R−スポンジンを含有する抗腫瘍薬
本発明は、R-スポンジン1(GIPF)、R-スポンジン2、R-スポンジン3またはR-スポンジン4を含むヒトR-スポンジン、またはヒトR-スポンジン活性を有するそれらの断片を活性成分として含有する抗腫瘍薬を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明により提供される方法と組成物は、内皮細胞および癌細胞の増殖または遊走を阻害する。本発明は癌治療の分野に関する。さらに特に本発明は、ヒトR-スポンジン1(GIPF)、R-スポンジン2、R-スポンジン3、R-スポンジン4に関しかつ癌治療に有用である。
【背景技術】
【0002】
腫瘍血管新生の標的化は効果的な癌治療法の1つである。血管新生は出芽、小血管の増殖、枝分かれ、存在する毛細管の伸長および既存血管からの内皮細胞の構築を意味する(Folkman, J.およびShing, Y. J. Biol. Chem. 267, 10931-10934 (1992);Folkman, J. N. Engl. J. Med. 333, 1757-1763 (1995))。胚発生期の血管構造形成の最初のde novo段階は血管発生(vasculogenesis)と名づけられている(Risau, W.およびFlamme, I. Ann. Rev. Cell Dev. Biol. 11, 73-91 (1995))。血管新生の過程は天然の刺激因子と阻害因子の系を介して高度に調節されている。血管新生が無制御であると多数の疾患に関連する病理学的障害を起こす。過剰な血管新生は、癌、転移、糖尿病失明、糖尿病網膜症、加齢による黄斑変性症、アテローム性動脈硬化症および慢性関節リウマチなどの炎症症状、および乾癬などの疾患で起こる(Ziche M.ら, Curr. Drug Targets 5, 485-493 (2004))。例えば、慢性関節リウマチにおいては、関節の滑膜内張りの血管が不適切な血管新生を起こす。新血管網を形成するのに加えて、内皮細胞は諸因子および活性酸素種を放出して、パンヌス増殖および軟骨破壊をもたらし、そして慢性関節リウマチの慢性的炎症状態に積極的に関与しかつ維持するのを助ける(Bodolay E.ら, J. Cell Mol. Med. 6, 357-76 (2002))。同様に、骨関節炎において、血管新生関係因子による軟骨細胞の活性化は関節の破壊に関与する(Walsh D. A.ら, Arthritis Res. 3, 147-53 (2001))。
【0003】
血管新生は癌の増殖と転移において決定的な役割を演じる(Zetter B. R., Ann. Rev. Med. 49, 407-24 (1998);Folkman J., Sem. Oncol. 29, 15-18 (2002))。第1に、血管新生は一次腫瘍の血管発生をもたらし、必要な栄養分を増殖中の腫瘍細胞に補給する。第2に腫瘍の血管発生の増加は血流に接近する機会を与え、従って腫瘍の転移可能性を促進する。最後に、転移性腫瘍細胞が一次腫瘍増殖の部位を離れ去った後に、二次部位において血管新生が起こり転移性細胞の増殖と拡大を支えるに違いない。反対に、不十分な血管新生も、ある特定の病状を誘導する。例えば、不十分な血管増殖は、冠動脈疾患、脳卒中、および創傷治癒遅延に関連する病理に関与する(Isner J. M.およびAsahara T. J., Clin. Invest. 103, 1231-1236 (1999))。
【0004】
成長因子の血管新生刺激因子は、例えば、アンジオゲニン、アンギオトロピン、上皮性成長因子(EGF)、繊維芽細胞成長因子(酸性および塩基性)(FGF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、肝細胞成長因子/散乱因子(HGF/SF)、胎盤成長因子(PIGF)、血小板由来の内皮細胞成長因子(PD-ECGF)、血小板由来の成長因子-BB(PDGF-BB)、結合組織成長因子(CTGF)および血管内皮成長因子(VEGF)であり;プロテアーゼおよびプロテアーゼインヒビターの血管新生刺激因子は、例えば、カテプシン、ゼラチナーゼA、ゼラチナーゼB、ストロメライシンおよびウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(uPA)であり;内因性モジュレーターの血管新生刺激因子は、例えば、αvβ3インテグリン、アンギオポエチン-1、エリスロポエチン、フォリスタチン、低酸素、レプチン、ミッドカイン(MK)、一酸化窒素シンターゼ(NOS)、血小板活性化因子(PAF)、プレイオトロピン(PTN)、プロスタグランジンE、CYR61およびトロンボポエチンであり;サイトカインの血管新生刺激因子は、例えば、インターロイキン-1、インターロイキン-6およびインターロイキン-8であり;シグナル伝達酵素の血管新生刺激因子は、例えば、チミジンホスホリラーゼ、ファルネシルトランスフェラーゼおよびゲラニルゲラニルトランスフェラーゼであり;発癌遺伝子の血管新生刺激因子は、例えば、c-myc、ras、c-src、v-rafおよびc-junである。
【0005】
成長因子の血管新生インヒビターは、例えば、トランスフォーミング成長因子β(TGF-β)であり;プロテアーゼおよびプロテアーゼインヒビターの血管新生インヒビターは、例えば、ヘパリナーゼ、プラスミノーゲン活性化因子インヒビター-1(PAI-1)およびメタロプロテアーゼの組織インヒビター(TIMP-1、TIMP-2);内因性モジュレーターの血管新生インヒビターは、例えば、アンギオポエチン-2、アンギオスタチン、カベオリン-1、カベオリン-2、エンドスタチン、フィブロネクチン断片、ヘパリン六糖類断片、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ、インターフェロン誘導性タンパク質(IP-10)、イソフラボン、クリングル5(プラスミノーゲン断片)、2-メトキシエストラジオール、胎盤リボヌクレアーゼインヒビター、血小板因子-4、プロラクチン(16Kd断片)、増殖に関係するタンパク質(PRP)、レチノイド、テトラヒドロコルチゾール-S、トロンボスポンジン、トロポニン-1、バスキュロスタチンおよびバソスタチン(カルレティキュリン断片)であり;サイトカインの血管新生インヒビターは、例えば、インターロイキン-10およびインターロイキン-12であり;発癌遺伝子の血管新生インヒビターは、例えば、p53およびRbである。
【0006】
TNF-α、TGF-β、IL-4およびIL-6は二機能性分子であり、その量、部位、ミクロ環境、他のサイトカインの存在に応じて、血管新生を刺激または阻害する(Folkman, J. N., Engl. J. Med. 333, 1757-1763 (1995);Ziche M.ら, Curr. Drug Targets 5, 485-493 (2004);Ivkovic S.ら, Development 130, 2779-2791 (2003);Babic A. M., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 6355-6360 (1998))。
【0007】
血管新生を駆動する主な成長因子は血管内皮成長因子(VEGF)および繊維芽細胞成長因子-2(FGF-2)である。VEGFは内皮細胞遊走、増殖ならびに動脈および静脈系のネットワークの形成を特異的に促進する(Ferrara N.およびDavis-Smyth T., Endocrine Rev. 18, 4-25 (1997), Leung D. W.ら, Science 246, 1306-1309 (1989))。FGF-2はVEGFより広い様々なタイプの細胞を刺激する、それはFGF-2に対応する受容体が繊維芽細胞、平滑筋および内皮細胞に発現されるからである(Powers C.ら, Endocr. Relat. Cancer 7, 165-197 (2000))。
【0008】
血管新生における分子経路の最近の2つの発見は、酸素感受性プロリルヒドロキシラーゼおよび低酸素-誘導性因子(HIF)を介する低酸素状態によるプロ血管新生刺激、ならびにnotch/δ、ephrin/Eph受容体、slit/roundabout、hedgehogおよびsproutyを含む複数の新規細胞外血管新生シグナル伝達経路の同定である。組織もしくは腫瘍増殖の低酸素状態はプロ血管新生遺伝子レパートリー、例えば、アンギオポエチン-2、FGF、HGF、TGF、IL-6、IL-8、PDGF、VEGFおよびVEGF受容体などの発現を惹起しかつキー転写因子またはHIFを誘導する(Harris A. L., Nat. Rev. Cancer 2, 38-47 (2002))。
【0009】
HIF-1αは不安定であり通常の条件ではプロテアソームを介して速やかに分解するが、酸素分圧が2%未満に落ちると、HIF-1αは安定化して、核に転移し、HIF-1βと相互作用して複雑な遺伝子プログラムを転写する。HIF-1が活性化すると、内皮細胞増殖および血管形成を調節するVEGFとその受容体の発現の増加をもたらした(Bicknell R.およびHarris A. L., Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol. 44, 219-238 (2004);Forsythe J. A.ら, Mol. Cell. Biol. 16, 4604-4613 (1996))。δ4もまた、低酸素状態で誘導される内皮特異的遺伝子の1つである。δ4は成人組織中に存在しないかまたは乏しかったが、異種移植したヒト腫瘍の血管構造中におよび内因性ヒト腫瘍中に強い発現を示した(Mailhos C., Differentiation 69, 135-144 (2001))。EphA2受容体チロシンキナーゼはVEGFによりephrinA1リガンドの誘導を介して活性化された。EphA受容体の遮断は、VEGF-誘導性の血管新生、内皮細胞出芽、細胞生存および遊走を特異的に阻害したが、塩基性FGF誘導性の内皮細胞生存、遊走、出芽および角膜の血管新生を阻害しなかった(Cheng N.ら, Mol. Cancer Res. 1, 2-11 (2002))。In situ分析はmagic roundaboutが、活性血管新生の部位を除くと、成人組織には不在であるが、脳、膀胱および結腸の腫瘍を含む腫瘍の血管構造上に強く発現して肝臓に転移することを示した。この発現パターンはroundabout遺伝子のなかでもユニークであって、低酸素条件がその発現を誘導する(Huminiecki L., Genomics 79, 547-552 (2002))。sonic hedgehogはin vitroで内皮細胞遊走または増殖に影響を与えなかったが、間質間葉細胞からの3つのVEGF-1イソ型およびアンギオポエチン-1および-2の発現を誘導した(Pola R.ら, Nat. Med. 7, 706-711 (2001))。マウスsproutyタンパク質(Sprouty-4)は新規の受容体チロシンキナーゼ経路アンタゴニストであって、抗血管新生活性を示した(Lee S. H., J. Biol. Chem. 276, 4128-4133 (2001))。
【0010】
腫瘍治療のために血管新生を標的化する、多数の化合物が同定されていて、現在、前臨床開発中または臨床試験中である。例示の化合物には、上市された抗VEGF抗体、bevacizumab(制限された標的、結腸直腸癌、非小細胞肺癌および腎細胞癌に効力を示したが、転移性前立腺癌および転移性乳癌には十分な効力を示さなかった)(Ferrara N.ら, Nature Drug Discov. 3, 391-400 (2004));サリドマイド(強力な催奇形物質であってウサギ角膜ミクロポケットアッセイで抗血管新生活性を示した)(D’Amato R. J.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 91, 4082-4085 (1994));TNP-470(コウジカビ属Aspergillus fumigatus代謝物、フマギリンの合成誘導体であって、in vivoで血管新生およびin vitroで内皮細胞培養の増殖を強力に阻害した)(Benjamin E.ら, Bioorg. Med. Chem. 6, 1163-1169 (1998));ミメチック小ペプチドであるABT-510(CD36依存性経路を介する血管新生活性を示した)(Westphal J. R. Curr. Opin. Mol. Ther. 6, 451-457 (2004));SU-6668(Flk-1、FGF受容体およびPDGF受容体を阻害した)(Laird A. D.ら, Cancer Res. 60, 4152-4160 (2000));SU-11248(VEGF受容体2、PDGF受容体、c-キットおよび肝臓チロシンキナーゼ3を阻害した)(Schueneman A. J.ら, Cancer Res. 63, 4009-4016 (2003));Neovastat (AE-941)(VEGF受容体2およびマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)を阻害した)(Beliveau R.ら, Clin. Cancer Res. 8, 1242-1250 (2002))などが含まれる。
【0011】
TSP(トロンボスポンジン)は細胞-細胞および細胞-基質相互作用に関わる細胞外基質タンパク質のファミリーである。組織分布の異なるパターンをもつ5を超える異なるTSPのメンバーが公知である(Lawler J., Curr. Opin. Cell Bio. 12: 634-640 (2000), Kristin G.ら, Biochemistry 41, 14329-14339 (2002))。5つのメンバーは全て2型反復、3型反復および高度に保存されたC末端ドメインを含有する。2型反復は上皮成長因子反復に類似し、3型反復はカルシウム結合部位の近接セットを含み、そしてC末端ドメインが細胞結合に関わる。これらのドメインに加えて、TSP-1およびTSP-2は1型反復の3コピーを含有する(Bornstein P.およびSage E. H. Methods Enzymol. 245, 62-85 (1994))。
【0012】
TSP-1は血液血小板の主な構成成分であって、TSPのファミリー中で良く確かめられた分子であり、血管の平滑筋細胞増殖および遊走を刺激するが、内皮細胞増殖および遊走を阻害する。TSP-1は420kDaホモ三量体のマトリックス細胞間(matricellular)糖タンパク質で、多数の区切られたドメインをもつ。TSP-1は、アミノおよびカルボキシ両方の末端の球状ドメイン、プロコラーゲンとの相同性領域、およびトロンボスポンジン(TSP)1型、2型および3型反復と呼ばれる3つのタイプの反復配列モチーフを含有する(Lawler J. J. Cell Mol. Med. 6, 1-12 (2002);Margossian S. S.ら J. Biol. Chem. 256, 7495-7500 (1981))。1型TSP反復は最初に1986年に記載され、多数の異なるタンパク質、例えば、脳特異的血管新生インヒビター1(BAI1)、ADAMTSのような補体成分(C6、C7、C8およびC9など)細胞外マトリックスタンパク質、ミンジン(mindin)、F-スポンジンのような軸索ガイダンス分子、セマフォリン(semaphorin)、SCO-スポンジン、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)のTRAPタンパク質、結合組織成長因子(CTGF)、CYP61およびアフリカツメガエル、マウスおよびヒト由来のR-スポンジン中に見出されている(Lawler J.およびHynes R. O. J. Cell Biol. 103, 1635-1648 (1986);Nishimori H.ら, Oncogene. 15, 2145-2150 (1997);Jacques-Antoine H.ら, J. Biol. Chem. 264, 18041-18051 (1989);Kuno K.およびMatsushima K., J. Biol. Chem. 273, 13912-13917 (1998);Higashijima S.ら, Dev. Biol. 15, 211-227 (1997);Klar A.ら, Cell 69, 95-110 (1992);Adams R. H.ら, Mech. Dev. 57, 33-45 (1996);Goncalves-Mendes N.ら, Gene. 312, 263-270 (2003);Chattopadhyay R.ら, J. Biol. Chem. 278, 25977-25981 (2003);Mercurio S.ら, Development 131, 2137-2147 (2004);Tatiana M.ら, J. Biol. Chem. 276, 21943-21950 (2001);Kazanskaya O.ら, Dev. Cell 7, 525-534 (2004);Kamata T.ら, Biochim. Biophys. Acta. 1676, 51-62 (2004))。TSP-様1型反復を有するいくつかのタンパク質、例えば、ADAMTS-8およびBAI 1は血管新生抑制性であるが、CTGFは血管新生を促進する。反対に、いくつかの1型反復を含有するタンパク質は血管新生効果を有しない。これらには補体成分タンパク質(C6、C7、C8およびC9を含む)、F-スポンジン、SCO-スポンジン、セマフォリン5Aおよび5Bならびにいくつかの他のADAMTSタンパク質が含まれる(Adams J. C.およびTucker R. P., Dev. Dyn. 218, 280-299 (2000))。
【0013】
TSP-1は細胞表面において、膜タンパク質およびサイトカインおよび他の可溶性因子を一緒に運ぶ機能を果たすと思われる。TSP-1と結合する膜タンパク質には、インテグリン、ヘパリン、インテグリン会合タンパク質(CD47)、CD36、プロテオグリカン、トランスフォーミング成長因子β(TGF-β)および血小板由来の成長因子が含まれる。
【0014】
1型TSP(properdin様)反復は、細胞増殖、軸索増殖、分化、接着、遊走、および細胞死の調節に関わるTFG-βを活性化することができる。1型TSP反復はさらに、タンパク質結合、ヘパリン結合、細胞付着、神経突起伸張、腫瘍進行の阻害、血管新生の阻害、およびアポトーシスの活性化にも関わる。第1と第2の1型TSP反復の間に横たわるRFKのオリゴペプチドは、TSP-1によるTGF-βの活性化に必須であることが示されている(Schultz-Cherry S.ら, J. Biol. Chem. 270, 7304-7310 (1995);Ribeiro S. M. F.ら, J. Biol. Chem. 274, 13586-13593 (1999))。反対に、TSP1およびTSP2両方の1型反復中に存在するヘキサペプチドGGWSHWは活性TGF-βと結合し、TSP1による潜在TGF-βの活性化を阻害する(Schultz-Cherry S.ら, J. Biol. Chem. 270, 7304-7310 (1995))。TGF-βは腫瘍増殖に多面的な効果を与える。腫瘍形成の初期段階に、TGF-βは腫瘍抑制遺伝子として作用しうる(Engle S. J.ら Cancer Res. 59, 3379-3386 (1999);Tang B.ら Nat. Med. 4, 802-807 (1998))。TGF-βはいくつかの異なる腫瘍細胞株のアポトーシスを誘導しうる(Guo Y.およびKypianou N. Cancer Res. 59, 1366-1371 (1999))。RFKペプチドを含有するTSPの第2の1型TSP反復の、B16F10腫瘍保持マウス中への全身注入は腫瘍増殖の速度を低下させる。
【0015】
