説明

SAWセンサ判別装置およびSAWセンサ判別方法

【課題】SAWセンサ溶液測定システムにおけるSAWセンサの良否を判別するSAWセンサ判別装置およびSAWセンサ判別方法の提供を図る。
【解決手段】SAWセンサ溶液測定システム1におけるSAWセンサ判別装置30の記録部32が工場出荷時の出荷時校正出力データDr1を記録し、判別部33に工場出荷後の今回の新たな校正であって、工場出荷時の基準液と同等な基準液Lrを使用する校正での今回校正出力データDrnが入力され、判別部33が今回校正出力データDrnと出荷時校正出力データDr1と比較して今回校正出力データDrnが閾値th1以上低下している場合、SAWセンサ10を不良と判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定溶液にSAWセンサを浸漬して被測定溶液の物性を測定するSAWセンサ溶液測定システムにおけるSAWセンサ判別装置およびSAWセンサ判別方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、圧電基板上に、逆圧電効果により表面弾性波(Surface Acoustic Wave)を送信する送信電極と、表面弾性波が伝搬する伝搬面と、表面弾性波を圧電効果により電気信号として受信する受信電極とが配置された表面弾性波遅延線を有するSAWセンサが知られている。
【0003】
SAWセンサは、被測定溶液に浸漬することで伝搬面に被測定溶液が接触している状態で送信電極から表面弾性波を送信し、伝搬面を伝搬した表面波弾性波を受信電極から電気信号として受信する。
【0004】
また、このSAWセンサを物性(粘度、比誘電率、導電率等)が既知である基準液に浸漬し、SAWセンサから出力された出力データを基準として設定する校正を行った後、被測定溶液にSAWセンサを浸漬し、SAWセンサから出力された出力データと上記基準とを比較して被測定溶液の上記物性を測定するSAWセンサ溶液測定システムが知られている。
【0005】
特許文献1には、表面弾性波のうち、伝搬面に平行に、且つ伝搬方向に垂直に変位するすべり表面弾性波を送信電極から送信することにより、伝搬面に被測定溶液が接触した状態であっても、伝搬面を伝搬する表面弾性波の減衰を低減し、受信電極で十分な強度を有する表面弾性波の受信が可能なSAWセンサを利用したSAW溶液測定システムが提案されている。
【0006】
特許文献2には、被測定溶液に接触している伝搬面を伝搬する表面弾性波は、被測定溶液のいわゆる機械的な物性(粘度、質量)および環境温度により変化するだけではなく、被測定溶液のいわゆる電気的な物性(比誘電率、導電率)によっても変化するという知見に基づくSAWセンサ溶液測定システムが提案されている。
【0007】
具体的に特許文献2には、伝搬面が電気的に開放された表面弾性波遅延線(以下、OPEN側遅延線という。)と伝搬面が電気的に短絡された表面弾性波遅延線(以下、SHORT側遅延線という。)とを有するSAWセンサを利用して、被測定溶液のいわゆる機械的な物性、環境温度、いわゆる電気的な物性により表面弾性波が変化するOPEN側遅延線の電気信号から伝搬面を電気的に短絡することで被測定溶液のいわゆる電気的な物性による表面弾性波の変化は生じないSHORT側遅延線の電気信号の差分により、被測定溶液のいわゆる電気的な物性(比誘電率および導電率)による表面弾性波の変化のみをセンシングし、被測定溶液の比誘電率および導電率を測定するSAW溶液測定システムが提案されている。
【特許文献1】特開平2−238357号公報
【特許文献2】特開平3−209157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、SAWセンサは、使用により出力レベルが低下する可能性がある。その原因として、工場出荷後の継続的な使用による伝搬面上の汚れの堆積、送信電極および受信電極の劣化等、あるいは、前回使用時の伝搬面の洗浄不良、取扱不良による送信電極および受信電極の損傷等が考えられる。
【0009】
SAWセンサ溶液測定システムは、前述のとおり、校正で得られた出力データを基準として設定し、この基準とSAWセンサを被測定溶液に浸漬して得られた出力データとを比較して被測定溶液の物性を測定する。このため、測定者が出力レベルの低下したSAWセンサを使用した校正により基準を設定し、この出力レベルの低下したSAWセンサを被測定溶液に浸漬して得られた出力データと上記基準とを比較して得られた測定結果からSAWセンサの出力レベルの低下を認識することは困難である。すなわち測定者は、SAWセンサの出力レベルの低下を看過して出力レベルの低下したSAWセンサを継続して使用する虞がある。
