説明

TiB2基Ti−Si−C系複合セラミックス及びその焼結体製造方法

【課題】TiB、TiCの持つ特性すなわち、高硬度、軽量、高導電性、高熱伝導性という特性を十分に活用し、さらに靭性、難焼結性を著しく改善すると共に、その他の特性も同時に向上させることのできるTiB基Ti−Si−C系複合セラミックス及びその製造方法を提供する。
【解決手段】TiB、TiC及びTiSiCからなる相を備え、高ヤング率、高硬度、高破壊靭性の特性を有することを特徴とするTiB基Ti−Si−C系複合セラミックス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高ヤング率、高硬度、高破壊靭性、さらには熱伝導性、電気伝導性、耐酸化性、耐摩耗性、耐溶着性、耐熱衝撃性等の特性を有する緻密なTiB基Ti−Si−C系複合セラミックス及びその焼結体製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
TiB(硼化チタン)及びTiC(炭化チタン)は、高硬度、軽量、高導電性、高熱伝導性であり、さらに化学的に安定であるという優れた特性を備えている。このような硬質材料は、切削工具、研磨材など、耐摩耗性、耐溶着性が要求される部材などに使用される。
特に、鉄系金属材料の切削工具として用いる場合、高速化、高精度が要求されるのであるが、硬度及びヤング率の向上が不可欠である。すなわち、硬度向上は、切削工具の長寿命化をもたらし、切削工具の交換頻度を低減させる。ヤング率の向上は切削工具の変形を抑制する。その結果として、切削機械の高速化、高精度が実現できるからである。
【0003】
このTiB及びTiCは、上記のような優れた特性を有する反面、低靭性であり、また難焼結性であるという欠点を持っている。このようなことから、Niなどの鉄系金属を焼結助剤として添加し、液相焼結をすることで、上記の難焼結性と低靭性という欠点を改善し、サーメットとして主に鉄系材料用の切削工具に利用されている。
しかしながら、一般的にNiなどの金属添加により、セラミックスの硬度及び高温耐酸化性の低下が生じるという欠点があり、Ni添加によって上記の欠点を十分に改善できるに至っていないのが現状である。このようなことから、Ni等の金属に替えることができる焼結助剤が求められている。
【0004】
一方、チタンシリコンカーバイド(TiSiC)は、金属に似た熱伝導性、電気伝導性、耐熱衝撃性、機械加工性、セラミックス固有の耐酸化性、耐熱性を有する。しかし、このチタンシリコンカーバイドは、TiBやTiCに比べて硬度、ヤング率が低いので、それ自体は有用とは言えない。
チタンシリコンカーバイドに関連する従来技術として、結晶粒径が10μm以下であり、炭化チタン(TiC)含有量が8wt%以下であるチタンシリコンカーバイド(TiSiC)焼結体(特許文献1参照)、炭化チタン(TiC)含有量が1wt%以下であるチタンシリコンカーバイド(TiSiC)からなる金属性セラミックス粉末及び該粉末の製造方法(特許文献2参照)、炭化チタン(TiC)含有量が7wt%以下であるチタンシリコンカーバイド(TiSiC)金属性焼結体とパルス通電加圧焼結方法(特許文献3参照)、水素化チタン粉、炭化チタン粉及び珪素粉末又は炭化珪素粉末を原料として、加圧焼結によりチタンシリコンカーバイド(TiSiC)焼結体を製造する方法(特許文献4参照)、チタン粉、炭化珪素粉及びグラファイト粉末を原料として、固相反応により合成するチタンシリコンカーバイド(TiSiC)焼結体の製造方法(特許文献5参照)の提案がある。
【0005】
しかし、これらはいずれもチタンシリコンカーバイド(TiSiC)それ自体か又はこれを主成分とする焼結体若しくはその製造方法であって、TiB又はTiB及びTiCを主成分とした焼結体、すなわち高硬度、軽量、高導電性、高熱伝導性等のTiB又はTiB及びTiCの持つ特性を十分に活かしているものではない。
【特許文献1】特開2003−2745号公報
【特許文献2】特開2004−107152号公報
【特許文献3】特開2003−20279号公報
【特許文献4】特開2006−1829号公報
