説明

R−T−B系焼結磁石の製造方法

【課題】R−T−B系焼結磁石と保持部材とが溶着せずに一回あたりの処理量を増やす効率の良いRH供給、拡散処理の製造方法を提供すること。
【解決手段】RH拡散源とR−T−B系焼結磁石体とを開口部を有する保持部材を介して交互に積層し、積層体を構成する工程と、前記積層体を処理容器内に配置し、前記処理容器内を0.1Pa以上50Pa以下、800℃以上950℃以下の雰囲気にしてRH供給拡散処理を行う工程と、を含むR−T−B系焼結磁石の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R14B型化合物を主相として有するR−T−B系焼結磁石(Rは希土類元素のうち少なくとも1種、Tは遷移金属元素のうち少なくとも一種であり、Feを必ず含む)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
14B型化合物を主相として有するR−T−B系焼結磁石は、永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られており、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)や、ハイブリッド車搭載用モータ等の各種モータや家電製品等に使用されている。
【0003】
R−T−B系焼結磁石は、高温で保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」と記載する)が低下するため、不可逆熱減磁が起こる恐れがあり、不可逆熱減磁を回避するため、モータ用等に使用する場合、高温下でも高いHcJを維持することが要求されている。
【0004】
R−T−B系焼結磁石は、R14B型化合物相中のRの一部を重希土類元素RH(Dy、Tb)で置換すると、HcJが向上することが知られている。高温で高いHcJを得るためには、R−T−B系焼結磁石のR14B型化合物相中のRを重希土類元素RHで多く置換することが有効である。
【0005】
しかし、R−T−B系焼結磁石において、Rとして軽希土類元素RL(Nd、Pr)を重希土類元素RHで置換すると、HcJが向上する一方、残留磁束密度B(以下、単に「B」と記載する)が低下してしまうという問題がある。また、重希土類元素RHは希少資源であるため、その使用量を削減することが求められている。
【0006】
近年、R−T−B系焼結磁石のHcJ向上を目的として、焼結した後に蒸着手段を用いてDy、Tb等の重希土類元素RHを磁石表面に供給し、その重希土類元素RHを磁石内部へ拡散させることによって、Bの低下を抑制しつつ、HcJを向上させる方法が提案されている。
【0007】
特許文献1は、図7のように、処理室11内に、R−T−B系焼結磁石体1と重希土類元素RHを含有するRH拡散源2とをNb網からなる焼結磁石体保持部材3、拡散源保持部材4およびスペーサ部材12により間隔をあけて配置し、これらを所定温度に加熱することにより、RH拡散源2から重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石体1の表面に供給しつつ、重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石体1の内部に拡散させる(「蒸着拡散」)方法を開示している。
【0008】
特許文献2は、DyおよびTbの少なくとも一方を含む金属蒸発材料とR−T−B系焼結磁石を処理箱内に収納し、真空雰囲気にて所定温度に加熱することにより、金属蒸発材料を蒸発させてR−T−B系焼結磁石に付着させ、この付着したDy及びTbの金属原子を当該焼結磁石の表面および/または結晶粒界相に拡散させる方法を開示している。
【0009】
特許文献2は、金属蒸発材料とR−T−B系焼結磁石とをスペーサを介して上下方向に交互に積み重ねている。当該スペーサは、線材を格子状に組みつけ、その外周緑部に、略直角に上方に屈曲した支持片を有している。支持片を有するスペーサにより金属蒸発材料とR−T−B系焼結磁石とを間隔をあけて配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開WO2007/102391号
