説明

PTCサーミスタの製造方法

【課題】 ボイドの発生を抑制して、電気抵抗特性のばらつきを低減することが可能なPTCサーミスタの製造方法を提供すること。
【解決手段】 PTCサーミスタの製造方法は、積層工程(S113)、第1の熱圧着工程(S115)、及び第2の熱圧着工程(S117)を備える。積層工程(S113)では、結晶性高分子樹脂に導電性粒子が分散された抵抗体素地シートと、内部電極用の導電性シートとを含む積層体を得る。第1の熱圧着工程(S115)では、積層体を結晶性高分子樹脂の軟化点より低い第1の温度で加熱し且つ第1の圧力にて加圧して熱圧着する。第2の熱圧着工程(S117)では、第1の熱圧着工程にて熱圧着された積層体を結晶性高分子樹脂の軟化点より高い第2の温度で加熱し且つ第1の圧力よりも低い第2の圧力にて加圧して熱圧着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PTCサーミスタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PTC(Positive Temperature Coefficient)サーミスタとして、結晶性高分子樹脂に導電性粒子が分散された抵抗体層と、抵抗体層を挟んで互いに対向するように位置する内部電極とを備えたPTCサーミスタ(以下、必要に応じて「P−PTCサーミスタ」という。)が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1には、次のようなPTCサーミスタの製造方法が開示されている。まず、結晶性高分子樹脂に導電性粒子が分散された抵抗体素地シートと、内部電極用の金属箔とを積層し、熱圧着する。次に、シート状の圧着体を、金属箔が露出するようにチップ状に切断して、サーミスタ素子を得る。次に、サーミスタ素子の両端部に金属箔と電気的に接続するように外部電極を形成する。
【特許文献1】特開2000−311801
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたPTCサーミスタの製造方法では、次のような問題が生じる。
【0005】
近年、電子機器分野においては、鉛を含有しない、いわゆる鉛フリーのハンダが主流となりつつある。鉛フリーのハンダを用いる場合、リフロー工程に要する温度は従来の鉛ハンダの場合よりも高く、260℃程度にまで達する場合があるとされている。したがって、鉛フリーのハンダを用いた電子機器においては、PTCサーミスタが高温に晒される傾向にある。
【0006】
抵抗体素地シートと金属箔とを熱圧着して得られたシート状の圧着体(サーミスタ素子)の内部に空気が僅かでも残っていると、PTCサーミスタが高温に晒された際にボイドが発生してしまう。このようにボイドが発生すると、PTCサーミスタの電気抵抗値が変化し、その特性にバラツキが生じることとなる。特に、抵抗体素地シートを、結晶性高分子樹脂及び導電性粒子に溶剤を加えて混合して得られたスラリーをシート状に成形した後に乾燥させる方法(以下、必要に応じて「湿式法」という。)により得る場合、溶剤の蒸発により抵抗体素地シートに無数のポアが存在することとなり、当該ポアに空気が残り易い。ボイドが発生する要因としては、圧着体(サーミスタ素子)の内部に残った空気が膨張する、あるいは、分散して存在していた空気が抵抗体層の軟化により移動して集まること等が考えられる。
【0007】
本発明の目的は、ボイドの発生を抑制して、特性のばらつきを低減することが可能なPTCサーミスタの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るPTCサーミスタの製造方法は、結晶性高分子樹脂に導電性粒子が分散された抵抗体素地シートと、内部電極用の導電性シートとを含む積層体を得る積層工程と、積層体を結晶性高分子樹脂の軟化点より低い第1の温度で加熱し且つ第1の圧力にて加圧して熱圧着する第1の熱圧着工程と、第1の熱圧着工程にて熱圧着された積層体を結晶性高分子樹脂の軟化点より高い第2の温度で加熱して且つ第1の圧力よりも低い第2の圧力にて加圧して熱圧着する第2の熱圧着工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るPTCサーミスタの製造方法では、抵抗体素地シートと導電性シートとを含む積層体は、第1の熱圧着工程において、結晶性高分子樹脂の軟化点より低い第1の温度で加熱され且つ第1の圧力にて加圧されて熱圧着される。