【0010】
本発明の目的は、上記事情に鑑み、SAWセンサ溶液測定システムにおいて、出力レベルが低下したSAWセンサの良否を判別できるSAWセンサ判別装置およびSAWセンサ判別方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の第1のSAWセンサ判別装置は、SAWセンサを基準液に浸漬して得られるSAWセンサからの出力データを基準として設定する校正の後に、この基準とSAWセンサを被測定溶液に浸漬して得られる出力データとを比較することにより、被測定溶液の物性を測定するSAWセンサ溶液測定システムにおけるSAWセンサの良否を判別するSAWセンサ判別装置であって、工場出荷時の校正でSAWセンサから出力された出荷時校正出力データを記録する記録部と、工場出荷後の今回の新たな校正であって、工場出荷時の校正で使用した基準液と同等な基準液を使用する校正でSAWセンサから出力された今回校正出力データが入力され、この今回校正出力データと出荷時校正出力データとを比較し、今回校正出力データが出荷時校正出力データよりも予め設定されている閾値以上低下している場合、SAWセンサを不良と判別する判別部とを備えていることを特徴とする。
【0012】
本発明の第2のSAWセンサ判別装置は、SAWセンサを基準液に浸漬して得られるSAWセンサからの出力データを基準として設定する校正の後に、この基準とSAWセンサを被測定溶液に浸漬して得られる出力データとを比較することにより、被測定溶液の物性を測定するSAWセンサ溶液測定システムにおけるSAWセンサの良否を判別するSAWセンサ判別装置であって、前回の校正でSAWセンサから出力された前回校正出力データを記録する記録部と、今回の新たな校正であって、前回の校正で使用した基準液と同等な基準液を使用する校正でSAWセンサから出力された今回校正出力データが入力され、この今回校正出力データと前回校正出力データとを比較し、今回校正出力データが前回校正出力データよりも予め設定されている閾値以上低下している場合、SAWセンサを不良と判別する判別部とを備えていることを特徴とする。
【0013】
本発明の第3のSAWセンサ判別装置は、SAWセンサを基準液に浸漬して得られるSAWセンサからの出力データを基準として設定する校正の後に、この基準とSAWセンサを被測定溶液に浸漬して得られる出力データとを比較することにより、被測定溶液の物性を測定するSAWセンサ溶液測定システムにおけるSAWセンサの良否を判別するSAWセンサ判別装置であって、工場出荷時および前回の校正でSAWセンサから出力された出荷時校正出力データと前回校正出力データとを記録する記録部と、今回の新たな校正であって、工場出荷時および前回の校正で使用した基準液と同等な基準液を使用する校正でSAWセンサから出力された今回校正出力データが入力され、この今回校正出力データと出荷時校正出力データおよび前回校正出力データとを比較し、今回校正出力データが出荷時校正出力データまたは前回校正出力データのいずれか一方よりも予め設定されている閾値以上低下している場合、SAWセンサを不良と判別する判別部とを備えていることを特徴とする。
【0014】
本発明の第1〜第3のSAWセンサ判別装置は、SAWセンサが識別番号を有し、判別部が、識別番号に基づいて記録部に記録されているSAWセンサの校正での出荷時校正出力データまたは前回校正出力データを検索してSAWセンサの良否を判別するものであってもよい。
【0015】
本発明の第1のSAWセンサ判別方法は、SAWセンサを基準液に浸漬して得られるSAWセンサからの出力データを基準として設定する校正の後に、この基準とSAWセンサを被測定溶液に浸漬して得られる出力データとを比較することにより、被測定溶液の物性を測定するSAWセンサ溶液測定システムにおけるSAWセンサの良否を判別するSAWセンサ判別方法であって、工場出荷時の校正でSAWセンサから出力された出荷時校正出力データを記録し、工場出荷後の今回の新たな校正であって、工場出荷時の校正で使用した基準液と同等な基準液を使用する校正でSAWセンサから出力された今回校正出力データを入力し、この今回校正出力データと出荷時校正出力データとを比較し、今回校正出力データが出荷時校正出力データよりも予め設定されている閾値以上低下している場合、SAWセンサを不良と判別することを特徴とする。
【0016】
