説明

SIR2制御

SIR2の塩基交換を脱アセチル化よりも阻害し、これゆえSIR2脱アセチル化活性を促進させる化合物が開示される。SIR2脱アセチル化活性を促進させ、微生物の寿命を延ばす該化合物を使用する方法も、開示される。SIR2脱アセチル化活性を促進させ、微生物の寿命を延ばす化合物を求めてスクリーニングする方法が、更に開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2003年7月2日出願の米国仮出願第60/484,321号の利益を請求する。
【0002】
連邦協賛研究開発に関する陳述
米国政府は、本発明における支払い済みのライセンス、および、NIHにより表彰された承認第AI34342号の支払いにより与えられるような合理的な状況に関して、本特許権者が他者にライセンス付与するよう要求する限られた環境下での権利を有する。
【0003】
(1)本発明分野
本発明は一般的に、酵素活性を上昇させる方法および組成物に関する。より具体的には、本発明は、SIR2脱アセチル化活性を上昇させるのに有用な方法および組成物を提供する。
【背景技術】
【0004】
(2)関連技術文献の引用の記載
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Zechel, D. L., and Withers, S. G. (2000) Acc. Chem. Res. 33, 11-18.
【0005】
沈黙(サイレンシング)情報制御因子(SIR2)酵素は sirtuin としても知られ、NAD依存性のタンパク脱アセチル化酵素の新たに分類されたファミリーを打ち立て、これは基質として代謝的に価値あるNADを用い、タンパク+基質(protein-co-substrates)のアセチルリジン側鎖を、無修飾リジン側鎖へと変換する(Landryら、2000年;Imaiら、2000年)。イースト菌のSIR2タンパクは本来、遺伝子沈黙化(silencing, サイレンシング)の制御補因子として同定され、SIR複合体と呼ばれるタンパクモジュール中のクロマチンに局在している。SIR複合体内で、これらの酵素はクロマチン構造を制御すると信じられており(Smithら、2000年;RineおよびHerskowitz、1987年)、これはH3およびH4ヒストンN末尾における少ないアセチル化の獲得および維持による(Ruscheら、2003年;Andersonら、2003年;Braunsteinら、1993年)。潜在的なDNA抑制機構の一部としての、遺伝子情報制御におけるこれら酵素の役割は、細胞に対するそれらの重要性を増す。実際、SIR2酵素は、生命の全防御に亘り広く分布しており(Brachmannら、1995年;Smithら、2000年)、寿命の制御(Linら、2000年;TissenbaumおよびGuarente、2000年)および遺伝子安定性(Brachmannら、1995年)における役割を持っているように見える。例えば、SIR2は、S.cerevisiae(Linら、2000年)、C.elegans(TissenbaumおよびGuarente、2000年)において、カロリー制限により引き起こされる寿命の延びに必須であると同定されており、Drosophila(Astromら、2003年)において、寿命に影響を与える。寿命の延びは、カロリー制限中のSIR2活性上昇により引き起こされるが、これは更なるSIR2遺伝子のコピーが、S.cerevisiae(Linら、2000年)およびC.elegans(TissenbaumおよびGuarente、2000年)において、長寿化した表現型を与えるからである。カロリー制限は、霊長類を包含する動物においても、長寿化した寿命という利益を与えるので(Linら、2000年)、上昇したSIR2活性は動物において、長寿化した寿命にまで至ることが多い。
【0006】
カロリー制限によりSIR2が活性化されるメカニズムはよく分からないが、上昇したNAD/NADH比もしくは上昇したNAD濃度が示唆されている(LinおよびGuarente、2002年;Campisi、2000年)。SIR2活性の制御におけるニコチンアミドおよびPNC1遺伝子に関する役割も、実証されている(Andersonら、2003年;Bittermanら、2002年;Andersonら、2002年)。PNC1は、ニコチンアミドを脱アミド化してニコチン酸を形成させ、SIR2産物としてNAD代謝経路において形成されたニコチンアミドの濃度を低下させることができる(Andersonら、2003年;Bittermanら、2002年;Andersonら、2002年)。PNC1は、幾つかのストレス条件(Andersonら、2002年;Sinclair、2002年)下に過剰発現され、イースト菌を長寿命化させ、このことは上昇したPNC1活性が、ニコチンアミドによる阻害を抑制することにより、SIR作用を上昇させることを意味している。ニコチンアミドはSIR酵素活性の潜在的阻害剤であり(Bittermanら、2002年;Landryら、2000年)、SIR酵素による塩基交換の基質としても働く(Landryら、2000年;Minら、2001年;Sauveら、2001年)。ニコチンアミドでの塩基交換、ニコチンアミドによる阻害、およびSIR2の反応メカニズムの間の関係は定かでないが、in vivoにおけるSIR2制御の基礎となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
SIR2の反応メカニズムの更なる特徴付けが、その脱アセチル化反応が促進され得る道筋を決定するのを補助するのに必要とされている。本発明はその必要性を満たし、さもなくば阻害する量であるニコチンアミド存在下にその脱アセチル化反応を促進する種々の化合物を同定する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従って、本発明は、SIR2の脱アセチル化反応が、脱アセチル化よりも塩基交換を阻害する化合物により促進され得るとの発見に基づいている。該化合物は、該塩基交換反応に参画することなく、SIR2の酵素部位からニコチンアミドを追い出すと思われる。
【0009】
これゆえ、幾つかの実施形態において、本発明は、医薬的に許容可能な賦形剤中、Sir2酵素による脱アセチル化よりも塩基交換を阻害する化合物に関する。これらの実施形態では、該化合物は、式I、式II、式III、式IV、および式Vのうちの1つの化学構造を有し、ここで式Iは、構造1〜8:
【0010】
【化1】

【0011】
のうちの1つを有し、式中、R、R、R、およびRが独立に、H、F、Cl、Me、OH、NH、CF、もしくはMeであり;Xが、CONHMe、COCH、COCHCH、COCF、CHOH、もしくはCHNHであり;Yが、N、O、もしくはSであり;Y=SもしくはOの場合、対応するRは定められず;式IIが構造9〜18:
【0012】
【化2】

【0013】
のうちの1つを有し、式中、R、R、R、およびRが独立に、H、F、Cl、OH、NH、Me、もしくはCFであり;Xが、CONH、CONHMe、COCH、COCHCH、COCF、CHOH、もしくはCHNHであり;Rが、Me、CF、O、もしくはNHであり;式IIはニコチンアミドでなく;式IIIが構造19もしくは20:
【0014】
【化3】

【0015】
のうちの1つを有し、式中、R、R、R、R、およびRが独立に、H、F、Cl、OH、NH、Me、もしくはCFであり;Xが、CONH、CONHMe、COCH、COCHCH、COCF、CHOH、もしくはCHNHであり;式IVが構造21もしくは22:
【0016】
【化4】

【0017】
のうちの1つを有し、式中の環が、0、1、もしくは2つの2重結合を含んでもよく;R、R、R、およびRが独立に、H、F、Cl、OH、NH、Me、もしくはCFであり;Xが、CONH、CONHMe、COCH、COCHCH、COCF、CHOH、もしくはCHNHであり;Yが、N、O、もしくはSであり;式Vが構造23もしくは24:
【0018】
【化5】

【0019】
のうちの1つを有し、式中の環が、0もしくは1つの2重結合を含んでもよく;R、R、およびRが独立に、H、F、Cl、OH、NH、Me、もしくはCFであり;Xが、CONH、CONHMe、COCH、COCHCH、COCF、CHOH、もしくはCHNHであり;Yが、N、O、もしくはSである。
【0020】
他の実施形態では、本発明は、Sir2酵素によるアセチル化ペプチドの脱アセチル化よりも、塩基交換を阻害する方法に関する。該方法は、化合物を、Sir2酵素、NAD、およびアセチル化ペプチドと組み合わせることを含む。これらの方法では、該化合物は、上記した化合物の1つである。
【0021】
本発明は加えて、生物の寿命を延ばす方法に関する。該方法は、生物を、上記化合物のうちの1種で処理することを含む。
【0022】
更なる実施形態では、本発明は、生きている細胞(生存細胞)におけるSir2酵素によるタンパク脱アセチル化を増強させる方法に関する。該方法は、該細胞を、上記化合物のうちの1種と組み合わせることを含む。
【0023】
本発明は更に、Sir2酵素の脱アセチル化活性を上昇させる方法に関する。該方法は、上記化合物のうちの1種を、Sir2酵素、NAD、およびSir2アセチル化ペプチド基質と組み合わせることを含む。
【0024】
他の実施形態では、本発明は、Sir2酵素によるアセチル化ペプチドの脱アセチル化よりも、塩基交換を阻害する方法に関する。該方法は、上記化合物のうちの1種を使用して、Sir2酵素部位から、ニコチンアミドを追い出すことを含む。
【0025】
本発明はまた、Sir2脱アセチル化活性を上昇させる能力に関して、テスト化合物をスクリーニングする方法にも関する。該方法は、テスト化合物を、Sir2酵素、NAD、およびSir2アセチル化ペプチド基質と、反応混合物中組み合わせ、該化合物が脱アセチル化よりも塩基交換を妨げるかどうかを決定することを含む。
【0026】
加えて、本発明は、生物の寿命を延ばす能力に関して、テスト化合物をスクリーニングする方法に関する。該方法は、テスト化合物を、Sir2酵素、NAD、およびSir2アセチル化ペプチド基質と、反応混合物中組み合わせ、該化合物が脱アセチル化よりも塩基交換を妨げるかどうかを決定することを含む。
【0027】
更なる実施形態では、本発明は、細胞において、化合物がSIR酵素の脱アセチル化活性を上昇させるかどうかを決定する方法に関する。該方法は、レポーター・ジーン(レポーター遺伝子)発現を、該化合物に晒されない時の細胞および該化合物に晒される時の該細胞間で比較することを含み、ここで、該レポーター・ジーンは、該細胞中の染色体の遺伝子座に取り込まれており、該細胞はSIR酵素による転写時のサイレンシングに付され、該化合物に晒された該細胞中の該レポーター・ジーン発現の減少が、該化合物が該細胞中のSIRの脱アセチル化活性を上昇させることを指し示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明は、SIR2による塩基交換が、脱アセチル化よりも阻害され得るとの発見に基づいている。脱アセチル化よりも塩基交換を阻害する化合物も、同定されている。これらの化合物は、脱アセチル化において、全体として増強を促進し、これゆえ効果的に、SIR2の脱アセチル化活性を上昇させる。
【0029】
これゆえ、幾つかの実施形態では、本発明は、SIR2酵素による脱アセチル化よりも、塩基交換を阻害する化合物に関する。如何なる特定のメカニズムにも限定されず、該化合物は、SIR2活性部位からニコチンアミドを追い出すことにより、塩基交換を阻害すると考えられる。これゆえ、好ましい化合物は、ニコチンアミドに似た構造的特徴を持っており、例えば以下の構造、式I、式II、式III、式IV、および式Vであり、ここで式Iが構造1〜8:
【0030】
【化6】

【0031】
のうちの1つを有し、式中、R、R、R、およびRが独立に、H、F、Cl、Me、OH、NH、CF、もしくはMeであり;Xが、CONHMe、COCH、COCHCH、COCF、CHOH、もしくはCHNHであり;Yが、N、O、もしくはSであり;Y=SもしくはOの場合、対応するRは定められず;式IIが構造9〜18:
【0032】
【化7】

