説明

TOLL様受容体誘導性のサイトカインおよびケモカイン分泌のシャペロニン10調節

Toll様受容体シグナル伝達および/またはToll様受容体誘導性の免疫調節物質分泌を制御するためのシャペロニン10 (Cpn10)の使用方法が提供される。Cpn10はToll様受容体アゴニスト誘導性の炎症誘発性サイトカインおよびケモカイン、例えば、それぞれIL-6およびRANTESの分泌を負に制御する。Cpn10はToll様受容体アゴニスト誘導性の抗炎症性サイトカインおよびケモカイン、例えば、IL-10の分泌を正に制御する。Cpn10のこれらの免疫調節活性は、過剰な炎症誘発性サイトカインおよびケモカインの分泌に起因する疾患、疾病および症状の治療に有用となりうる。本発明はまた、Toll様受容体シグナル伝達および/またはToll様受容体誘導性の免疫調節物質分泌を制御するその能力による、Cpn10のアゴニストおよびアンタゴニストの産生、デザインおよび/またはスクリーニングに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明はToll様受容体シグナル伝達ならびに/またはToll様受容体誘導性の免疫調節物質産生および/もしくは分泌を調節するためのシャペロニン10の使用に関する。より具体的には、本発明は過剰な免疫調節物質の分泌によって生ずる疾患、疾病および症状の治療のためのToll様受容体誘導性のサイトカインおよびケモカイン分泌の調節に関する。本発明は同様に、シャペロニン10のアゴニストおよびアンタゴニストの産生、デザインおよび/またはスクリーニングに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
Toll様受容体ファミリーは、昆虫、動物および植物において炎症および免疫で重要な役割を果たす。Toll様受容体(TLR)はリンパ球、マクロファージおよび樹状細胞を含めて、単核細胞系列の細胞により発現される。
【0003】
TLR2はTLR2アゴニスト、例えば、ある種の細菌の外壁の構成成分とできるリポタイコ酸およびリポペプチドにより活性化される。TLR3は、ウイルスに由来する二本鎖RNAなどのアゴニストにより活性化される。
【0004】
TLR4は、グラム陰性細菌の外壁の構成成分であるリポタンパク質もしくはリポ多糖(LPS)または内毒素により活性化される。
【0005】
病原体による、または病原体に由来する分子によるTLR活性化は、主に転写因子NF-κBの活性化(Beg, 2002, Trends Immunol. 2002 23 509-12.)やサイトカイン産生の調節をもたらす細胞内シグナル伝達を誘導する。しかしながら、p38マイトジェン活性化キナーゼ、c-Jun-N末端キナーゼおよび細胞外シグナル関連キナーゼ経路を含めて、一連の他の経路も誘発されうる(Flohe, et al., 2003, J Immunol, 170 2340-2348; Triantafilou & Triantafilou, 2002, Trends Immunol, 23 301-304)。異なるTLRの連結によって誘導される遺伝子発現のパターンは、異なるが重複することが多い。例えば、TLR3アゴニストおよび二本鎖RNAにより上方制御される遺伝子の大部分は、TLR4アゴニストおよびLPSによっても上方制御される(Doyle et al., 2002, Immunity, 17 251-263)。マクロファージにおけるLPSによるTLR4活性化は、TNF-α、IL-12、IL-1β、RANTESおよびMIP1β分泌をもたらす(Flohe et al., 前記; Jones et al., 2002, J Leukoc Biol, 69 1036-1044)。
【0006】
哺乳動物シャペロニン10 (熱ショックタンパク質10としても知られる)は、タンパク質の折り畳みに関与するミトコンドリアタンパク質として最初に報告されており、細菌タンパク質GroESの相同体である。GroESおよびシャペロニン10 (Cpn10)は7員環にオリゴマー化し、これが7個のGroELまたはHsp60分子を含んだカップ様構造体に蓋として結合し、この複合体に変性タンパク質をつなぎ留める(Bukau & Horwich, 1998, Cell, 92 351-366; Hartl & Hayer-Hartl, 2002, Science, 295 1852-1858)。Cpn10は同様に、細胞表面(Belles et al., 1999, Infect Immun, 67 4191-4200; Feng et al., 2001, Blood, 97 3505-3512)におよび細胞外液中(Michael et al., 2003, J Biol Chem, 278 7607-7616; Johnson et al., 2003, Cir Rev Immunol, 23 15-44)に認められることが多い。
【0007】
Cpn10は妊娠早期に存在する抑制性因子であることも示されており、実験的自己免疫性脳脊髄炎、遅延型過敏症および同種異系移植の拒絶反応モデルにおいて免疫抑制活性を示している(Zhang et al., 2003, J Neurol Sci, 212 37-46; Morton et al., 2000, Immunol Cell Biol, 78 603-607)。
【0008】
国際公開WO 02/40038に記述されている結核菌(Mycobacterium tuberculosis)由来Cpn10を使った最近の研究によれば、この分子がTh2型免疫反応によって媒介されるがん、アレルギー反応および/またはアレルギー症状などの疾病を治療する際に有効でありうることが示唆される。これはTNF-αおよびIL-6などのサイトカインの誘導を通じて達成されうることが提唱されている。
【0009】
しかしながら、Cpn10、具体的には哺乳動物Cpn10がその免疫調節効果を及ぼす作用機序は不明のままである。
【発明の開示】
【0010】
発明の概要
驚くべきことに、本発明者らはCpn10がToll様受容体アゴニストを介した免疫調節物質分泌の刺激を制御することを証明した。
【0011】
より具体的には、Cpn10はToll様受容体を介した炎症誘発性免疫調節物質の誘導を下方制御し、Toll様受容体を介した抗炎症性免疫調節物質の分泌誘導を正に制御する。
【0012】
したがって、本発明は広くは、シャペロニン10 (Cpn10)によるToll様受容体シグナル伝達の調節を対象とする。
【0013】
第1の局面では、本発明はCpn10、またはCpn10の誘導体を動物、細胞、組織または臓器に投与し、それによってToll様受容体シグナル伝達を制御する段階を含む、動物において、または動物に由来する1つもしくは複数の細胞、または組織もしくは臓器においてToll様受容体シグナル伝達を制御する方法を提供する。
【0014】
第2の局面では、本発明はCpn10、またはCpn10の誘導体を動物、細胞、組織または臓器に投与し、それによってToll様受容体誘導性の免疫調節物質の産生および/または分泌を制御する段階を含む、動物において、または動物に由来する1つもしくは複数の細胞、または組織もしくは臓器において免疫調節物質の分泌を制御する方法を提供する。
【0015】
これらの局面によれば、本発明はToll様受容体シグナル伝達ならびに/または免疫調節物質産生および/もしくは分泌を制御し、それにより動物において免疫反応を調節して、疾患、疾病または症状を予防的にまたは治療的に処置する方法を提供する。
【0016】
好ましくは、疾患、疾病または症状は敗血症性ショック、炎症性腸疾患、関節炎、乾癬、心疾患、アテローム性動脈硬化症、慢性肺疾患、悪液質、多発性硬化症、GVHD、移植およびがんなどの急性または慢性炎症性疾患より選択される。
【0017】
本発明によれば、Cpn10はTLR2、TLR3およびTLR4からなる群より選択されるToll様受容体を制御することが好ましい。
【0018】
より好ましくは、Toll受容体はTLR2およびTLR4からなる群より選択される。
【0019】
さらにより好ましくは、Toll様受容体はTLR4である。
【0020】
Cpn10は、Toll様受容体アゴニストにより刺激される、活性化されるまたは誘導されるToll様受容体シグナル伝達ならびに免疫調節物質産生および/または分泌を制御することが適切である。
【0021】
Toll様受容体アゴニストは病原体であっても、病原体に由来するまたは病原体により産生される分子であってもよく、あるいは合成によるToll様受容体アゴニストであってもよい。
【0022】
好ましくは、Toll様受容体アゴニストはLPS、リポペプチドおよび二本鎖RNAからなる群より選択される。
【0023】
1つの態様では、Toll様受容体がTLR4である場合、アゴニストはLPSであることが好ましい。
【0024】
別の態様では、Toll様受容体がTLR3である場合、アゴニストは二本鎖RNAであることが好ましい。
【0025】
さらに別の態様では、Toll様受容体がTLR2である場合、アゴニストはリポペプチドであることが好ましい。
【0026】
特定の態様では、リポペプチドはPAM3CysSK4であってよい。
【0027】
動物または動物に由来する細胞、組織もしくは臓器は、1種または複数種のToll様受容体を発現する細胞を含むことがふさわしい。
【0028】
好ましくは、細胞は免疫細胞である。
【0029】
より好ましくは、免疫細胞は単球、マクロファージ、樹状細胞、またはリンパ球である。
【0030】
好ましくは、動物は哺乳動物である。
【0031】
より好ましくは、動物はヒトである。
【0032】
前述の局面によれば、1つの態様では、免疫調節物質はTNF-αもしくはインターロイキン6 (IL-6)などの炎症誘発性サイトカイン、またはRANTESなどの炎症誘発性ケモカインであるが、それらに限定されるわけではない。
【0033】
別の態様では、免疫調節物質はインターロイキン10 (IL-10)などの抗炎症性サイトカイン、またはTGF-βなどの抗炎症性ケモカインであるが、それらに限定されるわけではない。
【0034】
免疫調節物質が炎症誘発性サイトカインまたはケモカインである態様では、Cpn10の投与はその免疫調節物質産生および/または分泌を阻害する、抑制するまたは別の方法で減らすことが好ましい。
【0035】
免疫調節物質が抗炎症性サイトカインまたはケモカインである態様では、Cpn10の投与はその免疫調節物質産生および/または分泌を増大させる、亢進させる、促進させるまたは別の方法で増加させることが好ましい。
【0036】
第3の局面では、本発明はToll様受容体、Toll様受容体アゴニストおよびCpn10を含む単離された分子複合体を提供する。
【0037】
好ましくは、Toll様受容体はTLR2、TLR3およびTLR4からなる群より選択される。
【0038】
より好ましくは、Toll受容体はTLR2およびTLR4からなる群より選択される。
【0039】
さらにより好ましくは、Toll様受容体はTLR4である。
【0040】
1つの態様では、Toll様受容体がTLR4である場合、アゴニストはLPSである。
【0041】
別の態様では、Toll様受容体がTLR3である場合、アゴニストは二本鎖RNAである。
【0042】
さらに別の態様では、Toll様受容体がTLR2である場合、アゴニストはPAM3CysSK4である。
【0043】
1つの特定の態様では、本発明はTLR4、LPSおよびCpn10を含む単離された分子複合体を提供する。
【0044】
第4の局面では、本発明は、候補アゴニストがToll様受容体シグナル伝達ならびに/またはToll様受容体誘導性の免疫調節物質産生および/もしくは分泌のCpn10制御を模倣するまたは増強するかどうかを判定する段階を含む、Cpn10アゴニストを産生する、デザインするまたはスクリーニングする方法を提供する。
【0045】
第5の局面では、本発明は、候補アンタゴニストがToll様受容体シグナル伝達ならびに/またはToll様受容体誘導性の免疫調節物質産生および/もしくは分泌のCpn10制御を阻害する、減らす、抑制するまたは別の方法で減少させるかどうかを判定する段階を含む、Cpn10アンタゴニストを産生する、デザインするまたはスクリーニングする方法を提供する。
【0046】
好ましくは、Toll様受容体はTLR2、TLR3およびTLR4からなる群より選択される。
【0047】
より好ましくは、Toll受容体はTLR2およびTLR4からなる群より選択される。
【0048】
さらにより好ましくは、Toll様受容体はTLR4である。
【0049】
第6の局面では、本発明は、前述の局面によって産生された、デザインされたまたはスクリーニングされたCpn10アゴニストまたはアンタゴニストを提供する。
【0050】
本明細書を通して、「含む(comprise)」、「含む(comprises)」および「含む(comprising)」は、排他的というよりむしろ、包含的に用いられ、言明された完全体または完全体の群の包含を意味するが、任意の他の完全体または完全体の群の排除を意味しないことが理解されよう。
【0051】
発明の詳細な説明
本発明は、少なくとも一部は、いくつかの異なるヒトおよびマウスのインビトロ系およびインビボ系においてCpn10がLPSを介した炎症誘発性サイトカインTNF-αおよびIL-6ならびに炎症誘発性ケモカインRANTESの分泌を阻害し、単球、マクロファージおよび単核細胞を含む細胞においてLPS誘導性の抗炎症性サイトカインIL-10の分泌を増加させるという発見から生まれたものである。
【0052】
これは、マイコバクテリアCpn10がTNF-αおよびIL-6などのサイトカインの発現を増加させることにより、Th2を介した免疫反応を抑制するように作用するということを提唱する国際公開WO 02/40038とは対照的である。
【0053】
特定の理論によって束縛されることを望むわけではないが、本発明によれば、Cpn10はTh1とTh2依存的な機構のどちらも介さずに作用する。
【0054】
本発明者らは意外にも、Cpn10がToll様受容体シグナル伝達におよびこれに伴うToll様受容体アゴニストに応じた免疫調節物質分泌に影響を及ぼすことを証明した。
【0055】
より具体的には、Cpn10は用量依存的に、Toll様受容体アゴニスト刺激によるNF-κB活性化や、TNF-αおよびRANTES分泌を減らし、ならびにIL-10分泌を増やす。
【0056】
さらに、本発明者らは同様に、Cpn10、Toll様受容体およびToll様受容体アゴニストが分子複合体を形成することを証明した。FRET解析により、Cpn10とToll様受容体との間に直接的な相互作用が存在しうること、またはTLRリガンド(例えば、LPS)の存在下で、少なくともそれらが非常に緊密な空間的近接状態(互いが1〜10 nm以内)にあることが示唆される。
