしくは正弦波状の断面形状を有する回折格子はバイナリー格子と呼ばれている。これらの回折格子に例えば垂直上方から照明光06が入射すると、反射による回折光02及び透過による回折光03が射出される。格子深さによって反射による回折光02と透過による回折光03の光量比は変化するが、回折格子の凹凸面に金属などによる光反射層が設けられていると、反射による回折光の光量が大きくなり、凹凸面が光透過性の素材であると、透過による回折光の光量が大きくなる。
【0007】
また、レリーフ型の回折格子として、図17に示すブレーズド格子29も知られている。ブレーズド格子は、典型的な格子ピッチや格子深さはバイナリー格子と同等であるが、その断面形状は鋸歯状であり、垂直方向からの照明光06に対し回折角度と傾斜面による光の反射角とが一致している場合、その方向に理論上回折効率が100%である回折光02が生じ、それ以外の方向には光が射出されないという光学作用がある。すなわち、ブレーズド格子は、バイナリー格子と比較して非常に高い回折効率を得ることができ、また光の進行方向を厳密に制御できるという特徴をもっているため、視認性が高く、セキュリティ用途に用いるのにもより一層好適である。ブレーズド格子の断面形状としては図17の示すような鋸歯状のものだけでなく、図18に示すような階段状のブレーズド格子30もある。階段状のブレーズド格子は、段数が多くなるにつれて回折光量が大きくなるという特性を有する。
【0008】
さらに、図19に示すように、回折格子12が形成された光透過性の回折格子パターン形成層11の端面21から、光源09の光01を入射させると、入射光01は、回折格子パターン形成層11の内部を全反射を繰り返しながら進み、回折格子12によって回折し、外部へ射出される。このように、回折格子パターンは内部を伝搬する光を外部に射出したり、外部からの光を内部に閉じこめたりすることもできる。このような構成の回折格子パターンは光ピックアップ素子や、導波路の構成要素として用いられている。
【0009】
回折格子パターン等の原版を作製する方法としては、特許文献1や特許文献2に開示されているような、電子ビーム露光装置を用い、コンピュータ制御により、感光性レジストが塗布された平面状の基板が載置されたX−Yステージを移動させて、基板の表面に、回折格子パターンを形成する方法がある。
【0010】
ブレーズド格子の原版の作製においても、電子ビーム露光装置を用い、コンピュータ制御により、ステージ上に載置された平面状の基板にブレーズド格子の形状を構成していく方法が用いられる。ブレーズド格子の鋸歯状の断面形状を形成するために、例えば、電子ビームの照射位置に応じて電子ビームの照射時間を変化させたり、照射強度を調整したりすることで、加工される溝の深さを変化させ、ブレーズド格子の形状を得る方法が特許文献3に示されている。ブレーズド格子は、バイナリー格子と比較して作製の難易度が高く、作製技術の面においてもセキュリティ用途に用いるのに適している。
【0011】
また、凹凸パターン等の原版を作製する別の方法としては、非特許文献1に示されているようなレーザーの2光束干渉により干渉縞を露光する方法が公知である。
【0012】
上記のような方法により作製された、凹凸パターンの原版から、電鋳等の方法により金属製のスタンパーを作製し、この金属製スタンパーを母型としてPET等のフィルム上に熱可塑性樹脂や光硬化性樹脂を塗布し、金属製スタンパーを密着させ、熱や光を与えることで樹脂を硬化させ回折格子パターンを複製する。この複製された回折格子パターンは通常透明であるので、アルミニウム等の金属や誘電体の薄膜層を蒸着する等の方法により光反射層を設けた後、紙やプラスチック板等の基材上に接着層を介して貼付される。回折格子パターンが有価証券類やカード類に貼付される場合には、さらに必要に応じて印刷層や回折格子パターン層の汚れや傷を防止するための保護層が設けられる。
【特許文献1】特開平2−72315号公報
【特許文献2】米国特許5,058,992号
【特許文献3】特開2000−39508号公報
【非特許文献1】辻内順平著「ホログラフィー」第1版、丸善株式会社発行(1993年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