【0033】
のうちの1つを有し、式中、R、R、R、およびRが独立に、H、F、Cl、OH、NH、Me、もしくはCFであり;Xが、CONH、CONHMe、COCH、COCHCH、COCF、CHOH、もしくはCHNHであり;Rが、Me、CF、O、もしくはNHであり;式IIはニコチンアミドでなく;式IIIが構造19もしくは20:
【0034】
【化8】

【0035】
のうちの1つを有し、式中、R、R、R、R、およびRが独立に、H、F、Cl、OH、NH、Me、もしくはCFであり;Xが、CONH、CONHMe、COCH、COCHCH、COCF、CHOH、もしくはCHNHであり;式IVが構造21もしくは22:
【0036】
【化9】

【0037】
のうちの1つを有し、式中の環が、0、1、もしくは2つの2重結合を含んでもよく;R、R、R、およびRが独立に、H、F、Cl、OH、NH、Me、もしくはCFであり;Xが、CONH、CONHMe、COCH、COCHCH、COCF、CHOH、もしくはCHNHであり;Yが、N、O、もしくはSであり;式Vが構造23もしくは24:
【0038】
【化10】

【0039】
のうちの1つを有し、式中の環が、0もしくは1つの2重結合を含んでもよく;R、R、およびRが独立に、H、F、Cl、OH、NH、Me、もしくはCFであり;Xが、CONH、CONHMe、COCH、COCHCH、COCF、CHOH、もしくはCHNHであり;Yが、N、O、もしくはSである。
【0040】
好ましくは、該化合物が、構造1、2、6、21、22、23、もしくは24(ここで、XがCONHであり、YがNである);構造9(ここで、R〜Rの少なくとも1つがFであり、XがCONHである);構造11(ここで、R、R、R、およびRが独立にHもしくはFであり、XがCONHである);または構造19および20(ここで、R〜Rの少なくとも1つがFであり、XがCONHである)のうちの1つを有している。
【0041】
より好ましくは、該化合物が、構造1もしくは2(ここで、RがCHであり、R、R、およびRがHである);構造6(ここで、R、R、およびRがHであり、RがCHもしくはHである);構造9(ここで、RがFであり、R〜RがHであり、XがCONHである。2−フルオロニコチンアミド);その他のフルオロニコチンアミド;または構造11(ここで、R〜RがHであり、XがCONHである。イソニコチンアミド)のうちの1つを有している。実施例1は、イソニコチンアミドが、S.cerevisiaeのSIR2p酵素の脱アセチル化よりも、塩基交換を阻害することを示すデータを与え;実施例3は、2−フルオロニコチンアミドが、イースト菌および古細菌のSIR2酵素の脱アセチル化よりも、塩基交換を阻害することを示すデータを与える。最も好ましい実施形態では、該化合物がイソニコチンアミド、または、2−フルオロニコチンアミドのようなフルオロニコチンアミドである。
【0042】
脱アセチル化よりもSIR2塩基交換を阻害する化合物は、SIR2の脱アセチル化活性を上昇させる種々の方法において、使用され得る。幾つかの実施形態では、本発明は、SIR2酵素によるアセチル化ペプチドの脱アセチル化よりも、塩基交換を阻害する方法に関する。該方法(複数)は、SIR2酵素、NAD、およびアセチル化ペプチドを、脱アセチル化よりもSIR2塩基交換を阻害する化合物と組み合わせることを含む。好ましくは、該化合物が、式Iもしくは式IIの上記した化合物の1種であり、ここで最も好ましい化合物は、上記同様である。
【0043】
これらの方法は、SIR2の基質である如何なるアセチル化ペプチドの脱アセチル化よりも、塩基交換を阻害するのに有用であると期待される。知られているように、SIR2は、少なくとも2アミノ酸の如何なるペプチドをも脱アセチル化できるが、但し、該ペプチドが、そのεアミノ部分においてアセチル化されたリジン残基を持っており、これは、p53、ヒストン、および小ペプチドを包含する(例えば、PCT/US02/37364およびその中で引用された文献参照)。
【0044】
SIR2酵素は、原核生物、古細菌、もしくは真核生物(哺乳類も包含)源も包含する如何なる種由来でもあり得る。これらの方法に有用なSIR2酵素の非限定例は、Sir2Af2(Archaeoglobus fulgidus)、Sir2Tm(Thermotoga maritima)、cobB(Salmonella typhimurium)、Sir2p(Saccharomyces cerevisiae)、SIR2α(マウス)、ならびに、SIR2A、SIRT1、SIRT2、SIRT3、SIRT4、SIRT5、SIRT6、SIRT7、SIRT2p、およびSIRT1p(ヒト)である。
【0045】
幾つかの実施形態では、本方法はin vitroにおいて実施され、つまり、SIR2酵素、NAD、および前記アセチル化ペプチドが、生存細胞外側の反応混合物中、組み合わされる。
【0046】
他の実施形態では、本方法は、生存細胞において実施され、例えば、該化合物を、SIR2酵素、NAD、および前記アセチル化ペプチドをも有する生存細胞へと加えることによる。これらのin vivoの実施形態では、SIR2酵素は該細胞にとって内因性であってもよく、あるいは、例えば該細胞を、当業界において既知のいずれかの方法によって、SIR2酵素をコード化する核酸配列を含む発現ベクターを用いてトランスフェクションすることにより、導入されてもよい。該生存細胞は、古細菌細胞、原核細胞、もしくは真核細胞であってもよく、哺乳類細胞を包含する。これらのin vivoの実施形態の幾つかの態様では、該細胞は生きている(生存)多細胞生物、例えばマウスもしくはヒトのような哺乳類の一部である。
【0047】
SIR2脱アセチル化活性の上昇は、広範な種々の生物の寿命の長寿命化と関連している(Linら、2000年)ので、生物におけるSIR2脱アセチル化有効活性を上昇させる方法が、当該生物の寿命を延ばすと期待される。
【0048】
本発明はこれゆえ、生物の寿命を延ばす方法に関する。本方法は生物を、脱アセチル化よりもSIRによる塩基交換を阻害する化合物を用いて処理することを含む。好ましい化合物および最も好ましい化合物は式Iもしくは式IIであり、上記したとおりである。
【0049】
前記したin vivoの実施形態のように、前記生物において標的とされるSIR2酵素は、内因性SIR2であってもよく、あるいはそれは、該生物中へとトランスフェクションされてもよく、該生物が組み換えSIR2を発現するようにされる。やはり前記したin vivoの実施形態のように、該生物は、如何なる原核生物、古細菌、もしくは真核生物であってもよく、菌(例えばイースト菌)、昆虫(例えばミバエ)、またはマウスもしくはヒトのような哺乳類も包含する。
【0050】
関連実施形態では、本発明は、生存細胞において、SIR2酵素によるタンパク脱アセチル化を増強させる方法にも関する。本方法は、脱アセチル化よりもSIR2による塩基交換を阻害する化合物と、該細胞を組み合わせることを含む。好ましい該化合物は前に論じたとおりであり、つまり、上記したとおりの式Iおよび式IIのものである。やはり前の実施形態のように、該細胞は、原核生物細胞、古細菌細胞、もしくは真核生物細胞であってもよく、例えばイースト菌細胞または哺乳類細胞であってもよく、マウスもしくはヒトからの細胞も包含する。該細胞はまた、培養中のものであってもよく、あるいは、生存多細胞生物の一部としてでもよい。
【0051】
他の関連実施形態では、本発明は加えて、SIR2酵素の脱アセチル化活性を上昇させる方法に関する。本方法は、脱アセチル化よりもSIR2による塩基交換を阻害する化合物と、SIR2酵素、NAD、およびSIR2アセチル化ペプチド基質を組み合わせることを含む。前記した実施形態のように、好ましい該化合物は、上記したとおりの式Iおよび式IIのものである。該酵素は如何なる既知のSIR2であってもよく、原核生物のSIR2、古細菌のSIR2、もしくは真核生物のSIR2であってもよく、マウスSIR2α、ならびに、ヒトSir2A、SIRT1、SIRT2、SIRT3、SIRT4、SIRT5、SIRT6、SIRT7、SIRT2p、およびSIRT1pのようなものである。やはり前の実施形態のように、本方法は、in vitro、つまり生存細胞外の反応混合物中、あるいは、in vivo、つまりSIR2酵素が生存細胞中にある場合、実施され得る。後者の実施形態では、前に論じた実施形態に類似して、該細胞は生存生物の一部であってもよい。
【0052】
関連実施形態では、本発明は、SIR2酵素によるアセチル化ペプチドの脱アセチル化よりも塩基交換を阻害する方法に関する。本方法は、SIR2酵素部位からニコチンアミドを追い出すことを含み、好ましくは、式Iもしくは式IIの化合物を使用する。式Iおよび式IIの化合物が、SIR2酵素部位からニコチンアミドを追い出すことにより、脱アセチル化よりもSIR2による塩基交換を阻害すると考えられるので、この方法は全体的に、前記した方法に類似しており、前記した方法のように、in vitroおよびin vivoの実施形態を包含し、如何なるSIR2酵素を用いてもよく、好ましい同じ化合物を用いてもよい。
【0053】
脱アセチル化よりもSIR2による塩基交換を阻害する化合物が利用できるとの知見は、SIR2脱アセチル化活性を上昇させる能力に関して、テスト化合物をスクリーニングする方法を示唆する。これゆえ、本発明は、SIR2脱アセチル化活性を上昇させる能力に関して、テスト化合物をスクリーニングする方法にも関する。本方法は、該テスト化合物を、SIR2酵素、NAD、およびSIR2アセチル化ペプチド基質と、反応混合物中組み合わせること、ならびに、該化合物が、脱アセチル化よりも塩基交換を妨げるかどうかを決定することを含む。本方法は好ましくは、例えば実施例1に記載の方法により、放射能標識ニコチンアミドを使用して実施される。これらの方法は、SIR2脱アセチル化活性の上昇の相対効率に関して、種々の化合物、例えば、式I、式II、式III、式IV、および式Vのものを、定量的に比較するのに使用され得ると理解されるはずである。
【0054】
長寿命化におけるSIR2脱アセチル化活性の効果に基づき、直前に記載のスクリーニング方法は、寿命を延ばす能力に関して化合物をスクリーニングするのにも有用である。これゆえ、本発明は、生物の寿命を延ばす能力に関して、テスト化合物をスクリーニングする方法にも関する。本方法は、該テスト化合物を、SIR2酵素、NAD、およびSIR2アセチル化ペプチド基質と、反応混合物中組み合わせること、ならびに、該化合物が、脱アセチル化よりもSIR2による塩基交換を妨げるかどうかを決定することを含む。
【0055】
これらの方法では、SIR2酵素は、好ましくは当該生物由来である。該生物は、原核生物、古細菌、もしくは真核生物であってもよく、例えばイースト菌細胞もしくは哺乳類細胞であって、マウスもしくはヒトも包含する。本方法は、脱アセチル化に対するSIR2による塩基交換の阻害における、各化合物の相対的な効果を定量的に求めることにより、寿命における種々の化合物の相対的な効果を求めるのに使用され得る。これゆえ、本方法は、例えば式Iおよび式IIの種々の化合物の、寿命への相対的な効果を評価するのに使用され得るものである。
【0056】
本発明の化合物は、マウスおよびヒトのような哺乳類も包含する動物を処理するための上記した種々の方法において有用であるので、それらの化合物が医薬組成物として有用であることが理解されるはずである。これゆえ、本発明は、医薬的に許容可能な賦形剤中、脱アセチル化よりもSIR2による塩基交換を阻害する化合物を含む組成物にも関する。該化合物は好ましくは、上記した種々の式Iおよび式IIのものであり、より好ましくは、式Iおよび式IIの種々の好ましいものの実施形態である。
【0057】
動物を処理することを含んでいる前記した方法では、該化合物の医薬組成物が、限定なく、経口投与、非経口投与(例えば、筋膜上、嚢内、皮内、真皮内、筋肉内、眼窩内、腹腔内、髄腔内、胸腔内、血管内、静脈内、実質性、もしくは皮下投与)、経皮投与、および浸透圧ポンプによる投与を包含する既知の手順により、ヒトもしくは動物被験体へと投与されてよい。好ましくは、本発明の医薬組成物は、経口投与される。
【0058】
経口投与に関して、該化合物が、固体もしくは液体調製品、例えば、カプセル、錠剤(タブレット)、粉末、顆粒、分散物、溶液、および懸濁として処方されてもよい。このような調製品は、ここに挙げられていないその他の経口投薬形態同様、当業界においてよく知られている。好ましい実施形態では、本発明の化合物は、結合剤(バインダー)、崩壊剤、および滑剤と一緒に、ラクトース、スクロース、マンニトール、およびコーンスターチのような従来の錠剤ベースと共に、錠剤とされる。これらの賦形剤は、当業界においてよく知られている。本処方は、結晶性セルロース、セルロース誘導体、アカシア、コーンスターチ、もしくはゼラチンのような結合剤と共に、提供されてもよい。加えて、本処方は、コーンスターチ、ジャガイモ澱粉、もしくはカルボキシメチルセルロースナトリウムのような崩壊剤と共に、提供されてもよい。本処方はまた、二塩基性無水リン酸カルシウムもしくはグリコール酸ナトリウムスターチと共に、提供されてもよい。最後に、本処方は、タルクもしくはステアリン酸マグネシウムのような滑剤と共に、提供されてもよい。着色料および香料のような他の成分も、包含されてよい。本発明における使用のための液体形態は、医薬的に許容可能な界面活性剤もしくは懸濁剤のような他の物質と共にもしくは伴わずに、水およびエタノールのような担体を包含する。
【0059】
非経口投与(つまり、消化管以外の経路での注入による投与)に関して、該化合物が、好ましくは被験体の血液と等張である無菌水溶液と組み合わされてよい。このような処方は、塩化ナトリウム、グリシン、および同様なもののような生理学的に相容れる物質を含有し、生理学的条件と相容れる緩衝化pHを有する水中に、固体活性成分を溶解させて水溶液を調製し、該溶液を無菌化することにより、調製されてもよい。該処方は、封入アンプルもしくはバイアルのような、単位用量もしくは多用量容器中に、提供されてもよい。該処方は、限定なく、筋膜上、嚢内、皮内、真皮内、筋肉内、眼窩内、腹腔内、髄腔内、胸腔内、血管内、静脈内、実質性、もしくは皮下注入を包含する如何なる様式の注入によっても、供給されてよい。
【0060】
真皮を通しての投与に関して、該化合物は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、イソプロパノール、エタノール、オレイン酸、N−メチルピロリドン、および同様なもののような、皮膚浸透促進剤と組み合わされてもよく、これらは、該化合物に対する皮膚の透過性を上昇させ、該化合物が皮膚を通して血流中へと浸透するのを可能にする。該化合物/促進剤組成物はまた更に、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチレン/ビニル酢酸、ポリビニルピロリドン、および同様なもののようなポリマー物質と組み合わされてもよく、ゲル形態の組成物を与え、これは塩化メチレン(ジクロロメタン)のような溶媒中に溶解され、所望の粘度にまでエバポレーションされ、次いで背後を支える材料へと適用されてパッチを与えてもよい。該化合物は、被験体の疾患もしくは病状が局在している部位もしくはその近傍の真皮を通して投与されてもよい。あるいは、該化合物は、全身投与を達成するために、影響を被っている領域以外の部位の真皮を通して投与されてもよい。
【0061】
本発明の化合物はまた、浸透圧小ポンプもしくはその他の時間放出装置から、放出もしくは供給されてもよい。構成要素としての浸透圧小ポンプからの放出速度は、その放出口中に置かれた微小孔性即応ゲルを用いて調節されてもよい。浸透圧小ポンプは、該化合物の放出制御、つまり標的化供給に有用であるものである。
【0062】
本発明者らは、SIR2および関連酵素(SIR酵素)におけるようなin vivoでの転写サイレンシングを引き起こす脱アセチル化酵素活性に関して、新規なアッセイをも開発した。該アッセイは、SIRの転写サイレンシングに付される細胞中の染色体の遺伝子座において統合されたレポーター・ジーンを有する細胞を使用する。該化合物が該細胞と組み合わされ、該レポーター・ジーン活性が求められる。該化合物に晒された該細胞中でのレポーター・ジーン活性の減少が、該化合物がSIR脱アセチル化酵素活性の上昇を引き起こすことを指し示す一方、該化合物に晒された該細胞中でのレポーター・ジーン活性の上昇が、該化合物がSIR脱アセチル化酵素活性の減少を引き起こすことを指し示す。該アッセイは実施例2に例示され、そこでは、SIR2の標的遺伝子座中へと統合された選択可能なマーカーであるレポーター・ジーンを有する遺伝子導入イースト菌中の内因性SIR2の活性が求められる。Grozingerら、2001年も参照。実施例2は、ポジティブに選択可能であるかネガティブに選択可能であるマーカーが使用されるかに依って、上昇したSIR2の脱アセチル化酵素活性が、イースト菌のコロニーの成長を促進もしくは抑制し得るアッセイを実証する。
【0063】
これゆえ、更なる実施形態では、本発明は、細胞において、化合物がSIR酵素の脱アセチル化活性に影響を及ぼすかどうかを決定する方法に関する。該方法は、該化合物に晒されない時の該細胞と、該化合物に晒される時の該細胞との間での、レポーター・ジーン発現を比較することを含み、ここでは、該レポーター・ジーンは、SIR酵素による転写のサイレンシングに付される該細胞中の染色体の遺伝子座において統合されており、該レポーター・ジーン発現の減少が、該細胞中でのSIR脱アセチル化活性を指し示す。
【0064】
これらの方法は、如何なる特定の細胞にも限定されず、SIR酵素による転写サイレンシングに付される細胞中の染色体の遺伝子座において統合されているレポーター・ジーンを有する如何なる真核細胞、原核細胞、もしくは古細菌細胞を用いても使用され得、または、特徴的なものを持つよう構築され得る。好ましい実施形態では、該細胞は、実施例2において用いられたようなイースト菌細胞である。
【0065】
該レポーター・ジーンは、SIR酵素による転写サイレンシングに付される如何なる遺伝子座、例えば実施例2におけるような細胞の例えばテロメア、rDNAの並び、もしくは成熟して沈黙化したタイプの遺伝子座においても、利用され得る。
【0066】
これらの方法はまた、如何なる特定のレポーター・ジーンの使用にも限定されない。該レポーター・ジーンは、例えば該レポーター・ジーン産物として緑色蛍光タンパクもしくは過酸化酵素を使用することにより、例えば該レポーター・ジーン産物の抗原もしくはエピトープのイムノアッセイにより、または、色もしくは蛍光の増加の観察もしくはスペクトル光測定により、検出可能とされてもよい。これらの実施形態は、特定の化合物を用いて処理された細胞と、処理されなかったかまたはポジティブもしくはネガティブ・コントロール化合物を用いて処理された細胞との間での、転写サイレンシングの差の定量的もしくは半定量的測定に与する。これゆえ、(該テスト化合物)対(他の化合物)の相対的な有効性を求めることができる。
【0067】
他の実施形態では、該レポーター・ジーンは、選択可能なマーカーである。非限定例には、実施例2におけるような、ADE2遺伝子、URA3遺伝子、もしくはTRP1遺伝子が包含され、そこでは、細胞のコロニーの成長が、活性化合物を同定するための該マーカーとして利用され得る。
【0068】
これらの方法において利用されるSIR酵素は細胞中に天然にあり得るか、または、遺伝子導入SIR酵素が細胞中へと遺伝子操作され得、例えば、哺乳類(例えばヒト)を遺伝子操作するか、または、キメラSIR酵素が遺伝子導入され、イースト菌細胞において発現される。例えば、Shermanら(1999年)およびHowitzら(2003年)参照。
【0069】
これらの方法は、SIR2α、SIR2A、SIRT3、SIRT2p、SIRT1p、SIRT1、SIRT2、SIRT3、SIRT4、SIRT5、SIRT6、およびSIRT7を包含する、今既知もしくは後に発見される如何なるSIR酵素を用いても、使用され得る。
【0070】
本発明の好ましい実施形態が、以下の実施例において記載される。本請求項の範囲内の、本明細書における他の実施形態が、本明細書において開示されるとおりの本発明の明細書もしくは実施を考慮することにより、当業者には明らかである。以下の実施例と一緒に、本明細書は例示的であるとのみ考慮され、本発明の範囲および思想が本請求項により指し示されよう意図され、以下に実施例を伴う。
【実施例】
【0071】
実施例1.ニコチンアミドによるSIR2制御は、塩基交換と脱アセチル化の化学との間でのスウィッチングから結果もたらされる
本実施例の要約
イースト菌における寿命の制御および遺伝子のサイレンシング阻害は、SIR2酵素へのニコチンアミドの効果と結び付けられて考えられるようになってきた。SIR2酵素はNAD依存タンパク脱アセチル化酵素であり、脱アセチル化されたタンパク、ニコチンアミド、および2’−O−アセチル−ADPRを形成させることにより、遺伝子発現に影響を与える。ニコチンアミドは塩基交換基質であり、生物学的に効果的な阻害剤である。該塩基交換反応の特徴付けにより、脱アセチル化と塩基交換との間でのスウィッチングによりニコチンアミドがSIR2を制御することが、明らかにされる。ニコチンアミドによるスウィッチングが、Archeaglobus fulgidus(AF2)、Saccharomyces cerevisiae(SIR2p)、およびマウス(SIR2α)からのSIR2酵素に関して、定量される。脱アセチル化の阻害は、マウスSIR2αに関して最も効果的であったが、これは、この制御メカニズムの種依存的発達を示唆した。SIR2は、ADPRと、アセチルリジンを有するそのタンパク基質のアセチル酸素との間で、比較的安定な共有結合中間体を形成すると提案されている。この中間体の寿命の間、ニコチンアミドによる触媒部位の占有が、該共有結合複合体の運命を決定する。マウス、イースト菌、およびバクテリアのSIR2に関して、そのニコチンアミド部位の飽和がそれぞれ、該中間体の95%、65%、および21%を、アセチル化タンパクへと戻させる。脱アセチル化に与される該中間体の分け合いは、ニコチンアミドと、それと反対の立体化学面にある隣の2’−水酸基との間での競合から結果もたらされる。ニコチンアミドによるスウィッチングが、以前に提案されたSIR2の触媒メカニズム、および、1’−O−ペプチジル−ADPR・SIR2中間体の存在を裏付ける。これらの知見は、脱アセチル化ではなく、化学交換の阻害によって、in vivoにおいてSIR2酵素触媒活性を上昇させるというストラテジー(戦略)を示唆する。
【0072】
はじめに
SIR2は、さもなくば化学的に単純なN−脱アセチル化酵素反応に、NADおよびニコチンアミドを巻き込んだ触媒的に複雑なメカニズムを進化させてきた。ペプチド基質との反応は、アセチルエステル(酢酸エステル)代謝物2’−および3’−O−アセチル−ADPR(Sauveら、2001年;JacksonおよびDenu、2000年)、ニコチンアミド、および脱アセチル化されたリジン側鎖を生成させる。塩基交換と脱アセチル化反応とを一体化させる該化学的メカニズムは、活性部位からニコチンアミドを放出させる共有結合1’−O−ペプチジルアミデート−ADPR中間体に依る(Sauveら、2001年)。この中間体は、上昇した濃度のニコチンアミド存在下(スキーム1A)、NADの再生を可能にするのに充分安定である。このメカニズムは、該塩基交換反応を可能にするタンパクアセチルリジン基質に対しての必要性を説明し、活性部位の変異生成研究、放射性同位元素による標識、およびX線結晶から報告される信頼できる情報(Minら、2001年;Sauveら、2001年;JacksonおよびDenu、2002年)全てに整合する。
【0073】
ここに我々は、Archeaglobus fulgidus(AF2)、Saccharomyces cerevisiae(SIR2p)、およびマウス(SIR2α)からのSIR2酵素に関して、その塩基交換および阻害速度論を特徴付けする。これらの結果は、塩基交換およびニコチンアミド阻害両方が、単一酵素中間体の化学的反応性の結果であることを確立する。興味深いことに、イースト菌のニコチンアミド阻害およびバクテリア酵素の脱アセチル化は、上昇したニコチンアミド濃度では不完全である。3種の酵素全てに関する阻害パターンは、ある反応メカニズムにより説明可能であり、ここでは塩基交換および脱アセチル化が、SIR2ペプチジルADPR中間体の二股の反応性から発する競合的化学プロセスである。この解釈は、該化学メカニズム、反応配位エネルギー論、およびSIR2酵素制御へ、新たな見方を与える。SIR2の脱アセチル化触媒活性を上昇させる戦略は、この新規なメカニズムから明らかである。
【0074】
結果
ニコチンアミド交換および阻害の速度論
幾つかのSIR2酵素は、アセチルリジンを有するタンパクもしくはペプチド基質存在下、放射標識ニコチンアミドのNADへの化学的交換を触媒すると示されている(Landryら、2000年;Minら、2001年;Sauveら、2001年)。しかしながら、塩基交換の速度論的および化学的メカニズムは、報告されていない。SIR2により触媒される交換の速度が、飽和NADおよびペプチド基質を用いて、[カルボニル−14C]ニコチンアミドの関数として測定された(Sauveら、2001年)。AF2、マウス、およびイースト菌SIR2酵素に関するニコチンアミド塩基交換に関するKm値がそれぞれ、36μM、127μM、および160μMと求められた(図1および表1)。
【0075】
【表1】

