説明

SARSコロナウイルスに対する抗体

本発明は、ヒト重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)Sタンパク質に特異的に結合するヒト抗体およびその抗原結合部分を含む抗体、ならびにSARS-CoVを中和するように機能するヒト抗体およびその抗原結合部分を含む抗体に関する。本発明はまた、二重特異性抗体、誘導体化抗体、単鎖抗体、または融合タンパク質の部分である抗体に関する。本発明はまた、ヒト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体に由来する単離された重鎖および軽鎖の免疫グロブリンならびにそのような免疫グロブリンをコードする核酸分子に関する。本発明はまた、抗体および組成物を診断および処置に用いる方法に関する。本発明はまた、ヒト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を含む重鎖および/または軽鎖の免疫グロブリン分子をコードする核酸分子を用いた遺伝子治療法を提供する。本発明はまた、本発明の核酸分子を含むトランスジェニック動物またはトランスジェニック植物に関する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
コロナウイルス(CoV)は歴史的に、比較的軽度の上気道感染を引き起こし、ヒトにおける一般的な風邪の症例のおよそ30%の割合を占めることが公知である。しかしながら、最近同定されたCoVである、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)は、ヒトでの重篤な急性呼吸窮迫を引き起こし、感染した個人の9.6%で死亡をもたらす(1)。2003年に、SARS-CoVは 効率的なヒトからヒトへの伝染を確立し、幾つかの大きな拡大事象を結果的にもたらした。2003年の7月の大流行の終わりまでに、SARS-CoVは、29か国を巻き込んだ世界中で774よりも多くの死および8096の症例を招いた(世界保健機構ウェブサイト, 流行および汎流行警戒および対策(Epidemic and Pandemic Alert and Response)、疾患、SARS参照)。SARS大流行の終結以来、未知起源のSARSの確認された症例に関する幾つかの報告(29、世界保健機構ウェブサイト)により、SARS-CoVの環境的脅威は今なお存在するということが示されている。SARS-CoV様ウイルスは中国でキクガシラコウモリから単離することができ、研究者らはこれが本ウイルスの天然保有宿主であるとを仮定している(18)。SARS-CoV様ウイルスは、ハクビシンなどの、媒介野生動物宿主中に依然として存在し、ヒトにおけるSARS-CoV 感染の再出現の可能性が高まっている。残存する脅威のために、SARS-CoV 感染に対する曝露前および曝露後処置の有効な方法(modalities)を開発することが賢明である。
【0002】
SARS大流行の間、隔離方策は、大流行を制御するのに有効であることが分かった。さらに、感染した患者を処置するためにコルチコステロイドおよびリバビリンなどの、抗ウイルス処置が用いられたが、SARSに対するこれらの処置の有効性は確立されなかった(5)。それゆえ、SARS-CoVに対する標的されたかつ有効な処置が依然として極めて望まれる。ヒトでは、感染後約10日までにSARS-CoVのピークウイルス負荷に達し、その結果有効な曝露後処置の機会が与えられる(6)。ウイルス複製およびしたがってウイルスの拡大を限定し得る処置の1つの方法は、前形成した中和ヒトモノクローナル抗体(mAb)による受動免疫化である。本疾患の前駆期の間のそのような処置は、コルチコステロイド、動物血清、およびヒト血清の使用と関連する有害な効果を伴わずに、ウイルスの速やかなクリアランスを手助けしかつ不良な臨床転帰および人から人への拡大を限定する可能性がある。
【0003】
SARS-CoVは、表面に発現されたスパイク(S)タンパク質を介して標的細胞の感染を媒介する。SARS-CoV Sタンパク質(Genbankアクセッション番号:AY525636;ヌクレオチド配列 SEQ ID NO:93;アミノ酸配列SEQ ID NO:94)は、2つの機能ドメインS1(アミノ酸15〜680)およびS2(アミノ酸681〜1255)に分けられる1型膜貫通糖タンパク質である(13)。S1ドメインはSタンパク質のその受容体、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)との相互作用を媒介する(17)。193アミノ酸からなるS1の領域は、ACE2結合に関与する受容体結合ドメイン(RBD)を形成する(30)。つい最近、70アミノ酸からなる、RBD内の受容体結合モチーフ(RBM)は、ACE2の先端と直接的に接触するようになることが示された(16)。Sタンパク質のS2ドメインは、Sタンパク質の2つの保存されたヘリックス領域(HR1およびHR2)が一緒に集まって6つのヘリックス束融合コアを形成する立体構造変化を通じてウイルス膜と宿主膜の融合を媒介することによって、標的細胞の感染に寄与する(11)。
【0004】
Sタンパク質は、感染したヒトおよび動物内で、中和抗体を含む、防御免疫応答を誘発する主要抗原としての役割を果たす(3、4、6、9、12、14)。Sタンパク質を発現する改変されたワクシニアウイルスアンカラ(MVA)のマウスへの鼻腔内または筋肉内適用は、SARS-CoV中和抗体を誘発する(3)。細胞質ドメインおよび/または膜貫通ドメインのない、S配列をコードするDNAワクチンによるマウスの免疫化は、中和抗体の発生だけでなく、CD4+細胞応答およびCD8+ T細胞応答の両方も結果的にもたらす(31)。しかしながら、ウイルス複製を阻害するのは、免疫の細胞性構成要素ではなく、体液性(IgG)構成要素である(31)。実際、免疫化マウス由来の免疫血清を、免疫刺激を受けていない(naive)マウスに移すことによって、ウイルス刺激後のSARS-CoV力価は低下する(25)。まとめると、これらの研究は、主としてAbがSARS-CoV複製に対する防御に関与するということを示し、かつSARS-CoVに対する中和Abの受動的移動の潜在的な治療的価値を示している。中和抗体を誘導するその能力ならびにウイルス付着および融合におけるその本質的役割を含む、Sタンパク質の免疫原性特性によって、それはSARS-CoV感染に対する有効な免疫治療を開発するための理想的な標的となっている。
【0005】
大流行の間に、SARS-CoVは突然変異しかつ抗原性変異を見せることができる。実際、配列解析により、臨床分離株が初期、中期、および後期の分離株に分けられることができるということが示された(27)。これに関する重大さは、より後期の分離株が、より初期の分離株を有効に中和するモノクローナル抗体による中和を逃れることができる能力に示されている(32)。それゆえ、抗原多様性のある幅広い範囲の臨床分離株に対して有効である中和mAbを産生することが重要である。抗原性変異体の潜在的進化のために、SARS-CoVに対する有効な受動的治療は、受容体結合および融合を遮断するなどの、異なるエピトープおよび/または侵入過程における工程を標的する中和Abのカクテルを含む可能性が高いと考えられる。
【0006】
ヒト免疫グロブリンによる受動的治療は、動物に由来するアミノ酸配列を含む動物AbまたはキメラAbの使用と関連する有害な効果を伴わない即時の防御を付与することができる。したがって、SARS-CoV感染を処置する際に使用するための強力で、広範囲の抗体治療に対する緊急の必要性が依然としてある。
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
ある局面において、本開示は、アミノ酸残基1〜1255(SEQ ID NO:94)、SEQ ID NO:94と少なくとも85%同一である領域、アミノ酸残基12〜261(SEQ ID NO:95)、SEQ ID NO:95と少なくとも85%同一である領域、アミノ酸残基318〜510(SEQ ID NO:96)、SEQ ID NO:96と少なくとも85%同一である領域、アミノ酸残基15〜680(SEQ ID NO:97)、およびSEQ ID NO:97と少なくとも85%同一である領域からなる群より選択される、ヒト重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルス(SARS-CoV)スパイク(S)タンパク質の領域に特異的に結合しかつ受容体へのSタンパク質結合を遮断する中和ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分を提供する。
【0008】
ある態様において、抗体または抗原結合部分は、アミノ酸残基15〜680(SEQ ID NO:97)によって定義される領域でSタンパク質に結合する。ある態様において、抗体または抗原結合部分は、SEQ ID NO:97と少なくとも85%同一である領域でSタンパク質に結合する。ある態様において、抗体または抗原結合部分は、SEQ ID NO:97と少なくとも80%、90%、または95%同一である領域でSタンパク質に結合する。ある態様において、抗体または抗原結合部分は、Sタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(Ace2)への結合を遮断する。
【0009】
ある態様において、抗体または抗原結合部分は、アミノ酸残基12〜261(SEQ ID NO:95)によって定義される領域でSタンパク質に結合する。ある態様において、抗体または抗原結合部分は、SEQ ID NO:95と少なくとも85%同一である領域でSタンパク質に結合する。ある態様において、抗体または抗原結合部分は、SEQ ID NO:95と少なくとも80%、90%、または95%同一である領域でSタンパク質に結合する。ある態様において、抗体または抗原結合部分は、Sタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(Ace2)への結合を遮断する。
【0010】
ある態様において、前述の態様のいずれかによる抗体または抗原結合部分は、アミノ酸残基318〜510(SEQ ID NO:96)によって定義される領域でSタンパク質に結合する。ある態様において、前述の態様のいずれかによる抗体または抗原結合部分は、SEQ ID NO:96と少なくとも85%同一である領域でSタンパク質に結合する。ある態様において、前述の態様のいずれかによる抗体または抗原結合部分は、SEQ ID NO:96と少なくとも80%、90%、または95%同一である領域でSタンパク質に結合する。ある態様において、抗体または抗原結合部分は、Sタンパク質のアンジオテンシン変換酵素2(Ace2)への結合を遮断する。
【0011】
ある態様において、抗体または抗原結合部分は、ヒトVH 4-59遺伝子、ヒトVH 1-18遺伝子、ヒトVH 3-33遺伝子、またはヒトVH 1-2遺伝子を利用する重鎖を含む。ある態様において、抗体または抗原結合部分は、ヒトVK A30遺伝子、ヒトVK L5遺伝子、またはヒトVK A1遺伝子を利用する軽鎖を含む。
【0012】
ある局面において、本開示は、12.5 μg/mlまたはそれ未満の抗体濃度で組織培養感染用量の200倍のウイルスの少なくとも50%(200xTCID50)を中和する、ヒト重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルス(SARS-CoV)Sタンパク質に特異的に結合するヒトモノクローナル抗体または抗原結合部分を提供する。幾つかの態様において、中和抗体は、<3.125 μg/ml、<.8 μg/ml、<.2 μg/ml、または<.l μg/mlの抗体濃度で有効である。
【0013】
ある局面において、本開示は、1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2からなる群より選択されるモノクローナル抗体の、それぞれVLおよびVHドメインとアミノ酸配列において少なくとも90%同一であるVLおよびVHドメインを含むSARS-CoV Sタンパク質に特異的に結合するヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分を提供する。
【0014】
ある局面において、本開示は、1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2からなる群より選択されるモノクローナル抗体の、それぞれVLおよびVHドメインとアミノ酸配列において少なくとも80%、85%、または95%同一であるVLおよびVHドメインを含むSARS-CoV Sタンパク質に特異的に結合するヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分を提供する。
【0015】
ある局面において、本開示は、以下を含む、SARS-CoV Sタンパク質に特異的に結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合部分を提供する:
(a)1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2より選択される抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインアミノ酸配列;
(b)1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2より選択される抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインアミノ酸配列;
(c)(a)の重鎖可変ドメインおよび(b)の軽鎖可変ドメイン;または
(d)1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2より選択される同じ抗体由来の重鎖および軽鎖可変ドメインアミノ酸配列をそれぞれ含む、重鎖および軽鎖可変領域アミノ酸配列。
【0016】
ある局面において、本開示は、以下を含む、SARS-CoV Sタンパク質に特異的に結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合部分を提供する:
(a)1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2より選択される抗体の重鎖CDR1、CDR2、およびCDR3アミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインアミノ酸配列;
(b)1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2より選択される抗体の軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3アミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインアミノ酸配列;
(c)(a)の重鎖可変ドメインおよび(b)の軽鎖可変ドメイン;または
(d)1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2より選択される同じ抗体由来の重鎖および軽鎖CDRアミノ酸配列を含む、(c)の重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメイン。
【0017】
ある局面において、本開示は、1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2より選択される抗体由来のFRl、FR2、FR3、またはFR4アミノ酸配列を含む、SARS-CoV Sタンパク質に特異的に結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合部分を提供する。
【0018】
ある局面において、本開示は、1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2からなる群より選択される抗体の重鎖を含む、SARS-CoV Sタンパク質に特異的に結合するモノクローナル抗体を提供する。
【0019】
ある局面において、本開示は、1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2からなる群より選択される抗体の軽鎖を含む、SARS-CoV Sタンパク質に特異的に結合するモノクローナル抗体を提供する。
【0020】
ある局面において、本開示は、1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2からなる群より選択される同じ抗体の重鎖および軽鎖を含む、SARS-CoV Sタンパク質に特異的に結合するモノクローナル抗体を提供する。
【0021】
ある局面において、本開示は、アミノ酸残基1〜1255(SEQ ID NO:94)、SEQ ID NO:94と少なくとも85%同一である領域、アミノ酸残基12〜261(SEQ ID NO:95)、SEQ ID NO:95と少なくとも85%同一である領域、アミノ酸残基318〜510(SEQ ID NO:96)、SEQ ID NO:96と少なくとも85%同一である領域、アミノ酸残基15〜680(SEQ ID NO:97)、およびSEQ ID NO:97と少なくとも85%同一である領域からなる群より選択される、ヒトSARS-CoV Sタンパク質の領域に特異的に結合する少なくとも1つの中和ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分ならびに薬学的に許容される担体を含む組成物を提供する。
【0022】
ある態様において、本組成物は、以下からなる群より選択される少なくとも1つの追加の治療的薬剤をさらに含む:
(a)1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2からなる群より選択される、1つもしくは複数の抗体またはその抗原結合部分;
(b)異なるSARS-CoV株のSARS-CoV Sタンパク質に特異的に結合する1つまたは複数の抗体;
(c)SARS-CoV Sタンパク質に結合しない、1つまたは複数のSARS-CoV Sタンパク質中和抗体;
(d)SARS-CoV Sタンパク質受容体に結合しかつSタンパク質の受容体への結合を遮断する1つまたは複数の薬剤;ならびに
(e)1つまたは複数の抗ウイルス薬剤。
【0023】
ある態様において、少なくとも1つの追加のSARS-CoV中和ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分は、アミノ酸残基1〜1255(SEQ ID NO:94)、SEQ ID NO:94と少なくとも85%同一である領域、アミノ酸残基12〜261(SEQ ID NO:95)、SEQ ID NO:95と少なくとも85%同一である領域、アミノ酸残基318〜510(SEQ ID NO:96)、SEQ ID NO:96と少なくとも85%同一である領域、アミノ酸残基15〜680(SEQ ID NO:97)、およびSEQ ID NO:97と少なくとも85%同一である領域からなる群より選択されるヒトSARS-CoV Sタンパク質の異なる領域に特異的に結合する少なくとも2つの抗体を含む。
【0024】
ある局面において、本開示は、(i)前述の態様のいずれか1つによる抗体もしくは抗原結合部分;または(ii)抗体もしくは抗原結合部分の重鎖もしくは軽鎖を産生する単離された細胞株を提供する。
【0025】
ある局面において、本開示は、前述の態様のいずれか1つによる抗体の重鎖もしくは抗原結合部分または軽鎖もしくはその抗原結合部分をコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子を提供する。
【0026】
ある局面において、本開示は、核酸分子に機能的に連結される発現制御配列を任意で含む、前述の態様のいずれか1つによる核酸分子を含むベクターを提供する。
【0027】
ある局面において、本開示は、前述の態様のいずれか1つによるベクターまたは前述の態様のいずれか1つによる核酸分子を含む宿主細胞を提供する。
【0028】
ある局面において、本開示は、前述の態様のいずれか1つによる核酸を含み、該核酸を発現する、非ヒトトランスジェニック動物またはトランスジェニック植物を提供する。ある態様において、非ヒトトランスジェニック動物は哺乳動物である。
【0029】
ある局面において、本開示は、前述の態様のいずれか1つによる非ヒトトランスジェニック動物またはトランスジェニック植物から抗体を単離する工程を含む、ヒトSARS-CoV Sタンパク質に特異的に結合する抗体またはその抗原結合部分を単離するための方法を提供する。
【0030】
ある局面において、本開示は、前述の態様のいずれか1つによる宿主細胞で抗体を発現させる工程を含む前述の態様のいずれか1つによるヒトモノクローナル抗体を産生するための方法を提供する。
【0031】
ある局面において、本開示は、Sタンパク質を介したSARS-CoV の細胞への結合を減少させるための方法であって、前述の態様のいずれか1つによる抗体または抗原結合部分とSタンパク質を接触させる工程を含む方法を提供する。ある態様において、細胞はアンジオテンシン変換酵素2(Ace2)を発現する。
【0032】
ある局面において、本開示は、前述の態様のいずれか1つによる抗体または抗原結合部分;または前述の態様のいずれか1つによる組成物とSタンパク質を接触させる工程を含む、SARS-CoV Sタンパク質を介する活性を減少させるための方法を提供する。ある態様において、SARS-CoV Sタンパク質を介する活性は、ウイルスの細胞への付着、ウイルス膜の細胞との融合、またはその組み合わせより選択される。ある態様において、ウイルスは対象の中にある。
【0033】
ある局面において、本開示は、前述の態様のいずれか1つによる抗体を投与する工程を含むそれを必要とする対象におけるSARS-CoVウイルス負荷を減少させるための方法を提供する。
【0034】
ある局面において、本開示は、それを必要とする対象におけるSARS-CoVを介する障害の症状を処置し、防止し、または緩和するための方法であって、前述の態様のいずれか1つによる抗体もしくは抗原結合部分、または前述の態様のいずれか1つによる組成物を対象に投与する工程を含む方法を提供する。ある態様において、SARS-CoVを介する障害は重症急性呼吸器症候群である。
【0035】
ある局面において、本開示は、それを必要とする対象におけるSARS-CoVを介する障害の症状を処置し、防止し、または緩和するための方法であって、以下からなる群より選択される少なくとも1つの追加の治療的薬剤をさらに含む、前述の態様のいずれか1つによる抗体もしくは抗原結合部分を対象に投与する工程を含む方法を提供する:
(a)1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2からなる群より選択される、1つもしくは複数の抗体;
(b)異なるSARS-CoV株のSARS-CoV Sタンパク質に特異的に結合する1つまたは複数の抗体;
(c)SARS-CoV Sタンパク質に結合しない、1つまたは複数の中和抗体;
(d)SARS-CoV Sタンパク質受容体に結合する1つまたは複数の薬剤;ならびに
(e)1つまたは複数の抗ウイルス薬剤。
【0036】
本発明は、上述の本発明の局面および態様のいずれかの組み合わせを企図する。
【0037】
発明の詳細な説明
定義および一般的技術
本明細書で他に定義されない限り、本発明に関連して用いられる科学技術用語は、当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。さらに、文脈上そうでないよう要求されない限り、単数形の用語は複数形を含みかつ複数形の用語は単数形を含むものとする。通常、本明細書で記載される細胞および組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、ならびにタンパク質および核酸化学ならびにハイブリダイゼーションに関連して用いられる用語法、ならびに本明細書で記載される細胞および組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、ならびにタンパク質および核酸化学ならびにハイブリダイゼーションの技術は、当技術分野で周知でありかつ一般に用いられるものである。
【0038】
本発明の方法および技術は通常、そうでないよう示されない限り、当技術分野で周知でありかつ本明細書の全体を通じて引用および考察される、様々な一般的な参考文献およびより特殊な参考文献に記載されているような従来の方法に従って行なわれる。例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Sambrook et al. Molecular Cloning:A Laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.(1989), およびAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates (1992), ならびにHarlow and Lane, Antibodies:A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.(1990)を参照されたい。酵素反応および精製技術は、当技術分野で一般に遂行されるようにまたは本明細書で記載されるように、製造業者の仕様に従って行なわれる。本明細書で記載される分析化学、合成有機化学、ならびに医薬品および薬品化学に関連して用いられる用語法、ならびに本明細書で記載される分析化学、合成有機化学、ならびに医薬品および薬品化学の実験手順および技術は、当技術分野において周知でかつ一般に用いられるものである。標準的な技術が、化学合成、化学分析、薬学的調製、製剤化、および送達、ならびに患者の処置に用いられる。
【0039】
以下の用語は、他に示されない限り、以下の意味を有すると理解される。
【0040】
「ポリペプチド」という用語は、天然または人工のタンパク質、タンパク質断片、およびタンパク質配列のポリペプチド類似体を包含する。ポリペプチドは、単量体であってもよくまたは多量体であってもよい。
【0041】
「単離されたタンパク質」、「単離されたポリペプチド」、または「単離された抗体」という用語は、その起源または派生の源によって、(1)その天然の状態で本来それに付随する、関連する構成要素と関連しない、(2)同じ種由来のその他のタンパク質を含まない、(3)異なる種由来の細胞によって発現される、または(4)自然界で生じない、タンパク質、ポリペプチド、または抗体である。したがって、化学的に合成されるかまたはそれが天然に生じる細胞とは異なる細胞系で合成されるポリペプチドは、その天然に関連する構成要素から「単離されている」と考えられる。また、タンパク質を、当技術分野で周知のタンパク質精製技術を用いて、単離によって、天然に関連する構成要素を実質的に含まないようにしてもよい。
【0042】
単離された抗体の例として、SARS-CoV Sタンパク質またはその部分を用いて親和性精製された抗SARS-CoV Sタンパク質抗体、ハイブリドーマまたはその他の細胞株によってインビトロで合成された抗SARS-CoV Sタンパク質抗体、およびトランスジェニックマウスに由来するヒト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体が含まれる。
