説明

S及びTi含有量の少ない高Si鋼の溶製方法

【課題】 S濃度が0.0020質量%以下、Ti濃度が0.0020質量%以下、Al濃度が0.0220〜0.0270質量%の範囲である高Si鋼の溶製方法を提供する。
【解決手段】 Si:3.0〜3.5質量%、S:0.0020質量%以下、Ti:0.0020質量%以下、Al:0.0220〜0.0270質量%である高Si鋼の溶製方法であって、転炉で脱炭精錬された後の溶鋼の転炉から取鍋への出鋼時に、取鍋内の溶鋼にSi源を添加するとともにCaO源及びAl23源を添加し、その後の真空脱ガス設備での二次精錬後の取鍋内スラグの組成が、(1)式、(2)式及び(3)式を満足する範囲内になるように制御する。
1.0 ≦(スラグ塩基度)≦2.0 …(1) (質量%TiO2)≦0.2/(スラグ塩基度) …(2) 65×(スラグ塩基度)-2.9≦(質量%Al2O3)≦180×(スラグ塩基度)-3.4 …(3)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、S及びTiの含有量の少ない高Si鋼の溶製方法に関し、詳しくは、S濃度が0.0020質量%以下、Ti濃度が0.0020質量%以下で、且つAl濃度が0.0220〜0.0270質量%の狭い範囲である、3.0質量%以上のSiを含有する高Si鋼の溶製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、変圧器などに用いられる高磁束密度の高Si鋼においては、そのS含有量及びTi含有量を0.0020質量%以下に制御すると同時に、Al濃度を非常に狭い範囲に制御することが要求されている。
【0003】
しかしながら、Siを3.0質量%以上含有する高Si鋼においては、転炉での脱炭精錬後にFe−Si(フェロシリコン)などの大量のSi源を添加するので、溶鋼中のSiと鋼中の酸素(O)との反応(脱酸反応)や、溶鋼中のSiと転炉からの流出スラグ中のFeOやMnOとの反応によってSiO2が生成され、取鍋内スラグのSiO2濃度が高くなる。これにより、取鍋内スラグの塩基度([質量%CaO]/[質量%SiO2])が降下してCaOの活量が低下するために、真空脱ガス設備などでの二次精錬において、溶鋼の脱硫が進行しないだけでなく、むしろ、取鍋内スラグに含有されるSが溶鋼に戻ってくる(これを「復硫」という)ために、低S鋼の溶製が困難となる。尚、真空脱ガス設備などで行う二次精錬に対して転炉での脱炭精錬は一次精錬と呼ばれている。
【0004】
また、取鍋内スラグの塩基度が低く、SiO2の活量が高い場合、二次精錬時に溶鋼成分の調整のために添加したAlがスラグ中のSiO2により酸化され、溶鋼中のAl濃度が時間とともに低下し、Al濃度の目標成分範囲が狭い場合には、Al濃度を目標範囲に制御することが困難となる。一方、脱硫やAlの酸化防止のために、CaOを添加して取鍋内スラグの塩基度を高めることが試みられるが、スラグの塩基度が高すぎるとスラグ中のSiO2の活量が低下し、Al脱酸によって生成したスラグ中のAl23が溶鋼中のSiで還元されて、溶鋼中のAl濃度が時間とともに上昇するという現象が起こる。
【0005】
更に、取鍋に流出した転炉スラグに由来する取鍋内スラグ中のTiO2が溶鋼中のSiで還元されることから、溶鋼中のTi濃度が時間とともに増加する。目標成分範囲以上のAl濃度及びTi濃度の増加は製品の電磁特性に悪影響を及ぼす。
【0006】
高Si鋼におけるこれらの問題を解決するべく多数の提案がなされている。例えば、特許文献1には、Tiが0.020質量%以下、Alが0.050質量%以下のFe−SiをSi源として使用するとともに、取鍋内スラグの組成を、Al23:8質量%以下、TiO2:0.5質量%以下、塩基度([質量%CaO]/[質量%SiO2]):0.6〜2.0として精錬する方法が提案されている。
【0007】