【0076】
同じ実験中、混合物中のADPRおよび3’−O−アセチル−ADPR産物が、塩基交換反応に比較した脱アセチル化反応の速度を比較するために測定された。これらの化合物の産生は化学量論的にリジンの脱アセチル化とリンクしており、脱アセチル化を定量するのに使用され得る(Sauveら、2001年;JacksonおよびDenu、2002年;Tannerら、2000年;TannyおよびMoazed、2001年)。脱アセチル化の速度は、阻害されない場合の速度の%として表され、ニコチンアミド濃度の関数としてプロットされる(図2)。ニコチンアミド濃度が上昇するに連れ、産物形成速度は減少したが、ニコチンアミドはバクテリアおよびイースト菌の酵素に関して完全な阻害を惹起しなかった(図2A)。それぞれ阻害されない場合の約79%および35%の速度が、mM(オーダー)のニコチンアミド濃度において保たれた。マウスの酵素に関しては、>95%の阻害が、高いニコチンアミド濃度において発生した(図2A)。Dixonプロット(1/ν対[I])は、AF2およびイースト菌の酵素に関しては双曲線であったが、マウスの酵素に関しては直線であった(図2B,C)。これら3種の酵素に関するNADに関するKmは、これらの条件に関して100〜200μMの範囲中である。2mMまでのニコチンアミド濃度の上昇は、これら3種の酵素のいずれに関しても、脱アセチル化もしくは交換速度に関するプラトー(高止まり、踊り場)を変えるものではなく(データ示さず;誤差±5%)、NAD結合に関してのニコチンアミドの競合が8mM過剰であることを実証した。
【0077】
バクテリアおよびイースト菌の酵素のニコチンアミド阻害は、単一の結合部位における非競合的相互作用に一致しており、解離定数Kiを有していた。分画毎の阻害は、該部位の飽和により発生し、曲線ν対Iについてν=kcat−kp([I]/Ki+[I])として、曲線1/ν対Iについて1/ν=1/kcat−kp([I]/Ki+[I])として表され、ここで、νは脱アセチル化速度であり、[I]はニコチンアミド濃度であり、kpは該部位が飽和される場合の該脱アセチル化反応が減少するまでの伸展であり、kcatは阻害剤が存在しない場合の飽和NADおよびペプチドにおける脱アセチル化反応速度である。[I]>>Kiの場合、曲線ν対Iは漸次、kinh値=kcat−kに近づく(図2)。kinh値は、ニコチンアミド飽和時に残った脱アセチル化速度であり、表1に与えられる。Kiの決定は各酵素に関して、Km(交換)との比較を可能にする。これらの値は実験誤差内であり、1つの部位が、脱アセチル化および塩基交換の阻害を司ることを指し示している(表1)。
【0078】
交換/アセチル(基)転移に関する種による特異性
各酵素に関しての、kcat(交換)と対応するkcat(脱アセチル化)との比較(表1)は、これらのパラメーターが酵素特異的であることを明らかにするものである。バクテリアの酵素に関しては、kcat(交換)の測定値は、kcat(脱アセチル化)より5.1倍遅い。対照的に、イースト菌およびマウスの酵素に関してはそれぞれ、kcat(交換)の値は、kcat(脱アセチル化)の値を3.5および11倍超過する。交換対脱アセチル化という効率は阻害を占うものであり、これゆえ、バクテリアの酵素はニコチンアミドにより中程度に阻害され、マウスの酵素が最も阻害される(図2A〜C)。この関係は、これら3種の酵素に関して、k/kcat(脱アセチル化)対kcat(交換)/(kcat(脱アセチル化)+kcat(交換))の比のプロットとして要約される(図3)。この直線に近い関係は、交換および脱アセチル化がそれぞれ速度定数kおよびkに従って、共通中間体に関して競合するとの提案により裏付けられる(スキーム1)。脱アセチル化速度はニコチンアミドなしで最大であり、その存在が該中間体のミカエリス複合体への化学的逆行を引き起こす。
【0079】
塩基交換反応の阻害
脱アセチル化と交換との間でのニコチンアミド・スウィッチは、交換の基質として不活性なニコチンアミド・アナログ(類似体)が有意に脱アセチル化を阻害しないことを予見させるが、これは、それらが化学的にADPR−ペプチジル中間体を捕捉できないからである(スキーム1)。表2のニコチンアミド・アナログは5mMの濃度において、バクテリアもしくはイースト菌の酵素に関してはSIR2による脱アセチル化を阻害せず、マウスの酵素の中程度の阻害のみ観察された。テストされた化合物のいずれもが、ニコチンアミドの飽和濃度において、イースト菌の酵素に関してはSIR2による塩基交換の有効な阻害剤ではなかった(表2)。35Mの[カルボニル−14C]ニコチンアミドおよび42mMのイソニコチンアミド存在下にイースト菌のSIR2による脱アセチル化および塩基交換が実施される特殊な条件は、交換速度の40%の減少と、対応して脱アセチル化速度の5%の減少を与えた(表2)。
【0080】
【表2】

【0081】
中間体形成および中間体分解の速度定数
マウスおよびイースト菌の酵素に関して、スキーム1に定義された速度定数k、k、およびkは、もっともな仮定を用いて得られる。これらの酵素に関して、少なくとも3倍kcat(交換)>kcat(脱アセチル化)である。それらは共通の速度定数kを共有するので、少なくとも3倍k>kおよびk>kである。これゆえ、我々は、k=kcat(脱アセチル化)を仮定する。k/k=kcat(交換)/kint(ここで、kintとは、残った脱アセチル化速度である)という関係は、前記した2つの競合速度の比を反映し、ADPR中間体を消失させる。これらの比は、マウス、イースト菌、およびバクテリアの酵素に関する阻害に関してそれぞれ、220、9.8、および0.25である。kを使用したkの算出は、kが、マウスおよびイースト菌の酵素に関する交換に限定的な速度であると決定するものである。これゆえ、最終的な速度は、k=kinh+kcat(交換)と概算され得る。これらの単純な仮定は、交換速度kcat(交換)、脱アセチル化速度kcat(脱アセチル化)、および残った速度kinhの定量を可能にする(表3)。これらの仮定はKm(交換)=Kiであると予見し、実験的に観測されたとおりである。ペプチドおよびNADに関して飽和条件および平衡結合を仮定して算出された速度は、観測された実験値の20%内に収まる。
【0082】
【表3】