本発明の第2のSAWセンサ判別方法は、SAWセンサを基準液に浸漬して得られるSAWセンサからの出力データを基準として設定する校正の後に、この基準とSAWセンサを被測定溶液に浸漬して得られる出力データとを比較することにより、被測定溶液の物性を測定するSAWセンサ溶液測定システムにおけるSAWセンサの良否を判別するSAWセンサ判別装置であって、前回の校正でSAWセンサから出力された前回校正出力データを記録し、今回の新たな校正であって、前回校正で使用した基準液と同等な基準液を使用する校正でSAWセンサから出力された今回校正出力データを入力し、この今回校正出力データと前回校正出力データとを比較し、今回校正出力データが前回校正出力データよりも予め設定されている閾値以上低下している場合、SAWセンサを不良と判別することを特徴とする
本発明の第3のSAWセンサ判別方法は、SAWセンサを基準液に浸漬して得られるSAWセンサからの出力データを基準として設定する校正の後に、この基準とSAWセンサを被測定溶液に浸漬して得られる出力データとを比較することにより、被測定溶液の物性を測定するSAWセンサ溶液測定システムにおけるSAWセンサの良否を判別するSAWセンサ判別方法であって、工場出荷時および前回の校正でSAWセンサから出力された出荷時校正出力データと前回校正出力データとを記録し、今回の新たな校正であって、工場出荷時および前回の校正で使用した基準液と同等な基準液を使用する校正でSAWセンサから出力された今回校正出力データを入力し、この今回校正出力データと出荷時校正出力データおよび前回校正出力データとを比較し、今回校正出力データが出荷時校正出力データまたは前回校正出力データのいずれか一方よりも予め設定されている閾値以上低下している場合、SAWセンサを不良と判別することを特徴とする。
【0017】
本発明の第1〜第3のSAWセンサ不良判別方法は、SAWセンサの識別番号に基づいて記録されているSAWセンサの出荷時校正出力データまたは前回校正出力データを検索してSAWセンサの良否を判別してもよい。
【0018】
本発明のSAWセンサ判別装置およびSAWセンサ判別方法における「SAWセンサ」とは、圧電基板上に送信電極と受信電極を有し、圧電基板の表面の一部である伝搬面に被測定溶液を接触させ、送信電極から逆圧電効果により表面弾性波を送信し、この伝搬面を伝搬した表面弾性波を受信電極から圧電効果により電気信号として受信して、被測定溶液の物性の変化を電気信号の変化として捉えるセンサを意味する。
【0019】
本発明の第1〜第3のSAWセンサ判別装置およびSAWセンサ判別方法における「基準液」とは、予め物性が既知であり、SAWセンサを浸漬して得られた出力データが基準となる液体を意味する。上記「校正」とは、SAWセンサを基準液に浸漬して得られた出力データを基準とすることを意味する。上記「物性」とは、液体の粘度、比誘電率、導電率等を意味する。上記「同等な基準液」とは、同一の基準液のみを意味するものではなく、同一の製造方法により製造された同一の物性を有する基準液を含む意味である。上記「閾値」とは、差分値または比率を含む意味である。
【0020】
本発明の第1および第3のSAWセンサ判別装置およびSAWセンサ判別方法における「工場出荷時の校正」とは、SAWセンサが出荷されるまでに行われた校正のうちの最後の校正を意味し、SAWセンサの製造時に最後の校正が行われた場合、その製造時の校正を意味する。
【0021】
本発明の第2および第3のSAWセンサ判別装置およびSAWセンサ判別方法における「前回の校正」とは、必ずしも直前の校正のみを意味するものではなく、工場出荷時以降の校正であって、数回前の校正をも含むものである。ここで「数回前の校正」とは、2回〜10回程度の所定回前の校正を意味する。上記「前回校正出力データを記録」とは、基本的に校正毎に校正出力データを記録することを意味する。
【発明の効果】
【0022】
本発明のSAWセンサ判別装置およびSAWセンサ判別方法は、出荷時校正出力データを記録し、工場出荷後の今回の新たな校正時に、工場出荷時の校正で使用した基準液と同等な基準液を使用した今回校正出力データと出荷時校正出力データとを比較し、今回校正出力データが出荷時校正出力データよりも閾値以上に低下している場合、このSAWセンサを不良と判別している。
【0023】
したがって、本発明のSAWセンサ判別装置およびSAWセンサ判別方法によれば、工場出荷後の継続的な測定により出力レベルが徐々に低下したSAWセンサを工場出荷時の出力レベルと比較することにより、工場出荷後の今回の新たな校正時にSAWセンサの良否が判別可能となる。
【0024】
また、本発明のSAWセンサ判別装置およびSAWセンサ判別方法は、前回校正出力データを記録し、今回の新たな校正時に、前回の校正で使用した基準液と同等な基準液を使用した今回校正出力データと前回校正出力データとを比較し、今回校正出力データが前回校正出力データよりも閾値以上低下している場合、このSAWセンサを不良と判別している。