また、特許文献2には、Tiが溶鋼中に戻る現象を防止する方法として、転炉出鋼開始後、脱ガス処理終了までの間の取鍋内スラグの塩基度([質量%CaO]/[質量%SiO2])を1.2以下に調整して酸化精錬を行い、然る後、融点が、1500℃以上の高融点フラックスを溶鋼上に添加して、取鍋内スラグを固化させる方法が提案されている。
【0008】
また更に、特許文献3には、高Si鋼のAl濃度を狭い範囲に調整することを目的として、高Si含有溶鋼を、RH真空脱ガス槽でAl源を添加して処理し、Al濃度を調整するに際して、脱ガス処理前に予め取鍋内スラグのFeO及びAl23濃度を分析し、その分析値に基づいてAl源の添加歩留りを予測し、その予測した歩留りからAl源の添加量を定めるとともに、該添加量のAl源を脱ガス処理で溶鋼中のSiO2の浮上を図る浮上処理期間の経過後に溶鋼中に添加する溶製方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−107239号公報
【特許文献2】特開平10−273715号公報
【特許文献3】特開2002−97513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の従来技術などによって、高Si鋼の製鋼工程での成分制御は容易になってはいるが、3.0質量%以上のSiを含有する高Si鋼中のS及びTiの含有量をともに0.0020質量%以下に制御すると同時に、Al濃度を非常に狭い範囲に制御する場合には、従来技術だけでは十分とは言えず、未だ開発すべき課題が山積する。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、S濃度が0.0020質量%以下、Ti濃度が0.0020質量%以下であり、且つAl濃度が0.0220〜0.0270質量%の狭い範囲である、3.0質量%以上のSiを含有する高Si鋼を安定して溶製することのできる溶製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための第1の発明に係るS及びTi含有量の少ない高Si鋼の溶製方法は、Si:3.0〜3.5質量%、S:0.0020質量%以下、Ti:0.0020質量%以下、Al:0.0220〜0.0270質量%である高Si鋼の溶製方法であって、転炉で脱炭精錬された後の溶鋼の転炉から取鍋への出鋼時に、取鍋内の溶鋼にSi源を添加するとともにCaO源及びAl23源を添加し、その後の真空脱ガス設備での二次精錬後の取鍋内スラグの組成が、下記の(1)式、(2)式及び(3)式を満足する範囲内になるように制御することを特徴とする。
1.0 ≦(スラグ塩基度)≦2.0 …(1)
(質量%TiO2)≦0.2/(スラグ塩基度) …(2)
65×(スラグ塩基度)-2.9 ≦(質量%Al2O3)≦180×(スラグ塩基度)-3.4…(3)
但し、(1)式〜(3)式において、スラグ塩基度は、取鍋内スラグのCaO濃度(質量%)とSiO2濃度(質量%)との比([質量%CaO]/[質量%SiO2])、(質量%TiO2)は、取鍋内スラグのTiO2濃度、(質量%Al23)は、取鍋内スラグのAl23濃度である。
【0013】
第2の発明に係るS及びTi含有量の少ない高Si鋼の溶製方法は、第1の発明において、二次精錬後の取鍋内スラグのT.Fe濃度(質量%)とMnO濃度(質量%)との合計値が3.0質量%以下となるように制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、真空脱ガス設備での二次精錬後の取鍋内スラグの組成が、上記の(1)式、(2)式及び(3)式を満足するように、取鍋内にCaO源及びAl23源を添加するので、(1)式を満足させることによって溶鋼中Sの脱硫が可能となり溶鋼中のS濃度を0.0020質量%以下とすることが達成され、(2)式を満足させることによって取鍋内スラグ中のTiO2の溶鋼中Siによる還元が阻止されて溶鋼中のTi濃度を0.0020質量%以下とすることが達成され、(3)式を満足させることによって溶鋼中のAlと取鍋内スラグ中のSiO2との反応、及び、溶鋼中のSiと取鍋内スラグ中のAl23との反応がともに阻止されて溶鋼中のAl濃度を0.0220〜0.0270質量%の狭い範囲に制御することが達成される。