PTC素子
【課題】製造してから長期間経過後に熱履歴を受けたときのPTC素体の劣化が十分に抑制されたPTC素子を提供することを目的とする。
【解決手段】PTC素子1は、PTC素体10と、電極12,14と、保護層20とを備える。PTC素体10は、高分子マトリックスおよび導電性粒子を含んでいる。電極12,14は、PTC素体10と接合する第1の主面120,140と、第1の主面120,140に対向する第2の主面121,141とを有する。保護層20は、PTC素体10の露出面100を覆っている。露出面100とは、PTC素体10の外面のうち、第1の主面120,14と接合する面を除く部分を指す。保護層20は、第2の主面121,141までわたっている。ただし第2の主面121,141のうち、保護層20に覆われるのは、PTC素体10の露出面100近傍の周縁部分のみである。
【解決手段】PTC素子1は、PTC素体10と、電極12,14と、保護層20とを備える。PTC素体10は、高分子マトリックスおよび導電性粒子を含んでいる。電極12,14は、PTC素体10と接合する第1の主面120,140と、第1の主面120,140に対向する第2の主面121,141とを有する。保護層20は、PTC素体10の露出面100を覆っている。露出面100とは、PTC素体10の外面のうち、第1の主面120,14と接合する面を除く部分を指す。保護層20は、第2の主面121,141までわたっている。ただし第2の主面121,141のうち、保護層20に覆われるのは、PTC素体10の露出面100近傍の周縁部分のみである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PTC素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のPTC素子として、例えば特許文献1に記載されているように、高分子系導電性組成物のシート体(PTC素体)の表裏に、金属部材(電極)を接着したものが知られている。
【特許文献1】特開2005−11847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来のPTC素子は、製造後に長期間経過した後に熱履歴を受けると、PTC素体が劣化して室温抵抗値が大きく増大してしまうという問題があった。室温抵抗値が大きくなると非動作時と動作時との抵抗変化率が小さくなるため、PTC素子として正常に機能しない状態となり得る。従来のPTC素子においては、製造後に長期間経過すると、PTC素体中に周囲から酸素が侵入すると考えられる。そして、その状態でPTC素子が熱履歴を受けると、PTC素体中の樹脂や導電性粒子が侵入した酸素によって酸化され、この酸化によってPTC素体が劣化して室温抵抗値の増大が引き起こされると考えられる。
【0004】
そこで、本発明は、製造してから長期間経過後に熱履歴を受けたときのPTC素体の劣化が十分に抑制されたPTC素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るPTC素子は、高分子マトリックスおよび導電性粒子を含むPTC素体と、PTC素体と接合する第1の主面と、当該第1の主面に対向する第2の主面とを有する電極と、PTC素体の外面のうち電極の第1の主面と接合する第1の外面を除く第2の外面を覆う保護層と、を備え、保護層が、電極の第2の主面までわたっており、且つ、当該第2の主面のうち第2の外面近傍の周縁部分のみを覆うことを特徴とする。
【0006】
本発明のPTC素子では、保護層がPTC素体の第2の外面、すなわちPTC素体の露出面、を覆っている。PTC素体の露出面は保護層に覆われることにより、外気に触れることがなくなる。保護層は電極の第2の主面までわたっているため、PTC素体の露出面と電極の第2の主面との間に位置する、PTC素体と電極との界面も、保護層に覆われることとなる。よって、PTC素体と電極との界面も外気に触れることがなくなる。
【0007】
保護層は、電極の第2の主面のうちPTC素体の露出面近傍の周縁部分のみを覆う。このように比較的狭い範囲に形成された保護層は、表面張力の効果により盛り上がっている。したがって、第2の主面の周縁部分は、十分な厚さの保護層で覆われることとなる。第2の主面の周縁部分を十分な厚さの保護層で覆った場合には、第2の主面の周縁部分の近傍、すなわち電極とPTC素体との界面付近もまた、十分な厚さの保護層で覆われることとなる。よって、電極とPTC素体との界面周辺が外気に触れる可能性を顕著に抑制できる。
【0008】
露出面だけでなく、電極との界面付近も外気と接触しないようになっているPTC素体は、ガスバリア性が極めて良好であり、酸化しにくいものとなる。PTC素体を酸化しにくいものとすることにより、製造してから長期間経過後に熱履歴を受けたときのPTC素体の劣化を、十分に抑制することができる。また、電極の第2の主面にまでわたるよう保護層を形成することにより、保護層と電極との密着性を向上させることができる。その結果、保護層は剥離しにくいものとなり、PTC素体を確実に保護することが可能となる。
【0009】
本発明のPTC素子では、電極の第2の主面側からみたときに、当該第2の主面上に位置する保護層の端部からPTC素体の最も張り出した部分までの最短距離が1mm未満であることが好ましい。この場合、電極とPTC素体との界面付近は、保護層によっていっそう確実に保護されることとなる。その結果、PTC素体はより酸化されにくくなるため、製造してから長期間経過後に熱履歴を受けたときのPTC素体の劣化を更に抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、製造してから長期間経過後に熱履歴を受けたときのPTC素体の劣化が十分に抑制されたPTC素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0012】
図1は本実施形態に係るPTC素子の斜視図である。図1に示されるように、PTC素子1は、PTC素体10と、一対の電極12,14と、保護層20とを備えている。電極12,14は第1の主面120,140を有しており、第1の主面120および第1の主面140の一部は対向している。第1の主面120,140の対向している部分はPTC素体10と接合している。これにより、電極12,14はPTC素体10を挟むこととなる。電極12,14は、第1の主面120,140に対向する第2の主面121,141と、第1の主面120,140及び第2の主面121,141の間に位置する側面122,142とを有している。
【0013】
電極12,14は金属等の導電性材料からなり、厚み0.1mm程度に成形されている。電極12,14を構成する導電性材料としてはNi又はNi合金が好ましい。また、第1の主面120,140のうち、少なくともPTC素体10と接する部分は粗面化されていることが好ましい。この部分が粗面化されていると、アンカー効果によってPTC素体10に対して電極12,14がより強く固定されることとなる。電極12,14には、図示しないリードが接続される。接続されたリードを介して、電極12,14から外部に対して電荷を放出又は注入することが可能となる。
【0014】
電極12の第1の主面120と電極14の第1の主面140との間には、正の抵抗温度特性を有するPTC素体10が配置されている。PTC素体10は、高分子マトリックスと導電性粒子とを含んでいる。より具体的には、PTC素体10においては、高分子マトリックス中に導電性粒子が分散している。ここで、高分子マトリックスは熱可塑性樹脂であってもよいし、熱硬化性樹脂の硬化物であってもよいが、結晶性又は非晶性の熱可塑性樹脂であるときに本発明による効果がより顕著に得られる。なお、本明細書において、「熱可塑性樹脂」は、熱可塑性樹脂中の高分子鎖同士が架橋された状態のものも含むこととする。
【0015】
PTC素体10が後述する低分子有機化合物を含有している場合、高分子マトリックスを構成する熱可塑性樹脂の融点又は軟化点は、低分子化合物の融点よりも高いことが好ましい。これにより、動作時の低分子有機化合物の融解による流動やPTC素体10の変形を防止することができる。熱可塑性樹脂の融点又は軟化点は、低分子化合物の融点よりも30℃以上高いことがより好ましく、30℃以上110℃以下の範囲で高いことが更に好ましい。また、熱可塑性樹脂の融点又は軟化点は70℃〜200℃であることが好ましい。これにより、動作時の低分子有機化合物の流動やPTC素体10の変形をより確実に防止することができる。
【0016】
熱可塑性樹脂の分子量は、重量平均分子量Mwが1万〜500万程度であることが好ましい。また、熱可塑性樹脂のASTM D1238で定義されるメルトフローレートは0.1〜30g/10分であることが好ましい。
【0017】