内皮細胞に与えるTSP-1の効果は遊走の阻害を含み、そしてアポトーシスの誘導には内皮細胞膜上のCD36と1型TSP反復の相互作用が介在する。TSP-1のCD36受容体との結合は、Src関係キナーゼ、p59-fynの補充とp38 MAPKの活性化をもたらす。活性化されたp38 MAPKはcaspase-3の活性化およびアポトーシスをもたらす(Jimenez B.ら Nat. Med. 6, 41-48 (2000))。1型TSP反復の部分配列と類似するいくつかの合成ペプチドはin vitroの内皮細胞遊走およびin vivoの血管新生を阻害した(Tolsma S. S.ら J. Cell. Biol. 122, 497-511 (1993);Dawson D. W.ら Molec. Pharmacol. 55, 332-338 (1999);Iruela-Arispe M. L.ら Circulation 100, 1423-1431 (1999))。合成ペプチドを用いてTSP-1の抗血管新生活性のマッピングが行われた。第2の1型反復内でお互いに隣接する3つの配列は血管新生の阻害に関係があるとされた。CSVTCG配列を含有する合成ペプチドは最初に同定された1つであって、CD36と結合することが示されている(Tolsma S. S.ら J. Cell Biol. 122, 497-511 (1993))。CSVTCG配列を含有する合成ペプチドは、ニワトリ絨毛尿膜におけるFGF-2またはVEGFにより誘導される血管新生を阻害する(Iruela-Arispe M. L.ら Circulation 100, 1423-1431 (1999))。ヘパリンと結合した第1配列に隣接する第2配列WSPWは、ヘパリンとFGF-2の間の結合を阻害し、次いでFGF-2により誘導される血管新生を阻害した(Neng-hua G.ら, J. Biol. Chem. 267, 19349-19355 (1992);Vogel T.ら, J. Cell Biochem. 53, 74-84 (1993))。CSVTCG配列と隣接する第3配列GVITRIRをD-イソロイシンを用いて合成すると、このペプチドも内皮細胞遊走を阻害した(Dawson D. W.ら Mol. Pharmacol. 55, 332-338 (1999))。しかし、血管新生活性または血管新生抑制活性を有する全ての報じられたタンパク質がこれらのペプチド配列を含有したのではなくて、血管新生効果を示さないいくつかのタンパク質がこれらを1つ以上含有することもあった。
【0016】
一般的に、TSPの発現は腫瘍細胞中で低下する(de Fraipont F.ら Trends Mol. Med. 7, 401-407 (2001))。RasはPI3キナーゼ、Rho、およびPOCKの続いての活性化を誘導し、リン酸化を介するMycの活性化をもたらす。シグナル伝達を介するMycのリン酸化経路はTSP発現を抑制することができる(Watnick R. S.ら Cancer Cell 3, 219-231 (2003))。様々なタイプの腫瘍細胞におけるTSPの過剰発現は、これらの細胞が免疫抑制動物に移植されると、血管新生および腫瘍増殖を阻害した(Weinstat-Saslow D. L.ら Cancer Res. 54, 6504-6511 (1994);Bleuel K.らProc. Natl. Acad. Sci. USA 96, 2065-2070 (1999);Streit M.ら Am. J. Pathol. 155, 441-452 (1999);Jin R. J.ら Cancer Gene Ther. 7, 1537-1542 (2000))。
【0017】
420kDa TSP-1は腫瘍血管構造に対するその効果を介して腫瘍増殖を減少させることはできるが、ヒトにおけるその使用は、そのサイズ、大規模調製の困難、その乏しい薬理学的動態および多様な他の生物学的機能から生じうる副作用に対する懸念の故に、真剣に取り上げられてない。これらの問題を克服するために、いくつかの試みが報じられている。プレプロコラーゲン相同性領域からおよびTSPのproperdin反復からの小ペプチドも、親分子と同じCD36依存性経路を用いてin vitroで血管新生を阻害する。しかし、これらの短いペプチドは活性が無処置TSP-1より少なくとも1,000倍低い(Tolsma S. S.ら, J. Cell Biol. 122, 497-511 (1993))。L-アミノ酸からD-アミノ酸への部分的アミノ酸置換とTSP-1型反復由来の小ペプチドの修飾は、強力な抗血管新生活性を与えたが、げっ歯類における静脈注射後のDI-TSPa(ABT-510)の血清半減期(23分間)は比較的速やかなクリアランスを示唆した(Dawson D. W.ら, Molec. Pharmacol. 55, 332-338 (1999);Reiher F. K.ら, Int. J. Cancer 98, 682-689 (2002);Westphal J. R., Curr. Opin. Mol. Ther. 6, 451-457 (2004))。遺伝子治療用TSPの抗血管新生断片を発現する組換えアデノウイルスベクターを確立する、いくつかの試みが報じられた。TSPの抗血管新生断片を用いる、アデノウイルス介在遺伝子治療は、ヌードマウスにおけるヒト白血病異種移植増殖を阻害した(Liu P.ら Leukemia Res. 27, 701-708 (2003))。しかし、アデノウイルス介在遺伝子治療は一般的に臨床上の施用にいくつかの欠点、例えば、遺伝子導入およびウイルス抗原に対する免疫応答の低い効率を有する(Mizuguchi H.およびHayakawa T. Hum. Gene Ther. 15, 1034-1044 (2004);Yang Y.ら Gene Ther. 3, 137-144 (1996);Yang Y.ら J. Virol. 70, 7209-7212 (1996))。
【0018】
哺乳動物のR-スポンジンタンパク質のファミリーは40〜60%アミノ酸配列同一性を共有する4つの独立した遺伝子産物を含み、これらは実質的に構造的相同性を共有すると予想される。4つのスポンジンタンパク質ファミリー(R-スポンジン1、2、3、4)はそれぞれ、リーディングシグナルペプチド、2つの隣接システインリッチ、furin様ドメインおよび1つのトロンボスポンジン1型(TSP1)ドメインを含有する。2つのfurin様およびTSP1ドメインはしっかりと保存されており;特に、システイン残基は厳密な配列記録の保存を示し、共通の根本的な構造様式を示唆する。続くC末端ドメインは可変長であるが、高い正電荷領域に特徴がある。今まで開示された報文は、TSP1およびC末端ドメインはin vitroでβ-カテニン安定化を誘導するのに不必要であることを示唆する。
【0019】
R-スポンジン型タンパク質を記載する最初の開示された報文は、胎児脳cDNAライブラリー中にhPWTSR(R-spondin3)を同定し、そして正常な胎盤、肺および筋肉中のmRNAの発現を記録した(Chen, J. Z.,ら, Mol. Biol. Rep., 29: 287-292, 2002)。その後、高レベルのR-スポンジン1 mRNA発現がマウス発生段階に蓋板(roof plate)/神経上皮境界(2)に観察された。この研究において、R-スポンジン1 mRNA発現はWnt1/3a二重ノックアウトバックグラウンドで試験すると有意に低下し、これは、始めて、2つのタンパク質活性のカップリングの可能性を示唆した(Kamata, T.,ら, Biochem. Biophys. Acta, 1676: 51-62, 2004)。
【0020】
さらに、R-スポンジンとWntタンパク質活性の間の連結に対するさらなる確証が、Wnt/β-カテニン経路のアフリカツメガエル・モジュレーターについての発現スクリーニングにおけるR-スポンジン2の同定により見出された(Kazanskaya, O.,ら, Dev. Cell, 7: 525-534, 2004)。Wnt応答レポーターアッセイにおいて、アフリカツメガエルR-スポンジン2はβ-カテニンシグナル伝達を活性化しかつWntが介在するβ-カテニン活性化を促進した。アンチセンスが介在するノックダウン実験は、アフリカツメガエルの筋肉の胚発生におけるR-スポンジン2の必須な役割を実証した。同著者らは、R-スポンジン2に加えて、別のR-スポンジンファミリーメンバーがWnt/β-カテニンのシグナル伝達の可溶レギュレーターとして作用することを示唆した(Kazanskaya, O.,ら, Dev. Cell, 7: 525-534, 2004)。
【0021】
脊椎動物発生段階におけるこれらの役割に加えて、R-スポンジン1は胃腸上皮細胞に対する強力な分裂促進因子として機能することが示されている(Kim, K. A.,ら, Science, 309: 1256-1259, 2005)。トランスジェニックマウスにおいて分泌されるタンパク質の機能スクリーニングを利用して、Kimらは最近、ヒトR-スポンジン1発現が腸陰窩上皮細胞の増殖に著しい増加を誘導することを実証した(Kim, K. A.,ら, Science, 309: 1256-1259, 2005)。R-スポンジン1のin vivoにおけるこの増殖効果はβ-カテニンの活性化の増加とその後のβ-カテニン標的遺伝子の転写活性化と相関がある。さらに、これらの表現型は組換えヒトR-スポンジン1タンパク質を注射したマウスにおいて繰り返すことができる。このフォロー研究において、Kimらは今度は、全ての4つのヒトR-スポンジンファミリーメンバーが、β-カテニンの活性化と胃腸管に与える増殖効果を含む類似の効果を誘導できることを示した(Kim, K. A.,ら, Cell Cycle, 5: 23-26, 2006)。これらのデータはR-スポンジンファミリーメンバーのリガンド活性における重複性を示唆するものであり、そしてファミリーメンバーが共有する予想される構造的特性が厳密に保存されれば、R-スポンジンタンパク質は通常の受容体または受容体のクラスを活性化し、保存された生物学的機能を発揮させることが可能である。
【0022】
以上記載したように、R-スポンジンファミリーは今や分泌されるWnt/β-カテニンシグナル伝達経路のモジュレーターの新規ファミリーとして確立されている。しかし、今まで、テトラペプチド配列(WSPW)および1型TSP反復に対する弱い類似性を含むものの、R-スポンジンタンパク質の抗血管新生活性または抗腫瘍活性を示唆する報文は存在しない。TSP-1とは反対に、R-スポンジン1タンパク質調製物は十分仕上げられていて、in vivoで高レベル安定性を示した。これらの新しいR-スポンジン1の機能と特徴の知見は、癌治療へのその応用について可能性を示すものであった。
【発明の開示】
【0023】
本明細書は、本特許出願の優先権主張文書である米国特許予備出願第US60/702,565号の明細書および/または図面に開示された内容の部分または全てを含む。
【0024】
本発明は活性成分として、ヒトR-スポンジン1(GIPF)、R-スポンジン2、R-スポンジン3およびR-スポンジン4を含む抗腫瘍薬を包含する。
【0025】
全長ヒトR-スポンジン1(GIPF)のアミノ酸配列は配列番号3により表される。本発明のヒトR-スポンジン1(GIPF)は優性成熟型および成熟型を含む。優性成熟型のアミノ酸配列は配列表の配列番号6に表される。成熟型は、優性成熟型からfurin開裂配列を欠く。成熟型のアミノ酸配列は配列番号7に表される。本発明はまた、R-スポンジン1(GIPF)の活性を有するヒトR-スポンジン1(GIPF)の断片を含むものである。断片は、好ましくは1型トロンボスポンジンドメインと相同的な領域を有する断片を含む。
【0026】
ヒトR-スポンジン2のヌクレオチド配列は、GenBankに受託番号BC036554、BC027938またはNM_178565として、マウスR-スポンジン2のヌクレオチド配列はGenBankに受託番号NM_172815として登録されている。ヒトR-スポンジン3のヌクレオチド配列は、GenBankに受託番号NM_032784またはBC022367として、マウスR-スポンジン3のヌクレオチド配列はGenBankに受託番号BC103794として登録されている。ヒトR-スポンジン4のヌクレオチド配列は、GenBankに受託番号NM_001029871、AK122609として、マウスR-スポンジン4のヌクレオチド配列はGenBankに受託番号BC048707として登録されている。
【0027】
R-スポンジン2は全長(FL)型R-スポンジン2およびdC型R-スポンジン2を含む。dC型R-スポンジン2はKazanskayaら(Dev. Cell, vol.7: 525-534, 2004)の報文に記載されていて、配列番号13の第22〜第206アミノ酸から成るアミノ酸配列を有する185アミノ酸から成る。これはC末端領域における電荷の豊富なアミノ酸を含有する領域を欠く。これは配列番号12の第64〜第621ヌクレオチドから成るヌクレオチド配列(GenBank受託番号NM_178565(全長244アミノ酸)の第22〜第206アミノ酸配列に対応する)によりコードされる。配列番号13の第1〜第21アミノ酸は置換えられたシグナルペプチドである。FL型R-スポンジン2はGenBank受託番号BC036554、BC027938またはNM_178565の配列を有する。本発明はまた、R-スポンジン2の活性を有するヒトR-スポンジン2の断片も含む。該断片は好ましくは、1型トロンボスポンジンドメインと相同性領域を有する断片を含む。
【0028】
FL型R-スポンジン3は全長R-スポンジン3であり、配列番号15の第22〜第272アミノ酸から成るアミノ酸配列を有する251アミノ酸から成る。これは配列番号14の第64番〜第819番から成るヌクレオチド配列(GenBank受託番号NM_032784のアミノ酸配列の第22番〜第272番に対応する)によりコードされる。配列番号15の第1番〜第21番のアミノ酸は置換えられたシグナルペプチドである。本発明はまた、R-スポンジン3の活性を有するヒトR-スポンジン3の断片も含む。該断片は好ましくは、1型トロンボスポンジンドメインと相同性領域を有する断片を含む。
【0029】
FL型R-スポンジン4は配列番号17により表される234アミノ酸から成る全長ヒトR-スポンジン4であり、配列番号16(GenBank受託番号AK12260のヌクレオチド配列の第98〜第802ヌクレオチド配列)により表されるヌクレオチド配列によりコードされる。本発明はまた、R-スポンジン4の活性を有するヒトR-スポンジン4の断片も含む。該断片は好ましくは、1型トロンボスポンジンドメインと相同性領域を有する断片を含む。
【0030】
R-スポンジン1(GIPF)、R-スポンジン2、R-スポンジン3およびR-スポンジン4の変異体、例えば、そのスプライス変異体を用いてもよい。ヒトR-スポンジン1(GIPF)は、配列番号3、6または7により表されるアミノ酸配列から1つまたはいくつかのアミノ酸の欠失、置換、または付加により誘導されかつR-スポンジン1(GIPF)活性を有するアミノ酸配列を有する変異体を含む。欠失、置換、または付加することができるアミノ酸の数は1〜10、好ましくは1〜5である。ヒトR-スポンジン1(GIPF)はまた、配列番号3、6または7により表される全アミノ酸配列と、ほぼ70%以上、好ましくはほぼ80%以上、さらに好ましくはほぼ90%以上、および特に好ましくはほぼ95%以上などの全体平均相同性の程度の相同性を有するアミノ酸配列を有する突然変異体も含む。本明細書に記載の相同性の数値は、当技術分野で公知のBLASTなどの相同性サーチプログラム(J. Mol. Biol., 215, 403-410 (1990))およびFASTA(Methods. Enzymol., 183, 63-98 (1990))を用いて計算することができる。好ましくは、かかる数値はBLASTのデフォルト(初期設定)パラメーターまたはFASTAのデフォルト(初期設定)パラメーターを用いて計算される。
【0031】
本発明はさらに、活性成分としてヒトR-スポンジン1(GIPF)、R-スポンジン2、R-スポンジン3またはR-スポンジン4をコードするDNAを含む抗腫瘍薬を包含する。ヒトR-スポンジン1(GIPF)、R-スポンジン2、R-スポンジン3またはR-スポンジン4をコードするDNAを含む抗腫瘍薬は遺伝子治療に用いることができる。DNAは、公知の技法により遺伝子治療に施用することができる。ヒトR-スポンジン1(GIPF)をコードするDNAは、配列番号1または2により表されるヌクレオチド配列を有する。これはまた、配列番号3、6または7により表されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列も有する。変異体DNAは、ストリンジェントな条件のもとで配列番号1または2により表されるヌクレオチド配列を有するDNAとハイブリダイズするDNA、または配列番号3、6または7により表されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードしかつヒトR-スポンジン1(GIPF)活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む。ハイブリダイゼーションは、Current Protocols in Molecular Biology (Frederick M. Ausubelら編, 1987)に記載の方法などの当技術分野で公知の方法またはそれらによる方法に行うことができる。ここで、「ストリンジェントな条件」は、例えば、ほぼ「1xSSC、0.1%SDS、および37℃」の条件、ほぼ「0.5xSSC、0.1%SDS、および42℃」のよりストリンジェントな条件またはほぼ「0.2xSSC、0.1%SDS、および65℃」のさらによりストリンジェントな条件である。
【0032】
変異体DNAはまた、上記DNAの全ヌクレオチド配列と、ほぼ80%以上、好ましくはほぼ90%以上、およびより好ましくはほぼ95%以上などの全体平均相同性の程度を有するヌクレオチド配列も含む。
【0033】
本発明はまた、R-スポンジン1(GIPF)、R-スポンジン2、R-スポンジン3またはR-スポンジン4を含む医薬組成物も包含する。該組成物は、製薬上許容される担体および添加物を一緒に含有してもよい。かかる担体および医薬添加物の例としては、水、製薬上許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルデンプンナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、および医薬添加物として許容される界面活性剤が挙げられる。実際の添加物は以上から単独に選択するか、またはそれらの適当な組合わせを本発明の治療薬の投与剤形に応じて選択する。かかる添加物は以上に限られるものではない。例えば、治療組成物を注入用の剤形で用いる場合、治療組成物を生理食塩水、緩衝液、またはグルコース溶液などの溶媒に溶解して、それにTween80、Tween20、ゼラチン、またはヒト血清アルブミンなどの吸着インヒビターを加え、そうして得たものを用いることができる。あるいは、医薬組成物は凍結乾燥した投与剤形であって、使用前に溶解しかつ再形成してもよい。凍結乾燥用の賦形剤としては、例えば、マンニトールなどの糖アルコールおよびグルコースおよび糖類を用いることができる。本発明の医薬組成物は一般的に非経口経路の投与、例えば、注入(例えば、皮下注入、静脈内注入、筋肉内注入、または腹腔内注入)、経皮投与、経粘膜投与、経鼻投与、または経肺投与を介して投与される。経口投与も可能である。本発明の医薬組成物を患者に投与するとき、一投与当たりの有効投与量は体重1kg当たり20ng〜200mgの範囲から選択される。あるいは、患者1人当たり、0.001〜10000mg/体重、好ましくは0.005〜2000mg/体重、およびより好ましくは0.01〜1000mg/体重の投与量を選択してもよい。しかし、本発明の医薬組成物の投与量はこれらの投与量に限定されるものでない。
【0034】
本発明の抗腫瘍薬および医薬組成物を、様々な腫瘍に対する治療または予防に用いることができる。前記腫瘍としては、結腸癌、結腸直腸癌、肺癌、乳癌、脳腫瘍、悪性黒色腫、腎細胞癌、膀胱癌、白血病、リンパ腫、T細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、胃癌、膵臓癌、頚部癌、子宮内膜癌、卵巣癌、食道癌、肝臓癌、頭部および首扁平上皮細胞癌、皮膚癌、尿路癌、前立腺癌、絨毛癌、咽頭癌、喉頭癌、卵胞膜細胞腫症、男性ホルモン産生細胞腫、子宮内膜過形成、子宮内膜症、胚芽腫、線維肉腫、カポジ肉腫、血管腫、海綿状血管腫、血管芽腫、網膜芽細胞腫、星細胞腫、神経繊維腫、欠突起細胞腫、髄芽腫、神経節芽細胞腫、神経膠腫、横紋筋肉腫、過誤芽腫、骨原性肉腫、平滑筋肉腫、甲状腺肉腫およびウイルムス腫が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
実施例1
GIPFおよびV5His6を標識したGIPFをコードする発現ベクター
KpnIおよびXbaI部位を用い、GIPFをコードするcDNA(配列番号1)をpcDNA/Intronベクターにクローニングして、野生型およびカルボキシ末端にV5His6標識したGIPF(配列番号4)を得た。哺乳動物発現ベクターpcDNA/Intronは、pcDNA3.1TOPOベクター(Invitrogene Inc., Carlsbad, CA)を、pCI哺乳動物発現ベクター(Promega, Madison, WI)由来のキメライントロンを導入することにより、遺伝子的に改変することによって得た。pCIをBGlIIおよびKpnIで消化し、そのイントロン配列を、BglIIおよびKpnIで消化しておいたpcDNA3.1中にクローニングした。以下のフォワード5’ CACCATGCGGCTTGGGCTGTCTC 3’(配列番号8)、リバース5’ GGCAGGCCCTGCAGATGTGAGTG 3’(配列番号9)を用いるPCRによって、配列番号1のGIPF ORF(配列番号2)をまずpcDNA3.1/V5His-TOPO(Invitrogen)中にクローニングし、完全なGIPF ORFを含有するpcDNA 3.1/V5His-TOPOからのKpnI-XbaIインサートを、改変されたpcDNA/イントロンベクター中にライゲートして、pcDNA/イントロン構築物を作製した。
