説明

TNFおよびIL−12のうちの少なくとも一方の過剰発現に関連する疾病の予防または治療のための組成物

本発明は、式(I)の少なくとも1つの化合物または医薬として許容される同化合物の塩の1つを含む医薬組成物に関し、式中、R1、R2およびR3が独立して水素またはR7−CO−基であり、R7は直鎖、分岐鎖、または環式の2〜24個の炭素原子を有するアル
キル、アルケンまたはアルキン基であり、R4は、水素原子であるか、またはモノ、ジ、
トリ、テトラ、およびペンタ−マンノシルから成る群から選択されたR6基によって6位
で置換されたマンノシル基である。また、本発明は、対象におけるTNFおよび/またはIL−12の過剰発現に関連する疾病の予防または治療のための薬物を製造するための同組成物の使用方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象におけるTNFおよびIL−12のうちの少なくとも一方の過剰発現に関連する疾病の予防または治療の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
関節リウマチまたはクローン病等の炎症性疾患の発生率が、先進国で、特に欧州諸国で絶えず増加している。これらの病気については、TNFおよびIL−12が重要なエフェクターを構成している。
【0003】
インターロイキン−12(IL−12)は、固有の構造と多面的作用サイトカインである(非特許文献1〜4)。IL−12は、活性型ヘテロ二量体または阻害型p40ホモ二量体を形成する2つのサブユニット(p40とp35)から成る。IL−12は、マクロファージと単球によって主に生産され、本質的にこの後に、特に微生物、細胞内寄生体、細菌または細菌産物の製品である内因性か外因性かを問わない種々の起源の活性化を伴う。機能的研究により、IL−12がNK(ナチュラルキラー)細胞とマクロファージの細胞溶解活性を刺激することが示された。最後に、IL−12はTh1型T細胞の分化における中心的役割を果たし、IFN−γの生産を誘導する。
【0004】
TFNαは、エンドトキシンまたは他の刺激に応答して単球とマクロファージにより分泌されるサイトカインである。TNFαは可溶性ホモ三量体に相当し、このタンパク質サブユニットは17kDaである(非特許文献5)。TNFの論評については、BEUTLERら(非特許文献6)、OLD(非特許文献7)、およびLEら(非特許文献8)を参照されたい。しかしながら、単球とマクロファージ以外の細胞はTNFを生産する傾向がある。例として、非単球ヒト細胞株はTNFを生産する(非特許文献9および非特許文献10参照)。
【0005】
TNFは、内皮血管細胞における凝固促進活性の誘発(非特許文献11)、好中球およびリンパ球の接着の増加(非特許文献12)、およびマクロファージ、好中球および内皮血管細胞による血小板活性化因子の放出刺激(非特許文献13)等の組織損傷を生じさせる炎症性応答を引き起こす。
【0006】
慢性関節リウマチ、クローン病、乾癬等の様々な炎症性疾患を治療するために、種々の「抗TNF」治療が開発されており(非特許文献14)、このような治療を用いて既に治療された世界における患者数は100万人に達し、主として欧州諸国とアメリカでなされている。これらの治療の大多数は、特許文献1に記載されたようなTNFに対する抗体を使用する。TNFに対する抗体であって治療に使用されるものの例としては、HUMIRA(登録商標)(ABOTT社)、CDP−870(UCB Pharma社)、AFELIMOMAB(登録商標)(KNOLL Gmbh社)、Infliximab(登録商標)(Centocor社)およびRemicade(登録商標)(Shering−Plough社)を挙げることができる。
【0007】
しかしながら、これらの種々の治療は、結核および日和見感染を発達させる傾向が増大する等の、不都合な作用を有することが明らかとなっている(非特許文献15)。抗TNF療法で治療された患者についての何千もの事例が報告されているが(非特許文献16)、この大多数は診断が困難な非定型の結核であり、散在性および肺外結核に相当し、恐らく潜在性慢性完成症の差違活性化に関連する(非特許文献17)。したがって、抗TNF
