説明

PVMVに対する抵抗性を有する植物の選別又は取得方法

本発明は、トウガラシ葉脈斑紋病(PVMV)に対する抵抗性を有する植物のeIF4E遺伝子及びeIF(iso)4Eにおける突然変異の組合せを検出又は誘発することによる前記植物の選別又は取得に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、eIF4E遺伝子及びeIF(iso)4E遺伝子における突然変異の組合せを介してポティウイルス(Potyvirus)属のウイルスに対する抵抗性を有する植物を選別又は取得する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポティウイルスは最も大きな植物ウイルス群を形成する。これらのウイルスは植物ウイルスの約3分の1を占め、30科を超える植物を感染させることができる(SHUKLA et al., 1994,In Genome structure,variation and function in the Potyviridae,CAB International編,Wallingford, UK)。ポティウイルスの伝播は、非永続的にアブラムシ(例えばMyzus persicae)によって行なわれる。この感染は、葉の着色異常(モザイク、葉脈の黄変)、葉の変形、植物全体の壊死、ひいては罹患した植物のサイズの大幅な低減及び生産能力の喪失を導き得る葉脈の壊死を誘発する。花、種子及び果実自体も同様に数多くのポティウイルスに罹患し、その結果、繁殖力の低下、種子によるポティウイルスの伝搬並びに果実の変形、変色及び壊死がもたらされる。
【0003】
ポティウイルスは、エンベロープのない長さ680〜900nm、幅11〜15nmの糸状構造を有する(LANGENBERG及びZHANG, J. Struct. Biol. 118(3): 243−247, 1997)(DOUGHERTY及びCARRINGTON, Ann. Rev. Phytopathol. 26: 123−143, 1988; RIECHMANN et al., J. Gen. Virol. 73: 1−16, 1992)。ウイルスゲノムはおよそ10kbの長さのセンス1本鎖RNAで構成されている。1本鎖RNAはその3’末端にポリA尾部を有し、5’で、Viral Protein genome−linkedを略してVPgと呼ばれるウイルスタンパク質に結合する(MURPHY et al., Virol. 178: 285−288, 1990; TAKAHASHI et al., Virus genes 14(3): 235−243, 1997)。ウイルスRNAは、感染サイクルのさまざまな段階、すなわちポリプロテインの切断、ウイルスゲノムの複製、細胞間移動、長距離移動、アブラムシによる伝播及び「RNAサイレンシング」の阻害などに関与する10種の機能タンパク質に成熟するポリプロテインをコードする。
【0004】
ナス科、ウリ科、マメ科、アブラナ科及びキク科が特にポティウイルスに対し感受性をもつ。例えば、ナス科そしてより詳細にはトマト及びトウガラシ(又はピーマン)は、全く異なる複数のポティウイルスによる感染を受ける。そのうちジャガイモYウイルス(Potato virus Y − PVY)は、栽培地域全体にわたり存在するが、一方その他のものは一大陸に限定されている(Tobacco etch virus(TEV)、Pepper mottle virusはアメリカ大陸、Pepper veinal mottle virus(PVMV)及びPotyvirus Eはアフリカ、そしてChili veinal mottle virusはアジア)。しかしながら、いくつかのポティウイルスがその原産地域以外で同定されていることから、この区分はもはや絶対的なものではない。PVMVはまず最初に1971年にガーナでトウガラシ類及びペチュニア上で単離された。以降、PVMVは複数のアフリカ諸国で、主としてサハラ以南の地域であるが同様にチュニジア及びエチオピアでも同定された(BRUNT et al., Ann. Appl. Biol. 69: 235−243, 1971; BRUNT et al., Ann. Appl. Biol. 88: 115−119, 1978; GORSANE et al., Plant Mol. Biol. Reptr. 17: 149−158, 1999)。その天然の宿主は主として、トウガラシのみならずトマト、タバコ及びナスを含むナス科である。
【0005】
現在のところ、真菌又は細菌による感染とは異なり、ウイルスに対する直接的な対抗手段は存在しない。用いられている戦略は、アブラムシといったようなウイルスの媒介動物を除去し、かつ/又は栽培地域内に最も多く存在するウイルスに対して抵抗性のある植物を選別し栽培することから成る。
【0006】
種子市場の国際化により、育種家にとっては多抵抗性の亜種を作り出すことが増々不可欠になっている。より一般的には、ポティウイルスによる感染の経済的重大性そしてこのタイプの感染に対する直接的な対抗手段がないことを考慮すると、多抵抗性の植物亜種の探究が、植物改良の主軸の一つを構成する。
【0007】
CARANTA et al.(Phytopathol. 86(7): 739−743, 1996)はトウガラシにおいて、或る特定の遺伝子座の組合せが抵抗性のスペクトルを拡大し、新しいポティウイルスに対する抵抗性を付与することができるということを示した。かくして、PVMVに対する抵抗性を有する植物が、共にPVMVに対し感受性を有するCapsicum annuum Perennial及びFlorida VR2の亜種間の交配に由来する倍化半数体の子孫において同定された。遺伝子解析により、(Florida VR2に由来し、かつ病原型0及び1のPVY並びにTEVに対する抵抗性を制御する)劣性遺伝子pvr2と、Perennial由来のpvr6と名付けられたもう一つの劣性因子との協働からPVMVに対する抵抗性が得られることが示された。
【0008】
病原因子(ウイルス、細菌、菌類又は線虫)による攻撃に対して、植物は、感染から自己防御する又は感染に耐えるためのいくつかの戦略を有している。非宿主抵抗性(一つの種の全ての個体が一つの特定の病原体に対する抵抗性を有する場合)と宿主耐性(その種の少なくとも一つの個体が病原因子の一つの株に対し感受性を有する場合)が区別される。関与する遺伝子が優性であるか劣性であるかに応じて宿主抵抗性の二つの導入方法を区別することが可能である。
【0009】
FLOR(Ann. Rev. Phytopathol. 9: 275−296, 1971)によって記載された「遺伝子対遺伝子モデル」では、植物の優性主働遺伝子が関与する。抵抗性は、病原因子におけるこの遺伝子及び対応する特異的非病原性遺伝子の存在に左右される。これら二つの遺伝子が同時に存在する場合、宿主植物の抵抗性が誘発され、往々にして、感染部位に局在した過敏反応(壊死)に関与する。
【0010】
抵抗性は同様に劣性の植物遺伝子によっても制御可能である。特に、ポティウイルスに対する抵抗性の半分近くが劣性であると推定されており、一方その他の病原因子についてのこの割合は平均20%にすぎない。FRASER(Euphytica 63: 175−185, 1992)は、劣性の抵抗性が、植物内でのウイルスのサイクルの完成に必要な宿主の遺伝子産物の特異的な欠損又は改変の結果もたらされるという、「Fraserの負のモデル」という名前で知られている仮説を提起した。