【0036】
実施例2 組換えGIPFの精製
A. 真核細胞におけるGIPFtの発現および精製
V5-His-標識したGIPF(GIPFt)(配列番号4)をHEK293細胞およびCHO細胞で発現させ、以下のように精製した。
【0037】
V5-His-標識したGIPFポリペプチドをコードするDNA(配列番号4)を含むGIPF pcDNA/Intron構築物でトランスフェクトしておいたHEK293細胞の安定な細胞培養を無血清293 FreeStyle培地(GIBCO)中で増殖した。懸濁培養を1,000,000細胞/mlの細胞密度で播種して、4〜6日後に回収した。培地に分泌されたV5-His-標識したGIPFのレベルをELISAによってアッセイした。
【0038】
V5-His-標識したGIPFをコードするヌクレオチド配列(配列番号4)を含むpDEF 2Sベクターで形質転換しておいたCHO細胞の安定な細胞培養を、無血清EX-CELL302培地(JRH)中で増殖した。発現ベクターは、メトトレキセート(MTX)の存在下での陽性選択および増幅を可能とする、DHFRをコードするDNA配列を含有する。培地へ分泌されたV5-His-標識したGIPFのレベルはELISAによってアッセイした。
【0039】
分泌されたGIPFタンパク質を含有する培地を回収し、-80℃にて凍結した。培地を4℃で解凍し、プロテアーゼインヒビター、EDTAおよびPefabloc(Roche,Basel,Switzerland)を各々1mMの最終濃度で加えて、GIPFの分解を防いだ。培地を0.22μm PESフィルター(Corning)を通して濾過し、10kDa分子量カットオフ膜をもつTFFシステム(Pall Filtron)を用いて10倍濃縮した。濃縮した培地の緩衝液を20mMリン酸ナトリウム、0.5M NaCl、pH7と交換した。リン酸緩衝液中への0.5M NaClの添加は、精製中にpH7でV5-His標識したGIPFの完全な溶解度を維持するために重要である。限外濾過および透析濾過に続いて、哺乳動物プロテアーゼインヒビターカクテル(Sigma)を1:500(v/v)の最終希釈まで加えた。
【0040】
HiTrap Ni2+-キレート化アフィニティーカラム(Pharmacia)を20mMリン酸ナトリウム、pH7、0.5M NaClを用いて平衡化した。緩衝液を交換した培地を0.22μmのPESフィルターで濾過し、Ni2+-キレート化アフィニティーカラムに供給した。Ni2+カラムを、10カラム容積(CV)の20mMイミダゾールにより10カラム容積だけ洗浄し、そしてタンパク質を20mM〜300mMイミダゾールの勾配で35CVにわたって溶出した。画分をSDS-PAGEおよびウェスタンブロットによって分析した。V5-His標識したGIPFを含有する画分を分析してプールし、75〜80%純度のGIPFタンパク質溶液を得た。
【0041】
Ni2+カラムを用いて単離したGIPFタンパク質含有緩衝液を20mMリン酸ナトリウム、0.3Mアルギニン、pH7と交換して、NaClを除去した。NaClをリン酸緩衝液中の0.3M Argと交換して、次の精製段階の間、V5-His標識したGIPFタンパク質の完全な溶解度を維持した。Ni2+カラムを用いて単離したGIPFタンパク質を、20mMリン酸ナトリウム、0.3Mアルギニン、pH7で平衡化しておいたSP Sepharose高性能カチオン交換カラム(Pharmacia, Piscataway, NJ)に供給した。カラムを8CVの間、0.1M NaClで洗浄し、30CVの間、0.1M〜1M NaClの勾配で溶出した。V5-His標識したGIPFを含有する画分をプールして、90〜95%純度のタンパク質溶液を得た。
【0042】
プールした画分の緩衝液を20mMリン酸ナトリウム、pH7、0.15M NaClと交換し、タンパク質を1または2mg/mLまで濃縮し、滅菌0.22μmフィルターを通した。純粋なGIPF調製物を-80℃で保存した。
【0043】
各精製段階の最後に得たタンパク質産物を分析し、ELISA、タンパク質BradfordアッセイおよびHPLCによって定量した。GIPFtタンパク質の回収率(%)を精製プロセスの各段階で測定し、以下の表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
精製されたGIPFタンパク質のSDS-PAGE分析を還元および非還元条件下で行い、CHOおよび293細胞に由来するV5-His標識したGIPFタンパク質が両方ともモノマーとして存在することを示した。GIPFタンパク質をグリコシル化し、ほぼ42kDaの分子量(MW)で非還元条件のもと、SDS-PAGEを泳動させる。CHO細胞から精製したGIPFタンパク質のMWとHEK293細胞から精製したそれとには僅かな差がある。この差は、GIPFが異なった細胞型においてグリコシル化される程度によって説明することができる。N末端配列分析は、HEK293細胞が2つの型のポリペプチドを生じたことを示した。シグナル配列を欠く配列番号3のGIPFタンパク質に対応する優性成熟型(配列番号6)、およびシグナルペプチドおよびフューリン開裂配列を共に欠く配列番号3のGIPFタンパク質に対応する成熟型(配列番号7)。2つの型はSPカラムでよく分離され、これは、ほぼ1:2の優性成熟型に対する成熟の比率で発現された。
【0046】
pH7におけるGIPFタンパク質の溶解度に対するNaClおよびアルギニン(Arg)の効果を測定し、これを図2Aに示す。0.3M Argの非存在のもとでは、精製の間にタンパク質の50%減少が引き起こされると判断された。図2Bは、PBS(20mMリン酸ナトリウム、0.15M NaCl、pH 7)中の精製されたタンパク質の溶解度を示す。GIPFタンパク質は8mg/mLの濃度まで4℃、pH7において、7日間溶液のままである。
【0047】
まとめると、HEK293またはCHO細胞のV5-His-標識したGIPFの精製を、1)培地に存在するGIPFタンパク質を濃縮し、透析濾過し、2)Ni2+-キレート化アフィニティークロマトグラフィーを行い、次いで、3)SPカチオン交換クロマトグラフィーによって行った。該精製プロセスによりGIPFタンパク質が得られ、これは>90%純度である。現在の精製プロセスの全回収はほぼ50%である。媒体透析濾過およびNiカラムの精製プロセスの間における0.5M NaClの緩衝液への添加は、pH 7においてGIPFを完全に溶解したまま保持するために重要である。SPカラムへGIPFを結合させるために、NaClを除去し、0.3M Argを加えて高い溶解度を維持し、そしてタンパク質回収を増大させた。第一および第二の精製段階の間における0.5M NaClおよび0.3Argの添加は、少なくとも25%〜50%だけ全回収を増加させることを示した。
【0048】
B. 真核細胞におけるGIPFwtの発現および精製:
全長GIPFポリペプチド(GIPFwt)(配列番号3)をコードするDNA(配列番号2)を含むpcDNA/IntronベクターでトランスフェクトしておいたHEK293細胞の安定な細胞培養を、懸濁液で増殖するように適合させ、25μg/mlジェネテシンの存在のもとで無血清293 FreeStyle培地(GIBCO)中で増殖した。
【0049】
スピナーにおける細胞培養増殖:スピナーにおける小規模産生のため、細胞の凍結ストックのアリコートを、0.5%胎児ウシ血清(FBS)を加えた293 FreeStyle培地中で増殖させ、拡大した。細胞をスピナーに播種して、各継代につき300,000〜500,000/mLの細胞密度で拡大した。産生のために十分な細胞が蓄積されて細胞密度が1,000,000細胞/mLに到達すれば、培地を無血清293 FreeStyle培地と交換して0.5%FBSを除去し、そして6日後に回収した。最初の細胞生存率は80〜90%の間であって、これが回収の時点では30%まで減少した。培地に分泌されていたGIPFwtのレベルをELISAおよびウェスタンによってアッセイした。スピナーにおけるGIPFwtの増殖は1.2〜1.5mg/lを生じた。
【0050】
大規模産生用には、バイオリアクターにバッチで供給する形式の細胞培養増殖を利用した。HEK293細胞の無血清適合懸濁培養を、細胞の継代時に、200,000〜400,000/mlの細胞密度にて播種した。200 lおよび500 lバイオリアクターの播種用に、細胞を無血清293 FreeStyle培地中で増殖させ、50〜500ml振盪フラスコから20〜50攪拌タンクに拡大した。十分な細胞が蓄積すると、細胞を200,000〜400,000細胞/mlの密度にてバイオリアクターに播種した。細胞密度が1,000,000細胞/mlに到達すると、ビタミンおよびMEMアミノ酸(GIBCO)を加えて、増殖をブーストし、支援した。細胞生存率が25〜30%まで低下した6〜7日後に、細胞をバイオリアクターから回収した。培地へ分泌されたGIPFwtのレベルをELISAおよびウェスタンによりアッセイした。分泌されたGIPFのウェスタン分析は、タンパク質の分解が起きなかったことを示した。ウェスタン分析を精製された抗GIPFポリクローナル抗体を用いて行い、捕獲抗体として精製されたニワトリ抗GIPFポリクローナル抗体および検出抗体としてウサギ抗GIPFポリクローナル抗体を用い、ELISAによるタンパク質の検出を行った。ウサギおよびニワトリポリクローナル抗体は、全タンパク質に対して生起させた。バイオリアクター中のGIPFwtの増殖は2.6〜3mg/lを生じた。
【0051】
分泌されたGIPFwtタンパク質を含有する培地の限外濾過-透析濾過物を遠心により回収した。タンパク質インヒビター1mM EDTAおよび0.2mM Pefabloc(Roche, Basel, Siwzerland)を加え、GIPFの分解を防いだ。培地を0.22μmのPESフィルター(Corning)を通して濾過し、10kDaカットオフ膜にてTFFシステム(Pall Filtron)または中空繊維システム(Spectrum)を用いて10倍濃縮した。濃縮された培地の緩衝液を20mMリン酸ナトリウム、0.3M Arg、pH7と交換した。リン酸緩衝液中の0.3M Argの添加は、精製の間、pH7でGIPFwtを完全に可溶に維持するために重要である。限外濾過および透析濾過の後に、哺乳動物プロテアーゼインヒビターカクテル(Sigma)を1:500(v/v)希釈で加えた。
【0052】
Qアニオン交換クロマトグラフィー処理を次のように行った:アニオン交換Q sepharose HPカラム(Amersham)を、pH7.0の0.3M Argを含有する20mMリン酸ナトリウム(NaP)緩衝液で平衡化した。10倍濃縮しかつ緩衝液交換した培地を0.22μm PESフィルターで濾過し、そしてQ sepharoseカラムに供給して不純物および核酸を結合させた。
【0053】
SPカチオン交換クロマトグラフィー処理を次のように行った:GIPFwtを含有するQ-sepharose流通液を集めて、GIPFタンパク質と結合するカチオン交換SP sepharose HP(Amersham)に供給した。SP sepharoseカラムを15カラム容量(CV)の20mM NaP、0.3M Arg、0.1M NaCl、pH7で洗浄し、GIPFを40カラム容量にわたって0.1M〜0.7MのNaClの勾配で溶出させた。画分をSDS-PAGEおよびウェスタンブロットによって分析した。GIPFwtを含有する画分を分析し、プールした。プールした画分の緩衝液を、20mMリン酸ナトリウム、pH7、0.15M NaClと交換した。精製されたタンパク質の純度は、SDS-ゲルのクーマシー染色によって分析すると、92〜95%であると断定された。タンパク質を1mg/mlまで濃縮し、滅菌0.22μmフィルターを通して通過させ、-80℃で保存した。
【0054】
精製プロセスにおいて各段階の最後に得られた収率をELISAおよびBradfordアッセイによって定量し、GIPFタンパク質の回収率(%)は表2に示されるように計算された。
【0055】
【表2】
【0056】
最終製剤化のGIPFタンパク質溶液のエンドトキシンレベルは発色源LAL(Limulus Amebocyte溶解物)アッセイキット(Charles River)を用いて分析し、GIPFの1mg当たり0.24EUであると決定された。
【0057】
C. 精製された組換えGIPFの特徴付け
精製されたGIPFタンパク質(GIPFwt)のSDS-PAGE分析を還元および非還元条件下で行い、293細胞に由来するV5-His標識したGIPFタンパク質はモノマーとして存在することを示した。GIPFwtタンパク質をグリコシル化すると、非還元条件下でほぼ38kDaの分子量(MW)でSDS-PAGEを移動する。マトリックス支援レーザー脱離/イオン化質量分析法(MALDI)は、GIPFwtについてのそれぞれの分子量が32.9kDaであり、他方、シグナルペプチドを欠くGIPFwtについての理論分子量は26.8kDaであることを示した。分子量の食い違いは、タンパク質のグリコシル化によって説明しうることを示唆した。続いて、製造業者の指示に従って、N-およびO-グルカナーゼ(Prozyme, San Leandro,CA,USA)を用いてN結合およびO結合オリゴ糖の完全な脱グリコシル化を行った。脱グリコシル化タンパク質のSDS-PAGE分析の結果は、4〜5kDaの見掛けの分子量の低下を生じた。
【0058】
N末端配列分析は、HEK293細胞が2つの型のGIPFwtポリペプチドを生じることを示した。シグナル配列を欠く配列番号4のGIPFタンパク質に対応する優性成熟型(配列番号6)、およびシグナルペプチドおよびフューリン開裂配列を共に欠く配列番号3のGIPFタンパク質に対応する成熟型(配列番号7)。SPカラムでよく分離された2つの型は、成熟型-対-優性成熟型の比がほぼ1:2で発現された。優性成熟型を、動物モデルおよびin vitro試験におけるGIPFの効果を試験するために用いた。
【0059】
まとめると、精製プロセスは92〜95%純度であるGIPFwtを生じる。GIPFの優性成熟型の全回収はほぼ50%である。培地透析濾過およびNiカラムの精製プロセス中の0.5M NaClの緩衝液への付加は、pH7においてGIPFを完全に可溶に維持するために重要である。GIPFをSPカラムに結合させるために、NaClを除去しかつ0.3M Argを加えて高い溶解度を維持し、タンパク質回収を増加させた。
【0060】
GIFPwtの優性成熟型および成熟型を用いて、GIPFのin vivoおよびin vitroにおける生物学的活性を試験した。
【0061】
実施例3
HEK293およびCHO細胞に発現された組換えGIPFタンパク質の薬物動態学(PK)
V5His6-標識した組換えGIPFタンパク質(GIPFt)の薬物動態(PK)をマウスにおいて測定した。6〜8週齢BALB/cマウスに尾静脈を介して、40mg/kg GIPFtタンパク質または対照としての製剤緩衝液のいずれかの単用量を静脈内注射した。血液を注射から0、30分、1時間、3時間、6時間および24時間後に抜き取り、各時点の血清中タンパク質レベルを、抗V5抗体(Invitrogene Inc.,Carlsbad,CA)を用いるウェスタン分析により分析した。図3Aは、血清GIPFタンパク質の有意な分解が検出されなかったことを示す。血清中のGIPFタンパク質の半減期を、V5標識した標準タンパク質としてPositope(Invitrogene Inc.,Carlsbad,CA)を用いて、注射後のタンパク質濃度の半対数プロットにより計算し、そして5.3時間と見積もった(図3B)。
【0062】
実施例4
NIH3T3形質移入体を導入したマウス中のGIPFの抗腫瘍効果
A. pcmvGIPF-IRES-GFPの調製
pIRES2-EGFP(BD Bioscience Clontech)をEcoRIおよびNotIを用いて消化した後、IRES-GFP領域を含むその断片を0.8%アガロースゲル電気泳動およびQIA quick Gel Ectraction Kit(QIAGEN)により精製した。精製した断片(IRES-GFP)を、EcoRIおよびNotIを用いて消化したpcDNA3(Invitrogen)とライゲートし、そして子ウシ腸アルカリホスファターゼを用いて処理してその両端を脱リン酸した。ライゲーション混合物をDH5αにトランスフェクトし、得られる形質転換体から調製したDNAサンプルをヌクレオチド配列決定により分析して挿入された断片の構造を確認した。正しいヌクレオチド配列をもつ断片を含むクローンを選択した(pIRES-GFP)。
【0063】
GIPF断片(0.81kb、SalI-SalI)を、次のプライマーと、ヒト胎児皮膚cDNAライブラリー(Invitrogen)から誘導した全長GIPFcDNAをテンプレートとして用いることにより調製した:GIPF-F、ACGCGTCGACCCACATGCGGCTTGGGCTGTGTGT(SalI部位およびKozak配列を5’末端に含む;配列番号10)およびGIPF-R、ACGCGTCGACGTCGACCTAGGCAGGCCCTG(SalI部位を5’末端に含む;配列番号11)。次いで、その0.81kbGIPF断片をSalIを用いて消化し、そしてBlunting high(TOYOBO)を用いて処理し、その両端を平滑末端化した。得られる、GIPFコード領域を含むDNA断片を0.8%アガロースゲル電気泳動により精製した。このGIPF断片をpIRES-GFPベクターとライゲートし、それをEcoRIを用いて消化し、Klenow断片(TAKARA BIO)を用いて処理して、その両端を平滑末端化し、そしてさらに大腸菌C75アルカリホスファターゼを用いて処理し、その両端を脱リン酸した。ライゲーション混合物をDH5αにトランスフェクトし、得られる形質転換体から調製したDNAサンプルをヌクレオチド配列決定により分析して挿入された断片の構造を確認した。GIPF断片を、CMVプロモーターと同じ方向に含むクローンを選択した(pcmvGIPF-IRES-GFP:図4)。
【0064】
B. pcmvEPO-IRES-GFPの調製
pLN1/hEPO(Kakedaら, Gene Ther., 12: 852-856、2005)をBamHIおよびXhoIを用いて消化した後、ヒトエリスロポエチン(hEPO)コード領域を含む断片をBlunting high(TOYOBO)を用いて処理してその両末端を処理して平滑末端化した。次いで、0.6kb hEPO断片を0.8%アガロースゲル電気泳動およびQIA quick Gel Ectraction Kit(QIAGEN)により精製した。このhEPO断片をpIRES-GFPベクターとライゲートし、それをEcoRIを用いて消化し、Klenow断片(TAKARA BIO)を用いて処理して、その両端を平滑末端化し、そしてさらに大腸菌C75アルカリホスファターゼを用いて処理し、その両端を脱リン酸した。ライゲーション混合物をDH5αにトランスフェクトし、得られる形質転換体から調製したDNAサンプルをヌクレオチド配列決定により分析して挿入された断片の構造を確認した。hEPO断片を、CMVプロモーターと同じ方向に含むクローンを選択した(pcmvEPO-IRES-GFP:図5)。
【0065】
C. NIH3T3にエレクトロポレーションするための、pcmvGIPF-IRES-GFPおよびpcmvEPO-IRES-GFPプラスミドDNAの調製
pcmvGIPF-IRES-GFPおよびpcmvEPO-IRES-GFPのプラスミドDNAを、BglIIを用いて、1mMスペルミジン(pH7.0、Sigma)を含有する反応混合物中で5時間、37℃にて消化した。次いでその反応混合物を、フェノール/クロロホルム抽出しそして16時間、-20℃にてエタノール沈降(0.3M NaHCO3)処理をした。線状化したベクター断片を、Dulbecco'sリン酸-緩衝化生理食塩水(PBS)緩衝液に溶解し、次のエレクトロポレーション実験に用いた。
【0066】