で治療された患者の1〜2%以下は結核に罹りやすいが、抗TNF療法のコストが低減しているために、罹患患者数が増加する可能性がある。大多数のこれらの感染症は潜在性感染症再活性化に相当し、事例の約30%が第一感染に相当する。最後に、結核感染の先例を有する患者に対するかかる抗TNF療法は、約9ヶ月の抗生物質治療を必要とする(非特許文献18)。
【0008】
IL−12に対する治療は開発の初期段階であり、特に、IL−12に対する抗体が特許文献2に記載され、IL−12の発現を阻害する特異的ヒアルロン酸が特許文献3に記載されている。
【0009】
TNFおよび/またはIL−12の過剰発現に関連する炎症性疾患および他の病気の新規な治療法を開発する必要性が未だ存在する。
ホスファチジル−ミオ−イノシトールマンノシド(PIM)は、ミコバクテリウム壁の一部を形成することが知られている低分子量(約2500)の分子である。ミコバクテリウム壁はリポアラビノマンナン(LAM)とリポマンナン(LM;図1参照)も含んでいる。PIMは、一般に1〜4個のアシル化鎖と、グリセロリン酸ミオイノシトール基と、1〜6個のマンノシル化基とを有し、合成することも可能である。従来技術から、M.smegmatisのような成長が早くて非病原性の種のいくつかのLAM(PILAM)が、TNFおよびIL−12の生産を刺激する炎症性分子であることが分かっている(非特許文献19)。このように、NF−κBシグナル伝達経路を活性化するTLR2依存経路によりPILAMがマクロファージを活性化することが実証されている(非特許文献20)。同様に、LMの炎症活性も、特にウシ結核菌BCGにて明らかとなっている(非特許文献21)。この炎症活性は、TLR2受容体およびMyD88アダプタタンパク質によるマクロファージと炎症性サイトカインの活性化によって生じる(非特許文献21)。徹底的な精製によりLMのモノ−、ジ−、トリ−、およびテトラ−アシル化型とウシ結核菌BCGを分離した後、トリ−およびテトラ−アシル化LMはTLR依存的炎症活性を示すことを実証することが可能である(非特許文献22)。したがって、ミコバクテリウムのLMアシル化プロファイルは、宿主の炎症反応を制御する追加の手段を表わす。
【0010】
ホスファチジル−ミオ−イノシトールジマンノシド(PIM2)およびヘキサマンノシ
ド(PIM6)は、ウシ結核菌BCGおよびヒト結核菌H37Rvnにおける2つの最も
量が豊富なPIMのクラスである。PIM1、PIM3、PIM4およびPIM5の限られた量で観察されるが、これはそれらが生合成の中間体に相当することを示唆している。PIMは、特定の位置でマンノース基を逐次付加することにより、ホスファチジルイノシトール(PI)から合成される。最初の3つのユニットα−Manpに加え、マンノシルトランスフェラーゼをコードする3つの遺伝子が現在知られている。開始ステップは、酵素pimA(非特許文献23)による触媒作用であり、これはPIのミオイノシトールの2位にα−Manp基を転移してPIM1を生成することから成るが、PIのミオイノシトー
ルの6位への第2のα−Manp基の付加は酵素pimB(非特許文献24)によって触媒される。次に、触媒pimC(非特許文献25)により、イノシトールに6位で結合されたα−Manpユニットに対して第3のα−Manp基を付加することで、伸長が起こり、PIM3が得られる。種々のPIMの構造を決定することが可能である(非特許文献
26〜28)。PIMに関する研究により、PIMの種々のアシル化型のキャラクタライズも可能となった(非特許文献27)。最後に、PIM2とPIM6の完全な合成が最近実現された(非特許文献29および30)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5,698,195号
【特許文献2】PCT国際出願国際公開第98/16248号
【特許文献3】米国特許出願出願公開第2004/097465号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Kobayashi et al., J. Exp. Med., vol.170, p:827-845., 1989
【非特許文献2】SEDER et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.90, p:10188-10192, 1993
【非特許文献3】LING et al., J. Immunol., vol.154, p:116-127, 1995
