説明

SOFC発電システムおよび出力電圧回復方法

【課題】高燃料利用率・低負荷運転により出力電圧が低下したセルの出力電圧を回復させる。
【解決手段】SOFC発電システムは、複数の発電モジュール1と、発電モジュール1の出力電圧を発電モジュール1毎に測定する電圧測定器14と、発電モジュール1の出力端子と後段の負荷Rとの間を発電モジュール1毎に接続または遮断するスイッチ15と、燃料ガスの流量を制御する供給用バルブ16と、複数の発電モジュール1のうち少なくとも1台の発電モジュール1の出力電圧が所定の閾値以下になったときに、スイッチ15を制御して、出力電圧が閾値以下となった発電モジュール1の出力端子を負荷Rから切り離すと共に、供給用バルブ16を制御して、出力電圧が閾値以下となった発電モジュール1の燃料極と接する燃料ガス流路に燃料ガスを満たす制御部17とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池を用いた発電システムの運転方法に関するもので、特に燃料電池の出力電圧が発電時に低下した際に、その出力電圧を回復させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
新しい分散電源のひとつとして注目されている固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell、以下SOFC)による発電は、他の発電方法と比べて発電容量にかかわらず高効率・低CO2排出量で発電できる点が特長となっており、高温の排熱による良質な温水の供給能力と併せて、様々な分野における分散発電装置として注目されている。現在開発が進められている何種類かの形態のSOFCの中で、平板型SOFCは、平板状の燃料極と電解質と空気極とによってセルが構成され、セルの燃料極側に還元性の燃料ガスを供給し、空気極側に酸素や空気を供給することにより発電を行うものである。平板型SOFCは、平板状の燃料電池セルを積層してスタックを形成することが可能であるため、スタック内部に無駄な空隙が少なく、スタックの小型化・高エネルギー密度化が可能である(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】H.Arai,et al.,“3kW SOFC Power Generation Module Developed by NTT/THG/SPP”,ECS Transactions,25(2),pp.125-132,2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の平板型SOFCでは、燃料ガスの高利用率を維持したままで低負荷運転を継続すると、出力電圧が次第に低下し、最終的にSOFCが機能しなくなるという問題があった。特に大きなSOFCセルを用いたシステムで小さな電力を得ようとする場合にこの問題が顕著であった。このような問題は、限られた厚さの燃料ガス流路を経由して平板型セルの燃料極側全面に燃料ガスを供給するため、電極反応による燃料ガスの消費と反応ガスの生成とに伴って、燃料ガス中の還元性ガス濃度が流路の入口から出口方向に流れるに連れて低下し、流路の出口近傍では十分な燃料ガス濃度が確保できないために起こると考えられる。
【0005】
流路の出口付近でも十分な燃料ガス濃度が確保されるように、発電に必要な量より多くの燃料ガスを供給すれば、出力電圧低下は発生しないが、セルに供給される燃料ガスの一部が排ガス中に未反応のまま排出されることになり、燃料利用率の低下を招くことになる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、高燃料利用率・低負荷運転により出力電圧が低下したSOFCセルの出力電圧を回復させることができるシステムおよび出力電圧回復方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のSOFC発電システムは、固体酸化物形燃料電池(SOFC)セルを一枚又は複数枚用いたSOFCスタックを有する発電モジュールと、この発電モジュールに燃料ガスを供給する燃料供給手段と、前記発電モジュールの出力電圧を測定する電圧測定手段と、前記発電モジュールの出力端子と後段の負荷との間を接続または遮断する切替手段と、前記発電モジュールの出力電圧が所定の閾値以下になったときに、前記切替手段を制御して前記発電モジュールの出力端子を前記負荷から切り離すと共に、前記燃料供給