説明

Tg基体上の平滑層及びバリア層

【課題】ディスプレイデバイス用の支持体として使用できる非常に低い気体浸透性及び液体浸透性、傷つき難さ、及び化学薬品抵抗性を有する高温基体の提供。
【解決手段】120℃を超えるガラス転移点を有するポリマー基体105と、該ポリマー基体上の第1バリア層120と該第1バリア層上の第1ポリマー層125とを含む第1バリアスタック115と、第1バリアスタックの上に置かれた環境感応性ディスプレイデバイスと、該環境感応性ディスプレイデバイス上の第2バリア層と該第2バリア層上の第2ポリマー層とを含む第2のバリアスタックと、前記ポリマー基体と前記第1バリアスタックとの間にあるポリマー平滑層110と、第2のバリアスタックの上に置かれた蓋とを含み、該第1バリア層は蒸着され、該第1ポリマー層は真空蒸着されたアクリレート含有ポリマー層であり、該第1バリアスタックを通過する酸素透過速度が低いことを特徴とする高温基体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概してポリマー基体に関し、特に、改良された特性を有する高温ポリマー基体に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の異なるタイプの電気製品用の汎用視覚ディスプレイデバイスに対するニーズがある。多くの現存のディスプレイは、ガラス基体を用いているが、プラスチック基体を使用する傾向にある。プラスチック基体は軽量で、衝撃耐性があり、費用効果的であるので、次世代の電気製品及び関連する技術にとって重要である。しかしながら、プラスチックの温度制限並びに気体及び液体の浸透制限が、ほとんどのディスプレイにおけるプラスチックの使用を妨げている。
【0003】
フラットパネルディスプレイなどのディスプレイの製造における多くの工程は、ほとんどのポリマー基体が耐えることのできない比較的高温を必要とする。例えば、薄膜トランジスタでのアモルファスSiのポリ-Siへの再結晶化は、パルスエキシマレーザーアニールの場合であっても、少なくとも160〜250℃の基体温度を必要とする。典型的にはインジウムチンオキサイドからなる透明な電極の導電性は、220℃以上でデポジッションが生じる場合に、著しく改良される。ポリイミドのキュアリングは、通常、250℃の温度を必要とする。加えて、電極のパターンニングのための多くのフォトリソグラフィー工程は、120℃を越える温度で行われ、製作時の処理速度を高める。これらの工程は、ディスプレイデバイスの製造において広範囲に用いられており、ガラス基体及びシリコン基体に対して最適化されている。これらの工程に必要な高温は、プラスチック基体を変形させ損傷させ得るので、結果的にディスプレイを破壊してしまう。ディスプレイが可撓性プラスチック材料上に製造されるべき場合には、このプラスチックは、100℃を越える高温を含むプロセス条件、刺激の強い化学薬品及び機械的損傷に耐え得るものでなければならない。
【0004】
高いガラス転移点を有する可撓性プラスチック材料は、ディスプレイに用いるに非常に有望である。本明細書において、高いガラス転移点を有するポリマーとは、ガラス転移点が約120℃以上、好ましくは約150℃以上、最も好ましくは約200℃以上のものをいう。このようなポリマーの例としては、ポリノルボルネン(Tg:320℃)、ポリイミド(Tg:270〜388℃)、ポリエーテルスルホン(Tg:184〜230℃)、ポリエーテルイミド(Tg:204〜299℃)、ポリアリーレート(Tg:148〜245℃)、ポリカーボネート(Tg:150℃)、及び高いガラス転移点を有する環式オレフィンポリマー(Tg:171℃、Lofo High Tech Film, GMBH(Weil am Rhein, Germany)から商標Transphan(登録商標)で販売されている)を挙げることができるが、これに限定されるものではない。これらの材料の温度安定性及び高いガラス転移点ゆえに、これらの材料は、ポリエチレンテレフタレート(Tg:78℃)やポリエチレンナフタネート(Tg:120℃)などの現存する商品ポリマーの温度限界を解消するのに有望である。
【0005】