その結果、製品である電磁鋼板の電磁特性を大幅に向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】二次精錬後の溶鋼中Ti濃度に及ぼす、取鍋内スラグの塩基度([質量%CaO]/[質量%SiO2])及びTiO2濃度の影響を示す図である。
【図2】二次精錬後の溶鋼中Al濃度に及ぼす、取鍋内スラグの塩基度([質量%CaO]/[質量%SiO2])及びAl23濃度の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0017】
本発明は、Siを3.0質量%以上含有する高Si鋼中のS濃度、Ti濃度及びAl濃度をそれぞれ所定範囲に制御するためには、取鍋内の溶鋼上に存在する取鍋内スラグの組成を適正範囲に調整し、溶鋼と取鍋内スラグとの反応を制御する必要があるとの知見に基づきなされたものであり、本発明に係るS及びTi含有量の少ない高Si鋼の溶製方法は、Si:3.0〜3.5質量%、S:0.0020質量%以下、Ti:0.0020質量%以下、Al:0.0220〜0.0270質量%である高Si鋼の溶製方法であって、転炉で脱炭精錬された後の溶鋼の転炉から取鍋への出鋼時に、取鍋内の溶鋼にSi源を添加するとともにCaO源及びAl23源を添加し、その後の真空脱ガス設備での二次精錬後の取鍋内スラグの組成を、下記の(1)式、(2)式及び(3)式を満足する範囲内に制御することを特徴とする。
1.0 ≦(スラグ塩基度)≦2.0 …(1)
(質量%TiO2)≦0.2/(スラグ塩基度) …(2)
65×(スラグ塩基度)-2.9 ≦(質量%Al2O3)≦180×(スラグ塩基度)-3.4…(3)
但し、(1)式〜(3)式において、スラグ塩基度は、取鍋内スラグのCaO濃度(質量%)とSiO2濃度(質量%)との比([質量%CaO]/[質量%SiO2])、(質量%TiO2)は、取鍋内スラグのTiO2濃度、(質量%Al23)は、取鍋内スラグのAl23濃度である。
【0018】
本発明の対象とする高Si鋼は、化学成分として、Siが3.0〜3.5質量%、Sが0.0020質量%以下、Tiが0.0020質量%以下、Alが0.0220〜0.0270質量%であることを必須とする。これらの成分を上記範囲に限定する理由は、以下のとおりである。
【0019】
即ち、Siは、鋼の比抵抗を高め、鉄損を改善させるために必要な元素であるが、その含有量が3.0質量%未満では十分な効果が得難く、一方、3.5質量%を超えると鋼の加工性が劣化して圧延が困難になる。従って、Si量は3.0〜3.5質量%の範囲に限定する必要がある。
【0020】
Sは、磁気特性劣化の主因と考えられる。本発明に従えば、鏡面化材においても効果的にSの悪影響を排除することができるとはいえ、その含有量が0.0020質量%を超えると本発明をもってしても磁気特性の劣化が避け難い。従って、S量の上限は0.0020質量%に限定する必要がある。
【0021】
Tiは、電磁特性に悪影響を及ぼす元素であり、その含有量は少ないほど望ましい。従って、Ti量を0.0020質量%以下に限定した。
【0022】
Alは、磁束密度を向上させる有用元素であるが、その含有量が0.0220質量%に満たないとその添加効果に乏しく、一方、0.0270質量%を超えると二次再結晶粒の発達が抑制され、磁気特性が劣化する。従って、Al量は0.0220〜0.0270質量%の範囲に限定する必要がある。
【0023】
