説明

PC緊張材の定着装置および既設プレストレストコンクリート構造物の補修方法

【課題】本発明は、既設プレストレストコンクリート構造物におけるPC緊張材の定着装置、およびポストテンション方式により緊張力が導入されている既設プレストレストコンクリート構造物の一部分を補修する補修方法に関し、構造が単純で施工性に優れたPC緊張材の定着装置および既設プレストレストコンクリート構造物の補修方法を提供することを目的とする。
【解決手段】中間定着装置100は、形成される円錐台状テーパ孔130にPC鋼より線200が貫通するようにボルト140で圧着一体化した2つ割りの定着体110,120の、PC鋼より線200が貫通した円錐台状テーパ孔130における、PC鋼より線200と円錐台状テーパ孔130内周との間に、それぞれがスリット153,163を有する2つの楔部材150,160を嵌入して、PC鋼より線200を中間定着するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設プレストレストコンクリート構造物におけるPC緊張材の定着装置、およびポストテンション方式により緊張力が導入されている既設プレストレストコンクリート構造物の一部分を補修する補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、既設プレストレストコンクリート構造物が何らかの原因で一部劣化した場合、その一部劣化した部分を撤去し、撤去した部分に新しくコンクリートを打設して機能を回復する補修技術が知られている。一部劣化した構造物がポストテンション方式のプレストレストコンクリート構造物の場合、定着装置を介して緊張力が導入されていることから、対策を施すことなく劣化部を撤去すると、導入されている緊張力の一部が損失され健全部の機能低下を招くおそれがある。このため、例えば「コンクリート中に埋め込まれているPC緊張材の一部を露出させ、中間で定着が可能な装置を露出させたPC緊張材に設置する」などといった緊張力の損失を防止する対策を予め行った上で、劣化部の撤去を行う必要がある(例えば、特許文献1,特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−313692号公報
【特許文献2】特開2007−277826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に提案された「中間で定着が可能な装置や定着方法」は、構造が複雑であるという問題点があった。また、特許文献2に提案された「中間で定着が可能な装置や定着方法」は、膨張材の充填が必要で手間が掛かり過ぎ施工性が悪いという問題点があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、構造が単純で施工性に優れたPC緊張材の定着装置および既設プレストレストコンクリート構造物の補修方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明のPC緊張材の定着装置は、重ね合わせることにより円錐台状テーパ孔を形成するテーパ溝をそれぞれに有する2つ割りの定着体と、上記円錐台状テーパ孔を形成するようにそれぞれのテーパ溝を対向させて重ね合わせた上記2つ割りの定着体を圧着一体化する結合部材と、上記結合部材で圧着一体化した2つ割りの定着体に形成された、PC緊張材が貫通する円錐台状テーパ孔の、そのPC緊張材とその円錐台状テーパ孔内周との間に嵌入して、そのPC緊張材を中間定着する複数の楔部材とを備え、
上記複数の楔部材が、上記PC緊張材に接する円筒面と上記円錐台状テーパ孔内周面に接するテーパ面とを有する、その円錐台状テーパ孔内周面のほぼ全面を覆う個数の円弧楔片であって、これら複数の楔部材のそれぞれが、嵌入方向に沿った後端側からその嵌入方向に沿って切り込まれたスリットを有するものであることを特徴とする。
【0007】
本発明にいうPC緊張材は、例えばPC鋼線やPC鋼より線などをいう。
【0008】
本発明のPC緊張材の定着装置は、形成される円錐台状テーパ孔にPC緊張材が貫通するように結合部材で圧着一体化した2つ割りの定着体の、PC緊張材が貫通した円錐台状テーパ孔における、PC緊張材と円錐台状テーパ孔内周との間に、それぞれが上記スリットを有する複数の楔部材を嵌入して、PC緊張材を中間定着するものである。この定着装置を構成する要素のうちの、結合部材および複数の楔部材としては、例えば、専用のものを製作するよりも安価に得られる既製品を用いることができる。また、この定着装置を構成する要素のうちの2つ割りの定着体は、この2つ割りの定着体における、重ね合わせたときに円錐台状テーパ孔を形成するテーパ溝を、この2つ割りの定着体を重ね合わせる前に、例えば、既製品の楔部材のテーパ面と接するように切削加工などにより容易に形成することができ、構造が単純である。さらに、楔部材それぞれのスリットにより、各楔部材は、定着時にPC緊張材を噛み込んで引き込まれたときに変形が容易であり、PC緊張材を確実に保持することができる。
