説明

RU/二座配位子錯体によるエステルの水素化

本発明は、1つ又は2つのエステル官能基又はラクトン官能基を含有する基質の、分子状Hを使用する、対応するアルコール、又はジオールへの水素化による還元方法であって、上記方法は、塩基の存在下で及びルテニウム錯体の形の少なくとも1種の触媒又は前駆触媒の存在下で実施され、その際、ルテニウムは、配位している原子の1つとして少なくとも1つの置換されたα−炭素及び少なくとも1つの第一級アミンを含むジホスフィン二座配位子(PP配位子)及びジアミノ二座配位子(NN配位子)によって配位される、水素化による還元方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は接触水素化の分野に関し、更に詳細には、エステル又はラクトンを対応するアルコール又はジオールへそれぞれ還元するための水素化方法における、二座のPP及びNN配位子を有する特定のキラルRu錯体の使用に関する。
【0002】
従来技術
エステル官能基の対応するアルコールへの還元は、有機化学における基本的な反応の1つであり、多くの化学的方法で使用される。一般的に、2つの主なタイプの方法は係る変換を達成することで知られている。係るタイプの方法は以下の:
a)シリル又は金属水素化物塩、例えば、LiAlHを使用する、水素化物方法;
b)分子状の水素を使用する、水素化方法
である。
【0003】
実用的な観点から、水素化方法は、少量の触媒(典型的には基質に対して10〜1000ppm)を用いて且つ少量の溶媒の存在下で又は溶媒のない下で実施することができるため、より魅力的である。更に、水素化方法は、高反応性の且つ高価な水素化物の使用を必要とせず、大量の廃液を生じさせない。
【0004】
水素化方法の必須の且つ特徴的な要素の1つは、還元の観点で分子状水素を活性化するために使用される、触媒又は触媒的システムである。エステル官能基の水素化のための有用な触媒又は触媒システムの開発は、未だに化学では重要な、困難なそして予測不能な課題である。
【0005】
このような還元を実施することで知られた数少ない触媒又は触媒システムの中で、酸化ルテニウム又はカルボキシレート前駆体とモノ−、ジ−又はトリ−ホスフィン配位子(この例はElsevierらによってChem. Commun., 1998, 1367に記載された)との反応によって得られた、ルテニウム/ホスフィン錯体が挙げられる。この型の錯体において、ルテニウム金属は「acac」配位子とホスフィン原子だけで配位結合され、従って、配位子構造と金属中心周りの配位圏の多様性を制限する。このような多様性がほとんどない結果、活性の調整と水素化方法の実施の調整は簡単ではない。更に、実験条件は非常に高い圧力(少なくとも70〜130バール)と温度(120〜180℃)を必要する。
【0006】
しかしながら、水素化方法のために、代替の触媒又は前駆触媒を使用して、従って配位子構造及び金属中心周りの配位圏においてより高度な多様性を有することが未だ要求され、また実験条件及び実施可能な反応のタイプにおいて多様性をより高度にし且つできる限り簡単にすることが要求されている。
【0007】
発明の説明
前述の問題を克服するために、本発明は、1つ、2つ又は3つのエステル官能基、又はラクトン官能基を含有するC−C70置換基の、分子状Hを使用する、対応するアルコール、又はジオールへの水素化による還元方法であって、上記方法は、塩基の存在下で及びルテニウム錯体の形の少なくとも1種の触媒又は前駆触媒の存在下で実施され、その際、該ルテニウムは(配位している窒素原子に対して)少なくとも1つの置換されたα−炭素を含むジホスフィン二座配位子(PP配位子)及びジアミノ二座配位子(NN配位子)によって配位されていることを特徴とする、水素化による還元方法に関する。
【0008】
本発明の特定の実施態様によれば、基質は式(I)
【化1】

(式中、R及びRは、同時に又は独立して、線状、分枝鎖状又は環状のC−C30芳香族、アルキル又はアルケニル基を表し、場合により置換され;又は
及びRは一緒に結合されてC−C20、有利にはC−C20の、飽和又は不飽和基を形成し、場合により置換される)
の化合物であってよい。
【0009】
上記基質(I)の、対応するアルコール(即ち(II−a)及び(II−b))、又は対応するジオール(II’)は、式
【化2】

(式中、R及びRは式(I)で定義されている)
のものである。
【0010】
式(II)の化合物(即ち、II−a又はII−b)は、R及びRが一緒に結合されていない場合に得られるが、式(II’)の化合物は、R及びRが一緒に結合される場合に得られる。
【0011】
「線状、分枝鎖状又は環状の芳香族、アルキル又はアルケニル基」とは、上記R又はRが、例えば、線状アルキル基の形であってよいか又は上記型の基の混合物の形であってもよく、例えば、1つの型のみに対する特定の制限が記載されていない限り、特定のRが線状アルキル、分枝鎖状アルケニル、(ポリ)環状アルキル及びアリール部を含み得ることを意味すると解される。同様に、本発明の以下の全ての実施態様において、ある基が2以上の型のトポロジー(例えば、線状、環状又は分枝鎖状)及び/又は不飽和(例えば、アルキル、芳香族又はアルケニル)の形であると記載されている場合、上で説明されたように、ある基は上記トポロジー又は不飽和のいずれか1つを有する部を含み得ることをも意味する。
【0012】
本発明の方法の特定の実施態様はスキーム1に示される:
【化3】