【0043】
タンパク質またはポリペプチドは、試料の少なくとも約60〜75%が1つの種のポリペプチドを示す場合、「実質的に純粋」であり、「実質的に均質」であり、または「実質的に精製され」ている。ポリペプチドまたはタンパク質は、単量体であってもよくまたは多量体であってもよい。実質的に純粋なポリペプチドまたはタンパク質は、典型的には、タンパク質試料の約50%、60%、70%、80%、または90% W/W、より通例として約95%を含み、および好ましくは99%を上回って純粋であると考えられる。タンパク質純度または均質性を、タンパク質試料のポリアクリルアミドゲル電気泳動、次いで当技術分野で周知の染色剤を用いてゲルを染色する時に1本のポリペプチドバンドを可視化することなど、当技術分野で周知の多くの手段で示してもよい。ある目的のために、HPLCまたは精製用の当技術分野で周知のその他の手段を用いることによって、より高い分解能を提供してもよい。
【0044】
本明細書で用いる場合の「ポリペプチド断片」という用語は、アミノ末端および/またはカルボキシ末端欠失を有するが、その場合残りのアミノ酸配列は天然に存在する配列中の対応する位置と同一である、ポリペプチドを指す。幾つかの態様において、断片は、少なくとも5、6、8、または10アミノ酸長である。その他の態様において、断片は、少なくとも14、少なくとも20、少なくとも50、または少なくとも70、80、90、100、150、もしくは200アミノ酸長である。
【0045】
本明細書で用いる場合の「ポリペプチド類似体」という用語は、アミノ酸配列の一部分に対する実質的同一性を有しおよび以下の特性のうちの少なくとも1つを有するセグメントを含むポリペプチドを指す:(1)好適な結合条件下でのSARS-CoV Sタンパク質への特異的結合、(2)SARS-CoV Sタンパク質を阻害する能力。典型的には、ポリペプチド類似体は、天然の配列に関して保存的アミノ酸置換(または挿入もしくは欠失)を含む。類似体は典型的には、少なくとも20または25アミノ酸長、好ましくは少なくとも50、60、70、80、90、100、150、もしくは200アミノ酸長またはそれより長く、および多くの場合に全長ポリペプチドと同じくらい長いものであることができる。本発明の幾つかの態様には、生殖系列アミノ酸配列と異なる1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、または17の置換があるポリペプチド断片またはポリペプチド類似体抗体が含まれる。
【0046】
ある態様において、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体またはその抗原結合部分に対するアミノ酸置換は、(1)タンパク質分解に対する感受性を低下させ、(2)酸化に対する感受性を低下させ、(3)タンパク質複合体を形成するための結合親和性を変更し、および(4)そのような類似体のその他の物理化学的または機能的特性を付与または改変するが、それでもSARS-CoV Sタンパク質に対する特異的結合を保持するアミノ酸置換である。類似体は、普通に生じるペプチド配列以外の配列の様々なムテイン(mutein)を含むことができる。例えば、1つまたは多数のアミノ酸置換、好ましくは保存的アミノ酸置換が、普通に生じる配列で、好ましくは分子間接触を形成するドメインの外側のポリペプチドの部分でなされてもよい。保存的アミノ酸置換は親配列の構造的特徴を実質的に変化させるべきではなく;例えば、置換アミノ酸は、親配列で生じる免疫グロブリン結合ドメインを構成する逆平行βシートを変化させるべきではなく、または親配列を特徴付けるその他の種類の二次構造を破壊するべきではない。一般に、グリシンおよびプロリンは、逆平行βシートで用いられないと考えられる。当業者に認識されるポリペプチド二次および三次構造の例は、参照により本明細書に組み入れられる、Proteins, Structures and Molecular Principles (Creighton, Ed., W. H. Freeman andCompany, New York (1984));Introduction to Protein Structure (C. Branden and J. Tooze, 編, Garland Publishing, New York, N.Y. (1991));およびThornton et al., Nature 354:105 (1991)に記載されている。
【0047】
非ペプチド類似体は一般に、鋳型ペプチドの特性に類似した特性を持つ薬物として薬品業界で用いられている。これらの種類の非ペプチド化合物は、「ペプチド模倣体(peptide mimetic)」または「ペプチドミメティック(peptidomimetic)」と呼ばれる。参照により本明細書に組み入れられる、Fauchere, J. Adv. Drug Res. 15:29 (1986); Veber and Freidinger, TINS p.392 (1985);およびEvans et al., J. Med. Chem. 30:1229 (1987)。そのような化合物は多くの場合、コンピュータ化された分子モデリングの援助によって開発される。治療的に有用なペプチドと構造的によく似たペプチド模倣体を用いて、同等の治療効果または予防効果をもたらしてもよい。通常、ペプチドミメティックは、ヒト抗体などの、パラダイムポリペプチド(すなわち、所望の生化学的特性または薬理学的活性を有するポリペプチド)に構造的によく似ているが、当技術分野で周知の方法で、以下からなる群より選択される連結によって、任意で置換された1つまたは複数のペプチド連結を有する:--CH2NH--、--CH2S--、--CH2-CH2--、--CH=CH--(シスおよびトランス)、--COCH2--、--CH(OH)CH2--、ならびに-CH2SO--。また、コンセンサス配列の1つまたは複数のアミノ酸の同じ種類のD-アミノ酸との系統的な置換(例えば、L-リジンの代わりにD-リジン)を用いて、より安定なペプチドを作製してもよい。さらに、コンセンサス配列または実質的に同一のコンセンサス配列変異を含む制約されたペプチドを、当技術分野で公知の方法(参照により本明細書に組み入れられる、Rizo and Gierasch, Ann. Rev. Biochem. 61:387 (1992))で;例えば、ペプチドを環状化する分子内ジスルフィド架橋を形成することができる内部システイン残基を付加することによって作製してもよい。
【0048】
本明細書で本発明に関して「抗体」に言及する場合、その抗原結合部分も用い得るということが通常理解される。抗原結合部分はインタクトな抗体と特異的結合を競合する。一般に、(あらゆる目的のためにその全体が参照により組み入れられる)Fundamental Immunology, 第7章(Paul, W.編, 第2版, Raven Press, N.Y.(1989))を参照されたい。抗原結合部分は、組換えDNA技術でまたはインタクトな抗体の酵素的もしくは化学的な切断で産生してもよい。幾つかの態様において、抗原結合部分には、Fab、Fab'、F(ab')2、Fd、Fv、dAb、および相補性決定領域(CDR)断片、単鎖抗体(scFv)、キメラ抗体、ダイアボディ(diabody)、ならびにポリペプチドに特異的な抗原結合を付与するのに十分である抗体の少なくとも一部を含むポリペプチドが含まれる。
【0049】
N末端からC末端に向かって、成熟した軽鎖および重鎖の可変領域の両方が、領域FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4を含む。本明細書における各ドメインへのアミノ酸の割り当ては、Kabat, Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institutes of Health, Bethesda, Md.(1987および1991)), Chothia & Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987)またはChothia et al., Nature 342:878-883 (1989)の定義に一致している。
【0050】
本明細書で用いる場合、番号で言及される抗体は、同じ番号のハイブリドーマから得られるモノクローナル抗体と同じものである。例えば、モノクローナル抗体5C12は、ハイブリドーマ5C12、またはそのサブクローンから得られた抗体と同じ抗体である。
【0051】
本明細書で用いる場合、Fd断片はVHドメインおよびCH1ドメインからなる抗体断片を意味し;Fv断片は、抗体の1本のアームのVLドメインおよびVHドメインからなり;ならびにdAb断片(Ward et al., Nature 341:544-546 (1989))はVHドメインからなる。
【0052】
幾つかの態様において、抗体は、VLドメインとVHドメインが対を形成し、それらが1本のタンパク質鎖として作られるのを可能にする合成リンカーを介して一価の分子を形成する単鎖抗体(scFv)である(Bird et al., Science 242:423-426 (1988)およびHuston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883 (1988))。幾つかの態様において、抗体は、ダイアボディ、すなわち、VHドメインおよびVLドメインは1本のポリペプチド鎖上に発現されるが、非常に短いために同じ鎖上の2つのドメイン間で対を形成させないリンカーを用いているので、ドメインが別の鎖の相補的なドメインと対を形成することを強いられかつ2つの抗原結合部位が創り出される二価の抗体である(例えば、Holliger P. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448 (1993)、およびPoljak R.J. et al., Structure 2:1121-1123 (1994)参照)。幾つかの態様において、それをSARS-CoV Sタンパク質に特異的に結合する免疫アドヘシンにするために、本発明の抗体由来の1つまたは複数のCDRを共有結合かまたは非共有結合かのいずれかで分子に組み入れてもよい。そのような態様において、CDRをより長いポリペプチド鎖の一部として組み入れてもよく、別のポリペプチド鎖に共有結合で連結してもよく、または非共有結合で連結してもよい。
【0053】
1つまたは複数の結合部位を有する態様において、結合部位は互いに同一であってもよくまたは異なっていてもよい。
【0054】
本明細書で用いる場合、「ヒト抗体」という用語は、可変ドメイン配列および定常ドメイン配列がヒト配列である任意の抗体を意味する。本用語は、ヒト遺伝子に由来する配列を持つが、例えば、あり得る免疫原性を減少させ、親和性を増加させ、望ましくない折り畳みを生じさせる可能性のあるシステインを排除するなどのために変化させた抗体を包含する。本用語は、ヒト細胞に典型的でないグリコシル化を付与する可能性のある、非ヒト細胞で組換えによって産生されるそのような抗体を包含する。これらの抗体を、下で記載したような、種々の方法で調製してもよい。
【0055】
本明細書で用いる場合の「キメラ抗体」という用語は、2つまたはそれより多くの異なる抗体由来の領域を含む抗体を意味する。1つの態様において、キメラ抗体のCDRの1つまたは複数がヒト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体に由来する。別の態様において、CDRの全てがヒト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体に由来する。別の態様において、1つより多くのヒト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体由来のCDRをキメラ抗体中で組み合わせる。例えば、キメラ抗体は、第一のヒト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体の軽鎖由来のCDR1、第二のヒト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体の軽鎖由来のCDR2、および第三のヒト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体の軽鎖由来のCDR3を含んでもよく、重鎖由来のCDRは、1つまたは複数のその他の抗SARS-CoV Sタンパク質抗体に由来してもよい。さらに、フレームワーク領域は、CDRの1つもしくは複数が取得される抗SARS-CoV Sタンパク質抗体のうちの1つにまたは1つもしくは複数の異なるヒト抗体に由来してもよい。
【0056】
幾つかの態様において、本発明のキメラ抗体は、ヒト化抗SARS-CoV Sタンパク質抗体である。本発明のヒト化抗SARS-CoV Sタンパク質抗体は、本発明の1つまたは複数のヒト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体の1つもしくは複数のフレームワーク領域のアミノ酸配列および/または定常領域の少なくとも一部由来のアミノ酸配列ならびに非ヒト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体に由来するCDRを含む。
【0057】
本明細書で用いる場合の「中和抗体」、「中和活性」を持つ抗体、「拮抗的抗体」、または「阻害的抗体」は、細胞の50%に感染するのに必要とされる組織培養感染用量の200倍(200xTCID50)のコロナウイルスを中和する抗体を意味する。幾つかの態様において、中和抗体は、<12.5 μg/ml、<3.125 μg/ml、<.8 μg/mlの抗体濃度で有効である。好ましい態様において、中和抗体は、<.2 μg/mlの抗体濃度で有効である。最も好ましい態様において、中和抗体は、<.1 μg/mlの抗体濃度で有効である。
【0058】
抗体または免疫グロブリン分子の断片または類似体は、本明細書の教示後に当業者によって容易に調製されることができる。断片または類似体の好ましいアミノおよびカルボキシ末端は、機能ドメインの境界付近に生じる。公共または私有の配列データベースとヌクレオチドおよび/またはアミノ酸配列データの比較によって、構造および機能ドメインを同定することができる。好ましくは、コンピュータ化された比較法を用いて、公知の構造および/もしくは機能のその他のタンパク質中に生じる配列モチーフまたは予想されるタンパク質立体構造ドメインを同定する。公知の3次元構造に折り畳まれるタンパク質配列を同定するための方法は公知である。例えば、Bowie et al., Science 253:164 (1991)を参照されたい。
【0059】
本明細書で用いる場合の、「表面プラズモン共鳴」という用語は、例えば、BIACORE(商標)システム(Pharmacia Biosensor AB, Uppsala, Sweden and Piscataway, N. J.)を用いた、バイオセンサーマトリックス内のタンパク質濃度の変化の検出によってリアルタイムの生体特異的相互作用の解析を可能にする光学現象を指す。さらなる説明については、Jonsson U. et al., Ann. Biol. Clin. 51:19-26 (1993);Jonsson U. et al., Biotechniques 11:620-627 (1991);Jonsson B. et al., J. Mol. Recognit. 8:125-131 (1995);およびJohnsson B. et al., Anal. Biochem. 198:268-277 (1991)を参照されたい。
【0060】
「TCID50」という用語は、組織培養中の細胞の50%に感染するのに必要なウイルスの量を指す。10Oxおよび200xは、TCID50と比較したウイルスの濃度の100または200倍を指す。
【0061】
「KD」という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の平衡解離定数を指す。
【0062】
「エピトープ」という用語には、免疫グロブリンもしくはT細胞受容体に特異的に結合することができるまたはさもなければ分子との相互作用をすることができる任意のタンパク質決定基が含まれる。エピトープ決定基は通常、アミノ酸または炭水化物もしくは糖側鎖などの分子の化学的に活性のある表面基からなり、通常、特異的な3次元構造的特徴だけでなく、特異的な電荷特徴も有する。エピトープは、「線形」であってもよくまたは「立体構造的」であってもよい。線形エピトープでは、タンパク質と(抗体などの)相互作用分子の間の相互作用の点の全てが、タンパク質の一次アミノ酸配列に沿って線形に生じる。立体構造的エピトープでは、相互作用の点が、互いに離れているタンパク質上のアミノ酸残基を横断して生じる。解離定数が? 1 mM、好ましくは? 100 nM、および最も好ましくは? 10 nMである時、抗体は抗原特異的に結合すると言われる。ある態様において、KDは1 pM〜500 pMである。その他の態様において、KDは500 pM〜1 μMである。その他の態様において、KDは1 μM〜100 nMである。その他の態様において、KDは100 mM〜10 nMである。ひとたび抗原上の所望のエピトープが決定されれば、例えば、本発明で記載された技術を用いて、そのエピトープに対する抗体を作製することが可能である。あるいは、発見過程の間に、抗体の作製および特徴付けによって望ましいエピトープに関する情報が解明されてもよい。この情報から、その後同じエピトープに対する結合について抗体を競合的にスクリーニングすることが可能である。これを達成するためのアプローチは、例えば、抗体が抗原に対する結合について競合する、互いに競合的に結合する抗体を見出すために交差競合検討を実施することである。それらの交差競合に基づいて抗体を「ビニングする(binning)」ためのハイスループット過程は、国際特許出願国際公開公報第03/48731号に記載されている。
【0063】
本明細書で用いる場合、20の従来のアミノ酸およびそれらの略号は従来の使用法に従う。例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Immunology - A Synthesis (第2版, E. S. Golub and D. R. Gren編, Sinauer Associates, Sunderland, Mass. (1991))を参照されたい。
【0064】
本明細書で言及される場合の「ポリヌクレオチド」という用語は、リボヌクレオチドかまたはデオキシリボヌクレオチドかまたはいずれかの種類のヌクレオチドの修飾形態かのいずれかの、長さが少なくとも10塩基のポリマー形態のヌクレオチドを指す。本用語には、一本鎖および二本鎖形態が含まれる。
【0065】
本明細書で用いる場合の「単離されたポリヌクレオチド」という用語は、その起源によって、「単離されたポリヌクレオチド」が、(1)「単離されたポリヌクレオチド」が自然界で見出されるポリヌクレオチドの全体または一部と関連しておらず、(2)それが自然界では連結していないポリヌクレオチドに機能的に連結されており、または(3)より長い配列の一部として自然界に生じない、ゲノム、cDNA、もしくは合成起源、またはその幾つかの組み合わせのポリヌクレオチドを意味する。
【0066】
本明細書で用いる場合の「天然に存在するオリゴヌクレオチド」という用語は、デオキシリボヌクレオチドおよびリボヌクレオチドを含む。本明細書で用いる場合の「修飾ヌクレオチド」には、修飾または置換された糖基などを持つヌクレオチドが含まれる。本明細書で言及される場合の「オリゴヌクレオチド連結」という用語には、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレノエート、ホスホロジセレノエート、ホスホロアニロチオエート(phosphoroanilothioate)、ホスホラニラデート(phosphoraniladate)、ホスホロアミデートなどのようなオリゴヌクレオチド連結が含まれる。例えば、その開示が参照により本明細書に組み入れられる、LaPlanche et al., Nucl. Acids Res. 14:9081(1986);Stec et al., J. Am. Chem. Soc. 106:6077 (1984);Stein et al., Nucl. Acids Res. 16:3209(1988);Zon et al., Anti-Cancer Drug Design6:539 (1991);Zon et al., Oligonucleotides and Analogues: A Practical Approach, pp.87-108 (F. Eckstein, 編, Oxford University Press, Oxford England (1991));米国特許第5,151,510号;Uhlmann and Peyman, Chemical Reviews 90:543 (1990)を参照されたい。オリゴヌクレオチドは、望ましい場合、検出用の標識を含むことができる。
【0067】
「機能的に連結された」配列には、関心対象の遺伝子と連続している発現制御配列およびトランスにまたは距離をおいて作用して関心対象の遺伝子を制御する発現制御配列の両方が含まれる。本明細書で用いる場合の「発現制御配列」という用語は、それらが連結されたコード配列の発現およびプロセッシングを有効とするために必要であるポリヌクレオチド配列を意味する。発現制御配列には、適当な転写開始配列、終結配列、プロモーター配列、およびエンハンサー配列;スプライシングシグナルおよびポリアデニル化シグナルなどの効率的なRNAプロセッシングシグナル;細胞質mRNAを安定化させる配列;翻訳効率を増強させる配列(すなわち、コザックコンセンサス配列);タンパク質安定性を増強させる配列;ならびに望ましい場合、タンパク質分泌を増強させる配列が含まれる。そのような制御配列の性質は宿主生物に応じて異なり;原核生物では、そのような制御配列には通常、プロモーター配列、リボソーム結合部位配列、および転写終結配列が含まれ;真核生物では、通常、そのような制御配列にはプロモーター配列および転写終結配列を含む。「制御配列」という用語は、最低でも、その存在が発現およびプロセッシングに不可欠である全ての構成要素を含むことが意図され、その存在が利点となる追加の構成要素、例えば、リーダー配列および融合パートナー配列を含むこともできる。
【0068】
本明細書で用いる場合の、「ベクター」という用語は、連結されている別の核酸を輸送することができる核酸分子を意味する。幾つかの態様において、ベクターはプラスミド、すなわち、追加のDNAセグメントをライゲートし得る環状二本鎖片のDNAである。幾つかの態様において、ベクターは、追加のDNAセグメントをウイルスゲノムにライゲートし得る、ウイルスベクターである。幾つかの態様において、ベクターは、それらが導入されている宿主細胞内での自律的複製が可能である(例えば、細菌の複製の起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム性の哺乳動物ベクター)。その他の態様において、ベクター(例えば、非エピソーム性の哺乳動物ベクター)は、宿主細胞内への導入後に宿主細胞のゲノムに組み込まれることができ、かつその結果宿主ゲノムと一緒に複製される。その上、ある種のベクターは、それらが機能的に連結されている遺伝子の発現を導くことが可能である。そのようなベクターは本明細書で「組換え発現ベクター」(または単に、「発現ベクター」)と称される。
【0069】
本明細書で用いる場合の、「組換え宿主細胞」(または単に「宿主細胞」)という用語は、組換え発現ベクターが導入されている細胞を意味する。「組換え宿主細胞」および「宿主細胞」は、特定の対象細胞だけでなく、そのような細胞の子孫も意味するということが理解されるべきである。突然変異または環境的影響のいずれかによって、ある種の改変が続く世代で生じる場合があるので、そのような子孫は、実際には、親細胞と同一でない場合があるが、それでも本明細書で用いる場合の「宿主細胞」という用語の範囲内に含まれる。
【0070】
本明細書で言及される「選択的にハイブリダイズする」という用語は、検出可能におよび特異的に結合することを意味する。本発明によるポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、およびその断片は、非特異的な核酸に対する相当な量の検出可能な結合を最小にするハイブリダイゼーションおよび洗浄条件下で、核酸鎖に選択的にハイブリダイズする。「高ストリンジェンシー」、または「高度にストリンジェントな」条件を用いて、当技術分野で公知でありかつ本明細書で考察されるような選択的なハイブリダイゼーション条件を達成することができる。「高ストリンジェンシー」または「高度にストリンジェントな」条件の一例は、ポリヌクレオチドの別のポリヌクレオチドとのインキュベーションであり、一方のポリヌクレオチドを6× SSPEまたはSSC、50%ホルムアミド、5× デンハルト試薬、0.5% SDS、100 μg/ml変性断片化サケ精子DNAのハイブリダイゼーション緩衝剤中で42℃のハイブリダイゼーション温度で12〜16時間、膜などの固体表面上に固着させ、次いで1× SSC、0.5% SDSの洗浄緩衝剤を用いて55℃で2回洗浄してもよい。Sambrook et al., 前記, pp.9.50-9.55も参照されたい。
【0071】
ヌクレオチド配列の文脈における「配列同一性パーセント」という用語は、最大の一致を得るようにアラインさせた場合に同じものである2つの配列中の残基を意味する。配列同一性比較の長さは、一続きの少なくとも約9ヌクレオチド、通例少なくとも約18ヌクレオチド、より通例として少なくとも約24ヌクレオチド、典型的には少なくとも約28ヌクレオチド、より典型的には少なくとも約32ヌクレオチド、および好ましくは少なくとも約36、48、またはそれより多くのヌクレオチドを上回ってもよい。ヌクレオチド配列同一性を測定するために用いることができる当技術分野で公知の多くの異なるアルゴリズムがある。例えば、ポリヌクレオチド配列を、Wisconsin Package、バージョン10.0、Genetics Computer Group (GCG)、Madison、Wisconsin中のプログラムである、FASTA、Gap、またはBestfitを用いて比較することができる。例えば、プログラムFASTA2およびFASTA3を含む、FASTAは、クエリー配列と検索配列の間の最高の重複の領域のアライメントおよび配列同一性パーセントを提供する(参照により本明細書に組み入れられる;Pearson、Methods Enzymol. 183:63-98 (1990);Pearson、Methods Mol. Biol. 132:185-219 (2000);Pearson、Methods Enzymol. 266:227-258 (1996);Pearson、J. Mol. Biol. 276:71-84 (1998))。そうでないように明記されない限り、特定のプログラムまたはアルゴリズム用のデフォルトパラメータを用いる。例えば、ヌクレオチド配列間の配列同一性パーセントを、そのデフォルトパラメータ(6というワードサイズおよびスコアリングマトリックス用のNOPAMファクター)と共にFASTAを用いてまたは参照により本明細書に組み入れられる、GCGバージョン6.1で提供されるようなそのデフォルトパラメータと共にGapを用いて決定することができる。