【0025】
したがって、本発明のSAWセンサ判別装置およびSAWセンサ判別方法によれば、前回の測定により出力レベルが低下したSAWセンサを前回の校正の出力レベルと比較することにより、今回の新たな校正時にSAWセンサの良否が判別可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明のSAWセンサ判別装置およびSAWセンサ判別方法について、図面を参照しながら説明する。
【0027】
図1は、本発明のSAWセンサ判別装置を含むSAWセンサ溶液測定システムの実施形態の概略構成図である。SAWセンサ溶液測定システム1は、一例として被測定溶液Lmの物性のうち、比誘電率εr’および導電率σ’を測定する。また、SAWセンサ溶液測定システム1の校正は、一例として純水(比誘電率80.37、導電率0)を基準液Lrとする。以下、本実施形態では、基準液を純水Lrとして説明する。
【0028】
SAWセンサ溶液測定システム1は、同図に示すとおり、測定時には被測定溶液Lm、校正時には純水Lrに浸漬されるSAWセンサ10と、SAWセンサ10と送信ケーブル2、受信ケーブル3を介して接続されるSAWセンサ制御装置20と、SAWセンサ制御装置20と通信ケーブル4を介して接続されるSAWセンサ判別装置30とから構成される。なお、SAWセンサ10は、図示しないコネクタにより送信ケーブル2および受信ケーブル3と着脱自在であり、SAWセンサ溶液測定システム1は、複数のSAWセンサ10を交換して使用することが可能である。
【0029】
図2は、SAWセンサ10の概略構成図である。SAWセンサ10は、同図に示すとおり、エポキシ等の樹脂性、またはセラミックのハウジング11と、ハウジング11内の2組の表面弾性波遅延線12、13とから主に構成される。このように、SAWセンサ10は、一枚の基板14上に、2チャンネルのセンシング部を有するものである。
【0030】
表面弾性波遅延線12、13は、圧電基板14と、この圧電基板14の略中央を伝搬面14aとし、該伝搬面14aの両端に配置された送信側インターデジタル型トランスデューサ15(以下、送信側IDT15という。)と受信側インターデジタル型トランスデューサ16(以下、受信側IDT16という。)とから構成される。本実施形態での圧電基板14は、一例として36Y−XLiTaO3基板である。
【0031】
表面弾性波遅延線13の伝搬面14aは、金属性の薄膜17で覆われ、この薄膜17は、表面弾性波遅延線13の伝搬面14a電気的に短絡する。一方、表面弾性波遅延線12の伝搬面14aは、電気的に開放されている。また、表面弾性波遅延線12、13の各伝搬面14aは、ハウジング11から露出し、校正時には純水Lrと、測定時には被測定溶液Lmと接触する。
【0032】
送信側IDT15および受信側IDT16は、櫛歯状の送信電極15a、15bおよび受信電極16a、16bの組合せにより構成される。送信電極15aと送信ケーブル2の信号線2a、受信電極16aと受信ケーブル3の信号線3aはそれぞれ接続し、送信電極15bおよび受信電極16bはともに接地される。
【0033】
SAWセンサ制御装置20からの送信信号SSが送信ケーブル2を介して送信側IDT15に入力されると、送信側IDT15は、逆圧電効果により送信電極15a、15bから表面弾性波Wを送信する。
【0034】
表面弾性波Wは、校正時には純水Lr、測定時には被測定溶液Lmと接触している伝搬面14aを伝搬して受信側IDT16に到達する。
【0035】
受信側IDT16は、圧電効果により受信電極16a、16bから受信信号RSを出力する。ここで、表面弾性波遅延線12の受信信号RS1は、校正時には純水Lr、測定時には被測定溶液Lmのいわゆる機械的な物性(粘度、質量等)、いわゆる電気的な物性(比誘電率εr’、導電率σ’)、環境温度の影響を受けた電気信号であり、一方、表面弾性波遅延線13の受信信号RS2は、伝搬面14aが薄膜17で短絡されることにより、純水Lrまたは被測定溶液Lmのいわゆる機械的な物性(粘度、質量等)および環境温度の影響のみを受けた電気信号である。受信信号RS1、RS2は、受信ケーブル3を介して図示しないSAWセンサ制御装置20に入力される。なお、SAWセンサ10は、識別番号IDが記録されたメモリ19を有している。
【0036】