高分子マトリックスとして好適な熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン(例えばポリエチレン)、1種又は2種以上のオレフィン(例えばエチレン、プロピレン)と極性基を含有する1種又は2種以上のオレフィン性不飽和モノマーとのコポリマー(例えばエチレン−酢酸ビニルコポリマー)、ポリハロゲン化ビニル又はポリハロゲン化ビニリデン(例えばポリビニルクロライド、ポリビニリデンクロライド、ポリビニルフルオライド、ポリビニリデンフルオライド)、ポリアミド(例えば12−ナイロン)、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、熱可塑性エラストマー、ポリエチレンオキサイド、ポリアセタール、熱可塑性変性セルロース、ポリスルホン類、ポリメチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中でもポリオレフィンが好ましく、ポリオレフィンの中でもポリエチレンが特に好ましい。
【0018】
熱可塑性樹脂のより具体的な例としては、高密度ポリエチレン(例えば、「ハイゼックス2100JP」(商品名、三井石油化学製)、「Marlex6003」(商品名、フィリップ社製))、低密度ポリエチレン(例えば、LC500(商品名、日本ポリケム製)、「DYNH−1」(商品名、ユニオンカーバイド社製))、中密度ポリエチレン(例えば、「2604M」(商品名、ガルフ社製))、エチレン−エチルアクリレートコポリマー(例えば、「DPD6169」(商品名、ユニオンカーバイド社製))、エチレン−アクリル酸コポリマー(例えば、「EAA455」(商品名、ダウケミカル社製))、ヘキサフルオロエチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー(例えば、「FEP100」(商品名、デュポン社製))、ポリビニリデンフルオライド(例えば、「Kynar461」(商品名、ペンバルト社製))が挙げられる。
【0019】
以上のような熱可塑性樹脂は1種で又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、高分子マトリックスは熱可塑性樹脂のみで構成されることが好ましいが、場合によってはエラストマー、熱硬化性樹脂の硬化物又はそれらの混合物を含んでいてもよい。
【0020】
PTC素体10に含まれる導電性粒子は、高分子マトリックスと組み合わせたときにPTC特性が発現するようなものであれば特に制限はないが、その材質としては、Niが特に好ましい。導電性粒子としてNi粒子を用いた場合、酸化によってPTC素体10の劣化が生じ易くなるため、保護層20が特に有用となる。
【0021】
導電性粒子は、その表面にスパイク状の突起が複数(通常10〜500個)形成されていることが好ましい。この場合、スパイク状の突起の高さは、典型的には粒径の1/3〜1/50程度であることが好ましい。
【0022】
導電性粒子は、一次粒子が個別に存在する粉体であってもよいが、一次粒子が10〜1000個程度連なった鎖状の二次粒子を形成していることが好ましい。前者の例としては、スパイク状の突起をもつ球状のNi粒子である「INCOType123ニッケルパウダ」(商品名、インコ社製)がある。このNi粒子の平均粒径は3〜7μm程度、見かけの密度は1.8〜2.7g/cm3程度、比表面積は0.34〜0.44m2/g程度である。鎖状の二次粒子を形成している導電性粒子の例としては、フィラメント状Ni粒子である「INCOType255ニッケルパウダ」、「INCO Type270ニッケルパウダ」、「INCO Type287ニッケルパウダ」又は「INCO Type210ニッケルパウダ」(以上商品名、インコ社製)があるが、特にINCO Type255、270及び287が好ましい。これらフィラメント状Ni粒子の見かけの密度は0.3〜1.0g/cm3程度であり、比表面積は0.4〜2.5m2/g程度である。
【0023】
フィラメント状Ni粒子を構成する一次粒子の平均粒径(フィッシュー・サブシーブ法で測定される値)は、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上4.0μm以下がより好ましく、1.0μm以上4.0μm以下が更に好ましい。更に、平均粒径が1.0μm以上4.0μm以下の一次粒子が連なってなるフィラメント状Ni粒子に、平均粒径が0.1μm以上1.0μm未満の一次粒子が連なってなるフィラメント状Ni粒子を導電性粒子全体の50質量%以下の割合で組み合わせてもよい。
【0024】
PTC素体10における導電性粒子の含有割合は、PTC特性が発現するように適宜決めることができる。具体的には、この導電性粒子の含有割合はPTC素体10の全体体積に対して20〜50体積%であることが好ましい。
【0025】
PTC素体10は、高分子マトリックス及び導電性粒子に加えて、低分子有機化合物を更に含有していることが好ましい。この場合の低分子有機化合物としては、分子量1000以下の結晶性化合物が好ましく用いられる。この低分子有機化合物は、常温(25℃程度)で固体であることが好ましい。また、低分子有機化合物は融点(mp)が40〜100℃であることが好ましい。
【0026】
低分子有機化合物の好適な具体例としては、炭化水素(例えば、炭素数22以上のアルカン系の直鎖炭化水素)、脂肪酸(例えば、炭素数22以上のアルカン系の直鎖炭化水素の脂肪酸)、脂肪酸エステル(例えば、炭素数20以上の飽和脂肪酸とメチルアルコール等の低級アルコールとから得られる飽和脂肪酸のメチルエステル)、脂肪酸アミド(例えば、炭素数10以下の飽和脂肪酸第1アミドやオレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどの不飽和脂肪酸アミド)、脂肪族アミン(例えば、炭素数16以上の脂肪族第1アミン)、高級アルコール(具体的には、炭素数16以上のn−アルキルアルコール)が挙げられる。低分子有機化合物は、動作温度等に応じて1種で2種以上を適宜組み合わせて用いられる。
【0027】
なお、低分子有機化合物は、これらを成分として含むワックス又は油脂の状態で用いることができる。これら低分子有機化合物を含むワックスとしては、パラフィンワックスやマイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックスをはじめとする植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックスのような天然ワックスが挙げられる。また、これら低分子有機化合物を含む油脂としては、脂肪又は固体脂と称されるものが挙げられる。
【0028】
低分子有機化合物又はこれらを含むワックスや油脂は、市販品として入手することが可能である。パラフィンワックスの市販品としては、例えば、「テトラコサンC24H50」(mp49〜52℃)、「ヘキサトリアコンタンC36H74」(mp73℃)、「HNP−10」(商品名、日本精蝋社製、mp75℃)、「HNP−3」(商品名、日本精蝋社製、mp66℃))がある。マイクロクリスタリンワックスの市販品としては、例えば、「Hi−Mic−1080」(商品名、日本精蝋社製、mp83℃)、「Hi−Mic−1045」(商品名、日本精蝋社製、mp70℃)、「Hi−Mic2045」(商品名、日本精蝋社製)、mp64℃)、「Hi−Mic3090」(商品名、日本精蝋社製、mp89℃)、「セラッタ104」(商品名、日本石油精製社製、mp96℃)、「155マイクロワックス」(商品名、日本石油精製社製、mp70℃)がある。脂肪酸の市販品としては、例えば、ベヘン酸(日本精化製、mp81℃)、ステアリン酸(日本精化製、mp72℃)、パルミチン酸(日本精化製、mp64℃)がある。脂肪酸エステルの市販品としては、例えば、アラキン酸メチルエステル(東京化成製、mp48℃)がある。脂肪酸アミドの市販品としては、例えば、オレイン酸アミド(日本精化製、mp76℃)がある。
【0029】
PTC素子1は、保護層20を備えている。保護層20は、PTC素体10の露出面(第2の外面)100を覆っている。PTC素体10の露出面100とは、PTC素体10の外面のうち、電極12,14の第1の主面120,140と接合する面(第1の外面)を除く部分を指す。
【0030】
保護層20は、電極12,14の第2の主面121,141までわたっている。より具体的にいうと、保護層20は、PTC素体10の露出面100だけでなく、電極12,14の側面122,142および第1の主面120,140を覆い、且つ、電極12,14の第2の主面121,141に伸びている。ただし、電極12,14の側面122,142および第1の主面120,140において保護層20に覆われるのは、PTC素体10の露出面100の周辺に位置する部分である。また、電極12,14の第2の主面121,141において保護層20に覆われるのは、PTC素体10の露出面100近傍の周縁部分のみとなっている。