これにより、積層体内に存在する空気が当該積層体から追い出されることとなる。そして、第2の熱圧着工程において、第1の熱圧着工程にて熱圧着された積層体が結晶性高分子樹脂の軟化点より高い第2の温度で加圧され且つ第1の圧力よりも低い第2の圧力にて加圧されて熱圧着される。これにより、抵抗体素地シートと導電性シートとが十分に熱圧着され、抵抗体素地シートと導電性シートとが剥離するのを防ぐことができる。したがって、積層体内に存在する空気が当該積層体から追い出されているので、PTCサーミスタが高温に晒された場合でも、ボイドの発生を抑制して、特性のばらつきを低減することができる。
【0010】
また、第1の温度は、結晶性高分子樹脂の軟化点より20〜60℃低い温度であることが好ましい。この場合、上述したような効果を一層発揮することができる。
【0011】
また、第2の温度は、結晶性高分子樹脂の軟化点より20〜100℃高い温度であることが好ましい。この場合、上述したような効果を一層発揮することができる。
【0012】
また、第1の圧力は、20〜200MPaの圧力であることが好ましい。この場合、上述したような効果を一層発揮することができる。
【0013】
また、第2の圧力は、10MPa以下の圧力であることが好ましい。この場合、上述したような効果を一層発揮することができる。
【0014】
また、抵抗体素地シートは、結晶性高分子樹脂及び導電性粒子に溶剤を加えて混合して調合したスラリーを基体に塗布した後に乾燥させて得られることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ボイドの発生を抑制して、特性のばらつきを低減することが可能なPTCサーミスタの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るPTCサーミスタの製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0017】
まず、図1に基づいて、本実施形態に係るPTCサーミスタ1の構成を説明する。図1は、本実施形態に係るPTCサーミスタの断面構成を示す図である。
【0018】
PTCサーミスタ1は、略直方体形状の素子10と、外部電極21,23とを備えている。素子10は、当該素子10における積層方向に平行且つ互いに対向するように位置する一対の側面10a,10bを有している。素子10は、複数の抵抗体層11と、複数の内部電極13,15と、複数の絶縁体層17とを含んでいる。素子10は、抵抗体層11と内部電極13,15とが交互に積層し、さらに、絶縁体層17で挟み込むようにして構成されている。したがって、素子10では、内部電極13,15は、抵抗体層11を挟んで互いに対向するように位置することとなる。素子10は、一対の側面10a,10bを除く側面が絶縁体層19で覆われている。
【0019】
抵抗体層11は、結晶性高分子樹脂と、当該結晶性高分子樹脂に分散された導電性粒子とを含有している。抵抗体層11は、一定の温度範囲において、その電気抵抗値が温度の上昇と共に急激に増大する、いわゆる「正の抵抗−温度特性」を有する。結晶性高分子樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリスチレン等が挙げられる。導電性粒子としては、炭化タングステン(WC)等の金属炭化物、ニッケル(Ni)等の金属粉末、カーボンブラック等の導電性炭素材料が挙げられる。
【0020】
一方の内部電極13は、他方の側面10bよりも内側から一方の側面10aに露出するように伸びている。すなわち、一方の内部電極13の他方の側面10b側の端は、他方の側面10bから所定の長さ離れて位置している。一方の内部電極13は、他方の側面10bに露出していない。他方の内部電極15は、一方の側面10aよりも内側から他方の側面10bに露出するように伸びている。すなわち、他方の内部電極15の一方の側面10a側の端は、一方の側面10aから所定の長さ離れて位置している。他方の内部電極15は、一方の側面10aに露出していない。他方の内部電極15は、素子10における積層方向から見て、その一部が一方の内部電極13に重なるように位置している。内部電極13,15として、銀(Ag)、ニッケル、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、金(Au)等の金属材料が挙げられる。