【0009】
従って、本発明のPC緊張材の定着装置は、構造が単純であり、安価な既製品を利用できることからコスト低減が可能であり、施工性に優れる。
【0010】
ここで、本発明のPC緊張材の定着装置は、上記円錐台状テーパ孔に嵌入した複数の楔部材が嵌入方向とは逆向きに移動することを規制する規制部材を備えたことが好ましい。
【0011】
このような好ましい形態によれば、上記円錐台状テーパ孔に嵌入した複数の楔部材がその円錐台状テーパ孔から脱落してしまうことが防止される。
【0012】
また、上記目的を達成する本発明の既設プレストレストコンクリート構造物の補修方法は、ポストテンション方式により緊張力が導入されている既設プレストレストコンクリート構造物の一部分を補修するにあたり、上記既設プレストレストコンクリート構造物に埋設され上記緊張力が導入されているPC緊張材のうちの、上記既設プレストレストコンクリート構造物の補修領域内の周縁部分のコンクリートを撤去することによりその周縁部分に位置するPC緊張材を露出させ、露出させたPC緊張材に、円錐台状テーパ孔を有する2つ割りの定着体を外嵌し、そのPC緊張材に外嵌した2つ割りの定着体を結合部材で圧着一体化し、その結合部材で圧着一体化した2つ割りの定着体に形成された、その2つ割りの定着体を上記PC緊張材に外嵌することによりそのPC緊張材が貫通した円錐台状テーパ孔の、そのPC緊張材とその円錐台状テーパ孔内周との間に、そのPC緊張材に接する円筒面とその円錐台状テーパ孔内周面に接するテーパ面とを有する、その円錐台状テーパ孔内周面のほぼ全面を覆う個数の、嵌入方向に沿った後端側からその嵌入方向に沿って切り込まれたスリットを有する楔部材を嵌入するとともに、上記既設プレストレストコンクリート構造物の補修領域の周囲の既設プレストレストコンクリート構造物と上記結合部材で圧着一体化した2つ割りの定着体との間の隙間に充填材を充填して、そのPC緊張材を定着し、上記既設プレストレストコンクリート構造物の補修領域内のコンクリートおよびPC緊張材を撤去し、コンクリートおよびPC緊張材を撤去した補修領域内に新たにコンクリートを打設することにより上記既設プレストレストコンクリート構造物の一部分を補修することを特徴とする。
【0013】
本発明の既設プレストレストコンクリート構造物の補修方法は、本発明のPC緊張材の定着装置を用いた補修方法である。従って、本発明の既設プレストレストコンクリート構造物の補修方法によれば、コスト低減が可能であり、施工性に優れる。
【0014】
ここで、本発明の既設プレストレストコンクリート構造物の補修方法は、上記結合部材で圧着一体化した2つ割りの定着体に形成された円錐台状テーパ孔に上記楔部材を嵌入した後に、その楔部材が嵌入方向とは逆向きに移動することを規制する規制部材を、その結合部材で圧着一体化した2つ割りの定着体に固定することが好ましい。
【0015】
このような好ましい形態によれば、上記円錐台状テーパ孔に嵌入した複数の楔部材がその円錐台状テーパ孔から脱落してしまうことが防止される。
【0016】
また、本発明の既設プレストレストコンクリート構造物の補修方法は、上記結合部材で圧着一体化した2つ割りの定着体に形成された円錐台状テーパ孔に上記楔部材を嵌入した後に、その円錐台状テーパ孔に嵌入した楔部材をその円錐台状テーパ孔に押し込む楔部材押込装置を用いてその楔部材をその円錐台状テーパ孔に押し込むことも好ましい形態である。
【0017】
このような好ましい形態によれば、上記円錐台状テーパ孔に嵌入した複数の楔部材がその円錐台状テーパ孔から脱落してしまうことが防止される。また、複数の楔部材を円錐台状テーパ孔に押し込んでおくことにより、定着の際に引き込まれる量が減少し、プレストレスの減少を防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、構造が単純で施工性に優れたPC緊張材の定着装置および既設プレストレストコンクリート構造物の補修方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のPC緊張材の定着装置についての一実施形態である中間定着装置の平面図である。
