説明

RFID用ノイズ抑圧装置およびRFIDリーダ装置

【課題】RFIDリーダ装置の読み取り精度を向上させることを目的とする。
【解決手段】RFIDリーダ装置4のノイズ抑圧装置27は、送信波を入力して減衰させる減衰回路28と、減衰回路28からの出力信号の位相を0度から360度に所定の位相を加えて移相可能な移相回路29と、RFIDタグ3から受信した応答信号と移相回路29の出力信号とを合成する合成回路30と、減衰回路28の出力が送信波の漏れ波により直接受信される漏れ信号の出力とほぼ同じ振幅になるように減衰回路28の減衰量を制御するとともに漏れ信号の位相とほぼ逆位相となるように移相回路29の移相量を0度から360度に所定の位相を加えて制御する制御回路31とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFID用ノイズ抑圧装置およびRFIDリーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、物流、物品などの管理を効率化するために、RFID(Radio Frequency IDentification)タグが利用されている。例えば、製造工場や運送倉庫での物品管理や配送先毎の振り分けなどに使用されていた。この用途では物品に品番や送り先などのタグ情報を記憶したRFIDタグを取り付けておき、この物品をコンベアなどで搬送していた。そして、コンベアの搬送途中にRFIDリーダ装置を設け、このRFIDリーダ装置によりコンベアで搬送される物品に取り付けられたRFIDタグのタグ情報を読み取り、管理していた。
【0003】
RFIDリーダ装置は、データ信号および搬送波を含む送信波をRFIDタグに送信し、RFIDタグで反射される送信波(以下、この送信波が反射されたものを「反射波」という)により応答信号を受信していた。しかしながら、RFIDリーダ装置は、反射波を受信するとともに送信部から漏れてくる送信波(以下、「漏れ波」という)も受信していた。
【0004】
このような中で、漏れ波によるノイズをキャンセルしてS/Nを向上させる技術が提案されている。従来のRFIDリーダ装置は、漏れ波の位相とほぼ逆位相となるキャンセル信号を生成し、このキャンセル信号を漏れ波による信号と合成することにより、S/Nを改善していた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−62518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のRFIDリーダ装置は、漏れ波の位相とほぼ逆位相となるキャンセル信号を生成してS/Nを改善していたため、刻々と変化する漏れ波の位相に対応できない場合にはノイズをキャンセルできずにS/Nが低下し、読み取り精度が悪くなるという課題があった。
【0006】
そこで本発明は、RFIDリーダ装置を漏れ波の位相の変化に対応させ、読み取り精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために本発明のRFID用ノイズ抑圧装置は、データ信号および搬送波を含む送信波をRFIDタグに送信し、RFIDタグからの反射波により応答信号を受信するRFIDリーダ装置に用いられるRFID用ノイズ抑圧装置であって、送信波を入力して減衰させる減衰回路と、減衰回路からの出力信号の位相を0度から360度に所定の位相を加えて移相可能な移相回路と、RFIDタグから受信した応答信号と移相回路の出力信号とを合成する合成回路と、減衰回路の出力が送信波の漏れ波により直接受信される漏れ信号の出力とほぼ同じ振幅になるように減衰量を制御するとともに漏れ信号の位相とほぼ逆位相となるように移相回路の移相量を0度から360度に所定の位相を加えて制御する制御回路とを備えたことを特徴とする。このような構成により、所期の目的を達成するものである。
【0008】
次に、本発明のRFIDリーダ装置は、上記したRFID用ノイズ抑圧装置と、送信波をアンテナを介して出力する送信部と、RFIDタグからの応答信号をRFID用ノイズ抑圧装置を介して受信する受信部とを備えたことを特徴とする。このような構成により、所期の目的を達成するものである。
【発明の効果】
【0009】