光の干渉および/または回折により画像を表示する凹凸パターンは特有の虹色に輝く光沢を有する回折光を射出することで通常の印刷技術では実現することのできない画像表示を可能にすることから、セキュリティ性が求められる情報印刷物や、人目をひくことを目的として玩具、菓子等のパッケージ等に広く用いられている。しかし、多くの凹凸パターンを利用した物品が流通し、その技術が広く認知されるのに伴ってセキュリティ性が求められる情報印刷物においては偽造品の発生が増加する傾向にあり、また、人目をひくことを目的としたものについても視覚効果が一般化し単純な凹凸パターンによる画像表示だけでは人目をひく効果が低下している。
【0014】
本発明は、通常の照明条件においては凹凸パターンによる画像が認識されず、所定の方向から光を入射することにより画像を表示することができる、偽造防止効果が高く、且つ、人目をひく効果の高い回折格子パターンによるOVD媒体、およびかかるOVD媒体を備えるカード状情報媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記目的を達成するために、第1の側面によると、表面に光の干渉および/または回折により画像を表示する凹凸パターンが形成された光透過性の凹凸パターン形成層と、前記凹凸パターン形成層の、前記画像の観察側に設けられた、光透過率が光反射率より小さい領域を有する光制御層を備えることを特徴とするOVD媒体を提供する。
【0016】
本発明は、上記目的を達成するために、第2の側面によると、表面に光の干渉および/または回折により画像を表示する凹凸パターンが形成された光透過性の凹凸パターン形成層と、前記凹凸パターン形成層の、前記画像の観察側に設けられた、光透過率が光吸収率より小さい領域を有する光制御層を備えることを特徴とするOVD媒体を提供する。
【0017】
上記第1の側面に係るOVD媒体において、前記光透過率が光反射率より小さい領域が、50%以上の光反射率と10%以上の光透過率を有することが好ましい。
【0018】
上記第2の側面に係るOVD媒体において、前記光透過率が光吸収率より小さい領域は、50%以上の光吸収率と10%以上の光透過率を有することが好ましい。
【0019】
本発明において、前記凹凸パターン形成層の、前記光制御層が設けられている側とは反対側に、遮光層を設けることができる。
【0020】
本発明において、前記凹凸パターン形成層は、光透過性平板状部材の表面に貼着もしくは一体成型されており、前記光透過性平板状部材の1つもしくは複数の端面が入射光受光部を構成することができる。
【0021】
本発明において、前記光透過性平板状部材の厚さは0.3mm以上1.2mm以下であることが好ましい。
【0022】
また、本発明において、前記凹凸パターンは、空間周波数が2000本/mm以上で、4000本/mm以下の回折格子を含むことも好ましい。
【0023】
さらに、本発明において、前記凹凸パターンの一部もしくは全部がブレーズド格子によって構成されていることが好ましい。
【0024】
本発明の第3の側面によると、本発明のOVD媒体を含むカード状情報媒体が提供される。
【0025】
本発明において「光の回折または干渉により画像を表示する凹凸パターン」には、レリーフ型回折格子パターン、レリーフ型のホログラムパターン、干渉縞パターン等が含まれる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のOVD媒体には、以下のような効果がある。
【0027】
(1)凹凸パターン形成層の、画像の観察側(表示を視覚する観察者側;以下、「表示画像観察側」という)に、光透過率が光反射率もしくは光吸収率より小さい領域を有する光制御層が設けられているので、通常の照明条件においては凹凸パターンによる画像が観察されず、所定の方向から光を入射した際にのみ、画像を表示することが可能となる。このような機能により、通常の照明条件下と、入射光点灯時とで、画像の表示/非表示を明確に切り替えることができ、従来の虹色に光るだけの回折格子パターンと比較して、真偽判定をより確実に行えるとともに、人目をひく効果をも向上させることができる。
【0028】
特に、光反射率が50%以上であり、かつ光透過率が10%以上である光制御層を用いることで、通常の照明条件下において十分に回折格子パターンによる画像を隠蔽し、入射光光源を点灯したときのみ、画像を表示することが可能となる。また、光吸収率が50%以上であり、かつ光透過率が10%以上である光制御層を用いることでも同様の画像の表示/非表示の切り替えが可能となる。