【図2】図1に示す中間定着装置の正面図である。
【図3】図1に示す中間定着装置の左側面図である。
【図4】図1に示す中間定着装置の背面図である。
【図5】既設プレストレストコンクリート構造物の平面図である。
【図6】図5に示す既設プレストレストコンクリート構造物の補修領域を含む一部を拡大して示す平面図である。
【図7】図6に示す線A−Aに沿った断面図である。
【図8】図7に示す線B−Bに沿った断面図および線C−Cに沿った断面図である。
【図9】定着体外嵌工程を示す側面図である。
【図10】定着体圧着一体化工程を示す側面図である。
【図11】楔部材嵌入工程を示す側面図である。
【図12】規制部材固定工程を示す側面図である。
【図13】充填材充填工程を示す側面図である。
【図14】定着体外嵌工程を示す側面図である。
【図15】定着体圧着一体化工程を示す側面図である。
【図16】楔部材嵌入工程を示す側面図である。
【図17】楔部材押込工程を示す側面図である。
【図18】楔部材押込工程を示す平面図である。
【図19】楔部材押込工程を示す正面図である。
【図20】楔部材押込工程を示す背面図である。
【図21】充填材充填工程を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
図1は、本発明のPC緊張材の定着装置についての一実施形態である中間定着装置100の平面図である。また、図2は、図1に示す中間定着装置100の正面図であり、図3は、図1に示す中間定着装置100の左側面図であり、図4は、図1に示す中間定着装置100の背面図である。
【0022】
図1〜図4に示す中間定着装置100は、2つ割りの定着体110,120と、ボルト140と、2つの楔部材150,160と、規制部材170とから構成されている。
【0023】
2つ割りの定着体110,120は、重ね合わせることにより円錐台状テーパ孔130を形成するテーパ溝111,121をそれぞれに有する。また、2つ割りの定着体110,120のそれぞれには、後述するボルト140が螺合される8つのねじ孔112,122が形成されている。さらに、2つ割りの定着体110,120のうちの一方の定着体110には、後述する規制部材固定用ボルト180が螺合されるねじ孔113が形成されている。
【0024】
ボルト140は、円錐台状テーパ孔130を形成するようにそれぞれのテーパ溝111,121を対向させて重ね合わせた2つ割りの定着体110,120を圧着一体化する結合部材である。ここでは、ボルト140が8本用いられており、8本のボルト140は、半数ずつ表裏からねじ孔112,122に締め込むものとされている。これにより、ボルト本体の径よりも太径な、締め込む側のボルト頭が、表裏に半数ずつ配置されることとなるため、全てのボルト140を表裏のいずれか一方から締め込む場合よりも定着体110,120の寸法を小さくすることができる。尚、ボルト140を半数ずつ表裏から締め込むよりも全てのボルト140を表裏のいずれか一方から締め込む方が作業性が良いため、定着体110,120の寸法の小ささよりも作業性を重視する場合は、全てのボルト140を表裏のいずれか一方から締め込むようにすることが好ましい。
【0025】
2つの楔部材150,160は、ボルト140で圧着一体化した2つ割りの定着体110,120に形成された、PC緊張材であるPC鋼より線200が貫通する円錐台状テーパ孔130の、PC鋼より線200と円錐台状テーパ孔130内周との間に嵌入して、PC鋼より線200を中間定着するものである。この2つの楔部材150,160は、PC鋼より線200に接する円筒面151,161と円錐台状テーパ孔130の内周面131に接するテーパ面152,162とを有する、円錐台状テーパ孔130の内周面131のほぼ全面を覆う個数(ここでは2つ)の円弧楔片である。そして、この2つの楔部材150,160は、定着の際に図示しないスリーブ内に引き込まれて、PC鋼より線200を噛みこんで保持する。このとき、2つの楔部材150,160の変形が容易な(時には折れる)方が、PC鋼より線200を保持する性能がより確実となる。そのために、2つの楔部材150,160のそれぞれは、嵌入方向に沿った後端側からその嵌入方向に沿って切り込まれたスリット153,163を有する。
【0026】
