説明

SeakemGoldアガロースを含む分泌細胞含有マクロビーズ、及びその利用方法

本発明は、アガロースによって被覆された分泌細胞含有ビーズ構造物の製造方法と利用方法とについて記載する。好ましくはその直径が4mm〜12mmであり、好ましくは膵島を含有する前記ビーズは、特定のアガロース、すなわち、Seakem Goldアガロースから形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、ここにそれらの全体を参考文献として合体させる2004年11月17日出願の仮出願第60/629,277号と、2005年9月26日出願の仮出願第60/720,917号との優先権を主張するものである。
【0002】
発明の分野
本発明は、アガロースによって被覆された分泌細胞含有アガロースマクロビーズの質と量を改善するための方法に関する。これは下記のSeakem Goldアガロースの使用によって達成される。
【背景技術】
【0003】
今日、膵島補充療法が種々の障害を有する患者の治療のために有効なアプローチであることが確立している。これらには、上腹部摘出を受けるガン患者(ツァキス(Tzakis)ほか,Lancet 336: 402-405(1990));膵炎(クレイトン(Clayton)ほか,Transplantation 76: 92-98 (2003);ファーニー(Farney)ほか,Surgery 110: 427-437 (1991);フォンテス(Fontes)ほか,Transplant Proc 24: 2809 (1992);オーベンホルツァー(Obenholzer)ほか,Transplantation 69: 1115-1123 (2000);ロバートソン(Robertson)ほか,Diabetes 50: 47-50 (2001)),および、膵島移植が治療オプションであるインスリン依存患者(ゴス(Goss)ほか,Transplantation 74: 1761-1766 (2002);リコルディ(Ricordi)ほか,Transplantation 75: 1524-1527 (2003);リャン(Ryan)ほか,Diabetes 50: 710-719 (2001);シャピロ(Shapiro)ほか,N. Engl. J. Med 343; 230-238 (2000)、が含まれる。
【0004】
上述したように、治療における膵島の有用性により、勿論、それらを単離する方法の開発が注目されている。自動化方法を使用する単離について多くの報告があるが(ブランドホースト(Brandhorst)ほか,Exp. Clin, Endocrinol Diabetes 103 Suppl. 2: 3〜14 (1995),クイ(Cui)ほか,Cell Transplant 6: 48-54 (2001);マルケッティ(Marchetti)ほか,Transplantation 52: 209-213 (1991);ミヤモト(Miyamoto)ほか,Cell Transplant 7: 397-402 (1998);ニールセン(Nielsen)ほか,Comp. Med. 52: 127-135 (2002);スワンソン(Swanson)ほか,Hum. Immunnol62: 739-749 (2001);トゥーミー(Toomey)ほか,Brit. J. Surg. 80: 240-243 (1993);トソ(Toso)ほか,Cell Transplant 9: 297-305 (2000);ウェンバーグ(Wennberg)ほか,Transplant, Proc. 33: 2537 (2001)),膵島の単離が困難であることはいまだに悪名高い。例えば、ボスタ(Bosta)ほか,J. Investig Med 43: 555-566 (1995);クリックハーン(Krickhahn)ほか,Cell Transplant 11: 827-838 (2002);クリックハーン(Krickhahn)ほか,Ann Transplant 6: 48-54 (2001),オニール(O’Neil)ほか,Cell Transplant 10: 235-246 (2001)およびホワイト(White)ほか,Horm. Metab, Res31: 579-524 (1991)これらはすべてこれに関する問題について記載している。
【0005】
分泌細胞および/又は細胞小器官、例えば、ガン細胞、膵島、など、を含むマクロビーズの製造は周知である。例えば、米国特許第6,818,230;6,808,705;RE 38,027;6,303,151;6,224,912;5,888,497および5,643,569号、更に、米国特許出願公開第2005/0096561号、を参照。ここに、これらの全てを参考文献として合体させる。
【0006】