【0011】
ポティウイルスのVPgタンパク質は、ポティウイルス/宿主植物の相互作用、特に或る特定の宿主植物に対する或る特定のポティウイルス株の病原性において重要な役割を果たす。VPgタンパク質内に突然変異を有するポティウイルスは、ウイルス増殖の阻害、細胞間のポティウイルスの移動の阻害又は長距離でのそれらの移動の阻害といったさまざまな機序に関与する、抵抗性の劣性遺伝子を回避することができるということが示されている。このことは、TVMV/Nicotiana tabacum(va遺伝子)、PVY/トマト(pot−1遺伝子)、PVY/トウガラシ類(pvr2遺伝子)、LMV/レタス(mo1遺伝子)及びPSbMV/エンドウ(sbm1遺伝子)という対において示された(KELLER et al., Mol. Plant−Microbe Interact. 11: 124−130 20, 1998; MOURY et al., Mol. Plant−Microbe Interact. 17(3): 322−329, 2004; REDONDO et al., Mol. Plant−Microbe Interact. 14: 804−810, 2001; NICOLAS et al., Virol. 237: 452−459 35, 1997; MASUTA et al., Phytopathol. 89: 118−123, 1999)。
【0012】
ポティウイルスのVPgタンパク質と相互作用することができる宿主植物の因子の中には、特に、RNAの真核生物翻訳開始因子4E(eIF4E)が存在し、そして特にeIF4E及びeIF(iso)4Eと呼ばれるアイソフォームが存在する(WITTMAN et al., Virol. 234: 84−92, 1997; SCHAAD et al., Virol. 273: 300−306, 2000; LELLIS et al., Curr. Biol. 12: 1046−1051, 2002; DUPRAT et al., Plant J. 32: 927−934, 2002)。植物においては、eIF4Eは、RNAのキャップ(m7GpppN)と翻訳開始構造を結合させることを可能にするeIF4F複合体(eIF4EとeIF4Gの化合物)を構成する(BROWNING, Plant Mol. Biol. 32(1−2): 107−143, 1996)。植物細胞から二つのeIF4F複合体(eIF4F及びeIF(iso)4Fと命名されたもの)が精製され、そのそれぞれのサブユニットは、RNAのキャップに結合するサブユニットについてはeIF4E(サブユニットp26)及びeIF(iso)4E(サブユニットp28)、もう一つのサブユニットについてはeIF4G及びeIF(iso)4Gと命名された。さまざまなタイプのRNAの翻訳に関与すると思われるeIF4E及びeIF(iso)4Eは植物における小さい多重遺伝子族に属しており、該多重遺伝子族はArabidopsis thalianaにおいては4つの遺伝子から成り、そのうちの三つがeIF4Eをコードし、一つがアイソフォームeIF(iso)4Eをコードする(RODRIGUEZ et al., Plant J. 13(4): 465−473, 1998)。
【0013】
タンパク質eIF4E及びeIF(iso)4Eは両方共、IF4Eと呼ばれる保存されたドメインを有する。このドメインは、PFAMデータベース(BATEMAN et al., Nucleic Acids Res. 30: 276−280, 2002)上にPFAM01652という番号で載っている。しかしながら、同じサブファミリー(すなわち4E又は(iso)4E)に属し異なる種に由来するeIF4Eタンパク質は、同じ種に由来するeIF4Eタンパク質とeIF(iso)4Eタンパク質の間で見られるもの(42〜51%の同一性)を上回る同一率を示す(eIF4Eタンパク質間では61〜86%の同一性、eIF(iso)4Eタンパク質間では59〜82%の同一性)(RUFFEL et al., Gene, in press, 2004)。
【特許文献1】国際公開第03/066900号パンフレット
【非特許文献1】CARANTA et al., Phytopathol. 86(7): 739−743, 1996
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以下の記載では、それぞれサブファミリーeIF4E及びサブファミリーeIF(iso)4Eを代表するタンパク質として、Capsicum annuumのeIF4Eタンパク質及びeIF(iso)4Eタンパク質について述べる。
【0015】
Capsicum annuumのeIF4Eタンパク質をコードするcDNA配列(GenBank No.AY122052)は、添付の配列表において配列番号1で示されており、推定されたポリペプチド配列は配列番号2で示されている。
【0016】
Capsicum annuumのeIF(iso)4Eタンパク質をコードするcDNA配列は、添付の配列表において配列番号3で示されており、推定されたポリペプチド配列は配列番号4で示されている。
【0017】
ここでは、IF4Eドメインを含み、かつそのペプチド配列が少なくとも60%、好ましくは少なくとも65%、きわめて好ましくは少なくとも70%の全体的な同一性をCapsicum annuumのeIF4Eタンパク質(配列番号2)との間で有しているあらゆるタンパク質を、eIF4Eタンパク質と定義する。
【0018】
IF4Eドメインを含み、かつそのポリペプチド配列が少なくとも59%、好ましくは少なくとも65%、きわめて好ましくは少なくとも70%の同一性をCapsicum annuumのeIF(iso)4Eタンパク質(配列番号4)との間で有しているあらゆるタンパク質を、eIF(iso)4Eタンパク質と定義する。
【0019】
ここで述べた同一率とは、配列番号2又は配列番号4の参照配列の全てを含む配列のアラインメントにGCG(Genetics Computer Group)のPILEUPプログラムを利用することにより決定された全体的な同一率である。
【0020】
eIF4E又はeIF(iso)4Eを改変する突然変異は、或る特定のポティウイルス種に対する劣性の抵抗性を誘発するということが報告されてきている。例えば、Arabidopsis thalianaにおけるeIF(iso)4Eアイソフォームをコードする遺伝子の分断は、Turnip mosaic virus(TuMV)、TEV及びLettuce mosaic virus(LMV)に対する抵抗性を誘発するものの、Tomato black ring virus(TBRV、Nepovirus属)又はCucumber mosaic virus(CMV、Cucumovirus属)に対する抵抗性には効果が無いということが示された(DUPRAT et al., Plant J. 32: 927−934, 2002; LELLIS et al., Curr. Biol. 12: 1046−1051, 2002)。NICAISE et al.(Plant Physiol., 132: 1272−1282, 2003)は、レタスモザイクウイルス(LMV)に対する抵抗性をもつ植物はeIF4E遺伝子内に点突然変異を有し、その反面、抵抗性レタス植物におけるeIF(iso)4E遺伝子の配列は感受性のある植物のものと異なっていないということを示した。