規制部材170は、板状部材をL字型に折り曲げてなるものであって、一端には、規制部材固定用ボルト180が貫通する貫通孔171が形成され、他端には、2つの楔部材150,160によって保持されたPC鋼より線200が通るU字溝172が形成されている。そして、規制部材170は、貫通孔171が形成された一端が、ボルト140で圧着一体化した2つ割りの定着体110,120のうちの一方の定着体110に形成されたねじ孔113に、規制部材固定用ボルト180によって固定される。また、規制部材固定用ボルト180によって固定された規制部材170は、U字溝172が形成された他端によって、円錐台状テーパ孔130に嵌入した2つの楔部材150,160が嵌入方向とは逆向きに移動することを規制する。このような規制部材170によって、円錐台状テーパ孔130に嵌入した2つの楔部材150,160がその円錐台状テーパ孔130から脱落してしまうことが防止される。
【0027】
尚、ここでは、中間定着装置100が、円錐台状テーパ孔130に嵌入した2つの楔部材150,160が嵌入方向とは逆向きに移動することを規制する規制部材170を備えた例を挙げて説明したが、本発明の中間定着装置はこれに限られるものではなく、このような規制部材170を備えていなくてもよい。この場合、円錐台状テーパ孔に嵌入した楔部材を楔部材押込装置(例えば図17〜図20参照)を用いてその円錐台状テーパ孔に押し込むことが好ましい。
【0028】
以上説明した本実施形態の中間定着装置100を構成する要素のうちの、ボルト140および2つの楔部材150,160としては、例えば、専用のものを製作するよりも安価に得られる既製品を用いることができる。また、この中間定着装置100を構成する要素のうちの2つ割りの定着体110,120は、この2つ割りの定着体110,120における、重ね合わせたときに円錐台状テーパ孔130を形成するテーパ溝111,121を、この2つ割りの定着体110,120を重ね合わせる前に、2つの楔部材150,160のテーパ面152,162と接するように切削加工などにより容易に形成することができ、構造が単純である。さらに、2つの楔部材150,160それぞれのスリット153,163により、各楔部材150,160は、定着時にPC鋼より線200を噛み込んで引き込まれたときに変形が容易であり、PC鋼より線200を確実に保持することができる。
【0029】
従って、本実施形態の中間定着装置100は、構造が単純であり、安価な既製品を利用できることからコスト低減が可能であり、施工性に優れる。
【0030】
次に、本発明の既設プレストレストコンクリート構造物の補修方法の第1の実施形態について説明する。尚、以下の、2つ割りの定着体110,120、ボルト140、2つの楔部材150,160、および規制部材170は、図1〜図4を参照して説明した中間定着装置100の構成要素である。すなわち、これらの構成要素を組み合わせてなるものが中間定着装置100である。従って、以下、これらの構成要素には、図1〜図4を参照して説明した中間定着装置100の構成要素と同一の符号を付し、中間定着装置100の構成要素に関する詳細な説明は省略する。
【0031】
図5は、既設プレストレストコンクリート構造物300の平面図であり、図6は、図5に示す既設プレストレストコンクリート構造物300の補修領域310を含む一部を拡大して示す平面図である。また、図7は、図6に示す線A−Aに沿った断面図であり、図8は、図7に示す線B−Bに沿った断面図および線C−Cに沿った断面図である。
【0032】
ポストテンション方式により緊張力が導入されている既設プレストレストコンクリート構造物300の一部分を補修するにあたり、まず、既設プレストレストコンクリート構造物300に埋設され上記緊張力が導入されているPC緊張材であるPC鋼より線200のうちの、既設プレストレストコンクリート構造物300の補修領域310内の周縁部分311のコンクリートを撤去することにより周縁部分311に位置するPC鋼より線200を露出させる。
【0033】
図9は、定着体外嵌工程を示す側面図である。
【0034】
次に、図9に示すように、露出させたPC鋼より線200に、円錐台状テーパ孔130を有する2つ割りの定着体110,120を外嵌する。
【0035】
図10は、定着体圧着一体化工程を示す側面図である。
【0036】
その後、図10に示すように、PC鋼より線200に外嵌した2つ割りの定着体110,120をボルト140で圧着一体化する。ここでは、ボルト140が8本用いられており、8本のボルト140を、半数ずつ表裏からねじ孔112,122に締め込む。
【0037】
図11は、楔部材嵌入工程を示す側面図である。
【0038】