【0021】
絶縁体層17は、結晶性高分子樹脂を含有している。絶縁体層17は、導電性粒子を分散させておらず、電気絶縁性を有している。絶縁体層17が含有する結晶性高分子樹脂は、抵抗体層11が含有する結晶性高分子樹脂と同じであってもよく、異なっていてもよい。なお、絶縁体層17は、導電性粒子が微量に含まれていても、絶縁抵抗が十分に大きいものであればよい。
【0022】
外部電極21,23は、素子10の一対の側面10a,10bにそれぞれ設けられている。外部電極21,23は、側面10a,10bのそれぞれを覆うように形成されている。外部電極21,23は、それぞれの側面10a,10bにおいて、当該側面10a,10bに露出する内部電極13,15と電気的に接続される。これにより、外部電極21,23は、内部電極13,15を一層おきに交互に電気的に接続することとなる。
【0023】
続いて、図1〜図7に基づいて、上述した構成のPTCサーミスタ1の製造方法について説明する。図2は、本実施形態に係るPTCサーミスタの製造過程を説明するためのフロー図である。図3〜図7は、本実施形態に係るPTCサーミスタの製造過程を説明するための図である。
【0024】
まず、結晶性高分子樹脂、導電性粒子、及び溶剤を準備し、結晶性高分子樹脂及び導電性粒子に溶剤を加えて混合し、第1のスラリーを調合する(ステップS101)。結晶性高分子樹脂、導電性粒子、及び溶剤の混合には、例えばボールミル等を用いる。本実施形態では、結晶性高分子樹脂としてポリフッ化ビニリデンを用い、導電性粒子として炭化タングステンを用いる。溶剤には、アセトン、N−メチル−2−ピロリドン、メチルエチルケトン(MEK)等の有機溶剤が挙げられる。この工程では、調合した第1のスラリーのフィルトレーション(ろ過)を行うようにしてもよい。
【0025】
次に、調合した第1のスラリーを、ドクターブレード法等の公知の方法により、基体(例えば、ポリエチレンテレフタレートからなるフィルム)B1上に塗布した後、乾燥して厚さ20μm以下程度の膜M1を形成する(図3(a)参照)。こうして得られた膜M1を基体B1から剥離し、所望の形状に切断して抵抗体素地シートを作製する(ステップS103)。得られた抵抗体素地シートは、結晶性高分子樹脂に導電性粒子が分散された状態となっている。乾燥は、例えば、60〜80℃で1分程度行うことが好ましい。
【0026】
また、結晶性高分子樹脂及び溶剤を準備し、結晶性高分子樹脂に溶剤を加えて混合し、第2のスラリーを調合する(ステップS105)。結晶性高分子樹脂及び溶剤の混合には、例えばボールミル等を用いる。溶剤には、アセトン、N−メチル−2−ピロリドン、メチルエチルケトン等の有機溶剤を用いることができる。この工程では、調合した第2のスラリーのフィルトレーション(ろ過)を行うようにしてもよい。
【0027】
次に、調合した第2のスラリーを、ドクターブレード法等の公知の方法により、基体(例えば、ポリエチレンテレフタレートからなるフィルム)B2上に塗布した後、乾燥して厚さ20μm以下程度の膜M2を形成する(図3(b)参照)。こうして得られた膜M2を基体B2から剥離し、所望の形状に切断して絶縁体素地シートを作製する(ステップS107)。
【0028】
また、金属材料、バインダー樹脂、及び溶剤等を準備し、金属材料にバインダー樹脂及び溶剤を加えて混合し、後述する導電性シートを作製するための導電性ペーストを調合する(ステップS109)。バインダー樹脂としては、有機バインダー樹脂(例えば、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂等)が挙げられる。溶剤としては、有機溶剤(例えば、アセトン、N−メチル−2−ピロリドン、メチルエチルケトン等)が挙げられる。
【0029】