【0013】
本発明の更なる実施態様によれば、基質はエステル、又はラクトンであり、これらはアルコール、又はジオールを与え、これは最終生成物又は中間体として製薬産業、農薬産業又は香水産業において有用である。特に有利な基質はエステル、又はラクトンであり、これらはアルコール、又はジオールを与え、これは最終生成物又は中間体として香水産業において有用である。
【0014】
本発明の別の実施態様によれば、基質は式(I)のC−C30化合物であり、特に、R及びRが同時に又は独立して、場合により置換された、線状、分枝鎖状又は環状のC−C30芳香族又はアルキル基を表す化合物;又はR及びRが一緒に結合されて、場合により置換された、C−C20飽和又は不飽和の線状、分枝鎖状、モノ−、ジ−又はトリ−環状基を形成する化合物が挙げられる。
【0015】
本発明の更なる実施態様によれば、基質は式(I)のC−C20化合物であり、その際、R及びRは同時に又は独立して、場合により置換された、線状、分枝鎖状もしくは環状のC−C18芳香族もしくはアルキル基、又は場合により置換された、環状のC−C18アルケニル基を表すか;又はR及びRは一緒に結合されて、場合により置換された、C−C20飽和又は不飽和の線状、分枝鎖状、モノ−、ジ−又はトリ−環状基を形成する。
【0016】
及びRの可能な置換基は、1個、2個又は3個のハロゲン、OR、NR又はR基であり、ここでRは水素原子、ハロゲン化C〜C基又はC〜C10の環状、線状又は分枝鎖状のアルキルもしくはアルケニル基、有利にはC〜Cの線状又は分枝鎖状のアルキルもしくはアルケニル基である。他の可能な置換基として、基COORも挙げられ、該基もまた、当業者に公知である通り、使用されるHのモル量に従って、本発明の方法の間に対応するアルコールに還元することができる。
【0017】
基質の非制限の例は、アルキルシンナメート、ソルビン酸塩又はサリチル酸塩、天然の酸(脂肪酸又は非脂肪酸)のアルキルエステル、スクラレオリド、スピロラクトン、アリルエステル、ジアルキルジエステル、(不)飽和安息香酸エステル、及びβ−γ不飽和エステルである。特に、基質は、スクラレオリド、C−C15スピロラクトン及び4−メチル−6−(2,6,6−トリメチル−1−シクロヘキセン−1−イル)−3−ヘキセン酸のC−Cアルキルエステルからなる群から選択することができる。また1,4−ジカルボン酸−シクロヘキサンのジアルキルエステル、C2−10アルカンジイル−ジカルボキシレートのジC1−5アルキルエステル、C1−5アルキルシクロプロパンカルボキシレート、モノ−、ジ−又はトリ−メトキシ安息香酸エステルが挙げられる。
【0018】
本発明の特定の実施態様によれば、基質(I)はラセミ化合物又は場合により活性化合物である。実際、このような場合、本発明の錯体が、場合により活性形である少なくとも1つの配位子を含み得るという事実のために、係る基質の1つの特定のエナンチオマーを選択的に又は優先的に水素化することが可能である(基質の速度論的分割)。
【0019】
本発明の方法は、上述のルテニウム錯体の、触媒又は前駆触媒(以下、特段の記載のない限り錯体と称する)としての使用によって特徴付けられる。この錯体は、イオン又は中性種の形で存在できる。
【0020】
本発明の実施態様によれば、ルテニウム錯体は一般式
【化4】

[式中、nは0、1又は2を表し;
Sは中性C−C26の中性一座配位子を表し;
PPはC−C60二座配位子を表し、その際、配位している基は2つのホスフィノ基であり;
NNはC−C40二座配位子を表し、その際、配位している基は2つのアミノ基であり、少なくとも1つの上記アミノ基は第一級アミン(即ち、NH)であり、上記配位子は少なくとも1つの置換されたα−炭素を含み;且つ
Yはそれぞれ、同時に又は独立して、水素又はハロゲン原子、BH又はAlH基、ヒドロキシル基、又はC−Cアルコキシ又はカルボン酸基を表す]
のものである。
【0021】
「少なくとも1つの置換されたα−炭素を含む上記配位子」という表現は、配位子NNについて述べており、これは上記アミノ基の1つが結合された少なくとも1つの炭素原子(α−炭素)がCH−又は−CH−基ではない配位子を意味する。優先的に、上記α−炭素は、配位しているNH基が結合されたものである。
【0022】
触媒又は前駆触媒はまた、例えば、ポリマーに結合された、担持された形であってもよい。
【0023】
一座配位子は、PPhのようなホスフィン、CO又は更に溶媒であってよい。「溶媒」という用語は、当技術分野における通常の意味であり、特に、錯体の調製中に又は本発明の方法の間に希釈剤として使用される化合物であると解されなければならない。係る溶媒の非制限の例は、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、アルコール(例えば、C−Cアルコール)、又は更にTHF、アセトン、ピリジン又はC−Cエステル又は本発明の方法の基質である。
【0024】
本発明の特定の実施態様において、上記NN又はPP配位子はC−C40化合物であってよい。
【0025】
本発明の特定の実施態様において、式(1)において、Yはそれぞれ、同時に又は独立して、水素又は塩素原子、ヒドロキシ基、C〜Cアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ又はイソプロポキシ基、又はC〜Cアシルオキシ基、例えば、CFCOO又はCHCOO又はCHCHCOO基を表す。更に有利には、Yはそれぞれ、同時に又は独立して、水素又は塩素原子、メトキシ、エトキシ又はイソプロポキシ基、又はCHCOO又はCHCHCOO基を表す。
【0026】
本発明の特定の実施態様によれば、式
【化5】

[式中、PP、NN及びYは上述の意味を有する]
の化合物は錯体として使用できる。
【0027】
上述のいずれか1つの実施態様によれば、二座PP配位子は場合により式
【化6】

[式中、R及びRは、別々に解釈する場合に、同時に又は独立して、場合により置換された線状、分枝鎖状もしくは環状のC−Cアルキル又はアルケニル基、場合により置換されたC〜C10芳香族基、又はORもしくはNR基を表し、R及びRはC〜Cアルキル又はアルケニル基であり;基R及びRは、同じP原子に結合され、一緒に解釈する場合に、5〜10個の原子を有し且つ上記R及びRが結合されたリン原子を含む、場合により置換された飽和又は不飽和の環を形成してよく;且つ
Qは:
− 式
【化7】

(式中、mは1から5までの整数であり、そして
及びRは、同時に又は独立して、水素原子、場合により置換された線状、分枝鎖状もしくは環状のC〜C10アルキルもしくはアルケニル基、場合により置換されたC〜C10芳香族基、又はORもしくはNR基を表し、R及びRは線状、分枝鎖状もしくは環状のC〜C10アルキルもしくはアルケニル基であり;2つの別個のR及び/又はR5基は、一緒になって、上記R又はR基がそれぞれ結合された炭素原子を含む、場合により置換されたC〜C、又は更にC10までの飽和環を形成してよい)の基;又は
− 式
【化8】