【0072】
ヌクレオチド配列への言及は、そうでないように明記されない限り、その相補物を包含する。したがって、特定の配列を有する核酸への言及は、その相補鎖を、その相補的配列と共に包含するよう理解されるべきである。
【0073】
本明細書で用いる場合、「配列同一性パーセント」および「配列相同性パーセント」という用語は、互換的に用いられる。
【0074】
核酸またはその断片を指す時の、「実質的な類似性」または「実質的な配列類似性」という用語は、適当なヌクレオチド挿入または欠失を伴って別の核酸(またはその相補鎖)と最適にアラインさせる時に、ヌクレオチド配列の同一性が、上で考察したような、FASTA、BLAST、またはGapなどの、配列同一性の任意の周知のアルゴリズムで測定した場合に、ヌクレオチド塩基の少なくとも約85%、好ましくは少なくとも約90%、およびより好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%、または99%であるということを意味する。
【0075】
ポリペプチドに適用される場合、「実質的な同一性」という用語は、GAPやBESTFITというプログラムなどで、プログラムと共に供給されるようなデフォルトのギャップ重みを用いて最適にアラインさせた時に、2つのペプチド配列が、少なくとも70%、75%、または80%の配列同一性、好ましくは少なくとも90%または95%の配列同一性、およびより好ましくは少なくとも97%、98%、または99%の配列同一性を共有するということを意味する。ある態様において、同一ではない残基位置は保存的アミノ酸置換が異なる。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が類似の化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を持つ側鎖R基を有する別のアミノ酸残基で置換されている置換である。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的には変化させないと考えられる。2つまたはそれより多くのアミノ酸配列が保存的置換によって互いに異なる場合、置換の保存的性質を改変するために配列同一性パーセントを上方に調整してもよい。この調整を行なうための手段は当業者に周知である。例えば、Pearson、Methods Mol. Biol. 243:307-31 (1994)を参照されたい。類似の化学的特性を持つ側鎖を有するアミノ酸の群の例として、1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシン;2)脂肪族-ヒドロキシル側鎖:セリンおよびスレオニン;3)アミド含有側鎖:アスパラギンおよびグルタミン;4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン;5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、およびヒスチジン;6)酸性側鎖:アスパラギン酸およびグルタミン酸;ならびに7)硫黄含有側鎖:システインおよびメチオニンが含まれる。保存的アミノ酸置換群は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸-アスパラギン酸、およびアスパラギン-グルタミンである。
【0076】
あるいは、保存的置換は、参照により本明細書に組み入れられる、Gonnet et al., Science 256:1443-45 (1992)に開示されたPAM250の対数確率行列で正の値を有する任意の変化である。「中程度に保存的な」置換は、PAM250対数確率行列で負でない値を有する任意の変化である。
【0077】
ポリペプチドについての配列同一性を、典型的には配列解析ソフトウェアを用いて測定する。タンパク質解析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含む、様々な置換、欠失、およびその他の改変に割り当てられる類似性の尺度を用いて配列を一致させる。例えば、GCGは、プログラムで指定されるようなデフォルトのパラメータと共に用いて、異なる種の生物由来の相同なポリペプチドなどの、密接に関連したポリペプチド間のまたは野生型タンパク質とそのムテインとの間の配列相同性または配列同一性を決定することができる「Gap」および「Bestfit」などのプログラムを含む。例えば、GCGバージョン6.1(University of Wisconsin, WI)を参照されたい。デフォルトのパラメータまたは推奨されるパラメータを用いたFASTAを用いて、ポリペプチド配列を比較することもでき、GCGバージョン6.1を参照されたい。FASTA(例えば、FASTA2およびFASTA3)は、クエリー配列と検索配列間の最高の重複の領域のアラインメントおよび配列同一性パーセントを提供する(Pearson、Methods Enzymol. 183:63-98(1990);Pearson、Methods Mol. Biol. 132:185-219(2000))。本発明の配列を異なる生物由来の多数の配列を含むデータベースと比較する時の別の好ましいアルゴリズムは、プログラムと共に供給されるようなデフォルトのパラメータを用いる、コンピュータプログラムBLAST、とりわけblastpまたはtblastnである。例えば、Altschul et al., J. Mol. Biol. 215:403-410 (1990);Altschul et al., Nucleic Acids Res. 25:3389-402 (1997)を参照されたい。
【0078】
相同性について比較されるポリペプチド配列の長さは通常、少なくとも約16アミノ酸残基、通例少なくとも約20残基、より通例として少なくとも約24残基、典型的には少なくとも約28残基、および好ましくは約35残基よりも多くの残基である。多数の異なる生物由来の配列を含むデータベースを検索する場合、アミノ酸配列を比較することが好ましい。
【0079】
本明細書で用いる場合、「標識」または「標識された」という用語は、抗体中への別の分子の組み入れを意味する。1つの態様において、標識は、検出可能なマーカー、例えば、放射性標識アミノ酸の組み入れまたは印が付けられたアビジン(例えば、光学的方法または比色法で検出することができる蛍光マーカーまたは酵素活性を含むストレプトアビジン)で検出することができるビオチニル部分のポリペプチドへの付着である。別の態様において、標識またはマーカーは、治療的であることができ、例えば、薬物コンジュゲートおよび毒素であることができる。ポリペプチドおよび糖タンパク質を標識する様々な方法が当技術分野で公知でありかつ使用されてもよい。ポリペプチド用の標識の例として、以下のものが含まれるが、これらに限定されない:放射性同位体または放射性核種(例えば、3H、14C、15N、35S、90Y、99Tc、111In、125I、131I)、蛍光標識(例えば、FITC、ローダミン、ランタニド燐光体(lanthanide phosphor))、酵素標識(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ)、化学発光マーカー、ビオチニル基、二次レポーターによって認識される所定のポリペプチドエピトープ(例えば、ロイシンジッパー対配列、二次抗体の結合部位、金属結合ドメイン、エピトープタグ)、ガドリニウムキレート剤などの、磁気薬剤、百日咳毒素などの毒素、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1-デヒドロテストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、およびピューロマイシン、ならびにその類似体または相同体。幾つかの態様において、ポリペプチド用の標識にはフルオロフォアが含まれる。「フルオロフォア」という用語は、約400〜900 nmの蛍光放出最大値を持つ化合物を指す。幾つかの態様において、標識を、潜在的な立体障害を低下させるために、様々な長さのスペーサーアームによって付着させる。
【0080】
本明細書および特許請求の範囲の全体を通じて、「含む(comprise)」という語、または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」などの変形は、述べられた整数または整数の群の包含を意味するが、任意のその他の整数または整数の群の排除を意味しないことが理解されると考えられる。
【0081】
ヒト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体およびその特徴
1つの態様において、本発明は、ヒト化抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を提供する。別の態様において、本発明は、ヒト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を提供する。幾つかの態様において、ヒト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体は、トランスジェニック動物がヒト抗体を産生するようにそのゲノムがヒト免疫グロブリン遺伝子を含む、非ヒトトランスジェニック動物、例えば、齧歯類を免疫化することによって産生される。幾つかの態様において、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体および抗原結合部分には、(i)SARS-CoV Sタンパク質のS1ドメイン;(ii)SARS-CoV Sタンパク質のS2ドメイン;または(iii)(i)および(ii)両方に結合する抗体または抗原結合部分が含まれるが、これらに限定されない。
【0082】
本発明の抗SARS-CoV Sタンパク質抗体は、ヒトκ軽鎖もしくはヒトλ軽鎖またはそれに由来するアミノ酸配列を含むことができる。κ軽鎖を含む幾つかの態様において、軽鎖可変ドメイン(VL)は、一部ヒトのVκ1およびVκ2ファミリー遺伝子によってコードされる。ある態様において、軽鎖は、ヒトVκA30、ヒトVκL5、またはヒトVκA1遺伝子を利用する。
【0083】
幾つかの態様において、SARS-CoV Sタンパク質抗体のVLは、ヒト遺伝子の生殖系列アミノ酸配列と比べて1つまたは複数のアミノ酸置換を含む。幾つかの態様において、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体のVLは、生殖系列アミノ酸配列と比べて1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、または10のアミノ酸置換を含む。幾つかの態様において、生殖系列由来のそれらの置換の1つまたは複数は、軽鎖のCDR領域中にある。幾つかの態様において、生殖系列と比べたアミノ酸置換は、抗体1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2のVLの任意の1つまたは複数における、生殖系列と比べた置換と同じ位置の1つまたは複数にある。例えば、本発明の抗SARS-CoV Sタンパク質抗体のVLは、抗体4E2のVL中に見出される生殖系列と比較して1つまたは複数のアミノ酸置換を含んでもよい。幾つかの態様において、アミノ酸変化は、同じ位置の1つまたは複数にあるが、参照抗体とは異なる置換を伴う。
【0084】
幾つかの態様において、生殖系列と比べたアミノ酸変化は、抗体1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2のVLのいずれかと同じ位置の1つまたは複数で生じるが、変化は、参照抗体中のアミノ酸と比べたそのような位置での保存的アミノ酸置換を表してもよい。例えば、これらの抗体のうちの1つにおける特定の位置が生殖系列と比べて変化しかつグルタミン酸である場合、その位置でアスパラギン酸に置換してもよい。同様に、生殖系列と比較したアミノ酸置換がセリンである場合、その位置でセリンの代わりにスレオニンに保存的に置換してもよい。保存的アミノ酸置換は前記で考察されている。
【0085】
幾つかの態様において、ヒト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体の軽鎖は、モノクローナル抗体1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2のVLのアミノ酸配列、または1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、もしくは10までの保存的アミノ酸置換および/もしくは合計3つまでの非保存的アミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの態様において、軽鎖は、先述の抗体のうちの任意の1つのCDR1の初めからCDR3の終わりまでのアミノ酸配列を含む。
【0086】
幾つかの態様において、軽鎖は、モノクローナル抗体1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2の軽鎖のそれぞれ、軽鎖CDR1、CDR2、もしくはCDR3より独立に選択されるCDR1、CDR2、もしくはCDR3領域、または4つ未満もしくは3つ未満の保存的アミノ酸置換および/もしくは合計3つもしくはそれより少ない非保存的アミノ酸置換を各々有するCDR領域を含んでもよい。幾つかの態様において、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体の軽鎖は、その各々がモノクローナル抗体1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2の軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3領域より独立に選択される、軽鎖CDR1、CDR2、またはCDR3を含む。ある態様において、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体の軽鎖は、1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2より選択される抗体のVL領域のアミノ酸配列を含む抗体の軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3領域、または4つ未満もしくは3つ未満の保存的アミノ酸置換および/もしくは合計3つもしくはそれより少ない非保存的アミノ酸置換を各々有するCDR領域を含む。
【0087】
重鎖に関しては、幾つかの態様において、可変領域(VH)は一部ヒトのVH 1、VH 3、またはVH 4ファミリー遺伝子によってコードされる。ある態様において、重鎖は、ヒトVH 1-2、VH 1-18、VH 3-33、またはVH 4-49遺伝子を利用する。幾つかの態様において、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体のVH配列は、生殖系列アミノ酸配列と比べて1つまたは複数のアミノ酸の置換、欠失、または挿入(付加)を含む。幾つかの態様において、重鎖の可変ドメインは、生殖系列アミノ酸配列と異なる1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10、11、12、13、14、15、16、または17の突然変異を含む。幾つかの態様において、突然変異は、生殖系列アミノ酸配列と比較した非保存的置換である。幾つかの態様において、突然変異は、重鎖のCDR領域中にある。幾つかの態様において、アミノ酸変化は、抗体1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2のVHの任意の1つまたは複数における生殖系列と異なる突然変異と同じ位置の1つまたは複数でなされる。その他の態様において、アミノ酸変化は、同じ位置の1つまたは複数にあるが、参照抗体とは異なる突然変異を伴う。
【0088】
幾つかの態様において、重鎖は、モノクローナル抗体;1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2のVHアミノ酸配列、または1つ、2つ、3つ、4つ、6つ、8つ、もしくは10までの保存的アミノ酸置換および/もしくは合計3つまでの非保存的アミノ酸置換を有するVHアミノ酸配列を含む。幾つかの態様において、重鎖は、先述の抗体のうちの任意の1つのCDR1の初めからCDR3の終わりまでのアミノ酸配列を含む。
【0089】
幾つかの態様において、重鎖は、モノクローナル抗体1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2の重鎖CDR1、CDR2、およびCDR3領域、または8つ未満、6つ未満、4つ未満、もしくは3つ未満の保存的アミノ酸置換、および/もしくは合計3つもしくはそれより少ない非保存的アミノ酸置換を各々有するCDR領域を含む。
【0090】
幾つかの態様において、重鎖CDR領域は、モノクローナル抗体1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2のCDR領域より独立に選択される。別の態様において、抗体は、上で開示したような軽鎖および上で開示したような重鎖を含む。さらなる態様において、軽鎖CDRおよび重鎖CDRは同じ抗体由来である。
【0091】
作られ得る1つの種類のアミノ酸置換は、化学的に反応性であり得る、抗体中の1つまたは複数のシステインを、非限定的に、アラニンまたはセリンなどの、別の残基に変化させることである。1つの態様において、非正規的(non-canonical)システインの置換がある。置換は、抗体の可変ドメインのCDRもしくはフレームワーク領域中でまたは定常ドメイン中でなされることができる。幾つかの態様において、システインは正規的である。
【0092】
作られ得る別の種類のアミノ酸置換は、抗体中の任意の潜在的なタンパク質分解部位を変化させることである。そのような部位は、抗体の可変ドメインのCDRもしくはフレームワーク領域中でまたは定常ドメイン中で生じる場合がある。システイン残基の置換およびタンパク質分解部位の除去は、抗体産物における任意の不均一性のリスクを減少させる可能性があり、およびしたがってその均一性を増加させる可能性がある。別の種類のアミノ酸置換は、潜在的な脱アミド化部位を形成する、アスパラギン-グリシン対を、本残基の一方または両方を変えることによって、排除することである。
【0093】
幾つかの態様において、本発明の抗SARS-CoV Sタンパク質抗体の重鎖のC末端リジンを切断する。本発明の様々な態様において、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体の重鎖および軽鎖は、任意でシグナル配列を含んでもよい。
【0094】
1つの局面において、本発明は、19の阻害的なヒト抗SARS-CoV Sタンパク質モノクローナル抗体およびそれらを産生するハイブリドーマ細胞株、4E2、4G2、6C1、3A7、5A7、5D3、5D6、6B8、4A10、6C2、3F3、5A5、6B5、5E4、3C7、6B1、3H12、4D4、または1B5に関する。重鎖および軽鎖の全長、または可変ドメインを含む部分をコードする核酸、ならびに対応する推定アミノ酸配列を配列リスト中に見出すことができる。
【0095】
本発明は、1つまたは複数のアミノ酸置換を含む、上で列挙したヒト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体のうちの幾つかの重鎖および/または軽鎖変異体をさらに提供する。またさらなる態様において、本発明には、上で列挙したヒト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体のうちのいずれかの可変ドメインアミノ酸配列との80%を上回る、85%を上回る、90%を上回る、95%を上回る、96%を上回る、97%を上回る、98%を上回る、または99%を上回る配列同一性がある可変ドメインアミノ酸配列を含む抗体が含まれる。
【0096】
抗SARS-CoV Sタンパク質抗体のクラスおよびサブクラス
抗SARS-CoV Sタンパク質抗体のクラスおよびサブクラスを当技術分野で公知の任意の方法で決定してもよい。一般に、抗体のクラスおよびサブクラスを抗体の特定のクラスおよびサブクラスに特異的である抗体を用いて決定してもよい。そのような抗体は市販されている。クラスおよびサブクラスを、ELISA、またはウェスタンブロットだけでなく、その他の技術でも決定することができる。あるいは、クラスおよびサブクラスを、抗体の重鎖および/または軽鎖の定常ドメインの全てまたは一部を配列決定し、それらのアミノ酸配列を免疫グロブリンの様々なクラスおよびサブクラスの公知のアミノ酸配列と比較し、ならびに抗体のクラスおよびサブクラスを決定することによって決定してもよい。
【0097】
幾つかの態様において、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体は、モノクローナル抗体である。抗SARS-CoV Sタンパク質抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、またはIgD分子であることができる。1つの態様において、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体は、IgGであり、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4サブクラスである。また別の態様において、抗体は、サブクラスIgG1である。
【0098】
SARS-CoV Sタンパク質に対する抗SARS-CoV Sタンパク質抗体の結合親和性
本発明の幾つかの態様において、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体は、高い親和性でSARS-CoV Sタンパク質に結合する。
【0099】
幾つかの態様において、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体は、SARS-CoV Sタンパク質のS1ドメインに高い親和性で結合する。
【0100】
幾つかの態様において、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体は、SARS-CoV Sタンパク質のS2ドメインに結合する。
【0101】
別の態様において、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体は、SARS-CoV Sタンパク質に結合する。
【0102】
SARS-CoV Sタンパク質に対する抗SARS-CoV Sタンパク質抗体の結合親和性および解離速度を当技術分野で公知の方法で決定することができる。結合親和性は、ELISA、RIA、フローサイトメトリー、BIACORE(商標)などの、表面プラズモン共鳴で測定することができる。解離速度を表面プラズモン共鳴で測定することができる。好ましくは、結合親和性および解離速度を表面プラズモン共鳴で測定する。より好ましくは、結合親和性および解離速度をBIACORE(商標)を用いて測定する。当技術分野で公知の方法を用いることによって、抗体が抗SARS-CoV Sタンパク質抗体と実質的に同じKDを有するかどうかということを決定することができる。実施例Vにより、抗SARS-CoV Sタンパク質モノクローナル抗体の親和性定数を決定するための方法が例示されている。
【0103】
抗SARS-CoV Sタンパク質抗体によって認識されるSARS-CoV Sタンパク質エピトープの同定
本発明は、SARS-CoV Sタンパク質に結合しかつ1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2より選択される抗体と同じエピトープと競合もしくは交差競合しならびに/または該エピトープに結合する、ヒト抗SARS-CoV Sタンパク質モノクローナル抗体を提供し、2つの抗体がSARS-CoV Sタンパク質に対する結合について互いと相互に競合する場合、それらは交差競合すると言われる。
【0104】
抗体が同じエピトープと結合するかまたは抗SARS-CoV Sタンパク質抗体との結合について交差競合するかを当技術分野で公知の方法を用いることによって決定することができる。1つの態様において、本発明の抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を飽和条件下でSARS-CoV Sタンパク質に結合させ、その後SARS-CoV Sタンパク質に結合する試験抗体の能力を測定する。試験抗体が抗SARS-CoV Sタンパク質抗体と同時にSARS-CoV Sタンパク質に結合することができる場合、試験抗体は抗SARS-CoV Sタンパク質抗体と異なるエピトープと結合する。しかしながら、試験抗体が同時にSARS-CoV Sタンパク質に結合することができない場合、試験抗体は、同じエピトープ、重複するエピトープ、またはヒト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体が結合するエピトープに密接に近接するエピトープに結合する。この実験は、ELISA、RIA、BIACORE(商標)、またはフローサイトメトリーを用いて行なうことができる。
【0105】
抗SARS-CoV Sタンパク質抗体が別の抗SARS-CoV Sタンパク質抗体と交差競合するかどうかを試験するために、上で記載した競合法を2つの方向性で用いてもよく、すなわち、参照抗体が試験抗体を遮断するかどうかということおよびその逆も同様であるかどうかということを決定してもよい。1つの態様において、実験を、ELISAを用いて行なうことができる。KDを決定する方法を以下でさらに考察する。
【0106】
抗SARS-CoV Sタンパク質抗体によるSARS-CoV Sタンパク質活性の阻害
別の態様において、本発明は、受容体への、特に、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)へのSARS-CoV Sタンパク質結合を阻害するか、遮断するか、または減少させる抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を提供する。別の態様において、本発明は、SARS-CoV Sタンパク質を介するウイルスの細胞への侵入を阻害するか、遮断するか、または減少させる抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を提供する。別の態様において、本発明は、ウイルス膜および細胞膜の融合を阻害するか、遮断するか、または減少させる抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を提供する。別の態様において、本発明は、ウイルス負荷を減少させる抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を提供する。別の態様において、本発明は、SARS-CoV感染から結果として生じる症状または状態の重症度を任意の期間阻害するか、遮断するか、または減少させる抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を提供する。ある態様において、本発明は、SARS-CoV感染から結果として生じる症状または状態の重症度を、1日、1週間、1か月、6か月、1年、または対象の人生の残りの期間、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または100%阻害するか、遮断するか、または減少させる抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を提供する。ある態様において、本発明は、前述の態様の任意の組み合わせを行ない得る抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を提供する。