次に、調合した導電性ペーストをドクターブレード法等の公知の方法により、基体(例えば、ポリエチレンテレフタレートからなるフィルム)B3上に塗布した後、乾燥して厚さ20μm以下程度の膜M3を形成する(図3(c)参照)。こうして得られた膜M3を基体B3から剥離し、所望の形状に切断して内部電極13,15用の導電性シートを作製する(ステップS111)。ここで、内部電極13用の導電性シートES1及び内部電極15用の導電性シートES2には、図4(a)及び(b)にそれぞれ示されるように、当該導電性シートES1,ES2を切断面に露出させるための切断予定位置Cに沿って複数のスリットSLが形成されている。
【0030】
抵抗体素地シートRS、絶縁体素地シートIS、及び導電性シートES1,ES2を得ると、図5に示されるように、各シートRS,IS,ES1,ES2を所望の枚数ずつ所定の順序にて積層し、抵抗体素地シートRS、絶縁体素地シートIS、及び導電性シートES1,ES2を含む積層体Lを得る(ステップS113:積層工程)。本実施形態では、図5中下から、絶縁体素地シートIS、抵抗体素地シートRS、導電性シートES1、抵抗体素地シートRS、導電性シートES2、抵抗体素地シートRS、導電性シートES1、抵抗体素地シートRS、絶縁体素地シートISの順に積層される。
【0031】
次に、積層体Lを結晶性高分子樹脂の軟化点より低い第1の温度で加熱し且つ第1の圧力にて加圧して熱圧着する(ステップS115:第1の熱圧着工程)。第1の温度は、結晶性高分子樹脂の軟化点より20〜60℃低い温度であることが好ましい。第1の圧力は、20〜200MPaの圧力であることが好ましい。ポリフッ化ビニリデンの軟化点は、一般に120〜160℃である。本実施形態で用いるポリフッ化ビニリデンの軟化点は126℃であることから、本実施形態では、積層体Lを80℃で加圧し且つ40MPaの圧力で15分間にわたり加圧して熱圧着する。
【0032】
次に、熱圧着された積層体Lを結晶性高分子樹脂の軟化点より高い第2の温度で加熱し且つ第1の圧力よりも低い第2の圧力にて加圧して熱圧着する(ステップS117:第2の熱圧着工程)。第2の温度は、結晶性高分子樹脂の軟化点より20〜100℃高い温度であることが好ましい。第2の圧力は、0MPaより大きく且つ10MPa以下の圧力であることが好ましい。本実施形態で用いるポリフッ化ビニリデンの軟化点は126℃であることから、本実施形態では、積層体Lを150℃で加圧し且つ5MPaの圧力で1時間にわたり加圧して熱圧着する。
【0033】
次に、熱圧着した積層体Lを、図6に示されるように、切断予定位置C及び当該切断予定位置Cに直交する切断予定位置(図示せず)で切断する(ステップS119)。これにより、チップ状に切断された素子10が得られることとなる。抵抗体素地シートRSにより、抵抗体層11が構成されることとなる。導電性シートES1,ES2により、内部電極13,15が構成されることとなる。絶縁体素地シートISにより、絶縁体層17が形成されることとなる。積層体Lの切断は、積層体Lを所定の温度に加熱した状態(例えば、90℃程度で加熱した状態)で、所定の温度(例えば、120℃程度)に加熱したカッターで押し切りすることにより行う。切断して得られた素子10同士が再付着している場合は、互いに再付着した素子10同士を分離する工程を追加してもよい。
【0034】
次に、得られた素子10をバレル研磨する(ステップS121)。これにより、素子10の角部が丸められることとなる。湿式のバレル研磨法を用いた場合には、素子10を乾燥させる工程を追加してもよい。素子10の乾燥プロセスとしては、例えば吸引乾燥を用いる。
【0035】
次に、図7に示されるように、素子10の側面に絶縁体層19を形成する(ステップS123)。本実施形態において、積層体Lから切断された素子10では、外部電極21,23を形成する側面10a,10b以外の側面にも内部電極13,15が露出しているので、側面10a,10b以外の側面に絶縁体層19を形成する必要がある。絶縁体層19の材料として、電気絶縁性を有する樹脂(例えば、レジスト樹脂等)が挙げられる。
【0036】