(式中、mは2から4までの整数であり、そして
2つの別個の隣接したR基は、一緒になって、上記R基がそれぞれ結合された炭素原子を含む、場合により置換されたC〜C、又は更にC10までの芳香環、又は場合により置換されたC〜C12メタロセンジイルを形成し;又は
3つの別個の隣接したR基は、一緒になって、上記R基がそれぞれ結合された炭素原子を含む、場合により置換されたナフタレン環を形成する)の基
を表す]の活性化合物である。
【0028】
ある実施態様によれば、「芳香族基又は環」とは、フェニル又はナフチル誘導体を意味する。
【0029】
本発明の別の実施態様によれば、Qは、場合により置換された線状C−Cアルカンジイル基、場合により置換されたフェロセンジイル又は場合により置換されたビフェニルジイルもしくはビナフチルジイル基を表す。
【0030】
〜R及びQの可能な置換基は、1種又は2種のハロゲン、C〜C10アルコキシもしくはポリアルキレングリコール基、ハロ−又はパーハロ−炭化水素、COOR、NR、第四級アミン又はR基であり、その際、RはC〜Cアルキル、又はC〜C12シクロアルキル、アラルキル(例えば、ベンジル、フェネチル等)又は芳香族基であり、これらの基もまた場合により、1種、2種又は3種のハロゲン、スルホネート基又はC〜Cアルキル、アルコキシ、アミノ、ニトロ、スルホネート、ハロ−又はパーハロ−炭化水素もしくはエステル基によって置換される。「ハロ−又はパーハロ−炭化水素」とは、例えば、CF又はCClHなどの基を意味する。
【0031】
式(3)の特定の実施態様において、PPは二座配位子であり、その際、R及びRは、同時に又は独立して、場合により置換された線状、分枝鎖状もしくは環状のC〜Cアルキル基、場合により置換されたフェニル又はナフチル基を表し;基R及びRは、同じP原子に結合され、一緒になって、場合により置換された飽和又は不飽和環を形成し、これらの環は5個、6個又は7個の原子を有し且つ上記R及びR基が結合されたリン原子を含み;且つ
Qは:
− 式
【化9】

(式中、mは1から3までの整数であり、そして
2つの別個の隣接したR基は、一緒になって、場合により置換されたC〜C10芳香環又は場合により置換されたC〜C12フェロセンジイルを形成し、これらは上記R基がそれぞれ結合された炭素原子を含み;又は
3つの別個の隣接したR基は、一緒になって、場合により置換されたナフタレン環を形成し、該環は上記R基がそれぞれ結合された炭素原子を含む)
の基を表す。
【0032】
〜R及びQの可能な置換基は、特に上記基がフェニル基又は部であるか又はこれらを含む場合、1種又は2種のハロゲン、CF基又はC〜Cアルコキシもしくはポリアルキレングリコール基、COOR、NR又はR基であり、その際、RはC〜Cアルキル、又はC5−6シクロアルキル、アラルキル又は芳香族基であり、これらの基もまた場合により上で定義された通りに置換される。
【0033】
更に、全ての上述の実施態様において、特に評価された実現の形態は、上記R及びR基が場合により置換された芳香族基である形態である。
【0034】
化合物(1)は支持された形であってよい。典型的な支持体として、Advanced Synth.Catal. 2001, 343, 369のTakeshi Ohkumaらが挙げられる。例えば、上述の実施態様のPP配位子において、Q基は以下で定義される置換基OR15を含んでよい。
【0035】
式(3)の特定の実施態様は、式
【化10】

[式中、R10及びR11は、別々に解釈する場合に、同時に又は独立して、場合により置換された線状、分枝鎖状もしくは環状のC〜Cアルキル基、場合により置換されたC〜C10芳香族基を表し;基R10及びR11は、同じP原子に結合され、一緒に解釈する場合に、場合により置換された飽和又は不飽和環を形成し、これらの環は5〜10個の原子を有し且つ上記R10及びR11基が結合されたリン原子を含み;
12、R13及びR14は、別々に解釈する場合に、同時に又は独立して、場合により置換された線状、分枝鎖状もしくは環状のC〜Cアルキル又はアルコキシ基、場合により置換されたフェニル基を表し;上記R12、R13及びR14の1つは場合によりOR15基であり、R15はZ−B’−型の単位を表し、B’はポリマーZと配位子を結合する基であり、該基は、有利には−(CH−(O−C−又は−C(O)−(CH−C(O)−NH−(CH−(O−C−(式中、xは約60の整数である)、−C(O)−、−(CH−又は−NH−C(O)−(CH−C(O)−(vは1から4までの整数である)の群の中から選択され、Zはシリカ、ポリスチレン、ポリアミド、Tentagel(登録商標)型のポリスチレンの及びポリオキシエチレンのグラフトコポリマー、メリフィールド樹脂型の官能化ポリスチレン、アミノメチル化されたポリスチレン、又は[4−(ヒドロキシメチル)フェノキシメチル]ポリスチレン("ワング樹脂")の中から選択されるポリマー又はコポリマーであり;
2つのR13、又はR12及びR13は、同じフェニル基に結合され、一緒になって場合により置換された環を形成することができ、該環は5個、6個又は7個の原子を有し且つ上記R13及び/又はR12基が結合された炭素原子を含み;少なくとも1つの上記環は場合により上で定義されたようにOR15基によって置換される]
によって表される。
【0036】
10〜R14の可能な置換基は、特に上記基がフェニル基又は部であるか又はこれらを含む場合、1種又は2種のハロゲン、CF基又はC〜Cアルコキシもしくはポリアルキレングリコール基、COOR、NR又はR基であり、その際、RはC〜Cアルキル、又はC5−6シクロアルキル、アラルキル又は芳香族基であり、これらの基もまた場合により上で定義された通りに置換される。
【0037】
Zポリマー又はコポリマーは最先端の水準である。有利なものは「ワング」型の樹脂、いわゆる「Tentagel」型のポリスチレン又は樹脂である。
【0038】
本発明の更なる実施態様によれば、式(4)の錯体は式(5)(BINAP誘導体)
【化11】