【0057】
Toll様受容体アゴニストは病原体(細菌またはウイルスなどの)、病原体に由来するまたは病原体により産生される分子(細菌LPS、細菌内毒素、マイコバクテリア由来リポアラビノマンナン、リポテイコ酸、リポペプチドまたはウイルス由来二本鎖RNAなどの)であってもよく、あるいはラウリン酸またはパルミチン酸などの長鎖アシル化飽和脂肪酸に連結されたペプチド/アミノ酸などの合成リポペプチドToll様受容体アゴニスト、例えば、TLR2アゴニストPAM3CysSK4であってもよいことが理解されよう。
【0058】
本発明の目的で、「免疫調節物質」とは、免疫反応の活性化、維持、成熟、阻害、抑制または増強に関与する免疫系の細胞と相互作用する分子メディエータまたは免疫系の細胞により分泌される分子メディエータのことを意味する。
【0059】
「サイトカイン」とは、免疫反応の活性化、維持、成熟、阻害、抑制または増強に関与する免疫系の細胞により分泌される分子メディエータのことを意味する。限定するものではないサイトカインの例は、TNF-α、インターロイキン-6 (IL-6)、インターロイキン-12 (IL-12)、インターロイキン-1β (IL-1β)およびインターロイキン-10 (IL-10)である。
【0060】
「ケモカイン」とは、細胞の遊走および活性化を促進するおよび/または制御するように作用する分子メディエータのことを意味する。限定するものではないケモカインの例は、MIP1α、MIP1β、RANTESおよびTGF-βである。
【0061】
「炎症誘発性免疫調節物質」とは、炎症過程または炎症反応に影響を及ぼすまたは何らかの関与をするサイトカインまたはケモカインのことを意味する。
【0062】
限定するものではない炎症性誘発免疫調節物質の例は、IL-6、TNF-α、IL-12およびIL-1β、RANTESならびにMIP1βである。
【0063】
「抗炎症性免疫調節物質」とは、免疫反応を阻害する、抑制するまたは別の方法で減少させる際に影響を及ぼすサイトカインまたはケモカインのことを意味する。
【0064】
限定するものではない抗炎症性免疫調節物質の例は、IL-10およびTGF-βである。
【0065】
「単離された」とは、その自然の状態から取り出されている、またはそれ以外の方法でヒトの操作を受けている材料のことを意味する。単離された材料は、その自然の状態でその材料に通常付随する成分を実質的にまたは本質的に含まなくてもよく、あるいはその自然の状態でその材料に通常付随する成分とともに人工的な状態で存在するように操作されてもよい。単離された材料は天然型、化学合成型または組換え型であってもよい。
【0066】
「タンパク質」とはアミノ酸重合体のことを意味する。アミノ酸は、当技術分野においてよく理解されているように、天然または非天然アミノ酸D-およびL-アミノ酸であってもよい。
【0067】
「ペプチド」とはわずか50残基のアミノ酸しかないタンパク質のことである。
【0068】
「ポリペプチド」とは50残基を超えるアミノ酸を有するタンパク質のことである。
【0069】
本明細書で用いられる「核酸」という用語は、一本鎖または二本鎖のmRNA、RNA、RNAiならびにcDNAおよびゲノムDNAを含むDNAのことを示す。
【0070】
Cpn10ならびにCpn10断片、変異体および誘導体
本発明によれば、「Cpn10」または「シャペロニン10」とは、ヒト、マウス、ラットおよびその他の形態のCpn10などの哺乳動物Cpn10を含む、任意の真核生物Cpn10のことをいう。
【0071】
好ましくは、Cpn10は哺乳動物Cpn10である。
【0072】
より好ましくは、Cpn10はヒトCpn10である。
【0073】
Cpn10タンパク質はグリコシル化もしくはアセチル化などの天然に存在する修飾を含んでもよく、および/または天然型、化学合成型もしくは組換え型であってもよい。Cpn10は「Hsp10」と称されてもよいことも理解されよう。これらは同じタンパク質を指すとして取り扱われるべきである。
【0074】
本発明によれば、Cpn10の断片が使用されてもよい。
【0075】
1つの態様では、「断片」はCpn10タンパク質の100%未満、しかし少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも80%またはさらにより好ましくは少なくとも90%、95%もしくは98%を構成するアミノ酸配列を含む。
【0076】
「断片」という用語は、Cpn10タンパク質の生物活性を保持する「生物活性断片」を包含および網羅する。例えば、Toll様受容体シグナル伝達および/または免疫調節物質分泌を制御できるCpn10の生物活性断片が本発明によって使われてもよい。生物活性断片はCpn10タンパク質全体の少なくとも50%を超える生物活性を、好ましくは少なくとも60%を超える生物活性を、より好ましくは少なくとも75%を超える生物活性を、さらにより好ましくは少なくとも80%を超える生物活性をおよび好都合にはCpn10の少なくとも90%または95%の生物活性を構成する。
【0077】
本明細書では、「変異体」タンパク質とは1つまたは複数のアミノ酸が異なるアミノ酸によって置換されているタンパク質のことである。天然型または野生型Cpn10の生物活性を保持するCpn10のタンパク質変異体が本発明によって使われてもよい。アミノ酸のなかにはタンパク質の活性の性質を変化させることなく、概ね類似の特性を持ったその他のものに変えられるものもあること(保存的置換)は当技術分野においてよく理解されている。一般に、ポリペプチドの特性に最も大きな変化をもたらす可能性がある置換は(a) 親水性残基(例えば、SerまたはThr)が疎水性残基(例えば、Leu、Ile、PheまたはVal)に代わりまたは、により置換されている; (b) システインまたはプロリンがその他の残基に代わりまたは、により置換されている; (c) 電気的陽性側鎖を有する残基(例えば、Arg、HisまたはLys)が電気的陰性残基(例えば、GluまたはAsp)に代わりまたは、により置換されている、あるいは(d) 大きい側鎖を有する残基(例えば、PheまたはTrp)がより小さな側鎖を有するもの(例えば、Ala、Ser)または側鎖のないもの(例えば、Gly)に代わりまたは、により置換されているものである。
【0078】
Cpn10変異体に関して、これらは、例えば、ランダム変異誘発または部位特異的変異誘発により、Cpn10タンパク質に突然変異を誘発することでまたはそのコード核酸に突然変異を誘発することで作出することができる。核酸の突然変異誘発法の例は、参照により本明細書に組み入れられる「CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY」, Ausubelら、前記の第9章に示されている。
【0079】
本明細書で用いられる、本発明の「誘導体」Cpn10タンパク質とは、例えば、その他の化学的部分との結合もしくは複合体化により、または融合パートナータンパク質を含めて、当技術分野において理解されているような翻訳後修飾技術により改変されているCpn10タンパク質のことを含む。
【0080】
本発明により企図されるその他の誘導体は、ペグ化、側鎖に対する修飾、タンパク質合成の間の非天然アミノ酸および/またはその誘導体の組込みならびに架橋剤およびCpn10タンパク質に高次構造的な制約を課すその他の方法の使用を含むが、これらに限定されることはない。本発明により企図される側鎖修飾の例としては、無水酢酸を用いたアシル化; 無水コハク酸およびテトラヒドロフタル酸無水物を用いたアミノ基のアシル化; メチルアセトイミデートを用いたアミジン化; シアネートを用いたアミノ基のカルバモイル化; ピリドキサール-5-リン酸、続くNaBH4による還元によるリジンのピリドキシル化; アルデヒドとの反応、続くNaBH4を用いた還元による還元アルキル化; ならびに2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)を用いたアミノ基のトリニトロベンジル化によるような、アミノ基の修飾が挙げられる。
【0081】
カルボキシル基がO-アシルイソウレア形成によるカルボジイミド活性化、引き続き、一例として、対応するアミドへのその後の誘導体化によって修飾されてもよい。
【0082】
アルギニン残基のグアニジン基が2,3-ブタンジオン、フェニルグリオキサールおよびグリオキサールなどの試薬を用いた複素環式縮合生成物の形成によって修飾されてもよい。
【0083】
スルフヒドリル基がシステイン酸への過ギ酸酸化; 4-クロロマーキュリフェニルスルホン酸、4-クロロマーキュリベンゾエート; 2-クロロマーキュリ-4-ニトロフェノール、塩化フェニル水銀、およびその他の水銀剤を用いた水銀誘導体の形成; 他のチオール化合物との混合ジスルフィドの形成; マレイミド、無水マレイン酸またはその他の置換型マレイミドとの反応; ヨード酢酸またはヨードアセトアミドを用いたカルボキシメチル化; ならびにアルカリ性pHでのシアネートを用いたカルバモイル化などの方法によって修飾されてもよい。
【0084】
トリプトファン残基が、例えば、2-ヒドロキシ-5-ニトロベンジルブロミドまたはハロゲン化スルホニルを用いたインドール環のアルキル化によって、あるいはN-ブロモスクシンイミドを用いた酸化によって修飾されてもよい。
【0085】
チロシン残基を、テトラニトロメタンを用いたニトロ化により修飾して、3-ニトロチロシン誘導体を形成させてもよい。
【0086】
ヒスチジン残基のイミダゾール環がジエチルピロカルボネートを用いたN-カルボエトキシル化によって、またはヨード酢酸誘導体を用いたアルキル化によって修飾されてもよい。
【0087】
ペプチド合成の間に非天然アミノ酸および誘導体を組込むことの例としては、4-アミノ酪酸、6-アミノヘキサン酸、4-アミノ-3-ヒドロキシ-5-フェニルペンタン酸、4-アミノ-3-ヒドロキシ-6-メチルヘプタン酸、t-ブチルグリシン、ノルロイシン、ノルバリン、フェニルグリシン、オルニチン、ザルコシン、2-チエニルアラニンおよび/またはアミノ酸のD-異性体の使用を含むが、これらに限定されることはない。
【0088】
誘導体は同様に、融合パートナーおよびエピトープタグを含んでもよい。融合パートナーの周知の例としては、アフィニティークロマトグラフィーによる融合タンパク質の単離に特に有用なグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、ヒトIgGのFc部分、マルトース結合タンパク質(MBP)およびヘキサヒスチジン(HIS6)が挙げられるが、これらに限定されることはない。アフィニティークロマトグラフィーによる融合ポリペプチド精製の目的で、アフィニティークロマトグラフィーに関連のあるマトリックスは、それぞれ、グルタチオン-、アミロース-、およびニッケル-またはコバルト-結合型樹脂である。そのようなマトリックスの多くは、(HIS6)融合パートナーで有用なQIAexpress(商標)システム(Qiagen)およびPharmacia GST精製システムなどの「キット」の形で入手できる。
【0089】
融合パートナーの1つの具体例は、Mortonら、2000, Immunol Cell Biol 78 603-607に記述されているような、GSTである。場合によっては、融合パートナーは同様に、第Xa因子またはトロンビンなどの、関連するタンパク質分解酵素が本発明の融合ポリペプチドを部分的に消化し、それによって組換えCpn10タンパク質を融合ポリペプチドから遊離可能にする、タンパク質分解酵素切断部位を有する。遊離したCpn10タンパク質を次に、引き続くクロマトグラフィー分離により融合パートナーから単離することができる。例えば、トロンビンを用いたGST-Cpn10の切断により、誘導体GSM-Cpn10タンパク質が産生される。
【0090】
本発明による融合パートナーは同様に、その範囲内に、特異抗体を利用できる通常は短いペプチド配列である「エピトープタグ」を含む。特異的モノクローナル抗体を容易に利用できるエピトープタグの周知の例としては、c-mycタグ、ヘマグルチニンタグおよびFLAGタグが挙げられる。
【0091】
本発明によるCpn10タンパク質(断片、変異体、誘導体および相同体を含む)は、化学合成および組換え発現を含めて、当業者に知られている任意の適当な手順によって調製されてもよい。
【0092】
好ましくは、Cpn10は組換えCpn10である。
【0093】
例えば、組換えCpn10タンパク質は、以下の段階を含む手順によって調製されてもよい:
(i) 発現ベクター中で1つまたは複数の調節ヌクレオチド配列に機能的に連結された、Cpn10をコードする単離された核酸を含む発現構築体を調製する段階;
(ii) 適当な宿主細胞に発現構築体をトランスフェクトまたは形質転換する段階; および
(iii) その宿主細胞中で組換えタンパク質を発現させる段階。
【0094】
Mortonら、2000、前記に記述されている方法は、組換えCpn10タンパク質産生法の1例である。
【0095】
処置方法および薬学的組成物
本発明はCpn10を介したToll様受容体シグナル伝達、より具体的には、免疫調節物質分泌の制御を利用して、反応性の疾患、疾病または症状を予防的にまたは治療的に処置できる方法を提供する。
【0096】
そのような疾患、疾病または症状は過剰なレベルの炎症誘発性サイトカインおよびケモカインによって引き起こされる可能性があり、したがって、Toll様受容体シグナル伝達の阻害、抑制または別の方法での減少に反応する可能性がある。
【0097】
あるいはまたはさらには、そのような疾患、疾病または症状はToll様受容体シグナル伝達ならびに抗炎症性サイトカインおよびケモカイン分泌の増大、亢進、促進または別の方法での増加に反応する可能性がある。
【0098】
例えば、Cpn10はインビボの非致死性内毒素血症マウスモデルにおいて、TNF-αおよびRANTES産生を減らし、IL-10産生を増やす。Cpn10は同様にインビボのマウス移植モデルにおいて顕著な免疫抑制活性を有し、Cpn10処置によって、移植片対宿主病に苦しむマウスの生存率が高まる。
【0099】
Cpn10は同様に、アジュバント誘発関節炎に苦しむラットにおいて悪液質を減らす。炎症性サイトカインのレベル上昇は、がんおよび関節リウマチなどの、いくつかの疾患では悪液質と関連している。
【0100】
さらに、Cpn10はインビボのマウスモデルにおいて創傷治癒を改善する。
【0101】
インビボでヒトに単回静脈内投与量として投与されたCpn10は、エクスビボでのLPS刺激後の炎症誘発性サイトカイン反応を用量依存的に著しく低下させることから、Cpn10がヒトの臨床試験被験体において免疫調節効果を有することが明示される。
【0102】