以上のように本発明のRFID用ノイズ抑圧装置は、送信波を入力して減衰させる減衰回路と、減衰回路からの出力信号の位相を0度から360度を所定の位相だけ超えて移相可能な移相回路と、RFIDタグから受信した応答信号と移相回路の出力信号とを合成する合成回路と、減衰回路の出力が送信波の漏れ波により直接受信される漏れ信号の出力とほぼ同じ振幅になるように減衰量を制御するとともに漏れ信号の位相とほぼ逆位相となるように移相回路の移相量を0度から360度に所定の位相を加えて制御する制御回路とを備え、0度近傍および360度近傍において位相調整を行う場合に折り返しの処理を行うことなく位相調整を行うことができるので、調整時間が短縮されてノイズをキャンセルする応答速度を上げることができる。これにより、RFIDリーダ装置に用いて漏れ波の位相の変化に対応させてノイズをキャンセルすることができるので、読み取り精度を向上させることができる。
【0010】
また、本発明のRFIDリーダ装置は、上記したRFID用ノイズ抑圧装置を用いて漏れ波の位相の変化に対応させてノイズをキャンセルすることができるので、読み取り精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
(実施の形態)
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態におけるRFIDリーダ装置およびRFIDタグを含むRFIDシステムについて説明する。
【0013】
まず、図1を参照しながら、本発明の実施の形態におけるRFIDシステムの概要について説明する。図1は本発明の実施の形態におけるRFIDシステム1の概略図である。
【0014】
図1に示すように、RFIDシステム1は、例えば物品2の製造工程に用いた例を示している。この製造工程において、RFIDタグ3が取り付けられた物品2が図示しないベルトコンベアなどの搬送装置によって矢印の方向に搬送される。そして、この製造工程の全体を制御する中央制御装置9が設けられ、通信回線10を介してRFIDリーダ装置4を制御し、RFIDリーダ装置4がRFIDタグ3と交信することにより、物品2の管理番号を読み取るなどして、製造工程の管理を行う。
【0015】
物品2の各々にはRFIDタグ3が取り付けられており、製造工程における搬送装置の所定の位置にRFIDリーダ装置4が設置されている。RFIDリーダ装置4は、アンテナ5を介してRFIDタグ3に送信波を送信し、RFIDタグ3から反射波により返信されてきた応答信号をアンテナ5を介して受信する。図1中に破線で示した領域11はそれぞれのRFIDリーダ装置4が交信可能な領域の範囲を示す。複数のRFIDリーダ装置4が近接して配置された場合には、それぞれの交信可能な領域どうしが重複することもある。
【0016】
このような製造工程において、物品2が所定の位置に搬送されてくると、RFIDリーダ装置4から物品2のRFIDタグ3に向けて管理番号を問い合わせる送信波を送信する。
【0017】
RFIDタグ3は、この送信波を受信すると、問い合わせ内容を復調し、問い合わせに対応して、例えば物品2の管理番号などの応答信号を返信する。
【0018】
RFIDリーダ装置4は、RFIDタグ3から返信されてきた応答信号を受信して、その物品2の管理番号を識別する。そして、RFIDリーダ装置4は識別した管理番号を通信回線10を介して中央制御装置9に出力する。中央制御装置9はRFIDリーダ装置4から入力した物品2の管理番号に応じて製造工程中の図示しない製造装置などを制御する。これにより、物品2に対して所定の加工、組み立てが行われる。
【0019】
このように、RFIDリーダ装置4は、ベルトコンベアなどの搬送装置の搬送速度に間に合うように物品2のRFIDタグ3を読み取る必要があるため、高速な読み取りが要求される。
【0020】
次に、図2を参照しながら、本発明の実施の形態におけるRFIDシステム1の構成および動作について説明する。図2は本発明の実施の形態におけるRFIDシステム1のブロック図である。
【0021】
図2に示すように、RFIDシステム1は、RFIDタグ3とRFIDリーダ装置4とを備えている。
【0022】
RFIDタグ3は、送信波を受信するタグアンテナ部6と、タグアンテナ部6により受信された受信信号を処理して応答信号をタグアンテナ部6を介して反射波として返信するタグICチップ7とを備えている。そして、タグICチップ7は、個別の識別情報である管理情報などのタグ情報を記憶保持しているメモリ8を有している。
【0023】