【0021】
RUFFEL et al.(Plant J. 32: 1067−1075, 2002)ならびに国際公開第03/066900号パンフレットは、劣性遺伝子pvr2により付与されたTEV及びPVYに対する劣性の抵抗性が、eIF4E内、特にこのタンパク質の、さまざまな植物種に由来するeIF4Eタンパク質間できわめて高度に保存された領域内での配列の変異と関係するということを示している。
【0022】
本発明者は今や、トウガラシにおけるpvr6遺伝子座とeIF(iso)4E遺伝子との同時分離を実証した。本発明者は、PVMVに対する抵抗性を示す植物が、国際公開第03/066900号パンフレットに記載されたような翻訳因子eIF4Eをコードする突然変異した対立遺伝子(抵抗性対立遺伝子pvr2)に加えて、eIF(iso)4Eをコードする配列内の突然変異を有するということを確認した。
【0023】
この突然変異は、野生型タンパク質の202個のアミノ酸の51番目のアミノ酸に終止コドンが組み込まれ、コード配列において82bpが欠失することから成る。野生型eIF(iso)4Eタンパク質と突然変異タンパク質の間では最初の29のアミノ酸のみが保存され、そのことは、突然変異タンパク質がもはや機能的でないことを表わしている。
【0024】
従って、単独ではPVMV抵抗性を付与しないものの劣性因子pvr2と協働した場合にはこの抵抗性を付与することができるものとして先に記載した劣性因子pvr6(CARANTA et al., 1996,前掲書)は、eIF(iso)4E遺伝子に対応する。これまでに同定されたeIF4E又はeIF(iso)4Eの突然変異体の場合、これら二つの遺伝子の一方のみの突然変異で一つ又は複数の特定のポティウイルスに対する劣性の抵抗性を充分に付与できることから、pvr6とeIF(iso)4Eの間のこの対応は予想外のことである。
【0025】
従って、PVMVを第一の例とする一部のポティウイルスは、それらの感染サイクルを完成させるためのeIF4E及びeIF(iso)4Eの利用に関して、これまでに見られたものとは異なる形の挙動を示すと思われる。これまで研究されたポティウイルスが、宿主植物内でeIF4E或いはeIF(iso)4Eの一方を利用していたのに対し、PVMVはeIF4E及びeIF(iso)4Eの両方を利用することができると思われる。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は、PVMVに対する抵抗性を有する植物の選別方法において、試験対象の植物において、前記植物内に存在するeIF4E及びeIF(iso)4Eタンパク質の形態を調査する段階、並びに
a) DX1234KSX5QX6AWGSSX7RX89YTFSX10VEX11FWX1213YNNIHX14PSKLX1516GAD(式中、
− X1、X2、X3、X4、X6、X7、X8、X9、X10、X12、X13、X15及びX16は各々中性アミノ酸を表わし、
− X5及びX14は塩基性アミノ酸を表わし、
− X11は酸性アミノ酸を表わし、
− D、K、S、Q、A、W、G、R、Y、T、F、V、E、N、I、H、P及びLは一文字コードでのその通常の意味を有する)
という一般配列(I)により定義される領域を含むeIF4Eタンパク質(以下「野生型eIF4Eタンパク質」と呼ぶ)を全く発現せず、
かつ、前記配列(I)の少なくとも一つの中性アミノ酸を荷電アミノ酸好ましくは塩基性アミノ酸により置換し、かつ/又は前記配列(I)の少なくとも一つの荷電アミノ酸を中性アミノ酸又は逆の電荷をもつアミノ酸により置換することにより上述の配列(I)が定義する領域から誘導された領域を含む、突然変異eIF4Eタンパク質を発現し、かつ
b) 機能性eIF(iso)4Eタンパク質を全く発現しない、
植物を選別する段階、
を含んで成ることを特徴とする方法に関する。
【0027】
ここで、「中性アミノ酸」として定義されるのは、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニン、グリシン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、グルタミン、アスパラギンの中から選択されるあらゆるアミノ酸である。「荷電アミノ酸」として定義されるのは、ヒスチジン、リジン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸の中から選択されるあらゆるアミノ酸である。これらの荷電アミノ酸の中で、ヒスチジン、リジン又はアルギニンは塩基性アミノ酸であり、グルタミン酸及びアスパラギン酸は酸性アミノ酸である。
【0028】
ここで「機能性eIF(iso)4Eタンパク質」として定義されるのは、eIF(iso4G)と複合体を形成しRNAのキャップに結合することができるeIF(iso)4Eタンパク質である。機能性eIF(iso)4Eタンパク質を全く発現しない植物は、いかなるeIF(iso)4Eタンパク質も発現できないか、或いは非機能性eIF(iso)4Eタンパク質のみを発現できるかである。
【0029】
eIF(iso)4Eタンパク質の発現の欠如は、例えば、このタンパク質をコードする配列の欠失、又はeIF(iso)4E遺伝子の転写及び/もしくは翻訳の欠如によって生じ得る。eIF(iso)4Eタンパク質の非機能性は例えば、このタンパク質をコードする配列中の突然変異などによって生じる。
【0030】
この非機能性eIF(iso)4Eタンパク質に関しては、野生型eIF(iso)4Eタンパク質における、真核生物のeIF(iso)4Eタンパク質間に保存されているIF4Eドメインの8つのトリプトファン残基のうちの一つ又は複数を含む部分を、前記非機能性eIF(iso)4Eタンパク質内に有していない植物が、優先的に選別される。これらのトリプトファン残基は、配列番号4の配列の34位、37位、50位、67位、96位、107位、121位及び156位にあるものに対応している。これらは、配列のアラインメントに基づき、その他のあらゆるeIF(iso)4Eタンパク質内で当業者により容易に位置特定され得る。
【0031】
有利には、欠失部分は、配列番号4の配列の31〜36位、47〜52位、64〜69位、93〜98位、118〜123位及び153〜158位に対応するIF4Eドメインの領域のうちの一つ又は複数を含む。
【0032】
特に有利には、欠失部分は、配列番号4の参照配列の30〜202位に対応するIF4Eドメインの残基を含んでいる。
【0033】
eIF(iso)4Eタンパク質におけるこの欠失は、eIF(iso)4E遺伝子のコード部分における欠失により生じ得る。これは同様にeIF(iso)4E内の点突然変異、又は早まった終止コドン及び/もしくはリーディングフレームのずれを導く外因性配列の挿入によっても生じ得る。関係する突然変異のタイプ及びこの突然変異の位置に応じて、その生じた非機能性eIF(iso)4Eタンパク質は、欠失部分の代りに非関連配列を含み得る。
【0034】
eIF4Eタンパク質に関しては、
− 荷電アミノ酸による、前記配列(I)のアミノ酸X1、X2、X3又はX4のうちの少なくとも一つの置換、及び