【特許文献2】特開2009−135393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1、2では、熱処理による拡散反応を利用し、R−T−B系焼結磁石の主相外殻部に重希土類元素RHの濃縮層を形成する。その際、重希土類元素RHが、R−T−B系焼結磁石の表面から当該R−T−B系焼結磁石の内部に拡散すると同時に、前記R−T−B系焼結磁石の内部に含まれている軽希土類元素RLを主体とする液相成分が、前記R−T−B系焼結磁石の表面に向かって拡散する。この様に、前記重希土類元素RHが、前記R−T−B系焼結磁石の表面から内部へ、前記軽希土類元素RLが、前記R−T−B系焼結磁石の内部から表面へと相互に拡散が起こることにより、R−T−B系焼結磁石表面に、軽希土類元素RLを主体とする溶出部分が形成される。この部分は、R−T−B系焼結磁石を支持する支持体と反応を起こす。そのため、支持体とR−T−B系焼結磁石とが固着(以下、「溶着」と記載する)してしまう。
【0012】
重希土類元素RHのR−T−B系焼結磁石への供給が過多となると、上記のような相互拡散が多く起こり、溶着が多発する。よって、重希土類元素RHのR−T−B系焼結磁石への供給が過多とならないように、特許文献1、2では、R−T−B系焼結磁石を載せた網とRH拡散源(特許文献2の金属蒸発材料に相当)との間およびRH拡散源を載せた網とR−T−B系焼結磁石との間にスペーサを配置して空間を持たせている。
【0013】
しかし、上記の空間をもたせることは、多量のR−T−B系焼結磁石を処理するときの制約になるという問題があった。
【0014】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、R−T−B系焼結磁石と保持部材とが溶着せずに一回あたりの処理量を増やす効率の良いRH供給、拡散処理の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のR−T−B系焼結磁石の製造方法は、RH拡散源(重希土類元素RHを80原子%以上含む金属または合金。ただし、重希土類元素RHは、DyおよびTbの少なくとも一種)とR−T−B系焼結磁石体(Rは希土類元素のうち少なくとも一種、Tは遷移金属元素のうち少なくとも一種であり、Feを必ず含む)とを開口部を有する保持部材を介して交互に積層し、積層体を構成する工程と、前記積層体を処理容器内に配置し、前記処理容器内を0.1Pa以上50Pa以下、800℃以上950℃以下の雰囲気にしてRH供給拡散処理を行う工程と、を包括している。
【0016】
好ましい実施形態として、前記保持部材の厚さが0.1mm以上4mm以下である。
【0017】
好ましい実施形態として、前記RH供給拡散処理の後、前記処理容器内を200Pa以上2kPa以下、800℃以上950℃以下の雰囲気にしてRH拡散処理を行う工程をさらに含む。
【0018】
好ましい実施形態として、前記RH供給拡散処理後または前記RH拡散処理後、処理容器内の温度を1℃/分以上15℃/分以下の冷却速度で500℃まで冷却することを特徴とする。
【0019】
好ましい実施形態として。前記処理容器内をロータリーポンプまたはロータリーポンプおよびメカニカルブースターポンプを用いて真空排気処理を行う。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、R−T−B系焼結磁石と保持部材との溶着が起こらない。そのため、直接、保持部材を介してR−T−B系焼結磁石体とRH拡散源を積層することができ、RH供給拡散処理一回あたりのR−T−B系焼結磁石体の処理量を増加させ、生産効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態の一例を示す説明図である。
【図2】本発明の実施形態の一例を示す説明図である。
【図3】焼結磁石体保持部材へのR−T−B系焼結磁石体の配置形態の一例を示す説明図である。