[式中、Ar’は場合により置換されたフェニル基を表し、R16は水素原子又は上で定義されたOR15を表す]
のものである。任意の置換基はR10について上で定義されたものであってよい。特に評価されたものは、R16が水素原子を表す配位子(5)である。
【0039】
本発明の特定の実施態様によれば、特に評価された配位子PPは、式(3)のC14−C44誘導体であり且つ以下の部:
− 以下の式のメタロセン−1,1’−ジホスフィン
【化12】

− 以下の式のα,α’−ビス(ナフタレン)−β,β’−ジホスフィン
【化13】

− 又は以下の式のα,α’−ビス(ベンゼン)−β,β’−ジホスフィン
【化14】

[式中、Arはそれぞれ上でR10について定義されたようにC〜C10芳香族基を表す]
の1つを含んでいる。
【0040】
上述の実施態様のいずれか1つに従って、上記PP配位子は、配位原子として少なくとも1つのトリアリール−ホスフィノ基(即ち、PAr、その際、Arは芳香族基を意味する)、アルキル−ジアリール−ホスフィノ基(即ち、P(alk)Ar、その際、Arは芳香族基を意味し、Alkは非芳香族基を意味する)又はジアルキル−アリール−ホスフィノ基(即ち、P(alk)Ar、その際、Arは芳香族基を意味し、Alkは非芳香族基を意味する)を更に含む。上記実施態様の更なる展開によれば、PP配位子の2つの配位しているホスフィノ基はトリアリール−ホスフィノ基である。
【0041】
上述の実施態様のいずれか1つによれば、NN二座配位子は、少なくとも1つの置換されたα−炭素を含むラセミ化合物又は光学活性化合物である。上記NN配位子は、式
【化15】

[式中、点線は単結合又は二重結合を示すが、但し窒素原子につきただ1つの点線は二重結合を示し;
bは0、1又は2を表し;
21は水素原子又はR21’22CH基を表し、又は、点線が単結合を示す場合はR21’22C=基をも表し;
点線を有する炭素−窒素結合がそれぞれ単結合又は二重結合を表す時、cは0又は1であり;且つ
21’、R22、R23、R24、及びR25は、同時に又は独立して、水素原子、場合により置換された線状、分枝鎖状もしくは環状のC〜C10アルキル基又はアルケニル基、場合により置換されたC〜C10芳香族基を表し;R21’及びR24は一緒になって、場合により置換され且つ場合により1つ又は2つの追加の窒素又は酸素原子を含有する、飽和又は不飽和複素環を形成し、これらの環は5〜10個の原子を含有し且つ上記R21’又はR24が結合された炭素原子及びN原子(例えば、ピリジン環又は2−ピロリジン、2−ピペリジン又は2−モルホリン)を含み;R23及びR24、又はR24及びR25は、一緒に解釈する場合に、場合により置換された飽和又は不飽和環を形成し、これらの環は5〜12個の原子を有し且つ上記R23、R24、又はR25基が結合された炭素原子を含むが;但し少なくとも1つの上記R23又はR24基が水素原子ではないことを条件とし;
但し少なくとも1つのR24又はR22は水素原子ではなく、且つ少なくとも1つの配位しているアミノ基は第一級アミンである(即ち、NH基又は少なくとも1つのR21は水素原子である)]
のものであってよい。
【0042】
ある実施態様によれば、「芳香族基又は環」とは、フェニル又はナフチル誘導体を意味する。
【0043】
21’、R21〜R25の可能な置換基は、1種又は2種のハロゲン、C〜C10アルコキシもしくはポリアルキレングリコール基、ハロ−又はパーハロ−炭化水素、COOR、NR、第四級アミン又はR基であり、その際、RはC〜Cアルキル、又はC〜C12シクロアルキル、アラルキル(例えば、ベンジル、フェネチル等)又は芳香族基であり、これらの基もまた、場合により1種、2種又は3種のハロゲン、スルホネート基又はC〜Cアルキル、アルコキシ、アミノ、ニトロ、スルホネート、ハロ−又はパーハロ−炭化水素もしくはエステル基によって置換される。「ハロ−又はパーハロ−炭化水素」とは、例えば、CF又はCClHなどの基を意味する。
【0044】
上述の実施態様のいずれか1つによれば、R21’、R22、R23、R24及びR25は、同時に又は独立して、水素原子、場合により置換された線状、分枝鎖状もしくは環状のC〜Cアルキル基又はアルケニル基、場合により置換されたフェニル基を表し;R21’及びR24は、一緒になって、場合により置換され且つ場合により1つ又は2つの追加の窒素又は酸素原子を含有する、飽和又は不飽和複素環を形成し、これらの環は5個又は6個の原子を含有し且つ上記R21’又はR24が結合された炭素原子及びN原子を含み;R23及びR24、又はR24及びR25は、一緒に解釈する場合に、場合により置換された飽和又は不飽和環を形成し、これらの環は5個又は6個の原子を有し且つ上記R23、R24又はR25基が結合された炭素原子を含み;但し少なくとも1つの上記R23又はR24基が水素原子ではないことを条件とする。
【0045】
あるいは、R21’〜R25の可能な置換基は、特に上記基がフェニル基又はフェニル部であるか又はこれらを含む場合、1種又は2種のハロゲン、CF基又はC〜Cアルコキシもしくはポリアルキレングリコール基、COOR、NR又はR基であり、その際、RはC〜Cアルキル、又はC5−6シクロアルキル、アラルキル又は芳香族基であり、これらの基もまた場合により上で定義された通りに置換される。
【0046】
式(9)の更なる実施態様によれば、点線は単結合を表す。
【0047】
上述の実施態様又はそれらの組み合わせのいずれか1つによれば、式(9)の特定の実施態様は、式
【化16】