− 荷電アミノ酸による、前記配列(I)のその他の中性アミノ酸のうちの少なくとも一つの置換、及び/又は
− 中性アミノ酸もしくは逆の電荷をもつアミノ酸による、前記配列(I)の荷電アミノ酸のうちの少なくとも一つの置換
により上述の配列(I)が定義する領域から誘導された領域を含む突然変異eIF4Eタンパク質を有する植物が優先的に選別される。
【0035】
特に好ましくは、
− 塩基性アミノ酸による、配列(I)の中性アミノ酸X3の置換、
− 塩基性アミノ酸による、配列(I)の中性アミノ酸X7の置換、
− 中性アミノ酸による、配列(I)のC末端の位置にあるアスパラギン酸残基の置換
により上述の配列(I)が定義する領域から誘導された領域を含む突然変異eIF4Eタンパク質を含有する植物が選別される。
【0036】
試験対象の植物に存在するeIF4Eタンパク質及びeIF(iso)4Eタンパク質の形態の検出は、例えばeIF4Eタンパク質又はeIF(iso)4Eタンパク質の野生型の形態又は突然変異型の形態に対して特異的な抗体などを用いて実施可能である。
【0037】
しかしながら、一般に、試験対象の植物に存在するeIF4E及びeIF(iso)4E遺伝子の対立遺伝子の形態を調べることによりこの検出を行うのがより便利である。
【0038】
本発明は、PVMVに対する抵抗性を有する植物の選別方法において、試験対象の植物において、前記植物内に存在するか又はそこで発現したeIF4E及びeIF(iso)4E遺伝子の対立遺伝子の形態を調べる段階、及び、上述した野生型eIF4Eタンパク質をコードするeIF4E遺伝子のいかなる対立遺伝子ももたず又は発現もせず、しかも上述した突然変異eIF4Eタンパク質をコードするeIF4E遺伝子の対立遺伝子を発現し、その上、上述した機能性eIF(iso)4Eタンパク質をコードするeIF(iso)4E遺伝子のいかなる対立遺伝子ももたず又は発現もせず、かつ場合によっては上述した非機能性eIF(iso)4Eタンパク質をコードするeIF(iso)4E遺伝子の対立遺伝子を発現する植物を選別する段階を含んで成ることを特徴とする方法に関する。
【0039】
試験対象の植物において存在するeIF4E及びeIF(iso)4E遺伝子の対立遺伝子の形態の検出は、それ自体当業者にとって既知である従来の方法により実施することができる。例えば、eIF4EもしくはeIF(iso)4Eの野生型対立遺伝子もしくは突然変異対立遺伝子と選択的にハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドプローブ、又はeIF4EもしくはeIF(iso)4Eもしくはこれらの遺伝子の目的の突然変異を有する部分の増幅を可能にする増幅プライマーを利用することができる。その後、増幅産物においてこの突然変異の有無を、例えば該増幅産物の配列決定によって、又は、目的の突然変異の性質に応じて、増幅産物のサイズの決定、もしくは野生型対立遺伝子内あるいは突然変異対立遺伝子内にのみ存在する標的配列を認識する制限酵素での消化によって、検出することができる。
【0040】
本発明は同様に、PVMVに対する抵抗性を有する植物を取得する方法をも目的としている。
【0041】
本発明に従った方法の第一の変形形態に従うと、これには、
− 前記植物に存在するeIF4E遺伝子の対立遺伝子を、上述した突然変異eIF4Eタンパク質をコードする対立遺伝子に置き換える段階、及び
− 前記植物に存在するeIF(iso)4E遺伝子の対立遺伝子を、上述した非機能性突然変異eIF(iso)4Eタンパク質をコードする対立遺伝子に置き換える段階、又は前記eIF(iso)4E遺伝子を直接もしくはエピジェネティックに不活性化させる段階
が含まれる。
【0042】
本発明に従った方法の第二の変形形態に従うと、該方法は、そのeIF4E遺伝子の全ての対立遺伝子が上述した突然変異eIF4Eタンパク質をコードする植物から実施され、前記植物に存在するeIF(iso)4E遺伝子の対立遺伝子を、上述した非機能性突然変異eIF(iso)4Eタンパク質をコードする対立遺伝子に置き換える段階、又は前記eIF(iso)4E遺伝子を直接もしくはエピジェネティックに不活性化させる段階を含んで成る。
【0043】
本発明に従った方法の第三の変形形態に従うと、該方法は、そのeIF(iso)4E遺伝子の全ての対立遺伝子が上述した突然変異eIF(iso)4Eタンパク質をコードする植物から、又は前記eIF(iso)4E遺伝子が不活性化されている植物から実施され、前記植物に存在するeIF4E遺伝子の対立遺伝子を上述した突然変異eIF4Eタンパク質をコードする対立遺伝子に置き換える段階を含んで成る。
【0044】
eIF4E遺伝子又はeIF(iso)4E遺伝子の「対立遺伝子の置き換え」というのは、ここでは、その修飾を実施するために用いる方法の如何に関わらず、所望の突然変異配列による、関連する遺伝子の最初のコード配列の置換を生じさせる、あらゆる遺伝子修飾を意味する。
【0045】
eIF(iso)4E遺伝子の「不活性化」というのは、ここでは、eIF(iso)4Eタンパク質の発現の欠如をもたらすあらゆる遺伝子修飾を意味する。この不活性化は、それがeIF(iso)4E遺伝子の修飾(例えばコード配列のレベル又は前記遺伝子のプロモーター配列のレベルのもの)により生じる場合に「直接的不活性化」と定義され、それがeIF(iso)4E遺伝子の修飾によらない場合「エピジェネティック不活性化」と定義される。「サイレンシング」とも呼ばれるエピジェネティック不活性化は、特に転写の遮断(転写サイレンシングもしくは「Transcriptional Gene Silencing」を略してTGS)又はmRNAの特異的分解(転写後サイレンシングもしくは「Post−Transcriptional Gene Silencing」を略してPTGS)により生じ得る。
【0046】
所望の突然変異対立遺伝子によるeIF4E又はeIF(iso)4E遺伝子の対立遺伝子の置き換えは、相同組換えといった遺伝子組換えを利用した、又はTILLING(Targeting Induced Local Lesions IN Genomes; MaCALLUM et al., Plant Physiol. 123: 439−442, 2000)もしくはeIF(iso)4E遺伝子の場合の挿入による突然変異誘発といった突然変異誘発を利用した、それ自体既知の技術により実施することができる。
【0047】
eIF(iso)4E遺伝子の直接的不活性化も同様に、同じ技術により実施することができる。
【0048】
eIF(iso)4E遺伝子のサイレンシングは、センス方向又はアンチセンス方向の抑制によって、又はRNAi(NISHIKURA, Cell 107: 415−418, 2001; TENLLADO et al., Virus Res. 102: 85−96, 2004; ZAMORE, Methods Mol. Biol. 252: 533−543, 2004)の利用によって実施可能である。
【0049】
本発明は同様に、本発明に従った方法により得られる可能性のあるPVMV抵抗性の植物をも目的としている。
【0050】
これには特に次のものが含まれる。
− CARANTA et al.(1996、前掲書)の刊行物の中で記載されている二重変異体pvr2 pvr6以外の、存在するeIF4E遺伝子の対立遺伝子が上述した突然変異対立遺伝子であり、存在するeIF(iso)4E遺伝子の対立遺伝子が上述した非機能性の突然変異対立遺伝子である植物、