しかしながら、高いガラス転移点を有するポリマーは、本質的に機械的強度が弱く、傷つきやすく、化学薬品耐性が低く、酸素及び水の浸透性が高いことが多い。これらの特性が、加工を困難にしている。加えて、酸素透過度及び水浸透度が高いこと及び表面仕上げの質が悪いことが、傷つきやすいディスプレイデバイス用基体として用いることを妨げている。
【0006】
現在、液晶ディスプレイ(LCD)、発光ダイオード(LED)、発光ポリマー(LEP)、電気泳動性インクを含む電気サイン、エレクトロルミネッセンスデバイス(ED)、及び燐光デバイスを含む多種の異なるディスプレイデバイスが用いられている。これらのディスプレイデバイスの多くは、環境の影響を受けやすい環境感応性である。本明細書において、環境感応性ディスプレイデバイスとは、電気製品の加工において用いられる雰囲気又は化学薬品中の酸素及び水蒸気などの環境ガス又は液体の浸透により分解されるディスプレイデバイスをいう。
【0007】
プラスチックの気体浸透抵抗及び液体浸透抵抗は低く、デバイス性能を維持するために必要な程度よりも数桁低いことが多い。例えば、ポリノルボルネン及びTransphan(登録商標)の酸素透過度及び水蒸気浸透度は、1000cc/m2/day(23℃)を超える。有機発光デバイスにとって十分な寿命を提供するために必要な速度は、約10-6cc/m2/day(23℃)であると計算されている。ディスプレイデバイスの環境感応性は、プラスチック上に構築されたデバイスの寿命、信頼性及び性能を制限する。このことが、プラスチック基体で作られたディスプレイデバイスの開発を阻害している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ゆえに、ディスプレイデバイス用の支持体として使用できる非常に低い気体浸透性及び液体浸透性、傷つき難さ、及び化学薬品抵抗性に代表される改良された特性を有する高温基体、及びこのような基体を製造する方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、改良された特性を有する高温基体及びこのような基体を製造する方法を提供することによって、これらのニーズを満たす。基体は、約120℃よりも高いガラス転移点を有するポリマー基体と、ポリマー基体に隣接する少なくとも一つの第1バリアスタックと、を含む。バリアスタックは、少なくとも一つの第1バリア層と、少なくとも一つの第1ポリマー層と、を含む。高温基体は、場合によっては、第1バリアスタックに隣接する環境感応性ディスプレイデバイスと、環境感応性ディスプレイデバイスに隣接する少なくとも一つの第2バリアスタックと、を含む。隣接とは、隣り合うことを意味するが、直接的に隣り合うことは必要ではない。隣接する層の間に介在する追加の層があってもよい。第2のバリアスタックは、少なくとも一つの第2バリアスタックと、少なくとも一つの第2ポリマー層と、を含む。
【0010】
好ましくは、第1バリアスタック及び第2バリアスタックの第1バリア層及び第2バリア層のいずれか一方又は両方は、実質的に透明である。第1バリア層のうち少なくとも一つは、好ましくは、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属窒素酸化物(metal oxynitride)、金属ホウ素酸化物(metal oxyboride)、及びこれらの組合せから選択される物質を含む。
【0011】
第1バリア層及び第2バリア層のいずれか一方は、所望であれば、実質的に不透明であってもよい。不透明バリア層は、好ましくは、不透明金属、不透明ポリマー、不透明セラミック及び不透明サーメットから選択される。
【0012】
第1バリアスタック及び第2バリアスタックのポリマー層は、好ましくは、アクリレート含有ポリマーである。本明細書において、アクリレート含有ポリマーとは、アクリレート含有ポリマー、メタクリレート含有ポリマー、及びこれらの組合せを含む。第1バリアスタック及び/又は第2バリアスタック中のポリマー層は、同一でも異なっていてもよい。
【0013】
高温基体は、所望であれば、ポリマー平滑層、ひっかき抵抗層、抗反射コーティング、又は他の機能層などの追加の層を含むものでもよい。