[式中、dは0又は1を表し;且つ
26又はR27はそれぞれ水素原子又は場合により置換された、線状、分枝鎖状もしくは環状のC−Cアルキル基又はフェニル基を表し;2つのR26、又は1つのR26及び1つの隣接のR27は、一緒になって、C−Cアルカンジイル又はアルケンジイルを形成するが;
但し少なくとも1つのR26は水素原子ではない]
によって表される。
【0048】
27又はR26の可能な置換基は、1種又は2種のハロゲン、C〜Cアルコキシもしくはポリアルキレングリコール基、COOR、NR又はR基であり、その際、RはC〜Cアルキル、又はC5−6シクロアルキル、アラルキル又は芳香族基であり、これらの基もまた場合により上で定義された通りに置換される。
【0049】
上述の実施態様又はそれらの組み合わせのいずれか1つによれば、式(12)の特定の実施態様において、NN配位子は式
【化17】

[式中、R29は、R28について上で定義された通りに、場合により置換されたC〜Cアルキル基又はフェニル基を表し、そしてR30は水素原子又はR29基を表す]
の1つであってよい。
【0050】
上述の実施態様のいずれか1つによれば、NN配位子の2つの配位しているアミノ基は第一級アミノ基(即ち、NH)であるか又は換言すれば式(9)の両方の点線は単結合を表し、両方のR21はそれぞれ水素原子を表す。
【0051】
更に、更なる実施態様によれば、NN配位子の2つの配位しているアミノ基は第一級アミノ基であり、2つのα−炭素は置換されている(例えば、式(9)において2つのR24又は2つのR23は水素原子ではない)。
【0052】
本発明のいずれか1つの実施態様によれば、少なくとも1つの配位子は光学的に活性な形である。更なる実施態様によれば、NN配位子は光学的に活性な形である。別の実施態様によれば、PP配位子及びNN配位子は共に光学的な形であってよい。
【0053】
本発明において、「光学的に活性な形」とは、本明細書では純粋なエナンチオマー又は特定のエナンチオマーで富化されたエナンチオマーの混合物を意味し、言い換えれば、光学的に活性な形の基質、錯体又は配位子は、0を超えるe.e.(エナンチオマー過剰)によって特徴付けられ、典型的には10〜100%又は更に50〜100%又は90〜99.9%含まれる。
【0054】
上述の配位子は標準的な一般の方法を適用することによって得られ、この方法は現状水準において当業者に公知である。上記配位子NN又はPPの多くは更に商業的に入手可能である。
【0055】
一般的に、式(1)の錯体は、文献(例えば、H . Doucetら、Angew.Chem.Int.Ed., 1998, 37, 1703.を参照のこと)に記載された一般的な方法による方法において、それらを使用する前に調製及び単離できる。
【0056】
式(I)の錯体はまた、同様の式を有するか又はカチオンもしくはアニオンである錯体、例えば、Yが別の意味を有する錯体(1)からインサイチュで得られることも理解される。あるいは、式[Ru(PP)(アニオン)]の錯体を使用することができ、これはNN配位子の存在下で式(1)の化合物に転化される。式[Ru(NN)(アニオン)]又は[Ru(NN)(アニオン)(アレーン)](アニオン)の錯体を使用することも可能であり、これは配位子PPの存在下で式(1)の化合物に転化される。
【0057】
本発明の方法を実施するためには塩基の使用も必要である。上記塩基は、これが塩基性である場合、それ自体が基質になり得る。対応するアルコラート又は任意の塩基は優先的に11を超えるpKを有する。本発明の特定の実施態様によれば、上記塩基は14を超えるpKを有し得る。有利には上記塩基は式(I)の基質をそれ自体で還元しないことも理解される。非制限の例として以下の型の塩基が挙げられる:アルコラート、水酸化物、アルカリ性又はアルカリ土類炭酸塩、ホスファゼン、アミド、塩基性アロックス(alox)、シリコネート(siliconates)(即ち、SiO又はSiRO基を有するケイ素誘導体)、NaBH、NaH又はKHなどの水素化物。
【0058】
非制限の例として、アルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸塩、例えば、炭酸セシウム、アルカリ金属又はアルカリ土類金属水酸化物、C1−10アミド化物(amidure)、C10−26ホスファゼン又は式(R31O)M又はR31OM’のアルコラートが挙げられ、その際、Mはアルカリ土類金属であり、M’はアルカリ金属又はアンモニウムNR32であり、R31は水素又はC〜Cの線状又は分枝鎖状アルキル基を表し、R32はC〜C10の線状又は分枝鎖状アルキル基、例えば、ナトリウムアルコラート又はカリウムアルコラートを表す。もちろん、他の好適な塩基は使用できる。
【0059】
本発明の実施態様によれば、上記塩基は式R31OM’のアルカリ性アルコラートである。
【0060】
前述のように、本発明の方法は、ルテニウム錯体及び塩基を使用する基質の水素化で構成される。典型的な方法は、基質とルテニウム錯体、塩基及び場合により溶媒とを混合し、次いで選択された圧力及び温度で分子状水素により係る混合物を処理することを示唆する。
【0061】
本発明の錯体、本方法の本質的なパラメーターは、広い範囲の濃度において反応媒体に添加することができる。非制限の例として、基質の量に対して、50ppmから50000ppmまでの範囲の値が錯体濃度値として挙げられる。有利には、錯体濃度は100〜20000ppmの間に含まれる。錯体の最適濃度は、当業者に公知のように、錯体の性質、基質の性質及び本方法の間に使用されるHの圧力、並びに所望の反応時間に依存することは言うまでもない。
【0062】
反応混合物に添加された、有用な量の塩基は、比較的広範囲で含まれてよい。非制限の例として、錯体に対して5〜50000モル当量(例えば、塩基/錯体=5〜50000)、有利には20〜2000、更に一層有利には50〜1000モル当量の範囲が挙げられる。
【0063】
水素化反応は溶媒の存在下で又は溶媒のない下で実施することができる。溶媒が実用上の理由のために必要とされる又は使用される時、任意の溶媒を現行の水素化反応において本発明の目的のために使用できる。非制限の例として、芳香族溶媒、例えば、トルエン又はキシレン、炭化水素溶媒、例えば、ヘキサン又はシクロヘキサン、エーテル、例えば、テトラヒドロフラン又はMTBE、極性溶媒、例えば、第一級又は第二級アルコール、例えば、イソプロパノール又はエタノール、又はそれらの混合物が挙げられる。溶媒は錯体の性質に応じて選択し、当業者であれば、それぞれの場合に水素化反応を最適化するために最も都合の良い溶媒を選択することが十分に可能である。
【0064】
本発明の水素化方法において、この反応は10Paと80×10Pa(1〜80バール)の間に含まれるH圧力又は所望であれば更に高いH圧力で実施することができる。更にまた、当業者であれば、触媒負荷に応じて、及び溶媒中の基質の希釈度に応じて圧力を調整することが十分に可能である。例として、典型的な圧力の1〜50×10Pa(1〜50バール)が挙げられる。
【0065】
水素化が実施できる温度は、0℃〜120℃、更に有利には20℃〜100℃の範囲に含まれる。もちろん、当業者であれば、出発物質及び最終生成物の融点及び沸点並びに所望の反応又は転化時間に応じて有利な温度を選択することも可能である。
【0066】
実施例
本発明をここで以下の実施例を用いて更に詳細に説明する。その際、温度は摂氏温度で表し、また略記は当業者に慣用の意味を有する。
【0067】
以下に記載された全ての手順は、特に記載のない限り、不活性雰囲気下で実施された。水素化はステンレス鋼製のオートクレーブ中で実施された。Hガス(99.99990%)は受け取られるように使用された。全ての基質及び溶媒はAr下で適切な乾燥剤から蒸留された。NMRスペクトルはBruker AM−400(400.1MHzでH、100.6MHzで13C、及び161.9MHzで31P)スペクトロメータで記録され、特に記載のない限り、通常は300Kで、CDCl中で測定された。化学シフトはppmで示される。
【0068】
本明細書中で以降使用される次の略記は以下の意味を有する:
BINAP:2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル;
DPEN:1,2−ジフェニル−1,2−エチレンジアミン
PCym:パラシメン
TFA:トリフルオロアセテート
dmf:ジメチルホルムアミド
cod:シクロオクタジエン
【0069】
実施例1
形成された錯体[RuCl(R−BINAP)(S,S−DPEN)]をインサイチュで使用するエステルの接触水素化
基質としてのメチルベンゾアートの接触水素化の一般的な手順:
アルゴン下で、Keimオートクレーブに、ルテニウムR−BINAP錯体前駆体(0.01mmol、0.05mol%)及びS,S−DPEN(0.01mmol,0.05mol%)次いでTHF(2ml)を装入し、この溶液を5分間撹拌した。次にTHF(2ml)中のメチルベンゾアート(20mmol)の溶液、次いで更なるTHF(2×1ml)、及び内部標準としてのTHF中(2ml)中のトリデカン(1mmol)の溶液、次いで更なるTHF(2×1ml)を、オートクレーブに連続的に添加した。最後に、固形のNaOMe(1mmol、5mol%)を添加し、このオートクレーブを50バールで水素ガスにより加圧し、100℃に設定されたサーモスタット付き油浴に置いた。1時間後、オートクレーブを油浴から取り出し、冷水浴中で冷却させた。次に、アリコート(0.4ml)を取って、MTBE(5ml)で希釈し、水性飽和NHCl(5ml)で洗い、そしてセライトのプラグにより濾過してGCによって分析した。
【0070】
【表1】