【0031】
図2は、PTC素子1を電極12の第2の主面121側からみたときの側面図である。図3は図1のIII−III線に沿ったPTC素子1の断面図であり、図4は図1のIV−IV線に沿ったPTC素子1の断面図である。保護層20は、図3に示されるように、電極12の第2の主面121の周縁部分から電極14の第1の主面140にわたり、且つ、電極14の第2の主面141の周縁部分から電極12の第1の主面120にわたっている。また、図4に示されるように、電極12の第2の主面121の周縁部分から電極14の第2の主面141の周縁部分にわたっている。
【0032】
図2に示されるように、PTC素子1を電極12,14の第2の主面121,141側からみたときに、第2の主面121,141上に位置する保護層20の端部200からPTC素体10の最も張り出した部分までの最短距離Wは、1mm未満であることが好ましい。以下、Wについてより具体的に述べる。図3および図4に示されるようにPTC素体10の露出面100が電極12,14の側面122,142と揃っている場合、第2の主面141上に位置する保護層20の端部200からPTC素体10の側面122,142までの最短距離が、Wに相当する。一方、図5に示されるようにPTC素体10の露出面100が第1の主面120,140からはみ出ている場合には、第2の主面121,141上に位置する保護層20の端部200からPTC素体10の露出面100のうち最もはみ出ている所までの最短距離が、Wに相当する。
【0033】
保護層20は、エポキシ樹脂及びチオール系硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物の硬化物で形成されている。保護層20の硬化物を形成しているエポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂としては、一段法、二段法、酸化法等の方法で得られるもの等を、特に制限なく用いることができるが、芳香族アミンのグリシジルエーテルや、極性基を有するか又は硬化時に極性基を生成するものが好ましい。好適なエポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂や、テトラグリシジルm−キシレンジアミンのような脂肪族アミンのグリリジル化物、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンのような芳香族アミンのグリリジ化物、アミノフェノール型エポキシ樹脂がある。
【0034】
チオール系硬化剤としては、チオール基を2個以上有しているチオール化合物であれば、特に制限なく用いることができる。好適なチオール系硬化剤の具体例としては、ペンタエリストールテトラチオグリコレート及びトリメチロールプロパントリスチオプロピオートのような脂肪族ポリチオエステルや、脂肪族ポリチオエーテル、芳香環含有ポリチオエーテルがある。エポキシ樹脂組成物中のチオール系硬化剤の量は、当業者には理解されるように、エポキシ樹脂との当量比等を考慮して適宜決定される。
【0035】
エポキシ樹脂組成物は、2級アミノ基又は3級アミノ基を有するアミン化合物を更に含有することが好ましい。このアミン化合物としては、芳香族アミン及び脂肪族アミン、アミンーエポキシアダクト、イミダゾール、イミダゾールアダクト等が好ましく用いられる。
【0036】
エポキシ樹脂組成物は、上記の成分の他、シリカ、マイカ、タルク粒子等のフィラーや、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の無機塩、カルボン酸及びフェノール等の他の硬化剤又は硬化促進剤、樹脂組成物の粘度調整を目的とした溶剤を更に含有していてもよい。
【0037】
続いて、上述した構成を有するPTC素子1の製造方法について説明する。
【0038】
PTC素体10中の高分子マトリックスが熱可塑性樹脂を含むものである場合、PTC素子1は、例えば、熱可塑性樹脂及び導電性粒子を含有する混合物を混練してこれらを含有する混練物を得る工程と、混練物をシート状に成形して熱可塑性樹脂を含む高分子マトリックス中に導電性粒子が分散しているPTC素体10を形成させる工程と、PTC素体10に対して1対の電極12,14を熱圧着により固定する工程と、PTC素体10の露出面および電極12,14において露出面100の周辺に位置する部分を一体的に覆う保護層20を形成させる工程とを備える製造方法により、得ることができる。
【0039】
混練物を得る工程は、各成分を混合した混合物を、熱可塑性樹脂の融点又は軟化点以上の温度(好ましくは融点又は軟化点よりも5〜40℃高い温度)に加熱しながら行うことができる。あるいは、熱可塑性樹脂を溶解する溶剤を加えて混合物を低粘度化した状態で混練することにより、加熱することなく熱可塑性樹脂中に導電性粒子を分散させることもできる。混練は、ミル、加圧ニーダ、二軸押出機等の公知の方法で行うことができる。
【0040】
得られた混練物を熱プレス等の方法によってシート状に成形することにより、PTC素体10として形成される。この段階で打ち抜き等によりPTC素体10を所定のサイズに切り出してもよい。
【0041】
PTC素体10を1対の電極12,14の間に挟んだ挟持体を熱プレスすることにより、PTC素体10に対して1対の電極12,14が固定される。電極12,14を固定した後、放射線照射等によって高分子マトリックス中の熱可塑性樹脂を架橋させることが好ましい。この架橋によりPTC素子1の熱に対する安定性がより良好になる。
【0042】
保護層20は、上述のエポキシ樹脂組成物をPTC素体10の露出面100および第1の主面120,140、第2の主面121,141、側面122,142に付着し、付着しているエポキシ樹脂組成物を加熱してその硬化反応を進行させることにより形成される。エポキシ樹脂組成物を付着させる方法は特に制限されず、例えば、治具を用いてPTC素体10および電極12,14の表面にエポキシ樹脂組成物を転写させる方法や、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、ディスペンサー印刷法等を用いることができる。なお、エポキシ樹脂組成物を溶媒に溶解又は分散した状態でPTC素体10等に付着させてから乾燥により溶媒を除去してもよい。この場合、乾燥及び硬化を同時に又は連続的に行うこともできる。
【0043】
エポキシ樹脂組成物の硬化の条件は、チオール系硬化剤の種類やこれに組み合わせる硬化促進剤(3級アミン等)等に応じて適宜決定すればよいが、PTC素子1の動作温度以下に加熱して保護層20を形成させることが好ましい。動作温度を超える温度での加熱による保護層20を形成させると、常温に戻したときのPTC素子1の抵抗値が、エポキシ樹脂を硬化する前のPTC素子1の抵抗値よりも上がってしまう場合がある。ここで、動作温度は、PTC素子1を2℃/分の昇温速度で昇温したときの抵抗値の変化を示す抵抗−温度曲線において、PTC特性を示す領域よりも低い温度領域で抵抗値がほぼ一定である部分の接線と、抵抗値が温度上昇とともに急激に立ち上がる部分の接線との交点の温度のことをいう。具体的には、チオール系硬化剤を用いているエポキシ樹脂組成物の場合、50〜90℃に加熱して保護層20を形成することが好ましい。この場合、加熱時間は5〜120分が好ましい。
【0044】
このようにして製造されたPTC素子1では、PTC素体10の露出面100を保護層20が覆っている。そのため、PTC素体10の露出面100は外気にさらされることがなくなる。保護層20は、PTC素体10の露出面100と共に、電極12,14の側面122,142および第1の主面120,140の一部分を覆っている。かかる一部分とは、PTC素体10の露出面100の周辺に位置する部分である。そのため、電極12,14とPTC素体10との界面は保護層20で覆われることとなり、外気にさらされることがなくなる。
【0045】
保護層20は電極12,14の第2の主面121,141にわたっている。ただし第2の主面121,141のうち、保護層20に覆われるのは、PTC素体10の露出面100近傍の周縁部分のみである。このように比較的狭い範囲に形成された保護層20は、表面張力の効果によって盛り上がり、十分な厚さとなる。第2の主面121,141の周縁部分にて十分な厚さを有する保護層20は、この周縁部分の近傍、すなわち電極12,14とPTC素体10との界面付近、においても、十分な厚さを有することとなる。その結果、PTC素体10と電極12,14との界面付近が外気にさらされる可能性を、更に抑制できる。
【0046】