【図4】RH拡散源保持部材へのRH拡散源の配置形態の一例を示す説明図である。
【図5】RH供給拡散処理などを行うための拡散処理装置の一例を示す説明図である。(a)は一室からなるバッチ式拡散処理装置を示す。(b)は複数室からなる連続式拡散処理装置を示す。
【図6】(a)は上記図5(a)を用いる場合の熱処理パターンの一例を示す説明図である。(b)は上記図5(b)を用いる場合の熱処理パターンの一例を示す説明図である。
【図7】特許文献1における実施形態の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明においては、RH拡散源より重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石体の表面に供給しつつ、R−T−B系焼結磁石体の内部に拡散させる処理を「RH供給拡散処理」という。当該RH供給拡散処理は、RH拡散源より重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石体の表面に供給しつつ、R−T−B系焼結磁石体の内部に拡散させるという点においては、基本的に特許文献1による「蒸着拡散」方法と同様である。また、RH拡散源からの重希土類元素RHを供給せず、R−T−B系焼結磁石体の内部への拡散のみを行う処理を「RH拡散処理」という。
【0023】
また、本発明においては、RH供給拡散処理前のR−T−B系焼結磁石を「R−T−B系焼結磁石体」とし、RH供給拡散処理後のR−T−B系焼結磁石を「R−T−B系焼結磁石」とし、それぞれ区別して表記する。
【0024】
以下に本発明の実施形態を説明する。
〔R−T−B系焼結磁石体〕
R−T−B系焼結磁石体は、公知の組成、製造方法によって製造されたものを用いることができる。
例えば、R−T−B系焼結磁石体は以下の組成からなる。
R(希土類元素のうち少なくとも一種):12〜17原子%
B(Bの一部はCで置換されてもよい):5〜8原子%
添加元素M(Al、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択された少なくとも一種):0〜2原子%
T(遷移金属元素のうち少なくとも一種であり、Feを必ず含む)および不可避不純物:残部
ここで、希土類元素Rは、主としてNd、Prから選択される少なくとも一種の元素からなる軽希土類元素RLであるが、Dy、Tbから選択される少なくとも一種の重希土類元素RHを含有していてもよい。
【0025】
〔RH拡散源〕
RH拡散源は、重希土類元素RHを80原子%以上含む金属または合金であり、当該重希土類元素RHは、Dy、Tbのうち少なくとも1種である。例えば、Dyメタル、Tbメタル、DyFe合金、TbFe合金などである。Dy、Tb、Fe以外に他の元素を含んでいても良い。RH拡散源は、重希土類元素RHを80原子%以上含むことが好ましい。重希土類元素RHの含有量が80原子%よりも少なくなると、RH拡散源からの重希土類元素RHの供給量が少なくなり、所望のHcJ向上効果を得るために処理時間が非常に長くなる為、好ましくない。
【0026】
RH拡散源の形状は、例えば、板状、ブロック形状など任意であり、特に大きさも限定されない。ただし、RH供給拡散処理の処理量を高める為には、厚み0.5〜5.0mmで板状のRH拡散源が好ましい。
【0027】
ここで、RH拡散源は、Dy、Tb以外に本発明の効果を損なわない限りにおいて、Nd、Pr、La、Ce、Zn、Zr、Sn、Co、Al、F、NおよびOからなる群から選択された少なくとも1種を含有してもよい。
【0028】
〔RH供給拡散処理工程〕
本発明では、RH供給拡散処理工程で、処理容器内を0.1Pa以上50Pa以下、800℃以上950℃以下の雰囲気にすることにより、R−T−B系焼結磁石体と焼結磁石体保持部材およびR−T−B系焼結磁石体と拡散源保持部材との溶着を起こさずに、RH拡散源より重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石体の表面に供給しつつ、R−T−B系焼結磁石体の内部に拡散させる。
