説明

S−(−)−クロロコハク酸またはその誘導体からR−(−)−カルニチンを調製するための方法

【課題】改良されたS-(−)-クロロコハク酸の調製法を提供すること。
【解決手段】S-(+)-アスパラギン酸と硝酸ナトリウムの、塩酸水環境下での反応を含み、該S-(+)-アスパラギン酸が脱塩水中に1kg/L〜0.5kg/Lのw/v比で懸濁され、濃塩酸が0.35kg/L〜0.55kg/Lの範囲のS-(+)-アスパラギン酸の対塩酸比で塩化ナトリウムの存在下で添加され、S-(+)-アスパラギン酸と塩化ナトリウムが1:0.3〜1:0.5の範囲のモル比で存在しており、改良点が、反応混合物を−10℃〜−20℃の範囲の温度に冷却することにより反応生成物を沈殿させることにより単離することにある、S-(−)-クロロコハク酸の調製法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する発明は、(S)-(−)-クロロコハク酸またはその誘導体の一つから出発するR-(−)-カルニチン(L-(−)-カルニチンまたはR-(−)-3-ヒドロキシ-4-(トリメチルアンモニウム)ブチレート)(以後、簡便のためにL-カルニチンと呼ぶ)の調製法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
公知のように、カルニチンは不斉炭素原子を有し、エナンチオマーのL-カルニチンは、脂肪酸代謝に重要でありかつミトコンドリア膜貫通脂肪酸輸送において積極的に機能する、生物体に存在する異性体である。このため、遺伝的原因によるL-カルニチン欠損を患っている人のための救命薬物であることおよび、一時的なL-カルニチン欠損、例えば血液透析後に起こるものなどの場合に用いられること(特許文献1、シグマ-タウ)に加え、L-カルニチンはエネルギー代謝において重要な役割を果たし、そして、心機能を高めることができる非毒性天然生成物と見なされている。それゆえこれは、種々の心疾患、例えば虚血、狭心症、不整脈などの治療における補助薬として用いられている(特許文献2および3、シグマ-タウ)。L-カルニチンおよびその誘導体はさらに、かなりの程度で、血清脂質低下剤、抗痙攣薬および血液製剤保存剤として用いられてきた。近年では、その誘導体の一つ、プロピオニルL-カルニチン(Dromos登録商標)が、間欠性跛行の治療のためにイタリア市場に出始めた(特許文献4および5、シグマ-タウ)。
【0003】
いわゆる「健康食品」または「滋養剤」の分野における食品補助としてのL-カルニチンの使用も、実質上増してきている。
これら全てにより、なぜL-カルニチンが工業的に大量に製造されているか、またさらに、なぜ製品コストに関してL-カルニチンの工業的合成を改良するためにいろいろな試みがなされているかの説明がつく。
【0004】
一般的視点から、L-カルニチンを合成するのに用いることができる合成経路は本質的に3つある。
これらの第一は、医薬技術における専門家に公知の方法を用いて非キラルまたはラセミ体化合物から出発し、ラセミ体中間体(この中の一つの段階で、有用なエナンチオマーの分離が起こる)を経由するものである。この合成経路は、比較的低コストの出発物質、例えばラセミ体のカルニチンアミド(特許文献6、シグマ-タウ)、ラセミ体の2,3-ジクロロ-1-プロパノール(非特許文献1);3-ブテン酸(非特許文献2);ラセミ体の3-クロロ-2-ヒドロキシ-トリメチルアンモニウムクロライド(非特許文献3)、ラセミ体のエピクロロヒドリン(非特許文献4)、ジケテン(L. Tenud, Lonza,特許文献7、8および9)を用いることができるという利点を示すが、有用なエナンチオマーをラセミ体の混合物から単離したい場合に、当該分離を行う生成物の少なくとも50%の理論的損失があるという重大な不利益もある。実際、この合成ステップにおける収率はかなり低く(特許文献6、シグマ-タウ)、そして、ラセミ体の分割に用いるキラル化合物を回収しなければならないという欠点がある。
【0005】
第二の合成経路は、ここでもまた、非キラル生成物から出発して所望の配置のキラル中心を「作成」し、キラル環境で、触媒を用いるか(非特許文献5; 非特許文献6; 非特許文献7)または酵素を用いて(特許文献10、ロンザ)合成ステップを行うものである。この経路の不都合な点は、触媒のコストが高いことおよび、キラル中心を触媒作用により作成するとき、通常純粋なエナンチオマーを得ることができず、有用な異性体が様々なエナンチオマー過剰率で得られ、同じ物理化学的特性を有する2つの物質を分離しなければならないという、あらゆる困難を伴うという事実である。連続サイクルの反応器中で微生物を用いる場合、出発生成物の最終生成物への変換が完了せず、最終生成物を、潜在的なアレルゲンであることにおいて危険な生物起源のあらゆる有機不純物から細心の注意をもって精製しなければならない。
【0006】
第三の合成経路は、一連の反応を経由してL-カルニチンに変換されるキラル出発生成物の使用を含むが、この一連の反応はキラル中心が作用を受ける場合、立体特異的でなければならず、当該中心の立体化学が反応中維持されるか、または完全に転化されなければならないことを意味する(これは、達成するのが必ずしも簡単ではない)。他方、合成ステップがキラル中心に作用しない場合、最終生成物のエナンチオマー過剰率(ee)は出発生成物と同じか非常に近似していなければならず、これは、「ラセミ化」の反応条件が慎重に回避されなければならないことを意味する。他の制限は、通常非キラル生成物のコストよりもかなり高いキラル出発生成物のコストである。これらの障害の結果、キラル生成物、例えば1a R-(−)-エピクロロヒドリン(非特許文献8);D-ガラクトノ-1,4-ラクトン(非特許文献9);(R)-(−)-リンゴ酸(非特許文献10);(R)-(+)-4-クロロ-3-ヒドロキシ酪酸(非特許文献11; 非特許文献12; 非特許文献13; 非特許文献14);4-ヒドロキシ-L-プロリン(非特許文献15); (-)-β-ピネン(非特許文献16);L-アルコルビン酸またはアラビノース(非特許文献17);D-マンニトール(M. Fiorini and C. Valentini, Anic, 、特許文献11)から出発する種々の方法はいずれも、今日までL-カルニチンの工業生産には用いられていない。
【0007】
別のケースとして、第一と第二の合成経路を混合したものと見なすことができるシグマ-タウの特許文献12である。実際に開示されているのは、樟脳酸を用いるカルニチンアミドラセミ体混合物の分割によるL-カルニチンの調製法から廃棄生成物として得られるD-(+)-カルニチンから出発するL-カルニチンの調製である(特許文献6、シグマ-タウ)。
【0008】
前記の引用文献および特許引用文献は、L-カルニチンの経済的に有利な合成法を見出すために行われた非常に多くの研究のいくつかの概念を単に紹介するに過ぎない。実際には、2つの前記特許、特許文献6および特許文献10(それぞれ1978年および1987年までさかのぼる)に記載される、L-カルニチンの2つの主要な製造業者であるシグマ-タウおよびロンザにより用いられている2つの方法のみが、工業的および経済的に有効であることが判明している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】US4,272,549
【特許文献2】US4,649,159
【特許文献3】US4,656,191
【特許文献4】US4,968,719
【特許文献5】EP0793962
【特許文献6】US4,254,053
【特許文献7】DE 2,542,196
【特許文献8】DE 2,542,227
【特許文献9】DE2,518,813
【特許文献10】US4,707,936
【特許文献11】EP60.595
【特許文献12】イタリア特許No.1,256,705
【0010】
【非特許文献1】N.Kasai and K. Sakaguchi, Tetrahedron Lett. 1992, 33, 1211
【非特許文献2】D. Bianchi, W. Cabri, P. Cesti, F. Francalanci, M. Ricci, J. Org. Chem., 1988, 53, 104
【非特許文献3】R. Voeffray, J.C. Perlberger, L. Tenud and J. Gosteli, Helv. Chim. Acta, 1987, 70, 2058
【非特許文献4】H. Loster and D.M. Muller, Wiss. Z. Karl-Marx-Univ. Leipzig Math.-Naturwiss. R. 1985, 34, 212
【非特許文献5】H.C.Kolb, Y.L. Bennani and K.B.Sharpless, Tetrahedron: Asmmetry, 1993, 4, 133
【非特許文献6】H. Takeda, S. Hosokawa, M. Aburatani and K. Achiwa, Synlett, 1991, 193
【非特許文献7】M. Kitamura, T. Ohkuma, H. Takaya and R. Noyori, Tetrahedron Lett., 1988, 29, 1555
【非特許文献8】M.M. Kabat, A. R. Daniewski,and W. Burger, Tetrahedron: Asymmetry, 1997, 8, 2663
【非特許文献9】M. Bols, I. Lundt and C. Pedersen, Tetrahedron, 1992, 48, 319
【非特許文献10】F.B. Bellamy, M. Bondoux, P. Dodey, Tetrahedron Lett. 1990, 31, 7323
【非特許文献11】C.H.Wong, D.G.Drueckhammer and N.M. Sweers, J.Am. Chem. Soc., 1985, 107, 4028
【非特許文献12】D. Seebach, F. Giovannini and B. Lamatsch, Helv. Chim. Acta, 1985, 68, 958
【非特許文献13】E. Santaniello, R. Casati and F. Milani, J. Chem. Res., Synop., 1984, 132
【非特許文献14】B. Zhou, A.S. Gopalan, F.V.Middleswarth, W.R. Shieh and C.H.Sih; J. Am. Chem. Soc., 1983, 105, 5925
【非特許文献15】P. Renaud and D. Seebach, Synthesis, 1986, 424
【非特許文献16】R. Pellegata, I. Dosi, M. Villa, G. Lesma and G. Palmisano, Tetrahedron, 1985, 41, 5607
【非特許文献17】K. Bock, I. Lundt and C. Pederson; Acta Chem. Scand., Ser. B, 1983, 37, 341
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
キラルな生成物から出発し、「第三の経路」のあらゆる問題即ち、出発生成物のコストおよび、S-(−)-クロロコハク酸ないし、その誘導体の一つからL-カルニチンに至るのに必要な反応の立体選択性および位置特異性の問題を解決する方法を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の概要
キラルな生成物から出発し、「第三の経路」のあらゆる問題即ち、出発生成物のコストおよび、S-(−)-クロロコハク酸ないし、その誘導体の一つからL-カルニチンに至るのに必要な反応の立体選択性および位置特異性の問題を解決する方法を今回見出した。得られるL-カルニチンは実際非常に純粋なものであり、D-カルニチン率は<0.2%である。
【0013】
なお、本発明は、以下を提供する。
(1)適当な還元剤を用いる、式(I)の化合物:
【化1】