【0107】
抗体および抗体産生細胞株を産生する方法
免疫化
幾つかの態様において、ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン重鎖および軽鎖座の一部または全てをそのゲノム中に含む非ヒト、トランスジェニック動物をSARS-CoV Sタンパク質抗原で免疫化することによって産生される。1つの態様において、非ヒト動物は、XENOMOUSE(商標)動物(Abgenix社, Fremont, CA)である。
【0108】
XENOMOUSE(商標)マウスは、ヒト免疫グロブリン重鎖および軽鎖座の大きな断片を含みかつマウス抗体産生が欠損している、人工的に作製されたマウス系統である。例えば、Green et al., Nature Genetics 7:13-21 (1994) ならびに米国特許第5,916,771号、第5,939,598号、第5,985,615号、第5,998,209号、第6,075,181号、第6,091,001号、第6,114,598号、第6,130,364号、第6,162,963号、および第6,150,584号を参照されたい。また、国際公開公報第91/10741号、第94/02602号、第96/34096号、第96/33735号、第98/16654号、第98/24893号、第98/50433号、第99/45031号、第99/53049号、第00/09560号、および第00/037504号を参照されたい。
【0109】
別の局面において、本発明は、ヒト免疫グロブリン座を含む非ヒトトランスジェニック動物をSARS-CoV Sタンパク質抗原で免疫化することによって、非ヒト、非マウス動物から抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を作製するための方法を提供する。上で引用した文献に記載された方法を用いてそのような動物を作製することができる。これらの文献に開示されている方法を、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,994,619号に記載されているように改変することができる。米国特許第5,994,619号は、ブタおよびウシに由来する新規の培養内部細胞塊(CICM)細胞および細胞株、ならびに異種DNAが挿入されているトランスジェニックCICM細胞を産生する方法を記載している。CICMトランスジェニック細胞を用いて、クローン化されたトランスジェニックの胚、胎仔、および子を産生することができる。‘619特許は、異種DNAをそれらの子孫に伝えることが可能であるトランスジェニック動物を産生する方法も記載している。本発明の好ましい態様において、非ヒト動物は、哺乳動物、特にラット、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ、またはウマである。
【0110】
XENOMOUSE(商標)マウスは、完全ヒト抗体の成体様ヒトレパートリーを産生しかつ抗原特異的なヒト抗体を生み出す。幾つかの態様において、XENOMOUSE(商標)マウスは、ヒト重鎖座およびκ軽鎖座のメガ塩基のサイズの、生殖系列配置断片の酵母人工染色体(YAC)中への導入によって、およそヒト抗体V遺伝子レパートリーの80%を含む。その他の態様において、XENOMOUSE(商標)マウスは、ヒトλ軽鎖座のほぼ全てをさらに含む。例えば、その開示が参照により本明細書に組み入れられる、Mendez et al., Nature Genetics 15:146-156 (1997)、Green and Jakobovits, J. Exp. Med. 188:483-495(1998)、および国際公開公報第98/24893号を参照されたい。
【0111】
幾つかの態様において、ヒト免疫グロブリン遺伝子を含む非ヒト動物は、ヒト免疫グロブリンの「ミニ座(minilocus)」を有する動物である。ミニ座アプローチでは、Ig座由来の個々の遺伝子の包含によって外因性Ig座を模倣する。したがって、1つまたは複数のVH遺伝子、1つまたは複数のDH遺伝子、1つまたは複数のJH遺伝子、mu定常ドメイン、および第二の定常ドメイン(好ましくはガンマ定常ドメイン)は、動物への挿入用のコンストラクトとして形成される。このアプローチは、とりわけ、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,545,807号、第5,545,806、第5,569,825、第5,625,126、第5,633,425、第5,661,016、第5,770,429、第5,789,650、第5,814,318、第5,591,669、第5,612,205、第5,721,367、第5,789,215、および第5,643,763号に記載されている。
【0112】
別の局面において、本発明は、ヒト化抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を作製するための方法を提供する。幾つかの態様において、非ヒト動物を、下で記載するように抗体産生を可能にする条件下でSARS-CoV Sタンパク質抗原で免疫化する。抗体産生細胞を動物から単離し、ミエローマと融合させてハイブリドーマを産生し、かつ関心対象の抗SARS-CoV Sタンパク質抗体の重鎖および軽鎖をコードする核酸を単離する。その後、これらの核酸を当業者に公知の技術および下でさらに記載するような技術を用いて人工的に作製し、非ヒト配列の量を低下させ、すなわち、抗体をヒト化してヒトにおける免疫応答を低下させる。
【0113】
幾つかの態様において、SARS-CoV Sタンパク質抗原は、単離および/または精製されたSARS-CoV Sタンパク質またはその抗原性部分、例えば、エクトドメインである。幾つかの態様において、SARS-CoV Sタンパク質抗原は、SARS-CoV Sタンパク質の断片である。幾つかの態様において、SARS-CoV Sタンパク質断片は、SARS-CoV Sタンパク質のS1ドメインである。幾つかの態様において、SARS-CoV Sタンパク質断片は、SARS-CoV Sタンパク質のS2ドメインである。ある態様において、SARS-CoV Sタンパク質断片は、SARS-CoV Sタンパク質のS1またはS2ドメインを含む。幾つかの態様において、SARS-CoV Sタンパク質断片は、SARS-CoV Sタンパク質の少なくとも1つのエピトープを含む。その他の態様において、SARS-CoV Sタンパク質抗原は、その表面にSARS-CoV Sタンパク質もしくはその免疫原性断片を発現するかまたは過剰発現する細胞である。幾つかの態様において、SARS-CoV Sタンパク質抗原は、SARS-CoV Sタンパク質融合タンパク質である。幾つかの態様において、SARS-CoV Sタンパク質抗原は、合成ペプチド免疫原である。
【0114】
動物の免疫化は、当技術分野で公知の任意の方法によるものであることができる。例えば、Harlow and Lane, Antibodies:A Laboratory Manual, New York:Cold Spring Harbor Press, 1990を参照されたい。マウス、ラット、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、およびウマなどの非ヒト動物を免疫化するための方法は当技術分野で周知である。例えば、Harlow and Lane, 前記, および米国特許第5,994,619号を参照されたい。1つの態様において、SARS-CoV Sタンパク質は、免疫応答を刺激するためにアジュバントと共に投与される。例示的なアジュバントには、完全フロイントアジュバントもしくは不完全フロイントアジュバント、RIBI(ムラミルジペプチド)、またはISCOM(免疫刺激複合体)が含まれる。そのようなアジュバントは、それを局部的な堆積物中に隔離することによってポリペプチドを速やかな分散から防御してもよく、またはそれらは宿主を刺激して、マクロファージにとって走化性である因子および免疫系のその他の構成要素を分泌させる物質を含んでもよい。好ましくは、ポリペプチドが投与されている場合、免疫化スケジュールは、数週間にわたって引き延ばされた、2回またはそれより多くのポリペプチドの投与を伴うと考えられる。実施例Iは、XenoMouse(商標)マウスにおいて抗SARS-CoV Sタンパク質モノクローナル抗体を産生するための方法を例示している。
【0115】
抗体および抗体産生細胞株の産生
SARS-CoV Sタンパク質抗原による動物の免疫化後に、抗体および/または抗体産生細胞を動物から得ることができる。幾つかの態様において、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を含む血清は、動物の血液を採取することまたは動物を屠殺することによって動物から得られる。血清をそれが動物から得られたままで用いてもよく、免疫グロブリン画分を血清から得てもよく、または抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を血清から精製してもよい。
【0116】
幾つかの態様において、抗体を産生する不死化細胞株を、免疫化動物から単離された細胞から調製する。免疫化後に、動物を屠殺しかつリンパ節および/または脾臓のB細胞を当技術分野で公知の任意の手段で不死化させる。細胞を不死化する方法には、それらに腫瘍原遺伝子をトランスフェクトする工程、それらに腫瘍原性ウイルスを感染させる工程および不死化細胞が選択される条件下でそれらを育てる工程、それらを発癌性化合物または突然変異を起こさせる化合物に供する工程、それらを不死化細胞、例えば、ミエローマ細胞と融合させる工程、ならびに腫瘍抑制遺伝子を不活化する工程が含まれるが、これらに限定されない。例えば、Harlow and Lane, 前記を参照されたい。ミエローマ細胞との融合を用いる場合、ミエローマ細胞は好ましくは、免疫グロブリンポリペプチドを分泌しない(非分泌細胞株)。不死化細胞を、SARS-CoV Sタンパク質、その一部、またはSARS-CoV Sタンパク質発現細胞を用いてスクリーニングする。1つの態様において、初期のスクリーニングを、酵素連結免疫アッセイ(ELISA)または放射性免疫アッセイを用いて行なう。ELISAスクリーニングの例は、参照により本明細書に組み入れられる、国際公開公報第00/37504号に提供されている。
【0117】
抗SARS-CoV Sタンパク質抗体産生細胞、例えば、ハイブリドーマを選択し、クローニングし、強健な成長、高い抗体産生、および所望される抗体特徴を含む、所望される特徴について、下でさらに考察するようにさらにスクリーニングを行う。ハイブリドーマは、インビボでは同系動物で、免疫系を欠く動物、例えば、ヌードマウスで、またはインビトロでは細胞培養で拡大させることができる。ハイブリドーマを選択し、クローニングし、かつ拡大させる方法は当業者に周知である。
【0118】
1つの態様において、免疫化動物は、ヒト免疫グロブリン遺伝子を発現する非ヒト動物であり、脾臓のB細胞が非ヒト動物と同じ種由来のミエローマ細胞株と融合される。より好ましい態様において、免疫化動物はXENOMOUSE(商標)マウスであり、ミエローマ細胞株は非分泌型マウスミエローマである。さらにより好ましい態様において、ミエローマ細胞株は、P3-X63-Ag8.653(American Type Culture Collection。例えば、実施例I参照)である。
【0119】
したがって、1つの態様において、本発明は、(a)本明細書で記載された非ヒトトランスジェニック動物を、SARS-CoV Sタンパク質、SARS-CoV Sタンパク質の一部、またはSARS-CoV Sタンパク質を発現する細胞もしくは組織で免疫化する工程;(b)トランスジェニック動物にSARS-CoV Sタンパク質に対する免疫応答を惹起させる工程;(c)トランスジェニック動物から抗体産生細胞を単離する工程;(d)抗体産生細胞を不死化する工程;(e)不死化した抗体産生細胞の個々のモノクローナル集団を創り出す工程;ならびに(f)不死化した抗体産生細胞をスクリーニングしてSARS-CoV Sタンパク質に対する抗体を同定する工程を含むSARS-CoV Sタンパク質に対するヒトモノクローナル抗体またはその断片を産生する細胞株を産生するための方法を提供する。1つの態様において、工程(f)は、不死化した抗体産生細胞をスクリーニングして、SARS-CoV Sタンパク質のS1ドメイン;SARS-CoV Sタンパク質のS2ドメイン;または(iii)(i)および(ii)両方に対する抗体を同定する工程を含む。
【0120】
SARS-CoV Sタンパク質のS1またはS2ドメインに対するモノクローナル抗体を同定することが望ましい場合、SARS-CoV Sタンパク質のS1またはS2ドメインのアミノ酸配列を含むペプチドに対する結合について抗体をスクリーニングしてもよい。
【0121】
別の局面において、本発明は、ヒト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を産生するハイブリドーマを提供する。1つの態様において、ハイブリドーマによって産生されるヒト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体は、SARS-CoV Sタンパク質のアンタゴニストである。幾つかの態様において、抗SARS-CoV Sタンパク質モノクローナル抗体は、抗体依存的なウイルス感染の増強を媒介しない。1つの態様において、ハイブリドーマは、上で記載したようなマウスハイブリドーマである。その他の態様において、ハイブリドーマは、ラット、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ、またはウマなどの、非ヒト、非マウス種で産生される。別の態様において、ハイブリドーマはヒトハイブリドーマである。
【0122】
本発明の1つの態様において、抗体産生細胞を単離しおよび宿主細胞、例えば、ミエローマ細胞で発現させる。また別の態様において、トランスジェニック動物を、本明細書で記載したようなSARS-CoV Sタンパク質免疫原で免疫化し、初代細胞、例えば、脾臓細胞または末梢血細胞を、免疫化トランスジェニック動物から単離し、および所望の抗原に特異的な抗体を産生する個々の細胞を同定する。各々の個々の細胞由来のポリアデニル化mRNAを単離し、可変領域配列にアニールするセンスプライマー、例えば、ヒト重鎖および軽鎖可変領域遺伝子のFR1領域の大部分または全てを認識する縮重プライマーならびに定常領域配列または接合領域配列にアニールするアンチセンスプライマーを用いて逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を行なう。その後、重鎖および軽鎖可変ドメインのcDNAをクローニングし、任意の好適な宿主細胞、例えば、ミエローマ細胞で、重鎖およびκ定常ドメインまたはλ定常ドメインなどの、それぞれの免疫グロブリン定常領域を持つキメラ抗体として発現させる。参照により本明細書に組み入れられる、Babcook, J.S. et al., (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93: 7843-48を参照されたい。その後、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を本明細書で記載したように同定および単離してもよい。
【0123】
別の態様において、ファージディスプレイ技術を用いて、SARS-CoV Sタンパク質に対する様々に異なる親和性を持つ抗体のレパートリーを含むライブラリーを提供することができる。そのようなレパートリーの産生のために、免疫化動物由来のB細胞を不死化する必要はない。むしろ、初代B細胞をDNAの源として直接用いることができる。例えば、脾臓に由来する、B細胞から得られるcDNAの混合物を用いて、発現ライブラリー、例えば、大腸菌(E.coli)にトランスフェクトされるファージディスプレイライブラリーを調製する。結果として得られる細胞を、SARS-CoV Sタンパク質に対する免疫反応性について試験する。そのようなライブラリーからの高親和性ヒト抗体の同定のための技術は、参照により本明細書に組み入れられる、Griffiths et al.,(1994) EMBO J.,13:3245-3260;Nissim et al., 同書, pp.692-698によって、およびGriffiths et al., 同書, 12:725-734によって記載されている。最終的に、抗原に対する所望の大きさの結合親和性をもたらすライブラリーからのクローンを同定し、そのような結合に関与する産物をコードするDNAを回収しかつ標準的な組換え発現のために操作する。また、ファージディスプレイライブラリーを以前に操作されたヌクレオチド配列を用いて構築しかつ同様の様式でスクリーニングしてもよい。一般に、重鎖および軽鎖をコードするcDNAを独立に供給するかまたは連結し、ファージライブラリーでの産生ためのFv類似体を形成する。
【0124】
その後、ファージライブラリーをSARS-CoV Sタンパク質に対する最も高い親和性を持つ抗体についてスクリーニングしかつ遺伝子材料を適当なクローンから回収する。さらなるラウンドのスクリーニングは、単離されたもとの抗体の親和性を増加させることができる。
【0125】
抗体を作製する核酸、ベクター、宿主細胞、および組換え法
核酸
本発明は、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体またはその抗原結合部分をコードする核酸分子も包含する。幾つかの態様において、異なる核酸分子は、抗SARS-CoV Sタンパク質免疫グロブリンの重鎖および軽鎖をコードする。その他の態様において、同じ核酸分子は、抗SARS-CoV Sタンパク質免疫グロブリンの重鎖および軽鎖をコードする。1つの態様において、核酸は、本発明のSARS-CoV Sタンパク質抗体、またはその抗原結合部分をコードする。
【0126】
幾つかの態様において、軽鎖(VL)の可変ドメインをコードする核酸分子は、生殖系列と異なる突然変異を持つまたは持たないヒトVκ1またはVκ2遺伝子、およびJκ2、Jκ3、Jκ4、またはJκ5遺伝子を含む。様々な態様において、VLはヒトVκ1遺伝子およびヒトJκ3、Jκ4、またはJκ5遺伝子を利用する。幾つかの態様において、ヒトVκ遺伝子はヒトA30遺伝子であり、ヒトJκ遺伝子はヒトJκ3、Jκ4、またはJκ5遺伝子である。その他の態様において、ヒトVκ遺伝子はヒトL5遺伝子であり、ヒトJκ遺伝子はヒトJκ4遺伝子である。またその他の態様において、ヒトVκ遺伝子はヒトA1遺伝子であり、ヒトJκ遺伝子はヒトJκ2遺伝子である。
【0127】
幾つかの態様において、軽鎖をコードする核酸分子は、生殖系列アミノ酸配列と異なる1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、または10の置換を含むアミノ酸配列をコードする。幾つかの態様において、核酸分子は、生殖系列Vκ、Jκ、およびJL配列と比較して、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、もしくは10の保存的アミノ酸置換および/または1つ、2つ、もしくは3つの非保存的置換を含むVLアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む。置換は、CDR領域、フレームワーク領域、または定常ドメイン中にあってもよい。
【0128】
幾つかの態様において、核酸分子は、抗体1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2のうちの1つのVL中に見出される変異と同一である生殖系列配列と比較して1つまたは複数の変異体を含むVLアミノ酸配列をコードする。
【0129】
幾つかの態様において、核酸分子は、抗体1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2のうちの1つのVL中に見出される生殖系列配列と比較して少なくとも3つのアミノ酸置換をコードする。
【0130】
幾つかの態様において、核酸分子は、1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2のVLアミノ酸配列、またはその変異体もしくは部分をコードするヌクレオチド配列を含む。幾つかの態様において、核酸は、上で列挙した抗体のうちの1つの軽鎖CDRを含むアミノ酸配列をコードする。幾つかの態様において、本部分は、CDR1〜CDR3を含む隣接した部分である。
【0131】
幾つかの態様において、核酸は、本抗体の軽鎖CDRを含むアミノ酸配列をコードする。幾つかの態様において、本部分は、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体の軽鎖のCDR1〜CDR3由来の隣接した領域をコードする。
【0132】
幾つかの態様において、核酸分子は、抗体1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2のうちの任意の1つのVL領域のVLアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%同一であるVLアミノ酸配列をコードする。本発明の核酸分子には、VL領域のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列に、上で記載したような条件などの、高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸が含まれる。
【0133】
別の態様において、核酸は、1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2より選択される抗体の全長軽鎖、または本明細書で開示した突然変異などの、突然変異を含む軽鎖をコードする。
【0134】
また別の態様において、核酸分子は、ヒトVH 1、VH 3、もしくはVH 4ファミリー遺伝子配列またはそれに由来する配列を含む重鎖の可変ドメイン(VH)をコードする。様々な態様において、VHドメインをコードする核酸分子は、ヒトVH 1-2遺伝子、ヒトD3-10遺伝子、およびヒトJH 4B遺伝子;ヒトVH 1-18遺伝子、ヒトD1-26遺伝子、およびヒトJH 4B遺伝子;ヒトVH 3-33遺伝子、ヒトD2-2遺伝子、およびヒトJH 4B遺伝子;ヒトVH 3-33遺伝子、ヒトD4-17遺伝子、およびヒトJH 5B遺伝子;またはヒトVH 4-59遺伝子、ヒトD3-9遺伝子、およびヒトJH 6B遺伝子を利用する。
【0135】
幾つかの態様において、核酸分子は、ヒトV、D、またはJ遺伝子の生殖系列アミノ酸配列と比較して1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、または18の突然変異を含むアミノ酸配列をコードする。幾つかの態様において、突然変異はVH領域中にある。幾つかの態様において、突然変異はCDR領域中にある。
【0136】
幾つかの態様において、核酸分子は、モノクローナル抗体1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2のうちの1つのVH中に見出されるアミノ酸突然変異と同一である生殖系列配列と比較して1つまたは複数のアミノ酸突然変異をコードする。幾つかの態様において、核酸は、上で列挙したモノクローナル抗体のうちの1つに見出される少なくとも3つのアミノ酸突然変異と同一である生殖系列配列と比較して少なくとも3つのアミノ酸突然変異をコードする。
【0137】
幾つかの態様において、核酸分子は、モノクローナル抗体1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2より選択されるモノクローナル抗体のVHのアミノ酸配列の少なくとも一部、その変異体、または保存的アミノ酸突然変異および/もしくは合計3つもしくはそれより少ない非保存的アミノ酸置換を有する配列をコードするヌクレオチド配列を含む。様々な態様において、配列は、シグナル配列を持つまたは持たない、1つまたは複数のCDR領域、好ましくはCDR3領域、3つ全てのCDR領域、CDR1〜CDR3を含む隣接する部分、またはVH領域全体をコードする。
【0138】
幾つかの態様において、核酸分子は、1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2のうちの1つのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、またはシグナル配列を欠く該配列を含む。幾つかの好ましい態様において、核酸分子は、1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2のヌクレオチド配列の少なくとも一部、またはシグナル配列を欠く該配列を含む。幾つかの態様において、該部分は、(シグナル配列を持つもしくは持たない)VH領域、CDR3領域、3つ全てのCDR領域、またはCDR1〜CDR3を含む隣接する領域をコードする。
【0139】
幾つかの態様において、核酸分子は、1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2のうち任意の1つのVHアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%同一であるVHアミノ酸配列をコードする。本発明の核酸分子には、上で記載した条件などの、高度にストリンジェントな条件下で、1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列に、もしくはそのVH領域にハイブリダイズする核酸、または1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2のヌクレオチド配列を有する核酸、もしくはそのVH領域コードする核酸が含まれる。
【0140】
別の態様において、核酸は、1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2より選択される抗体の全長重鎖、またはシグナル配列を持つまたは持たない、1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2のアミノ酸配列を有する重鎖、または本明細書で考察したような変異体のうちの1つなどの、突然変異を含む重鎖をコードする。さらに、核酸は、シグナル配列を持つもしくは持たない、1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2のヌクレオチド配列、または本明細書で考察した変異のうちの1つなどの、突然変異を含む重鎖をコードする核酸分子を含んでもよい。