次に、素子10に外部電極21,23を形成する(ステップS125)。これにより、図1に示されたPTCサーミスタ1が得られることとなる。外部電極21,23は、素子10の側面10a,10bに銀を主成分とする電極ペーストを転写した後に所定温度(例えば、700℃程度)にて焼き付け、更に電気めっきを施すことにより、形成される。電気めっき材料には、例えばNiとSn等を用いる。
【0037】
以上のように、本実施形態では、抵抗体素地シートRSと導電性シートES1,ES2とを含む積層体Lは、第1の熱圧着工程において、結晶性高分子樹脂の軟化点より低い第1の温度で加熱され且つ第1の圧力にて加圧されて熱圧着される。これにより、積層体L内に存在する空気が当該積層体Lから追い出されることとなる。そして、第2の熱圧着工程において、第1の熱圧着工程にて熱圧着された積層体Lが結晶性高分子樹脂の軟化点より高い第2の温度で加圧され且つ第1の圧力よりも低い第2の圧力にて加圧されて熱圧着される。これにより、抵抗体素地シートRSと導電性シートES1,ES2とが十分に熱圧着され、抵抗体素地シートRSと導電性シートES1,ES2とが剥離するのを防ぐことができる。したがって、積層体L内に存在する空気が当該積層体Lから追い出されているので、PTCサーミスタ1がリフロー工程等により高温に晒された場合でも、ボイドの発生を抑制して、特性のばらつきを低減することができる。
【0038】
抵抗体素地シートRSを、結晶性高分子樹脂及び導電性粒子に溶剤を加えて混合して得られたスラリーをシート状に成形した後に乾燥させる方法(以下、必要に応じて「湿式法」という。)により得る場合、溶剤の蒸発により抵抗体素地シートRSに無数のポアが存在することとなる。したがって、湿式法にて得られた抵抗体素地シートRSを用いて積層体Lを形成する場合、上記ポアに空気が残ることから、比較的大きなボイドが発生し易くなる。しかしながら、本実施形態では、上述したように第1の熱圧着工程にてポアに残っている空気が追い出されるので、湿式法にて得られた抵抗体素地シートRSを用いる場合でも、ボイドの発生を確実に抑制することができる。
【0039】
本実施形態において、第1の温度は、結晶性高分子樹脂の軟化点より20〜60℃低い温度である。第1の温度が、結晶性高分子樹脂の軟化点より20℃低い温度より高い場合には、抵抗体素地シートRSと導電性シートES1,ES2との熱圧着が実質的に進んでおり、空気が追い出し難くなる。第1の温度が、結晶性高分子樹脂の軟化点より60℃低い温度より低い場合には、結晶性高分子樹脂が適度に軟化せず、空気が追い出し難くなる。したがって、第1の温度を結晶性高分子樹脂の軟化点より20〜60℃低い温度とすることにより、上述したような効果を一層発揮することができる。
【0040】
本実施形態において、第2の温度は、結晶性高分子樹脂の軟化点より20〜100℃高い温度である。第2の温度が、結晶性高分子樹脂の軟化点より20℃高い温度よりも低い場合には、抵抗体素地シートRSと導電性シートES1,ES2とを確実に熱圧着できなくなる懼れがある。第2の温度が、結晶性高分子樹脂の軟化点より100℃高い温度よりも高い場合には、結晶性高分子樹脂が軟化し過ぎて、十分に加圧することができず、抵抗体素地シートRSと導電性シートES1,ES2とを確実に熱圧着できなくなる懼れがある。したがって、第2の温度を結晶性高分子樹脂の軟化点より20〜100℃高い温度とすることにより、上述したような効果を一層発揮することができる。
【0041】
本実施形態において、第1の圧力は、20〜200MPaの圧力である。第1の圧力が、20MPaよりも低い場合、空気を十分に追い出せない懼れがある。第1の圧力が、200MPaよりも高い場合、抵抗体素地シートRS内で導電性粒子が移動してしまうため、室温下での電気抵抗値が大きくなる懼れがある。したがって、第1の圧力を20〜200MPaの圧力とすることにより、上述したような効果を一層発揮することができる。
【0042】
本実施形態において、第2の圧力は、10MPa以下の圧力である。第2の圧力が、10MPa以下の圧力よりも高い場合、積層体Lに歪が生じ、当該積層体Lから得られたPTCサーミスタ1の電気抵抗値にバラツキが生じる懼れがある。したがって、第2の圧力を10MPa以下の圧力とすることにより、上述したような効果を一層発揮することができる。
【0043】