再び、図1を参照して説明する。SAWセンサ制御装置20は、SAWセンサ10を制御するものであり、送信ケーブル2を介して表面弾性波遅延線12、13の各送信側IDT15へ送信信号SSを出力する送信部21と、各受信ケーブル3を介して受信信号RS1、RS2が入力され、通信ケーブル4を介してSAWセンサ判別装置30に出力する受信部22とから構成される。また、SAWセンサ10の識別番号IDは、必要に応じてSAWセンサ制御装置20を介してSAWセンサ判別装置30に出力される。
【0037】
本実施形態では、SAWセンサ判別装置30は、一例としてコンピュータにより実現さる。SAWセンサ判別装置30は、SAWセンサ10の良否を判別するだけではなく、SAWセンサ10からの出力データに基づいて被測定溶液Lmの比誘電率εr’および導電率σ’を測定する。
【0038】
SAWセンサ判別装置30は、通信ケーブル4を介して入力された受信信号RS1、RS2を演算する演算部31と、校正時の演算部31の演算結果を記録する記録部32と、校正時の演算部31の演算結果よりSAWセンサ10の良否を判別する判別部33と、演算部31の演算結果からチャート画像Pを出力する画像作成部34と、チャート画像Pを表示する表示部35とから構成される。
【0039】
演算部31は、伝搬面14aが電気的に開放された表面弾性波遅延線12の受信信号RS1および伝搬面14aが電気的に短絡された表面弾性波遅延線13の受信信号RS2をA/D変換するA/D変換手段31aと、受信信号RS1から受信信号RS2を差分して得られる位相値φおよび振幅値Aに基づいて出力データDを演算するSAW演算手段31bとから構成される。また、校正時の純水Lrの位相値φおよび振幅値Aは、演算部31内の不図示のメモリに記録される。
【0040】
SAW演算手段31bは、測定時の被測定溶液Lmの位相値φおよび振幅値Aから不図示のメモリに記録される純水Lrの位相値φおよび振幅値Aを引くことで、被測定溶液Lmの位相差Δφおよび振幅比ΔAを算出する。次に、SAW演算手段31bは、この位相差Δφおよび振幅比ΔAを用いて下記の式(1)および式(2)より出力データDとして速度変化Δ(V/V)および減衰変化Δ(α/k)を演算する。
【0041】
Δ(V/V)=Δφ/L*λ/360 式(1)
Δ(α/k)=ΔA/8.686/L*λ/2π 式(2)
ここで、式(1)、式(2)において、λは、送信信号SSの波長、Lは送信側IDT15と受信側IDT16との間の距離、kは波数を示す。具体的に、送信信号SSの周波数は、50MHzであり、圧電素子中の波長λは、80μm、Lは、5mmである。
【0042】
演算部31は、校正時には純水Lrの速度変化(ΔV/V)rおよび減衰変化Δ(α/k)r(以下、校正出力データDrという。)、測定時には被測定溶液Lmの速度変化Δ(V/V)mおよび減衰変化Δ(α/k)m(以下、測定出力データDmという。)を演算する。
【0043】
ここで、校正出力データDrおよび測定出力データDmは、受信信号RS1から受信信号RS2を差分することにより、純水Lrおよび被測定溶液のいわゆる電気的性質(比誘電率εr、導電率σ)の影響によって生じた変化を示す。
【0044】
記録部32は、校正出力データDrを記録する。また、記録部32は、SAWセンサ10の識別番号IDとともに校正出力データDrを記録することも可能である。
【0045】
判別部33は、記録部32が記録する校正出力データDrと、今回の新たな校正での今回校正出力データDrnとを比較してSAWセンサ10の良否を判別する。また、判別部33は、装着されているSAWセンサ10の識別番号IDに基づいて記録部32が記録する校正出力デーDrを検索して上記の比較をすることも可能である。判別部33の具体的なSAWセンサ10の良否判別方法は後述する。
【0046】
画像作成部34は、横軸を速度変化Δ(V/V),縦軸を減衰変化Δ(α/k)とし、純水Lrを使用した今回の新たな校正での今回校正出力データDrnの値が比誘電率80.37、導電率0の位置となるように、
【数1】

【数2】

【0047】
を用いて、図3に示す比誘電率・導電率チャートを作成し、この比誘電率・導電率チャート上に測定出力データDmを描画したチャート画像Pを表示部35に出力する。ここで、ωは角周波数、εpTは圧電基板14の実効誘電率、ε0は空気の誘電率を示す。
【0048】
表示部35は、チャート画像Pを表示する。なお、同図において、チャート画像Pは、一例として図中○印に被測定溶液Lmにジオキサン溶液を使用した測定出力データDmと、図中□印に被測定溶液Lmに塩化カリウム溶液を使用した測定出力データDmを示す。
【0049】
本発明のSAWセンサ判別方法の第1の実施形態について説明する。図4は、SAWセンサ溶液測定システム1による本発明のSAWセンサ判別方法の第1の実施形態の概念図である。