【0083】
議論
SIR2の生物学
SIR2酵素は、中心的な代謝物NADを使用して、アセチルリジン基により修飾され制御されるタンパクを脱アセチル化する。SIR2タンパクに関して同定されている標的は、H3およびH4ヒストンN末尾(Landryら、2000年;Imaiら、2000年)、p53(Sauveら、2001年;Vaziriら、2001年;Luoら、2001年)、チューブリン(微小管、Northら、2003年)、バクテリアのアシルCoA合成酵素(Staraiら、2003年)、およびバクテリアのDNA結合タンパクAlba(Bellら、2002年)を包含する。SIR2酵素は、細胞の全体的な代謝状態に敏感であり、これに従って活性が調整されると提案されている。原則的に、該酵素は基質としてNADを利用するので、それは細胞内NAD濃度の変化により調節され得る(LinおよびGuarente、2002年;Campisi、2000年)。あるいは、NAD代謝物たるニコチンアミドはin vivoにおいて、SIR2の生化学的機能を調節し得る。イースト菌における最近の生物学の研究(Andersonら、2003年;Bittermanら、2002年;Andersonら、2002年)は、この見方を裏付ける。ニコチンアミドは、NAD代謝産物、SIR2による反応生成物、塩基交換の基質(Landryら、2000年;Minら、2001年;Sauveら、2001年)、およびSIR2酵素反応阻害剤(Bittermanら、2002年;Landryら、2000年)である。スキーム1中のSIR2による触媒反応メカニズムによれば、交換と脱アセチル化反応との間で分かれるADPR中間体の酵素を交換が枯渇させるので、塩基交換触媒反応は、SIR2による脱アセチル化の阻害を引き起こすはずである。
【0084】
共有結合中間体の性質
ADPR中間体は、アセチルリジン基質のアシル酸素のADP−リボシル化により形成され、18Oを用いた研究が、C1’−O結合が該アシル酸素とNADとの間で形成されることを確認している(Sauveら、2001年)。この中間体は化学的には異常であるが、オキサカルベニウムイオン遷移状態の求電子性が、該アセチルペプチドの弱い求核性のアミドを捕捉するのに充分であるので、それが形成し得る。ADP−リボシル転移反応の遷移状態の解析が、該遷移状態での弱い求核性の参画がこれらの反応の一般的な特徴であること、ならびに、ADP−リボシルカチオンが、求核剤に関して無差別であることを示唆する(BertiおよびSchramm、1997年;ScheuringおよびSchramm、1997年)。加えて、グリコシルアミデートは、グリコシル転移酵素の反応における反応中間体であり、ここではそれらは可逆的に、反応中間体として形成し得る(Knappら、1996年;ZechelおよびWithers、2000年)。酵素に結合した中間体は充分な化学反応性を持ち、逆行して、ニコチンアミド存在下にNADを再形成する。この交換反応は、試されている全てのSIR2酵素に対して一般的である(Landryら、2000年;Minら、2001年)。該中間体はまた、そのアミド体を活性化して結果的に得られる脱アセチル化産物、2’−O−アセチル−ADPR、および脱アセチル化されたリジン基質を形成させる(Sauveら、2001年)。
【0085】
単一部位でのニコチンアミドの作用
ニコチンアミドによる飽和は、試された濃度では、NADともペプチドとも結合することに関しては競合せず、以前の報告と一致した(Bittermanら、2002年)。ニコチンアミド2mMでの、塩基交換反応のニコチンアミドによる阻害の欠如およびこれら3種の酵素を用いたNADに関するKm値(100〜200μM)に基づくと、ニコチンアミドとNADとの間の競合に関するKiは、8mM過剰である。ニコチンアミドによる脱アセチル化の阻害は全体的に、NADおよびアセチル(化)タンパクを再形成させる前記共有結合中間体との塩基の相互作用により、説明される。異常だが、塩基の逆行は、ADP−リボシル転移酵素/環化酵素CD38に関するニコチンアミド交換に関する飽和速度論により導き出される(Sauveら、1998年)。
【0086】
ニコチンアミドによる種依存的阻害
イースト菌およびバクテリアのSIR2は、>10Kiのニコチンアミド濃度でさえ、ニコチンアミドによる部分阻害を示す(データ示さず)。脱アセチル化速度は21%および65%抑えられたが、マウスの酵素は160μMのKi値で、ニコチンアミドにより95%阻害された。脱アセチル化を弱め、交換を上昇させるニコチンアミドに関する単一部位での速い交換による結合モデルは、全実験データと一貫している。マウスSIR2が最も阻害されるとの観察は、哺乳類酵素がニコチンアミドによる強力な制御に付されるかも知れないことを示唆する。
【0087】
ニコチンアミドによる部分対完全阻害のメカニズム
たとえニコチンアミド部位が飽和されても、中間体が生成物へと向かって前向きに反応する場合、前記した共有結合SIR2メカニズムにおいて部分阻害が発生し得る。CD38により触媒される関連するニコチンアミド交換および環化反応において、環化の完全な阻害がニコチンアミド飽和時に発生するが、これは、該共有結合ADPR−Glu中間体が、ニコチンアミドが該部位を離れるまで環化できないからである(Sauveら、1998年;Sauveら、2000年)。CD38に関しては、該中間体はそのβ面でのみ反応し、ニコチンアミドが他の求核剤への接近をブロックする(塞ぐ)一方、SIR2中間体においては、αおよびβ両面で反応が起きる。
【0088】
SIR2中間体の化学的参画
SIR2−ADPR中間体の2種類の活性は、ニコチンアミド飽和時でさえ、共通の中間体から塩基交換および脱アセチル化化学両方を触媒する酵素の能力により、実証される。交換と脱アセチル化反応との間の反応性は、ニコチンアミドが結合した場合、速度定数k(交換)とk(生成物形成)とに従って生じる。この競合は、該中間体を進行および逆行に分配し、脱アセチル化の部分阻害を与える(図2A,B)。該脱アセチル化および交換反応の独立性は、交換がβ表面におけるプロセスであることを確立する一方、脱アセチル化はα表面におけるプロセスである(図5−スキーム1B)。18Oによる研究が、C1’でのβ面においては水が攻撃しないことを確立する一方、そのアシル(基の)カルボニル炭素の攻撃により、α面においては求核剤として作用する(スキーム1C;Sauveら、2001年)。原則的に、これら2つの立体表面により分け隔てられた化学プロセスは、お互いの立体独立性の中で作用し得、競合して該酵素上の中間体を枯渇させ得る。
【0089】
ニコチンアミド分配比は、該中間体のβ対α表面における化学の相対比により、制御される。分画阻害プロット対kcat(交換)/kcat(脱アセチル化)比は、ニコチンアミド阻害が該比に強く相関していることを示す(図3)。該交換および脱アセチル化反応は、該中間体形成ステップのkを分け合い、交換についてはk、脱アセチル化についてはkとして定義される化学プロセスにより、該比が求められる(スキーム1C)。kもkも両方遅いので、中間体の速い反応性はニコチンアミドによる不完全阻害の原因にはなりにくい。該中間体からの交換速度は、イースト菌およびマウスの酵素における脱アセチル化のステップよりも速く、典型的な酵素結合ステップに対して相対的に遅い。これゆえ、該活性中間体に関する別個の2表面競合は、ニコチンアミド阻害のもっともらしいメカニズムである。このモデルの予測は、ニコチンアミド類似体が、それらの塩基交換という挙動により、SIR2酵素を阻害することである。ニコチンアミド類似体は、脱アセチル化の劣った阻害剤であり、塩基交換基質ではない(表2)。例外はマウスの酵素であり、この場合、45%までの脱アセチル化速度の減少が観測される。イースト菌の酵素に関して、これらの誘導体もニコチンアミド塩基交換の劣った阻害剤であり、該中間体もしくは当該酵素のapo形態への貧弱な結合を示唆している。
【0090】
脱アセチル化/交換比を変える
脱アセチル化/交換比の操作に関する概念の証明として、低いニコチンアミド濃度および上昇したイソニコチンアミド濃度は、交換対コントロール(比)の40%の減少に至ったが、脱アセチル化においては僅か5%の減少であった(表2)。これゆえ、塩基交換は、脱アセチル化を凌駕して、優先的に阻害され得る。この結果は、該中間体の化学プロセスの独立性と一貫性がある。イソニコチンアミドおよびニコチンアミドの競合的結合は結果的に、脱アセチル化(α面)には殆ど効果を有さず、塩基交換(β面)の減少を与える。
【0091】
SIR2に関する反応配位ダイヤグラム
反応配位ダイヤグラムは、SIR2による触媒化および阻害のエネルギー・モデルを例示するものである(図4)。マウスおよびイースト菌の酵素に関する反応配位は、ADPR中間体が、これらSIR2酵素の遅い触媒速度特性を説明する大きなエネルギー障壁により、孤立していることを示す。これらの障壁は、安定な該中間体ならびに基質と生成物との結合ステップの平衡化を実証する。バクテリアの場合、該中間体のエネルギーは確認され得なかった。ニコチンアミドによる僅かな阻害は、障壁高さの調節、第1中間体における平衡効果、あるいは両者であることがある。脱アセチル化速度が不変であれば、該中間体のエネルギーを上昇させると、ニコチンアミドによる逆行に対する該酵素中間体の感受性を増加させる。マウスおよびイースト菌の酵素を阻害するニコチンアミドの能力の違いは、ADPR中間体、そのミカエリス複合体、および生成物間の障壁によるものである。マウスの酵素に関して、その平衡定数はそのミカエリス複合体にとって好ましいものであり、ニコチンアミドによる阻害は>95%であった(表3)。イースト菌の酵素に関して、この平衡値は0.48であり、mM(オーダー)のニコチンアミドによる阻害は、阻害なしの場合の速度の65%であった(表3)。ニコチンアミド濃度が低い場合、該中間体の不安定化は触媒効率を毀損しないと思われるが、これは該中間体が、該酵素からのニコチンアミドの解離により、捕捉されるからである。
【0092】
結論
ここに表示されるSIR2による触媒メカニズムは、ニコチンアミドによる阻害を、ペプチジルADPR中間体のその化学的な攻撃の結末であると解釈する。このデータは、SIR2による塩基交換および脱アセチル化に関して提唱された反応メカニズム(Sauveら、2001年)を用いて、完全に解析され得る。これらの知見は、細胞でのSIR2の活性を上昇させる化学的手段を示唆する。ニコチンアミドの分解が、阻害からSIR2を解放する道として示唆されている(Andersonら、2003年)。あるいは、塩基交換を阻害できるが脱アセチル化を阻害できないニコチンアミド類似体が、SIR2のin vivoでの活性化を引き起こすと思われ、現在調査中である。
【0093】
方法および材料
イースト菌のSIR2pが、Guarente研究室の好意により提供されたプラスミドから発現された(Imaiら、2000年)。バクテリアのSIR2Af2が、Wolberger研究室の好意により提供されたプラスミドから発現された(Smithら、2000年)。マウスのSIR2酵素が、精製された形態で、Upstateグループから入手された。逆相HPLCが、Waters Delta 600ポンプ、717オート・サンプラー、および2波長2486検出器上で実施された。p53ペプチドが、市販品から入手された。
【0094】
SIR2による交換および脱アセチル化のアッセイ
300μMのKKGQSTSRHK(KAc)LMFKTEGペプチドを含有するpH7.8の50mMのリン酸カリウムと、選択された濃度(0、10、20、30、45、60、80、90、125、250、360、600、1200)の60μCi/モルの[カルボニル−14C]ニコチンアミドを含有する600MのNADとの反応混合物50μLが、濃縮酵素1μL添加として添加された1μMのSIR2酵素と共に反応された。2時間後、10μLが、0、30、60、90、および120分において分取された。各分取は、pH5.0の50μLの50mM酢酸アンモニウムと組み合わされてクウェンチされ(反応を止め)、脱アセチル化産物およびNADに関して、HPLCによりアッセイされた。準分取用のWatersC−18カラム上(流速2.0mL/分)、溶出液としてpH5.0の50mM酢酸アンモニウムを使用して、そのクロマトグラム(260nm)が得られた。ADPRおよび3’−O−アセチル−ADPRに関するピークが、積分により定量化された。NADに関するピークが収集され、放射能が計数された。速度対ニコチンアミド濃度のプロットは、Kaleidagraphの曲線適合性を有する曲線ν=kcat[S]/([S]+K)を使用して、適合された。脱アセチル化速度対ニコチンアミドのプロットは、テキスト中に記載された式に適合された。2mMのニコチンアミドを用いた実験は、SIR2酵素による脱アセチル化および交換活性におけるこの濃度効果を確認した。
【0095】
ニコチンアミドのアイソスターを用いた脱アセチル化阻害
反応は上記のとおりだったが、塩基反応は、5mMのピラジンアミド、イソニコチンアミド、チオニコチンアミド、もしくはベンズアミドを含有した。反応は37℃において、イースト菌の酵素およびAF2に関して2時間、マウスの酵素に関して3時間実施され、pH5.0の50mM酢酸アンモニウム80μLの添加により、クウェンチされた。生成物の形成は、HPLCにより定量された。CD38は、チオニコチンアミド−NADを合成した。速度は、添加されるべき塩基を欠いたコントロールと比較された。
【0096】
実施例2.
ニコチンアミドによる阻害からの解放による、Sir2依存性転写サイレンシングの、化学的活性化
実施例の要約
小分子エフェクターによる酵素活性のin vivoでの活性化は、稀である。Sir2の通常でないメカニズム(Imaiら、2000年;Landryら、2000年;Smithら、2000年;Sauveら、2001年)および制御特性(Linら、2000年;Kaeberleinら、2002年;Andersonら、2002年;Sandmeierら、2002年;Bittermanら、2002年;Andersonら、2003年;Linら、2004年;Linら、2003年)は、転写サイレンシングのin vivoでの活性化を達成する小分子の接近を示唆する(Ruscheら、2003年)。Sir2によるNAD依存性タンパク脱アセチル化は、ADP−リボシル−イミデート中間体を含んでいる(Sauveら、2001年)。ニコチンアミドは、この中間体の化学的枯渇により、Sir2脱アセチル化酵素活性を阻害するが(SauveおよびSchramm、2003年;Jacksonら、2003年)、in vivoでのSir2のニコチンアミド阻害の重要性が議論される(Andersonら、2003年;Linら、2004年;Linら、2003年)。我々は、Sir2の触媒活性のニコチンアミドによる阻害が、in vitroではイソニコチンアミドにより拮抗され、Sir2の脱アセチル化活性の上昇に至ることを実証する。更に、イソニコチンアミドは実質的に、Sir2により制御される遺伝子座における転写のサイレンシングを上昇させる。これらの研究は、小分子アゴニストがSir2のニコチンアミドによる阻害を救済し、ニコチンアミドがSir2の外因性制御因子であるとの生化学的証拠を与え得ることを実証する。
