説明

T細胞タンパク質及びそれをコードするヌクレオチド

本発明は、マウス及びヒトのJ12ポリヌクレオチド、ポリペプチド及び抗J12抗体分子に関する。J12は、Th2細胞で優勢に発現されるサイトカインである。喘息といった特定の自己免疫性及び炎症性疾患の検出方法と治療方法において、本出願で開示するポリペプチド及び/又は抗体を使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔発明の分野〕
本発明は炎症性及び自己免疫性疾患に関し、特に、Th2細胞で優勢に発現されるJ12と命名されたタンパク質に関する。
【0002】
〔発明の背景〕
Tヘルパー1(Th1)及びTヘルパー2(Th2)細胞によって産生されるサイトカインのようなタンパク質は、自己免疫性及び炎症性疾患で重要な役割を果たすと考えられており、これらタンパク質の活性を変える方法を用いて、これら疾患を治療できると考えられる。従って、(Th1)及び(Th2)細胞で発現される遺伝子は興味深い。
ナイーブなCD4+ T細胞は、Th1及びTh2細胞に分化しうる。Th1細胞は、そのIL-4ではなくIFN-γの産生で特徴付けられるが、Th2細胞はIFN-γではなくIL-4を産生する。IFN-γ及びIL-4は自己免疫及び炎症に関与する2つの主要なサイトカインである。IL-4ではなくIL-12が存在する場合、TCR-ペプチド-MHCクラスII複合体の会合後、ナイーブなCD4+ T細胞が拡大してTh1細胞に発展し;IL-12ではなくIL-4がある環境の場合、細胞はTh2細胞に発展する。
CD4+ Th1は細胞媒介免疫応答で重要な役割を果たし、一方Th2細胞は体液性免疫に関与する。しかしながら、CD4+ Th1及びTh2細胞の過剰活性化は自己免疫性及び炎症性疾患を誘導しうる。例えば、Th2応答、及びTh1応答も喘息に関わる。Th1又はTh2の応答は、IBD及び心筋炎という異なるタイプの原因でありうる。I型糖尿病及び関節炎はTh1応答によって引き起こされる。Th1又はTh2の応答を阻害するため、それらの増殖、分化及び/又はサイトカイン産生に関与しうるTh1又はTh2特異的遺伝子を発見することが必要である。
【0003】
サイトカイン及びTh1/Th2の表面分子は自己免疫性及び炎症性疾患に関与する。IFN-γ、TNF-α及びIL-2は、主にTh1細胞によって産生され、一方IL-4、IL-5及びIL-13は主にTh2細胞によって産生される。IFN-γ、TNF-α及びIL-2はすべて、IBD、MS、EAE、糖尿病及び関節炎のようなTh1媒介疾患で重要な役割を果たす。IL-4は喘息で役割を果たすと考えられている。一方では、B7及びB7受容体はT細胞活性化の刺激又は阻害で重要な役割を果たす。抗原提示細胞上で発現されるB7.1(CD80)及びB7.2(CD86)は、T細胞上で発現されるCD28又はCTLA-4(CD152)のどちらかを刺激しうる。B7-CD28連結が起こると、T細胞は正のシグナルを受け、これらT細胞はTCRシグナルの組合せによって活性化されるだろう。しかしながら、B7がCTLA-4を刺激すると、CTLA-4シグナルによってT細胞の活性化が阻害されるだろう。プログラム死受容体1(PD-1)は別の阻害表面分子である。PD-1欠損マウスは自己免疫を発生した。最終的に、当初Jianfei Yang及びKen Murphyによって発見されたB及びTリンパ球アテニュエータ(BTLA)と呼ばれる新規な阻害受容体が最近Nature Immunology (2003) 4: 670-679で公表された。BTLA欠損マウスでEAE感受性が高まることが分かった。
【0004】
〔発明の簡単な概要〕
本発明は、CD4+ Th2細胞で特異に発現される、本明細書においてJ12と命名した、マウスとヒトの新規DNA配列並びにその変異体及びフラグメントの発見に基づく。自己免疫性及び炎症性疾患の診断、特徴付け及び/又は治療で、本出願で述べる核酸配列及びポリペプチド配列を使用することができる。本発明は、前記cDNA配列でコードされるポリペプチドとそのフラグメントをも提供する。本発明は、J12ポリペプチドに対する抗体及びJ12 DNA配列を含む発現ベクター並びに該J12発現ベクターを含む培養細胞をも提供する。
【0005】
本発明の一実施態様は、マウスJ12タンパク質配列である配列番号2を含むポリペプチドである。本発明の他の実施態様は、Var1、Var2及びVar3と命名した3つのヒトJ12変異体のポリペプチドに相当する配列番号6〜8のポリペプチドである。
本発明は、J12ポリペプチドの誘導体をも包含する。好ましい誘導体は、配列番号2及び配列番号6〜8のアミノ酸配列から成るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに対して少なくとも90%のポリヌクレオチド同一性を有するだろう。上述したポリヌクレオチド変異体は、J12の少なくとも1つの機能的又は構造的特徴を含むポリペプチドをコードしうる。
マウスとヒトのJ12配列をコードする多数のポリヌクレオチド配列があり、それら配列には、遺伝コードの縮重のため、いずれの既知及び天然に存在する遺伝子のポリヌクレオチド配列に対しても最小の相同性しか持たないものも生成しうることが当業者には明らかである。従って、本発明は、代替的なコドン選択に基づいて組合せを選択することによって生じうるポリヌクレオチド配列の変化をも企図する。このような組合せは、マウス及びヒトの天然のJ12のポリヌクレオチド配列に適用する場合の標準的な三つ組遺伝コードに従って作成される。
【0006】
本発明は、全体的に化学合成による、ヒト及びマウスのJ12及びJ12誘導体、又はそのフラグメントをコードするDNA配列の製造をも包含する。技術上周知の試薬を用いて合成配列を発現ベクター及び宿主細胞株に挿入しうる。さらに、J12又はそのいずれかのフラグメントをコードする配列に、合成化学を用いて突然変異を導入することができる。
本発明は、種々のストリンジェンシー条件下で、クレームしたポリヌクレオチド配列、特に配列番号1(マウスJ12 cDNA)及び配列番号3〜5(ヒトJ12変異体)に示すポリヌクレオチド配列並びにそれらのフラグメントにハイブリダイズすることができるポリヌクレオチド配列をも包含する(例えば、Wahl, G. M. and S. L. Berger (1987) Methods Enzymol. 152:399-407;及びKimmel, A. R. (1987) Methods Enzymol. 152:507-511参照)。
本発明は、Var1及びVar3(配列番号3及び配列番号5)に少なくとも80%同一の配列を含む単離された核酸配列をも包含する。さらに好ましくは、本発明は、Var1及びVar3に少なくとも90%同一の配列を含む単離された核酸配列を包含する。
天然に存在しないコドンを有するヌクレオチド配列をコードするJ12も使用しうる。例えば、原核生物の宿主によって好まれるコドンを用いてタンパク質の発現を高めることや、或いは天然に存在する配列から生成された転写物の半減期より長い半減期のような望ましい特性を有するRNA転写物を生成することができる。