(式中、
およびXは同一であるか、または異なっていてよく、ヒドロキシ、C-Cアルコキシ、フェノキシ、ハロゲンであるか、または、XおよびXは合わせて一つの酸素原子であり、この場合、化合物はコハク酸無水物の誘導体である;
Yはハロゲン、メシルオキシまたはトシルオキシ基である)
の化合物の還元と、塩基および次いでトリメチルアミンを用いる次なる処理を含むL-カルニチン分子内塩の調製法。
(2)XおよびXがヒドロキシでありおよび、Yが塩素であり、還元をジボランを用いて行う(1)記載の方法。
(3)式(I)の化合物中、XがヒドロキシでありおよびXがメトキシであり、Yがハロゲンであり、還元を混合水素化物を用いて行う(1)記載の方法。
(4)還元を水素化ホウ素リチウムまたは水素化リチウムおよび水素化アルミニウムを用いて行う(3)記載の方法。
(5)式(I)の化合物中、XおよびXがハロゲンであり、Yがハロゲンであり、還元を水素化ホウ素ナトリウムを用いて行う(1)記載の方法。
(6)式(I)の化合物中、XおよびXがヒドロキシであり、Yがメシルオキシ基でありおよび、還元をジボランを用いて行う(1)記載の方法。
(7)式(I)の化合物中、XおよびXがメトキシであり、Yがハロゲンでありおよび、還元を混合水素化物を用いて行う(1)記載の方法。
(8)還元を水素化ホウ素リチウムまたは水素化リチウムおよび水素化アルミニウムを用いて行う(7)記載の方法。
(9)(1)または(3)記載の方法における中間体としての1-メチル水素(S)-2-クロロスクシネート。
(10)(1)または(5)記載の方法における中間体としての(S)-2-クロロスクシノイルジクロライド。
(11)(1)または(6)記載の方法における中間体としての(S)-メタンスルホニルオキシコハク酸。
(12)以下の反応図:
【化2】