【非特許文献4】Podlaski et al., Arch. Biochem. Biophys., vol.294, p:230-237, 1995
【非特許文献5】SMITH et al., J. Biol. Chem., vol.294, p: 6951-6954, 1987
【非特許文献6】Nature, vol.320, p: 584, 1986
【非特許文献7】Science, vol.230, p: 630, 1986
【非特許文献8】Lab. Invest., vol.56, p:234
【非特許文献9】RUBIN et al., J. Exp. Med., vol.164, p: 1350, 1986
【非特許文献10】Spriggs et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.84, p: 6563, 1987
【非特許文献11】POBER et al., J. Immunol., vol. 136, p: 1680, 1986
【非特許文献12】POBER et al., J. Immunol., vol. 138, p: 3319, 1987
【非特許文献13】Camussi et al., J. Exp. Med., vol.166, p:1390, 1987
【非特許文献14】SCHREIBER et al., 2001
【非特許文献15】MOHAN et al., Curr. Opin. Rheumatol., vol.15, p: 179-184, 2003
【非特許文献16】ASKLING et al., Arthritis Rheum, vol. 52, p: 1986-1992, 2005
【非特許文献17】MOHAN et al., Clin. Infect. Dis., vol.39, p: 295-299, 2004
【非特許文献18】KEANE, Rheumatology, placeCityOxford. 2005
【非特許文献19】Chatterjee, Infect Immun, 1992; Gilleron, J. Biol. Chem., 1997
【非特許文献20】MEANS et al., J. Immunol., vol.163, p: 3920-3927, 1999
【非特許文献21】Quesniaux, J. Immunol., 2004; Vignal, J. Immunol., 2003
【非特許文献22】GILLERON et al., Chem. Biol., vol.13, p:39-47, 2006
【非特許文献23】KORDULAKOVA et al., J. Biol. Chem. 2002
【非特許文献24】SCHAEFFER et al., J. Biol. Chem., vol.274, p: 31625-31631, 1999
【非特許文献25】KREMER et al., Biochem. J., vol. 363, p: 437-447, 2002
【非特許文献26】GILLERON et al., 1999
【非特許文献27】GILLERON et al., 2001
【非特許文献28】GILLERON et al., 2003
【非特許文献29】STADELMAIER et al., Carbohydr. Res., vol.338, p: 2557-69, 2003
【非特許文献30】LIU et al., J. Am. Chem. Soc., vol.128, p: 3638-48, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
驚いたことに、また予期せずして、発明者らは、PIM2とPIM6のいくつかのアシル化型が炎症性サイトカイン応答の誘発を阻害することを示した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、本発明の第1の目的は、式(I)の少なくとも1つの化合物
【0015】
【化1】

【0016】
または医薬として許容される同化合物の塩の1つを含む医薬組成物から成る。
式中、
1、R2およびR3は独立して水素またはR7−CO−基であり、−R7は直鎖、分岐鎖
、または環式の2〜24個の炭素原子を有するアルキル、アルケンまたはアルキン基であり、