本発明は、さらに、改良された特性を有する高温基体を製造する方法も含む。この方法は、約120℃を超えるガラス転移点を有するポリマー基体を準備し、このポリマー基体上に少なくとも一つの第1バリアスタックを置くことを含む。バリアスタックは、少なくとも一つの第1バリア層と、少なくとも一つの第1ポリマー層と、を含む。
【0014】
バリアスタックは、デポジッション(堆積)又は積層(ラミネーション)によって基体上に置かれてもよい。デポジッションは、好ましくは、真空蒸着であり、積層(ラミネーション)は、接着剤、はんだ、超音波溶接、圧力又は熱を用いて行うことができる。
【0015】
デポジッション又はラミネーションによって、環境感応性ディスプレイデバイスを第1バリアスタック上に置いてもよい。第2バリアスタックを環境感応性ディスプレイデバイス上に置いてもよい。第2バリアスタックは、少なくとも一つの第2バリア層と、少なくとも一つの第2ポリマー層と、を含む。好ましくは真空蒸着によって、第2バリアスタックを環境感応性ディスプレイデバイス上に堆積させてもよい。
【0016】
したがって、本発明の目的は、改良された特性を有する高温基体を提供すること及びこのような基体を製造する方法を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の高温基体の一実施形態の断面図である。
【図2】図2は、本発明の高温基体を用いる被包ディスプレイデバイスの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の被包ディスプレイデバイスの一実施形態を図1に示す。高温被覆基体100は、基体105と、ポリマー平滑層110と、第1バリアスタック115と、を含む。第1バリアスタック115は、バリア層120と、ポリマー層125と、を含む。第1バリアスタック115は、環境中の酸素及び水蒸気が基体105に浸透することを防止する。
【0019】
基体105は、約120℃を超えるガラス転移点、好ましくは約150℃を超えるガラス転移点、より好ましくは約200℃を超えるガラス転移点を有するポリマーから作られている。このようなポリマーの例としては、ポリノルボルネン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアリーレート、ポリカーボネート、及び高いガラス転移点を有する環式オレフィンポリマーなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
各バリアスタック115において、1層以上のバリア層120と、1層以上のポリマー層125と、があってもよい。バリアスタック中のバリア層及びポリマー層は、同一の物質から作られていても、異なる物質から作られていてもよい。バリア層は、典型的には約100〜400Åの厚みであり、ポリマー層は、典型的には約1000〜10,000Åの厚みである。
【0021】
図1は、単一のバリア層と単一のポリマー層とを有するバリアスタックを示すが、バリアスタックは、1層以上のポリマー層と1層以上のバリア層とを有することもできる。1層のポリマー層と1層のバリア層があってもよいし、1層以上のバリア層の一方の側に1層以上のポリマー層があってもよいし、あるいは1層以上のバリア層の両側に1層以上のポリマー層があってもよい。重要な特徴は、バリアスタックが少なくとも1層のポリマー層と少なくとも1層のバリア層とを有することである。
【0022】
バリアスタックの頂部に、所望によって、有機層又は無機層、平面化層、透明伝導体、抗反射コーティング、又は他の機能層などの追加のオーバーコート層があってもよい。
本発明の高温基体で作られた被包ディスプレイデバイスを図2に示す。被包ディスプレイデバイス200は、上述のように、基体205を含む。基体205の頂部には、ポリマー平滑層210がある。ポリマー平滑層210は、表面の粗さを減少させ、窪み、ひっかき傷及び掘痕などの表面欠陥を被包する。これは、後続層のデポジッションに理想的な平面化された表面を作り出す。所望の用途に応じて、有機層又は無機層、平面化層、電極層、ひっかき抵抗層、抗反射コーティング、及び他の機能層などの追加の層を基体205上にデポジットしてもよい。この態様において、基体は、異なる用途に対して、特別にあつらえることができる。
【0023】