によるL-カルニチン分子内塩の調製法であって、以下のステップ:
a)S-(−)-クロロコハク酸の対応するS-(−)-クロロコハク酸無水物への変換、
b)溶媒の存在下で混合水素化物を用いて(S)-(−)-クロロコハク酸無水物を還元して化合物を得、これを単離することなく、水、次いでアルカリ水酸化物およびトリメチルアミンを用いて処理することにより直接L-カルニチン分子内塩に変換すること、
を含む方法。
(13)ステップa)で変換を脱水剤を用いて行う(12)記載の方法。
(14)脱水剤が、アセチルクロライド/酢酸および無水酢酸から成る群から選択され、室温から90℃までの範囲の温度で行われる(13)記載の方法。
(15)ステップb)で、溶媒が非プロトン性有機溶媒または、有機溶媒の混合物である(12)記載の方法。
(16)非プロトン性溶媒が、テトラヒドロフラン、モノグリム、ジグリム、ジオキサン、酢酸エチルから成る群から選択される(15)記載の方法。
(17)ステップb)で、混合水素化物がNaBHである(12)または(15)または(16)のいずれかに記載の方法。
(18)(12)-(17)の方法における中間体としてのS-(−)-クロロコハク酸無水物。
(19)S-(+)-アスパラギン酸と硝酸ナトリウムの、塩酸水環境下、塩化ナトリウムの存在下での反応を含み、S-(+)-アスパラギン酸と塩化ナトリウムが1:0.3〜1:0.5の範囲のモル比で存在しており、改良点が、反応混合物を冷却することにより反応生成物を沈殿させることにより単離することにある、S-(−)-クロロコハク酸の調製法。
(20)沈殿化を−10℃〜−20℃の範囲の温度で行う(19)記載の方法。
(21)温度が−15℃である(20)記載の方法。
(22)S-(+)-アスパラギン酸と硝酸ナトリウムの、塩酸水環境下での反応を含むS-(−)-クロロコハク酸の調製法であって、改良点が、(19)に記載する先の調製反応からの母液を反応媒質として用い、当該母液を(19)記載の塩化ナトリウムと塩酸を少なくとも部分的に置換するものとして用いることにある方法。
(23)母液を(20)または(21)に記載する方法に規定されるS-クロロコハク酸の沈殿化温度で用いる(22)記載の方法。
(24)母液に加えて洗浄水が用いられる(22)または(23)記載の方法。
(25)反応媒質が、(22)記載の方法からの洗浄水を含む(19)記載の方法。
(26)S-(+)-アスパラギン酸と硝酸ナトリウムの、塩酸水環境下での反応を含むS-(−)-クロロコハク酸の調製法であって、改良点が、(19)に記載する先の調製反応からの母液を反応媒質として用い、当該母液をS-(−)-クロロコハク酸の沈殿化温度でおよび、(19)記載の塩化ナトリウムおよび塩酸を少なくとも部分的に置換するものとして反応器に移しおよび、当該S-(−)-クロロコハク酸を抽出により単離することにある方法。
(27)S-(−)-クロロコハク酸と無水酢酸の反応を含むS-(−)-クロロコハク酸無水物の調製法であって、改良点が、(19)-(25)のいずれかに記載の方法から直接生じる粗S-(−)-クロロコハク酸を使用することにある方法。
(28)別に、S-(−)-クロロコハク酸が(26)記載の方法から直接得られる(9)記載の方法。
(29)L-カルニチン分子内塩が次いでその塩の一つに変換される前記(1)から(28)いずれかに記載の方法。
(30)塩が医薬上許容される塩である(29)記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
特に、本明細書に開示する発明は、適当な還元剤を用いる式(I)の化合物:
【化3】

