説明

TRPV2のモジュレーターを同定するための組成物および方法

特定のカンナビノイドがTRPV2チャンネル活性を特異的に活性化することが見いだされた。この知見に基づき、TRPV2の生物活性を上げるか、または下げる化合物をスクリーニングし、同定し、そして特徴付ける新規組成物および方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との関係
本出願は、引用により全部、本明細書に編入する2005年10月31日に出願された特許文献1および2006年3月15日に出願された特許文献2の優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、温熱受容体イオンチャンネルタンパク質の制御に関する。特に本発明は、TRPV2の生物活性を上げるかまたは下げる化合物をスクリーニングし、同定し、そして特性決定するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
哺乳動物では、温熱の、機械的な、または化学的な刺激により誘発される痛みの感覚は有用な警告および防御システムである。神経組織において熱および冷感覚の検出、変換および伝達に関与する生化学的メカニズムの解明に、膨大な努力がなされてきた。温熱の刺激は、脊髄後根神経節(DRG)および三叉神経節(TG)に由来するもののような感覚ニューロン上に位置する特殊(specialized)受容体を活性化する。これらの刺激が有害な範囲(すなわち大変熱いか、または冷たい)になると、刺激は侵害受容体(痛覚ニューロン:pain−sensing neuron)と呼ばれる感覚ニューロンの分集団上の温熱受容体の特定のサブセットを活性化する。活性化で、温熱受容体(すなわちイオンチャンネル)は有害な刺激を感覚ニューロンに沿って脊髄に広がる電気シグナルに伝達し、脊髄でこれは脳に中継され、最終的に痛みの知覚を導く。したがってこれらの温熱受容体は、様々な痛みの状態を処置する薬剤の開発に高度に有望な標的を表す。
【0004】
有害な高温から有害な低温まで広い範囲の温熱感受性を有する幾つかの温熱活性化受容体が同定された。これらの温熱活性化受容体は、非選択的カチオンチャンネルの一過性の受容体電位(TRP:transient receptor potential)ファミリーに属し、これは線虫(C.elegans)およびキイロショウジョウバエ(D.melanogaster)では機械的(mechano−)および浸透的(osmo−)調節に関与する。TRPV1およびTRPV2を含むこれら温熱活性化受容体の幾つかは、有害な熱感覚に結び付けられる(非特許文献1および非特許文献2)。最も詳しく特徴つけられている温度−TRPファミリーのメンバーであるTRPV1は、中程度の熱(〜43℃)、カプサイシン、プロトンおよび特定のエンドカンナビノイド、例えばアナンダミドおよび2−AGにより活性化される。TRPV1は急性の温熱侵害受容および損傷後の痛覚過敏に貢献していることが十分に認識されている(非特許文献3)。
【0005】
TRPV2はVRL−1とも呼ばれるが、有害な温熱(>52℃)のセンサーとしても提案され、これは恐らく「最初の」痛み、すなわち有害な刺激により誘発される迅速な、急性の、しかも鋭い痛みを媒介する(非特許文献2;非特許文献4およびその中の参考文献)。TRPV2はTRPV1と構造的に最も緊密に関連している(タンパク質レベルで〜50%の配列同一性)。TRPV2は感覚神経節の中から大の大きさの直径のニューロンで発現し、ならびに脳、脊髄、脾臓および肺で低レベルで発現する。さらにTRPV2は損傷後の交感神経節後ニューロンでアップレギュレートされ、交感神経で媒介される疼痛におけるTRPV2の役割の可能性を示唆している(非特許文献5)。このようにTRPV2のモジュレーションは、多くの治療的応用を有する可能性がある。
【0006】
TRPV2モジュレーションに関する重大な関心にもかかわらず、TRPV2モジュレ
ーターをスクリーニングし、同定し、そして特徴付けるためのシステムは未だに開発されていない。これは一部には既知の、特に選択的なTRPV2アゴニストの不足、ならびに高温の環境でこれらのチャンネルをアッセイする技術的な難しさによる。一般にTRPV2は既知のTRPV1アゴニストに応答しない(非特許文献6)。しかし最近の実験では、2−アミノエトキシジフェニルボレート(2−APB)(非選択的TRPモジュレーター)もTRPV1、TRPV2およびTRPV3を活性化すると報告されたが(非特許文献7)、2−APBによるTRPV2の活性化は他により観察されていない(非特許文献8)。
【0007】
上に述べた困難を克服するための試みにおいて、本発明はTRPV2アゴニストをスクリーニングし、同定し、そして特徴付ける新規組成物および方法を提供する。
【参考文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願第60/731,686号明細書
【特許文献2】米国特許出願第60/782,656号明細書
【非特許文献1】Caterina et al.,Nature,389:816,1997
【非特許文献2】Caterina et al.,Nature,398:436,1999
【非特許文献3】Clapham,Nature,426(6966):517−24,2003
【非特許文献4】Story et al.,Cell,112:819−829,2003
【非特許文献5】Gaudet et al.,Brain Res.1017(1−2):155−62,2004
【非特許文献6】Benham et al.,Cell Calcium 33:479−487,2003
【非特許文献7】Hu et al.,J.Biol.Chem.,279:35741−8,2004
【非特許文献8】Chung et al.,J.Neurosci.24:5177−82,2004
【発明の開示】
【0009】
発明の要約
今、特定のカンナビノイドがTRPV2チャンネル活性を特異的に活性化することが見いだされた。
【0010】
一つの一般的観点では、本発明はTRPV2の生物活性を下げる化合物を同定する方法を提供し、この方法はa)TRPV2がカンナビノイドにより活性化される条件下でTRPV2ポリペプチドを、TRPV2活性を活性化することができるカンナビノイドと接触させる工程;b)TRPV2ポリペプチドを試験化合物と接触させる工程;c)カンナビノイドおよび試験化合物の双方の存在下でTRPV2の生物活性を測定する工程;d)工程a)を繰り返す工程;e)試験化合物が存在しないカンナビノイドの存在下でTRPV2の生物活性を測定する工程;およびf)工程c)で測定したTRPV2活性を、工程e)で測定した活性と比較し、これにより工程c)で測定されたTRPV2活性が工程e)で測定された活性より低い場合にTRPV2の生物活性を下げる化合物を同定する工程、を含んでなる。
【0011】
別の一般的観点では、本発明はTRPV2の生物活性を上げる化合物を同定する方法を提供し、この方法はa)TRPV2を活性化することができるカンナビノイドと相互作用
するTRPV2を含んでなる複合体の3次元構造を定める原子座標を得;b)TRPV2と相互作用するカンナビノイドとの間の構造的関連を解明し;c)構造的関連に基づきカンナビノイドの構造的類似体を設計し;d)構造的類似体を合成し;そしてe)構造的類似体がTRPV2の生物活性を改変する程度を決定する工程を含んでなり、これによりTRPV2の生物活性を上げる化合物を同定する。
【0012】
本発明の別の一般的観点は、TRPV2の生物活性を上げる方法であって、この方法はTRPV2を、TRPV2活性を活性化することができるカンナビノイドと接触させる工程を含んでなる。
【0013】
本発明はさらに個体の有害な熱−感覚を刺激する方法を提供し、この方法は個体にTRPV2活性を活性化することができる有効量のカンナビノイドを含んでなる製薬学的組成物を投与することを含んでなり、これにより個体の有害な熱−感覚を刺激する。
【0014】
本発明の他の観点、特徴および利点は、本発明の詳細な説明およびその好適な態様、および添付する特許請求の範囲を含む以下の開示から明白となる。
【0015】
詳細な説明
本明細書に引用するすべての公報は、参照により本明細書に編入する。他に特定しない限り、本明細書で使用するすベての技術的および科学的用語は本発明が係わる当業者に通常に理解されている意味と同じ意味を有する。
【0016】
本明細書で使用するように、用語「含んでなる」、「含有する」、「有する」および「含む」は、それらの広い非限定的意味で使用する。
【0017】
以下はこの明細書中で使用される時の略号である。
2−AG=2−アラキドニルグリセロール
AEA=アナンダミド=N−アラキドノイルエタノールアミン
bp=塩基対
cDNA=相補的DNA
Ca2+=カルシウム
Δ−THC=デルタ−9−テトラヒドロカンナビノール
DRG=脊髄後根神経節
FLIPR=蛍光画像プレートリーダー
kb=キロベース;1000塩基対
PAGE=ポリアクリルアミドゲル電気泳動
PCR=ポリメラーゼ連鎖反応
SDS=ドデシル硫酸ナトリウム
TG=三叉神経節
TRPV2=一過性の受容体電位カチオンチャンネル、サブファミリーV、メンバー2
【0018】
本明細書で使用する「TRPV2の生物活性」という用語は、標準的技術に従いインビボまたはインビトロで測定されるようなTRPV2タンパク質により発揮される活性を指す。このような活性はTRPV2がカンナビノイドまたはその類似体のようなリガンドに結合する能力のような直接的活性であることができる。この活性はTRPV2により形成されるイオンチャンネルの伝導性であることができる。またこの活性は細胞のカルシウム動員または侵害受容応答のような細胞生理の機能的変化であることもできる。TRPV2の生物活性は、TRPV2と1もしくは複数のさらなるタンパク質もしくは他の分子(1もしくは複数)との相互作用を介してTRPV2により媒介されるシグナル伝達活性のような間接的活性であることができる。
【0019】
「結合親和性」とは、2以上の分子物体が互いに結合または相互作用する能力を指す。結合は、2つの相互に作用する物体の継続的かつ安定な近接を導く1もしくは複数の化学結合の形成からであることができる。またこの結合は単に物理的親和性に基づくことができ、これは同時に存在する2つの相互作用する物体に等しく効果的であることができる。物理的親和性および化学結合の例には限定するわけではないが、電荷の差、疎水性、水素結合、ファンデルワールス力、イオン力、共有結合から生じる力、およびそれらの組み合わせを含む。相互作用する物体間の接近状態は、一時的または永久的、可逆的または不可逆的であることができる。いずれの事象においても、2つの物体の自然の不規則な運動により生じる接触とは対照的であり、そして識別可能である。
【0020】
「カンナビノイド」にはカンナビノイド受容体またはこの化合物の構造的類似体を活性化する種々の化合物を含む。
【0021】
1つの態様では、「カンナビノイド」には草本のカンナビノイドである元々は植物の
大麻(Cannabis sativa)Lまたはその代謝産物から抽出された化合物の1種類を含む。大麻(Cannabis sativa)Lは最も古くから知られている薬用植物の1つであり、そしてその植物化学に関して徹底的に研究されてきた。この植物は様々な化学的クラスに属する全部で483の同定された化学物体を生合成し(ElSohly,2002,In:Grotenhermen and E.Russo(編集)、大麻およびカンナビノイド(Cannabis and Cannabinoids)、ハワース出版(Haworth Press)、ビガムトン(2002),pp27−36)、中でもカンナビノイドはこの植物のみに存在することが知られている最も特有なクラスの化合物である。66種の既知の植物由来カンナビノイドがある(Thakur et al.Life Sci.2005 Oct 17,印刷に先立ち公開)。中でも最も知られているのは、テトラヒドロカンナビノール(THC)、カンナビジオール(CBD)およびカンナビノール(CBN)である。次で多いカンナビノイドは、カンナビゲロール(CBG)、カンナビクロメン(CBC)およびカンナビノジオール(CBND)である。
【0022】
