説明

TRPC3、TRPC6及びTRPC7イオンチャネルの選択的阻害剤としてのノルゲスチメートの使用

TRPCイオンチャネルは、ヒト組織において広く発現される非選択的チャネルである。これらのチャネルは多数の生理学的機能に関与しており、そして新規な薬剤開発のための推定標的である。細胞及びそれ以外におけるTRPCイオンチャネルのより良好な理解を得るニーズが存在する。
本発明は、TRPCサブファミリーの識別性の阻害のために、TRPCイオンチャネルの研究を可能にする薬理学的ツール化合物を提供する。本発明において、ノルゲスチメートは、TRPC3、TRPC6及びTRPC7を選択的に阻害することが示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TRPC3/6/7イオンチャネルサブファミリーのメンバーの選択的阻害剤としてのノルゲスチメートの使用に関し、これは、上記サブファミリーメンバーと他のTRPCサブファミリーとを薬理学的に区別することを可能にする。また、細胞モデル、組織又は動物モデルにおいてTRPCイオンチャネルを同定、特徴づけ及び調節するためのノルゲスチメートの使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
TRPCチャネルは、ヒト組織において広く発現される非特異的カチオンチャネルである(Montell2005)。これらはショウジョウバエ(Drosophila)TRPの最初に発見された哺乳動物相同体であった(Wesら、1995、Zhuら、1995)。TRPC1−7と呼ばれる7つのタンパク質は、原型的なショウジョウバエTRPに関連する最も近い(30−40%同一性、Okuharaら、2007)標準的な(又は伝統的な)TRPサブファミリーを構成する。
【0003】
アミノ酸配列相同性、組織分布及び機能類似性に基づいて、TRPCは4つのグループに下位分類することができる(Claphamら、2001;Montell、2001)。TRPCファミリー内でかなり独特であり、TRPC1及びTRPC2はそれぞれそれら自体でサブファミリーを構成するが、TRPC4及び−5は、TRPC3、−6、及び−7のように統合される。密接に関連するTRPC3、TRPC6及びTRPC7チャネルは、共通の活性化機構を共有しており、そしてジアシルグリセロール(DAG)はそれらの内因性リガンドとして同定されている(Hofmannら、1999;Okadaら、1999)。
【0004】
WHOによれば、2005年における世界中の全ての死亡の30%が種々の心臓血管疾患により引き起こされた。従って、心臓血管疾患を予防及び処置する新しい医薬に対する非常に大きな医療的必要性が存在する。TRPCチャネルは、心筋ミオパチー、血管リモデリング、高血圧及び高い内皮浸透性を含むいくつかの心臓血管病理のための新規な薬剤の開発のための重要な薬理学的標的と考えられる(Dietrichら、2007)。
【0005】
しかしこれまで、それらの天然の組成及び活性化機構、生理的機能、並びに病態生理学及び疾患における役割に関して多くの未解決の疑問が存在する。天然のTRPCチャネルのインサイチュ同定は、それらの広くて部分的な分布の重なり、潜在的なヘテロマルチマー化、類似した電気生理学的特性及びこれらのチャネルを明白に追跡するためのツール化合物の不足により複雑になる(Moranら、2004)。
【0006】
公知のTRPC有機阻害剤、例えば2−アミノエトキシジフェニルボレート(2−APB)(Xuら、2005)、SKF96365(Boulayら、1997;Zhuら、1998)及びBTP2(Heら、2005)、並びに無機遮断薬、例えばGd3+及びLa3+は強力ではなく、十分に特異的でない (Liら、2004)。
【0007】
トランスジェニックマウスにおける研究は、特定のTRPCの可能な生理学的機能を解明する際に有益であることが既に分かっている(Freichelら、2001)。しかしこれらのモデル系は7つの哺乳動物TRPCチャネルのそれぞれについてはこれまで存在しておらず、それらの生成及び解析は、時間及び費用がかかり、そしてそれらは密接な関連があるチャネルによる補整効果に対して不安定であるという制限を有する(Dietrichら、2005c)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、TRPCサブファミリー間及びTRPCサブファミリー内を区別することを可能にし、それにより生理学的条件下、さらには病態生理学的条件下での異なるチャネルの役割を解明することを可能にする、新しい薬理学的ツールを開発することであった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、これはTRPC3、TRPC6及びTRPC7を選択的に阻害するためにノルゲスチメートを使用することで達成される。従って、ノルゲスチメートは、異なるTRPCサブファミリーに属するチャネルを薬理学的に区別することを可能にする。さらに、ノルゲスチメートは、一般的なGタンパク質共役受容体、Gq、多くの細胞においてTRPCチャネル活性化を仲介するホスホリパーゼCβ経路と干渉しない。これらの特性が、ノルゲスチメートを、TRPC3、TRPC6及びTRPC7の同定及び調節のための好ましいツールにしている。