【0029】
(2)凹凸パターン形成層の、光制御層が設けられている側とは反対の側に、遮光層を設けることで、光制御層を設けていない側から観察した際に、回折格子パターン形成層に形成されている回折格子による画像が、入射光が点灯していない時に外光等によって視認されるのを防止することができ、表示画像の隠蔽効果が高まり、偽造防止効果のさらなる向上が可能となる。
【0030】
(3)回折格子パターン形成層が、光透過性の平板状部材に貼着もしくは一体成型されており、平板状部材の端面が入射光受光部となっていることで、凹凸パターンに効率良く光を導光することができ、入射光点灯時により輝度の高い画像を表示することが可能となる。
【0031】
また、光透過性平板状部材の厚さを0.3mm以上1.2mm以下とすることで、OVD媒体全体の厚みの増大を抑えつつ、発光ダイオード(LED)等の小型光源からの光を効率よく導光することができる。
【0032】
(4)空間周波数2000〜4000本/mmの回折格子を含む回折格子パターンを用いることで、表示画像観察側から光制御層を透過した光が、再度表示画像観察側へ戻っていく量を減らすことができ、通常の照明条件下で回折格子パターンによる表示画像が認識されてしまうことを防止できる。また、回折格子パターン形成層の画像表示面に対してほぼ平行な方向から光が入射されても表示画像観察側へ光を回折させ画像を表示することが可能となる。
【0033】
(5)ブレーズド格子を用いることで、入射光を効率良く表示画像観察の方向へ射出することが可能となるので、入射光点灯時に、より輝度の高い画像を表示することが可能となる。
【0034】
(6)クレジットカード、キャッシュカード、IDカード等のセキュリティ性を要求されるカード状情報媒体のカード基材に本発明のOVD媒体を含有することにより、カード基材上に貼付された磁気ストライプやICチップ、RFID(Radio Frequency Identification)タグ等だけでなく、カード基材にもセキュリティ性を持たせることができるので、より一層偽造防止効果の高いカード状情報媒体を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の種々の形態について、図面を参照して詳細に説明する。全図にわたり、同様の部材、要素には、同様の符号が付されている。
【0036】
図1は、本発明に用いることのできるレリーフ型回折パターン形成層の一例を示す図であり、図1(A)は、平面図であり、図1(B)は、その一部拡大図である。
【0037】
光透過性の回折格子パターン形成層11には、空間周波数、格子線方向が様々に変化した回折格子12が形成され、表示画像13を表示する。
【0038】
本発明に用いることのできるレリーフ型回折パターン形成層は、図1に示すような、任意の領域全体に空間周波数、格子線方向が異なる回折格子12が形成されものばかりでなく、相互に区画化・分割され、それぞれ回折格子パターンが形成された複数の分割要素(セル)を設けたものを用いることもできる。その場合、各セル毎に回折格子の空間周波数、格子線方向が変化している。図2は、かかるセルを有するレリーフ型回折パターン形成層の一例を示す図であり、図2(A)は、平面図であり、図2(B)は、その一部拡大図である。
【0039】
パターン形成層11は、マトリクス状に分割されたセル111毎に空間周波数、格子線方向が変化している回折格子12が形成されている。
【0040】
図1または図2に示すような回折格子パターン形成層11に対し、照明光が入射することで、回折格子から様々な方向に様々な色の光が射出し、所定の表示画像観察側において表示画像が観察される。回折格子による画像表示については、図15および図16に関して説明した通りである。
【0041】
ここで、図3に断面で示すように、回折格子パターン形成層11の表示画像観察側07に、本発明に従い、光透過率が光反射率より小さい領域を有する光制御層14を設けた構成のOVD媒体22は、通常照明条件下で観察した際には、通常照明光06の大部分は光反射性を有する光制御層14の表面で反射し、反射光05となる。光制御層14を透過した光04は、回折格子によって、表示画像観察側07以外の方向へ回折する光02となるか、もしくは、表示画像観察側07へ戻っていく光04となる。表示画像観察側07へ戻っていく光04は、往復で2度光制御層14を透過するため、その光量は大幅に減少する。そのため、回折格子パターン形成層11による表示画像の認識は困難である。例えば、光制御層の光反射率が80%、光透過率が20%であったとすると、光制御層14を透過し、回折格子パターン形成層11の表面で反射し、再度光制御層14を透過し、表示画像観察側へ戻ってくる光の光量は、最大でも20%×20%=4%(0.2×0.2=0.04)となり、回折格子による画像を認識するには不十分な値となる。