過剰な炎症または抑制されていない免疫反応は宿主にとって有害であり、それ故にいくつかの負のフィードバック機構が炎症誘発性メディエータの産生を弱めるために発達してきた。このような負のフィードバック機構の1つには、単核細胞および単球によって分泌される重要な免疫調節サイトカインIL-10があり、これは免疫反応の制限や免疫寛容の誘導に関与する。
【0103】
Cpn10はTNF-α、IL-6またはRANTES分泌を阻害するが、なくしはしない。これは望ましい特徴である。完全にTNF-αを除去してしまうことで(例えば、抗TNF-α抗体により)免疫不全、患者が感染症にかかりやすい状態、および患者に腫瘍を増発させやすくしうる腫瘍監視の低下が起こる可能性があるからである。
【0104】
Cpn10は炎症誘発性免疫調節物質の産生および/または分泌を低下させられることから、過剰な炎症誘発性免疫調節物質の分泌が疾患をもたらす症状での治療用途をCpn10で見つけられるはずであることが示唆される。
【0105】
多くの疾患は過剰なまたは慢性の炎症と関係しており、それ故にサイトカイン分泌の調節をもたらすTLR受容体シグナル伝達の調節は、幅広い臨床的有益性を持ちうる。例えば、TNF-αなどの炎症誘発性サイトカインの過剰な分泌は、敗血症性ショックなどの急性疾患における主な死亡原因の1つであり、その分泌は炎症性腸疾患(IBD)、関節炎、乾癬、うっ血性心疾患、多発性硬化症、および慢性閉塞性肺疾患などの慢性炎症疾患において継続的な組織傷害をもたらす主な要因の1つである。
【0106】
組織または臓器移植では、宿主またはドナーリンパ球がドナーまたは宿主細胞抗原をそれぞれ、異質と認識し、移植された組織もしくは臓器の拒絶反応または移植片対宿主病を引き起こす、先天性免疫反応の細胞を活性化するサイトカインを放出することがある。免疫抑制薬は、治療上の処置ならびに移植片拒絶反応および移植片対宿主病の管理において大きな役割を果たしている。しかしながら、免疫抑制薬は患者に重い副作用をもたらし、それらは非常に高価であり、それらは一部の患者では効果が低い。
【0107】
Cpn10の変異体、断片および誘導体を含めて、Cpn10をインビボで動物に投与するかあるいは動物から得られた1つまたは複数の細胞、組織または臓器にインビトロで投与するかして、それによりToll様受容体シグナル伝達ならびに/またはToll様受容体誘導性の免疫調節物質産生および/もしくは分泌を制御してもよい。
【0108】
典型的には、排他的ではないが、変異体、誘導体および断片を含めてCpn10は、適切な薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤をさらに含む薬学的組成物として送達されてもよい。
【0109】
「薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤」とは、全身投与で安全に使用できる、固体または液体の増量剤、希釈剤または封入物質を意味する。特定の投与経路に応じ、当技術分野において周知のさまざまな担体が使用されてもよい。これらの担体は、糖類、でんぷん、セルロースおよびその誘導体、麦芽、ゼラチン、タルク、硫酸カルシウム、植物油、合成油、ポリオール、アルギン酸、リン酸緩衝溶液、乳化剤、等張生理食塩水および塩酸塩、臭化物や硫酸塩を含む無機酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩やマロン酸塩のような有機酸などの塩ならびに発熱性物質除去水を含む群より選択されてもよい。
【0110】
薬学的に許容される担体、希釈剤および賦形剤について記述している有用な参考文献は、参照により本明細書に組み入れられる「Remington's Pharmaceutical Sciences」 (Mack Publishing Co. N.J. USA, 1991)である。
【0111】
本発明の組成物を患者に供与するため、任意の安全な投与経路が利用されてもよい。例えば、経口の、直腸の、非経口の、舌下の、バッカルの、静脈内の、関節内の、筋肉内の、皮内の、皮下の、吸入による、眼内の、腹腔内の、脳室内の、経皮的などの投与経路が利用されてもよい。例えば、免疫原性組成物、ワクチンおよびDNAワクチンの投与の場合には、筋肉内および皮下注射が適している。
【0112】
剤形としては、錠剤、分散剤、懸濁剤、注射剤、液剤、シロップ剤、トローチ剤、カプセル剤、坐剤、煙霧剤、経皮パッチ剤および同様のものが挙げられる。これらの剤形には同様に、この目的で特別にデザインされた注射型のもしくは移植型の放出制御装置、またはこの様式で付加的に作動するように改変されたその他のインプラント形が含まれてもよい。治療剤の放出制御は、例えば、アクリル樹脂、ろう状物質、高級脂肪族アルコール、ポリ乳酸およびポリグリコール酸ならびにヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのある種のセルロース誘導体を含む疎水性ポリマーを用いて治療剤をコーティングすることにより達成されてもよい。さらに、放出制御は、その他のポリマーマトリックス、リポソームおよび/またはミクロスフィアを用いることにより達成されてもよい。
【0113】
上記の組成物は、剤形に適合した様式で、かつ薬学的に有効であるような量で投与されてもよい。本発明との関連で、患者に投与される用量は、適切な期間にわたって患者に有益な反応を与えるのに十分であるべきである。投与される薬剤の量は、被験体の年齢、性別、体重および一般的健康状態、医師の判断に依存すると考えられる要因を含めて、処置される被験体に依存することが多い。
【0114】
本発明による薬学的組成物および処置方法は、医学的および/または獣医学的用途に適しており、したがってヒト、家畜(livestock)、家畜(domestic animal)およびパフォーマンス動物などの哺乳動物を含むが、それらに限定されることはないヒトおよびヒト以外の動物に対し実践されてもよい。
【0115】
Cpn10アゴニストおよびアンタゴニスト
本発明はCpn10アゴニストまたはアンタゴニストを遺伝子操作する、デザインする、スクリーニングするまたは別の方法で作出する方法を企図する。
【0116】
Toll様受容体シグナル伝達および免疫調節物質分泌に対するCpn10の効果の解明は、Toll様受容体シグナル伝達および免疫調節物質分泌に対するその効果により、Cpn10アゴニストおよびアンタゴニストを特異的にデザインできるまたはスクリーニングできる新たな且つ予期しない機会をもたらす。原則として、この免疫調節活性はCpn10が同様に保持するシャペロン活性とは無関係とすることができる。
【0117】
「アゴニスト」とは、別の分子または受容体部位の活性を増強する分子のことをいう。
【0118】
典型的には、Cpn10アゴニストは、Toll様受容体アゴニストによって通常誘導される炎症誘発性サイトカインまたはケモカイン分泌を抑制する、低下させるまたは別の方法で阻害する。
【0119】
典型的には、Cpn10アゴニストは、Toll様受容体アゴニストによって通常誘導される抗炎症性サイトカインまたはケモカイン分泌を増大させる、亢進させるまたは別の方法で増加させる。
【0120】
「アンタゴニスト」とは、別の分子または受容体部位の活性を遮断するまたは阻害する分子のことをいう。
【0121】
典型的には、Cpn10アンタゴニストは、Toll様受容体アゴニストによって誘導される炎症誘発性サイトカインまたはケモカイン分泌を負に制御するようにCpn10の活性を抑制する、低下させるまたは別の方法で阻害する。
【0122】
典型的には、Cpn10アンタゴニストは、Toll様受容体アゴニストによる抗炎症性サイトカインまたはケモカイン分泌の誘導を正に制御するようにCpn10の能力を阻害する。
【0123】
1つの態様では、アゴニストまたはアンタゴニストはCpn10の模倣体とすることができるが、本発明はCpn10に対し構造的類似性を有するアゴニストおよび/またはアンタゴニストに限定されることはない。
【0124】
「模倣体」とはCpn10の1つまたは複数の特定の構造上および/または機能上の領域またはドメインに似ている分子を指して本明細書において用いられており、アゴニストまたはアンタゴニスト活性を有する修飾型Cpn10を含む。
【0125】
1つの特定の形態では、本発明は、候補Cpn10アゴニストまたはアンタゴニストがToll様受容体シグナル伝達および/またはToll様受容体誘導性の免疫調節物質分泌を制御するかどうかを判定する段階により、Cpn10アゴニストおよび/またはアンタゴニストを遺伝子操作できる、デザインできる、スクリーニングできるまたは別の方法で作出できる方法を提供する。
【0126】
本発明によれば、Toll様受容体シグナル伝達ならびに免疫調節物質産生および/または分泌は、細胞内のまたは細胞外の分泌タンパク質の測定または検出により、レポーター遺伝子アッセイによりおよび細胞内シグナル伝達分子を検出するまたは測定するアッセイにより、遺伝子発現(例えば、内因性サイトカインまたはケモカインRNAの産生)のレベルで測定できるまたは検出できることが理解されよう。
【0127】
1つの特定の態様では、本発明は、Toll様受容体シグナル伝達がインビトロのNF-κB活性によって測定されるまたは検出される方法を提供する。
【0128】
別の特定の態様では、本発明は、Toll様受容体シグナル伝達がIL-6、TNF-α、RANTES、IL-10、IL-12、およびIL-1αの産生および/または分泌などの1つまたは複数の免疫調節物質の分泌によって測定されるまたは検出される方法を提供する。
【0129】
さらに別の特定の態様では、本発明は、Toll様受容体シグナル伝達がc-Jun-N末端キナーゼおよび/または細胞外シグナル関連キナーゼシグナル伝達によって測定されるまたは検出される方法を提供する。
【0130】
本発明によれば、Cpn10、Toll様受容体およびToll様受容体アゴニストを含む単離された分子複合体を利用して、Cpn10アゴニストまたはアンタゴニストを産生する、デザインするまたはスクリーニングすることができる。
【0131】
特定の形態では、単離された分子複合体はCpn10、TLR-4およびLPSを含む。
【0132】
ほんの一例として、候補アゴニストはToll様受容体およびToll様受容体アゴニストと分子複合体を形成する能力によって同定されてもよい。
【0133】
ほんの一例として、候補アンタゴニストはCpn10、Toll様受容体およびToll様受容体アゴニストを含む分子複合体の形成を阻止するまたは妨害する能力によって同定されてもよい。
【0134】
上記に照らして、本発明によるCpn10アゴニストおよび/またはアンタゴニストの産生を容易にしうるいくつかの技術が存在していることが理解されよう。
【0135】
限定するものではない例としては、Nestler & Liu, 1998, Comb. Chem. High Throughput Screen. 1, 113およびKirkpatrick et al., 1999, Comb. Chem. High Throughput Screen 2 211に記述されているような方法による、コンビナトリアルライブラリーを含む合成化学ライブラリーなどの分子のスクリーニングライブラリーが挙げられる。
【0136】
Kolb, 1998, Prog. Drug. Res. 51 185に概説されているような方法論によって、天然に存在する分子のライブラリーがスクリーニングされてよいとも企図される。
【0137】
もっと構造的なアプローチでは、当技術分野において周知であるように、コンピュータ支援による構造データベースのスクリーニング、コンピュータ支援によるモデリングおよび/またはデザイン、あるいは分子の結合相互作用を検出するもっと従来的な生物物理的手法が使われてもよい。
【0138】
コンピュータ支援による構造データベース検索、モデリングおよびデザインは、アゴニストおよびアンタゴニスト分子をデザインするための手順としてますます利用されるようになっている。データベース検索方法の例は、それぞれが参照により本明細書に組み入れられる国際公開WO 94/18232 (HIV抗原模倣体の作出を対象とする)、米国特許第5,752,019号および国際公開WO 97/41526 (EPO模倣体の同定を対象とする)の中で見出すことができる。
【0139】
一般に、その他の適用可能な方法には、分子間相互作用を同定するさまざまな生物物理的手法のいずれかが含まれる。競合的放射性リガンド結合アッセイ、分析的な超遠心分離法、微小熱量測定、表面プラスモン共鳴および光学的バイオセンサに基づく方法などの潜在的に有用性のある技術に適用可能な方法は、参照により本明細書に組み入れられる「CURRENT PROTOCOLS IN PROTEIN SCIENCE」 Coliganら編、(John Wiley & Sons, 1997)の第20章に示されている。
【0140】
本発明をより容易に理解し実施できるように、当業者は、以下の限定するものではない例を参照する。
【0141】
実施例
実施例1- LPS刺激サイトカインおよびケモカインのCpn10調節
材料と方法
Cpn10の産生と精製
本質的にはRyanら(Ryan et al., 1995, J Biol Chem, 270 22037-22043)によって報告されているとおり、大腸菌(E. coli)中で組換えヒトCpn10 (GenBankアクセッション番号X75821)を産生させた。また、Macro-Prep High Q (BioRad)に結合しなかった材料をS-セファロース、その後ゲルろ過(Superdex 200, Amersham Biosciences)によってさらに精製した。50 mM Tris-HCl (pH 7.6)と150 mM NaClの緩衝液中で精製されたCpn10を製造元の使用説明書(Pall Corporation, Ann Arbor, MI. カタログ番号MSTG5E3)にしたがい、0.2 mm Mustang E膜の付いたAcrodiscに通しろ過して残存する内毒素を除去し、-70℃で保存した。SDS-PAGEにより、Cpn10の純度が>97%であることを確認した。アリコートは使用の前にいったん融解させた。Cpn10の全バッチはGroELを介したロダネース再折り畳みアッセイ(Brinker et al., 2001, Cell, 107 223-233)において、大腸菌GroESと同じモル活性を示した(データは示されていない)。Cpn10のLPS混入はリムラスアメーバ細胞溶解物アッセイ(BioWhittaker, Walkersville, MD)により、精製Cpn10タンパク質1 mg当たり<1 EUであることが確認された。
【0142】
腫瘍細胞系