次に、図11に示すように、ボルト140で圧着一体化した2つ割りの定着体110,120に形成された、2つ割りの定着体110,120をPC鋼より線200に外嵌することによりPC鋼より線200が貫通した円錐台状テーパ孔130の、PC鋼より線200と円錐台状テーパ孔130内周との間に、2つの楔部材150,160を嵌入する。このとき、図示しないハンマで楔部材150,160を打撃する。この2つの楔部材150,160は、上述したように、PC鋼より線200に接する円筒面151,161と円錐台状テーパ孔130の内周面131に接するテーパ面152,162とを有する、円錐台状テーパ孔130の内周面131のほぼ全面を覆う個数(ここでは2つ)の円弧楔片である。また、2つの楔部材150,160のそれぞれが、嵌入方向に沿った後端側からその嵌入方向に沿って切り込まれたスリット153,163を有する。
【0039】
図12は、規制部材固定工程を示す側面図である。
【0040】
その後、図12に示すように、円錐台状テーパ孔130に嵌入した楔部材150,160が嵌入方向とは逆向きに移動することを規制する規制部材170を、ボルト140で圧着一体化した2つ割りの定着体110,120のうちの一方の定着体110に形成されたねじ孔113に規制部材固定用ボルト180で固定する。これにより、後述する充填材充填工程における充填材400充填時の振動によって、円錐台状テーパ孔130に嵌入した2つの楔部材150,160が円錐台状テーパ孔130から脱落してしまうことが防止される。
【0041】
図13は、充填材充填工程を示す側面図である。
【0042】
さらに、図13に示すように、既設プレストレストコンクリート構造物300の補修領域310の周囲の既設プレストレストコンクリート構造物300とボルト140で圧着一体化した2つ割りの定着体110,120との間の隙間に充填材400を充填する。
【0043】
このように、ボルト140で圧着一体化した2つ割りの定着体110,120に形成された円錐台状テーパ孔130に2つの楔部材150,160を嵌入するとともに、上記隙間に充填材400を充填して、PC鋼より線200を定着する。
【0044】
その後、既設プレストレストコンクリート構造物300の補修領域310内のコンクリートおよびPC鋼より線200を撤去する。このとき、2つの楔部材150,160は図示しないスリーブ内に引き込まれてPC鋼より線200を噛み込んで保持する。また、2つの楔部材150,160それぞれのスリット153,163により、各楔部材150,160は、定着時にPC鋼より線200を噛み込んで引き込まれたときに変形が容易であり、PC鋼より線200を確実に保持することができる。
【0045】
そして、コンクリートおよびPC鋼より線200を撤去した補修領域310内に新たにコンクリート500打設することにより、既設プレストレストコンクリート構造物300の一部分の補修が完了する。
【0046】
以上説明した第1の実施形態の既設プレストレストコンクリート構造物の補修方法は、図1〜図4を参照して説明した実施形態の中間定着装置100を用いた補修方法である。従って、第1の実施形態の既設プレストレストコンクリート構造物の補修方法によれば、コスト低減が可能であり、施工性に優れる。
【0047】
以上で、本発明の既設プレストレストコンクリート構造物の補修方法の第1の実施形態の説明を終了し、本発明の既設プレストレストコンクリート構造物の補修方法の第2の実施形態について説明する。
【0048】
尚、以下説明する第2の実施形態は、上述した第1の実施形態の規制部材固定工程を、円錐台状テーパ孔に嵌入した楔部材を楔部材押込装置を用いてその円錐台状テーパ孔に押し込む楔部材押込工程に置き換えてなる、既設プレストレストコンクリート構造物の補修方法である。
【0049】
以下、上述した第1の実施形態における要素と同じ要素については同じ符号を付して説明を省略し、上述した第1の実施形態との相違点についてのみ説明する。
【0050】
図14は、定着体外嵌工程を示す側面図であり、図15は、定着体圧着一体化工程を示す側面図であり、図16は、楔部材嵌入工程を示す側面図である。
【0051】
上述した第1の実施形態では、2つ割りの定着体110,120のうちの一方の定着体110に規制部材170(図12,図13参照)を規制部材固定用ボルト180(図12,図13参照)で固定するためのねじ孔113(図9〜図13参照)が形成されていたが、この第2の実施形態は規制部材170(図12,図13参照)を用いない補修方法であるため、2つ割りの定着体110,120のうちの一方の定着体110にそのようなねじ孔113(図9〜図13参照)が形成されていない。
【0052】