【0042】
なお、「通常照明条件」とは、一般的な室内で蛍光灯等の外光や環境光等の照明光のもとでOVD媒体を観察する条件や、室外で太陽光等の照明光のもとでOVD媒体を観察するような、表示画像側に光源が存在する条件をいい、「通常照明光」とは、かかる通常の照明条件における照明光をいう。
【0043】
ここで、図3のような構成のOVD媒体22に、OVD媒体の裏面側に通常照明光とは別の光源(画像13を表示させるための画像表示光源)09を設け、この光源09からの光を入射した状態の説明図を図4に示す。画像表示光源09は、OVD媒体22の裏面側に設置され、通常照明光06より輝度が高い光を射出するものである。すなわち、このOVD媒体において、パターン形成層11の裏面は画像表示光の受光部を構成する。この場合、画像表示光源09からの光01は回折格子パターン形成層11を透過し、回折格子に達し、透過した回折光03が光制御層14を透過して表示画像観察側07側へ射出される。画像表示光源09の光は、輝度が高く、しかも光制御層14を透過する回数も1回であるので、光制御層14による光量の減少も抑えられ、表示画像観察側07において回折光03によって画像を認識することが可能となる。例えば、画像表示光源の光量が表示画像観察側の通常照明光の2倍であったとすると、20%×2=40%(0.2×2=0.4)となり、回折格子による画像を認識するには十分な値となる。
【0044】
このように、通常照明条件下では回折格子による表示画像は隠蔽され観察することが困難であり、OVD媒体の裏面から照明した際にのみ画像が観察されるようなOVD媒体を実現することができる。
【0045】
光透過性の回折格子パターン形成層11は、熱可塑性樹脂や光硬化性樹脂等により形成することができる。
【0046】
また、光透過率が光反射率より小さい光制御層14としては、透明の基材に水銀、銀、アルミ等の金属素材を薄く塗布したり、スパッタや蒸着により薄く被膜を形成することにより作製される、いわゆるマジックミラー等が適している。
【0047】
光制御層14としては、光反射率が50%以上であり、かつ光透過率が10%以上である、光反射機能が高いものが望ましい。光反射率が50%以上の光制御層であれば通常照明条件下において外光や環境光等の通常照明光を効率よく表示画像観察側へ反射でき、回折格子パターンによる画像を十分に隠蔽することができる。光反射率が50%未満で、光透過率が50%を超えると、外光や環境光等の通常照明光の輝度が低く暗い環境で観察する場合や、回折格子パターンの空間周波数が低く(格子ピッチが粗く)、回折光が表示画像観察側へ戻りやすい設計である場合、回折格子パターンの回折効率が低く、回折格子パターン表面からの反射光が表示画像観察側へ戻りやすい場合等において、回折格子パターンによる画像が十分に隠蔽されずに認識されてしまうおそれがある。また、光透過率が10%未満の光制御層を用いた場合は、輝度が十分に高い画像表示光源を用いなければ、光制御層を透過し表示画像観察側へ到達する光が十分でなく、表示画像観察側で観察される回折格子パターンによる画像が暗くなってしまう。
【0048】
光制御層としては、光透過率が光反射率より小さい領域を有する光制御層14の代わりに、光透過率が光吸収率より小さい領域を有する光吸収性の光制御層15を用いることもできる。かかる構成のOVD媒体22’を図5に示す。このOVD媒体22’では、通常照明条件下では、光制御層15によって、照明光06からの光の大部分が吸収される。また、光制御層15を透過し、回折格子により反射もしくは回折した光04についても、再度光制御層15を透過し、表示画像観察側07側に戻ってくる際には光量が減少しているので、表示画像の認識は困難となる。そして、図6のように、OVD媒体22’の下部に位置する画像表示光源09から光が入射することによって、通常照明条件下では観察できなかった画像が観察できるようになる。
【0049】