K562 (ヒト赤白血病)、Mono Mac 6 (ヒト単球系)、U937 (ヒト組織球性リンパ腫)、P815 (マウス肥満細胞腫)、EL4 (マウスT細胞リンパ腫)、Jurkat (ヒトT細胞白血病)、RAW 264.7 (ATCC TIB 71、マウスマクロファージ)、L929 (マウス線維肉腫)、B16 (マウス黒色腫)、HeLa (ヒト子宮頸がん)、およびMCA-2 (マウス線維肉腫)細胞系は、マイコプラズマ陰性であることが示された。RPMI 1640 (Gibco Labs, Life Technologies, Grand Island, N.Y., USA)、10%ウシ胎仔血清(Life Technologies)、2 mMグルタミン(Sigma)、10 mM HEPES (Sigma)、100 μg/mlのストレプトマイシンおよび100 IU/mlのペニシリン(CSL Ltd, Melbourne, Australia)を含有する内毒素不含培地の中で細胞を増殖させた。
【0143】
RAW264-HIV-LTR-LUCバイオアッセイ
RAW264-HIV-LTR-LUC細胞を液体窒素からの回復後1週間 G418 (200 μg/ml)の存在下で培養し、25 cm3フラスコ(Greiner Labortechnik, Frickenhausen, Germany)の中で浮遊培養物として増殖させた。ピペッティングを繰り返すことでRAW264-HIV-LTR-LUC細胞をばらばらにし、24ウェルプレート中にて細胞2.5×105個/ウェルで平板培養し、一晩インキュベートした(37℃および5%CO2)。大腸菌由来のLPS (Sigma L-6529. 菌株055:B5, Sigma)を滅菌蒸留水に溶解し、ガラスバイアル中に1 mg/mlとして4℃で保存した。使用の直前、アリコートを採取する前にこの溶液を激しくボルテックスした。Cpn10を細胞培養物に2時間添加した後、表示濃度のLPSの添加を行い、さらに2時間後に、付着細胞をルシフェラーゼアッセイ(Luciferase Assay System, Promega, Madison, WI)のために処理した。Turner Designs社製ルミノメータTD 20/20上で15秒間、ルシフェラーゼ活性を測定した。
【0144】
RAW264.7 IL-6およびRANTESアッセイ
RAW264.7細胞を24ウェルプレート中に細胞2.5×105個/ウェルで播種し、37℃および5%CO2で一晩培養した。Cpn10または緩衝液を3連で細胞に2時間添加し、その後LPS (1 ng/ml)の添加を行った。6時間後、上清を回収し、Duoset ELISAキット(R & D Systems)によってRANTESおよびIL-6の産生がないか3連で分析した。マイクロプレートリーダー(Magellan 3, Sunrise-Tecan, Durham, NC)を用いて、各試料の吸光度(450 nm)を測定した。
【0145】
Cpn10処置動物に由来する脾細胞およびマクロファージからのサイトカイン産生
C57BL/6(H-2b, Ly-5.2+)マウスはAustralian Research Centre (Perth, Western Australia, Australia)から購入し、C57BL/6 IL-10-/-マウス(H-2b, Ly-5.2+)はオーストラリア国立大学(Australian National University) (Canberra, Australia)から提供された。終始にわたり使用した培地は、50単位/mlのペニシリン、50 μg/mlのストレプトマイシン、2 mM L-グルタミン、1 mMピルビン酸ナトリウム、0.1 mM非必須アミノ酸、0.02 mMβ-メルカプトエタノール、および10 mM HEPESを添加した10% FCS/IMDM (JRH Biosciences, Lenexa, KS)であり、細胞をpH 7.75、37℃および5%CO2で培養した。C57BL/6マウス(1群当たりn=3)をCpn10 (100 μg)または希釈剤の皮下注射で5日間毎日処置し、翌日、腹腔マクロファージを腹腔洗浄によって回収し、処置群内の個々の動物からプールした。細胞を2×105個/ウェルでLPS (1 μg/ml)の存在下にて、3連で平板培養した。培養上清を5時間の時点で回収し、ELISAによってTNF-αのレベルを評価した(下記を参照のこと)。投入細胞のFACS解析によるCD11b染色に基づいて、結果をマクロファージ105個当たりの産生に規準化した。IL-10測定の場合、脾細胞を同じ動物から回収し、上記のようにプールし、5×105個/ウェルでLPSの非存在下(示されていない)または存在下(10 μg/ml)にて、3連で培養した。培養上清を48時間の時点で回収し、ELISAによってIL-10のレベルを測定した(下記を参照のこと)。
【0146】
LPSを用いてインビトロで刺激したマウス細胞に対するサイトカインアッセイ
TNF-αおよびIL-10 ELISAアッセイで使ったモノクローナル抗体の対は、PharMingen (San Diego, CA)から購入し、製造元により推奨される濃度で使用した。上清を培地1対1のIL-10およびTNF-α中で希釈した。サイトカインを捕捉抗体により捕捉して、直接のビオチン標識検出抗体により検出した。次に、ストレプトアビジン標識西洋ワサビペルオキシダーゼ(Kirkegaard and Perry laboratories, Gaithersburg, MD)および基質(Sigmafast OPD)を使用して、固定化されたビオチンを測定した。Spectraflour Plusマイクロプレートリーダー(Tecan)を用い、プレートを492 nmで測定した。組換えサイトカイン(PharMingen)をELISAアッセイに対する標準物質として使用した。標準物質を二つ組で測定し、IL-10およびTNF-αに対するアッセイの感度を15 pg/mlとした。
【0147】
ヒトPBMC TNF-αおよびIL-6アッセイ
ヒト末梢血単核球細胞(PBMC)はFicoll-Hypaque液上での浮遊密度勾配遠心により、健常ボランティア由来のヘパリン添加血液から単離した。PBMCを96ウェル組織培養プレート(Greiner)の中に生存細胞106個/ml 200 μlで分注した。次いで、Cpn10を添加し、プレートを1時間インキュベートした後に、LPS添加および37℃、5%CO2でさらに20時間インキュベーションを行い、その後、上清を回収し、二つ組の試料をTNF-αおよびIL-6産生について分析した(Duoset ELISAキット; R & D Systems)。これらのアッセイの感度は、TNF-α 31 pg/mlおよびIL-6 9 pg/mlであった。
【0148】
LPS注射後のマウス血清TNF-α、RANTESおよびIL-10アッセイ
8週〜10週齢の雌性BALB/cマウス(Animal Resource Centre, Perth, Australia)を約10分間加熱ランプの下に置き、その後、拘束してCpn10を特定の用量で静脈内注射した。30分後、同じプロトコルを利用し、LPS 10 μgを静脈内注射した。LPS注射から1.5時間後の時点で、心臓穿刺によって1 ml凝固促進試験管(MiniCollect, Interpath)中に採血し、ELISAキット(R & D Systems)を用いた血清TNF-αおよびRANTESの分析用に4℃で保存した。マウスOptEIA IL-10特異的ELISA (BD Biosciences Pharmingen)により、血清中のIL-10の産生を測定した。
【0149】
骨髄移植および移植片対宿主病(GVHD)
8週〜14週齢の雌性のC57BL/6(B6, H-2b, Ly-5.2+)、B6 Ptprca Ly-5a(H-2b, Ly-5.1+)およびB6D2F1(H-2b/d, Ly-5.2+)マウスをAustralian Research Centre (Perth, Western Australia, Australia)から購入した。Cpn10 (動物1匹当たり100 μg)または対照希釈剤を移植の前に、ドナーおよびレシピエント動物に5日間毎日皮下注射した。移植後の最初の2週間は、マウスを無菌のマイクロアイソレータケージの中に収容し、加圧滅菌された酸性水(pH 2.5)と通常食をマウスに与えた。既報の標準的なプロトコル(Hill et al., 1997, Blood, 90 3204-3213; Hill et al., 1998, J Clin Invest, 102, 115-123)にしたがって、マウスに移植した。手短に言えば、1日目に、B6D2F1マウスに1300 cGyの全身放射線照射(108 cGy/分のl37Cs源)を受けさせ、3時間区切りで2通りの線量に分けて、胃腸毒性を最小限に抑えた。ドナー骨髄細胞(5×106)およびドナーのナイロンウール精製済み脾臓T細胞(2×106)をLeibovitzのL-15培地(Gibco BRL, Gaithersburg MD) 0.25 mlに再懸濁し、各レシピエントに静脈内注射した。生存を毎日モニターし、GVHD臨床スコアを毎週測定した。5項目の臨床パラメータ、つまり体重減少、姿勢(猫背)、活動性、毛の質感および皮膚の完全性の変化を合計する採点システム(最大指数 = 10)により、全身性GVHDの程度を評価した(Hill et al., 1997、前記; Hill et al., 1998, J Clin Invest, 102 115-123; Cook et al., 1996, Blood, 88 3230-3239)。処置群に関する知識は持たないで各判定基準に対し、個々のマウスを耳にタグ付けし0から2まで格付けした。GVHDが臨床的に重度の動物(スコア > 6)を倫理的ガイドラインにしたがって殺処理し、死亡日をその翌日と見なした。
【0150】
統計分析
Windows 11.5.0用のSPSS (SPSS社)を利用し、分散の単変量解析(ANOVA)、スチューデントのt検定またはログランク統計量により、統計分析を行った。
【0151】
結果
RAW264-HIV-LTR-LUC指標細胞を用いたCpn10によるLPSシグナル伝達の阻害
免疫抑制薬としてのCpn10の役割を詳しく調べるため、LPSを介したNF-κB活性化を阻害するCpn10の能力を詳しく調べた。RAW264-HIV-LTR-LUC細胞は、ルシフェラーゼレポーター遺伝子をHIV長末端反復プロモーターとともに安定的に発現しているマウスマクロファージ細胞系(RAW264.7)であり、これはNF-κB刺激に極めて迅速に反応する。これらの細胞によって、細菌LPSで刺激されたマクロファージにおいてTLR4シグナル伝達経路を分析するのに感度の高いバイオアッセイが可能になる(Sweet & Hume, 1995, J Inflamm, 45 126-135)。超生理学的レベルのLPSの使用を避けるため、LPS濃度に対する滴定範囲を確立し、これは最大のLPS刺激ルシフェラーゼ活性の約80%、50%および20% (それぞれ5、1および0.2 ng)に相当した(データは示されていない)。レポーター細胞を100 μg/mlのCpn10と2時間プレインキュベーションすることにより、これらのLPS濃度でのLPS刺激ルシフェラーゼ活性を30%〜50%だけ顕著に阻害することができた(図1A)。プレインキュベーション時間が短くなるほど再現性のある阻害が少なくなり、18時間を超えるプレインキュベーション時間では阻害が示されなかった(データは示されていない)。
【0152】
LPS刺激RAW264.7細胞でのCpn10を介したIL-6およびRANTES産生の阻害
Cpn10を介したLPS誘導性のNF-κB活性化の阻害が炎症誘発性メディエータの分泌の低下に結び付いたことを例証するため、LPS誘導性の炎症誘発性サイトカインIL-6および炎症誘発性ケモカインRANTESの産生を阻害するCpn10の能力を詳しく調べた。このアッセイにおいてRANTES最大産生の約50%を誘導した(データは示されていない)、1 ngのLPS用量を使った。2時間のプレインキュベーション時間(上記で用いたのと同様)では、使用したLPSの用量に関係なく、これらのアッセイにおいて寛容性を誘導することができなかった(データは示されていない)。Cpn10がLPS誘導性のRANTES (図1B)およびIL-6 (図1C)の両分泌で用量関連性の低下を媒介したことは、この系においてNF-κB活性化の阻害が炎症誘発性メディエータ分泌の低下につながることを例証するものである。
【0153】
Cpn10を介したLPS誘導性のTNF-αの阻害のIL-10との無関係性
もっと生理的な細胞集団でCpn10の効果を確認するため、Cpn10を用いてマウスを処置し、その腹腔マクロファージを取り出し、インビトロでLPSを用いて刺激した。Cpn10処置によりこれらの細胞からLPS誘導性のTNF-αの分泌が顕著に減少したこと(図2A)から、Cpn10が、インビボで処置したマクロファージに対して、インビトロで処理したRAW264.7細胞で見られたのと同様の効果を媒介することが例証された。
【0154】
IL-10は、TLR4シグナル伝達を阻害できる強力な免疫抑制サイトカインであり(Berlato et al., 2002, J Immunol, 168 6404-6411; Suhrbier & Linn, 2003, Trends Immunol, 24 165-168)、Cpn10処置動物由来の脾細胞をLPSで刺激した場合、対照動物に比べて著しいIL-10産生の増加が観測された(図2B)。しかしながら、Cpn10処置IL-10-/-マウス由来の腹腔マクロファージをインビトロでLPSにより刺激した場合、TNF-αの分泌が同じように低下することが認められたこと(図2C)から、Cpn10を介したLPS誘導性のTNF-α産生の低下(図2A)にはIL-10が必要とされなかった。このように、TNF-α分泌の低下とIL-10産生の増加は、Cpn10処置とは無関係な結果であるように思われる。
【0155】
ヒト末梢血単核球細胞(PBMC)のCpn10処理
Cpn10が初代ヒト細胞に対しても活性であるかどうかを確認するため、健常ドナー由来のPBMCをCpn10または緩衝液で1時間前処理し、その後、0.04 ng/mlのLPSで20時間刺激した。このLPS用量は、顕著なTNF-αの分泌を確実に刺激できる最低用量として確立されており(Johnson et al., 2004, J Biol Chem、印刷中)、ヒトにおいて、臨床的敗血症に似た軽度の一過性症候群をもたらす用量に相当する(Granowitz et al., 1993, J Immunol, 151 1637-1645; Lynn et al., 2003, J Infect Dis, 187 631-639)。ドナー8人から得たPBMCにおいて、1 μg/mlのCpn10はLPS誘導性TNF-α分泌の平均23.7%の低下を媒介し、10 μg/mlのCpn10はLPS誘導性TNF-α分泌の平均23.3%の低下を媒介したこと(図3A)から、Cpn10がPBMCからのLPS誘導性TNF-α分泌も低下させることが例証された。0.1 μg/mlのCpn10を使用した場合、TNF-α分泌の有意な低下は認められなかった(データは示されていない)。寛容の誘導がこの系では作動していなかったことを例証するため、PBMCを各種のLPS濃度で前処理し、1時間後、それらを0.04 ng/mlのLPSで20時間刺激した。1時間のLPS前処理によっては2度目のLPS処理により刺激されたTNF-α分泌が阻害されなかったこと(図3B)から、LPSの寛容がCpn10の活性の主な原因ではないことが例証された。
