説明

Trp含有ペプチド

【課題】 大豆蛋白質のプロテアーゼで処理による処理液(分解液)中の、疎水性アミノ酸の豊富な未分解の高分子画分を除去した、溶液におけるエタノール溶解分の成分を明らかにし、さらにはその有益性を明らかにすることを目的とする。
【解決手段】 大豆蛋白原料をプロテアーゼで処理し、不溶の疎水性アミノ酸の豊富な未分解の高分子画分を除去した水溶液から調製されたペプチドが、特定のアミノ酸配列を有するTrp含有ペプチドであって、アンギオテンシンI変換酵素(ACE)阻害活性とヒト赤血球変形能低下抑制作用を有するもので、薬効性組成物とし、健康食品や医薬の原料として利用され、大豆の用途を大とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、大豆蛋白質から調製された特定の機能を有するトリプトファン(Trp)含有ペプチドに関するものであって、新規なペプチドおよび蛋白質分解酵素(プロテアーゼ)によるペプチド調製技術に属するものである。
【背景技術】
【0002】
大豆は、植物性蛋白質の供給源として広く知られ、かつ広汎に利用されている。
この大豆蛋白質をより有効に利用するために、蛋白質を分離し、さらには、酵素により分解して、有用なアミノ酸やペプチドを得ることが幅広く行われてきている。
【0003】
例えば、特開2005−139158号公報(特許文献1)においては、大豆醗酵物を蛋白質分解酵素で処理し、アンジオテンシン変換酵素阻害作用を有する、生体内での血圧降下作用を有し、毒性が極めて低い、新規なヘキサペプチドが得られたことが報告されている。
【0004】
また、特開2006−223138号公報(特許文献2)においては、全脂大豆の水溶液を、蛋白質分解酵素を用いて加水分解した後、セルロース系ろ過助剤を添加して不水溶性物質を分離除去することによって、苦みや大豆臭がなく、低分子のペプチドが多い組成物で、消化吸収能力の衰えた老人や、病人の栄養補給用飲料や、激しい運動後に適用される、スポーツドリンクに効果的に使用される組成物が得られることが報告されている。
【0005】
さらに、特開2006−265139号公報(特許文献3)においては、大豆中の微量蛋白質である大豆ホエー蛋白質を基質にして、蛋白質分解酵素を用いて分解することによって得られた特定のトリペプチドが、アンジオテンシン変換酵素阻害作用を有し、血圧降下剤としての医薬や、血圧を降下させ、高血圧の予防や改善に適した特定保健用食品に用いられる、との報告がなされている。
【0006】
このような大豆蛋白質の開発状況下において、本願の発明者等も、先に、大豆蛋白質の構造に示唆されて試験を行い、大豆蛋白質からグルタミンとグルタミン酸の豊富な水溶性の高分子量ポリペプチドを得ることに成功し、それらの取得方法について、国際公開番号WO2005/001106号公報(特許文献4)で報告した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−139158号公報
【特許文献2】特開2006−223138号公報
【特許文献3】特開2006−265139号公報
【特許文献4】国際公開番号WO2005/001106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献4において開示された、グルタミンとグルタミン酸の豊富な水溶性の高分子量ポリペプチドの取得方法は、大豆蛋白原料をプロテアーゼで処理し、疎水性アミノ酸の豊富な未分解の高分子画分を沈殿として除去し、残りの溶液(分解液)にエタノールを添加して、沈殿画分を得たのち、前記沈殿画分を乾燥するというものである。
【0009】
発明者等は、前記エタノール不溶解分が、グルタミンとグルタミン酸の豊富な水溶性の高分子量ポリペプチドから形成されていることを見出し、前記報告をなした。
その際、検討の対象から外された、エタノール溶解分に、低分子のペプチドなどで有益な成分が存在するのでないかと推定し、エタノール溶解分の成分を明らかにし、さらにはその有益性を明らかにすることを目的として研究を行った。
【0010】
その結果、本願の発明者等は、前記エタノール溶解分が特定の生理活性を有すること、さらには、前記生理活性は、疎水性アミノ酸の豊富な、未分解の高分子画分を除去した大豆蛋白質のプロテアーゼ処理液、特にその分画物により奏されることを見出し、その分画物について検討を行い、この発明を完成させたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、この発明の請求項1に記載のTrp含有ペプチドは、
下記アミノ酸配列の、いずれかのアミノ酸配列を有すること
を特徴とするものである。