【特許文献5】特開2005−89252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、TiB及びTiCの持つ特性すなわち、高硬度、軽量、高導電性、高熱伝導性という特性を十分に活用し、さらに靭性、難焼結性を著しく改善すると共に、その他の特性も同時に向上させることのできるTiB基Ti−Si−C系複合セラミックス及びその焼結体製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上から、本願発明は、TiB基Ti−Si−C系複合セラミックスにおいて、金属に似た性質とセラミックスの優れた性質をもつ材料として近年注目されているTiSiCを利用するものである。上記の通り、このTiSiC材料は、金属に類似する熱伝導性、電気伝導性、耐熱衝撃性、機械加工性を持ち、セラミックスとしての優れた耐酸化性及び耐熱性を併せ備えている。さらに、比較的靭性が高く、高温で塑性変形するという特徴も有している。すなわち、本願発明は、このTiSiCをNiの代替とし、TiB及びTiCを焼結させるためのバインダーとして用いるものである。
【0008】
1)TiB、TiC及びTiSiCからなる相を備え、高ヤング率、高硬度、高破壊靭性の特性を有することを特徴とする緻密なTiB基Ti−Si−C系複合セラミックスを提供する。
TiCは炭素欠陥による不定比化合物TiC(y≦1)をつくり易い化合物であるが、本願発明は、不定比化合物TiC(y≦1)を当然に包含する。また、TiSiCも不定比化合物を形成し易い化合物であるが、本願発明は、同様にこのような不定比化合物を包含する。
2)このTiB基Ti−Si−C系複合セラミックスは、TiSiC:0.5〜38.0vol.%、TiC:22.0〜32.0vol.%、残余TiBからなる相を備えていることが望ましい。
3)上記TiB基Ti−Si−C系複合セラミックスは、ヤング率E:400GPa以上、ビッカース硬度Hv:10GPa以上、破壊靭性値Kc:4.0MPam1/2以上を達成することができる。
4)さらに、上記TiB基Ti−Si−C系複合セラミックスは、ヤング率E:430GPa以上、ビッカース硬さHv:12GPa以上、破壊靭性値Kc:4.5MPam1/2以上を達成することができる。
【0009】
本発明は、さらに
5)TiB基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造に際し、出発原料として、BC粉末、Ti粉末及びSiC粉末を用いるものである。これらを混合及び予備成型した後、この予備成型体をホットプレス又は通電加圧焼結法により加熱焼結する。これによって、TiB、TiC及びTiSiCからなる相を備えた焼結体を製造することができる。
前記TiSiC相は、TiC相と出発原料のSiC相とTi相から生成するが,TiC相は出発原料のBCとTiの反応で生じる。TiSiC相は焼結の際のバインダーとしての役割を担う。
【0010】
6)上記のTiB基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造に際し、BC粉末、Ti粉末及びSiC粉末とを、それぞれ1.0:3.0〜5.0:1.0の比率となるように秤量した後、混合及び予備成型することが望ましい。
7)また、上記TiB基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造に際し、予備成型体をホットプレス又は通電加圧焼結法により、焼結温度1450〜1650°Cで加熱焼結することが望ましい。
8)上記の焼結により、TiSiC:0.5〜38.0vol.%、TiC:22.0〜32.0vol.%、残余TiBからなる相を形成することが可能となる。
【0011】
9)上記TiB基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造方法により、ヤング率E:400GPa以上、ビッカース硬度Hv:10GPa以上、破壊靭性値Kc:4.0MPam1/2以上を達成することができる。
10)さらに、TiB基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造方法は、ヤング率E:430GPa以上、ビッカース硬さHv:12GPa以上、破壊靭性値Kc:4.5MPam1/2以上を達成することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