RFIDリーダ装置4は、処理する情報に基づいてベースバンド信号を出力する情報処理部21と、情報処理部21からの情報であるベースバンド信号に基づき搬送波を変調または無変調する変調部22と、変調部22の出力を増幅する送信部23と、アンテナ5と、送信部23から出力をアンテナ5に供給するとともにアンテナ5を介して受信される反射波を分離する電力分離部24と、電力分離部24と接続されたアンテナ5と、送信部23および電力分離部24からの出力を入力するとともに受信部25に出力信号を出力するノイズ抑圧装置27と、ノイズ抑圧装置27からの出力信号を増幅する受信部25と、受信部25の出力信号を復調する復調部26と、各部に電源を供給するための電源部34と、変調、同期の処理を行うためのクロックを発生するクロック部35とを備えている。なお、ノイズ抑圧装置27の構成の詳細については後述する。
【0024】
変調部22は、ベースバンド信号を所定の搬送波で変調する。所定の搬送波として、UHF帯(例えば952MHz〜955MHz)、マイクロ波帯(例えば2.45GHz)、HF帯(例えば13.56MHz)の周波数を利用することができる。
【0025】
情報処理部21は、ローカルエリアネットワークや電話回線網などの通信回線10を介して中央制御装置9に接続されている。
【0026】
電源部34は、例えば、DC電圧を発生させるバッテリーや商用電源からDC電圧を作成する電源回路などを有する。
【0027】
次に、RFIDシステム1の動作について説明する。まず、RFIDリーダ装置4がRFIDタグ3と交信を開始する状態から説明する。
【0028】
RFIDリーダ装置4は、RFIDタグ3に、例えば「管理番号を返答せよ」という問い合わせ信号を送信するように中央制御装置9から通信回線10を介して制御される。その制御信号は通信回線10を介してRFIDリーダ装置4の情報処理部21に伝えられる。
【0029】
これにより、情報処理部21は問い合わせのために必要なデータを内部のメモリ(図示せず)から読み出す。この問い合わせのためのデータにより変調部22で所定のチャンネルの搬送波を変調し、変調部22で変調された出力信号を送信部23で増幅してから電力分離部24およびアンテナ5を介してRFIDタグ3に向けて電波として送信する。
【0030】
次に、RFIDタグ3は、タグアンテナ部6で電波の問い合わせ信号を受信する。すると、まず、RFIDタグ3は、この受信した受信信号をタグICチップ7により整流して電力を生成するとともに、問い合わせ信号を復調する。
【0031】
次に、RFIDタグ3において受信した電波から「管理番号を返答せよ」という問い合わせデータを復調すると、内部のメモリ8から記憶保持している管理番号のタグ情報を読み出す。
【0032】
メモリ8に記憶保持されたタグ情報、すなわち、物品2の管理番号が「管理番号A」であった場合には、タグICチップ7はその問い合わせに対して「管理番号A」という応答データを作成し、これによりタグアンテナ部6を介して応答信号を返信する。
【0033】
すなわち、タグICチップ7は応答データに応じてタグアンテナ部6の端子を短絡、開放することにより、RFIDリーダ装置4から送信されてきた無変調の送信波を反射するか否かを「整理番号A」という応答データに応じて制御し、その応答データの内容を反射波を介してRFIDリーダ装置4に返信する。
【0034】
次に、このようにしてRFIDタグ3から応答信号が反射波により返信されてくると、RFIDリーダ装置4では、アンテナ5および電力分離部24を介して受信した応答信号を受信部25を介して復調部26に伝達し応答データを復調する。この復調した応答データにより情報処理部21で「管理番号A」の存在を確認する。RFIDリーダ装置4は、この「管理番号A」の情報を通信回線10を介して中央制御装置9に転送する。中央制御装置9は、「管理番号A」の情報に基づいて記憶部(図示せず)に記憶されているデータベース(図示せず)から製品情報を検索し、物品2に対する加工、組み立てなどを管理、制御する。なお、データベースには、物品2の製造に係る諸情報が管理情報として記憶されている。
【0035】
また、RFIDリーダ装置4は、情報処理部21からRFIDタグ3に「管理番号を応答せよ」と問い合わせが行われたにもかかわらず「管理番号」を記憶したRFIDタグ3が存在しない場合には所定の応答がないので、情報処理部21はこの「応答なし」からRFIDタグ3が存在しないと判断する。
【0036】
なお、以上の説明では製造工程におけるRFIDシステム1の例について説明したが、この他にも、販売店における入出庫管理、レジ精算などの各種の用途に使用することが可能である。