1) Thr−Trp−Asn−Pro−Asn
2) Trp−Gly−Pro
3) Trp−Gln−Glu
4) Trp−Asn−Pro−Asn
5) Trp−Asn−Leu
6) Asn−Trp−Leu
7) Ala−Trp
8) Val−Trp
9) Ile−Trp
10) Leu−Trp
11) Ser−Trp
12) Gly−Trp
13) Glu−Trp
14) Trp−Met
15) Ser−Trp−Leu
16) Trp−Thr−Tyr
【0012】
また、この発明の請求項2に記載の発明は、
アンギオテンシンI変換酵素(ACE)阻害活性を有し、
下記アミノ酸配列の、いずれかのアミノ酸配列を有すること
を特徴とするTrp含有ペプチドである。

1) Thr−Trp−Asn−Pro−Asn
2) Trp−Gly−Pro
3) Trp−Gln−Glu
4) Trp−Asn−Pro−Asn
5) Asn−Trp−Leu
6) Ala−Trp
7) Val−Trp
8) Ile−Trp
9) Leu−Trp
10) Ser−Trp
11) Gly−Trp
12) Glu−Trp
13) Trp−Met
14) Trp−Thr−Tyr
【0013】
また、この発明の請求項3に記載発明は、
ヒト赤血球変形能低下抑制作用を有し、
下記アミノ酸配列の、いずれかのアミノ酸配列を有すること
を特徴とするTrp含有ペプチドである。