光透過率が光吸収率より小さい光制御層15は、可視光線や紫外線を吸収するフィルムを複数重ね合わせたものや、光吸収性色素を有する顔料や染料をフィルムに塗布することによって作られる。これは、住宅の窓や車窓用の日照調整シートや視線カットシートとしても用いられている。
【0050】
光制御層15としては、光吸収率が50%以上で、かつ光透過率が10%以上である、光吸収機能が高い光制御層が望ましい。光吸収率が50%以上の光制御層であれば通常照明条件下において外光や環境光等の通常照明光を効率よく吸収し、回折格子パターンによる画像を十分に隠蔽することができる。光吸収率が50%未満であり、かつ光透過率が50%を超えると、外光や環境光等の通常照明光の輝度が高く明るい環境で観察する場合や、回折格子パターンの空間周波数が低く(格子ピッチが粗く)、回折光が表示画像観察側へ戻りやすい設計である場合、回折格子パターンの回折効率が低く、回折格子パターン表面からの反射光が表示画像観察側へ戻りやすい場合等において、回折格子パターンによる画像が十分に隠蔽されずに認識されてしまうおそれがある。また、光透過率が10%未満の光制御層を用いた場合は、輝度が十分に高い画像表示光源を用いなければ、光制御層を透過し表示画像観察側へ到達する光が十分でなく、表示画像観察側で観察される回折格子パターンによる画像が暗くなってしまう。
【0051】
本発明のOVD媒体の構成としては、図7のように、回折格子パターン形成層11の、光制御層14または15が設けられている側とは反対側に遮光層16を設けてもよい。遮光層16が存在することで、通常照明光06の回り込みによって回折格子による画像が通常照明条件下で認識されてしまうことを防止することができる。なお、遮光層16を設けた場合は、図7に示すように回折格子パターン形成層11の端面21を画像表示光の受光部とし、画像表示光源09からの光01が回折格子パターン形成層11の内部を進行するような構成にするとよい。
【0052】
回折格子パターン形成層としては、1つもしくは複数の端面が入射光の受光部となっている光透過性平板状部材の表面に、熱可塑性樹脂や光硬化性樹脂によって形成された回折格子パターンが貼着されているか、もしくは、回折格子パターンが平板状部材の表面に一体成型されているものが望ましい。図8のように回折格子パターン形成層を有する平板状部材18の複数の端面21から画像表示光01を入射すると、平板状部材18の表面19及び裏面20でそれぞれ入射光01が繰り返し全反射し、光量の損失が少なく回折格子パターン11に到達し、明るい画像を表示できる。実際には、平板状部材18の表面19及び裏面20で全反射せずに、平板状部材18の外側へ漏れてしまう光10の成分が生じてしまうため、平板状部材を覆うように、光反射層17を設けると、光量の損失が一層少なくなり、より明るい画像を表示できる。
【0053】
平面状部材の端面から画像表示光を入射する場合は、平板状部材の厚みとしては、0.3mm以上、1.2mm以下が望ましい。部材の厚みが0.3mm未満であると、端面から画像表示光が十分に入らず、輝度の高い画像を得るのが難しくなる。また、部材が1.2mmを超える厚みであると、図9に示すように部材の表裏面19,20に達した際に全反射条件を満足しなくなる光の成分が多くなり、光が進行していく際に部材外部に漏れ光10となって放出されたり、表裏面での反射回数が増大し、部材を構成する素材の吸収によって回折格子に達する光の量が減少してしまう。なお、本発明において、画像表示光源としては、小型のモバイル機器等に用いられているLEDや冷陰極管(CCFL)による光源が安価で入手も容易であるので適している。
【0054】
本発明において、回折格子パターン形成層に形成される回折格子の空間周波数としては、2000本/mm以上4000本/mm以下(格子ピッチとしては、0.25μm以上0.5μm以下に相当)が適している。2000本/mm以上4000本/mm以下の空間周波数の回折格子は回折光の射出角が大きく、図10に示すように、垂直上方からの入射光01については、射出角の大きい方向に光02を射出するため、回折格子からの射出光が表示画像観察側07に戻る量を減らすことができる。また、回折格子パターン形成層の端面に設置された光源からの入射光を、大きな射出角によって垂直上方の表示画像観察側に射出することができる。図11に示すように、空間周波数が例えば500本/mm程度など格子間隔が粗い場合は、回折格子から射出する回折光02は表示画像観察側07へ戻りやすくなるため、入射光01が明るい場合に画像が観察できてしまうおそれがある。
