説明

R−T−B系焼結磁石の製造方法

【課題】R−T−B系焼結磁石と保持部材とが溶着せずに一回あたりの処理量を増加させ、生産効率を向上させるとともに、不純物ガスによるR−T−B系焼結磁石の磁気特性低下や重希土類元素RHの拡散によるR−T−B系焼結磁石の磁気特性向上効果が阻害されることを防止する、R−T−B系焼結磁石の製造方法の提供。
【解決手段】RH拡散源とR−T−B系焼結磁石体とを保持部材を介して交互に積層し、積層体を構成する工程と、前記積層体を処理容器内に配置する工程と、前記処理容器内の少なくとも一箇所にゲッターを配置する工程と、前記処理容器内を0.1Pa以上50Pa以下、800℃以上950℃以下の雰囲気にしてRH供給拡散処理を行う工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R−T−B系焼結磁石(Rは希土類元素のうち少なくとも1種、TはFeを含む遷移金属元素)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R−T−B系焼結磁石は、永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られており、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)や、ハイブリッド車搭載用モータ等の各種モータに使用されている。
【0003】
R−T−B系焼結磁石は、高温で保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」と記載する)が低下し、不可逆熱減磁が起こる。不可逆熱減磁を回避するため、モータ用等に使用する場合、高温下でも高い保磁力を維持することが要求されている。
【0004】
近年、R−T−B系焼結磁石のHcJ向上を目的として、焼結した後に蒸着手段を用いてDy、Ho、Tb等の重希土類元素RHを磁石表面に供給し、その重希土類元素RHを磁石内部へ拡散させることによって、残留磁束密度B(以下、単に「B」と記載する)の低下を抑制しつつ、HcJを向上させる方法が提案されている。
【0005】
特許文献1は、R−T−B系焼結磁石と重希土類元素RHを含有するバルク体とをNb網とスペーサ部材により離間して配置し、これらを所定温度に加熱することにより、前記バルク体から重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石の表面に供給しつつ、重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石の内部に拡散させる方法(以下、「蒸着拡散方法」という)を開示している。
【0006】
特許文献2は、DyおよびTbの少なくとも一方を含む金属蒸発材料とR−T−B系焼結磁石を処理箱内に収納し、真空雰囲気にて所定温度に加熱することにより、金属蒸発材料を蒸発させてR−T−B系焼結磁石に付着させ、この付着したDy及びTbの金属原子を当該焼結磁石の表面および/または結晶粒界相に拡散させる方法(以下、「付着拡散方法」という)を開示している。
【0007】
特許文献2は、金属蒸発材料とR−T−B系焼結磁石とをスペーサを介して上下方向に交互に積み重ねている。当該スペーサは、線材を格子状に組みつけ、その外周緑部に、略直角に上方に屈曲した支持片を有している。支持片を有するスペーサにより金属蒸発材料とR−T−B系焼結磁石とを離間して配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2007/102391号