1) Ala−Trp
2) Val−Trp
3) Ile−Trp
4) Leu−Trp
5) Ser−Trp
6) Gly−Trp
【0014】
また、この発明の請求項4に記載発明は、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のTrp含有ペプチドにおいて、
前記Trp含有ペプチドは、
大豆蛋白原料をプロテアーゼで処理し、不溶の疎水性アミノ酸の豊富な未分解の高分子画分を除去した水溶液から調製されたこと
を特徴とするものである。
【0015】
また、この発明の請求項5に記載の発明は、
請求項4に記載のTrp含有ペプチドにおいて、
前記プロテアーゼ処理は、
アルカリ域を保持しながら、基質特性の低いプロテアーゼで行う加水分解処理である
こと
を特徴とするものである。
【0016】
また、この発明の請求項6に記載の発明は、
請求項4又は5に記載のTrp含有ペプチドにおいて、
前記未分解の高分子画分の沈殿除去は、
酸性pH調節及び/又はエタノールの添加により行われること
を特徴とするものである。
【0017】
また、この発明の請求項7に記載の発明は、
請求項4〜6のいずれか1項に記載のTrp含有ペプチドにおいて、
前記Trp含有ペプチドは、
前記調製において、1%酢酸水溶液に不溶な物質が除去されていること
を特徴とするものである。
【0018】
また、この発明の請求項8に記載の発明は、
請求項4〜7のいずれか1項に記載のTrp含有ペプチドにおいて、
前記Trp含有ペプチドは、
前記調製において、ゲル濾過および高速液体クロマトグラフィーによる精製が行なわれていること
を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
この発明にかかるTrp含有ペプチドは、酸化ストレスによる赤血球変形能の低下の防止、高血圧の予防や改善に適したものであって、血圧降下剤としての医薬や、血圧を降下させ、高血圧の予防や改善に適した特定保健用食品や健康食品の素材として有効なものである。
また、医薬の原料として、有効に利用されることができるものである。
【0020】
また、この発明のTrp含有ペプチドは、粉末状態でも、水又はエタノール溶液としても使用することができる。
したがって、前記のような効果を発現させるために、健康食品や医薬として利用する際に、効率的に、また効果的に活用することを可能とするものである。
【0021】
以上のように、この発明のTrp含有ペプチドによれば、大豆をさらに有効に活用することができるという優れた効果を奏するのである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1で得られたペプチド組成物の、ゲルろ過パターン図である。
【図2】実施例1で得られたペプチド組成物の、ゲルろ過により分画した画分1及び2のゲルろ過パターン図である。
【図3】前記画分1を分画して得られた画分1−4,画分1−5の、HPLCのチャートと紫外吸収スペクトル図である。
【図4】前記画分1を分画して得られた画分1−6,画分1−7の、HPLCのチャートと紫外吸収スペクトル図である。
【図5】前記画分2を分画して得られた画分2−4,画分2−5の、HPLCのチャートと紫外吸収スペクトル図である。
【図6】精製されたTrp含有ペプチドの、赤血球変形能低下抑制作用の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明の特定構造のTrp含有ペプチドは、大豆蛋白原料をプロテアーゼで処理し、不溶の疎水性アミノ酸の豊富な、未分解の高分子画分を除去した水溶液から調製されるものである。
プロテアーゼ処理は、アルカリ域を保持しながら、基質特性の低いプロテアーゼで加水分解することが好ましい。
また、未分解高分子画分の除去は、水溶液のアルカリ状態を維持しながら行うことが好ましい。
【0024】
水溶液としては、特許文献4で報告したように、グルタミンとグルタミン酸の豊富な水溶性の高分子量ポリペプチドを取得するために、エタノールを添加して、それらを不溶解物として取得した後の水溶液とすることもできる。
それにより、グルタミンとグルタミン酸の豊富な高分子量ポリペプチドと、Trp含有ペプチドが分離取得できるため好ましい方法である。
【0025】
この発明に用いる大豆蛋白原料としては、分離大豆蛋白質や脱脂豆乳が好ましいが、脱脂大豆でも用いることができる。
しかしながら、脱脂大豆の場合は、蛋白質以外の成分を多量に含むため、プロテアーゼによる分解度が悪い。
また、プロテアーゼによる酵素処理は、大豆蛋白原料に水を加えて攪拌し、pHをアルカリ領域に調節した後、プロテアーゼを加えることにより行う。
その際、蛋白質は、完全に溶解させる必要はなく(分解中に溶解する)、加える水の量は、蛋白原料の5〜20倍、好ましくは9〜10倍がよい。
【0026】
この発明に用いるプロテアーゼとしては、アルカリ側に最適pHを持ち、高温で安定であって、ほとんどのペプチド結合を分解できる、基質特異性の低いプロテアーゼが好ましい。
具体的には、バチルス・サブチリス(Bacillus Subutilis)由来の、アルカリプロテアーゼであるビオブラーゼなどを用いることができる。
【0027】
大豆蛋白原料をプロテアーゼで処理する際には、プロテアーゼ処理を、アルカリ域を保持しながら、基質特異性の低いプロテアーゼで加水分解することが好ましい。
通常、大豆蛋白をアルカリ域で酵素分解すると、加水分解が進むにつれてpHが低下し微酸性域に移行してしまう。
しかしながら、この発明においては、アルカリ域を保ちながら酵素分解することによって、疎水性アミノ酸の豊富な未分解の高分子画分の除去が容易に行なわれ、目的のTrp含有ペプチドを得ることが出来る。
なお、微酸性域に移行したままで酵素分解を続けると、アミノ酸にまで加水分解され、この発明の目的を達成することが困難となる。
【0028】
かかるアルカリ域としては、pH7.5〜10、好ましくはpH8〜9.5、より好ましくはpH8.5〜9.0が適当である。
このpH調節には、苛性ソーダ溶液などのアルカリ金属水酸化物を用いることもできるが、アンモニア溶液(例えば5%水溶液)などの有機アルカリを用いることができる。
例えば、アンモニア溶液を用いると、高濃度を使用できるので緩衝能が大きく、pH調節の頻度が少なくて済むことに加え、分解後の減圧濃縮によって分解液から容易に除去でき、中和による塩の生成を避けることができる。
【0029】
プロテアーゼ分解の温度は、分解過程における雑菌による汚染を避けるため、高い方が望ましい。
例えば、ビオブラーゼの場合、pH9で安定である温度45〜55℃を用いることが好適である。
分解時間としては、分解によるpHの低下が無くなるまで行うことが好ましい。
大豆蛋白原料に対して1/100重量の酵素を用いた場合、15〜20時間とすることができる。
【0030】
この酵素分解によって、大部分の蛋白質が、小さいペプチドにまで分解される。
しかしながら、大豆蛋白質中に存在する疎水性アミノ酸に富む固い高次構造部分は、分解され難く、分子量の大きいポリペプチドとして残存する。
したがって、目的とする分子量の小さいペプチドと、分別することができる。
すなわち、疎水性アミノ酸の豊富な未分解の高分子画分を沈殿として除去することができる。
この未分解高分子画分の沈殿除去は、前記したように、酸性pH調節、さらにはエタノールの添加によって、より確実に行うことができる。
また、グルタミンとグルタミン酸の豊富な高分子量ポリペプチドと、Trp含有ペプチドが分離取得できるため、好ましい方法である。
【0031】
未分解の疎水性高分子ポリペプチドを、沈殿させる酸性pH調節は、大豆蛋白の等電点近傍にすることが好ましく、例えば、pH3.5〜5.5、好ましくはpH4.0〜5.0が適当である。
沈殿の程度は、用いる蛋白原料(例えば、分離大豆蛋白、濃縮大豆蛋白、豆乳、脱脂大豆など)により異なる。
大豆蛋白の割合が低くなるほど沈殿度が悪くなるため、この場合は、さらにエタノール添加して除去することが好ましい。
【0032】
エタノール添加により沈殿物と溶液を分別する場合、未分解の疎水性高分子ポリペプチドを沈殿させるエタノール濃度は、pHによって異なる。
中性の場合は、酸性の場合より高いエタノール濃度を必要とする。
中和した分解液にエタノールを加える場合、50%エタノール濃度までの低い濃度で殆ど沈殿するので、エタノールの濃度は50%以下とすることができる。
大豆蛋白の割合が高い分離大豆蛋白を用いる場合で、かつ等電点付近であれば、アルコールは殆ど必要としない。
等電点以外でも、大豆蛋白の割合の高い分離大豆蛋白を用いる場合、エタノール濃度は20%〜50%で、未分解の疎水性高分子ポリペプチドを沈殿させることができる。
【0033】
未分解の疎水性高分子ポリペプチドを除去した溶液に、さらにエタノールを加えると、高Glx含有ポリペプチドを沈殿させ、グルタミンとグルタミン酸の豊富な高分子量ポリペプチドとTrp含有ペプチド組成物が分離取得できる。
その際、Trp含有ペプチドのみを目的とする場合には、工程の増加とエタノールの量の増加によるポリペプチドの純度が低下するため好ましい方法ではない。
【0034】
このようにして得られたTrp含有ペプチド組成物は、ゲルろ過及び高速液体クロマトグラム(HPLC)で精製され、Trp含有ペプチドが取得される。
ゲルろ過剤としては、Bio GelP−10やP−2などを用いることができる。
【実施例1】
【0035】
<ペプチドの調製1>
分離大豆蛋白質(SPI;不二製油(株)製「フジプローR」)300gに、脱イオン水を加えて3lとし、ホモジネートしたのち、5%アンモニア溶液でpH9に調節した。
それに、ビオプラーゼ6gを加え、攪拌しながら恒温槽中、温度50℃で20時間、pHを調節しながらインキュベートした。
得られたpH8.36の分解液を、遠心分離(8000rpm×10分)して得られた上清を、減圧濃縮後凍結乾燥して、ペプチド組成物241gを得た。
【0036】
<ペプチド組成物の分画・精製>
上記で得られたペプチド組成物2gに、1%酢酸10mlを加えて溶解したのち、遠心分離(10,000rpm×10分)して得られた上清を、Bio Gel P−10カラム(3×37cm)に供し、1%酢酸水溶液で展開し、分画した。
その際の、ゲルろ過パターンを図1に示す。
【0037】
このゲルろ過パターンにおいて、その溶出位置と吸光度曲線から、管数220〜297の領域に、Trp含有ペプチドが溶出していると推測した。
そこで、この領域を画分1(管数220〜260)と、画分2(管数261〜297)の2つに分画し、それらを、さらにBioGel P−2カラム(1.5×70cm)に供し、1%酢酸水溶液で展開し、分画した。
その際の、ゲルろ過パターンを図2に示す。
【0038】
前記画分1及び画分2を再分画して得られた、画分1−4〜1−7及び2−4、2−5について、HPLCによる分離を行った。
そのチャートと、分離したピーク成分の紫外吸収スペクトルを、併せて図3〜図5に示す。
【0039】
<ペプチドの同定>
精製したペプチドのアミノ酸配列を、アプライドバイオシステム(ABI)社製のプロティンシークエンサー477A型を用いて決定した結果は、下記表1の通りであった。
また、1−6dのペプチド(Leu−Trp)のプロティンシークエンサーのデータは、表2に示される通りで、他のペプチドのデータも同様なものであった。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
<ペプチド画分及び精製ペプチドの特性評価>
上記精製で得られた8種のTrp含有(ジ)ペプチドについて、以下に示した方法で、赤血球変形能低下抑制作用を測定し、その結果を図6に示す。
図から明らかなように、Trp含有(ジ)ペプチドの赤血球変形能低下抑制作用は、ペプチドの構造によって異なり、IWとLWが強い抑制作用を有することが分かった。
【0043】
50nmol/mlの濃度の精製Trp含有ペプチドを用い、以下に示した方法で、ACE阻害活性を調べた結果、表2に示すように、阻害度は、ペプチドによって大きく異なった。
阻害度の高い8種について、阻害活性(IC50)を測定した結果、IW、VW、LWは特に強いACE阻害活性を有することが分かった。
【0044】
【表3】