図1は大麻(Cannabis sativa)に存在するカンナビノイドのサブクラスの代表的構造を表す。ほとんどのカンナビノイドが21個の炭素原子を有するが、芳香族環に結合するC−3側鎖の長さに幾らかの変化がある。最も多い相同体では、n−ペンチル側鎖がn−プロピルに置き換わる(De Zeeuw et al.,Science.1972,175:778−779;およびVree et al.,Journal of Pharmacy and Pharmacology,1972,24:7−12)。これらの類似体は接尾辞「バリン(varin)」を使用して命名され、そして例としてTHCV、CBDVまたはCBNVのように名付けられる。1個(Vree et al.,1972、同上)および4個(Smith,1997,Journal of Forensic Science 42(1997),pp.610−618)の炭素を有するカンナビノイドも存在するが、少数成分である。古典的なカンナビノイド(CC)は、ベンゾピラン部分を持つABC三環式テルペノイド化合物であり、そして水に不溶性であるが、脂質、アルコールおよび他の非極性有機溶媒には可溶性である(Thakur et al.,2005,同上)。これらのフェノール系誘導体は、強アルカリ条件下で形成されるそれらのフェノール酸塩としてさらに水溶性となる。
【0023】
「カンナビノイド」の具体的な一例は、デルタ−9−テトラヒドロカンナビノール(デルタ−9−THC、Δ−THC)であり、これは大麻(マリファナ)の重要な精神活性成分である(Gaoni and Mechoulam 1964,Journal of the American Chemical Society 86(1964),pp.1646−1647)。図2で具体的に説明するように、Δ−THCはその非
精神活性前駆体であるΔ−THCAの、保存または喫煙またはアルカリ条件下中の光または熱の作用による脱カルボキシル化により形成される。Δ−THCAは幾つかの特異的酵素の作用が関与する十分に確立された経路により生合成される。
【0024】
Δ−THCは2つの既知のカンナビノイド(CB)受容体、CB1(Devane et al.,1988,Molecular Pharmacology 34(1988),pp.605−613;Gerard et al.,1990,Nucleic Acids Research 18(1990),p.7142;Gerard et al.,1991,Biochemical Journal 279(1991),pp.129−134;およびMatsuda et al.,1990,Nature 346(1990),pp.561−564.)およびCB2(Munro et
al.,1993,Nature 365(1993),pp.61−65)と相互作用することが見いだされた。両方のカンナビノイド受容体がG−タンパク質共役受容体のスーパーファミリーに属し、そして広い範囲の生理学的効果を生じ(Grotenhermen,2002,In:R.Grotenhermen and E.Russo,Editors,Cannabis and Cannabinoids,Haworth
Press,Binghamton(2002),pp.123−142)、それらには制吐作用、食欲増進、鎮痛作用および眼圧の低下がある。動物内の特異的なカンナビノイド受容体の発見は、最終的にエンドカンナビノイドの調査および同定を導いた。
【0025】
このように用語「カンナビノイド」はまた、エンドカンナビノイドも含む。用語「エンドカンナビノイド」は、カンナビノイド受容体に対するリガンドを指し、ここで該リガンドは動物の体内で内的に生産される。例となるエンドカンナビノイドには限定するわけではないが、N−アラキドノイルエタノールアミン(AEA、アナンダミド)および2−アラキドニルグリセロール(2−AG)を含み、その構造は図3に示す。アナンダミドはCB1受容体に中程度の親和性で結合することが示され(Ki=61nM)、CB2受容体に対しては低い親和性を有し(Ki=1930nM)(Lin et al.,1998,Journal of Medicinal Chemistry 41(1998),pp.5353−5361)、そしてカンナビノイド活性を特徴付けるために使用する生化学および薬理学試験では部分アゴニストとして挙動する。またアナンダミドは、TRPV1に結合し、そして活性化する(Di Marzo et al.,Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids 2002;66:377−91)。2−AGはCB1(K=472nM)およびCB2(K=1400nM)受容体の双方と弱く結合する(Mechoulam et al.,1995,Biochemical Pharmacology 50(1995),pp.83−90)。2−AGは腸および脳組織から単離され、そして脳にAEAよりも約170倍高い濃度で存在する(3)(Stella et al.,1997,Nature 388(1997),pp.773−778)。
【0026】
さらに別の態様では、用語「カンナビノイド」は、化学合成により生産され、そして自然には存在しない合成のカンナビノイドも網羅する。合成のカンナビノイドは草本のカンナビノイドまたはエンドカンナビノイドの構造に基づき合成することができる。合成のカンナビノイドは、カンナビノイド分子の体系的な漸増修飾を作成することにより、カンナビノイド化合物の構造と活性との間の関係を決定する実験に特に有用である。例となる合成カンナビノイドには、ドロナビノール(合成THC)、ナビロンおよびカンナビノイド受容体を活性化する他の合成化合物、またはその化合物の構造的類似体を含む。
【0027】
「TRPV2活性を活性化することができるカンナビノイド」は、TRPV2チャンネルに結合することができる任意のカンナビノイドを指し、そして他の刺激無しで、ベースラインに対してTRPV2チャンネルの伝導性に少なくとも10%の増加を現す。当業者
はカンナビノイドがTRPV2活性を活性化することができるかどうかを実験的に測定することができる。幾つかの態様では、「TRPV2活性を活性化することができるカンナビノイド」はTRPV2チャンネルへの結合で、ベースラインに対して比較してチャンネルの伝導性に少なくとも15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%または50%の増加を生じるカンナビノイドである。「TRPV2活性を活性化することができるカンナビノイド」には限定するわけではないが、Δ−テトラヒドロカンナビノール、カンナビノール、カンナビジオール ナビロン、CP55940、HU210および2−AGを含む。興味深いのは、試験した他のエンドカンナビノイド、アナンダミドがTRPV2に活性化効果を示さないか、または示したとしても最小であった点である(表2、実施例4、下記)。
【0028】
「カンナビノイド受容体」または「CB受容体」は、それぞれカンナビノイドの特異的受容体として機能するタンパク質を指す。「CB受容体」はCB1受容体またはCB2受容体であることができる。
【0029】
CB1受容体は主に脳、特に脳幹神経節および海馬を含む辺縁系で検出された。またそれらは小脳および男性および女性の両方の生殖系のような他の組織からも見いだされる。CB1受容体は大麻の幸福感および抗痙攣効果の原因と思われる。CB1は(1)GenBankタンパク質ID:NP_057167(ヒトCB1受容体のより長いアイソフォーム)またはNP_149421(ヒトCB1受容体のより短いアイソフォーム)に表されるヒトのCB1受容体に約70%よりも高いアミノ酸配列の同一性を有するか;あるいは(2)GenBankタンパク質ID NP_057167またはNP_149421に表されるヒトCB1受容体に対して生じた抗体、例えばポリクローナルまたはモノクローナル抗体に結合する。幾つかの態様では、CB1受容体はGenBankタンパク質ID NP_057167またはNP_149421に表されるヒトCB1受容体に対して約75、80、85、90または95パーセントより高いアミノ酸配列の同一性を有する。CB1受容体にはヒト、ラット、マウス、ブタ、イヌおよびサル等を含む動物のCB1受容体のオルソログを含む。またCB1受容体はCB1受容体の構造的および機能的多形も含む。「多形」とは、集団における個体の特定の遺伝子座の1組の遺伝的バリアントを指す。CB1受容体はヒト(GenBankタンパク質ID NP_057167またはNP_149421)、ラット(GenBankタンパク質ID:NP_036916)、またはマウス(GenBankタンパク質ID:NP_031752)等に由来のCB1受容体の構造的および機能的多形も含む。
【0030】
CB2受容体はほとんど排他的に免疫系で検出され、末梢血細胞に最高密度で検出された。CB2受容体は抗−炎症の原因であり、そして可能な他の治療薬と考えられる。CB2は(1)GenBankタンパク質ID:NP_001832に表されるヒトCB2受容体に対して約70%より高いアミノ酸配列の同一性を有することができ;あるいは(2)GenBankタンパク質ID NP_001832に表されるヒトCB2受容体に対して生じた抗体、例えばポリクローナルまたはモノクローナル抗体に結合することができる。幾つかの態様では、CB2受容体はGenBankタンパク質ID NP_001832に表されるヒトCB2受容体に対して約75、80、85、90または95パーセントより高いアミノ酸配列の同一性を有する。CB2受容体にはヒト、ラット、マウス、ブタ、イヌおよびサル等を含む動物のCB2受容体のオルソログを含む。またCB2受容体はCB2受容体の構造的および機能的多形も含む。CB2受容体はヒト(GenBankタンパク質ID NP_001832)、ラット(GenBankタンパク質ID:NP_065418)、マウス(GenBankタンパク質ID:NP_034054)等に由来のCB2受容体の構造的および機能的多形も含む。
【0031】
「細胞」とは、検出法の感度に適する少なくとも1つの細胞もしくは複数の細胞を指す
。細胞は培養した細胞カルチャー中に存在することができる。または細胞は生物組織もしくは流体のようなその自然な環境に存在することができる。本発明に適する細胞は細菌でよいが、好ましくは真核細胞、そして最も好ましくは哺乳動物細胞である。
【0032】
「TRPV2チャンネルの伝導性を上げる化合物」には、TRPV2チャンネルを通るイオンの通過に上昇をもたらす化合物を含む。1つの態様では、そのような化合物はTRPV2チャンネルに結合して、その伝導性を上げるTRPV2のアゴニストである。そのような化合物は、チャンネル伝導性を誘起し、開始し、伝播し、またはそうではなく強化する。別の態様では、そのような化合物はポジティブアロステリックモジュレーターであり、これはアゴニスト結合部位とは異なるアロステリック部位でTRPV2チャンネルと相互作用し、そしてアゴニストに対するチャンネルの応答を強化する。
【0033】
「TRPV2チャンネルの伝導性を下げる化合物」には、TRPV2チャンネルを通るイオンの通過に減少をもたらす化合物を含む。1つの態様では、そのような化合物はTRPV2チャンネルに結合して、競合的または非競合的様式のいずれかでアゴニストの作用と対抗、減少または限定するTRPV2チャンネルのアンタゴニストである。別の態様では、そのような化合物はネガティブなアロステリックモジュレーターであり、これはアゴニストまたはアンタゴニスト結合部位とは異なるアロステリック部位でTRPV2チャンネルと相互作用し、そしてアゴニストに対するチャンネルの応答を下げる。さらに別の態様では、そのような化合物はTRPV2チャンネルに結合し、そしてアゴニストのような任意の他の化合物の不存在下でチャンネルの伝導性を下げるインバースアゴニストである。
【0034】
「ヌクレオチド配列」とは、単または二本鎖形のいずれかのポリマー中のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド残基の配置を指す。核酸配列は以下の塩基の天然のヌクレオチド:チミジン、アデニン、シトシン、グアニンおよびウラシル;それぞれT、A、C、GおよびUと略し、ならびに/または天然のヌクレオチドの合成類似体から構成されることができる。
【0035】
「単離された」核酸分子は、核酸の天然の供給源に存在する他の核酸分子の少なくとも1つから実質的に分離されているものであるか、あるいは核酸分子が化学的に合成される場合は、化学的前駆体もしくは他の化学品の少なくとも1つを実質的に含まないものである。「単離された」核酸分子は、例えばその核酸が由来する生物のゲノムDNA中で、核酸分子の5’および3’末端に自然に隣接する(flank)ヌクレオチド配列の少なくとも1つを実質的に含まない核酸分子であり得る。核酸分子は、他の核酸分子(1もしくは複数)または他の化学品(1もしくは複数)(本明細書では「混入している核酸分子」または「混入している化学品」)が約30%、20%、10%または5%(乾燥重量による)未満で存在する場合、核酸の調製物において他の核酸分子(1もしくは複数)または他の化学品(1もしくは複数)から「実質的に分離」されているか、または「実質的に含まない」。
【0036】