錯体/塩基:錯体及び塩基の基質に対するppmでのモル比
1時間後のベンジルアルコールの内部標準(%、GCによって分析された)に対するGC収率。
反応条件:Hガス(50バール)、100℃、1時間、塩基としてのNaOMe及びTHF(2M)。
1)触媒は、[Ru(TFA)(cod)]の溶液及びMTBE/THF(10/1)中のR−BINAPを100℃で1時間予熱することによってインサイチュで生成し、この溶液をそのまま反応に使用した。
【0071】
実施例2
種々の温度で形成された錯体[RuCl(R−BINAP)(S,S−DPEN)]をインサイチュで使用するエステルの接触水素化
基質としてのメチルベンゾアートの接触水素化の一般的な手順:
アルゴン下で、Keimオートクレーブに、[RuCl(R−BINAP)(dmf)](0.01mmol、0.05mol%)及びS,S−DPEN(0.01mmol、0.05mol%)次いでTHF(2ml)を装入し、この溶液を5分間撹拌した。次に、THF(2ml)中のメチルベンゾアート(20mmol)の溶液、次いで更なるTHF(2×1ml)、及び内部標準としてのTHF(2ml)中のトリデカン(1mmol)の溶液、次いで更なるTHF(2×1ml)を、オートクレーブに連続的に添加した。最後に、固形のNaOMe(1mmol、5mol%)を添加し、このオートクレーブを50バールで水素ガスにより加圧し、所望の温度に設定されたサーモスタット付き油浴に置いた。上述の時間後、オートクレーブを油浴から取り出し、冷水浴中で冷却させた。次に、アリコート(0.4ml)を取って、MTBE(5ml)で希釈し、水性飽和NHCl(5ml)で洗い、そしてセライトのプラグにより濾過してGCによって分析した。
【0072】
【表2】

錯体/塩基:錯体及び塩基の基質に対するppmでのモル比
ベンジルアルコールの内部標準(%、GCによって分析された)に対するGC収率。反応条件:Hガス(50バール)、塩基としてのNaOMe及びTHF(2M)。
1)触媒は、[RuCl(R−BINAP)(pCym)]Clの溶液をTHF中のS,S−DPENと共に140℃で1時間予熱することによってインサイチュで生成し、この溶液をそのまま反応に使用した。
2)触媒は、[RuCl(S,S−DPEN)(pCym)]Clの溶液をTHF中のR−BINAPと共に140℃で1時間予熱することによってインサイチュで生成し、この溶液をそのまま反応に使用した。
【0073】
実施例3
錯体[RuCl(PP)(S,S−DPEN)]を使用するエステルの接触水素化
基質としてのメチルベンゾアートの接触水素化の一般的な手順:
アルゴン下で、Keimオートクレーブに、[RuCl(PP)(dmf)](0.01mmol、0.05mol%)及びS,S−DPEN(0.01mmol、0.05mol%)次いでTHF(2ml)を装入し、この溶液を5分間撹拌した。次に、THF(2ml)中のメチルベンゾアート(20mmol)の溶液、次いで更なるTHF(2×1ml)、及び内部標準としてのTHF(2ml)中のトリデカン(1mmol)の溶液、次いで更なるTHF(2×1ml)を、オートクレーブに連続的に添加した。最後に、固形のNaOMe(1mmol、5mol%)を添加し、このオートクレーブを50バールで水素ガスにより加圧し、60℃に設定されたサーモスタット付き油浴に置いた。2時間後、オートクレーブを油浴から取り出し、冷水浴中で冷却させた。次に、アリコート(0.4ml)を取って、MTBE(5ml)で希釈し、水性飽和NHCl(5ml)で洗い、そしてセライトのプラグにより濾過してGCによって分析した。
【0074】
【表3】