また、上述した第1の実施形態では、図11に示す楔部材嵌入工程において、円錐台状テーパ孔130に嵌入した楔部材150,160をハンマで打撃したが、この第2の実施形態は後述する楔部材押込工程を有することから、図16に示す楔部材嵌入工程において、円錐台状テーパ孔130に嵌入した楔部材150,160をハンマで打撃する必要はない。
【0053】
図17は、楔部材押込工程を示す側面図であり、図18は、楔部材押込工程を示す平面図であり、図19は、楔部材押込工程を示す正面図であり、図20は、楔部材押込工程を示す背面図である。
【0054】
図17〜図20に示すように、円錐台状テーパ孔130に嵌入した楔部材150,160を楔部材押込装置600を用いて円錐台状テーパ孔130に押し込む。また、楔部材150,160を円錐台状テーパ孔130に押し込んだ後、楔部材押込装置600を取り外す。
【0055】
この楔部材押込装置600は、例えば、楔部材押込鋼板610と、反力支持鋼板620と、2組の楔部材押込用ボルト630、ナット640、およびワッシャ650とから構成されている。
【0056】
楔部材押込鋼板610は、ボルト140で圧着一体化した2つ割りの定着体110,120に形成された円錐台状テーパ孔130に楔部材150,160を嵌入した正面側に配置され、楔部材150,160を円錐台状テーパ孔130に押し込むものである。また、楔部材押込鋼板610には、楔部材押込用ボルト630が貫通する2つの孔611、および2つの楔部材150,160によって保持されたPC鋼より線200が通るU字溝612が形成されている。
【0057】
反力支持鋼板620は、ボルト140で圧着一体化した2つ割りの定着体110,120の正面側に対する背面側に配置され、楔部材押込鋼板610で楔部材150,160を円錐台状テーパ孔130に押し込むときの反力を支持するものである。また、反力支持鋼板620には、楔部材押込用ボルト630が貫通する2つの孔621、および2つの楔部材150,160によって保持されたPC鋼より線200が通るU字溝622が形成されている。
【0058】
2組の楔部材押込用ボルト630、ナット640、およびワッシャ650は、ボルト140で圧着一体化した2つ割りの定着体110,120を楔部材押込鋼板610と反力支持鋼板620とで挟み込んだ状態で楔部材押込鋼板610と反力支持鋼板620とを連結するとともに、締め付けられることによって楔部材押込鋼板610で楔部材150,160を円錐台状テーパ孔130に押し込ませるものである。
【0059】
このような楔部材押込装置600を用い、2組の楔部材押込用ボルト630を締め込んで楔部材150,160を円錐台状テーパ孔130に押し込んでおくことにより、後述する充填材充填工程における充填材400充填時の振動によって、円錐台状テーパ孔130に嵌入した2つの楔部材150,160が円錐台状テーパ孔130から脱落してしまうことが防止される。また、楔部材150,160を円錐台状テーパ孔130に押し込んでおくことにより、定着の際に引き込まれる量が減少し、プレストレスの減少を防止することができる。さらに、楔部材押込装置600は、楔部材押込工程で用いた後は取り外すものであって、何度でも転用できるものであるため、低コストである。
【0060】
図21は、充填材充填工程を示す側面図である。
【0061】
楔部材押込工程で用いた楔部材押込装置600を取り外した後に、図21に示すように、既設プレストレストコンクリート構造物300の補修領域310の周囲の既設プレストレストコンクリート構造物300とボルト140で圧着一体化した2つ割りの定着体110,120との間の隙間に充填材400を充填する。
【0062】
以上で、本発明の既設プレストレストコンクリート構造物の補修方法の第2の実施形態の説明を終了する。
【0063】
尚、上述した実施形態では、本発明にいうPC緊張材がPC鋼より線である例を挙げたが、本発明にいうPC緊張材はこれに限られるものではなく、例えばPC鋼線であってもよい。
【0064】
また、上述した実施形態では、本発明にいう複数の楔部材が2つの楔部材である例を挙げたが、本発明にいう複数の楔部材はこれに限られるものではなく、3つ以上の楔部材であってもよい。
【0065】
また、上述した実施形態では、本発明にいう規制部材が、板状部材をL字型に折り曲げてなるものである例を挙げたが、本発明にいう規制部材はこれに限られるものではなく、円錐台状テーパ孔に嵌入した複数の楔部材が嵌入方向とは逆向きに移動することを規制するものであれば、いかなる形状のものであってもよい。
【符号の説明】
【0066】
100 中間定着装置
110,120 定着体
111,121 テーパ溝
112,113,122 ねじ孔
130 円錐台状テーパ孔
131 内周面