【0010】
発明の要旨
本発明の1つの主題は、TRPCイオンチャネルの選択的阻害剤としてのノルゲスチメートの使用に関する。ノルゲスチメートにより選択的に阻害されるTRPCイオンチャネルは好ましくはTRPC3、TRPC6又はTRPC7である。ノルゲスチメートは、インビトロ及びインビボでTRPCイオンチャネルを選択的に阻害するために使用され得る。
【0011】
特に、ノルゲスチメートは、TRPC4/5サブファミリーメンバーよりもTRPC3/6/7サブファミリーメンバーに対して少なくとも4倍強い効力を有する(図1及び2)。TRPC4/5サブファミリーメンバーよりもTRPC3/6/7サブファミリーメンバーに対して4倍強い効力を有するノルゲスチメートは、蛍光分析測定を用いて、そして10μMノルゲスチメートによる算出された阻害に基づいて評価された。
【0012】
これらの蛍光分析測定は、全細胞構成におけるパッチクランプ記録を用いて典型的に確認した(図3)。
【0013】
TRPC3、TRPC6及びTRPC7の選択的阻害剤として、ノルゲスチメートは、異なるTRPCサブファミリーに属するチャネルを特徴付けすることを可能にする薬理学的ツールとして使用され得、これはTRPC3/6/7サブファミリーメンバーと他のTRPCイオンチャネルサブファミリーのメンバーを区別する(図1、2及び3)。
【0014】
このような阻害剤として、ノルゲスチメートはさらに、それぞれのイオンチャネルの活性を測定するアッセイを開発及び検証するためのツール化合物として使用され得る。このようなアッセイの例を図1に示す。
【0015】
本発明の別の主題は、生理学的条件下及び病態生理学的条件下で、それぞれTRPC3/6/7サブファミリーメンバー及びTRPC4/5サブファミリーメンバーのチャネル機能のディファレンシャル解析を行うための、ノルゲスチメートの使用に関する。これは、例えば例示(Exemplification)において記載されるように行うことができる。分析は、細胞、組織又は動物において行うことができる。動物は、げっ歯動物、好ましくはマウス又はラットであり得る。
【0016】
好ましい実施態様によれば、ノルゲスチメートによる天然TRPCの調節は、A7r5細胞株を使用して調べることができ、これは内因的に発現されたTRPCイオンチャネルの研究に有効なモデル系である。このような好ましいアッセイ系のさらなる詳細は、例示及び図4に示される。
【0017】
本発明の別の主題は、TRPCチャネル活性に対するノルゲスチメートの効果を決定する方法に関する。好ましいTRPCイオンチャネルは、TRPC3、TRPC6及びTRPC7である。
【0018】
一般に、TRPCイオンチャネルを発現している細胞をノルゲスチメートと接触させ、そしてTRPCイオンチャネル活性に対するノルゲスチメートの影響を測定又は検出する。
【0019】
本発明の別の主題は、TRPCイオンチャネルモジュレーターを同定する方法に関する。好ましいTRPCイオンチャネルは、TRPC3、TRPC6及びTRPC7である。
【0020】
一般に、TRPCイオンチャネルを発現している細胞を試験化合物と接触させて、TRPCイオンチャネル活性に対する試験化合物の影響を測定又は検出する。
【0021】
好ましい実施態様において、上記方法において使用される細胞は、蛍光性細胞である。
【0022】
本発明に従う好ましい細胞は、MDCK、HEK293、HEK293T、BHK、COS、NIH3T3、Swiss3T3又はCHO細胞であり、特にHEK293細胞である。
【0023】
TRPCチャネル活性は、イオンフラックス、特にCa2+フラックスの変化を、例えばパッチクランプ技術、全細胞電流、放射標識イオンフラックス、又は特に蛍光、例えば電位感受性色素もしくはイオン感受性色素を使用して測定又は検出することにより測定又は検出することができる(Vestergarrd−Bogindら(1988)、J.Membrane Biol.、88:67−75;Danielら(1991) J.Pharmacol.Meth.25:185−193;Hoevinskyら(1994) J.Membrane Biol.、137:59−70;Ackermanら(1997)、New Engl.J.Med.、336:1575−1595;Hamilら(1981)、Pflugers.Archiv.、391:185)。