【0097】
結果および考察
イースト菌のSir2は、NADを使用するクラスIIIヒストン脱アセチル化酵素であって、クロマチンにおいて、ヒストンH3およびH4のN末尾のアセチルリジン残基を脱アセチル化する(Imaiら、2000年;Landryら、2000年;Smithら、2000年)。Sir2の機能は、ヘテロクロマチンの形成および拡大に、ならびに、サイレンシングされて成熟したタイプのその遺伝子座、テロメア、およびその繰り返しrDNAにおける転写のサイレンシングに必要である(Ruscheら、2003年)。SIR2遺伝子投与量を増やすと、転写のサイレンシングおよびゲノムの安定性が増し、イースト菌の複製生活環の延長に至る(Kaeberleinら、1999年)。カロリー制限および高浸透圧も、Sir2依存性経路を通して、イースト菌の寿命を延ばす(Linら、2000年;Kaeberleinら、2002年)。これらの刺激は、Sir2タンパク濃度を上昇させることなく、Sir2触媒活性を上向かせる(Andersonら、2002年)。しかしながら、上向かせるメカニズムおよびSir2活性の外因性制御因子(単数もしくは複数)は、議論が尽きないままである。ニコチンアミド(Bittermanら、2002年;Andersonら、2003年)、NADH(Linら、2004年)、およびNAD(Imaiら、2000年;Landryら、2000年;Smithら、2000年;Linら、2000年)が各々、in vivoでのSir2触媒反応の原則的な制御因子として提案されている。細胞ストレスは、Sir2制御因子濃度を低下させると思われている(Andersonら、2003年;Linら、2004年;Linら、2003年)。カロリー制限は、イースト菌から霊長類までの生物の寿命を延ばし、sirtuinは、多細胞真核生物の寿命および細胞生存率に影響を及ぼすので(TissenbaumおよびGuarente、2000年;Vaziriら、2001年;Luoら、2001年)、Sir2制御の問題は現在、Sir2生物学の最前線にある(HekimiおよびGuarente、2003年)。ニコチンアミド阻害に基づいてSir2制御を理解することは、遺伝子的方法から独立した、sirtuin機能の単刀直入な調節を与えるSir2活性の化学的制御のためのストラテジーを開発するのに使用され得る。
【0098】
Sir2による脱アセチル化化学は、ニコチンアミド、リジンのアミノ基、およびその通常でない代謝物2’−O−アセチルADPR(Sauveら、2001年)を与える(図6a)。その触媒メカニズムは、長寿命のペプチジルイミデート中間体の形成により、開始される。ニコチンアミドは、該イミデート+酵素複合体との結合平衡に到達し、所謂塩基交換反応において反応して、アセチルリジンおよびNADを再生し得る(SauveおよびSchramm、2003年;Jacksonら、2003年。図6a、k)。この反応は、ニコチンアミドによる脱アセチル化阻害を引き起こす通常の定常状態の回転の間に、該イミデート中間体を枯渇させる(SauveおよびSchramm、2003年;Jacksonら、2003年)。これらの知見は、in vivoでのニコチンアミド濃度変化が、Sir2機能を制御し得るとの提案に一致する(Andersonら、2003年;Galloら、2004年)。ニコチンアミドによるSir2の不完全な阻害は、ニコチンアミドとリボース環の2’−ヒドロキシル基とが独立に、該ペプチジルイミデートと反応するというメカニズムを裏付ける(図7b。SauveおよびSchramm、2003年)。ヒストンH4のN末端ペプチドの脱アセチル化はニコチンアミドにより阻害され(Ki=100μM)、阻害を受けない速度の19%まで漸次減少する。この限界は、塩基交換と脱アセチル化反応との間での該イミデート+酵素複合体の分配を樹立し、速度定数kとkとの比により記述される(図1a。SauveおよびSchramm、2003年)。これゆえ、Sir2の化学的メカニズムは、そのニコチンアミド部位において結合した非反応性ニコチンアミド・アイソスターが選択的に塩基交換を妨げ、これにより脱アセチル化速度を上昇させるものと予見させる(図6b。SauveおよびSchramm、2003年)。
【0099】
この予見を評価するために、我々は、塩基交換速度および脱アセチル化速度への、イソニコチンアミドの効果を実証した。イソニコチンアミドは、Vmaxに有意な影響を与えることなく、塩基交換に関しての見かけのKm値を増加させたが(図7a)、これは、ニコチンアミド結合への特異的競合的効果と、NADおよびペプチド結合への非競合的効果とに整合する(図6c)。イソニコチンアミドに関するKiは、これらの曲線に基づいて60mMである。100mMまでのイソニコチンアミド濃度は塩基交換を阻害するが、ニコチンアミド非存在下には、脱アセチル化速度に実質的な影響を与えない(図7b)。ニコチンアミドは、イソニコチンアミド0mMにおいて、Ki(脱アセチル化)とKm(交換)との間で良好な一致を見ながら(SauveおよびSchramm、2003年)、脱アセチル化を阻害する(図7b)。イソニコチンアミドは脱アセチル化を阻害しないが、競合的に塩基交換を阻害するので、イソニコチンアミドは、脱アセチル化のニコチンアミドによる阻害のアンタゴニストとして作動すると予見される。従って、ニコチンアミドに関するKi(脱アセチル化)値は、イソニコチンアミド濃度と共に上昇した(図7b)。これゆえ、イソニコチンアミドは直接、当該塩基交換反応において、ニコチンアミドとの競合的阻害により、ニコチンアミドによる脱アセチル化阻害のアンタゴニストとして作動する。
【0100】
生理学的ニコチンアミド濃度は、50〜400μMであると推定されている(Andersonら、2003年)。100μM程度の低濃度では、細胞中のNAD濃度から独立して、Sir2触媒反応を阻害すると予見される(Bittermanら、2002年;Andersonら、2003年)。我々は、125μMの[カルボニル−14C]ニコチンアミド存在下、塩基交換および脱アセチル化活性へのイソニコチンアミド濃度の効果を検証した。塩基交換は、イソニコチンアミド濃度が上昇するに連れ阻害される。逆に、脱アセチル化活性は、同じイソニコチンアミド濃度範囲に亘り、45%も阻害される(図7c)。これらの条件下での塩基交換の阻害および脱アセチル化の活性化は、ニコチンアミドによるSir2機能の制御が、前記イミデート+酵素中間体に結合しているイソニコチンアミドにより解放され得ることを示唆する(図1)。
【0101】
外因性では通常濃度のニコチンアミドがin vivoにおいてSir2機能を阻害するならば(図6c)、イソニコチンアミドがSir2により制御される遺伝子座での遺伝子のサイレンシングを増強させると予期される。我々は、Sir2依存性転写サイレンシングに付される染色体の遺伝子座各々に統合されたレポーター・ジーンの発現への、イソニコチンアミドの効果を検証した。テロメアのURA3遺伝子(TEL−VIIL−URA3)のサイレンシングは、5−フルオロオロト酸(5−FOA)に対する耐性を与える。イソニコチンアミドは、該テロメアURA3遺伝子のサイレンシングを増強させ、FOA含有培地でのコロニー成長の約10倍の増加により指し示されるとおりであった(図8a)。特記すべきは、イソニコチンアミドは、非選択培地でのコロニー生存数への効果を全く有さなかった。前記した競合的結合メカニズム(図6)と一致して、ニコチンアミド含有培地(サイレンシングを阻害する、Bittermanら、2002年)へのイソニコチンアミドの添加は、中間的成長表現型を生成させた(図8a)。このテロメアのレポーター・ジーンへのイソニコチンアミドの増強されたサイレンシング効果は、ヒストンH3の79番リジンのメチル化において不完全であるdot1Δ株において特に、発揮された(>10倍)。この株では、サイレンシングは、そのテロメアからのSirタンパクの分散により抑制される(van Leeuwenら、2002年)。これゆえ、dot1Δ株においてイソニコチンアミドにより引き起こされた、テロメアの増強されたサイレンシングは、この効果のSir2特異性を実証するものである。これらの株(TEL−VRにおいて統合されたADE2)における第2のテロメア・マーカーのサイレンシングも、イソニコチンアミドにより増強される(データ示さず)。
【0102】
成熟してサイレンシング化されたタイプの遺伝子座でのSir2活性へのイソニコチンアミドの効果は、トリプトファンを欠いている培地での成長により、HMR::TRP1株において測定された(図8b)。TRP1のサイレンシングは、Trp培地での成長を抑制する。イソニコチンアミドの、Sir2活性を上昇させる能力に整合して、Trp培地での成長は、この化合物を欠いている培地に比較して、有意に(10〜10倍)抑制された。逆に、ニコチンアミドにより引き起こされるサイレンシングの減少は結果的に、Trp培地での成長の促進に繋がった。いずれの化合物も、遺伝子的に同系列のsir2Δ株の成長表現型を変化させなかった。これゆえ、テロメア遺伝子座において実証されたとおり(図8a)、ニコチンアミドおよびイソニコチンアミドの効果は、これらのアッセイ条件下では、Sir2に関して特異的である。イソニコチンアミドはまた、HMLにおいてもSir2活性を上昇させた。FOA含有培地、HMR::URA3株、UCC3515、およびUCC4574(Singerら、1998年)を使用して測定された(データ示さず)。
【0103】
Sir2はまた、核小体(仁)へと局在化し、ここで、そのrDNA上で、特殊化されたクロマチン構造を行き渡されるよう機能する(Ruscheら、2003年)。該rDNAの並び中へと挿入された、RNAポリメラーゼIIにより転写された遺伝子のサイレンシングは、SIR2遺伝子投与量に鋭敏であり(Smithら、1998年;Fritzeら、1997年)、ニコチンアミドにより減少される(Bittermanら、2002年;Andersonら、2003年;Galloら、2004年)。FOAに対するRDN1::URA3株の耐性は、イソニコチンアミドが該rDNA遺伝子座でのサイレンシングを増強させることを示唆する(図8c)。これゆえ、イソニコチンアミドは、3種類全タイプのサイレンシング化された遺伝子座において、in vivoでSir2活性を上昇させる。更に、該テロメア遺伝子座およびHM遺伝子座に関して、イソニコチンアミドの効果が、ポジティブおよびネガティブ両方の選択アッセイにおいて、多重にレポーター・ジーンを使用して実証された。
【0104】
PNC1によりコード化されるニコチンアミダーゼの発現増強が、種々のストレス条件に対する応答において観察されており(Smithら、1998年参照)、カロリー制限された細胞において起きると提案されている(Andersonら、2003年)。PNC1の過剰発現は、Sir2依存的サイレンシングを増強し、寿命を延ばし、これらのプロセスにおける外因性ニコチンアミドの阻害的効果を抑え得る(Andersonら、2003年;Galloら、2004年)。増強されたイソニコチンアミドによるサイレンシングが、Sir2への直接の効果(図6b)よりむしろ、PNC1誘導から生じたのかどうか述べるために、我々は、pnclΔ株におけるイソニコチンアミド効果を検証した。他の研究(Sandmeierら、2002年;Galloら、2004年)と一致して、PNC1の欠損は、テロメアURA3遺伝子において、サイレンシング不全を発生させる(TEL−VR−URA3、図9)。この不全は容易に、イソニコチンアミド添加により覆され、FOA含有培地でのコロニー成長の増大発揮(>10倍)により指し示されるとおりであった(図9)。同様に、pnclΔ株におけるHMR遺伝子座(HMR::TRP1)でのサイレンシングは、イソニコチンアミドにより強く増強され、Trp培地での成長の劇的な抑制(10倍)を生み出した(図9)。期待どおり、これらのデータは、in vivoでのSir2活性のイソニコチンアミドによる活性化が、Pnc1から独立していることを実証する。
【0105】
前記したNAD救出経路において、Pnc1によるニコチンアミドの脱アミド化はニコチン酸を生成させ、これは、NPT1遺伝子産物により、対応するモノヌクレオチドへと変換される。NPT1欠損は2〜3倍、細胞内NAD濃度を低下させ、転写サイレンシングを弱め、カロリー制限による寿命の延びを廃する(Smithら、2000年;Sandmeierら、2002年;Linら、2004年)。にもかかわらず、イソニコチンアミドは、nptlΔ株において、テロメアのレポーター・ジーン発現を増強させる(図9)。これゆえ、Sir2のイソニコチンアミドによる活性化はNpt1に依存しておらず、減少した濃度のNADにかかわらず発生する。鍵を握るNAD救出酵素存在下および非存在下において(図8および9)転写サイレンシングを増強させるイソニコチンアミドの能力が、ニコチンアミド塩基交換にアンタゴニストとして作動するその作用のメカニズムの知識(図6および7)と一緒に、通常細胞条件下、Sir2脱アセチル化酵素活性の外因性エフェクターとしてのニコチンアミドに関しての積極的な証拠を与える。
【0106】
Sir2により触媒される脱アセチル化の普通でないメカニズムは、化学的介入への唯一の機会を許容し、その酵素活性を増強させる。ポリフェノール化合物は、その脱アセチル化基質とNADとの両方に関するミカエリス定数の変更により、Sir2脱アセチル化活性を上昇させると提案されている(Howitzら、2003年)。対照的に、Sir2脱アセチル化酵素活性のニコチンアミドによる阻害およびイソニコチンアミドによる活性化は、基質の結合にもNADの結合にも影響を及ぼすことなく、脱アセチル化産物へと向かって進むイミデート+酵素複合体の割合を変えることにより、達成される(図6cおよび7。SauveおよびSchramm、2003年)。これらの知見はSir2のメカニズム的に区別できる小分子活性化剤の組み合わせが更に、in vivoにおいて脱アセチル化酵素活性を上昇させることがあることを示唆する。最終的に、我々は、イソニコチンアミドおよびメカニズム的に同様なSir2活性化剤が、哺乳類sirtuinの特に有効なアゴニストたり得ることを記すが、これはニコチンアミドにより、イースト菌のSir2酵素よりも潜在的に阻害される(SauveおよびSchramm、2003年)。
【0107】
実施例3.2−フルオロニコチンアミドは、塩基交換を阻害することにより、Sir2による脱アセチル化を増強させる
2−フルオロニコチンアミドの合成は、市販の2−フルオロ−3−メチルピリジンから、報告されている方法(Minorら、1949年)と同一のルートにより、達成された。簡潔には、該フルオロメチルピリジンが6酸化当量の過マンガン酸カリウム存在下に熱せられ、その結果得られるフルオロニコチン酸が濾過により単離された。その酸クロリドの引き続いての調製およびアンモニア処理が、良好な収率で、所望の化合物を与えた。この材料は、NMRスペクトルおよびUV/可視光スペクトルにより、構造的に確認された。純度は、逆相HPLCにより確認された。
【0108】
【化11】