【0037】
以上のようにして、RFIDリーダ装置4によりRFIDタグ3のタグ情報を読み取るRFIDシステム1が構成されるが、RFIDリーダ装置4とRFIDタグ3との交信距離が長くなるとRFIDタグ3のタグ情報が読み取りにくくなるという問題が生じる。すなわち、RFIDリーダ装置4においては、反射波を受信する受信部25は、送信部23から漏れてくる漏れ波も受信する。
【0038】
RFIDリーダ装置4とRFIDタグ3の距離が離れると、反射波の受信レベルは低下するが、漏れ波の受信レベルは変化せず、微弱な反射波の受信レベルより漏れ波の受信レベルが高くなるとRFIDタグ3のタグ情報が読み取りにくくなる。
【0039】
そこで本実施の形態では、RFIDリーダ装置4に漏れ波によるノイズをキャンセルし、読み取り精度を向上させるためのノイズ抑圧装置27を設けた。RFIDリーダ装置4は、ノイズ抑圧装置27により、RFIDタグ3からの反射波を受信する前にノイズを検出し、このノイズをキャンセルする。このノイズは刻々と変化するため、RFIDリーダ装置4は新しいRFIDタグ3を読み取る前にノイズ抑圧装置27によりノイズを検出してノイズをキャンセルする。
【0040】
物品2を搬送する搬送装置の搬送速度が速くなるほど、物品2に取り付けられたRFIDタグ3の読み取り時間は短くなる。このため、ノイズ抑圧装置27には、ノイズを検出してノイズをキャンセルするまでの応答性の速さが要求される。
【0041】
このため、本実施の形態のRFIDリーダ装置4は、ノイズ抑圧装置27の調整時間を短縮し、これにより刻々と変化するノイズをキャンセルし、読み取り精度を向上させている。
【0042】
以下、RFIDリーダ装置4におけるノイズ抑圧装置27について詳細に説明する。
【0043】
まず、図3〜図6を参照しながら、ノイズ抑圧装置27の構成および動作について説明する。
【0044】
図3は本発明の実施の形態におけるRFIDリーダ装置4のノイズのキャンセル方法を説明するための波形図、図4は同RFIDリーダ装置4の移相回路29の回路図、図5は同RFIDリーダ装置4の移相器43の回路図、図6は同RFIDリーダ装置4の移相回路29の部品実装図である。
【0045】
まず、図2を用いてノイズ抑圧装置27の構成を説明する。ノイズ抑圧装置27は、送信部23からの出力信号を入力して減衰させる減衰回路28と、減衰回路28からの出力信号を移相させる移相回路29と、移相回路29の出力信号とアンテナ5および電力分離部24を介して受信した反射波および漏れ波とを合成する合成回路30と、ノイズ成分を検出するノイズ検出回路33と、移相回路29の位相を設定する設定回路32と、減衰回路28、移相回路29および設定回路32を制御する制御回路31とを備えている。
【0046】
制御回路31は、ノイズ検出回路33からの検出出力に基づいて減衰回路28および移相回路29を制御する。また、制御回路31は、設定回路32を介して移相回路29の移相量を制御する。
【0047】
このような構成により、図3に示すように、合成回路30は、アンテナ5により受信された漏れ波(信号A)と移相回路29から出力される信号B(キャンセル信号)とを合成し、キャンセル処理した信号Cを出力する。
【0048】
移相回路29は、図4に示すように、移相器43と移相器44が減衰器45を介して電気的に接続されている。すなわち、入力端子40は移相器43の端子43aに接続され、移相器43の端子43bは減衰器45を介して移相器44の端子44aに接続され、移相器44の端子44bは出力端子41に電気的に接続されている。
【0049】
移相器43は、図5に示すように、入力信号は、端子43aから直流電圧を遮断するためのコンデンサ57(Ca)を介して、コンデンサCb、Cc、Cd、CeとインダクタLa、Lb、Lc、Ldとを有する集中定数型回路に入力され、この集中定数型回路から直流電圧を遮断するためのコンデンサ58を介して端子43bに出力される。移相器44も同様な構成である。
【0050】
減衰器45は抵抗Raにより構成され、移相器43と移相器44との干渉を抑えている。
【0051】
また、移相器43の端子43cはインダクタ46を介して可変容量素子50に電気的に接続されている。同様に、移相器43の端子43dはインダクタ47を介して可変容量素子51に電気的に接続されている。また、移相器44の端子44cはインダクタ48を介して可変容量素子52に電気的に接続されている。同様に、移相器44の端子44dはインダクタ49を介して可変容量素子53に電気的に接続されている。