【0024】
TRPCイオンチャネル活性の測定の例は、以下の工程:
(a) TRPCイオンチャネルを発現している蛍光性細胞を接触させる工程、
(b) 蛍光性細胞をモジュレーター又は試験化合物と接触させる前、同時又は後に、チャネル活性化剤によりCa2+流入を刺激する工程、及び
(c) 蛍光の変化を測定又は検出する工程、
を含むアッセイである。
【0025】
本発明の別の主題は、TRPCチャネル活性を阻害するノルゲスチメートの能力を評価すること、そしてノルゲスチメートの阻害効力を異なるTRPCサブファミリー間及びTRPCサブファミリー内で比較することを含む、TRPCチャネルについてのノルゲスチメートの選択性をプロファイリングするための方法 に関する。
【0026】
本発明の別の主題は、心臓血管疾患、冠状動脈疾患、アテローム性動脈硬化症、末期腎不全、神経系疾患、慢性疼痛、急性疼痛、又は炎症性疾患の処置のための薬剤の製造における、ノルゲスチメートの使用に関する。
【0027】
ノルゲスチメートは、1つ又はそれ以上の薬学的に許容しうる担体又は補助物質とともに製剤化され得る。薬学的に許容しうる担体又は補助物質は、例えば生理緩衝溶液、例えば塩化ナトリウム溶液、脱塩水、安定化剤、例えばプロテアーゼ若しくはヌクレアーゼ阻害剤、又は金属イオン封鎖剤、例えばEDTAである。
【0028】
本発明の別の主題は、対象(subject)に治療有効量の、ノルゲスチメートを含む組成物を投与することを含む、心臓血管疾患、冠状動脈疾患、アテローム性動脈硬化症、末期腎不全、神経系疾患、慢性疼痛、急性疼痛、又は炎症性疾患の処置の方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(A、C)はfluo−4をロードして誘導されたTRPC3 HEK293細胞(A)及びTRPC6 HEK293細胞(C)の細胞内Ca2+濃度([Ca2+i)の時間依存性変化を表すグラフである。30μM OAGの適用後のTRPC仲介Ca2+流入は、30μMノルゲスチメート(NG)とともにプレインキュベートした細胞において著しく減少した。測定を96erウェルプレートでFLIPR(Molecular Devices、Sunnyvale、CA、USA)を使用して行った。 (B、D)はTRPC3(B)及びTRPC6(D)に対するノルゲスチメートIC50値の決定を表すグラフである。データを、1ウェルあたり45,000細胞を含む2ウェル(B)及び4ウェル(D)の平均として表す。
【図2】(A、C)はfluo−4をロードして誘導されたTRPC4 HEK293細胞(A)及びTRPC5 HEK293細胞(C)の細胞内Ca2+濃度([Ca2+i)の時間依存性変化を表すグラフである。200nMトリプシン適用後のTRPC仲介Ca2+流入は、30μMノルゲスチメート(NG)とともにプレインキュベートした細胞においてわずかに減少した。測定を96erウェルプレートでFLIPR(Molecular Devices、Sunnyvale、CA、USA)を使用して行った。 (B、D)はTRPC4(B)及びTRPC5(D)に対するノルゲスチメートIC50値の決定を表すグラフである。データを、1ウェルあたり47,000細胞を含む2ウェル(B)及び4ウェル(D)の平均として表す。
【図3】誘導されたTRPC6−(A)及びTRPC5 HEK 293(B)細胞へのAlF4-注入により惹起された全細胞電流に対する10μMノルゲスチメート(NG)の効果を示す図である。全細胞電流は−70mVで記録され(左パネル)、そして対応する電流−電位(I−V)関係を示す(右パネル)。バックグラウンド補正のために、チャネルを10μM La3+(A)又は10μM 2−APB(B)で完全に遮断した。−100〜+80mVの電位ランプの間に曲線を得た。 (C) TRPC5仲介電流及びTRPC6仲介電流に対するノルゲスチメートの効果の統計的解析を示す。10μMノルゲスチメートは、TRPC5仲介電流の25.9±5.7%(n=20)、及びTRPC6仲介電流の89.9±3.1%(n=15)を阻害する(P<0.001、Wilcoxon検定、両側)。
【図4】fura−2をロードしたA7r5細胞の[Ca2+iの時間依存性変化を示す図である。細胞を、10μMノルゲスチメート(NG)とともに、又は10μMノルゲスチメートなしで(コントロール)、カルシウム非含有標準細胞外溶液(1mM EGTA)中にて、100nM AVPの適用によるV1受容体を刺激する前の5分間プレインキュベートした。データを33細胞(コントロール)及び36細胞(10μMノルゲスチメート)の平均として示す。 標準的イメージング設定(TILL Photonics、Graefelfing、Germany)を使用して測定を行った。