単離された核酸分子には限定するわけではないが、他の配列から独立して別個の核酸分子(例えばPCRまたは制限エンドヌクレアーゼ処理により生成されるcDNAまたはゲノムDNA断片)、ならびにベクター、自律的に複製するプラスミド、ウイルス(例えばレトロウイルス、アデノウイルスまたはヘルペスウイルス)に取り込まれた核酸分子、あるいは原核もしくは真核生物のゲノムDNAに取り込まれた核酸分子がある。さらに単離された核酸分子はハイブリッドまたは融合核酸分子の一部である核酸分子を含むことができる。単離された核酸分子は:(i)例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によりインビトロで増幅された配列;(ii)例えば化学合成により合成される;(iii)クローニングにより組換え的に生産される;または(iv)開裂および電気泳動もしくはクロマ
トグラフィー分離により精製される配列である核酸配列であることができる。
【0037】
用語「オリゴヌクレオチド」または「オリゴ」は、比較的短い長さ、例えば100残基長未満の一本鎖DNAまたはRNA配列を指す。多くの方法に、約16〜25ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドが有用であるが、約25ヌクレオチドより長いオリゴヌクレオチドも時に利用できる。幾つかのオリゴヌクレオチドは相補的核酸鎖の合成に「プライマー」として使用することができる。例えばDNAプライマーは、DNAポリメラーゼを使用した反応で相補的DNA鎖の合成をプライムする相補的核酸配列にハイブリダイズできる。またオリゴヌクレオチドは幾つかの核酸の検出法、例えばノーザンブロッティングまたはin situ ハイブリダイゼーションに有用である。
【0038】
用語「ポリペプチド」、「タンパク質」および「ペプチド」は、本明細書においてアミノ酸残基がペプチド結合または修飾ペプチド結合により連結されたアミノ酸の鎖を指すために互換的に使用する。アミノ酸の鎖は、2アミノ酸より長い大きさの任意の長さであることができる。他に特定しない限り、用語「ポリペプチド」、「タンパク質」および「ペプチド」は、それらの様々に修飾された形態も包含する。そのような修飾された形態は、自然に存在する修飾形、または化学的に修飾された形でよい。修飾形の例には限定するわけではないが、グリコシル化形、リン酸化形、ミリストイル化形、パルミトイル化形、リボシル化形、ユビキチン化形等がある。また修飾は分子内架橋結合、および脂質、フラビン、ビオチン、ポリエチレングリコールまたはそれらの誘導体等のような種々の部分への共有結合も含む。加えて、修飾は環化、分枝化および架橋結合を含むことができる。さらに遺伝子の暗号にコードされる通例の20種のアミノ酸以外のアミノ酸もポリペプチドに含んでよい。
【0039】
「単離されたタンパク質」はタンパク質の天然の供給源に存在する他のタンパク質の少なくとも1つから実質的に分離されているものであるか、あるいはタンパク質が化学的に合成される場合は、化学的前駆体もしくは他の化学品の少なくとも1つを実質的に含まないものである。タンパク質は、他のタンパク質(1もしくは複数)または他の化学品(1もしくは複数)(本明細書では「混入しているタンパク質」または「混入している化学品」を指す)が約30%、20%、10%または5%(乾燥重量による)未満で存在する場合、タンパク質の調製物において他のタンパク質(1もしくは複数)または他の化学品(1もしくは複数)から「実質的に分離」されているか、またはそれを「実質的に含まない」。
【0040】
単離されたタンパク質は、幾つかの異なる物理的形態を有することができる。単離されたタンパク質は完全長の発生期(nascent)もしくはプロセッシングされていないポリペプチドとして、または一部プロセッシングされたポリペプチドとして、またはプロセッシングされたポリペプチドの組み合わせとして存在することができる。完全長の発生期ポリペプチドは、完全長の発生期ポリペプチドの断片を形成を生じる特異的なタンパク質分解的開裂反応(proteolytic cleavage event)により翻訳後に修飾され得る。断片または断片の物理的会合は、完全長のポリペプチドに付随する生物活性を有することができるが;個々の断片に付随する生物活性の程度は変動できる。
【0041】
単離されたポリペプチドは、自然には存在しないポリペプチドであることができる。例えば「単離されたポリペプチド」は、「ハイブリッドポリペプチド」であることができる。また「単離されたポリペプチド」は、自然に存在するポリペプチドからアミノ酸の付加、削除または置換により誘導されるポリペプチドであることができる。また本明細書において、単離されたポリペプチドは、精製されたポリペプチドであることができ、これは他の細胞成分、他のポリペプチド、ウイルス性物質または培養基を、あるいはポリペプチドが化学的に合成される場合、化学的前駆体または化学合成に伴う副産物を実質的に含まな
い実質的に均一な調製物中の特定のポリペプチドを意味するために使用する。「精製されたポリペプチド」は、当業者には明白であるように、天然または組換え宿主細胞から標準的な精製技術により、または化学合成により得ることができる。
【0042】
「組換え体」とは、分子生物学的技法を使用し自然な状態ではないように修飾された核酸、核酸によりコードされるタンパク質、細胞またはウイルス粒子を指す。例えば組換え細胞は細胞の自然な(非組換え体)状態内には見いだされないヌクレオチド配列を含むことができ、または発現下、または全く発現しない状態で組換え的ではなく異常に自然な遺伝子を発現することができるヌクレオチド配列を含むことができる。また組換え細胞は、自然な細胞の状態に見いだされる遺伝子を含むことができ、ここで遺伝子は人工的手段により修飾され、そして細胞に再導入される。この用語はまた、細胞から核酸を除去せずに修飾された内因性核酸を含む細胞も包含し:そのような修飾は、例えば遺伝子置換および位置指定突然変異により得られるものを含む。
【0043】
「組換え宿主細胞」は、組換えDNA配列が導入された細胞である。組換えDNA配列は宿主細胞に、例えば電気穿孔、リン酸カルシウム沈殿、マイクロインジェクション、形質転換、バイオリスティック(biolistic)およびウイルス感染を含む適切な方法を使用して導入することができる。組換えDNAは細胞のゲノムを作る染色体DNAに組み込まれても(共有結合)、組み込まれなくてもよい。例えば組換えDNAは、プラスミドのようなエピソーム要素に維持されることができる。あるいは安定に形質転換された、またはトランスフェクトされた細胞について、組換えDNAは染色体に組み込まれるようになるので、これは染色体の複製を介して娘細胞により継承される。この安定性は、安定に形質転換またはトランスフェクトされた細胞が、外来DNAを含む娘細胞群からなる細胞株またはクローンを樹立する能力により証明される。組換え宿主細胞は原核または真核細胞でよく、大腸菌(E.coli)のようなバクテリア、酵母のような真菌細胞、ヒト、ウシ、ブタ、サルおよび齧歯類起源の細胞株のような哺乳動物細胞、ならびにショウジョウバエ(Drosophila)および蚕に由来する細胞株のような昆虫細胞でよい。さらに、用語「組換え宿主細胞」は、特定の個体の細胞を指すだけでなく、そのような細胞の子孫もしくは潜在的な子孫も指すものと理解される。特定の修飾が突然変異または環境的影響のいずれかにより後代に起こる可能性があるので、そのような子孫は実際に、親細胞とは同一ではないかもしれないが、それでも本明細書で使用する用語の範囲に含まれる。
【0044】
当該技術分野で知られているように「配列同一性または類似性」とは、配列を比較することにより決定される2以上のポリペプチド配列または2以上のポリヌクレオチド配列間の関係である。本明細書で使用するように、2以上の核酸配列または2以上のポリペプチド配列間の関係という内容において、「同一性」とは配列が至適に整列され、そして分析された時、それぞれ同じヌクレオチドまたはアミノ酸残基の割合を指す。例えばアミノ酸配列である配列番号2に対するクエリ配列を比較する目的で、クエリ配列は配列番号2と至適に整列され、そして配列番号2の全長にわたり最高の場所のアライメントが得られる。
【0045】
分析はマニュアルで、または配列比較アルゴリズムを使用して行うことができる。配列の比較には、典型的には1つの配列が参照配列としての役割を果たし、これに対してクエリ配列が比較される。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験および参照配列をコンピューターに入力し、必要ならばサブ−配列の座標を指定し、そして配列のアルゴリズムプログラムパラメーターを指定する。
【0046】
比較に最適な配列のアライメントは、例えばNeedlman & Wunsch J
Mol.Biol.,48:443(1970)のホモロジーアライメントアルゴリズ
ムを使用することにより行うことができる。Needlman & Wunsch分析を行うソフトウェアはパスツール研究所(フランス)のバイオロジカルソフトウェアウェッブサイト:http://bioweb.pasteur.fr/seqanal/interfaces/needle.htmlから公的に入手可能である。NEEDLEプログラムは、2つの配列の全長を考える場合に、Needleman−Wunschのグローバル アライメントアルゴリズムを使用して2つの配列の最適なアライメント(ギャップを含む)を見いだす。同一性は、長さの中のギャップを含め報告する整列した領域にわたり、2つの配列間で同一の対合の割合に従い算出される。類似スコアも提供され、ここでは類似性が長さの中のギャップを含め報告する整列した領域にわたり、2つの配列間での対合の割合として算出される。標準的比較は、タンパク質配列に関してEBLOSUM62マトリックスを使用し、そしてヌクレオチド配列に関してはEDNAFULLマトリックスを使用する。ギャップオープンペナルティは、ギャップが作られる場合に取り除かれるスコアであり;ギャップオープンペナルティを使用して設定するデフォルトは10.0である。ギャップ延長については、ギャップ中の各塩基または残基についてペナルティが標準ギャップペナルティに加えられる:デフォルト設定は0.5である。
【0047】
ハイブリダイゼーションも2つのポリヌクレオチドが互いに実質的に同一であることを示す試験として使用することができる。高い同一性の程度を共有するポリヌクレオチドは、互いにストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする。「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は、Sambrook et al.,モレキュラークローニング:ア ラボラトリーマニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)、第2版、コールドスプリングハーバーラボラトリー、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク、(1989)に記載されているように、当該技術分野で知られている意味を有する。例としてストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、ハイブリダイズするポリヌクレオチドが相同性を共有する長さに依存して、6x塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中、約45℃でのハイブリダイゼーション、続いて0.2xSSCおよび0.1%SDS中で50〜65℃にて1回以上の洗浄を含んでなる。
【0048】
「TRPV2」、「一過性の受容体電位カチオンチャンネル、スーパーファミリーV、メンバー2」、「VRL」、「VRL1」、「VRL−1」または「バニロイド受容体様タンパク質1」は、それぞれ高温および/または低い浸透圧モル濃度(osmolarity)により活性化され得るイオンチャンネルであるTRPV2チャンネルを形成し、そして知覚神経節に熱応答を伝えるタンパク質を指す。TRPV2チャンネルは特定の化合物でも活性化され得る。活性化されたTRPV2チャンネルは、チャンネルを介してCa2+および他のカチオン(例えばNa)の流入をゲートで制御し、膜の脱分極を生じる。TRPV2タンパク質は(1)配列番号2(GenBankタンパク質ID:NP_057197)に表されるヒトTRPV2(hTRPV2)タンパク質に約70%より高いアミノ酸配列同一性を有することができ;あるいは(2)配列番号2に表すhTRPV2タンパク質に対して生じた抗体、例えばポリクローナルもしくはモノクローナル抗体に結合することができる。幾つかの態様では、TRPV2は配列番号2に対して約75、80、85、90または95パーセントより高いアミノ酸配列の同一性を有する。TRPV2は、ヒト、ラット、マウス、ブタ、イヌおよびサル等を含む動物中のTRPV2のオルソログも含む。またTRPV2はTRPV2の構造的および機能的多形も含む。TRPV2はヒト、ラット(GenBankタンパク質ID:NP_058903、配列番号4)、マウス(GenBankタンパク質ID:NP_035836、配列番号6)等に由来するTRPV2の構造的および機能的多形を含む。例えばヘモアグルチニンA(HA)のエピトープタグをラットTRPV2のC末端へ付加してもチャンネルの特性が変化せず;そしてラットTRPV2のN−末端20、32および65、およびC−末端11、23または32のアミノ酸残基を欠くラットTRPV2−HAの欠失変異体は、約53℃に上昇し