【0029】
RH供給拡散処理工程で、処理容器内の圧力が0.1Pa未満であると、R−T−B系焼結磁石体と焼結磁石体保持部材およびR−T−B系焼結磁石体と拡散源保持部材と溶着してしまう。また50Paを超えると、重希土類元素RHのR−T−B系焼結磁石体への供給を十分に確保できない恐れがある。
【0030】
RH供給拡散処理工程で、加熱する温度が800℃未満であると、重希土類元素RHのR−T−B系焼結磁石体への供給を十分に確保できない恐れがある。また、950℃を超えると、処理容器内の圧力が0.1Pa以上50Pa以下であってもR−T−B系焼結磁石体と焼結磁石体保持部材およびR−T−B系焼結磁石体と拡散源保持部材と溶着してしまう。
【0031】
以下、RH供給拡散処理工程について詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態の一例を示す説明図である。図1では、上方向に開口部を有する角筒状部材5と蓋状部材6からなる処理容器の内部にR−T−B系焼結磁石体1とRH拡散源2とが焼結磁石体保持部材3や拡散源保持部材4を介して交互に積層し、積層体を構成している。具体的には、角筒形状部材の底部から拡散源保持部材4、RH拡散源2、焼結磁石体保持部材3、R−T−B系焼結磁石体1、拡散源保持部材4、RH拡散源2、焼結磁石体保持部材3、R−T−B系焼結磁石体1と積層し、積層体を構成する。ここで積層体の最上部および最下部(但し、下部には保持部材をさらに設けることがある。)にはRH拡散源2を配置するようにする。
【0032】
このとき、図1のようにR−T−B系焼結磁石体1を配置した焼結磁石体保持部材3とRH拡散源2を配置した拡散源保持部材4との間には特許文献1,2のようなスペーサを介していない。そのため、焼結磁石体保持部材3や拡散源保持部材4を直接介して、R−T−B系焼結磁石体1とRH拡散源2とが交互に積層される。焼結磁石体保持部材3、拡散源保持部材4の厚さを調整することで、R−T−B系焼結磁石体1とRH拡散源2との距離を調整することができる。
【0033】
処理容器内に積層体を構成した後、処理容器内を0.1Pa以上50Pa以下、800℃以上950℃以下の雰囲気にしてRH供給拡散処理を行う。R−T−B系焼結磁石体1とRH拡散源2を加熱し、RH拡散源2から重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石体1の表面に供給しつつ、重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石体1の内部に拡散させる。
【0034】
焼結磁石体保持部材3、拡散源保持部材4などの保持部材は、いずれも開口部を有し、例えばMo網、Nb網などを用いることが出来る。前記保持部材は、厚さが0.1mm以上4mm以下であることが好ましい。0.1mm未満であると前記保持部材とR−T−B系焼結磁石とが溶着してしまう恐れがある。本発明は、処理容器内を0.1Pa以上50Pa以下、800℃以上950℃以下の雰囲気にしてRH供給拡散処理をしているため、RH拡散源2から多量の重希土類元素RHが供給されることはない。そのため、4mmを超えるとR−T−B系焼結磁石体1とRH拡散源2との距離が離れすぎてしまい、RH拡散源2からR−T−B系焼結磁石体1への重希土類元素RHの供給量が少なくなり、RH供給拡散処理を十分に行うことができなくなる恐れがある。開口部は効率良くRH供給拡散処理ができるように50%以上の開口率を有することが好ましい。50%未満であるとRH供給拡散処理でRH拡散源2からR−T−B系焼結磁石体1への重希土類元素RHの供給量が不十分となり拡散されない部位が生じる恐れがある。開口率は、70%以上がさらに好ましい。
【0035】
本発明では、焼結磁石体保持部材3、拡散源保持部材4は、R−T−B系焼結磁石体1、RH拡散源2の全重量を支える必要はないので、さほど強度を考慮する必要はない。具体的には焼結磁石体保持部材3、拡散源保持部材4は、直径2mm以下のMo、NbやWなどの線材で編んだ網が好適である。