【図5】標準細胞外溶液(200μM [Ca2+o)中のA7r5細胞における100nM AVPにより惹起された全細胞電流に対する10μMノルゲスチメート(NG)の効果を示す図である。全細胞電流は−60mVで記録し(左パネル)、そして対応するI−V関係を示す(右パネル)。−100〜+80mVの電位ランプの間に曲線を得た。L−型電位依存性(voltage−gated)Ca2+チャネルは、5μMニモジピン(ND)により全実験の間遮断された。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の文脈における用語「TRPCイオンチャネル」又は「TRPC」は、Ca2+透過性非選択的カチオンチャネルを指す。これは以下の一過性受容体電位標準的(canonical)イオンチャネルのリストのうちいずれか1つを意味するべきである:TRPC1、TRPC2、TRPC3、TRPC4、TRPC5、TRPC6及びTRPC7。TRPC3、TRPC6及び/又はTRPC7が特に好ましい。
【0031】
このようなTRPCイオンチャネルは、あらゆる脊椎動物由来、特に哺乳動物種(例えば、イヌ、ウマ、ウシ、マウス、ラット、イヌ科動物、ウサギ、ニワトリ、類人猿、ヒト又はその他)由来であり得る。TRPCは、このような脊椎動物生物の組織プローブから単離され得るか、又はTRPCタンパク質を発現することができる組み換え生物学的材料を用いて製造され得る。
【0032】
この用語は、天然のポリペプチド、多型変異体、突然変異体、及び種間相同体を指していてもよい。
【0033】
「ノルゲスチメート」は、その化学名D−17.ベータ.−アセトキシ−B−エチル−17.アルファ.エチニル−ゴナ−4−エン−3−オンオキシムでも知られる。これは天然に存在する女性ホルモンプロゲステロンの合成形態であるゲスタゲンである。ノルゲスチメートは、先行技術においてホルモン避妊薬の組成物において使用される分子である。
【0034】
本発明において、ノルゲスチメートはTRPC3、TRPC6及びTRPC7の選択的阻害剤として使用される。
【0035】
本発明の文脈における用語「選択的阻害」は、TRPCファミリーの1つ又はそれ以上のメンバーを、1つ又はそれ以上の他のメンバーよりも高い有効性で阻害する、阻害剤、例えばノルゲスチメートの効力を指す。好ましい実施態様において、ノルゲスチメートは、TRPC4/5サブファミリーに対してよりもTRPC3/6/7サブファミリーに対してより有効である。より好ましい実施態様において、ノルゲスチメートは、TRPC4/5サブファミリーよりもTRPC3/6/7サブファミリーに対して少なくとも4倍有効である。
【0036】
用語「薬理学的ツール」は、その機能的特性により、薬物がどのように生存生物と相互作用して目的の機能の変化を生じるのかを調べることが可能になり、それにより新しい薬物組成及び特性、相互作用、毒性、治療法、医療的応用及び抗病原体能力を調べることが可能になる、化合物を指す。さらに、この用語は、新規な薬剤の開発のための可能性のある標的を特徴付けするため、例えばそれらの天然の組成、活性化機構、生理的機能、並びに病態生理及び疾患における役割を特徴付けするために使用され得る化合物を指す。
【0037】
用語「ディファレンシャル解析」は、同じ条件下でTRPC3/6/7サブファミリーメンバーとTRPC4/5サブファミリーメンバーとの間のチャネル機能の差異を特徴づけることを可能にする分析を指す。
【0038】
好ましい実施態様によれば、それぞれTRPC6イオンチャネル及びTRPC5イオンチャネルを発現している細胞を、2つの並行実験でノルゲスチメートと接触させ、そしてノルゲスチメートのそれぞれのTRPCイオンチャネルの活性に対する影響を測定又は検出し、同じ条件下でそれぞれのチャネルの機能を比較することが可能となる。
【0039】
用語「TRPCイオンチャネルモジュレーター」は、TRPCチャネルを調節する分子、特に阻害又は活性化する分子(「阻害剤」又は「活性化剤」)、特に本発明の方法にしたがって同定可能なTRPCチャネルの阻害剤を意味する。
【0040】
阻害剤は、一般的に、好ましくは上で詳細に記載されたTRPCチャネルの少なくとも1つの、例えば結合して活性を部分的若しくは完全に遮断するか、活性を低減、防止、遅延させるか、活性若しくは発現を不活化するか、感受性を減じるか、又は下方調節する化合物である。
【0041】
活性化剤は、一般的に、好ましくは上で詳細に記載されたTRPCチャネルの少なくとも1つの活性又は発現を、増加させるか、開口させるか、活性化するか、促進するか、活性化を増強するか、感受性にするか、アゴナイズする(agonizes)か、又は上方調節する化合物である。