【特許文献2】特開2009−135393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1、2では、熱処理による拡散反応を利用し、R−T−B系焼結磁石の主相外殻部に重希土類元素RHの濃縮層を形成する。その際、重希土類元素RHが、R−T−B系焼結磁石の表面から当該R−T−B系焼結磁石の内部に拡散すると同時に、前記R−T−B系焼結磁石の内部に含まれている軽希土類元素RL(RLは、NdおよびPrの少なくとも一種)を主体とする液相成分が、前記R−T−B系焼結磁石の表面に向かって拡散する。この様に、前記重希土類元素RHが、前記R−T−B系焼結磁石の表面から内部へ、前記軽希土類元素RLが、前記R−T−B系焼結磁石の内部から表面へと相互に拡散が起こることにより、R−T−B系焼結磁石表面に、軽希土類元素RLを主体とする溶出部分が形成される。この部分は、R−T−B系焼結磁石を支持する支持体と反応を起こす。そのため、支持体とR−T−B系焼結磁石とが固着(以下、「溶着」と記載する)してしまう。
【0010】

重希土類元素RHのR−T−B系焼結磁石への供給が過多となると、上記のような相互拡散が多く起こり、溶着が多発する。よって、重希土類元素RHのR−T−B系焼結磁石への供給が過多とならないように、特許文献1、2では、R−T−B系焼結磁石を載せた網とバルク体(特許文献2の金属蒸発材料に相当)との間およびバルク体を載せた網とR−T−B系焼結磁石との間にスペーサを配置して空間を持たせている。
【0011】
しかし、その結果、多量のR−T−B系焼結磁石を処理するときの制約になるという問題があった。
【0012】
また、上記の蒸着拡散方法や付着拡散方法を行う炉内などからは、酸素や炭素、水蒸気などを含んだ不純物ガス(以下、単に「不純物ガス」と記載する)が発生する。この不純物ガスが、炉内にあるR−T−B系焼結磁石とバルク体とが上下方向へ多段配置されている処理容器(以下、単に「処理容器」と記載する)内に流入すると、R−T−B系焼結磁石やバルク体の表面の酸化を招くという問題があった。R−T−B系焼結磁石の表面が酸化すると磁気特性が低下する恐れがある。また、バルク体の表面が酸化するとバルク体から重希土類元素RHの供給がされにくくなり、重希土類元素RHの拡散によるR−T−B系焼結磁石の所望の磁気特性向上効果が得られない恐れがある。
【0013】
さらに、不純物ガスが処理容器内に流入すると、バルク体から供給される重希土類元素RHが不純物ガスに邪魔をされ、R−T−B系焼結磁石へ供給されにくくなるという問題があった。不純物ガスは、処理容器の内外に通じる隙間から流入するため、処理容器内の中心部よりも処理容器の内壁付近に多く存在する。したがって、処理容器内の中心部に配置されたR−T−B系焼結磁石と内壁付近に配置されたR−T−B系焼結磁石とでは、磁気特性がばらつく恐れがある。
【0014】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、上記の蒸着拡散方法や付着拡散方法等において、R−T−B系焼結磁石と保持部材とが溶着せずに一回あたりの処理量を増加させ、生産効率を向上させるとともに、不純物ガスによるR−T−B系焼結磁石の磁気特性低下や重希土類元素RHの拡散によるR−T−B系焼結磁石の磁気特性向上効果が阻害されることを防止する、R−T−B系焼結磁石の製造方法の提供を目的とする。
【0015】
さらには、各R−T−B系焼結磁石における磁気特性ばらつきを低減させることができるR−T−B系焼結磁石の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によるR−T−B系焼結磁石の製造方法は、RH拡散源(重希土類元素RHを80原子%以上含む金属または合金。ただし、重希土類元素RHは、Dy、HoおよびTbのうち少なくとも一種)とR−T−B系焼結磁石体(Rは希土類元素のうち少なくとも一種、TはFeを含む遷移金属元素)とを保持部材を介して交互に積層し、積層体を構成する工程と、前記積層体を処理容器内に配置する工程と、前記処理容器内の少なくとも一箇所にゲッターを配置する工程と、前記処理容器内を0.1Pa以上50Pa以下、800℃以上950℃以下の雰囲気にしてRH供給拡散処理を行う工程と、を含むことを特徴とする。
【0017】
好ましい実施形態として、前記処理容器内に、処理容器の内外に通じる隙間近傍、処理容器の内壁とRH拡散源との間および処理容器の内壁とR−T−B系焼結磁石体との間の少なくとも一箇所にゲッターを配置する。