【0156】
IL-6は、LPSにより誘導される他の周知の炎症性サイトカインである。Cpn10がLPS誘導性のIL-6分泌を阻害したかどうかを確認するため、ドナー8人から得たPBMCを1もしくは10 μg/mlのCpn10または緩衝液で1時間処理し、その後0.04 ng/mlのLPSを用い20時間の刺激を行った。LPS誘導性のIL-6分泌の平均18.6および24.4%の低下がそれぞれ、1または10 μg/mlのCpn10で認められた(図3C)。0.1 μg/mlのCpn10を使用した場合、IL-6分泌の有意な低下は認められなかった(データは示されていない)。1時間のLPS前処理によっては2度目のLPS処理により刺激されたIL-6分泌が阻害されなかったことから、同様に寛容の誘導がこの系でも作動していなかったことが例証された(図3D)。
【0157】
Cpn10処置によるLPS誘導性のTNF-α分泌のインビボでの阻害
内毒素血症改良モデルを利用して、インビボで送達されたCpn10がLPS誘導性のTNF-α分泌をインビボで阻害できるかどうかを確認した。BALB/cマウスにLPS 10 μgを静脈内注射する30分前に、Cpn10 100 μgを静脈内に投与し、1.5時間後に採血した。数回の繰り返し実験において、Cpn10処置により、血清中TNF-αレベルが平均47.6%低下し、血清中RANTESレベルが平均40.1%低下し、および血清中IL-10レベルが平均43.3%増加した(図4A)。5日間毎日Cpn10で前処置しても、このTNF-α阻害レベルを有意に促進できなかった(データは示されていない)。これらのデータは先の組織培養実験と一致しており、LPSによる攻撃後のIL-10の産生増加やTNF-αを減少させる際のCpn10のインビボ効果を例証している。
【0158】
Cpn10による移植片対宿主病(GVHD)の急性症状の軽減
アロジェニック骨髄移植(BMT)後の急性GVHDは、ドナーのT細胞がレシピエントの同種抗原を認識しTh1優性に分化するT細胞媒介性の疾患である。結果として生じたT細胞由来のTh1サイトカイン(主にIFN-γ)は、ドナーの単核細胞が、放射線により損傷した胃腸粘膜を通して漏出したLPSで刺激された場合に、それらの細胞に抗原刺激を与えて細胞壊死量の炎症性サイトカイン(例えば、TNF-α)を放出させる。これらのサイトカインや同種反応性T細胞がひいては、胃腸障害やLPS漏出の増大の一因となる。ドナーの単核細胞がTLR4を欠くならば、またはLPSが(治療用アンタゴニストにより)効果的に遮断されれば(Cooke et al., 2001, J Clin Invest, 107 1581-1589)、またはTNF-αそれ自体が中和されれば、BMTモデルのGVHD死亡率が抑えられる。したがって、移植前後間のCpn10投与がGVHDを改善できることを詳しく調べた。移植の前に移植ドナーおよびレシピエントをCpn10で処置することにより、有意にGVHD死の進行が遅くなった(図4B)。さらに、臨床スコアにより判定されたGVHDの重症度もBMT後早々に軽減された(図4B)。Cpn10はGVHDの進行を遅らせ早期の病的状態を軽減できたが、結局のところ動物はGVHDに屈したことは、Cpn10がTNF-αの分泌を無効化できないことまたはT細胞増殖およびIFNγの分泌をもたらすことはないことと一致する(データは示されていない)。移植後のCpn10を用いた動物の処置では、GVHDに有意に影響を及ぼすことができなかった(データは示されていない)。
【0159】
考察
利用した系ならびにLPSおよびCpn10の用量に応じ、Cpn10は23%〜56%のTNF-αの分泌阻害を媒介した。Cpn10はLPS誘導性のIL-10分泌を系に応じて約40%〜200%増加させたが、TNF-αの分泌阻害はIL-10産生の上昇に依らなかった。
【0160】
大腸菌由来のLPSはTLR4に対してよく記述されているアゴニストであるので、これらの実験から、Cpn10はNF-κB経路を通じてTLR4シグナル伝達を調節することが示唆される。しかしながら、Cpn10はTLR4およびTLR2複合体によって刺激されるその他の経路を介してサイトカインの分泌を調節する可能性が高い。
【0161】
Cpn10の阻害効果は、30分(図4A)から2時間(図1A)以内で非常に素早く媒介される。これにはIRAKもしくはSOCSが関与する後期のフィードバック機構ではなく、PI3Kのような迅速な負のフィードバック機構の活性化または初期のシグナル伝達事象の阻害が関与する(Fukao & Koyasu, 2003, Trends Immunol, 24 358-363)。
【0162】
特異的PI3K阻害剤ウォルトマンニンはCpn10活性に対し検出可能な効果がなかったこと(データは示されていない)から、Cpn10はP13K経路に影響を及ぼしていないことが示唆される。
【0163】
実施例2- Cpn10およびTLR2
材料と方法
BALB/cマウスにCFA (Sigma)中で乳化された卵白アルブミン(10 μg) (Sigma)を皮下注射した。CFAには、TLR2のリポペプチドアゴニストを含むと考えられる、マイコバクテリアの細胞壁抽出物が含まれている(Lim et al.,2003, Int Immunopharmacol, 3 115-118; Tsuji et al., 2000, Infect Immun ; 68 6883-6890; Kirschning & Schumann, 2002, Curr Top Microbiol Immunol, 270 121-44)。CFAは肉芽腫を誘発することがよく知られている(Bergeron et al., 2001, Eur Respir J, 18 357-361; Shah et al. 2001, J Assoc Physicians India, 49 366-368)。
【0164】
CFAの注射に先立って、Cpn10 (100 μg)を2用量で5日間1日2回投与した。皮下の肉芽腫を所定の時点で測定した。
【0165】
結果
Cpn10がCFAの肉芽腫形成活性に影響を与えられるかどうかを確認するため、Cpn10処置マウスまたは緩衝液対照処置マウスにCFAを注射した。Cpn10処置により、肉芽腫の誘発サイズが顕著に低下した(図5A)。
【0166】
結論
CFAはTLR2を刺激し、CFAは肉芽腫形成を誘発するので、Cpn10処置が媒介した肉芽腫形成の低下はCpn10が同様にTLR2シグナル伝達を阻害するという証拠を示すものである。
【0167】
実施例3- Cpn10のTLR2アゴニストPAM3CYS-SK4によるNF-κBの活性化の阻害
PAM3CysSK4(リポペプチド)は公知のTLR2アゴニストであって(Agrawal et al., J Immunol, 2003, 171 4984-9)、HIV LTRを刺激することが可能であり(図5B〜D)、NF-κBなどの転写因子を活性化すると考えられる(Lee et al., J Immunol. 2002, 168 4012-4017)。
【0168】
材料と方法
PAM3CysSK4をEMC Microcollection GmbHから購入し、1 mg/mlの希釈標準貯蔵液として水に溶解した。Cpn10およびRAW264-HIV-LTR-LUCアッセイ系は、LPSについて先に記述したように行った。手短に言えば、RAW-LUC細胞を24ウェルプレート中に細胞2.5×105個/mlで播種し、37℃で一晩インキュベートした。Cpn10を120 μg/mlで細胞に添加し、37℃で2時間インキュベートした。次いで、ルシフェラーゼアッセイの前にPAM3Cys-SK4 (10 ng/mlまたは2 ng/mlまたは0 ng/ml)を2時間添加しておいた。1 ng/mlまたは0.2 ng/mlのLPSを陽性対照として使用した。
【0169】
結果
Cpn10はTLR2アゴニストPAM3CysSK4によるHIV-LTRの活性化を阻害した(図5B)。この阻害は、培地がCpn10の添加前(図5C)にまたはPAM3CysSK4の添加前(図5D)に交換されたかどうかに関係なく維持された。
【0170】
結論
TLR2アゴニストにより刺激したマクロファージにおいて、Cpn10は炎症誘発性メディエータ活性化シグナルを阻害することができる。
【0171】
実施例4- リガンドの存在下でのToll様受容体とのCpn10の免疫沈降
材料と方法
免疫沈降
TLR4をマウスFc重鎖とのTLR4細胞外ドメイン(ECD)の融合体(T4:Fc)として、分泌細胞から馴化培地(10 ml/ポイント)中に供給した。充填プロテインAビーズ(PAS, CL4B, Sigma) 20 μlを用いて遠心により、T4:Fcを回収し、このペレットをSDS-PAGEによる分離の前に溶解緩衝液で3回洗浄した。タンパク質をHybond-Cニトロセルロース膜上に電気的に転写した。膜をPBSおよび0.1% Tween 20に溶かした5%粉ミルク液に入れて37℃で30分間ブロッキングし、HRP結合抗マウス抗体を用い37℃でさらに30分間プロービングした(Visintin et al., 2003, J. Biol. Chem. 278 48313-48320)。
【0172】
結合のため、バキュロウイルスMD-2 1 μgまたはCpn10 10 μgをT4:Fc/PAS混合物に添加し、4℃で一晩インキュベートした。TLR2を対照のベイトとして用いた。さらに、抗Cpn10ポリクローナル抗体2 μgを用いて、Cpn10 10 μgを免疫沈降した。対照として、Cpn10なしをIPに加えた(抗体の非特異的なバックグラウンド結合(banding)を検出するため)。MD-2 (1 μg)もCpn10 (10 μg)も両方とも1レーンに負荷して、全負荷量(投入量)を示した。
【0173】
結果
免疫共沈降実験を行って、組換えCpn10が組換えTLR2:FcまたはTLR4:Fc融合タンパク質と直接的に相互作用するかどうかを確認した。組換えMD-2を対照(これはTLR4と相互作用するがTLR2とはしない)として用いた。
【0174】
図6 (上のパネル)は、MD-2がTLR4と免疫共沈降する(しかしTLR2とはしない)ことを証明している。図6の下のパネルは、リガンドの存在しない場合、Cpn10がTLR4またはTLR2のどちらとも物理的に相互作用しないことを示している。
【0175】
実施例5-リガンドの存在下でのToll様受容体とのCpn10の相互作用のFRET解析
緒言
細胞の原形質膜は側部異成分、斑およびミクロドメインで構成される。これらの膜ミクロドメインまたは脂質ラフトはスフィンゴ糖脂質およびコレステロールに富んでおり、膜選別およびシグナル伝達などの細胞過程に関与している。生化学的手法および蛍光画像手法を利用し、細菌の先天的免疫認識における脂質ラフト形成の重要性を詳しく調べた。CD14、Hsp70、Hsp90、ケモカイン受容体4 (CXCR4)、増殖分化因子5 (GDF5)およびTLR4を含めて、LPS-細胞活性化に関与する受容体分子は、LPS刺激後にミクロドメイン中に存在することが分かった。ナイスタチンまたはMCDなどの、ラフト破壊薬はLPS誘導性のTNF-α分泌を阻害するので、脂質ラフトの完全性はLPS-細胞活性化にとって不可欠である。これらの結果から、細菌認識システム全体が細菌成分によるCD14の結合や脂質ラフト内部の、CD14とLPSの結合部位での、Hsp70、Hsp90、CXCR4、GDF5およびTLR4などの、複数のシグナル伝達分子の動因に基づくことが示唆される(Triantafilou et al., 2002, J Cell Sci 115 2603)。
【0176】
Cpn10はインビボとインビトロの両方で、ヒトおよびマウス細胞のLPS刺激のシグナル強度を用量依存的に低下させる。したがって、Cpn10は直接的にTLR4にまたはクラスターのその他の関与物質の1つに結合することで、LPSシグナルのクラスタリングの間に脂質ラフトに局在化して、シグナル伝達を阻止できることが示された。
【0177】
本明細書において示される結果は、Cpn10およびウサギポリクローナル抗Cpn10抗体を用いたFRETアッセイから得られたデータを表す。
【0178】
材料と方法
FRET測定
蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)は、分子接近性を測定するために使われる非侵襲的イメージング技術である。FRETは1 nm〜10 nmの距離で起こることができ、光学顕微鏡の分解能を分子レベルにまで効果的に増大させる。これにはドナー分子の励起状態からの適切なアクセプターへのエネルギーの非放射的な転移が含まれる。エネルギー転移率はドナーとアクセプター間の距離の6乗に反比例する。
【0179】
本FRET研究では、試料をドナー結合およびアクセプター結合抗体で標識し、エネルギー転移をアクセプター分子の完全な退色後のドナー蛍光の増加(発光)として検出した。FRET画像はアクセプター退色後のドナー蛍光の増加から算出した。ここでは、FRETを利用して、脂質ラフト中でのLPS誘導性の細胞活性化(MonoMac6細胞)に関与する受容体分子の濃度を測定した。
【0180】
結果
FRET実験を行うことで、Cpn10が脂質ラフトと共局在化しているかどうかを詳しく調べることができた。FRETをアクセプターフルオロフォアの完全な退色後のドナー蛍光の発光という点で測定した。アクセプター破壊後のドナー蛍光の増加から、アクセプターの存在下ではエネルギー転移のためにドナー蛍光が消光されたことが示唆された。
【0181】
陽性対照を用いてエネルギー転移効率を試験することにより、すなわち、GM1分子(ガングリオシド、つまりラフト会合分子)上の異なる抗原決定基に対するモノクローナル抗体間のエネルギー転移により、最大エネルギー転移効率(E%)が37±1.0であることが示された。
【0182】
FITC-GM1とローダミン-MHCとの間での陰性対照を同様に使用し、これは有意なエネルギー転移を示さなかった(3±0.4)。このバックグラウンドのFRET値は、両種が高濃度で存在しているために、ランダムなFRETにより引き起こされるものと考えられる。