上記により、TiB又はTiB及びTiCの持つ特性すなわち、高硬度、軽量、高導電性、高熱伝導性という特性を十分に活用し、さらに靭性、難焼結性を著しく改善すると共に、その他の特性も同時に向上させることのできるTiB基Ti−Si−C系複合セラミックス及びその焼結体製造方法を提供することができるという著しい効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本願発明を説明するに際し、図1にTi−Si−C系状態図を示す。TiSiC相はTiC相と出発原料のSiC相とTi相から生成することが分かる。TiC相は出発原料のBCとTiの反応で生じる。
本願発明では、 出発原料に出発原料として、BC粉末、Ti粉末及びSiC粉末を用いることにより、TiSiC相を生成させ、これを焼結の際のバインダーとするものである。
【0014】
本願発明では、難焼結材料を合成するためにホットブレス法、特に反応性ホットプレス法又は反応性通電加圧焼結法を用いる。反応性通電加圧焼結法は、反応焼結と通電加圧焼結を組み合わせたものであるが、ホットプレス法よりも低温かつ短時間で焼結できるので、推奨される方法である。
ホットプレスは一般的な焼結に使用されている装置を使用できるので、特殊な焼結装置を設置する必要がないという利便性がある。ホットブレス法、特に反応性ホットプレス法、又は反応性通電加圧焼結法は、いずれも本願発明に適用できることは云うまでもない。
【0015】
本願の実施例では、反応性通電加圧焼結法を用いた。通電加圧焼結用グラファイト型の概略を図2に示す。図2に示すように、ダイスとパンチでできたグラファイト型に粉末を充填し、真空チャンバー内で試料と型に通電することで加熱と加圧を同時に行えるようになっている。特に、型の中に充填した粉末に加圧しながらパルス状の電流を流して試料と型のみを加熱するものなので、炉内全部を加熱するホットプレスよりも省エネルギーであり、また急速昇温が可能であるという特徴を有している。
この通電加圧焼結法によれば、極めて短時間で難焼結材料の緻密化が可能であり、炭化物粒の増大を防ぐことができ、機械的性質の向上が可能である。しかし、前記の通り、汎用性のあるホットプレス装置を使用することに何ら制限はない。ホットプレス装置を使用する場合には、通電加圧焼結装置を使用して焼結する場合よりも、やや焼結温度を高めて実施することが望ましいということだけである。
【実施例】
【0016】
次に、実施例に基づいて説明する。なお、本実施例は下記の試験等に基づいて、より好適な実施の一例を提示するものであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。したがって、本発明の技術思想に含まれる変形、他の実施例又は態様は、全て本発明に含まれる。
本実施例を比較例となる条件との対比において説明する。
【0017】
原料粉末にBC粉末、Ti粉末及びSiC粉末を用い、組成がBC+(3+2x)Ti+xSiC(0≦x≦1.0)の範囲であり、x=0.1、0.3、0.5、0.6、0.8、1.0となるように、それぞれ秤量し、乳鉢を用いて入念に混合した。BC粉末は、平均粒径:1.05μm、純度99%を使用し、Ti粉末は、平均粒径:24.5μm、純度99.5%を使用し、SiC粉末は、平均粒径:0.31μmを使用した。この混合粉末を焼結用のグラファイト型に充填し、予備成形として50MPa、1minの条件で一軸加圧成形した。
その後、さらに反応性通電加圧焼結を行った。焼結条件は、真空中、焼結荷重50MPa、所定の温度で10min間保持した。上記の範囲の組成で、1500°C、1600°Cで焼結した。なお、焼結温度はグラファイト型の表面から10 mm内部の温度を光高温計で測定した値とした。
【0018】
x=0である場合、すなわちTiB相とTiC相の2相を形成する場合については、1500°C、1600°Cでは焼結できないので2000°Cで焼結する必要があるが、この2000°Cで焼結した試料については文献値を用いた。焼結した試料の両面を研削し、片面を鏡面に研磨したものを試料とした。
試料の評価は、生成相の同定、格子定数の計算、密度、弾性率、硬さ、破壊靱性、組織観察について行った。破壊靭性値はSEPB法による測定と、圧痕とクラックの長さから算出するIF法を用いた。
【0019】
(試験結果)
次に、試験結果を説明する。図3に各生成相の存在率とxの関係を示す。