【0055】
また、本発明において、回折格子パターン形成層に形成される回折格子としては、図17および図18に関して説明したようなブレーズド格子(鋸波状ブレーズド格子、階段状ブレーズド格子)が適している。ブレーズド格子は、任意の一方向に回折効率の高い回折光を射出できるので、表示画像観察側に明るい画像を表示することが可能となる。また、ブレーズド格子はバイナリー格子と比較して作製が困難であるので、セキュリティ性の面でも優位性が高い。
【0056】
次に、本発明のOVD媒体を有するクレジットカードやキャッシュカード、IDカード等のカード状情報媒体の構成例を図12に示す。このカード状情報媒体において、PETやポリカーボネート等の素材から成る基材23の一部に回折格子パターン(図示せず)が形成され、その上部には回折格子パターンを覆うように光制御層14または15が載置されている。また、基材23上の別の一部には磁気ストライプ24が形成されている。このカード状情報媒体26のX−X’方向における断面図を図13に示す。基材23の表裏面は印刷層25となっている。印刷層25は外部と、基材23の回折格子パターン11が形成されていない領域との光の往来を制限する遮光層としての機能も果たしている。また、別途、基材23と印刷層25の間に光反射層を設けてもよい。光反射層を設けることで、端面から入射した光を効率よく回折格子パターンまで伝搬させることができ、表示画像をより明るくすることができる。このような構成にすることで、磁気ストライプの読みとり/書き込み機能を損なうことなく、基材そのものに新しい偽造防止機能を付与することができる。これまで、基材そのものは偽造防止機能を備えていなかったため、磁気ストライプの情報を不正に改竄した偽造品も横行していたが、基材そのものにも偽造防止機能を付与することでより一層セキュリティ性の向上が期待できる。なお、磁気ストライプ以外のICチップやRFIDタグが備え付けられたカード状情報媒体に対してもこのOVD媒体を搭載することが可能である。
【0057】
さらに、図14のように、光制御層14ないし15の上に別の回折格子パターン11’を設けると、上部の回折格子パターン11’による画像は通常照明条件下で常に観察することができ、画像表示光源09を点灯した際には、光制御層14または15の上部の回折格子パターン11’と下部の回折格子パターン11がそれぞれ画像を表示するので、双方の絵柄が同時に表示される。上部の回折格子パターンと下部の回折格子パターンの画像が組み合わされることで意味のある情報が表示されるようにすると、意匠性やセキュリティ性をより一層高めることができる。
【0058】
なお、これまでの説明において、回折格子パターン形成層を光透過性平板状部材の上面に設けたものを示したが、回折格子パターン形成層は光透過性平板状部材の下面に設けられていてもよく、さらに、光透過性平板状部材の上面、下面の双方に設けられていても上に述べた機能を発揮することができる。
【0059】
また、これまで述べてきた回折格子パターン形成層と光制御層は本発明のOVD媒体を構成する必要最小限の構成である。本発明のOVD媒体は、遮光層や位相差フィルム、偏光フィルム等の光学機能を有する層等を含むことができる。また、各層の間はスペーサを設けることにより空隙となっていてもよいし、粘着層等を介して互いに密着固定されていてもよい。
【0060】
さらに、上記種々の実施形態では、光の回折および/または干渉により画像を表示する凹凸パターンとして、回折により画像を表示する格子パターンについて説明したが、光の回折および/または干渉により画像を表示する凹凸パターンとしては、レリーフ型のホログラムパターン、干渉縞パターンを用いることができることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に用いることのできるレリーフ型回折パターン形成層の一例を示す図。
【図2】本発明に用いることのできるレリーフ型回折パターン形成層の別の例を示す図。
【図3】本発明のOVD媒体の一例を示す概略断面図。
【図4】図3に示すOVD媒体における画像表示方法を説明するための概略断面図。
【図5】本発明のOVD媒体の別の例を示す概略断面図。
【図6】図4に示すOVD媒体における画像表示方法を説明するための概略断面図。
【図7】本発明のOVD媒体のさらに別の例を示す概略断面図。