【0045】
<特性評価方法>
−ACE阻害活性測定方法(Lieberman変法)−
ACE(シグマ社製、酵素番号EC3.4.15.1)と、合成基質ヒプリル−ヒスチジル−ロイシン(ペプチド研究所製)を用い、Liebermanの測定法を改良した山本等の方法に準じて測定した。
すなわち、生成した馬尿酸を酢酸エチルにて抽出し225nmの吸光度で測定した。
被検液での吸光度をEs、被検液の代わりに緩衝液を加えた時の値をEc、予め反応停止液を加えて反応させた時の値をEbとして、次式から阻害率を求めた。
阻害率(%)=(Ec−Es)/(Ec−Eb)×100
ACE阻害剤の阻害活性IC50値は、ACEの酵素活性を50%(阻害率)阻害するために必要な試料の濃度(M)で示した。
【0046】
−赤血球変形能低下抑制作用測定法−
3.8%クエン酸ソーダ溶液を含む、採血管に採血した血液を2500rpm×10分遠心分離して赤血球を沈殿させた後、洗浄し、HEPESを加え、6.0%赤血球浮遊液を調製した。
この6.0%赤血球浮遊液にHEPESを加え、温度37.0℃で予備インキュベートしたのち、AAPH溶液(酸化ストレス物質)、AAPH溶液と測定試料をそれぞれ添加し、温度37.0℃で45分インキュベートした。
その後、測定するまで氷冷し、測定は、温度25.0℃で7分、再度インキュベートしてから行った。
なお、赤血球変形能は、従来の定量性と再現性に難点のある微細孔(nucleipore)フィルターを用いた方法に代わるものとして、発明者が開発したフィルター特性が顕著に改善された、ニッケルメッシュ(nickelmesh)フィルターを用いる方法で測定した。
【産業上の利用可能性】
【0047】
この発明のTrp含有ペプチドは、前記のような優れた特性を有し、粉末ないし水、酢酸またはエタノールの無毒の溶媒溶液として供給可能な抗酸化性成分であって、大豆から容易に得られることができるため、健康食品産業や医薬業界で広く利用される可能性の高いものである。