【0042】
このようなモジュレーターには、TRPCチャネルの遺伝的改変された変形、好ましくはTRPCチャネルの不活化変異体、さらには天然に存在すか又は合成のリガンド、アンタゴニスト、アゴニスト、ペプチド、環状ペプチド、核酸、抗体、アンチセンス分子、リボザイム、有機低分子などが含まれる。
【0043】
TRPC活性化剤の例は、ジアシルグリセロール、特に1−オレイル−2アセチル−sn−グリセロール(OAG)、Gq−共役受容体アゴニスト、例えばフェニレフリン及び特にトリプシン、受容体チロシンキナーゼを刺激するアゴニスト、例えば上皮成長因子(EGF)又はジアシルグリセロール生成酵素、例えばホスホリパーゼ又はその活性化剤である。
【0044】
試験化合物の存在下でのTRPCイオンチャネル活性調節の測定の例は、以下のとおりである:
一般に、TRPCチャネルを発現する細胞が供給される。このような細胞は、当業者に公知の遺伝的方法を使用して製造することができる。TRPCチャネルの発現を誘導した後、通常は細胞を、例えばマイクロタイタープレートにプレーティングし、成長させる。通常、細胞はマルチウェルプレートの底部で成長し、固定される。その後、一般的には、細胞を洗浄し、適切なローディングバッファー中の色素、好ましくはfluo4amのような蛍光色素をロードする。ローディングバッファーを除去した後、細胞を試験化合物又はモジュレーターとともに、例えば化学的化合物ライブラリーの形態の、特に上記のような生化学的又は化学的試験化合物とともに、インキュベートする。Ca2+測定は、例えば蛍光イメージングプレートリーダー(FLIPR)を使用して行うことができる。TRPCチャネルを介するCa2+流入を刺激するために、チャネル活性化剤、例えばOAGを一般には適用するべきである。
【0045】
阻害剤の期待される効果は、例えば蛍光増加の減少だろう。活性化剤は、例えば活性化剤誘発蛍光のさらなる増加をもたらすか、又は例えば活性化剤依存性蛍光増加を誘導するだろう。
【0046】
その後、適切なモジュレーター、特に阻害剤を、分析及び/又は単離することができる。化学的化合物ライブラリーのスクリーニングには、ハイスループットアッセイの使用が好ましくは、これは当業者に公知であるか、市販されている。
【0047】
用語「TRPCを発現している細胞」は、目的のイオンチャネルを内因性発現している細胞又は組み換え細胞を指す。
【0048】
この細胞は、通常は哺乳動物細胞、例えばヒト細胞、マウス細胞、ラット細胞、チャイニーズハムスター細胞などである。都合の良いことが知られている細胞としては、MDCK、HEK293、HEK293T、BHK、COS、NIH3T3、Swiss3T3及びCHO細胞が挙げられ、好ましくはHEK293細胞である。
【0049】
本明細書で使用される用語「組織」は、好ましくは脊椎動物由来である場合、より好ましくは哺乳動物、例えばヒト由来である場合、あらゆる種類の組織調製物又は組織若しくは器官(例えば、脳、肝臓、脾臓、腎臓、心臓、血管、筋肉、皮膚など)の採取された部分のことを指すことができ、そしてあらゆる種類の体液(例えば、血液、唾液、リンパ液、滑液など)も指すことができる。組織サンプルは、周知の技術、例えば採血、組織穿刺(punction)又は外科技術により得ることができる。
【0050】
このような測定において使用される色素の例は、ジ−4−ANEPPS(ピリジニウム4−(2(6−(ジブチルアミノ)−2−ナフタレニル)エテニル)−1−(3−スルホプロピル)ヒドロキシド)、CC−2−DMPE(1,2−ジテトラデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン トリエチルアンモニウム)、DiSBAC2(ビス−(1,2−ジバルビツール酸)−トリメチンオキサノール)、DisBAC3((ビス−(1,3−ジバルビツール酸)−トリメチンオキサノール)、SBFI−AM(1,3−ベンゼンジカルボン酸,4,4’−[1,4,10−トリオキサ−7,13−ジアザシクロペンタデカン−7,13−ジイルビス(5−メトキシ−6,12−ベンゾフランジイル)]ビス−(テトラキス−[(アセチルオキシ)メチル]エステル))、fluo3am(1−[2−アミノ−5−(2,7−ジクロロ−6−ヒドロキシ−3−オキシ−9−キサンテニル)フェノキシ]−2−(2’−アミノ−5<1>−メチルフェノキシ)エタン−N,N,N’,N’−四酢酸(tetraacetic))、fluo4am(1−[2−アミノ−5−(2,7−ジクロロ−6−ヒドロキシ−4−オキシ−9−キサンテニル)フェノキシ]−2−(2’−アミノ−5’−メチルフェノキシ)エタン−N,N,N’,N’−四酢酸(tetraacetic))又はfura2am(1−t2−(5’−カルボキシオキサゾール−2’−イル)−6−アミノベンゾフラン−5−オキシ]−2−(2’−アミノ−5<l>−メチル−フェノキシ)−エタン−N,N,N’,N’−四酢酸(tetraacetic))である。