【0141】
抗SARS-CoV Sタンパク質抗体の重鎖もしくは軽鎖またはその部分をコードする核酸分子を、そのような抗体を産生する任意の源から単離することができる。様々な態様において、核酸分子を、SARS-CoV Sタンパク質で免疫化した動物から単離されたB細胞からまたは抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を発現するようなB細胞に由来する不死化細胞から単離する。抗体をコードするmRNAを単離する方法は当技術分野で周知である。例えば、Sambrook et al.を参照されたい。mRNAを用いて、抗体遺伝子のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)またはcDNAクローニングに使用するためのcDNAを産生してもよい。1つの態様において、核酸分子を、その融合パートナーの1つとして非ヒトトランスジェニック動物由来のヒト免疫グロブリン産生細胞を有するハイブリドーマから単離する。さらにより好ましい態様において、ヒト免疫グロブリン産生細胞をXENOMOUSE(商標)動物から単離する。別の態様において、ヒト免疫グロブリン産生細胞は、上で記載したような、非ヒト、非マウスのトランスジェニック動物由来である。別の態様において、核酸を、非ヒト、非トランスジェニック動物から単離する。非ヒト、非トランスジェニック動物から単離された核酸分子を、例えば、ヒト化抗体用に用いてもよい。
【0142】
幾つかの態様において、本発明の抗SARS-CoV Sタンパク質抗体の重鎖をコードする核酸は、任意の源由来の重鎖定常ドメインをコードするヌクレオチド配列にインフレームで接合された本発明のVHドメインをコードするヌクレオチド配列を含むことができる。同様に、本発明の抗SARS-CoV Sタンパク質抗体の軽鎖をコードする核酸分子は、任意の源由来の軽鎖定常ドメインをコードするヌクレオチド配列にインフレームで接合された本発明のVLドメインをコードするヌクレオチド配列を含むことができる。
【0143】
本発明のさらなる局面において、重鎖可変(VH)ドメインおよび/または軽鎖可変(VL)ドメインをコードする核酸分子を、全長抗体遺伝子に「変換」する。1つの態様において、VHドメインまたはVLドメインをコードする核酸分子を、VHセグメントがベクター内のCHセグメントに機能的に連結され、および/またはVLセグメントがベクター内のCLセグメントに機能的に連結されるように、それぞれ重鎖定常(CH)ドメインまたは軽鎖定常(CL)ドメインを既にコードする発現ベクターに挿入することによって、全長抗体遺伝子に変換する。別の態様において、VHドメインおよび/またはVLドメインをコードする核酸分子を、標準的な分子生物学的技術を用いて、VHドメインおよび/またはVLドメインをコードする核酸分子をCHドメインおよび/またはCLドメインをコードする核酸分子に連結する、例えば、ライゲートすることによって、全長抗体遺伝子に変換する。ヒト重鎖および軽鎖免疫グロブリン定常ドメイン遺伝子のヌクレオチド配列は、当技術分野で公知である。例えば、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 第5版, NIH出版 No.91-3242, 1991を参照されたい。その後、全長の重鎖および/または軽鎖をコードする核酸分子を、それらが導入されている細胞から発現させてもよく、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を単離してもよい。
【0144】
核酸分子を用いて、大量の抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を組換えによって発現させてもよい。また、核酸分子を用いて、下でさらに記載するような、キメラ抗体、二重特異性抗体、単鎖抗体、免疫アドヘシン、ダイアボディ、突然変異型抗体、および抗体誘導体を産生してもよい。核酸分子が、非ヒト、非トランスジェニック動物に由来する場合、核酸分子を、下でまた記載するような、抗体ヒト化に用いてもよい。
【0145】
別の態様において、本発明の核酸分子を、特異的な抗体配列に対するプローブまたはPCRプライマーとして用いる。例えば、核酸を、診断法におけるプローブとしてまたはとりわけ、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体の可変ドメインをコードする追加の核酸分子を単離するために用い得るDNAの領域を増幅するためのPCRプライマーとして用いることができる。幾つかの態様において、核酸分子はオリゴヌクレオチドである。幾つかの態様において、オリゴヌクレオチドは、関心対象の抗体の重鎖および軽鎖の高度可変ドメイン由来である。幾つかの態様において、オリゴヌクレオチドは、本明細書で記載したような抗体1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2、またはその変異体のCDRの1つまたは複数の全てまたは一部をコードする。
【0146】
ベクター
本発明は、本発明の抗SARS-CoV Sタンパク質抗体の重鎖またはその抗原結合部分をコードする核酸分子を含むベクターを提供する。本発明はまた、そのような抗体の軽鎖またはその抗原結合部分をコードする核酸分子を含むベクターを提供する。本発明はさらに、融合タンパク質、修飾抗体、抗体断片、およびそのプローブをコードする核酸分子を含むベクターを提供する。
【0147】
幾つかの態様において、本発明の抗SARS-CoV Sタンパク質抗体または抗原結合部分を、遺伝子が転写および翻訳の制御配列などの必要な発現制御配列に機能的に連結されるように、上で記載したように得られる、部分長または全長の軽鎖および重鎖をコードするDNAを発現ベクターに挿入することによって発現させる。発現ベクターには、プラスミド、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、カリフラワーモザイクウイルス、タバコモザイクウイルスなどの植物ウイルス、コスミド、YAC、EBVに由来するエピソームなどが含まれる。ベクター内の転写および翻訳の制御配列が、抗体遺伝子の転写および翻訳を調節するというそれらの意図された機能を果たすように、抗体遺伝子をベクターにライゲートする。発現ベクターおよび発現制御配列を、使用される発現宿主細胞に適合するように選択する。抗体軽鎖遺伝子および抗体重鎖遺伝子を別々のベクターに挿入することができる。1つの態様において、両遺伝子を同じ発現ベクターに挿入する。標準的な方法(例えば、抗体遺伝子断片およびベクター上の相補的な制限部位のライゲーション、または制限部位が存在しない場合は平滑末端ライゲーション)で、抗体遺伝子を発現ベクターに挿入する。
【0148】
好都合なベクターとは、上で記載したように、任意のVH配列またはVL配列を容易に挿入しかつ発現させることができるように人工的に作製された適当な制限部位を持つ、機能的に完全なヒトCHまたはCL免疫グロブリン配列をコードするベクターである。そのようなベクターにおいて、スプライシングは通常、挿入されたJ領域中のスプライスドナー部位とヒトCドメインに先行するスプライスアクセプター部位の間で起こり、かつヒトCHエキソン内に生じるスプライス領域でも起こる。ポリアデニル化および転写終結は、コード領域の下流の天然の染色体部位で起こる。組換え発現ベクターはまた、宿主細胞からの抗体鎖の分泌を容易にするシグナルペプチドをコードすることができる。シグナルペプチドが免疫グロブリン鎖のアミノ末端にインフレームで連結されるように、抗体鎖遺伝子をベクターにクローニングしてもよい。シグナルペプチドは、免疫グロブリンシグナルペプチドまたは異種シグナルペプチド(すなわち、非免疫グロブリンタンパク質由来のシグナルペプチド)であることができる。
【0149】
抗体鎖遺伝子に加えて、本発明の組換え発現ベクターは、宿主細胞での抗体鎖遺伝子の発現を制御する調節配列を持つ。調節配列の選択を含む、発現ベクターの設計は、形質転換されるべき宿主細胞の選別、所望のタンパク質の発現のレベルなどの要因に左右され得るということが当業者によって正しく理解されると考えられる。哺乳動物宿主細胞発現のために好ましい調節配列には、レトロウイルスLTRに由来するプロモーターおよび/またはエンハンサー、サイトメガロウイルス(CMV)(CMVプロモーター/エンハンサーなど)、シミアンウイルス40(SV40)(SV40プロモーター/エンハンサーなど)、アデノウイルス(例えば、アデノウイルス主要後期プロモーター(AdMLP))、ポリオーマプロモーター、ならびに天然の免疫グロブリンおよびアクチンプロモーターなどの強い哺乳動物プロモーターなどの、哺乳動物細胞における高レベルのタンパク質発現を導くウイルスエレメントが含まれる。ウイルスの調節エレメント、およびその配列のさらなる説明については、例えば、米国特許第5,168,062号、米国特許第4,510,245号、および米国特許第4,968,615号を参照されたい。プロモーターおよびベクターの説明を含む、植物で抗体を発現させるための方法だけでなく、植物の形質転換も当技術分野で公知である。例えば、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第6,517,529号を参照されたい。細菌細胞または真菌細胞、例えば、酵母細胞でポリペプチドを発現させる方法も当技術分野で周知である。
【0150】
抗体鎖遺伝子および調節配列に加えて、本発明の組換え発現ベクターは、宿主細胞でのベクターの複製を調節する配列(例えば、複製の起点)および選択可能マーカー遺伝子などの、追加の配列を持っていてもよい。選択可能マーカー遺伝子は、ベクターが導入されている宿主細胞の選択を容易にする(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第4,399,216号、第4,634,665号、および第5,179,017号を参照されたい)。例えば、典型的には、選択可能マーカー遺伝子は、G418、ハイグロマイシン、またはメトトレキセートなどの、薬物に対する耐性を、ベクターが導入されている宿主細胞に付与する。好ましい選択可能マーカー遺伝子には、(メトトレキセート選択/増幅によってdhfr-宿主細胞で使用するための)ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子、(G418選択用の)neo遺伝子、およびグルタミン酸合成酵素遺伝子が含まれる。
【0151】
非ハイブリドーマ宿主細胞およびタンパク質を組換えによって産生する方法
抗SARS-CoV Sタンパク質抗体をコードする核酸分子およびこれらの核酸分子を含むベクターを、好適な哺乳動物、植物、細菌、または酵母の宿主細胞のトランスフェクションに用いることができる。形質転換は、ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための任意の公知の方法によるものであることができる。異種ポリヌクレオチドの哺乳動物細胞への導入のための方法は当技術分野で周知であり、デキストランを介するトランスフェクション、リン酸カルシウム沈殿、ポリブレンを介するトランスフェクション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、ポリヌクレオチドのリポソーム内へのカプセル化、およびDNAの核への直接マイクロインジェクションを含む。さらに、核酸分子をウイルスベクターで哺乳動物細胞に導入してもよい。細胞を形質転換する方法は当技術分野で周知である。例えば、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第4,399,216号、第4,912,040号、第4,740,461号、および第4,959,455号を参照されたい。例えば、アグロバクテリウムを介する形質転換、微粒子銃による形質転換、直接注射、エレクトロポレーション、およびウイルスによる形質転換を含む、植物細胞を形質転換する方法は、当技術分野で周知である。細菌および酵母細胞を形質転換する方法も当技術分野で周知である。
【0152】
発現用の宿主として利用可能な哺乳動物細胞株は当技術分野で周知でありかつAmerican Type Culture Collection(ATCC)から入手可能な多くの不死化細胞株を含む。これらには、とりわけ、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、N50細胞、SP2細胞、HEK-293T細胞、NIH-3T3細胞、HeLa細胞、幼若ハムスター腎臓(BHK)細胞、アフリカミドリザル腎細胞(COS)、ヒト肝細胞癌細胞(例えば、Hep G2)、A549細胞、および多くのその他の細胞株が含まれる。特に好ましい細胞株を、どの細胞株が高発現レベルを有するかを決定することによって選択する。使用し得るその他の細胞株は、Sf9またはSf21細胞などの、昆虫細胞株である。抗体遺伝子をコードする組換え発現ベクターを哺乳動物宿主細胞に導入する場合、宿主細胞での抗体の発現または、より好ましくは、宿主細胞が成長する培養培地中への抗体の分泌を可能にするのに十分な期間、宿主細胞を培養することによって抗体を産生させる。抗体は、標準的なタンパク質精製法を用いて培養培地から回収することができる。植物宿主細胞には、例えば、タバコ(Nicotiana)、シロイヌナズナ、ウキクサ、トウモロコシ、コムギ、ジャガイモなどが含まれる。細菌宿主細胞には、大腸菌およびストレプトミセス種が含まれる。酵母宿主細胞には、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、およびピキア パストリス(Pichia pastoris)が含まれる。
【0153】
さらに、産生細胞株からの本発明の抗体の発現を、多くの公知の技術で増強させることができる。例えば、グルタミン合成酵素遺伝子発現系(GS系)は、ある条件下で発現を増強させるための一般的なアプローチである。GS系は、欧州特許第0 216 846号、第0 256 055号、第0 323 997号、および第0 338 841号に関連して全体または一部として考察されている。
【0154】
異なる細胞株によってまたはトランスジェニック動物において発現される抗体は、互いに異なるグリコシル化を有する可能性が高い。しかしながら、本明細書で提供した核酸分子によってコードされた抗体、または本明細書で提供したアミノ酸配列を含む抗体は全て、抗体のグリコシル化にかかわらず、本発明の一部である。
【0155】
トランスジェニック動物およびトランスジェニック植物
本発明の抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を、関心対象の免疫グロブリン重鎖および軽鎖配列についてトランスジェニックである哺乳動物または植物の作製ならびにそこからの回収可能な形態での抗体の産生を通じてトランスジェニック技術によって産生することもできる。哺乳動物でのトランスジェニック技術による産生に関連して、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体をヤギ、ウシ、またはその他の哺乳動物の乳中に産生させて、ヤギ、ウシ、またはその他の哺乳動物の乳から回収することができる。例えば、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,827,690号、第5,756,687号、第5,750,172号、および第5,741,957号を参照されたい。幾つかの態様において、ヒト免疫グロブリン座を含む非ヒトトランスジェニック動物を、上で記載したように、SARS-CoV Sタンパク質またはその免疫原性部分で免疫化する。植物中で抗体を作製する方法は、例えば、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第6,046,037号および米国特許第5,959,177号に記載されている。
【0156】
幾つかの態様において、非ヒトトランスジェニック動物またはトランスジェニック植物を、標準的なトランスジェニック技術で本発明の抗SARS-CoV Sタンパク質抗体をコードする1つまたは複数の核酸分子を動物または植物に導入することによって産生する。Hoganおよび米国特許第6,417,429号, 前記を参照されたい。トランスジェニック動物を作製するために用いられるトランスジェニック細胞は、胚性幹細胞または体細胞または受精卵であることができる。トランスジェニック非ヒト生物は、キメラ、非キメラのヘテロ接合体、および非キメラのホモ接合体であることができる。例えば、全て参照により本明細書に組み入れられる、Hogan et al., Manipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual, 第2版、Cold Spring Harbor Press (1999);Jackson et al., Mouse Genetics and Transgenics: A Practical Approach, Oxford University Press (2000);およびPinkert, Transgenic Animal Technology: A Laboratorv Handbook, Academic Press (1999)を参照されたい。幾つかの態様において、トランスジェニック非ヒト動物は、関心対象の重鎖および/または軽鎖をコードするコンストラクトを標的することにより、標的された破壊および置換を有する。1つの態様において、トランスジェニック動物は、SARS-CoV Sタンパク質に、ならびに好ましくは(i)SARS-CoV Sタンパク質のS1ドメイン;(ii)SARS-CoV Sタンパク質のS2ドメイン;または(iii)(i)および(ii)両方に特異的に結合する重鎖および軽鎖をコードする核酸分子を含みかつ発現する。1つの態様において、トランスジェニック動物は、ヒトSARS-CoV Sタンパク質に特異的に結合する重鎖および軽鎖をコードする核酸分子を含みかつ発現する。幾つかの態様において、トランスジェニック動物は、単鎖抗体、キメラ抗体、またはヒト化抗体などの改変された抗体をコードする核酸分子を含む。抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を、任意のトランスジェニック動物で作製してもよい。1つの態様において、非ヒト動物は、マウス、ラット、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ、またはウマである。非ヒトトランスジェニック動物は、コードされたポリペプチドを、血液、乳、尿、唾液、涙、粘液、およびその他の体液中に発現する。
【0157】
ファージディスプレイライブラリー
本発明は、ファージ上でヒト抗体のライブラリーを合成する工程、SARS-CoV Sタンパク質またはその一部でライブラリーをスクリーニングする工程、SARS-CoV Sタンパク質に結合するファージを単離する工程、およびファージから抗体を得る工程を含む、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体またはその抗原結合部分を産生するための方法を提供する。例として、ファージディスプレイ技術で使用するための抗体のライブラリーを調製するための1つの方法は、ヒト免疫グロブリン座を含む非ヒト動物をSARS-CoV Sタンパク質またはその抗原性部分で免疫化して免疫応答を引き起こす工程、免疫化動物から抗体産生細胞を抽出する工程;抽出された細胞から本発明の抗体の重鎖および軽鎖をコードするRNAを単離する工程、RNAを逆転写してcDNAを産生する工程、プライマーを用いてcDNAを増幅する工程、ならびに抗体がファージ上で発現されるようにcDNAをファージディスプレイベクターに挿入する工程を含む。本発明の組換え抗SARS-CoV Sタンパク質抗体をこのようにして得てもよい。
【0158】
本発明の組換え抗SARS-CoV Sタンパク質ヒト抗体は、組換えコンビナトリアル抗体ライブラリーをスクリーニングすることによって単離することができる。好ましくは、ライブラリーは、B細胞から単離されたmRNAから調製されたヒトVLおよびVHのcDNAを用いて作製される、scFvファージディスプレイライブラリーである。そのようなライブラリーを調製およびスクリーニングするための方法は当技術分野で公知である。ファージディスプレイライブラリーを作製するためのキットは市販されている(例えばPharmacia Recombinant Phage Antibody System、カタログ番号27-9400-01;およびStratagene SurfZAP(商標)ファージディスプレイキット、カタログ番号240612)。抗体ディスプレイライブラリーを作製およびスクリーニングする際に使用することができるその他の方法および試薬もある(例えば、全て参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,223,409号;PCT刊行物国際公開公報第92/18619号、第91/17271号、第92/20791号、第92/15679号、第93/01288号、第92/01047号、第92/09690号;Fuchs et al., Bio/Technology 9:1370-1372 (1991); Hay et al., Hum. Antibod. Hybridomas 3:81-85 (1992); Huse et al., Science 246:1275-1281 (1989); McCafferty et al., Nature 348:552-554 (1990); Griffiths et al., EMBO J. 12:725-734 (1993); Hawkins et al., J. Mol Biol. 226:889-896 (1992); Clackson et al., Nature 352:624-628 (1991); Gram et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 89:3576-3580 (1992); Garrad et al., Bio/Technology 9:1373-1377 (1991); Hoogenboom et al., Nuc. Acid Res. 19:4133-4137 (1991);およびBarbas et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 88:7978-7982 (1991)を参照されたい)。
【0159】
1つの態様において、所望の特徴を持つヒト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を単離および産生するために、本明細書で記載したようなヒト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を最初に用いて、参照により本明細書に組み入れられる、PCT刊行物国際公開公報第93/06213号に記載されたエピトープインプリンティング(epitope imprinting)法を用いて、SARS-CoV Sタンパク質に対する同様の結合活性を有するヒト重鎖および軽鎖配列を選択する。この方法で用いられる抗体ライブラリーは、好ましくは、全て参照により本明細書に組み入れられる、PCT刊行物国際公開公報第92/01047号、McCafferty et al., Nature 348:552-554 (1990);およびGriffiths et al., EMBO J. 12:725-734 (1993)に記載されたように調製およびスクリーニングされたscFvライブラリーである。scFv抗体ライブラリーを好ましくは、ヒトSARS-CoV Sタンパク質を抗原として用いてスクリーニングする。
【0160】
ひとたび最初のヒトVLおよびVHドメインを選択すれば、最初に選択したVLおよびVHセグメントの異なる対をSARS-CoV Sタンパク質結合についてスクリーニングして好ましいVL/VH対の組み合わせ選択する、「ミックス・アンド・マッチ(mix and match)」実験を行なう。さらに、抗体の質をさらに改善するために、自然の免疫応答の間の抗体の親和性成熟に関与するインビボ体細胞突然変異過程に類似した過程で、好ましいVL/VH対のVLおよびVHセグメントを、好ましくはVHおよび/またはVLのCDR3領域内で、ランダムに突然変異させることができる。このインビトロ親和性成熟を、それぞれVH CDR3またはVL CDR3に相補的なPCRプライマーを用いてVHおよびVLドメインを増幅することによって遂行することができ、そのプライマーは、結果として得られるPCR産物が、VHおよび/またはVL CDR3領域にランダム突然変異が導入されているVHおよびVLセグメントをコードするように、ある位置で4つのヌクレオチド塩基のランダムな混合物で「スパイク」されている。これらのランダムに突然変異したVHおよびVLセグメントを、SARS-CoV Sタンパク質に対する結合について再スクリーニングすることができる。
【0161】
組換え免疫グロブリンディスプレイライブラリーからの本発明の抗SARS-CoV Sタンパク質抗体のスクリーニングおよび単離の後に、選択された抗体をコードする核酸をディスプレイパッケージから(例えば、ファージゲノムから)回収しかつ標準的な組換えDNA技術でその他の発現ベクターにサブクローニングすることができる。望ましい場合、核酸をさらに操作して、下で記載するように、本発明のその他の抗体形態を創出することができる。コンビナトリアルライブラリーのスクリーニングで単離された組換えヒト抗体を発現させるために、上で記載したように、抗体をコードするDNAを組換え発現ベクターにクローニングし、哺乳動物宿主細胞に導入する。
【0162】
クラススイッチ
本発明の別の局面は、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体のクラスまたはサブクラスを、別のクラスまたはサブクラスに変換するための方法を提供する。幾つかの態様において、CLまたはCHをコードする配列を含まないVLまたはVHをコードする核酸分子を当技術分野で周知の方法を用いて単離する。その後、核酸分子を所望の免疫グロブリンのクラスまたはサブクラス由来のCLまたはCHをコードするヌクレオチド配列に機能的に連結する。これを、上で記載したように、CL鎖またはCH鎖を含むベクターまたは核酸分子を用いて達成することができる。例えば、もとはIgMであった抗SARS-CoV Sタンパク質抗体をIgGにクラススイッチさせることができる。さらに、クラススイッチを用いて、あるIgGサブクラスを別のサブクラスに、例えば、IgG1からIgG2に変換してもよい。所望のアイソタイプを含む本発明の抗体を産生するための別の方法は、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体の重鎖をコードする核酸および抗SARS-CoV Sタンパク質抗体の軽鎖をコードする核酸を単離する工程、VH領域をコードする配列を単離する工程、VH配列を所望のアイソタイプの重鎖定常ドメインをコードする配列にライゲートする工程、軽鎖遺伝子および重鎖コンストラクトを細胞内で発現させる工程、ならびに所望のアイソタイプを持つ抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を回収する工程を含む。