アガロースは、これら特許文献において生物材料をカプセル化するために使用され、その後、それによって得られた構造物を第2のアガロース層で更にカプセル化している。
【0007】
アガロースに関する当業者には、この利用可能な材料に様々なタイプ及び多様性があることが認識されるであろう。そのようなアガロースの一つのタイプであるSeakem Goldアガロースは、ここにその開示内容を参考文献として合体させる米国特許第4,983,268号に記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許および出願に最初に記載された材料の改良版を得ることが必要とされ続けている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
今般、Seakem Goldアガロースによって、従来技術の製品よりも予想外に優れた製品が得られることが見出された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の詳細について以下の開示に説明する。
【0011】
図面の簡単な説明
図1はテストおよび対照動物の平均の1日の血糖値に関する情報を示している。
【0012】
ここでの使用において、「マクロビーズ」という用語は、直径が約4mmから約10〜12mm、最も好ましくは直径が約6mmから約8mmである実質的に球形である構造物をいう。前記第2アガロース層の厚みは、好ましくは、約0.05mm〜約5mm、より好ましくは約0.5mm〜約5mm、更に好ましくは約1.0mm〜3mm、そして最も好ましくは約1.0mm〜2.0mmである。第2アガロース層は、Seakem Goldアガロースとすることができるが、必ずしもSeakem Goldアガロースにする必要はない。
【0013】
「マクロビーズ」は、好適な構造物として使用されるが、分泌細胞をカプセル化し、そして、好ましくは、第2のアガロース層によって被覆された任意の固体のアガロース構造物が本発明の特徴である。
【0014】
前記分泌細胞は様々なものとすることができる。所望の分泌産物を産生する任意の細胞又は細胞小器官をカプセル化することができる。そのように使用可能な材料の例として、膵島、ガン細胞、幹細胞がある。各ビーズは、様々な数の細胞小器官を含むことができ、例えば、膵島の場合、約50〜約5000個の膵島、好ましくは、約100〜約2500個の膵島、更に好ましくは、約250〜約1000個、そして最も好ましくは約475〜約550個の膵島を含むことができる。約500個の膵島が特に好適である。
【実施例】
【0015】
例1
ここにその全部を参考文献として合体させる、2006年6月8日に第11/273,737号として公開された、ガズダ(Gazda)ほかの特許出願公開第2006/0121445号に記載の方法に従って、膵島を単離した。ただし、本発明はこの特定の単離方法に依存するものではないので、膵島の単離のためにその他の方法も可能であり、それらを使用してもよいことが銘記される。
【0016】
単離と評価の後、適当な膵臓を更に処理した。前記腺から脂肪と結合組織とを除去し、その後、主膵管に、16gのステンレス鋼、鈍端ニードルをカニューレ挿入した。コラゲナーゼPを1.5〜2.0g/lの濃度で含有するHBSSの溶液を、50ml/mmの速度で、30℃で潅流して、膵臓重量gあたり2mlの溶液を作製した。
【0017】
その後、前記膵臓を、30℃で、200mlのコラゲナーゼ溶液と共に、500mlのHBSSと2%のPSで被覆した。39℃の水をゆっくりと外部循環させることによって前記器官を37℃まで暖め、36〜37℃の消化温度(digestatetemperature)に維持した。前記器官が解離されたように見え、手による圧力に対してほとんど抵抗を示さないようになった時(約10〜20分間の総時間後で37℃に達してから5〜10分間)、消化を停止した。
【0018】
次に、収集された消化物を遠心分離にかけて、上清を吸引し、それによって得られたペレットを10%PSと器官保存溶液中に懸濁させた。その後、膵島を、50mlの試験管中にて2%PSを添加したHBSSで、1.105,1,095,1.085および1.05g/cmの濃度勾配で、不連続フィコールによって精製した。前記試験管を4℃にて650gで遠心分離にかけ、膵島含有層を収集し、10%PS添加HBBS中で三回洗浄し、その後、それらを、解剖顕微鏡を使用して、非膵島組織について手作業で精製した。膵島を再懸濁し、膵島収率の算出のために二つの0.5mlのサンプルを使用した。
【0019】
テストした10の膵臓の平均収率は、130,000EINであり、消化組織1グラム当たり1,101EINの平均値であった。純度は全てのケースにおいて90%以上であった。前記器官の9個について、膵島生存率は89%以上であった。