【0018】
好ましい実施形態として、前記保持部材の厚さが0.1mm以上4mm以下である。
【0019】
好ましい実施形態として、前記RH供給拡散処理の後、前記処理容器内を200Pa以上2kPa以下、800℃以上950℃以下の雰囲気にしてRH拡散処理を行う工程をさらに含む。
【0020】
好ましい実施形態として、前記処理容器内をロータリーポンプまたはロータリーポンプおよびメカニカルブースターポンプを用いて真空排気処理を行う。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、R−T−B系焼結磁石体とRH拡散源とを離間して配置せずに積層しても、R−T−B系焼結磁石と保持部材との溶着が起こらない。そのため、直接、保持部材を介してR−T−B系焼結磁石体とRH拡散源を積層することができ、RH供給拡散処理一回あたりのR−T−B系焼結磁石体の処理量を増加させ、生産効率を向上させることができる。また、ゲッターの配置により、不純物ガスによるR−T−B系焼結磁石の磁気特性低下や重希土類元素RHの拡散によるR−T−B系焼結磁石の磁気特性向上効果が阻害されることを防止できる。
【0022】
さらには、各R−T−B系焼結磁石における磁気特性ばらつきを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明における積層体の構成の一例を示す説明図である。
【図2】本発明における積層体の構成の一例を示す説明図である。
【図3】保持部材へのR−T−B系焼結磁石体の配置状況の一例を示す説明図である。
【図4】保持部材へのRH拡散源の配置状況の一例を示す説明図である。
【図5】本発明の実施形態の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明においては、RH拡散源より重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石体の表面に供給しつつ、R−T−B系焼結磁石体の内部に拡散させることを「RH供給拡散処理」という。当該RH供給拡散処理は、基本的に特許文献1による「蒸着拡散方法」と同様である。また、RH拡散源からの重希土類元素RHを供給せず、R−T−B系焼結磁石の内部への拡散のみを行うことを「RH拡散処理」という。
【0025】
また、本発明においては、RH供給拡散処理前のR−T−B系焼結磁石を「R−T−B系焼結磁石体」とし、RH供給拡散処理後のR−T−B系焼結磁石を「R−T−B系焼結磁石」とし、それぞれ区別して表記する。
【0026】
以下に本発明の実施形態を説明する。
〔R−T−B系焼結磁石体〕
R−T−B系焼結磁石体は、公知の組成、製造方法によって製造されたものを用いることができる。
【0027】
〔RH拡散源〕
RH拡散源は、重希土類元素RHからなる金属又は重希土類元素RHを80原子%以上含む合金であり、当該重希土類元素RHは、Dy、HoおよびTbのうち少なくとも1種である。例えば、Dyメタル、Tbメタル、Hoメタル、DyFe合金、TbFe合金、HoFe合金などである。Dy、Tb、Ho、Fe以外に他の元素を含んでいても良い。RH拡散源は、重希土類元素RHを80原子%以上含むことが好ましい。重希土類元素RHの含有量が80原子%よりも少なくなると、RH拡散源からの重希土類元素RHの供給量が少なくなり、所望のHcJ向上効果を得るためには処理時間が非常に長くなる為、好ましくない。
【0028】
RH拡散源の形状は、例えば、板状、ブロック形状など任意であり、特に大きさも限定されない。ただし、RH供給拡散処理の処理量を高める為には、厚み0.5〜5.0mmで板状のRH拡散源が好ましい。
【0029】
〔RH供給拡散処理工程〕
本発明では、RH供給拡散処理工程で、処理容器内を0.1Pa以上50Pa以下、800℃以上950℃以下の雰囲気にすることにより、R−T−B系焼結磁石と保持部材との溶着を起こさずに、RH拡散源より重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石体の表面に供給しつつ、R−T−B系焼結磁石体の内部に拡散させる。