錯体/塩基:錯体及び塩基の基質に対するppmでのモル比。
ベンジルアルコールの内部標準(%、GCによって分析された)に対するGC収率。反応条件:Hガス(50バール)、60℃、2時間、塩基としてのNaOMe及びTHF(2M)。
1)触媒は、[Ru(TFA)(cod)]の溶液及びMTBE/THF(10/1)中のジホスフィンを100℃で1時間予熱することによってインサイチュで生成し、この溶液をそのまま反応に使用した。
2)予め形成された錯体をここで使用した。
3)触媒は、[RuCl(pCym)]の溶液をEtOH/CHCl(4/1)中のジホスフィンと共に50℃で30分間予熱することによってインサイチュで生成した。溶媒の蒸発後に、残留物をTHF中のS,S−DPENと共に140℃で1時間加熱し、この溶液をそのまま反応に使用した。
【0075】
実施例4
錯体[RuCl(R−BINAP)(NN)]を使用するエステルの接触水素化
基質としてのメチルベンゾアートの接触水素化の一般的な手順:
アルゴン下で、Keimオートクレーブに、[RuCl(R−BINAP)(dmf)](0.01mmol、0.05mol%)及びジアミン(0.01mmol、0.05mol%)次いでTHF(2ml)を装入し、この溶液を5分間撹拌した。次に、THF(2ml)中のメチルベンゾアート(20mmol)の溶液、次いで更なるTHF(2×1ml)、及び内部標準としてのTHF(2ml)中のトリデカン(1mmol)の溶液、次いで更なるTHF(2×1ml)を、オートクレーブに連続的に添加した。最後に、固形のNaOMe(1mmol、5mol%)を添加し、このオートクレーブを50バールで水素ガスにより加圧し、所望の温度に設定されたサーモスタット付き油浴に置いた。上述の時間後、オートクレーブを油浴から取り出し、冷水浴中で冷却させた。次に、アリコート(0.4ml)を取って、MTBE(5ml)で希釈し、水性飽和NHCl(5ml)で洗い、そしてセライトのプラグにより濾過してGCによって分析した。
【0076】
【表4】

錯体/塩基:錯体及び塩基の基質に対するppmでのモル比。
ベンジルアルコールの内部標準(%、GCによって分析された)に対するGC収率。反応条件:Hガス(50バール)、塩基としてのNaOMe及びTHF(2M)。
比較材料としてのみ含まれる
【0077】
実施例5
錯体[RuCl(R−BINAP)(S,S−DPEN)]を使用する種々のエステルの接触水素化
基質としてのメチルベンゾアートの接触水素化の一般的な手順:
アルゴン下で、Keimオートクレーブに、[RuCl(R−BINAP)(dmf)](0.01mmol、0.05mol%)及びS,S−DPEN(0.01mmol、0.05mol%)次いでTHF(2ml)を装入し、この溶液を5分間撹拌した。次に、THF(2ml)中の所望のエステル(20mmol)の溶液、次いで更なるTHF(2×1ml)、及び内部標準としてのTHF(2ml)中のトリデカン(1mmol)の溶液、次いで更なるTHF(2×1ml)を、オートクレーブに連続的に添加した。最後に、固形のNaOMe(1mmol、5mol%)を添加し、このオートクレーブを50バールで水素ガスにより加圧し、60℃に設定されたサーモスタット付き油浴に置いた。上述の時間後、オートクレーブを油浴から取り出し、冷水浴中で冷却させた。次に、アリコート(0.4ml)を取って、MTBE(5ml)で希釈し、水性飽和NHCl(5ml)で洗い、そしてセライトのプラグにより濾過してGCによって分析した。
【0078】
【表5】

錯体/塩基:錯体及び塩基の基質に対するppmでのモル比。
GC:粗反応混合物中のGCによって分析された生成物のパーセント。反応条件:Hガス(50バール)、60℃、塩基としてのNaOMe及びTHF(2M)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ、2つ又は3つのエステル官能基、又はラクトン官能基を含有するC−C70基質の、分子状Hを使用する、対応するアルコール、又はジオールへの水素化による還元方法であって、前記方法は、塩基の存在下で及び一般式
【化1】

[式中、nは0、1又は2を表し;
Sは中性C−C26の中性一座配位子を表し;
PPはC−C60二座配位子を表し、その際、配位している基は2つのホスフィノ基であり;
NNはC−C40二座配位子を表し、その際、配位している基は2つのアミノ基であり、少なくとも1つの前記アミノ基は第一級アミンであり、前記アミノ基の1つが結合された少なくとも1つの炭素原子(α−炭素)はCH−又は−CH−基ではなく;且つ
Yはそれぞれ、同時に又は独立して、水素もしくはハロゲン原子、BHもしくはAlH基、ヒドロキシル基、又はC−Cアルコキシもしくはカルボン酸基を表す]
の少なくとも1種の触媒又は前駆触媒の存在下で実施することを特徴とする、水素化による還元方法。
【請求項2】
一般式
【化2】

[式中、PP、NN及びYは請求項1に規定されている]
の触媒又は前駆触媒を特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記二座PP配位子が式
【化3】

[式中、R及びRは、別々に解釈する場合に、同時に又は独立して、場合により置換された線状、分枝鎖状もしくは環状のC〜Cアルキル又はアルケニル基、場合により置換されたC〜C10芳香族基、又はOR又はNR基を表し、R及びRはC〜Cアルキル又はアルケニル基であり;基R及びRは、同じP原子に結合され、一緒に解釈する場合に、5〜10個の原子を有し且つ前記R及びR基が結合されたリン原子を含む、場合により置換された飽和又は不飽和の環を形成してよく;且つ
Qは:
− 式
【化4】