線状化したpcmvGIPF-IRES-GFPおよびpcmvEPO-IRES-GFPベクターをNIH3T3細胞(Riken Cell Bank、RCB0150より得た)中にトランスフェクトした。NIH3T3細胞をトリプシンで処理し、そしてPBS中に5x106細胞/mlの濃度に懸濁し、次いで、Gene Pulser(Bio-Rad Laboratories、Inc.)を用いて、10μgのベクターDNAの存在のもとでエレクトロポレーションを行った。350Vの電圧を、500μFのキャパシタンスにて、長さ4mmのエレクトロポレーション・セル(165-2088, Bio-Rad Laboratories, Inc.)に常温で適用した。エレクトロポレーション処理した細胞を、100mm2の組織培養プラスチックプレート内の、10%ウシ胎児血清(FBS)を補充したDulbecco改変Eagle MEM(DMEM)中に播種した。1日後、培地を、10%FBSを補充しかつ800μg/mlのG418(GENETICIN、Sigma)を含有するDMEMにより置き換えた。2週間後に、各100mm2中に200を超えるG418耐性コロニーが形成された。得られるコロニーをトリプシンを用いて処理し、各100mm2プレートを混合し、そして再び100mm2のプレート中に播種しかつ培養し、増殖した。pcmvGIPF-IRES-GFPベクターによる形質移入体の混合物である2つのプール(A-2、A-5)およびpcmvEPO-IRES-GFPベクターによる形質移入体の混合物である2つの混合物(C-3、D-3)を以下の実験に用いた。それぞれのプールについて混合した形質移入体の6x105細胞を、5%ウシ胎児血清(FBS;Gibco)および1μg/mlのヨウ化プロピジウム(Sigma、St.Louis、MO)を補充したPBSに懸濁させ、FACSVantage(Becton Dickinson, Franklin Lakes, NJ)により分析した。高い蛍光強度(15%を超える)を示すGFP-ポジティブ細胞をソートして培養し、GFPのさらに高レベル発現を示す形質移入体のプール(A-2GH、A-5GH、C-3GH、D-3GH)を増殖した。高レベル発現を示す形質移入体のプールのうちの2つ(A-2GH、A-5GH)および1つ(D-3GH)ならびに非形質移入体NIH3T3細胞を次の移植実験に用いた。
【0067】
D. 形質移入体プールの増殖速度の測定
培養中の増殖速度を測定するために、高レベル発現を示す4つの形質移入体プールまたは対照NIH3T3のそれぞれの1x105細胞を、100mm2の組織培養プラスチックプレートで、10%のFBSを補充したDMEM中に播種した。培養がサブコンフルエントに到達すると、細胞をトリプシンを用いて処理し、そして全細胞の10分の1(実験1:10 x)または20分の1(実験2:20 x)を、100mm2組織培養プラスチックプレート中の10%FBSを補充したDMEM中に再播種した。培養と播種を、以上の手順に従って実験1については532時間、実験2については561時間、繰返して実施した。続いて、100mm2ディッシュ中の全細胞数を、それぞれの実験について数え、高レベルのGFP発現を示す形質移入体プールのそれぞれまたは対照NIH3T3に対する倍加時間をそれぞれの実験において計算した。結果を表3に示した。結論として、高レベルのGFP発現を示す形質移入体プールのin vitro増殖速度は、対照NIH3T3のそれと比較して変わりがない。
【0068】
【表3】
【0069】
E. NIH3T3形質移入体を導入したマウスにおけるGIPFの抗腫瘍効果
GIPFを発現するNIH3T3細胞の効果を、細胞導入マウスモデルを用いて、次の方法によって試験した。
【0070】
4〜6匹のscidマウス(CLEA Japanから購入)の5グループを次の通り作った、1)SCaグループ:A-2GH GIPFを発現するNIH3T3細胞が導入されたグループ、2)SCbグループ:A-5GH GIPFを発現するNIH3T3細胞が導入されたグループ、3)SCcグループ:D-3GH ヒトエリスロポエチン(hEPO)を発現するNIH3T3細胞が導入されたグループ、4)SCdグループ:野生型NIH3T3細胞が導入されたグループ、および5)SCeグループ:対照として、DMEMが注射されたグループ。GIPFおよびhEPOを発現する細胞または野生型NIH3T3細胞を、5週齢のscidマウスに、300〜600μlのDMEM中の5x106細胞/マウスの量を静脈内(iv)および腹腔内(ip)に導入した。SCeグループでは300〜600μlのDMEMをivまたはip注入した。死亡の有無の確認および一般的健康と外見の臨床観察を1日1回行った。瀕死症状を示したマウスは犠牲にして病理学的分析、血清化学分析および組織病理学試験を行った。全ての生存動物について、細胞導入後、毎週1回、体重を測定した。血液学的分析のために、全マウスからの血液サンプルを細胞導入の前に、5週齢で採取し、そして細胞導入後、2週毎に全生存マウスからの血液サンプルを採取した。血液学パラメーターの測定は採集した血液サンプルを用いてAdvia120装置(Bayel-Medical)により行った。病理学的分析のために、全生存マウスを、細胞導入後の42日に犠牲にした。マウスをジエチルエーテルを用いて麻酔し、血液サンプルを下大静脈から採取した。血液サンプルの採集については、血液サンプルをMicrotainer(Becton Dickinson)に移し、そして室温にて30分間保存し、次いで8000rpmで10分間遠心分離した。血清生化学パラメーターを採集した血液サンプルを用いて試験した。剖検において、外見、腹腔、皮下組織、胸腔、および胃腸組織を含む器官を試験した。器官重量を測定し、肉腫または腫瘍を含む器官および組織を巨視的に検証し、そして10%中性緩衝化ホルマリンに固定して組織病理学分析を行った。ヘマトキシリン-エオシン染色した標本を、脾臓、肝臓、心臓、膵臓、胃腸管、リンパ節または明らかな異常が観察される他の組織から調製した。毎日の観察により、腹腔内導入したマウスの皮下層内または筋肉層下における小さいこぶまたは腫瘍の形成が、細胞導入後9〜10週後から認められた。こられのこぶまたは腫瘍は、腹膜に移植された凝集したNIH3T3細胞塊であると予想された。かかる腫瘍形成は、全てのグループで観察されたが、SCc(SCc2)およびSCd(SCd2)グループのマウスは、SCaまたはSCbグループのマウスと比較して、より早い時期により大きい腫瘍が発生した(表4)。
【0071】
【表4】
【0072】
総合的な臨床観察において、いくつかのマウスは粗い毛、異常な呼吸、低い体温または貧血が観察された。この総合的な健康悪化はin vivoで導入された細胞腫瘍形成がもたらしたと予想された。各グループの体重曲線は、細胞導入後5週に体重の急速な低下を示したSCcグループを除くと、グループ間で明らかな差を示さなかった。図6は、各グループの細胞導入したマウスの生存曲線の結果を示す。SCcグループにおいては、生存率は細胞導入後34日に急速に低下し(生存率50%)そして全てのマウスが細胞導入後35日に死亡した。SCdグループにおいては生存率は細胞導入後33日から徐々に低下し、そして全マウスが細胞導入後40日に死亡した。図6において、GIPFを発現するNIH3T3細胞が導入されると、生存率はSCcまたはSCdグループより相対的に高く、細胞導入後40日を越えた。SCbグループではSCe対照グループと比較して生存率のわずかな低下しか観察されず、さらにSCaグループでは全マウスが生存した(細胞導入後40日にSCaマウスで100%、そしてSCbマウスで80%が生存した)。血液学的分析において、SCcグループにおいて、細胞導入後の2週から赤血球細胞数(RBC)の増加が観察された。細胞導入後の4週に、平均RBCはSCcグループおよびSCdグループにおいてそれぞれ13.32x106細胞s/uLおよび10.47x106細胞s/uLであった。これは、導入されたNIH3T3細胞中のヒトエリスロポエチントランスジーンがin vivoで発現され、予想されるように、トランスジーン発現がこのモデルのレシピエントマウス生理学に影響を与えたことを意味する。表4に示したように、ip導入されたマウスはその腹腔空洞内に分散した小腫瘍塊を発生し、さらに肉腫および血腫が腹膜、腸間膜および脂肪組織に観察された。しかし、ip細胞導入されたSCaグループのマウスには、他のグループと比較して、大きい肉腫および血腫が観察されなかった(表5および図7)。他方、iv細胞導入された各グループのマウスの肺には、腫瘍が発生した(表5および図8)。しかし、SCaおよびSCbグループの腫瘍のサイズは、SCcまたはSCdグループと比較して小さかった(図8)。
【0073】
これらのデータは、GIPF発現がin vivoでNIH3T3腫瘍増殖を抑制することを示唆する。導入された細胞は、ip細胞導入されたマウスの腹腔中に、またはiv細胞導入されたマウスの肺に分布し、そして腫瘍または肉腫を発生した。細胞型の間の相違は、分布後の腫瘍増殖に影響を与える。ヒトEPOまたは野生型NIH3T3細胞は、導入された細胞腫瘍発生に対して細胞死誘導性または抗腫瘍活性を有しない。他方、GIPFを発現する細胞が導入されたマウスおいては、hEPOを発現するおよび野生型NIH3T3細胞が導入されたマウスと比較して、腫瘍数およびサイズの低下が観察された。GIPFは何らかの細胞死誘導性、抗腫瘍または抗血管新生活性を有すると予想される。GIPFが、導入されたNIH3T3細胞内で産生され、それがオートクラインまたはパラクラインする形で影響を与え、このモデルにおける腫瘍増殖または発生を抑制した。それ故に、GIPFを発現する細胞を受け入れたマウスの死亡率は、GIPF抗腫瘍発生活性によって低下した。
【0074】
【表5】
【0075】
実施例5
腫瘍保持マウスに与えるGIPFの効果
腫瘍増殖に与えるGIPFの効果を、次の方法により腫瘍保持マウスモデルを用いて試験した。
【0076】
ドナー腫瘍ブロックを調製するために、Sw620(結腸直腸腺癌からヒトリンパ節転移;上皮性)細胞を5x106/マウスの量で、7週齢Balb/cヌードマウス(CLEA Japanから購入)の背面に皮下移植した。腫瘍体積が約400mm3になったときに腫瘍を切断し、クロス・スカルペルを用いてほぼ2x2x2mmサイズに細断した。Sw620の腫瘍ブロックを9週齢Balb/cヌードマウス(CLEA Japanから購入)の背面の皮下に移植した。腫瘍体積が約100mm3または200mm3になったときに、マウスを、それぞれのグループが6匹のマウスから成りかつ一様な平均腫瘍体積をもつようにグループ分けした。
【0077】
COLO205(転移性結腸直腸腺癌からのヒト腹水;上皮性)およびHT29(ヒト結腸直腸腺癌;上皮性)細胞を2x106/マウスの量で、10週齢のBalb/cヌードマウス(CLEAJapanから購入)の背面に皮下移植した。腫瘍体積が約50mm3または150mm3になったときに、マウスを、それぞれのグループが6匹のマウスから成りかつ一様な平均腫瘍体積をもつようにグループ分けした。
【0078】
グループ分け後、7日間、毎日、GIPFを100μg/マウス(100μlのPBSに溶解した)の量で静脈内に注射した。同じ体積のPBSをネガティブ対照として用いた。
【0079】
腫瘍の寸法と体重を毎週3回測定し、腫瘍体積を幅x幅x長さx0.52として計算した。
【0080】
図9は上記実験の結果を示す。GIPFの投与は全ての3つの腫瘍の増殖を促進しなかっただけでなく、Sw620およびCOLO205の抗腫瘍効果も有意に誘導した。
【0081】
図9Aは、GIPFを7日間、100mg/マウスの量で毎日投与したときの、Sw620腫瘍サイズの測定結果を示す。
【0082】
図9Bは、GIPFを7日間、100mg/マウスの量で毎日投与したときの、COLO205腫瘍サイズの測定結果を示す。
【0083】
図9Cは、GIPFを7日間、100mg/マウスの量で毎日投与したときの、HT29腫瘍サイズの測定結果を示す。
【0084】
実施例6 正常なヒト内皮細胞の増殖に与えるGIPFの効果
in vitroの増殖効果を研究するために、組換えGIPFの正常なヒト内皮細胞の増殖に与える効果を試験した。初代ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)およびヒト皮膚微小血管内皮細胞(HMVEC)をCambrex(Walkersville、MD)から購入し、Cambrexの内皮細胞増殖培地中で増殖した。HUVECおよびHMVECの細胞増殖速度は3H-チミジンの組込みを検定することにより測定した。
【0085】
概要を説明すると、HUVECまたはHMVECを、コラーゲンコートした96ウエルプレート内の5%FBSを含有する内皮基本培地-2(EBM2;Cambrex(Walkersville、MD))中に200μL/ウエル当たり4,000細胞で播種した。24時間後に、GIPF(3〜1000ng/ml)、次いで20ng/mLのVEGFを加え、そして細胞を78時間培養した。3H-チミジン(1μCi/mL)を加え、そして細胞をさらに14時間培養した。次いでそれを回収し、その放射能を液体シンチレーションカウンターを用いて測定した(Wallac 1205 Beta Plate; Perkin-Elmer Life Sciences、Boston、MA)。GIPF処理した細胞の増殖速度を、無処理の細胞の増殖速度と比較した。
【0086】
図10は上記実験の結果を示す。GIPFはVEGFによるHMVEC増殖を阻害したがHUVEC増殖を阻害しなかった。
【0087】
図10;GIPFはVEGFによるHMVEC増殖を阻害したがHUVEC増殖を阻害しなかった。HUVECまたはHMVECを播種して24時間培養した。細胞をGIPFと共にインキュベートした後、20ng/mL VEGFを用いて刺激した(・)。次いでその細胞を78時間培養し、次いで3H-チミジン(1μCi/mL)と共に14時間インキュベートした。細胞の組み込まれた放射能を液体シンチレーションカウンターを用いて測定した。点は平均値(n=3)であり;バーはSDである。
【0088】
実施例7 正常なヒト内皮細胞の遊走に与えるGIPFの効果
正常なヒト内皮細胞の遊走に与えるGIPFの効果を研究するために、HMVECの遊走をMatrigelインベージョンチャンバ(BD Biosciences)システムにより測定した。初代ヒト皮膚微小血管内皮細胞(HMVEC)はCambrex(Walkersville、MD)から購入し、Cambrexの内皮細胞増殖培地中で増殖した。
【0089】
細胞遊走を24ウエルのマトリゲルインヴェージョンチャンバにおいて試験した。マトリゲルインベージョンチャンバは、Matrigelマトリックスを用いて処理されている8ミクロン孔サイズPET膜を含有するBD falconTM細胞培養インサートから成る。概要を説明すると、HMVECを回収し、GIPF(10または1000ng/ml)を含有する対照培地(0.1%BSAを含有するEBM2)を用いて、30分間、懸濁状態で前処理した。2x105細胞をそれぞれのインベージョンチャンバーの頂部に供給し、そしてチャンバーの下側へ、4時間、37℃にて、下のチャンバーにVEGF(5または50ng/ml)の存在または非存在のもとで遊走させた。細胞を固定しかつDiff-Quick(Sysmex corp.)を用いて染色した。フィルター頂部の非遊走細胞を拭き取り、そしてフィルターの底部に付着した遊走した細胞を明視野顕微鏡を用いて数えた。各測定値は2つの個々のウエルの平均値を表す。遊走を、100%遊走を表すVEGFに対する遊走を用いて%遊走に標準化した。
【0090】
図11は上記実験の結果を示す。GIPFはVEGFが誘導するHMVEC遊走を阻害した。
図11;GIPFはVEGFが誘導するHMVEC遊走を阻害した。細胞遊走はVEGFにより誘導される最大遊走の百分率として表される。ダッシュ線はVEGFの非存在のもとにおける基礎遊走レベルを示す。誤差バーはSDを示す。**アンペアドデータに対するt検定を用いて決定したVEGF単独と比較して、P<0.01。
【0091】
本明細書は、本明細書に引用された全ての刊行物、特許および特許出願本明細書を参照によりその全てを組み入れる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】ヒトR-スポンジン1(GIPF)とトロンボスポンジン1(TSP1)の間の、TSP-1 1型反復領域のマルチプルアラインメントを示す図である。
【図2A】図2Aは、pH7にてR-Spondin1(GIPF)タンパク質の安定性に与えるNaClおよびArgの効果を示す図である。
【図2B】図2Bは、PBS中における精製タンパク質の溶解度を示す図である。
【図3A】図3Aは、血液中の組換えR-スポンジン1(GIPF)の安定性を示す図である。
【図3B】図3Bは血清中のR-スポンジン1(GIPF)の半減期を示す図である。
【図4】pcmv R-スポンジン1(GIPF)-IRES-GFPの構築物を示す図である。
【図5】pcmv EOP-IRES-GFPの構築物を示す図である。
【図6】各グループにおける細胞が導入されたマウスの生存曲線の結果を示す図である。SCaグループはA-2GH GIPFを発現するNIH3T3細胞が導入されたグループであり、SCbグループはA-5GH R-スポンジン1(GIPF)を発現するNIH3T3細胞が導入されたグループであり、SCcグループはD-3GHヒトEPOを発現するNIH3T3細胞が導入されたグループであり、SCdグループは野生型NIH3T3細胞が導入されたグループであり、そしてSCeグループは、対照として、DMEMが導入されたグループである。
【図7】図7は、各グループにおける、細胞が導入されたマウス中の腫瘍発生を示す写真である。各グループは図6に記載したグループと同じである。
【図8】図8は、各グループにおける、細胞が導入されたマウス中の腫瘍発生を示す写真である。SCaグループはA-2GH R-スポンジン1(GIPF)を発現するNIH3T3細胞が導入されたグループであり、SCcグループはD-3GHヒトEPOを発現するNIH3T3細胞が導入されたグループであり、そしてSCdグループは野生型NIH3T3細胞が導入されたグループである。
【図9A】図9Aは、R-スポンジン1(GIPF)を投与したときの、マウスにおけるSw620腫瘍サイズの測定結果を示す図である。
【図9B】図9Bは、R-スポンジン1(GIPF)を投与したときの、COLO205腫瘍サイズの測定結果を示す図である。
【図9C】図9Cは、R-スポンジン1(GIPF)を投与したときの、HT29腫瘍サイズの測定結果を示す図である。
【図10A】図10Aは、正常なヒト内皮細胞(HUVEC)の増殖に与える、R-スポンジン1(GIPF)の効果の結果を示す図である。
【図10B】図10Bは、正常なヒト内皮細胞(HMVEC)の増殖に与える、R-スポンジン1(GIPF)の効果の結果を示す図である。
【図11】図11は、正常なヒト内皮細胞(HMVEC)の遊走に与える、R-スポンジン1(GIPF)の効果の結果を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明により提供される方法と組成物は、内皮細胞および癌細胞の増殖または遊走を阻害する。本発明は癌治療の分野に関する。さらに特に本発明は、ヒトR-スポンジン1(GIPF)、R-スポンジン2、R-スポンジン3、R-スポンジン4に関しかつ癌治療に有用である。
【背景技術】
【0002】
腫瘍血管新生の標的化は効果的な癌治療法の1つである。血管新生は出芽、小血管の増殖、枝分かれ、存在する毛細管の伸長および既存血管からの内皮細胞の構築を意味する(Folkman, J.およびShing, Y. J. Biol. Chem. 267, 10931-10934 (1992);Folkman, J. N. Engl. J. Med. 333, 1757-1763 (1995))。胚発生期の血管構造形成の最初のde novo段階は血管発生(vasculogenesis)と名づけられている(Risau, W.およびFlamme, I. Ann. Rev. Cell Dev. Biol. 11, 73-91 (1995))。血管新生の過程は天然の刺激因子と阻害因子の系を介して高度に調節されている。血管新生が無制御であると多数の疾患に関連する病理学的障害を起こす。過剰な血管新生は、癌、転移、糖尿病失明、糖尿病網膜症、加齢による黄斑変性症、アテローム性動脈硬化症および慢性関節リウマチなどの炎症症状、および乾癬などの疾患で起こる(Ziche M.ら, Curr. Drug Targets 5, 485-493 (2004))。例えば、慢性関節リウマチにおいては、関節の滑膜内張りの血管が不適切な血管新生を起こす。新血管網を形成するのに加えて、内皮細胞は諸因子および活性酸素種を放出して、パンヌス増殖および軟骨破壊をもたらし、そして慢性関節リウマチの慢性的炎症状態に積極的に関与しかつ維持するのを助ける(Bodolay E.ら, J. Cell Mol. Med. 6, 357-76 (2002))。同様に、骨関節炎において、血管新生関係因子による軟骨細胞の活性化は関節の破壊に関与する(Walsh D. A.ら, Arthritis Res. 3, 147-53 (2001))。
【0003】