【0030】
RH供給拡散処理工程で、処理容器内の圧力が0.1Paよりも低いと、R−T−B系焼結磁石体が接している保持部材と溶着してしまう。また50Paを超えると、重希土類元素RHのR−T−B系焼結磁石体への供給を十分に確保できない恐れがある。
【0031】
RH供給拡散処理工程で、加熱する温度が800℃よりも低いと、重希土類元素RHのR−T−B系焼結磁石体への供給を十分に確保できない恐れがある。また、950℃を超えると、処理容器内の圧力が0.1Pa以上50Pa以下であってもR−T−B系焼結磁石が接している保持部材と溶着してしまう。
【0032】
以下、RH供給拡散処理工程について詳細に説明する。
本発明では、RH供給拡散処理工程を行う前に、まず、処理容器内に、RH拡散源とR−T−B系焼結磁石体とを、保持部材を介して交互に積層し、積層体を構成する。具体的には、図1のように、処理容器1内の底部から保持部材4、RH拡散源3、保持部材4、R−T−B系焼結磁石体2、保持部材4、RH拡散源3、保持部材4、R−T−B系焼結磁石体2と積層して、積層体を構成する。保持部材4の厚さを調整することで、R−T−B系焼結磁石体2とRH拡散源3との距離を調整することができる。
【0033】
処理容器1内に積層体を構成した後、処理容器1内を0.1Pa以上50Pa以下、800℃以上950℃以下の雰囲気にしてRH供給拡散処理を行う。R−T−B系焼結磁石体2とRH拡散源3を加熱し、RH拡散源3から重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石体2の表面に供給しつつ、重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石体2の内部に拡散させる。
【0034】
RH供給拡散処理工程では、0.1Pa以上50Pa以下の圧力でRH供給拡散処理を行うことで、RH拡散源3からR−T−B系焼結磁石体2へ供給される重希土類元素RHの量が減る。そのため重希土類元素RHが一気にR−T−B系焼結磁石体2に過剰供給されなくなり、R−T−B系焼結磁石と保持部材4との溶着が発生しない。
【0035】
処理容器1は、図2のように、複数個重ねることにより、一回に大量のR−T−B系焼結磁石体2をRH供給拡散処理することが可能である。
【0036】
R−T−B系焼結磁石体2やRH拡散源3を保持する保持部材4は、開口部を有し、例えばNb網やエキスパンドメタルなどである。保持部材4は、厚さが0.1mm以上4mm以下であることが好ましい。0.1mm未満であると保持部材4とR−T−B系焼結磁石とが溶着してしまう恐れがある。本発明は、処理容器1内を0.1Pa以上50Pa以下の圧力にてRH供給拡散処理をしているため、RH拡散源3から多量の重希土類元素RHが供給されることはない。そのため、4mmを超えるとR−T−B系焼結磁石体2とRH拡散源3との距離が離れすぎてしまい、RH拡散源3からR−T−B系焼結磁石体2への重希土類元素RHの供給量が少なく、RH供給拡散処理を十分に行うことができない恐れがある。保持部材4の開口率は、効率良くRH供給拡散処理ができるように50%以上の開口率を有することが好ましい。さらに好ましくは、70%以上の開口率である。
【0037】
処理容器1や保持部材4は、Mo、W、Taなどの高融点金属や、窒化硼素、ジルコニア、アルミナ、イットリア、カルシア、マグネシアなどを含むセラミックス材料等、RH供給拡散処理時に、変形や変質を発生し難い材料で構成することが好ましい。
【0038】
図3のように、隣り合うR−T−B系焼結磁石体2同士がRH供給拡散処理によって溶出した軽希土類元素RLで溶着しないように、R−T−B系焼結磁石体2同士は間隔をあけて保持部材4へ配置することが好ましい。また、図4のように、RH拡散源3は間隔を開けずに保持部材4へ配置してもよいし、R−T−B系焼結磁石の配置に応じて適宜選定すればよい。
【0039】
〔RH拡散処理工程〕