− 存在するeIF4E遺伝子の対立遺伝子が上述した突然変異対立遺伝子であり、eIF(iso)4E遺伝子の対立遺伝子が直接不活性化されている植物、
− 存在するeIF4E遺伝子の対立遺伝子が上述した突然変異対立遺伝子であり、eIF(iso)4E遺伝子の発現をなくすことができる一つの配列(センス鎖、アンチセンス鎖、又はRNAiで転写可能なもの)により形質転換されている植物。
【0051】
本発明に従ったPVMV抵抗性植物の選別又は取得方法は、PVMVから防御することが望まれているあらゆる植物、より詳細には、トウガラシ、トマト又はナスといったようなナス科、メロンといったウリ科、アブラナ科、エンドウといったマメ科及びキク科の植物に適用可能である。
【0052】
さらにこれらの方法は同様に、PVMVと同様にその感染サイクルを完成するために区別なくeIF4E又はeIF(iso)4Eを利用することのできるその他のポティウイルス、例として挙げるとポティウイルスBCMV(Bean common mosaic virus)又はポティウイルスAzMV(Azukini mosaic virus)(FISHER及びKYLE, Theor. Appl. Genet. 92: 204−212, 1996)に対する植物の防御のためにも適用することができる。
【0053】
本発明は、PVMVに対する抵抗性におけるeIF4E及びeIF(iso)4Eの関与並びにPVMV抵抗性植物の選別及び取得のための本発明に従った方法の実施を例示する実施例について述べた、以下の補足的な記載を読むことにより、さらによく理解されるものである。
【実施例1】
【0054】
トウガラシにおけるeIF(iso)4E(pvr6+)のcDNAの取得
【0055】
ポティウイルスに対する感受性を有するトウガラシのYolo Wonder遺伝子型由来の全RNAを、TRI−Reagent試薬(Sigma−Aldrich, St Louis)を用いて、100〜200mgの葉から単離した。
【0056】
トウガラシのeIF(iso)4EのcDNAの3’末端を、Arabidopsis thaliana(EMBL登録番号:Y10547)、Lactuca sativa(GenBank登録番号:AF530163)及びLycopersicon esculentum(TIGR:TC126316)のeIF(iso)4EのcDNA配列のアラインメントに基づいて設計されたプライマー5’−AAGTGGACTGTTACGAGCAGCAG−3’(配列番号5)を用いて、3’RACE PCR技術(GIBCO/BRL Life technologies 3’RACEシステムキット、バージョン2.0)により得た。
【0057】
3’RACE産物の配列(5’−ATTGCTGGAACTTGGGGAGGG−3’、配列番号6)から設計されたプライマー、及びトマトのeIF(iso)4E配列の5’UTR末端(TIGR登録番号TC126316)(5’−AAAACAATGGCCACCGAAGCA−3’、配列番号7)から設計されたプライマーを用いて、RT−PCRにより、トウガラシのeIF(iso)4E遺伝子の全長cDNAを増幅した。以下の条件下でRT−PCRを実施する:94℃で5分間、次に(94℃で30秒、53℃で30秒、72℃で1分の)サイクルを30回、そして72℃で5分間。
【0058】
pGEM−T Easyベクター系(Promega, Madison, USA)を、増幅後にcDNAをクローニングするために利用した。
【0059】
Genome express(Grenoble, FRANCE)により、二つの末端から、少なくとも3つの独立した陽性クローンを配列決定した。ヌクレオチド配列又はペプチド配列の分析のために、GCG(Genetics Computer Group, Madison, USA)のPileUpプログラムを利用した。
【0060】
このようにして得られたトウガラシのeIF(iso)4EのcDNA配列は、660個のヌクレオチド長(配列番号3)を有しており、また202個のアミノ酸(配列番号4)をコードする609個のヌクレオチドの唯一のリーディングフレームを有している。
【0061】
トウガラシのeIF(iso)4Eの全cDNAを含む比較ウインドウでBLASTソフトウェアを利用することにより決定される最大の配列同一率を、レタス(AF530163, E=1・10-59)、エンドウ(AY423377, E=2・10-24)、トウモロコシ(AF076955, E=4・10-10)、A. thaliana(Y10547, E=6・10-9)及び小麦(M95818, E=9・10-8)のeIF(iso)4EのcDNAについて得た。
【0062】
トウガラシのeIF(iso)4Eの前述の全ペプチド配列を含む比較ウインドウでBLASTソフトウェアを利用することにより決定される最大の配列同一率を、レタス(AAP86603, E=8・10-77)及び小麦(AAA34296, E=91・10-873)のeIF(iso)4Eタンパク質について得、得られたYolo WonderのcDNAがeIF(iso)4EのcDNAに非常に良く対応することを確認した。
【0063】
トウガラシのeIF4E遺伝子(GenBank登録番号:AY122052, RUFFEL et al., 2002)及びトウガラシのeIF(iso)4Eのコード領域は、57.2%の配列同一性を示す(又、対応するペプチド配列のレベルでは48.3%の配列同一性)。
【実施例2】
【0064】
トウガラシにおける遺伝子型pvr6+及びpvr6の配列の比較:eIF(iso)4Eにおける突然変異の実証
【0065】
配列の変異を対立遺伝子pvr6+又はpvr6と関連付けることができるか否かを決定するために、異なる5つのトウガラシ系統のeIF(iso)4Eの全長cDNAのヌクレオチド配列及び対応するアミノ酸配列をアラインした。
− Yolo Wonder亜種(YW)はポティウイルスに対して感受性を有する。
− Yolo Y亜種(YY)は、抵抗性対立遺伝子pvr21(PVY病原型0に対する抵抗性)を有し、PVMVに対する感受性を示す。
− Florida VR2亜種(F)は、抵抗性対立遺伝子pvr22(PVY(0)及び(1)並びにTEVに対する抵抗性)を有し、PVMVに対する感受性を示す。
− Perennial亜種(P)は、PVY及びポティウイルスEに対する部分的な抵抗性を有する対立遺伝子pvr23、及び対立遺伝子pvr6を有し、PVMVに対する感受性を示す。
− F1[Perennial×Florida VR2]由来の倍化半数体系統DH801は、対立遺伝子pvr22及びpvr6を有し、PVMVに対する抵抗性を示す。
【0066】
上述の5つのトウガラシ系統のeIF(iso)4Eのリーディングフレーム及び対応するアミノ酸配列のアラインメントの結果を、図1に示した。
【0067】
図1の説明:
(A)は、遺伝子型pvr6+及びpvr6のヌクレオチド配列のアラインメント(コード部分)であり、
(B)は、遺伝子型pvr6+及びpvr6の対応するアミノ酸配列のアラインメントである。
【0068】