【0163】
脱免疫化(deimmunized)抗体
本発明の別の局面において、例えば、(参照により本明細書に組み入れられる)PCT刊行物国際公開公報第98/52976号および第00/34317号に記載された技術を用いて抗体を脱免疫化し、その免疫原性を低下させてもよい。
【0164】
突然変異抗体
別の態様において、核酸分子、ベクター、および宿主細胞を用いて、突然変異した抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を作製してもよい。例えば、抗体の結合特性を変更するために、抗体を重鎖および/または軽鎖の可変ドメインで突然変異させてもよい。例えば、SARS-CoV Sタンパク質に対する抗体のKDを増加もしくは減少させるために、koffを増加もしくは減少させるために、または抗体の結合特異性を変更するために、CDR領域の1つまたは複数に突然変異が作られてもよい。部位特異的突然変異生成における技術は当技術分野で周知である。例えば、Sambrook et al.およびAusubel et al.,前記を参照されたい。別の態様において、1つまたは複数の突然変異を、モノクローナル抗体1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2において生殖系列と比較して変化していることが公知であるアミノ酸残基に作製する。突然変異を可変ドメインのCDR領域もしくはフレームワーク領域に、または定常ドメインに作製してもよい。1つの態様において、突然変異を可変ドメインに作製する。幾つかの態様において、1つまたは複数の突然変異を、1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2より選択されるアミノ酸配列の可変ドメインのCDR領域またはフレームワーク領域において生殖系列と比較して変化していることが公知であるアミノ酸残基に作製する。
【0165】
別の態様において、結果として生じるフレームワーク領域が対応する生殖系列遺伝子のアミノ酸配列を有するようにフレームワーク領域を突然変異させる。抗SARS-CoV Sタンパク質抗体の半減期を増加させるために、突然変異をフレームワーク領域または定常ドメインに作製してもよい。例えば、参照により本明細書に組み入れられる、PCT刊行物国際公開公報第00/09560号を参照されたい。抗体の免疫原性を変更するために、別の分子に対する共有結合もしくは非共有結合のための部位を提供するために、または補体固定、FcR結合、および抗体依存的な細胞を介する細胞毒性(ADCC)のような特性を変更するために、フレームワーク領域または定常ドメインにおける突然変異も作ることができる。本発明に従い、1つの抗体が、可変ドメインのCDRもしくはフレームワーク領域の任意の1つまたは複数にまたは定常ドメインに突然変異を有してもよい。
【0166】
幾つかの態様において、突然変異前の抗SARS-CoV Sタンパク質抗体と比較して突然変異した抗SARS-CoV Sタンパク質抗体のVHドメインまたはVLドメインのいずれかに、その間の任意の数を含む、1つ〜8つのアミノ酸突然変異がある。上記のいずれかにおいて、突然変異は、1つまたは複数のCDR領域に生じてもよい。さらに、突然変異のうちのいずれかは、保存的アミノ酸置換であることができる。幾つかの態様において、定常ドメインにわずか5つ、4つ、3つ、2つ、または1つのアミノ酸変化がある。
【0167】
修飾抗体
別の態様において、別のポリペプチドに連結された本発明の抗SARS-CoV Sタンパク質抗体の全てまたは一部を含む融合抗体または免疫アドヘシンを作製してもよい。1つの態様において、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体の可変ドメインのみをポリペプチドに連結させる。また別の態様において、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体のVHドメインを第一のポリペプチドに連結させ、一方で抗SARS-CoV Sタンパク質抗体のVLドメインを、VHドメインおよびVLドメインが互いに相互作用して抗体結合部位を形成するような様式で第一のポリペプチドと会合する第二のポリペプチドに連結させる。また別の態様において、VHドメインは、VHドメインとVLドメインが互いに相互作用することができるようにリンカーによってVLドメインから隔てられている(下の単鎖抗体の項目を参照)。その後、VH-リンカー-VL抗体を関心対象のポリペプチドに連結させる。融合抗体は、SARS-CoV Sタンパク質を発現する細胞または組織にポリペプチドを導くのに有用である。ポリペプチドは、毒素などの、治療的薬剤、ケモカイン、もしくはその他の調節タンパク質であってもよく、または西洋ワサビペルオキシダーゼなどの、容易に可視化され得る酵素などの、診断的薬剤であってもよい。さらに、2つ(またはそれより多く)の単鎖抗体が互いに連結される融合抗体を創出することができる。これは、1本のポリペプチド鎖上に二価もしくは多価の抗体を創出したい場合に、または二重特異性抗体を創出したい場合に有用である。
【0168】
単鎖抗体(scFv)を創出するために、VHおよびVL配列を、柔軟なリンカーで接合されたVLドメインおよびVHドメインと共に、隣接する単鎖タンパク質として発現させることができるように、VHおよびVLをコードするDNA断片を、柔軟なリンカーをコードする、例えば、アミノ酸配列(Gly4-Ser)3をコードする別の断片に機能的に連結させる。例えば、Bird et al., Science 242:423-426 (1988);Huston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883 (1988);McCafferty et al., Nature 348:552-554 (1990)を参照されたい。単鎖抗体は、1つのVHおよびVLのみが用いられる場合には、一価であってもよく、2つのVHおよびVLが用いられる場合には、二価であってもよく、または2つより多くのVHおよびVLが用いられる場合には、多価であってもよい。SARS-CoV Sタンパク質におよび別の分子に特異的に結合する二重特異性抗体または多価抗体を作製してもよい。
【0169】
その他の態様において、その他の修飾抗体を、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体をコードする核酸分子を用いて調製してもよい。例えば、「κ体」(Ill et al., Protein Eng. 10:949-57 (1997))、「ミニボディ(Minibody)」(Martin et al., EMBO J. 13:5303-9 (1994))、「ダイアボディ」(Holliger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448 (1993))、または「ジャヌシン(Janusin)」(Traunecker et al., EMBO J. 10:3655-3659 (1991)およびTraunecker et al., Int. J. Cancer (補遺) 7:51-52 (1992))を本明細書の教示の後に標準的な分子生物学的技術を用いて調製してもよい。
【0170】
二重特異性の抗体または抗原結合断片を、ハイブリドーマの融合またはFab'断片の連結を含む種々の方法で産生することができる。例えば、Songsivilai and Lachmann, Clin. Exp. Immunol. 79:315-321 (1990)、Kostelny et al., J. Immunol. 148:1547-1553 (1992)を参照されたい。さらに、二重特異性抗体を「ダイアボディ」または「ジャヌシン」として形成させてもよい。幾つかの態様において、二重特異性抗体は、SARS-CoV Sタンパク質の2つの異なるエピトープに結合する。幾つかの態様において、二重特異性抗体は、モノクローナル抗体1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2由来の第一の重鎖および第一の軽鎖ならびに追加の抗体の重鎖および軽鎖を有する。幾つかの態様において、追加の軽鎖および重鎖も、上で同定したモノクローナル抗体のうちの1つ由来であるが、第一の重鎖および軽鎖とは異なる。
【0171】
幾つかの態様において、上で記載した修飾抗体を、本明細書で提供したヒト抗SARS-CoV Sタンパク質モノクローナル抗体由来の可変ドメインまたはCDR領域の1つまたは複数を用いて調製する。
【0172】
誘導体化抗体および標識抗体
本発明の抗SARS-CoV Sタンパク質抗体または抗原結合部分を誘導体化しまたは別の分子(例えば、別のペプチドもしくはタンパク質)に連結させることができる。一般に、SARS-CoV Sタンパク質結合が誘導体化または標識化によって悪影響を受けないように抗体またはその部分を誘導体化する。したがって、本発明の抗体および抗体部分は、インタクトな形態および修飾された形態両方の本明細書で記載したヒト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を含むことが意図される。例えば、本発明の抗体または抗体部分を、(化学的共役、遺伝子融合、非共有結合的会合で、または別の方法で)別の抗体(例えば、二重特異性抗体もしくはダイアボディ)、検出薬剤、細胞毒性薬剤、薬学的薬剤、および/または抗体もしくは抗体部分の(ストレプトアビジンコア領域もしくはポリヒスチジンタグなどの)別の分子との会合を媒介することができるタンパク質もしくはペプチドなどの、1つまたは複数のその他の分子実体と機能的に連結させることができる。
【0173】
誘導体化抗体の1つの種類を(例えば、二重特異性抗体を創出するために、同じ種類または異なる種類の)2つまたはそれより多くの抗体を架橋することによって産生する。好適な架橋剤には、ヘテロ二官能性であり、適当なスペーサーで隔てられた2つの明瞭に反応する基を有する架橋剤(例えば、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル)またはホモ二官能性である架橋剤(例えば、スベリン酸ジスクシンイミジル)が含まれる。そのようなリンカーは、Pierce Chemical Company, Rockford, Ilから入手可能である。
【0174】
別の種類の誘導体化抗体は標識抗体である。本発明の抗体または抗原結合部分を誘導体化し得る有用な検出薬剤には、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、フィコエリスリン、5-ジメチルアミン-1-塩化ナフタレンスルホニル、ランタニド燐光体などを含む蛍光化合物が含まれる。抗体は、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼなどのような、検出に有用である酵素で標識することもできる。抗体を検出可能な酵素で標識する場合、酵素を用いて識別することができる反応産物を産生する追加の試薬を添加することによってそれを検出する。例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼという薬剤が存在する場合、過酸化水素およびジアミノベンジジンの添加によって、検出可能である、発色した反応産物がもたらされる。抗体をビオチンで標識し、アビジンまたはストレプトアビジン結合の間接的測定を通じて検出することもできる。抗体を、二次レポーターによって認識される所定のポリペプチドエピトープ(例えば、ロイシンジッパー対配列、二次抗体の結合部位、金属結合ドメイン、エピトープタグ)で標識することもできる。幾つかの態様において、標識を様々な長さのスペーサーアームで付着させ、潜在的な立体障害を低下させる。
【0175】
抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を放射性標識アミノ酸で標識することもできる。放射性標識は、診断目的および治療目的の両方に用いることができる。例えば、放射性標識を用いて、X線またはその他の診断技術でSARS-CoV Sタンパク質を発現する腫瘍を検出することができる。さらに、放射性標識を癌性細胞または腫瘍に対する毒素として治療的に用いることができる。ポリペプチド用の標識の例として、以下の放射性同位体または放射性核種が含まれるが、これらに限定されない--3H、14C、15N、35S、90Y、99Tc、111In、125I、および131I。
【0176】
抗SARS-CoV Sタンパク質抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)、メチル基もしくはエチル基、または炭水化物基などの化学基で誘導体化することもできる。これら基は、抗体の生物学的特徴を改善するために、例えば、血清半減期を増加させるためにまたは組織結合を増加させるために有用である。
【0177】
幾つかの態様において、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体は、イメージング時に検出可能である常磁性イオン、放射性イオン、または蛍光原性イオンで標識することができる。幾つかの態様において、常磁性イオンは、クロム(III)、マンガン(II)、鉄(III)、鉄(II)、コバルト(II)、ニッケル(II)、銅(II)、ネオジミウム(III)、サマリウム(III)、イッテルビウム(III)、ガドリニウム(III)、バナジウム(II)、テルビウム(III)、ジスプロシウム(III)、ホルミウム(III)、またはエルビウム(III)である。その他の態様において、放射性イオンは、ヨード123、テクネチウム99、インジウム111、レニウム188、レニウム186、銅67、ヨード131、イットリウム90、ヨード125、アスタチン211、およびガリウム67である。その他の態様において、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を、ランタン(III)、金(III)、鉛(II) 、およびビスマス(III)などのX線イメージング薬剤で標識する。
【0178】
組成物およびキット
本発明は、SARS-CoVに感染した患者の処置のためのアンタゴニスト特性があるヒト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を含む組成物に関する。ある態様において、組成物は前述の態様のいずれかの抗体を含んでもよい。幾つかの態様において、処置の対象はヒトである。その他の態様において、処置の対象は獣医学的対象である。
【0179】
本発明のアンタゴニスト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体およびそれらを含む組成物を、1つまたは複数のその他の治療的薬剤、診断的薬剤、または予防的薬剤と組み合わせて投与することができる。幾つかの態様において、1つより多くの本発明のアンタゴニスト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を対象の処置で用いることができる。幾つかの態様において、S1ドメインに結合するアンタゴニスト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体およびS2ドメインに結合するアンタゴニスト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体またはいずれかもしくは両方の抗原結合部分を、一緒にかまたは別々にかのいずれかで、対象に両方投与する。ある態様において、抗体は薬学的に許容される担体を含む組成物中にある。別の態様において、本発明のアンタゴニストSARS-CoV Sタンパク質抗体の1つまたは複数を、Sタンパク質上の異なるエピトープに結合し、SARS-CoVの異なる分離株由来のSタンパク質に結合し、および/または異なる段階のSARS-CoV(すなわち、初期、中期、もしくは後期段階のウイルス)に結合する1つまたは複数の追加の拮抗的抗体と組み合わせて投与する。
【0180】
本明細書で用いる場合、「薬学的に許容される担体」とは、生理学的に適合性がある任意のおよび全ての溶媒、分散媒、コーティング剤、抗細菌薬剤および抗真菌薬剤、等張薬剤および吸収遅延薬剤などを意味する。薬学的に許容される担体の幾つかの例は、水、生理食塩水、リン酸緩衝食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなどだけでなく、その組み合わせでもある。多くの場合、等張薬剤、例えば、糖、マンニトール、ソルビトールなどのポリアルコール、または塩化ナトリウムを組成物中に含めることが好ましいと考えられる。薬学的に許容される物質の追加の例は、湿潤薬剤、または抗体の貯蔵寿命もしくは有効性を増強させる、湿潤薬剤もしくは乳化薬剤、防腐剤、または緩衝剤などの微量の補助物質である。
【0181】
本発明の組成物は、種々の形態、例えば、液体溶液(例えば、注射可能および注入可能な溶液)、分散または懸濁、錠剤、丸剤、粉末、リポソーム、および座剤などの、液体、半固体、および固体の投薬形態であってもよい。好ましい形態は、意図された投与の様式および治療的適用による。典型的な好ましい組成物は、ヒトの受動免疫化に用いられるものとよく似た組成物などの、注射可能または注入可能な溶液の形態である。好ましい投与の様式は、非経口(例えば、静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内)である。1つの態様において、抗体を静脈内への注入または注射によって投与する。また別の態様において、抗体を筋肉内または皮下への注射によって投与する。
【0182】
治療的組成物は典型的には、製造および保存の条件下で滅菌されかつ安定でなければならない。組成物は、溶液、マイクロエマルジョン、分散、リポソーム、または高薬物濃度に好適なその他の秩序付けられた構造として製剤化することができる。滅菌注射可能溶液は、上で列挙した成分の1つまたは組み合わせと共に、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を必要とされる量で適当な溶媒中に組み入れ、必要に応じて、その後濾過滅菌することによって調製することができる。通常、分散を、基礎分散媒および上で列挙した成分からの必要とされるその他の成分を含む滅菌ビヒクル中に活性化合物を組み入れることによって調製する。滅菌注射可能溶液の調製用の滅菌粉末の場合、好ましい調製の方法は、活性成分に加えて、以前に滅菌濾過したその溶液由来の任意の追加の所望の成分の粉末を生成する真空乾燥および凍結乾燥である。例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用によって、分散の場合には必要とされる粒子サイズの維持によって、およびサーファクタントの使用によって、溶液の適切な流動性を維持することができる。注射可能組成物の長期にわたる吸収を、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアレート塩およびゼラチンを組成物に含めることによってもたらすことができる。
【0183】
本発明の抗体を当技術分野で公知の種々の方法で投与することができるが、多くの治療的適用について、好ましい投与の経路/様式は、皮下、筋肉内、または静脈内への注入である。当業者によって正しく理解されるように、投与の経路および/または様式は所望の結果に応じて様々に異なると考えられる。その他の投与の様式には、腹腔内、気管支内、経粘膜、脊髄内、滑液嚢内、大動脈内、鼻腔内、眼内、耳内、局所、および口腔投与が含まれる。
【0184】
ある態様において、抗体組成物の活性化合物を、インプラント、経皮パッチ、およびマイクロカプセル化送達系を含む、制御放出製剤などの、抗体を速やかな放出から保護すると考えられる担体を用いて調製してもよい。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの、生分解性で生体適合性のポリマーを用いることができる。そのような製剤の調製のための多くの方法は特許化されまたは通常当業者に公知である。例えば、Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems(J.R. Robinson編, Marcel Dekker社, New York, 1978)を参照されたい。
【0185】
本発明はまた、本明細書で記載した抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を含む、吸入による投与に好適な組成物を提供する。抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を、好適な推進剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、またはその他の好適なガスの使用を伴い、加圧パックからのまたはネブライザーからのエアロゾルスプレー提示の形態で対象に好都合に送達してもよい。加圧されたエアロゾルの場合、バルブを提供することによって投薬量単位を決定し、計量された量を送達してもよい。例えば、化合物の粉末混合物およびラクトースまたはスターチなどの好適な粉末基材を含む、吸入器または散布器で使用するための、ゼラチンのカプセルおよび薬包を製剤化してもよい。Dellamary et al. (2004) J Control Release;95(3):489-500は、抗体の肺送達用の製剤を記載している。そのような吸入製剤は喘息の処置にまたは肺粘膜における炎症を低下させるのに特に有用である可能性がある。
【0186】
本発明はまた、本明細書で記載した抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を含む、口粘膜を通した投与に好適な、組成物を提供する。口内経粘膜送達は、口腔、咽頭腔、または食道の粘膜を横断する送達ビヒクルの送達を指し、例えば、薬物の吸収が小腸で起こる、伝統的な経口送達と対照を成す可能性がある。したがって、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体が口腔、舌下、歯肉、咽頭、および/または食道の粘膜を通して吸収される投与の経路は、その用語が本明細書で用いられる場合、「口内経粘膜送達」に全て包含される。経粘膜的粘膜を通した投与のために、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を、例えば、チューイングガム(米国特許第5,711,961号参照)または口腔パッチ(米国特許第5,298,256号参照)の中に製剤化してもよい。
【0187】
本発明はまた、本明細書で記載した抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を含む、膣粘膜を通した投与に好適な組成物を提供する。本発明の抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を、膣用の座剤、フォーム、クリーム、錠剤、カプセル、軟膏、またはジェルの中に製剤化してもよい。
【0188】
ある態様において、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を含む組成物を、浸透させるべき経粘膜障壁に相応しい浸透剤と共に製剤化する。そのような浸透剤は当技術分野で一般に公知であり、例えば、経粘膜投与については、胆汁塩およびフシジン酸誘導体を含む。
【0189】
ある態様において、本発明の抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を、例えば、不活性希釈剤または同化可能で食べられる担体と共に、経口投与することができる。化合物(および望ましい場合、その他の成分)を、殻の硬いもしくは殻の軟らかいゼラチンカプセルに封入するか、錠剤中に圧縮するか、または対象の食事に直接組み入れることもできる。経口による治療的投与のために、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を賦形剤と共に組み入れかつ摂取可能な錠剤、口腔錠、トローチ、カプセル、エリキシル、懸濁、シロップ、ウエハースなどの形態で用いることができる。本発明の化合物を非経口投与以外で投与するには、その不活化を防止するための材料で化合物をコーティングするか、またはその不活化を防止するための材料と化合物を同時に投与する必要がある場合がある。
【0190】
追加の活性化合物を組成物に組み入れることもできる。ある態様において、本発明の阻害的抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を、1つもしくは複数の追加の治療的薬剤、特に抗ウイルス薬剤と一緒に製剤化しおよび/または同時に投与する。これらの治療的薬剤には、その他の標的に結合する抗体、光増感剤、アンドロゲン、エストロゲン、非ステロイド系抗炎症薬剤、抗高血圧薬剤、鎮痛薬剤、抗うつ剤、抗生物質、抗癌薬剤、麻酔、制吐剤、抗感染薬、避妊薬、抗糖尿病薬剤、ステロイド、抗アレルギー薬剤、化学治療薬剤、抗片頭痛薬剤、禁煙のための薬剤、抗ウイルス薬剤、免疫抑制剤、血栓溶解薬剤、コレステロール降下薬剤、および抗肥満薬剤が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0191】
治療的薬剤には、SARS-CoV Sタンパク質活性を阻害するペプチド類似体、ACE2受容体などの受容体へのSタンパク質結合を防ぐことを含むが、これに限定されない、細胞内へのSARS-CoV Sタンパク質侵入を防ぐ抗体またはその他の分子、およびSARS-CoV Sタンパク質発現を阻害する薬剤も含まれる。1つの態様において、SARS-CoV Sタンパク質発現を阻害する追加の薬剤は、ヘアピンRNAもしくはsiRNAなどの、SARS-CoV Sタンパク質mRNAにハイブリダイズすることができるアンチセンス核酸、ロックされた核酸(LNA)、またはリボザイムを含む。RNA干渉で遺伝子機能を阻害することができる配列特異的核酸は当技術分野で周知である。そのような組み合わせ治療は、より低い投薬量の阻害的抗SARS-CoV Sタンパク質抗体だけでなく、同時に投与される薬剤も必要とする場合があり、それによって様々な単剤治療と関連する起こり得る毒性または合併症が回避される。
【0192】
ある具体的な態様において、本発明の阻害的抗SARS-CoV Sタンパク質抗体と一緒に製剤化されおよび/または同時に投与される治療的薬剤は、抗微生物薬剤である。抗微生物薬剤には、抗生物質(例えば、抗細菌薬剤)、抗ウイルス薬剤、抗真菌薬剤、および抗原虫薬剤が含まれる。抗微生物薬剤の非限定的な例は、スルホンアミド、トリメトプリム-スルファメトキサゾール、キノロン、ペニシリン、およびセファロスポリンである。
【0193】