第1バリアスタック215は、ポリマー平滑層210の上方にある。第1バリアスタック215は、第1バリア層220と、第1ポリマー層225と、を含む。第1バリア層220は、バリア層230及び235を含む。バリア層230及び235は、同一のバリア材料から作られていても、異なるバリア材料から作られていてもよい。
【0024】
環境感応性ディスプレイデバイス240は、第1バリアスタック215の上方に置かれる。環境感応性ディスプレイデバイス240は、環境感応性である任意のディスプレイデバイスでよい。環境感応性ディスプレイデバイスの例としては、液晶ディスプレイ(LCD)、発光ダイオード(LED)、発光ポリマー(LEP)、電気泳動インクを用いる電気サイン、エレクトロルミネッセンスデバイス(ED)、及び燐光デバイスを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらのディスプレイデバイスは、公知の技術、例えば、いずれも参照として本願明細書に組み込まれている米国特許第6,025,899、5,995,191、5,994,174、5,956,112(以上LCD);米国特許第6,005,692、5,821,688、5,747,928(以上LED);米国特許第5,969,711、5,961,804、4,026,713(以上Eインク);米国特許第6,023,373、6,023,124、6,023,125(以上LEP);米国特許第6,023,073、6,040,812、6,019,654、6,018,237、6,014,119、6,010,796(以上ED)に開示されている。
【0025】
環境感応性ディスプレイデバイス240を被包するように、環境感応性ディスプレイデバイス240の上に置かれた第2バリアスタック245がある。第2バリアスタック245は、1層の第2バリア層250と1層の第2ポリマー層255と、を有するが、上述のように、1層以上のバリア層及び1層以上のポリマー層を有することもできる。第1バリアスタック及び第2バリアスタック中のバリア層及びポリマー層は、同一であっても異なっていてもよい。
【0026】
図2には、ただ一つの第1バリアスタックとただ一つの第2バリアスタックとが示されているが、バリアスタックの数はこれに限定されない。必要なバリアスタックの数は、用いられる基体物質及び特定の用途に対して必要とされる浸透抵抗のレベルに依存する。幾つかの用途に対しては、1又は2のバリアスタックが十分なバリア特性を提供すべきである。最も厳格な用途は、5以上のバリアスタックを必要とするかもしれない。
【0027】
第2バリアスタック245上に、場合によっては蓋260がある。蓋は、剛性であっても、可撓性であってもよい。基体205と同じ物質から作られていることが好ましい。あるいは、可撓性蓋は、限定するものではないが、他のポリマー、金属、紙、繊維及びこれらの組合せを含む任意の可撓性材料から作られたものでもよい。剛性基体は、好ましくは、セラミック、金属又は半導体である。
【0028】
改良された特性を有する高温基体を製造する方法を、図2に示す実施形態を参照しながら説明する。例えばひっかき抵抗層、平面化層、電気伝導層、などの所望の任意の初期層を基体上に被覆しても、デポジットしても又は置いてもよい。ポリマー平滑層が含まれていることが好ましく、残りの層に対する平滑な基部を提供する。例えば、アクリレート含有ポリマーなどのポリマーの1層を基体又は直前の層にデポジットすることによって形成することもできる。ポリマー層を真空中で、又はスピンコーティング及び/又はスプレイなどの雰囲気プロセスを用いて、デポジットしてもよい。好ましくは、アクリレート含有モノマー、オリゴマー又は樹脂をデポジットし、次いで、その場で重合させてポリマー層を形成する。本明細書において、アクリレート含有モノマー、オリゴマー又は樹脂とは、アクリレート含有モノマー、オリゴマー及び樹脂、メタクリレート含有モノマー、オリゴマー及び樹脂、並びにこれらの組合せを含む。
【0029】