【0020】
例2
上記で暗示したように、膵島の単離後、純度、生存率を含む様々なパラメーターを測定した。
【0021】
純度は、約500のEINをDTZで10分間染色することによって評価し、その後、解剖顕微鏡とデジタルカメラとを用いて、標準的な画像分析を行った。
【0022】
生存率は、フルオレセイン二酢酸(FDA)とエチジウムブロマイド(EB)とでサンプルを染色することによって測定した。詳述すると、約500のEINを1mlのRPMI、10%PSと1%の抗生剤/抗菌剤(antimyotic)(A/A)に添加した。次に、10mgのFDAと1mのアセトンとで予め作製しておいた20μlのFDA染色液と、30μlのEBと1mlのPBSとで予め作製しておいた200μlのEBとを添加した。膵島を暗所で7分間染色し、次に、10〜50の膵島のランダムサンプルを、蛍光顕微鏡で観察し、写真撮影して、標準画像分析を使用して生存率を測定した。
【0023】
前記膵島のインスリン含有量も、約500のEINを酸アルコール抽出溶液(7.2mlのIN HCl,400mlの100%変性エタノール)中に置くことによって測定した。サンプルを−20℃で保存し、インスリンRIAを行った。
【0024】
【表1】

【0025】
例3
この例と、これ以降の例とは、上述したようにして有用であるとして同定され単離された膵島がマクロビーズに使用可能であるか否かという問題を扱うものである。
【0026】
精製した膵島を、RPMI 1640+10%PS+1% A/A中で、2000EIN/mlの量にまで再懸濁した。各試験管が2000EINで1mlの懸濁物を含むように、膵島は試験管に均質に分けられた。
【0027】
重力による沈殿後、上清を除去し、2.5% HEPES緩衝液を添加した最小必須培地中で50℃にて調製した1.5% Seakem Goldアガロース0.5mlを各サンプルに添加し均一に混合した。次に、前記懸濁物を無菌ミネラルオイルの下方に排出し、スムースな表面と等しい膵島分布を有する4つのビーズを作った。
【0028】
マクロビーズを取り出し、二回洗浄(RPMI+5%PS+1% A/A)した。これらのマクロビーズを同じ溶液中で、加湿5%CO雰囲気中で、5〜7日間培養し、その後、それらをRPMI+1% A/A中で三回洗浄し、その後、第2のアガロースコーティングの塗布を行った。このために、60℃で、HEPES緩衝液を添加した最小必須培地中5%のアガロース0.5mlを、ピペットを介して、無菌プラスチックスプーンに移し、各マクロビーズを3〜5回ローリングして均質な第2アガロースコーティングを作製した。無菌ミネラルオイルに移してスムースな表面を作製した後、マクロビーズを取り出し、RPMI+2.5%PS+1% A/A中で二回洗浄し、加湿した5%COと空気中で37℃にてインキュベートした。勿論、ビーズ製造のためのその他の方法を使用することも可能である。
【0029】
カプセル化膵島を含むマクロビーズを測定したところ6ヶ月間以上に渡って生存し続け、その期間中、ラジオイムノアッセイはそれらが良好なレベルのインスリンを産生し続けたことを示した。
【0030】
例4
この例は、ブタ膵島がイン・ヴィヴォで作用する能力を証明する実験について記載するものである。
【0031】
オスの非肥満糖尿病CB17−PrKdc<scid>Jマウス、7〜9週齢を使用した。1週間の順化後、前記動物に275mg/kgのストレプトゾトシンを与えた。これは糖尿病を誘発するものである。9日間後、それらの血糖値が平均で480mg/dlを超えたときに、それらのインスリン療法を開始した。
【0032】
ストレプトゾトシン投与後の34〜35日目、前記動物に約1000EINのブタ膵島を与え、これらは、ここに参考文献として合体させるボーウェン(Bowen)ほか,Aust. J. Exp. Biol. Med. Sci, 58:441-447(1980)に従って、血液に移植された。簡単に説明すると、膵島を懸濁液からペレット化し、培地を吸引した。次に、約5〜10μlの血液を前記動物から採取し、前記膵島に添加し、凝固させた。前記移植動物を等量のケタミン(167mg/dl)、キシラジン(33mg/ml)と生理食塩水で麻酔した。前記混合物を0.5ml/100gの投与量で皮下投与した。左脇腹に小さな切開を形成し腎臓を露出させ、解剖顕微鏡を使用して、腎臓の嚢(capsule)に小さな切開を形成した。次に、前記嚢を腎臓から分離し、前記膵島/血栓をカプセルの下に置き、前記切開を閉じ、動物を回復させた。
【0033】
前記移植後の38〜39日目に、前記動物に対して腎摘出を行った。簡単に説明すると、麻酔後、移植片を有する腎臓を露出させ腎血管を結刹し、各動物の腎臓を取り出した。5日後、動物を屠殺し、完全な膵島ベータ細胞破壊の組織学的確認のために膵臓を収集した。
【0034】