手段を制御して前記発電モジュールの燃料極と接する燃料ガス流路に燃料ガスを満たす制御手段とを備えることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明のSOFC発電システムは、固体酸化物形燃料電池(SOFC)セルを一枚又は複数枚用いたSOFCスタックをそれぞれ有する複数の発電モジュールと、各発電モジュールに燃料ガスを供給する燃料供給手段と、前記発電モジュールの出力電圧を発電モジュール毎に測定する電圧測定手段と、前記発電モジュールの出力端子と後段の負荷との間を発電モジュール毎に接続または遮断する切替手段と、前記複数の発電モジュールのうち少なくとも1台の発電モジュールの出力電圧が所定の閾値以下になったときに、前記切替手段を制御して、前記出力電圧が閾値以下となった発電モジュールの出力端子を前記負荷から切り離すと共に、前記燃料供給手段を制御して、前記出力電圧が閾値以下となった発電モジュールの燃料極と接する燃料ガス流路に燃料ガスを満たす制御手段とを備えることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明のSOFC発電システムの1構成例において、前記制御手段は、前記発電モジュールの出力電圧が所定の閾値以下になったときに、前記燃料供給手段を制御して、この発電モジュールへの水素の流量を通常時の発電に必要な量よりも少なくすることを特徴とするものである。
また、本発明のSOFC発電システムの1構成例は、さらに、前記発電モジュールで発電に利用された燃料ガスを排出する燃料排出手段を備え、前記制御手段は、前記発電モジュールの出力電圧が所定の閾値以下になったときに、前記燃料供給手段と前記燃料排出手段とを制御して、この発電モジュールの燃料極と接する燃料ガス流路内に燃料ガスを密封することを特徴とするものである。
また、本発明のSOFC発電システムの1構成例は、さらに、前記発電モジュールで発電に利用された燃料ガスを排出する燃料排出手段を備え、前記制御手段は、前記発電モジュールの出力電圧が所定の閾値以下になったときに、前記燃料供給手段と前記燃料排出手段とを制御して、この発電モジュールの燃料ガスの出口から燃料ガスの入口へ燃料ガスを循環させることを特徴とするものである。
また、本発明のSOFC発電システムの1構成例において、前記閾値は、単セルあたり0.2Vである。
【0010】
また、本発明のSOFC発電システムの出力電圧回復方法は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)セルを一枚又は複数枚用いたSOFCスタックを有する発電モジュールの出力電圧を測定する電圧測定ステップと、前記発電モジュールの出力電圧が所定の閾値以下になったときに、前記発電モジュールの出力端子を後段の負荷から切り離すと共に、前記発電モジュールの燃料極と接する燃料ガス流路に燃料ガスを満たす出力電圧回復ステップとを備えることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明のSOFC発電システムの出力電圧回復方法は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)セルを一枚又は複数枚用いたSOFCスタックをそれぞれ有する複数の発電モジュールの出力電圧を発電モジュール毎に測定する電圧測定ステップと、前記複数の発電モジュールのうち少なくとも1台の発電モジュールの出力電圧が所定の閾値以下になったときに、この出力電圧が閾値以下となった発電モジュールの出力端子を後段の負荷から切り離すと共に、前記出力電圧が閾値以下となった発電モジュールの燃料極と接する燃料ガス流路に燃料ガスを満たす出力電圧回復ステップとを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高燃料利用率・低負荷運転により発電モジュールの出力電圧が低下しても、出力電圧を回復させることができる。
【0013】
また、本発明では、複数の発電モジュールのうち少なくとも1台の発電モジュールの出力電圧が低下しても、出力電圧を回復させることができ、出力電圧が閾値より大である発電モジュールが1台でもあれば、システム全体の発電を停止することなく、高利用率・低負荷運転により性能が低下した発電モジュールの出力電圧を回復させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係るSOFC発電システムの構成を示すブロック図である。