た温度、低下した浸透圧モル濃度、Δ9−THCまたは2−APBに応答して活性なままであったことが見いだされた。したがってTRPV2は、配列番号7〜14のアミノ酸配列からなるラットTRPV2の欠失変異体のようなTRPV2の生物活性を維持する野生型TRPV2の欠失または修飾を含む。さらにTRPV2は異なる動物のTRPV2間のキメラを含む。例えばラットとヒトTRPV2との間のキメラ(配列番号16)、RHRと呼ばれるが(すなわちラット1−392/ヒト391−646/ラット647−761)も、約53℃の温度上昇、Δ9−THCおよび2−APBに応答して活性であった。さらにTRPV2は2以上のTRPV2サブユニットの組み合わせにより形成される活性なイオンチャンネルをさらに含み、これはそれら自体で不活性または活性が低い。例えばTRPV2はキメラRRH(ラット1−392/ラット393−646/ヒト647−764)およびHRR(ヒト1−390/ラット393−646/ラット647−761)の同時発現により形成される活性なイオンチャンネルであることができる。
【0049】
「TRPV2の活性化温度」は、他の刺激の不存在下でTRPV2チャンネルがベースラインに比べて少なくとも10%、その伝導性に上昇を現す温度である。当業者はTRPV2チャンネルの活性化温度を実験的に決定することができる。幾つかの態様では、「TRPV2の活性化温度」は、TRPV2チャンネルがベースラインに比べてその伝導性に少なくとも15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%または50%の上昇を現す温度である。「TRPV2の活性化温度」は典型的には約52℃より高い。幾つかの態様では、TRPV2の活性化温度は約52℃〜55℃または55℃〜60℃である。
【0050】
「TRPV2の非活性化温度」は、「TRPV2の活性化温度」の範囲の外側にある温度である。例示的な「TRPV2の非活性化温度」は室温(約22℃)または約52℃未満の任意の温度である。
【0051】
「ベクター」は、中がヘテロロガスな核酸であるか、またはそれを挿入することができる核酸分子を指す。ベクターの中には宿主細胞に導入されて、ベクターの複製を可能にするか、またはベクターもしくは構築物によりコードされるタンパク質の発現を可能にできるものもある。ベクターは典型的には選択可能なマーカー、例えば薬剤耐性を可能にするタンパク質、複製起点の配列およびヘテロロガスな配列を挿入できるようにするための多クローニング部位をコードする遺伝子を有する。ベクターは典型的にはプラスミドに基づき、そして小文字“p”に続く文字および/または数字の組み合わせにより示される。本明細書に開示する出発プラスミドは市販されているか、制限のない基準で公的に入手可能であるか、あるいは当該技術分野で既知の手順を応用することにより利用可能なプラスミドから構築することができる。本発明に従い使用することができる多くのプラスミドおよび他のクローニングおよび発現ベクターは周知であり、そして当業者には容易に入手可能である。さらに当業者は本発明に使用するために適する多くの他のプラスミドを容易に構築することができる。本発明において、そのようなプラスミドならびに他のベクターの特性、構築および使用は、本開示から当業者には容易に明白となるであろう。
【0052】
「配列」はモノマーがポリマー中に存在する直線状の順序を意味し、例えばポリペプチド中のアミノ酸の順序、またはポリヌクレオチド中のヌクレオチドの順序を意味する。
【0053】
本発明を実施するにあたり、分子生物学、微生物学および組換えDNAにおける多くの通常の技術が使用される。これらの技術は周知であり、そして例えば分子生物学の現在の手法(Current Protocols in Molecular Biology)、第I、IIおよびIII巻、F.M.Ausubel,ed.(1997);およびSambrook et al.,モレキュラークローニング:ア ラボラトリーマニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manua
l)、コールドスプリングハーバーラボラトリー出版、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク(2001)に説明されている。
【0054】
本発明ではカンナビノイドの一群がTRPV1活性ではなくTRPV2活性を活性化できることが見いだされた。すなわち本発明はTRPV2の生物活性を調節する新規方法、およびTRPV2の生物活性を調節する化合物を同定する新規方法を提供する。
【0055】
1つの態様では、本発明で使用するTRPV2は細胞に存在する。細胞はTRPV2を内的に、または組換え的に発現することができる。1つの例示的なTRPV2の内因性細胞は脊髄後根神経節(DRG)ニューロンまたは三叉ニューロンである。TRPV2の内因性細胞の他の例には、限定するわけではないが、腸の内因性ニューロン、血管平滑筋細胞およびヒト胚芽腫(HepG2)を含む。
【0056】
当業者には任意の組換え発現法を、本発明でTRPV2を発現する目的に使用することができることは明白である。一般にTRPV2をコードする核酸を適切な宿主細胞に導入することができる。本発明に使用することができる例となる核酸分子には、ヒト(配列番号1、GenBank寄託No:NM_016113)、マウス(配列番号5、GenBank寄託No:NM_011706)またはラット(配列番号3 GenBank寄託番号:NM_017207)由来の完全長TRPV2をコードするcDNAを含む。
【0057】
典型的には核酸、好ましくはDNAの形態の核酸がベクターに取り込まれ、いったん宿主細胞に導入されれば、相互作用するタンパク質のメンバー(1もしくは複数)の生産を指令することができる発現ベクターを形成する。多くの種類のベクターを本発明に使用することができる。本発明の目的のために発現ベクターを構築する方法は、本開示から当業者には明白なはずである。(一般に分子生物学の現在の方法(Current Protocols in Molecular Biology,)、第2巻、Ausubel,et al.編集、グリーネ パブリッシュ アソシエーツ & ウィリーインターサイエンス(Greene Publish.Assoc.& Interscience)、第13章、1988;Glover,DNAクローニング(DNA Cloning)、第II巻、IRL出版、Wash.,D.C.,第3章、1986;Bitter,et al.,in Methods in Enzymology 153:516−544(1987);酵母サッカロミセスの分子生物学(The Molecular Biology of the Yeast Saccharomyces)、Strathern et al.編集、コールドスプリングハーバー出版、第IおよびII巻、1982;およびSambrook et al.,モレキュラークローニング:ア ラボラトリーマニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)、コールドスプリングハーバー出版、1989を参照にされたい)。
【0058】
一般に発現ベクターは、相互作用するタンパク質のメンバーをコードするDNAに操作可能に連結されたプロモーターを有する発現カセットを含む。プロモーターは天然のプロモーター、すなわち細胞中で相互作用するタンパク質メンバーの発現の原因となる細胞に自然に存在することが分かっているプロモーターであることができる。あるいは発現カセットはキメラのもの、すなわち自然に存在する細胞中で相互作用するタンパク質メンバーの発現の原因となる天然のプロモーターではないヘテロロガスなプロモーターを有するものであることができる。発現ベクターはさらに宿主細胞中でベクターの複製のために、DNAの複製起点を含むことができる。好ましくは発現ベクターは、ベクターの例えば大腸菌中での増幅のために複製起点を、そして発現ベクターを持つ宿主細胞のみを選択し、そして維持するための選択マーカー(1もしくは複数)を含む。
【0059】
このように構築された発現ベクターは、当該技術分野で知られている任意の技術により、例えば直接的なDNAの形質転換、マイクロインジェクション、電気穿孔、ウイルス感
染、リポフェクチン、遺伝子銃等により宿主細胞に導入することができる。目的タンパク質の発現は一過性であるか、または安定し得る。発現ベクターは宿主細胞中の、染色体外の状態で、すなわち自律複製プラスミドもしくはウイルスで維持されることができる。あるいは発現ベクターは、安定な細胞株の選択または部位特異的組換えのような通例の技法により宿主細胞の染色体に組み込まれ得る。安定な細胞株では、発現ベクターの少なくとも発現カセット部分が宿主細胞の染色体に組み込まれる。
【0060】
ベクター構築物は、限定するわけではないが細菌、酵母細胞、植物細胞、昆虫細胞および哺乳動物およびヒト細胞を含め、様々な宿主細胞中での発現に適するように設計することができる。異なる宿主細胞で発現するための発現ベクターを調製する方法は、当業者に明白である。以下の実施例1に記載するように、ラットおよびヒトのTRPV2はHEK293で成功裏に発現された。
【0061】
TRPV2の相同体および断片も、上記の組換え法を使用して容易に発現させることができる。例えばタンパク質断片を発現するためには、発現ベクターに取り込まれたDNA断片は、それがタンパク質断片のみをコードするように選択することができる。同様に特異的なハイブリッドタンパク質は、ハイブリッドタンパク質をコードする組換えDNAを使用して発現させることができる。同様に、相同的タンパク質は相同的タンパク質をコードするDNA配列から発現させてもよい。相同体をコードするDNA配列は、組換えDNA技法を使用して天然のタンパク質をコードする配列を操作することにより得ることができる。このために、ランダムまたは位置指定突然変異誘発法を当該技術分野で一般的に知られている技法を使用して行うことができる。タンパク質誘導体を作成するためには、コンセンサス配列を作成または除去するために、例えば天然の相互作用するタンパク質メンバーのアミノ酸配列を、位置指定DNA突然変異誘発法により予め定めた様式で変えることができる。
【0062】
他の態様では、TRPV2は細胞膜中に提供される。膜の調製物は、天然の宿主細胞、例えば細胞の表面上にTRPV2を発現する例えばDRGもしくはTG細胞から単離することができる。また膜調製物は、組換え宿主細胞、例えば細胞表面上にTRPV2を組換え的に発現するCHO、HEK293もしくはCOS細胞から単離することができる。膜調製物はさらに、TRPV2チャンネルを発現する組織膜、原形質膜、細胞膜または細胞内小器官膜のような生物学的膜から調製することができる。生物学的膜調製物の単離および調製に関する方法は、当業者に知られている。例えばそのような方法には組織もしくは細胞を機械的もしくは酵素的に破壊し、他の成分から膜を分離するために遠心し、そして適切なバッファー溶液中に膜断片もしくは小胞を再懸濁する工程を含むことができる。あるいは膜を含有する調製物は人工膜から誘導することもできる。精製されたTRPV2タンパク質は脂質二重層に再構成されて、人工膜小胞を形成することができる(Chen et al.,1996,J.Gen.Physiol.108:237−250を参照にされたい)。そのような種類の膜小胞は、目的のチャンネルに対してて大変特異的であり、他のチャンネルからの混入の問題を回避することができる。例えばそのような人工膜はイオンチャンネルを含有し、そしてイオンリザーバーを形成する脂質膜につながれる電極を含むことができる。人工膜小胞を調製するための方法は、当業者に知られている。
【0063】