本発明に係る、Siを3.0質量%以上含有する高Si鋼の溶製方法は、先ず、高炉から出銑された溶銑を転炉にて脱炭精錬して溶鋼を得、この溶鋼を転炉から取鍋に出鋼する際に取鍋内の溶鋼にFe−Si、金属Si、Si−MnなどのSi源を添加して溶鋼中のSi濃度を3.0〜3.5質量%の範囲に上昇させ、次いで、RH真空脱ガス装置などの真空脱ガス設備での真空脱ガス精錬によって溶鋼の清浄性の向上及び成分調整を実施する。この場合、転炉での脱炭精錬を一次精錬、真空脱ガス設備での真空脱ガス精錬を二次精錬と呼んでおり、本発明においては、溶銑を出発原料とし、転炉での一次精錬と真空脱ガス設備での二次精錬との組み合わせにより高Si鋼が溶製される。
【0024】
本発明の対象とする高Si鋼は、S濃度が0.0020質量%以下と低いので、溶銑段階で脱硫処理を実施する。この脱硫処理は、石灰系脱硫剤を用いた機械攪拌式脱硫装置などで行うことができる。この脱硫処理により、溶銑のS濃度を0.0040質量%以下にすれば十分である。
【0025】
転炉から取鍋への出鋼時、転炉内の溶鋼が少なくなった時点で転炉内に存在する転炉スラグが取鍋内に流出する。転炉スラグは、塩基度([質量%CaO]/[質量%SiO2])が2〜4程度であり、また、溶銑中のTi(溶銑のTi含有量:0.1〜0.2質量%)が一次精錬において酸化されて生成したTiO2を含有(転炉スラグのTiO2含有量:1〜2質量%)する。但し、出鋼時での大量のSi源の添加により、取鍋内には大量のSiO2が生成し、このSiO2と流入した転炉スラグとで取鍋スラグが形成される結果、高Si鋼溶製時の取鍋スラグの塩基度は低下する。
【0026】
本発明においては、取鍋内スラグの組成が、上記(1)式、(2)式及び(3)式の全てを満足するように、Si源の添加と同時または添加後に、取鍋内にCaO源及びAl23源を添加する。CaO源としては生石灰、石灰石などが使用でき、Al23源としては、天然または人造のアルミナ粒(アルミナグリッド)が使用でき、また、CaO源及びAl23源としてはカルシウム−アルミネートセメント(アルミナセメント)を使用することができる。
【0027】
通常、一次精錬後の溶鋼中S濃度は、予め溶銑のS濃度を0.0040質量%以下に脱硫しておくことで、0.0025質量%程度まで低下する。しかしながら、溶鋼中のS濃度を安定的に0.0020質量%以下にするためには、二次精錬中での取鍋スラグによる復硫防止、更には脱硫が必要であり、そのためには、二次精錬時の取鍋内スラグの塩基度([質量%CaO]/[質量%SiO2])を高くする必要がある。一般に、取鍋内スラグの塩基度([質量%CaO]/[質量%SiO2])を1.0以上に制御することで、二次精錬中での取鍋スラグによる脱硫反応が可能となる。
【0028】
本発明においては、予め溶銑のS濃度を0.0040質量%以下に脱硫して、一次精錬後の溶鋼中S濃度を0.0025質量%以下とし、且つ、CaO源の添加によって取鍋内スラグの塩基度を1.0以上に調整するので、二次精錬後の溶鋼中S濃度を0.0020質量%以下にすることが達成される。この場合、取鍋内スラグの塩基度が2.0を超えると、取鍋内スラグの滓化性が悪化し、後述するスラグ/メタル間反応を利用した溶鋼中Alの濃度調整が困難になることから、取鍋内スラグの塩基度は2.0以下にする必要がある。また、取鍋内スラグの塩基度が2.0を超えると、スラグに起因すると思われるCaO−Al23系介在物による製品でのヘゲ状欠陥が多発することから、この観点からも取鍋内スラグの塩基度は2.0以下にする必要がある。
【0029】
即ち、本発明においては、二次精錬後の溶鋼中のS濃度を安定して0.0020質量%以下にするために、取鍋内スラグの塩基度([質量%CaO]/[質量%SiO2])を上記(1)式の範囲内に制御する。
【0030】