【0109】
イースト菌および古細菌由来のSir2酵素により触媒される塩基交換反応および脱アセチル化しない反応の選択的阻害剤としてのこの化合物の使用が、記載される。前記したとおり、in vivoにおけるSir2触媒反応の活性化剤として振る舞う化合物の能力は、Sir2触媒反応のニコチンアミドによる阻害を緩和するその能力に依存する。本願において特徴付けられる作業は、塩基交換および脱アセチル化化学両方に関して応答性の中間体の化学的枯渇を経由して、ニコチンアミドによる阻害が起きることを示す。これゆえ、脱アセチル化および塩基交換活性両方を同時にモニターするアッセイが、可能性ある活性化剤と考えられる小分子による選択的阻害に関してアッセイするのに使用された。
【0110】
我々は好ましいHPLCアッセイを選び、ここでは、35μMの[カルボニル−14C]ニコチンアミドが、pH7.0の50μLの50mMリン酸カリウム中、1μgのSir2酵素、300μMのヒストンH4基質、および600μMのNADと共にインキュベートされた。各溶液も、種々の量の2−フルオロニコチンアミドを、この化合物濃度0、5、10、20、40、および80mMで含有した。反応剤の30分間のインキュベート後、該反応は、pH5.0の200mLの50mM酢酸アンモニウムの添加により止められ、次いで、250μLの全該溶液が、NAD由来もしくはニコチンアミド由来の全化合物の分離に関して、C−18準分取用カラム上へと注入された。脱アセチル化は、反応混合物中のAADPRおよびADPRに関するピークの積分により、アッセイされた。塩基交換反応は、ニコチンアミドおよびNADの該ピークの収集によりアッセイされ、別個にその分画のシンチレーション計数を伴って、回収された放射活性を定量した。初期速度条件を確実にするために、該NAD放射活性は、ニコチンアミドの該ピーク中の全放射活性の10%以下とされた。表4は、その結果を示す。
【0111】
【表4】