4は、水素原子であるか、または水素原子およびR7−CO−基から成る群から選択されたR6基によって6位で置換されたマンノシル基であり、
5は水素原子と、モノ、ジ、トリ、テトラまたはペンタ−マンノシルとから選択され
る。
【0017】
有利には、1または複数のマンノシル基はα−マンノシル基である。好ましくは、R5
基は、水素原子、モノ−マンノシルおよびペンタ−マンノシルから成る群から選択される。
【0018】
有利には、R7基は直鎖アルキル基である。好ましくは、R7は11〜21個の炭素原子、特に好ましくは13〜19個の炭素原子を有する。
式(I)の化合物は、実施例に記載したようにミコバクテリウムからPIMを精製することにより、または非特許文献29および30に記載されたプロトコルに従う化学合成により、当業者に容易に得ることが可能である。
【0019】
式(I)の化合物の医薬として許容される塩は、限定されず、例えばアルカリ金属塩(ナトリウム、リチウム、カリウム等の塩)等の無機塩基塩、アンモニウム塩、およびジエチルアミン、シクロヘキサミンおよびアミノ酸塩等の有機塩基塩が含まれる。
【0020】
好ましい実施形態によれば、本発明の組成物は、式(I)の少なくとも1つの化合物または医薬として許容される同化合物の塩の1つを含み、
式(I)中、
1、R2およびR3基のうちの1つがR7−CO−基であり、−R7が直鎖、分岐鎖、ま
たは環式の2〜24個の炭素原子を有するアルキル、アルケンまたはアルキン基であると共に、他の2つの基が水素原子であり、
4が水素原子であり、
5が水素原子である。
【0021】
好ましい実施形態によれば、本発明の組成物は、式(I)の少なくとも1つの化合物または医薬として許容される同化合物の塩の1つを含み、
式(I)中、
1、R2およびR3は独立して水素またはR7−CO−基であり、−R7が直鎖、分岐鎖
、または環式の2〜24個の炭素原子を有するアルキル、アルケンまたはアルキン基であり、
4は、水素原子およびR7−CO−基から成る群から選択されたR6基によって6位で
置換されたマンノシル基であり、
5はマンノシルであり、
1、R2、R3およびR6基のうちの1つの基がR7−CO−基であり、他の3つの基が
水素原子である。
【0022】
第3の好ましい実施形態によれば、本発明の組成物は、式(I)の少なくとも1つの化合物または医薬として許容される同化合物の塩の1つを含み、
式(I)中、
1、R2およびR3は独立して水素またはR7−CO−基であり、−R7が直鎖、分岐鎖
、または環式の2〜24個の炭素原子を有するアルキル、アルケンまたはアルキン基であり、
4は、水素原子およびR7−CO−基から成る群から選択されたR6基によって6位で
置換されたマンノシル基であり、
5はペンタ−マンノシルであり、
1基、R2、R3およびR6基のうちの少なくとも2つの基は、R7−CO−基に相当す
る。
【0023】
有利には、R1基、R2、R3およびR6基のうちの2つ、3または4つがR7−CO−基
に相当する。
本発明の組成物では、式(I)の化合物を、溶媒、DMSO、水または緩衝液への溶解またはエマルジョンおよびマイクロエマルジョンへの組み込み等の、周知の方法により調剤することが可能である。
【0024】
また、本発明の組成物は、安定剤、乳化剤、等張化剤、防腐剤、着色剤、賦形剤、結合剤および潤滑剤のような、医薬の分野で周知の成分を含んでもよい。
本発明の第2の目的は、対象におけるTNFおよびIL−12のうちの少なくとも一方の過剰発現に関連する疾病の予防または治療のための薬物を製造するための上記組成物の使用方法から成る。
【0025】
「対象」とは、哺乳動物、好ましくはヒトを意味する。
「TNFおよびIL−12のうちの少なくとも一方の過剰発現に関連する疾病」とは、以下の疾病を意味する:
A)免疫または自己免疫疾患、例えばリウマチ性多発性関節炎、移植片拒絶、糖尿病、散在性紅斑性狼瘡、バセドー病、
B)感染症、特に細菌、ウイルスおよび寄生源の少なくとも一つの慢性または急性感染に起因するショック、
C)炎症性疾患、例えば慢性炎症性疾患(サーコイドーシス、炎症性腹部疾患、慢性関節リウマチ、出血性直腸結腸炎、クローン病)および血管炎症性疾患(脱繊維素症候群、関節硬化症、川崎病)、
D)神経変性疾患、例えば脱髄疾患(多発性硬化症および急性横断性脊髄炎)、錐体外路および小脳の疾患(皮質脊髄系の病変および脳幹神経節障害)、