(式中、XとXは同一であるか、または異なっていてよく、ヒドロキシ、C-Cアルコキシ、フェノキシ、ハロゲンであるか、または、XおよびXは合わせて一つの酸素原子であり、この場合、化合物はコハク酸無水物の誘導体である;
Yはハロゲン、メシルオキシまたはトシルオキシ基である)
の化合物の還元と、塩基および次いでトリメチルアミンを用いる次なる処理を含むL-カルニチン分子内塩の調製法に関する。
【0015】
-Cアルコキシ基の例は、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシおよびtert-ブトキシである。メトキシおよびエトキシ基が好ましい。ハロゲンの例は、塩素、臭素および要素である。塩素が好ましい。
【0016】
式(I)の化合物の還元は、当該分野の通常の経験を有する者が、当該分野に関する彼ら自身の一般的知識に基づき入手することができるものから選択されてよい適当な還元剤を用いて行われる。本明細書中に開示する発明による方法を行うのに適した還元剤は水素化物である。水素化物の例には、ジボラン、混合水素化物、例えば水素化リチウムおよび水素化アルミニウム、水素化ホウ素リチウムまたは水素化ホウ素ナトリウムが挙げられる。適当な還元剤の選択は、処理されるべき式(I)の化合物に関連して行う。この選択は、当該分野における通常の経験を有する者により、その一般的知識に基づいてなされ、さらなる説明は必要でない。
【0017】
本発明による方法は、有機溶媒、好ましくは非プロトン性の溶媒、例えばテトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル(DME)または2-メトキシエチルエーテル(ジグリム)のような適当な反応媒質中で行う。
反応条件を決定するのに有用な反応温度、反応物濃度および全ての他のパラメータは、標準的な有機化学マニュアルを顧慮して得ることができる。
【0018】
本発明の第一態様において、式(I)の化合物はS-(−)-クロロコハク酸(XおよびXはヒドロキシであり、Yは塩素である)である。当該酸は、良好な収率で、および立体選択的反応を用いて例えばL-アスパラギン酸(S-(+)-アスパラギン酸)(J.A. Frick, J.B. Klassen, A. Bathe, J.M. Abramson and H. Rapoport, Synthesis, 1992, 7, 621およびその中の引用文献)から調製することができるか、または、市場で購入することができる。
この第一の態様では、還元剤はジボランである。
【0019】
カルニチン分子内塩は次いで、S-(−)-クロロコハク酸の還元生成物から、いずれの中間体も単離することなく、水酸化ナトリウム水溶液およびトリメチルアミンを用いる処理により得られる。反応温度は重要でなく、選択される反応媒質、反応物濃度および、うまく反応を利用するのに有用な全ての他のパラメータに基づき適切に選択することができる。例えば反応は室温で行うことができるが、反応条件と矛盾しないより高い温度を用いることもできる。
【0020】
本発明の第二の態様では、式(I)の化合物は、Xがヒドロキシ、Xがメトキシでありおよび、Yがハロゲン、好ましくは塩素であるものである。この好ましい化合物は、例えば、前記のごとくS-(−)-クロロコハク酸から出発して、対応する無水物を経由する変換により調製することができる。種々の2-ハロゲン置換コハク酸は、公知の方法に従い調製される。
【0021】
転換は、S-(−)-クロロコハク酸を脱水剤、好ましくはアセチルクロライド/酢酸または無水酢酸で、室温〜90℃の温度で処理することにより達成される。専門家がかれら自身の一般的知識から導き出すことができる、他の反応物、反応媒質および条件を用いる転換の他の態様も可能である。こうして得られたS-(−)-クロロコハク酸無水物を適当な量のメタノールで処理して所望の式(I)の化合物が得られる。Xが取り得る意味の一つ、アルコキシまたはフェノキシである式(I)の化合物は、本発明のこの第二態様の別形に従い、出発無水物の処理に適したアルコールまたはフェノールを用いて得ることができる。
この第二態様において、還元剤は混合水素化物、例えば水素化ホウ素リチウムまたは水素化リチウムおよび水素化アルミニウムである。
【0022】
カルニチン分子内塩は次いで、いずれの中間体生成物も単離することなく水酸化ナトリウムおよびトリメチルアミンの水溶液を用いて、第一の態様で記載したものと同じ方法で、1-メチル水素(S)-2-クロロスクシネートの還元生成物から直接得られる。
【0023】
本発明の第三の態様では、式(I)の化合物はXおよびXがハロゲン、好ましくは塩素でありおよび、Yがハロゲン、好ましくは塩素でありおよび、より好ましくはXおよびXおよびYが塩素であるものである。S-(−)-クロロコハク酸ジクロライドは、アシルクロライドを得るための公知の方法を用いてS-(−)-クロロコハク酸から出発して調製することができる。本発明で認められる他のハロゲン誘導体も、同じ方法で調製することができる。
【0024】
この第三の態様では、好ましい還元剤は水素化ホウ素ナトリウムである。
カルニチン分子内塩は次いで、先の反応の還元生成物から、前記の場合と全く同じ方法にて直接得られる。
【0025】
本発明の第四の態様では、式(I)の化合物はXおよびXがヒドロキシでありおよび、Yがメシルオキシ基であるものである。当該化合物は、公知のヒドロキシ酸官能基化反応を用いてS-リンゴ酸およびメタンスルホニル-クロライドから出発して調製することができる。Yがトシルオキシである式(I)の化合物は、同じ方法で調製される。
この第四の態様では、還元剤はジボランである。カルニチン分子内塩はまた、前記の場合と全く同じ方法で前記反応の還元生成物から得られる。
【0026】
本発明の第五の態様では、式(I)の化合物は、XおよびXがメトキシでありおよび、Yがハロゲン、好ましくは塩素であるものである。好ましい当該化合物は、例えばJ.Am.Chem.Soc. (1952), 74, 3852-3856に記載されるように、S-(−)-クロロコハク酸およびジアゾメタンから出発するか、または、メタノールおよび酸触媒を用いて、好ましくは脱水剤の存在下で調製することができる。
【0027】
この第五の態様では、好ましい還元剤は混合水素化物、例えば水素化ホウ素リチウムまたは水素化リチウムおよび水素化アルミニウムである。
カルニチン分子内塩は次いで、前記反応の還元生成物から、前記の場合と全く同じ方法で得られる。
【0028】
本発明の第六の態様では、式(I)の化合物は、XとXは合わせて一つの酸素原子でありおよびYがハロゲンまたはメシルオキシまたはトシルオキシ、好ましくはハロゲン、好ましくは塩素であるものである。
この第六の態様は、前に特に詳細に開示されており、S-(−)-クロロコハク酸無水物を経るL-カルニチンへのS-(−)-クロロコハク酸の変換を含む好ましい態様である。
【0029】
この態様に従い、L-カルニチン分子内塩の調製のための方法は以下のステップを含む。:
a)S-(−)-クロロコハク酸の対応するS-(−)-クロロコハク酸無水物への変換;
b)溶媒の存在下で混合水素化物を用いてS-(−)-クロロコハク酸無水物を還元し、化合物を得、これを単離することなく、アルカリ水酸化物およびトリメチルアミンを用いる処理によりL-カルニチン分子内塩に直接変換すること。
【0030】
この方法を説明する反応図は以下のようである。
【化4】