本発明のヌクレオチド配列を技術上公知の方法を用いて変化させて、遺伝子産物のクローニング、プロセシング、及び/又は発現によってJ12をコードする配列を変化させることができる。組換えDNA技術及び合成オリゴヌクレオチドを用いて本発明のヌクレオチド配列を変化させうる。
【0007】
本発明の別の実施態様では、J12をコードするポリヌクレオチド、又はその誘導体を治療目的で使用することができる。一局面では、mRNAの転写を遮断することが望ましい状況で、J12をコードするポリヌクレオチドの相補体を使用することができる。特に、J12をコードするポリヌクレオチドに相補性の配列によって細胞を形質転換させうる。このように、相補性分子又はフラグメントを用いて、J12活性を調節することができる。今やこのような技術は本技術分野で周知であり、J12をコードするコード領域又は制御領域に沿った種々の位置からセンス若しくはアンチセンス、又はsiRNA、RNA干渉オリゴヌクレオチド若しくはより大きなフラグメントを設計することができる。J12スプライス変異体の配列を用いてRNA干渉オリゴ及びアンチセンスオリゴを設計することができ、J12アイソタイプの機能を特異的に阻害することができる。RNA干渉は、標的遺伝子に配列が相同性である二本鎖RNA(dsRNA)を与えることによって、配列特異的な転写後遺伝子スプライシング又は遺伝子ノックダウンを利用するプロセスである。小型干渉性RNA(siRNA)をin vitro合成することができ、或いはより長いdsRNAからリボヌクレアーゼIII切断によってsiRNAが生成しうる。siRNAは配列特異的なmRNAの分解のメディエーターである。以下に述べるように、Tuschlによって開示された技術に従ってsiRNAを設計できる(Elbashir, SM et al, Nature, 2001, 411, 494-498)。
【0008】
タンパク質療法で使うため、この新規J12変異体によってコードされるタンパク質を選択することができる。例えば、J12スプライス変異体ポリペプチドに対するモノクロナール抗体を製造できる。単離タンパク質に対するモノクロナール抗体の製造方法及びそれを細胞に投与することは技術上周知である(Am J Gastroenterol. 2002, 97:2962-72)。本発明のJ12スプライス変異体ポリヌクレオチドに対して作られたモノクロナール抗体を細胞に投与してタンパク質の機能を阻害し、ひいては自己免疫性、炎症性及び他の関連疾患を治療することができる。
本発明のJ12スプライス変異体をスクリーニングアッセイ及びウルトラハイスループットアッセイに用いて、J12スプライス変異体ポリペプチドの小分子インヒビターを同定できることも企図される。小分子インヒビターは、このJ12変異体がその細胞表面受容体に結合するのを遮断できる。小分子インヒビターを用いてサイトカイン-受容体相互作用を遮断することができる。この機序は、J12上のタンパク質-タンパク質相互作用部位を占有することによるか、又はJ12のコンホメーションの変化を引き起こすだろう。
本発明の別の実施態様では、J12をコードする天然の核酸配列、改変された核酸配列、又は組換え核酸配列を異種配列に連結して融合タンパク質をコード化することができる。例えば、J12活性のインヒビターについてペプチドライブラリーをスクリーニングすることができる。市販の抗体によって認識できるキメラJ12タンパク質をコード化することも有用だろう。J12をコードする配列と他の異種タンパク質配列との間に切断部位を含むように融合タンパク質を生じさせることもでき、そうすると、該異種部分からJ12を切断して精製することができる。
本発明は、本明細書で教示するマウスJ12ポリペプチド及びヒトJ12変異体をコードする配列を含む単離された核酸を提供する。
本発明は、J12マウス及びヒトJ12変異体配列のハイブリダイゼーションプローブに高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズする配列を含む単離された核酸をも提供する。
本発明は、本明細書で教示するマウスJ12及びヒトJ12変異体に少なくとも80%の同一性を有する配列を含む単離された核酸をも提供する。
本発明は、長さが少なくとも8残基である、本明細書で教示するとおりのマウス及びヒトJ12変異体のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする配列を含む単離された核酸をも提供する。
本発明は、精製免疫原性ポリペプチドであって、そのアミノ酸が、本明細書で教示するとおりのマウス及びヒトJ12配列のうち少なくとも10個の連続する残基を含む、精製免疫原性ポリペプチドをも提供する。
【0009】
本発明の別の実施態様は、J12がその天然の結合相手に結合するのを阻害する化合物を同定する方法であって、以下の工程、
a)配列番号2、6〜8又はその組合せから選択される配列を含むJ12ポリペプチドを供給する工程、
b)前記ポリペプチドを、その天然の結合相手及び試験化合物と接触させる工程、
c)前記ポリペプチドへの前記結合相手の結合が前記試験化合物の存在下で減少するかを決定する工程
を含む方法であって、前記結合の減少が、前記試験化合物がJ12のその結合相手への結合を阻害する指標であることを特徴とする方法に関する。
J12の組換え受容体を用いて、J12がその天然の受容体に結合するのを阻害できるであろと考えられる。
【0010】
〔発明の詳細な説明〕
〔定義〕
特に断らない限り、本明細書で使用する科学用語、技術用語及び命名法は、この発明に関係がある本技術分野の当業者が一般に理解する意味と同じ意味を有する。
本発明により、技術上周知の通常の分子生物学、微生物学、及び組換えDNA技法を利用することができ、これらは、Sambrook, J., Fritsch, E. F.及びManiatis, T.によって(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989) (以後“Maniatis”));並びにSilhavy, T. J., Bennan, M. L.及びEnquist, L. W.によって(Experiments with Gene Fusions, Cold Spring Harbor Laboratory Cold Press Spring Harbor, N.Y. (1984));並びにAusubel, F. M.らによって(Current Protocols in Molecular Biology, published by Greene Publishing Assoc. and Wiley-Interscience (1987))記載されている。
“Nucleic Acid Hybridization”[B. D. Hames & S. J. Higgins eds. (1985)];“Transcription and Translation”[B. D. Hames & S. J. Higgins eds. (1984)];“Animal Cell Culture”[R. I. Freshney, ed. (1986)];“Immobilized Cells and Enzymes”[IRL Press, (1986)]; B. Perbal,“A Practical Guide To Molecular Cloning”(1984) and Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons, July, 2002。従って、本明細書で現れた場合、以下の用語は以下に述べる定義を有するものとする。