【0050】
第1の実施形態は、記録部32が工場出荷時の校正での出荷時校正出力データDr1を記録する。ここで、工場出荷時の校正とは、SAWセンサ10が出荷されるまでの間に行われた校正のうち、最後の校正を意味する。すなわちSAWセンサの製造時に最後の校正が行われた場合、その製造時の校正を意味する。
【0051】
判別部33は、工場出荷時以降の今回の新たな校正での今回校正出力データDrnが、出荷時校正出力データDr1と比較して所定の閾値th1以上低下している場合、SAWセンサ10を不良と判別する。
【0052】
具体的に、判別部33は、今回校正出力データDrnのうち、速度変化Δ(V/V)rn、減衰変化Δ(α/k)rnの少なくとも一方が出荷時校正出力データDr1の、速度変化Δ(V/V)r1、減衰変化Δ(α/k)r1から閾値th1以上低下している場合、SAWセンサ10の出力レベルが低下していると判断し、SAWセンサ10を不良と判別する。
【0053】
第1の実施形態は、閾値th1を一例として出荷時校正出力データDr1と今回校正出力データDrnとの差分値の出荷時校正出力データDr1に対する比率とし、一例として出荷時校正出力データDr1の10パーセントとする。閾値th1は、上記比率に限定されるものではなく、上記差分値でもよい。また、閾値th1の数値は、特に限定されるものではない。なお、今回の新たな校正で使用する純水Lrは、工場出荷時の校正の純水Lrと厳密に同一である必要はなく、同一の製造方法により製造され、同一の物性を有する純水であればよい。
【0054】
本発明のSAWセンサ判別方法の第2の実施形態について説明する。図5は、SAWセンサ溶液測定システム1による本発明のSAWセンサ判別方法の第2の実施形態の概念図である。
【0055】
第2の実施形態は、記録部32が前回の校正での前回校正出力データDr2を記録する。ここで、前回の校正とは、直前の校正に限定されず、2回から10回程度の所定回数前の校正をも含むものである。また、記録部32は、前回校正出力データDr2のみを記録するものではなく、一般的に全ての校正での校正出力データDrを記録する。
【0056】
判別部33は、今回の新たな校正での今回校正出力データDrnが前回校正出力データDr2と比較して所定の閾値th2以上低下している場合、SAWセンサ10を不良とする。
【0057】
具体的に、判別部33は、今回校正出力データDrnのうち、速度変化Δ(V/V)rn、減衰変化Δ(α/k)rnの少なくとも一方が前回校正出力データDr2の、速度変化Δ(V/V)r2、減衰変化Δ(α/k)r2から閾値th2以上低下している場合、SAWセンサ10の出力レベルが低下していると判断し、SAWセンサ10を不良と判別する。
【0058】
第2の実施形態は、閾値th2を一例として前回校正出力データDr2と今回校正出力データDrnとの差分値の前回校正出力データDr2に対する比率とし、一例として前回校正出力データDr2の2パーセントとする。閾値th2は、第1の実施形態と同様に、上記比率に限定されるものではなく、上記差分値でもよい。また、閾値th2の数値は、特に限定されるものではない。なお、第2の実施形態のその他の態様は、第1の実施形態と同様であり、その説明は省略する。
【0059】
本発明のSAWセンサ判別方法の第3の実施形態について説明する。図6は、SAWセンサ溶液測定システム1による本発明のSAWセンサ判別方法の第3の実施形態の概念図である。
【0060】
第3の実施形態は、記録部32が出荷時校正出力データDr1と前回校正出力データDr2の両方を記録する。
【0061】
判別部33は、今回の新たな校正での今回校正出力データDrnが、出荷時校正出力データDr1と前回校正出力データDr2と比較して所定の閾値th1または閾値th2以上低下している場合、SAWセンサ10を不良とする。また、閾値th2と閾値th1とは異なる必要はなく、同一であってもよい。なお、第3の実施形態のその他の態様は、第1の実施形態および第2の実施形態と同一であり、その説明を省略する。
【0062】
本発明のSAWセンサ判別方法の第4の実施形態について説明する。
【0063】
第4の実施形態は、記録部32が校正出力データDrをSAWセンサ10の識別番号IDとともに記録し、判別部33は、装着されているSAWセンサ10の識別番号IDに基づいて、記録部32から出荷時校正出力データDr1または前回校正出力データDr2を検索する。なお、第4の実施形態は、第1〜第3の実施形態と組み合わせて適用することが可能である。
【0064】
