説明

P,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)の製造方法

【課題】水加ヒドラジンをP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルクロライド)スラリーに滴下して反応した場合、P,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)まで反応が完結するのに時間がかかり、時間を短縮するためには過剰の水加ヒドラジンが必要となる。また得られたP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)の粒子の大きさも小さいものしか得られない。
【解決の手段】P,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルクロライド)を水加ヒドラジン中に滴下し反応速度を速めることにより大きい粒子が形成され、後の工程で粒度の調節を行いやすい大きさのP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)を短時間で得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム及びプラスチックスなどを発泡するために使用される化学発泡剤であるP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
P,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)の製造方法は一般にP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルクロライド)と水などの溶媒に懸濁させたスラリーに水加ヒドラジン及びアンモニア水を滴下して製造される。(特許文献1参照)
【0003】
水加ヒドラジンをP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルクロライド)スラリーに滴下して反応した場合、P,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)まで反応が完結するのに時間がかかり、時間を短縮するためには大過剰の水加ヒドラジンが必要となる。また添加方法、添加条件によって結晶核生成時期が変わり、水加ヒドラジンを滴下する方法ではP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)の粒子の大きさも小さいものしか得られない。
【0004】
反応時間が長いのは生産効率が悪く、また、大過剰の水加ヒドラジンを使用して反応時間を短縮しても、過剰の水加ヒドラジン廃液の処理が必要となり経済性が悪い。粒子が大きい場合はその後に粉砕、分級などの機械処理で粒径を調整が出来るが、小さい場合は液と結晶を分離することも困難で生産効率が悪く、更に粒子径を調整することが出来ない。
【0005】
【特許文献1】 特開昭60−156662
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来技術における上記したような課題を解決し、生産効率、経済性を上げるとともに化学発泡剤として最も重要な粒度調整を後の工程で行いやすく、適切なものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の問題を解決するべく鋭意検討した結果、P,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルクロライド)と必要に応じて水などの溶媒との懸濁物を水加ヒドラジン中に滴下することにより反応速度を速め、初期に発生するP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)の大きい結晶核を形成することにより、上記の課題が解決され生産効率及び経済性の良い、また、後の工程で粒度の調節を行いやすい大きさのP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)を得られることが確認され本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、生産効率及び経済性が良く、化学発泡剤として適切な粒度が得られることを特徴とするP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)の製造方法に関するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
P,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルクロライド)としては、ジフェニルオキサイドと硫酸とオキシ塩化リンまたは三塩化リンから合成されたものでもジフェニルオキサイドとクロルスルフォン酸から合成されたものでも用いることが出来る。また、反応性を良くするため粉砕したものを用いることも出来る。
【0010】
P,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルクロライド)は粉体のまま水加ヒドラジン中に滴下しても良いし、作業性の面から水などの溶媒に懸濁しスラリーとして投入しても良い。スラリー濃度は特に制限はないが作業性の面から5〜60%、好ましくは15〜40%が好ましい。
【0011】
水加ヒドラジンの中にP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルクロライド)を加える速度は水加ヒドラジン1molに対してP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルクロライド)1molを5〜60分、更には15分〜30分が好ましい。加える速度が速すぎると時間当たりの発熱が大きく、温度を維持するための冷却が困難となる。逆に遅すぎると反応時間が長くなり、生産時間が長く必要となり経済性が悪い。
【0012】
水加ヒドラジンの濃度としては、5〜100%更には10〜80%、更には30〜60%が好ましい。濃度が低すぎると反応性が遅く反応時間が長くなり生産効率が下がってしまう。逆に濃度が高すぎると反応の際の発熱が大きくなり、冷却が難しく反応温度を維持することが出来ず分解を伴い収率が下がってしまう。
【0013】
反応で副生する塩酸は水加ヒドラジンで中和しても良いし、その他アンモニア、水酸化ナトリウムなどで中和しても良い。
【0014】
本発明におけるP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルクロライド)1モルに対し水加ヒドラジンのモル比は水加ヒドラジンのみの場合は4.0〜6.0、更には4.2〜4.8が好ましい。モル比が低すぎると反応速度が遅く生産性が下がり、高すぎると過剰の水加ヒドラジンを処理及び回収しなければならない。
【化1】