(式中、mは1から5までの整数であり、且つ
及びRは、同時に又は独立して、水素原子、場合により置換された線状、分枝鎖状もしくは環状のC〜C10アルキルもしくはアルケニル基、場合により置換されたC〜C10芳香族基、又はORもしくはNR基を表し、R及びRは線状、分枝鎖状もしくは環状のC〜C10アルキルもしくはアルケニル基であり;2つの別個のR及び/又はR基は、一緒になって、前記R又はR基がそれぞれ結合された炭素原子を含む、場合により置換されたC〜C、又は更にC10までの飽和環を形成してよい)の基;又は
− 式
【化5】

(式中、mは2から4までの整数であり、且つ
2つの別個の隣接したR基は、一緒になって、前記R基がそれぞれ結合された炭素原子を含む、場合により置換されたC〜C、又は更にC10までの芳香環、又は場合により置換されたC〜C12メタロセンジイルを形成し;又は
3つの別個の隣接したR基は、一緒になって、前記R基がそれぞれ結合された炭素原子を含む、場合により置換されたナフタレン環を形成する)の基
を表す]の光学活性化合物であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記配位子が式(3)で示され、
その式中、R及びRは、同時に又は独立して、場合により置換された線状、分枝鎖状もしくは環状のC〜Cアルキル基、場合により置換されたフェニル又はナフチル基を表し;基R及びRは、同じP原子に結合され、一緒になって、場合により置換された飽和又は不飽和環を形成し、これらの環は5個、6個又は7個の原子を有し且つ前記R及びR基が結合されたリン原子を含み;且つ
Qは:
− 式
【化6】

(式中、mは1から3までの整数であり、且つ
2つの別個の隣接したR基は、一緒になって、場合により置換されたC〜C10芳香環又は場合により置換されたC〜C12フェロセンジイルを形成し、これらは前記R基がそれぞれ結合された炭素原子を含み;又は
3つの別個の隣接したR基は、一緒になって、場合により置換されたナフタレン環を形成し、該環は前記R基がそれぞれ結合された炭素原子を含む)の基
を表すものであることを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
式(3)の配位子が以下の部:
− 以下の式のメタロセン−1,1’−ジホスフィン
【化7】

− 以下の式のα,α’−ビス(ナフタレン)−β,β’−ジホスフィン
【化8】

− 又は以下の式のα,α’−ビス(ベンゼン)−β,β’−ジホスフィン
【化9】

[式中、Arはそれぞれ場合により1種又は2種のハロゲンによって置換されたC〜C10芳香族基、CF基又はC〜Cアルコキシ又はポリアルキレングリコール基、COOR、NR又はR基を表し、その際、RはC〜Cアルキル、又はC5−6シクロアルキル、アラルキル又は芳香族基である]
の1つを含むことを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項6】
前記配位子NNが、式
【化10】

[式中、点線は単結合又は二重結合を示すが、但し窒素原子につきただ1つの点線は二重結合を示し;
bは0、1又は2を表し;
21は水素原子又はR21’22CH基を表し、又は、点線が単結合を示す場合はR21’22C=基をも表し;
点線を有する炭素−窒素結合がそれぞれ単結合又は二重結合を表す時、cは0又は1であり;且つ
21’、R22、R23、R24、及びR25は、同時に又は独立して、水素原子、場合により置換された線状、分枝鎖状もしくは環状のC〜C10アルキル基又はアルケニル基、場合により置換されたC〜C10芳香族基を表し;R21’及びR24は一緒になって、場合により置換され且つ場合により1つ又は2つの追加の窒素又は酸素原子を含有する、飽和又は不飽和複素環を形成し、これらの環は5〜10個の原子を含有し且つ前記R21’又はR24が結合された炭素原子及びN原子を含み;R23及びR24、又はR24及びR25は、一緒に解釈する場合に、場合により置換された飽和又は不飽和環を形成し、これらの環は5〜12個の原子を有し且つ前記R23、R24、又はR25基が結合された炭素原子を含むが;但し少なくとも1つの前記R23又はR24基は水素原子ではないことを条件とし;
但し少なくとも1つのR24又はR22は水素原子ではなく、且つ少なくとも1つの配位しているアミノ基は第一級アミンである]
のものであることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記配位子NNが、式
【化11】

[式中、dは0又は1を表し;且つ
26又はR27はそれぞれ水素原子又は場合により置換された、線状、分枝鎖状もしくは環状のC−Cアルキル基又はフェニル基を表し;2つのR26、又は1つのR26及び1つの隣接のR27は、一緒になって、C−Cアルカンジイル又はアルケンジイルを形成するが;
但し少なくとも1つのR26は水素原子ではない]
のものであることを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項8】
NN配位子が、式
【化12】

[式中、R29は、R28について上で定義された通りに、場合により置換されたC〜Cアルキル基又はフェニル基を表し、且つR30は水素原子又はR29基を表す]
の化合物の1つであることを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項9】
前記配位子PP又はNNのいずれか1つ又は2つが光学的に活性な形であることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記塩基がアルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属又はアルカリ土類金属水酸化物、C1−10アミド化物、C10−26ホスファゼン、及び式(R31O)M又はR31OM’のアルコラートからなる群で選択され、その際、Mはアルカリ土類金属であり、M’はアルカリ金属又はアンモニウムNR32であり、R31は水素又はC〜Cの線状又は分枝鎖状アルキル基を表し、R32はC〜C10の線状又は分枝鎖状アルキル基を表すことを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2010−511036(P2010−511036A)
【公表日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−538817(P2009−538817)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際出願番号】PCT/IB2007/054746
【国際公開番号】WO2008/065588
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(390009287)フイルメニツヒ ソシエテ アノニム (146)
【氏名又は名称原語表記】FIRMENICH SA
【住所又は居所原語表記】1,route des Jeunes, CH−1211 Geneve 8, Switzerland
【Fターム(参考)】