【0011】
単数形の用語“1つ(a)”、“1つ(an)”、及び“その(the)”は、該文脈が明白に別の意味に示さない限り、複数の言及を包含する。
ヌクレオチド配列は、当技術で常用される一文字ヌクレオチドを用い、かつIUPAC-IUB生化学命名委員会の推薦(Biochemistry, 1972, 11:1726-1732)に従って左から右へ5'から3’の方向の一本鎖で表される。
本明細書では、用語“ポリペプチド”は、アミノ酸残基配列又はタンパク質と相互交換可能に使用され、いずれの長さのアミノ酸のポリマーをも指す。これら用語は、限定するものではないが、グリコシル化、アセチル化、リン酸化又はタンパク質プロセシングといった反応を通じて翻訳後改変(修飾)されたタンパク質をも包含する。該分子がその生物学的機能活性を維持しながら、ポリペプチドの構造に改変及び変化、例えば他のタンパク質への融合、アミノ酸配列の置換、欠失又は挿入を行うことができる。例えば、ポリペプチド又はその基礎となる核酸コード配列にある種のアミノ酸配列置換を行うことができ、同様な特性を有するタンパク質を得ることができる。
本明細書では、この発明の文脈における用語“cDNA”は、逆転写酵素によって、かつ典型的には、ある遺伝子によって生成されるmRNA又は他のRNAの二本鎖合成によって生成されるデオキシリボ核酸を意味する。二本鎖の場合、cDNA分子は、コーディング鎖又はセンス鎖と非コーディング鎖又はアンチセンス鎖の両者を有する。
本発明の用語“フラグメント”は、本明細書では、単離/精製され、化学的に合成され、又は組換え技術を通じて生成されうるタンパク質又は核酸分子を意味する。これらのすべての方法は技術上周知である。本明細書で以下に例示するように、例えばin vitro突然変異誘導によって、本発明で使用するヌクレオチド配列及びポリペプチドを改変することができる。
本明細書では、用語“コードする”は、ヌクレオチド(すなわちrRNA、tRNA、他のRNA分子)又はアミノ酸の規定される配列及びその結果として得られる生物学的特性を有する他の分子の合成用鋳型として働く、核酸における特意的な配列のヌクレオチドの固有の特性を指す。従って、ある遺伝子によって生成されたmRNAの転写及び翻訳が細胞又は他の生物学的系においてタンパク質を生成する場合、当該遺伝子は前記タンパク質をコードしている。そのヌクレオチド配列が該mRNA配列と同一で、かつ通常配列一覧表に提供されているコーディング鎖と、遺伝子又はcDNAの転写用鋳型として用いられる非コーディング鎖の両者について、当該遺伝子又はcDNAのタンパク質又は他の産物をコードしていると言うことができる。あるタンパク質をコードする核酸には、異なるヌクレオチド配列を有するが、遺伝コードの縮重によって該タンパク質の同一アミノ酸配列をコードしているいずれの核酸も含まれる。タンパク質をコードする核酸及びヌクレオチド配列はイントロンを包含しうる。
【0012】
専門用語“発現ベクター”は、上述したとおりのベクター又はビヒクルであるが、宿主への形質転換後、挿入遺伝子が発現できるように設計されたベクター又はビヒクルを定義する。クローン化遺伝子(挿入遺伝子)は、通常プロモーター配列のような制御エレメント配列の操作下に置かれる。このような発現制御配列は、該ベクターが原核生物若しくは真核生物宿主又は両宿主内(シャトルベクター)で、機能可能に連結した遺伝子を発現するように設計されたかに依存して変動するだろうし、さらにエンハンサーエレメント、終止配列、組織特異性エレメント、及び/又は翻訳開始部位と翻訳終止部位のような転写エレメントを含有しうる。
用語“ベクター”又は“DNA構成物”は技術上周知であり、限定するものではないが、本発明のオリゴヌクレオチド配列、又は配列を組み込むことができ、本発明のDNAがクローン化されうるDNAビヒクルとして働くことができるプラスミドDNA、ファージDNA、ウイルスDNA等を含むいずれの遺伝エレメントをも指す。非常に多くのタイプのベクターが存在し、技術上周知である。
【0013】
本明細書では、本発明の用語“ポリヌクレオチド”は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で本明細書の配列又はその相補体にハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドをも包含する。用語“ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件”は、当技術で一般に理解されるとおりに用いる。例えば、この用語は、50%ホルムアミド、5XSSC(750mM NaCl、75mM クエン酸三ナトリウム)、50mM リン酸ナトリウム(pH7.6)、5Xデンハルト溶液、10% 硫酸デキストラン、及び20mg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中42℃で一晩インキュベーション後、約60℃にて0.1X SSCで洗浄することを意味しうる。“高ストリンジェンシー”に必要な正確な条件は、核酸サンプル(すなわちDNA:DNA又はDNA:RNA)の性質によって変化しうる。
より低いストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件下で本発明のポリヌクレオチドにハイブリダイズする核酸分子も企図される。ハイブリダイゼーション及びシグナル検出におけるストリンジェンシーの変化は、主にホルムアミド濃度(ホルムアミドのパーセンテージが低いと低ストリンジェンシーとなる);塩の条件、又は温度の操作によって達成される。例えば、より低ストリンジェンシーの条件として、6X SSPE(20X SSPE=3M NaCl;0.2M NaH2PO4;0.02M EDTA、pH7.4)、0.5% SDS、30%ホルムアミド、100mμg/mlサケ精子剪断DNAを含む溶液中37℃にて一晩インキュベーション後、50℃での1X SSPE、0.1% SDSによる洗浄が挙げられる。さらに、なお低ストリンジェンシーを達成するため、ストリンジェントなハイブリダイゼーション後に行う洗浄を、より高い塩濃度(例えば5X SSC)で行うことができる。
【0014】
本明細書では、用語“宿主”は、原核生物のみならず、酵母、植物及び動物細胞のような真核生物をも包含する意である。本発明のタンパク質をコードする組換えDNA分子又は遺伝子を用いて、当業者に一般的に知られるいずれの技術によっても宿主を形質転換することができる。原核生物宿主として、大腸菌、S. チムフィムリウム(S. tymphimurium)、セラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)及び枯草菌(Bacillus subtilis)が挙げられる。真核生物宿主としてピキア・パストリス(Pichia pastoris)のような酵母、哺乳動物細胞及び昆虫細胞が挙げられる。