血管新生は癌の増殖と転移において決定的な役割を演じる(Zetter B. R., Ann. Rev. Med. 49, 407-24 (1998);Folkman J., Sem. Oncol. 29, 15-18 (2002))。第1に、血管新生は一次腫瘍の血管発生をもたらし、必要な栄養分を増殖中の腫瘍細胞に補給する。第2に腫瘍の血管発生の増加は血流に接近する機会を与え、従って腫瘍の転移可能性を促進する。最後に、転移性腫瘍細胞が一次腫瘍増殖の部位を離れ去った後に、二次部位において血管新生が起こり転移性細胞の増殖と拡大を支えるに違いない。反対に、不十分な血管新生も、ある特定の病状を誘導する。例えば、不十分な血管増殖は、冠動脈疾患、脳卒中、および創傷治癒遅延に関連する病理に関与する(Isner J. M.およびAsahara T. J., Clin. Invest. 103, 1231-1236 (1999))。
【0004】
成長因子の血管新生刺激因子は、例えば、アンジオゲニン、アンギオトロピン、上皮性成長因子(EGF)、繊維芽細胞成長因子(酸性および塩基性)(FGF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、肝細胞成長因子/散乱因子(HGF/SF)、胎盤成長因子(PIGF)、血小板由来の内皮細胞成長因子(PD-ECGF)、血小板由来の成長因子-BB(PDGF-BB)、結合組織成長因子(CTGF)および血管内皮成長因子(VEGF)であり;プロテアーゼおよびプロテアーゼインヒビターの血管新生刺激因子は、例えば、カテプシン、ゼラチナーゼA、ゼラチナーゼB、ストロメライシンおよびウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(uPA)であり;内因性モジュレーターの血管新生刺激因子は、例えば、αvβ3インテグリン、アンギオポエチン-1、エリスロポエチン、フォリスタチン、低酸素、レプチン、ミッドカイン(MK)、一酸化窒素シンターゼ(NOS)、血小板活性化因子(PAF)、プレイオトロピン(PTN)、プロスタグランジンE、CYR61およびトロンボポエチンであり;サイトカインの血管新生刺激因子は、例えば、インターロイキン-1、インターロイキン-6およびインターロイキン-8であり;シグナル伝達酵素の血管新生刺激因子は、例えば、チミジンホスホリラーゼ、ファルネシルトランスフェラーゼおよびゲラニルゲラニルトランスフェラーゼであり;発癌遺伝子の血管新生刺激因子は、例えば、c-myc、ras、c-src、v-rafおよびc-junである。
【0005】
成長因子の血管新生インヒビターは、例えば、トランスフォーミング成長因子β(TGF-β)であり;プロテアーゼおよびプロテアーゼインヒビターの血管新生インヒビターは、例えば、ヘパリナーゼ、プラスミノーゲン活性化因子インヒビター-1(PAI-1)およびメタロプロテアーゼの組織インヒビター(TIMP-1、TIMP-2);内因性モジュレーターの血管新生インヒビターは、例えば、アンギオポエチン-2、アンギオスタチン、カベオリン-1、カベオリン-2、エンドスタチン、フィブロネクチン断片、ヘパリン六糖類断片、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ、インターフェロン誘導性タンパク質(IP-10)、イソフラボン、クリングル5(プラスミノーゲン断片)、2-メトキシエストラジオール、胎盤リボヌクレアーゼインヒビター、血小板因子-4、プロラクチン(16Kd断片)、増殖に関係するタンパク質(PRP)、レチノイド、テトラヒドロコルチゾール-S、トロンボスポンジン、トロポニン-1、バスキュロスタチンおよびバソスタチン(カルレティキュリン断片)であり;サイトカインの血管新生インヒビターは、例えば、インターロイキン-10およびインターロイキン-12であり;発癌遺伝子の血管新生インヒビターは、例えば、p53およびRbである。
【0006】
TNF-α、TGF-β、IL-4およびIL-6は二機能性分子であり、その量、部位、ミクロ環境、他のサイトカインの存在に応じて、血管新生を刺激または阻害する(Folkman, J. N., Engl. J. Med. 333, 1757-1763 (1995);Ziche M.ら, Curr. Drug Targets 5, 485-493 (2004);Ivkovic S.ら, Development 130, 2779-2791 (2003);Babic A. M., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 6355-6360 (1998))。
【0007】
血管新生を駆動する主な成長因子は血管内皮成長因子(VEGF)および繊維芽細胞成長因子-2(FGF-2)である。VEGFは内皮細胞遊走、増殖ならびに動脈および静脈系のネットワークの形成を特異的に促進する(Ferrara N.およびDavis-Smyth T., Endocrine Rev. 18, 4-25 (1997), Leung D. W.ら, Science 246, 1306-1309 (1989))。FGF-2はVEGFより広い様々なタイプの細胞を刺激する、それはFGF-2に対応する受容体が繊維芽細胞、平滑筋および内皮細胞に発現されるからである(Powers C.ら, Endocr. Relat. Cancer 7, 165-197 (2000))。
【0008】
血管新生における分子経路の最近の2つの発見は、酸素感受性プロリルヒドロキシラーゼおよび低酸素-誘導性因子(HIF)を介する低酸素状態によるプロ血管新生刺激、ならびにnotch/δ、ephrin/Eph受容体、slit/roundabout、hedgehogおよびsproutyを含む複数の新規細胞外血管新生シグナル伝達経路の同定である。組織もしくは腫瘍増殖の低酸素状態はプロ血管新生遺伝子レパートリー、例えば、アンギオポエチン-2、FGF、HGF、TGF、IL-6、IL-8、PDGF、VEGFおよびVEGF受容体などの発現を惹起しかつキー転写因子またはHIFを誘導する(Harris A. L., Nat. Rev. Cancer 2, 38-47 (2002))。
【0009】
HIF-1αは不安定であり通常の条件ではプロテアソームを介して速やかに分解するが、酸素分圧が2%未満に落ちると、HIF-1αは安定化して、核に転移し、HIF-1βと相互作用して複雑な遺伝子プログラムを転写する。HIF-1が活性化すると、内皮細胞増殖および血管形成を調節するVEGFとその受容体の発現の増加をもたらした(Bicknell R.およびHarris A. L., Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol. 44, 219-238 (2004);Forsythe J. A.ら, Mol. Cell. Biol. 16, 4604-4613 (1996))。δ4もまた、低酸素状態で誘導される内皮特異的遺伝子の1つである。δ4は成人組織中に存在しないかまたは乏しかったが、異種移植したヒト腫瘍の血管構造中におよび内因性ヒト腫瘍中に強い発現を示した(Mailhos C., Differentiation 69, 135-144 (2001))。EphA2受容体チロシンキナーゼはVEGFによりephrinA1リガンドの誘導を介して活性化された。EphA受容体の遮断は、VEGF-誘導性の血管新生、内皮細胞出芽、細胞生存および遊走を特異的に阻害したが、塩基性FGF誘導性の内皮細胞生存、遊走、出芽および角膜の血管新生を阻害しなかった(Cheng N.ら, Mol. Cancer Res. 1, 2-11 (2002))。In situ分析はmagic roundaboutが、活性血管新生の部位を除くと、成人組織には不在であるが、脳、膀胱および結腸の腫瘍を含む腫瘍の血管構造上に強く発現して肝臓に転移することを示した。この発現パターンはroundabout遺伝子のなかでもユニークであって、低酸素条件がその発現を誘導する(Huminiecki L., Genomics 79, 547-552 (2002))。sonic hedgehogはin vitroで内皮細胞遊走または増殖に影響を与えなかったが、間質間葉細胞からの3つのVEGF-1イソ型およびアンギオポエチン-1および-2の発現を誘導した(Pola R.ら, Nat. Med. 7, 706-711 (2001))。マウスsproutyタンパク質(Sprouty-4)は新規の受容体チロシンキナーゼ経路アンタゴニストであって、抗血管新生活性を示した(Lee S. H., J. Biol. Chem. 276, 4128-4133 (2001))。
【0010】
腫瘍治療のために血管新生を標的化する、多数の化合物が同定されていて、現在、前臨床開発中または臨床試験中である。例示の化合物には、上市された抗VEGF抗体、bevacizumab(制限された標的、結腸直腸癌、非小細胞肺癌および腎細胞癌に効力を示したが、転移性前立腺癌および転移性乳癌には十分な効力を示さなかった)(Ferrara N.ら, Nature Drug Discov. 3, 391-400 (2004));サリドマイド(強力な催奇形物質であってウサギ角膜ミクロポケットアッセイで抗血管新生活性を示した)(D’Amato R. J.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 91, 4082-4085 (1994));TNP-470(コウジカビ属Aspergillus fumigatus代謝物、フマギリンの合成誘導体であって、in vivoで血管新生およびin vitroで内皮細胞培養の増殖を強力に阻害した)(Benjamin E.ら, Bioorg. Med. Chem. 6, 1163-1169 (1998));ミメチック小ペプチドであるABT-510(CD36依存性経路を介する血管新生活性を示した)(Westphal J. R. Curr. Opin. Mol. Ther. 6, 451-457 (2004));SU-6668(Flk-1、FGF受容体およびPDGF受容体を阻害した)(Laird A. D.ら, Cancer Res. 60, 4152-4160 (2000));SU-11248(VEGF受容体2、PDGF受容体、c-キットおよび肝臓チロシンキナーゼ3を阻害した)(Schueneman A. J.ら, Cancer Res. 63, 4009-4016 (2003));Neovastat (AE-941)(VEGF受容体2およびマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)を阻害した)(Beliveau R.ら, Clin. Cancer Res. 8, 1242-1250 (2002))などが含まれる。
【0011】
TSP(トロンボスポンジン)は細胞-細胞および細胞-基質相互作用に関わる細胞外基質タンパク質のファミリーである。組織分布の異なるパターンをもつ5を超える異なるTSPのメンバーが公知である(Lawler J., Curr. Opin. Cell Bio. 12: 634-640 (2000), Kristin G.ら, Biochemistry 41, 14329-14339 (2002))。5つのメンバーは全て2型反復、3型反復および高度に保存されたC末端ドメインを含有する。2型反復は上皮成長因子反復に類似し、3型反復はカルシウム結合部位の近接セットを含み、そしてC末端ドメインが細胞結合に関わる。これらのドメインに加えて、TSP-1およびTSP-2は1型反復の3コピーを含有する(Bornstein P.およびSage E. H. Methods Enzymol. 245, 62-85 (1994))。
【0012】
TSP-1は血液血小板の主な構成成分であって、TSPのファミリー中で良く確かめられた分子であり、血管の平滑筋細胞増殖および遊走を刺激するが、内皮細胞増殖および遊走を阻害する。TSP-1は420kDaホモ三量体のマトリックス細胞間(matricellular)糖タンパク質で、多数の区切られたドメインをもつ。TSP-1は、アミノおよびカルボキシ両方の末端の球状ドメイン、プロコラーゲンとの相同性領域、およびトロンボスポンジン(TSP)1型、2型および3型反復と呼ばれる3つのタイプの反復配列モチーフを含有する(Lawler J. J. Cell Mol. Med. 6, 1-12 (2002);Margossian S. S.ら J. Biol. Chem. 256, 7495-7500 (1981))。1型TSP反復は最初に1986年に記載され、多数の異なるタンパク質、例えば、脳特異的血管新生インヒビター1(BAI1)、ADAMTSのような補体成分(C6、C7、C8およびC9など)細胞外マトリックスタンパク質、ミンジン(mindin)、F-スポンジンのような軸索ガイダンス分子、セマフォリン(semaphorin)、SCO-スポンジン、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)のTRAPタンパク質、結合組織成長因子(CTGF)、CYP61およびアフリカツメガエル、マウスおよびヒト由来のR-スポンジン中に見出されている(Lawler J.およびHynes R. O. J. Cell Biol. 103, 1635-1648 (1986);Nishimori H.ら, Oncogene. 15, 2145-2150 (1997);Jacques-Antoine H.ら, J. Biol. Chem. 264, 18041-18051 (1989);Kuno K.およびMatsushima K., J. Biol. Chem. 273, 13912-13917 (1998);Higashijima S.ら, Dev. Biol. 15, 211-227 (1997);Klar A.ら, Cell 69, 95-110 (1992);Adams R. H.ら, Mech. Dev. 57, 33-45 (1996);Goncalves-Mendes N.ら, Gene. 312, 263-270 (2003);Chattopadhyay R.ら, J. Biol. Chem. 278, 25977-25981 (2003);Mercurio S.ら, Development 131, 2137-2147 (2004);Tatiana M.ら, J. Biol. Chem. 276, 21943-21950 (2001);Kazanskaya O.ら, Dev. Cell 7, 525-534 (2004);Kamata T.ら, Biochim. Biophys. Acta. 1676, 51-62 (2004))。TSP-様1型反復を有するいくつかのタンパク質、例えば、ADAMTS-8およびBAI 1は血管新生抑制性であるが、CTGFは血管新生を促進する。反対に、いくつかの1型反復を含有するタンパク質は血管新生効果を有しない。これらには補体成分タンパク質(C6、C7、C8およびC9を含む)、F-スポンジン、SCO-スポンジン、セマフォリン5Aおよび5Bならびにいくつかの他のADAMTSタンパク質が含まれる(Adams J. C.およびTucker R. P., Dev. Dyn. 218, 280-299 (2000))。
【0013】
TSP-1は細胞表面において、膜タンパク質およびサイトカインおよび他の可溶性因子を一緒に運ぶ機能を果たすと思われる。TSP-1と結合する膜タンパク質には、インテグリン、ヘパリン、インテグリン会合タンパク質(CD47)、CD36、プロテオグリカン、トランスフォーミング成長因子β(TGF-β)および血小板由来の成長因子が含まれる。
【0014】
1型TSP(properdin様)反復は、細胞増殖、軸索増殖、分化、接着、遊走、および細胞死の調節に関わるTFG-βを活性化することができる。1型TSP反復はさらに、タンパク質結合、ヘパリン結合、細胞付着、神経突起伸張、腫瘍進行の阻害、血管新生の阻害、およびアポトーシスの活性化にも関わる。第1と第2の1型TSP反復の間に横たわるRFKのオリゴペプチドは、TSP-1によるTGF-βの活性化に必須であることが示されている(Schultz-Cherry S.ら, J. Biol. Chem. 270, 7304-7310 (1995);Ribeiro S. M. F.ら, J. Biol. Chem. 274, 13586-13593 (1999))。反対に、TSP1およびTSP2両方の1型反復中に存在するヘキサペプチドGGWSHWは活性TGF-βと結合し、TSP1による潜在TGF-βの活性化を阻害する(Schultz-Cherry S.ら, J. Biol. Chem. 270, 7304-7310 (1995))。TGF-βは腫瘍増殖に多面的な効果を与える。腫瘍形成の初期段階に、TGF-βは腫瘍抑制遺伝子として作用しうる(Engle S. J.ら Cancer Res. 59, 3379-3386 (1999);Tang B.ら Nat. Med. 4, 802-807 (1998))。TGF-βはいくつかの異なる腫瘍細胞株のアポトーシスを誘導しうる(Guo Y.およびKypianou N. Cancer Res. 59, 1366-1371 (1999))。RFKペプチドを含有するTSPの第2の1型TSP反復の、B16F10腫瘍保持マウス中への全身注入は腫瘍増殖の速度を低下させる。
【0015】
内皮細胞に与えるTSP-1の効果は遊走の阻害を含み、そしてアポトーシスの誘導には内皮細胞膜上のCD36と1型TSP反復の相互作用が介在する。TSP-1のCD36受容体との結合は、Src関係キナーゼ、p59-fynの補充とp38 MAPKの活性化をもたらす。活性化されたp38 MAPKはcaspase-3の活性化およびアポトーシスをもたらす(Jimenez B.ら Nat. Med. 6, 41-48 (2000))。1型TSP反復の部分配列と類似するいくつかの合成ペプチドはin vitroの内皮細胞遊走およびin vivoの血管新生を阻害した(Tolsma S. S.ら J. Cell. Biol. 122, 497-511 (1993);Dawson D. W.ら Molec. Pharmacol. 55, 332-338 (1999);Iruela-Arispe M. L.ら Circulation 100, 1423-1431 (1999))。合成ペプチドを用いてTSP-1の抗血管新生活性のマッピングが行われた。第2の1型反復内でお互いに隣接する3つの配列は血管新生の阻害に関係があるとされた。CSVTCG配列を含有する合成ペプチドは最初に同定された1つであって、CD36と結合することが示されている(Tolsma S. S.ら J. Cell Biol. 122, 497-511 (1993))。CSVTCG配列を含有する合成ペプチドは、ニワトリ絨毛尿膜におけるFGF-2またはVEGFにより誘導される血管新生を阻害する(Iruela-Arispe M. L.ら Circulation 100, 1423-1431 (1999))。ヘパリンと結合した第1配列に隣接する第2配列WSPWは、ヘパリンとFGF-2の間の結合を阻害し、次いでFGF-2により誘導される血管新生を阻害した(Neng-hua G.ら, J. Biol. Chem. 267, 19349-19355 (1992);Vogel T.ら, J. Cell Biochem. 53, 74-84 (1993))。CSVTCG配列と隣接する第3配列GVITRIRをD-イソロイシンを用いて合成すると、このペプチドも内皮細胞遊走を阻害した(Dawson D. W.ら Mol. Pharmacol. 55, 332-338 (1999))。しかし、血管新生活性または血管新生抑制活性を有する全ての報じられたタンパク質がこれらのペプチド配列を含有したのではなくて、血管新生効果を示さないいくつかのタンパク質がこれらを1つ以上含有することもあった。
【0016】
一般的に、TSPの発現は腫瘍細胞中で低下する(de Fraipont F.ら Trends Mol. Med. 7, 401-407 (2001))。RasはPI3キナーゼ、Rho、およびPOCKの続いての活性化を誘導し、リン酸化を介するMycの活性化をもたらす。シグナル伝達を介するMycのリン酸化経路はTSP発現を抑制することができる(Watnick R. S.ら Cancer Cell 3, 219-231 (2003))。様々なタイプの腫瘍細胞におけるTSPの過剰発現は、これらの細胞が免疫抑制動物に移植されると、血管新生および腫瘍増殖を阻害した(Weinstat-Saslow D. L.ら Cancer Res. 54, 6504-6511 (1994);Bleuel K.らProc. Natl. Acad. Sci. USA 96, 2065-2070 (1999);Streit M.ら Am. J. Pathol. 155, 441-452 (1999);Jin R. J.ら Cancer Gene Ther. 7, 1537-1542 (2000))。
【0017】