【図8】本発明のOVD媒体のさらに別の例を示す概略断面図。
【図9】平板状部材の厚みと画像表示光との関係を説明するための図。
【図10】回折格子の空間周波数と、入射光との関係を説明するための図。
【図11】回折格子の空間周波数と、入射光との関係を説明するための図。
【図12】本発明のOVD媒体を備えるカード状情報の構成を示す平面図。
【図13】図12の線X−X’に沿う断面図。
【図14】本発明のOVD媒体を備える別のカード状情報の構成を示す概略断面図
【図15】断面矩形状の回折格子を説明するための概略断面図。
【図16】断面正弦波状の回折格子を説明するための概略断面図。
【図17】鋸歯状ブレーズド回折格子を説明するための概略断面図。
【図18】階段状ブレーズド回折格子を説明するための概略断面図。
【図19】回折格子パターン形成層の端面から光を入射させた場合の光の進行状態を説明するための概略断面図。
【符号の説明】
【0062】
01…入射光
02…反射による回折光
03…透過による回折光
04…透過光
05…反射光
06…通常照明光
07…表示画像観察側
08…回折格子パターンからの光
09…画像表示光源
10…漏れ光
11、11’…回折格子パターン形成層
12…回折格子
13…表示画像
14…光反射性光制御層
15…光吸収性光制御層
16…遮光層
17…光反射層
18…平板状部材
19…平板状部材の表面
20…平板状部材の裏面
21…平板状部材の端面
22、22’…OVD媒体
23…基材
24…磁気ストライプ
25…印刷層
26…カード状情報媒体
27…矩形状バイナリー格子
28…正弦波状バイナリー格子
29…鋸歯状ブレーズド格子
30…階段状ブレーズド格子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に光の干渉および/または回折により画像を表示する凹凸パターンが形成された光透過性の凹凸パターン形成層と、前記凹凸パターン形成層の、前記画像の観察側に設けられた、光透過率が光反射率より小さい領域を有する光制御層を備えることを特徴とするOVD媒体。
【請求項2】
表面に光の干渉および/または回折により画像を表示する凹凸パターンが形成された光透過性の凹凸パターン形成層と、前記凹凸パターン形成層の、前記画像の観察側に設けられた、光透過率が光吸収率より小さい領域を有する光制御層を備えることを特徴とするOVD媒体。
【請求項3】
前記光透過率が光反射率より小さい領域が、50%以上の光反射率と10%以上の光透過率を有することを特徴とする請求項1に記載のOVD媒体。
【請求項4】
前記光透過率が光吸収率より小さい領域が、50%以上の光吸収率と10%以上の光透過率を有することを特徴とする請求項2に記載のOVD媒体。
【請求項5】
前記凹凸パターン形成層の、前記光制御層が設けられている側とは反対側に、遮光層が設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のOVD媒体。
【請求項6】
前記凹凸パターン形成層が、光透過性平板状部材の表面に貼着もしくは一体成型されており、前記光透過性平板状部材の1つもしくは複数の端面が入射光受光部となっていることを特徴とする請求項1乃至5載のOVD媒体。
【請求項7】
前記光透過性平板状部材の厚さが0.3mm以上1.2mm以下であることを特徴とする請求項6記載のOVD媒体。
【請求項8】
前記凹凸パターンが、空間周波数が2000本/mm以上で、4000本/mm以下の回折格子を含むことを特徴とする請求項1乃至7記載のOVD媒体。
【請求項9】
前記凹凸パターンの一部もしくは全部がブレーズド格子によって構成されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のOVD媒体。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載のOVD媒体を含むカード状情報媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−105226(P2008−105226A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288844(P2006−288844)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】