組織サンプルを10%中性緩衝製剤中に24時間載置し、次に、70%エチルアルコールに移した。
【0035】
この後、前記組織をパラフィンに包埋して5μmの切片をヘマトキシリンとエオシンで染色した。膵臓および移植腎臓切片を、標準方法を使用して、インスリンおよびグルカゴン含有細胞を染色し、その後、それらを調べた。
【0036】
前記マウスの全てが、膵島移植後に正常血糖になった。腎摘出後、全てのマウスが、4日間以内に高血糖になった。
【0037】
例5
この例は、異なるアガロースから製造されたアガロース−アガロース被覆ビーズが、移植動物においてどの程度、組織反応、すなわち、炎症、を引き起こすか、を測定するように構成された実験を記載するものである。
【0038】
二系統のラット、すなわち、Wistar系およびSprague Dawley系ラット、を使用した。全部で29匹のラットをテストした(Wistar系14匹、Sprangue Dawley系15匹)。各系統の3匹のラットを使用して、本発明のSeakem Goldアガロース−アガロース被覆ビーズをテストした。各系統の3匹のラットを使用してアガロースタイプFMC HGT(P)及びAmrescoをテストした。2匹のWistar系ラットを使用してSigma HVアガロースをテストし、4匹のSprangue Dawley系ラットも同様に使用した。最後に、3匹のWistar系ラットを使用してSigma LVアガロースビーズをテストし、2匹のSprangeuDawley系ラットも同様に使用した。
【0039】
2匹の例外を除いて、各タイプの全部で60個の空ビーズを前記ラットの腹腔に移植した。2匹のSprague Dawley系ラットには、54又は59のSigma HVアガロースビーズを与えた。前記ラットを3ヶ月間観察し、その後、屠殺した。様々な器官を取り出して炎症(脾臓、肝臓、腎臓、骨格筋、膵臓および腸間膜)を調べた。
【0040】
組織を、American College of Veterinary Pathologyによって認可されている基準を使用した炎症によって評価した。評価には、実質的には以下のように、炎症を評価するために6ポイントスケールを使用した。
【0041】
0=正常
1=最小(10%以下の炎症)
2=軽度(10〜25%の炎症)
3=中度(25〜50%の炎症)
4=強度(50〜75%の炎症)
5=重度(75%以上の炎症)
【0042】
各動物の前記組織を評価し、その後、平均化した。その結果を下に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
本発明のアガロース−アガロース被覆ビーズが最も炎症性が低いことは明白であった。
【0047】
本発明のビーズをFMC HGT(P)アガロース(FMC HGTPアガロース)から成り、それによって被覆されたビーズと比較する、犬に対する追加の炎症研究を行った。ここでも、本発明のアガロース−アガロース被覆ビーズが最も炎症性が低かった。
【0048】
更なる研究において、犬に、ブタ膵島を含有する本発明のアガロース−アガロース被覆ビーズを与えた。これらの動物を2.5年間後に屠殺したが、最小限の炎症しか観察されなかった。非移植対照動物との比較において、腹膜と腸間膜は顕著に正常な外観であった。
【0049】
例6
これらの実験において、イン・ヴィトロで培養された膵島含有Seakem Goldアガロースマクロビーズが、対照(空)のマクロビーズと比較された。
【0050】
Seakem Goldアガロースにカプセル化された膵島を、例3において前述したように調製した。
【0051】
自然発生的に糖尿性である12匹のオスBBラットを被験動物として使用した。全ての動物は10〜15週齢であり、3〜16日間にわたって臨床的に糖尿性であることが示されていたものである。
【0052】
20〜21日間の生存後、前記BBラットを、ケタミン/キシラジン/NaClを2.2〜2.3ml/kg体重の投与量で皮下投与することによって麻酔した。麻酔後、前記動物に、1日あたりのインスリン必要量の1.0倍に等しい投与量の膵島含有マクロビーズのインプラント、又は、同量の空マクロビーズ、のいずれかを与えた。
【0053】
移植後、前記動物を観察し、一般的状態(良好、良、又は不良)、体重、血糖、尿糖、尿ケトン、を含む臨床知見を毎日記録した。研究を通して血清サンプルを収集して、インスリン、グルカゴン、ブタCペプチド、の測定に使用した。ラジオイムノアッセイを使用してこれらのパラメーターを測定した。腹腔内耐糖性テストも行った。
【0054】
移植の97日間後、前記動物に対して完全検視(complete necroscopies)を行った。動物を麻酔し、放血し腹腔を露出させた。
【0055】