E)TNF分泌腫瘍またはTNFに関する悪性病変、例えば白血病(急性、骨髄性、リンパ球性、または慢性骨髄異形成性)、リンパ腫(ホジキンリンパ腫)、または悪性種(バーキット腫)、および
F)アルコール性肝炎。
【0026】
前記薬物は、好ましくは、対象の炎症性疾患の予防または治療を目的とする。
前記薬物は、注射(静脈内、筋肉内、皮下、皮内等)、経鼻、経口、経皮投与により、または吸入により投与することができる。投与態様によれば、前記薬物は、溶液、乳剤、丸剤、粉剤、軟膏、ローション、ゲル、坐薬または噴霧剤の形で調製可能である。
【0027】
前記薬物では、化合物(I)または医薬として許容される同化合物の塩の濃度は限定されず、好ましくは0.1%から100%(p/p)の間、特に好ましくは0.5%から20%の間にある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ヒト結核菌(M.tuberculosis)のエンベロープの模式図。
【図2】PIMの存在下および不在下でのLPSによる野生型マウスマクロファージの刺激によるTNF−αの合成の阻害を示すグラフ。
【図3】種々のPIM分画の存在下で同じマクロファージに対してMTT細胞毒性試験の結果を示すグラフ。
【図4】PIMの存在下および不在下でのLPSによるTLR2欠損マウスマクロファージの刺激によるTNF−αの合成の阻害を示すグラフ。
【図5】PIMの存在下および不在下でのLPSによるSIGN−R1欠損マウスマクロファージの刺激によるTNF−αの合成の阻害を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下の実施例は本発明を例証するものであって、非限定的な例として与えられる。
実施例
1)ホスファチジル−ミオ−イノシトールジ−(PIM2)およびヘキサ−(PIM6)−マンノシドの種々のアシル化型の精製
PIMが豊富な脂質抽出物を、ミコバクテリウムの糖脂質の精製により得た。ウシ結核菌BCGは、VERCELLONE et al.(J. Biol. Chem., vol. 264, p: 7447-7454, 1989)およびGILLERON et al. J. Biol. Chem., vol.276, p: 34896-34904, 2001)に記載されたプロトコルにより得た。
【0030】
アセトンに不溶なリン脂質を含む脂質抽出物を、中性の化合物を溶出するためにクロロホルム、クロロホルム/メタノール(1:1,v/v)、及びメタノールの溶液で予め平衡化しておいたQMA−SPHEROSIL M(BIOSEPRA S.A.社)のカラムにかけた。その後、酢酸アンモニウムを含む有機溶媒を使用して、リン脂質を異なる分画中に溶出させた。
【0031】
*分画A:750mgのリン脂質(ホスファチジル−ミオ−イノシトール ジ−マンノシド(PIM2)が豊富)、0.1M酢酸アンモニウムを含むクロロホルム/メタノール
混合物(1:2,v/v)で溶出
*分画B(2つの分画に細分される):440mgのリン脂質(本質的カルジオ脂質)および160mgのリン脂質(ホスファチジル−ミオ−イノシトール ジ−マンノシド(PIM2)とヘキサ−マンノシド(PIM6)の混合物)、0.2M酢酸アンモニウムを含むクロロホルム/メタノール混合物(1:2,v/v)で溶出
*分画C:55mgのリン脂質(ホスファチジル−ミオ−イノシトール ヘキサ−マンノシド(PIM6)が豊富)の。0.2M酢酸アンモニウムを含むメタノール溶液で溶出
種々の分画から酢酸アンモニウム塩を除去するために、連続的な凍結乾燥/再懸濁工程を行なった。
【0032】
その後、得られた分画を使用して、種々のアシル型を精製した。
ホスファチジル−ミオ−イノシトール ヘキサ−マンノシド(PIM6)の場合、分画
Cの20mgのリン脂質を、15%(v/v)のプロパノール−1を含む0.1M酢酸アンモニウム溶液中に、同じ緩衝液で予め平衡化しておいたオクチルセファロースCL−4Bカラム(PHARMACIA社)で再懸濁した。カラムは最初50mlの平衡化緩衝液で、その後15%から65%(v/v)(各250ml)のプロパノール−1の0.1M