ヌクレオチドのアラインメントは、遺伝子型YW、YY及びFの対立遺伝子pvr6+のコード部分が互いに100%同一であることを示している。ヌクレオチドのアラインメントは、遺伝子型P及びDH801の対立遺伝子pvr6のコード部分が同様に互いに100%同一であるが、ヌクレオチド89〜170の欠失と、268位におけるAによるGの置換、483位におけるAによるCの置換、そして537位におけるTによるCの置換とによって第一の群と異なっているということを示している(図1A)。82個のヌクレオチドの欠失は、リーディングフレームを変化させ、51番アミノ酸の後に終止コドンを導入する。遺伝子型pvr6+及びpvr6のeIF(iso)4Eタンパク質の配列のアラインメントは、最初の29のアミノ酸(該タンパク質がもつ202個のうち)のみが保存されているということを示している(図1B)。
【実施例3】
【0069】
ホモ接合の状態で、pvr2遺伝子座で突然変異した対立遺伝子(対立遺伝子pvr21又はpvr22に対応するeIF4E配列)及び突然変異した対立遺伝子pvr6(突然変異したeIF(iso)4E配列)を同時に有する植物の選別
【0070】
ホモ接合の状態で対立遺伝子pvr21(国際公開第03/066900号パンフレットの配列番号8)又はpvr22(国際公開第03/066900号パンフレットの配列番号22)を有するトウガラシの植物から(これらの突然変異体の選別方法は国際公開第03/066900号パンフレット内に記載されている)、突然変異したeIF(iso)4Eに対応する対立遺伝子pvr6をさらに有し、かくしてPVMV抵抗性を有する植物を、以下のとおりに選別する。
【0071】
RT PCRによる選別
【0072】
植物からのRNAの抽出は、Sigma−Aldrich(St. Louis, USA)により市販されている製品TRI−Reagentを用いて、同社により提供されている手順に基づく標準的な抽出手順に従う。
【0073】
RNAのcDNAへの逆転写(RT)は以下のように実施する。7.5μlのH2O、1μlのオリゴDTプライマー(100ng/μl)、2.5μlのdNTP(各4mM)及び2μlのRNAの混合物を、65℃で5分間インキュベートし、その後2分間氷冷する。4μlのInvitrogenのRT緩衝液(5×)及び2μlのDTT(0.1M)を添加し、次に混合物を42℃で2分間インキュベートする。1μlのSuperScript RT II(Invitrogen,200U/μl)を添加し、次に混合物を42℃で50分間インキュベートする。70℃で15分間、反応を不活性化させ、その後、生成したcDNAを4℃で保存する。
【0074】
17μlのH2O、2.5μlのHifi PCR Buffer緩衝液(10×)(GIBCO/BRL Life Technologies)、1μlのMgSO4(50mM)、1μlのdNTP(各4mM)、0.5μlのセンスプライマー5’−ATGGCCACCGAAGCACCACCACCGG−3’(配列番号8)(10μm)、0.5μlのアンチセンスプライマー5’−TCACACGGTGTATCGGCTCTTAGCT−3’(配列番号9)(10μM)(これらのプライマーの位置は図1Aに示した)、0.5μlのHigh Fidelity Platinium Taq Polymerase(5U/μl)(GIBCO/BRL Life Technologies)、及び2μlのRT産物を混合して、PCRを実施する。以下の条件下でPCRを実施する:94℃で5分間、次に(94℃で30秒、64℃で30秒、72℃で1分の)サイクルを30回、そして72℃で5分間。
【0075】
PCR産物の泳動を1×TAE緩衝液を用い1%のアガロースゲル上で実施し、増幅した断片を臭化エチジウム(BET)での染色により明らかにする。
【0076】
結果を図2に示した。
【0077】
図2の説明:
レーン1は、栽培品種PerennialのRNAで実施したRT−PCRに対応し(対立遺伝子pvr6)、2及び3は栽培品種Florida VR2及びYolo Wonder(対立遺伝子pvr6+)に対応する。レーン5、6、7、8、11、12、13、14、15、19、20、22、23及び25は、PVMV抵抗性の子孫において実施したRT−PCRに対応し、レーン4、9、10、16、17、18、21及び24はPVMVに対する感受性を有する子孫において実施したRT−PCRに対応する。
【0078】
結果は、突然変異したeIF(iso)4Eの対立遺伝子(pvr6)を有する植物が527bpの増幅産物(82bpの欠失に相当)を示し、一方野生型のeIF(iso)4Eの対立遺伝子(pvr6+)を有する植物は609bpの増幅産物を示すということを示している。
【0079】
RFLPによる選別
【0080】
1) EcoRVによる消化及び制限断片の分離
【0081】
FULTON et al.(Plant Mol. Biol. Reptr. 13(3): 207−209, 1995)により記載されたマイクロ抽出の手順に従って、植物からDNAを抽出する。
【0082】
その後、これを一晩37℃でDNA1μgあたり2.5UのEcoRV酵素で消化する。消化産物を、BET10μlを含有するNEBの1%アガロースゲル(1×)上に載せ、制限断片を分離する。NEBの1×緩衝液の中で24時間25Vで泳動を実施し、泳動の後、断片をナイロン膜上に移す。膜を10〜15分間2×SSCですすぎ、その後外気で乾燥させ、80℃で2時間加熱する。
【0083】
2) プローブの調製
【0084】
実施例1で記載したように得たYolo Wonder遺伝子型のeIF(iso)4E(pvr6+)のcDNAをプローブとして利用する。
【0085】
32Pで標識したプローブの調製を、以下の条件下でPCRにより実施する。
【0086】
【表1】

【0087】
100mMの母液から10mMへの、dATP、dTTP、dGTPの希釈:
− 100mMのdNTP 5μl、
− H2O 45μl。
【0088】
100mMの母液から1mMへのdCTPの希釈:
− 100mMのdCTP 0.5μl、
− H2O 49.5μl。
ATG+dCTPのミックス:
− 10mMのdATP 2.5μl 最終濃度:50μM、
− 10mMのdTTP 2.5μl 最終濃度:50μM、
− 10mMのdGTP 2.5μl 最終濃度:50μM、
− 1mMのdCTP 2.5μl 最終濃度:5μM、
− H2O 490μl。
【0089】
プローブの標識は、94℃で30秒、52℃で45秒、72℃で1分半というPCRサイクルを30回繰り返して行う。
【0090】
標識したらプローブを変性させ、その後、1)で記載したように得た膜とハイブリダイズさせる。ハイブリダイゼーションは、以下の緩衝液中で少なくとも16時間65℃で実施する:500mLに対して、NaClを21.91g、クエン酸ナトリウムを18.38g、H2Oを380mL、20%SDSを15mL、pH7.5の1MのNaPO4を25mL、100×Denhardtを25mL、0.25MのEDTAを5mL、50%の硫酸デキストラン50mL)。
【0091】
その後、65℃で予熱した、40mMのNaPiの1%SDS緩衝液(Serva)中で膜を洗浄する。
【0092】
洗浄条件は以下のとおりである:
− 攪拌下で65℃、20分間の洗浄を1回、
− 65℃で加熱した新しい緩衝液中で2〜3分間のすすぎを1回。
【0093】
RFLPの結果を図3に示した。
【0094】