このように、保護層20によって外気との接触を極力抑制されたPTC素体10は、ガスバリア性が極めて良好であり、酸化しにくいものとなる。PTC素体10を酸化しにくいものとすることにより、製造してから長期間経過後に熱履歴を受けたときのPTC素体の劣化を、十分に抑制することができる。
【0047】
また、電極12,14の第2の主面121,141にわたるよう保護層20を形成することにより、保護層20と電極12,14との密着性を向上させることができる。その結果、保護層20の剥離が生じにくくなるため、PTC素体10を保護層20によって確実に保護することが可能となる。また、第2の主面121,141のうち、周縁部分以外の部分、すなわち第2の主面121,141の中央部は、保護層20に覆われていない。そのため、第2の主面121,141の中央部にレーザーマーキング等を施すことが容易となる。この部分に施したレーザーマーキングは、保護層20に隠れることがないので、外観から容易に判別できる。
【0048】
更に、第2の主面121,141上に位置する保護層20の端部200からPTC素体10の最も張り出した部分までの最短距離Wは、1mm未満であることが好ましい。最短距離Wを1mm未満とした場合、電極12,14とPTC素体10との界面付近は、保護層20によって確実に保護されることとなる。その結果、PTC素体10はいっそう酸化されにくくなるため、製造してから長期間経過後に熱履歴を受けたときのPTC素体10の劣化を更に抑制することができる。
【0049】
ここで、上述の最短距離Wを1mm未満とした場合にPTC素体10がいっそう酸化されにくくなることを確認するため、以下の実験を行った。すなわち、PTC素子1に対して熱衝撃試験およびトリップ動作試験を行い、試験前後における室温抵抗値の変化を調べた。
【0050】
まず、保護層20の厚さTが異なるPTC素子1を数種類用意し、熱衝撃試験を行った。なお保護層20の厚さTは、PTC素体10の露出面100、及び、PTC素体1と電極12,14との界面付近において、保護層20が最も薄くなっているところの厚さを指す。用意した各PTC素子1は、製造後180日間、空気中に放置されたものである。熱衝撃試験を行う前に、用意した各PTC素子1の室温抵抗値を測定して初期値の確認をした。確認後、各PTC素子1に対し、100℃で5時間熱衝撃を与えた。熱衝撃を付与した後の各PTC素子1の室温抵抗値を測定し、熱衝撃前と熱衝撃後における各PTC素子1の室温抵抗値の変化を調べた。その結果を図6および図7に示す。実施例1〜13は、保護層20の厚さT(図6ではT_MINとして記載)が3μm以上のPTC素子1である。実施例14〜20は、保護層20の厚さT(図6ではT_MINとして記載)が3μm未満のPTC素子1である。
【0051】
実施例1〜13のPTC素子1では、室温抵抗値の変化量(図6ではΔRとして記載)が20mΩ以下であった。それに対して、実施例14〜20のPTC素子1では、室温抵抗値の変化量が50mΩ以上のものが多くみられた。熱衝撃試験では、PTC素体10の酸化が進むと、室温抵抗値の変化量が大きくなることが知られている。したがって、保護層20の厚さTを3μm以上とした場合には、PTC素体10はより酸化されにくくなることがわかった。
【0052】
次に、保護層20の厚さTが異なるPTC素子1を数種類用意し、トリップ動作試験を行った。用意した各PTC素子1は、製造後180日間、空気中に放置されたものである。トリップ動作試験を行う前に、各PTC素子1の室温抵抗値を測定して初期値の確認をした。確認後、各PTC素子1を電気回路(電源6V、20A)に接続してトリップ動作させた。トリップ動作後の各PTC素子1の室温抵抗値を測定し、トリップ動作前後における各PTC素子1の室温抵抗値の変化を調べた。その結果を図8および図9に示す。なお、実施例1〜13は、保護層20の厚さT(図8ではT_MINとして記載)が3μm以上のPTC素子1を示す。実施例14〜20は、保護層20の厚さT(図8ではT_MINとして記載)が3μm未満のPTC素子1を示す。
【0053】
実施例1〜13のPTC素子1では、抵抗値の変化量(図8ではΔRとして記載)が5mΩ以下のものが多くみられた。それに対して、実施例14〜20のPTC素子1では、室温抵抗値の変化量が5mΩ以上のものが多くみられた。熱衝撃試験と同様に、トリップ動作試験においても、PTC素体10の酸化に応じて室温抵抗値の変化量が大きくなることが知られている。したがって、トリップ動作試験の結果からも、保護層20の厚さTを3μm以上とした場合、PTC素体10はより酸化されにくくなることがわかった。
【0054】
続いて、上述の最短距離Wが異なるPTC素子1を数種類用意した。そして、各PTC素子1において、保護層20の厚さTを測定した。その結果を図10および図11に示す。実施例21〜31は、上述の最短距離Wが50μm以上1mm未満となっているPTC素子1を示す。実施例32〜40は、上述の最短距離Wが0mmであるPTC素子1および1mm以上であるPTC素子1を示す。
【0055】
実施例21〜31のPTC素子1では、保護層20の厚さTが3.2μm以上であった。それに対して、実施例32〜40のPTC素子1では、保護層20の厚さTが2.8μm以下であった。この結果から、保護層20の端部200からPTC素体10の露出面100までの最短距離Wを1mm未満とすれば、保護層20の厚さTが3μm以上となることがわかる。
【0056】
以上の試験結果から、第2の主面121,141上に位置する保護層20の端部200からPTC素体10の露出面100までの最短距離Wを1mm未満とすれば、保護層20の厚さTが3μm以上となるため、PTC素体10はより酸化されにくくなることが確認された。
【0057】
ところで、本実施形態の第2の主面121,141をみると、保護層20で覆われているのはPTC素体10の露出面100近傍の周縁部分のみとなっている。ここで、かかる周縁部分だけでなく、第2の主面121,141においてPTC素体10と重なる領域全体を保護層20で覆った場合について考える。PTC素体10と重なる領域全体を保護層20で覆うということは、図2に示されるPTC素子1において、最短距離WがPTC素体10の幅あるいは長さと同一となるように保護層20を広げるということである。先述した試験によって、最短距離Wが1mm以上になるとPTC素体10が酸化されやすくなることが確認されている。このことから、上述の場合、すなわち第2の主面121,141においてPTC素体10と重なる領域全体を保護層20で覆った場合には、PTC素体10は酸化されやすくなってしまうことが容易に理解されよう。なお、第2の主面121,141のうちPTC素体10と重なる領域全体に保護層20を重ね付けした場合には、保護層20の厚さTが厚くなるためPTC素体1と電極12,14との界面が露出しにくくなり、PTC素体10の酸化が抑制されることが考えられる。しかしながらこの場合には、第2の主面121,141に保護層20の表面張力による凸部が形成されるため、実装時におけるPTC素子1の安定性が悪くなってしまう。また、PTC素子1の寸法も大きくなってしまう。更に、保護層20を重ね付けする工程が発生するため、製造コストが上昇するおそれもある。以上のことから、第2の主面121,141のうちPTC素体10と重なる領域全体に保護層20を重ね付けすることは、PTC素体10の酸化を防ぐための有効な手立てとは言いがたい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本実施形態に係るPTC素子の斜視図である。
【図2】本実施形態に係るPTC素子を電極の第2の主面側からみたときの側面図である。
【図3】図1のIII−III線に沿ったPTC素子の断面図である。
【図4】図1のIV−IV線に沿ったPTC素子の断面図である。
【図5】本実施形態に係る他のPTC素子の断面図である。
【図6】熱衝撃試験の結果を示す表である。
【図7】熱衝撃試験の結果を示すグラフである。
【図8】トリップ動作試験の結果を示す表である。
【図9】トリップ動作試験の結果を示すグラフである。
【図10】最短距離Wと厚さTとの関係を示す表である。
【図11】最短距離Wと厚さTとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0059】
1・・・PTC素子、10・・・PTC素体、12,14・・・電極、20・・・保護層、100・・・露出面、120,140・・・第1の主面、121,141・・・第2の主面、122,142・・・側面、200・・・端部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、PTC素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のPTC素子として、例えば特許文献1に記載されているように、高分子系導電性組成物のシート体(PTC素体)の表裏に、金属部材(電極)を接着したものが知られている。