【0036】
焼結磁石体保持部材3、拡散源保持部材4は同じ開口率、同じ厚さである必要はない。ただし、焼結磁石体保持部材3および拡散源保持部材4の開口部の開口率と厚さが同じであるのが好ましく、R−T−B系焼結磁石体1は、上下方向から同じ条件でRH供給拡散処理をすることができる。
【0037】
図2のように角筒状部材5または蓋状部材6からなる処理容器を上下方向に積み重ねることにより、R−T−B系焼結磁石体1とRH拡散源2を多く積層することができる。ここで、角筒形状部材5は底板があってもよいし、なくてもよい。底板のない場合は蓋状部材6が底板の役割をする。
【0038】
また、図3のように、隣り合うR−T−B系焼結磁石体1同士がRH供給拡散処理によって溶出した軽希土類元素RLで溶着しないように、R−T−B系焼結磁石体1同士は間隔をあけて配置することが好ましい。また、図4のように、RH拡散源2は間隔をあけずに拡散源保持部材4上へ配置してもよいし間隔を空けて配置してもよい。R−T−B系焼結磁石体1の配置に応じて適宜選定すればよい。
【0039】
RH供給拡散処理工程では0.1Pa以上50Pa以下の雰囲気圧力でRH供給拡散処理を行うため、重希土類元素RHが一気にR−T−B系焼結磁石体1に過剰供給されず、R−T−B系焼結磁石と焼結磁石体保持部材3や拡散源保持部材4との溶着が発生しない。また、副次的にはRH供給拡散処理工程ではR−T−B系焼結磁石体への重希土類元素RHのつきまわりがよくなり、焼結磁石体保持部材3や拡散源保持部材4によって影となっているところにも重希土類元素RHが供給される。
【0040】
〔RH拡散処理工程〕
RH供給拡散処理工程後、処理容器内を200Pa以上2kPa以下、800℃以上950℃以下の雰囲気にすることにより、重希土類元素RHをさらに、R−T−B系焼結磁石内部に拡散させることが好ましい。
【0041】
RH拡散処理工程では、圧力を200Pa以上2kPa以下とすることで、RH拡散源2から重希土類元素RHが供給されなくなり、拡散のみが進行する。そのためR−T−B系焼結磁石と焼結磁石体保持部材3や拡散源保持部材4との溶着が発生しない。また、800℃以上950℃以下の温度範囲にすることで、R−T−B系焼結磁石のより内部へ前記重希土類元素RHを拡散することができる。
【0042】
〔拡散処理装置〕
RH供給拡散処理やRH拡散処理を行うための拡散処理装置が、図5(a)の一室の処理室からなるバッチ式拡散処理装置の場合、図6(a)のような熱処理パターンにて行うことができる。この場合、当該処理室で前記RH供給拡散処理を行った後に、不活性ガスを流気させて、雰囲気圧力を200Pa以上2kPa以下に調整してから前記RH拡散処理を行う。
【0043】
拡散処理装置が、図5(b)のように、RH供給拡散処理を行う処理室とRH拡散処理を行う処理室との2つの処理室を有する連続式拡散処理装置の場合、図6(b)のような熱処理パターンにて行うことができる。この場合、当該RH拡散処理を行う処理室を、200Pa以上2kPa以下の雰囲気圧力で800℃以上950℃以下の処理温度にあらかじめ設定しておき、前記RH供給拡散処理を行う処理室にて前記RH供給拡散処理を行った後、前記RH拡散処理を行う処理室に処理容器を搬送台(図示せず)にて搬送させ、RH拡散処理を行う。
【0044】
RH拡散処理は、必ずしもRH供給拡散処理と同じ装置で行う必要はなく、別の装置で行っても良い。そのとき、RH供給拡散処理を行ったR−T−B系焼結磁石のみまたはR−T−B系焼結磁石と焼結磁石体保持部材のみでRH拡散処理工程を行っても良い。
【0045】
本発明では、0.1Pa〜2kPa程度の高い圧力でRH供給拡散処理やRH拡散処理を行うことができるので、ロータリーポンプまたはロータリーポンプおよびメカニカルブースターポンプといった10−2Pa以下の低い圧力を発生できないポンプで実施できる。そのため、特許文献2に開示されているようなクライオポンプなどを用いた低い圧力を発生させるポンプは必ずしも必要でない。
【0046】
〔熱処理〕