【図2】単セルスタックを高燃料利用率・低負荷で運転したときと、本発明の実施の形態に係る出力電圧回復処理で回復させたときの単セルスタックの出力電圧および出力電流の経時変化を示す図である。
【図3】単セルスタックを高燃料利用率・低負荷で運転する前と本発明の実施の形態に係る出力電圧回復処理で回復させた後の電流−電圧曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[発明の原理]
本発明は、高利用率・低負荷運転によりセルの出力電圧がある閾値以下まで低下した場合、発電を停止し出力端子を開回路とした上で、燃料極表面を還元雰囲気にした状態で静置することでセルの機能を回復させる。
また、本発明は、発電電力や供給するガスの流量を個別に制御することが可能な2台以上のモジュールから構成されるSOFC発電システムにおいて、各モジュールの出力電圧を随時計測し、出力電圧が一定の閾値以下になったモジュールのみの発電を中止し、出力端子を開回路とした上で、モジュール内の燃料極表面を還元雰囲気にした状態で放置することでモジュールの出力電圧を回復させる。
【0016】
燃料極表面を還元雰囲気にする方法としては、少量の燃料ガスを流し続けるか、あるいは発電中止後に一旦燃料ガス流路に燃料ガスを流して流路中のガスを未反応の燃料ガスに置換した後に、ガス流路の出口と入口を閉鎖してガス流路に燃料ガスを充填する方法が考えられる。燃料極材料の還元に使用される燃料ガスはモジュールに導入されたガスの一部分のみであるため、少量の燃料ガスを流し続ける場合には、モジュールの出口から排出された燃料ガスをモジュールの入口に戻して循環させてもかまわない。
【0017】
高燃料利用率・低負荷運転によりSOFCセルの出力電圧が低下する原因としては、燃料ガス中の還元性ガス分圧の低下により燃料極材料が酸化され、燃料極内に導電性が低い物質が生成されることにより、抵抗成分による電圧降下(IRドロップ)が発生するためと考えられる。SOFCセルの出力端子を開回路にした状態で燃料ガスを導入すると、還元性の高い燃料ガスが燃料ガス流路の出口近傍まで殆ど濃度が変化することなく供給されるため、発電中に酸化された燃料極材料が再び還元され、電圧降下が起こらなくなる。
【0018】
なお、SOFCセルの出力電圧がある閾値以下まで低下した時点で発電を停止する理由は、それ以上電圧を低下させると電解質にクラックが発生し、還元を行ってもセルの出力電圧が回復しなくなるためである。燃料極材料が酸化すると体積の膨張が発生するが、酸化範囲が限定的である間は多孔性の燃料極そのものが材料の膨張を吸収するため、固体電解質薄膜に掛かる応力はそれ程大きくならない。しかし、酸化がより広い範囲に進行すると燃料極が全体として膨張し始めるため、燃料極の上に形成された固体電解質薄膜に亀裂が発生する。したがって、燃料極材料の酸化が限定的で電解質に亀裂が発生しない範囲で発電を中止する必要がある。一方、より高い電圧で発電を中止すれば、短時間の回復処理で出力電圧が回復するが、回復処理の頻度が多くなり、作業が煩雑になる。
【0019】
また、1台のモジュールから構成されるSOFC発電システムでは、回復のためにモジュールの運転を停止するとシステムの発電も止まってしまう。しかし、発電電力や供給するガスの流量を個別に制御することが可能な2台以上のモジュールから構成されるSOFC発電システムであれば、各モジュールの出力電圧を随時計測し、いずれかのモジュールの電圧が一定の閾値以下になった場合はそのモジュールのみの発電を中止し、出力端子を開回路とした上で、モジュール内の燃料極に接する燃料ガス流路に燃料ガスを存在させた状態で静置することにより、システムとしての発電を中止することなく、モジュールの出力電圧を回復させることが可能となる。
【0020】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の実施の形態に係るSOFC発電システムの構成を示すブロック図である。
SOFC発電システムは、SOFCセルを一枚又は複数枚用いたSOFCスタックを有する発電モジュール1と、発電モジュール1に空気を供給する空気供給マニホールド12と、発電モジュール1に燃料ガスである水素を供給する燃料供給マニホールド13と、発電モジュール1の出力電圧を測定する電圧測定器14と、発電モジュール1の出力端子と後段の負荷Rとの間を接続または遮断する切替手段となるスイッチ15と、燃料ガスの流量を制御する供給用バルブ16と、制御部17とから構成される。