本明細書では、用語“アミノ酸”又は“アミノ酸配列”は、オリゴペプチド、ペプチド、ポリペプチド、若しくはタンパク質配列、又はこれらいずれかのフラグメントを意味し、また天然に存在する分子又は合成分子を指す。この文脈では、“フラグメント”、“免疫原フラグメント”又は“抗原フラグメント”は、好ましくは約5〜約15個のアミノ酸の長さであるJ12スプライス変異体の配列を意味する。本明細書で天然に存在するタンパク質分子のアミノ酸配列を指すために“アミノ酸配列”が示される場合、“アミノ酸配列”及び同様の用語は、その示されたタンパク質分子と関係がある完全な天然のアミノ酸配列にそのアミノ酸配列を限定することを意味しない。
本明細書では、用語“抗原決定基”は、分子の、特定の抗体とコンタクト(contact)するフラグメント(すなわち、エピトープ)を意味する。タンパク質又はタンパク質のフラグメントを用いて宿主動物を免疫すると、該タンパク質の多くの領域が、抗原決定基(該タンパク質上の所定領域又は三次元構造)に特異的に結合する抗体の産生を誘導しうる。抗原決定基は、抗体への結合について、元のままの抗原(すなわち、免疫応答を誘導するために用いられる免疫原)と競合しうる。
【0015】
本明細書では、用語“相補”又は“相補性”は、許容的な塩及び温度の条件下での塩基対形成によるポリヌクレオチドの自然な結合性を意味する。
本明細書では、用語“相同性又は同一性”は、相補性の程度を指す。部分的な相同性と完全な相同性がありうる。同一配列が標的核酸にハイブリダイズするのを少なくとも部分的に阻害する、部分的に相補性の配列は“実質的に相補性”と言われる。低ストリンジェンシーの条件下でのハイブリダイゼーションアッセイを用いて、完全に相補性の配列の標的配列へのハイブリダイゼーションの阻害を調べることができる。
用語“オーソログ(ortholog)”は、一の種から得られるポリペプチドであって、別の種由来のポリペプチドの機能等価物に対応するポリペプチドを意味する。
“同一性パーセント”又は“同一性%”の表現は、2種以上のアミノ酸配列又は核酸配列の比較で見出される配列類似性のパーセンテージを意味する。電子的、例えばMEGALIGNプログラム(Lasergeneソフトウェアパッケージ, DNASTAR. Inc., Madison Wis.)を用いて同一性パーセントを決定することができる。MEGALIGNプログラムは種々の方法、例えばClustal法によって2個以上の配列間のアルゴリズムを作成できる。(Higgins, D. G. and P. M. Sharp (1988) Gene 73:237-244)。Clustal法、又はJotun Hein法のような技術上周知の他の方法で同一性パーセントを計算することもできる。(例えば、Hein, J. (1990) Methods in Enzymology 183:626-645参照。)技術上周知の他の方法、例えば、ハイブリダイゼーション条件を変えることによって、配列間の同一性も決定することができる。
本明細書で使用する場合、用語“ハイブリダイゼーション”は、核酸の鎖が塩基対形成によって相補鎖と結合するいずれのプロセスをも意味する。
種々のブロッキング試薬を添加又は除去することによって、条件を変えることができる。ブロッキング試薬として、デンハルト試薬、ヘパリン、BLOTTO、変性サケ精子DNA、及び市販製品が挙げられる。特有のブロッキング試薬を含めると、適合性の問題のため、上述したハイブリダイゼーション条件を変更する必要があるかもしれない。
【0016】
本発明のポリヌクレオチドは、いずれのポリリボヌクレオチド又はポリデオキシリボヌクレオチド(未改変RNA若しくはDNA又は改変RNA若しくはDNAでよい)で構成されうる。ポリヌクレオチドは、1個以上の改変塩基又は安定性若しくは他の理由のために改変されたDNA若しくはRNA骨格を含んでもよい。“改変(modified)”塩基として、例えば、トリチル化塩基及び特殊な塩基、例えばイノシンが挙げられる。DNA及びRNAに種々の改変を行うことができ;従って、“ポリヌクレオチド”は、化学的、酵素的、又は代謝的に改変した形態を包含する。
本明細書では、用語“単離(された)核酸”は、その環境から取り出された核酸分子、RNA又はDNAを意味する。
本明細書では、用語“縮重DNA”は、異なる三つ組のヌクレオチドを含有するが、同じアミノ酸残基をコードしている1個以上の縮重コドンを含む配列を意味する。
本明細書では、用語“ストリンジェントな条件”は、50%ホルムアミド、5X SSC(1倍SSC=150mM NaCl、15mM クエン酸三ナトリウム)、50mM リン酸ナトリウム(pH 7.6)、5Xデンハルト溶液、10%硫酸デキストラン、及び20mμg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中42℃で一晩インキュベーション後、ろ液を0.1X.SSCで約65℃にて、又は同等の条件で洗浄することを意味する。
本明細書では、用語“機能可能に連結した”とは、その意図した目的のために一緒に機能するDNAセグメントを指す。
本明細書では、用語“組織”は、1つ以上の細胞、抽出物及びそのフラクションを意味する。
本明細書では、用語“細胞”は、いずれの形態の細胞をも指し、限定するものではないが、組織内に保持されている細胞、細胞クラスター及び個々に単離された細胞が含まれる。
【0017】
本明細書では、用語“遺伝子の転写”は、RNAによる相補RNAの合成用鋳型として一本鎖のDNA分子を用いるプロセスを意味する。
本明細書では、用語“遺伝子発現”は、特定の遺伝子にコードされている情報が特定のタンパク質に翻訳されるプロセスを意味する。この用語が本明細書で使用される場合の遺伝子発現のレベルは、細胞内のmRNAのレベルを測定することによって決定されうる。
本明細書では、用語“DNA”は、ポリヌクレオチド分子、セグメント又は配列を指し、それぞれが糖デオキシリボースとアデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)又はシトシン(C)の4つのうちの1つとを含むヌクレオチドの鎖を表すために用いられる。
本明細書では、用語“RNA”は、ポリヌクレオチド分子、セグメント又は配列を指し、それぞれが糖リボースとアデニン(A)、グアニン(G)、ウラシル(U)又はシトシン(C)の4つのうちの1つとを含むヌクレオチドの鎖を表すために用いられる。
本明細書では、用語“オリゴ”は、通常8〜35個のヌクレオチドの長さのDNA又はDNA誘導体の短い配列を意味する。該分子の正確な大きさは多くの因子によって決まり、同様に、該オリゴヌクレオチドの最終機能又は用途によって決まる。クローニング又は増幅によって合成的にオリゴヌクレオチドを誘導することができる。用語“誘導体”は、上記変異体が普通これら分子の一部でない追加の化学的部分を含む場合にそのいずれの上記変異体をも包含することを意図する。これら化学的部分は、分子の溶解性、吸収、生物学的半減期の向上、毒性の低減及び望ましくない副作用の排除又は減少といった様々な目的を有しうる。
【0018】