420kDa TSP-1は腫瘍血管構造に対するその効果を介して腫瘍増殖を減少させることはできるが、ヒトにおけるその使用は、そのサイズ、大規模調製の困難、その乏しい薬理学的動態および多様な他の生物学的機能から生じうる副作用に対する懸念の故に、真剣に取り上げられてない。これらの問題を克服するために、いくつかの試みが報じられている。プレプロコラーゲン相同性領域からおよびTSPのproperdin反復からの小ペプチドも、親分子と同じCD36依存性経路を用いてin vitroで血管新生を阻害する。しかし、これらの短いペプチドは活性が無処置TSP-1より少なくとも1,000倍低い(Tolsma S. S.ら, J. Cell Biol. 122, 497-511 (1993))。L-アミノ酸からD-アミノ酸への部分的アミノ酸置換とTSP-1型反復由来の小ペプチドの修飾は、強力な抗血管新生活性を与えたが、げっ歯類における静脈注射後のDI-TSPa(ABT-510)の血清半減期(23分間)は比較的速やかなクリアランスを示唆した(Dawson D. W.ら, Molec. Pharmacol. 55, 332-338 (1999);Reiher F. K.ら, Int. J. Cancer 98, 682-689 (2002);Westphal J. R., Curr. Opin. Mol. Ther. 6, 451-457 (2004))。遺伝子治療用TSPの抗血管新生断片を発現する組換えアデノウイルスベクターを確立する、いくつかの試みが報じられた。TSPの抗血管新生断片を用いる、アデノウイルス介在遺伝子治療は、ヌードマウスにおけるヒト白血病異種移植増殖を阻害した(Liu P.ら Leukemia Res. 27, 701-708 (2003))。しかし、アデノウイルス介在遺伝子治療は一般的に臨床上の施用にいくつかの欠点、例えば、遺伝子導入およびウイルス抗原に対する免疫応答の低い効率を有する(Mizuguchi H.およびHayakawa T. Hum. Gene Ther. 15, 1034-1044 (2004);Yang Y.ら Gene Ther. 3, 137-144 (1996);Yang Y.ら J. Virol. 70, 7209-7212 (1996))。
【0018】
哺乳動物のR-スポンジンタンパク質のファミリーは40〜60%アミノ酸配列同一性を共有する4つの独立した遺伝子産物を含み、これらは実質的に構造的相同性を共有すると予想される。4つのスポンジンタンパク質ファミリー(R-スポンジン1、2、3、4)はそれぞれ、リーディングシグナルペプチド、2つの隣接システインリッチ、furin様ドメインおよび1つのトロンボスポンジン1型(TSP1)ドメインを含有する。2つのfurin様およびTSP1ドメインはしっかりと保存されており;特に、システイン残基は厳密な配列記録の保存を示し、共通の根本的な構造様式を示唆する。続くC末端ドメインは可変長であるが、高い正電荷領域に特徴がある。今まで開示された報文は、TSP1およびC末端ドメインはin vitroでβ-カテニン安定化を誘導するのに不必要であることを示唆する。
【0019】
R-スポンジン型タンパク質を記載する最初の開示された報文は、胎児脳cDNAライブラリー中にhPWTSR(R-spondin3)を同定し、そして正常な胎盤、肺および筋肉中のmRNAの発現を記録した(Chen, J. Z.,ら, Mol. Biol. Rep., 29: 287-292, 2002)。その後、高レベルのR-スポンジン1 mRNA発現がマウス発生段階に蓋板(roof plate)/神経上皮境界(2)に観察された。この研究において、R-スポンジン1 mRNA発現はWnt1/3a二重ノックアウトバックグラウンドで試験すると有意に低下し、これは、始めて、2つのタンパク質活性のカップリングの可能性を示唆した(Kamata, T.,ら, Biochem. Biophys. Acta, 1676: 51-62, 2004)。
【0020】
さらに、R-スポンジンとWntタンパク質活性の間の連結に対するさらなる確証が、Wnt/β-カテニン経路のアフリカツメガエル・モジュレーターについての発現スクリーニングにおけるR-スポンジン2の同定により見出された(Kazanskaya, O.,ら, Dev. Cell, 7: 525-534, 2004)。Wnt応答レポーターアッセイにおいて、アフリカツメガエルR-スポンジン2はβ-カテニンシグナル伝達を活性化しかつWntが介在するβ-カテニン活性化を促進した。アンチセンスが介在するノックダウン実験は、アフリカツメガエルの筋肉の胚発生におけるR-スポンジン2の必須な役割を実証した。同著者らは、R-スポンジン2に加えて、別のR-スポンジンファミリーメンバーがWnt/β-カテニンのシグナル伝達の可溶レギュレーターとして作用することを示唆した(Kazanskaya, O.,ら, Dev. Cell, 7: 525-534, 2004)。
【0021】
脊椎動物発生段階におけるこれらの役割に加えて、R-スポンジン1は胃腸上皮細胞に対する強力な分裂促進因子として機能することが示されている(Kim, K. A.,ら, Science, 309: 1256-1259, 2005)。トランスジェニックマウスにおいて分泌されるタンパク質の機能スクリーニングを利用して、Kimらは最近、ヒトR-スポンジン1発現が腸陰窩上皮細胞の増殖に著しい増加を誘導することを実証した(Kim, K. A.,ら, Science, 309: 1256-1259, 2005)。R-スポンジン1のin vivoにおけるこの増殖効果はβ-カテニンの活性化の増加とその後のβ-カテニン標的遺伝子の転写活性化と相関がある。さらに、これらの表現型は組換えヒトR-スポンジン1タンパク質を注射したマウスにおいて繰り返すことができる。このフォロー研究において、Kimらは今度は、全ての4つのヒトR-スポンジンファミリーメンバーが、β-カテニンの活性化と胃腸管に与える増殖効果を含む類似の効果を誘導できることを示した(Kim, K. A.,ら, Cell Cycle, 5: 23-26, 2006)。これらのデータはR-スポンジンファミリーメンバーのリガンド活性における重複性を示唆するものであり、そしてファミリーメンバーが共有する予想される構造的特性が厳密に保存されれば、R-スポンジンタンパク質は通常の受容体または受容体のクラスを活性化し、保存された生物学的機能を発揮させることが可能である。
【0022】
以上記載したように、R-スポンジンファミリーは今や分泌されるWnt/β-カテニンシグナル伝達経路のモジュレーターの新規ファミリーとして確立されている。しかし、今まで、テトラペプチド配列(WSPW)および1型TSP反復に対する弱い類似性を含むものの、R-スポンジンタンパク質の抗血管新生活性または抗腫瘍活性を示唆する報文は存在しない。TSP-1とは反対に、R-スポンジン1タンパク質調製物は十分仕上げられていて、in vivoで高レベル安定性を示した。これらの新しいR-スポンジン1の機能と特徴の知見は、癌治療へのその応用について可能性を示すものであった。
【発明の開示】
【0023】
本明細書は、本特許出願の優先権主張文書である米国特許予備出願第US60/702,565号の明細書および/または図面に開示された内容の部分または全てを含む。
【0024】
本発明は活性成分として、ヒトR-スポンジン1(GIPF)、R-スポンジン2、R-スポンジン3およびR-スポンジン4を含む抗腫瘍薬を包含する。
【0025】
全長ヒトR-スポンジン1(GIPF)のアミノ酸配列は配列番号3により表される。本発明のヒトR-スポンジン1(GIPF)は優性成熟型および成熟型を含む。優性成熟型のアミノ酸配列は配列表の配列番号6に表される。成熟型は、優性成熟型からfurin開裂配列を欠く。成熟型のアミノ酸配列は配列番号7に表される。本発明はまた、R-スポンジン1(GIPF)の活性を有するヒトR-スポンジン1(GIPF)の断片を含むものである。断片は、好ましくは1型トロンボスポンジンドメインと相同的な領域を有する断片を含む。
【0026】
ヒトR-スポンジン2のヌクレオチド配列は、GenBankに受託番号BC036554、BC027938またはNM_178565として、マウスR-スポンジン2のヌクレオチド配列はGenBankに受託番号NM_172815として登録されている。ヒトR-スポンジン3のヌクレオチド配列は、GenBankに受託番号NM_032784またはBC022367として、マウスR-スポンジン3のヌクレオチド配列はGenBankに受託番号BC103794として登録されている。ヒトR-スポンジン4のヌクレオチド配列は、GenBankに受託番号NM_001029871、AK122609として、マウスR-スポンジン4のヌクレオチド配列はGenBankに受託番号BC048707として登録されている。
【0027】
R-スポンジン2は全長(FL)型R-スポンジン2およびdC型R-スポンジン2を含む。dC型R-スポンジン2はKazanskayaら(Dev. Cell, vol.7: 525-534, 2004)の報文に記載されていて、配列番号13の第22〜第206アミノ酸から成るアミノ酸配列を有する185アミノ酸から成る。これはC末端領域における電荷の豊富なアミノ酸を含有する領域を欠く。これは配列番号12の第64〜第621ヌクレオチドから成るヌクレオチド配列(GenBank受託番号NM_178565(全長244アミノ酸)の第22〜第206アミノ酸配列に対応する)によりコードされる。配列番号13の第1〜第21アミノ酸は置換えられたシグナルペプチドである。FL型R-スポンジン2はGenBank受託番号BC036554、BC027938またはNM_178565の配列を有する。本発明はまた、R-スポンジン2の活性を有するヒトR-スポンジン2の断片も含む。該断片は好ましくは、1型トロンボスポンジンドメインと相同性領域を有する断片を含む。
【0028】
FL型R-スポンジン3は全長R-スポンジン3であり、配列番号15の第22〜第272アミノ酸から成るアミノ酸配列を有する251アミノ酸から成る。これは配列番号14の第64番〜第819番から成るヌクレオチド配列(GenBank受託番号NM_032784のアミノ酸配列の第22番〜第272番に対応する)によりコードされる。配列番号15の第1番〜第21番のアミノ酸は置換えられたシグナルペプチドである。本発明はまた、R-スポンジン3の活性を有するヒトR-スポンジン3の断片も含む。該断片は好ましくは、1型トロンボスポンジンドメインと相同性領域を有する断片を含む。
【0029】
FL型R-スポンジン4は配列番号17により表される234アミノ酸から成る全長ヒトR-スポンジン4であり、配列番号16(GenBank受託番号AK12260のヌクレオチド配列の第98〜第802ヌクレオチド配列)により表されるヌクレオチド配列によりコードされる。本発明はまた、R-スポンジン4の活性を有するヒトR-スポンジン4の断片も含む。該断片は好ましくは、1型トロンボスポンジンドメインと相同性領域を有する断片を含む。
【0030】
R-スポンジン1(GIPF)、R-スポンジン2、R-スポンジン3およびR-スポンジン4の変異体、例えば、そのスプライス変異体を用いてもよい。ヒトR-スポンジン1(GIPF)は、配列番号3、6または7により表されるアミノ酸配列から1つまたはいくつかのアミノ酸の欠失、置換、または付加により誘導されかつR-スポンジン1(GIPF)活性を有するアミノ酸配列を有する変異体を含む。欠失、置換、または付加することができるアミノ酸の数は1〜10、好ましくは1〜5である。ヒトR-スポンジン1(GIPF)はまた、配列番号3、6または7により表される全アミノ酸配列と、ほぼ70%以上、好ましくはほぼ80%以上、さらに好ましくはほぼ90%以上、および特に好ましくはほぼ95%以上などの全体平均相同性の程度の相同性を有するアミノ酸配列を有する突然変異体も含む。本明細書に記載の相同性の数値は、当技術分野で公知のBLASTなどの相同性サーチプログラム(J. Mol. Biol., 215, 403-410 (1990))およびFASTA(Methods. Enzymol., 183, 63-98 (1990))を用いて計算することができる。好ましくは、かかる数値はBLASTのデフォルト(初期設定)パラメーターまたはFASTAのデフォルト(初期設定)パラメーターを用いて計算される。
【0031】
本発明はさらに、活性成分としてヒトR-スポンジン1(GIPF)、R-スポンジン2、R-スポンジン3またはR-スポンジン4をコードするDNAを含む抗腫瘍薬を包含する。ヒトR-スポンジン1(GIPF)、R-スポンジン2、R-スポンジン3またはR-スポンジン4をコードするDNAを含む抗腫瘍薬は遺伝子治療に用いることができる。DNAは、公知の技法により遺伝子治療に施用することができる。ヒトR-スポンジン1(GIPF)をコードするDNAは、配列番号1または2により表されるヌクレオチド配列を有する。これはまた、配列番号3、6または7により表されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列も有する。変異体DNAは、ストリンジェントな条件のもとで配列番号1または2により表されるヌクレオチド配列を有するDNAとハイブリダイズするDNA、または配列番号3、6または7により表されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードしかつヒトR-スポンジン1(GIPF)活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む。ハイブリダイゼーションは、Current Protocols in Molecular Biology (Frederick M. Ausubelら編, 1987)に記載の方法などの当技術分野で公知の方法またはそれらによる方法に行うことができる。ここで、「ストリンジェントな条件」は、例えば、ほぼ「1xSSC、0.1%SDS、および37℃」の条件、ほぼ「0.5xSSC、0.1%SDS、および42℃」のよりストリンジェントな条件またはほぼ「0.2xSSC、0.1%SDS、および65℃」のさらによりストリンジェントな条件である。
【0032】
変異体DNAはまた、上記DNAの全ヌクレオチド配列と、ほぼ80%以上、好ましくはほぼ90%以上、およびより好ましくはほぼ95%以上などの全体平均相同性の程度を有するヌクレオチド配列も含む。
【0033】
本発明はまた、R-スポンジン1(GIPF)、R-スポンジン2、R-スポンジン3またはR-スポンジン4を含む医薬組成物も包含する。該組成物は、製薬上許容される担体および添加物を一緒に含有してもよい。かかる担体および医薬添加物の例としては、水、製薬上許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルデンプンナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、および医薬添加物として許容される界面活性剤が挙げられる。実際の添加物は以上から単独に選択するか、またはそれらの適当な組合わせを本発明の治療薬の投与剤形に応じて選択する。かかる添加物は以上に限られるものではない。例えば、治療組成物を注入用の剤形で用いる場合、治療組成物を生理食塩水、緩衝液、またはグルコース溶液などの溶媒に溶解して、それにTween80、Tween20、ゼラチン、またはヒト血清アルブミンなどの吸着インヒビターを加え、そうして得たものを用いることができる。あるいは、医薬組成物は凍結乾燥した投与剤形であって、使用前に溶解しかつ再形成してもよい。凍結乾燥用の賦形剤としては、例えば、マンニトールなどの糖アルコールおよびグルコースおよび糖類を用いることができる。本発明の医薬組成物は一般的に非経口経路の投与、例えば、注入(例えば、皮下注入、静脈内注入、筋肉内注入、または腹腔内注入)、経皮投与、経粘膜投与、経鼻投与、または経肺投与を介して投与される。経口投与も可能である。本発明の医薬組成物を患者に投与するとき、一投与当たりの有効投与量は体重1kg当たり20ng〜200mgの範囲から選択される。あるいは、患者1人当たり、0.001〜10000mg/体重、好ましくは0.005〜2000mg/体重、およびより好ましくは0.01〜1000mg/体重の投与量を選択してもよい。しかし、本発明の医薬組成物の投与量はこれらの投与量に限定されるものでない。
【0034】
本発明の抗腫瘍薬および医薬組成物を、様々な腫瘍に対する治療または予防に用いることができる。前記腫瘍としては、結腸癌、結腸直腸癌、肺癌、乳癌、脳腫瘍、悪性黒色腫、腎細胞癌、膀胱癌、白血病、リンパ腫、T細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、胃癌、膵臓癌、頚部癌、子宮内膜癌、卵巣癌、食道癌、肝臓癌、頭部および首扁平上皮細胞癌、皮膚癌、尿路癌、前立腺癌、絨毛癌、咽頭癌、喉頭癌、卵胞膜細胞腫症、男性ホルモン産生細胞腫、子宮内膜過形成、子宮内膜症、胚芽腫、線維肉腫、カポジ肉腫、血管腫、海綿状血管腫、血管芽腫、網膜芽細胞腫、星細胞腫、神経繊維腫、欠突起細胞腫、髄芽腫、神経節芽細胞腫、神経膠腫、横紋筋肉腫、過誤芽腫、骨原性肉腫、平滑筋肉腫、甲状腺肉腫およびウイルムス腫が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
実施例1
GIPFおよびV5His6を標識したGIPFをコードする発現ベクター
KpnIおよびXbaI部位を用い、GIPFをコードするcDNA(配列番号1)をpcDNA/Intronベクターにクローニングして、野生型およびカルボキシ末端にV5His6標識したGIPF(配列番号4)を得た。哺乳動物発現ベクターpcDNA/Intronは、pcDNA3.1TOPOベクター(Invitrogene Inc., Carlsbad, CA)を、pCI哺乳動物発現ベクター(Promega, Madison, WI)由来のキメライントロンを導入することにより、遺伝子的に改変することによって得た。pCIをBGlIIおよびKpnIで消化し、そのイントロン配列を、BglIIおよびKpnIで消化しておいたpcDNA3.1中にクローニングした。以下のフォワード5’ CACCATGCGGCTTGGGCTGTCTC 3’(配列番号8)、リバース5’ GGCAGGCCCTGCAGATGTGAGTG 3’(配列番号9)を用いるPCRによって、配列番号1のGIPF ORF(配列番号2)をまずpcDNA3.1/V5His-TOPO(Invitrogen)中にクローニングし、完全なGIPF ORFを含有するpcDNA 3.1/V5His-TOPOからのKpnI-XbaIインサートを、改変されたpcDNA/イントロンベクター中にライゲートして、pcDNA/イントロン構築物を作製した。
【0036】
実施例2 組換えGIPFの精製
A. 真核細胞におけるGIPFtの発現および精製
V5-His-標識したGIPF(GIPFt)(配列番号4)をHEK293細胞およびCHO細胞で発現させ、以下のように精製した。
【0037】
V5-His-標識したGIPFポリペプチドをコードするDNA(配列番号4)を含むGIPF pcDNA/Intron構築物でトランスフェクトしておいたHEK293細胞の安定な細胞培養を無血清293 FreeStyle培地(GIBCO)中で増殖した。懸濁培養を1,000,000細胞/mlの細胞密度で播種して、4〜6日後に回収した。培地に分泌されたV5-His-標識したGIPFのレベルをELISAによってアッセイした。
【0038】
V5-His-標識したGIPFをコードするヌクレオチド配列(配列番号4)を含むpDEF 2Sベクターで形質転換しておいたCHO細胞の安定な細胞培養を、無血清EX-CELL302培地(JRH)中で増殖した。発現ベクターは、メトトレキセート(MTX)の存在下での陽性選択および増幅を可能とする、DHFRをコードするDNA配列を含有する。培地へ分泌されたV5-His-標識したGIPFのレベルはELISAによってアッセイした。
【0039】
分泌されたGIPFタンパク質を含有する培地を回収し、-80℃にて凍結した。培地を4℃で解凍し、プロテアーゼインヒビター、EDTAおよびPefabloc(Roche,Basel,Switzerland)を各々1mMの最終濃度で加えて、GIPFの分解を防いだ。培地を0.22μm PESフィルター(Corning)を通して濾過し、10kDa分子量カットオフ膜をもつTFFシステム(Pall Filtron)を用いて10倍濃縮した。濃縮した培地の緩衝液を20mMリン酸ナトリウム、0.5M NaCl、pH7と交換した。リン酸緩衝液中への0.5M NaClの添加は、精製中にpH7でV5-His標識したGIPFの完全な溶解度を維持するために重要である。限外濾過および透析濾過に続いて、哺乳動物プロテアーゼインヒビターカクテル(Sigma)を1:500(v/v)の最終希釈まで加えた。
【0040】
HiTrap Ni2+-キレート化アフィニティーカラム(Pharmacia)を20mMリン酸ナトリウム、pH7、0.5M NaClを用いて平衡化した。緩衝液を交換した培地を0.22μmのPESフィルターで濾過し、Ni2+-キレート化アフィニティーカラムに供給した。Ni2+カラムを、10カラム容積(CV)の20mMイミダゾールにより10カラム容積だけ洗浄し、そしてタンパク質を20mM〜300mMイミダゾールの勾配で35CVにわたって溶出した。画分をSDS-PAGEおよびウェスタンブロットによって分析した。V5-His標識したGIPFを含有する画分を分析してプールし、75〜80%純度のGIPFタンパク質溶液を得た。