幾つかの好適な態様では、膜は制御された条件下で破壊されることができ、細胞膜の部分および/または膜小胞を生じる。細胞膜の部分および/または小胞は幾つかの態様において、細胞の分解および/または剪断がアッセイ中にそれほど考慮されないので、本アッセイおよび方法に、より容易な形式を提供することができる。細胞膜は組織および/または培養細胞に由来することができる。そのような細胞膜を破壊し、そしてそれらを安定化する方法は、当該技術分野では知られている。組織を処理して細胞膜を得る方法は当該技術分野では知られている。
【0064】
好ましくはヒトTRPV2が本発明のアッセイで使用される。任意に、ラットまたはマウス、好ましくは哺乳動物種のような他の種に由来するTRPV2オルソログが本発明のアッセイに使用される。
【0065】
化合物の同定法は、通例の研究室の様式または高処理に適合したアッセイを使用して行うことができる。用語「高処理」とは、多数のサンプルの容易なスクリーニングを同時に、かつ/または迅速に連続して可能にするアッセイデザインを指し、そしてロボット操作の能力を含むことができる。別の望ましい高処理アッセイの特徴は、所望する分析を達成するために、試薬の使用を減らし、または操作数を最少とするように至適化されたアッセイデザインである。アッセイ形式の例には、96−ウェルまたは384−ウェルプレート、浮揚液滴(levitating droplet)、および液体を扱う実験に使用する「ラボチップ(lab on a chip)」型のマイクロチャンネルチップを含む。当業者には、プラスチックモールドおよび液体を取り扱うデバイスが進歩し、または改善されたアッセイデバイスが設計されているので、より多数のサンプルを本発明の設計を使用して処理できることが周知である。
【0066】
任意の試験化合物を本発明のスクリーニングアッセイでスクリーニングして、本発明のタンパク質複合体のモジュレーターを選択することができる。化合物を「選択すること」または「選択する」という用語は、(a)タンパク質複合体またはその相互作用するタンパク質メンバーのモジュレーターとなることがこれまでに知られていなかった群から化合物を選択し;そして(b)タンパク質複合体またはその相互作用するタンパク質メンバーに結合し、または機能および活性を調節することができると知られている化合物を試験する両方を包含することを意図している。両タイプの化合物は一般に本明細書では「試験化合物」または「候補化合物」と呼ぶ。候補化合物は多くの化学的クラスを包含し、それらには限定するわけではないが低分子有機もしくは無機化合物、抗体、タンパク質もしくはその断片、アンチセンスヌクレオチド、干渉RNA(iRNA)およびリボザイムのような天然もしくは合成分子、ならびにそれらの誘導体、ミメティックスおよび類似体を含む。好ましくはそれらは低分子有機化合物、すなわち10,000ダルトン以下、より好ましくは5,000ダルトン以下の分子量を有するものである。好ましくは試験化合物は当該技術分野で知られているライブラリー形式、例えば化学的に合成されたライブラリー(一般にGordan et al.J.Med.Chem.,37:1385−1401(1994)を参照にされたい)、組換え的に発現したライブラリー(例えばファージディスプレイライブラリー)およびインビトロ翻訳に基づくライブラリー(例えばリボゾームディスプレイライブラリー)で提供される。
【0067】
候補化合物は、ポリペプチドとの構造的相互作用に必要な官能性化学基を含んでなり、そして典型的には少なくとも1つのアミン、カルボニル、ヒドロキシルまたはカルボキシル基、好ましくは少なくとも2つの官能性化学基、そしてより好ましくは少なくとも3つの官能性化学基を含む。候補化合物は、上で確認した1もしくは複数の官能基で置換された環式炭素または複素環式構造および/または芳香族もしくは多芳香族構造を含んでなることができる。また候補化合物は、ペプチド、サッカライド、脂肪酸、ステロール、イソプレノイド、プリン、ピリミジン、上の誘導体または構造的類似体、またはその組み合わせ等のような生体分子であることができる。化合物が核酸である場合、化合物は典型的にはDNAまたはRNA分子であるが、非天然の結合またはサブユニットを有する修飾核酸も意図している。
【0068】
候補化合物は合成または天然の化合物のライブラリーを含む広い様々な起源から得られる。例えば多くの手段が広範な有機化合物および生体分子のランダムな、および定方向(directed)合成に利用でき、それらには無作為化オリゴヌクレオチドの発現、合成有機コンビナトリアルライブラリー、ランダムペプチドのファージディスプレイライブラリー等を含む。また候補化合物は、当該技術分野で知られているコンビナトリアルライブラリー法の多くの取り組みを使用しても得ることができ、それらには:空間的にアクセス可能な平行固相(spatially addressable parallel
solid phase)または溶液相ライブラリー:デコンヴォルーションを要する合成ライブラリー法:「1−ビーズ1−化合物」ライブラリー法:およびアフィニティクロマトグラフィー選択を使用する合成ライブラリー法がある(Lam(1997)Anticancer Drug Des.12:145)。あるいは細菌、真菌、植物および動物の抽出物の状態の天然化合物のライブラリーを利用することができ、または直ちに生成することができる。さらに天然および合成で生成されたライブラリーおよび化合物は、従来の化学的、物理的および生化学的手段を介して容易に修飾することができる。
【0069】
さらに既知の薬理学的作用物質は、その作用物質の構造的類似体を製造するために、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化等のような定方向または無作為の化学的修飾に供することができる。候補化合物は無作為に選択することができ、またはTRPV2活性に結合し、かつ/またはその機能を調節する既存の化合物に基づくことができる。したがって候補剤の供給源は、TRPV2チャンネルの伝導性を上げるかまたは下げる1以上の既知の化合物に基づく分子の1以上のライブラリーであり、ここで化合物の構造は、より多いか、または少ない化学的部分または異なる化学的部分を含むように、分子の1もしくは複数の位置でが変更されている。類似体のアクチベーター/インヒビターのライブラリーの作成で、分子に作られた構造的変化は指示的、無作為または定方向および無作為の置換および/または付加の組み合わせであることができる。コンビナトリアルライブラリーの調製における当業者は、既存の化合物に基づきそのようなライブラリーを容易に調製することができる。
【0070】
様々な他の試薬もこの混合物に含むことができる。これらには最適なタンパク質−タンパク質および/またはタンパク質−核酸結合を促進するため使用することができる塩、バッファー、中性タンパク質(例えばアルブミン)、界面活性剤等のような試薬を含む。またそのような試薬は、反応成分の非特異的な、またはバックグラウンドの相互作用も下げることができる。ヌクレアーゼインヒビター、抗微生物剤等のようなアッセイの効率を向上させる他の試薬も使用することができる。
【0071】
分子ライブラリーの合成のための方法の例は当該技術分野で例えば:Zuckermann et al.(1994).J Med.Chem.37:2678に見いだすことができる。化合物のライブラリーは溶液中(例えば.,Houghten(1992)Biotechniques 13:412−421)、またはビーズ上(Lam(1991)Nature 354:82−84)、チップ(Fodor(1993)Nature 364:555−556)、細菌(米国特許第5,223,409号明細書)、スポラ(spore)(特許番号5,571,698号明細書)、プラスミド(Cull et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:1865−1869)またはファージ(例えばScott and Smith(1990)Science 249:3 86−390)に提示され得る。
【0072】
選択した化合物は、TRPV2のチャンネル伝導性を下げるそれらの能力、またはTRPV2を活性化することができるカンナビノイドへのTRPV2の結合活性を下げるそれらの能力について試験することができる。試験中、試験化合物はTRPV2を活性化することができるカンナビノイドの前、後またはそれと同時にTRPV2に加えることができる。さらに化合物は疼痛または炎症等の動物モデルで試験することができる。
【0073】
一般に上記スクリーニングアッセイが試験化合物の不存在下で行われる対照アッセイを
行う。次いでこのアッセイの結果を、試験化合物の存在下で得られた結果と比較する。
【0074】
試験化合物は、TRPV2に結合することができる化合物を同定するためのインビトロアッセイでスクリーニングすることができる。このために、試験化合物とTRPV2との間の特異的相互作用が起こることを可能にする条件下、そしてそれに十分な時間、試験化合物をTRPV2と接触させ、これにより化合物のTRPV2への結合および複合体の形成を生じる。引き続き、結合の発生(event)を検出する。
【0075】
1つの特定の態様では、TRPV2は固体支持体(タンパク質マイクロチップのような)または細胞表面もしくは膜に固定化される。例えばタンパク質複合体は、非中和化抗体(すなわち複合体に結合することができるが、その生物活性に実質的な影響を及ぼさない)を使用してガラススライドのようなマイクロチップ支持体上またはマルチ−ウェルプレート上に直接固定化されることができる。検出可能なマーカーで標識されたカンナビノイドが、固定化されたTRPV2と接触する。試験化合物は固定化TRPV2タンパク質と接触して、標準的な結合アッセイ条件下での結合が生じることを可能とする。TRPV2に結合する化合物を同定するために、TRPV2に会合するか、またはTRPV2から解離する検出可能マーカーを測定することができる。標識されたカンナビノイドと競合的してTRPV2へ結合する試験化合物は、TRPV2のカンナビノイドへの少ない結合を生じ、この少ない標識がTRPV2に関連する。
【0076】
1つの態様では、試験化合物はさらにTRPV2チャンネルのイオン伝導性を上げるか、または下げるその能力について評価され得る。当業者に知られているのは、例えば細胞の脱分極/過分極、または細胞内カルシウムイオンレベルの上昇を介するTRPV2チャンネルの伝導性を測定する方法である。この細胞内カルシウムレベルは、カルシウム−イオン感受性蛍光色素のようなカルシウムイオン−感受性蛍光指示体を使用して評価することができる。適切なカルシウムイオン−感受性蛍光色素には、例えばキン(quin)−2(例えばTsien et al.,J Cell BioL,94:325,1982を参照にされたい)、フラ(fura)−2(例えばGrynkiewicz et al.,J BioL Chem.,260:3440,1985を参照にされたい)、フロ(fluo)−3(例えばKao et al.,J BioL−43 Chem.,264:8179,1989を参照にされたい)およびロド(rhod)−2(例えばTsien et al.,J Biol.Chem.,Abstract 89a,1987を参照にされたい)がある。適切なカルシウムイオン−感受性蛍光色素は、例えばインビトロジェン(Invitrogen)(モレキュラー プローブス プロダクツ:Molecular Probes Products、ユージーン、オレゴン州)から販売されている。細胞の蛍光は、蛍光計または蛍光ランプおよび検出器を備えたフローサイトメーターを使用して監視することができる。FLIPRアッセイはイオン伝導性の測定に日常的に使用されてきた。
【0077】
TRPV2カチオンチャンネルは、二価のカチオン、例えばCa2+だけでなく一価のカチオン、たとえはNaまたはKも輸送するように機能する。したがってTRPV2チャンネルの伝導性を測定するために、一価のカチオンの輸送における変化を測定するためのアッセイも行うことができる。Na−およびK−感受性色素が当該技術分野では知られ、そして例えばインビトロジェン(モレキュラー プローブス プロダクツ、ユージーン、オレゴン州)から販売されている。
【0078】
TRPV2チャンネルの伝導性は、パッチクランプのような電気生理学的技術によっても測定することができる。パッチクランプ技法は、細胞、細胞膜および単離された組織中の電気的活性を研究するために日常的に使用される。これにはマイクロピペットと形質膜との間に電気的に強固な高い抵抗性のシールの形成が関与する。次いで形質膜内の個々の
イオンチャンネルを通って流れる電流を測定することができる。この技法に関する種々の変法(variant)により、形質膜の異なる表面を浸漬(bathing)媒質に暴露できるようになる。4種の最も普通の変法には、細胞に付けた(cell−attached)、裏返し(inside−out)、外側が外向き(outside−out)および全細胞(whole cell)パッチクランプがある。
【0079】