本明細書では、用語“自己免疫性及び炎症性疾患”は、炎症性及び自己免疫病態のような自己免疫性及び炎症性病態に関係がある疾患、例えば骨関節炎、再潅流傷害、喘息、多発性硬化症、ギラン-バレー症候群、クローン病、潰瘍性結腸炎、乾癬、移植片対宿主病、全身性エリテマトーデス、リウマチ性関節炎、アルツハイマー病、毒物ショック症候群、インスリン依存性糖尿病、急性及び慢性の疼痛、並びに炎症及び心臓血管疾患の症状、脳卒中、単独の又は血栓溶解療法後の心筋梗塞、熱傷害、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、外傷続発性多臓器傷害、急性糸球体腎炎、急性炎症成分による皮膚疾患、急性化膿性髄膜炎又は他の中枢神経系傷害、グレーブス病、重症筋無力症、強皮症及びアトピー性皮膚炎を意味する。
用語“細胞株”は、数世代にわたってin vitroで安定な増殖が可能な細胞を意味する。
用語“標的”は、疾患状態、発生段階又は薬物治療で撹乱されるいずれの遺伝子をも指す。多くの場合、標的は、薬剤又は化合物によって変化しうる薬物開発標的を意味する。このような薬物開発標的は、直接的結合アッセイで用いる候補化合物のスクリーニングに好適である。
本明細書では、用語“DNAマイクロアレイ”は、同時に多数の遺伝子の発現を測定及び解析するために使用され、またMicroarray analysis Schena, Mark Wiley-Liss, 2003(参照によって本明細書に取り込まれる)に記載されている技術を総称して指す。この用語は、顕微鏡スライドガラスの表面に結合した数千の遺伝子を表す約1kbのDNA配列の顕微鏡スポットを含むDNAマイクロアレイを意味しうる。この用語は、スライドガラスの小さな領域の表面上で合成された数千の遺伝子配列を表す合成オリゴヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドアレイ(DNAチップ)又は高密度ヌクレオチドプローブを意味することもある。
【0019】
〔実施例〕
〔マイクロアレイ解析を用いたJ12 ESTの同定〕
本発明は、同時に数千の遺伝子の発現レベルを研究するために本技術分野で使用される技術であるマイクロアレイ解析で初めに同定されたJ12及び変異体に関する。Th1及びTh2刺激細胞のマイクロアレイ解析を用いて、Th1及びTh2細胞間で差別的に発現される遺伝子を同定した。Affymetrix Genechipシステムで、DO11 TCRトランスジェニックマウス由来の脾臓細胞から得たRNAサンプルについてマイクロアレイ解析を行った。これら脾臓細胞をOVA及び種々の抗体及び組換えタンパク質で刺激して該細胞のTh1及びTh2細胞への分化を促進した。次に、抗CD3抗体で2時間Th1又はTh2細胞を刺激してからマイクロアレイ解析のための総RNAを調製した。Affymetrixによって提案された技術を用い、本明細書で特定した方法に従ってRNAサンプルの調製及び遺伝子チップ装置によるハイブリダイゼーションを行った。RNAサンプルのマイクロアレイ解析から得たデータを解析すると、EST AK005939がTh2特異的発現を示すことが明らかになった。このESTに関する解析をさらに行った。
【0020】
〔全長J12マウスcDNA配列の同定〕
以下の手順を用いて該ESTに対応する全長cDNAを得た。アメリカ培養細胞株保存機関(American Type culture collection)から該ESTに対応する全長マウスcDNA及びAK005939に関するIMAGEクローンを得て、さらに精製し、配列決定した。Imageクローンの1つがJ12の全長に対応していた。
〔マウスJ12 cDNAの説明〕
EST AK005939に対応するマウスcDNAが配列番号1に示されるが、EST AK005939のT237とG238の間に221bpのフラグメントが挿入されている。図1はEST AK005939とマウスJ12配列のアラインメントを示す。配列番号15は、EST AK005939と整列しないcDNAのフラグメントである。マウスJ12 cDNAは、Gly30とAla31の間に切断部位のあるシグナルペプチドを有する163個のアミノ酸をコードすると予測される(配列番号2)。図2A及び2Bを参照されたい。AK005939と比較したマウスJ12遺伝子ゲノム構造を図2Cに示した。
J12 mRNAは、マウスTh2細胞で抗CD3刺激によって特異的に誘導される(図3)。Th1及びTh2細胞を抗CD3抗体で2時間刺激後、総RNA抽出のため細胞を収集した。総RNAから合成された二本鎖cDNAから、ビオチン標識化cRNAをin vitroで転写した。このcRNAを用いてAffymetrix M430 Chip A及びBを探索した。正規化後、J12配列の一部を含むEST AK005939がTh2細胞で特異的に発現されることを発見した。図2を参照されたい。Taqman PCRの結果により、J12 mRNAがマウスTh2細胞で抗CD3刺激によって特異的に誘導されることを確かめた(図4を参照)。
正常組織におけるマウスJ12 cDNAの発現を図5に示す。J12はTh2細胞で優勢に発現される。J12は、精巣内でも低レベルで発現された。脳、心臓、肝臓、肺、及び脾臓といった、試験した他の組織におけるJ12発現は検出できないレベルだった。
【0021】
〔ヒトJ12 cDNA変異体及びそれらがコードするタンパク質〕
マウスJ12配列を確立したので、J12のヒトオーソログを見出すことにさらに関心があった。さらなる関心は、マウスJ12のヒトオーソログを捜すことである。AK005939から得たタンパク質配列を用いてNCBI非重複的データベースに対して行ったブラスト(Blast)検索では、それ自体以外は何も有意なヒットを示さなかった。マウスJ12タンパク質配列を用いてヒトゲノムに対して行ったブラスト検索は、統計的に有意な類似性で、ヒト染色体12上でただ1つのヒットを示した。このブラストヒットは、名称MGC35140のヒト遺伝子の逆相補体鎖上に位置する。これは、該ゲノム配列レベルでは遺伝子MGC35140とのオーバーラップのため、現モデル予測によって見落とされているヒトJ12遺伝子がありうることを示唆している。該標的領域を網羅するゲノム配列のセグメントを用いたGenScan予測は、AK005939由来のORFより長いタンパク質配列をコードする新しいヒト遺伝子を明白に示した。この遺伝子は、予測されたシグナルペプチドも含有する。このことは、同様に、AK005939が完全なORFではなく、或いはスクリーニングしうるマウスゲノム内に他のスプライシング変異体があるであろうことを示唆した。より長いマウスゲノムフラグメントを用いたGenScan予測がこの考えを支持し、シグナルペプチドを有するより長いORFを有する遺伝子モデルが予測される。予測されるヒトJ12に基づいて、RACE法を用いてヒトJ12をクローン化した。
【0022】