【0052】
これらのインダクタ46、47、48、49それぞれを可変容量素子50、51、52、53それぞれと直列に接続することにより、移相回路29で移相可能な移相量を増やすことができる。
【0053】
また、可変容量素子50、51、52、53として、バラクタダイオードなどを用いることができる。移相回路29は、バラクタダイオードの両端子に直流の逆バイアス電圧を印加し、これによりバラクタダイオードの端子間容量が変化するのを利用して位相を変化させている。なお、可変容量素子50と可変容量素子51、可変容量素子52と可変容量素子53は略同一の特性のものを選別して使用する。これにより、対称回路で構成されている移相器43、44の電気的なバランスをよくすることができる。
【0054】
また、端子43dはコイル54を介して制御端子42に電気的に接続され、同様に、端子44cはコイル55を介してと制御端子42に電気的に接続される。この制御端子42には、位相を変化させる制御電圧Vcが印加される。
【0055】
このように移相回路29を構成することにより、高周波入力信号INを入力端子40に供給すると、出力端子41から高周波出力信号OUTが出力される。すなわち、制御端子42に、設定回路32から直流電圧である制御電圧Vcを印加して、高周波出力信号OUTの位相θを変化させる。
【0056】
制御電圧Vcとして、例えば、0(V)〜5(V)を印加し、これにより、位相θを所定の位相分を含めて0度以下および360度以上に分配して0度〜400度まで変化させる。この制御電圧Vcの電圧値を増加させると、可変容量素子50、51、52、53の接合容量が減少して、この可変容量素子50、51、52、53のリアクタンスが増加し、高周波出力信号OUTの位相θが増加する。一方、制御電圧Vcの電圧値を減少させると、可変容量素子50、51、52、53の接合容量が増加して、この可変容量素子50、51、52、53のリアクタンスが減少し、高周波出力信号OUTの位相θが減少する。これにより、制御電圧Vcの電圧値が0(V)のとき、高周波出力信号OUTの位相θは0度となり、制御電圧Vcの電圧値が5(V)のとき、高周波出力信号OUTの位相θは400度となる。
【0057】
なお、移相回路29において、ノイズをキャンセルするためには少なくとも0度から360度の範囲で移相量を変化可能にすればよい。
【0058】
しかし、本実施の形態の移相回路29では、必要な移相量の360度に加え、さらに、例えば40度の移相量を付加して移相量を0度から400度まで移相可能としている。RFIDリーダ装置4では、この新たに付加した40度の移相量を含めて位相制御を行うことにより、ノイズ抑圧装置27の調整時間を短縮している。このノイズ抑圧装置27の位相制御方法の詳細についは後述する。
【0059】
また、移相回路29と移相回路29の制御電圧Vcを出力する設定回路32は、互いに影響がでないようにアイソレートするために、制御端子42からコイル54、55を介して移相器43、44に電気的に接続されている。このため、制御端子42はハイインピーダンスになっている。
【0060】
このことから、制御端子42にはノイズが回り込みやすくなっている。そこで、本実施の形態の移相回路29にコイル54、55と制御端子42の間にローパスフィルタ56を設け、制御端子42を経由して移相回路29に入るノイズを抑えている。ローパスフィルタ56は、抵抗RxとコンデンサCxの時定数により決定される帯域を有する。さらに、移相回路29と設定回路32との干渉を抑えるために、抵抗Rxの抵抗値を高くしている。
【0061】
このようにローパスフィルタ56を設けることにより、例えば、図6に示すように、基板59にチップ部品を実装して移相回路29を構成する場合に、制御端子42から入り込みやすい高周波ノイズを抑えることができる。なお、基板59の配線パターンの幅を調整することで、位相の変化範囲を容易に微調整することができる。すなわち、インダクタ46、47、48、49に係る配線パターンの幅を減少させるとインダクタ46、47、48、49に係るインダクタンスが増加する。逆に、インダクタ46、47、48、49に係る配線パターンの幅を増加させるとインダクタ46、47、48、49に係るインダクタンスが減少する。このように基板59の配線パターンの幅を調整することで、インダクタ46、47、48、49に係るインダクタンスを調整して位相の変化範囲を微調整することができる。