次に、第1バリアスタックを基体上に置く。第1バリアスタック及び第2バリアスタックは、少なくとも1層のバリア層と少なくとも1層のポリマー層とを含む。バリアスタックは、好ましくは、真空蒸着により作られる。バリア層をポリマー平滑層、基体又は直前の層の上に真空蒸着してもよい。次に、アクリレート含有モノマー、オリゴマー又は樹脂を好ましくは瞬間蒸発させて、バリア層上に凝縮させ、その場で真空チャンバ内で重合させることにより、ポリマー層をバリア層上にデポジットする。本明細書に参照として組み込まれている米国特許第5,440,446及び5,725,909は、薄膜、バリアスタックをデポジットする方法を記述する。
【0030】
真空蒸着は、真空下でその場での重合を伴うアクリレート含有モノマー、オリゴマー又は樹脂の瞬間蒸発、アクリレート含有モノマー、オリゴマー又は樹脂のプラズマ蒸着及び重合、並びにスパッタリング、化学蒸着、プラズマ強化化学蒸着、蒸発、昇華、電子サイクロトロン共鳴プラズマ強化蒸着(ECR-PECVD)及びこれらの組合せによるバリア層の真空蒸着を含む。
【0031】
バリア層の一体性を保護するために、デポジッションに引き続き及び以後の加工処理の前に、デポジットした層内の欠陥及び/又はマイクロクラックの形成を避けるべきである。被包ディスプレイデバイスは、ロール又はローラ上での摩滅により引き起こされるかもしれない欠陥を避けるために、ウェブコーティングシステムのローラなどの任意の機器にバリア層が直接接触しないように製造されることが好ましい。これは、任意の取り扱い機器に接触又は触れる前に、バリア層が常にポリマー層により被覆されているようにデポジッションシステムを設計することによって達成することができる。
【0032】
次に、環境感応性ディスプレイデバイスを第1バリア層上に置く。真空蒸着などのデポジッションにより、環境感応性ディスプレイデバイスを基体上に置くことができる。あるいは、ラミネーションにより、基体上に置くこともできる。ラミネーションは、接着剤、糊など、又は熱を用いて、環境感応性ディスプレイデバイスを基体にシールしてもよい。
【0033】
次に、第2バリアスタックを環境感応性ディスプレイデバイス上に置いて、環境感応性ディスプレイデバイスを被包する。デポジッション又はラミネーションによって、第2のバリアスタックを環境感応性ディスプレイデバイス上に置いてもよい。
【0034】
第1バリアスタック及び第2バリアスタック内のバリア層は、任意のバリア材料でよい。第1バリアスタック及び第2バリアスタック内のバリア層は、同一の材料から作られていてもよいし、異なる材料から作られていてもよい。加えて、同一又は異なるバリア材料の多重バリア層を一つのバリアスタック内に用いることもできる。
【0035】
バリア層は、ディスプレイデバイスの設計及び用途に応じて、透明でも不透明でもよい。好ましい透明なバリア材料としては、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属オキシナイトライド、金属オキシボライド、及びこれらの組み合わせを挙げることができるがこれらに限定されるものではない。金属酸化物は、好ましくは、シリコンオキサイド、アルミニウムオキサイド、チタニウムオキサイド、インジウムオキサイド、チンオキサイド、インジウムチンオキサイド、タンタルオキサイド、ジルコニウムオキサイド、ニオビウムオキサイド、及びこれらの組み合わせから選択される。金属窒化物は、好ましくは、アルミニウムナイトライド、シリコンナイトライド、ボロンナイトライド、及びこれらの組み合わせから選択される。金属オキシナイトライドは、好ましくは、アルミニウムオキシナイトライド、シリコンオキシナイトライド、ボロンオキシナイトライド、及びこれらの組み合わせから選択される。
【0036】
ほとんどのデバイスに対して、デバイスの一方の側部だけは透明でなければならない。したがって、不透明なバリア層は、ディスプレイデバイスの設計に応じて、いくつかのバリアスタック内で用いることができる。不透明なバリア材料としては、金属、セラミック、ポリマー及びサーメットを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。不透明なサーメットの例としては、ジルコニウムナイトライド、チタニウムナイトライド、ハフニウムナイトライド、タンタルナイトライド、ニオビウムナイトライド、タングステンジシリサイド、チタニウムジボライド、及びジルコニウムジボライドを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