酢酸アンモニウム溶液の線形勾配で5ml/hの速度で溶出させた。分画は30分毎に採取した。20μlの各分画を乾燥させ、酸加水分解させた(100μlの2Mトリフルオロ酢酸、110℃で2時間)。加水分解物を乾燥し、水に再懸濁し、次に、そのマンノース含量を調べるためにGILLERONら(前掲、2003年)に記載の通り高pH陰イオン交換クロマトグラフィ(HPAEC)で分析した。得られた分画を、その精製プロフィールに従ってグループ化し、凍結乾燥を繰り返して酢酸アンモニウム塩を除去した。アセトンによる沈殿工程を各分画に対して行い、プロパノール−1から出る汚染物質を除去した。最後に、1.2mg、1mg、7.5mgおよび3mgの分画I、II、III、IVがそれぞれ得られた。
【0033】
ホスファチジル−ミオ−イノシトール ジ−マンノシド(PIM2)の場合、分画Aの
20mgのリン脂質を、25%(v/v)のプロパノール−1を含む0.1M酢酸アンモニウム溶液中に、同じ緩衝液で予め平衡化しておいたオクチルセファロースCL−4Bカラム(PHARMACIA社)で再懸濁した。
カラムは最初50mlの平衡化緩衝液で、その後25%から50%(v/v)(各125ml)のプロパノール−1の0.1M酢酸アンモニウム溶液の線形勾配で5ml/hの速度で溶出させた。分画は15分毎に採取した。20μlの各分画を乾燥させ、酸加水分解させた(100μlの2Mトリフルオロ酢酸、110℃で2時間)。加水分解物を乾燥し、水に再懸濁し、次に、そのマンノース含量を調べるためGILLERONら(前掲、2003年)に記載の通り高pH陰イオン交換クロマトグラフィ(HPAEC)で分析した。得られた分画を、その精製プロフィールに従ってグループ化し、凍結乾燥を繰り返して酢酸アンモニウム塩を除去した。
【0034】
2)初代マクロファージ培養物の調製
マウス骨髄細胞を、野生型マウス系統であってTLR2(MICHELSEN et al., J. Biol.
Chem., vol. 276, p: 25680-25686, 2001)またはSIGN−1(LANOUE et al., J. Exp. Med., vol. 200, p: 1383-1393, 2004)が欠損したC57BL/6(B6)マウスと
、対応する対照系統とから得た。得られた細胞を、20%ウマ血清および30%L929調製細胞培地で補足したDMEM環境(DUBECCO)で7日間培養した(106個/
ml)(M−CSFの供給源についてはMULLER et al., Mol. Med., vol.2, p:247-255, 1996参照)。培地を新たに交換して3日後、細胞調製物はマクロファージの均質な集団を含む。
【0035】
3)PIMの存在下および不在下でのLPSによる野生型マウスマクロファージの刺激
野生型マウス骨髄B6に由来するマクロファージを、105個/ウェルの細胞の割合に
なるよう96ウェル培養プレート上で培養し、次に、PIM(6.7μg/ml)の存在下および不在下で、LPS(100ng/ml、Escherichia coli、セロタイプ O111:B4、SIGMA社)により刺激した。使用したPIMの分画は、PIM6の種々のアシル化型(Ac1PIM6からAc4PIM6まで)と、PIM2の2つの分画(すなわちPIおよびPIM2のモノアシル化型(PIC16とPIM216)を含む分画と、PIM2のトリおよびテトラアシル化型(Ac3PIM2とAc4PIM2)を含む
分画)に相当した。使用した凍結乾燥PIMのすべての調製物はDMSOに溶解し、1%の非細胞毒性終濃度になるよう培地に加えた。
【0036】
24時間の刺激後、培養液の上清を採取し、ELISA法(DUOSET)でTNF−αおよびIL−12p40サイトカインを分析すると共に、GRIESS反応で亜硝酸塩含量を分析した。
【0037】
その結果、PIM6のジ、トリ、およびテトラアシル化型と、PIM2のモノアシル化型が、LPSの存在下でマクロファージで引き起こされるTNF−αの合成を強く阻害する
ことが示された。さらに、PIM6のモノアシル化型とPIM2のトリおよびテトラアシル化型も、程度は低いものの、やはりTNF−αの合成を阻害し、特にPIM2のトリおよ
びテトラアシル化型の場合に阻害した(図2)。同様の結果が、NOおよびIL−12p40の発現に対しても得られた。種々のPIM分画の存在下で同じマクロファージに対してMTT細胞毒性試験を行ったところ、PIM6のモノアシル型の分画だけが細胞に対し
て低い細胞毒性を示した(図3)。
【0038】