【0062】
次に、本実施の形態におけるRFIDリーダ装置4の動作について説明する。図7は本発明の実施の形態におけるRFIDリーダ装置4の動作を説明するためのフローチャートである。
【0063】
図7において、RFIDリーダ装置4は、漏れ波を検出するために、無変調の搬送波を送信波として送信する(S100)。
【0064】
次に、RFIDリーダ装置4は、送信波を出力しながら漏れ波による受信ノイズのノイズレベルを検知する。そして、この漏れ波によるノイズをキャンセルするようにノイズ抑圧装置27を設定する(S102)。
【0065】
次に、RFIDリーダ装置4は、漏れ波によるノイズをキャンセルした状態で問い合わせ信号をRFIDタグ3に送信する(S104)。
【0066】
次に、RFIDリーダ装置4は、RFIDタグ3から応答信号を受信し、応答信号を復調部26により復調して、タグ情報である識別情報、例えば物品2の「管理番号A」を取得する(S106)。
【0067】
RFIDリーダ装置4は、復調部26により復調した「管理番号A」を情報処理部21、通信回線10を介して、「管理番号A」を中央制御装置9に送信する(S108)。中央制御装置9は、「管理番号A」の情報に基づいて記憶部(図示せず)に記憶されているデータベース(図示せず)から製品情報を検索し、物品2に対する加工、組み立てなどを管理、制御する。また、中央制御装置9は、処理が終わるとRFIDリーダ装置4に新しい物品2の情報を取得するように指示する。
【0068】
次に、RFIDリーダ装置4は、中央制御装置9の指示にしたがって、搬送装置上に未読のRFIDタグ3があるか否かを確認する(S110)。問い合わせ信号を送信して応答信号が得られた場合(YES)には、S100〜S108のステップを繰り返す。これにより、RFIDリーダ装置4は新しいRFIDタグ3を読み取る前にノイズを検出し、刻々と変化するノイズをノイズ抑圧装置27によりキャンセルすることができ、読み取り精度をよくすることができる。一方、新しいRFIDタグ3の応答が得られない場合(NO)には処理を完了する。
【0069】
次に、図8〜図10を参照しながら、RFIDリーダ装置4のノイズ抑圧装置27の制御動作について説明する。
【0070】
図8は本発明の実施の形態におけるRFIDリーダ装置4のノイズ抑圧装置27の位相制御動作を説明するためのフローチャート、図9は同RFIDリーダ装置4のノイズ低減特性の例を示すものであり、図9(A)は同RFIDリーダ装置4のノイズ低減特性の例を示す特性図、図9(B)は同RFIDリーダ装置4のノイズ低減特性の他の例を示す特性図、図10は同RFIDリーダ装置4のノイズ低減特性の例を示すものであり、図10(A)は同RFIDリーダ装置4のノイズ低減特性の例を示す特性図、図10(B)は同RFIDリーダ装置4のノイズ低減特性の他の例を示す特性図である。
【0071】
図8に示すように、RFIDリーダ装置4は、送信波を出力しながら漏れ波による受信ノイズのノイズレベルをノイズ抑圧装置27で検知する。ノイズ抑圧装置27は、ノイズ検出回路33により、漏れ波によるノイズ信号を受信部25、復調部26を介して検出する。そして、ノイズ検出回路33は、検出したノイズ信号の検出値を制御回路31に出力する。制御回路31は、この漏れ波によるノイズ信号に相当するキャンセル信号を生成する。具体的には、送信部23から出力される送信波の信号レベルの検出値とノイズ信号の検出値とに基づいて、減衰回路28に所定の減衰率を設定し、キャンセル信号を生成する(S200)。
【0072】
次に、制御回路31は、設定回路32を介して、移相器43、44に制御電圧Vcを出力し、第1の位相制御を行う。制御回路31は、キャンセル信号の位相(θ)を0度から360度まで粗く変化させ、受信ノイズを低減する位相(θ)を探索する(S202)。
【0073】
制御回路31は、所定のステップで位相を変化させ、合成回路30の出力を受信部25、復調部26、ノイズ検出回路33を介して検出する。制御回路31は、例えば位相を10度のステップで0度から360度まで変化させ、合成回路30の出力が最小となる移相量を検出する。例えば、図9(A)に示すように、探索範囲の中で位相(θ)が0度の検出点60が最小値(Out_a)であった場合は、移相量の最適値を「0度」とする。また、図9(B)に示すように、探索範囲の中で位相(θ)が150度の検出点61が最小値(Out_b)であった場合は、移相量の最適値を「150度」とする。
【0074】