【特許文献1】特開2005−11847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来のPTC素子は、製造後に長期間経過した後に熱履歴を受けると、PTC素体が劣化して室温抵抗値が大きく増大してしまうという問題があった。室温抵抗値が大きくなると非動作時と動作時との抵抗変化率が小さくなるため、PTC素子として正常に機能しない状態となり得る。従来のPTC素子においては、製造後に長期間経過すると、PTC素体中に周囲から酸素が侵入すると考えられる。そして、その状態でPTC素子が熱履歴を受けると、PTC素体中の樹脂や導電性粒子が侵入した酸素によって酸化され、この酸化によってPTC素体が劣化して室温抵抗値の増大が引き起こされると考えられる。
【0004】
そこで、本発明は、製造してから長期間経過後に熱履歴を受けたときのPTC素体の劣化が十分に抑制されたPTC素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るPTC素子は、高分子マトリックスおよび導電性粒子を含むPTC素体と、PTC素体と接合する第1の主面と、当該第1の主面に対向する第2の主面とを有する電極と、PTC素体の外面のうち電極の第1の主面と接合する第1の外面を除く第2の外面を覆う保護層と、を備え、保護層が、電極の第2の主面までわたっており、且つ、当該第2の主面のうち第2の外面近傍の周縁部分のみを覆うことを特徴とする。
【0006】
本発明のPTC素子では、保護層がPTC素体の第2の外面、すなわちPTC素体の露出面、を覆っている。PTC素体の露出面は保護層に覆われることにより、外気に触れることがなくなる。保護層は電極の第2の主面までわたっているため、PTC素体の露出面と電極の第2の主面との間に位置する、PTC素体と電極との界面も、保護層に覆われることとなる。よって、PTC素体と電極との界面も外気に触れることがなくなる。
【0007】
保護層は、電極の第2の主面のうちPTC素体の露出面近傍の周縁部分のみを覆う。このように比較的狭い範囲に形成された保護層は、表面張力の効果により盛り上がっている。したがって、第2の主面の周縁部分は、十分な厚さの保護層で覆われることとなる。第2の主面の周縁部分を十分な厚さの保護層で覆った場合には、第2の主面の周縁部分の近傍、すなわち電極とPTC素体との界面付近もまた、十分な厚さの保護層で覆われることとなる。よって、電極とPTC素体との界面周辺が外気に触れる可能性を顕著に抑制できる。
【0008】
露出面だけでなく、電極との界面付近も外気と接触しないようになっているPTC素体は、ガスバリア性が極めて良好であり、酸化しにくいものとなる。PTC素体を酸化しにくいものとすることにより、製造してから長期間経過後に熱履歴を受けたときのPTC素体の劣化を、十分に抑制することができる。また、電極の第2の主面にまでわたるよう保護層を形成することにより、保護層と電極との密着性を向上させることができる。その結果、保護層は剥離しにくいものとなり、PTC素体を確実に保護することが可能となる。
【0009】
本発明のPTC素子では、電極の第2の主面側からみたときに、当該第2の主面上に位置する保護層の端部からPTC素体の最も張り出した部分までの最短距離が1mm未満であることが好ましい。この場合、電極とPTC素体との界面付近は、保護層によっていっそう確実に保護されることとなる。その結果、PTC素体はより酸化されにくくなるため、製造してから長期間経過後に熱履歴を受けたときのPTC素体の劣化を更に抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、製造してから長期間経過後に熱履歴を受けたときのPTC素体の劣化が十分に抑制されたPTC素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0012】
図1は本実施形態に係るPTC素子の斜視図である。図1に示されるように、PTC素子1は、PTC素体10と、一対の電極12,14と、保護層20とを備えている。電極12,14は第1の主面120,140を有しており、第1の主面120および第1の主面140の一部は対向している。第1の主面120,140の対向している部分はPTC素体10と接合している。これにより、電極12,14はPTC素体10を挟むこととなる。電極12,14は、第1の主面120,140に対向する第2の主面121,141と、第1の主面120,140及び第2の主面121,141の間に位置する側面122,142とを有している。
【0013】
電極12,14は金属等の導電性材料からなり、厚み0.1mm程度に成形されている。電極12,14を構成する導電性材料としてはNi又はNi合金が好ましい。また、第1の主面120,140のうち、少なくともPTC素体10と接する部分は粗面化されていることが好ましい。この部分が粗面化されていると、アンカー効果によってPTC素体10に対して電極12,14がより強く固定されることとなる。電極12,14には、図示しないリードが接続される。接続されたリードを介して、電極12,14から外部に対して電荷を放出又は注入することが可能となる。
【0014】
電極12の第1の主面120と電極14の第1の主面140との間には、正の抵抗温度特性を有するPTC素体10が配置されている。PTC素体10は、高分子マトリックスと導電性粒子とを含んでいる。より具体的には、PTC素体10においては、高分子マトリックス中に導電性粒子が分散している。ここで、高分子マトリックスは熱可塑性樹脂であってもよいし、熱硬化性樹脂の硬化物であってもよいが、結晶性又は非晶性の熱可塑性樹脂であるときに本発明による効果がより顕著に得られる。なお、本明細書において、「熱可塑性樹脂」は、熱可塑性樹脂中の高分子鎖同士が架橋された状態のものも含むこととする。
【0015】
PTC素体10が後述する低分子有機化合物を含有している場合、高分子マトリックスを構成する熱可塑性樹脂の融点又は軟化点は、低分子化合物の融点よりも高いことが好ましい。これにより、動作時の低分子有機化合物の融解による流動やPTC素体10の変形を防止することができる。熱可塑性樹脂の融点又は軟化点は、低分子化合物の融点よりも30℃以上高いことがより好ましく、30℃以上110℃以下の範囲で高いことが更に好ましい。また、熱可塑性樹脂の融点又は軟化点は70℃〜200℃であることが好ましい。これにより、動作時の低分子有機化合物の流動やPTC素体10の変形をより確実に防止することができる。
【0016】
熱可塑性樹脂の分子量は、重量平均分子量Mwが1万〜500万程度であることが好ましい。また、熱可塑性樹脂のASTM D1238で定義されるメルトフローレートは0.1〜30g/10分であることが好ましい。
【0017】
高分子マトリックスとして好適な熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン(例えばポリエチレン)、1種又は2種以上のオレフィン(例えばエチレン、プロピレン)と極性基を含有する1種又は2種以上のオレフィン性不飽和モノマーとのコポリマー(例えばエチレン−酢酸ビニルコポリマー)、ポリハロゲン化ビニル又はポリハロゲン化ビニリデン(例えばポリビニルクロライド、ポリビニリデンクロライド、ポリビニルフルオライド、ポリビニリデンフルオライド)、ポリアミド(例えば12−ナイロン)、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、熱可塑性エラストマー、ポリエチレンオキサイド、ポリアセタール、熱可塑性変性セルロース、ポリスルホン類、ポリメチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中でもポリオレフィンが好ましく、ポリオレフィンの中でもポリエチレンが特に好ましい。
【0018】
熱可塑性樹脂のより具体的な例としては、高密度ポリエチレン(例えば、「ハイゼックス2100JP」(商品名、三井石油化学製)、「Marlex6003」(商品名、フィリップ社製))、低密度ポリエチレン(例えば、LC500(商品名、日本ポリケム製)、「DYNH−1」(商品名、ユニオンカーバイド社製))、中密度ポリエチレン(例えば、「2604M」(商品名、ガルフ社製))、エチレン−エチルアクリレートコポリマー(例えば、「DPD6169」(商品名、ユニオンカーバイド社製))、エチレン−アクリル酸コポリマー(例えば、「EAA455」(商品名、ダウケミカル社製))、ヘキサフルオロエチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー(例えば、「FEP100」(商品名、デュポン社製))、ポリビニリデンフルオライド(例えば、「Kynar461」(商品名、ペンバルト社製))が挙げられる。