【0021】
発電モジュール1のSOFCスタックは、電解質2と、電解質2の一方の面に配置された空気極3と、電解質2の反対側の面に配置された燃料極4と、空気極3と電気的に接触する板状の空気極側セパレータ5と、燃料極4と電気的に接触する板状の燃料極側セパレータ6と、空気極側セパレータ5と燃料極側セパレータ6とを電気的に絶縁する絶縁材7とから構成される。なお、本実施の形態では、電解質2と空気極3と燃料極4とからなるSOFCセルを1枚用いるSOFCスタック、すなわち単セルスタックを例に挙げて説明するが、単セルスタックを複数枚積層したSOFCスタックを用いるようにしてもよい。
【0022】
空気極側セパレータ5と燃料極側セパレータ6と絶縁材7には、空気を供給する空気供給経路8と、燃料ガスを供給する燃料供給経路9とが形成されている。さらに、空気極側セパレータ5には、空気供給経路8からの空気を空気極3に供給する空気供給流路10が形成され、燃料極側セパレータ6には、燃料供給経路9からの燃料ガスを燃料極4に供給する燃料供給流路11が形成されている。空気供給流路10の入口は空気供給経路8と接続され、燃料供給流路11の入口は燃料供給経路9と接続されている。燃料供給経路9と燃料供給マニホールド13と供給用バルブ16とは、燃料供給手段を構成している。本実施の形態では、以上のような構成の発電モジュール1を2台設置している。
【0023】
なお、図1では、空気極側セパレータ5内に設けられる空気排出流路、燃料極側セパレータ6内に設けられる燃料排出流路、空気排出流路の出口と接続され、空気を外部に排出する空気排出経路、および燃料排出流路の出口と接続され、燃料ガスを外部に排出する燃料排出経路については記載を省略している。燃料排出経路と、この燃料排出経路に設けられた排出用バルブ(不図示)と、この燃料排出経路に設けられた接続用バルブ(不図示)とは、燃料排出手段を構成している。
【0024】
次に、SOFC発電システムの通常時の動作について説明する。空気は、空気供給マニホールド12から空気供給経路8およびSOFCセル毎に設けられた空気供給流路10を介して各SOFCセルの空気極3に供給される。水素は、燃料供給マニホールド13から燃料供給経路9およびSOFCセル毎に設けられた燃料供給流路11を介して各SOFCセルの燃料極4に供給される。空気極側セパレータ5には空気極側出力端子18が接続され、燃料極側セパレータ6には燃料極側出力端子19が接続されており、この空気極側出力端子18と燃料極側出力端子19との間に負荷Rが接続されている。通常時においては、スイッチ15が閉状態となっているので、SOFC発電システムで発電された電力が負荷Rに供給される。なお、本実施の形態では、発電モジュール1を2台使用しているため、2台の発電モジュール1が並列に接続されている。
【0025】
発電に利用された後の空気は、SOFCセル毎に設けられた空気排出流路を通り、空気排出経路を介して外部に排出される。発電に利用された後の水素は、SOFCセル毎に設けられた燃料排出流路を通り、燃料排出経路を介して外部に排出される。
【0026】
次に、高燃料利用率・低負荷運転により発電モジュール1の出力電圧が低下したときの動作について説明する。
電圧測定器14は、発電モジュール1の出力電圧(空気極側セパレータ5と燃料極側セパレータ6間の電圧)を常時測定している。
制御部17は、2台の発電モジュール1のうち少なくとも1台の発電モジュール1の出力電圧が一定の閾値以下になったとき、出力電圧が閾値以下となった発電モジュール1に対応するスイッチ15を開状態として、この発電モジュール1を負荷Rから切り離すと共に、出力電圧が閾値以下となった発電モジュール1に対応する供給用バルブ16を制御して、この発電モジュール1への水素の流量を通常時の発電に必要な量よりも少なくする。
【0027】
こうして、出力電圧が閾値以下になった発電モジュール1のみ発電を中止し、出力端子を開回路とした上で、発電モジュール1内の燃料極表面を還元雰囲気にした状態で放置することで、発電モジュール1の出力電圧を回復させる。
なお、制御部17は、出力電圧が閾値以下となった発電モジュール1については、この発電モジュール1の出口側の燃料排出経路と入口側の燃料供給マニホールド13とを接続する接続用バルブ(不図示)を開き、この発電モジュール1の燃料排出経路から排出される水素を燃料供給マニホールド13に戻すことにより、水素を循環させてもかまわない。