次に、制御回路31は、この最適値である移相量に相当する制御電圧Vcを設定回路32を介して移相器43、44に設定する。そして、再度、S200と同様にして、減衰回路28の減衰率を設定する(S204)。
【0075】
次に、制御回路31は、S202と同様に、第2の位相制御を行う。S202と異なる点は、所定のステップを細かくしているとともに、探索範囲をS202で検出された最適値を中心に所定の範囲を探索する点である。例えば探索範囲を−20度から+20度に設定する。これにより、図10(A)に示すように、例えば最適値が「0度」であれば、位相(θ)を0度を基点にして2度のステップで−20度から+20度まで変化させ、合成回路30の出力が最小となる移相量を検出する。探索範囲の中で位相が16度の検出点62が最小値(Out_b)であった場合は、移相量の最適値を「16度」に再設定する。また、図10(B)に示すように、例えば最適値が「150度」であれば、位相(θ)を150度を基点にして2度のステップで130度から170度まで変化させ、合成回路30の出力が最小となる移相量を検出する。この結果、探索範囲の中で位相が160度の検出点63が最小値(Out_d)であった場合は、移相量の最適値を「160度」に再設定する(S206)。
【0076】
以上のようにして、ノイズ抑圧装置27はS200からS206を実行し、漏れ波によるノイズを抑えることができる。
【0077】
制御回路31は、移相回路29の移相可能な400度の移相量のうち所定の位相分の40度を0度以下および360度以上に20度ずつ分配して割り当て、S202、S206により、第1の位相制御では移相ステップを粗くし、第2の位相制御では移相ステップを細かくして移相量を制御している。これにより、位相の制御時間を短くしている。さらに、制御回路31は、S202の第1の位相制御では0度から360度まで移相量を変化させ、最適値を探索する。そして、S206の第2の位相制御では、最適値を基点としてその前後、例えば−20度から+20まで移相量を制御する。特に、0度から360度の両端、例えば0度の近傍において、割り当てされた−20度から0までの位相分を用いて、0度を基点として−20度から+20までの移相量を変化させることができるので、0度のところで折り返しの処理が不要となる。これにより位相の調整時間をさらに短くすることができる。同様に、制御回路31は、360度の近傍でも340度から380度まで移相量を制御することができる。なお、所定の位相分は40度に限定されるものではない。刻々と変化するノイズの位相変動分をキャンセルできる位相分を0度および360度近傍で確保できればよい。
【0078】
このように制御回路31は、移相回路29の移相量を0度から400度まで変化させて制御するので、0度から360度の両端の位相、すなわち0度近傍と360度近傍で折り返しの処理が不要となり、これにより位相の調整時間を短縮させることができる。
【0079】
以上のように、本実施の形態におけるRFIDリーダ装置4に用いたノイズ抑圧装置27によれば、制御回路31は、第1の位相制御および第2の位相制御により、減衰回路28の出力が送信波の漏れ波により直接受信される漏れ信号の出力とほぼ同じ振幅になるように減衰量を制御するとともに漏れ信号の位相とほぼ逆位相となるように移相回路29の移相量を0度から400度までの範囲で制御し、0度近傍と360度近傍において位相調整を行う場合に折り返しの処理を行うことなく位相調整を行うことができるので、調整時間が短縮されてノイズをキャンセルする応答速度を上げることができる。これにより、RFIDリーダ装置4は漏れ波の位相の変化に対応することができ、読み取り精度を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上のように本発明は、送信波を入力して減衰させる減衰回路と、減衰回路からの出力信号の位相を0度から360度に所定の位相を加えて移相可能な移相回路と、RFIDタグから受信した応答信号と移相回路の出力信号とを合成する合成回路と、減衰回路の出力が送信波の漏れ波により直接受信される漏れ信号の出力とほぼ同じ振幅になるように減衰回路の減衰量を制御するとともに漏れ信号の位相とほぼ逆位相となるように移相回路の移相量を0度から360度に所定の位相を加えて制御する制御回路とを備え、0度近傍および360度近傍において位相調整を行う場合に折り返しの処理を行うことなく位相調整を行うことができるので、調整時間が短縮されてノイズをキャンセルする応答速度を上げることができる。