図3の説明:
この図は、対立遺伝子pvr6を有するPerennial(ラインP)、対立遺伝子pvr6+を有するFlorida VR2(ラインF)、Perennial×Florida VR2のハイブリッドF1(ラインF1)、及びPVMV抵抗性(ラインR)の子孫又はPVMV感受性の子孫(ラインS)の各遺伝子型間のeIF(iso)4Eマーカーについて観察されたRFLPの特徴の違いを示す。
【0095】
結果は、対立遺伝子pvr6+を有する感受性植物が制限断片Hを有するのに対し、(対立遺伝子pvr22に加えて)対立遺伝子pvr6を有する抵抗性植物が制限断片Bを有するということを示している。
【実施例4】
【0096】
PVMV抵抗性試験及びPVMVに対する抵抗性をもつトウガラシの一つの遺伝子型におけるeIF(iso)4E(pvr6+)又はeIF4E(pvr2+)の一過性発現
【0097】
PVMVに対するトウガラシの抵抗性試験
【0098】
この試験は、抵抗性対立遺伝子pvr21(又はpvr22)及びpvr6を有する植物がPVMVに対する充分な抵抗性を有することを確認するために行う。
【0099】
接種試験で利用するウイルス材料は、コートジボワール共和国で単離されJ.C. THOUVENEL(IRD, Montpellier, France)により提供されたPVMV−IC分離株、及びCARANTA et al.の刊行物(1996、前掲書)の中で記載された分離株に対応する。該分離株をBOSの方法(BOS, Meded. Fac. Landbouwwet Gent. 34: 875−887, 1969)に従って維持し、子葉又は双葉の段階にあるトウガラシ植物に機械的接種する前にCapsicum annuum cv. Yolo Wonderの植物上で増殖させる。
【0100】
ウイルス接種材料はCARANTA et al.(1996、前掲書)の中で記載されているように調製する。接種試験は、「防虫」した空調チャンバ内で、制御された条件で実施する。接種から4週間後に、全ての植物を、CARANTA et al.(1996、前掲書)により記載されているように、DAS−ELISA試験により、抗原であるPVMVのキャプシドタンパク質の有無について個別に評価する。トウガラシ植物における機械的接種及びPVMVの検出については、当業者にとっては完全に既知のものであるその他の手順を利用することもできる。
【0101】
この抵抗性試験により、PVMV抵抗性と、eIF4Eの突然変異型に対応する対立遺伝子pvr21(又はpvr22)の存在及びeIF(iso)4Eの突然変異型に対応する対立遺伝子pvr6の存在との間の、完全な同時分離を確認することが可能になる。
【0102】
PVMVの感受性におけるeIF(iso)4Eタンパク質とeIF4Eタンパク質の独立した役割の検証のための、PVMV抵抗性を有するトウガラシの遺伝子型(pvr22+pvr6の組合せ)における、Yolo WonderのeIF(iso)4E又はeIF4EのcDNAの一過性発現
【0103】
PVMVがその感染サイクルを完成させるために対立遺伝子pvr2+(野生型eIF4E対立遺伝子に対応)又は対立遺伝子pvr6+(野生型eIF(iso)4E対立遺伝子に対応)を独立した形で利用することができるという仮説を検証する目的で、対立遺伝子pvr22及びpvr6を有する抵抗性遺伝子型DH801について、PVX(ジャガイモウイルスX)ウイルスベクターを介した、Yolo WonderのeIF4E又はeIF(iso)4EのcDNAの一過性発現の実験(CHAPMAN et al., Plant J. 2(4): 549−557, 1992; BAULCOMBE et al., Plant J. 7: 1045−1053, 1995)を実施した。
【0104】
遺伝子型Yolo Wonder(pvr2+)及びFlorida VR2(pvr22)のeIF4EのORFを、それぞれベクターpPVXeYW及びpPVXeFを得るために、クローニング部位ClaI及びSalIで、発現ベクターpPVX201内で(BAULCOMBE et al., 1995、前掲書)クローニングした。同様にして、それぞれ発現ベクターpPVX(iso)eYW及びpPVX(iso)ePを得るために、pPVX201内で遺伝子型Yolo Wonder(pvr6+)及びPerennial(pvr6)のeIF(iso)4EのORFをクローニングした。これらのプラスミドをNicotiana benthamianaに機械的に接種する。接種から10日後に、N.benthamianaの接種された葉を、トウガラシの遺伝子型Yolo Wonder及びDH801における一過性発現の試験のための接種材料として利用する。発現ベクターPVXをトウガラシに接種してから10日後に、同じ葉に上述のようにPVMV−ICを接種する。
【0105】
ベクターPVXとPVMVの蓄積を、PVMVの接種から10日後に、接種済みの葉について、DAS−ELISA及びRT−PCRによって評価する。PVXの蓄積の検出を可能にするRT−PCR(当業者にとって既知の従来の条件)を、以下のプライマーを用いて実施する:センス5’−CCGATCTCAAGCCACTCTCCG−3’(配列番号10)及びアンチセンス5’−CCTGAAGCTGTGGCAGGAGTTG−3’(配列番号11)。PVMVの蓄積の検出を可能にするRT−PCR(当業者にとって既知の従来の条件)を、次の変性プライマーを用いて実施する:センス(Nib遺伝子内で確定されているもの)5’−GGNAARGCNCCNTAYAT−3’(配列番号12)及びアンチセンス(CP遺伝子内で確定されているもの)5’−CGCGCTAATGACATATCGGT−3’(配列番号13)。
【0106】
PVMVに対する抵抗性を有する遺伝子型DH801に、組換えプラスミド(eIF4E又はeIF(iso)4Eを有する)及び分離株PVMV−ICを同時接種する。突然変異型がPVMVに対する感受性を回復しないことを確認するために、DH801において(遺伝子型Florida VR2の)対立遺伝子pvr22又は(遺伝子型Perennialの)対立遺伝子pvr6を発現させることにより、対照実験を並行して行う。
【0107】
結果を、一過性発現実験における、PVMVを接種した葉の数に対するPVMVによる感染を受けた葉の数の比を示す下表にまとめた。
【0108】
【表2】

【0109】
これらの実験は、eIF4E遺伝子の発現及びそれとは独立してeIF(iso)4E遺伝子の発現(遺伝子は感受性遺伝子型Yolo Wonderに由来)が両方共、抵抗性遺伝子型DH801内でのPVMVの増殖を可能にするということを示している。これらの実験から、我々は、PVMVがその感染サイクルを実現するために野生型eIF4Eタンパク質又は野生型eIF(iso)4Eタンパク質を利用することができ、かつ二つのタンパク質における突然変異が、植物に抵抗性を付与するのに必要であるという結論を下すことができる。
【実施例5】
【0110】
eIF(iso)4Eの不活性化によるPVMV抵抗性植物の取得
【0111】