【0031】
本発明による方法を実施する最良の方法
S-(−)-クロロコハク酸の調製
工業レベルでの合成過程において生じる主な問題の一つは、最終生成物の収量に対する反応物および原料、例えば溶媒および補助物質のコストの割合である。
工業化学において、キラル化合物の使用がますます頻繁になされているが、市場における実質量でのその調達は、高いコストと調製が困難であることにより不都合である。
S-(−)-クロロコハク酸は依然として市場で調達するのが決して容易ではなく、それが中間体として用いられる独自の合成過程のコンテクスト中で調製することが経済的にも好都合と言えよう。
【0032】
前記引用文献(J.A. Frick et al., 1992)中では、S-(−)-クロロコハク酸の調製は単に、「S-アスパラギン酸はS-クロロコハク酸に、硝酸ナトリウムの塩酸溶液を用いる処理により変換された」とのみ記載される。当該引用文献の621頁の図では、S-アスパラギン酸からS-クロロコハク酸への合成ステップの収率は70%である。実施例部分では、S-ブロモコハク酸に関する調製例のみが、88%の収率で提供されている。ブロモコハク酸の調製条件は、クロロコハク酸に関して記載されるものから類推されるが、これと同じではない。工業的視点からは、Frick et alにより開示されるブロモコハク酸の合成は経済的観点においてあまり適切ではない。第一に、反応混合物の希釈度が非常に高く、例として、S-(+)-アスパラギン酸は最終反応混合物中、5%w/vの程度で存在している。抽出による最終生成物の単離の場合に明らかな不都合が生じ、3%w/vのS-(−)-ブロモコハク酸溶液を得るのにかなりの量の酢酸エチルが必要である。加えて、88%の化学量的収率で得られる最終生成物は、特に光学純度に関して非常に純度の高いものではない(e.e.=94%)。
【0033】
本明細書中に開示する発明の開発段階で、S-(−)-クロロコハク酸の調製のための改良法を今回見出したが、これにより少なくともほぼ80%の高収率、特に反応体積および生成物単離に関するより良好な反応条件および、工業的方法のコストを結果的に削減する反応物の再利用が達成される。
【0034】
それゆえ、本明細書中に記載する本発明の構成は、塩酸水環境下、塩化ナトリウムの存在下でのS-(+)-アスパラギン酸と硝酸ナトリウムの反応を含むS-(−)-クロロコハク酸の調製法を包含し、ここでの改良点は、反応混合物の冷却による沈殿化により反応生成物を単離することにある。
【0035】
本明細書中に開示する本発明の別の目的は、塩酸水環境下でのS-(+)-アスパラギン酸と硝酸ナトリウムの反応を含むS-(−)-クロロコハク酸の調製法であって、ここでの改良点は、前記方法のごとき先に行った調製反応の母液を反応媒質として使用すること、当該母液を第一の過程の塩化ナトリウムおよび塩酸を少なくとも部分的に置換するものとして用いることにある。この第二の過程においては、先の反応の最終生成物の洗浄水も母液に加えて用いられる。
【0036】
本発明によるS-(−)-クロロコハク酸の調製法には、塩化ナトリウムおよび濃塩酸の存在下での、S-(+)-アスパラギン酸の硝酸ナトリウムとの反応が含まれる。
塩化ナトリウムに対するS-(+)-アスパラギン酸のモル比は1:0.3〜1:0.5、好ましくは1:0.35〜1:0.45に渡る。沈殿化は、−10℃〜−20℃、および好ましくは−15℃の温度で行う。
本明細書中に記載する発明に従い、S-(+)-アスパラギン酸の濃度は、反応混合物中15%より大きくおよび、好ましくは16%w/vである。
【0037】
この方法の第一の態様では、S-(+)-アスパラギン酸を脱塩水中1kg/L〜0.5kg/L、好ましくは0.66kg/Lのw/v比で、塩化ナトリウムの存在下、前記のモル比で懸濁し、0.35kg/L〜0.55kg/L、好ましくは0.45kg/Lの範囲のS-(+)-アスパラギン酸の対塩酸比で濃塩酸を添加する。混合物の温度は0℃未満、好ましくは−5℃まで下げる。当該方法の好ましい態様では、反応混合液は不活性雰囲気、例えば窒素またはアルゴン中で保護する。次いで硝酸ナトリウムを攪拌下、1.2〜2.5、好ましくは1.78のモル比で添加する。硝酸ナトリウムは固体形態で添加しても、または、適量の水に溶解してもよい。硝酸ナトリウムを溶液形態で添加する場合、これはアスパラギン酸懸濁液に最初に用いた水の一部を用いて適切に調製される。硝酸ナトリウムの添加は、反応温度をモニターしながら行う。
【0038】
反応の進行は、窒素の発生を観察することによりモニターすることができる。反応が始まったら、窒素の発生を前記の不活性雰囲気に置き換えてよい。
反応の完了を促進するため、硝酸ナトリウムの添加が完了したとき、自然に温度が上がるにまかせるか、または混合液を加熱するかのいずれかにより反応温度を上げてもよい。好ましくは、当該温度は0℃まで上げるべきである。
生成物の単離は常套法を用いるが、ここに開示する本発明において冷却すること、例えば−15℃まで冷却することによる最終生成物の沈殿化が、特に反応混合物中の有機不純物(未反応のフマル酸、リンゴ酸およびアスパラギン酸)の存在に関してとりわけ有利であることが見出された。
【0039】
工業的視点から、本発明による方法は、連続サイクルに適用されても、継続的に適用されても好都合である。実際には、S-(−)-クロロコハク酸の連続調製により反応物の一部の回収が可能となる。
第一反応(反応A)の母液および可能な限り洗浄水をも、その後の調製(反応B)のための反応媒質として用いる。有利には、反応Aの母液(実際には塩水)は、低温(例えば−15℃)でその後の反応(反応B)の他の成分と混合することができ、これにより、冷却が省略されおよび、反応時間が加速される。有利には、反応Aでは反応媒質はさらに反応Bの洗浄水を含む。反応Aで、反応媒質に反応Bの洗浄水を含めることもできる。
【0040】
つまり、本明細書中に開示する発明の別の目的は、S-(−)-クロロコハク酸の調製法であって、塩酸水環境下でのS-(+)-アスパラギン酸と硝酸ナトリウムの反応を含む方法であり、ここでの改良点は、前に記載したような先の調製反応の母液を反応媒質として使用すること、当該母液を、第一の過程の塩化ナトリウムおよび塩酸を少なくとも部分的に置換するものとして用いることにある。好ましくは、当該母液を先の反応においてのS-(−)-クロロコハク酸沈殿化温度ですぐに再利用し、そのため、まだ添加されていない反応物とそれらを混合することにより、−5℃(この温度はこの反応の通常の温度である)付近の出発混合液の温度が直接利用可能となる。有利には、先の反応からの洗浄水を母液に加えて用いることもできる。
【0041】
または、本発明による方法には、塩酸水環境下でのS-(+)-アスパラギン酸と硝酸ナトリウムの反応が含まれ、ここでの改良点は、先の調製反応の母液を反応媒質として使用すること、当該母液を塩化ナトリウムと塩酸を少なくとも部分的に置換するものとして用いること、S-(−)-クロロコハク酸を抽出により単離することにある。この場合、いずれの無機残存物も含まず90%を超える収率が得られる。
【0042】
好ましくは、当該母液を先の反応におけるS-(−)-クロロコハク酸の沈殿温度ですぐに再利用し、そして、それらをまだ添加していない反応物と混合することにより、出発混合液として−5℃(この温度はこの反応の通常の温度である)付近の温度が直接利用可能となる。本発明による方法は、本明細書中に開示する本発明の目的であるL-カルニチンの調製法の内容に加えた場合、よりいっそう有利である。
実際、本明細書中に開示する沈殿法により得られるS-(−)-クロロコハク酸は15〜25%の範囲の割合の塩化ナトリウムを含むが、S-(−)-クロロコハク酸無水物の調製に直接用いることができ、ここで、含有される塩化ナトリウムは容易に除去することができる。
【0043】
それゆえ、本発明のさらなる目的は、S-(−)-クロロコハク酸無水物の調製法であって、S-(−)-クロロコハク酸と無水酢酸の反応を含む方法であり、この方法における改良点は、前記の方法から直接生じる粗S-(−)-クロロコハク酸を使用することにある。
【0044】
S-(−)-クロロコハク酸無水物の調製
S-(−)-クロロコハク酸から当該ジカルボン酸を無水物に変換することにより得られるS-(−)-クロロコハク酸無水物は新規な化合物であり、それゆえ、本明細書に開示する発明は、ここに開示する方法における反応中間体としての当該化合物を含む。変換は、S-(−)-クロロコハク酸を脱水剤、好ましくはアセチルクロライド/酢酸または無水酢酸を用い、室温〜90℃の範囲の温度で処理することにより起こる。
カルニチン分子内塩は次いでS-(−)-クロロコハク酸無水物から、適当な反応媒質、例えば有機溶媒、好ましくは非プロトン性の有機溶媒、例えばテトラヒドロフラン(THF)、モノグリム、ジグリム、ジオキサン、エチルまたはメチル酢酸(EtOAcまたはMeOAc)またはこれらの混合物中で混合水素化物、好ましくはNaBHを用いる還元によりおよび、こうして得られた粗生成物の水酸化ナトリウム水溶液およびトリエチルアミンとの、室温〜120℃、好ましくは60℃〜100℃の温度での反応により得られる。
【0045】
化合物、1-メチル水素(S)-2-クロロスクシネート、(S)-2-クロロスクシノイルジクロライドおよび(S)-メタンスルホニルオキシコハク酸は新規であり、本明細書中、本発明による方法のための中間体として請求項に記載する。
L-カルニチン分子内塩は、酸を用いて、以下の略図で示されるように塩化することができる。
【0046】
【化5】