【0028】
また、制御部17は、発電モジュール1の出力電圧が閾値以下になったとき、この発電モジュール1に暫く水素を供給して、この発電モジュール1の燃料供給流路11および燃料排出流路中のガスを未反応の水素に置換した後に、この発電モジュール1の出口側の燃料排出経路に設けられた排出用バルブ(不図示)と入口側の燃料供給マニホールド13に設けられた供給用バルブ16とを閉じることで、燃料供給流路11および燃料排出流路に水素を充填するようにしてもよい。
【0029】
なお、本実施の形態では、2台の発電モジュール1を用いたSOFC発電システムを例に挙げて説明しているが、これに限るものではなく、1台の発電モジュールでSOFC発電システムを構成してもよいことは言うまでもない。
【0030】
図2は、直径φ=120mmの平板型SOFCセルを用いた単セルスタックを高燃料利用率・低負荷(燃料利用率95%、放電電流25A)で運転したときと、本実施の形態の出力電圧回復処理で回復させたときの単セルスタックの出力電圧Vおよび出力電流Iの経時変化を示す図である。ここでは、閾値を0.2Vとしている。高燃料利用率・低負荷で運転している場合、電流値一定で運転していても出力電圧Vが徐々に低下していく。図2の例では、480分付近で出力電圧Vが閾値0.2Vに達しており、この時点で発電を中止して本実施の形態の出力電圧回復処理で単セルスタックを回復させると、0.9V付近まで出力電圧Vが回復することが分かる。さらに、出力電圧回復を継続すると、およそ30分間で出力電圧Vが1.2V付近まで上昇した。
【0031】
図3は、直径φ=120mmの平板型SOFCセルを用いた単セルスタックにおいて高燃料利用率・低負荷(燃料利用率95%、放電電流25A)で運転する前と本実施の形態の出力電圧回復処理で回復させた後の電流−電圧曲線を示す図である。図3における30は単セルスタックを高燃料利用率・低負荷で運転する前の電流−電圧曲線、31は単セルスタックを本実施の形態の出力電圧回復処理で回復させた後の電流−電圧曲線である。二つの曲線に殆ど変化は無く、出力電圧Vが一旦0.2Vまで低下した単セルスタックにおいても、本実施の形態の出力電圧回復処理で回復させることにより、運転前と同様な電流−電圧特性が得られることが分かる。すなわち、図3は出力電圧Vが低下したセルの性能を本実施の形態の出力電圧回復処理で回復できることを示している。
【0032】
発電を中止する閾値についての検討を行ったところ、閾値を0.2Vよりも低くすると、このような発電性能の確実な回復は見られなかった。表1に、本実施の形態の出力電圧回復処理により出力電圧が回復したセルの割合と、出力電圧回復処理後に電解質にクラックの発生が確認されたセルの割合を閾値毎に示す。このときの試験は閾値毎に4個のセルを用いて実施した。
【0033】
【表1】

【0034】
発電を中止する閾値を0.2V以上とした場合は100%出力電圧が回復しており、水素供給後にSOFCセルを観察しても電解質でのクラックの発生は確認されなかった。これに対して、閾値を0.1Vとした場合は4個の内1個のセルしか出力電圧が回復せず、閾値を0Vとした場合には出力電圧の回復が全く見られなかった。また、閾値を0Vとした場合、全てのセルの電解質にクラックの発生が観察された。なお、閾値0.2Vは単セルあたりの値なので、単セルをn(nは2以上の整数)枚積層する場合には、閾値を0.2×nVとすればよい。
【0035】
本実施の形態の制御部17は、例えばCPU、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って本実施の形態で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、固体酸化物形燃料電池を用いた発電システムを運転する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1…発電モジュール、2…電解質、3…空気極、4…燃料極、5…空気極側セパレータ、6…燃料極側セパレータ、7…絶縁材、8…空気供給経路、9…燃料供給経路、10…空気供給流路、11…燃料供給流路、12…空気供給マニホールド、13…燃料供給マニホールド、14…電圧測定器、15…スイッチ、16…供給用バルブ、17…制御部、18…空気極側出力端子、19…燃料極側出力端子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池(SOFC)セルを一枚又は複数枚用いたSOFCスタックを有する発電モジュールと、