パッチクランプ法は通常、膜をわたる電位を制御し、そして電流を測定する電位クランプを用いて使用される。例えば全細胞パッチクランプの場合では、電位クランププロセス中、微小電極が細胞に挿入され、そして細胞膜の電位を予め定めたレベルで維持するように電流が電極を介して流される。またパッチクランプ法は電流クランプの構成でも使用することができ、ここで電流が制御され、そして膜電位が測定される。
【0080】
別の態様では、試験化合物を生きている動物に投与することによりさらに評価することができる。これは投薬計画を確立するために重要な効力、毒性および他の薬理学的パラメーターを確立するために有用となり得る。例えば化合物はイヌに投与されて、イヌにおける化合物の様々な薬理学的観点を調査することができる。イヌの試験は、イヌそして特に大型犬はラットまたはマウスに比べてヒトに体重が近く、したがってヒトへの投薬を予想するためにより適切な動物モデルを提供するので、ヒトにおける投薬計画を確認し、そして確立するために特に有利である。
【0081】
また化合物は、化合物が侵害受容プロセスを改変する能力を評価するために動物に投与されることができる。疼痛に関する種々の動物モデルが存在する。例えば神経損傷のラット脊髄神経結紮(SNL)モデルは、神経障害性疼痛のモデルである(Kim and Chung,Pain,50:355−363,1992)。
【0082】
疼痛の他の適切な動物モデルを、本明細書の教示と関連して使用することができる。神経障害疼痛の実験されている多くの齧歯類モデルには、絞扼性神経損傷(CCI)またはベネットモデル;神経腫または軸索切断モデル;および部分的座骨切断またはセルツァモデル(Shir et al.,Neurosci.Lett.,115:62−67,1990)がある。例示的な神経障害疼痛モデルには、数種の外傷性神経損傷調製物(Bennett et al.,Pain 33:87−107,1988;Decosterd et al.,Pain 87:149−58,2000;Kim et al.,Pain 50:355−363,1992;Shir et al.,Neurosci Lett 115:62−7,1990)、神経炎症モデル(Chacur et al.,Pain 94:231−44,2001;Milligan et al.,Brain Res 861:105−16,2000)、糖尿病神経障害(Calcutt et al.,Br J Pharmacol 122:1478−82,1997)、ウイルス誘導型神経障害(Fleetwood−Walker et al.,J Gen Virol 80:2433−6,1999)、ビンクリスチン神経障害(Aley et al.,Neuroscience 73:259−65,1996;Nozaki−Taguchi et al.,Pain 93:69−76,2001)、およびパクリタキセル神経障害(Cavaletti et al.,Exp Neurol 133:64−72,1995)、ならびに急性侵害受容モデルおよび炎症モデル(Brennan,T.J.et al.Pain 64:493,1996;D’Amour,F.E.and Smith,D.L.J Pharmacol 72:74−79,1941;Eddy,N.B.et al.J Pharmacol Exp Ther 98:121,1950;Haffner,F.Dtsch Med Wochenschr 55:731,1929;Hargreaves,K.et al.Pain 32:77−88,1988;Hunskaar,S.et al.J Neurosci Meth 14:69,1985;Randall,L.O.and
Selitto,J.J.Arch.Int.Pharmacodyn 111:409−419,1957;Siegmund,E.et al.Proc Soc Exp Bio Med 95:729,1957)がある。
【0083】
特定のカンナビノイドがTRPV2を活性化するという知見は、TRPV2の生物活性を上げるさらなる化合物を同定するための新規方法も提供する。そのような方法は合理的なドラッグデザインに基づくことができる。カンナビノイドの構造的類似体またはミメティクスは、薬剤の効能、効力および安定性を改善し、そして副作用を減少する目的で合理的なドラッグデザインに基づき製造され得る。合理的なドラッグデザインに関して当該技術分野で知られている方法を、本発明に使用することができる。例えばHodgson et al.,Bio/Technology,9:19−21(1991);米国特許第5,800,998号および第5,891,628号明細書を参照にされたい(これらすべては引用により本明細書に編入する)。
【0084】
分子モデリングプログラムを使用して、低分子がTRPV2ポリペプチドの機能的に関連する部分、例えば活性部位に合うことができるかどうかを決定することができる。分子モデリングに関する基本的情報は、例えばM.Schlecht,PCでの分子モデリング(Molecular Modeling on the PC),1998,ジョン
ウィリー&サンズ(John Wiley & Sons);Gans et al.,分子モデリングの基本原理(Fundamental Principals of Molecular Modeling),1996,プレナム出版社(Plenum Pub.Corp.);N.C.Cohen(編集者),ドラッグデザインにおける分子モデリングのガイドブック(Guidebook on Molecular Modeling in Drug Design),1996,アカデミックプレス(Academic Press);およびW.B.Smith,理論有機化学および分子モデリング入門(Introduction to Theoretical Organic Chemistry and Molecular Modeling),1996に提供されている。分子モデリングに関する詳細な情報を提供する特許には、米国特許第6,093,573号;同第6,080,576号;同第5,612,894号;および同第5,583,973号明細書がある。
【0085】
分子モデリング実験に有用となり得るプログラムには、例えば英国、オックスフォードのオックスフォード大学から入手可能なGRID(Goodford,P.J.,“生物学的に重要な巨大分子の力学的に好ましい結合部位を決定するためのコンピューターによる手法(A Computational Procedure for Determining Energetically Favorable Binding Sites on Biologically Important Macromolecules)” J.Med.Chem.,28,pp.849−857,1985);モレキュラーシュミレーション(Molecular Simulations)、マサチューセッツ州のバーリントンから入手可能のMCSS(Miranker,A.and M.Karplus,”結合部位の官能性マップ:多コピー同時調査法(Functionality Maps of Binding Sites:A Multiple Copy Simultaneous Search Method).“タンパク質:構造、機能および遺伝子(Proteins:Structure,Function and Genetics),11,pp.29−34,1991)、;スクリップリサーチインスチュチート(Scripps Research Institute)、カリフォルニア州のラジョラから入手可能なAUTODOCK(Goodsell,D.S.and A.J.Olsen,“模擬アニーリングによる物質のタンパク質への自動化ドッキング(Automated Docking of Substrates to
Proteins by Simulated Annealing)”タンパク質:
構造、機能および遺伝子(Proteins:Structure.Function,and Genetics),8,pp.195−202,1990);およびカリフォルニア州、サンフランシスコのカリフォルニア大学から入手可能なDOCK(Kuntz,I.D.et al.,”巨大分子−リガンド相互作用への遺伝的取り組み(A Geometric Approach to Macromolecule−Ligand
Interactions)”J.Mol.Biol.,161,pp.269−288,1982)がある。
【0086】
これに関して、TRPV2−カンナビノイド複合体に関する構造的情報が得られる。好ましくは、複合体の3次元的構造を定める原子座標を取得することができる。例えば相互作用するTRPV2−カンナビノイド複合体は、例えばX−線結晶学、NMR、コンピューターモデリング、質量分析等を含む様々な生物物理学的技術を使用して実験することができる。同様に構造的情報も、タンパク質の相互作用を開始または安定化する相互作用するタンパク質および化合物により形成されるタンパク質複合体から得ることができる。X−線結晶学、NMR等によりそのような原子座標を取得する方法は当該技術分野では知られており、そしてそれの本発明の標的タンパク質またはタンパク質複合体への応用は、構造生物学における当業者には明白なはずである。Smyth and Martin,Mol.Pathol.,53:8−14(2000);Oakley and Wilce,Clin.Exp.Pharmacol.Physiol.,27(3):145−151(2000);Ferentz and Wagner,Q.Rev.Biophys.,33:29−65(2000);Hicks,Curr.Med.Chem.,8(6):627−650(2001);and Roberts,Curr.Opin.Biotechnol.,10:42−47(1999)を参照にされたい。
【0087】
TRPV2−カンナビノイドの相互作用に重要なカンナビノイドのドメイン、残基または部分は、「ファーマコフォア」として知られているカンナビノイドの活性領域を構成する。いったんファーマコフォアが解明されれば、構造的モデルはNMR分析、X−線回折データ、アラニンスキャンニング、分光技術等からのデータを包含することができるモデリングプロセスにより確立することができる。コンピューターによる分析(例えば分子モデリングおよび模擬アニーリング)、類似性マッピング等を含む様々な技術をすべてこのモデリングプロセスに使用することができる。例えばPerry et al.,in OSAR:ドラッグデザインにおける定量的な構造−活性関係(Quantitative Structure−Activity Relationships in Drug Design),pp.189−193,Alan R.Liss,Inc.,1989;Rotivinen et al.,Acta Pharmaceutical
Fennica,97:159−166(1988);Lewis et al.,Proc.R.Soc.Lond.,236:125−140(1989);McKinaly et al.,Annu.Rev.Pharmacol.Toxiciol.,29:111−122(1989)を参照にされたい。マサチューセッツ州、ウォールサムのポリジェンコーポレーション(Polygen Corporation)から市販されている分子モデリングシステムは、エネルギーの最少化および分子力学相関を行うCHARMmプログラム、および構造、グラフィックモデリングおよび分子構造の分析を行うQUANTAプログラムを含む。そのようなプログラムは対話式の分子の構造、修飾および視覚化を可能にする。他のコンピューターモデリングプログラムも、バイオデザイン社(BioDesign,Inc.)(パサダナ、カリフォルニア州)、ハイパーキューブ社(Hypercube,Inc.)(ケンブリッジ、オンタリオ州)、およびアレリックス社(Allelix,Inc.)(ミシソーガ、オンタリオ州、カナダ)から入手可能である。
【0088】
鋳型は確立されたモデルに基づき形成され得る。次に様々な化合物が、鋳型に種々の化
学基または部分を連結することにより設計され得る。鋳型の様々な部分は、置き換えることもできる。さらにペプチドリード化合物の場合、ペプチドまたはそのミメティックスを例えばN−末端およびC−末端を一緒に連結することにより環化し、その安定性を上げることが可能である。これら合理的に設計された化合物は、さらに試験される。このように、薬理学的に許容され得、しかも改善された効能/効力、および低減した副作用を持つ安定な化合物を開発することができる。本発明の方法に従い同定される化合物は、個体に投与するために適する製剤に包含することができる。
【0089】