ヒトJ12クローンの3種の変異体が見つかった。これら変異体をヒトJ12 var1(配列番号3)、ヒトJ12 var2(配列番号4)及びヒトJ12 var3(配列番号5)と命名する。これら変異体について予測されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号6〜8に示される。図6a〜6cは、それぞれヒトJ12変異体1〜3の予測されるタンパク質配列を示す。ヒトJ12var1は275個のアミノ酸のポリペプチドをコードする。ヒトJ12 var2は、アミノ酸残基23と24の間にシグナルペプチド切断部位を有する164個のアミノ酸のポリペプチドをコードする。ヒトJ12 var3は、164個のアミノ酸のポリペプチドをコードする。図7は、3つのヒトJ12変異体のコード領域とクローン化配列とのアラインメントを示す。図8は、ヒトJ12変異体1及び変異体2のタンパク質配列のSMART配列解析を示す。図9は、3つのヒトJ12変異体とEST AK005939とのアラインメントを示す。配列番号16は、EST AK005939と整列しない、J12 Var3の3’塩基フラグメントである。配列番号17は、EST AK005939と整列しない、J12 Var1の3’塩基フラグメントである。配列番号18はJ12 Var1の3’塩基に対応する。配列番号19はヒトJ12 Var2の3’塩基に対応する。
【0023】
Taqman PCRを用いて、J12がヒトTh2細胞で特異的に発現されることを確認した。図10を参照されたい。ヒトのナイーブなCD4+ T細胞をPBMCから精製し、これら細胞を2週間Th1及びTh2細胞に分化させた。次に細胞を抗CD3又は抗CD3と抗CD28で4時間刺激後、総RNAを抽出した。RT-TaqMan PCRを行った。未刺激(None)細胞はJ12を発現せず、抗CD3又は抗CD3/抗CD28で刺激したTh1細胞ではJ12が高度に誘導された。抗CD3刺激と抗CD3/抗cD28刺激との間にはJ12の発現に差異がないので、CD28シグナル伝達はJ12発現で重要な役割を果たさない。
図11に示されるように、J12は選択された正常なヒト組織で発現される。J12は精巣細胞で優勢に発現される。J12は副腎、小腸、及び骨格筋でも発現される。脳(小脳)、肺及び胎盤では低レベルでJ12が発現された。心臓、脳、腎臓、脾臓、胸腺、結腸及び骨髄では、非常に低レベルでJ12が発現された。
【0024】
〔IL-4及びIL-13に対する相同性〕
ヒトJ12配列の相同性調査により、IL-4及びIL-13のような幾つかのヒトサイトカインに対して相同性を有する新しい遺伝子が明らかになった。 図8は、ヒトIL-4及びIL-13配列に対するヒトJ12変異体1、変異体2及び変異体3の部分的なタンパク質配列を示す。
〔IL-31に対する相同性〕
IL-31(この核酸のGenbank受入番号はAY499343)は、Nature Immunology, July 4, 2004及び米国特許出願第20030224487号(2003年12月3日公開)で開示されているT細胞誘導サイトカインである。図13は、米国特許出願第20030224487号に基づいて公開されたIL-13のコード配列に対するマウスJ12配列のアラインメントを示す。これらの配列は、マウスJ12配列の位置987〜999におけるGGGの挿入を除くコード領域で同一である。そのような塩基はAY509149にはない。また、マウスJ12は、IL-31と比較して長い3’及び5’UTRを有する。配列番号20は、マウスJ12の塩基1〜427である。図14は、IL-31のタンパク質配列(AY499343)に整列させたヒトJ12 VAR 1を示す。ヒトJ12 VAR 2は、該ポリペプチドのC末端に125個の追加のアミノ酸残基を有する(配列番号21)。図15は、ヒトJ12 var2(ヒトJ12-2)アミノ酸配列対AY499343(IL-31)アミノ酸配列を示し、これら配列が同一であることを示す。図16は、ヒトJ12 var3(ヒトJ12-3)アミノ酸配列対AY499343(IL-31)アミノ酸配列を示す。ヒトJ12 var1は、ヒトAY499343(IL-31)より111個多いアミノ酸を有する(配列番号22)。
配列番号3の最初の350個の塩基はIL-31配列と一致しない。配列番号5の最初の597個の塩基はIL-31配列と一致しない。
〔J12の機能〕
J12は、活性化Th2細胞で差別的に発現されるので、喘息のような疾患に関連するTh2刺激細胞のマーカーとして役立つ。J12タンパク質の幾つかの考えられる機能として、インターフェロンγ、IL-2、TNF-α、IL-4、IL-5、IL-10及びIL-13のようなTh1及びTh2サイトカイン産生に関与する可能性、並びにT細胞ホメオスタシス(増殖とアポトーシス)に関与する可能性が挙げられる。分泌タンパク質J12又は細胞表面タンパク質J12としても、他の細胞型の炎症誘導性メディエーター(付着因子、走化性因子、成長因子)として機能しうる。
【0025】
〔J12に対する抗体の製造方法〕
J12に対するポリクロナール又はモノクロナール抗体を用いてウエスタンブロット、免疫沈降、免疫組織化学及びFACS解析を行うことができる。ポリペプチドに対するポリクロナール抗体及びモノクロナール抗体の製造方法は技術上周知であり、Current Protocols in Immunology, 2004 by John Wiley & Sons, Inc.(この内容は参照によって本明細書に取り込まれる)に記載されている。重要なことに、中和抗体であれば、それら中和抗体を用いてJ12活性をin vivo及びin vitro中和できるであろう。中和抗体を用いて、自己免疫性及び炎症性疾患のようないくつかの疾患を治療できるだろう。
ヒトとマウスのJ12短ペプチド及び全タンパク質を用いて動物を免疫して抗体を生じさせる。短ペプチドを化学的に合成してKLHに結合させる。結合したJ12-KLHをCFA(完全フロイントアジュバント)内で混合する。このJ12-KLH-CFAミックスをポリクロナール抗体産生のためウサギに皮内注射する。4週間毎に、IFA(不完全フロイントアジュバント)と混合したJ12-KLHでウサギを追加免疫する。血中の抗体力価をELISAで検出する。J12抗体の高い力価が検出されたら、ウサギを屠殺してアフィニティー精製によって血中のJ12抗体を精製する。また、全J12組換えタンパク質を用いて動物を免疫する。J12タンパク質を上記CFAと混合し、上記と同じ手順を行う。
モノクロナール抗体の作製のため、ラット又はマウスをJ12ペプチド-KLH又はJ12タンパク質で免疫する。組換えヒト化J12モノクロナール抗体を用いて、最終的にはヒトの疾患を治療できうる。
【0026】
〔RNA単離の方法〕
RNA単離の方法は技術上周知であり、RNA単離方法は細胞の起源によって決まるだろう。Maniatis et al, Molecular Cloning: A laboratory Manual, Third Edition (2001) (Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y)を参照されたい。RNA単離の好ましい方法は、Qiagen RNA精製キットである(Qiagen, Valencia, CA)。
分析前のRNAの分解を避ける工程を取るべきである。典型的に、分析のため細胞を収集直後に該細胞からRNAを単離する。当業者に周知のRNAの分解を制限する条件下で、収集した細胞を保存すべきである。同様に、RNAを細胞サンプルから単離した後、RNA分解を減らす条件下でRNAを保存すべきである。例えば、RNaseの無い条件下、氷上又は−70℃下でRNAを保存すべきである。DEPC水を緩衝液及び溶液で使用すべきである。また、細胞を収集するとき、追加のRNA合成が終止するように条件を維持すべきである。この方法では、RNA発現は、収集時点における代表的なタイプとレベルのRNA発現だろう。