(式中、Xは、例えばハロゲン化物イオン(好ましくは塩素)、酸スルフェート、メタンスルホネートまたは酸フマレートである)または、
【化6】

(式中、X2−はジカルボン酸の対イオン、例えばタートレートイオンまたはムケートイオンである。)
もちろん、適当な対イオン、通常は医薬、栄養および家畜の飼育における使用に許容される非毒性酸の対イオンおよび、L-カルニチンおよびその誘導体、例えばアシルカルニチン、カルニチンエステルおよびアシルカルニチンエステルに関して予想される使用に許容される非毒性酸の対イオンを用いるあらゆる可能な塩化が可能である。
以下の実施例は本明細書中に開示する発明をさらに説明するものである。
【実施例】
【0047】
実施例1 S-(−)-クロロコハク酸「反応A」
激しく攪拌した、200g(1.50モル)のL-アスパラギン酸、40gの塩化ナトリウム(0.68モル)、440ml(523.6g)の37%HCl(193.74gのHCl、5.32モル)、200mlの脱塩水、「反応B」で得られる固体の洗浄水100mlから成る混合液に、184g(2.66モル)の固体の亜硝酸ナトリウムを約2時間で、−5℃の温度で窒素下で添加する。同じ温度で2.5時間攪拌し続け、温度を約1時間で+0℃まで上げ、混合液をこの温度にさらに1時間置き、次いで温度を‐15℃まで下げる。1.5時間後、この温度で混合物をブフナーフィルター上で真空濾過し、真空ポンプ吸引下で約0.5時間排水させる。固体を次いで80mlの水で0℃にて洗浄し、真空フィルター上にさらに1.5時間置く。
粗生成物をオーブン中、40℃にて真空乾燥させる。およそ15-20%の塩化ナトリウムの混入が見られる。
存在する不純物の、NMRスペクトルに基づいて算出されるモルパーセントを以下に示す。
【0048】
【表1】

100%純粋であると推定する(S)-(−)-クロロコハク酸の収率は、80-81%である。
【0049】
実施例2 (S)-(−)-クロロコハク酸「反応B」
激しく攪拌した、前の反応からの母液と洗浄水(約650ml)の混合液に、200g(1.50モル)のL-アスパラギン酸、360ml(428.4g)の37%HCl(158.51gのHCl、4.35モル)および100mlの脱イオン水を添加し、次いで184g(2.66モル)の固体の硝酸ナトリウムを約2時間で、−5℃の温度にて、窒素下で添加する。同じ温度で2.5時間攪拌し続け、温度を約1時間で+0℃まで上げ、混合液をこの温度でさらに1時間置き、次いで温度を‐15℃まで下げる。1.5時間後、この温度で混合液をブフナーフィルター上で真空濾過し、真空ポンプ吸引下で約0.5時間「排出」させる。固体を次いで80mlの水で0℃にて洗浄し、真空フィルター上にさらに1.5時間置く。
粗生成物をオーブン上で40℃にて真空乾燥させる。およそ15−20%の塩化ナトリウムの混入を示す。
NMRスペクトルに基づき算定する、存在する不純物のモルパーセントは以下のようである。
【0050】
【表2】

100%純粋であると推定するS-(−)-クロロコハク酸の収率は、86-87%である。
粗生成物サンプルの、水を用いてのさらなる結晶化により得られる純粋な生成物は、180-182℃の融点を有する。
反応A+Bの全収率は、83-84%である。
【0051】
実施例3 S-(−)-クロロコハク酸無水物
前調製の残存物としての45-80gの塩化ナトリウムを含む300g(1.97モル)のS-クロロコハク酸および241.5mL(2.56モル)の無水酢酸の懸濁液を、52-55℃にて3.5時間攪拌する。不溶性の塩化ナトリウムを濾過除去し、透明の、無色の溶液を真空蒸発させて乾燥させる。最終的に残った酢酸と無水酢酸を除去するために、固体の残存物を300mlの無水イソプロピルエーテルで抽出し、懸濁液を激しく5分間攪拌し、濾過して、固体をフィルター上でさらに90ml(66g)の新たなイソプロピルエーテルで洗浄する。無水環境にて真空乾燥させた後、251.3gのS-(−)-クロロコハク酸無水物が得られる(95%;m.p.75-80℃;[α]=−4.16(c=1.0;酢酸エチル))。
【0052】
実施例4 S-(−)-クロロコハク酸無水物
53g(0.347モル)のS-(−)-クロロコハク酸の無水酢酸38mL(0.40モル)懸濁液を70℃で、固体が完全に溶解するまで攪拌し、その後、酢酸および過剰の無水酢酸を真空蒸発させる。この時点で、シクロヘキサンを用いた処理後の濾過によるか、または0.5mmHgにて蒸発させることにより、S-(−)-クロロコハク酸無水物を回収することができる。およそ95%の収率が全ケースで得られる(=44.4g)(ee>99%)。
【0053】
【表3】