RH供給拡散処理工程後、処理容器内を200Pa以上2kPa以下、800℃以上950℃以下の雰囲気にすることにより、重希土類元素RHをさらに、R−T−B系焼結磁石内部に拡散させることが好ましい。
【0040】
RH拡散処理工程では、圧力を200Pa以上2kPa以下とすることで、RH拡散源3から重希土類元素RHが供給されなくなり、拡散のみが進行する。そのためR−T−B系焼結磁石と保持部材4との溶着が発生しない。また、800℃以上950℃以下の温度範囲にすることで、R−T−B系焼結磁石の内部へ、より前記重希土類元素RHを拡散することができる。
【0041】
RH供給拡散処理やRH拡散処理を行うための処理装置が一室の処理室からなる場合、当該処理室で前記RH供給拡散処理を行った後に、不活性ガスを流気させて、雰囲気圧力を200Pa以上2kPa以下に調整してから前記RH拡散処理を行えばよい。
【0042】
処理装置が、RH供給拡散処理を行う処理室とRH拡散処理を行う処理室との2つの処理室を有する場合、当該RH拡散処理を行う処理室を、200Pa以上2kPa以下の雰囲気圧力で800℃以上950℃以下の処理温度にあらかじめ設定しておき、前記RH供給拡散処理を行う処理室にて前記RH供給拡散処理を行った後、前記RH拡散処理を行う処理室に処理容器1を搬送台(図示せず)にて搬送させ、RH拡散処理を行えば良い。
【0043】
RH拡散処理は、必ずしもRH供給拡散処理と同じ装置で行う必要はなく、別の装置で行っても良い。
【0044】
〔ゲッター〕
RH供給拡散処理工程時に、処理容器1内へゲッターを配置する。以下に詳述する。
【0045】
ゲッターは、RH供給拡散処理中に炉内(図示せず)や処理容器1の搬送台(図示せず)などから発生する不純物ガスを吸収する役割を持つ。処理容器1内にゲッターを配置することにより、不純物ガスによるR−T−B系焼結磁石の磁気特性低下や重希土類元素RHの拡散によるR−T−B系焼結磁石の磁気特性向上効果が阻害されることを防止できる。
【0046】
さらに、R−T−B系焼結磁石体2とRH拡散源3との間に不純物ガスがあると、RH拡散源3から供給された重希土類元素RHが不純物ガスに邪魔をされ、R−T−B系焼結磁石体2の表面に均一に供給されにくくなる。
【0047】
炉内などから発生した不純物ガスは、処理容器1の内外に通じる隙間から内部へ流入していくため、処理容器1内の中心部よりも処理容器の内壁付近に多く存在する。そのため、図5に示した処理容器1内の中心部に配置されているR−T−B系焼結磁石体2(図中B、C、F、G、J、K)と内壁付近に配置されているR−T−B系焼結磁石体2(図中A、E、I、D、H、L)とでは、中心部(図中B、C、F、G、J、K)に比べ、内壁付近(図中A、E、I、D、H、L)の方が、RH供給拡散処理による磁気特性向上効果が低くなる傾向がある。
【0048】
そのため、好ましくは、図5のように不純物ガスが流入する処理容器1の内外に通じる隙間近傍(図中5a)、処理容器1の内壁とRH拡散源3との間(図中5b)および処理容器1の内壁とR−T−B系焼結磁石体2との間(図中5c)の少なくとも一箇所にゲッター5を配置する。これにより、RH供給拡散処理後の各R−T−B系焼結磁石における磁気特性ばらつきを低減させることができる。
【0049】
ゲッター5は、チタンゲッターやジルコニウムゲッターなどの公知のゲッター材を用いればよい。また、R−T−B系焼結磁石体の焼結前の成形体くずなども用いることができる。
【0050】
〔熱処理〕
上記RH供給拡散処理工程後あるいはRH拡散処理工程後のR−T−B系焼結磁石に熱処理を施しても良い。熱処理は、公知の方法を採用することができる。
【0051】
〔表面処理〕
RH拡散処理後のR−T−B系焼結磁石に表面処理を施すことが好ましい。表面処理は、公知の表面処理で良く、例えばAl蒸着や電気Niめっきや樹脂塗装などの表面処理を行うことができる。表面処理を行う前に、サンドブラスト処理、バレル処理、機械研磨等公知の前処理を行っても良い。また、寸法調整のための研削を行っても良い。このような工程を経ても、HcJ向上効果はほとんど変わらない。寸法調整のための研削量は、1〜300μm、より好ましくは5〜100μm、さらに好ましくは10〜30μmである。