【0019】
以上のような熱可塑性樹脂は1種で又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、高分子マトリックスは熱可塑性樹脂のみで構成されることが好ましいが、場合によってはエラストマー、熱硬化性樹脂の硬化物又はそれらの混合物を含んでいてもよい。
【0020】
PTC素体10に含まれる導電性粒子は、高分子マトリックスと組み合わせたときにPTC特性が発現するようなものであれば特に制限はないが、その材質としては、Niが特に好ましい。導電性粒子としてNi粒子を用いた場合、酸化によってPTC素体10の劣化が生じ易くなるため、保護層20が特に有用となる。
【0021】
導電性粒子は、その表面にスパイク状の突起が複数(通常10〜500個)形成されていることが好ましい。この場合、スパイク状の突起の高さは、典型的には粒径の1/3〜1/50程度であることが好ましい。
【0022】
導電性粒子は、一次粒子が個別に存在する粉体であってもよいが、一次粒子が10〜1000個程度連なった鎖状の二次粒子を形成していることが好ましい。前者の例としては、スパイク状の突起をもつ球状のNi粒子である「INCOType123ニッケルパウダ」(商品名、インコ社製)がある。このNi粒子の平均粒径は3〜7μm程度、見かけの密度は1.8〜2.7g/cm3程度、比表面積は0.34〜0.44m2/g程度である。鎖状の二次粒子を形成している導電性粒子の例としては、フィラメント状Ni粒子である「INCOType255ニッケルパウダ」、「INCO Type270ニッケルパウダ」、「INCO Type287ニッケルパウダ」又は「INCO Type210ニッケルパウダ」(以上商品名、インコ社製)があるが、特にINCO Type255、270及び287が好ましい。これらフィラメント状Ni粒子の見かけの密度は0.3〜1.0g/cm3程度であり、比表面積は0.4〜2.5m2/g程度である。
【0023】
フィラメント状Ni粒子を構成する一次粒子の平均粒径(フィッシュー・サブシーブ法で測定される値)は、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上4.0μm以下がより好ましく、1.0μm以上4.0μm以下が更に好ましい。更に、平均粒径が1.0μm以上4.0μm以下の一次粒子が連なってなるフィラメント状Ni粒子に、平均粒径が0.1μm以上1.0μm未満の一次粒子が連なってなるフィラメント状Ni粒子を導電性粒子全体の50質量%以下の割合で組み合わせてもよい。
【0024】
PTC素体10における導電性粒子の含有割合は、PTC特性が発現するように適宜決めることができる。具体的には、この導電性粒子の含有割合はPTC素体10の全体体積に対して20〜50体積%であることが好ましい。
【0025】
PTC素体10は、高分子マトリックス及び導電性粒子に加えて、低分子有機化合物を更に含有していることが好ましい。この場合の低分子有機化合物としては、分子量1000以下の結晶性化合物が好ましく用いられる。この低分子有機化合物は、常温(25℃程度)で固体であることが好ましい。また、低分子有機化合物は融点(mp)が40〜100℃であることが好ましい。
【0026】
低分子有機化合物の好適な具体例としては、炭化水素(例えば、炭素数22以上のアルカン系の直鎖炭化水素)、脂肪酸(例えば、炭素数22以上のアルカン系の直鎖炭化水素の脂肪酸)、脂肪酸エステル(例えば、炭素数20以上の飽和脂肪酸とメチルアルコール等の低級アルコールとから得られる飽和脂肪酸のメチルエステル)、脂肪酸アミド(例えば、炭素数10以下の飽和脂肪酸第1アミドやオレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどの不飽和脂肪酸アミド)、脂肪族アミン(例えば、炭素数16以上の脂肪族第1アミン)、高級アルコール(具体的には、炭素数16以上のn−アルキルアルコール)が挙げられる。低分子有機化合物は、動作温度等に応じて1種で2種以上を適宜組み合わせて用いられる。
【0027】
なお、低分子有機化合物は、これらを成分として含むワックス又は油脂の状態で用いることができる。これら低分子有機化合物を含むワックスとしては、パラフィンワックスやマイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックスをはじめとする植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックスのような天然ワックスが挙げられる。また、これら低分子有機化合物を含む油脂としては、脂肪又は固体脂と称されるものが挙げられる。
【0028】
低分子有機化合物又はこれらを含むワックスや油脂は、市販品として入手することが可能である。パラフィンワックスの市販品としては、例えば、「テトラコサンC24H50」(mp49〜52℃)、「ヘキサトリアコンタンC36H74」(mp73℃)、「HNP−10」(商品名、日本精蝋社製、mp75℃)、「HNP−3」(商品名、日本精蝋社製、mp66℃))がある。マイクロクリスタリンワックスの市販品としては、例えば、「Hi−Mic−1080」(商品名、日本精蝋社製、mp83℃)、「Hi−Mic−1045」(商品名、日本精蝋社製、mp70℃)、「Hi−Mic2045」(商品名、日本精蝋社製)、mp64℃)、「Hi−Mic3090」(商品名、日本精蝋社製、mp89℃)、「セラッタ104」(商品名、日本石油精製社製、mp96℃)、「155マイクロワックス」(商品名、日本石油精製社製、mp70℃)がある。脂肪酸の市販品としては、例えば、ベヘン酸(日本精化製、mp81℃)、ステアリン酸(日本精化製、mp72℃)、パルミチン酸(日本精化製、mp64℃)がある。脂肪酸エステルの市販品としては、例えば、アラキン酸メチルエステル(東京化成製、mp48℃)がある。脂肪酸アミドの市販品としては、例えば、オレイン酸アミド(日本精化製、mp76℃)がある。
【0029】
PTC素子1は、保護層20を備えている。保護層20は、PTC素体10の露出面(第2の外面)100を覆っている。PTC素体10の露出面100とは、PTC素体10の外面のうち、電極12,14の第1の主面120,140と接合する面(第1の外面)を除く部分を指す。
【0030】
保護層20は、電極12,14の第2の主面121,141までわたっている。より具体的にいうと、保護層20は、PTC素体10の露出面100だけでなく、電極12,14の側面122,142および第1の主面120,140を覆い、且つ、電極12,14の第2の主面121,141に伸びている。ただし、電極12,14の側面122,142および第1の主面120,140において保護層20に覆われるのは、PTC素体10の露出面100の周辺に位置する部分である。また、電極12,14の第2の主面121,141において保護層20に覆われるのは、PTC素体10の露出面100近傍の周縁部分のみとなっている。
【0031】
図2は、PTC素子1を電極12の第2の主面121側からみたときの側面図である。図3は図1のIII−III線に沿ったPTC素子1の断面図であり、図4は図1のIV−IV線に沿ったPTC素子1の断面図である。保護層20は、図3に示されるように、電極12の第2の主面121の周縁部分から電極14の第1の主面140にわたり、且つ、電極14の第2の主面141の周縁部分から電極12の第1の主面120にわたっている。また、図4に示されるように、電極12の第2の主面121の周縁部分から電極14の第2の主面141の周縁部分にわたっている。
【0032】
図2に示されるように、PTC素子1を電極12,14の第2の主面121,141側からみたときに、第2の主面121,141上に位置する保護層20の端部200からPTC素体10の最も張り出した部分までの最短距離Wは、1mm未満であることが好ましい。以下、Wについてより具体的に述べる。図3および図4に示されるようにPTC素体10の露出面100が電極12,14の側面122,142と揃っている場合、第2の主面141上に位置する保護層20の端部200からPTC素体10の側面122,142までの最短距離が、Wに相当する。一方、図5に示されるようにPTC素体10の露出面100が第1の主面120,140からはみ出ている場合には、第2の主面121,141上に位置する保護層20の端部200からPTC素体10の露出面100のうち最もはみ出ている所までの最短距離が、Wに相当する。
【0033】