湿式法では、室温付近にて結晶性高分子樹脂が溶剤に溶解するので、これらを加熱する必要はない。したがって、導電性粒子が酸化しにくく、PTCサーミスタ1の特性の変化が抑制されることとなる。
【0044】
ところで、本発明者等が抵抗体素地シートと導電性シートとの接着面の剥離強度を測定した。本実施形態に基づいて熱圧着した抵抗体素地シートと導電性シートとの接着面の剥離強度は1.95Nであり、抵抗体素地シートと導電性シートとの界面で剥離は生じず、端部で折れるようにして破断した。これに対して、結晶性高分子樹脂の軟化点未満の温度で熱圧着とした抵抗体素地シートと導電性シートとの接着面の剥離強度は、0.97Nであり、抵抗体素地シートと導電性シートとの界面で剥離が生じた。この測定結果から、本実施形態により抵抗体素地シートと導電性シートとが十分に熱圧着されることが確認された。
【0045】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、抵抗体素地シートRS(抵抗体層11)と導電性シートES1,ES2(内部電極13,15)との積層数、積層状態等は、上述した実施形態に限られるものではない。導電性シートES1,ES2(内部電極13,15)間に複数の抵抗体素地シートRS(抵抗体層11)を積層してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本実施形態に係るPTCサーミスタの断面構成を示す図である。
【図2】本実施形態に係るPTCサーミスタの製造過程を説明するためのフロー図である。
【図3】(a)〜(c)は、本実施形態に係るPTCサーミスタの製造過程を説明するための図である。
【図4】(a)及び(b)は、本実施形態に係るPTCサーミスタの製造過程を説明するための図である。
【図5】本実施形態に係るPTCサーミスタの製造過程を説明するための図である。
【図6】本実施形態に係るPTCサーミスタの製造過程を説明するための図である。
【図7】本実施形態に係るPTCサーミスタの製造過程を説明するための図である。
【符号の説明】
【0047】
1…PTCサーミスタ、10…素子、11…抵抗体層、13,15…内部電極、21,23…外部電極、B1〜B3…基体、C…切断予定位置、ES1,ES2…導電性シート、IS…絶縁体素地シート、L…積層体、M1〜M3…膜、RS…抵抗体素地シート、S113…積層工程、S115…第1の熱圧着工程、S117…第2の熱圧着工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性高分子樹脂に導電性粒子が分散された抵抗体素地シートと、内部電極用の導電性シートとを含む積層体を得る積層工程と、
前記積層体を前記結晶性高分子樹脂の軟化点より低い第1の温度で加熱し且つ第1の圧力にて加圧して熱圧着する第1の熱圧着工程と、
前記第1の熱圧着工程にて熱圧着された前記積層体を前記結晶性高分子樹脂の軟化点より高い第2の温度で加熱し且つ前記第1の圧力よりも低い第2の圧力にて加圧して熱圧着する第2の熱圧着工程と、を備えることを特徴とするPTCサーミスタの製造方法。
【請求項2】
前記第1の温度は、前記結晶性高分子樹脂の軟化点より20〜60℃低い温度であることを特徴とする請求項1に記載のPTCサーミスタの製造方法。
【請求項3】
前記第2の温度は、前記結晶性高分子樹脂の軟化点より20〜100℃高い温度であることを特徴とする請求項1に記載のPTCサーミスタの製造方法。
【請求項4】
前記第1の圧力は、20〜200MPaの圧力であることを特徴とする請求項1に記載のPTCサーミスタの製造方法。
【請求項5】
前記第2の圧力は、10MPa以下の圧力であることを特徴とする請求項1に記載のPTCサーミスタの製造方法。
【請求項6】
前記抵抗体素地シートを、前記結晶性高分子樹脂及び前記導電性粒子に溶剤を加えて混合して調合したスラリーを基体に塗布した後に乾燥させて得られることを特徴とする請求項1に記載のPTCサーミスタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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