【0051】
用語「プロファイリング」は、化合物、例えばノルゲスチメートを、機能及び構造の分類、効力、特異性、選択性並びに作用機序により特徴付けすることを指す。本発明において、これは特に、TRPCイオンチャネルに対するノルゲスチメートの阻害効果の選択性研究を指す。
【0052】
用語「薬剤」は、治療有効量のノルゲスチメート及び1つ又はそれ以上の薬学的に許容しうる担体又は補助物質を含む組成物を指す。
【0053】
薬剤は、従来の方法のいずれかで全身投与又は局所投与され得る。これは、例えば経口投薬形態、例えば、錠剤又はカプセル剤を用いて、粘膜、例えば鼻腔又は口腔により、皮下に移植された配置剤(dispositories)の形態で、本発明に従う薬剤を含む注射、注入又はゲルによるものであり得る。上記のような特定の疾患を処置するために、薬剤を局所的に(topically及びlocally)、適切な場合はリポソーム複合体の形態で投与することもさらに可能である。
【0054】
薬剤はまた、注射液又は注入の形態で投与することもできる。注射液は、一般に、比較的少量の溶液又は懸濁液、例えば約1〜20mlのみが身体に投与される場合に使用される。輸液剤(ifusion solution)は一般に、より大量の溶液又は懸濁液、例えば1リットル又はそれ以上が投与される場合に使用される。しかし、比較的大量の投与の場合、本発明に従う製剤は、投与の直前に、少なくともほぼ等張の溶液が得られるような程度まで希釈されるべきである。等張溶液の例は、0.9%力価(strength)の塩化ナトリウム溶液である。注入の場合、希釈は例えば滅菌水を使用して行うことができ、投与は例えばいわゆるバイパスを介して行うことができる。
【0055】
以下の図面及び実施例は、本発明の範囲を限定することなく、本発明を説明する。
【実施例】
【0056】
例証
1.FLIPR測定
TRPC3/6
TRPC3及びTRPC6を、オレイル−2−アセチル−sn−グリセロール(OAG)(膜透過性ジアシルグリセロール類縁体)を適用することにより直接活性化した。30μM OAG適用後にTRPC3仲介Ca2+流入及びTRPC6仲介Ca2+流入は、30μMノルゲスチメートとともにプレインキュベートした細胞において著しく減少した(図1A、C)。TRPC3に対するノルゲスチメートのIC50は、2.8±0.4μMであった(n=2、図1B)。ノルゲスチメートは、TRPC6に対して5.2±0.4μMのIC50で同様に活性であった(n=4、図1D)。
【0057】
TRPC4/5
これらの実験を行ったとき、TRPC4及びTRPC5の直接的な生理的刺激薬は知られていなかった。従って、両方のチャネルを間接的に、例えばトリプシン、プロテアーゼ活性化受容体(PAR)刺激プロテアーゼの適用により刺激しなければならなかった。トリプシンは、4つの公知のPARサブタイプ全てを活性化することができ、そしてそのうち3つ(PAR1、PAR2及びPAR3)のmRNAは、HEK293細胞に内因的に存在することが示されている(Kawabataら、1999)。PARはGタンパク質に共役しており、そしてそれらの活性化は、小胞体(ER)からのカルシウムストア枯渇をもたらす。このいわゆるホスファチジルイノシトール(PI)応答は、チャネルの存在とは無関係であるが、結果としてTRPC4及びTRPC5のようなストア感受性チャネル(store−operated channels)の活性化をもたらす。
【0058】
これらの条件下での両方のチャネルに対するノルゲスチメートの効果を測定するための基本的な要件は、この強力なチャネル阻害剤のPAR拮抗作用を排除することである。それ故、ERからのカルシウム放出を、30μMノルゲスチメート又は緩衝液のみとともにプレインキュベートした(10分)誘導されていないTRPC5 HEK293 FITR細胞において比較した。30μMノルゲスチメートで処理された細胞におけるカルシウムストア放出の動力学及び量は、未処理の細胞と比較して変化がなかった。従って、ノルゲスチメートはPARアンタゴニストではなく、PAR刺激を介するTRPC4及びTRPC5活性化は、ノルゲスチメートによりチャネル阻害を測定するために適している。
【0059】
30μMノルゲスチメートは、TRPC4及びTRPC5に対して小さい阻害効果しか有していない(図2A、C)。TRPC4(n=2、図2B)及びTRPC5(n=4、図2D)の両方に対してIC50>30μMであると決定された。
【0060】