【0112】
塩基交換阻害曲線およびこれに対応する脱アセチル化に関して求められた速度値から、我々は、2−フルオロニコチンアミドが選択的に塩基交換のみを阻害し、脱アセチル化を阻害しないことを確認したが、これはSir2の生物学的活性化剤に関して提案されたとおりである。これらのデータはまた、そのニコチンアミド環へのフルオロ置換基の導入による該ニコチンアミド環窒素の反応性の減弱が、天然の阻害性リガンドであるニコチンアミドの追い出しを引き起こすことを確認するものであり、この化合物はニコチンアミドのように振る舞って脱アセチル化を阻害することがない。フルオロニコチンアミドのこの特性は、ニコチンアミドによるSir2阻害の化学的性質と一貫性がある。これゆえ、この研究から、塩基交換触媒反応に応答性の共有結合中間体との化学的反応性の消失が原因でニコチンアミドの結合を防ぐことができるニコチンアミドに似ている小分子をも活性化剤が包含することが、明らかである。
【0113】
上記観点から、本発明の幾つかの利点が達成され、他の利点が獲得されることが、理解される。
【0114】
本発明の範囲から逸脱することなく、上記方法および組成物において、種々の変更がなされ得るので、上記に含まれ添付図面に示される全事項が、例示的なものとして、限定的な意味合いではなく解釈されるものと意図される。
【0115】
この明細書において引用される全文献が、本明細書において援用される。本明細書における文献についての議論は、本著者によりなされた主張を要約することのみ意図され、如何なる文献も、先行技術を構成するとの認識はなされない。出願人は、これら引用文献の精確さおよび適切さに挑む権利を留保する。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】図1は、代表的なSIR2酵素に関するその交換反応速度対ニコチンアミド濃度を求めるためのグラフを示す。酵素の起源は:パネルAはバクテリアのもの、パネルBはイースト菌のもの、パネルCはマウスのもの。(グラフの)線は、ミカエリス−メンテン式に沿うようにされる。
【図2】図2は、バクテリア、イースト菌、およびマウスのSIR2酵素の脱アセチル化速度を、ニコチンアミド濃度の関数として求めるためのグラフを示す。(グラフの)線は、本文中で定義されたとおりの式ν=kcat−kp([I]/Ki+[I])に沿うようにされた。脱アセチル化の残存速度は、そのプラトー(高値一定)である(パネルA)。イースト菌の酵素およびAF2酵素(パネルB)ならびにマウスの酵素(パネルC)に関する、脱アセチル化速度のDixonプロット(1/ν対[I])。実験データは、1次式(パネルC)にもしくは本文中で定義されたとおりに沿うようにされた。
【図3】図3は、ニコチンアミド(結合)部位飽和時のこれら3酵素に関する分画阻害と分画交換との相関グラフを示す。
【図4】図4は、該バクテリア、イースト菌、およびマウスの酵素のk、k、およびk値に基づいた、SIR2反応に関する反応座標のグラフを示す(表3)。該バクテリアの酵素に関しては相対的な障壁高さだけが知られており、その中間体の相対エネルギーは求められていない。結合の様子は示されていない。ΔG=ΔG(中間体)−ΔG(ミカエリス);ΔG=ΔG(中間体)−ΔG(ミカエリス);ΔΔG=ΔG(山2)−ΔG(山1);ΔΔG=ΔG(山2)−ΔG(山1);ΔΔG=ΔG(山1)−ΔG(山2)。
【図5】図5は、スキーム1を示し、これは、アセチル化ペプチドとのSIR2の反応の態様を描くものである。パネルAは、SIR2の脱アセチル化反応に関する、簡略化された反応スキームである。パネルBは、SIR2−ADPR−ペプチジル中間体への競合的求核攻撃が両方の立体化学面から起きることを示すダイヤグラムである。そのリボース環の上面がβ面とされ、C1’におけるニコチンアミドによる求核攻撃が、β−NADの再形成へと至る。この糖(リボース)の下面がα面とされ、同面からその水酸基がそのα−アミデート基を攻撃し、脱アセチル化産物を生成させる。これら2とおりの競合する求核攻撃に関する速度定数が、交換に関してk、脱アセチル化に関してkとして示される。パネルCは、飽和ニコチンアミド濃度での、SIR2中間体の反応を示す(結合ステップは略)。
【図6】図6は、SIR2により触媒される塩基交換および脱アセチル化反応におけるADP−リボシル中間体の反応性の、スキーム表示である。パネルaに示されるとおり、ニコチンアミド(NAM)および2’−水酸基による攻撃が、このリボース部分の反対面上で起き、塩基交換と脱アセチル化との間での化学的競合に至る。ニコチンアミドによる脱アセチル化の阻害は、このイミデート中間体の可逆性からもたらされる。パネルbは、ニコチンアミド結合部位での、イソニコチンアミド(INAM)の、リガンドとしての提案された作用を示す。塩基交換が不可能であるのは、その窒素原子が反応しない位置にあるからである。効率的な脱アセチル化は、該脱アセチル化および塩基交換反応の化学的独立性に起因する。パネルcは、イソニコチンアミド存在下でのイースト菌細胞内部でのNADおよびSir2とのアセチル化ヒストン(活性クロマチン)の反応に関するスキームを示す。外因性ニコチンアミド濃度は、ADPR−イミデートに関して、その(対応する)外因性リガンドと競合する。INAM複合体は、反応して基質を再形成することができない。INAMは、脱アセチル化ヒストン(サイレント・クロマチン)および2’−AADPRを形成する反応を阻害しない。
【図7】図7のグラフは、Sir2により触媒される交換速度およびH4N−末ペプチドの脱アセチル化速度の実験測定値を示しており、[カルボニル14C]ニコチンアミド濃度の関数として測定されている。パネルaは、異なる濃度のイソニコチンアミド下に測定されたニコチンアミド塩基交換速度を示す。交換に関する見かけのKmの上昇は、ニコチンアミド結合とのイソニコチンアミドによる競合阻害による。イソニコチンアミド濃度は、0、60、および100mMであり、Km値はそれぞれ、120、190、および250μMである(そのミカエリス−メンテン式へのこれらの最適点から求めた場合)。パネルbは、パネルaにおいて使用されたのと同じ濃度のイソニコチンアミドを含有する反応における、14C−ニコチンアミド濃度の関数として測定された脱アセチル化速度を示す。阻害曲線は、部分阻害に関して該式へと適合される:相対速度=1−f([I]/(Ki+[I]))であり、ここで相対速度は、これに対応する無阻害速度に基づき1目盛り上に定義される。定数fは、ニコチンアミドの飽和により得られる分画阻害である。[I]はニコチンアミド濃度であり、Kiは見かけのニコチンアミド阻害定数である(SauveおよびSchramm、2003年)。0、60、および100mMのイソニコチンアミドに関するKi値100、180、および330μMは、ニコチンアミド、脱アセチル化阻害剤、およびイソニコチンアミド(阻害剤ではない)間の結合における競合を反映する。パネルcは、固定された生理学的に関連する濃度のニコチンアミド(125μM)下、イソニコチンアミド濃度の関数として測定された塩基交換および脱アセチル化速度を示すが、これはSir2により触媒される脱アセチル化に関して阻害的である(Ki=100μM)。測定は、基質としてH4N−末ペプチド(AGG(AcK)GG(AcK)GMG(AcK)VGA(AcK)RHSC、Imaiら、2000年)を用いて、SauveおよびSchramm(2003年)に記載の方法により、実施された。
【図8】図8は、イソニコチンアミドがSir2により制御される遺伝子座におけるサイレンシングを上昇させることを実証している実験結果の写真である。イースト菌株の10倍稀釈系列が、コントロール(YPD)もしくは選択培地(vanLeeuwenおよびGottschling、2002年)上へと播種された。これらの写真は、インキュベートの2〜3日後に撮影された。テスト培地は、25mMのイソニコチンアミド、5mMのニコチンアミド、もしくは両化合物を含有した。パネルaは、テロメアVIILでのサイレンシングを示し、URA3発現によりモニターされ、FOA含有培地上での生菌数の増加に至る。同系遺伝子株UCC4562(DOT1)およびUCC4554(dot1Δ)(Singerら、1998年)が、各パネルに示される(それぞれ、上段および下段)。パネルbは、HMR遺伝子座でのサイレンシングが、TRP1発現により検出され、トリプトファン欠損培地上での生菌数の減少に至ったことを示す。株CCFY10028(上段)の表現型が、同系遺伝子sir2誘導体(下段)と比較される。このsir2欠損株は、NatMX選択マーカー(Tongら、2004年)を使用して、PCRによる遺伝子破壊により創り出された。パネルcは、株JSS125(S3)30のrDNA遺伝子座におけるURA3発現のサイレンシングが、FOA含有培地上でアッセイされた模様を示す。
【図9】図9は、イソニコチンアミドによるサイレンシングの活性化はPNC1もしくはNPT1を必要としないことを実証する実験結果の写真である。株CCFY100ならびにnpt1およびpnc1同系遺伝子誘導体の10倍稀釈系列が、25mMのイソニコチンアミド有り無しで、YPDもしくは選択培地上へと播かれた。これら欠損株が、Nat−MX選択マーカーを使用して、PCR媒介遺伝子破壊により創り出された(Tongら、2004年)。TEL−VR::URA3におけるサイレンシングが、FOA含有培地上での生菌数により報告され、HMR::TRP1が,トリプトファン欠乏培地上での成長抑制により検出される。
【図10】図10は、古細菌の酵素およびイースト菌の酵素により触媒される塩基交換阻害を、2−フルオロニコチンアミド濃度の関数として示す。その曲線は、式:100−100×([I]/([I]+Ki))=%速度 を使用して、各点へと最適化される。[I]が阻害剤濃度であるとすると、Kiは該阻害剤の結合定数である。これらの曲線は、Sir2p(イースト菌)に関して20mMの結合定数を、Af2Sir2(古細菌)に関して43mMの結合定数を与える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬的に許容可能な賦形剤中にあって、SIR2酵素による脱アセチル化よりも塩基交換を阻害し、式I、式II、式III、式IV、および式Vからなる群から選択され、ここで式Iが構造1〜8:
【化1】