上記RH供給拡散処理工程後あるいはRH拡散処理工程後のR−T−B系焼結磁石に熱処理を施しても良い。熱処理は、公知の方法を採用することができる。
【0047】
〔表面処理〕
実用上、RH拡散処理後のR−T−B系焼結磁石に表面処理を施すことが好ましい。表面処理は公知の表面処理でよく、例えばAl蒸着や電気Niめっきや樹脂塗装などの表面処理を行うことができる。表面処理を行う前にはサンドブラスト処理、バレル処理、エッチング処理、機械研削等公知の前処理を行っても良い。また、RH拡散処理の後に寸法調整のための研削を行っても良い。このような工程を経ても、HcJはほとんど変わらない。寸法調整のための研削量は、1〜300μm、より好ましくは5〜100μm、さらに好ましくは10〜30μmである。
【実施例】
【0048】
(実施例1)
まず、Nd:22.3%、Pr:6.2%、Dy:4.0%、B:1.0%、Co:0.9%、Cu:0.1%、Al:0.2%、Ga:0.1%、Fe:残部(単位は質量%)の組成を有するR−T−B系焼結磁石体を作製した後、機械的に加工することにより、厚さ5mm×縦40mm×横60mmのR−T−B系焼結磁石体1を得た。作製したR−T−B系焼結磁石体1の磁気特性をB−Hトレーサによって測定したところ、熱処理(500℃)後の特性でHcJは1740kA/m、Brは1.30Tであった。
【0049】
このR−T−B系焼結磁石体1を図1のように角筒状部材5と蓋状部材6からなる処理容器の内部に配置した。そして図2のように、ベース材13上に当該処理容器を上下方向に積み重ねて配置した。処理容器内は角筒状部材の底部から拡散源保持部材4、RH拡散源2、焼結磁石体保持部材3、R−T−B系焼結磁石体1、拡散源保持部材4、RH拡散源2、焼結磁石体保持部材3、R−T−B系焼結磁石体1と積層し、積層体を構成している。
【0050】
実施例1では、Mo製網、厚さ2mm×縦200mm×横300mm、4メッシュ(開口部5.4mm×5.4mm)の焼結磁石体保持部材上に前記R−T−B系焼結磁石体を16個配置した。R−T−B系焼結磁石体間は2.0mmの間隔をあけている。
【0051】
焼結磁石体保持部材と同じ材質、形状の拡散源保持部材4上には、純度99.9%のDyから形成され、3mm×27mm×270mmのサイズを有しているRH拡散源を7個配置した。
【0052】
角筒状部材は縦220mm×横320mm×高さ75mmで、蓋部材は縦220mm×横320mm×高さ2.0mmの大きさである。
【0053】
処理容器を図5(b)の拡散処理装置に装入し、図6(b)の温度条件にてRH供給拡散処理およびRH拡散処理を行った。
具体的には、昇温処理室に処理容器を配置し、水分を除去する目的でポンプで減圧しながら不活性ガスを流気し、炉内を40Paの雰囲気圧力にした。さらに、不活性ガスを流気させて炉内を1.5kPaの雰囲気圧力にし、450℃まで昇温させた。次に、RH供給拡散処理室に処理容器を移動させ、900℃に昇温後3.0Paの雰囲気圧力にして2時間RH供給拡散処理を行った。
RH供給拡散処理の後、RH拡散処理室に処理容器を移動し、再び不活性ガスを炉内に流気させ1.5kPaの雰囲気圧力にして6時間RH拡散処理を行った。
【0054】
RH拡散処理を行った後、処理容器を冷却・時効熱処理室に移動し、処理容器内の温度を900℃から500℃まで3℃/分の冷却速度で冷却し、500℃から室温までガス冷却(80℃/分)により急冷した。その後、熱処理(圧力2Pa、500℃で60分)を行い、R−T−B系焼結磁石を作製した。
【0055】
〔実施例2〕
RH拡散処理を行った後、処理容器内の温度を900℃から室温までガス冷却(80℃/分)により急冷したことを除き、実施例1と同じ条件でR−T−B系焼結磁石を製作した。
【0056】
〔比較例1〕
クライオポンプを用い処理容器内の圧力を10−3PaとしてRH供給拡散処理を行ったことと、R−T−B系焼結磁石体を載せた焼結磁石体保持部材とRH拡散源を載せた拡散源保持部材をスペーサ部材を介して積層し、R−T−B系焼結磁石体とRH拡散源とを8mm空けたこととを除き、実施例1と同じ条件でR−T−B系焼結磁石を作製した。