[α]D25=−3.78°(c=10、EtOAc)
1H NMR (CDCl3, δ, p.p.m.): 3.21 (dd, J = 18.7), 5.2, (1H, CHH-CO); 3.59 (dd, J = 18.7), 9.0, (1H, CHH-CO); 4.86 (dd, J = 9.0, 5.2, 1H, CH-Cl);
【0054】
実施例5 1-メチル水素(S)-2-クロロスクシネート
エタノールを含まない、−65℃に維持した6.00g(0.0446モル)の(S)-クロロコハク酸無水物のCHCl(60ml)溶液に、ゆっくりと1.80mL(0.0446モル)のMeOHのCHCl(20mL)混合液を添加する。溶液を同じ温度に1時間置き、次いで室温まで3時間で上昇させる。さらに2時間後、溶液を10mLのNaOH・1Nで洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、乾燥状態まで真空蒸発させる。クロマトグラフィーカラム上で精製した後、5.94g(80%)の標題化合物が得られる。H-NMR DMSO-d6中: δ 2.89 (1H, dd, CHHCHCl), 3.00 (1H, dd, CHHCHCl), 3.71 (3H, s, COOCH3), 4.78 (1H, t, CHCl).
【0055】
実施例6 (S)-2-クロロスクシノイルジクロライド
10.00g(0.0656モル)の(S)-クロロコハク酸のチオニルクロライド(20.0mL(0.274モル))懸濁液を1時間還流する。冷却後、溶液を乾燥状態まで真空蒸発させる。残存物を90-93℃/10mmHgにて蒸留し、12.56g(85%)の標題化合物を得る。H-NMR DMSO-d6中: δ 3.50 (1H, dd, CHHCHCl), 3.60 (1H, dd, CHHCHCl), 5.20 (1H, t, CHCl).
【0056】
実施例7 (S)-メタン-スルホニルオキシコハク酸
8.04g(0.060モル)の(S)-リンゴ酸と9.2mL(0.120モル)のメタンスルホニルクロライドのTHF(60.0mL)溶液を10時間還流する。冷却後、溶液を乾燥状態まで真空蒸発させ、12.60g(99%)の標題化合物が得られる。H-NMR DMSO-d6中: δ 2.41 (3H, s, CH3SO3), 2.90 (2H, m, CH2), 5.47 (1H, t, CHOSO2).
【0057】
実施例8 ジメチル(S)-クロロスクシネート
7.04g(0.046モル)の(S)-クロロコハク酸のメタノール(60mL)溶液に、2.0mLの濃HSOを添加する。3日後、室温で溶液を真空蒸発させ、残存物がEtOAcで抽出される。溶液を5%のNaHCO水溶液で洗浄し、有機相をNaSOにて乾燥させる。7.90g(94%)の標題化合物が蒸発により得られる。H-NMR DMSO-d6中: δ 3.00 (1H, dd, CHHCHCl), 3.12 (1H, dd, CHHCHCl), 3.61 (3H, s, COOCH3), 3.71 (3H, s, COOCH3), 4.77 (1H, t, CHCl).
【0058】
実施例9 (S)-2-クロロコハク酸の還元によるL-カルニチン分子内塩
−15℃、窒素下に維持する6.00g(0.039モル)の(S)-クロロコハク酸の無水THF(20mL)懸濁液に、58.5mL(0.0585モル)の1MのボランTHF溶液を2時間で添加する。20時間後同じ温度で、混合液を5.5mLの水で処理し、室温にて3時間攪拌下に置く。11mLの6M・NaOHを添加後、相を分離する。水相に7mLの40%MeN水溶液を添加し、溶液を室温にて3時間攪拌下に置く。溶液を真空濃縮させ、生じる溶液を37%のHClでpH5にする。この溶液を蒸発させて固体を得、これを30mlのMeOHで抽出する。不溶部分の濾過により得る溶液を真空蒸発させて乾燥させる。粗生成物を2%NHOHを用いる溶離によるイオン交換カラム(Amberlite IR 120型H)上で精製する。純粋な生成物を含むフラクションの蒸発を用いて3.14g(50%)のL-カルニチンが得られる。
【0059】
実施例10 1-メチル水素(S)-2-クロロスクシネートによるL-カルニチン分子内塩
−15℃、窒素下に維持する6.50g(0.039モル)のメチル(S)-2-クロロスクシネートの無水DME(30mL)懸濁液に、0.87g(0.040モル)の95%LiBHを少しずつ2時間で添加する。20時間後、前の実施例9で記載した温度と同じ温度で処理し、3.45g(55%)のL-カルニチンが得られる。
【0060】
実施例11 (S)-2-クロロスクシノイルジクロライドの還元によるL-カルニチン分子内塩
−15℃に窒素下で維持する7.39g(0.039モル)の(S)-2-クロロスクシノイル-ジクロライドの無水DME(30mL)溶液中に、0.74g(0.0195モル)のNaBHを少しずつ2時間で添加する。20時間後、実施例9に記載した温度と同じ温度で混合物を処理し、2.83g(45%)のL-カルニチンが得られる。
【0061】
実施例12 (S)-2-メタンスルホニルオキシコハク酸の還元によるL-カルニチン分子内塩
−15℃に窒素下で維持する8.27g(0.039モル)の(S)-メタンスルホニルオキシコハク酸の無水THF(30mL)懸濁液に、THF中1Mの58.5mL(0.0585モル)の塩水溶液を2時間で添加する。20時間後、実施例9に記載した温度と同じ温度で混合液を処理し、2.51g(40%)のL-カルニチンが得られる。
【0062】
実施例13 ジメチル(S)-2-クロロスクシネートの還元によるL-カルニチン分子内塩
−15℃に、窒素下で維持した7.04g(0.039モル)のジメチル(S)-2-クロロスクシネートの無水DME(30mL)懸濁液に、0.69g(0.030モル)の95%LiBHを少しずつ2時間で添加する。20時間後、実施例9に記載した温度と同じ温度で混合液を処理し、3.32g(53%)のL-カルニチンが得られる。
【0063】
実施例14 (S)-(−)-クロロコハク酸無水物
53g(0.347モル)のS-(−)-クロロコハク酸の無水酢酸(38mL(0.40モル))懸濁液を70℃で、固体が完全に溶解するまで懸濁し、その後、酢酸および過剰の無水酢酸を真空蒸発させる。この時点でシクロヘキサンを用いる処理後の濾過によるか、または0.5mmHgでの蒸留により、S-(−)-クロロコハク酸無水物を回収することができる。およそ95%の収率(=44.4g)を全ケースで得る(ee99%)。
【0064】
【表4】