第1バリアスタック及び第2バリアスタックのポリマー層は、好ましくは、アクリレート含有モノマー、オリゴマー又は樹脂である。第1バリアスタック及び第2バリアスタック内のポリマー層は、同一でも異なっていてもよい。加えて、各バリアスタック内のポリマー層は、同一でも異なっていてもよい。
【0038】
好ましい実施形態において、バリアスタックは、ポリマー層と2層のバリア層とを含む。2層のバリア層は、同一のバリア材料から作られていてもよく、あるいは異なるバリア材料から作られていてもよい。本実施形態における各バリア層の厚さは、単一のバリア層の厚さの約1/2、すなわち約50〜200Åである。しかしながら、厚みに制限はない。
【0039】
バリア層が同一の材料から作られている場合、これらは2種の源(ソース)を用いる連続デポジッション又は2種の経路を用いる同じ源(ソース)のいずれかによりデポジットされてもよい。2種のデポジッション源を用いる場合には、デポジッション条件は各源に対して異なっていてもよく、微細構造及び欠陥寸法に差異を生じさせてもよい。任意のタイプのデポジッション源を用いることができる。異なるタイプのデポジッションプロセス、例えばマグネトロンスパッタリング及び電子ビーム蒸発を用いて、2層のバリア層をデポジットしてもよい。
【0040】
異なるデポジッション源/パラメータの結果として、2層のバリア層の微細構造は符合しない。バリア層は、異なる結晶構造を有することさえできる。例えば、Al2O3は、異なる結晶方向を有する異なる相(α、γ)中に存在し得る。符合しない微細構造は、隣接するバリア層内の欠陥を分断する補助となり得、気体及び水蒸気浸透のための曲がりくねった経路を増大させる。
【0041】
バリア層が異なる材料から作られている場合には、2種のデポジッション源が必要である。これは、種々の技術により達成することができる。例えば、材料をスパッタリングによりデポジットする場合には、異なる組成物のスパッタリングターゲットを異なる組成物の薄膜を得るために用いることができる。あるいは、異なる反応性気体と共に、同じ組成物の2種のスパッタリングターゲットを用いてもよい。2種の異なるタイプのデポジッション源もまた用いることができる。この場合には、2層の格子は、2種の材料の異なる微細構造及び格子パラメータにより、さらに符合しない。
【0042】
PET基体上の3層の組み合わせ、すなわちPET基体/ポリマー層/バリア層/ポリマー層のシングルパスロールツーロール(roll-to-roll)真空蒸着は、PET単独の場合の単一酸化物層よりも酸素及び水蒸気に対する浸透性が、5桁以上低い。J.D.Affinito, M.E.Gross, C.A.Coronado, G.L.Graff, E.N.Greenwell及びP.M.Martinの”Polymer-Oxide Transparent Barrier Layers Produced Using PML Process” 39th Annual Technical Conference Proceedings of the Society of Vacuum Coaters, Vacuum Web Coating Session, 1996, pages 392-397;J.D.Affinito, S.Eufinger, M.E.Gross, G.L.Graff及びP.M.Martinの”PML/Oxide/PML Barrier Layer Performance Differences Arising From Use of UV or Electron Beam Polymerization of the PML Layers” Thin Solid Films, vol.308, 1997, pages 19-25参照。バリア層(酸化物、金属、窒化物、オキシナイトライド)層のないポリマー多層(PML)層単独の浸透度における効果がほとんど測定可能ではないという事実にもかかわらずである。バリア特性における改良は、2つの因子によると考えられる。第一に、ロールツーロール(roll-to-roll)被覆酸化物だけの層における浸透度は、デポジッション中及び被覆基体がシステムアイドラ/ローラ上に巻き付いた場合に生じた酸化物層内の欠陥により制限されたコンダクタンス(conductance)であることが知見された。