【0057】
〔比較例2〕
クライオポンプを用い、処理容器内の圧力を10−3PaとしてRH供給拡散処理を行ったことを除き、実施例1と同じ条件でR−T−B系焼結磁石を作製した。
【0058】
〔比較例3〕
クライオポンプを用い、処理容器内の圧力を10−5Paとした後、不活性ガス(Ar)を40kPaで導入してRH供給拡散処理を行ったことを除き、実施例1と同じ条件でR−T−B系焼結磁石を作製した。
【0059】
実施例1、実施例2、比較例1、比較例2、比較例3について、各処理方法の条件とともに磁気特性、溶着の有無を調べた結果を表1に示す。磁気特性は熱処理後におけるR−T−B系焼結磁石の厚さを0.2mmずつ研削し、厚さ4.6mm×縦7.0mm×横7.0mmに切り出した後、パルス励磁式B−Hトレーサにてその磁気特性を評価してた。表中の「圧力」は、RH供給拡散処理時の雰囲気圧力(処理容器内の圧力)を示す。「距離」は、R−T−B系焼結磁石体1とRH拡散源2との距離を示す。実施例1、実施例2、比較例2、比較例3は、焼結磁石体保持部材3や拡散源保持部材4の厚さ2mmがその距離となる。比較例1は、焼結磁石体保持部材3や拡散源保持部材4の厚さ2mmとスペーサ部材の厚さ6mmによる合計8mmがその距離となる。「△HcJ」は、処理前のR−T−B系焼結磁石体1のHcJ(1740kA/m)と処理後のHcJの差分を示す。「△B」は、処理前のR−T−B系焼結磁石体1のB(1.30T)と処理後のBの差分を示す。「溶着の有無、程度」は、R−T−B系焼結磁石を焼結磁石体保持部材3および拡散源保持部材4より取り外した時の溶着発生の有無とその程度を示す。「処理個数」は、実施例1、実施例2、比較例1、比較例2、比較例3のそれぞれの場合に一度に処理したR−T−B系焼結磁石体の数を示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1のように、比較例1では、HcJ向上効果が高く、かつBの低下もなかったが、処理量において実施例1、実施例2よりも大幅に劣っており、かつ一部に溶着がありバリ状突起物が生成されていた。比較例2では保持部材から剥がせないほど溶着が発生した。比較例3では溶着が発生しなかったが、HcJ向上効果(△HcJ)が確認されなかった。実施例1は溶着がなく、比較例1とほぼ同じHcJ向上効果(△HcJ)があり、かつ比較例1と比べて多くの磁石を一度にRH拡散処理できた。
【0062】
以上のことから分かるように、実施例1、実施例2が量産に適した方法でありR−T−B系焼結磁石体と保持部材とが溶着せずに、一回あたりのRH拡散処理量を増やすことができる。また、冷却条件が実施例1(3℃/分)の場合と実施例2(80℃/分)の場合とでは、実施例1の方が高いHcJ向上効果(△HcJ)がみられた。
【0063】
〔実施例3〕
表2は、実施例1と同じ条件でRH供給拡散処理をした後の各冷却条件によるHcJを示す。表2中の(1)〜(8)の「冷却条件」は、RH供給拡散処理後の処理容器内の温度(900℃)から500℃までの冷却速度を示す。何れの場合も500℃から室温まではガス冷却(80℃/分)により急冷をした。本発明における室温とは、20℃±15℃の範囲をいう。「△HcJ」は、RH供給拡散処理後(900℃)、処理容器内の温度を室温までガス冷却により急冷した(表2中(基準))R−T−B系焼結磁石のHcJ(1997kA/m)と(1)〜(8)の冷却条件でそれぞれ冷却処理したR−T−B系焼結磁石のHcJとの差分を示す。
【0064】
〔実施例4〕
表3は、前記表2中(基準)のR−T−B系焼結磁石のHcJとRH供給拡散処理後に処理容器内の温度を900℃から室温まで2℃/分で冷却したことを除き、実施例1と同じ条件で製作したR−T−B系焼結磁石のHcJとの差分を示す。
【0065】
〔実施例5〕
表4は、前記表2中(基準)のR−T−B系焼結磁石のHcJと冷却条件がRH拡散処理後であることを除き、表2の(4)〜(7)と同じ条件で冷却したR−T−B系焼結磁石のHcJとの差分をそれぞれ示す。