保護層20は、エポキシ樹脂及びチオール系硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物の硬化物で形成されている。保護層20の硬化物を形成しているエポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂としては、一段法、二段法、酸化法等の方法で得られるもの等を、特に制限なく用いることができるが、芳香族アミンのグリシジルエーテルや、極性基を有するか又は硬化時に極性基を生成するものが好ましい。好適なエポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂や、テトラグリシジルm−キシレンジアミンのような脂肪族アミンのグリリジル化物、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンのような芳香族アミンのグリリジ化物、アミノフェノール型エポキシ樹脂がある。
【0034】
チオール系硬化剤としては、チオール基を2個以上有しているチオール化合物であれば、特に制限なく用いることができる。好適なチオール系硬化剤の具体例としては、ペンタエリストールテトラチオグリコレート及びトリメチロールプロパントリスチオプロピオートのような脂肪族ポリチオエステルや、脂肪族ポリチオエーテル、芳香環含有ポリチオエーテルがある。エポキシ樹脂組成物中のチオール系硬化剤の量は、当業者には理解されるように、エポキシ樹脂との当量比等を考慮して適宜決定される。
【0035】
エポキシ樹脂組成物は、2級アミノ基又は3級アミノ基を有するアミン化合物を更に含有することが好ましい。このアミン化合物としては、芳香族アミン及び脂肪族アミン、アミンーエポキシアダクト、イミダゾール、イミダゾールアダクト等が好ましく用いられる。
【0036】
エポキシ樹脂組成物は、上記の成分の他、シリカ、マイカ、タルク粒子等のフィラーや、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の無機塩、カルボン酸及びフェノール等の他の硬化剤又は硬化促進剤、樹脂組成物の粘度調整を目的とした溶剤を更に含有していてもよい。
【0037】
続いて、上述した構成を有するPTC素子1の製造方法について説明する。
【0038】
PTC素体10中の高分子マトリックスが熱可塑性樹脂を含むものである場合、PTC素子1は、例えば、熱可塑性樹脂及び導電性粒子を含有する混合物を混練してこれらを含有する混練物を得る工程と、混練物をシート状に成形して熱可塑性樹脂を含む高分子マトリックス中に導電性粒子が分散しているPTC素体10を形成させる工程と、PTC素体10に対して1対の電極12,14を熱圧着により固定する工程と、PTC素体10の露出面および電極12,14において露出面100の周辺に位置する部分を一体的に覆う保護層20を形成させる工程とを備える製造方法により、得ることができる。
【0039】
混練物を得る工程は、各成分を混合した混合物を、熱可塑性樹脂の融点又は軟化点以上の温度(好ましくは融点又は軟化点よりも5〜40℃高い温度)に加熱しながら行うことができる。あるいは、熱可塑性樹脂を溶解する溶剤を加えて混合物を低粘度化した状態で混練することにより、加熱することなく熱可塑性樹脂中に導電性粒子を分散させることもできる。混練は、ミル、加圧ニーダ、二軸押出機等の公知の方法で行うことができる。
【0040】
得られた混練物を熱プレス等の方法によってシート状に成形することにより、PTC素体10として形成される。この段階で打ち抜き等によりPTC素体10を所定のサイズに切り出してもよい。
【0041】
PTC素体10を1対の電極12,14の間に挟んだ挟持体を熱プレスすることにより、PTC素体10に対して1対の電極12,14が固定される。電極12,14を固定した後、放射線照射等によって高分子マトリックス中の熱可塑性樹脂を架橋させることが好ましい。この架橋によりPTC素子1の熱に対する安定性がより良好になる。
【0042】
保護層20は、上述のエポキシ樹脂組成物をPTC素体10の露出面100および第1の主面120,140、第2の主面121,141、側面122,142に付着し、付着しているエポキシ樹脂組成物を加熱してその硬化反応を進行させることにより形成される。エポキシ樹脂組成物を付着させる方法は特に制限されず、例えば、治具を用いてPTC素体10および電極12,14の表面にエポキシ樹脂組成物を転写させる方法や、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、ディスペンサー印刷法等を用いることができる。なお、エポキシ樹脂組成物を溶媒に溶解又は分散した状態でPTC素体10等に付着させてから乾燥により溶媒を除去してもよい。この場合、乾燥及び硬化を同時に又は連続的に行うこともできる。
【0043】
エポキシ樹脂組成物の硬化の条件は、チオール系硬化剤の種類やこれに組み合わせる硬化促進剤(3級アミン等)等に応じて適宜決定すればよいが、PTC素子1の動作温度以下に加熱して保護層20を形成させることが好ましい。動作温度を超える温度での加熱による保護層20を形成させると、常温に戻したときのPTC素子1の抵抗値が、エポキシ樹脂を硬化する前のPTC素子1の抵抗値よりも上がってしまう場合がある。ここで、動作温度は、PTC素子1を2℃/分の昇温速度で昇温したときの抵抗値の変化を示す抵抗−温度曲線において、PTC特性を示す領域よりも低い温度領域で抵抗値がほぼ一定である部分の接線と、抵抗値が温度上昇とともに急激に立ち上がる部分の接線との交点の温度のことをいう。具体的には、チオール系硬化剤を用いているエポキシ樹脂組成物の場合、50〜90℃に加熱して保護層20を形成することが好ましい。この場合、加熱時間は5〜120分が好ましい。
【0044】
このようにして製造されたPTC素子1では、PTC素体10の露出面100を保護層20が覆っている。そのため、PTC素体10の露出面100は外気にさらされることがなくなる。保護層20は、PTC素体10の露出面100と共に、電極12,14の側面122,142および第1の主面120,140の一部分を覆っている。かかる一部分とは、PTC素体10の露出面100の周辺に位置する部分である。そのため、電極12,14とPTC素体10との界面は保護層20で覆われることとなり、外気にさらされることがなくなる。
【0045】
保護層20は電極12,14の第2の主面121,141にわたっている。ただし第2の主面121,141のうち、保護層20に覆われるのは、PTC素体10の露出面100近傍の周縁部分のみである。このように比較的狭い範囲に形成された保護層20は、表面張力の効果によって盛り上がり、十分な厚さとなる。第2の主面121,141の周縁部分にて十分な厚さを有する保護層20は、この周縁部分の近傍、すなわち電極12,14とPTC素体10との界面付近、においても、十分な厚さを有することとなる。その結果、PTC素体10と電極12,14との界面付近が外気にさらされる可能性を、更に抑制できる。
【0046】
このように、保護層20によって外気との接触を極力抑制されたPTC素体10は、ガスバリア性が極めて良好であり、酸化しにくいものとなる。PTC素体10を酸化しにくいものとすることにより、製造してから長期間経過後に熱履歴を受けたときのPTC素体の劣化を、十分に抑制することができる。
【0047】
また、電極12,14の第2の主面121,141にわたるよう保護層20を形成することにより、保護層20と電極12,14との密着性を向上させることができる。その結果、保護層20の剥離が生じにくくなるため、PTC素体10を保護層20によって確実に保護することが可能となる。また、第2の主面121,141のうち、周縁部分以外の部分、すなわち第2の主面121,141の中央部は、保護層20に覆われていない。そのため、第2の主面121,141の中央部にレーザーマーキング等を施すことが容易となる。この部分に施したレーザーマーキングは、保護層20に隠れることがないので、外観から容易に判別できる。
【0048】
更に、第2の主面121,141上に位置する保護層20の端部200からPTC素体10の最も張り出した部分までの最短距離Wは、1mm未満であることが好ましい。最短距離Wを1mm未満とした場合、電極12,14とPTC素体10との界面付近は、保護層20によって確実に保護されることとなる。その結果、PTC素体10はいっそう酸化されにくくなるため、製造してから長期間経過後に熱履歴を受けたときのPTC素体10の劣化を更に抑制することができる。
【0049】
ここで、上述の最短距離Wを1mm未満とした場合にPTC素体10がいっそう酸化されにくくなることを確認するため、以下の実験を行った。すなわち、PTC素子1に対して熱衝撃試験およびトリップ動作試験を行い、試験前後における室温抵抗値の変化を調べた。
【0050】