下層の基体内の凸凹(高いポイント)は、デポジットされた無機バリア層内に複製される。これらの形態は、ウェブ取り扱い/巻き取り中に、機械的損傷を受け、デポジットした膜内の欠陥の形成を引き起こし得る。これらの欠陥は、膜の最終的なバリア特性を厳しく制限する。シングルパス、ポリマー/バリア/ポリマープロセスにおいて、第1アクリル層は、基体を平面化し、無機バリア薄膜の連続デポジッションに対して理想的な表面を提供する。第2ポリマー層は、バリア層に対する損傷を最小化し、引き続くバリア層(又は環境感応性ディスプレイデバイス)デポジッションのために、構造体を平面化する頑強な「保護」膜を提供する。中間ポリマー層は、さらに、隣接する無機バリア層内に存在する欠陥を分断するので、気体拡散用の曲がりくねった経路を作り出す。
【0043】
本発明に用いられるバリアスタックの浸透性をTable 1に示す。
PETなどのポリマー性基体上の本発明のバリアスタックの酸素透過度(OTR)及び水蒸気透過度(WVTR)を測定したところ、浸透性測定として現在産業的に用いられている測定機器(Mocon OxTran 2/20L及びPermatran)の検出限界を良好に下回っていた。Table 1は、PET及びポリノルボルネン(PNB)上のいくつかのバリアスタックに対するMocon(Minneapolis, MN)で測定したOTR値及びWVTR値(それぞれASTM F 1927-98及びASTM F 1249-90に準拠して測定した)、及びいくつかの他の測定値を示す。
【0044】
【表1】

【0045】
Table 1のデータに示すように、本発明のバリアスタックは、PET単独の場合よりも数桁良好な酸素透過度及び水蒸気浸透度を提供する。他のバリアコーティングに対する典型的な浸透度は、0.1〜1cc/m2/dayの範囲にある。バリアスタックは、下層成分への酸素透過及び水浸透を防止する上で非常に効果的であり、上市されている他のバリアコーティングよりも実質的に性能が優れている。
【0046】
2つのバリアスタックをポリノルボルネンに塗布したところ、23℃の温度にて、2つのバリアスタックは、酸素透過度を>1000cc/m2/dayから1cc/m2/dayに減少させ、3桁以上の改良を示した。予備評価に用いたポリノルボルネンは、プロトタイプ材料であり、非常に劣悪な表面品質(窪み、ひっかき傷、その他の表面欠陥)を有していた。酸素透過度及び水蒸気浸透度は、より良好な品質の基体材料及びより多くのバリアスタックを用いることにより、<0.005cc/m2/dayに減少させることができると考えられる。
【0047】
好ましいデポジッションプロセスは、非常に広範囲の基体に適合可能である。好ましいプロセスは、モノマーの瞬間蒸発及びマグネトロンスパッタリングを含むので、デポジッション温度は100℃よりも十分に低く、コーティングにおける応力を最小化することができる。多層コーティングを高いデポジッション速度でデポジットすることができる。刺激の強い気体又は化学薬品を用いないので、このプロセスは、大きな基体及び広いウェブにまで規模を拡大することができる。コーティングのバリア特性は、層の数、材料及び層の設計を制御することによって、用途に応じたものとすることができる。
【0048】
本発明のバリアスタック及びポリマー平滑層は、サブミクロンの粗さを有する基体表面を10Åよりも小さな粗さにまで効果的に平滑化することを示している。加えて、これらは、架橋ポリマー層及び硬い無機層を含むので、バリアスタックは、基体に、ある程度の化学薬品耐性及びひっかき抵抗を提供する。
【0049】
ゆえに、本発明は、高いガラス転移点、平滑な表面、非常に優れたバリア特性、改良された耐性、改良された化学薬品耐性及び改良されたひっかき抵抗を有する基体を提供する。高温基体は、被包環境感応性ディスプレイデバイスを製造することができる。
【0050】
本発明を説明するために、ある代表的な実施形態及び詳細を示したが、本発明の技術的範囲を逸脱しない限りにおいて、本明細書に開示された組成物及び方法を種々変更してもよいことは当業者には明かであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