【0015】
アンモニアなどを併用するときはP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルクロライド)に対してアンモニアを2.0〜3.0倍モル使用し、水加ヒドラジン2.0〜2.5倍モルに減らして行うことが出来る。
【化2】

【0016】
本発明におけるP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルクロライド)滴下及び反応中の温度は10〜70℃更には20〜50℃が好ましい。反応温度が低すぎると反応速度が遅く生産効率が下がるとともに得られる結晶も小さくなる。高すぎると分解し、収率が下がってしまい経済性が悪い。
【0017】
本発明におけるP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)の製造の際に特に制限はないが、必要に応じて消泡剤、界面活性剤などの添加剤を添加することが出来る。
【0018】
本発明におけるP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)は反応終了後遠心分離機、またはフィルタープレスなどで分離し水で洗浄し、気流乾燥機または流動乾燥機などで乾燥し、その後に気流粉砕機などで粉砕、機械式分級機などで分級し粒度調整を行うことが出来る。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。粒度測定方法及び分解温度測定方法は以下の通りである。
【0020】
本発明の粒度測定方法はレーザー回折式粒度分布計を使用した。また、分解温度は融点測定装置を使用し、130℃から5℃/分の速度で昇温し、P,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)が分解した温度を分解温度とした。
【0021】
実施例1
4つ口コルベンに温度計と攪拌機を設置し、40%水加ヒドラジンを250.0g(2.0モル)を入れ40℃に加熱撹拌した。別のビーカーにP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルクロライド)174.9g(0.476モル)と水350gを入れ良く撹拌し、均一な33%スラリーとした。このスラリーをチューブポンプで約1時間かけながら40%水加ヒドラジン中に滴下した。滴下中は発熱するため45℃を超えないように冷却した。滴下後さらに40℃を維持するように温度を調節し、5時間撹拌を続けた。その後ヌッチェで濾別、洗浄し乾燥機で乾燥した。乾燥後の結晶の粒度を測定したところ53μm、分解温度は160℃であった。
【0022】
比較例1
P,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルクロライド)と水のスラリーに水加ヒドラジンを約1時間で滴下した以外、各原料の量及び温度推移、時間は実施例1と同様に行った。その結晶は粒度が20μmと小さく、分解温度が154℃と低いものであった。
【0023】
比較例2
水加ヒドラジン滴下後、7時間反応した以外は比較例1と同様に行った。その結晶は粒度が18μmで、分解温度が158℃であった。
【0024】
実施例2
60%水加ヒドラジンを110g(1.32モル)と25%アンモニア水64g(0.94モル)を4つ口コルベンに入れ30℃になるよう調節し、撹拌した。別のビーカーにP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルクロライド)174.9g(0.47モル)と水450gを入れ良く撹拌し、均一な28%スラリーとした。このスラリーをチューブポンプで約30分かけて滴下した。温度は50℃を超えないように調節した。それ以外は実施例1と同様に行った。その結晶は粒度が38μmで分解温度が159℃であった。
【0025】
比較例3
P,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルクロライド)と水のスラリーに60%水加ヒドラジンと25%アンモニア水を同時に約30分で滴下した以外、各原料の量及び温度推移、時間は実施例2と同様に行った。その結晶は粒度が12μmで、分解温度が153℃であった。
【0026】
比較例4
水加ヒドラジン及びアンモニア水滴下後、9時間反応した以外は比較例3と同様に行った。その結晶は粒度が12μmで、分解温度が157℃であった。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、生産効率及び経済性の良い、また粉砕、分級などにより希望粒径に調整することが可能なP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)を提供することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水加ヒドラジンの中にP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルクロライド)を70℃以下で加えることを特徴とするP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)の製造方法。
【請求項2】
水加ヒドラジンの中にP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルクロライド)を加える速度が水加ヒドラジン1molに対してP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルクロライド)1molを70℃以下で5〜60分の速度で加えることを特徴とするP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)の製造方法。
【請求項3】
水加ヒドラジンの濃度が5〜100%である請求項1及び請求項2に記載のP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)の製造方法。
【請求項4】
水加ヒドラジンとアンモニア水を併用することを特徴とする請求項1及び請求項2に記載のP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)の製造方法。
【請求項5】
反応温度が40〜60℃で行う請求項1及び請求項2に記載のP,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)の製造方法。

【公開番号】特開2007−262044(P2007−262044A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−118474(P2006−118474)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000120847)永和化成工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】