すなわち、BC+(3+2x)Ti+xSiC(0≦x≦1.0)焼結体の各生成相の存在率を示す。この存在率は、x線回折パターンの最強ピーク強度比から算出したものである。焼結した結果、TiB、TiC及びTiSiCの三相が同定できた。反応式は、次の通りである。
C+(3+2x)Ti+xSiC→2TiB+(1−x)TiC+TiSiC (0≦x≦1.0)
この生成相は、図3に示すようにxが増加するに連れ、バインダーとして生成させたTiSiCの存在率が増え、TiB相とTiC相の存在率はいずれも低下した。
これは、1500°C及び1600°Cの焼結温度でも同様の傾向を示した。なお、xが0.1以下ではTiSiC相は僅かしか同定できなかった。
【0020】
(組織観察)
次に、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いて得られた焼結体の生成物(反応生成物)と組織を調べた。この結果を図4に示す。
この図4は、BC+5Ti+SiC (1500°C)の焼結体の微細組織である(x=1.0)。図4の(a)は組成像、(b)はBの特性X線像、(c)はSiの特性X線像、(d)はCの特性X線像を示す。これらの特性X線像から、(a)における濃いグレーの相がTiC、白い相がTiSiC、黒い相がTiBであることが分った。
上記の組織図から、焼結中にTiの周囲をBCとSiCが囲み,そこで反応が生じたことが分る。次に、組成に変化を持たせた場合における微細組織の変化を図5に示す。xの増加と共に、図5の(a)→(f)に示すように、黒い相のTiBと濃いグレーのTiCの領域が減少し、白いTiSiCの領域が増加していくことが分る。
【0021】
(体積率)
次に、これらの組成像から各生成相の体積率を、画像処理により求めた各生成相の体積率とxの関係を、図6に示す。この傾向はX線回折パターンから求めた存在率の傾向とよく合った。反応式とこの図6から、後述する適正なxの範囲によって、好適なTiSiC相、TiB相及びTiC相の、それぞれの体積率を求めることができる。
図6に示すように、TiSiC相の体積率は、xの増加とともに増大してx=1.0ではTiB相の体積率に近い量となっているのが分かる。TiB相の体積率は、xの増加とともに、減少している。TiC相はやや減少するが、大きな差異はない。
【0022】
(密度)
作製したBC+(3+2x)Ti+xSiC(0≦x≦1.0)焼結体の密度(かさ密度)の測定結果及び開気孔率とxの関係を図7に示す。なお、焼結体の密度はアルキメデス法を用いて測定した。
焼結温度との関係もあるが、1500°Cの焼結温度では、x=0.1、0.3では緻密ではないが,xの増加とともに密度が上昇し、x=0.5以上で気孔はほとんど観察されず、緻密になった。1600°Cの焼結温度では、x=0.1以上で気孔はほとんど観察されず、緻密であった。緻密な焼結体が得られた1500°Cと1600°Cの測定値をx=0に外挿すると、TiB−TiC相(x=0)を2000°Cで焼結したときの値と同じ値になった。
このことは、焼結時に生成するTiSiC相の体積率増加が焼結に有効であったと言える。すなわち、TiB−TiC相(x=0)での焼結温度よりも400°Cの低温でも、同等の密度が達成できることを意味するものである。
【0023】
(ヤング率、剛性率)
図8に、緻密なBC+(3+2x)Ti+xSiC(0≦x≦1.0)焼結体のヤング率とxの関係を示す。なお、ヤング率は高温動弾性率測定装置、探触子5MHzを用い、超音波パルス法により縦波の音速と横波の音速を測定して求めた。
x=0.5以下で470GPa以上になった。このヤング率の470GPaという数値は極めて大きく実用上の価値は十分にある。
x=0.1で、ヤング率は530GPaに達した。これは、焼結温度とxの調整によりヤング率の向上を図ることができ、2000°Cで焼結したTiB−TiC相(x=0)の560GPa近傍に至るまでの改良ができることを意味するものである。
剛性率も同様の関係にあり、2000°Cで焼結したTiB−TiC相(x=0)の240GPaに対して、230GPaに達した。これらの数値が、500°C低い温度で達成できることを考慮すると、生産コストを大きく下げることができるという、優れた効果を有する。
【0024】
(ビッカース硬さ)
図10に、BC+(3+2x)Ti+xSiC(0≦x≦1.0)焼結体のビッカース硬さの関係を示す。xの量が少ないほど高硬度になり、xが0.5以下で14GPa以上の値をとり、xが0.3以下で17GPa以上であった。x=0.1では、ビッカース硬さ20GPaとなった。これは、2000°Cで焼結したTiB−TiC相(x=0)と同等である。