改良された特性を有する高温基体であって、
120℃を超えるガラス転移点を有するポリマー基体と、
該ポリマー基体の上に置かれた、少なくとも1の第1バリア層と該第1バリア層の上に置かれた少なくとも1の第1ポリマー層とを含む第1バリアスタックと、
第1バリアスタックの上に置かれた環境感応性ディスプレイデバイスと、
該環境感応性ディスプレイデバイスの上に置かれた、少なくとも1の第2バリア層と該第2バリア層の上に置かれた少なくとも1の第2ポリマー層とを含む第2のバリアスタックであって、環境感応性ディスプレイデバイスを被包する、第2のバリアスタックと、
前記ポリマー基体と前記第1バリアスタックとの間にあるポリマー平滑層と、
前記第2のバリアスタックの上に置かれた蓋と、
を含み、
該第1バリア層は、スパッタリング、化学蒸着、プラズマ強化化学蒸着、電子サイクロトロン共鳴プラズマ強化蒸着(ECR−PECVD)及びこれらの組合せにより蒸着され、該第1ポリマー層は真空蒸着されたアクリレート含有ポリマー層であり、
該第1バリアスタックを通過する酸素透過速度は、23℃、相対湿度0%で、0.005cc/m2/dayよりも低いことを特徴とする高温基体。
【請求項2】
前記ポリマー基体は、ポリノルボルネン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、及び高いガラス転移点を有する環式オレフィンポリマーから選択される請求項1に記載の高温基体。
【請求項3】
前記第1バリア層は、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属オキシナイトライド、金属オキシボライド及びこれらの組合せから選択される物質を含む請求項1又は2に記載の高温基体。
【請求項4】
120℃を超えるガラス転移点を有するポリマー基体を準備する工程と、
該ポリマー基体の上に、ポリマー平滑層をデポジットする工程と、
該ポリマー平滑層上に、少なくとも1の第1バリア層と該第1バリア層の上に置かれた少なくとも1の第1ポリマー層とを含む第1バリアスタックを置く工程と、
環境感応性ディスプレイデバイスを該第1バリアスタック上に置く工程と、
少なくとも1の第2バリア層と該第2バリア層の上に置かれた少なくとも1の第2ポリマー層とを含む第2バリアスタックを、該環境感応性ディスプレイデバイスの上方に置いて、環境感応性ディスプレイデバイスを被包する工程と、
前記第2のバリアスタックの上に蓋を置く工程と、
を含み、
該第1バリア層は、スパッタリング、化学蒸着、プラズマ強化化学蒸着、電子サイクロトロン共鳴プラズマ強化蒸着(ECR−PECVD)及びこれらの組合せにより蒸着され、該第1ポリマー層は真空蒸着されたアクリレート含有ポリマー層であり、
該第1バリアスタックを通過する酸素透過速度は、23℃、相対湿度0%で、0.005cc/m2/dayよりも低い、改良された特性を有する高温基体を製造する方法。
【請求項5】
環境感応性ディスプレイデバイスの上に少なくとも1の第2バリアスタックを置く工程は、少なくとも1の第2バリアスタックを環境感応性ディスプレイデバイス上にデポジットすることを含む請求項4記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−56546(P2013−56546A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−214994(P2012−214994)
【出願日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【分割の表示】特願2009−244705(P2009−244705)の分割
【原出願日】平成13年3月6日(2001.3.6)
【出願人】(512187343)三星ディスプレイ株式會社 (73)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Display Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】95,Samsung 2 Ro,Giheung−Gu,Yongin−City,Gyeonggi−Do,Korea
【Fターム(参考)】