本発明のSAWセンサ判別装置およびSAWセンサ判別方法によれば、記録部32が工場出荷時の校正での出荷時校正出力データDr1を記録し、工場出荷時以降の今回の新たな校正での今回校正出力データDrnが出荷時校正出力データDr1より閾値th1以上低下している場合、SAWセンサ10を不良と判別するため、継続的な使用により出力レベルが徐々に低下したSAWセンサ10を判別できる。
【0065】
また、記録部32が前回の校正での前回校正出力データDr2を記録し、今回の新たな校正での今回校正出力データDrnが前回の校正での前回校正出力データDr2より閾値th2以上低下している場合、SAWセンサ10を不良と判別するため、前回の使用により出力レベルが低下したSAWセンサ10を判別できる。
【0066】
なお、本発明の実施形態であるSAWセンサ溶液測定システム1は、被測定溶液Lmの比誘電率εr’および導電率σ’を測定するものとして説明したが、これに限定されるものではなく、被測定溶液Lmの粘度、質量等を測定するものであってもよい。さらに、本実施形態では、基準液Lrを純水として説明したが、これに限定されるものではなく、比誘電率εr’、導電率σ’が既知である液体であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】SAWセンサ溶液測定システム1の概略構成図
【図2】SAWセンサ10の概略構成図
【図3】チャート画像Pを示す図
【図4】SAWセンサ判別方法の第1の実施形態の概念図
【図5】SAWセンサ判別方法の第2の実施形態の概念図
【図6】SAWセンサ判別方法の第3の実施形態の概念図
【符号の説明】
【0068】
εr’ 物性、比誘電率
σ’ 物性、導電率
Dr 校正出力データ
Dr1 出荷時校正出力データ
Dr2 前回校正出力データ
Drn 今回校正出力データ
Lm 被測定溶液
Lr 基準液
th1 閾値
th2 閾値
1 SAWセンサ溶液測定システム
10 SAWセンサ
30 SAWセンサ判別装置
32 記録部
33 判別部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SAWセンサを基準液に浸漬して得られる前記SAWセンサからの出力データを基準として設定する校正の後に、前記基準と前記SAWセンサを被測定溶液に浸漬して得られる出力データとを比較することにより、前記被測定溶液の物性を測定するSAWセンサ溶液測定システムにおける前記SAWセンサの良否を判別するSAWセンサ判別装置であって、
工場出荷時の前記校正で前記SAWセンサから出力された出荷時校正出力データを記録する記録部と、
工場出荷後の今回の新たな校正であって、前記工場出荷時の校正で使用した前記基準液と同等な基準液を使用する校正で前記SAWセンサから出力された今回校正出力データが入力され、該今回校正出力データと前記出荷時校正出力データとを比較し、前記今回校正出力データが前記出荷時校正出力データよりも予め設定されている閾値以上低下している場合、前記SAWセンサを不良と判別する判別部とを備えていることを特徴とするSAWセンサ判別装置。
【請求項2】
SAWセンサを基準液に浸漬して得られる前記SAWセンサからの出力データを基準として設定する校正の後に、前記基準と前記SAWセンサを被測定溶液に浸漬して得られる出力データとを比較することにより、前記被測定溶液の物性を測定するSAWセンサ溶液測定システムにおける前記SAWセンサの良否を判別するSAWセンサ判別装置であって、
前回の前記校正で前記SAWセンサから出力された前回校正出力データを記録する記録部と、
今回の新たな校正であって、前記前回の校正で使用した前記基準液と同等な基準液を使用する校正で前記SAWセンサから出力された今回校正出力データが入力され、該今回校正出力データと前記前回校正出力データとを比較し、前記今回校正出力データが前記前回校正出力データよりも予め設定されている閾値以上低下している場合、前記SAWセンサを不良と判別する判別部とを備えていることを特徴とするSAWセンサ判別装置。
【請求項3】
SAWセンサを基準液に浸漬して得られる前記SAWセンサからの出力データを基準として設定する校正の後に、前記基準と前記SAWセンサを被測定溶液に浸漬して得られる出力データとを比較することにより、前記被測定溶液の物性を測定するSAWセンサ溶液測定システムにおける前記SAWセンサの良否を判別するSAWセンサ判別装置であって、
工場出荷時および前回の前記校正で前記SAWセンサから出力された出荷時校正出力データと前回校正出力データとを記録する記録部と、