研究の97日の期間全体を通して、膵島含有Seakem Goldアガロースビーズを投与されていた6匹の動物はインスリンの投与を必要としなかった。これは空のマクロビーズを投与された動物と対照的である。これら動物には、血糖値が300〜500mg/dlにまで上昇したので、研究開始後2日間から始めて外因性インスリンを投与された。これらの対照動物のうちの2匹は、おそらくインスリン欠損のために、研究の3日目に死んでいた。
【0056】
対照と比較して、膵島含有Seakem Goldアガロースビーズを投与された動物において平均日間血糖値は遥かに低かった。又、前記6匹のテスト動物は、インスリン療法無しでも、非常に狭い範囲の日間血糖変化しか示さなかった。
【0057】
1ヶ月後、前記膵島を投与されたこれらの動物は中度の高血糖になったが、限られた血糖変動(約100mg/dl)しか示さなかった。これは、2〜3U/日の外因性インスリンを投与したにもかかわらず約400〜500mg/dlの極端な変化を示した対照と対照的である。
【0058】
I型糖尿病の臨床診断を確認するために、全ての動物に対して最初、腹腔内耐糖性テストを行った。このテストは、移植の8および90日後にも行われた。移植の5日間前、グルコースチャレンジ(challenge)に対する反応は明白ではなかったが、移植後8日目に、膵島含有マクロビーズのレシピエントはグルコースチャレンジに対する顕著な反応、すなわち、血糖の初期上昇と、その後の、正常血糖値への復帰、を示した。上述したように同時にインスリン療法を行ったにもかかわらず、前記空マクロビーズを投与された動物においても高血糖は抑制されなかった。
【0059】
移植の90日間後、もう一つの腹腔内耐糖性テストを行った。前記膵島マクロビーズを投与されたラットについて再びベースライン血糖値を再度確立したが、出発血糖値ははるかに高いものであった、すなわち、それは約400m/dlであった。空マクロビーズを投与されたラットはベースライン血糖値を再度確立することができなかった。
【0060】
ブタC−ペプチドについてのアッセイでは、移植前の動物における研究においても、又、空マクロビーズレシピエントからもペプチドは検出されなかった。これに対して、膵島マクロビーズを移植されたラットの血清中では、移植の21日間後での0.880 0.249ng/mlから研究の終了時での0.662 0.160ng/dlまでの平均レベルでペプチドがルーチン的に検出された。
【0061】
研究動物は、更に、糖尿、ケトン尿症、および炭酸水素塩投与の必要性、に関してもテストされた。移植前には有意な差は無かったが、この後、膵島マクロビーズレシピエントでは糖尿(81中の67に対して56のサンプル中の37)とケトン尿症(54中の32に対して64のサンプル中20)との発症が遥かに少なかった。炭酸水素塩療法の必要性も大幅に低下した(26に対して2の処置)。
【0062】
例7
以下の実験は、膵島をカプセル化するSeakem Goldアガロースが、長期間にわたってイン・ヴィトロで培養することが可能であり、それでも機能を維持することを示すものである。
【0063】
これらの実験において、上述した例6のラットと同じ基準を満たす12匹の糖尿病BBラットの組を使用し、23匹のWistar-Furth系ラット、7週齢も使用した。この第2群のラットは正常対照として作用した。
【0064】
これらのWistar-Furth系ラットのうちの5匹に、その尾静脈を介して、65mg/kgのストレプトゾトシンを投与して糖尿病を誘発させた。二つの連続血糖読み取り値>500m/dlが観察された時、ラットは、後述するようにしてインスリン療法を受け始めた。
【0065】
0.1ml/100gのケタミン/(60mg/ml),キシラジン(6mg/ml),/ブタルフェノール(3mg/ml)投与量の筋肉内投与を使用して、到着後20〜21日で動物を麻酔した。
【0066】
麻酔後、全てのBBラットに、上述したようにして、膵島を含有するSeakem Goldアガロースビーズを与えた。これらラットを4匹の3つの組に分け、9週間、40週間又は67週間、イン・ヴィトロで培養したマクロビーズを与えた。投与したマクロビーズの量は、動物の1日のインスリン必要量の1.0倍に等しいものとした。
【0067】
前記Wistar-Furth系ラットのうちの5匹には、イン・ヴィトロで7.8〜11.5週間培養したマクロビーズを、前記BBラットと同じ投与量、投与した。これはWistar-Furth系ラット1匹あたり約45〜49のマクロビーズ、BBラット1匹あたり56〜60のマクロビーズである。
【0068】
前記実験中、ラットは、平均で75g体重増加した。その結果、最初の移植の97日目に、BBラットに追加の移植を行った。ラットの平均の移植前インスリン必要量は0.0083Uインスリン/g体重であった。この値から、24時間当たり39.19mUのインスリンを作り出すために追加の17個の膵島含有マクロビーズが必要であることが計算された。後述するように、第2の移植前に、各ラットから4個のビーズが取り除かれたので、19週間培養された21個のマクロビーズが投与された。Wistar-Furth系ラットには第2の移植を行わなかった。