PIM2とPIM6の調製物が、マクロファージの初代培養物によるTNFとIL−12p40の分泌刺激の刺激剤として最初に同定されていたため、PIMの非分画調製物(分画AからC)を20μg/ml濃度のLPSにより引き起こされる反応について試験した。
【0039】
得られた結果、非分画PIM調製物の存在下では、LPSにより引き起こされるマクロファージの初代培養物の炎症性反応(TNF−αおよびIL−12p40)の阻害は示されなかった。
【0040】
このことは、PIM2および/またはPIM6のアシル化型の精製度のみならず由来および性質も炎症性反応の阻害効果に影響することを実証している。
4)PIMの存在下および不在下でのLPSによるTLR2欠損マウスマクロファージ
の刺激
PIMの非分画調製物がTLR2アゴニストを構成し(JONES et al., J. Leukoc. Biol., vol. 69, p: 1036-1044, 2001)、PIM2またはPIM6の存在下でのマクロファージの弱い活性化がTLR2依存的なものであること(GILLERONら、前掲、2003
年)が、以前に確認されていた。
【0041】
PIMのアシル化分画の抗炎症活性にTLR2が関与するだろうという仮説について検
討するために、TLR2が欠損しているマウス骨髄由来のマクロファージを培養し、以前
に記載されたように(段落3を参照)、PIM2またはPIM6の種々のアシル化型を含む分画が有る場合と無い場合とでLPSの存在下で試験した。
【0042】
その結果、PIM6のジ、トリ、およびテトラアシル化型と、PIおよびPIM2のモノアシル化型が、LPSの存在下でマクロファージで引き起こされるTNF−αの合成を強く阻害することが示された。さらに、PIM6のモノアシル化型とPIM2のトリおよびテトラアシル化型も、程度は低いものの、やはりTNF−αの合成を阻害し、特にPIM2
のトリおよびテトラアシル化型の場合に阻害した(図4)。従って、これらの分画の抗炎症作用はTLR2には依存しない。
【0043】
5)PIMの存在下および不在下でのLPSによるSIGN−R1欠損マウスマクロファージの刺激
ヒトDC−SIGN受容体は、M.tuberculosis(ヒト結核菌)を(ManLAMおよびLMを介して)固定するための必須の受容体であることが知られている。
【0044】
仮説を考察するために、どれによって、DC−SIGNファミリーのマウス受容体がPIMのアシル化分画の抗炎症作用に関与するだろうという仮説について検討するために、SIGN−R1が欠損しているマウス骨髄由来のマクロファージを培養し、以前に記載されたように(段落3を参照)、PIM2またはPIM6の種々のアシル化型を含む分画が有る場合と無い場合とでLPSの存在下で試験した。
【0045】
その結果、PIM6のジ、トリ、およびテトラアシル化型と、PIおよびPIM2のモノアシル化型が、LPSの存在下でSIGN−R1欠損マクロファージで引き起こされるT
NF−αの合成を強く阻害することが示された。さらに、PIM6のモノアシル化型とP
IM2のトリおよびテトラアシル化型も、程度は低いものの、やはりTNF−αの合成を
阻害し、特にPIM2のトリおよびテトラアシル化型の場合に阻害した(図5)。従って
、これらの分画の抗炎症作用はSIGN−R1には依存しない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の少なくとも1つの化合物、
【化1】

または医薬として許容される同化合物の塩の1つ
を含む医薬組成物であって、
式中、
1、R2およびR3は独立して水素またはR7−CO−基であり、−R7は直鎖、分岐鎖
、または環式の2〜24個の炭素原子を有するアルキル、アルケンまたはアルキン基であり、
4は、水素原子であるか、または水素原子およびR7−CO−基から成る群から選択されたR6基によって6位で置換されたマンノシル基であり、
5は水素原子と、モノ、ジ、トリ、テトラまたはペンタ−マンノシルとから選択され
る、
医薬組成物。
【請求項2】
前記R7基が直鎖アルキル基であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記R7基が11〜21個の炭素原子、好ましくは13〜19個の炭素原子を有するこ
とを特徴とする請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が、式(I)の少なくとも1つの化合物または医薬として許容される同化合物の塩の1つを含み、式(I)中、