【0052】
〔処理装置〕
RH供給拡散処理やRH拡散処理を行うための処理装置は、公知のバッチ式の熱処理炉や連続式の熱処理炉でもよい。本発明では、0.1Pa程度の高い圧力でRH供給拡散処理やRH拡散処理を行うことができるので、ロータリーポンプまたはロータリーポンプおよびメカニカルブースターポンプといった10−2Pa以下の低い圧力を発生できないポンプで本発明を実施できる。そのため、特許文献2に開示されているようなクライオポンプなどを用いた低い圧力を発生させるポンプは必要でない。
【0053】
(実施例1)
まず、Nd:22.3%、Pr:6.2%、Dy:4.0%、B:1.0%、Co:0.9%、Cu:0.1%、Al:0.2%、Ga:0.1%、残部:Fe(単位は質量%)の組成を有するR−T−B系焼結磁石体2を作製した。磁気特性は、B=1.30T、HcJ=1740kA/mであった。
【0054】
R−T−B系焼結磁石体2を厚み5mm×幅40mm×長さ60mmに加工した。RH拡散源3は、厚さ3mm×幅27mm×長さ270mmのDyメタルを準備した。保持部材4は、厚さ2mm×幅200mm×長さ300mm、4メッシュのMo製の網を準備した。ゲッター5は、R−T−B系焼結磁石体2の焼結前の成形体くずを準備した。
【0055】
図5のように、保持部材4を介してR−T−B系焼結磁石体2とRH拡散源3を積層した。ゲッター5は、処理容器1の内外に通じる隙間近傍と処理容器1の内壁とRH拡散源3との間および処理容器1の内壁とR−T−B系焼結磁石体2との間にそれぞれ配置した。処理容器1の寸法は、高さ75mm×幅220×長さ320mmであった。
【0056】
本発明の処理容器1内を、900℃になるまで昇温した後、圧力3.0Paで2時間RH供給拡散処理を行った。RH供給拡散処理後、900℃、圧力1.5kPaで6時間RH拡散処理を行った。RH供給拡散処理は、ロータリーポンプおよびメカニカルブースターポンプ、RH拡散処理は、ロ―タリーポンプをそれぞれ用いて処理容器1内の圧力を調整した。
【0057】
RH供給拡散処理、RH拡散処理後、さらに熱処理(圧力2Pa、500℃で60分)を行い、R−T−B系焼結磁石を作製した。
【0058】
(比較例1)
ゲッターを配置しないことを除き、実施例1と同じ条件でR−T−B系焼結磁石を作製した。
【0059】
(比較例2)
クライオポンプを用い、圧力を10−3PaでRH供給拡散処理を行ったことを除き、実施例1と同じ条件でR−T−B系焼結磁石を作製した。
【0060】
(比較例3)
クライオポンプを用い、圧力を10−3PaでRH供給拡散処理を行ったことと、R−T−B系焼結磁石体2とRH拡散源3との距離を8mm空けるように、保持部材4とスペーサ部材(図示せず)を介して積層したことを除き、実施例1と同じ条件でR−T−B系焼結磁石を作製した。
【0061】
(比較例4)
ロータリーポンプを用い、圧力を4000PaでRH供給拡散処理を行ったことを除き、実施例1と同じ条件でR−T−B系焼結磁石を製作した。
【0062】
実施例1、比較例1、比較例2、比較例3、比較例4の結果を表1に示す。「圧力」は、RH供給拡散処理時の雰囲気圧力(処理容器内の圧力)を示す。「距離」は、R−T−B系焼結磁石体2とRH拡散源3との距離を示す。実施例1、比較例1、比較例2、比較例4は、保持部材4の厚さ2mmがその距離となる。比較例3は、保持部材4の厚さ2mmとスペーサ部材の厚さ6mmによる合計8mmがその距離となる。「△HcJ」は、処理前のR−T−B系焼結磁石体2のHcJ(1740kA/m)と処理後のHcJの差分を示す。「△B」は、処理前のR−T−B系焼結磁石体2のB(1.30T)と処理後のBの差分を示す。「HcJばらつき」は、処理後の複数個のR−T−B系焼結磁石において、最大のHcJの値と最小のHcJの値との差分を示す。「溶着の有無、程度」は、R−T−B系焼結磁石を保持部材4より取り外した時の溶着発生の有無とその程度を示す。