加えて、TRPV2を活性化することができる化合物を選択するために、標的タンパク質またはタンパク質複合体の三次元構造を定める構造モデルまたは原子座標は、仮想スクリーニングにも使用することができる。原子座標を使用したコンピューターに基づく仮想スクリーニングの様々な方法が、一般に当該技術分野で知られている。例えば米国特許第5,798,247号明細書(これは引用により本明細書に編入する)は、有機化合物と標的タンパク質内の結合空隙の結合部位との間の結合の相互作用を定めることにより、化合物(具体的にはインターロイキン転換酵素インヒビター)を同定する方法を開示する。結合部位は原子座標により定められる。
【0090】
合理的なドラッグデザインまたは仮想スクリーニングに基づき設計または選択された化合物は、本発明のタンパク質複合体中で相互作用するパートナー間の相互作用を調節する(妨害するか、または強化する)それらの能力について試験することができる。さらに化合物は上記のTRPV2チャンネル伝導性アッセイまたは動物モデルで試験することができる。
【0091】
上に開示した方法に従い、所望した化合物を選択した後、本発明の方法はさらに選択した化合物の製造を提供する。化合物はさらに実験的研究のために、または治療的用途に製造することができる。本発明のスクリーニング法により同定された化合物は、疼痛、炎症等のようなTRPV2に引き起こされる、またはそれに関連する疾患、障害または症状を防止または改善するための治療的または予防的に効果がある薬剤とすることができる。
【実施例】
【0092】
実施例1
HEK293細胞中でのラットおよびヒトTRPV2の発現
完全長のラットTRPV2をコードするcDNA断片を、pCI−neo(プロメガ:Promega、マジソン、ウィスコンシン州)哺乳動物発現ベクターにサブクローン化した。次いで発現構築物は、HEK293細胞に、FuGen6トランスフェクション試薬(ロッシュ:Roche、インディアナポリス、インディアナ州)を用いて、製造元のプロトコールに従いトランスフェクトした。安定な細胞株を400μg/mlのG418の存在下で選択した。1つのG418耐性クローンを単離し、そして精製した。これらの細胞中でラットTRPV2の安定した発現が、抗−ラットTRPV2特異的抗体(ケミコン:Chemicon、テメキュラ、カリフォルニア州)を用いたウエスタンブロット分析、Ca2+画像アッセイ(FLIPR)および全細胞パッチクランプ分析により確認された。
【0093】
完全長のヒトTRPV2をコードするcDNA断片を、pCI−neoまたはpcDNA哺乳動物発現ベクターにサブクローン化した。次いで発現構築物は、HEK293細胞に、FuGen6トランスフェクション試薬(ロッシュ、インディアナポリス、インディアナ州)を用いて、製造元のプロトコールに従いトランスフェクトした。TRPV2を発現するHEK293細胞は、10%のウシ胎児血清、100単位/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシンを補充したSMEM中で、48〜72時間培養し、そして一過性の発現および/または活性について評価するか、あるいは400μg/
mlのG418を投与して、安定にトランスフェクトされたTRPV2発現細胞クローンを選択した。細胞は37℃および5%CO中で維持した。
【0094】
実施例2
TRPV2はΔ−テトラヒドロカンナビノール(Δ−THC)により活性化される
TRPV2の薬理学的アクチベーターを調査するために、Δ−THC(大麻から誘導されたマリファナの主要な精神活性成分である)を試験した。ラットのTRPV2を発現するHEK293細胞を5×10細胞/ウェルの濃度で384ウェルに播き、そして37℃で一晩インキュベーションした。翌日、細胞にバッファーおよびカルシウム色素3(モレキュラークデバイス:Molecular Devices、サニーヴァレ、カリフォルニア州)を50μlの最終容量で加え、そして37℃/5%COで30分間、続いて室温でさらに30分間インキュベーションした。蛍光強度は蛍光プレートリーダー(FLIPR)で、試験化合物の添加前、最中および後に測定した。
【0095】
図4Aに示すように、バッファーではなく(点線)100μMのΔ−THC添加の実線が、ラットのTRPV2を発現しているHEK293細胞中に細胞内Ca2+の強固な上昇を引き起こした。対照的に、同じ濃度のΔ−THC(破線)では非トランスフェクトHEK293細胞中に有意な細胞内Ca2+の上昇は観察されず、細胞内Ca2+の上昇は、ラットTRPV2により媒介されることが示唆された。Δ−THCによるラットTRPV2の活性化は用量依存的であり、15.7uMのEC50値および1.04のHill傾斜であった(図4B)。
【0096】
TRPV2に及ぼすΔ−THCの効果をさらに確認するために、全細胞パッチクランプ実験を行った。細胞外溶液は以下を含んだ(mMで):NaCl、132;CaCl、1.8;KCl、5.4;MgCl、0.8;HEPES、10;グルコース、10;pH=7.4。記録ピペットを満たすために使用した細胞内溶液は以下を含んだ(mMで):CsCl、145;EGTA、5;HEPES、10;グルコース、5;pH=7.4。記録は通例の全細胞パッチクランプ法を使用して、ヒトTRPV2のHEK293細胞への一過性のトランスフェクションから2−3日後、またはラットTRPV2を安定に発現しているHEK293細胞をガラスのカバースリップに播いてから1−2日後に行った。電流はパッチクランプ増幅器により増幅し、そして2kHz(Axopatch 200B)でフィルターをかけ、Digidata 1322Aを使用して10kHzでサンプリングし、そして獲得し、そしてpClamp9.0で分析した(すべての装置はカリフォルニア州のモレキュラーデバイスからであった)。600msの電圧上昇を、−100mVから+60mVにわたり5秒毎に与えた。電圧上昇間の維持電位は−100mVであった。細胞外溶液は、重力−供給潅流システムを介して0.5ml/分で細胞に適用した。すべての実験は22℃で行った。
【0097】
図5Bに示すように、100μMのΔ−THCの適用で、対照(黒い点線)に比べてrTRPV2を発現しているHEK293細胞に、過分極および脱分極した膜電位の両方で有意な全細胞電流の振幅の上昇があった(灰色の実線)。しかしこの効果は脱分極電位でより顕著であった。同じ濃度のΔ−THCは、非トランスフェクトHEK293細胞に対照レベルより上の電流を誘導しなかった(データは示さず)。Δ−THC活性化電流は、0mVに近い逆電位を有し、チャンネルの比較的非選択的な性質(少なくともこれらの実験でカチオンを使用して)を示した。Δ−THCにより誘導された同様な効果は、ヒトTRPV2でも観察された(図5A)。さらにΔ−THC活性化電流は、10μMルテニウムレッド(RR)(非選択的TRPチャンネルインヒビター)(黒線)によりラットおよびヒトTRPV2の両方で有意に阻害された。合わせて考えると、これらの結果はΔ−THCがこれらの細胞でTRPV2により媒介される電流を活性化することを示す。
【0098】
実施例3
TRPV2は他のカンナビノイドにより活性化される
カンナビノイドによるTRPV2の活性化をさらに調査するために、幾つかの異なるクラスのカンナビノイドをFLIPRカルシウム動員アッセイで100μMの化合物濃度を使用し(120μMであったアナンダミドを除く)、ラットTRPV2を発現しているHEK293細胞を使用して評価したように試験した。すべてのデータを100μMのΔ−THCで観察されたものに対して標準化した。試験した化合物には以下を含んだ:マリファナの非精神活性成分(カンナビジオールおよびカンナビノール);THCの合成類似体(ナビロン、CP55,940、HU210、HU211、HU−308、HU331、11−ヒドロキシ−Δ9−THCおよびO−1821);数種のエンドカンナビノイド(アナンダミド、2−アラキドニル−グリセロール(2−AG)および他のそれらの類似体パルミトイルエタノーアミド(PEA));カンナビノイド輸送遮断剤(AM404);他の合成カンナビノイド受容体アゴニスト(WIN55、212−2、WIN55、212−3、JWH015、JWH133、O−1918およびCAY10429);および非選択的アゴニスト2−APB。これらの化合物がラットTRPV2を活性化する能力は、図1に示される。このデータは、TRPV2が1クラスより多くのカンナビノイドにより活性化され得ることを示唆している。
【0099】
【表1】

【0100】
【表2】

【0101】
【表3】

【0102】
【表4】

【0103】
実施例4
Δ−THCは選択的にTRPV2を活性化する
選択した数のカンナビノイドは、ヒトTRPV1およびイヌTRPM8を発現しているHEK293細胞に対してもFLIRPアッセイで試験した。表2にまとめるように、Δ−THC(240μM)およびカンナビノール(600μM)は、TRPV1の有意な活性化を示さなかったが、一方、アナンダミド、2−AGおよびAM404はTRPV1を活性化し、以前の報告と一致する。これらのカンナビノイドのいずれもTRPM8に対してアゴニスト効果を示さなかった。
【0104】
【表5】

【0105】
実施例5
TRPV2の欠失変異体はカンナビノイドにより活性化された
TRPV2欠失変異体を構築し、そしてΔ−THC、2−APBおよび高温刺激による活性化について試験した。この実施例の方法を使用して、限定するわけではないがTRPV2のN−末端、TRPV2のC−末端および/またはTRPV2の他の位置に1もしくは複数のアミノ酸残基の欠失を有する変異体を含め、任意の型のTRPV2欠失変異体を構築し、そして試験することができる。
【0106】
欠失変異体をコードするDNA分子は、PCRによりラットTRPV2 cDNAを鋳型として使用して増幅させた。アミノ末端欠失には、C−末端リバースプライマーと対合する残基G21(変異体N20、配列番号11)、P33(N32、配列番号12)、A
66(N65、配列番号13)およびV84(N83、配列番号14)に望ましい開始の隣接領域が合った配列を用いて、開始メチオニンをフレイム内にコードする一連のN−末端フォワードプライマー酸残基を、PCR増幅に使用した。一方カルボキシル末端の欠失については、オープンリーディングフレームの末端に終止コドンをフレイム内に有する残基R706(C51、配列番号7)、P729(C32、配列番号8)、P738(C23、配列番号9)およびE750(C11、配列番号10)で終わる一連のC末端リバースプライマーと対合するフォワードN−末端プライマーを、増幅に使用した。PCR増幅および精製後、欠失変異体をコードするDNA分子をpCI−neo哺乳動物発現ベクターにサブクローン化し、そして構築物をDNAシークエンシングにより確認した。種々のTRPV2欠失変異体をコードするDNA分子は、配列番号18(N20)、配列番号19(N32)、配列番号20(N65)、配列番号21(N83)、配列番号22(C51)、配列番号23(C32)、配列番号24(C23)および配列番号25(C11)を含んでなった。
【0107】
次いで欠失変異体構築物は、製造元の使用説明によりFugene6試薬(ロッシュ)を使用してHEK293細胞にトランスフェクトされた。トランスフェクト後24時間で、細胞を回収し、そして10%ウシ胎児血清、100単位/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンを補充した新しいDMEM培地に再度播いた。細胞をポリ−D−リシンを被覆した96−または384−ウェルプレートにそれぞれウェルあたり約40,000および10,000個の細胞密度で分配した。トランスフェクション後48時間で、培地をアッセイプレートから除去し、そしてカルシウム3色素(Calcium 3
Dye)バッファー(モレキュラーデバイス)に、製造元からの入手できるプロトコールを使用して置き換えた。カルシウム動員はΔ−THCまたは2−APBまたは高温バッファーを使用して誘起し、そしてFLIRPまたはFLEX STATION装置のいずれかを使用して測定した。
【0108】
N末端20、33、66を欠くか、またはC末端11、23または32のアミノ酸残基を欠くラットTRPV2の欠失変異体は、Δ−THC(図6)、2−APおよび約53℃の高温(データは示さず)に応答して活性なままであった。
【0109】
実施例6
TRPV2キメラの活性化
ラットとヒトTRPVの間のドメイン−スワッピングキメラも作成し、そしてΔ−THC、2−APBまたは高温刺激による活性化を試験した。この実施例の方法は、限定するわけではないが異なる動物に由来するTRPV間のドメイン−スワッピングキメラ、およびTRPV2とTRPV1およびTRPV3のような他のTRPVチャンネルとの間のキメラをを含む任意の型のTRPV2キメラを構築し、そして試験するために使用することができる。
【0110】