1、R2およびR3基のうちの1つがR7−CO−基であり、−R7が直鎖、分岐鎖、ま
たは環式の2〜24個の炭素原子を有するアルキル、アルケンまたはアルキン基であると共に、他の2つの基が水素原子であり、
4が水素原子であり、
5が水素原子である、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、式(I)の少なくとも1つの化合物または医薬として許容される同化合物の塩の1つを含み、式(I)中、
1、R2およびR3は独立して水素またはR7−CO−基であり、−R7が直鎖、分岐鎖
、または環式の2〜24個の炭素原子を有するアルキル、アルケンまたはアルキン基であり、
4は、水素原子およびR7−CO−基から成る群から選択されたR6基によって6位で
置換されたマンノシル基であり、
5はマンノシルであり、
1、R2、R3およびR6基のうちの1つの基がR7−CO−基であり、他の3つの基が
水素原子である、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、式(I)の少なくとも1つの化合物または医薬として許容される同化合物の塩の1つを含み、式(I)中、
1、R2およびR3は独立して水素またはR7−CO−基であり、−R7が直鎖、分岐鎖
、または環式の2〜24個の炭素原子を有するアルキル、アルケンまたはアルキン基であり、
4は、水素原子およびR7−CO−基から成る群から選択されたR6基によって6位で
置換されたマンノシル基であり、
5はペンタ−マンノシルであり、
1基、R2、R3およびR6基のうちの少なくとも2つの基は、R7−CO−基に相当す
る、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
1基、R2、R3およびR6基のうちの2つ、3つ、または4つがR7−CO−基に相当
することを特徴とする請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
安定剤、乳化剤、等張化剤、防腐剤、着色剤、賦形剤、結合剤および潤滑剤群から選択された少なくとも1つの化合物をさらに含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
対象におけるTNFおよびIL−12のうちの少なくとも一方の過剰発現に関連する疾病の予防または治療のための薬物を製造するための請求項1〜8のいずれかに記載の組成物の使用方法。
【請求項10】
前記TNFおよびIL−12のうちの少なくとも一方の過剰発現に関連する疾病が、免疫または自己免疫疾患、感染症、炎症性疾患、神経変性疾患、TNF分泌腫瘍またはTNFに関する悪性病変、およびアルコール性肝炎から成る群から選択されることを特徴とする、請求項9に記載の使用方法。
【請求項11】
前記TNFおよびIL−12のうちの少なくとも一方の過剰発現に関連する疾病が、炎症性疾患から選択されることを特徴とする、請求項10に記載の使用方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【公表番号】特表2010−510298(P2010−510298A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537673(P2009−537673)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【国際出願番号】PCT/FR2007/001898
【国際公開番号】WO2008/068429
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(505045610)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ スィヤンティフィック(セーエヌエルエス) (41)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE(CNRS)
【出願人】(509142313)ユニベルシテ ドルレアン (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE D’ORLEANS
【Fターム(参考)】