「処理数」は、実施例1、比較例1、比較例2、比較例3、比較例4それぞれ使用した、R−T−B系焼結磁石の数を示す。「ゲッターの有無」は、処理容器内におけるゲッターの配置の有無を示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1に示す通り、RH供給拡散処理の圧力を3.0Paとした実施例1、比較例1とも、HcJの向上効果(△HcJ)が高く、かつ、Brの低下(△B)がなかった。さらに、溶着の発生もみられなかった。比較例2では、保持部材から剥がせないほどの溶着が発生した。比較例3では、HcJの向上効果が高く、かつ、Bの低下もなかった。しかし、実施例1よりも処理量が大幅に劣っており、かつ、一部に保持部材との溶着がみられた。比較例4では、溶着は発生しなかったが、HcJの向上効果(△HcJ)は確認されなかった。また、実施例1は、比較例1と比べHcJの向上効果が高く、ゲッターにより、不純物ガスによるR−T−B系焼結磁石体の磁気特性低下やRH供給拡散処理によるR−T−B系焼結磁石の磁気特性向上効果が阻害されることを防止できた。さらに、ゲッターを配置した実施例1は、ゲッターを配置していない全ての比較例と比べ、HcJばらつきを半分以下に低減させることができた。
【0065】
以上のように、実施例1によれば、R−T−B系焼結磁石と保持部材とが溶着せずに、一回あたりのRH供給拡散処理量を増やすことができる。さらに、ゲッターの配置により、R−T−B系焼結磁石の磁気特性低下やRH拡散後の各R−T−B系焼結磁石における磁気特性ばらつきを低減することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 処理容器
2 R−T−B系焼結磁石体
3 RH拡散源
4 保持部材
5 ゲッター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RH拡散源(重希土類元素RHを80原子%以上含む金属または合金。ただし、重希土類元素RHは、Dy、HoおよびTbのうち少なくとも1種)とR−T−B系焼結磁石体(Rは希土類元素のうち少なくとも一種、TはFeを含む遷移金属元素)とを保持部材を介して交互に積層し、積層体を構成する工程と、
前記積層体を処理容器内に配置する工程と、
前記処理容器内の少なくとも一箇所にゲッターを配置する工程と、
前記処理容器内を0.1Pa以上50Pa以下、800℃以上950℃以下の雰囲気にしてRH供給拡散処理を行う工程と、
を含むR−T−B系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記処理容器内に、処理容器の内外に通じる隙間近傍、処理容器の内壁とRH拡散源との間および処理容器の内壁とR−T−B系焼結磁石体との間の少なくとも一箇所にゲッターを配置することを特徴とする、
請求項1に記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記保持部材の厚みが0.1mm以上4mm以下である請求項1または請求項2に記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記RH供給拡散処理の後、前記処理容器内を200Pa以上2kPa以下、800℃以上950℃以下の雰囲気にしてRH拡散処理を行う工程をさらに含む、請求項1から請求項3のいずれかに記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
前記処理容器内をロータリーポンプまたはロータリーポンプおよびメカニカルブースターポンプを用いて真空排気処理を行う請求項1から請求項4のいずれかに記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−4557(P2013−4557A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130915(P2011−130915)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】