要約すれば、これらのFLIPR測定は、ノルゲスチメートがマイクロモル濃度で適用された場合にTRPC4/5サブファミリーのチャネルに加えてTRPC3/6/7サブファミリーのチャネルを阻害することを示した。ノルゲスチメートはTRPC4/5サブファミリーよりもTRPC3/6/7に対してより効果的であった。従って、ノルゲスチメートを、その識別性の能力を試験するためにさらなる実験に選択した。
【0061】
2.パッチクランプ記録
2.1.組み換えホモマーTRPC5及びTRPC6チャネルに対するノルゲスチメートの差異効果(Differential effect)
細胞集団を用いた蛍光分析実験においてモニタリングリングしてノルゲスチメートによるTRPC6仲介及びTRPC5仲介Ca2+流入の阻害を検証し、そして単一細胞の全細胞パッチクランプ記録と比較した。ノルゲスチメート効果のより良好な比較可能性のために同じ刺激薬で間接的にチャネルを刺激した。パッチピペットにより細胞内で適用された四フッ化アルミニウム(AlF4-)は、GTPを模倣することによりGタンパク質を活性化する(Sternweis&Gilman、1982;BIgayra、1985)。続いて、TRPCチャネルが刺激され、そして非特異的カチオン電流を仲介する(図3A、B)。
【0062】
10μMノルゲスチメートを適用してTRPC6チャネルを活性化した場合、静止膜電位で測定された電流の89.9±3.1%(n=15)が遮断された。この阻害は、ノルゲスチメート洗浄後に電流振幅が増加したので、可逆的であった(図3A)。10μMランタン(La3+)による隣接ブロックは完全で可逆的であり、それ故バックグラウンド(リーク(leak))計算に使用した。
【0063】
それに反して、刺激されたTRPC5チャネルに対する10μMノルゲスチメートの適用は、電流に対して軽微な効果しか有しておらず、25.9±5.7%(n=20)が遮断された。これらのチャネルはマイクロモル濃度のLa3+濃度で増強されるので(Jungら、2003)、2−アミノエトキシジフェニルボレート(2−APB)(特徴付けされたTRPC5遮断薬(Xuら、2005))を代わりに使用した。完全かつ可逆的にチャネルを遮断した10μM 2−APBを適用することによりバックグラウンドを計算した。
【0064】
これまでのところ、全てのノルゲスチメート効果を、HEK293細胞において異種発現したホモマーチャネルにおいて調べた。TRPCチャネルが生理条件下でヘテロマルチマー化することはよく知られている(Scaeferによる総説、2005)。これらのヘテロマルチマーの多数の可能な化学量論的組成を考慮に入れると、人工モデル系でTRPCチャネルの薬理試験を開始することは一般的用法(common use)である。しかし、ノルゲスチメートが天然のTRPCチャネルをも阻害するか否かを試験することは、なおさらに関心事である。
【0065】
2.2 天然ヘテロマーTRPC6/7チャネルに対するノルゲスチメートの効果
A7r5細胞株(ラット胸大動脈平滑筋細胞由来)は、内因性TRPCチャネルを調べるためのモデル系である(Jungら、2002;Soboloffら、2005)。チャネルをArg8−バソプレシン(AVP)(これらの細胞において内因性バソプレシンV1A受容体を活性化する血管収縮ペプチド)(Thibonnierら、1991)により間接的に刺激した。全細胞パッチクランプ記録を行う前に、ノルゲスチメートが一般的にV1受容体を抑制しないことがカルシウムイメージング実験において示された(図4)。
【0066】
100nM AVPを用いたA7r5細胞の潅流は、TRPCチャネルの生物物理学的な特質を有する非選択的カチオン電流を刺激した(図5)。二重に整流する(double−rectifying)I−Vの関係は、異種発現したTRPC6ホモマーに示されたものと同様であった(図3A)。10μMノルゲスチメートをAVP刺激A7r5細胞に適用した場合、静止膜電位で測定された電流の86.5±6.0%(n=8)が遮断され、そしてこの効果は可逆的であった(図5)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TRPCイオンチャネルの阻害のための、ノルゲスチメートの使用。
【請求項2】
TRPCイオンチャネルが、TRPC3、TRPC6及びTRPC7からなるリストより選択される、請求項1に記載のノルゲスチメートの使用。
【請求項3】
ノルゲスチメートが、TRPC4/5サブファミリーメンバーよりもTRPC3/6/7サブファミリーメンバーに対して少なくとも4倍強い効力を有する、請求項1または2に記載のノルゲスチメートの使用。
【請求項4】
ノルゲスチメートが、種々のTRPCサブファミリーに属するチャネルの特徴づけを可能にする薬理学的ツールとして使用される、請求項1または2に記載のノルゲスチメートの使用。