1600°Cの焼結温度でビッカース硬さが17GPaの値が得られるということは、ビッカース硬さ20GPaが得られると云えども、2000°Cの焼結温度を必要とする材料に比べ、さらに400°C低い温度で製造できることを考慮すると、生産コストを大きく下げることができるという、優れた効果を有する。これは、本願発明の優れた利点である。
【0025】
(破壊靭性値)
図11に、BC+(3+2x)Ti+xSiC(0≦x≦1.0)焼結体の破壊靭性値とxの関係を示す。破壊靭性値はIF法(JIS式)によるものである。この図11に示す通り、1500°Cと1600°Cの事件結果は、2000°Cで焼結したTiB−TiC相(x=0)と同等あるいはそれ以上の破壊靭性値を示した。
2000°Cの焼結温度を必要とする材料に比べ、さらに400〜500°Cの低い温度で製造できることを考慮すると、生産コストを大きく下げることができ、優れた効果を有するというべきである。
【0026】
(以上の結果のまとめ)
以上から、BC+(3+2x)Ti+xSiC(0≦x≦1.0)混合粉末を出発原料にして、通電加圧焼結法により、2TiB+(1−x)TiC+TiSiCを生成させる反応を起こさせながら焼結を行うことにより、TiSiC相の存在によって、TiB,TiCのみの焼結温度2000°Cよりも、500〜400°C低温の1500〜1600°Cの温度で焼結が可能となった。
1500〜1600°Cにおいて、x=0.1〜1.0において緻密に焼結したので、x=0.1〜1.0において1500°Cより高い温度では焼結が可能である。しかし、型を傷めずに焼結するには、1650°C以下であることが必要なことから、x=0.1未満は望ましくないことが分る。このx=0.1〜1.0の範囲は、反応式と図6から、TiSiC:0.5〜38.0vol.%、TiC:22.0〜32.0vol.%、残余TiBに相当する。
【0027】
本願発明は、ヤング率については1500°Cという低温で、470GPaという数値を達成することが可能である。剛性率も同様に230GPaを得ることができる。
さらに、ビッカース硬さHv=17GPa以上とすること、及び破壊靭性値Kcは最大値4.8MPam1/2を達成することができ、低温での焼結が可能であるという優れた効果を有する。
以上については、主として1500°C及び1600°Cでの実施で説明したが、1450〜1650°Cの温度範囲とxの調整により、上記に述べた密度、開気孔率をヤング率、剛性率、ビッカース硬さ及び破壊靭性値について、同様な改良を行うことができる。
また、以上については、特に反応性通電加圧焼結法を用いた製造例を説明したが、温度と加圧力を調整することによりホットプレス法により製造できることは容易に理解されるべきものである。焼結材料に対する均一加熱を行うために、焼結温度をやや高めにして実施することが望ましいと言えるが、他の条件は同様にして実施できる。説明を省略するが、ホットプレス法を使用した場合においても、同様の結果を得ることが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、TiB、TiCの持つ特性すなわち、高硬度、軽量、高導電性、高熱伝導性、高ヤング率特性、耐酸化性、耐摩耗性、耐溶着性等の優れた特性を十分に活用し、さらに靭性、難焼結性を著しく改善したTiB基Ti−Si−C系複合セラミックスを得ることができ、例えば切削工具、ターゲット材、引抜きダイス、粉末冶金用金型、ノズル、メカニカルシール、軸受部品、射出成型用金型、ボールペン用ボール、電極、自動車部品などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】Ti−Si−C系三元系状態図。
【図2】焼結用グラファイト型の概略説明図。
【図3】BC+(3+2x)Ti+xSiC(0≦x≦1.0)焼結体の各生成相の存在率を示す図である。
【図4】1500°Cで焼結したBC−5Ti−SiC(x=1.0)の時の、焼結体の微細組織を示す図である。
【図5】各組成のx値を変化させ、体積率を測定するのに用いた各組成の焼結体の微細組織を示す図である。
【図6】BC+(3+2x)Ti+xSiC(0≦x≦1.0)焼結体の各生成相の体積率とxの関係を示す図である。