【0069】
ここでも、例7で行った種々のアッセイを、同じ方法を使用して行った。
【0070】
移植の201〜202日目に、上述したようにして、完全検視を行った。
【0071】
平均の1日あたりの糖値が図1に示されている。移植後、約1ヶ月で全てのBBラットにおいて正常血糖値(100〜200mg/dl)が回復した。この後、BBラットにおいて中程度の高血糖値(200〜400mg/dl)が生じ、これは研究の残り期間を通して持続した。中程度の高血糖値と最大体重増加とは同時に起こった。体重が一定に留まったのに対して、糖値は研究の残り期間を通して300〜400mg/dlの間で変動した。ビーズのイン・ヴィトロ培養時間の長さにかかわらず、膵島含有Seakem Goldアガロースマクロビーズを投与された前記3群のラット間では平均の1日の血糖値に差は無かった。
【0072】
糖尿病が誘発された前記Wistar-Furth系ラットも、約1ヶ月、正常血糖値を示し、その後、中程度の高血糖値が観察された。
【0073】
上述したように、研究に入って97日間でBBラットに第2の移植が行われた。この第2の移植は1日の血糖値に影響を与えなかった。
【0074】
ブタCペプチドも分析され、3群のBBラット全てに検出された。実験の最初の88日間の間、平均ブタCペプチドレベルは0.6〜0.9ng/mから0.2〜0.4ng/mlへと低下した。116日間後、前記第2移植の後、ペプチドレベルは、平均で0.3〜0.7n/mlへと増加し、検視において腹膜液で40倍の増加が観察された。
【0075】
膵島マクロビーズ移植を受けた全てのラットに対して、研究期間全体を通してグルコースチャレンジ処理が行われた。培養時間の異なるマクロビーズ間において、移植後のグルコースチャレンジに対して応答するマクロビーズの能力において差は観察されなかった。詳述すると、全てのBBラットの血糖値は、100〜200mg/dlの初期値からおよそ二倍になった。ベースライン血糖への復帰は、12匹の動物中10匹において120分間以内に起こった。この応答は、正常なWistar−Furth系動物において観察されたものに類似したものであった。
【0076】
全ての研究動物は確かに最終的には高血糖になったが、移植後105日目でのグルコースチャレンジは、血糖における初期上昇を示し、その後、ベースライン血糖値に戻った。移植後の200日間において、グルコース投与後にベースライング血糖値においてわずかな増加があっただけで、その後、ベースライング血糖値に戻った。
【0077】
これらの研究における結果は、前述のTransplantationにおけるジャイン(Jain)ほかの研究との比較において、そのアガロースがSeakem Goldである場合、膵島を含有するアガロースビーズが、ジャイン(Jain)ほかによって報告されたものよりも予想外に良好である、ということを示している。例えば、ジャイン(Jain)ほかの報告では200日までに対象動物の40%が死亡したのに対して、本発明のマクロビーズでの死亡率はゼロであった。更に、ここに達成された結果は、ジャイン(Jain)ほかによって報告されたものの半分の数のマクロビーズを使用して達成されたものである。更には、ここでは詳述を避ける結果において、検視後、回収されたマクロビーズのインスリンの産生レベルを測定したところ、それはジャイン(Jain)ほかによって報告されている検視後に回収されたマクロビーズのレベルよりも遥かに高いものであった。
【0078】
例8
本発明のビーズの強度を、FMC HGT(P)アガロースから形成され、それによって被覆されたビーズと比較するための実験を行った。
【0079】
これらのテストにおいて、ビーズを、個々に、上下のプレートを備える圧縮装置に入れた。上方プレートを毎分12インチの速度で降下させ、ビーズをそれらが破裂するまで圧縮した。lbf単位での圧縮力(最大圧縮力)を測定した。
【0080】
HGT(P)の場合、最大圧縮力は0.714lbfから3.183lbfの範囲であり、平均は1.958、標準偏差は0.5444であった。本発明の製品の場合、その範囲は2.322lbfから6.418lbf、平均は4.282、標準偏差は1.096であった。
【0081】
明らかに、本発明のビーズの方が、他のアガロース−アガロース被覆ビーズよりも強度が高かった。
【0082】
以上の例は、使用されるアガロースがSeakem Goldアガロースであるアガロースによって被覆された、分泌細胞含有アガロースマクロビーズに関する、本発明の様々な特徴構成を記載するものである。