【0041】
Ni2+カラムを用いて単離したGIPFタンパク質含有緩衝液を20mMリン酸ナトリウム、0.3Mアルギニン、pH7と交換して、NaClを除去した。NaClをリン酸緩衝液中の0.3M Argと交換して、次の精製段階の間、V5-His標識したGIPFタンパク質の完全な溶解度を維持した。Ni2+カラムを用いて単離したGIPFタンパク質を、20mMリン酸ナトリウム、0.3Mアルギニン、pH7で平衡化しておいたSP Sepharose高性能カチオン交換カラム(Pharmacia, Piscataway, NJ)に供給した。カラムを8CVの間、0.1M NaClで洗浄し、30CVの間、0.1M〜1M NaClの勾配で溶出した。V5-His標識したGIPFを含有する画分をプールして、90〜95%純度のタンパク質溶液を得た。
【0042】
プールした画分の緩衝液を20mMリン酸ナトリウム、pH7、0.15M NaClと交換し、タンパク質を1または2mg/mLまで濃縮し、滅菌0.22μmフィルターを通した。純粋なGIPF調製物を-80℃で保存した。
【0043】
各精製段階の最後に得たタンパク質産物を分析し、ELISA、タンパク質BradfordアッセイおよびHPLCによって定量した。GIPFtタンパク質の回収率(%)を精製プロセスの各段階で測定し、以下の表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
精製されたGIPFタンパク質のSDS-PAGE分析を還元および非還元条件下で行い、CHOおよび293細胞に由来するV5-His標識したGIPFタンパク質が両方ともモノマーとして存在することを示した。GIPFタンパク質をグリコシル化し、ほぼ42kDaの分子量(MW)で非還元条件のもと、SDS-PAGEを泳動させる。CHO細胞から精製したGIPFタンパク質のMWとHEK293細胞から精製したそれとには僅かな差がある。この差は、GIPFが異なった細胞型においてグリコシル化される程度によって説明することができる。N末端配列分析は、HEK293細胞が2つの型のポリペプチドを生じたことを示した。シグナル配列を欠く配列番号3のGIPFタンパク質に対応する優性成熟型(配列番号6)、およびシグナルペプチドおよびフューリン開裂配列を共に欠く配列番号3のGIPFタンパク質に対応する成熟型(配列番号7)。2つの型はSPカラムでよく分離され、これは、ほぼ1:2の優性成熟型に対する成熟の比率で発現された。
【0046】
pH7におけるGIPFタンパク質の溶解度に対するNaClおよびアルギニン(Arg)の効果を測定し、これを図2Aに示す。0.3M Argの非存在のもとでは、精製の間にタンパク質の50%減少が引き起こされると判断された。図2Bは、PBS(20mMリン酸ナトリウム、0.15M NaCl、pH 7)中の精製されたタンパク質の溶解度を示す。GIPFタンパク質は8mg/mLの濃度まで4℃、pH7において、7日間溶液のままである。
【0047】
まとめると、HEK293またはCHO細胞のV5-His-標識したGIPFの精製を、1)培地に存在するGIPFタンパク質を濃縮し、透析濾過し、2)Ni2+-キレート化アフィニティークロマトグラフィーを行い、次いで、3)SPカチオン交換クロマトグラフィーによって行った。該精製プロセスによりGIPFタンパク質が得られ、これは>90%純度である。現在の精製プロセスの全回収はほぼ50%である。媒体透析濾過およびNiカラムの精製プロセスの間における0.5M NaClの緩衝液への添加は、pH 7においてGIPFを完全に溶解したまま保持するために重要である。SPカラムへGIPFを結合させるために、NaClを除去し、0.3M Argを加えて高い溶解度を維持し、そしてタンパク質回収を増大させた。第一および第二の精製段階の間における0.5M NaClおよび0.3Argの添加は、少なくとも25%〜50%だけ全回収を増加させることを示した。
【0048】
B. 真核細胞におけるGIPFwtの発現および精製:
全長GIPFポリペプチド(GIPFwt)(配列番号3)をコードするDNA(配列番号2)を含むpcDNA/IntronベクターでトランスフェクトしておいたHEK293細胞の安定な細胞培養を、懸濁液で増殖するように適合させ、25μg/mlジェネテシンの存在のもとで無血清293 FreeStyle培地(GIBCO)中で増殖した。
【0049】
スピナーにおける細胞培養増殖:スピナーにおける小規模産生のため、細胞の凍結ストックのアリコートを、0.5%胎児ウシ血清(FBS)を加えた293 FreeStyle培地中で増殖させ、拡大した。細胞をスピナーに播種して、各継代につき300,000〜500,000/mLの細胞密度で拡大した。産生のために十分な細胞が蓄積されて細胞密度が1,000,000細胞/mLに到達すれば、培地を無血清293 FreeStyle培地と交換して0.5%FBSを除去し、そして6日後に回収した。最初の細胞生存率は80〜90%の間であって、これが回収の時点では30%まで減少した。培地に分泌されていたGIPFwtのレベルをELISAおよびウェスタンによってアッセイした。スピナーにおけるGIPFwtの増殖は1.2〜1.5mg/lを生じた。
【0050】
大規模産生用には、バイオリアクターにバッチで供給する形式の細胞培養増殖を利用した。HEK293細胞の無血清適合懸濁培養を、細胞の継代時に、200,000〜400,000/mlの細胞密度にて播種した。200 lおよび500 lバイオリアクターの播種用に、細胞を無血清293 FreeStyle培地中で増殖させ、50〜500ml振盪フラスコから20〜50攪拌タンクに拡大した。十分な細胞が蓄積すると、細胞を200,000〜400,000細胞/mlの密度にてバイオリアクターに播種した。細胞密度が1,000,000細胞/mlに到達すると、ビタミンおよびMEMアミノ酸(GIBCO)を加えて、増殖をブーストし、支援した。細胞生存率が25〜30%まで低下した6〜7日後に、細胞をバイオリアクターから回収した。培地へ分泌されたGIPFwtのレベルをELISAおよびウェスタンによりアッセイした。分泌されたGIPFのウェスタン分析は、タンパク質の分解が起きなかったことを示した。ウェスタン分析を精製された抗GIPFポリクローナル抗体を用いて行い、捕獲抗体として精製されたニワトリ抗GIPFポリクローナル抗体および検出抗体としてウサギ抗GIPFポリクローナル抗体を用い、ELISAによるタンパク質の検出を行った。ウサギおよびニワトリポリクローナル抗体は、全タンパク質に対して生起させた。バイオリアクター中のGIPFwtの増殖は2.6〜3mg/lを生じた。
【0051】
分泌されたGIPFwtタンパク質を含有する培地の限外濾過-透析濾過物を遠心により回収した。タンパク質インヒビター1mM EDTAおよび0.2mM Pefabloc(Roche, Basel, Siwzerland)を加え、GIPFの分解を防いだ。培地を0.22μmのPESフィルター(Corning)を通して濾過し、10kDaカットオフ膜にてTFFシステム(Pall Filtron)または中空繊維システム(Spectrum)を用いて10倍濃縮した。濃縮された培地の緩衝液を20mMリン酸ナトリウム、0.3M Arg、pH7と交換した。リン酸緩衝液中の0.3M Argの添加は、精製の間、pH7でGIPFwtを完全に可溶に維持するために重要である。限外濾過および透析濾過の後に、哺乳動物プロテアーゼインヒビターカクテル(Sigma)を1:500(v/v)希釈で加えた。
【0052】
Qアニオン交換クロマトグラフィー処理を次のように行った:アニオン交換Q sepharose HPカラム(Amersham)を、pH7.0の0.3M Argを含有する20mMリン酸ナトリウム(NaP)緩衝液で平衡化した。10倍濃縮しかつ緩衝液交換した培地を0.22μm PESフィルターで濾過し、そしてQ sepharoseカラムに供給して不純物および核酸を結合させた。
【0053】
SPカチオン交換クロマトグラフィー処理を次のように行った:GIPFwtを含有するQ-sepharose流通液を集めて、GIPFタンパク質と結合するカチオン交換SP sepharose HP(Amersham)に供給した。SP sepharoseカラムを15カラム容量(CV)の20mM NaP、0.3M Arg、0.1M NaCl、pH7で洗浄し、GIPFを40カラム容量にわたって0.1M〜0.7MのNaClの勾配で溶出させた。画分をSDS-PAGEおよびウェスタンブロットによって分析した。GIPFwtを含有する画分を分析し、プールした。プールした画分の緩衝液を、20mMリン酸ナトリウム、pH7、0.15M NaClと交換した。精製されたタンパク質の純度は、SDS-ゲルのクーマシー染色によって分析すると、92〜95%であると断定された。タンパク質を1mg/mlまで濃縮し、滅菌0.22μmフィルターを通して通過させ、-80℃で保存した。
【0054】
精製プロセスにおいて各段階の最後に得られた収率をELISAおよびBradfordアッセイによって定量し、GIPFタンパク質の回収率(%)は表2に示されるように計算された。
【0055】
【表2】
【0056】
最終製剤化のGIPFタンパク質溶液のエンドトキシンレベルは発色源LAL(Limulus Amebocyte溶解物)アッセイキット(Charles River)を用いて分析し、GIPFの1mg当たり0.24EUであると決定された。
【0057】
C. 精製された組換えGIPFの特徴付け
精製されたGIPFタンパク質(GIPFwt)のSDS-PAGE分析を還元および非還元条件下で行い、293細胞に由来するV5-His標識したGIPFタンパク質はモノマーとして存在することを示した。GIPFwtタンパク質をグリコシル化すると、非還元条件下でほぼ38kDaの分子量(MW)でSDS-PAGEを移動する。マトリックス支援レーザー脱離/イオン化質量分析法(MALDI)は、GIPFwtについてのそれぞれの分子量が32.9kDaであり、他方、シグナルペプチドを欠くGIPFwtについての理論分子量は26.8kDaであることを示した。分子量の食い違いは、タンパク質のグリコシル化によって説明しうることを示唆した。続いて、製造業者の指示に従って、N-およびO-グルカナーゼ(Prozyme, San Leandro,CA,USA)を用いてN結合およびO結合オリゴ糖の完全な脱グリコシル化を行った。脱グリコシル化タンパク質のSDS-PAGE分析の結果は、4〜5kDaの見掛けの分子量の低下を生じた。
【0058】
N末端配列分析は、HEK293細胞が2つの型のGIPFwtポリペプチドを生じることを示した。シグナル配列を欠く配列番号4のGIPFタンパク質に対応する優性成熟型(配列番号6)、およびシグナルペプチドおよびフューリン開裂配列を共に欠く配列番号3のGIPFタンパク質に対応する成熟型(配列番号7)。SPカラムでよく分離された2つの型は、成熟型-対-優性成熟型の比がほぼ1:2で発現された。優性成熟型を、動物モデルおよびin vitro試験におけるGIPFの効果を試験するために用いた。
【0059】
まとめると、精製プロセスは92〜95%純度であるGIPFwtを生じる。GIPFの優性成熟型の全回収はほぼ50%である。培地透析濾過およびNiカラムの精製プロセス中の0.5M NaClの緩衝液への付加は、pH7においてGIPFを完全に可溶に維持するために重要である。GIPFをSPカラムに結合させるために、NaClを除去しかつ0.3M Argを加えて高い溶解度を維持し、タンパク質回収を増加させた。
【0060】
GIFPwtの優性成熟型および成熟型を用いて、GIPFのin vivoおよびin vitroにおける生物学的活性を試験した。
【0061】
実施例3
HEK293およびCHO細胞に発現された組換えGIPFタンパク質の薬物動態学(PK)
V5His6-標識した組換えGIPFタンパク質(GIPFt)の薬物動態(PK)をマウスにおいて測定した。6〜8週齢BALB/cマウスに尾静脈を介して、40mg/kg GIPFtタンパク質または対照としての製剤緩衝液のいずれかの単用量を静脈内注射した。血液を注射から0、30分、1時間、3時間、6時間および24時間後に抜き取り、各時点の血清中タンパク質レベルを、抗V5抗体(Invitrogene Inc.,Carlsbad,CA)を用いるウェスタン分析により分析した。図3Aは、血清GIPFタンパク質の有意な分解が検出されなかったことを示す。血清中のGIPFタンパク質の半減期を、V5標識した標準タンパク質としてPositope(Invitrogene Inc.,Carlsbad,CA)を用いて、注射後のタンパク質濃度の半対数プロットにより計算し、そして5.3時間と見積もった(図3B)。
【0062】
実施例4
NIH3T3形質移入体を導入したマウス中のGIPFの抗腫瘍効果
A. pcmvGIPF-IRES-GFPの調製
pIRES2-EGFP(BD Bioscience Clontech)をEcoRIおよびNotIを用いて消化した後、IRES-GFP領域を含むその断片を0.8%アガロースゲル電気泳動およびQIA quick Gel Ectraction Kit(QIAGEN)により精製した。精製した断片(IRES-GFP)を、EcoRIおよびNotIを用いて消化したpcDNA3(Invitrogen)とライゲートし、そして子ウシ腸アルカリホスファターゼを用いて処理してその両端を脱リン酸した。ライゲーション混合物をDH5αにトランスフェクトし、得られる形質転換体から調製したDNAサンプルをヌクレオチド配列決定により分析して挿入された断片の構造を確認した。正しいヌクレオチド配列をもつ断片を含むクローンを選択した(pIRES-GFP)。
【0063】
GIPF断片(0.81kb、SalI-SalI)を、次のプライマーと、ヒト胎児皮膚cDNAライブラリー(Invitrogen)から誘導した全長GIPFcDNAをテンプレートとして用いることにより調製した:GIPF-F、ACGCGTCGACCCACATGCGGCTTGGGCTGTGTGT(SalI部位およびKozak配列を5’末端に含む;配列番号10)およびGIPF-R、ACGCGTCGACGTCGACCTAGGCAGGCCCTG(SalI部位を5’末端に含む;配列番号11)。次いで、その0.81kbGIPF断片をSalIを用いて消化し、そしてBlunting high(TOYOBO)を用いて処理し、その両端を平滑末端化した。得られる、GIPFコード領域を含むDNA断片を0.8%アガロースゲル電気泳動により精製した。このGIPF断片をpIRES-GFPベクターとライゲートし、それをEcoRIを用いて消化し、Klenow断片(TAKARA BIO)を用いて処理して、その両端を平滑末端化し、そしてさらに大腸菌C75アルカリホスファターゼを用いて処理し、その両端を脱リン酸した。ライゲーション混合物をDH5αにトランスフェクトし、得られる形質転換体から調製したDNAサンプルをヌクレオチド配列決定により分析して挿入された断片の構造を確認した。GIPF断片を、CMVプロモーターと同じ方向に含むクローンを選択した(pcmvGIPF-IRES-GFP:図4)。
【0064】
B. pcmvEPO-IRES-GFPの調製
pLN1/hEPO(Kakedaら, Gene Ther., 12: 852-856、2005)をBamHIおよびXhoIを用いて消化した後、ヒトエリスロポエチン(hEPO)コード領域を含む断片をBlunting high(TOYOBO)を用いて処理してその両末端を処理して平滑末端化した。次いで、0.6kb hEPO断片を0.8%アガロースゲル電気泳動およびQIA quick Gel Ectraction Kit(QIAGEN)により精製した。このhEPO断片をpIRES-GFPベクターとライゲートし、それをEcoRIを用いて消化し、Klenow断片(TAKARA BIO)を用いて処理して、その両端を平滑末端化し、そしてさらに大腸菌C75アルカリホスファターゼを用いて処理し、その両端を脱リン酸した。ライゲーション混合物をDH5αにトランスフェクトし、得られる形質転換体から調製したDNAサンプルをヌクレオチド配列決定により分析して挿入された断片の構造を確認した。hEPO断片を、CMVプロモーターと同じ方向に含むクローンを選択した(pcmvEPO-IRES-GFP:図5)。
【0065】
C. NIH3T3にエレクトロポレーションするための、pcmvGIPF-IRES-GFPおよびpcmvEPO-IRES-GFPプラスミドDNAの調製
pcmvGIPF-IRES-GFPおよびpcmvEPO-IRES-GFPのプラスミドDNAを、BglIIを用いて、1mMスペルミジン(pH7.0、Sigma)を含有する反応混合物中で5時間、37℃にて消化した。次いでその反応混合物を、フェノール/クロロホルム抽出しそして16時間、-20℃にてエタノール沈降(0.3M NaHCO3)処理をした。線状化したベクター断片を、Dulbecco'sリン酸-緩衝化生理食塩水(PBS)緩衝液に溶解し、次のエレクトロポレーション実験に用いた。
【0066】
線状化したpcmvGIPF-IRES-GFPおよびpcmvEPO-IRES-GFPベクターをNIH3T3細胞(Riken Cell Bank、RCB0150より得た)中にトランスフェクトした。NIH3T3細胞をトリプシンで処理し、そしてPBS中に5x106細胞/mlの濃度に懸濁し、次いで、Gene Pulser(Bio-Rad Laboratories、Inc.)を用いて、10μgのベクターDNAの存在のもとでエレクトロポレーションを行った。350Vの電圧を、500μFのキャパシタンスにて、長さ4mmのエレクトロポレーション・セル(165-2088, Bio-Rad Laboratories, Inc.)に常温で適用した。エレクトロポレーション処理した細胞を、100mm2の組織培養プラスチックプレート内の、10%ウシ胎児血清(FBS)を補充したDulbecco改変Eagle MEM(DMEM)中に播種した。1日後、培地を、10%FBSを補充しかつ800μg/mlのG418(GENETICIN、Sigma)を含有するDMEMにより置き換えた。2週間後に、各100mm2中に200を超えるG418耐性コロニーが形成された。得られるコロニーをトリプシンを用いて処理し、各100mm2プレートを混合し、そして再び100mm2のプレート中に播種しかつ培養し、増殖した。pcmvGIPF-IRES-GFPベクターによる形質移入体の混合物である2つのプール(A-2、A-5)およびpcmvEPO-IRES-GFPベクターによる形質移入体の混合物である2つの混合物(C-3、D-3)を以下の実験に用いた。それぞれのプールについて混合した形質移入体の6x105細胞を、5%ウシ胎児血清(FBS;Gibco)および1μg/mlのヨウ化プロピジウム(Sigma、St.Louis、MO)を補充したPBSに懸濁させ、FACSVantage(Becton Dickinson, Franklin Lakes, NJ)により分析した。高い蛍光強度(15%を超える)を示すGFP-ポジティブ細胞をソートして培養し、GFPのさらに高レベル発現を示す形質移入体のプール(A-2GH、A-5GH、C-3GH、D-3GH)を増殖した。高レベル発現を示す形質移入体のプールのうちの2つ(A-2GH、A-5GH)および1つ(D-3GH)ならびに非形質移入体NIH3T3細胞を次の移植実験に用いた。
【0067】
D. 形質移入体プールの増殖速度の測定
培養中の増殖速度を測定するために、高レベル発現を示す4つの形質移入体プールまたは対照NIH3T3のそれぞれの1x105細胞を、100mm2の組織培養プラスチックプレートで、10%のFBSを補充したDMEM中に播種した。培養がサブコンフルエントに到達すると、細胞をトリプシンを用いて処理し、そして全細胞の10分の1(実験1:10 x)または20分の1(実験2:20 x)を、100mm2組織培養プラスチックプレート中の10%FBSを補充したDMEM中に再播種した。培養と播種を、以上の手順に従って実験1については532時間、実験2については561時間、繰返して実施した。続いて、100mm2ディッシュ中の全細胞数を、それぞれの実験について数え、高レベルのGFP発現を示す形質移入体プールのそれぞれまたは対照NIH3T3に対する倍加時間をそれぞれの実験において計算した。結果を表3に示した。結論として、高レベルのGFP発現を示す形質移入体プールのin vitro増殖速度は、対照NIH3T3のそれと比較して変わりがない。
【0068】
【表3】
【0069】
E. NIH3T3形質移入体を導入したマウスにおけるGIPFの抗腫瘍効果
GIPFを発現するNIH3T3細胞の効果を、細胞導入マウスモデルを用いて、次の方法によって試験した。