【0183】
表1に示されるデータは、近刊(Triantafilou et al., J Cell Science 2002、前記)に記述されているように、CD14が脂質ラフトに存在することを示しているが、TLR4とCpn10はLPS刺激前に脂質ラフトと会合しているとは認められず、明らかにLPS刺激後にそこに動員されることを示している。
【0184】
表2のデータは、この場合も先と同様にFRETを利用して、TLR4クラスターとのCpn10の近接性を示している。表2では、陽性対照をTLR4自体とTLR4とし、36±2.0の最大エネルギー転移効率(E%)を示した。
【0185】
表2に示されるように、Cpn10はLPSの非存在下ではHsp70、Hsp90またはCXCR4と会合しなかったが、LPS刺激後のLPS活性化クラスターのこれらのメンバーとの会合を示した。LPS刺激の前にCpn10がTLR4と会合しているかどうかを実証するデータはここに示されていないが、LPS刺激後にCpn10はTLR4と強力に会合している。
【0186】
実施例6- Cpn10と悪液質
材料と方法
アジュバントによる悪液質の誘導
本研究の目的は、アジュバント関節炎の発症の間にラットにCpn10を投与することで体重減少の低下をもたらすことができるかどうかを確認することであった。雌性Dark Agoutiラット(n=30, 150 g〜160 g)にCFA 0.1 mlをその尾の基底部に皮下注射した。アジュバントは、10 mg/mlの熱殺菌済の結核菌H37RA (Difco)を付加したフロイント不完全アジュバント(Difco, Michigan, USA)で構成された。このモデルにおいて検出可能な関節疾患の発症は、一般にCFA注射から8日〜10日後である。
【0187】
Cpn10処置
ラットに2日目から13日目まで毎日、0.25 mg/kg (n=10)もしくは2.5 mg/kg (n=10)のCpn10または対照希釈剤(Tris/生理食塩緩衝液) (n=10)を皮下注射し、毎日ラットの体重を量った。
【0188】
統計分析
分散の単変量解析(ANOVA)を利用し、Cpn10または対照希釈剤を投与したラットで観測された体重の相違について有意性を検証した。
【0189】
結果
CFAの投与後に全群で体重の純減が認められ、これは対照群でより顕著であるように思われた(図7)。
【0190】
0.25 mg/kgおよび2.5 mg/kgのCpn10処置群に対する体重減少のデータをプールし、対照群と比較した場合、体重減少に統計学的に有意な相違(p=0.027)が認められた。この期間に2群で体重減少の値が類似している(p=0.94)ので、この場合、2処置群由来のデータのプール化は正当化される。
【0191】
結論
アジュバント関節炎は身体組成やサイトカイン産生の変化をもたらし、慢性炎症性関節炎における炎症誘発性サイトカイン主導の悪液質を模倣する(Mayer, 1997, Arthritis Rheum, 40 534-539)。インビボでのまたはインビトロでのCpn10投与は、LPSまたはその他のアゴニストによって刺激された細胞による炎症誘発性サイトカインの産生を低下させる。
【0192】
CFAの単回注射により悪液質を実験的に誘導したラットにおいて、Cpn10の効果を2用量で試験した。対照希釈剤およびCpn10をほぼ同じ体重と年齢の動物に皮下投与した。CFAの投与によって、体重が顕著に減少した。対照処置群に対してCpn10処置群を比べることにより、Cpn10処置ラットで体重減少の統計学的に有意な低下が認められた。
【0193】
TNF-α、IL-1βおよびIL-6を含む炎症性サイトカインのレベル上昇は、がんおよび関節リウマチを含め、いくつかの疾患において悪液質と関連があることが知られている(Argiles, 2003. Curr Opin Clin Nutr Metab Care, 6 401-406; Walsmith, 2002, Int J Cardiol, 85 89-99)。本発明者らは、内毒素血症および移植片対宿主病のマウスモデルにおいて、ならびに新鮮分離したPBMCおよび単球細胞系のインビトロLPS刺激において、Cpn10の投与がTNF-α、IL-6およびRANTESの産生を減らし、抗炎症性サイトカインIL-10の産生を増やすことを明らかにした。
【0194】
実施例7- Cpn10の寛容性の非誘導性
材料と方法
RAW264-HIV-LTR-LUCバイオアッセイ
RAW264-HIV-LTR-LUC細胞を前述のとおり、アッセイのために培養および平板培養した。この細胞をLPS、Cpn10または対照緩衝液と2時間インキュベートし、その後、表示濃度の刺激性LPSの添加を行った。さらに2時間インキュベーション後、付着細胞をルシフェラーゼアッセイ(Luciferase Assay System, Promega, Madison, WI)のために処理した。Turner Designs社製ルミノメータTD 20/20上で15秒間、ルシフェラーゼ活性を測定した。
【0195】
Cpn10の産生と精製
組換えヒトCpn10を前述のように産生し精製した。
【0196】
Cpn10のトリプシン処理
2.5%トリプシン(Gibco)を前述のAcrodiscに2回通してろ過し、40 μg/mlでCpn10 (2 mg/ml〜3 mg/mlの)に添加した。37℃で一晩インキュベーション後、バイオアッセイへの添加の前に、トリプシン/Cpn10溶液を90℃まで15分間加熱して、トリプシン活性を無効化した。トリプシン処理後、SDS-PAGEおよびウエスタンブロッティングによってCpn10を検出することはできず、この材料はロダネース(rhodenese)再折り畳みアッセイで不活性であった(データは示されていない)。
【0197】
統計分析
Windows 11.5.0用のSPSS (SPSS社)を利用し、統計分析(分散の単変量解析、つまりANOVA、スチューデントのt検定またはログランク統計量)を行った。
【0198】
結果
寛容誘導のRAW264-HIV-LTR-LUC細胞でのLPSシグナル伝達の阻害への非関与
LPS寛容は、LPSによる2回目の刺激に対する応答が軽減されることがよく認識されている現象である。LPS寛容は通常、2回のLPS曝露間の時間間隔が3時間を超えており、初回曝露の間のLPS濃度がマクロファージを刺激するのに十分高い場合に、誘導される(West & Heagy, 2002, Crit Care Med 30 S64-S73; Fujihara et al., 2003, Pharmacol. Ther. 100 171-194)。
【0199】
寛容誘導が図1Aの観測結果の原因であるとするのを正式に割引いて考えるため、RAW264-HIV-LTR-LUC細胞を各種のLPS濃度で2時間前処理し、その後、5、1および0.2 ng/mlのLPSによる刺激を行った。1 ng/mlから0.0005 ng/mlに及ぶLPS濃度による前処理では、2回目のLPS曝露によるLUC活性の誘導が阻害されなかった(図8A)。このようにRAW264-HIV-LTR-LUC系の場合、2時間の前処理時間では寛容誘導に不十分であるように思われた。さらに、Cpn10調製物中に見出されたものに類似すると考えられる、刺激閾以下の用量(0.005 ng/ml〜0.0005 ng/ml)では同様に、LPSを介したLUC活性を阻害することができなかった。したがって、(i) RAW-264-HIV-LTR-LUC系において、LPS曝露間の2時間の間隔ではLPS寛容誘導に不十分であった、および(ii) Cpn10調製物に混入している可能性がある、検出不可能な(または刺激閾以下の)レベルのLPSではLPS寛容を媒介することができなかったので、LPS寛容が図1Aの観測結果の原因である可能性は低かった。
【0200】
Cpn10のトリプシン消化に対する感受性
Cpn10の阻害活性(図1A)がタンパク質分解後に失われたことを例証するため、Cpn10をトリプシンで消化し、バイオアッセイへの添加の前に加熱することで、トリプシン活性を無効化した。トリプシンによるCpn10の破壊は、SDS-PAGE/ウエスタンブロッティングおよびロダネース再折り畳みアッセイにより確認した(データは示されていない)。(加熱だけではLUCまたはロダネース再折り畳みアッセイにおいてCpn10活性に有意に影響を及ぼすことができなかった-データは示されていない。)Cpn10前処理はこの場合もやはり、LPSを介したルシフェラーゼ活性を有意に阻害した(図8B、対照 対Hsp10、p<0.001、図の説明を参照のこと)。しかしながら、トリプシン/加熱処理したCpn10はLPSシグナル伝達を阻害できず(図8B、トシプシンHsp10)、トリプシン/加熱処理した対照緩衝液(図8B、トシプシン緩衝液)に類似の値を示した。予想どおり、トリプシン処理(その後90℃で15分間加熱を行った)は、大腸菌LPSの活性に有意に影響を及ぼすことができなかった(図8B、トリプシンLPS)。このようにCpn10のタンパク質分解がCpn10調製物による阻害活性の喪失をもたらしたことから、Cpn10調製物のトリプシン耐性混入物(例えば、LPS)が阻害活性の原因ではなかったことが例証された。
【0201】
RAW264-HIV-LTR-LUC細胞でのCpn10を介したLPS刺激LUC活性低下の用量反応性
図1Aに示されるLUC活性の低下割合は、100 μg/mlのCpn10を用いて得られた。Cpn10の活性が用量反応性であったかどうかを確認するため、LPSの添加の前に、RAW264-HIV-LTR-LUC細胞を各種のCpn10濃度で処理した。(したがって、100 μg/mlによる処理は図1Aに示される実験の繰返しに当たる)。明らかな用量反応が、2 μgから100 μgのCpn10で明らかな阻害のレベル上昇として出現し、この阻害は100 μg/ml後に頭打ちになるように思われた(図8C)。
【0202】
実施例8- ヒト臨床試験被験者におけるCpn10の効果
第Ia相臨床試験
材料と方法
18歳から55歳の健常ボランティア19人を14日間のCpn10第I相試験に登録して、単回の静脈内注射または皮下注射として投与されたCpn10の薬物動態および安全性を二重盲検偽薬対照プロトコルで評価した。スクリーニングおよび書面によるインフォームド・コンセントの後、Cpn10を10分間の静脈内注射として1、2.5、5もしくは10 mgで投与する、または皮下に5 mg投与する投薬の前に、被験者を一晩絶食とした。PBMC単離用の血液試料(50 ml)を投与の前(投与前およそ12時間)に、投与後8時間に、およびCpn10投与後の6日目に回収した。標準的な血液学および生化学評価ならびに抗Cpn10抗体の発現を目的として周期的に採血しながら、被験者を処置後14日間、有害事象がないかモニターした。
【0203】
PBMCの単離と保存
PBMCは製造元のプロトコルを利用し、Ficoll-Hypaque Plus (Amersham)液上での密度勾配遠心によってヘパリン添加血液から単離した。2回の洗浄工程の後、細胞を凍結用培地(10% DMSOのウシ胎仔血清[FBS]液)に再懸濁し、ステップダウン凍結法を用いて-70℃で凍結した。細胞をドライアイス上に移し、その後、使用するまで液体窒素中で保存した。
【0204】
PBMC刺激
PBMCを融解しFBSを通して遠心し、その後、10% FBS入りのRPMI中で洗浄および再懸濁を行った。LPS含有または不含24ウェル組織培養プレートの中に、細胞を生細胞1×106個/mlの終密度で分注した。5%CO2とともに37℃で20時間インキュベーション後、細胞培養上清を回収し、市販のヒトTNF-α ELISA (R & D Systems)を用いてTNF-αのレベルを調べた。
【0205】
結果
本発明者らは1 mg (n=1)、2.5 mg (n=3)、5 mg(n=3)、および10 mg (n=3)のCpn10または偽薬(n=3)が投与されたボランティアの群において、LPS主導の反応を1日目 対 0日目(すなわち、Cpn10後 対 Cpn10前)で比較した。(注記: 被験者001および004 (1 mg Cpn10の集団)由来のPBMCは、血液試料の溶血のため、生存できなかった。したがって、この集団に対するPBMCのデータには、被験者1人しか含まれていない)。図9Aおよび9Bは、インビトロにおいて各種のLPS濃度で刺激したPBMCによるTNF-α産生のCpn10を介した用量反応変化を実証している。すなわち、LPS主導の反応は0日目と比べて1日目で、2.5 mgの集団では被験者3人のうち1人において、5 mgの集団では被験者3人のうち3人において、および10 mgの集団では被験者3人のうち1人において低下した。集団サイズが小さいので決定的ではないが、このデータは、用量を10 mgまで増やした場合、5 mgの群で見られる傾向がわずかに転換することを示唆しているように思われる。皮下注射を介して5 mgのCpn10を投与した被験者では、TNF-αの産生に対しCpn10を介した効果があるようには見受けられない(図9C)が、しかしこの場合もやはり集団サイズが小さ過ぎて決定的なデータを示すことはできない。
【0206】
結論
第I相臨床試験の間のCpn10を介した免疫活性の変化を予知するものとして、本発明者らはCpn10 (または偽薬)の単回の静脈内注射または皮下注射のおよそ12時間前に、およびその8時間後に末梢血単核球細胞(PBMC)を回収した。これらの細胞を外因性Cpn10の非存在下、インビトロにおいて各種のLPS濃度で刺激してTNF-αの産生レベルを評価した。このデータは、2.5 mgから10 mgの用量範囲で投与された場合に、炎症反応を低減する際のCpn10の効果が存在している可能性を示唆する。しかしながら、本研究における集団は非常に小さかったので、もっと多くのデータを蓄積して、インビボでのCpn10の生物学的効果に関する仮説を後押しするつもりである。10 mg用量の集団でのデータは、2.5 mgおよび5 mgのCpn10を投与した群でのTNF-α反応の傾向との整合性に欠けているように思われるが、集団サイズが小さいので、推測を超えたこれらのデータのいかなる分析も禁じられる。
【0207】
5 mgのCpn10を皮下投与した被験者から単離されたPBMC由来のインビトロアッセイでのこのような効果の欠如は、ELISAによって循環血液中で検出できる(したがって生物的に利用できる)タンパク質が比較的少量であることに関連している可能性が最も高い。
【0208】