【0083】
ここでの使用において、「マクロビーズ」という用語は、直径が約4mmから約10〜12mm、最も好ましくは直径が約6mmから約8mmである実質的に球形である構造物をいう。前記第2アガロース層の厚みは、好ましくは、約0.05mm〜約5mm、より好ましくは約0.5mm〜約5mm、更に好ましくは約1.0mm〜3mm、そして最も好ましくは約1.0mm〜2.0mmである。第2アガロース層は、Seakem Goldアガロースとすることができるが、必ずしもSeakem Goldアガロースにする必要はない。
【0084】
「マクロビーズ」は、好適な構造物として使用されるが、分泌細胞をカプセル化し、そして、好ましくは、第2のアガロース層によってコーティングされた任意の固体のアガロース構造物が本発明の特徴である。
【0085】
前記分泌細胞は様々なものとすることができる。所望の分泌産物を産生する任意の細胞又は細胞小器官をカプセル化することができる。そのように使用可能な材料の例として、膵島、ガン細胞、幹細胞がある。各ビーズは、様々な数の細胞小器官を含むことができ、例えば、膵島の場合、約50〜約5000個の膵島、好ましくは、約100〜約2500個の膵島、更に好ましくは、約250〜約1000個、そして最も好ましくは約475〜約550個の膵島を含むことができる。約500個の膵島が特に好適である。
【0086】
本発明のその他の態様は当業者にとって明らかであろうから、ここでは更に説明しない。
【0087】
ここに使用した用語と表現は説明の用語であって限定の用語ではなく、これらの用語および表現を使用するにあたって図示され記載された特徴構成の任意の均等物又はそれらの一部を除外する意図はなく、本発明の範囲内において種々の改変が可能であると認識される。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】テストおよび対照動物の平均の1日の血糖値に関する情報を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アガロース被覆Seakem Goldアガロース分泌細胞ビーズを製造する方法であって、
(a)分泌細胞をSeakem Goldアガロース中に懸濁させる工程、
(b)前記工程(a)の懸濁分泌細胞からビーズを形成する工程、
(c)前記工程(b)のビーズを加湿空気中でインキュベートする工程、
(d)前記工程(c)のビーズをアガロースで被覆して、アガロース被覆Seakem Goldアガロース分泌細胞ビーズを形成する工程、を含む方法。
【請求項2】
前記工程(c)のビーズを、5%アガロース中でローリングして、前記ローリングされたビーズをミネラルオイルと接触させ、そして前記ローリングされたビーズを洗浄して前記アガロース被覆Seakem Goldアガロース分泌細胞ビーズを形成する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分泌細胞が、膵島である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記膵島が、ヒト膵島である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記膵島が、ウシ膵島である請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記膵島が、ブタ膵島である請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記ビーズが、約50〜約5000の膵島を含む請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記ビーズが、約100〜約2500の膵島を含む請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記ビーズが、約475〜約550の膵島を含む請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記ビーズが、約4mm〜約12mmの直径を有するマクロビーズである請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記マクロビーズが、約4mm〜約10mmの直径を有する請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記マクロビーズが、約4mm〜約8mmの直径を有する請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記マクロビーズが、約6mm〜約8mmの直径を有する請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記ビーズを、約0.05mm〜約5.0mmのアガロース層で被覆する工程を有する請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記ビーズを約1.0mm〜約3.0mmのアガロース層で被覆する工程を有する請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ビーズを約1.00mm〜約2.0mmのアガロース層で被覆する工程を有する請求項14に記載の方法。