のうちの1つを有し、式中、R、R、R、およびRが独立に、H、F、Cl、Me、OH、NH、CF、もしくはMeであり;Xが、CONHMe、COCH、COCHCH、COCF、CHOH、もしくはCHNHであり;Yが、N、O、もしくはSであり;Y=SもしくはOの場合、対応するRは定められず;式IIが構造9〜18:
【化2】

のうちの1つを有し、式中、R、R、R、およびRが独立に、H、F、Cl、OH、NH、Me、もしくはCFであり;Xが、CONH、CONHMe、COCH、COCHCH、COCF、CHOH、もしくはCHNHであり;Rが、Me、CF、O、もしくはNHであり;式IIはニコチンアミドでなく;式IIIが構造19もしくは20:
【化3】

のうちの1つを有し、式中、R、R、R、R、およびRが独立に、H、F、Cl、OH、NH、Me、もしくはCFであり;Xが、CONH、CONHMe、COCH、COCHCH、COCF、CHOH、もしくはCHNHであり;式IVが構造21もしくは22:
【化4】

のうちの1つを有し、式中の環が、0、1、もしくは2つの2重結合を含んでもよく;R、R、R、およびRが独立に、H、F、Cl、OH、NH、Me、もしくはCFであり;Xが、CONH、CONHMe、COCH、COCHCH、COCF、CHOH、もしくはCHNHであり;Yが、N、O、もしくはSであり;式Vが構造23もしくは24:
【化5】

のうちの1つを有し、式中の環が、0もしくは1つの2重結合を含んでもよく;R、R、およびRが独立に、H、F、Cl、OH、NH、Me、もしくはCFであり;Xが、CONH、CONHMe、COCH、COCHCH、COCF、CHOH、もしくはCHNHであり;Yが、N、O、もしくはSである、化合物。
【請求項2】
前記化合物が式Iを有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記化合物が式IIを有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
前記化合物が式IIIを有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
前記化合物が式IVを有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
前記化合物が式Vを有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
前記化合物が、構造1、2、6、21、22、23、および24(ここで、XがCONHであり、YがNである);構造9(ここで、R〜Rの少なくとも1つがFであり、XがCONHである);構造11(ここで、R、R、R、およびRが独立にHもしくはFであり、XがCONHである);ならびに構造19および20(ここで、R〜Rの少なくとも1つがFであり、XがCONHである)からなる群から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
前記化合物が、構造1および2(ここで、RがCHであり、R、R、およびRがHである);構造6(ここで、R、R、およびRがHであり、RがCHもしくはHである);構造9(ここで、RがFであり、R〜RがHであり、XがCONHである)(2−フルオロニコチンアミド);ならびに構造11(ここで、R〜RがHであり、XがCONHである)(イソニコチンアミド)からなる群から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
前記化合物がフルオロニコチンアミドである、請求項1に記載の化合物。
【請求項10】
前記化合物が2−フルオロニコチンアミドである、請求項1に記載の化合物。
【請求項11】
前記化合物がイソニコチンアミドである、請求項1に記載の化合物。
【請求項12】
医薬的に許容可能な前記賦形剤が更に、請求項1に記載の第2の化合物を含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項13】
SIR2酵素によるアセチル化ペプチドの脱アセチル化よりも塩基交換を阻害する方法であって、請求項1〜12のいずれか1項に記載の化合物を、SIR2酵素、NAD、およびアセチル化ペプチドと組み合わせることを含む方法。
【請求項14】
SIR2酵素が、原核生物もしくは古細菌由来である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
SIR2酵素が、真核生物由来である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記真核生物が哺乳類である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記哺乳類のSIR2酵素がSIR2αである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記哺乳類がヒトである、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記ヒトのSIR2酵素が、SIR2A、SIRT3、SIRT2p、SIRT1p、SIRT1、SIRT2、SIRT3、SIRT4、SIRT5、SIRT6、およびSIRT7からなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
SIR2酵素、NAD、およびアセチル化ペプチドが、生存細胞外の反応混合物中で前記化合物と組み合わされる、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
SIR2酵素が生存細胞中にある、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
前記生存細胞が真核細胞である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記生存細胞が哺乳類細胞である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記哺乳類細胞が生存哺乳類中にある、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記哺乳類がマウスである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記哺乳類がヒトである、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
生存細胞中でのSIR2酵素によるタンパク脱アセチル化を増強させる方法であって、請求項1〜12のいずれか1項に記載の化合物と、該細胞を組み合わせることを含む方法。
【請求項28】
前記細胞が古細菌細胞もしくは原核細胞である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記細胞が真核細胞である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記真核細胞が哺乳類細胞である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記哺乳類細胞がマウスの細胞である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記哺乳類細胞がヒトの細胞である、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記細胞が培養中にある、請求項27に記載の方法。
【請求項34】
前記細胞が生存微生物の一部である、請求項27に記載の方法。
【請求項35】
SIR2酵素の脱アセチル化活性を上昇させる方法であって、請求項1〜12のいずれか1項に記載の化合物を、SIR2酵素、NAD、およびSIR2アセチル化ペプチド基質と組み合わせることを含む方法。
【請求項36】
SIR2酵素が、原核生物もしくは古細菌由来である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
SIR2酵素が、真核生物由来である、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記真核生物が哺乳類である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記哺乳類のSIR2酵素がSIR2αである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記哺乳類がヒトである、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記ヒトのSIR2酵素が、SIR2A、SIRT3、SIRT2p、SIRT1p、SIRT1、SIRT2、SIRT3、SIRT4、SIRT5、SIRT6、およびSIRT7からなる群から選択される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
SIR2酵素、NAD、およびアセチル化ペプチドが、生存細胞外の反応混合物中で組み合わされる、請求項35に記載の方法。
【請求項43】
SIR2酵素が生存細胞中にある、請求項35に記載の方法。
【請求項44】
前記細胞が生存微生物の一部である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
SIR2酵素によるアセチル化ペプチドの脱アセチル化よりも塩基交換を阻害する方法であって、請求項1〜12のいずれか1項に記載の化合物を使用して、SIR2の酵素部位から、ニコチンアミドを追い出すことを含む方法。
【請求項46】
SIR2の脱アセチル化活性を上昇させる能力に関して、テスト化合物をスクリーニングする方法であって、テスト化合物を、反応混合物中、SIR2酵素、NAD、およびSIR2アセチル化ペプチド基質と組み合わせること、ならびに、該化合物が脱アセチル化よりも塩基交換を妨げるかどうか決定することを含む方法。
【請求項47】
前記決定が、放射能標識ニコチンアミドを使用してなされる、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記テスト化合物が、請求項1に記載の構造1〜24のうちの1つを有する、請求項46に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2007−535475(P2007−535475A)
【公表日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518719(P2006−518719)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/020902
【国際公開番号】WO2005/016342
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(591054174)イェシバ・ユニバーシティ (12)
【氏名又は名称原語表記】YESHIVA UNIVERSITY
【Fターム(参考)】