【0070】
4〜6匹のscidマウス(CLEA Japanから購入)の5グループを次の通り作った、1)SCaグループ:A-2GH GIPFを発現するNIH3T3細胞が導入されたグループ、2)SCbグループ:A-5GH GIPFを発現するNIH3T3細胞が導入されたグループ、3)SCcグループ:D-3GH ヒトエリスロポエチン(hEPO)を発現するNIH3T3細胞が導入されたグループ、4)SCdグループ:野生型NIH3T3細胞が導入されたグループ、および5)SCeグループ:対照として、DMEMが注射されたグループ。GIPFおよびhEPOを発現する細胞または野生型NIH3T3細胞を、5週齢のscidマウスに、300〜600μlのDMEM中の5x106細胞/マウスの量を静脈内(iv)および腹腔内(ip)に導入した。SCeグループでは300〜600μlのDMEMをivまたはip注入した。死亡の有無の確認および一般的健康と外見の臨床観察を1日1回行った。瀕死症状を示したマウスは犠牲にして病理学的分析、血清化学分析および組織病理学試験を行った。全ての生存動物について、細胞導入後、毎週1回、体重を測定した。血液学的分析のために、全マウスからの血液サンプルを細胞導入の前に、5週齢で採取し、そして細胞導入後、2週毎に全生存マウスからの血液サンプルを採取した。血液学パラメーターの測定は採集した血液サンプルを用いてAdvia120装置(Bayel-Medical)により行った。病理学的分析のために、全生存マウスを、細胞導入後の42日に犠牲にした。マウスをジエチルエーテルを用いて麻酔し、血液サンプルを下大静脈から採取した。血液サンプルの採集については、血液サンプルをMicrotainer(Becton Dickinson)に移し、そして室温にて30分間保存し、次いで8000rpmで10分間遠心分離した。血清生化学パラメーターを採集した血液サンプルを用いて試験した。剖検において、外見、腹腔、皮下組織、胸腔、および胃腸組織を含む器官を試験した。器官重量を測定し、肉腫または腫瘍を含む器官および組織を巨視的に検証し、そして10%中性緩衝化ホルマリンに固定して組織病理学分析を行った。ヘマトキシリン-エオシン染色した標本を、脾臓、肝臓、心臓、膵臓、胃腸管、リンパ節または明らかな異常が観察される他の組織から調製した。毎日の観察により、腹腔内導入したマウスの皮下層内または筋肉層下における小さいこぶまたは腫瘍の形成が、細胞導入後9〜10週後から認められた。こられのこぶまたは腫瘍は、腹膜に移植された凝集したNIH3T3細胞塊であると予想された。かかる腫瘍形成は、全てのグループで観察されたが、SCc(SCc2)およびSCd(SCd2)グループのマウスは、SCaまたはSCbグループのマウスと比較して、より早い時期により大きい腫瘍が発生した(表4)。
【0071】
【表4】
【0072】
総合的な臨床観察において、いくつかのマウスは粗い毛、異常な呼吸、低い体温または貧血が観察された。この総合的な健康悪化はin vivoで導入された細胞腫瘍形成がもたらしたと予想された。各グループの体重曲線は、細胞導入後5週に体重の急速な低下を示したSCcグループを除くと、グループ間で明らかな差を示さなかった。図6は、各グループの細胞導入したマウスの生存曲線の結果を示す。SCcグループにおいては、生存率は細胞導入後34日に急速に低下し(生存率50%)そして全てのマウスが細胞導入後35日に死亡した。SCdグループにおいては生存率は細胞導入後33日から徐々に低下し、そして全マウスが細胞導入後40日に死亡した。図6において、GIPFを発現するNIH3T3細胞が導入されると、生存率はSCcまたはSCdグループより相対的に高く、細胞導入後40日を越えた。SCbグループではSCe対照グループと比較して生存率のわずかな低下しか観察されず、さらにSCaグループでは全マウスが生存した(細胞導入後40日にSCaマウスで100%、そしてSCbマウスで80%が生存した)。血液学的分析において、SCcグループにおいて、細胞導入後の2週から赤血球細胞数(RBC)の増加が観察された。細胞導入後の4週に、平均RBCはSCcグループおよびSCdグループにおいてそれぞれ13.32x106細胞s/uLおよび10.47x106細胞s/uLであった。これは、導入されたNIH3T3細胞中のヒトエリスロポエチントランスジーンがin vivoで発現され、予想されるように、トランスジーン発現がこのモデルのレシピエントマウス生理学に影響を与えたことを意味する。表4に示したように、ip導入されたマウスはその腹腔空洞内に分散した小腫瘍塊を発生し、さらに肉腫および血腫が腹膜、腸間膜および脂肪組織に観察された。しかし、ip細胞導入されたSCaグループのマウスには、他のグループと比較して、大きい肉腫および血腫が観察されなかった(表5および図7)。他方、iv細胞導入された各グループのマウスの肺には、腫瘍が発生した(表5および図8)。しかし、SCaおよびSCbグループの腫瘍のサイズは、SCcまたはSCdグループと比較して小さかった(図8)。
【0073】
これらのデータは、GIPF発現がin vivoでNIH3T3腫瘍増殖を抑制することを示唆する。導入された細胞は、ip細胞導入されたマウスの腹腔中に、またはiv細胞導入されたマウスの肺に分布し、そして腫瘍または肉腫を発生した。細胞型の間の相違は、分布後の腫瘍増殖に影響を与える。ヒトEPOまたは野生型NIH3T3細胞は、導入された細胞腫瘍発生に対して細胞死誘導性または抗腫瘍活性を有しない。他方、GIPFを発現する細胞が導入されたマウスおいては、hEPOを発現するおよび野生型NIH3T3細胞が導入されたマウスと比較して、腫瘍数およびサイズの低下が観察された。GIPFは何らかの細胞死誘導性、抗腫瘍または抗血管新生活性を有すると予想される。GIPFが、導入されたNIH3T3細胞内で産生され、それがオートクラインまたはパラクラインする形で影響を与え、このモデルにおける腫瘍増殖または発生を抑制した。それ故に、GIPFを発現する細胞を受け入れたマウスの死亡率は、GIPF抗腫瘍発生活性によって低下した。
【0074】
【表5】
【0075】
実施例5
腫瘍保持マウスに与えるGIPFの効果
腫瘍増殖に与えるGIPFの効果を、次の方法により腫瘍保持マウスモデルを用いて試験した。
【0076】
ドナー腫瘍ブロックを調製するために、Sw620(結腸直腸腺癌からヒトリンパ節転移;上皮性)細胞を5x106/マウスの量で、7週齢Balb/cヌードマウス(CLEA Japanから購入)の背面に皮下移植した。腫瘍体積が約400mm3になったときに腫瘍を切断し、クロス・スカルペルを用いてほぼ2x2x2mmサイズに細断した。Sw620の腫瘍ブロックを9週齢Balb/cヌードマウス(CLEA Japanから購入)の背面の皮下に移植した。腫瘍体積が約100mm3または200mm3になったときに、マウスを、それぞれのグループが6匹のマウスから成りかつ一様な平均腫瘍体積をもつようにグループ分けした。
【0077】
COLO205(転移性結腸直腸腺癌からのヒト腹水;上皮性)およびHT29(ヒト結腸直腸腺癌;上皮性)細胞を2x106/マウスの量で、10週齢のBalb/cヌードマウス(CLEAJapanから購入)の背面に皮下移植した。腫瘍体積が約50mm3または150mm3になったときに、マウスを、それぞれのグループが6匹のマウスから成りかつ一様な平均腫瘍体積をもつようにグループ分けした。
【0078】
グループ分け後、7日間、毎日、GIPFを100μg/マウス(100μlのPBSに溶解した)の量で静脈内に注射した。同じ体積のPBSをネガティブ対照として用いた。
【0079】
腫瘍の寸法と体重を毎週3回測定し、腫瘍体積を幅x幅x長さx0.52として計算した。
【0080】
図9は上記実験の結果を示す。GIPFの投与は全ての3つの腫瘍の増殖を促進しなかっただけでなく、Sw620およびCOLO205の抗腫瘍効果も有意に誘導した。
【0081】
図9Aは、GIPFを7日間、100mg/マウスの量で毎日投与したときの、Sw620腫瘍サイズの測定結果を示す。
【0082】
図9Bは、GIPFを7日間、100mg/マウスの量で毎日投与したときの、COLO205腫瘍サイズの測定結果を示す。
【0083】
図9Cは、GIPFを7日間、100mg/マウスの量で毎日投与したときの、HT29腫瘍サイズの測定結果を示す。
【0084】
実施例6 正常なヒト内皮細胞の増殖に与えるGIPFの効果
in vitroの増殖効果を研究するために、組換えGIPFの正常なヒト内皮細胞の増殖に与える効果を試験した。初代ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)およびヒト皮膚微小血管内皮細胞(HMVEC)をCambrex(Walkersville、MD)から購入し、Cambrexの内皮細胞増殖培地中で増殖した。HUVECおよびHMVECの細胞増殖速度は3H-チミジンの組込みを検定することにより測定した。
【0085】
概要を説明すると、HUVECまたはHMVECを、コラーゲンコートした96ウエルプレート内の5%FBSを含有する内皮基本培地-2(EBM2;Cambrex(Walkersville、MD))中に200μL/ウエル当たり4,000細胞で播種した。24時間後に、GIPF(3〜1000ng/ml)、次いで20ng/mLのVEGFを加え、そして細胞を78時間培養した。3H-チミジン(1μCi/mL)を加え、そして細胞をさらに14時間培養した。次いでそれを回収し、その放射能を液体シンチレーションカウンターを用いて測定した(Wallac 1205 Beta Plate; Perkin-Elmer Life Sciences、Boston、MA)。GIPF処理した細胞の増殖速度を、無処理の細胞の増殖速度と比較した。
【0086】
図10は上記実験の結果を示す。GIPFはVEGFによるHMVEC増殖を阻害したがHUVEC増殖を阻害しなかった。
【0087】
図10;GIPFはVEGFによるHMVEC増殖を阻害したがHUVEC増殖を阻害しなかった。HUVECまたはHMVECを播種して24時間培養した。細胞をGIPFと共にインキュベートした後、20ng/mL VEGFを用いて刺激した(・)。次いでその細胞を78時間培養し、次いで3H-チミジン(1μCi/mL)と共に14時間インキュベートした。細胞の組み込まれた放射能を液体シンチレーションカウンターを用いて測定した。点は平均値(n=3)であり;バーはSDである。
【0088】
実施例7 正常なヒト内皮細胞の遊走に与えるGIPFの効果
正常なヒト内皮細胞の遊走に与えるGIPFの効果を研究するために、HMVECの遊走をMatrigelインベージョンチャンバ(BD Biosciences)システムにより測定した。初代ヒト皮膚微小血管内皮細胞(HMVEC)はCambrex(Walkersville、MD)から購入し、Cambrexの内皮細胞増殖培地中で増殖した。
【0089】
細胞遊走を24ウエルのマトリゲルインヴェージョンチャンバにおいて試験した。マトリゲルインベージョンチャンバは、Matrigelマトリックスを用いて処理されている8ミクロン孔サイズPET膜を含有するBD falconTM細胞培養インサートから成る。概要を説明すると、HMVECを回収し、GIPF(10または1000ng/ml)を含有する対照培地(0.1%BSAを含有するEBM2)を用いて、30分間、懸濁状態で前処理した。2x105細胞をそれぞれのインベージョンチャンバーの頂部に供給し、そしてチャンバーの下側へ、4時間、37℃にて、下のチャンバーにVEGF(5または50ng/ml)の存在または非存在のもとで遊走させた。細胞を固定しかつDiff-Quick(Sysmex corp.)を用いて染色した。フィルター頂部の非遊走細胞を拭き取り、そしてフィルターの底部に付着した遊走した細胞を明視野顕微鏡を用いて数えた。各測定値は2つの個々のウエルの平均値を表す。遊走を、100%遊走を表すVEGFに対する遊走を用いて%遊走に標準化した。
【0090】
図11は上記実験の結果を示す。GIPFはVEGFが誘導するHMVEC遊走を阻害した。
図11;GIPFはVEGFが誘導するHMVEC遊走を阻害した。細胞遊走はVEGFにより誘導される最大遊走の百分率として表される。ダッシュ線はVEGFの非存在のもとにおける基礎遊走レベルを示す。誤差バーはSDを示す。**アンペアドデータに対するt検定を用いて決定したVEGF単独と比較して、P<0.01。
【0091】
本明細書は、本明細書に引用された全ての刊行物、特許および特許出願本明細書を参照によりその全てを組み入れる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】ヒトR-スポンジン1(GIPF)とトロンボスポンジン1(TSP1)の間の、TSP-1 1型反復領域のマルチプルアラインメントを示す図である。
【図2A】図2Aは、pH7にてR-Spondin1(GIPF)タンパク質の安定性に与えるNaClおよびArgの効果を示す図である。
【図2B】図2Bは、PBS中における精製タンパク質の溶解度を示す図である。
【図3A】図3Aは、血液中の組換えR-スポンジン1(GIPF)の安定性を示す図である。
【図3B】図3Bは血清中のR-スポンジン1(GIPF)の半減期を示す図である。
【図4】pcmv R-スポンジン1(GIPF)-IRES-GFPの構築物を示す図である。
【図5】pcmv EOP-IRES-GFPの構築物を示す図である。
【図6】各グループにおける細胞が導入されたマウスの生存曲線の結果を示す図である。SCaグループはA-2GH GIPFを発現するNIH3T3細胞が導入されたグループであり、SCbグループはA-5GH R-スポンジン1(GIPF)を発現するNIH3T3細胞が導入されたグループであり、SCcグループはD-3GHヒトEPOを発現するNIH3T3細胞が導入されたグループであり、SCdグループは野生型NIH3T3細胞が導入されたグループであり、そしてSCeグループは、対照として、DMEMが導入されたグループである。
【図7】図7は、各グループにおける、細胞が導入されたマウス中の腫瘍発生を示す写真である。各グループは図6に記載したグループと同じである。
【図8】図8は、各グループにおける、細胞が導入されたマウス中の腫瘍発生を示す写真である。SCaグループはA-2GH R-スポンジン1(GIPF)を発現するNIH3T3細胞が導入されたグループであり、SCcグループはD-3GHヒトEPOを発現するNIH3T3細胞が導入されたグループであり、そしてSCdグループは野生型NIH3T3細胞が導入されたグループである。
【図9A】図9Aは、R-スポンジン1(GIPF)を投与したときの、マウスにおけるSw620腫瘍サイズの測定結果を示す図である。
【図9B】図9Bは、R-スポンジン1(GIPF)を投与したときの、COLO205腫瘍サイズの測定結果を示す図である。
【図9C】図9Cは、R-スポンジン1(GIPF)を投与したときの、HT29腫瘍サイズの測定結果を示す図である。
【図10A】図10Aは、正常なヒト内皮細胞(HUVEC)の増殖に与える、R-スポンジン1(GIPF)の効果の結果を示す図である。
【図10B】図10Bは、正常なヒト内皮細胞(HMVEC)の増殖に与える、R-スポンジン1(GIPF)の効果の結果を示す図である。
【図11】図11は、正常なヒト内皮細胞(HMVEC)の遊走に与える、R-スポンジン1(GIPF)の効果の結果を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトR-スポンジンまたはヒトR-スポンジン活性を有するその断片を活性成分として含有する抗腫瘍薬。
【請求項2】
前記ヒトR-スポンジンはヒトR-スポンジン1(GIPF)、R-スポンジン2、R-スポンジン3またはR-スポンジン4でありかつヒトR-スポンジン1(GIPF)、R-スポンジン2、R-スポンジン3またはR-スポンジン4の断片はそれぞれヒトR-スポンジン1(GIPF)、R-スポンジン2、R-スポンジン3またはR-スポンジン4の活性を有する、請求項1に記載の抗腫瘍薬。
【請求項3】
ヒトR-スポンジンをコードするDNA、またはヒトR-スポンジン活性を有するタンパク質をコードするその断片を活性成分として含有する抗腫瘍薬。
【請求項4】
前記ヒトR-スポンジンはヒトR-スポンジン1(GIPF)、R-スポンジン2、R-スポンジン3またはR-スポンジン4であり、そしてヒトR-スポンジン1(GIPF)、R-スポンジン2、R-スポンジン3またはR-スポンジン4をコードするDNAの断片はそれぞれヒトR-スポンジン1(GIPF)、R-スポンジン2、R-スポンジン3またはR-スポンジン4の活性を有するタンパク質をコードする、請求項3に記載の抗腫瘍薬。
【請求項5】
前記腫瘍が結腸癌、結腸直腸癌、肺癌、乳癌、脳腫瘍、悪性黒色腫、腎細胞癌、膀胱癌、白血病、リンパ腫、T細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、胃癌、膵臓癌、頚部癌、子宮内膜癌、卵巣癌、食道癌、肝臓癌、頭部および首扁平上皮細胞癌、皮膚癌、尿路癌、前立腺癌、絨毛癌、咽頭癌、喉頭癌、卵胞膜細胞腫症、男性ホルモン産生細胞腫、子宮内膜過形成、子宮内膜症、胚芽腫、線維肉腫、カポジ肉腫、血管腫、海綿状血管腫、血管芽腫、網膜芽細胞腫、星細胞腫、神経繊維腫、欠突起細胞腫、髄芽腫、神経節芽細胞腫、神経膠腫、横紋筋肉腫、過誤芽腫、骨原性肉腫、平滑筋肉腫、甲状腺肉腫およびウイルムス腫からなる群より選択されるいずれかの腫瘍である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗腫瘍薬。
【請求項1】
ヒトR-スポンジンまたはヒトR-スポンジン活性を有するその断片を活性成分として含有する抗腫瘍薬。
【請求項2】
前記ヒトR-スポンジンはヒトR-スポンジン1(GIPF)、R-スポンジン2、R-スポンジン3またはR-スポンジン4でありかつヒトR-スポンジン1(GIPF)、R-スポンジン2、R-スポンジン3またはR-スポンジン4の断片はそれぞれヒトR-スポンジン1(GIPF)、R-スポンジン2、R-スポンジン3またはR-スポンジン4の活性を有する、請求項1に記載の抗腫瘍薬。
【請求項3】
ヒトR-スポンジンをコードするDNA、またはヒトR-スポンジン活性を有するタンパク質をコードするその断片を活性成分として含有する抗腫瘍薬。
【請求項4】
前記ヒトR-スポンジンはヒトR-スポンジン1(GIPF)、R-スポンジン2、R-スポンジン3またはR-スポンジン4であり、そしてヒトR-スポンジン1(GIPF)、R-スポンジン2、R-スポンジン3またはR-スポンジン4をコードするDNAの断片はそれぞれヒトR-スポンジン1(GIPF)、R-スポンジン2、R-スポンジン3またはR-スポンジン4の活性を有するタンパク質をコードする、請求項3に記載の抗腫瘍薬。
【請求項5】
前記腫瘍が結腸癌、結腸直腸癌、肺癌、乳癌、脳腫瘍、悪性黒色腫、腎細胞癌、膀胱癌、白血病、リンパ腫、T細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、胃癌、膵臓癌、頚部癌、子宮内膜癌、卵巣癌、食道癌、肝臓癌、頭部および首扁平上皮細胞癌、皮膚癌、尿路癌、前立腺癌、絨毛癌、咽頭癌、喉頭癌、卵胞膜細胞腫症、男性ホルモン産生細胞腫、子宮内膜過形成、子宮内膜症、胚芽腫、線維肉腫、カポジ肉腫、血管腫、海綿状血管腫、血管芽腫、網膜芽細胞腫、星細胞腫、神経繊維腫、欠突起細胞腫、髄芽腫、神経節芽細胞腫、神経膠腫、横紋筋肉腫、過誤芽腫、骨原性肉腫、平滑筋肉腫、甲状腺肉腫およびウイルムス腫からなる群より選択されるいずれかの腫瘍である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗腫瘍薬。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【公表番号】特表2009−502737(P2009−502737A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−504556(P2008−504556)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【国際出願番号】PCT/JP2006/315255
【国際公開番号】WO2007/013666
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(307023122)キリンファーマ株式会社 (11)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【国際出願番号】PCT/JP2006/315255
【国際公開番号】WO2007/013666
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(307023122)キリンファーマ株式会社 (11)
【Fターム(参考)】
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