溶鋼中のTi濃度は、取鍋内スラグのTiO2濃度及び塩基度([質量%CaO]/[質量%SiO2])に影響される。具体的には、スラグのTiO2濃度が高く、塩基度が高い場合には、スラグ中のTiO2が溶鋼中のSiで還元されて溶鋼中のTi濃度が上昇する。一方、スラグのTiO2濃度が低く、塩基度が低い場合には、スラグ中のSiO2が溶鋼中のTiで還元されるので、溶鋼中のTi濃度が低下する。高Si鋼である電磁鋼板用鋼においては、Ti濃度の増加が電磁特性に悪影響を及ぼすために、製品中のTi濃度を0.0020質量%以下にすることが望まれている。
【0031】
多くの実験結果より、取鍋内スラグ中のTiO2濃度が「0.2/塩基度([質量%CaO]/[質量%SiO2])」を越えると、スラグ中のTiO2が溶鋼中のSiによって還元され、溶鋼中のTi濃度が0.0020質量%を超えることが判明した。
【0032】
図1に、二次精錬後の溶鋼中Ti濃度が、取鍋内スラグの塩基度([質量%CaO]/[質量%SiO2])及びTiO2濃度によってどのように変化するかを調査した結果を示す。図1に示すように、取鍋内スラグ中のTiO2濃度が上記(2)式を満足することで、二次精錬後の溶鋼中Ti濃度は0.0020質量%以下になることが分かる。
【0033】
即ち、本発明においては、二次精錬後の溶鋼中Ti濃度を0.0020質量%以下に維持するために、取鍋内スラグ中のTiO2濃度を上記(2)式の範囲内に制御する。
【0034】
また、溶鋼中のAl濃度は取鍋スラグのAl23濃度及び塩基度([質量%CaO]/[質量%SiO2])に影響される。具体的には、スラグのAl23濃度が高く、塩基度が高い場合には、スラグ中のAl23が溶鋼中のSiで還元されて溶鋼中のAl濃度が上昇する。一方、スラグのAl23濃度が低く、塩基度が低い場合には、スラグ中のSiO2が溶鋼中のAlで還元されるので、溶鋼中のAl濃度が低下する。
【0035】
多くの実験結果より、目標とする溶鋼中Al濃度が0.0220〜0.0270質量%の場合、取鍋スラグ中のAl23濃度が65×(塩基度([質量%CaO]/[質量%SiO2]))-2.9未満になると、たとえ二次精錬終了時に溶鋼中Al濃度を0.0220〜0.0270質量%の範囲に調整しても、その後、鋳造工程に至る期間に、溶鋼中のAlがスラグ中のSiO2で酸化されて、溶鋼中のAl濃度は0.0220質量%未満に低下することが判明した。一方、取鍋スラグ中のAl23濃度が180×(塩基度([質量%CaO]/[質量%SiO2]))-3.4を超えると、溶鋼中Al濃度が0.0005〜0.0010質量%の場合は、スラグ中のAl23が溶鋼中のSiで還元されて、溶鋼中のAl濃度は0.0270質量%を越えて上昇することが判明した。
【0036】
図2に、二次精錬後の溶鋼中Al濃度が、取鍋内スラグの塩基度([質量%CaO]/[質量%SiO2])及びAl23濃度によってどのように変化するかを調査した結果を示す。図2に示すように、取鍋内スラグ中のAl23濃度が上記(3)式を満足することで、二次精錬後の溶鋼中Al濃度は0.0220質量%以上0.0270質量%以下の範囲に制御されることが分かる。
【0037】
即ち、本発明においては、溶鋼中Al濃度を0.0220質量%以上0.0270質量%以下の範囲内に維持するために、取鍋内スラグ中のAl23濃度を上記(3)式の範囲内に制御する。
【0038】
また更に、二次精錬後の取鍋スラグのT.Fe濃度(質量%)とMnO濃度(質量%)との合計値が3.0質量%を越えるとAlの再酸化が起こり、溶鋼中のAl濃度を制御しにくくなるので、少なくとも二次精錬後の取鍋スラグのT.Fe濃度(質量%)とMnO濃度(質量%)との合計値を3.0質量%以下とすることが好ましい。取鍋スラグのT.Fe濃度及びMnO濃度の調整は、取鍋内スラグの組成調整用のCaO源及びAl23源の添加による希釈効果によって行うことができ、また、転炉から取鍋への出鋼後、取鍋内のスラグ上に金属Al、Alドロスなどの還元剤を投入して還元することでも行うことができる。尚、T.Feとは、取鍋内スラグ中の全ての鉄酸化物(FeOやFe23など)の鉄分の合計値である。