【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
【表4】

【0069】
表2のように、20℃/分(表2中(1))の冷却条件ではほとんどHcJ向上効果がみられなったが、15℃/分以下(表2中(2)〜(8))の全ての冷却条件でHcJの向上効果がみられた。よって、RH供給拡散処理後の処理容器内の温度は、800℃以上950℃以下の温度範囲であるが、当該温度範囲から500℃までの冷却を、1分/以上15分/以下の冷却速度で冷却することが望ましい。また、2℃/分(表2中(7))と1℃/分(表2中(8))との冷却条件ではほとんどHcJ向上効果に差が無かった。そのため、HcJ向上効果、生産効率を考慮すると、2℃/分〜5℃/分がさらに好ましく、最も好ましくは、2℃/分〜3℃/分である。
【0070】
また、表3のように、処理容器内の温度をRH供給拡散処理後の900℃から室温まで、2℃/分の冷却速度で冷却を行った場合でも、900℃から500℃まで2℃/分の冷却速度で冷却を行い、その後ガス冷却により室温まで急冷を行った場合(表2中(7))と、同様のHcJ向上効果がみられた。よって、生産効率を考慮すると500℃から室温までは急冷した方が好ましい。
【0071】
さらに、表4のように、これらの冷却条件は、RH供給拡散処理後でもRH拡散処理後でも同様のHcJ向上効果が得られることがわかる。
【符号の説明】
【0072】
1 R−T−B系焼結磁石体
2 RH拡散源
3 焼結磁石体保持部材
4 拡散源保持部材
5 角筒状部材
6 蓋状部材
7 バッチ式拡散処理装置
8 連続式拡散処理装置
9 ガス導入手段
10 ポンプ
11 処理室
12 スペーサー部材
13 ベース材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RH拡散源(重希土類元素RHを80原子%以上含む金属または合金。ただし、重希土類元素RHは、DyおよびTbの少なくとも一種)とR−T−B系焼結磁石体(Rは希土類元素のうち少なくとも一種、Tは遷移金属元素のうち少なくとも一種であり、Feを必ず含む)とを開口部を有する保持部材を介して交互に積層し、積層体を構成する工程と、
前記積層体を処理容器内に配置し、前記処理容器内を0.1Pa以上50Pa以下、800℃以上950℃以下の雰囲気にしてRH供給拡散処理を行う工程と、
を含むR−T−B系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記保持部材の厚さが0.1mm以上4mm以下である請求項1に記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記RH供給拡散処理の後、前記処理容器内を200Pa以上2kPa以下、800℃以上950℃以下の雰囲気にしてRH拡散処理を行う工程をさらに含む、請求項1または請求項2に記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記RH供給拡散処理後または前記RH拡散処理後、処理容器内の温度を1℃/分以上15℃/分以下の冷却速度で500℃まで冷却することを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれかに記載のR−T―B系焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
前記処理容器内をロータリーポンプまたはロータリーポンプおよびメカニカルブースターポンプを用いて真空排気処理を行う、請求項1から請求項4のいずれかに記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−94813(P2012−94813A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145412(P2011−145412)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】