細胞から単離したRNAを用いて逆転写酵素反応で二本鎖DNAを合成する。この逆転写酵素反応は当業者に周知の方法で行うことができる。好ましい逆転写酵素は、Superscript逆転写酵素(Superscript ChoiceTM, Invitrogen Carlsbad, CA)である。この酵素を製造業者の使用説明書に従って使用する。逆転写酵素反応では各時点の約5〜15μgの総RNAを用いて測定する。用いるRNAの量は、被験遺伝子の数と遺伝子発現を検出するために使用する方法によって変動する。
cDNAは、標識化cRNAの合成用鋳型としてプラスミド又はベクターと共に使用できる。蛍光で、又は核酸を標識するための方法のような当技術で常用される他の方法でcRNAを標識することができる。最も好ましくはビオチンでcRNAを標識する。次に、本技術分野で常用されるアルカリ性塩基法を用いてcRNAを断片化する。
【0027】
〔発明の好ましい実施態様〕
本発明の実施例は、本発明の範囲を限定することなく、本発明を説明するために提供される。当業者には、本発明の他の変形が容易に明らかとなるだろう。この出願全体を通じて引用されるすべての参考文献、特許及び公開された特許出願の内容、並びにその図面及び配列一覧表は、参照によって本明細書に取り込まれる。
【0028】
〔細胞及びRNAサンプルの調製〕
DO11.10トランスジェニック脾臓細胞を、IscoveのDME培地+10% FCS、L-グルタミン(2mM)、NEAA(0.1mM)、ピルビン酸Na(1mM)及び2-メルカプトエタノール(0.05mM)中で、組換えIL-2(2ng/ml,eBioscience)存在下で5×105/mlの濃度で培養した。TCR特異性抗原OVA(Ovalbumin,500μg/ml)で細胞を刺激した。Th1分化のため、培養に組換えIL-12(5ng/ml,CALBIOCHEM)及び抗IL-4(11B11)(2μg/ml,eBioscience)を追加した。Th2分化のため、組換えIL-4(10ng/ml,CALBIOCHEM)及び抗IL-12(1μg/ml,Cell Sciences)を培養に追加した。7日目に細胞がTh1及びTh2細胞に分化した。細胞を収集し、洗浄し、計数し、IL-2の無い培養基に2×106/mlの濃度で再懸濁した。プレート結合型抗CD3抗体(10μg/ml)で細胞を4時間刺激した後、総RNA抽出のため細胞を収集した。一部の細胞をOVA及び照射BALB/c脾臓細胞(2000ラド)でさらに7日間再刺激した。次に、細胞を収集して抗CD3で4時間再刺激した後、総RNA抽出のため細胞を収集した。
Qiagen製のRNeasy総RNA単離キットを用いてRNAを単離し、Applied Biosystems(Foster City,CA)供給のRTキットを用いて以下の方法で1μgのRNAについて逆転写酵素反応を行った。各反応液は1×RT緩衝液、5.5mM MgCl2、500μMの各dNTP、2.5μMのランダムヘキサマー(Random Hexamers)、0.4U/μlのRNaseインヒビター、及び1.25U/μlのMultiScribe逆転写酵素を含有した。25℃で10分間、48℃で40分間及び95℃で5分間RT反応を行った。
【0029】
〔RNAサンプルのマイクロアレイ解析〕
MicroAmp Optical 96ウェル反応プレート(Applied Biosystems)でTaqManリアルタイムPCRを行った。各ウェルは、総体積25μl中、4μlの各RT産物、1×TaqManマスターミックス(Applied Biosystem又はEurogentec)、プライマー(順方向と逆方向)、及びTaqMan FAM MGBプローブを含有した。増幅条件は、50℃で2分(cDNAに組み込まれているいずれのウラシルも除去するためのAmpErase UNGインキュベーションのため)、95℃で10分(AmpliTaqTM Gold活性化のため)であり、続いて、95℃で15秒間、60℃で1分間を40サイクル行った。試験サンプル、標準物質、及び鋳型なしコントロールのすべての反応はABI Prism 7700配列検出システムで行った。配列ディテクターV 1.6プログラムを用いて反応を二連で行った。各反応液で得られた値からRnとCtを平均した。標準物質中の鋳型のCt対既知コピー数をプロットして標準曲線を作成した。この標準曲線により、すべての未知サンプルのコピー数を自動的に得た。標的転写物のコピー数を決定するため、マウス又はヒトのゲノムDNA(Clontech, Palo Alto, CA)を用いて標準曲線を生成した。ヒト二倍体ゲノムの分子量に従ってゲノムDNA鋳型のコピー数を計算し[3×109bp=3×109×660(M.W.)=2×1012g]、次にアボガドロ数(1モル=6.022×1023分子)に基づいて1μg/μlのゲノムDNAを2.4×106コピー数に変換した。ゲノムDNAを5×105〜5×100コピー数の範囲で10倍ごとに希釈した。各サンプルについて二連で行い、各反応液からRn(レポーター色素発光量の消滅色素発光に対する比)と限界サイクル(Ct)値を平均した。次に、コピー数をGAPDHに対して正規化して、試験間のRT効率及びRNA完全性の差異による結果の変動性を最小限にした。
【0030】
細胞を抗CD3で刺激した場合、Th1細胞は、高レベルのIFN-γと低レベルのIL-4を発現し、一方Th2細胞は、抗CD3で刺激した後、より高レベルのIL-4と低レベルのIFN-γを発現した。
最後に、Affymetrixが提供している標準プロトコルに従ってcRNAを調製した。このcRNAをマウス及びマウスM430チップB上にハイブリダイズさせた。
IFN-γとIL-4のTaqManミックスはApplied Biosystemsから購入した。J12 TaqManプライマー及びプローブは以下のとおりである。
1)マウスJ12 TaqManプライマー
配列番号9 AK005939-F:GGATGTCAGCAGACGAATCAATAC
配列番号10 AK005939-R:TTGACTTTCTCCAGATGTGCTATGA
2)マウスJ12 TaqMan(登録商標) FAM-MGBプローブ:
配列番号11 AK005939-447T:CAGCCTGGACCGGGAAGCATTAACC
3)ヒトJ12 TaqManプライマー:
配列番号12 H-J12-19F:GTGCTCGTGTCCCAGAATTACAC;
配列番号13 H-J12-R:TGTCTAGCTGTCTGATTGTCTTGAGATA
4)ヒトJ12 TaqMan(登録商標) FAM-MGBプローブ:
配列番号14 H-J12-プローブ:TCCACAGCCCAGCCATCCGG
【0031】
〔配列の簡単な説明〕
配列番号1はマウスJ12 cDNA配列である。
配列番号2はマウスJ12タンパク質配列である。
配列番号3はヒトJ12変異体1 DNA全長である。
配列番号4はヒトJ12変異体2 DNA全長である。
配列番号5はヒトJ12変異体3 DNA全長である。