【0039】
以上説明したように、本発明によれば、S濃度が0.0020質量%以下、Ti濃度が0.0020質量%以下、Al濃度が0.0220〜0.0270質量%である、3.0〜3.5質量%のSiを含有する高Si鋼を、安定して溶製することが実現される。
【実施例1】
【0040】
[本発明例1]
溶銑の脱硫処理により溶銑中のS濃度を0.0040質量%とし、この溶銑を転炉で脱炭精錬して、炭素濃度が0.02質量%である約200トンの溶鋼を溶製し、1670℃の温度で取鍋に出鋼した。出鋼時に、Fe−MnなどとともにFe−Siを添加し、溶鋼中Si濃度を3.2質量%まで増加した。また、取鍋内スラグの組成を調整するために、出鋼中に、CaO源として生石灰を溶鋼トンあたり2.5kg(以下、「kg/トン」と記す)、Al23源としてアルミナ粒を3.0kg/トン、取鍋内に添加した。
【0041】
出鋼後、RH真空脱ガス装置にて二次精錬を実施し、溶鋼の清浄化並びに成分調整を実施した。RH真空脱ガス装置では、30分間の脱ガス精錬を実施した。
【0042】
脱ガス精錬終了後、取鍋内スラグを採取し、スラグ組成を分析した。その結果、取鍋内スラグの組成は、CaO:30質量%、SiO2:24質量%、Al23:37質量%、MgO:7質量%、MnO:0.5質量%、T.Fe:1.2質量%、TiO2:0.11質量%で、塩基度は1.25であった。また、溶鋼を連続鋳造機で鋳造した後の連続鋳造鋳片から採取した試料の分析結果から、Al濃度は0.0250質量%、Ti濃度は0.0014質量%、S濃度は0.0015質量%であり、全て目標成分範囲であった。
【0043】
[本発明例2]
溶銑の脱硫処理により溶銑中のS濃度を0.0037質量%とし、この溶銑を転炉で脱炭精錬して、炭素濃度が0.02質量%である約200トンの溶鋼を溶製し、1660℃の温度で取鍋に出鋼した。出鋼時に、Fe−MnなどとともにFe−Siを添加し、溶鋼中Si濃度を3.2質量%まで増加した。また、取鍋内スラグの組成を調整するために、出鋼中に、CaO源として生石灰を3.5kg/トン、Al23源としてアルミナ粒を2.5kg/トン、取鍋内に添加した。
【0044】
出鋼後、RH真空脱ガス装置にて二次精錬を実施し、溶鋼の清浄化並びに成分調整を実施した。RH真空脱ガス装置では、30分間の脱ガス精錬を実施した。
【0045】
脱ガス精錬終了後、取鍋内スラグを採取し、スラグ組成を分析した。その結果、取鍋内スラグの組成は、CaO:36質量%、SiO2:24質量%、Al23:30質量%、MgO:8質量%、MnO:0.5質量%、T.Fe:1.1質量%、TiO2:0.10質量%で、塩基度は1.50であった。また、溶鋼を連続鋳造機で鋳造した後の連続鋳造鋳片から採取した試料の分析結果から、Al濃度は0.0240質量%、Ti濃度は0.0014質量%、S濃度は0.0016質量%であり、全て目標成分範囲であった。
【0046】
[本発明例3]
溶銑の脱硫処理により溶銑中のS濃度を0.0038質量%とし、この溶銑を転炉で脱炭精錬して、炭素濃度が0.02質量%である約200トンの溶鋼を溶製し、1650℃の温度で取鍋に出鋼した。出鋼時に、Fe−MnなどとともにFe−Siを添加し、溶鋼中Si濃度を3.3質量%まで増加した。また、取鍋内スラグの組成を調整するために、出鋼中に、CaO源として生石灰を4.0kg/トン、Al23源としてアルミナ粒を1.5kg/トン、取鍋内に添加した。
【0047】
出鋼後、RH真空脱ガス装置にて二次精錬を実施し、溶鋼の清浄化並びに成分調整を実施した。RH真空脱ガス装置では、30分間の脱ガス精錬を実施した。
【0048】