本発明者らは、PBMCがある時点(投与後8時間)で単離されており、この時点で本発明らはもはや血清中のCpn10を測定できなかった(データは示されていない)ことから、この組換えタンパク質の半減期(t1/2)は短い(約1時間)が、その生物学的効果はさらに長く残りうるという考えが裏付けられることに留意している。0日目に比べて1日目のLPS反応(例えば、偽薬被験体で)の変化(すなわち、増加)が齧歯類とヒトの両者で十分に立証された現象であり、ストレス反応に関係すると考えられている(Granowitz et al., 1993. J Immunol 151 1637)ことを指摘することも重要である。換言すれば、0日目に比べて1日目のPBMCによるLPS主導の反応増大は、臨床試験のストレス、すなわち、未試験薬の投与、複数回の採血などによるものである可能性がある。Cpn10 (いくつかのストレスタンパク質群)は、炎症反応におけるストレス関連性の悪化の低減に関与している可能性がある。
【0209】
第1b相臨床試験
材料と方法
多発性硬化症を患っており免疫調節処置を現在受けていない18歳から65歳のボランティア10人を28日間の第Ib相試験に登録して、複数回の静脈内注射として投与されたCpn10の安全性、許容性および薬物動態を評価した。これは偽薬を対照とした二重盲検複数回投与漸増試験とした。第Ia相のデザインと同様に、静脈内注射で5または10 mgのCpn10 (または偽薬)を被験者に投与した。PBMC単離用に血液試料を1日目および5日目の投与前およそ12時間でおよび投与後8時間で回収した。Cpn10の生物学的効果の寿命を評価するため、化合物の最後の(5日目の)注入から3日後および7日後にPBMC単離用に採血した。
【0210】
第1a相臨床試験について記述したとおり、PBMCを単離し保存し刺激した。
【0211】
結果
本発明者らは2.5 mg (n=4)もしくは5 mg (n=4)のCpn10または偽薬(n=2)の静脈内注射を5日間毎日施したボランティアの群において、LPS主導の反応を0日目と比べて1日目、4日目、5日目、8日目、および12日目(すなわち、Cpn10前と比べてCpn10後)で比較した。図10は、インビトロにおいてLPSで刺激したPBMCによるTNF-α産生のCpn10を介した用量反応変化を実証している。データはD0に比べてD1の、およびD0に比べてD4などの、LPS刺激に反応して産生されたTNF-αの相違割合として記述されていることに留意されたい。すなわち、D0に比べてD1のLPS主導の反応は、5 mgのCpn10で処置した集団の4人の被験者全員で38%〜94%だけ低下した。この集団内でD0のTNF-α値とD4の値を比べた場合、TNF-α産生の低下割合は36%〜72%であり、D0のTNF-α産生とD5を比べた場合には38%〜59%であった。2.5 mgのCpn10処置群では「投薬」の間のどの時点においても、すなわち、臨床試験の間の1日目、4日目および5日目においてもLPS刺激によるTNF-αの低下は認められなかった。
【0212】
結論
多発性硬化症を患うボランティアでの第Ib相臨床試験の間のCpn10を介した免疫活性の変化を予知するものとして、本発明者らは5日間毎日の注入プロトコルの間、1日目、4日目および5日目のCpn10 (または偽薬)の静脈内注射のおよそ12時間前に、およびその約8時間後に末梢血単核球細胞(PBMC)を回収した。さらに、Cpn10の最後の注入後3日目および7日目に、PBMCを単離した。これらの細胞を外因性Cpn10の非存在下、インビトロにおいてLPSで刺激してTNF-αの産生レベルを評価した。このデータは、5 mg/日で投与された場合に、炎症反応を低減する際のCpn10の効果が存在している可能性を示唆する。すなわち、1日当たり5 mgのCpn10を投与された集団Bの4人の被験者全員で、1日目、4日目および5日目に、LPS刺激によるTNF-αの顕著な低下が認められた。対照的に、1日当たり2.5 mgのCpn10を投与された被験体では、「投薬」の間に、すなわち、1日目、4日目および5日目にLPS刺激によるTNF-α産生の顕著な低下は認められなかった。偽薬(Cpn10媒体)を注入した2人の被験者由来の細胞では、LPS刺激によるTNF-α産生の低下が同様に認められなかった。しかしながら、本研究における2つの集団は非常に小さかったので、もっと多くのデータを蓄積して、インビボでのCpn10の生物学的効果に関する仮説を後押しするつもりである。
【0213】
第Ia相試験と同様に、本発明者らは、PBMCがある時点(投与後8時間)で単離されており、この時点で本発明らはもはや血清中のCpn10を測定できなかったことから、この組換えタンパク質の半減期(t1/2)は短い(約1時間)が、その生物学的効果はさらに長く残りうるという考えが裏付けられることに留意している。しかしながら、これらの少数のデータ点からは、炎症性サイトカイン産生に対するCpn10の効果が12時間よりも長く持続するものと考えることは不可能である。
【0214】
第Ia相試験の間にも述べたように、0日目に比べて1日目のLPS反応(例えば、偽薬被験体で)の変化(すなわち、増加)が齧歯類とヒトの両者で十分に立証された現象であり、ストレス反応に関係すると考えられている(Granowitz et al., 1993、前記)ことを指摘することも重要である。
【0215】
偽薬被験者、およびCpn10を投与した一部の被験者から8日目および12日目に単離した細胞によるTNF-α産生は、被験者がこれらの時点では外来患者であり、したがって、それほど神経質でなくまたはストレスを感じてはなかった可能性があるという事実に関係があるとすることができる。先に提案したように、Cpn10 (いくつかのストレスタンパク質群)は、炎症反応におけるストレス関連性の悪化の低減に関与している可能性がある。
【0216】
要約
Cpn10は、ミトコンドリア内部でのタンパク質折り畳みにおけるその決定的な役割に加えて、特異的炎症過程の調節において細胞外の役割を有するように思われる。いくつかの異なるヒトおよびマウスのインビトロ系においてならびに2種類のマウス疾患モデルにおいて、Cpn10は一貫して、LPS誘導性の炎症誘発性サイトカインTNF-αおよびIL-6の分泌ならびに/または炎症誘発性ケモカインRANTESの分泌を阻害し、LPS誘導性の抗炎症性サイトカインIL-10の分泌を増やした。Cpn10を介したTNF-α分泌の低下は、決して絶対的なものではなかった、つまりそうではなくて、Cpn10は系ならびにLPSおよびCpn10の用量に応じ、TNF-αレベルのおよそ25%〜60%の低下を媒介した。Cpn10は系に応じて、LPS誘導性のIL-10分泌をおよそ40%〜200%増やしたが、しかしTNF-α分泌の低下はIL-10のこの上昇に依存していなかった。
【0217】
大腸菌由来のLPSがTLR4に対してよく記述されているアゴニストであることを考えれば、本明細書に記述される実験から、Cpn10がTLR4シグナル伝達を下方調節できることが示唆される。Cpn10は非常に素早く、つまり30分(図4A)から2時間(図1A)以内で阻害をもたらすように思われるが、いかに正確にCpn10がその阻害活性を媒介するかは不明である。これにはホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)のような迅速な負のフィードバック機構の活性化または初期のシグナル伝達事象の阻害が関与している可能性がある。しかしながら、本発明者らは特異的PI3K阻害剤ウォルトマンニンを用いてCpn10活性を抑制できなかったことから、この経路はCpn10作用機序に関与していないことが示唆される。
【0218】
TNF-α分泌を減らすが、完全には抑えないようにできることで、Cpn10はその他の抗炎症療法、とりわけ、TNF-αの効率的な除去を達成できる抗TNF-α抗体に基づく療法とは区別されると考えられる。しかしながら、そのような除去は必ずしも望ましいことばかりではない。例えば、TNF-α抗体療法は結局のところ、多発性硬化症(MS; Wiendl & Hohlfeld, 2002, BioDrugs 16, 183-200)の重症度を増大させることが明らかにされている。Cpn10はMSのマウスモデル(実験的自己免疫性脳脊髄炎; Zhang et al., 2003, J Neurol Sci 212, 37-46)で臨床的徴候を減らすことや疾患の発症を遅らせることが報告されているので、MSはCpn10に対し可能な治療標的として提唱されている。
【0219】
本明細書において記述されるように、Cpn10は炎症性メディエータの発現を低下させられることから、過剰なLPS、TLR4、および/またはTLR2シグナル伝達が病変をもたらす症状での治療用途をCpn10で見つけられることが示唆される。
【0220】
さらに、この作用機序は寛容誘導またはTh1/Th2反応の選択的活性化/抑制を介していない。
【0221】
本明細書を通じて、本発明をいずれかの1つの態様または特定の特徴の集まりに限定することなく、本発明の好ましい態様を記述することを目的とした。したがって、当業者により、本開示に照らして、さまざまな改変や変更を本発明の範囲から逸脱することなく、例示される特定の態様のなかで行えることが理解されよう。
【0222】
本明細書に参照されるコンピュータプログラム、アルゴリズム、特許文献および科学文献は全て、参照により本明細書に組み入れられる。
【0223】
(表1)ドナー・アクセプターペア間のエネルギー転移効率値

異なるペア間のエネルギー転移は、アクセプター退色後のドナー蛍光の増加から検出した。データはいくつかの独立した実験の平均±標準偏差を表す。
【0224】
(表2)ドナー・アクセプターペア間のエネルギー転移効率値

異なるペア間のエネルギー転移は、アクセプター退色後のドナー蛍光の増加から検出した。データはいくつかの独立した実験の平均±標準偏差を表す。
【図面の簡単な説明】
【0225】
【図1】Cpn10はLPS誘導性のRAW264.7細胞活性化および炎症性メディエータ産生を阻害する。(A) Cpn10を介したLPS誘導性のNF-κB活性の阻害。9回の別実験において、100 μg/mlのCpn10 (Hsp10+)または緩衝液(Hsp10-)をRAW264-HIV-LTR-LUC細胞と2時間プレインキュベートした。次いで、LPSを5、1および0.2 ng/mlで添加し、2時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。5 ng/mlのLPSに対して得られたルシフェラーゼの相対光単位(RLU)を100%の相対ルシフェラーゼ活性に設定した。0%はLPSの非存在下で得られたRLUに当たる。Cpn10のみでは有意なRLUを刺激できなかった(データは示されていない)。Cpn10を介したRLUの平均低下割合(±SD)が各濃度のLPSに対して示されており、その有意性は対応のあるt検定を用いて計算されている。(B、C) Cpn10を介したLPS誘導性のRANTESおよびIL-6分泌の阻害。RAW264.7細胞を表示のCpn10 (Hsp10)濃度と2時間インキュベートし、その後1 ng/mlのLPSの添加を行った。6時間後、三つぞろいの上清をELISAにより、RANTESおよびIL-6について分析した。100 μg/mlのCpn10を介したRANTESおよびIL-6分泌の平均低下割合が示されている。有意性は対応のあるt検定を用いて計算された。
【図2】マウス系でのサイトカイン分泌に対するCpn10の効果。(A) Cpn10処置により、LPSで刺激された腹腔マクロファージのTNF-α産生能が低下した。C57BL/6マウス(n=3)をCpn10 (Cpn10+)または対照希釈剤(Cpn10-)で処置した。6日目に腹腔マクロファージを腹腔洗浄によって回収し、処置群内の個々の動物からプールした。細胞を2×105個/ウェルでLPS (1 μg/ml)の存在下にて平板培養した。培養上清を5時間の時点で回収し、ELISAによってTNF-αのレベルを評価した(LPSなしのウェルでは検出可能なTNF-αが産生されなかった-データは示されていない)。3連ウェルの平均±SEが示されており、CD11b染色に基づいて、マクロファージ105個当たりの産生に規準化されている。2回の同一実験からのデータが示されており、ANOVAによって計算した有意性とともに平均低下割合が示されている。(B) Cpn10処置により、脾細胞からのIL-10産生が増加した。C57BL/6マウスを上記のとおり、Cpn10または対照希釈剤のいずれかで処置した。脾細胞を6日目に回収し、処置群内の個々の動物からプールし、5×105個/ウェルでLPS (10 μg/ml)の存在下で培養した。培養上清を48時間の時点で回収し、ELISAによってIL-10のレベルを測定した。3連ウェルの平均±SEが示されている。Aの場合のように計算した統計値とともに、平均増加割合が示されている。(C) Cpn10処置により、IL-10-/-の腹腔マクロファージからのTNF-α産生が低下した。IL-10-/-のC57BL/6マウスを上記のとおり、Cpn10または対照希釈剤で処置し、腹腔マクロファージをAの場合のように回収した。LPS (0.1、1または10 μg/ml)の存在下で5時間培養の後、ELISAによって培養上清中のTNF-αを測定した。代表的な1実験に対する3連ウェルの平均±SEが示されている。非パラメトリックt検定を利用し、Cpn10処置動物および対照動物についてTNF-αレベルを比較した。
【図3】ヒト末梢血単核球細胞(PBMC)のCpn10処理により、LPS誘導性のTNF-αおよびIL-6分泌は低下し、寛容は誘導されない。(A) Cpn10により、LPS誘導性のTNF-α分泌が低下した。0.04 ng/mlのLPSの添加1時間前に、Cpn10 (1および10 μg/ml)または緩衝液(0)を異なるドナー8人から得たPBMCに添加した。上清を20時間後に取り出し、TNF-αについて分析した。低下割合および対応のあるt検定を用いて計算された有意性が示されている。全てのドナーに対して、LPSの非存在下での、10 μg/mlのCpn10では検出レベル(31 pg/ml)を超えるTNF-αレベルを誘導できなかった(データは示されていない)。(B) LPSによる1時間の前処理では、引き続くLPS誘導性のTNF-α分泌に対する寛容を誘導できなかった。PBMCを表示のLPS前処理濃度に曝露した。1時間後、PBMCを0.04 ng/mlのLPSで刺激し、20時間後に上清をサイトカインについて分析した。(C) Cpn10により、LPS誘導性のIL-6分泌が低下した。0.04 ng/mlのLPSの添加1時間前に、Cpn10 (1および10 μg/ml)または緩衝液(0)を異なるドナー8人から得たPBMCに添加した。上清を20時間後に取り出し、IL-6について分析した。低下割合および有意性(Aの場合のように計算された)が示されている。全てのドナーに対して、LPSの非存在下での、10 μg/mlのCpn10では検出レベル(9 pg/ml)を超えるIL-6レベルを誘導できなかった(データは示されていない)。(D) LPSによる1時間の前処理では、引き続くLPS誘導性のIL-6分泌に対する寛容を誘導できなかった。PBMCを表示のLPS前処理濃度に曝露した。1時間後、PBMCを0.04 ng/mlのLPSで刺激し、20時間後に上清をサイトカインについて分析した。