今回の新たな校正であって、前記工場出荷時および前記前回の校正で使用した前記基準液と同等な基準液を使用する校正で前記SAWセンサから出力された今回校正出力データが入力され、該今回校正出力データと前記出荷時校正出力データおよび前記前回校正出力データとを比較し、前記今回校正出力データが前記出荷時校正出力データまたは前記前回校正出力データのいずれか一方よりも予め設定されている閾値以上低下している場合、前記SAWセンサを不良と判別する判別部とを備えていることを特徴とするSAWセンサ判別装置。
【請求項4】
前記SAWセンサが識別番号を有し、前記判別部が前記識別番号に基づいて前記記録部が記録する前記SAWセンサの前記出荷時校正出力データまたは前記前回校正出力データを検索して前記SAWセンサの良否を判別することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項にSAWセンサ判別装置。
【請求項5】
SAWセンサを基準液に浸漬して得られる前記SAWセンサからの出力データを基準として設定する校正の後に、前記基準と前記SAWセンサを被測定溶液に浸漬して得られる出力データとを比較することにより、前記被測定溶液の物性を測定するSAWセンサ溶液測定システムにおける前記SAWセンサの良否を判別するSAWセンサ判別方法であって、
工場出荷時の前記校正で前記SAWセンサから出力された出荷時校正出力データを記録し、
工場出荷後の今回の新たな校正であって、前記工場出荷時の校正で使用した前記基準液と同等な基準液を使用する校正で前記SAWセンサから出力された今回校正出力データを入力し、
該今回校正出力データと前記出荷時校正出力データとを比較し、
前記今回校正出力データが前記出荷時校正出力データよりも予め設定されている閾値以上低下している場合、前記SAWセンサを不良と判別することを特徴とするSAWセンサ判別方法。
【請求項6】
SAWセンサを基準液に浸漬して得られる前記SAWセンサからの出力データを基準として設定する校正の後に、前記基準と前記SAWセンサを被測定溶液に浸漬して得られる出力データとを比較することにより、前記被測定溶液の物性を測定するSAWセンサ溶液測定システムにおける前記SAWセンサの良否を判別するSAWセンサ判別方法であって、
前回の前記校正で前記SAWセンサから出力された前回校正出力データを記録し、
今回の新たな校正であって、前記前回の校正で使用した前記基準液と同等な基準液を使用する校正で前記SAWセンサから出力された今回校正出力データを入力し、
該今回校正出力データと前記前回校正出力データとを比較し、
前記今回校正出力データが前記前回校正出力データよりも予め設定されている閾値以上低下している場合、前記SAWセンサを不良と判別することを特徴とするSAWセンサ判別方法。
【請求項7】
SAWセンサを基準液に浸漬して得られる前記SAWセンサからの出力データを基準として設定する校正の後に、前記基準と前記SAWセンサを被測定溶液に浸漬して得られる出力データとを比較することにより、前記被測定溶液の物性を測定するSAWセンサ溶液測定システムにおける前記SAWセンサの良否を判別するSAWセンサ判別方法であって、
工場出荷時および前回の前記校正で前記SAWセンサから出力された出荷時校正出力データと前回校正出力データとを記録し、
今回の新たな校正であって、前記工場出荷時および前記前回の校正で使用した前記基準液と同等な基準液を使用する校正で前記SAWセンサから出力された今回校正出力データを入力し、
該今回校正出力データと前記出荷時校正出力データおよび前記前回校正出力データとを比較し、
前記今回校正出力データが前記出荷時校正出力データまたは前記前回校正出力データのいずれか一方よりも予め設定されている閾値以上低下している場合、前記SAWセンサを不良と判別することを特徴とするSAWセンサ判別方法。
【請求項8】
前記SAWセンサの識別番号に基づいて前記記録されている前記SAWセンサの前記出荷時校正出力データまたは前記前回校正出力データを検索して前記SAWセンサの良否を判別することを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項にSAWセンサ判別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−101623(P2010−101623A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270438(P2008−270438)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【復代理人】
【識別番号】100152401
【弁理士】
【氏名又は名称】我妻 慶一
【Fターム(参考)】