脱ガス精錬終了後、取鍋内スラグを採取し、スラグ組成を分析した。その結果、取鍋内スラグの組成は、CaO:45質量%、SiO2:25質量%、Al23:17質量%、MgO:11質量%、MnO:0.3質量%、T.Fe:1.4質量%、TiO2:0.09質量%で、塩基度は1.80であった。また、溶鋼を連続鋳造機で鋳造した後の連続鋳造鋳片から採取した試料の分析結果から、Al濃度は0.0260質量%、Ti濃度は0.0018質量%、S濃度は0.0009質量%であり、全て目標成分範囲であった。
【0049】
[比較例1]
溶銑の脱硫処理により溶銑中のS濃度を0.0030質量%とし、この溶銑を転炉で脱炭精錬して、炭素濃度が0.02質量%である約200トンの溶鋼を溶製し、1650℃の温度で取鍋に出鋼した。出鋼時に、Fe−MnなどとともにFe−Siを添加し、溶鋼中Si濃度を3.3質量%まで増加した。取鍋内には、出鋼中もまた出鋼後も、CaO源及びAl23源を添加せず、RH真空脱ガス装置に搬送した。
【0050】
RH真空脱ガス装置にて二次精錬を実施し、溶鋼の清浄化並びに成分調整を実施した。RH真空脱ガス装置では、30分間の脱ガス精錬を実施した。
【0051】
脱ガス精錬終了後、取鍋内スラグを採取し、スラグ組成を分析した。その結果、取鍋内スラグの組成は、CaO:35質量%、SiO2:43質量%、Al23:8質量%、MgO:8質量%、MnO:2.0質量%、T.Fe:3.5質量%、TiO2:0.15質量%で、塩基度は0.81であった。また、溶鋼を連続鋳造機で鋳造した後の連続鋳造鋳片から採取した試料の分析結果から、Al濃度は0.0020質量%であり、目標範囲よりも大幅に低下した。Ti濃度は0.0012質量%であり、目標範囲内であった。また、S濃度は0.0034質量%となり、目標範囲よりも大幅に高かった。
【0052】
[比較例2]
溶銑の脱硫処理により溶銑中のS濃度を0.0040質量%とし、この溶銑を転炉で脱炭精錬して、炭素濃度が0.02質量%である約200トンの溶鋼を溶製し、1670℃の温度で取鍋に出鋼した。出鋼時に、Fe−MnなどとともにFe−Siを添加し、溶鋼中Si濃度を3.2質量%まで増加した。また、取鍋内スラグの組成を調整するために、出鋼中に、CaO源として生石灰を2.5kg/トン、Al23源としてアルミナ粒を2.0kg/トン、取鍋内に添加した。
【0053】
出鋼後、RH真空脱ガス装置にて二次精錬を実施し、溶鋼の清浄化並びに成分調整を実施した。RH真空脱ガス装置では、30分間の脱ガス精錬を実施した。
【0054】
脱ガス精錬終了後、取鍋内スラグを採取し、スラグ組成を分析した。その結果、取鍋内スラグの組成は、CaO:36質量%、SiO2:29質量%、Al23:25質量%、MgO:8質量%、MnO:0.5質量%、T.Fe:1.2質量%、TiO2:0.12質量%で、塩基度は1.24であった。また、溶鋼を連続鋳造機で鋳造した後の連続鋳造鋳片から採取した試料の分析結果から、Al濃度は0.0180質量%であり、目標範囲よりも低下した。Ti濃度は0.0014質量%であり、目標範囲内であった。また、S濃度は0.0015質量%となり、目標範囲内であった。
【0055】
[比較例3]
溶銑の脱硫処理により溶銑中のS濃度を0.0039質量%とし、この溶銑を転炉で脱炭精錬して、炭素濃度が0.02質量%である約200トンの溶鋼を溶製し、1650℃の温度で取鍋に出鋼した。出鋼時に、Fe−MnなどとともにFe−Siを添加し、溶鋼中Si濃度を3.1質量%まで増加した。また、取鍋内スラグの組成を調整するために、出鋼中に、CaO源として生石灰を4.0kg/トン、Al23源としてアルミナ粒を2.0kg/トン、取鍋内に添加した。
【0056】
出鋼後、RH真空脱ガス装置にて二次精錬を実施し、溶鋼の清浄化並びに成分調整を実施した。RH真空脱ガス装置では、30分間の脱ガス精錬を実施した。
【0057】