TRPV2の予想されるトポロジーおよび1次配列の特徴に基づき、TRPV2は3つの主要なドメインに分割される:1)アミノ末端細胞内ドメイン;2)膜貫通ドメイン;および3)カルボキシ−末端細胞内ドメイン。キメラに関しては、各ドメインはラット(R)またはヒト(H)起源であることができる。本明細書では3つのラットおよびヒトTRPV2キメラを構築し、そして試験した。RRH(配列番号15)は、ラット1−392aa、ラット393−646aa、およびヒト647−764aaを含んでなるキメラであった。RHR(配列番号16)はラット1−392、ヒト391−646およびラット647−761を含んでなるキメラであった。HRR(配列番号17)は、ヒト1−390、ラット393−646およびラット647−761を含んでなるキメラであった。
【0111】
3種のラットおよびヒトTRPV2キメラをコードするDNA分子は、融合PCRによ
り得た。最初に所望のTRPV2ドメインをコードするDNA分子は、鋳型として連結するもう1種のドメインが重複している配列をフレイム内に含有する合成プライマーDNAを含むラットおよびヒトTRPV2cDNAを使用してPCRにより増幅した。PCR増幅および精製後、ヒトおよびラットに由来する所望のTRPV2ドメインをコードするDNA分子を合わせ、そして完全長TRPV2キメラをコードする配列の5’および3’末端配列が合うプライマーDNAを用いた融合PCRに鋳型として使用した。種々のTRPV2キメラをコードするDNA分子は:配列番号26(RRH)、配列番号27(RHR)および配列番号28(HRR)のヌクレオチド配列を含んでなった。
【0112】
次いでTRPV2キメラをコードするDNA分子は、哺乳動物発現ベクター,pCI−neoにサブクローン化され、そして生じた構築物をDNAシークエンシングにより確認した。このキメラは一時的にHEK293細胞で発現され、そしてそれら様々な刺激に対する応答を実施例5に記載のように試験した。
【0113】
キメラRHRはΔ−THCの添加に完全に応答した(図7A)。キメラRRHまたはHRRを別個に発現するHEK細胞は、それぞれそれほど、または全く活性ではなかったが、両キメラ(RRH+HHR)を同時発現している細胞は、Δ−THCに完全に応答性であった(図7B)。上に列挙したキメラによる類似の応答が、2−AB刺激に対して観察された(データは示さず)。2つの不活性変異体の同時発現による機能獲得実験は、機能的TRPV2チャンネルが多くのサブユニットと複合体となり、そして幾つかの重要な機能的ドメインがシスというよりむしろトランスに作用することを示唆している。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】大麻(Cannabis)に存在するカンナビノイドのサブクラスを示す(Thakur et al.,Life Sci.2005 Oct 17,Epub、印刷に先立ち公開)。
【図2】前駆体からΔ9−THCの非酵素的形成を表す(Thakur et al.,同上)。
【図3】2種の代表的エンドカンナビノイドの構造を表す(Thakur et al.,同上)。
【図4】FLIPRアッセイにおいて、Δ9−THCによるラットTRPV2の濃度依存的活性化を示す。
【図5】両ラットおよびヒトTRPV2のΔ9−THCによる活性化、引き続きいて全細胞パッチクランプ実験からのルテニウムレッドによるΔ9−THC活性化電流の遮断を具体的に説明する。
【図6】Δ−THCが活性化した、HEK293細胞から組換え的に発現したTRPV2の欠失う変異体を表す。
【図7】HEK293細胞から組換え的に発現したヒトおよびラットTRPV2キメラの活性化を具体的に説明する:(A)キメラは細胞から個別に発現された;および(B)RRHおよびHRRが細胞から同時発現された時のそれらの相補的効果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TRPV2の生物活性を下げる化合物の同定方法であって:
a.TRPV2がカンナビノイドにより活性化される条件下でTRPV2ポリペプチドを、TRPV2活性を活性化することができるカンナビノイドと接触させる工程;
b.TRPV2ポリペプチドを試験化合物と接触させる工程;
c.カンナビノイドおよび試験化合物の双方の存在下でTRPV2の生物活性を測定する工程;
d.工程a)を繰り返す工程;
e.試験化合物は存在しないがカンナビノイドの存在下でTRPV2の生物活性を測定する工程;および
f.工程c)で測定したTRPV2活性を、工程e)で測定した活性と比較し、
これにより工程c)で測定されたTRPV2活性が工程e)で測定された活性より低い場合にTRPV2の生物活性を下げる化合物を同定する工程を含んでなる、上記方法。
【請求項2】
工程a)が工程b)の前に行われる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程a)が工程b)の後に行われる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程a)および工程b)が同時に行われる請求項1に記載の方法。
【請求項5】
TRPV2が単離された膜に会合している請求項1に記載の方法。
【請求項6】
TRPV2が細胞中に存在する請求項1に記載の方法。
【請求項7】
細胞がニューロンである請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ニューロンが脊髄後根神経節ニューロンである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
TRPV2が配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14または配列番号16のアミノ酸配列を有する請求項1に記載の方法。
【請求項10】
TRPV2がTRPV2遺伝子の発現ベクターを含有する細胞から組換え的に発現される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
発現ベクターが、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14または配列番号16のアミノ酸配列を有するTRPV2をコードするヌクレオチド配列を含んでなる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
TRPV2の生物活性が、TRPV2を発現している細胞へのカルシウム流入として測定される請求項1に記載の方法。
【請求項13】
TRPV2の生物活性がパッチクランプ法により測定される請求項1に記載の方法。
【請求項14】
TRPV2の生物活性がCa動員アッセイにより測定される請求項1に記載の方法。
【請求項15】
TRPV2の生物活性が、TRPV2活性を活性化することができるカンナビノイドに対するその結合親和性として測定される請求項1に記載の方法。
【請求項16】
カンナビノイドがΔ−テトラヒドロカンナビノール、11−ヒドロキシ−Δ−テトラヒドロカンナビノール、カンナビノール、カンナビジオール、O−1821、ナビロン、CP55940、2−AGおよびHU210、HU211、HU308およびHU331からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
試験が、TRPV2の生物活性をTRPV2の活性化温度で改変する程度を決定する工程をさらに含んでなる請求項1に記載の方法。
【請求項18】
a.試験化合物を動物に投与する工程;および
b.試験化合物が動物の侵害受容応答を改変する程度を測定する工程、
をさらに含んでなる請求項1に記載の方法。
【請求項19】
TRPV2の生物活性を上げる化合物を同定する方法であって:
a.TRPV2を活性化することができるカンナビノイドと相互作用するTRPV2を含んでなる複合体の3次元構造を定める原子座標を取得する工程;
b.TRPV2と相互作用するカンナビノイドとの間の構造的関連を解明する工程;
c.構造的関連に基づきカンナビノイドの構造的類似体を設計する工程;
d.構造的類似体を合成する工程;
e.構造的類似体がTRPV2の生物活性を改変する程度を決定し、
これによりTRPV2の生物活性を上げる化合物を同定する工程を含んでなる、上記方法。
【請求項20】
TRPV2の生物活性が、TRPV2を発現している細胞へのカルシウム流入として測定される請求項19に記載の方法。
【請求項21】
TRPV2の生物活性がパッチクランプ法により測定される請求項19に記載の方法。
【請求項22】
TRPV2の生物活性がCa動員アッセイにより測定される請求項19に記載の方法。
【請求項23】
TRPV2の生物活性が、TRPV2活性を活性化することができるカンナビノイドに対するその結合親和性として測定される請求項19に記載の方法。
【請求項24】
TRPV2の生物活性を上げる方法であって、TRPV2を、TRPV2活性を活性化することができるカンナビノイドと接触させる工程を含んでなる上記方法。
【請求項25】
TRPV2が単離された膜に会合している請求項24に記載の方法。
【請求項26】
TRPV2が細胞中に存在する請求項24に記載の方法。
【請求項27】
細胞がニューロンである請求項26に記載の方法。
【請求項28】
カンナビノイドがΔ−テトラヒドロカンナビノール、11−ヒドロキシ−Δ−テトラヒドロカンナビノール、カンナビノール、カンナビジオール、O−1821、ナビロン、CP55940、2−AGおよびHU210、HU211、HU308およびHU331からなる群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
個体の有害な熱感覚を刺激する方法であって、個体にTRPV2活性を活性化することができる有効量のカンナビノイドを含んでなる製薬学的組成物を投与し、これにより個体の有害な熱感覚を刺激することを含んでなる、上記方法。
【請求項30】
個体がヒトである請求項29に記載の方法。
【請求項31】
カンナビノイドがΔ−テトラヒドロカンナビノール、11−ヒドロキシ−Δ−テトラヒドロカンナビノール、カンナビノール、カンナビジオール、O−1821、ナビロン、CP55940、2−AGおよびHU210、HU211、HU308およびHU331からなる群から選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16または配列番号17のアミノ酸配列から本質的になる単離されたポリペプチド。
【請求項33】
配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16または配列番号17のアミノ酸配列から本質的になるポリペプチドをコードする単離された核酸分子。
【請求項34】
配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26または配列番号27または配列番号28のヌクレオチド配列から本質的になる請求項33に記載の単離された核酸分子。
【請求項35】
配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16または配列番号17のアミノ酸配列から本質的になるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含んでなる発現ベクター。
【請求項36】
請求項35に記載の発現ベクターを含んでなる組換え細胞。
【請求項37】
配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16または配列番号17のアミノ酸配列から本質的になるポリペプチドを生産する方法であって、請求項36に記載の細胞をポリペプチドがその細胞により生産される条件下で成長させる工程を含んでなる上記方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2009−513159(P2009−513159A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−538944(P2008−538944)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【国際出願番号】PCT/US2006/042241
【国際公開番号】WO2007/053526
【国際公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(390033008)ジヤンセン・フアーマシユーチカ・ナームローゼ・フエンノートシヤツプ (616)
【氏名又は名称原語表記】JANSSEN PHARMACEUTICA NAAMLOZE VENNOOTSCHAP
【Fターム(参考)】