140 ボルト
150,160 楔部材
151,161 円筒面
152,162 テーパ面
153,163 スリット
170 規制部材
171 貫通孔
172 U字溝
180 規制部材固定用ボルト
200 PC鋼より線
300 既設プレストレストコンクリート構造物
310 補修領域
311 周縁部分
400 充填材
500 コンクリート
600 楔部材押込装置
610 楔部材押込鋼板
611,621 孔
612,622 U字溝
620 反力支持鋼板
630 楔部材押込用ボルト
640 ナット
650 ワッシャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わせることにより円錐台状テーパ孔を形成するテーパ溝をそれぞれに有する2つ割りの定着体と、前記円錐台状テーパ孔を形成するようにそれぞれのテーパ溝を対向させて重ね合わせた前記2つ割りの定着体を圧着一体化する結合部材と、前記結合部材で圧着一体化した2つ割りの定着体に形成された、PC緊張材が貫通する円錐台状テーパ孔の、該PC緊張材と該円錐台状テーパ孔内周との間に嵌入して、該PC緊張材を中間定着する複数の楔部材とを備え、
前記複数の楔部材が、前記PC緊張材に接する円筒面と前記円錐台状テーパ孔内周面に接するテーパ面とを有する、該円錐台状テーパ孔内周面のほぼ全面を覆う個数の円弧楔片であって、該複数の楔部材のそれぞれが、嵌入方向に沿った後端側から該嵌入方向に沿って切り込まれたスリットを有するものであることを特徴とするPC緊張材の定着装置。
【請求項2】
前記円錐台状テーパ孔に嵌入した複数の楔部材が嵌入方向とは逆向きに移動することを規制する規制部材を備えたことを特徴とする請求項1記載のPC緊張材の定着装置。
【請求項3】
ポストテンション方式により緊張力が導入されている既設プレストレストコンクリート構造物の一部分を補修するにあたり、前記既設プレストレストコンクリート構造物に埋設され前記緊張力が導入されているPC緊張材のうちの、前記既設プレストレストコンクリート構造物の補修領域内の周縁部分のコンクリートを撤去することにより該周縁部分に位置するPC緊張材を露出させ、露出させたPC緊張材に、円錐台状テーパ孔を有する2つ割りの定着体を外嵌し、該PC緊張材に外嵌した2つ割りの定着体を結合部材で圧着一体化し、該結合部材で圧着一体化した2つ割りの定着体に形成された、該2つ割りの定着体を前記PC緊張材に外嵌することにより該PC緊張材が貫通した円錐台状テーパ孔の、該PC緊張材と該円錐台状テーパ孔内周との間に、該PC緊張材に接する円筒面と該円錐台状テーパ孔内周面に接するテーパ面とを有する、該円錐台状テーパ孔内周面のほぼ全面を覆う個数の、嵌入方向に沿った後端側から該嵌入方向に沿って切り込まれたスリットを有する楔部材を嵌入するとともに、前記既設プレストレストコンクリート構造物の補修領域の周囲の既設プレストレストコンクリート構造物と前記結合部材で圧着一体化した2つ割りの定着体との間の隙間に充填材を充填して、該PC緊張材を定着し、前記既設プレストレストコンクリート構造物の補修領域内のコンクリートおよびPC緊張材を撤去し、コンクリートおよびPC緊張材を撤去した補修領域内に新たにコンクリートを打設することにより前記既設プレストレストコンクリート構造物の一部分を補修することを特徴とする既設プレストレストコンクリート構造物の補修方法。
【請求項4】
前記結合部材で圧着一体化した2つ割りの定着体に形成された円錐台状テーパ孔に前記楔部材を嵌入した後に、該楔部材が嵌入方向とは逆向きに移動することを規制する規制部材を、該結合部材で圧着一体化した2つ割りの定着体に固定することを特徴とする請求項3記載の既設プレストレストコンクリート構造物の補修方法。
【請求項5】
前記結合部材で圧着一体化した2つ割りの定着体に形成された円錐台状テーパ孔に前記楔部材を嵌入した後に、該円錐台状テーパ孔に嵌入した楔部材を該円錐台状テーパ孔に押し込む楔部材押込装置を用いて該楔部材を該円錐台状テーパ孔に押し込むことを特徴とする請求項3記載の既設プレストレストコンクリート構造物の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−184894(P2011−184894A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49332(P2010−49332)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000112196)株式会社ピーエス三菱 (181)
【Fターム(参考)】