本発明の組成物は、「治療的有効量」または「予防的有効量」の本発明の抗体または抗原結合部分を含んでもよい。「治療的有効量」は、必要な投薬量および期間で、所望の治療結果を達成するのに、有効な量を指す。抗体または抗体部分の治療的有効量は、個体の疾患状態、年齢、性別、および体重、ならびに抗体もしくは抗体部分が個体で所望の応答を誘発する能力などの要因によって様々に異なる可能性がある。治療的有効量は、治療的に有益な効果が抗体または抗体部分の任意の毒性作用または有害作用を上回る量でもある。「予防的有効量」は、必要な投薬量および期間で、所望の予防結果を達成するのに、有効な量を指す。典型的には、予防的用量は、疾患の前または疾患のより早い段階で対象に用いられるので、予防的有効量は治療的有効量よりも少ない可能性がある。
【0194】
投薬レジメンを調整して、最適な所望の応答(例えば、治療応答または予防応答)を提供することができる。例えば、単一ボーラスを投与することができ、数回に分けた用量を経時的に投与することができ、または治療状況の緊急性によって示される場合に、用量を比例的に低下もしくは増加させることができる。投与の容易さおよび投薬量の均一性のために非経口組成物を投薬単位形態で製剤化することはとりわけ有利である。本明細書で用いる場合の投薬単位形態は、処置されるべき哺乳動物対象のための単位投薬量として適した物理的にはっきり区別された単位を指し;各単位は、必要とされる薬学的担体と関連して所望の治療効果をもたらすように算出された所定の数量の活性化合物を含む。本発明の投薬単位形態の仕様は、(a)抗SARS-CoV Sタンパク質抗体またはその部分の独特な特徴および達成されるべき特定の治療効果または予防効果、ならびに(b)そのような抗体を個体における感受性の処置のために配合する分野に固有の限界によって決定され、かつそれらに直接的に依存する。
【0195】
本発明の抗体または抗体部分の治療的または予防的有効量についての例示的で、非制限的な範囲は、0.025〜50 mg/kg、より好ましくは0.1〜50 mg/kg、より好ましくは0.1〜25、0.1〜10、または0.1〜3 mg/kgである。幾つかの態様において、製剤は、5 mg/mlの抗体を20 mM クエン酸ナトリウム、pH 5.5、140 mM NaCl、および0.2 mg/ml ポリソルベート80の緩衝剤中に含む。投薬量値が緩和されるべき状態の種類および重症度によって様々に異なり得るということが留意されるべきである。任意の特定の対象について、具体的な投薬レジメンを、個々の必要性および組成物を投与する者または組成物の投与を監視する者の専門的判断に従って経時的に調整すべきであるということ、ならびに本明細書で示した投薬量範囲が例示的でなものであるに過ぎず、主張された組成物の範囲または実施を限定することが意図されないということがさらに理解されるべきである。
【0196】
本発明の別の局面は、本発明の抗SARS-CoV Sタンパク質抗体もしくは抗原結合部分、またはそのような抗体もしくは抗原結合断片を含む組成物を含むキットを提供する。キットに、抗体または組成物に加えて、診断的薬剤または治療的薬剤を含んでもよい。キットはまた、診断法または治療法における使用のための取扱説明書だけでなく、氷、ドライアイス、発泡スチロール、フォーム、プラスチック、セロファン、シュリンクラップ、バブルラップ、段ボール、およびスターチピーナッツ(starch peanut)などの、しかしこれらに限定されない、パッケージング材料も含むことができる。1つの態様において、キットは、抗体またはそれを含む組成物および下で記載する方法で用いることができる診断的薬剤を含む。また別の態様において、キットは、抗体またはそれを含む組成物および下で記載する方法で用いることができる1つもしくは複数の治療的薬剤を含む。
【0197】
本発明はまた、かなりの量の抗ウイルス薬剤と組み合わせたかなりの量の本発明の抗体を含む、哺乳動物で、ウイルス感染、特にSARS感染を阻害するための組成物に関し、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体の量および抗ウイルス薬剤の量は、ウイルス複製、新しい細胞またはウイルス負荷のウイルス感染を阻害する際に共に有効である。ヌクレオシド類似体(例えば、AZT、3TC、ddl)、プロテアーゼ阻害剤、およびケモカイン受容体アンタゴニストを含む、多くの抗ウイルス薬剤が、当技術分野で現在公知である。
【0198】
使用する診断法
別の局面において、本発明は診断法を提供する。抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を用いて、生物学的試料中のSARS-CoV Sタンパク質をインビトロまたはインビボで検出することができる。1つの態様において、本発明は、それを必要とする対象における、SARS-CoVウイルスの存在または場所を診断するための方法を提供する。
【0199】
抗SARS-CoV Sタンパク質抗体は、ELISA、RIA、フローサイトメトリー、組織免疫組織化学、ウェスタンブロット、または免疫沈降を含むがこれらに限定されない、従来の免疫アッセイに用いることができる。本発明の抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を用いて、ヒト由来のSARS-CoV Sタンパク質の検出することができる。
【0200】
本発明は、生物学的試料を本発明の抗SARS-CoV Sタンパク質抗体と接触させる工程および結合した抗体を検出する工程を含む、生物学的試料中のSARS-CoV Sタンパク質を検出するための方法を提供する。1つの態様において、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を、検出可能な標識で直接標識する。別の態様において、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体(一次抗体)を標識せず、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体に結合することができる二次抗体またはその他の分子を標識する。当業者に周知であるように、特定の種およびクラスの一次抗体に特異的に結合することができる二次抗体を選ぶ。例えば、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体がヒトIgGである場合、二次抗体は抗ヒトIgGである可能性がある。抗体に結合することができるその他の分子には、その両方が、例えば、Pierce Chemical社から市販されている、プロテインAおよびプロテインGが含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0201】
抗体または二次抗体用の好適な標識は前記に開示され、様々な酵素、補欠分子族、蛍光材料、発光材料、および放射性材料を含む。好適な酵素の例として、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、またはアセチルコリンエステラーゼが含まれ;好適な補欠分子族複合体の例として、ストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジン/ビオチンが含まれ;好適な蛍光材料の例として、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシル、またはフィコエリスリンが含まれ;発光材料の例としてルミノールが含まれ;ならびに好適な放射性物質の例として、125I、131I、35S、または3Hが含まれる。
【0202】
その他の態様において、SARS-CoV Sタンパク質を、検出可能な物質で標識したSARS-CoV Sタンパク質標準および非標識抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を利用する競合免疫アッセイによって生物学的試料中でアッセイすることができる。このアッセイでは、生物学的試料、標識されたSARS-CoV Sタンパク質標準、および抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を組み合わせて、非標識抗体に結合した標識SARS-CoV Sタンパク質標準の量を決定する。生物学的試料中のSARS-CoV Sタンパク質の量は、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体に結合した標識SARS-CoV Sタンパク質標準の量に逆比例する。
【0203】
多くの目的のために、上で開示した免疫アッセイを用いることができる。例えば、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を、培養細胞中のSARS-CoV Sタンパク質を検出するためにまたは対象由来試料での診断アッセイとして用いることができる。
【0204】
使用する治療法
別の態様において、本発明は、それを必要とする患者に抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を投与することによってSARS-CoV Sタンパク質を中和するための方法を提供する。本明細書で記載された抗体の種類のいずれかを治療的に用いてもよい。様々な態様において、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体はヒト抗体である。幾つかの態様において、抗体、またはその抗原結合部分は、SARS-CoV Sタンパク質のS1ドメインに結合する。
【0205】
幾つかの態様において、患者はヒト患者である。あるいは、患者は、SARS-CoVに感染した哺乳動物であってもよい。抗体を、獣医学的目的のためにまたはヒト疾患の動物モデルとして、SARS-CoVに感染した非ヒト哺乳動物に投与してもよい。そのような動物モデルは、本発明の抗体の治療的有効性を評価するために有用である可能性がある。
【0206】
1つの態様において、本発明は、治療的有効量の本発明の抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を対象に投与することによって、対象でSARS-CoV感染およびそのような感染から結果として生じる状態または障害を処置するか、処置する助けとなるか、防止するか、防止する助けとなる方法を提供する。
【0207】
SARS-CoV Sタンパク質のアンタゴニストである抗体およびその抗原結合断片を、SARS-CoV感染に対する治療薬として用いることができる。SARS-CoVはウイルス表面上に発現されたスパイク(S)タンパク質を介して標的細胞に感染する。SARS-CoV Sタンパク質は2つの機能ドメインである、S1(アミノ酸15〜680)およびS2(アミノ酸681〜1255)に分けられる、1型膜貫通糖タンパク質である。S1サブユニットは、Sタンパク質のその受容体、アンジオテンシン変換酵素2(Ace2)との相互作用を媒介する。受容体結合ドメイン(RBD)と名付けられた193アミノ酸からなるS1の領域はACE2結合に関与する。Sタンパク質のS2サブユニットは、Sタンパク質の2つの保存されたヘリックス領域が一緒に集まって6つのヘリックス束融合コアを形成する立体構造変化を通じてウイルス膜と宿主膜の融合を媒介する。
【0208】
抗体を1回投与してもよいが、より好ましくは複数回投与する。抗体を1日3回〜6か月またはそれより長い期間に1回投与してもよい。投与する工程は、1日3回、1日2回、1日1回、2日に1回、3日に1回、週に1回、2週間に1回、月に1回、2か月に1回、3か月に1回、また6か月に1回などのスケジュールで行なってもよい。また、抗体を小型ポンプによって連続的に投与してもよい。抗体を、経口、粘膜、口腔、鼻腔内、吸入可能、静脈内、皮下、筋肉内、非経口、腫瘍内、または局所の経路を経由して投与してもよい。抗体を局部にまたは全身に投与してもよい。
【0209】
抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を含む治療的組成物を、例えば、口に、膣に、口腔に、直腸に、眼を経由して、または肺経路を経由して、当業者によく知られていると考えられる、種々の薬学的に許容される投薬形態で、対象に投与してもよい。
【0210】
例えば、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を、鼻経路を経由して鼻散布装置を用いて投与してもよい。これらの例は、鼻適用向けに意図された市販の粉末システム(例えば、Fisons Lomudal System)用に既に利用されている。その他の装置に関する詳細を薬学の文献に見出すことができる(例えば、Drug Delivery Devices Fundamentals and Applications, Tyle P.(編), Dekker, New York, 1988の中のBell, A. Intranasal Delivery devicesを参照されたい)。
【0211】
抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を凍結乾燥した粉末製剤として膣に投与することができる。抗SARS-CoV Sタンパク質抗体は膣アプリケーターの中で投与され、ひとたび膣内に投与されれば、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を含む製剤はアプリケーター上の注射器型ピストンまたは同様の放出機構を押すことによって放出される。あるいは、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を、粉末装置を用いて粉末として製剤化し、膣座剤もしくは膣座薬または膣錠剤または膣ジェルの中に製剤化してもよい。
【0212】
抗SARS-CoV Sタンパク質抗体をジェル製剤として眼に投与することもできる。例えば、投与前に、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を含む製剤を、一方の区画には凍結乾燥した抗SARS-CoV Sタンパク質抗体調製物が含まれかつ他方の区画には生理食塩水が含まれる、2区画の単位用量容器中に好都合に含めてもよい。適用前に、2つの区画を混合しおよびジェルを形成させ、その後それを眼に投与する。
【0213】
抗SARS-CoV Sタンパク質抗体のためのその他の送達経路には、粉末吸入器または計量用量吸入器を用いた肺経路経由、錠剤または口腔パッチ中に製剤化された口腔経路経由、座剤中に製剤化された直腸経路経由;および(組成物によって胃、小腸、または大腸経由で薬剤が投与され得る)錠剤、カプセル、またはペレットの形態の経口経路経由が含まれ、その全てが当業者に周知である技術に従って製剤化され得る。
【0214】
抗体を、1回、少なくとも2回、または少なくとも状態が処置されるか、一時的に和らげられるか、もしくは治癒されるまでの期間、投与してもよい。抗体は通常、前記に記載されたような組成物の一部として投与されると考えられる。抗体の投薬量は通常、0.1〜100 mg/kg、より好ましくは0.5〜50 mg/kg、より好ましくは1〜20 mg/kg、および一層より好ましくは1〜10 mg/kgの範囲にあると考えられる。抗体の血清濃度は、当技術分野で公知の任意の方法で測定してもよい。
【0215】
別の態様において、本発明の抗体をその他の治療的薬剤と組み合わせて対象に投与する。1つの態様において、追加の治療的薬剤は、それら自体でSARS-CoV感染の症状を処置してもよく、任意で抗体の効果と相乗作用を示してもよい。投与される追加の薬剤は、感染を処置するために当業者によって選択されてもよい。
【0216】
追加の治療的薬剤と抗体の同時投与(組み合わせ治療)は、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体および追加の治療的薬剤を含む組成物を投与する工程だけでなく、一方は抗SARS-CoV Sタンパク質抗体を含みかつ他方は追加の治療的薬剤を含む、2つまたはそれより多くの別々の組成物を投与する工程も包含する。さらに、同時投与または組み合わせ治療は通常、抗体および追加の治療的薬剤が互いに同時に投与されるということを意味するが、抗体および追加の治療的薬剤が異なる時に投与される場合も包含する。例えば、追加の治療的薬剤を1日に1回投与しながら、抗体を3日に1回投与してもよい。あるいは、追加の治療的薬剤による処置の前または後に、抗体を投与してもよい。同様に、抗SARS-CoV Sタンパク質抗体の投与をその他の治療の前または後に投与してもよい。
【0217】
抗体および1つまたは複数の追加の治療的薬剤(組み合わせ治療)を1回、2回、または少なくとも状態が処置されるか、一時的に和らげられるか、もしくは治癒されるまでの期間、投与してもよい。好ましくは、組み合わせ治療を複数回投与する。組み合わせ治療を1日3回〜6か月1回投与してもよい。投与する工程は、1日に3回、1日に2回、1日に1回、2日に1回、3日に1回、週に1回、2週間に1回、月に1回、2か月に1回、3か月に1回、また6か月に1回などのスケジュールで行なってもよく、または小型ポンプによって連続的に投与してもよい。組み合わせ治療を、経口、粘膜、口腔、鼻腔内、吸入可能、静脈内、皮下、筋肉内、または非経口の経路を経由して投与してもよい。
【0218】
ある局面において、本開示は、それを必要とする対象におけるSARS-CoVを介する障害の症状を処置するか、防止するか、または緩和するための方法であって、
(a)1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2からなる群由来の1つまたは複数の抗体;
(b)複数のSARS-CoV株のSARS-CoV Sタンパク質に特異的に結合する1つまたは複数の抗体;
(c)SARS-CoV Sタンパク質に結合しない1つまたは複数の中和抗体;
(d)SARS-CoV Sタンパク質受容体に結合する1つまたは複数の薬剤;ならびに
(e)1つまたは複数の抗ウイルス薬剤
からなる群より選択される少なくとも1つの追加の治療的薬剤をさらに含む、前述の態様のいずれか1つによる抗体またはその抗原結合部分を対象に投与する工程を含む方法を提供する。
【0219】
ある態様において、幾つかの中和エピトープを同時に標的しかつ逃避突然変異体の出現を防止するために異なる結合特異性を持つ抗体を組み合わせて用いてもよい。ある態様において、中和エピトープには、S1もしくはS2、その他のSARS-CoVタンパク質、またはSタンパク質受容体の領域が含まれてもよい。ある態様において、中和エピトープは、S1 RBDドメインまたはRBDの上流にある。
【0220】
ある態様において、多数のウイルス株を同時に標的するために複数のウイルス株に対する結合特異性を持つ抗体を組み合わせて用いてもよい。ある態様において、抗体は、1つの株に対するものであることが分かってもよいしまたは複数の株に対するものであることが分かってもよい。多数のSARS-CoV株が記載されかつ当業者に公知であり、例えば、幾つかの一般的なSARS-CoV株として、TWJ、Urbani、またはTor2が含まれる。
【0221】
本発明をより良く理解し得るために、以下の実施例を示す。これらの実施例は、例証のみの目的のためであり、いかなる方法によっても本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0222】
実施例I
ヒト抗SARS-CoV Sタンパク質抗体の産生
精製Sタンパク質エクトドメインの調製
Sタンパク質(Tor2;Genbankアクセッション番号:AY274119)のエクトドメインのアミノ酸1〜1193をコードするcDNA(British Columbia Cancer Agency Genome Sciences CentreのMarco MarraおよびCaroline Astellからの親切な贈与物)をBaculoDirect(商標)バキュロウイルス発現系(Invitrogen)にV5-HIS-タグを付けてインフレームでクローニングした。タンパク質をSf9細胞で発現させ、Probond(商標)ニッケル-キレート樹脂(Invitrogen)を用いて精製した。
【0223】
免疫化およびハイブリドーマ産生
5マイクログラムの精製Sタンパク質をTitermax Goldアジュバント(Sigma)中で乳化し、6〜10週齢のIgG2K XenoMouse(登録商標)動物を腹腔内で免疫化した。その後のブーストをTiterMax Goldまたはミョウバン(Sigma)をアジュバントとして連続的に用いて行なった。動物が抗S抗体応答を発生させた時、PBS中の最後のブーストを行ない、4日後に脾臓およびリンパ細胞を採集し、P3ミエローマ細胞と融合させ、標準的なプロトコル(Davis)を用いてヒポキサンチン-アザセリン(HA)中でHPRT+ハイブリドーマを選択した。
【0224】
合計11,520ウェルからのハイブリドーマ上清を、OVA-V5-HISに対するカウンタースクリーニングを対照としてS-V5-HISに対するELISAでS反応性について個々にスクリーニングした。S-V5-HIS(Tor2)に対して試験した時に0.7を超えるOD値をもたらすハイブリドーマ上清を様々なS1-Ig断片に対してELISAでさらに試験した。
【0225】
実施例II
エピトープマッピング
S1-Igタンパク質および断片の産生および精製
異なるS1-Ig断片(すなわち、aa 12〜672、12〜510、261〜672、318〜510)をコードするcDNAをMC1061/P3細胞に形質転換し、細菌をテトラサイクリンおよびアンピシリン寒天プレート上で成長させた。コンストラクトをNhe1およびBamH1を用いた制限解析で確認した(図1A)。
【0226】
S1-Ig断片は、アミノ酸 12〜672、12〜510、261〜672、または318〜510、C5シグナル配列、およびタンパク質の分泌を可能にするために膜貫通ドメインを欠いているヒトIg Fcからなった。S1-Ig断片をコードするcDNAをCaPO3トランスフェクションキット(Invitrogen)を用いて293T細胞にトランスフェクトした。簡潔に述べると、293T細胞をトランスフェクションの1日前に播種し、培地を翌朝に変えた。CaPO3トランスフェクション手順を以下の通りに行なった:通気しながら 10 μg DNA + 50 μl CaCl2(2.5M)+ 450 μl 滅菌H2Oを混合し、500 μlのHBSに添加した(値はトランスフェクトしたプレート当たりのものである)。この混合物を20分間室温でインキュベートし、その後293T細胞に滴下で添加した。次の日、細胞をPBS + 1 mM CaCl2 + 0.5 M MgCl2で洗浄し、培地を2 mM L-グルタミンおよび抗生物質/抗カビ剤(Gibco)を補充した293T無血清培地と交換した。細胞を37℃で2日間インキュベートし、その時点で培地を採集し、プロテアーゼ阻害剤錠剤(Roche)を添加した。その後、上清を1500 rpmで5分間回転させて任意の細胞破片を除去し、プロテイン-Aセファロースビーズ(Santa Cruz Biotechnology)を用いて終夜4℃で揺り動かすことによってタンパク質を上清から精製した。その後、ビーズをPBS + CaCl2 + MgCl2 + 0.5 M NaCl2で1回洗浄し、次いでPBS + CaCl2 + MgCl2でさらに2回洗浄した。タンパク質をpH 2の5O mM クエン酸ナトリウム/50 mM グリシンで溶出し、Tris-HCl(pH 9.5)を用いてすぐに中和した。タンパク質を3000 rpmで1時間4℃で回転させてCentriconフィルター(Amicon)で濃縮した。その後、タンパク質を終夜4℃でPBSで透析した。
【0227】
ハイブリドーマ上清のS1断片との反応性
上で記載したように、ハイブリドーマ上清を組換えSタンパク質(S-V5-HIS Tor2分離株)に対して試験し、および対照としてOVA-V5-HIS タンパク質に対するカウンタースクリーニングを行なった。これによって、SARS-CoV Sタンパク質に対するヒトモノクローナル抗体を産生する666のハイブリドーマの同定がもたらされた(表1)。最初のスクリーニングから、〜0.7を超えるOD値を持つ576の抗SARS-CoV Sタンパク質モノクローナル抗体を選択し、さらに試験しかつ特徴付けた。これらのモノクローナル抗体を、アミノ酸12〜672を含むSタンパク質のS1ドメインとのそれらの反応性について検討した。
【0228】
最初のスクリーニングを全長S1-Ig(12〜672)を用いて実行した。簡潔に述べると、プレートを50 ng/ウェルのS1-IgGタンパク質で終夜4℃でコーティングした。プレートを5% 無脂肪ミルク、0.05% Tween-20を用いて1時間室温でブロッキングし、洗浄し、50 μlの(1:3.5希釈された)ハイブリドーマ上清を各ウェルに添加しかつ室温で1時間インキュベートした。洗浄後、50 μl/ウェルのHRPコンジュゲートされたヤギ抗ヒト抗体を添加しかつ1時間室温でインキュベートした。洗浄の後、抗体結合を50 μl/ウェルの基質を用いて検出し、反応を25 μlの10% HClを用いて停止させ;その後、吸収をELISAプレートリーダー(BioRad)で450 nmで読み取った。その他のS1-IgG断片を用いたハイブリドーマ上清(1:6の希釈で用いられる)および精製ヒトモノクローナル抗体(HmAb)のスクリーニングのために同じ手順を続けた。
【0229】
このスクリーニングにより、0.171〜1.817の範囲に及ぶ反応性を持つSタンパク質のS1ドメインに特異的である165のモノクローナル抗体が同定された(図2)。平均バックグラウンド値(0.0825)の2Xよりも大きいOD値を持つ試料を陽性とみなした(図2)。これらの165のS1に反応する抗体を、それらの追加のS1タンパク質(すなわち、12〜510、261〜672、および318〜510)とのELISA反応性についてさらに解析した。最小限のRBD 318〜510をコードする最小の断片は、多くの場合、その他の断片に対して試験されたモノクローナル抗体の大部分に対する最高の反応性をもたらした。アミノ酸12〜672および261〜672からなる断片は最低の反応性を示した。この観察についての1つの説明は、511〜672の領域が事によると部分的にこれらのS1断片における318〜510内のエピトープを隠す可能性があるということである(図2)。
【0230】
抗体を様々なS1断片とのそれらの反応性に基づいて群分けした(表2)。全てのS1断片に及ぶ抗体(Ab)反応性の比較によって、ほとんどのAbが受容体結合ドメイン318〜510内で反応するということが示された。しかしながら、318〜510に結合した抗体は、その他のS1断片とのそれらの異なる反応性に基づいて、4つの群(群名称1A〜1D)に分かれた。S1断片反応性の違いにより、各群でモノクローナル抗体によって認識されるエピトープが、318〜510内にあるにもかかわらず、異なるということが示唆される。
【0231】
さらなるエピトープマッピング実験を、(NIHによって提供された)S1ドメインの318〜510に由来する重複するペプチドを用いて実行した。これらのペプチドは10アミノ酸の重複がある18アミノ酸からなる。抗体はどれもペプチドのいずれかとの顕著な反応性を示さず、抗体が立体構造エピトープを認識したかおよび/またはグリコシル化を必要とするかのいずれかであるということが示された。
【0232】