【図4】マウス炎症モデルにおけるCpn10活性。(A) Cpn10はLPS誘導性の血清中TNF-αおよびRANTESレベルを低下させ、IL-10レベルを増大させる。5回の別実験において、C57BL/6マウス(1群当たりn=3または4)にLPS 10 μgの静脈内投与の30分前、緩衝液(Cpn10-)またはCpn10 100 μg (Cpn10+)を静脈内投与した。1.5時間後、動物を殺処理し、血清中TNF-α、RANTESおよびIL-10レベルを測定した; (後者の2つは5回のうち3回の実験で評価した)。エラーバーは各実験内での標準誤差を表す。TNF-αおよびRANTESの低下割合ならびにIL-10の増加割合(±SD)が示されており、ANOVAテストを用いて計算された有意性が示されている。(B) Cpn10を用いた前移植処置はGVHD死の進行を妨げ、急性疾患の臨床的重症度を軽減する。シンジェニック陰性対照(n=8) (白丸)は、シンジェニックB6D2F1の骨髄およびT細胞を移植したB6D2F1マウスに当たる。アロジェニック陽性対照(n=10) (白四角)は、希釈剤で前処置したB6ドナーマウス由来の細胞を移植した希釈剤前処置済みのB6D2F1レシピエントマウスに当たる。アロジェニック + Cpn10 (n=10) (黒四角)はB6ドナーマウス由来の骨髄およびT細胞移植片を受けているB6D2F1レシピエントに当たり、この場合レシピエントもドナーもどちらもが移植の前にCpn10で前処置された。この3群についてKaplan-Meierの生存曲線および臨床スコアが示されており、Cpn10でおよびCpn10なしで処置されたアロジェニック群がログランク統計量および母数によらないt検定により、それぞれ比較されている。臨床スコアは7日目に有意に異なっていただけであった。
【図5】(A) Cpn10処置を伴いおよび伴わずフロイント完全アジュバント(CFA)を投与したBALB/cマウスに存在する皮下肉芽腫の面積。Cpn10の結果は、緩衝液対照(暗い方の影付きの右カラム)と比較された各カラム対のうち左側の明るい方の影付きのカラムで示されている。(B〜E) RAW264-HIV-LTR-LUC細胞において、PAM3CysSK4誘導性のマクロファージ活性化はCpn10により阻害される。(B) Cpn10または希釈剤を2時間添加した後、2時間PAM3CysSK4の添加を行い、その後ルシフェラーゼアッセイを行った。(C) Cpn10または希釈剤を2時間添加し、その後洗浄してCpn10または希釈剤を除去した後、2時間PAM3CysSK4の添加を行い、その後ルシフェラーゼアッセイを行った。(D) Cpn10または希釈剤を2時間添加した後、2時間PAM3CysSK4の添加を行い、その後ルシフェラーゼアッセイを行った。(E) 細胞がPAM3CysSK4の代わりにLPSで活性化されたことを除き、(B)で用いたのと同じプロトコルを使った。上パネルは相対光単位のデータを示しており、下パネルはCpn10が媒介した阻害割合を示している。
【図6】リガンドが存在しない場合、Cpn10はTLR4またはTLR2に結合しない。上パネル: TLR4陽性対照。MD-2はTLR4と免疫共沈降する(しかしTLR2とはしない)。下パネル: これらの条件下およびリガンドの非存在下では、Cpn10はTLR4またはTLR2のどちらとも物理的に相互作用しない。
【図7】Cpn10の毎日の皮下投与により、ラットにおいてアジュバント関節炎の間の体重減少が低下する。アジュバント関節炎(1群当たりn=10)の間の平均(±SEM)体重減少。
【図8】LPSで刺激されたRAW264.7細胞に対するCpn10を介した活性化は、LPSの混入が原因ではない。(A) Cpn10のLPS混入が原因の寛容の試験として、LPS刺激の2時間前のLPS前処理ではLUC活性が阻害されなかったことが示された。RAW264-HIV-LTR-LUC細胞を二つ組で表示のLPS濃度で前処理した; 2時間後、細胞を5、1、0.2および0 ng/mlのLPSで刺激し、LUC活性を2時間後に測定した。(B) トリプシン処理されたCpn10では、LPS誘導性のNF-κB活性を阻害できなかった。二つ組のRAW264-HIV-LTR-LUC細胞を100 μg/mlのCpn10 (Hsp10)で2時間処理することにより、緩衝液で処理した細胞(対照)と比べ、5、1および0.2 ng/mlのLPSにより誘導されたRLUが有意に低下した; バックグラウンドを引いた後のRLUの低下割合はそれぞれ、29.7±0.8 (SD)、50±4.6、および71±7.7であった(2要因ANOVAによりp<0.001、これにはLPS濃度に対する項が含まれた)。対照と比べて、5、1および0.2 ng/mlのLPSに対しそれぞれ、トリプシンで処理したCpn10 (トリプシンHsp10)を用いた処理では0.1±8.8、11.6±4.2、および21±7.4の低下割合を示し、トリプシンで処理した緩衝液(トリプシン緩衝液)では1.4±2.1、5.8±1.1、および14.9±2.4の低下割合を示した; (どちらも対照または互いと有意に異なっていなかった)。予想どおり、刺激性LPSのトリプシン処理によっては、LPS活性に影響を及ぼすことはなかった(トリプシンLPS、p>0.05)。(C) Cpn10を介したLPS誘導性のLUC活性の低下は用量反応性である。Cpn10 (Hsp10)濃度を表示のように変えたことを除いては、この実験は図1Aと同様に設定した。各LPS濃度に対し、Cpn10で前処理されていない対照細胞と比べたLUC活性の阻害割合が示されている。
【図9】Cpn10の皮下注射ではなく、静脈内注射がインビトロにおいてPBMCによるLPS主導のTNF-α反応度の変化を誘導する。A. 0日目(注射の約12時間前)および1日目(注射から8時間後)のLPS主導のTNF-α産生。B. 注射前から注射後までのLPS主導のTNF-α産生の変化としてグラフ表示された図9Aのデータ。C. 0日目(注射の約12時間前)対1日目(Cpn10/偽薬皮下注射から8時間後)のLPS刺激によるTNF-α産生。
【図10】5日間毎日のCpn10の静脈内注射は、インビトロにおいてPBMCによるLPS主導のTNF-α反応度の変化を誘導する。0日目(注射の約12時間前)に単離したPBMCからのLPS主導のTNF-α産生を1日目、4日目、および5日目(注射から約8時間後)に単離した細胞と比較した。さらに、8日目および12日目(すなわち、最後5日目のCpn10注射からそれぞれ、3日後および7日後)に単離したPBMCを0日目のLPS刺激反応と比較した。細胞培養上清をIL-6の産生についても試験し、TNF-αについてここで記載したのと同じ全体的傾向を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cpn10を動物、細胞、組織または臓器に投与し、それによってアゴニスト誘導性のToll様受容体シグナル伝達を制御する段階を含む、動物において、または動物に由来する1つもしくは複数の細胞、または組織もしくは臓器においてToll様受容体シグナル伝達を制御する方法。
【請求項2】
Toll様受容体がTLR2およびTLR4からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
アゴニストが病原体である、または病原体に由来する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
アゴニストがLPSまたはリポペプチドより選択される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
動物が哺乳動物である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
哺乳動物がヒトである、請求項6記載の方法。
【請求項7】
Cpn10、またはCpn10の誘導体を動物、細胞、組織または臓器に投与し、それによってToll様受容体アゴニスト誘導性の免疫調節物質の産生および/または分泌を制御する段階を含む、動物において、または動物に由来する1つもしくは複数の細胞、または組織もしくは臓器において免疫調節物質の分泌を制御する方法。
【請求項8】
Toll様受容体がTLR2およびTLR4からなる群より選択される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
アゴニストが病原体である、または病原体に由来する、請求項7記載の方法。
【請求項10】
アゴニストがLPSまたはリポペプチドより選択される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
免疫調節物質の産生および/または分泌がCpn10により負に制御される、請求項7記載の方法。
【請求項12】
免疫調節物質が炎症誘発性サイトカインまたはケモカインである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
炎症誘発性サイトカインがIL-6またはTNFαである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
炎症誘発性ケモカインがRANTESである、請求項1記載の方法。
【請求項15】
免疫調節物質の産生および/または分泌がCpn10により正に制御される、請求項7記載の方法。
【請求項16】
免疫調節物質が抗炎症性サイトカインまたはケモカインである、請求項15記載の方法。
【請求項17】
抗炎症性サイトカインがIL-10またはTGF-βである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
動物が哺乳動物である、請求項7記載の方法。
【請求項19】
哺乳動物がヒトである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
動物においてToll様受容体シグナル伝達の制御に反応性の疾患、疾病または症状を予防的にまたは治療的に処置する方法であって、該動物においてCpn10を該動物に投与し、それによってアゴニスト誘導性のToll様受容体シグナル伝達を制御する段階を含む方法。
【請求項21】
疾患、疾病または症状が敗血症性ショック、炎症性腸疾患、関節炎、乾癬、心疾患、アテローム性動脈硬化症、慢性肺疾患、悪液質、多発性硬化症、GVHD、移植およびがんなどの急性または慢性炎症性疾患からなる群より選択される、請求項20記載の方法。
【請求項22】
アゴニストが病原体である、または病原体に由来する、請求項20記載の方法。
【請求項23】
動物が哺乳動物である、請求項20記載の方法。
【請求項24】
哺乳動物がヒトである、請求項23記載の方法。
【請求項25】
動物においてToll様受容体誘導性の免疫調節物質の産生および/または分泌の制御に反応性の疾患、疾病または症状を予防的にまたは治療的に処置する方法であって、該動物においてCpn10を該動物に投与し、それによってToll様受容体アゴニスト誘導性の免疫調節物質の産生および/または分泌を制御する段階を含む方法。
【請求項26】
疾患、疾病または症状が敗血症性ショック、炎症性腸疾患、関節炎、乾癬、心疾患、アテローム性動脈硬化症、慢性肺疾患、悪液質、多発性硬化症、GVHD、移植およびがんなどの急性または慢性炎症性疾患からなる群より選択される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
アゴニストが病原体である、または病原体に由来する、請求項25記載の方法。
【請求項28】
動物が哺乳動物である、請求項25記載の方法。
【請求項29】
哺乳動物がヒトである、請求項28記載の方法。
【請求項30】
Toll様受容体、Toll様受容体アゴニストおよびCpn10を含む単離された分子複合体。
【請求項31】
Toll様受容体がTLR2およびTLR4からなる群より選択される、請求項30記載の単離された分子複合体。
【請求項32】
Toll様受容体がTLR4であり、アゴニストがLPSである、請求項31記載の単離された分子複合体。
【請求項33】
Toll様受容体がTLR2であり、アゴニストがリポペプチドである、請求項31記載の単離された分子複合体。
【請求項34】
候補Cpn10アゴニストがToll様受容体シグナル伝達のCpn10制御を模倣するまたは増強するかどうかを判定する段階を含む、Cpn10アゴニストを産生する、デザインするまたはスクリーニングする方法。
【請求項35】
候補Cpn10アゴニストがToll様受容体誘導性の免疫調節物質産生および/または分泌のCpn10制御を模倣するまたは増強するかどうかを判定する段階を含む、Cpn10アゴニストを産生する、デザインするまたはスクリーニングする方法。
【請求項36】
Toll様受容体がTLR2およびTLR4からなる群より選択される、請求項34または請求項35記載の方法。
【請求項37】
候補Cpn10アンタゴニストがToll様受容体シグナル伝達のCpn10制御を阻害する、減らす、抑制するまたは別の方法で減少させるかどうかを判定する段階を含む、Cpn10アンタゴニストを産生する、デザインするまたはスクリーニングする方法。
【請求項38】
候補Cpn10アンタゴニストがToll様受容体誘導性の免疫調節物質産生および/または分泌のCpn10制御を阻害する、減らす、抑制するまたは別の方法で減少させるかどうかを判定する段階を含む、Cpn10アンタゴニストを産生する、デザインするまたはスクリーニングする方法。
【請求項39】
Toll様受容体がTLR2およびTLR4からなる群より選択される、請求項37または請求項38記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9A】
image rotate

【図9B】
image rotate

【図9C】
image rotate

【図10】
image rotate


【公表番号】特表2007−517808(P2007−517808A)
【公表日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−548041(P2006−548041)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【国際出願番号】PCT/AU2005/000041
【国際公開番号】WO2005/067959
【国際公開日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(505165000)キュビオ リミテッド (5)
【Fターム(参考)】