(配列表)
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記アミノ酸配列の、いずれかのアミノ酸配列を有すること
を特徴とするTrp含有ペプチド。

1) Thr−Trp−Asn−Pro−Asn
2) Trp−Gly−Pro
3) Trp−Gln−Glu
4) Trp−Asn−Pro−Asn
5) Trp−Asn−Leu
6) Asn−Trp−Leu
7) Ala−Trp
8) Val−Trp
9) Ile−Trp
10) Leu−Trp
11) Ser−Trp
12) Gly−Trp
13) Glu−Trp
14) Trp−Met
15) Ser−Trp−Leu
16) Trp−Thr−Tyr
【請求項2】
アンギオテンシンI変換酵素(ACE)阻害活性を有し、
下記アミノ酸配列の、いずれかのアミノ酸配列を有すること
を特徴とするTrp含有ペプチド。

1) Thr−Trp−Asn−Pro−Asn
2) Trp−Gly−Pro
3) Trp−Gln−Glu
4) Trp−Asn−Pro−Asn
5) Asn−Trp−Leu
6) Ala−Trp
7) Val−Trp
8) Ile−Trp
9) Leu−Trp
10) Ser−Trp
11) Gly−Trp
12) Glu−Trp
13) Trp−Met
14) Trp−Thr−Tyr
【請求項3】
ヒト赤血球変形能低下抑制作用を有し、
下記アミノ酸配列の、いずれかのアミノ酸配列を有すること
を特徴とするTrp含有ペプチド。

1) Ala−Trp
2) Val−Trp
3) Ile−Trp
4) Leu−Trp
5) Ser−Trp
6) Gly−Trp
【請求項4】
前記Trp含有ペプチドは、
大豆蛋白原料をプロテアーゼで処理し、不溶の疎水性アミノ酸の豊富な未分解の高分子画分を除去した水溶液から調製されたこと
を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のTrp含有ペプチド。
【請求項5】
前記プロテアーゼ処理は、
アルカリ域を保持しながら、基質特性の低いプロテアーゼで行う加水分解処理である
こと
を特徴とする請求項4に記載のTrp含有ペプチド。
【請求項6】
前記未分解の高分子画分の沈殿除去は、
酸性pH調節及び/又はエタノールの添加により行われること
を特徴とする請求項4又は5に記載のTrp含有ペプチド。
【請求項7】
前記Trp含有ペプチドは、
前記調製において、1%酢酸水溶液に不溶な物質が除去されていること
を特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のTrp含有ペプチド。
【請求項8】
前記Trp含有ペプチドは、
前記調製において、ゲル濾過および高速液体クロマトグラフィーによる精製が行なわれていること
を特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載のTrp含有ペプチド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−248096(P2010−248096A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97096(P2009−97096)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(599035339)株式会社 レオロジー機能食品研究所 (16)
【Fターム(参考)】