【図7】BC+(3+2x)Ti+xSiC(0≦x≦1.0)焼結体のかさ密度及び開気孔率とxの関係を示す図である。
【図8】BC+(3+2x)Ti+xSiC(0≦x≦1.0)焼結体のヤング率とxの関係を示す図である。
【図9】BC+(3+2x)Ti+xSiC(0≦x≦1.0)焼結体の剛性率とxの関係を示す図である。
【図10】BC+(3+2x)Ti+xSiC(0≦x≦1.0)焼結体の焼結体のビッカース硬さとxの関係を示す図である。
【図11】BC+(3+2x)Ti+xSiC(0≦x≦1.0)焼結体の焼結体の破壊靭性値とxの関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TiB、TiC及びTiSiCからなる相を備え、高ヤング率、高硬度、高破壊靭性の特性を有することを特徴とする緻密なTiB基Ti−Si−C系複合セラミックス。
【請求項2】
TiSiC:0.5〜38.0vol.%、TiC:22.0〜32.0vol.%、残余TiBからなる相を備えていることを特徴とする請求項1記載のTiB基Ti−Si−C系複合セラミックス。
【請求項3】
ヤング率E:400GPa以上、ビッカース硬度Hv:10GPa以上、破壊靭性値Kc:4.0MPam1/2以上を備えていることを特徴とする請求項1又は2記載のTiB基Ti−Si−C系複合セラミックス。
【請求項4】
ヤング率E:430GPa以上、ビッカース硬さHv:12GPa以上、破壊靭性値Kc:4.5MPam1/2以上を備えていることを特徴とする請求項1又は2記載のTiB基Ti−Si−C系複合セラミックス。
【請求項5】
C粉末、Ti粉末及びSiC粉末とを混合及び予備成型し、この予備成型体をホットプレス又は通電加圧焼結法により加熱焼結し、TiB、TiC及びTiSiCからなる相を備えた焼結体を得ることを特徴とするTiB基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造方法。
【請求項6】
C粉末、Ti粉末及びSiC粉末とを、それぞれモル比で1.0:3.0〜5.0:1.0の比率となるように秤量した後、混合及び予備成型することを特徴とする請求項5記載のTiB基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造方法。
【請求項7】
予備成型体をホットプレス又は通電加圧焼結法により、焼結温度1450〜1650°Cで加熱焼結することを特徴とする請求項5又は6記載のTiB基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造方法。
【請求項8】
焼結により、TiSiC:0.5〜38.0vol.%、TiC:22.0〜32.0vol.%、残余TiBからなる相を形成することを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載のTiB基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造方法。
【請求項9】
ヤング率E:400GPa以上、ビッカース硬度Hv:10GPa以上、破壊靭性値Kc:4.0MPam1/2以上を備えていることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載のTiB基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造方法。
【請求項10】
ヤング率E:430GPa以上、ビッカース硬さHv:12GPa以上、破壊靭性値Kc:4.5MPam1/2以上を備えていることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載のTiB基Ti−Si−C系複合セラミックス焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−261881(P2007−261881A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−89729(P2006−89729)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(591108178)秋田県 (126)
【Fターム(参考)】