【0081】
これにより、漏れ波の位相の変化に対応させてノイズをキャンセルし、読み取り精度を向上させることを可能とするRFID用ノイズ抑圧装置、RFIDリーダ装置に有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の実施の形態におけるRFIDシステムの概略図
【図2】同RFIDシステムのブロック図
【図3】本発明の実施の形態におけるRFIDリーダ装置のノイズのキャンセル方法を説明するための波形図
【図4】同RFIDリーダ装置の移相回路の回路図
【図5】同RFIDリーダ装置の移相器の回路図
【図6】同RFIDリーダ装置の移相回路の部品実装図
【図7】同RFIDリーダ装置の動作を説明するためのフローチャート
【図8】同RFIDリーダ装置のノイズ抑圧装置の位相制御動作を説明するためのフローチャート
【図9】(A)は同RFIDリーダ装置のノイズ低減特性の例を示す特性図、(B)は同RFIDリーダ装置のノイズ低減特性の他の例を示す特性図
【図10】(A)は同RFIDリーダ装置のノイズ低減特性の例を示す特性図、(B)は同RFIDリーダ装置のノイズ低減特性の他の例を示す特性図
【符号の説明】
【0083】
1 RFIDシステム
2 物品
3 RFIDタグ
4 RFIDリーダ装置
5 アンテナ
6 タグアンテナ部
7 タグICチップ
8 メモリ
9 中央制御装置
10 通信回線
21 情報処理部
22 変調部
23 送信部
24 電力分離部
25 受信部
26 復調部
27 ノイズ抑圧装置
28 減衰回路
29 移相回路
30 合成回路
31 制御回路
32 設定回路
33 ノイズ検出回路
34 電源部
35 クロック部
40 入力端子
41 出力端子
42 制御端子
43,44 移相器
43a,43b,43c,43d,44a,44b,44c,44d 端子
45 減衰器
46,47,48,49 インダクタ
50,51,52,53 可変容量素子
54,55 コイル
56 ローパスフィルタ
57,58 コンデンサ
59 基板
60,61,62,63 検出点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
データ信号および搬送波を含む送信波をRFIDタグに送信し、前記RFIDタグからの反射波により応答信号を受信するRFIDリーダ装置に用いられるノイズ抑圧装置であって、
前記送信波を入力して減衰させる減衰回路と、
前記減衰回路からの出力信号の位相を0度から360度に所定の位相を加えて移相可能な移相回路と、
前記RFIDタグから受信した前記応答信号と前記移相回路の出力信号とを合成する合成回路と、
前記減衰回路の出力が送信波の漏れ波により直接受信される漏れ信号の出力とほぼ同じ振幅になるように前記減衰回路の減衰量を制御するとともに前記漏れ信号の位相とほぼ逆位相となるように前記移相回路の移相量を0度から360度に前記所定の位相を加えて制御する制御回路とを備えたことを特徴とするRFID用ノイズ抑圧装置。
【請求項2】
前記制御回路は、所定の位相分を0度以下および360度以上に分配して割り当て、前記移相回路の移相量を制御することを特徴とする請求項1に記載のRFID用ノイズ抑圧装置。
【請求項3】
前記制御回路は、第1の位相制御と、前記第1の位相制御の後に実行される第2の位相制御とを有し、前記第1の位相制御では移相量の制御ステップを粗くし、前記第2の位相制御では移相量の制御ステップを細かくすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のRFID用ノイズ抑圧装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のRFID用ノイズ抑圧装置と、
前記送信波をアンテナを介して出力する送信部と、
前記RFIDタグからの前記応答信号を前記RFID用ノイズ抑圧装置を介して受信する受信部とを備えたことを特徴とするRFIDリーダ装置。
【請求項5】
前記RFID用ノイズ抑圧装置が前記RFIDタグから応答信号を受信する前に前記減衰回路の減衰量および前記移相回路の前記移相量を制御することを特徴とする請求項4に記載のRFIDリーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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