抵抗性対立遺伝子pvr21(又はpvr22)を有する植物において、PVMV抵抗性を付与するeIF(iso)4E遺伝子の対立遺伝子(pvr6)を、部位特異的突然変異誘発タイプの方法(HOHN et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 96: 8321−8323, 1999)、又は相同組換えの方法(KEMPLIN et al., Nature 389: 802−803, 1997; JONES et al., Transgen. Res. 1: 285−297, 1992; BEVAN, Nucleic Acid research. 12: 8711−8721, 1984)により、in planta形質転換することができる。
【0112】
PVMV抵抗性の抵抗性対立遺伝子pvr21(又はpvr22)を有する植物は同様に、「遺伝子サイレンシング」(転写後遺伝子サイレンシングすなわちPTGS)タイプの方法によって内因性eIF(iso)4E遺伝子のノックアウトにより得ることもできる。PTGSによる特異的ノックアウトは、内因性eIF(iso)4E遺伝子の5’又は3’UTRに対してそれを行うことによって実施することができる。5’又は3’UTRに対するPTGSによるノックアウトのこの特異性は、PTGSの機序の理解に由来する新規なデータに基づくものである(NISHIKURA, Cell 107: 415−418, 2001)。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】5つのトウガラシ系統のeIF(iso)4Eのリーディングフレーム及び対応するアミノ酸配列のアラインメントの結果を示した図。
【図2】各品種のRT−PCRの結果を示した図。
【図3】各品種のRFLPの分析結果を示した図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PVMVに対する抵抗性を有する植物の選別方法において、試験対象の植物において、前記植物内に存在するeIF4E及びeIF(iso)4Eタンパク質の形態を調査する段階、並びに
a) DX1234KSX5QX6AWGSSX7RX89YTFSX10VEX11FWX1213YNNIHX14PSKLX1516GAD(式中、
− X1、X2、X3、X4、X6、X7、X8、X9、X10、X12、X13、X15及びX16は各々中性アミノ酸を表わし、
− X5及びX14は塩基性アミノ酸を表わし、
− X11は酸性アミノ酸を表わし、
− D、K、S、Q、A、W、G、R、Y、T、F、V、E、N、I、H、P及びLは一文字コードでのその通常の意味を有する)
という一般配列(I)により定義される領域を含むeIF4Eタンパク質(以下「野生型eIF4Eタンパク質」と呼ぶ)を全く発現せず、
かつ、前記配列(I)の少なくとも一つの中性アミノ酸を荷電アミノ酸好ましくは塩基性アミノ酸により置換し、かつ/又は前記配列(I)の少なくとも一つの荷電アミノ酸を中性アミノ酸又は逆の電荷をもつアミノ酸により置換することにより上述の配列(I)が定義する領域から誘導された領域を含む、突然変異eIF4Eタンパク質を発現し、かつ
b) 機能性eIF(iso)4Eタンパク質を全く発現しない、
植物を選別する段階、
を含んで成ることを特徴とする方法。
【請求項2】
野生型eIF(iso)4Eタンパク質の配列の少なくとも一部分が欠失した非機能性eIF(iso)4Eタンパク質を発現する植物を選別する段階を含んで成り、前記欠失が、配列番号4の配列の34位、37位、50位、67位、96位、107位、121位及び156位に対応する、前記タンパク質のIF4Eドメインのトリプトファン残基のうちの一つ又は複数を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
− 荷電アミノ酸による、前記配列(I)のアミノ酸X1、X2、X3又はX4のうちの少なくとも一つの置換、及び
− 荷電アミノ酸による、前記配列(I)のその他の中性アミノ酸のうちの少なくとも一つの置換、及び/又は
− 中性アミノ酸もしくは逆の電荷をもつアミノ酸による、前記配列(I)の荷電アミノ酸のうちの少なくとも一つの置換、
により上述の配列(I)が定義する領域から誘導された領域を含む突然変異eIF4Eタンパク質を発現する植物を選別する段階を含んで成ることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
− 塩基性アミノ酸による、配列(I)の中性アミノ酸X3の置換、
− 塩基性アミノ酸による、配列(I)の中性アミノ酸X7の置換、
− 中性アミノ酸による、配列(I)のC末端の位置にあるアスパラギン酸残基の置換
により上述の配列(I)が定義する領域から誘導された領域を含む突然変異eIF4Eタンパク質を発現する植物を選別する段階を含んで成ることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
PVMVに対する抵抗性を有する植物を取得する方法において、
− 前記植物に存在するeIF4E遺伝子の対立遺伝子を、請求項1、3又は4のいずれか一つに記載の突然変異eIF4Eタンパク質をコードする対立遺伝子に置き換える段階、及び
− 前記植物に存在するeIF(iso)4E遺伝子の対立遺伝子を、請求項1又は2に記載の突然変異eIF(iso)4Eタンパク質をコードする対立遺伝子に置き換える段階、又は前記eIF(iso)4E遺伝子を直接もしくはエピジェネティックに不活性化させる段階
を含んで成ることを特徴とする方法。
【請求項6】
PVMVに対する抵抗性を有する植物を取得する方法において、そのeIF4E遺伝子の全ての対立遺伝子が請求項1、3又は4のいずれか一つに記載の突然変異eIF4Eタンパク質をコードする植物から実施されること、及び前記植物に存在するeIF(iso)4E遺伝子の対立遺伝子を、請求項1又は2に記載の突然変異eIF(iso)4Eタンパク質をコードする対立遺伝子に置き換える段階、又は前記eIF(iso)4E遺伝子を直接もしくはエピジェネティックに不活性化させる段階を含んで成ることを特徴とする方法。
【請求項7】
PVMVに対する抵抗性を有する植物を取得する方法において、そのeIF(iso)4E遺伝子の全ての対立遺伝子が請求項1又は2に記載の突然変異eIF(iso)4Eタンパク質をコードする植物から、又は前記eIF(iso)4E遺伝子が不活性化されている植物から実施されること、及び前記植物に存在するeIF4E遺伝子の対立遺伝子を、請求項1、3又は4のいずれか一つに記載の突然変異eIF4Eタンパク質をコードする対立遺伝子に置き換える段階を含んで成ることを特徴とする方法。
【請求項8】
ナス科、ウリ科、アブラナ科、マメ科及びキク科の中から選択された植物に対し実施されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−500036(P2008−500036A)
【公表日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−514014(P2007−514014)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【国際出願番号】PCT/FR2005/001296
【国際公開番号】WO2005/118850
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(504301258)
【氏名又は名称原語表記】GENOPLANTE−VALOR
【Fターム(参考)】