【請求項17】
アガロース被覆Seakem Goldアガロース分泌細胞ビーズ。
【請求項18】
膵島を含む請求項17に記載のアガロース被覆Seakem Goldアガロース分泌細胞ビーズ。
【請求項19】
前記膵島が、ヒト膵島である請求項18に記載のアガロース被覆Seakem Goldアガロース分泌細胞ビーズ。
【請求項20】
前記膵島が、ウシ膵島である請求項18に記載のアガロース被覆Seakem Goldアガロース分泌細胞ビーズ。
【請求項21】
前記膵島が、ブタ膵島である請求項18に記載のアガロース被覆Seakem Goldアガロース分泌細胞ビーズ。
【請求項22】
約50〜約5000の膵島を含む請求項18に記載のアガロース被覆Seakem Goldアガロース分泌細胞ビーズ。
【請求項23】
約100〜約2500の膵島を含む請求項18に記載のアガロース被覆Seakem Goldアガロース分泌細胞ビーズ。
【請求項24】
約475〜約550の膵島を含む請求項18に記載のアガロース被覆Seakem Goldアガロース分泌細胞ビーズ。
【請求項25】
約4mm〜約12mmの直径を有する請求項18に記載のアガロース被覆Seakem Goldアガロース分泌細胞ビーズ。
【請求項26】
約4mm〜約10mmの直径を有する請求項18に記載のアガロース被覆Seakem Goldアガロース分泌細胞ビーズ。
【請求項27】
約4mm〜約8mmの直径を有する請求項18に記載のアガロース被覆Seakem Goldアガロース分泌細胞ビーズ。
【請求項28】
約6mm〜約8mmの直径を有する請求項18に記載のアガロース被覆Seakem Goldアガロース分泌細胞ビーズ。
【請求項29】
約0.05mm〜約5.0mmのアガロース層で被覆されている請求項17に記載のアガロース被覆Seakem Goldアガロース分泌細胞ビーズ。
【請求項30】
約1.0 mm〜約3.0 mmのアガロース層で被覆されている請求項17に記載のアガロース被覆Seakem Goldアガロース分泌細胞ビーズ。
【請求項31】
約1.0mm〜約2.0mmのアガロース層で被覆されている請求項17に記載のアガロース被覆Seakem Goldアガロース分泌細胞ビーズ。
【請求項32】
分泌細胞の機能不全によって引き起こされた状態を有する対象体を治療する方法であって、請求項17に記載のアガロース被覆Seakem Goldアガロース分泌細胞ビーズを、前記状態を軽減するのに十分な量で投与する工程を有する方法。
【請求項33】
前記状態が、インスリン依存糖尿病である請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記ビーズが、膵島を含む請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記膵島が、ヒト膵島である請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記膵島が、ブタ膵島である請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記膵島が、ウシ膵島である請求項34に記載の方法。
【請求項38】
前記ビーズが、前記対象体の腹腔に置かれる請求項32に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2009−509507(P2009−509507A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−532295(P2008−532295)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際出願番号】PCT/US2006/036125
【国際公開番号】WO2007/038029
【国際公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(508089750)ザ・ロゴシン・インスティテュート・インコーポレイテッド (1)
【住所又は居所原語表記】505 EAST 70TH STREET, NEW YORK, NEW YORK 10021, UNITED STATES OF AMERICA
【Fターム(参考)】