脱ガス精錬終了後、取鍋内スラグを採取し、スラグ組成を分析した。その結果、取鍋内スラグの組成は、CaO:43質量%、SiO2:22質量%、Al23:25質量%、MgO:8質量%、MnO:0.3質量%、T.Fe:1.4質量%、TiO2:0.15質量%で、塩基度は1.95であった。また、溶鋼を連続鋳造機で鋳造した後の連続鋳造鋳片から採取した試料の分析結果から、Al濃度は0.0340質量%であり、目標範囲よりも大幅に増加した。Ti濃度は0.0025質量%であり、目標範囲よりも高かった。また、S濃度は0.0008質量%となり、目標範囲内であった。
【0058】
[比較例4]
溶銑の脱硫処理により溶銑中のS濃度を0.0040質量%とし、この溶銑を転炉で脱炭精錬して、炭素濃度が0.02質量%である約200トンの溶鋼を溶製し、1660℃の温度で取鍋に出鋼した。出鋼時に、Fe−MnなどとともにFe−Siを添加し、溶鋼中Si濃度を3.3質量%まで増加した。また、取鍋内スラグの組成を調整するために、出鋼中に、CaO源として生石灰を5.0kg/トン、Al23源としてアルミナ粒を1.0kg/トン、取鍋内に添加した。
【0059】
出鋼後、RH真空脱ガス装置にて二次精錬を実施し、溶鋼の清浄化並びに成分調整を実施した。RH真空脱ガス装置では、30分間の脱ガス精錬を実施した。
【0060】
脱ガス精錬終了後、取鍋内スラグを採取し、スラグ組成を分析した。その結果、取鍋内スラグの組成は、CaO:51質量%、SiO2:24質量%、Al23:13質量%、MgO:10質量%、MnO:0.2質量%、T.Fe:1.0質量%、TiO2:0.10質量%で、塩基度は2.13であった。また、溶鋼を連続鋳造機で鋳造した後の連続鋳造鋳片から採取した試料の分析結果から、Al濃度は0.0250質量%であり、目標範囲内であった。Ti濃度は0.0025質量%であり、目標範囲よりも高かった。また、S濃度は0.0010質量%となり、目標範囲内であった。鋳片を圧延して製造した薄鋼板製品では、その表面にCaO−Al23含有酸化物によるヘゲ状欠陥が多発し、製品歩留りが著しく悪化した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:3.0〜3.5質量%、S:0.0020質量%以下、Ti:0.0020質量%以下、Al:0.0220〜0.0270質量%である高Si鋼の溶製方法であって、転炉で脱炭精錬された後の溶鋼の転炉から取鍋への出鋼時に、取鍋内の溶鋼にSi源を添加するとともにCaO源及びAl23源を添加し、その後の真空脱ガス設備での二次精錬後の取鍋内スラグの組成が、下記の(1)式、(2)式及び(3)式を満足する範囲内になるように制御することを特徴とする、S及びTi含有量の少ない高Si鋼の溶製方法。
1.0 ≦(スラグ塩基度)≦2.0 …(1)
(質量%TiO2)≦0.2/(スラグ塩基度) …(2)
65×(スラグ塩基度)-2.9 ≦(質量%Al2O3)≦180×(スラグ塩基度)-3.4…(3)
但し、(1)式〜(3)式において、スラグ塩基度は、取鍋内スラグのCaO濃度(質量%)とSiO2濃度(質量%)との比([質量%CaO]/[質量%SiO2])、(質量%TiO2)は、取鍋内スラグのTiO2濃度、(質量%Al23)は、取鍋内スラグのAl23濃度である。
【請求項2】
二次精錬後の取鍋内スラグのT.Fe濃度(質量%)とMnO濃度(質量%)との合計値が3.0質量%以下となるように制御することを特徴とする、請求項1に記載のS及びTi含有量の少ない高Si鋼の溶製方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−174102(P2011−174102A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36987(P2010−36987)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】