SARSコロナウイルス(SARS-CoV)Urbani株(Genbankアクセッション番号:AY278741) をCDCから得た。ウイルスをVeroE6細胞内でOptiPro無血清培地(SFM)中で繁殖させた。その後、TCID50値を、96ウェルプレート中の5x103 VeroE6細胞/ウェルに連続1:10希釈のSARS-CoVを感染させることによって決定し、希釈当たり8ウェルに感染させた。5% CO2加湿インキュベーター中の37℃での3日のインキュベーションの後、細胞を細胞変性効果(CPE)について評価した。TCID50値を以下の通りに算出した:-logTCID50 = -log 50%を超える希釈 +(-比例距離)。
【0233】
マウスを全長Sタンパク質で免疫化するので、S1ドメインと反応しないモノクローナル抗体をS2領域中のHRlおよびHR2ドメインとのそれらの反応性について検討した。抗体はどれもHR1と反応せず、3つがHR2との顕著な反応性を示した。3つのHR2結合Abのうちの2つは、高いOD値を結果的にもたらしたが(1.281および1.26)、これらの3つのAbはどれも中和活性を示さなかった(データは示さない)。
【0234】
実施例III
中和モノクローナル抗体の同定
ELISA陽性モノクローナル抗体を、マイクロ中和アッセイでSARS-CoVを中和するそれらの能力について試験した。
【0235】
OptiPro SFM(Gibco)中で中和アッセイを行なう2、3時間前に、VeroE6細胞をウェル当たり5x103細胞で96ウェルプレート中に播種した。50 μlのハイブリドーマ上清を200xTCID50のウイルスと50 μlの培地中で1時間37℃で混合することによって、ハイブリドーマ上清中のAbの中和能力を試験した。インキュベーション後、抗体/ウイルス混合物をVeroE6細胞に添加しかつ37℃で3日間インキュベートした。この時、SARS-CoV感染の指標としての細胞変性効果(CPE;VeroE6細胞の円形化によって示される)について細胞を目で観察した。同様のアッセイを精製ヒトモノクローナル抗体(HmAb)の1:4連続希釈を用いて行なった。
【0236】
OptiPro SFM(Gibco)中で中和アッセイを行なう数時間前に、VeroE6細胞をウェル当たり5x103細胞で96ウェルプレート中に播種した。50 μlのハイブリドーマ上清を200xTCID50のウイルスと50 μlの培地中で1時間37℃で混合することによって、ハイブリドーマ上清中のAbの中和能力を試験した。インキュベーション後、抗体/ウイルス混合物をVeroE6細胞に添加しかつ37℃で3日間インキュベートした。この時、SARS-CoV感染の指標としての細胞変性効果(CPE;VeroE6細胞の円形化によって示される)について細胞を目で観察した。同様のアッセイを精製ヒトモノクローナル抗体(HmAb)の1:4連続希釈を用いて行なった。
【0237】
165の強くS1陽性であるHmAbのうち、27の抗体が、CPEの全体的な欠如によって示されたように200TCID50 SARS-CoVを完全に中和した(表2)。中和モノクローナル抗体のかなりの割合が、アミノ酸318〜510からなるSタンパク質のRBDと反応した。より少ないAbが群1Aに属したが、これらのAbの大多数は中和抗体でありかつそれらが1つまたは複数のエピトープを含む最も有力な中和ドメインと反応していることを示唆した。同じことが群1BのAbについても言え、中和Abの大部分はこの群に属し、それらもまた最も有力な中和ドメインと反応しているが、群1AのAbによって認識されるものとは異なる可能性が最も高いということを示した。
【0238】
S1ドメインのアミノ酸12〜261の領域に結合する可能性が最も高い3つの追加の中和HmAbが見出された。これは、公知のRBD(すなわち、130〜150)の上流に結合するAbの中和能力を示したその他の検討と類似している。しかしながら、これらのAbがどのようにしてSARS-CoV感染を防止するかということは未だ明らかにされていない。
【0239】
実施例IV
精製ヒト抗SARS-CoVモノクローナル抗体の特徴付け
その後、中和HmAbを限界希釈によりクローニングし、27抗体のうちの24をプロテインA/G親和性カラムで精製し、これらのうちの19を後にIg遺伝子シークエンシングでモノクローナルであると確認した。精製後、318〜510断片に対して、または318〜510に結合しないものについてはS1-Igの12〜510に対してHmAbの反応性を再試験した。最初のスクリーニングで留意した反応性の範囲およびパターンはHmAbの精製後に維持された。ほとんどのHmAbは、抗体の希釈が増加すると共にOD値が減少する用量依存的結合を示した。6B5および3H12、などのその他のAbは、それらの相対的に高い親和性を示す高いOD値を維持した。多くの場合、ELISAでの反応性の程度は、中和力価と相関しなかった(図3および表3)。これはおそらく、特定の組換えS1-Ig断片におけるそれらの利用可能性と比べてウイルスが発現する天然のSタンパク質中の関連エピトープの限定された利用可能性、したがってある種のHmAbの限定的な中和能力を示唆している。
【0240】
異なる希釈の精製HmAbを、200TCID50のSARS-CoVを中和するそれらの能力について試験した。抗体の力価を200TCID50のSARS-CoVを中和することができるHmAbの最低の濃度と定義した。HmAbはそれらの中和潜在能力が様々に異なった。幾つかのHmAbは0.195 μg/mlと同じぐらい低い濃度でウイルスを中和した。しかしながら、幾つかのHmAbは、12.5 μg/mlの濃度より下ではウイルスを中和することができなかった(表3)。HmAb間の中和能力におけるこの差異は、親和性、微妙な結合特異性、および/またはウイルスが発現する天然のSタンパク質上の標的されたエピトープの利用可能性の程度の違いによる可能性がある。
【0241】
中和抗体の産生について陽性であるハイブリドーマを限界希釈でクローニングし、クローンを培養してより大量のヒトモノクローナル抗体を産生させた。これらのハイブリドーマ由来の上清をプロテインA/G親和性カラムを用いて精製した。
【0242】
実施例V
ヒト抗SARS-CoVモノクローナル抗体におけるIg遺伝子利用
精製HmAbの各々を配列決定し、HmAbのパネルの間に少なくとも10の異なる結合特異性があるということを示唆する配列データに基づいて以前の群名称を今やさらに分けることができる。独特の結合特性を、異なるVおよびJ遺伝子配列、ならびに重鎖の場合には同様にD遺伝子配列の使用から推定した。軽鎖ではA30、JK4再配列および重鎖ではVH1-2、D3-10、JH4B再配列の優先的な使用がある。しかしながら、幾つかのその他のV(D)Jセグメントも用いられた(表3)。群1Bを例えば、重鎖および軽鎖での異なるV(D)J使用に基づいて可能性の高い4つの異なる特異性に分けることができる。
【0243】
CDR3領域は重鎖および軽鎖によって形成されかつAbの結合特異性を決定する際に特に重要である。本発明者らのデータにより、4A10および4G2のCDR3領域内での配列の相違が示されているが、それらは両方とも同じ重鎖および軽鎖遺伝子を含みかつ両方とも群1Aに入る。重鎖のCDR3領域で見られる相違は、より良い結合親和性および/または特異性を可能にすることによって4G2のより高い中和力価の原因となる可能性がある。2つのHmAbはCDRlおよびCDR2領域での変化を示した。これらの領域は、結合特異性を決定する際にCDR3ほど重要ではないが、それらは実際抗体の全体としての結合特異性に寄与する。それゆえ、これらの領域内での変化もまた、結合特異性および/または親和性に影響を及ぼす可能性がある。例えば、4G2および6C1は、4E2と比較した場合にCDR1に3つのアミノ酸の相違を有するが、それらは全て群1Aに入りかつ同じV(D)J使用を有する(図4)。全ての抗体が318〜510 RBD内で結合するように思われるが、アミノ酸配列のわずかな変化によってそれらの結合の微妙な特異性および/または親和性が変更される可能性がある。HmAb 6B1は、3C7と比較した場合にCDR2領域に1つのアミノ酸変化を有し;この場合もやはり、この変化によってSタンパク質内部の結合領域に対する6B1の親和性が変更される可能性がある(図4)。
【0244】
RNeasy Mini Kit Qiagen(Mississauga, Ontario)を製造業者の取扱説明書通りに用いて、トータルRNAをおよそ105のハイブリドーマ細胞から精製した。PCR増幅プロトコルおよびプライマーは以前に記載されている(33、34)。Ig可変(V)遺伝子ファミリーメンバーに特異的なプライマーをプールするかまたは個々に用いた。シークエンシングは、BigDye(商標)Terminatorバージョン3.0 DNAシークエンシングキット(Applied Biosystems, Foster City, Ca)およびABI 3730または3100自動化シークエンサー(Applied Biosystems, Foster City, Ca)を用いてLone Star研究室(Houston, Texas)によって行なわれた。
【0245】
実施例VI
ヒト抗SARS-CoV モノクローナル抗体の受容体結合阻害
ヒト抗SARS-CoV モノクローナル抗体の中和作用のメカニズムを理解するために、本発明者らは、受容体結合阻害アッセイを用いて、抗体が受容体結合を阻害し、それによってウイルスを中和するかどうかを明らかにした。IgG1 Fcタグを持つS1断片(aa 12〜510)と抗体を事前にインキュベートし、Sタンパク質受容体を発現するVeroE6細胞と混合物をインキュベートし、かつ抗ヒトIgG FITCタグ付き二次抗体によるフローサイトメトリーを用いて断片結合細胞のパーセンテージを測定することによってアッセイを行なった。抗体を(出発濃度10 μg/ml、その後は1:2連続希釈のAbで)S1タンパク質断片(10 μg/ml、一定のまま)と1時間4℃で事前にインキュベートした。抗体がSタンパク質のAce2への結合を妨げた場合、未結合タンパク質および抗体は実験の間に洗い流されるので、抗ヒトIgG FITCで測定されるような蛍光シグナルの減少があった。
【0246】
試験した19の中和抗体うち18が、SARS受容体について陽性である細胞へのSタンパク質結合を低下させた(図5A〜5F)。aa 318〜510の領域でSタンパク質に結合する抗体の全てが受容体結合を低下させた。
【0247】
RBDの上流に結合する2つの抗体のうち、1つは受容体結合を阻害し(1B5)、2つ目は受容体結合を阻害せず、結合をわずかに増強させる場合もある(4D4)。
【0248】
実施例VII
ヒト抗SARS-CoVモノクローナル抗体のエピトープの解析
それらが立体構造エピトープを認識するかまたは線形エピトープを認識するかを決定するために、中和ヒト抗SARS-CoVモノクローナル抗体を未変性条件下または変性条件下でアッセイした。少なくとも5つの抗体は立体構造エピトープを認識するようであった(表4)。
【0249】
実施例VIII
シュードタイピングアッセイ
本発明者らは、大流行の間にSタンパク質で見られる変化に対して中和抗体を試験するために、シュードタイピングアッセイを確立しているところである。GFPを発現するHIVコア(HIV-デルタE-GFP)を用いるので、シュードウイルスの産生およびシュードウイルスによる感染の間のトランスフェクション効率を、GFPレポーターを用いて測定することができる。Sタンパク質で見出される突然変異を導入し、試験し、これらの抗体がシュードタイピングされたウイルスの侵入を阻害することができるかどうかを明らかにする。さらに、シュードタイピングされたウイルスを用いて融合の阻害について抗体をアッセイする。
【0250】
引用文献




【0251】
(表1)組み換えSタンパク質(a.a. 12〜1193)に対するELISA反応性によって決定されたSタンパク質のエクトドメインに対する反応性

aELISAによって決定された場合の左のOD値範囲内の陽性反応上清の数
【0252】
(表2)S1-IgGタンパク質断片とのELISA反応性によって決定されたヒトハイブリドーマ上清の可能性の高い結合領域

【0253】
(表3)HmAb反応性、中和力価、ならびに重(H)鎖および軽(L)鎖使用のまとめ

【0254】
(表4)選択された中和ヒト抗SARS-CoVモノクローナル抗体についてのエピトープ種類の評価

【0255】
抗体配列



























【図面の簡単な説明】
【0256】
【図1】SARS-CoV Sタンパク質のS1ドメインの重複する断片の発現を示す。(A)S1タンパク質の異なる断片(12〜672、12〜510、261〜672、318〜510)をコードする4つのプラスミドコンストラクトをMC 1061/P3細胞に形質転換し、挿入物サイズをNhe1およびBamH1による消化で確認しかつ1%アガロースゲル上で解析した。(B)一過性にトランスフェクトした293T細胞でのタンパク質発現を4〜20% SDS/PAGEゲルのクマシーブルー染色で確認した。
【図2】免疫化したXenoMouse(登録商標)マウスから作製されたハイブリドーマから産生された抗SARS-CoV抗体のS1-Ig断片に対する反応性を示す。全てのS-V5-HIS反応性モノクローナル抗体をS1-Ig(12〜672)断片に対してELISAで試験した。合計165のヒトモノクローナル抗体がS1-Ig(12〜672)と反応した。その後、これらのモノクローナル抗体をその他の3つのS1-Ig断片(12〜510、261〜510、318〜510)に対するそれらの反応性についてさらに検討した。プレートに、示されたタンパク質断片を50 ng/ウェルでコーティングし、S特異的ヒト抗体を含む50 μlのハイブリドーマ上清を用いた。HRPコンジュゲートされた抗ヒト抗体を用いてヒト抗体の結合を検出した。≧0.5のODを高度に反応性であるとみなした。
【図3】中和モノクローナル抗体を精製しかつS1-Ig断片反応性について検討したということを示す。中和モノクローナル抗体の同定後、精製抗体を関連するS1-Ig断片(318〜510または12〜510)に対するそれらの反応性についてELISAで検討した。プレートに、示されたタンパク質断片を50 ng/ウェルでコーティングしかつ示された量のヒトモノクローナル抗体を添加した。HRPコンジュゲートされた抗ヒト抗体を用いてヒト抗体の結合を検出した。
【図4】中和モノクローナル抗体のCDR配列のアラインメントを示す。中和抗体の免疫グロブリン遺伝子を配列決定した。全てのヒトmAbの重鎖可変領域(左)および軽鎖可変領域(右)のアミノ酸配列が描かれかつ一般的な遺伝子セグメント使用法で配置されている。生殖系列配列に含まれない抗体配列中の付加は、生殖系列配列に注釈(#)が付けられている。
【図5】中和ヒト抗SARS-CoVモノクローナル抗体の受容体結合阻害を示す。(A)群1A1、(B)群1b1、(C)群1B2、(D)群1B3および1B4、(E)群1D、ならびに(F)群2B。それらの実験での組換えS1結合が異常に低かったので、それぞれ群1B1、2、および4の抗体3A7、3F3、および3C7の結果は低い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸残基1〜1255(SEQ ID NO:94)、SEQ ID NO:94と少なくとも85%同一である領域、アミノ酸残基12〜261(SEQ ID NO:95)、SEQ ID NO:95と少なくとも85%同一である領域、アミノ酸残基318〜510(SEQ ID NO:96)、SEQ ID NO:96と少なくとも85%同一である領域、アミノ酸残基15〜680(SEQ ID NO:97)、およびSEQ ID NO:97と少なくとも85%同一である領域からなる群より選択される、ヒト重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルス(SARS-CoV)スパイク(S)タンパク質の領域に特異的に結合し、かつ受容体へのSタンパク質結合を遮断する、中和ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項2】
12.5 μg/mlまたはそれ未満の抗体濃度で組織培養感染用量の200倍のウイルスの少なくとも50%(200xTCID50)を中和する、ヒト重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルス(SARS-CoV)Sタンパク質に特異的に結合するヒトモノクローナル抗体または抗原結合部分。
【請求項3】
ヒトVH 4-59遺伝子、ヒトVH 1-18遺伝子、ヒトVH 3-33遺伝子、またはヒトVH 1-2遺伝子を利用する重鎖を含む、請求項1記載のヒトモノクローナル抗体または抗原結合部分。
【請求項4】
ヒトVK A30遺伝子、ヒトVK L5遺伝子、またはヒトVK A1遺伝子を利用する軽鎖を含む、請求項1記載のヒトモノクローナル抗体または抗原結合部分。
【請求項5】
1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2からなる群より選択されるモノクローナル抗体の、それぞれVLおよびVHドメインとアミノ酸配列において少なくとも85%同一であるVLおよびVHドメインを含む、SARS-CoV Sタンパク質に特異的に結合するヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項6】
(a)1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2より選択される抗体の重鎖可変ドメインのアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインアミノ酸配列;
(b)1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2より選択される抗体の軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインアミノ酸配列;
(c)(a)の重鎖可変ドメインおよび(b)の軽鎖可変ドメイン;または
(d)1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2より選択される同じ抗体由来の、それぞれ重鎖および軽鎖可変ドメインアミノ酸配列を含む重鎖および軽鎖可変ドメインアミノ酸配列
を含む、SARS-CoV Sタンパク質に特異的に結合するヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項7】
(a)1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2より選択される抗体の重鎖CDR1、CDR2、およびCDR3アミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインアミノ酸配列;
(b)1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2より選択される抗体の軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3アミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインアミノ酸配列;
(c)(a)の重鎖可変ドメインおよび(b)の軽鎖可変ドメイン;または
(d)1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2より選択される同じ抗体由来の重鎖および軽鎖CDRアミノ酸配列を含む、(c)の重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメイン
を含む、ヒトSARS-CoV Sタンパク質に特異的に結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項8】
1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2より選択される抗体由来のFR1、FR2、FR3、およびFR4アミノ酸配列を含む、SARS-CoV Sタンパク質に特異的に結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項9】
(a)1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2からなる群より選択される抗体の重鎖;
(b)1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2からなる群より選択される抗体の軽鎖;または
(c)1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2からなる群より選択される同じ抗体の重鎖および軽鎖
を含む、SARS-CoV Sタンパク質に特異的に結合するモノクローナル抗体。
【請求項10】
アミノ酸残基1〜1255(SEQ ID NO:94)、SEQ ID NO:94と少なくとも85%同一である領域、アミノ酸残基12〜261(SEQ ID NO:95)、SEQ ID NO:95と少なくとも85%同一である領域、アミノ酸残基318〜510(SEQ ID NO:96)、SEQ ID NO:96と少なくとも85%同一である領域、アミノ酸残基15〜680(SEQ ID NO:97)、およびSEQ ID NO:97と少なくとも85%同一である領域からなる群より選択される、ヒトSARS-CoV Sタンパク質の領域に特異的に結合する少なくとも1つの中和ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分ならびに薬学的に許容される担体を含む組成物。
【請求項11】
(a)1B5、1G3、2E8.1、2E8.2、2B10.1、2B10.2、2B10.3、2B10.4、3A7、3C7、3F3、3H12、4E2、4A10、4D4.1、4D4.2、4D4.3、4G2、5E1.1.1、5E1.1.2、5E1.2、5E1.3、5E10.1、5E10.2、5E4、5A5、5A7、5C12.1、5C12.2、5D1.1、5D1.2、5D1.3、5D1.4、5D1.5、5D3、5D6、6B1、6B5、6B8、6C1、および6C2からなる群より選択される、1つもしくは複数の抗体またはその抗原結合部分;
(b)異なるSARS-CoV株のSARS-CoV Sタンパク質に特異的に結合する1つまたは複数の抗体;
(c)SARS-CoV Sタンパク質に結合しない、1つまたは複数のSARS-CoV Sタンパク質中和抗体;
(d)SARS-CoV Sタンパク質受容体に結合し、かつSタンパク質の受容体への結合を遮断する1つまたは複数の薬剤;ならびに
(e)1つまたは複数の抗ウイルス薬剤
からなる群より選択される少なくとも1つの追加の治療的薬剤をさらに含む、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
少なくとも1つの追加のSARS-CoV中和ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分が、アミノ酸残基1〜1255(SEQ ID NO:94)、SEQ ID NO:94と少なくとも85%同一である領域、アミノ酸残基12〜261(SEQ ID NO:95)、SEQ ID NO:95と少なくとも85%同一である領域、アミノ酸残基318〜510(SEQ ID NO:96)、SEQ ID NO:96と少なくとも85%同一である領域、アミノ酸残基15〜680(SEQ ID NO:97)、およびSEQ ID NO:97と少なくとも85%同一である領域からなる群より選択される、ヒトSARS-CoV Sタンパク質の異なる領域に特異的に結合する少なくとも2つの抗体を含む、請求項10記載の組成物。
【請求項13】
(i)請求項1記載の抗体もしくは抗原結合部分;または(ii)該抗体もしくは抗原結合部分の重鎖もしくは軽鎖を産生する単離された細胞株。
【請求項14】
請求項1記載の抗体の重鎖もしくは抗原結合部分または軽鎖もしくはその抗原結合部分をコードするヌクレオチド配列を含む、単離された核酸分子。
【請求項15】
核酸分子に機能的に連結された発現制御配列を任意で含む、請求項14記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項16】
請求項15記載のベクターまたは請求項14記載の核酸分子を含む宿主細胞。
【請求項17】
請求項14記載の核酸を含み、該核酸を発現する、非ヒトトランスジェニック動物またはトランスジェニック植物。
【請求項18】
請求項17記載の非ヒトトランスジェニック動物またはトランスジェニック植物から抗体を単離する工程を含む、ヒトSARS-CoV Sタンパク質に特異的に結合する抗体またはその抗原結合部分を単離するための方法。
【請求項19】
請求項16記載の宿主細胞で抗体を発現させる工程を含む、請求項1記載のヒトモノクローナル抗体を産生するための方法。
【請求項20】
Sタンパク質を介したSARS-CoV の細胞への結合を減少させるための方法であって、請求項10記載の組成物とSタンパク質を接触させる工程を含む方法。
【請求項21】
細胞がアンジオテンシン変換酵素2(Ace2)を発現する、請求項20記載の方法。
【請求項22】
請求項10記載の組成物とSタンパク質を接触させる工程を含む、SARS-CoV Sタンパク質を介する活性を減少させるための方法。
【請求項23】
SARS-CoV Sタンパク質を介する活性が、ウイルスの細胞への付着、ウイルス膜の細胞との融合、またはその組み合わせから選択される、請求項22記載の方法。
【請求項24】
対象において行なわれる、請求項22記載の方法。
【請求項25】
請求項10記載の組成物を投与する工程を含む、それを必要とする対象におけるSARS-CoVウイルス負荷を減少させるための方法。
【請求項26】
請求項10記載の組成物を対象に投与する工程を含む、それを必要とする対象におけるSARS-CoVを介する障害の症状を処置するか、防止するか、または緩和するための方法。
【請求項27】
SARS-CoVを介する障害が重症急性呼吸器症候群(SARS)である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
請求項11記載の組成物を対象に投与する工程を含む、それを必要とする対象におけるSARS-CoVを介する障害の症状を処置するか、防止するか、または緩和するための方法。
【請求項29】
請求項12記載の組成物を対象に投与する工程を含む、それを必要とする対象におけるSARS-CoVを介する障害の症状を処置するか、防止するか、または緩和するための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【公表番号】特表2009−537143(P2009−537143A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511112(P2009−511112)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【国際出願番号】PCT/US2007/012136
【国際公開番号】WO2008/060331
【国際公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(508342530)アムゲン インコーポレイティッド (1)
【Fターム(参考)】