配列番号6はヒトJ12変異体1タンパク質である。
配列番号7はヒトJ12変異体2タンパク質である。
配列番号8はヒトJ12変異体3タンパク質である。
配列番号9はJ12 PCR順方向プライマーである。
配列番号10はJ12 PCR逆方向プライマーである。
配列番号11はTaqMan(登録商標) FAM-MGBプローブである。
配列番号12はヒトJ12順方向TaqManプライマーである。
配列番号13はヒトJ12逆方向Taqmanプライマーである。
配列番号14はヒトJ12 TaqMan(登録商標) FAM-MGBプローブである。
配列番号15はマウスJ12 cDNAである。
配列番号16はヒトJ12 Var3 DNAフラグメントである。
配列番号17はヒトJ12 Var3 DNAフラグメントである。
配列番号18はヒトJ12 Var1 DNAフラグメントである。
配列番号19はヒトJ12 var2 DNAフラグメントである。
配列番号20はマウスJ12の3’cDNAである。
配列番号21はヒトJ12 var1のポリペプチド1〜125である。
配列番号22はヒトJ12 Var3ポリペプチド1〜111又はvar3である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】マウスJ12 cDNA配列とEST AK005939とのアラインメントを示す。
【図2A】マウスJ12タンパク質配列及び切断部位を示す。
【図2B】マウスJ12遺伝子構造対AK005939を示す。
【図2C】マウスJ12遺伝子ゲノム構造を示す。
【図3】J12 mRNAが抗CD3刺激によってTh2細胞で特異的に誘導されることを示す。
【図4】抗CD3で刺激されたマウスTh2細胞におけるJ12 mRNA発現のTaqman PCR解析を示す。
【図5】正常組織におけるマウスJ12 mRNA発現を示す。
【図6】ヒトJ12変異体タンパク質配列を示す。
【図7】ヒトJ12スプライシング変異体遺伝子構造を示す。
【図8】ヒトJ12 var1及びJ12 var2タンパク質配列のSMART配列解析を示す。
【図9】EST AK005939とヒトJ12変異体とのアラインメントを示す。
【図10】抗CD3/CD28刺激で刺激されたヒトTh2細胞におけるJ12 mRNA発現のTaqman PCR解析を示す。
【図11】選択した正常ヒト組織におけるJ12の発現を示す。
【図12】IL-4及びIL-13に対するヒトJ12、Var1、Var2の部分的タンパク質配列のアラインメントを示す。
【図13】マウスJ12 cDNA配列対AY509149(IL-31)cDNA配列のアラインメントを示す。
【図14】ヒトJ12 var1(ヒトJ12-1)アミノ酸配列対AY499343(IL-31)アミノ酸配列を示す。
【図15】ヒトJ12 var2(ヒトJ12-2)アミノ酸配列対AY499343(IL-31)アミノ酸配列を示す。
【図16】ヒトJ12 var3(ヒトJ12-3)アミノ酸配列対AY499343(IL-31)アミノ酸配列を示す。
【図1−1】

【図1−2】

【図2−1】

【図2−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする配列を含む、単離された核酸。
【請求項2】
発現制御配列に機能可能に連結している請求項1記載の核酸を含む、発現ベクター。
【請求項3】
請求項2記載のベクターを含む、培養細胞。
【請求項4】
配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチドの発現を許容する条件下で請求項3記載の細胞を培養する工程を含む、タンパク質の製造方法。
【請求項5】
配列番号6のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする配列を含む、単離された核酸。
【請求項6】
発現制御配列に機能可能に連結している請求項5記載の核酸を含む、発現ベクター。
【請求項7】
請求項6記載のベクターを含む、培養細胞。
【請求項8】
配列番号6のアミノ酸配列を有するポリペプチドの発現を許容する条件下で請求項7記載の細胞を培養する工程を含む、タンパク質の製造方法。
【請求項9】
配列番号8のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする配列を含む、単離された核酸。
【請求項10】
発現制御配列に機能可能に連結している請求項9記載の核酸を含む、発現ベクター。
【請求項11】
請求項10記載のベクターを含む、培養細胞。
【請求項12】
配列番号8のアミノ酸配列を有するポリペプチドの発現を許容する条件下で請求項11記載の細胞を培養する工程を含む、タンパク質の製造方法。
【請求項13】
配列番号3又は配列番号5と少なくとも80%同一である配列を含む、単離された核酸配列。
【請求項14】
配列番号15〜18から選択される配列を含む配列を含む、単離された核酸。
【請求項15】
ヒトJ12 var1、ヒトJ12 var2又はヒトJ12 var3から選択されるポリペプチドに対する抗体。
【請求項16】
精製ポリペプチドであって、そのアミノ酸配列が、配列番号6又は配列番号8と少なくとも90%同一である配列を含む、前記精製ポリペプチド。
【請求項17】
J12の天然の結合相手に対する結合を阻害する化合物を同定する方法であって、
a)配列番号2及び配列番号6〜8から選択される配列を含むJ12ポリペプチドを提供する工程;
b)J12ポリペプチドを、その天然の結合相手及び試験化合物と接触させる工程;及び
c)前記結合相手のJ12ポリペプチドへの結合が前記試験化合物の存在下で減少するかを決定する工程、ここで前記結合の減少は、前記試験化合物がJ12の結合相手への結合を阻害することの指標である;
を含む前記方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図9−3】
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【図9−4】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13−1】
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【図13−2】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2008−518634(P2008−518634A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−540353(P2007−540353)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【国際出願番号】PCT/US2005/039088
【国際公開番号】WO2006/052489
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(500091335)ベーリンガー インゲルハイム ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (55)
【Fターム(参考)】