【請求項5】
インビトロで行われる、請求項1〜4のいずれか1項に記載のノルゲスチメートの使用。
【請求項6】
非ヒト動物においてインビボで行われる、請求項1〜4のいずれか1項に記載のノルゲスチメートの使用。
【請求項7】
生理学的条件下及び病態生理学的条件下でのそれぞれTRPC3/6/7サブファミリーメンバー及びTRPC4/5サブファミリーメンバーのチャネル機能のディファレンシャル解析を行うためにノルゲスチメートが使用される、請求項2に記載のノルゲスチメートの使用。
【請求項8】
解析が細胞において行われる、請求項7に記載のノルゲスチメートの使用。
【請求項9】
解析が組織において行われる、請求項7に記載のノルゲスチメートの使用。
【請求項10】
解析が非ヒト動物において行われる、請求項7に記載のノルゲスチメートの使用。
【請求項11】
TRPCイオンチャネルを発現している細胞をノルゲスチメートと接触させることを含む、TRPCイオンチャネルを選択的に阻害するための方法。
【請求項12】
TRPCイオンチャネルが、TRPC3、TRPC6及びTRPC7からなるリストより選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
インビトロで行われる、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
非ヒト動物においてインビボで行われる、請求項11または12に記載の方法。
【請求項15】
TRPCイオンチャネル活性に対するノルゲスチメートの効果を決定するための方法であって:
a)TRPCイオンチャネルを発現している細胞を接触させること、
b)細胞をノルゲスチメートと接触させる前、同時、又は後に、チャネル活性化剤によりCa2+流入を刺激すること、及び
c)TRPCイオンチャネル活性の変化を測定又は検出すること、
を含む、方法。
【請求項16】
TRPCイオンチャネルモジュレーターを同定するための方法であって:
a)TRPCイオンチャネルを発現している細胞を接触させること、
b)細胞を試験化合物と接触させる前、同時又は後に、チャネル活性化因子によりCa2+流入を刺激すること、及び
c)TRPCイオンチャネル活性の変化を測定又は検出すること、
を含む、方法。
【請求項17】
細胞が蛍光細胞である、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
細胞が、MDCK、HEK293、HEK293T、BHK、COS、NIH3T3、Swiss3T3又はCHO細胞より選択される、請求項15〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
TRPCイオンチャネル活性が、Ca2+流入の変化を測定若しくは検出することにより、パッチクランプ技術、全細胞電流、放射標識されたイオンフラックス、又は電位感受性色素若しくはイオン感受性色素を使用する蛍光により、測定又は検出される、請求項15〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
動物がマウス又はラットである、請求項6または10に記載の使用、並びに請求項14に記載の方法。
【請求項21】
TRPCイオンチャネル活性を阻害するノルゲスチメートの能力を評価すること、そしてノルゲスチメートの阻害効力を種々のTRPCサブファミリー間及びTRPCサブファミリー内で比較することを含む、TRPCイオンチャネルについてのノルゲスチメートの選択性をプロファイリングするための方法。
【請求項22】
心臓血管疾患、冠状動脈疾患、アテローム性動脈硬化症、末期腎不全、神経系疾患、慢性疼痛、急性疼痛、又は炎症性疾患の処置のための薬剤の製造における、ノルゲスチメートの使用。
【請求項23】
対象に治療有効量の、ノルゲスチメートを含む組成物を投与することを含む、心臓血管疾患、冠状動脈疾患、アテローム性動脈硬化症、末期腎不全、神経系疾患、慢性疼痛、急性疼痛、又は炎症性疾患の処置の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−500738(P2011−500738A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−530309(P2010−530309)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【国際出願番号】PCT/EP2008/008671
【国際公開番号】WO2009/052972
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(399050909)サノフィ−アベンティス (225)
【Fターム(参考)】