この発電モジュールに燃料ガスを供給する燃料供給手段と、
前記発電モジュールの出力電圧を測定する電圧測定手段と、
前記発電モジュールの出力端子と後段の負荷との間を接続または遮断する切替手段と、
前記発電モジュールの出力電圧が所定の閾値以下になったときに、前記切替手段を制御して前記発電モジュールの出力端子を前記負荷から切り離すと共に、前記燃料供給手段を制御して前記発電モジュールの燃料極と接する燃料ガス流路に燃料ガスを満たす制御手段とを備えることを特徴とするSOFC発電システム。
【請求項2】
固体酸化物形燃料電池(SOFC)セルを一枚又は複数枚用いたSOFCスタックをそれぞれ有する複数の発電モジュールと、
各発電モジュールに燃料ガスを供給する燃料供給手段と、
前記発電モジュールの出力電圧を発電モジュール毎に測定する電圧測定手段と、
前記発電モジュールの出力端子と後段の負荷との間を発電モジュール毎に接続または遮断する切替手段と、
前記複数の発電モジュールのうち少なくとも1台の発電モジュールの出力電圧が所定の閾値以下になったときに、前記切替手段を制御して、前記出力電圧が閾値以下となった発電モジュールの出力端子を前記負荷から切り離すと共に、前記燃料供給手段を制御して、前記出力電圧が閾値以下となった発電モジュールの燃料極と接する燃料ガス流路に燃料ガスを満たす制御手段とを備えることを特徴とするSOFC発電システム。
【請求項3】
請求項1または2記載のSOFC発電システムにおいて、
前記制御手段は、前記発電モジュールの出力電圧が所定の閾値以下になったときに、前記燃料供給手段を制御して、この発電モジュールへの水素の流量を通常時の発電に必要な量よりも少なくすることを特徴とするSOFC発電システム。
【請求項4】
請求項1または2記載のSOFC発電システムにおいて、
さらに、前記発電モジュールで発電に利用された燃料ガスを排出する燃料排出手段を備え、
前記制御手段は、前記発電モジュールの出力電圧が所定の閾値以下になったときに、前記燃料供給手段と前記燃料排出手段とを制御して、この発電モジュールの燃料極と接する燃料ガス流路内に燃料ガスを密封することを特徴とするSOFC発電システム。
【請求項5】
請求項3記載のSOFC発電システムにおいて、
さらに、前記発電モジュールで発電に利用された燃料ガスを排出する燃料排出手段を備え、
前記制御手段は、前記発電モジュールの出力電圧が所定の閾値以下になったときに、前記燃料供給手段と前記燃料排出手段とを制御して、この発電モジュールの燃料ガスの出口から燃料ガスの入口へ燃料ガスを循環させることを特徴とするSOFC発電システム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のSOFC発電システムにおいて、
前記閾値は、単セルあたり0.2Vであることを特徴とするSOFC発電システム。
【請求項7】
固体酸化物形燃料電池(SOFC)セルを一枚又は複数枚用いたSOFCスタックを有する発電モジュールの出力電圧を測定する電圧測定ステップと、
前記発電モジュールの出力電圧が所定の閾値以下になったときに、前記発電モジュールの出力端子を後段の負荷から切り離すと共に、前記発電モジュールの燃料極と接する燃料ガス流路に燃料ガスを満たす出力電圧回復ステップとを備えることを特徴とするSOFC発電システムの出力電圧回復方法。
【請求項8】
固体酸化物形燃料電池(SOFC)セルを一枚又は複数枚用いたSOFCスタックをそれぞれ有する複数の発電モジュールの出力電圧を発電モジュール毎に測定する電圧測定ステップと、
前記複数の発電モジュールのうち少なくとも1台の発電モジュールの出力電圧が所定の閾値以下になったときに、この出力電圧が閾値以下となった発電モジュールの出力端子を後段の負荷から切り離すと共に、前記出力電圧が閾値以下となった発電モジュールの燃料極と接する燃料ガス流路に燃料ガスを満たす出力電圧回復ステップとを備えることを特徴とするSOFC発電システムの出力電圧回復方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−26179(P2013−26179A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162931(P2011−162931)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】