まず、保護層20の厚さTが異なるPTC素子1を数種類用意し、熱衝撃試験を行った。なお保護層20の厚さTは、PTC素体10の露出面100、及び、PTC素体1と電極12,14との界面付近において、保護層20が最も薄くなっているところの厚さを指す。用意した各PTC素子1は、製造後180日間、空気中に放置されたものである。熱衝撃試験を行う前に、用意した各PTC素子1の室温抵抗値を測定して初期値の確認をした。確認後、各PTC素子1に対し、100℃で5時間熱衝撃を与えた。熱衝撃を付与した後の各PTC素子1の室温抵抗値を測定し、熱衝撃前と熱衝撃後における各PTC素子1の室温抵抗値の変化を調べた。その結果を図6および図7に示す。実施例1〜13は、保護層20の厚さT(図6ではT_MINとして記載)が3μm以上のPTC素子1である。実施例14〜20は、保護層20の厚さT(図6ではT_MINとして記載)が3μm未満のPTC素子1である。
【0051】
実施例1〜13のPTC素子1では、室温抵抗値の変化量(図6ではΔRとして記載)が20mΩ以下であった。それに対して、実施例14〜20のPTC素子1では、室温抵抗値の変化量が50mΩ以上のものが多くみられた。熱衝撃試験では、PTC素体10の酸化が進むと、室温抵抗値の変化量が大きくなることが知られている。したがって、保護層20の厚さTを3μm以上とした場合には、PTC素体10はより酸化されにくくなることがわかった。
【0052】
次に、保護層20の厚さTが異なるPTC素子1を数種類用意し、トリップ動作試験を行った。用意した各PTC素子1は、製造後180日間、空気中に放置されたものである。トリップ動作試験を行う前に、各PTC素子1の室温抵抗値を測定して初期値の確認をした。確認後、各PTC素子1を電気回路(電源6V、20A)に接続してトリップ動作させた。トリップ動作後の各PTC素子1の室温抵抗値を測定し、トリップ動作前後における各PTC素子1の室温抵抗値の変化を調べた。その結果を図8および図9に示す。なお、実施例1〜13は、保護層20の厚さT(図8ではT_MINとして記載)が3μm以上のPTC素子1を示す。実施例14〜20は、保護層20の厚さT(図8ではT_MINとして記載)が3μm未満のPTC素子1を示す。
【0053】
実施例1〜13のPTC素子1では、抵抗値の変化量(図8ではΔRとして記載)が5mΩ以下のものが多くみられた。それに対して、実施例14〜20のPTC素子1では、室温抵抗値の変化量が5mΩ以上のものが多くみられた。熱衝撃試験と同様に、トリップ動作試験においても、PTC素体10の酸化に応じて室温抵抗値の変化量が大きくなることが知られている。したがって、トリップ動作試験の結果からも、保護層20の厚さTを3μm以上とした場合、PTC素体10はより酸化されにくくなることがわかった。
【0054】
続いて、上述の最短距離Wが異なるPTC素子1を数種類用意した。そして、各PTC素子1において、保護層20の厚さTを測定した。その結果を図10および図11に示す。実施例21〜31は、上述の最短距離Wが50μm以上1mm未満となっているPTC素子1を示す。実施例32〜40は、上述の最短距離Wが0mmであるPTC素子1および1mm以上であるPTC素子1を示す。
【0055】
実施例21〜31のPTC素子1では、保護層20の厚さTが3.2μm以上であった。それに対して、実施例32〜40のPTC素子1では、保護層20の厚さTが2.8μm以下であった。この結果から、保護層20の端部200からPTC素体10の露出面100までの最短距離Wを1mm未満とすれば、保護層20の厚さTが3μm以上となることがわかる。
【0056】
以上の試験結果から、第2の主面121,141上に位置する保護層20の端部200からPTC素体10の露出面100までの最短距離Wを1mm未満とすれば、保護層20の厚さTが3μm以上となるため、PTC素体10はより酸化されにくくなることが確認された。
【0057】
ところで、本実施形態の第2の主面121,141をみると、保護層20で覆われているのはPTC素体10の露出面100近傍の周縁部分のみとなっている。ここで、かかる周縁部分だけでなく、第2の主面121,141においてPTC素体10と重なる領域全体を保護層20で覆った場合について考える。PTC素体10と重なる領域全体を保護層20で覆うということは、図2に示されるPTC素子1において、最短距離WがPTC素体10の幅あるいは長さと同一となるように保護層20を広げるということである。先述した試験によって、最短距離Wが1mm以上になるとPTC素体10が酸化されやすくなることが確認されている。このことから、上述の場合、すなわち第2の主面121,141においてPTC素体10と重なる領域全体を保護層20で覆った場合には、PTC素体10は酸化されやすくなってしまうことが容易に理解されよう。なお、第2の主面121,141のうちPTC素体10と重なる領域全体に保護層20を重ね付けした場合には、保護層20の厚さTが厚くなるためPTC素体1と電極12,14との界面が露出しにくくなり、PTC素体10の酸化が抑制されることが考えられる。しかしながらこの場合には、第2の主面121,141に保護層20の表面張力による凸部が形成されるため、実装時におけるPTC素子1の安定性が悪くなってしまう。また、PTC素子1の寸法も大きくなってしまう。更に、保護層20を重ね付けする工程が発生するため、製造コストが上昇するおそれもある。以上のことから、第2の主面121,141のうちPTC素体10と重なる領域全体に保護層20を重ね付けすることは、PTC素体10の酸化を防ぐための有効な手立てとは言いがたい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本実施形態に係るPTC素子の斜視図である。
【図2】本実施形態に係るPTC素子を電極の第2の主面側からみたときの側面図である。
【図3】図1のIII−III線に沿ったPTC素子の断面図である。
【図4】図1のIV−IV線に沿ったPTC素子の断面図である。
【図5】本実施形態に係る他のPTC素子の断面図である。
【図6】熱衝撃試験の結果を示す表である。
【図7】熱衝撃試験の結果を示すグラフである。
【図8】トリップ動作試験の結果を示す表である。
【図9】トリップ動作試験の結果を示すグラフである。
【図10】最短距離Wと厚さTとの関係を示す表である。
【図11】最短距離Wと厚さTとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0059】
1・・・PTC素子、10・・・PTC素体、12,14・・・電極、20・・・保護層、100・・・露出面、120,140・・・第1の主面、121,141・・・第2の主面、122,142・・・側面、200・・・端部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子マトリックスおよび導電性粒子を含むPTC素体と、
前記PTC素体と接合する第1の主面と、当該第1の主面に対向する第2の主面とを有する電極と、
前記PTC素体の外面のうち前記電極の前記第1の主面と接合する第1の外面を除く第2の外面を覆う保護層と、
を備え、
前記保護層が、前記電極の前記第2の主面までわたっており、且つ、当該第2の主面のうち前記第2の外面近傍の周縁部分のみを覆うことを特徴とするPTC素子。
【請求項2】
前記電極の前記第2の主面側からみたときに、当該第2の主面上に位置する前記保護層の端部から前記PTC素体の最も張り出した部分までの最短距離が1mm未満であることを特徴とする請求項1に記載のPTC素子。
【請求項1】
高分子マトリックスおよび導電性粒子を含むPTC素体と、
前記PTC素体と接合する第1の主面と、当該第1の主面に対向する第2の主面とを有する電極と、
前記PTC素体の外面のうち前記電極の前記第1の主面と接合する第1の外面を除く第2の外面を覆う保護層と、
を備え、
前記保護層が、前記電極の前記第2の主面までわたっており、且つ、当該第2の主面のうち前記第2の外面近傍の周縁部分のみを覆うことを特徴とするPTC素子。
【請求項2】
前記電極の前記第2の主面側からみたときに、当該第2の主面上に位置する前記保護層の端部から前記PTC素体の最も張り出した部分までの最短距離が1mm未満であることを特徴とする請求項1に記載のPTC素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−294860(P2007−294860A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−4978(P2007−4978)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
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