[α]D25 = -3.78° (c = 10, EtOAc)
1H NMR (CDCl3, δ, p.p.m.): 4.86 (dd, J = 9.0 Hz, 5.2 Hz, 1H, CH-Cl); 3.59 (dd, J = 18.7 Hz, 9.0 Hz, 1H, CHH-CO); 3.21 (dd, J = 18.7 Hz, 5.2 Hz, 1H, CHH-CO).
【0065】
L-カルニチン分子内塩
0℃に維持する、激しく攪拌する6.13g(0.162モル)のNaBHの無水THF(18mL)懸濁液に、43.4g(0.323モル)のS-(−)-クロロコハク酸無水物の無水THF(90mL)溶液を添加する。懸濁液/溶液をその温度で8時間攪拌し、次いで水で急冷し、1時間攪拌下に置き、次いでNaOH・4Nを2回に分けて添加する(1回目は懸濁液をpH7.5にするために、2回目は有機溶媒を真空蒸発後、0.484モルのNaOH(全部で121mL)の全添加を確実にするために添加する)。当該溶液に51mL(0.337モル)のMeNの40%水溶液を添加し、全てを密封容器に移し、16時間70℃に置く。反応の終わりに残るトリメチルアミンを真空蒸発により除去し、次いで80.75mL(0.323モル)のHCl・4Nを添加する。L-カルニチン分子内塩を含む溶液を約8%の不純物(主にフマル酸、リンゴ酸、水酸化クロトン酸、D-カルニチン)および塩化ナトリウムと共に、電気透析により脱塩し、次いで真空乾燥させる。38.5gの粗生成物を得、これをイソブチルアルコールで結晶化させて31.4g(60.4%)の純粋なL-カルニチン分子内塩(ee>99.6%)が得られる。
【0066】
【表5】

[α]D25=-31.1°(c=1.0, H2O)
1H NMR (D2O, δ, p.p.m.): 4.57 (m, 1H, CH-O); 3.41 (d, 2H, CH2-COO); 3.24 (s, 9H, (CH3)3-N); 2.45 (d, 2H, CH2-N).
【0067】
L-カルニチンクロライド
反応の終わりに密閉容器中で冷却後の内容物を真空乾燥させることを除き、前に記載するように反応を厳密に繰り返す。残存物を53.5ml(0.646モル)の37%HClで抽出し、再び真空乾燥させる。残存物を2回エタノールで、1回目は200mLで、2回目は60mLで、両方とも沈降/濾過して抽出する。プールしたエタノール溶液を約50mLの容積まで真空濃縮し、これに600mLのアセトンを添加し、L-カルニチンクロライドを沈殿させる。一晩後、室温で固体を濾過して47.8gの粗L-カルニチンクロライドを得る。38.5g(60.4%)の純粋なL-カルニチンクロライドを、イソプロパノールを用いる結晶化により得る(ee>99.6%)。
【0068】
【表6】

[α]D25 = -23.0°(c=0.86, H2O)
1H NMR (CD3OD, δ, p.p.m.): 4.58 (m, 1H, CH-O); 3.48 (m, 2H, CH2-N); 3.27 (s, (CH3)3-N); 2.56 (d, J = 6.7 Hz, 2H, CH2-COOH).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
S-(+)-アスパラギン酸と硝酸ナトリウムの、塩酸水環境下での反応を含み、該S-(+)-アスパラギン酸が脱塩水中に1kg/L〜0.5kg/Lのw/v比で懸濁され、濃塩酸が0.35kg/L〜0.55kg/Lの範囲のS-(+)-アスパラギン酸の対塩酸比で塩化ナトリウムの存在下で添加され、S-(+)-アスパラギン酸と塩化ナトリウムが1:0.3〜1:0.5の範囲のモル比で存在しており、改良点が、反応混合物を−10℃〜−20℃の範囲の温度に冷却することにより反応生成物を沈殿させることにより単離することにある、S-(−)-クロロコハク酸の調製法。
【請求項2】
温度が−15℃である請求項1記載の方法。
【請求項3】
S-(+)-アスパラギン酸と硝酸ナトリウムの、塩酸水環境下での反応を含むS-(−)-クロロコハク酸の調製法であって、改良点が、請求項1に記載する先の調製反応からの母液を反応媒質として用い、当該母液を請求項1記載の塩化ナトリウムと塩酸を少なくとも部分的に置換するものとして用いることにある方法。
【請求項4】
母液を請求項1または2に記載する方法に規定されるS-(−)-クロロコハク酸の沈殿化温度で用いる請求項3記載の方法。
【請求項5】
母液に加えて洗浄水が用いられる請求項3または4記載の方法。
【請求項6】
反応媒質が、請求項3記載の方法からの洗浄水を含む請求項1記載の方法。
【請求項7】
S-(+)-アスパラギン酸と硝酸ナトリウムの、塩酸水環境下での反応を含むS-(−)-クロロコハク酸の調製法であって、改良点が、請求項1に記載する先の調製反応からの母液を反応媒質として用い、当該母液をS-(−)-クロロコハク酸の沈殿化温度で、請求項1記載の塩化ナトリウムおよび塩酸を少なくとも部分的に置換するものとして反応器に移し、当該S-(−)-クロロコハク酸を抽出により単離することにある方法。
【請求項8】
S-(−)-クロロコハク酸と無水酢酸の反応を含むS-(−)-クロロコハク酸無水物の調製法であって、改良点が、請求項1−6のいずれかに記載の方法から直接生じる粗S-(−)-クロロコハク酸を使用することにある方法。
【請求項9】
S-(−)-クロロコハク酸が請求項7記載の方法から直接得られる請求項1記載の方法。

【公開番号】特開2010−229157(P2010−229157A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153891(P2010−153891)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【分割の表示】特願2000−618226(P2000−618226)の分割
【原出願日】平成12年5月12日(2000.5.12)
【出願人】(591043248)シグマ−タウ・インドゥストリエ・ファルマチェウチケ・リウニテ・ソシエタ・ペル・アチオニ (92)
【氏名又は名称原語表記】SIGMA−TAU INDUSTRIE FARMACEUTICHE RIUNITE SOCIETA PER AZIONI
【Fターム(参考)】